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2016,91297-304, No.23 6月10日版
2015,91, 297-304 No.23 6月10日版 23-1 流行性感染への取り組み: この早急に“知る必要のある”伝染病への取り組みによって、流行している感染症の脅威に注目が集 まる。症例と集団発生の徹底的なリストアップが意図されるのではなく、世界の公衆衛生に脅威を与え ている特定の感染症について懸念する理由に焦点が当てられる。 コレラ:逃げ出した悪霊 *兆候: 2015年後半から現在まで9,361例の感染と159例の死亡者を出した集団発生がコンゴ民主共和国(DRC) で報告された。集団発生はコンゴ川に沿って拡がり、マニエマ州、ツォポ州、モンガラ州(症例が前週 に2倍になった州)、赤道州とマインドンべ州に影響を及ぼし、今は首都(キンシャサ)に到達してい る。国の東部の7つの行政区は進行中の集団発生も報告している。 タンザニア連合共和国(タンザニア)は同様に、2015年8月から現在まで21,590例中338名の犠牲者を 出した著しいコレラの全国的な集団発生を経験している。 また、タンザニアに隣接したケニア、マラウイ、モザンビーク、ザンビアも集団発生を報告している。 *懸念: コレラは「瓶から逃げた悪霊」で、元に戻すのが非常に困難であると判明している。19世紀にコレ ラはインドのガンジス川デルタ地帯のその起原となる病原体保有生物から世界的に蔓延した。6つのそ の後の世界的流行によって、すべての大陸全域で数百万人が死亡した。現在の(7回目)世界的流行は1961 年にアジアで始まり、1971年にアフリカ、そして、1991年にアメリカに拡がった。 2014年には、2,231例の死亡例を含む合計190,549例の感染例が世界的に報告された。しかしながら、 モデル研究では、報告よりはるかに多い100〜400万の感染例が毎年引き起こされているかもしれないと 示唆している。今年はこれまでに、東部および中央アフリカで著しい進行中の集団発生が報告された。 コレラの蔓延を助長するエルニーニョ現象の継続で、更なる集団発生が予測される。 高い死亡率が報告されたDRCでの集団発生は特に懸念されている。国の保健当局は、同時に黄熱病の 大規模な集団発生を制御することに取り組んでおり、首都キンシャサで今週大規模な予防接種キャンペ ーンが始まることになっている。2つの重篤な流行性疾患の集団発生で、DRCの健康システムは、強い苦 難の下にあって、紛れもなく感染の「嵐」という状況に直面している。 このような次第ではあるが、現在利用可能な新しい道具と戦略で、コレラの悪霊を封じ込めることが 可能である。コレラワクチンの国際的な備蓄はWHOとそのパートナーである国境なき医師団、国際赤十 字赤新月社連盟とUNICEFによって確立され、管理されている。2015年に、この備蓄はコレラの集団発生 リスクの高い7ヶ国で100万人以上に提供するのに用いられた。バングラデシュ、カメルーン、イラク、 マラウイ、ネパール、南スーダンそして、タンザニアである。 コレラを予防することで最も有効な手段は、水源を糞尿による汚染から保護することである。この戦 略は19世紀のヨーロッパにおけるコレラの集団発生の終息により、非常に効果的であると判明した。そ して、水媒性疾患による死亡を減らす際に、そのような技術を持つ者は、19世紀の間、若年死の減少に 大きな影響を持つことでしばしば認められる。 *助言: 以下によってコレラを予防することができる。 ・飲料水の安全を確保すること。 ・排泄後、糞尿を扱った後、そして常に食事前、食べ物を扱う前に石鹸と安全な水での徹底的な手洗い を行うこと。 <サハラ以南のアフリカの肺炎球菌髄膜炎の集団発生> *背景: 肺炎球菌性髄膜炎は、細菌性肺炎球菌に起因する感染型髄膜炎である。 浸潤性肺炎球菌感染症(例えば肺炎と菌血症)の集団発生が世界的に数カ国で観察されているにもかか わらず、肺炎球菌髄膜炎の集団発生の報告は、サハラ以南のアフリカ、特に髄膜炎帯として知られる西 のセネガルから東のエチオピアまでの26ヶ国からなる地域に限定されているように見える。肺炎球菌性 髄膜炎は、高い致死率(髄膜炎帯の中で36%–66%)で髄膜炎菌性髄膜炎より治療が困難であり、重篤な 後遺症としばしば関連している。 *サハラ以南のアフリカの問題の範囲: 2000年以降、ブルキナファソ、チャド、ガーナを含むアフリカの髄膜炎帯の数ヶ国は、1つの地区で 累積的な罹患率が100/10,000以上に達する肺炎球菌性髄膜炎の集団感染を記録した。 髄膜炎が流行する季節である2015年12月から2016年4月の間に、ガーナで大きな集団発生が報告され た。1000以上の疑わしい症例が報告されたブロングアハフォ州(アフリカの髄膜炎帯に隣接している) 23-2 におけるいくつかの地区では、肺炎球菌(spn)が主に分離された。この状況は、サハラ以南のアフリカ において、髄膜炎が主に肺炎球菌によって引き起こされる場合に、髄膜炎の集団発生への修正された対 応指針の有用性について疑問を提起した。 現在まで肺炎球菌性髄膜炎の大規模な流行はサハラ以南のアフリカで観察されていないが、髄膜炎帯 の、肺炎球菌性髄膜炎による髄膜炎発生率の季節変動は、髄膜炎菌(N.m)による髄膜炎のそれに続いて おきる。乾期の発生率は、雨期にくらべ10倍高く、大部分の症例は年長児と若年成人である。2004年か ら2013年までSpnは、髄膜炎帯での細菌性髄膜炎の4000例以上で検出されたが、それは確認された症例 の27%である。疑わしい症例のうち、極少数の症例において脳脊髄液(CSF)が採取され、検査診断が しばしば難しい事を考えると、正確な症例数はより高くなりそうである。 *肺炎球菌性髄膜炎発生の定義: Spnに起因する髄膜炎の集団発生の形式的定義はない:健康地区または小区域が通常時よりも多くの 肺炎球菌性髄膜炎の発生を記録した時に集団発生とみなされる。髄膜炎帯での10年間の調査データの報 告に基づくと、人口100,000人に対して一週間に5例以上の疑わしい症例、疑い例の少なくとも60%がSpn に起因することの確定、そして肺炎球菌性髄膜炎の10以上の確定例が確認されることを集団発生の暫定 的な定義とした。 *診断: 感染の確定診断は、CSFからのSpnの分離、または、ポリメラーゼ連鎖反応による細菌のDNA検出に依 存する。90以上ある肺炎球菌の血清型を確認するため、分子技術がますます使われている。迅速な診断 検査(RDTs)を肺炎球菌性髄膜炎の検出のために使うこともできるが、血清型を区別することはできな い。髄膜炎の集団発生の際には、肺炎球菌及び関連する髄膜炎菌の血清型を検出できるRDTsが使われる ことが望ましい。集団発生し始めた時に、CSFサンプルは確証試験と血清型判別のために公立か国立の 研究所に送らなければならない。 *治療: 小児と成人のためのN.mに起因する髄膜炎に対する標準的治療計画は、7日間としてしばしば設定され る。ヘモフィルス・インフルエンザbは7〜10日間、Spnは10〜14日間である。 治療のために (i)サハラ以南のアフリカでの髄膜炎菌性髄膜炎の集団発生の間の疑わしい細菌性髄膜炎:5日間の抗 生物質投与(生後2ヵ月未満の場合は7日間コース)が推奨される。 (ii)肺炎球菌性髄膜炎の集団発生期間中の疑わしい細菌性髄膜炎:例えば、患者の臨床状態が改善さ れない場合、最高14日の治療期間延長を考慮しなければならない。 (iii)集団発生の期間、またはそれ以外の期間に確認された肺炎球菌性髄膜炎:患者の臨床状態が改 善されていない場合、またはCSF培養が持続して陽性である場合、最高14日の治療期間延長することを 考慮しなければならない。 *化学的予防: 肺炎球菌性髄膜炎の場合には、家族は危険にさらされているとみなされない。そして抗生物質の予防 的投与が効果的であるかわからないので、抗生物質の投与は集団発生している間、家族間での接触には 推奨されない。 *肺炎球菌ワクチンによる集団発生予防: 肺炎球菌多糖体結合ワクチン(PCV—10とPCV—13)はワクチン接種を受けた人々に個々の予防を提供し、 そして小児期の予防接種プログラムにも導入さている。結合ワクチンは、伝染を減少させることもでき、 肺炎球菌性髄膜炎の集団発生の危険にさられている、ワクチンを接種していない高齢者を守ることもで きる。幼少期の予防接種が集団発生を予防するかどうかはまだわかっていない。しかしながら、生後9 ヶ月以降の、数回の予定で勧められている追加投与が重要であるかもしれない。 *集団発生のコントロールにおける肺炎球菌ワクチン: 髄膜炎菌性髄膜炎の集団発生時の予防接種と同様に、小児と成人について、肺炎球菌性髄膜炎の集団 発生に対して肺炎球菌ワクチンの大規模な予防接種を行うことができるかもしれない。肺炎球菌性髄膜 炎の集団発生に対するワクチン接種において、髄膜炎菌性髄膜炎の集団発生に対するワクチン接種の既 存の閾値を用いることが効果的かどうかはわかっていない。集団発生の期間にもよるが、集団発生の発 現から大規模な予防接種への間隔があまりにも長すぎて、コントロールに何ら有意な影響を及ぼせない かもしれない。 *エビデンスと更なる研究の隔たり: 短期間(5〜7日間)の肺炎球菌性髄膜炎に対する抗菌薬療法の効果のエビデンスは、小児には弱く、 成人では効果がないと考えられ、肺炎球菌性髄膜炎の治療におけるコルチコステロイドの利点について のエビデンスは不確かである。短期及び長期のセフトリアキソンとステロイドを併用/併用しない治療 がなされた肺炎球菌性髄膜炎確定例の小児と成人の治療効果を立証する研究が必要である。 23-3 予防接種計画におけるPCVの追加および肺炎球菌性髄膜炎の集団発生の危険性を減らすためのブース ター免疫の効果のエビデンスの再調査も予防接種戦略に情報を与えるために必要である。 肺炎球菌性髄膜炎の集団発生に対する対応として、大規模な予防接種の効果がわかっていないので、 肺炎球菌性髄膜炎の集団発生から詳細な疫学的および微生物学的なデータを集め、集団発生の定義を改 良し、集団発生の対応としての予防接種によって潜在的に防止できる症例と死者の推定値を引き出すこ とが必要となる。 *重要な事実 ・肺炎球菌性髄膜炎の集団発生は、髄膜炎帯の内外を含むサハラ以南のアフリカだけで記録されている。 ・肺炎球菌性髄膜炎は致死率が高く、重篤な後遺症を引き起こすリスクが高い。 ・診断は培養と分子技術に頼っている。迅速な診断検査はこの分野に役立つ。 ・肺炎球菌性髄膜炎に対する短期間(5〜7日間)の抗菌薬療法の効果はエビデンスが弱いことを考える と、細菌性髄膜炎が疑われる症例にとって治療期間の延長(最高14日間)は肺炎球菌性髄膜炎の集団発 生期間中に検討されるべきであろう。 ・家族に対する予防的化学療法は示されていない。 ・幼児の肺炎球菌予防接種プログラムは、時がたてば発生のリスクを低下させる可能性がある。 ・抑制対策が不確かなため、肺炎球菌ワクチンは集団発生において大規模な予防接種として現在推奨さ れていない。 <パンデミックが始まる時のインフルエンザワクチンの反応: WHOの非公式に行われた協議の報告、ス イス、ジュネーブ、6/29-7/1、2015> *エグゼクティブ サマリー: インフルエンザ・パンデミックワクチンを生産することは、非常に複雑である。 それは公的及び民間部門の多くの異なる組織間の円滑な相互作用次第であり、厳しい時間制約の下行わ れる。さらに、パンデミックウイルスと局所で季節的に流行しているウイルスの疫学データは重要では あるが、不完全であるかもしれない。WHOの調査の主な焦点はパンデミックの始まりの間に、パンデミ ックワクチン開発の初期段階が複雑であることをより理解することであり、非効率で損なわれやすいか もしれない手続きに関するいかなる懸念でも表明し、改善の方法を推奨することである。 懸念の主な範囲と会議の結果 ・新しい「パンデミックインフルエンザのリスク管理(PIRM)–WHOの暫定的ガイダンス」がパンデミッ クワクチン製造のさまざまな段階へと導くために従来広く使用されていた明確なパンデミックの段階 をもはや同定しなかったという懸念があった。しかし、会議の結果、様々な関係者はパンデミックワク チンの製造を開始する際のリスク評価の必要性により気付くようになった。会議中に、「パンデミック ワクチンの反応に関する運用構想の立案」が準備できた。(報告のAnnex1を参照)、そして、この構想 の包含がより完成に近いPIRMの文書を提示すると思われた。 ・パンデミックワクチン製造開始の時期を選択するための重要な決定が必要とされる。全世界のインフ ルエンザワクチンメーカーは多くの国に季節性ワクチンを供給して、同じように多くの国からのパンデ ミックワクチンの注文を受けそうである。パンデミックワクチンの製造を始めるという決定が国の衛生 機関、または、ワクチンの製造業者に委ねられるならば、それはパンデミックワクチンの遅延と不足に 至るかもしれず、おそらく公衆衛生に著しい影響を及ぼして季節性のワクチンの製造に支障をきたす可 能性がある。諮問機関である、国際保険規約(IHR)非常事態委員会、予防接種に関する戦略的専門家 諮問委員会(SAGE)を通して、パンデミックワクチンの製造開始の勧告に関してWHOが国際的な指揮を とる必要があることへの合意があった。 ・候補ワクチンウイルス(CVVs)は、季節性およびパンデミックワクチンの産生の第一段階として極め て重要である。2009年に、それらの分配と使用に若干の遅れがあった。WHO生物安全委員会はCVVsの生 物学的封じ込め判断のための手続きの調査と改善を行うよう要請され、ワクチン製造業者はCVVsを受け 取るために適切な場所への輸入許可を持つよう求められる。 会議中、3つのガイダンス計画が準備され、この報告の添付書類として含まれる ・パンデミックワクチンの反応に関する運用構想を立案する。 ・パンデミックワクチンの製造スケジュール ・インフルエンザパンデミックまたは潜在的なパンデミックに対するWHOワクチンの反応プロセス 完全な報告書と添付書類が以下のアドレスにおいてオンラインで利用可能である。 (岩田優助、林敦子、小瀧将裕)