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短パルス紫外レーザー光による 微細孔あけ加工

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短パルス紫外レーザー光による 微細孔あけ加工
 短パルス紫外レーザー光による微細孔あけ加工 B4 ■
ものづくり
B4
短パルス紫外レーザー光による
微細孔あけ加工
長岡工業高等専門学校
電気電子システム工学科
教 授 中村 奨
技術の概要
レーザー光によってあけられる貫通孔は、レーザー光入射面側の直径が大きくて
出射面側の直径が小さくなるテーパー状となります。これに対して当研究室で開
発した技術を使用すると、ストレートの貫通孔や逆テーパーの貫通孔をあけるこ
とが可能となります。
キーワード
短パルス、紫外レーザー光、微細孔あけ加工、逆テーパー孔
従来技術・
競合技術との比較
従来技術による微細径の孔あけ加工において最も重要でかつ難しい課題は、ドリ
ルの折損問題です。しかしながらレーザーによる孔あけは、非接触加工ですので
この問題を回避することができます。さらには材料に機械的な圧力が加わらない
ので、圧力による大きな変形・損傷やひずみが発生しないという利点も有します。
技術の特徴
・微細な孔あけが可能
・貫通孔の形状制御が可能
・透明樹脂への孔あけが可能
想定される用途・
利用分野
・小型電子機器筐体への孔あけ
・プリント基板への孔あけ
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■ B4 短パルス紫外レーザー光による微細孔あけ加工
Memo
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短パルス紫外レーザー光による微細孔あけ加工 B4 ■
B4
短パルス紫外レーザー光による微細孔あけ加工
長岡工業高等専門学校 電気電子システム工学科
教 授 中村 奨
e-mail:[email protected]
♳ はじめに
携帯電話を代表とする携帯情報端末やデジタル機器において、機能や価格に加え、デザイ
ンもその商品の競争力を決める重要な要素の一つとなります。現在のデジタル機器のデザイ
ントレンドの一つとしてフラット化が挙げられます。これは従来のスピーカーや受話口と
いった開口部が目立つデザインを改め、開口部が目立たないフラットなデザインを目指すも
のです。微細な孔を多数設ければ、開口率を確保しつつデザインの自由度を大きくすること
ができます。
小型電子機器の筐体にはプラスチックが多く使われています。これまでプラスチックの孔
あけには CO2 レーザーが用いられてきましたが、波長 10.6μm の赤外線レーザーでは直径
50μm 以下の孔あけは難しく、また熱影響による材料表面の変形や破壊を無視できません。
産業用として普及している Nd:YAG レーザーは発振波長 1.064μm の赤外線レーザーですが、
非線形光学結晶を通すことによって紫外光に変換することが可能です。紫外光は材料に及ぼ
す熱影響が小さく、高精度の加工が期待できます。本発表では紫外域のレーザー光によるプ
ラスチックシートへの微細孔あけについて言及します。
♴ 実験方法
本研究では Continuum 社製のナノ秒パルス YAG レーザー、Surelite を使用しました。こ
のレーザーは非線形光学結晶を使用することによって、基本波(1.064μm)の他に、第2高
調波(532 nm)、第3高調波(355 nm)、第4高調波(266
nm)を発振させることが可能です。パルス幅は 4-6 ns で
レーザー
発振周波数は最大 10 Hz です。
実験装置の概略を図1に示します。レーザー光は、ビー
ムエキスパンダ、ピンホールを経てエネルギー密度分布を
平滑化した後、集光レンズへと導き、試料表面に集光させ
ます。
図1 実験装置
♵ 結果と考察
図2は第4高調波、266 nm 光を使用して、厚さ 120μm の PET シートに貫通孔をあけた
結果です。一般にレーザー光によってあけられる孔は、レーザー光入射面側の直径が大きく
て出射面側の直径が小さくなるテーパー状となるのが普通です。またレーザーが貫通した後
は、ショット数を増加させても孔径が大きく変化することはありません。
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■ B4 短パルス紫外レーザー光による微細孔あけ加工
入射面
出射面
平均径 18.7μm
平均径 8.0μm
平均径 20.2μm
平均径 8.7μm
3
0
0
シ
ョ
ッ
ト
1
8
0
0
シ
ョ
ッ
ト
図2 PET シートへの貫通孔の形成
レーザー光による一般的な孔あけ加工では、図2に示したようにテーパー状の貫通孔とな
ります。そこで当研究室では、図3に示すような裏当て加工と称する加工方法を開発いたし
ました。この方法は被加工材の出射面に裏当て材と称する材料を配置するものです。この時、
被加工材を貫通したレーザー光は出射面に配置した裏当て材に当たり、ここで発生したプラ
ズマや衝撃波が被加工材に作用し、出射孔径が拡がります。
(a) 従来技術
(b) 新技術(裏当て加工)
図3 貫通孔の形成方法
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短パルス紫外レーザー光による微細孔あけ加工 B4 ■
裏当て材としてゼラチン、寒天などのゲル状物質を使用して、PET シートに貫通孔を形
成した結果を図4に示します。これらの結果は、厚さ 120μm の PET シートに 266 nm 光を
1 孔につき 300 ショット照射した結果です。ゲル状物質は柔軟性に富むため PET シートの
出射面と密着させることが可能です。どちらのゲル状物質を裏当てした場合でも、出射孔径
は裏当てなしのときよりも大きくなっており、熱による損傷も認められません。これは水分
を保有するゲルの効果が表れているものと思われます。しかしながら出射孔径が不揃いとな
ることが気になります。したがって、均一な品質が要求されるレーザー加工にゲル状物質の
裏当て材を適用するには、まだ解決すべき問題点があると言えます。その後、研究を進める
ことにより、出射孔径を均一に保てる材料を見出しました。
入射面
出射面
平均径 18.9μm
平均径 13.7μm
平均径 17.7μm
平均径 14.8μm
ゼ
ラ
チ
ン
寒
天
図4 裏当て加工による PET シートへの貫通孔の形成
図5は厚さ 195μm の加飾ミラーシートに 266 nm 光を用いて貫通孔をあけた結果です。
裏当て加工により、レーザー入射面側の孔径より出射面側の孔径が大きな逆テーパーの貫通
孔をあけることができました。
図6は、レーザーの照射回数と孔形状の関係についてグラフ化したものです。使用した試
料は加飾ミラーシートです。グラフの縦軸は、出射孔径を入射孔径で除した比率で示したも
のです。この比率が 1 の場合は出射孔径と入射孔径が等しいストレートの貫通孔が、1より
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■ B4 短パルス紫外レーザー光による微細孔あけ加工
小さい場合は出射面に向かってすぼまっていくテーパー状の貫通孔が、そして1より大きい
場合には出射面に向かって広がっていく逆テーパー状の貫通孔が形成されていることを示
します。この図より、当研究室で開発した技術を使用することによって、テーパー状あるい
はストレート状のみならず、逆テーパー状の貫通孔をも形成可能なことがわかります。
入射面
出射面
平均径 18.3μm
平均径 30.1μm
図5 裏当て加工による加飾ミラーシートへの貫通孔の形成
図6 レーザー照射回数と孔形状の関係
4 まとめ
一般的にレーザーによってあけられる貫通孔は、進行方向に対して狭くなっていくテー
パー状になります。これに対して、当研究室で開発した加工方法を使用することによって、
ストレートや逆テーパーの貫通孔を形成することが可能となります。
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