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第11回 大都市の就業構造(2)――再都市化とグローバル情報経済
人口動態学 第11回 大都市の就業構造(2)――再都市化とグローバル情報経済 1.情報化・グローバル化と都市の構造再編 1980 年代以降の先進諸国における都市の再編(リストラクチャリング)をとらえる視 点として、情報化や情報技術革命に注目するものと、経済のグローバル化に注目するもの がある。両者は、同じ過程の二つの側面である。 情報化――カステル『情報都市』『ネットワーク社会の興隆』 グローバル化――サッセン『グローバル都市』 情報技術革命と都市再編 スペインに生まれ、フランスで学び、アメリカに移住した社会 学者、マニュエル・カステルは、情報技術革命に注目して、1980 年代以降の都市再編を 次のように説明した。先進社会では、工業化(「工業的発展様式」)が危機に陥り、情報 化(「情報的発展様式」)に活路を見いだすようになった。在来型の製造業は衰退し、ハ イテク産業が立地する「新しい産業空間」が形成されるとともに、グローバル情報経済の ネットワークが形成されて、都市はその結節点として再編される。この再編過程は、所得 格差や空間をめぐる紛争を引き起こす。 グローバル経済と都市再編 一方、オランダに生まれ、アルゼンチンとイタリアで育ち、 アメリカに移住した社会学者、サスキア・サッセンは、グローバル経済に注目、グローバ ル経済の指令中枢が、ニューヨーク・ロンドン・東京に集中して、周囲の衰退とは無関係 にグローバル都市が繁栄すると論じた。 グローバル都市では、金融・保険・不動産業や対事業所サービス(「生産者サービス」) が集積、高所得専門職層が都市に集中する一方で、ビル管理・レストランのサービスなど、 高所得者向けサービスを提供する下級サービス職に移民労働者が参入する。その結果、都 市における所得格差が拡大する。 このほかに、地理学者フリードマンの「世界都市仮説」もある。これも、グローバルに 都市システム(都市間関係)が再編されるという仮説。東京は東アジアの中心都市。 いずれの議論も、米国における工業都市の衰退と社会階層の二極分化を強調。 ただし、カステルは、「新しい産業空間」としてサンベルト地方のハイテク産業都市の成 長に注目。一方、サッセンは、国際金融都市(「グローバル都市」)としてニューヨーク、 ロンドン、東京の繁栄に注目、金融業や対事業所サービス業の集積を強調。 →はたして、東京は、ニューヨークやロンドンのような国際金融都市として繁栄するのか? →日本には、シリコンバレーのような情報技術の世界的研究開発拠点が成立するのか? 産業技術の中枢圏域とされる中部地方の名古屋都市圏は、グローバル製造業を中心に動い ている。 -1- 人口動態学 →大阪は、脱工業化のなかで衰退する都市となるのか? 2.東京――バブル経済と都市再編 1980 年代後半 東京では、世界都市として都市再開発の期待が高まる。(臨海副都心、 六本木、さいたま新都心、幕張メッセ、品川・大崎の再開発など) 日本は、製造業に強み→経済大国としての地位を確立→円と株が買われる。 貿易不均衡是正のため、円高と内需拡大→都市開発規制の緩和・地価の高騰。 英国・米国では、在来型製造業が衰退。ニューヨーク、ロンドンが金融都市として繁栄。 1990 年代、土地バブルが崩壊。地価下落へ。 ●産業別就業者数 東京 23 区でも東京都全体でも類 似した傾向を示している。 東京23区の主要産業別従業者数(1985-2005) 1,600,000 製造業・卸売小売業の就業人口 1,400,000 は減少傾向にある。バブル経済も 1,200,000 その崩壊もあまり関係のない低下 1,000,000 サービス業 800,000 傾向。 第一次産業 製造業 卸売・小売業 サービス業 金融・保険業 不動産業 卸売・小売業 製造業 600,000 グローバル都市に集積するとさ れた、金融保険業の従業者数は、 400,000 200,000 金融・保険業 不動産業 0 バブル経済期にやや増加したが、 1985 1990 第一次産業 1995 2000 その後減少。 資料:国勢調査 東京都の主要産業別就業人口 (1985-2005) 不動産業の従業者数は、増 加傾向にある。 2005 2,500,000 サービス業 2,000,000 第一次産業 製造業 卸売・小売業 サービス業 金融・保険業 不動産業 卸売・小売業 1,500,000 製造業 1,000,000 500,000 0 1985 金融・保険業 不動産業 第一次産業 1990 1995 2000 2005 資料:国勢調査 サービス業は、2000 年まで伸びていたが、2005 年には縮小しているように見える。し かし、これは、産業分類の変更によるもの。 「運輸通信業」が「運輸業」と「情報通信業」 に分かれ、後者に、情報サービス業、放送業などが含まれたため。 東京都全体については、2000 年国勢調査データを新分類に組み替えたものが公表され -2- 人口動態学 ており、これと 2005 年を比較すると、情報通信業、サービス業(他に分類されないもの) は、依然として就業人口を増やしている。 つまり、「情報サービス」系の業種は、雇用を伸ばしているが、「金融・保険」系の業 種は、雇用を減らしている。 新産業分類による東京都の産業別就業人口(2000-2005) 26,758 24,810 農業 漁業 516 294 1,022 785 鉱業 1,738 1,130 林業 483,641 401,116 建設業 839,844 706,718 製造業 24,061 18,863 電気・ガス・熱供給・水道業 368,159 395,221 情報通信業 305,817 289,053 運輸業 1,197,652 1,065,043 卸売・小売業 238,785 216,318 167,064 179,104 金融・保険業 不動産業 飲食店,宿泊業 430,077 375,926 医療,福祉 371,809 447,029 265,919 269,655 教育,学習支援業 40,331 40,757 複合サービス事業 1,069,308 1,115,012 サービス業(他に分類されないもの) 168,130 164,012 179,838 204,687 公務(他に分類されないもの) 分類不能の産業 0 500,000 -3- 1,000,000 1,500,000 2000年 2005年 人口動態学 東京23区職業別就業人口 (1985-2005) ●職業別就業者数 1990 年以降、雇用全体が減少して 1,400,000 いる(実際に減少している可能性もあ 1,200,000 るが、2005 年国勢調査に非協力者が 1,000,000 多かったことも影響している)。販売 800,000 ・サービス・保安職、事務職、専門・ 600,000 技術職の減少率が少なく、管理職、生 産工程・運輸・通信職の減少率が大き 販売・サービス・保安 生産工程、運輸・通信 専門・技術職 管理職 事務職 販売・サービス・保安 生産工程、運輸・通信 農林漁業 事務職 専門・技術職 400,000 管理職 200,000 農林漁業 0 い。 1985 1990 1995 2000 2005 在来型製造業の衰退と、大企業の組 織再編によって、生産工程の技能職よりも販売・サービス職、管理職よりも専門・技術職 に、移行していることが分かる。 東京都の職業別就業人口の推移(1985-2005) また、こうした変化は、東京都 2,000,000 1,800,000 1,600,000 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 全体よりも、23 区でより強く表 れている。 このかぎりでは、職業階層の二 極分化というよりは、「新しい階 層構造」が形成されつつあると考 えられる。 販売・サービス・保安 専門・技術 運輸・通信・生産工程・労務 管理 事務 事務 専門・技術 販売・サービス・保安 運輸・通信・生産工程・労 務 農林漁業 管理職 農林漁業 1985 1990 1995 2000 2005 ●失業率・自殺率の上昇 バブル崩壊後、日本経済は、 「情報的発展様式」にむけて資本主義の再編が本格化した。 それは、大企業のリストラと中小企業の倒産・自然廃業のかたちで進んだ。 東京都の失業率の推移(1997-2006) 1997 年以降、東京の失業率 6 は、上昇した。失業率(年平 5 均)が 5%を下回るようになっ 4 たのは、2005 年になってから。 3 2 1 0 2006年 2005年 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 1998年 1997年 -4- 人口動態学 Number of Suicides for Each 100 Thousand People, Tokyo:1993-2006 東京都の自殺率の推移(1993-2006:人口10万人対) また、東京の自殺率も、1997 年 以降、急上昇した。 一般に、日 本では高齢者ほど自殺率が高い が、東京では、中高年男性の自 殺率が高い。2003 年以降、低下 傾向にある(資料:人口動態統 計)。 40.0 35.0 30.0 25.0 男male 女female 総数total 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 Number of suicides by age for every 100 thousand males and females in Tokyo, 2005. 東京都の男女別自殺率(人口10万人対) 60.0 50.0 40.0 male female total 30.0 20.0 10.0 0.0 85 and over 80~84 75~79 70~74 65~69 60~64 55~59 50~54 45~49 40~44 35~39 30~34 25~29 20~24 15~19 かで経済成長を遂げてきた。 10~14 が ら 、 東京 は 平 成不 況 の な 5~9 0~4 こ の よう な 犠 牲を 払 い な 都内総生産の推移(1996-2004年、名目、単位100万円) 90,000,000 89,000,000 88,000,000 87,000,000 86,000,000 85,000,000 84,000,000 83,000,000 82,000,000 都内総生産 産業 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 1998年 1997年 1996年 -5- 人口動態学 おもな経済活動別都内総生産の推移(1996-2004年、名 目、単位:100万円) 東京の経済成長の原動力は、 サービス業であった。 30,000,000 サービス業 25,000,000 20,000,000 製造業 建設業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 サービス業 卸売・小売業 15,000,000 金融・保険業 10,000,000 不動産業 製造業 5,000,000 建設業 0 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 1998年 1997年 1996年 3.名古屋――グローバル製造業支援型都市 東京が、全国的・世界的管理センターとして本社機能と対事業所サービス機能を集積 してきたとすると、名古屋は、グローバル製造業に成長した自動車産業と結びつき、グロ ーバル製造業支援のサービス機能を集積させた都市となりつつあるように思われる。 ●主な産業別就業者数 1990 年代以降、製造業 名古屋市主要産業別従業者数 (1985-2005) が衰退。サービス業が伸 びてきている。 400,000 卸売・小売業 第一次産業 産業分類の変更がある 製造業 300,000 は見かけ以上のものであ 卸売・小売業 サービス業 ので、サービス業の成長 サービス業 製造業 200,000 金融・保険業 る。 (2000 年の新産業分類は、 不動産業 100,000 都道府県レベルの集計し か公表されていない)。 金融・保険業 不動産業 0 1985 1990 -6- 第一次産業 1995 2000 2005 人口動態学 2000 年までの 20 %抽出集計 名古屋市サービス業(中分類)就業者数の推移 結果によって、サービス業の中 分類別就業者数を検討すると、 「医療業」のほか、「その他の 物品賃貸業 情報サービス・調査・広告業 その他の事業サービス業 専門サービス業(他に分類されないもの) 事業サービス業」「専門サービ その他の修理業* 旅館,その他の宿泊所 ス業(他に分類されないもの)」 その他の生活関連サービス業** 洗濯・理容・浴場業 自動車整備業 の従業者が多く、また、雇用が 駐車場業 映画・娯楽業*** 増えていることが分かる。 つまり、人材派遣などの対事 1985年 1990年 1995年 2000年 放送業 協同組合(他に分類されないもの) 医療業 保健衛生 業所サービスが伸びており、情 廃棄物処理業 社会保険,社会福祉 宗教 教育 報サービス系はそれほどでもな い。 学術研究機関 政治・経済・文化団体 その他のサービス業 外国公務 0 10,0 20,0 30,0 40,0 50,0 60,0 00 00 00 00 00 00 ●職業別就業者数 名古屋市職業別就業人口(1985-2005) 生産工程などのブルーカラ ー職と管理職が減少し、販売、 450,000 400,000 サービス、保安職と専門技術 生産工程・運輸・通信 350,000 職が増加傾向にある。 300,000 名古屋市そのものは、サー 250,000 ビス経済化によって新しい階 200,000 事務 専門・技術 150,000 層構造が出現しつつある。 専門・技術 管理 事務 販売・サービス・保安 運輸・通信、生産・労務 農林漁業 販売・サービス・保安 100,000 管理 50,000 農林漁業 0 2005年 2000年 1995年 1990年 1985年 製造業の衰退によって、名古屋市の総生産は減少している。 全体として、サービス業のシェアが増大している。 名古屋市の市内総生産の推移(1996-2004年、名目、単位: 百万円) おもな経済活動別名古屋市内総生産の推移(1996-2004 年、名目、単位:百万円) 14,000,000 4,000,000 サービス業 13,000,000 3,000,000 市内総生産 産業 12,000,000 製造業 建設業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 サービス業 卸売・小売業 2,000,000 製造業 11,000,000 不動産業 1,000,000 10,000,000 建設業 2004年 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 1998年 -7- 1997年 1996年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 1998年 1997年 1996年 金融・保険業 0 人口動態学 愛知県内総生産(1996-2004年、名目、単位:百万円) おもな経済活動別愛知県内総生産の推移(1996-2004年、 名目、単位:百万円) 35,000,000 14,000,000 34,000,000 12,000,000 33,000,000 県内総生産 産業 32,000,000 製造業 製造業 輸送用機械 建設業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 サービス業 10,000,000 8,000,000 31,000,000 6,000,000 30,000,000 4,000,000 29,000,000 2,000,000 卸売・小売業 サービス業 輸送用機械 建設業 不動産業 2004年 2003年 2001年 2000年 1999年 1998年 1997年 1996年 2002年 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 1998年 1997年 1996年 金融・保険業 0 愛知県全体では、2000 年を底とするV字回復過程にあり、製造業、とくに輸送用機械 (自動車)のウェイトが大きい。名古屋市の対事業所サービス業は、製造業を支援する機 能をもっている。 4.大阪市――都市再編への模索 大阪市主要産業別就業者数 (1985-2005) ●主な産業別就業者数 450,000 大 阪 市 も 、名 古 屋 市と 同 様 に 、 製 造 業従 事 者 が減 少 し て い る 。 しか し 、 サー ビ 卸売・小売業 400,000 350,000 300,000 サービス業 第一次産業 製造業 卸売・小売業 サービス業 金融・保険業 不動産業 製造業 250,000 ス 業 従 事 者 は伸 び 悩 んで い 200,000 る。 150,000 100,000 金融・保険業 50,000 不動産業 0 1985 1990 しかし、大阪府全体でみた場 第一次産業 1995 2000 2005 大阪府の主な産業別就業者数(1985-2005) 合には、製造業の比重は高まり、 サービス業も伸びている。 1,400,000 第一次産業Primary 1,200,000 東京に比べて、製造業の比重 が高く、サービス業の比重が相 対的に低いことがわかる。 卸売・小売業 サービス業 製造業Manufacturing 1,000,000 卸売・小売業 Wholesale and Retail サービス業Service 製造業 800,000 600,000 金融保険業Finance and Insurance 不動産業Real-estate 400,000 金融・保険業 200,000 不動産業 0 2005年 2000年 1995年 1990年 1985年 -8- 人口動態学 大阪府新産業分類による産業別就業人口(2000-2005) 21,856 21,498 255 209 1,040 1,154 386 195 農業 林業 漁業 鉱業 401,724 326,121 建設業 832,199 708,276 製造業 22,563 17,258 105,122 102,563 244,526 238,118 電気・ガス・熱供給・水道業 情報通信業 運輸業 2000年 2005年 870,730 793,808 卸売・小売業 118,907 102,757 82,127 87,435 259,249 227,861 280,632 357,436 153,189 164,729 29,669 29,146 548,919 580,290 97,695 95,103 73,536 100,254 金融・保険業 不動産業 飲食店、宿泊業 医療、福祉 教育、学習支援業 複合サービス業 サービス業(他に分類されないもの) 公務(他に分類されないもの) 分類不能の産業 0 500,000 1,000,000 資料)国勢調査 ●大阪市の職業別就業人口 1990 年以降、ブルーカラ ー職(生産工程・運輸・通 信)は、減少傾向にある。 大阪市の職業別人口構成(1985-2005) 600,000 しかし、東京 23 区に比 500,000 べると、ブルーカラー職の 400,000 割 合 は 高 く ( 2005 年 で 生産・運輸 販売・サービス・保安 300,000 事務 21.8% vs.30.2%)、事務職や 専門技術職の割合は低い 200,000 ( 2005 年 で 事 務 職 24.7% 100,000 専門・技術 管理 v.s.20.5%; 専 門 技 術 職 16.5% v.s. 12.8%)。 専門・技術 管理 事務 販売・サービス・保安 生産工程・運輸 農林漁業 0 1985年 農林漁業 1990年 -9- 1995年 2000年 2005年 人口動態学 大阪市の市内総生産は、1997 年以降下降傾向にあり、それは卸売・小売業の動向に左 右されている。 大阪市内総生産(1996-2004年、名目、単位:百万円) おもな経済活動別大阪市内総生産(1996-2004年、名目、単 位:百万円) 23,000,000 8,000,000 7,000,000 22,000,000 卸売・小売業 6,000,000 市内総生産 産業 21,000,000 5,000,000 4,000,000 製造業 3,000,000 20,000,000 不動産業 2,000,000 金融・保険業 1,000,000 19,000,000 製造業 建設業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業 サービス業 サービス業 建設業 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 1998年 1997年 1996年 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 1998年 1997年 1996年 0 資料)内閣府 大阪は、失業率の高さでも、群を抜 年平均完全失業率 いている。 東京は、全国的・グローバル管理機 能とそれを支援する情報サービス業で 成長している。 東京都 大阪府 愛知県 全国 全国 愛知県 2006年 2005年 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年 1999年 人口を維持している。 東京都 1998年 する対事業所サービスの集積によって 大阪府 1997年 名古屋は、グローバル製造業を支援 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 資料)労働力調査 大阪は、脱工業化のなかで、新しい成長の原動力を失っている。 - 10 -