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日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 22 No. 2 2005 (121
127)
原著論文
ヘルムホルツ共鳴を利用した液量計測
―スピーカインピーダンス法について―
西津
貴久1・鳥潟
康雄2・山下
智輝2
坂本
忠昭3・二谷
有香3・中納
暁洋4
Determining Liquid Volume by Using Helmholtz Resonance
―Measurement Method Based on Electrical Impedance of Loudspeaker―
Takahisa NISHIZU1, Yasuo TORIKATA2, Tomoki YAMASHITA2,
Tadaaki SAKAMOTO3, Yuka FUTAYA3 and Akihiro NAKANO4
Abstract
Development of elemental technology for gauging liquid fuel in a tank under microgravity condition will be required
for developing fuel station in space and orbital transfer vehicle. A closed-type Helmholtz resonator had been already developed and worked well for this purpose. However, a microphone used for detecting acoustic response cannot work
when it is masked by sloshing liquid, and might be damaged by its frequent contact with liquid. In order to resolve such a
problem, a new measurement apparatus was developed without a microphone. The acoustic response was detected by
measuring electrical impedance of loudspeaker's voicecoil. The performance of predicting liquid volume by using the
electrical impedance method was comparable with the result of the microphone method. Some results of the ground test
and the microgravity test with aircraft are summarized in the present report.
.
した地上用のレベル計を用いることはできない.既に中納
はじめに
により宇宙空間での液体燃料残量計測にヘルムホルツ共鳴
軌道間宇宙輸送機 OTV (Orbital Transfer Vehicle) ネッ
現象を利用した計測方法が提案されている1,4) .これは,
トワーク構想1,2)では,OTV による軌道間輸送と,地上-
ヘルムホルツ共鳴器内部に入れた物体体積によりヘルムホ
低高度軌道 LEO (Low Earth Orbit) 間の輸送を切り離すこ
ルツ共鳴周波数が変化する現象を応用したもので,物体の
とで,輸送コストの低減と,様々なミッションに対応でき
形状・性状を問わず,その体積計測が可能であるという特
る柔軟性の確保を目指している1).
徴を有する.通常,ヘルムホルツ共鳴器のネックチューブ
この構想では,OTV へ燃料を供給するために,軌道上
は系外に対して開放されているために,高真空の宇宙空間
に燃料補給基地が設置されることになっており,そこでは
では使用することはできない.中納は,ネックチューブの
大量の極低温液体推進剤が取り扱われることが想定されて
開放端を閉鎖する容器を接続した閉鎖系共鳴器と共鳴式を
いる1,3) .こうしたシステムの円滑な運用のためには,タ
提案し,従来の開放系共鳴器と同程度の精度で液体体積の
ンク内の燃料残量を正確に把握する技術が必要不可欠とな
計測が可能であったとの報告を行っている1).
ってくる.しかし,微小重力環境の軌道上では,タンク内
一方で,液体窒素量の計測に本手法を用いた場合,ス
で液体浮遊や気液混合が起こり,重力があることを前提と
ピーカ駆動時の発熱のために,容器内の気相部分に温度勾
1
2
3
4
京都大学大学院農学研究科 〒6068502 京都市左京区北白川追分町
Graduate School of Agriculture, Kyoto University, Kitashirakawa Oiwake-Cho, Sakyo-Ku, Kyoto 6068502, Japan
(E-mail: nishizu@kais.kyoto-u.ac.jp)
株 前川製作所技術研究所 〒302

0118 守谷市立沢2000番地
Mayekawa MFG. Co., Ltd., Tatsuzawa 2000, Moriya-shi, Ibaraki, 3020118, Japan
筑波大学大学院システム情報工学研究科 〒3058573 つくば市天王台 1
11
Graduate School of Systems and Information Engineering, University of Tsukuba, Tenoudai 111, Tsukuba science city, Ibaraki
3050006, Japan
独 産業技術総合研究所エネルギー技術研究部門 〒305

8564 つくば市並木 121 つくば東事業所
Energy Technology Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tsukuba East, Namiki 121,
Tsukuba-shi, Ibaraki 3058564, Japan
― 121 ―
47
西津 貴久,他
配が生じ,これが気相部の音速をばらつかせ,最終的に液
量の推定精度を低下させるという問題が認められたとも報
告している4).中納が指摘するように,音速の影響が無視
できない以上,音速を変動させないために,計測時間をな
るべく短くして,スピーカの発熱を抑制する方策が必要と
なる1).また,微小重力下の気液界面の形状変化により,
界面面積が変動すると,界面における吸音量が変動し,そ
の結果,共鳴周波数にばらつきをもたらすことも考えられ
る.そのために,微小重力下で液体を安定的に保持する必
要も生ずる.さらに,応答信号の検出にマイクロフォンを
使用しているが,燃料容器内に露出しなければならないた
めに,揺動する液体が付着して損壊する恐れがある.
そこで,これらの問題を解決するために,共鳴器構造を
見直すとともに,新たな計測方法を開発した.本論文で
は,その有効性を検討するために行った地上及び微小重力
Fig. 1
下での計測結果について報告する.
Schematic of a closed-type resonator equipped with a
partition plate.
おもな記号
Mspスピーカコーン(振動板)の等価機械質量
1 は薄板で仕切られる.この仕切り板は可撓性を有するた
Rspスピーカコーン(振動板)の等価機械抵抗
め,スピーカの駆動に伴うスピーカ―仕切り板間の密閉空
Sspスピーカコーン(振動板)の等価機械スティフネス
間内の圧力変動により振動する.この振動は,共鳴器内部
R bkスピーカ背後空洞部の等価機械抵抗
へ圧力の摂動を与えることになり,スピーカコーンの振動
Sbkスピーカ背後空洞部の等価機械スティフネス
が間接的に伝達されることになる.この構造では,スピー
Rmdスピーカコーン(振動板)仕切り板間の空洞部の等
カコイル付近より発生する熱で温められた気体が容器 1 及
び 2 の空洞内に拡散することがないため,スピーカ駆動由
価機械抵抗
Smdスピーカコーン(振動板)仕切り板間の空洞部の等
価機械スティフネス
来の温度勾配の発生を抑制することが期待できる.また,
スピーカ本体が液体燃料蒸気に晒されることがないため,
M wl仕切り板の等価機械質量
スピーカの耐久性の向上もあわせて期待できる.
Rwl仕切り板の等価機械抵抗
.
Swl仕切り板の等価機械スティフネス
R c1容器 1 の空洞部の等価機械抵抗
コイルインピーダンス計測と等価モデル
入力音波に対する応答音波を検出するために,通常マイ
Sc1容器 1 の空洞部の等価機械スティフネス
クロフォンが用いられる.閉鎖系容器の場合,容器外にマ
R c2容器 2 の空洞部の等価機械抵抗
イクロフォンを設置できないため,燃料容器内部に露出さ
Sc2容器 2 の空洞部の等価機械スティフネス
せる必要がある.液体燃料の接触によるマイクロフォンの
M poネックチューブ内気柱の等価機械質量
損壊が懸念されるため,何らかの保護措置が必要となる
R poネックチューブ内気柱の等価機械抵抗
が,密封しない限り接触を完全に断つことはできない.そ
g空気の比熱比
こで,マイクロフォンを別途設置せず,入力側のスピーカ
r空気密度
のボイスコイルインピーダンス変化を検出することで,共
P0空気圧力
鳴周波数を同定することとした.
c空気中の音速
スピーカコーンの振動は機械系振動であり,この振動が
V 1閉鎖系共鳴器の容器 1 の空洞部容積
音響系振動に変換され音となる.仕切り板付きの共鳴器の
V 2閉鎖系共鳴器の容器 2 の空洞部容積
場合,共鳴時の共鳴器内部での音圧が,仕切り板と密閉空
A閉鎖系共鳴器のネックチューブ断面積
間を介してスピーカコーンの機械系振動に影響を及ぼす.
L閉鎖系共鳴器のネックチューブ長
スピーカコーンの振動はボイスコイルの電気系振動に影響
.
閉鎖系容器を用いたヘルムホルツ共鳴法につ
いて
を与える.
ボイスコイルの電気インピーダンスは,コイルの静的な
特性としてのインピーダンスと,コイルの動きに対応する
共鳴器の基本構造は,Fig. 1 に示すように中納の提案し
動的な特性としてのインピーダンスが合成されたものであ
た閉鎖系共鳴器とほぼ同じである.スピーカコーンと容器
る5).電気インピーダンスはボイスコイルの速度を反映す
48
J. Jpn. Soc. Microgravity Appl. Vol. 22 No. 2 2005
― 122 ―
ヘルムホルツ共鳴を利用した液量計測―スピーカインピーダンス法について―
Fig. 2
Equivalent circuit of loudspeaker's vibration and acoustic system of a closed-type resonator shown in Fig. 1.
る.共鳴時には,このコイルの振動速度が極値をとるた
を機械系の等価要素に置き換え,さらに仕切り板やスピー
め,インピーダンス曲線から共鳴周波数が推定できると考
カコーンの機械系振動を合わせて考慮した電気的類推回路
えられる.
を Fig. 2 に示す.
共鳴時の波長が共鳴器サイズよりも大きく,集中定数系
Fig. 2 の等価回路の駆動力を一定とした時,振動板であ
で近似できるとした場合,ヘルムホルツ共鳴器のネックチ
るスピーカコーンから負荷をみた時の等価機械インピーダ
ューブ内の気体と容器内部の空洞は,それぞれ音響系の慣
ンス は次式であらわされる.
性素子と弾性素子として機能する6).この二つの音響要素

Sc1 Sc2 
Mpov- -
v v
(
)(
)
S
S
( R +R +R ) + M v- -
(
v
v)



S S
S
S 
-
( R +R +R )-R ( R +R ) M v- -
S
M
(
( v v) j
v )
S
+ M v - - - + M v-
+
( Sv Sv Sv
)
v
S
S
( R +R +R ) + M v- -
(
v
v)



_Zm= ( R sp+Rbk+R md+Rwl)+
Sc1Sc2
Rc1( R po+R c2)( R c1+R po+R c2)+ Sc1M po- 2
v
po

c1
c1
sp
bk
md
sp
c2
c1
2
c1 c2
2
po

2
c1
po
c1
c2
c1
po
c2
po
wl
wl
po
c1
駆動力 _F ,振動板速度 V_ の実効値をそれぞれ F, V とす
v=
ると次式が成立する.
F
| _Zm|
c2
c1
2
c2
2
po
c2

( 1)
った場合,
(1)式,(2)式より,
但し v は角周波数.
V=
c2
po
(2 )
Sc1+Sc2
M po
で,振動板速度は極大となる.ヘルムホルツ共鳴系を,ネ
ックチューブ中の気柱質量と容器内空洞の空気バネからな
音響系における気相部の抵抗 R bk, Rmd, R po, R c1, R c2 が無視
る 1 自由度振動系と仮定したとき, Sc1, Sc2, M po はそれぞ
できるほど小さく,かつ,
れ
Sc1+Sc2
≪
M po
(Ssp+Sbk+Swl)+Smd
M sp+M wl
Sc1=gP0
A2
,
V1
Sc2=gP0
A2
, M po=rAL
V2
が成立するとき,即ちスピーカコーンと仕切り板の間の空
と表すことができ,これを v の式に代入し,気体の音速
間を容器 1 , 2 に比して十分に小さくして Smd を大きく取
式
J. Jpn. Soc. Microgravity Appl. Vol. 22 No. 2 2005
― 123 ―
49
西津 貴久,他
加するためである.Fig. 3 より,ヘルムホルツ共鳴周波数
と同じく, Sc2 の増加とともに極大点周波数も増加してい
ることが確認できる.ボイスコイルの速度が大きくなる
と,その電気インピーダンスも増加する.従って,電気イ
ンピーダンスの周波数応答を計測することによって,その
極大点周波数から共鳴周波数が推定できると考えられる.
実際の計測においては,白色雑音や掃引信号に対する応
答信号からスペクトルを推定し,共鳴周波数を同定する.
その 場合,ス ペクトル推 定のために高 速フーリエ 変換
(FFT )が用いられることが多い.演算が高速なため,計
Frequency characteristic of vibrating diaphragm speed.
The diaphragm speed is normalized by maximal value.
VL/V2 is the ratio of liquid volume to container2
volume.
Mpo [kg]=2.65×10- 5.
Sc1 [N/m]=29.8.
Sc2 [N/m]=12.8, 14.2, 15.9 when VL/V2=0, 0.1, 0.2,
respectively.
Smd [N/m]=1.86×105 (The volume of clearance space
between loudspeaker and partition plate is one-tenth of
container2 volume. The diameter of partition plate is
100 mm.
Msp, M wl [kg]=2.65×10-3.
Ssp, Swl [N/m]=1.28×10-2.
Rbk, Rmd, Rc1, Rc2, Rpo [Ns/m ]=1×10- 6.
Rsp, Rwl [Ns/m]=0.1.
g [-]=1.403.
r [kg/m3]=1.205.
P0 [Pa]=1.013×105.
V1 [cm3]=471.2.
V2 [cm3]=1099.5.
Fig. 3
測系に組み込んでも実時間処理が十分可能である.しかし
FFT を用いた場合,データ長が小さくなると周波数分解
能が低下するため,発熱抑制を目的とした信号印加時間の
短縮は,周波数から計算される体積の推定精度の低下につ
ながる.
そこで本研究では, FFT に替えて,短いデータからで
も分解能の高いスペクトル推定ができる最大エントロピ法
( MEM )7)を用いることとした.通常,スピーカは定電圧
で駆動されるため,電気インピーダンス計測はコイル電流
の測定により行う.この場合,電気インピーダンスの逆数
に比例した出力になるため,電気インピーダンス曲線で極
大値 をとる周 波数では, 逆に極小値に なる.しか し,
MEM は極小点の推定に適用することが困難なため,ここ
ではスピーカを定電流で駆動し,そのボイスコイル間電圧
を計測することで,電気インピーダンスの変化に比例した
出力を取り出すこととした.
.
本実験では,本計測法の有効性を検討することを目的と
gP 0
r
c=
し,極低温流体である液体燃料の替わりに,室温下でも液
量把握が容易な水を実験試料として用いることにした.
を用いて整理すると,極大点周波数 f0 は次のようになる.
c
2p
f0=
実験方法及び手順
A
L
(V1 +V1 )
1
Fig. 4 に実験装置の概略を示す.実験装置は,仕切り板
付き閉鎖系共鳴器,定電流駆動アンプ内蔵のコイル電圧計
(3 )
2
測装置,デジタルビデオカメラ,計測制御用 PC から構成
される.
( 3 )式は中納が導出した閉鎖系容器のヘルムホルツ共鳴
閉鎖系共鳴器は,揺動する水を外部から直接観察できる
式1)と一致する.等価回路素子の各パラメータについて,
ようアクリル製とした.容器 1 の上部にダイナミック型ス
Fig. 1 の共鳴器の寸法と空気の物性値から推定可能なもの
ピーカを設置し,その前部に 1 mm 厚のアクリル製仕切り
はそれを用い,それ以外は適当な値を与え,(1 ), (2)式か
板を貼り付けた.水の充填はネックチューブ中央部のジョ
ら容器 2 の容量に対して液体を 0, 10, 20 入れたときの
イント部を取り外して行った.
振 動 板 速 度 の 周 波 数 特 性 を 計 算 し た も の を Fig. 3 に 示
従来法での計測も同時に行うことができるように,容器
す.やや右上がりのベースライン上に一つの共振点が認め
2 部に小型コンデンサマイクロフォンを取り付けてある.
られる.別途( 3 )式より算出した共鳴周波数は, 201.62,
微小重力下での計測の場合,浮遊する水がネック部分を
204.95, 209.04 Hz となり,Fig. 3 中の共振周波数と一致す
一部又は完全に塞いでしまい,共鳴が起こらない可能性が
る.
ある.そこで,ネック部分に水が来ないよう,ネック周囲
ヘルムホルツ共鳴周波数は,その空洞部分に物体がある
に邪魔板を付けるとともに,マグネティックスターラーを
と共鳴周波数が増加する.これは物体体積を除く空洞部の
用いて旋回流を作ることにより,水が容器壁面に張り付く
空気の音響容量が減少するため,換言すれば空洞部の等価
ような工夫をした.
機械スティフネス Sc2 (容器 2 に物体を入れた場合)が増
50
J. Jpn. Soc. Microgravity Appl. Vol. 22 No. 2 2005
― 124 ―
計測用 PC については微小重力下での計測を行うため
ヘルムホルツ共鳴を利用した液量計測―スピーカインピーダンス法について―
Fig. 4
Schematic of experimental setups for measuring water
volume in microgravity.
Fig. 5
Frequency characteristics of electrical impedance of voicecoil and acoustic response detected with a microphone.
Fig. 6
Results of water volume prediction by using electrical
impedance method on the ground.
O: calculated by Eqn. (5). V1 [cm3]=471.2, V2 [cm3]
=1099.5. +: corrected by least squares approximation
polynomial, 1.423+0.7949×V+2.190×10- 4×V 2.
に,ハードディスク装置など回転型部品をすべて非回転型
の装置で代替したものを製作した.
微小重力下での計測は,ダイヤモンドエアサービス社の
小型ジェット機 MU300内で行った.1 回のパラボリック
フライトで約20秒間,微小重力状態となる.水平飛行中に
共鳴器内に水を入れて,微小重力状態に入る直前までス
ターラーで旋回流を作っておく.そして微小重力に入ると
同時にスターラーを停止し,共鳴周波数測定を行った.水
の量は100 cm3 刻みで1000 cm3 まで計測した.
ス ピ ー カ へ は , 周 波 数 範 囲 が 121.3 Hz か ら 371.3 Hz
で , 信 号 時 間 が 743 ms あ る い は 185.8 ms の リ ニ ア ス ウ
ィープ信号を連続的に入力した.同時に,スピーカのボイ
スコイル電圧信号を応答信号として捉えた.信号の入出力
は PC のサウンド機能を利用し,自作プログラムで入力信
号の生成・発信,応答信号の記録を行った.MEM による
周波数解析では,区間ごとにスペクトルを計算し,ピーク
周波数の決定を行った.よって,信号時間が体積測定のサ
ンプリング時間に相当することになる.計測と同時に共鳴
周波数を同定することも可能であるが,今回は,微小重力
実験中は応答信号の記録のみ行い,共鳴周波数の決定はフ
ライト後地上で行うこととした.
体積 V L の水が容器 2 に入ると(3)式は次のようになる.
c
f=
2p
A
L
(
1
1
+
V 1 V 2- V L
)
.
(4 )
実験結果と考察
周波数範囲 50 Hz から 300 Hz ,信号時間 6 s のリニアス
ウィープ信号を入力したときの,マイクロフォンで検出し
(3)式と(4)式から,正確な測定が困難な音速や,開口端補
た応答波形から得たスペクトルと,電気インピーダンス式
正量を含むネックチューブ長などのパラメータをキャンセ
で計測したときのスペクトルを Fig. 5 に示す.ピーク周
波数はそれぞれ, 176.3 Hz , 175.8 Hz であり,予測どお
ルすると,次式を得る.
V L=
( f 2-f 20)・(V1+V2)・V2
V1f 20+( f 2-f 20)・(V1+V2)
り両者はほぼ一致することが確認できた.
(5 )
地上で周波数範囲 50 Hz から 500 Hz ,信号時間 5 s のリ
ニア スウィー プ信号を入 力したときの 体積推定結 果を
(5 )式より,空容器の共鳴周波数 f0 を計測しておけば,水
Fig. 6 に示す.( 5 )式を用いて推定した結果は真値とおお
が入っている時の周波数 f から体積を求めることができ
むね一致するものの,500 cm3 近傍を中心にやや高めに推
る1,8).
定される傾向にあった.これには容器 1 ・ 2 空洞部のイ
ナータンスの影響などが考えられるが,今のところ原因を
J. Jpn. Soc. Microgravity Appl. Vol. 22 No. 2 2005
― 125 ―
51
西津 貴久,他
Fig. 7
Fig. 8
Results of water volume prediction by using electrical
impedance method in microgravity.
Fig. 9
In‰uences of water sloshing on Helmholtz resonant frequency.
In‰uences of noise disturbance on measured waveforms
of 200 Hz.
Table 1
In‰uences of noise disturbance on predicted values
Electrical
Microphone method impedance
method
Number of samples
Stirring
OFF
Stirring
ON
Stirring
OFF
Stirring
ON
100
100
100
100
0.254
0.0238
0.0256
Coe‹cient of variance 0.00173
[]
特定するに至っていない.そこで,体積推定時の誤差量を
減少させるために,Fig. 6 の実験値について最小二乗法に
よる 2 次多項式への回帰計算を行い,以降この回帰式を補
正式として用いることとした.この補正により容器容量約
1000
cm3
に対して予測標準誤差が 2
cm3
程度となった
(Fig. 6).
無騒音下ではマイクロフォン法の方が,インピーダンス
式よりも変動係数が小さく,安定していると言える.しか
し騒音下では,マイクロフォン法の場合,変動係数が無騒
電気インピーダンス法には,マイクロフォンによる従来
音時の100 倍以上になっているのに対して,インピーダン
法に比して,耐ノイズ性が向上するという副次的な効果9)
ス式では,無騒音時とほとんど変わらず,本方式が耐騒音
もみられた.共鳴器が空の状態でスターラーを運転する
性に優れていると言うことができる.宇宙空間において
と,撹拌子が底面に当たって騒音が発生する.この状態で
も,燃料タンクや構造物の部材を伝わる振動があるため
200 Hz の純音を印加した時の,マイクロフォン法とイン
に,騒音の影響が少ない方がよく,この観点からも本方式
ピーダンス法による応答波形を Fig. 7 に示す.
に優位性があるものと考える.
マイクロフォン波形には騒音が重畳している様子がみて
インピーダンス法で行った微小重力下での水体積推定結
とれるが,インピーダンス波形にはほとんど騒音の影響が
果を Fig. 8 に示す.計測全範囲を通して,おおむね真値
見られない.この騒音が共鳴周波数に近い帯域成分を持っ
と一致する結果を得た.しかし,予測標準誤差が 20 cm3
ていれば,周波数の同定精度に影響があるものと考えられ
程度となり,地上実験の場合と比較して推定精度は低くな
る.そこで騒音が両方法に与える影響の違いを見るため
った.これは,微小重力下では気液界面の面積が地上実験
に, 121.4 Hz 231.4 Hz , 1.366 秒のリニアスウィープの入
時とは異なるために,界面における音響エネルギーの吸収
力信号を用いて,騒音下,無騒音下でそれぞれ100 回の繰
量の違いが,共鳴周波数のシフトをもたらしたことが原因
り返し計測を行った結果を Table 1 に示す.
として考えられる.特に液量が少ない場合に誤差が大きい
52
J. Jpn. Soc. Microgravity Appl. Vol. 22 No. 2 2005
― 126 ―
ヘルムホルツ共鳴を利用した液量計測―スピーカインピーダンス法について―
できた.これは従来計測に要していた 5 秒程度の信号時間
と比較して大幅な短縮であり,コイル発熱による温度擾乱
を抑制することが期待される.微小重力下での計測におい
ても,真値とおおむね一致する結果を得た.
また,従来法と比較して,信号音以外の振動や音の影響
を受けにくいという副次的な効果もあることが明らかとな
った.これは振動などの騒音に対しても強いということで
あり,実用化に際して有用な特徴であると言える.
今後は,容器のスケールアップした場合の技術的な課題
の検討を行い,実際の燃料タンクへの適用を視野に入れた
技術開発が必要となろう.
Fig. 10
Relation between water volume and variations of
predicted value.
謝辞
財 日本宇宙フォーラム
本研究は,
平成14年度宇宙環境
のは,いわゆる比表面積が液量の大きい場合よりも大きく
利用に関する公募地上研究の採択課題「軌道上において有
なるためと考えられる.
効な液体体積計測システムの開発」での研究結果をまとめ
Fig. 9 に微小重力下での液面変動の様子と本法による共
たものである.また,計測回路の試作にあたっては,摂津
鳴周波数の推定結果を示す.若干の変動は認められるが,
電研の鶴見親宏氏にご協力をいただいた.ここに記して謝
各液量でほぼ一定の値をとることが確認できる.この周波
意を表す.
数データから推定した体積値について,その平均値まわり
参考文献
にどれくらいの変動があるかを検討するために,推定体積
の変動係数をまとめたものを Fig. 10 に示す.地上で静置
した場合と比較すると,どの液量においても変動係数が大
きくなっており,液面変動の影響を受けていると考えられ
る.しかし変動係数は0.6 以下であり,実用的にはそれ
ほど大きな問題はないと考えられる.
液量が増すほど変動係数も小さくなっているが,これは
ヘルムホルツ共鳴を利用した体積計測法の特徴を示してい
る.このことは液量が少なくなるほど,液量の変動による
周波数変動が大きくなり,その結果,推定体積精度が落ち
てしまうため,この問題に対する対策が必要となることを
示唆している.
.
ま
と
め
提案した仕切り板付き閉鎖系共鳴器を用いた電気イン
ピーダンス計測法で,マイクロフォンを用いた従来法同様
1) 中納暁洋低温工学,37 (2002) 559.
2) 中須賀真一日本航空宇宙学会誌,49 (2001) 569.
3) 河南 治日本マイクログラビティ応用学会誌,18 ( 2001)
258.
4) A. Nakano and M. Murakami: Cryogenics, 41 (2002) 817.
5 ) 西山静男,池谷和夫,山口善司,奥島基良音響振動工
学,第 6 章,118,コロナ社,東京,1979.
6 ) 太田光雄,内野英治,生田 顯,小泉卓也,小寺吉衛,和
田卓郎基礎情報音響工学,第 1 章,13,朝倉書店,東京,
1992.
7) 日野幹雄スペクトル解析,第12章,210,朝倉書店,東京,
1977.
8) A. Nakano, Y. Torikata, T. Yamashita and T. Nishizu:
Microgravity Science and Technology, to be published.
9 ) 西津貴久,鳥潟康雄,吉岡宣明,池田善郎農業機械学会
誌,印刷中.
10 ) 佐伯多門新版スピーカー & エンクロージャー百科,第 4
章,121,誠文堂新光社,東京,1999.
11) 川村雅恭電気音響工学概論,第 5 章,96,昭晃堂,東京,
1978.
に,液体体積の推定が可能であることが明らかとなった.
さらに MEM による周波数解析を用いることで,信号時
(年月日受理 
年月日採録)
間が 185 ms でも周波数同定が十分可能であることが確認
J. Jpn. Soc. Microgravity Appl. Vol. 22 No. 2 2005
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