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地理・地図資料

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地理・地図資料
ダッカ市街(解説 p. 2)
地理・地図資料
2010年度 2学期号
表紙写真でめぐる旅 ③
バングラデシュ
2009年9月、国土の2/3が三角州上にあ
るといわれるバングラデシュを取材した。都
市部の様子と農村の暮らしをレポートする。
①
●
写真はすべて2009年
9月撮影/帝国書院
②
●
③
●
④
●
⑤
●
⑥
●
解説
成長著しいバングラデシュ
実業家 シャヒン=モハメド
バングラデシュは、1971年にパキスタンより独立し
んでいる。
た比較的新しい国である。ガンジス川とブラマプトラ
バングラデシュは、発展途上国のひとつでもある。
川の三角州に位置して、洪水のたびに新しい土が運ば
現在は年6%以上の経済成長率で発展しており、日本
れ堆積するため、肥沃な土地が広がっている。熱帯モ
で繊維産業が隆盛した時代と同じような現象が現在の
ンスーン気候に属しており、雨季と乾季が存在する。
バングラデシュで起こっている。市街では、大型ショッ
雨季には河が氾濫し、田畑に貯まった水を湖と見間違
ピングモール、マンションなども増え続けていて、あ
えてしまうこともあるほどである。バングラデシュで
ちらこちらで建設ラッシュの様子をみることができる。
は、雨の日はのんびり過ごすことが多いのも特徴だ。
成長にともない物価も上昇しており、毎日のように高
バングラデシュでは交通の手段として電車、バス、
くなってきているのが実感できるほどである。
車、CNG車(天然ガス車)など様々あるが、その中
バングラデシュのおもな工業製品は衣類、皮革製品、
「リキシャ」は欠かせない乗り物のひとつである。バ
食品、飲料、タバコ、化学製品、金属加工品などであ
ングラデシュは「リキシャの本場」で、とても多数の
る。その中でも、近年のバングラデシュの発展を支え
リキシャがひしめいており、首都ダッカだけでも50万
ているのは繊維産業である。衣料品を中心とした繊維
台ものリキシャが走っているといわれている。安くて
産業は、多くが輸出品の中心でもあり、約6,500億円
小回りが利き、どのような小道にも入って行け、庶民
ある輸出の8割近くを占めている。まだまだ賃金が安
の足として気軽に利用されている。リキシャの大きな
く豊富な労働力を求めて、海外のバイヤーがバングラ
メリットとして、ガソリンなどを使用しないため環境
デシュの縫製産業に注目している。ヨーロッパ、アメ
にもとてもよいことがある。しかし、リキシャは大通
リカの大手ZARAやH&MやGAPなどの製品も生産し
りでは最大の交通渋滞の原因となっている。そのため
ており、ユニクロのファーストリテイリングもバング
国土交通署からリキシャの進入が禁止されている道路
ラデシュの貧困解決のために活用されているグラミン
も、最近増え続けている。政府は、環境対策として天
銀行と合弁会社を設立し参入した。他にも日本企業も
然ガス(CNG)使用の乗り物を奨励している。首都の
多数参入している。これからアジアの中でも繊維産業
ダッカではCNG車以外の乗り入れは法律で制限され
の中心地として注目の国となるだろう。
ているため、市内でも表紙写真のように空や空気も澄
取材レポート
帝国書院取材班
0
300km
でも携帯電話やゲーム機を売る店が
し、バングラデシュ現地時間の23時
人気であった。
55分にダッカ空港に到着した。到着
ダッカには、女性の働き口として
してまず驚いたことは、深夜にもか
縫製工場が多数進出していた。取材
かわらず道路を走る車は、みなクラ
した工場はロシアやヨーロッパ向け
クションを頻繁に鳴らしルール無用
の製品が主流だが、日本向けの製品
で走り抜けていくことだった。
をつくっている工場もあるとのこと
ダッカ市内では、近年のバングラ
だった(写真⑤)
。
デシュの様子を取材した。市内には、
取材に訪れた時期はイスラームの
リキシャや三輪バイクが市民の足と
ラマダーン(断食月)期間であり、
いた(写真②)
。
して走り回り、どこも多くの人であ
夕方のモスク周辺はイフタル(夜の
郊外では米やジュートの栽培がさ
ふれていた(写真①)
。ダッカは成
食事)用の食材を売る屋台がならび、
かんで、写真のように田植えと収穫
香ばしい揚げ物の香りが漂っていた
が同時に行われている様子が見られ
やマンションの建設ラッシュであっ
(写真⑥)。
バングラデシュ
ダッカ ●
①●
③⑤⑥
④
●
②
●
ミャンマー
長が著しく、ショッピングセンター
インド
成田空港からシンガポールを経由
ベンガル湾
た
(写真④)
。
最大四期作を行うという。
た。中心部には近代的なショッピン
第2の都市チッタゴンでは、船の
成長著しいバングラデシュでは、
グセンターもできており、多くの人
解体業が多く、海岸に引き揚げられ
圧倒される人々のパワーを感じるこ
でにぎわっていた(写真③)
。ここ
た多くの大型船が人力で解体されて
とができ、印象的な取材となった。
2
特集 地理A・地理B
2010年度入試の出題傾向
学校法人 河合塾専任講師 佐 藤 裕 治
1.はじめに
表1 地理B(本試)出題分野別一覧
新学習指導要領による入試は、先行実施の数学、理科
自然環境
を除くと、2016年度から実施されることになり、2010年
地形
度は現行課程においてはちょうど半ばにあたる。全体的
植生・土壌
な傾向に大きな変化はみられないものの、インターネッ
気候
自然災害
資源と産業
ト経由で得られる素材を扱った問題や、図表の読み取り
農業
などさまざまな工夫が施された問題がめだつようになっ
エネルギー・鉱産資源
た。2010年度のセンター試験や国公立大二次・私立大の
林業・水産業
工業
生活と文化
村落・都市
入試問題の出題傾向と受験生の弱点を分析した。
文化・衣食住
消費・余暇活動
2.センター試験の出題傾向
地域調査
■出題傾向は定着し、平均点も安定
国際交流
地図・図法
地形図
国家・国家群
地理Bの出題分野(表1)をみると、現行課程に移行
した2006年度以降一貫して、大問は6題で、自然環境、
資源と産業、生活と文化、地域調査、地球的課題、地誌
交通・通信
貿易・直接投資・援助
地球的課題
人口・食料問題
都市・居住問題
の各分野から構成されている。マーク数も2009年度を除
いて36個で、各分野から偏りなく出題されている。地理
環境・エネルギー問題
民族・領土問題
地 誌
Aでは、地理的基礎事項、地域調査(7問中6問が地理
アジア
アフリカ
Bと共通)
、国際交流、地誌、地球的課題の大問5題で、
ヨーロッパ
マーク数は36と昨年と同様であった。
CIS
解答と素材の形式(表2)は、地理Bでは図、表、写
南アメリカ
真の番号を全部あわせると33に及び、2006年度の22に比
日本
北アメリカ
べてかなり増えており、過去10年で最多であった2009年
度よりも多かった。図表の読み取りに関する文の正誤判
2005 2006 2007 2008 2009 2010
◎
◎
◎
◎
◎
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
□
◎
◎
◎
○
○
○
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
○
○
◎
□
○
◎
◎
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
●
○
●
○
○
○
●
●
○
○
●
○
○
●
○
●
○
オセアニア
○
○
○
○
○
○
70.2
65.1
58.4
66.4
64.5
65.1
複合地域
平均点
◎大問のテーマ(□複合テーマ)
●地誌で取り上げられた地域(▲複合地域) ○小
問のテーマ・地域
定など、地理的技能にかかわる問題が多く、判読に手間
取るものもあった。しかし平均点をみると、2006年以降
表2 過去10年間のセンター試験(地理B、地理Aは2010年度のみ)の解答形式と素材形式
地理B
2001年
正誤文判定
*1
組合せ解答*1
図
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2010年
14
8
(10)
9
16
19
14
12(13)
15
15
7
14
6
(7)
14
(15)
13
12
10
13
19
11
12
12
10
16
19
(内地形図*2)
21
(4)
18
18
18
22
20
(1)
(1)
(1)
(3)
(2)
27
(2)
26
(3)
21
(2)
表
5
7
5
6
3
3
4
4
2
5
5
写真*3
1
(1)
2
(7)
3
(3)
1(3)
0
1
0
0
2(5)
2(5)
4
(9)
マーク数
平均点
35
35
35
35
35
35
36
36
37
36
36
63.6
66.3
55.0
62.1
70.2
65.1
58.4
66.4
64.5
65.1
53.6
*1括弧内はマーク数を示す。*2地勢図を含む。*3括弧内は写真の枚数を示す。
3
地理A
では、やや低かった2007年度を除くと64
∼66点と安定しており、受験生にとって
はリスクが少なく、学習の成果がきちん
よる正答率でみると、センター試験地理
Bでは例年正答率が40%を下回る問題が
(例題1)である。国別の労働時間とい
う見慣れない統計で、選択肢の文章中の
図の読み取りの部分はいずれも正しいた
49.6
61.2
84.0
59.2
82.5
60.9
67.0
88.5
80.4
92.3
33.8
84.6
94.3
79.0
解答
番号
正答率
13
14
15
16
17
18
小計
19
20
21
22
23
24
小計
80.5
80.8
92.6
80.7
62.6
44.5
75.3
52.2
59.4
53.2
76.7
72.0
19.2
55.4
設問
番号
第6問
19.2%と最も低かったのが、第4問 問6
1
2
3
4
5
6
小計
7
8
9
10
11
12
小計
設問
番号
第4問
が40 % を 下 回 っ た。 な か で も 正 答 率
第2問
1割程度あり、2010年度(表3)も3問
正答率
第5問
河合塾が毎年実施している再現答案に
解答
番号
第3問
■正答率の低い問題
設問
番号
第1問
と発揮できる問題であった。
表3 再現答案による設問別正答率(河合塾調べ)
(2010年度センター試験地理B)
解答
番号
正答率
25
26
27
28
29
30
小計
31
32
33
34
35
36
小計
合計
46.5
92.5
71.2
47.8
78.9
80.2
70.8
91.0
80.6
45.5
90.0
56.3
28.6
68.2
68.2
注)サンプル数は2617人(現役生1943人,高卒生674人)。
サンプルの平均点は69.56で、地理B受験生全体の平均点(65.11)より4.45点高い。
大問ごとの小計、合計は得点率を示す。
め、各国の労働事情に関する細かい知識
を問う問題と理解されたことが正答率の
低い理由と考えられる。受験生の学力ラ
例題1 センター試験 地理B 第4問 問6
ンク別の正答率をみると、最上位層であ
るAランクが最も高いものの、次いで高
いのが最下位層のFランクという、奇妙
な得点分布を示し(表4)
、受験生の力を
判定する問題としては不適切といえるか
もしれない。しかし、センター試験では、
個別の国に関する細かい知識が問われる
ことはないと高をくくって問題のグラフ
(図4)をみると、一般的な傾向として
1人当たりGDPの高い国ほど労働時間
が短いという傾向が読み取れ、そこから
の韓国の労働時間は経済発展にとも
なって増加したとする文が誤りと判断で
きるが、誤答の多くが であったことを
みると、
新興工業国、
旧社会主義国といっ
た国のタイプ分けが十分にできていない
と考えられる。
表4 例題1 学力レベル別正解率(%)
レベル(偏差値)
正答率
A(∼60.0)
24.9
B(59.9∼55.0)
17.0
C(54.9∼50.0)
16.1
D(49.9∼45.0)
20.3
E(44.9∼40.0)
16.8
F(39.9∼)
20.9
4
次いで正答率が低かった第6問 問6
(例題2)は、東南アジアのインドネシ
ア、タイ、フィリピン、マレーシアの4
か国について、インターネット普及率、
都市人口率、1人当たりGDPを示し、タ
イを
と判定させるもので、ASEAN4
の工業化の地域差が理解できているか
がポイントである。誤答をみると同じよ
うに準NIEsとして扱われることの多い
のマレーシアよりも のフィリピンと
混同しているものが多い。日本とかかわ
例題2 センター試験 地理B 第6問 問6
りの深い地域でありながら、発展途上国
についての知識が乏しいのは受験生に共
通する弱点であるが、国別の1人当たり
GDP(またはGNI)を基本的な統計とし
て把握しておくことは重要である。帝国
書院『新詳 地理B 初訂版』p.205図1
ではASEAN諸国の経済成長の地域差が
わかりやすい地図で示されている。
図1 『新詳地理B 初訂版』p.205
■得点差がついた問題
現役生と高卒生で得点差が最大であっ
たのが、アフリカとヨーロッパの都市人
口と農村人口の変化を示したグラフから
アフリカの都市人口を判定させる第4問
問 1( 例題3)で、 高 卒 生 の 正 答 率 が
65.1 % で あ る の に 対 し、 現 役 生 で は
47.8%であった。発展途上国の過大都市
が話題になることが多いことから、アフ
リカでも都市人口が農村人口を大きくう
わまわっていると認識している現役生が
多かったようだ。帝国書院
『新詳 資料地
5
例題3 センター試験 地理B 第4問 問1
理の研究』p.172(図2)
では先進国と発展
途上国の都市人口と農村人口の推移を示
したグラフを掲載しているが、人口増加
率と都市人口割合の地域差を合わせて理
解できているかがポイントである。
図2 『新詳 資料地理の研究』p.172
上位層と下位層で得点差が大きかった
例題4 センター試験 地理B 第1問 問1
問題が第1問 問1(例題4)で、上位層
(偏差値55.0以上)が68%、中位層(54.9
∼45.0) が41.9 %、 下 位 層(44.9∼ ) が
18.8%であった。中・下位層の誤答の多
くは 澆 で、C川(ガンジス川)の河口
付近に扇状地が広がるとする文を正し
いと判断しており、地形の成因を含め
た基本的な理解ができていないことがわ
かる。また、第1問 問2は緯度と降水
量の季節変化を示す図としては、これま
でに見られない工夫がなされており、戸
惑った受験生も多かったようだが、ア
フリカ大陸における赤道の位置をしっ
かり認識し、緯度帯と降水量の季節変化
の要因をきちんと理解していれば正解で
きる。問題文がややわかりにくいところ
はあるものの、図の判読と自然環境の基
本的な成因の理解というこれまでのセン
ター試験がねらってきたことがともに盛
り込まれており、レベル別正答率でも上
位層が77.6%、中位層が54.3%、下位層
が34.4%と、受験生の学力差を測るうえ
でもセンター試験の標準的な問題といえ
る。なお、低緯度地方の降水量の季節変
化を理解させるには、『新詳 地理資料
COMPLETE 2010』p.27「Aw気 候 は な
ぜ生じるのか」
(図3)がわかりやすく役
6
図3 『新詳 地理資料 COMPLETE 2010』p.27
に立つ。
■工夫された図表の表現
今回から過去問の使用が解禁されたが、
大問構成や問題のレベルも例年どおりで
はあるものの、過去問をそのまま使用し
た問題はみられない。図表の表現方法は
毎年新たな工夫がなされ、マンネリ化を
避けようという出題意図が感じられる。
第4問 問4(例題5)では、近年話題
となっている日本の大都市圏の大規模住
宅団地の高齢化の問題を、直接問うので
はなく、地区別の特徴を人口ピラミッド
から判定させる工夫がなされている。他
の地区の特徴も人口ピラミッドに明確に
示されており、正答率は76.7%と高めで
はあったが、よく考えられた問題であっ
た。また、ヨーロッパの3か国(ノル
ウェー、ポーランド、オーストリア)の
国別の高度別面積割合を示した図の組合
せも判定させる第5問 問1も目新しい
資料を用いた問題であるが、ヨーロッパ
における地体構造の区分をもとにした大
まかな地勢が理解できていれば難しくは
なく、センター試験で要求される地域に
ついての知識レベルがよく示されている。
7
例題5 センター試験 地理B 第4問 問4
3.国公立二次・私大の出題傾向
例題6 名古屋大 問題蠶
■多様な地理情報を活用
入試問題で使われる資料も、インターネットを
経由して入手できるものが多くみられる。とくに
Googleの衛星画像の利用が目立ち、名古屋大では
衛星画像だけでなくパソコン上のGoogleマップ
の画面をそのまま使用して出題
(例題6)
しており、
奈良大ではGoogle Earthの画面を傾けることで得
られる斜め空中写真風の画像を使った問題(例題
7)がみられた。また、京都大IAではアメリカ
地質調査所
(USGS)のデータによる地形の起伏を
立体的に表したレリーフマップを用いてパリ周辺
のケスタ地形を判読させている(例題8)
。同様の
レリーフマップはセンター試験でも地理B第1問
B(問4∼6)の日本周辺の自然環境に関する問
題の導入地図に用いられた。一般の地図には示さ
れる国境線や道路、都市などの地域情報を一切消
した、起伏を立体的に示しただけの地図から、地
勢を判断し具体的な場所を特定するのは、多くの
受験生にとっては難しいと感じるかもしれない。
こうした画像の取り込みや加工が容易になってい
る最近の状況から、このような素材を利用した出
題は、今後さらに増加することが予想される。し
かし、モノクロ印刷が一般的な入試問題では判読
※図2 略
が困難な場合もあり、また画像を用いた目新しさ
だけで、設問内容は単調になってしまうことも危
惧される。
例題7 奈良大 珈 問1
8
例題8 京都大 蠢A 問盧∼蘯
■観光の新しい切り口
2010年度の入試問題で、目立ったテー
マが観光を扱った問題(表5)である。
観光に関する問題はともすれば、観光地
名や世界遺産などの観光資源名を問う
「観光地理検定」のような問題になりが
ちだが、今年は観光開発が地域にもたら
す影響や、観光による人の移動が起こる
理由など、余暇活動と地域間交流の両面
から扱った地理らしい問題が多くみられ
た。
表5 観光を扱った問題
大学
東京大
設問内容
■日本への入国目的別(観光・商用・
親族訪問ほか)の実数と割合を示し
た表から国・地域を判定しその理由
を説明する。■表から判定した地域
(台湾)からの旅行者に人気のある
日本の観光地を京都・奈良以外に具
体的にあげその理由を説明する。■
表から判定した地域(中国)と日本
との互いの旅行者数の不均衡の理由
を二つあげて説明する。
一橋大
■途上国が海外から観光客を大量に
招き入れることで自然・文化・社会・
地域経済などに生ずる問題点を三つ
列挙する。
東京学芸大 ■日本の過疎地で大規模な観光開発
が地域社会にもたらしたマイナスの
影響を説明する(100字)。■1980年
代以降,日本の海外旅行者が増加し
た背景を航空運賃の割引以外で答え
る(60字程度)。■日本で近い将来
予測されている人口構造の変化が、
国内の観光産業に与える影響を説明
する。
学習院大
■アルプスの山岳リゾート地を訪
れる観光客の夏と冬の余暇の過ご
し方の違いを説明する。■コートダ
ジュールやラングドック・ルシヨン
にヨーロッパ各地から観光客が集ま
る自然環境に起因する理由を説明す
る。
法政大
■表からアジアで外国人観光客の受
入が最大の国(中国)を判定し,こ
の国で外国人観光客が増加している
理由を説明する。
9
■地理的技能を試す
例題9 大阪大 (蠢)
地図の判読や地図を使って表現する、
地理的技能に関しては、的確に学力を評
価する問題の作成は容易ではないが、今
年は興味深い問題もみられた。大阪大で
は昨年流行の拡大が大きな話題となった
新型インフルエンザの伝播経路を推定さ
せたり、感染の深刻さを表現する主題図
の適否を判定させる問題が出題
(例題9)
された。適切な地図表現は、地理教育が
担うべき重要分野の一つであるが、
『新
詳 地理B 初訂版』p.250の〈技能をみ
がく〉のコーナーでは、階級区分図によ
る地図表現の適否についてわかりやすく
解説されている。また、名古屋大では、
地域の特徴を説明した文章をもとに地形
図の地図記号を使って市街地の地図を描
かせたり、気温の観測データをもとに等
温線図を描かせヒートアイランド現象を
説明させる問題が出題された。このよう
な問題は受験生、出題者、採点者いずれ
にとっても苦労は多いが、新課程で重視
される地理的技能を入試問題でどう扱う
かの先駆けとして注目したい。
10
の、成因・要因など論理的な説明を求めるものなどがあ
4.論述問題の形式とテーマ
る。筑波大や大阪大など200字、400字など1問当たりの
表6─1・表6─2・表7は、2010年度の国公立大二
解答分量が多い大学もあるが、全体的には50∼100字程
次試験の論述問題の設問内容を示したものである。論述
度の問題が多く、コンパクトに要点をまとめる力が要求
問題は形式や分量など多様であり、大学の個性がとくに
される。帝国書院の教科書・地図帳・資料(副読本)で
よく表れており、受験生にとっては過去問の演習は必須
は、図版には、簡潔な解説や考察、読図、課題など判読
である。設問の形式・内容は、用語の説明など基本的事
の指針が示されているものが多くあり、こうした論述問
項に関するもの、図表の判読とその背景を説明させるも
題の解答の手本として活用できる。
表6─1 国立大二次の論述問題の分量とテーマ:その1(2010年度)
論述
問題数
11
総字数
1題当たり
平均字数
北海道大学
12
900字
程度
75字
60∼120
筑波大学
(地球学類)
筑波大学
(地球学類以外)
3
900字
5
1600字
300字
300
400字
200∼400
東京大学
16
1200字
75字
60∼90
東京学芸大学
9
1200字
程度
130字
60∼240
一橋大学
15
1175字
80字
25∼150
新潟大学
9
460∼
640字
60字
20∼120
テーマ(設問内容)
■環礁の説明。■ツバルにおける地球温暖化に伴う海面上昇がもたらす被害。■台風が発生するメ
カニズム。■地形図読図(茶を栽培している場所の地形的特徴〈牧ノ原台地〉)。■スリランカにお
けるココナッツ栽培地帯と茶栽培地帯の分布の違いを地形および気候と関係させて説明。■ガーナ
で近年カカオ豆の生産量が伸び悩んでいる理由。■ドイツで旧ユーゴスラビア出身の外国人労働者
が多い理由。■フランスで北アフリカ出身の外国人労働者が多い理由。■「青いバナナ」と呼ばれ
る地域がEU経済の中心地として発展した理由。■スウェーデンの鉄鉱石がノルウェーの港から輸
出される理由。■日本の鉄鋼工場と原子力発電所の立地の共通点と相違点。■日本の製鉄業が第1
次石油危機によって成長にブレーキがかかった理由。
■地形図読図(3地点〈秋吉台〉の地形と土地利用の特徴)。■ネパールの氷河湖の拡大する原因
とそれに伴う災害。■東南アジアにおける農業の特徴。
■新旧地形図読図(笠野原〈シラス台地〉の土地利用と集落立地の特徴および変化を自然環境と関
連させて説明)。■ハイサーグラフから地図上の地点を判定した理由。■ロッキー山脈東麓の地点
の自然環境の特徴。■現代世界における火力、水力、原子力の各発電の立地特性と環境への影響。
■現代世界におけるキリスト教の分布について説明。
■ザンベジ川のカリバダムとエニセイ川のクラスノヤルスクダムの目的の違いを気候に関連づけて
説明。■日本の中部地方・四国地方と中国地方のダム流域の侵食速度の違いが生じた要因。■ダム
に土砂が堆積することによって生じる問題。■森林が「緑のダム」と呼ばれる理由。■森林の「緑
のダム」と積雪や氷河の「白いダム」の役割の比較。■アジアから日本への旅行者の入国目的別実
数と割合を示す表から国名を判断した理由。■台湾からの旅行者に人気のある日本の観光地とその
理由。■日本と中国との相互の旅行者数の不均衡の理由。■韓国でとられた人口・経済的機能のソ
ウルへの過剰な集中と地域格差の拡大を抑制するための政策。■台湾の1980年代以降における産業
構造の変化の特徴とその背景。■日本の製造業の変化を反映した内航海運と自動車の貨物輸送の推
移。■鉄道による貨物輸送が近年見直されている理由。■周辺地域の特徴からみた名古屋港・横浜
港の輸出量が多い理由。■周辺地域の特徴からみた苫小牧港・千葉港が輸出量に対する輸入量が多
い理由。■東海道新幹線沿線に人口規模の大きな都市がみられる理由。■ドイツと日本で都市の地
理的分布や人口規模のばらつきに差違がみられる理由。
■海洋と大陸という語句を用いてアンデス山脈の形成要因を説明。■パタゴニアとアタカマ砂漠そ
れぞれの乾燥気候の成因の特徴。■現在の中国国内でみられる地域格差の特徴とその背景。■日本
の外国人登録者で、1990年代後半以降中国籍の登録者数が増加した理由。■アメリカ合衆国の三つ
の州の農場規模に関する統計から地図中の州を判断した理由。■北緯37度の緯線に沿ってアメリカ
合衆国西海岸から東海岸まで自動車で旅行した場合の景観の変化。■日本の過疎地で大規模な観光
開発が地域社会にもたらしたマイナスの影響。■1980年代以降、日本の海外旅行者が増加した背景。
■日本で近い将来予測されている人口構造の変化が、国内の観光産業に与える影響。
■イギリスと日本の大規模ニュータウンの特徴の対比とその特徴が生じた理由。■イギリスと日本
の大規模ニュータウンの建設が民間ではなく公的機関によって行われた理由。■東京都多摩市域で
1990年頃から65歳以上人口比率が急増している理由を二つ。■バングラデシュの稲作の三つのタイ
プ(アウス、アマン、ボロ)の栽培および収穫期間を示した図からアマン(浮稲)を判定した理由。
■バングラデシュの稲作でボロの収穫が大幅に増加した理由。■バングラデシュで水害が拡大しや
すい原因。■バングラデシュから多くの人が出稼ぎに行っている国とその国への出稼ぎの人の数が
どう変化するかの予測。■途上国が海外から観光客を大量に招き入れることで自然・文化・社会・
地域経済などに生ずる問題点を三つ。■中国本土に香港・台湾や世界各国から大規模な投資が続い
ているにもかかわらず、賃金面における国際競争上の優位が消滅しない理由。■労働力の国際移動
が全面的に規制緩和された場合、世界規模で生ずると考えられる労働力移動のタイプと労働力の国
際移動の規制緩和が積極的に進められない理由。■多国籍企業がアフリカなどへの途上国に立地す
ることに消極的な理由を三つ。
■地形図読図(扇状地で川の水が伏流する理由、河川の水制の役割、木曽川河畔砂丘の形成過程、
輪中の特徴)。■クウェートで貧富の格差が大きい理由。■かつて文明を育んだ西アジアの地中海
沿岸地域が現在は生産力の乏しい土地になっている理由。■ヴィクトリア湖に比べタンガニーカ湖
が深い理由。■ナイジェリアの首都移転の経緯。■南アフリカ共和国で人種差別政策が廃止される
に至るまでの経緯。
表6─2 国立大二次の論述問題の分量とテーマ:その2(2010年度)
論述
問題数
福井大学
5
愛知教育大学
7
名古屋大学
10
京都大学
13
大阪大学
(文・外国語学部)
4
和歌山大学
11
総字数
640字
程度
1題当たり
テーマ(設問内容)
平均字数
■地形図読図(長良川左岸〈輪中〉の集落立地の特徴、長良川河口堰の機能、市街地〈桑名〉の歴
130字
史的性格とその判断理由)。■この国(ブラジル)で生産の多い農産物を活用した新エネルギーに
90∼220
ついて先進国の動向にもふれて説明。■熱帯圏で広く見られる環境問題について先進国の関わりに
ついてもふれて説明。■全世界へ移住したヨーロッパ系白人人口と緯度や気候帯との関係について
の説明。
800字 100字程度 ■地形図読図(河川の流向を判断した理由、草津川の地形的特徴とその形成要因、直交する道路網
が形成された原因)。■アスワンハイダムがもたらした弊害。■アフリカ北部に展開している農業
程度
60∼200
(不明) (不明) の名称と特徴。■アフリカの国々が独立後も自分たちの言語を公用語にしなかった理由。■東南ア
ジア諸国の工業化の特徴と国際分業の仕組みの説明と、マレーシアに進出した日本企業の輸出品が
「マレーシア製(made in Malaysia)」ではなく「マレーシアで組立(assembled in Malaysia)
」となっ
ている理由。
■(文章・表から市街地地図および等温線図を描いた上で)等温線の分布の特徴とそのような特徴
1000字
100字
を示す理由。■(輸送距離帯別貨物輸送量を示す表をもとに)日本の四つの輸送機関の特徴の違い
程度
30∼200
とその理由。■航空輸送が選好される貨物の種類とその理由。■国際ハブ空港の説明。■ニューヨー
クとシカゴの標準時の違いとその理由。■東京・ニューヨーク間の航空便で往路と復路で所要時間
が異なる理由。■日本・アメリカ合衆国・中国の原油の生産量と輸出量の1990∼2005年の変化の要因。
■日本・韓国・インドの1次エネルギー輸入量と1人当たりエネルギー消費量の変化の特徴。■ド
イツとフランスの原子力発電量の変化の違いとその理由。■衛星画像の判読(ナイルデルタと周辺
との植生・土地利用の違い、円形の土地〈センターピボット〉の土地利用と問題点)。
■陰影起伏画像から判読できる地形(ケスタ)の特徴と成因。■二つの景観写真(秋吉台・桂林)
660字
50字
に示された地形のそれぞれの特徴と共通する成因。■長江流域の農業地域の特色。■アマゾン川流
20∼80
域における開発とその問題点。■長江流域における開発とその問題点。■トラックとの違いをふま
えた航空による貨物輸送の輸送距離の特徴。■国内主要空港間の定期航空貨物の流動状況図から読
み取れる国内輸送拠点の特徴。■空港間の旅客輸送の定期便運行状況図から読み取れる航空輸送網
の特徴。■国民総所得が国内総生産と異なる点。■経済発展が進むにしたがい1人当たり国民総所
得が産業別就業者比率とともに変化する傾向。■ブラジルとメキシコに共通する国内の所得配分の
特徴。■低所得国の家計支出の費目構成の特徴とそれが次世代に与える影響。■発展途上国間の南
南問題と呼ばれる経済格差とこの問題が顕著になったきっかけ。
■メキシコからはじまった新型インフルエンザの流行が、アメリカ国内でどのように伝播したか。
680字
170字
130∼200 ■新型インフルエンザ感染の深刻さを州単位で評価するのにふさわしい階級区分図の判定とその理
由。■メキシコからはじまった新型インフルエンザ流行の世界各地への拡散課程を示すのにメキシ
コ市を中心とする正距方位図法を用いる場合の長所と短所。■ASEAN諸国で複数の言語を公用語
とし国語話者が少数派の国(シンガポール)の民族構成、言語事情。
(不明) (不明) ■新旧地形図の読図(地形〈扇状地〉の形成要因、河川流路の特徴とその変化、湖岸線の地形的特
徴とその変化、交通路の特徴とその変化、集落立地や都市化の特徴)。■火力発電の問題点。■民
族構成に関する近代以降の日本の状況。■言語をめぐるスペイン北部での対立。■パレスチナ問題
の原因と内容。■マレーシアの産業構造の変化。■AFTAでの経済発展をめざす政策。
表7 公立大二次の論述問題の分量とテーマ(2010年度)
論述
問題数
総字数
1題当たり
平均字数
高崎経済大学
(前期)
10
1000字 100字前後
程度
50∼200
(不明)
高崎経済大学
(中期)
6
(不明)
(不明)
首都大学東京
(文系)
11
(不明)
(不明)
首都大学東京
(理系)
10
(不明)
(不明)
テーマ(設問内容)
■日本の貿易相手国の1位と2位が逆転した理由。■日本の輸入相手国として重要なインドネシア・
オーストラリア・サウジアラビア・アラブ首長国連邦と貿易の特徴。■日本がASEANと包括的経
済連携協定を締結することを決めた理由とそれによってもたらされる効果。■日本とこの国
(中国)
との貿易のパターンとしての特徴を「多国籍企業」をキーワードに説明。■スプロール化現象の説
明。■地方都市の旧市街地や駅前商店街がさびれてきている要因。■資源リサイクルの必要性につ
いて考えるところ。■フィヨルドの形成要因と利用。■ドイツの近年の移民労働力問題について知
るところ。■第3のイタリアについて知るところ。
■用語の説明(モノカルチャー経済、アパルトヘイト)。■ユーラシア大陸の植生についての説明。
■用語の説明(郷鎮企業、カースト制度)。■インドで1990年代に経済が自由化されて以降IT産業
が本格的に成長した要因や背景。
■東京大都市圏郊外の1970年前後と1980年代後半の人口増加の性質の違い。■東京の都心の社会増
加が1990年代後半にプラスに転じた原因。■都心で人口が増加する傾向が続いた場合の都心での良
い影響と悪い影響。■東京駅から50km圏における2000∼2005年の人口増加の地域的傾向の読み取
り。■郊外での人口減少の理由とそれによって生じる問題点。■新旧地形図読図(地すべり地帯の
水田の形態的特徴、溜池がつくられている理由、地すべり災害の被害状況)。■1960年代から1970
年代初めに西ヨーロッパへ出稼ぎに行くトルコ人が多かった理由と、出稼ぎトルコ人が直面する
問題。■1923年以来トルコが進めてきた政治上の原則、文化面でのヨーロッパ志向の内容と目的。
■日本・ロシア間の貿易の特徴とその背景。■ロシア極東地域と日本との民族や食生活の点での類
似性。■トルコとロシアがアジアとヨーロッパを結びつける背景の違い。
■アフリカ諸国の経済が特定の一次産品の輸出に依存していることによって引き起こされる弊害。
■ 2005 年にアフリカ諸国の多くが経済成長率プラスを示した要因。■地図中の国(ジンバブエ)
の 2005 年の経済成長率がマイナスを示した原因。■アフリカ最大の経済大国(ナイジェリア)の
都市部で高い犯罪発生率が生じている原因。■オーストラリア北部で夏季に気温の日較差が小さい
理由。■オセアニアの 4 地点の月平均気温と日較差の季節推移を示したグラフから地点を判定した
理由。■南アメリカ大陸での赤道以南の標高 200 m未満の観測地点における年平均気温と緯度との
関係を示したグラフで、緯度の割に年平均気温が低い地点群の自然環境の特徴。■東太平洋の赤道
付近で数年間隔でみられる平年からの偏差の大きい状態について風と関連させて説明。■地形図判
読(二つの集落の形態が異なる理由、扇状地における土地利用と地形との関連、農業と関連する工
業の立地要因〈勝沼〉)
12
いきいき授業実践
平成22年度『高等学校 新地理A 初訂版』
平成22年度『標準高等地図 初訂版』
平成22年度『新詳地理資料 COMPLETE 2010』
系統地理学的内容で地理Aの理解を深める −工業立地を知っておこう−
高知県立梼原高等学校 藤 澤 誉 文
1.はじめに
地理Aの授業はどのような切り口から授業を始める
のか、また、世界の諸地域の地域性や諸問題に関して
中国国内
より
中国国内
より
どのレベルの分析までさせるのか。内容を深めようと
すればいくらでも深められるが、2単位という時数の
規定上、内容の精選を必ず迫られる。この部分が非常
韓国
より
︵
台
湾
︶
よ
り
日本へ
アメ
リカ
合衆
国よ
り
より
タイ
に悩ましい科目であり、この悩ましさこそが、地理A
のおもしろさであり、難しさなのであると思われる。
現行指導要領下での地理Aの教科書では、内容の構
成から、知識の側面よりも、世界各地の地域性をどの
図1 1台のパーソナルコンピュータができるまで
『高等学校 新地理A 初訂版』p.39
ようにとらえさせるか、世界の諸問題をどのように分
東アジアを含めた分業体制に組み込まれた組み立て工
析し、解決させるかの側面を重視していることが読み
業が、なぜこの東南アジアで形成されたのか、もっと
とれる。しかし、このような構成の教科書で学習する
他の工業が発達する可能性はなかったのか、EUも同
場合、次のような授業に陥ってしまう可能性がある。
様の分業体制が形成されているのではないか、EUと
○作業的・体験的な学習の側面を重視しすぎて、肝
どう違っているのかなどの疑問に答えられなければ、
心の地域性の内容が疎かになってしまう授業。
東南アジアの固有性、独自性の全体像というものは明
○資料をていねいに読みとることができず、そのた
確に見えてきにくいのではないだろうか。
めに得られる知識が表面的な地域性のレベルに終
新学習指導要領では、地域の歴史的背景や他科目と
わってしまう授業。
の関連性ということを重視している。
このASEANの工
たとえば、
『高等学校 新地理A 初訂版』
(以下、教
業化であれば、
東南アジアの第二次世界大戦後の独立→
科書)
「東南アジアの生活・文化」の「澆工業の発展
開発独裁→民主化という一連の歴史的な流れの中で、
とASEAN」p.98では、第二次世界大戦後の特定の農
工業の業種が輸入指向型工業から輸出指向型工業に変
産物や鉱産資源に依存するモノカルチャー経済を脱
化してきたこと
(政治・経済的内容)
や、
ASEANの輸出
却するために、安い人件費や安い工業用地を利用した
指向型工業の立地は、労働力指向型で交通指向(臨海)
組み立て工業が発達してきたことを、タイやマレーシ
型の工業立地になる(地理Bの系統地理学的内容)と
アの輸出品目の変化や、輸出額の変化のグラフから読
いう知識を習得することができたならば、東南アジア
みとらせるようになっている。また、現在の東南アジ
の固有性、独自性が明らかになるのではないだろうか。
アと東アジアのつながりや労働力依存型の工業に関し
13
ては、教科書p.39の1台のパーソナルコンピュータが
2.地理Aで工業立地を考える
できるまで(図1)や、
『図説地理資料 世界の諸地域
私は、地理Aの授業をする中で、生徒が学習する世
NOW 2010』のp.68、69の諸所の図や写真からも読み
界史や政治・経済との関連性を持たせることや、気候、
とらせることができる。
工業立地論、中心地論など地理Bで学習する系統地理
しかし、この知識で東南アジアの地域性がすべてわ
学的内容を必要に応じて取り入れることで、世界の地
かったといえるのであろうか。たとえば、このような
域性の理解や諸問題の分析を深めるようにしている。
とくに本稿では、世界の各地域の工業についての学習
幡製鉄所の火入れ式の写真(写真2)を見せ、この写
を深めるための工業立地論の授業について紹介したい。
真に写っているものは何かを発問する。さらに、これ
教科書p.122の「7アメリカ合衆国の生活・文化」
「澆
はどこに立地していたのかを、絵葉書に描かれている
先端技術産業の発展と工業の変化」では、先端技術産
昭和初期の絵図(図2)で確認させ、現在のスペース
業、サンベルトやシリコンヴァレーという語句がゴシ
ワールドの辺りに立地していたことを気づかせる。そ
ックで記述されており、アメリカ合衆国の工業が重化
学工業中心のスノーベルトから先端技術産業中心のサ
ンベルトにシフトしていること、さらに安い労働力を
求めて、企業が海外進出をしていったために、産業の
空洞化も起こっていることを理解させるようになって
いる。ひいては、このことがインドや中国の急成長と
大きく関連している。
上述の東南アジアにしても、アメリカ合衆国にして
も、工業立地論を理解しておくと、授業の効率化にも
つながるし、生徒の理解も深化する。このようなこと
から、私は、教科書の第1部の部分で、工業立地論の
授業を2時間程度の投げ入れで行っている。
3.なぜスペースワールドは北九州にあるのか
この授業の目的は、工業には業種によって立地の特
徴があることを理解させると共に、工業の立地にはそ
の工業が立地する国の経済段階に応じて、流行がある
ことを理解させ、世界各地域の工業についての見方・
考え方を習得させることである。
まず、授業の最初にスペースワールドのタイタンや
ヴィーナスの写真を見せ、この写真(写真1)がどこ
の遊園地の写真であるか発問する。本県の生徒であれ
ば、全員がわかるわけではないが、クラスの中のだれ
かは知っている。その後、地図で場所を確認させ、北
九州工業地域にあることに気づかせる。
ここで、どの生徒も一度は見たことがある、官営八
中国からの鉄鉱石
深く入り込んだ湾
筑豊炭田
図3 北九州工業地帯の立地条件
『標準高等地図 初訂版』p.93
14
して、八幡製鉄所は現在も有名な新日鐵という製鉄会
写真(写真3)を見せる。ここも、大阪の住友金属工
社に発展したことを理解させる。
業の敷地に建設された遊園地である。スペースワール
ではなぜ、北九州に製鉄業が立地したのかを、発問
ドと共通するところはどこなのかを考えさせる。
する。ここでは、図3のような要素を考えさせたい。
これまでの一連の流れの中で、生徒は次の二つのこ
この図には載ってないが、ここには当然中国への進出
とがわかるのではないだろうか。一つ目は、鉄鋼業は
も考えられていたようである。
原料の近くに立地し、さらに日本の場合、原料を輸入
次に、
『新詳地理資料 COMPLETE 2010』p.125の
してくるので、臨海部に立地することである。二つ目
八幡製鉄所の変化の写真を見せる。1990年にスペース
は、鉄鋼業は日本では人件費が高く、鉄鋼の付加価値
ワールドは新日鐵の遊休地に建設されることとなる。
も高くしづらいため日本では不利な工業となってきて
それは、筑豊炭田での石炭産出量の低下ということも
いる。
あるが、1970年代以降日本の鉄鋼業は、人件費の向上、
オイルショックによる工業のソフト化、プラザ合意に
よる円高などによって、明らかに日本の輸出総額にお
ける鉄鋼の輸出額の割合は低下していく。鉄鋼の生産
量も、1990年代以降頭打ちとなっている。また鉄鋼と
いうのは、
「産業の米」と呼ばれるように、その他の工
業製品の素材として生産される。そのため、どうして
も付加価値がつけづらい。この日本に変わって、鉄鋼
生産で急成長を見せたのが中国である。日本の鉄鋼業
社も、中国などの安い鉄鋼に対抗するため経営の合理
化をめざし、業界の再編をしてきたことを理解させる。
さらに、もう一つユニバーサルスタジオジャパンの
上述の知識をさらに発展させるため、鉄鋼業以外の
セメント工業や紙・パルプ工業、繊維工業、食品工業、
電子工業、自動車工業などが、どのような場所に立地
爬1985年
するかを考え、原料指向型工業、労働力指向型工業、
洞海湾
市場指向型工業、交通指向型工業などの分類表にまと
めさせる。また、先進国において有利な工業はどの業
種なのか、発展途上国において有利な工業はどの業種
なのかを考えさせる。
4.おわりに
爰2005年
地理Aでは、地理Bで学習する系統地理学的内容を
とり入れながら授業をすることによって授業の効率化
洞海湾
や、内容の深化をはかることができる。本稿の場合、
工業に関する系統的な学習を世界の地域の学習の前に
行うことで、世界の諸地域の内容の深化をはかる試み
スペースワールド
を行った。しかし、分野によっては、最初に世界の諸
地域を学習しておいて、最後にまとめとして系統的な
図4 八幡製鉄所の変化
『新詳地理資料 COMPLETE 2010』p.125
学習を入れたほうがわかるものもあるであろう。
今後も、地理Aの内容の深化と時数の制約に悩みな
がら、よりよい授業をつくっていきたい。
15
ステップアップ
ワークシート③
教科書:平成22年度『世界を学ぶ高校生の地理A 最新版』
地図帳:平成22年度『新詳高等地図 初訂版』
付録の解説
資 源 を 極 め る!
昭和学院中・高等学校 西 岡 陽 子
地理の授業にあたって
「資源論」は、自然条件と社会条件双方の考察が要
た(7月20日毎日新聞)。今後も新興国の消費量は増
求され、地理になじみやすいテーマである。鉱物が資
加を続けるであろう。地球温暖化防止のために二酸化
源となるには、人類にとって有用であること、採掘や
炭素排出量を減らすという試みは、新興国の「我々に
精錬の技術、コスト(採算性)の問題もクリアされる
も経済発展を」という叫びにかき消されている。
ことが必要である。現在脚光を浴びているレアメタル
なお、2006年1次エネルギー供給量の世界合計は、
もかつては資源でなかった。かつて廃棄されていたく
1173,996万tで、表の10か国で供給の62%を占める。
ず炭も、技術進歩により資源となる。
構成は、石炭26.0%、石油34.3%、天然ガス20.5%、原
「資源問題」は世界の大問題の一つである。『90年
子力・その他19.2%である。
代は先進国が世界経済を牽引していたが、2000年に入
石油は、燃料のほか、身の回りの多くの製品の原料
ると、8億人弱の先進国経済の中に、中国やブラジル、
として現代生活になくてはならない。原油の価格は、
インドなど人口30億を擁する新興国が加わった。これ
1970年代のオイルショックで急騰したが、その後は資
ら人口大国の工業化による持続的な成長により、資源
源開発が進んだり、OPECの減産などで穏やかな動き
需要があらたに喚起され、需要が一気に引き締まり価
であった。それが2004年には、市場最高値を記録、以
格が大きく上昇した。
』
『原油、銅、アルミニウム、鉄
後も急騰が止まらなかった。新興国の需要増に加え、
鉱石、原料炭などの資源価格は2005年に史上最高値を
投機マネーの大量流入が原因とされている。日本でも、
付けた後も衰えてはいない。
』
(柴田、参考文献1、2よ
ガソリンスタンドでの価格上昇や燃料高で漁船が出漁
り引用)
。資源市場は売り手市場となり、とくに地下資
できないなどのできごとは記憶に新しい。また、今年
源の大部分を輸入に頼る日本にとっては死活問題とな
4月から3か月近くも続いたメキシコ湾岸の原油流出
っている。最近、
関連書籍の出版も相次ぎ、
新聞やテレ
事故は、今や全生産量の4割を占める海底油田の危険
ビでも頻繁に取り上げられている。生徒たちには地理
性を改めて示した。掘削にかかる費用は陸上の2倍前
が現実社会を反映する教科であることを認識させたい。
後と高いが、中東の権益確保の難しさや原油価格の高
ウォーミングアップ!
騰を背景に海底油田は増加している。安全対策をどこ
ロシアの原油生産は、ソ連崩壊後激減したが、その
まで講じるかは経済合理性との兼ね合いと指摘され、
後欧米資本と合弁会社をつくり、経営手法、先端技術
事故のおそれはなくならない。
を学んで生産を増やしてきた。ロシアは石油、天然ガ
一方、再び脚光を浴びているのが石炭火力である。
スともに生産量、
埋蔵量で世界一を誇るため今では「北
石炭は石油や天然ガスに比べると埋蔵量が豊富なこと
のサウジアラビア」と呼ばれる。
に加え、世界各地で採掘できる。二酸化炭素や窒素酸
ちなみに、2008年、原油の生産量第4位はイラン、
化物の排出量が多いのが欠点だったが(実際新興国で
5位は中国であり、2005年消費量第4位はロシア、第
は、石炭依存による環境汚染は深刻である)、近年で
第5位はインドである。生産、消費とも多いのがロシ
はこれらの排出物を削減し、発電効率を上げる「クリー
ア、アメリカ合衆国(以下アメリカ)
、中国。生産の
ンコール技術」の開発が進展している。ここで最前線
み多いのがサウジアラビアとイラン。消費のみ多いの
をいくのが日本である。
が、日本とドイツである。
天然ガスも、石油、石炭に次ぐ第3のエネルギ−源
ステップアップ!
19
機関(IEA)のまとめた最新のデータで明らかになっ
で、環境問題の高まりから注目度がアップしている。
ワークシートの表をみると、1次エネルギー消費量
空気より軽いため、ガス漏れしても拡散してガス爆発
において中国は第2位であるが、2009年、中国がアメ
する可能性が低く、熱量も高い。−162℃まで冷却さ
リカを抜き世界最大になったことが、国際エネルギー
れると液体(液化天然ガスLNG)になり体積が600分
の1になって輸送や貯蔵がしやすい。排出される温室
を削っている。ワークシートの表以外に、モリブデン、
効果ガスも石油や石炭より少ない。
バナジウム、インジウム、ガリウム、タンタルなど31
原子力発電は、
『2008年現在30か国で行われており
鉱種が、経済産業省によってレアメタルと定義されて
439基が稼働している。発電力量は全体の16%である
いる。100%輸入に頼る日本にとって、廃棄された携
が、今後も220基が計画されている。
』
(参考文献3)。
帯電話やパソコンなどを分解してレアメタルを取り出
アメリカのスリーマイル島(1979年)や旧ソ連のチェ
す「都市鉱山」は重要になってくる。
ルノブイリ発電所(1986年)の事故以降、脱原発の傾
日本が輸入する量は多く、輸入量が世界第1位をし
向が強かったが、石油の枯渇が心配され、また地球温
める地下資源は、銅と石炭、第2位は石油と鉄鉱石、
暖化防止が緊急性を強めるにつれ、
「原子力ルネサン
第3位は天然ガスとなっている。近年の需給逼迫で、
ス」といわれる原発回帰がみられるようになった。し
たとえば、鉄鉱石のように資源会社によって価格がど
かし、地震の被害が建物に及ぶ危険性や、発電後生じ
んどんつり上げられる動きがみられる。また、資源ナ
る放射性廃棄物の処理など未解決の問題も多い。
ショナリズムの台頭で、これまでのように「金さえ出
現在、
新たに注目を浴びているのが石油のようにCO2
せば」というわけにもいかない。資源開発の権益獲得
を放出せず、枯渇の心配のないエネルギーである。石
にむけ外交手腕が問われている。先進諸国の大資本に
油の価格の上昇により、代替エネルギーの開発はコス
利益を奪われてきたアフリカ諸国の資源ナショナリズ
ト的に考慮範囲に入ってきたといえる。
代替エネルギー
ムの動きは十分理解できるが、全世界的に広がるこの
はCRWと よ ば れ て い る(Combustible Renewables
傾向は日本だけでなく国際社会にとっても大きな課題
and Waste 訳は可燃性再生可能エネルギーおよび廃
である。
棄物)
。エタノール用のとうもろこしが高値で買い付
応用問題を解いてみよう
けられるため、食用が不足する事態も生じている。
今回の応用問題は、「資源問題に直面して、日本は
一方、太陽光、風力、地熱など再生可能なエネルギー
いったいどうしたらよいのか、我々一人一人ができる
利用も開発が進んでいる。日本はヨーロッパなどと比
ことは何か」とする。絶対的な正解があるわけでもな
べると、日照時間が長く太陽光の利用価値は高い。従
く、答えは一つに限らない。そもそも社会科というの
来余剰電力を電力会社が買い取っていたが、経済産業
はそのような教科である。
省は来年度から、再生可能エネルギーで発電した電気
国際的な資源争奪戦の中にあって、冷静な対処を求
を国が全量買い取ることを決めた。対象も、風力、地
めるのは小森(参考文献4)である。彼は、日本が資
熱、バイオマスなどに拡大する。
源供給を絶たれると戦争に突進した事実を指摘してい
『占める割合は3%と小さいが、毎年20%以上の急
る。そして日本は優れた省エネ・環境技術を利用して
成長が続いているのが風力発電である。
』
(参考文献
アジアのエネルギー需要を抑制していくべきだ、さら
3)。ヨーロッパでは古くから偏西風を利用した風車
に「アジア・エネルギー共同体」の構築につなげるべ
が利用されており、ドイツやデンマークでは、政府の
きだと説く。我々一人一人も日常生活を見直し、身近
方針もあり風力発電がさかんである。筆者は1980年代
なところから省エネを心がけることが必要である。
デンマークに住んでいたが、海岸地方で発電用風車が
目についた。風はかなり強く、日本から持参した折り
たたみ傘は全く役に立たなかった。デンマーク人の傘
は、まるで日本のビーチパラソルのようだった。ちな
みに、デンマーク人は少しの雨なら傘はささない。
なお、代替エネルギーと再生可能エネルギーを分け
ず、再生可能エネルギーと一括することも多い。
ジャンプアップ!
レアメタルは、
「産業のビタミン」といわれるほど
ハイテク製品には欠かせず、各国は資源獲得にしのぎ
参考文献
1 柴 田 明 夫『 資 源 争 奪 戦 − 最 新 レ ポ ー ト2030年 の 危 機 』
2010 かんき出版
2柴田明夫『資源インフレ−日本を襲う経済リスクの正体』
2006 日本経済新聞出版社
3ニュースなるほど塾編『世界の資源−いま何が起きている?』
[KAWADE夢文庫]2010 河出書房新社
4小森敦司『資源争奪戦を越えて−アジア・エネルギー共同体
は可能か?』2007 かもがわ出版
5資源問題研究会『図解 世界資源マップ−地球規模の争奪戦
が始まった!最新データでわかる資源の危機の真実』2008 ダイヤモンド社
6矢野恒太記念会編『世界国勢図会2009/10』2010 矢野恒太記
念会
20
ちりさんぽ
∼地形図とともに出かけよう∼
50m等高線でたどる湧水帯 監修
東京都練馬区・武蔵野市・杉並区・世田谷区
東京学芸大学 加賀美雅弘
この地図は、国土地理院発行の2万5千分の1の地形図
「吉祥寺」を使用したものである。
今回のちりさんぽ 行程14㎞・
20,000歩・所要時間4時間
(2010年5月 実施)
1
2
50m等高線
3
4
5
凡例
写真の方向
さんぽルート
第2回のフィールドは、武蔵野台地中央部の海抜50m等高線
をたどるコースです。東京都の調査によると、東京都区部だけ
でも280か所の湧水が確認されています。今回の地域では、50m
の等高線に沿っていくつかの湧水帯が分布しているのが特徴と
なっています。50mの等高線をたどるとわかるように、湧水帯
のある地点には二つのタイプがあることがわかります。一つは
善福寺池と井の頭池に共通する、武蔵野台地を大きく削りこん
で谷地型を呈するタイプです。もう一つは、高源院の弁天池の
ように台地の崖の前面から湧水のある崖線から湧水するタイプ
です。今も、台地を削った谷や窪地の名残を、坂道や地名など
で確認することができます。
21
6
井の頭池を水源とする神田川はとちゅう善福寺川と合流しま
す。かつて三代将軍家光の頃には、ここから江戸数十万の人々
の暮らしを支える神田上水が引かれ、飲み水を供給するという
重要な役割を担っていました。
神田川は開渠になっていますが、市街地での降雨による増水
を踏まえて深く開削されています。また、その他の小河川では
暗渠になっています。この場合も、道路の曲がり方や緑道など
によって、今でもその流れを追うことができます。
現在、都市化に伴い湧水の多くは水量が著しく乏しくなって
しまいましたが、今も50mの等高線に沿って分布する公園は、
人々の憩いの場として新たな役割を担っています。
1
4
2
5
3
6
■写真解説■
■武蔵野台地谷頭の窪地:善福寺池周辺は等高線が大きく武蔵
■井の頭池:井の頭公園の井の頭池も、武蔵野台地の50m等高
野台地に食い込んでいる。谷地形の谷頭部分では、写真のよう
線沿いに存在する湧水帯の一つである。写真からは、井の頭
に緩やかな谷状の窪地を確認することができる。地形図から
池が武蔵野台地を侵食した谷地形に細長く広がっていること
は、等高線に沿った土地開発の様子も読み取ることができる。
がわかる。
■善福寺池の湧水:武蔵野台地を形成している洪積層中のロー
■神田川と旧河道の暗渠:井の頭池を源流とする神田川は、隅
ム層や砂層を浸透してきた地下水は、堅い粘土層にぶつかる
田川に注ぐ全長24.6kmの一級河川である。江戸時代には神田
と帯水層をつくる。その帯水層が露出した所が湧水地となる。
上水として利用された。現在は護岸整備されているが、旧河
現在は都市化の影響から湧水は見られず、ポンプで地下水を
道は暗渠化(写真左の部分)され、地上部分は緑道となって
くみ上げている。
おり、その痕跡を確認することができる。
■新田集落の面影を残す街路:武蔵野台地上に成立した新田集
■高源院の弁天池:高源院内の弁天池は、目黒川の上流である
落は、道路に沿って列状に並ぶ集落とその背後に細長い短冊
烏山川の水源となっている。50mの等高線に沿って、公園と
状の畑地をもつ独特の形態となる。写真のように、細く長く
なる大きな池だけではなく弁天池のように小さな湧水も多数
伸びた街路にその名残が確認できる。
存在している。
22
資 源 を 極 め る !
ステップアップ
ワークシート③
ウォーミングアップ!
年 組 番 名前
資源の偏在 ●世界のどこに何の資源があるか、まとめてみよう。
ステップアップ!
おもな資源の産出
エネルギーのうつりかわり
1次エネルギー供給量の上位10か国(2006年)
1.石油、石炭、天然ガスの化石燃料や、原子力、水力、地熱など
の加工されていないエネルギーを1次エネルギーという。なかで
も経済成長の著しい新興国での供給量が増えている。それらの国
は、頭文字をとりBRICs(ブリックス)とよばれる。頭文字にあ
わせて、右の表から4か国を抜き出してみよう。
B( )
R( )
I( )
C( )
国名
(万t)
アメリカ合衆国 232,070
中国
187,874
ロシア
67,620
インド
56,582
日本
52,756
ドイツ
34,856
フランス
27,267
カナダ
26,974
イギリス
23,113
ブラジル
22,413
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
世界国勢国会 2009/10
2.右のグラフは、世界のエネルギー消費量の推移をあらわしてい
億t
140(石炭換算)
る。A、B、C、Dは、下のどれを示すか下から選び、
( )
A
120
に書き入れよう。
100
B
80
石油 天然ガス 石炭 水力、原子力など
60
1.図中の各記号は何をあらわしているか。下からあてはまるものを選び書き入れよう。
A( )
40
◎( )
●( )
△( )
B( )
20
( )
〇( )
■( )
C( )
0
1950
D( )
[資源名]
原油 ボーキサイト 鉄鉱石 銅 石炭 天然ガス
2.図中の矢印は、原油の移動をあらわしている。原油は、おもにどのようなところで生産・消費されているか、確認し
ながら矢印を青色でぬってみよう。
C
D
60
70
80
90
2000 04年
世界のエネルギー消費の推移(2004年)
3.下の文章の( )にあてはまる用語を下から選び、書き入れよう。
18世紀の産業革命以来、世界のエネルギーの中心は、
(a )であった。20世紀になって自動車の普及
とともに(b )の需要が伸び、1960年代以降(b)への転換が進んだ。これを「
(c )
3.
( )にあてはまるものを下から選んで書き入れ、まとめてみよう。
革命」という。しかし、1970年代の(d )をきっかけに石油代替エネルギーが関心を集め、石油や石
①資 源の分布は、地体構造との関連がみられる。たとえば、鉄鉱石は(a )
、銅は(b )
、
炭に比べ、大気汚染の原因となるNOxや地球温暖化の原因の一つといわれるCO2の排出量が少ない(e )
石炭は(c )に多く分布している。また、ボーキサイトは熱帯地域に分布する傾向がある。原油は背斜
の利用が進んだ。しかし、これらはすべて( f ) 燃料であり、クリーンなエネルギーといわれる
構造(つまり褶曲している地層の波の山の部分)に分布し、天然ガスも原油と同時に存在する場合が多い。
(g )が注目を集めているが、これらは、コストや効率、安全性などの課題をかかえている。
②原油の生産は、ペルシア湾を中心とした(d )地域に集中している。しかし、生産量が最大の国はこの
地域にはない。2008年には(e )がアラビア半島の(f )を抜いて第1位と
オイルショック 化石 エネルギー 石油 石炭 天然ガス 水力・原子力など
なった。3位はアメリカ合衆国である。なお、消費は、下のグラフによると第1位が(g )
、第2位が
(h )、第3位が(i )である。また、世界の原油消費量の増加と国別消費量の変化にも注
目したい。新興国といわれている国々の伸びが著しい。
2008年
アメリカ
消費 37.1億 t
2005年
アメリカ
21.4%
日本
日本 中国 アメリカ合衆国
ロシア
12.2 6.7 5.3
13.4%
5.2
サウジアラビア
中東 ロシア サウジアラビア
イラン
中国
原油
新期造山帯 古期造山帯 安定陸塊
生産 42.35億 t
中国
5.4
8.1 5.6
ロシア
アラブ首長国連邦 3.6
その他 49.8
メキシコ 3.8
4.「代替エネルギー」と「再生可能なエネルギー」に関する表の空欄を、下から選んで書き入れよう。
とうもろこし・さとうきび利用………(i )
代替エネルギー
(h )燃料
再生可能なエネルギー
(k )発電・(l )発電・(m )発電
家畜排泄物・生ごみ・木くず利用……(j )
韓国 3.1
その他 52.8
インド 3.6
太陽光 バイオマス バイオ 風力 地熱 バイオエタノール
地理・地図資料 2010年度2学期号 付録
ジャンプアップ!
解 答
資源事情の新しい動き
1.レアメタルの登場
レアメタルは次のア、イ、ウの性質をもつがその名前の由来となったのはどれか、一つ選び記号に〇をつけよう。
ウォーミングアップ!
ア.ハイテク製品に少しずつ使われているから。
1.◎( 原油 ) ●( 銅 ) △( 鉄鉱石 )
イ.地球上に少しの量しか存在しないから。
ウ.世界の限られた地域にしか分布しないから。
2. 解答 略
( ボーキサイト ) ○( 天然ガス ) ■( 石炭 )
3.①a( 安定陸塊 ) b( 新期造山帯 ) c( 古期造山帯 ) d( 中東 )
2.レアメタルが多く埋蔵されているのはどこか、下の地図から読みとり、
( )に書き入れよう。
②e( ロシア ) f( サウジアラビア ) g( アメリカ合衆国 ) h( 中国 )I( 日本 )
レアメタルは、中国、ロシア、オーストラリア、カナダと( )大陸の南部に偏在している。
おもなレアメタルの分布
ステップアップ!
1.B( ブラジル ) R( ロシア ) I( インド ) C( 中国 )
Brazil Russia India China
ノリリスク
トンプソン
サドバリ
キューバ
スラウェシ島
2.A( 水力・原子力など ) B( 天然ガス ) C( 石油 ) D( 石炭 )
3.a( 石炭 ) b( 石油 ) c( エネルギー ) d( オイルショック )
e( 天然ガス ) f( 化石 ) g( 水力・原子力など )
4.h( バイオ ) i( バイオエタノール ) j( バイオマス ) k( 太陽光 ) l( 風力 )
ニューカレドニア島
m( 地熱 )k、l、mは順不同
ライテンバーグ
おもなレアメタル資源
ニッケル
チタン
コバルト
プラチナ
マンガン
ジャンプアップ!
1.イ レアメタルのレア rareは「希な」「珍しい」の意
3.レアメタルの使われている身近な製品には、何があるかあげてみよう。
( )
2.
( アフリカ )大陸
4.
「資源ナショナリズム」の広がり
3.使用製品例( 携帯電話、パソコン、デジタルカメラ、液晶テレビ など)
下の文章の( )にあてはまる用語を下から選び、書き入れよう。
4.
新興国のめざましい経済成長であらゆる地下資源の需要が急増し、各国にとってエネルギー資源の確保は最重要課題の
a( OPEC ) b( 石油メジャー ) c( ロシア ) d( ベネズエラ ) e( 中国 )
一つである。資源国は自国資源を管理・開発する「資源ナショナリズム」の動きを強め、日本のような資源が乏しい国は
確保が難しくなりつつある。
早くには、1960年に中東産油国が( a ) を結成して、利益を独占していた( b )
つまり国際石油資本に対抗した。近年では、代表例は(c )である。2005年頃から石油や天然ガスの
国有化を推進し、外国が資源開発を行う場合、出資の過半数は(c)資本であることが義務づけられている。南米の
( d ) も外国資本が採掘する油田を政府系企業に移すことを義務づけた。レアメタル大国
(e )も、レアメタルに対し、輸出制限したり、付加価値をつけて高値で売りつけている。さらに(e)
は、アフリカを舞台に経済援助の見返りに原油輸入や油田開発の権利を得る政策を続けており、批判を浴びている。
石油メジャー 中国 OPEC ロシア ベネズエラ
地理パーフェクト
白地図作業
作物の栽培条件
3
参考資料:
『新詳地理B 初訂版』p.66-71、『新詳高等地図 初訂版』p.117、『新詳 資料地理の研究』p.55、60、92、
『図説地理資料 世界の諸地域 NOW 2010』p.149、『新詳地理資料 COMPLETE 2010』p.80
自然条件
Ⅰ 気温と作物の栽培限界
右の図は、アンデス高地における作物の高距限界を示している。①〜⑦にあてはま
る作物名を、
内から選んで記入しよう。
Ⅱ 作物の栽培限界と降水量
1.稲・小麦・とうもろこし・ぶどうの栽培限界の等値線を、凡例のとおり色分けし
て書いてみよう。また、耕地の栽培限界の等値線も書いてみよう。
じゃがいも 大 麦
コーヒー さとうきび
小 麦 カカオ
とうもろこし
2.アジアにおける集約的稲作農業と集約的畑作農業(おもに小麦)の地域を凡例のとおり色分けし、分布図を書いてみよう。さらにアジアの
年降水量500mmと1000mmの等値線も凡例のとおり色分けし、書いてみよう。また、これらの作物栽培地と降水量との関係を考えてみよう。
地理・地図資料 2010年度2学期号 付録
地理パーフェクト
白地図作業
3
び、中腹では小麦、高地ではじゃがい
もや大麦を栽培している。
作物の栽培条件 解説・解答
作物の生産が可能となる温度以上の
参考資料:
『新詳地理B 初訂版』p.66-71、
『新詳高等地図 初訂版』p.117、
『新詳 資料地理の研究』p.55、60、92、
『図説地理資料 世界の諸地域 NOW 2010』p.149、
『新詳地理資料 COMPLETE 2010』p.80
日平均の総和を積算温度という。アン
デス山脈山ろくの積算温度は、秋播き
の小麦で1960〜2250℃、標高が2400〜
3100mで栽培されている。とうもろこ
農作物の原産地(起源)と伝播ルート
しは2370〜3500℃で低地から3300mの高地ま
おもな作物の生育に必要な温度(積算温度)
で栽培可能である。標高が最も高所まで栽培
用水が必要である。年降水量の限界はあくま
可能なものは、大麦とじゃがいもでアンデス
でも指標で、不足分は灌漑用水等で補ってい
の高地では、2400〜3500m(原産地のチチカ
る。
カ湖周辺では4270m)まで栽培されている。
農作物のなかでも主食として人口支持力の
じゃがいもは耐寒性・耐病性に優れているが、
大きい稲と小麦は、最も品種改良が進んでお
水分率が高いため、長期保存しにくい。その
り、耐寒・耐乾性等を追求した作物になって
ためアンデス高地では寒暖の差を利用して乾
いる。また、水稲はアジア南部から中国南部
燥させる。これにより長期保存と運搬が可能
など豊富な労働力による集約的農産物である。
実際に系統分野の農業を扱うにあたって、
自然条件
になる。大麦は西アジアが原産であるが、寒
一方小麦の栽培はアメリカ合衆国やオースト
農作物の原産地(起源)と伝播に触れておく
作物の栽培には、自然条件と社会条件がと
冷に強く品種改良されたため、現在ロシアや
ラリアでは機械化が進んでいるため、播種は
のもよいだろう。食は生徒にとっても身近に
もに影響する。自然条件に関連して、寒冷限
カナダの冷涼な亜寒帯気候地域でおもに栽培
ヘリコプターで行うなど労働力が少なくすみ、
感じられるテーマであるので、導入として使
界、高距限界、乾燥限界がある。ここでは、
され、飼料用が多い。
収量が多く、労働生産性が高い作物である。
うのが効果的である。ただし、農作物の原産
自然条件のうち気候(とくに気温と降水量)
Ⅱ 作物の栽培限界と降水量
さらに水稲の栽培地は年降水量1000mm以上
地や伝播については諸説あるのでその旨を補
の条件と栽培限界について解説したい。
1.とうもろこしの起源は、中南米といわれ
の地域であるが、小麦は1000mm以下で栽培
足したうえで、取り扱いには注意したい。
Ⅰ 気温と作物の栽培限界
る。今ではアメリカ合衆国が主要生産国であ
されている。そのため日本では水稲と小麦の
農作物の起源と伝播については、中尾佐助
がその著『栽培植物と農耕の起源』で論じた。
この論考では、世界の農耕文化を四つに分け、
主食である いも類・麦類等が世界中に伝播す
る様に注目してほしい。稲の原産地について
は諸説あるが、現在、長江下流域説が有力で
ある。さらに、発生地の気候とは異なる場所
で栽培され、現在では世界の各地で栽培され
水平・寒冷限界
垂直・高距限界
る。栽培地は温暖で適度な降水量と生育期の
両者が栽培されている。しかし、ヨーロッパ・
ライ麦・えん(燕)麦
が寒冷地の栽培に適し
牧畜では標高約4000m
のアンデスの高地では
日射量も必要とされている。ぶどうの原産地
東南アジア・中国・新大陸の大規模栽培地で
ている。その栽培限界
は 年 平 均 気 温 が10 ℃
(ロンドン)以上あるこ
とが必要。
リャマ・アルパカ、ヒ
マラヤ山脈ではヤクを
飼育している。農耕で
はアンデス山脈で標高
4000mまで栽培できる
作物はじゃがいもと大
麦である。
は、ロシアのカフカス地方から地中海東部沿
は完全に分かれている。
岸地方とされる。降水量が多いと病気が蔓延
したり、過剰な水分を吸収して実が破裂して
しまったりする。そのため降水量が少ない水
はけのよい土地が適している。
■解答■
〈省略〉
2.稲と小麦を栽培する地域では、年降水量
Ⅰ 気温と作物の栽培限界
ている小麦は、品種改良により栽培条件の厳
アンデス山脈の山ろくでは高度により気候
に大きな違いがある。降水量が少ない地域で
『新詳 資料地理の研究』p.92 参照
しい場所でも栽培可能になった典型的な作物
が異なるため、先住民たちはインカ帝国時代
は、天水や地下水、雪どけ水等をため池、灌
Ⅱ 作物の栽培限界と降水量
である(冷帯気候におけるロシアのヤロビ農
からそれぞれの高度に適した作物を栽培して
漑用水、地下水路等にため、田畑の灌漑につ
1. 同 p.55 参照
法)
。
きた。低地では熱帯作物のバナナ・さとうき
かわれる。水稲は小麦に比べ2倍以上の灌漑
2. 同 p.60 参照
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