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表4-10 インドネシアの品位別資源量、埋蔵量 図4
表4-10 インドネシアの品位別資源量、埋蔵量 Quality Class Low Resources Calorific Value (cal/gr) Total % Probable Proven Total % < 5,100 21,183.04 20.21% 6,704.02 1,105.40 7,809.42 41.59% 69,550.65 66.40% 5,647.43 2,904.41 8,551.84 45.53% 13,021.49 12.43% 825.76 1,410.44 2,236.20 11.91% 1,001.65 0.96% 73.29 109.18 182.47 0.97% High 5,100 ‐ 6,100 6,100 ‐ 7,100 Very High > 7,100 Medium Reserve Total 104,756.83 100.00% 13,250.50 5,529.43 18,779.93 100.00% 120,000 104,756 93,402 100,000 80,000 65,400 61,365 60,513 Resources 60,000 Reserves 40,000 20,960 18,712 20,000 7,006 6,760 9,480 0 2004 2005 図4-22 2006 2007 2008 石炭資源量、埋蔵量の年度変化 (2) 国内発電所用石炭の推定埋蔵量 表4-11 にインドネシアの主要石炭企業の保有する資源量、埋蔵量を示した。これらの 企業は石炭を大量に生産輸出しているが、同時に表4-3に示した PLN の石炭長期契約先 でもあり、国内の石炭火力発電所にも供給をしている。いずれの企業も資源量は 10 億 t 以上あり、可採埋蔵量も 1 社を除いて数億トン以上保有している。 一方、今後の石炭火力発電所で主に使用される低品位炭については、上記の大手企業も 保有しており、生産を開始している企業もある。2007 年ごろからの石油価格の高騰に伴い、 中国、インドなどで石炭需要が急増し、これまで市場性がなかった低品位炭の取引も行わ れるようになってきたことや、クラッシュプログラムをはじめとする新規石炭火力発電所 の計画、建設の進展により、低品位炭の需要が増加してきていることから、低品位炭鉱区 を保有する企業も生産に着手するようになってきた。表4-12 にはこれから生産を開始す る低品位炭の企業が保有する石炭埋蔵量を示した。いずれの企業も数億トン以上の埋蔵量 -86- を保有しており、この 8 社だけでも 158 億 t もの埋蔵量がある。これら 8 社以外にも低品 位炭鉱区を所有している企業も、今後、生産開始を検討するものと思われることから、国 内発電所用の石炭の埋蔵量は、電力計画等で想定されている石炭利用量に十分であるとい える。 表4-11 主要石炭企業の資源量及び埋蔵量 石炭企業 No 場所 資源量 埋蔵量 (10 億 t) (10 億 t) 1 PTBA South Sumatra 7.30 1.30 2 KPC East Kalimantan 3.47 0.62 3 Berau Coal East Kalimantan 2.75 0.19 4 Indominco East Kalimantan 1.25 0.04 5 Kideco East Kalimantan 1.05 0.66 6 Arutmin South Kalimantan 2.51 0.54 7 Adaro South Kalimantan 1.97 0.42 20.3 3.77 合計 表4-12 No 生産開始が予定されている低品位炭の企業の埋蔵量 Company Reserve ( Billion ton ) 1 Bhakti Energi Persada, PT 5,24 2 Pesona Khatulistuwa Nusantara, PT 0,17 3 Iltabhi Bara Utama, PT 3,33 4 Pendopo Energi Batubara, PT 1,95 5 Baramutiara Prima, PT 0,61 6 Adaro, PT ( Wara concession ) 2,31 7 Mantimin Coal Mining , PT 0,26 8 Delma Mining Corporation, PT 2,00 TOTAL 4-4 15,87 現行のインドネシアによる石炭利用技術に関する取り組み概要 インドネシアには石油、天然ガス、石炭資源が豊富に存在しており、これらの資源を生産し輸 出してきていたが、近年、石油、天然ガスの新規開発が停滞し、生産量もそれほど増加していな いため、2004 年から石油の輸入国に転じた。国内のエネルギー需要は経済成長とともに増大して いることから、インドネシア政府は 2025 年までに石油の比率を 2005 年の 54%から 20%以下とす -87- することができれば、石炭利用における石炭灰処理や脱硫等の環境対策問題、あるいは石炭資 源の有効活用に効果がある。 図4-24 に脱水・改質の概念を示した。一般的に石炭化度が低い石炭ほど多くの水分を含有 する。亜瀝青炭、褐炭等の低品位炭は水分が 25~70%と高いため、発熱量は 2,000~5,000kcal/kg と低い。水分 10%程度まで脱水すると、発熱量は 5,000~7,000kcal/kg 程度となり、一般炭とし て流通している瀝青炭とほぼ同程度となるが、単に脱水するだけでは上記の特徴から容易に再 吸水するため、表面を改質し再吸水を防ぐことが必要となる。また、脱水・乾燥だけでは自然 発火を引き起こすことになるため、山元での発電等の前処理技術としての適用となる。 低品位炭は加熱すると瀝青炭同等まで水分は減少するが容易に再吸水する。 全水分 (wt%) 褐炭 亜瀝青炭 50~70 25~45 発熱量(到着基準) (kcal/kg) 2,000~3,000 4,000~5,000 固有水分 発熱量(恒湿基準) (kcal/kg) (wt%) 15~20 10~15 6,000~6,500 6,500~7,000 脱水/加熱 瀝青炭 7~10 6,000~6,500 2~5 7,300~7,800 低品位炭は比表面積が大きく、親水性の表面官能基が多い。 再吸水させない為には表面改質が必要。 図4-24 低品位炭の脱水・改質の概要 低品位炭改質技術は、低品位炭の発熱量を改善し有効利用が図られるため、これまでさまざ まな技術の開発が行われてきた。インドネシアでは、現在、実用化段階にあるプロセスである オーストラリアのBCB法、日本のUBC法、米国のK-Fuel法、及びこれらに次ぐ日本のHWT法の 適用が検討されている。 (1) BCB(Binderless Coal Briquetting)プロセス BCBプロセスはオーストラリアのWhite Energy社により実用化が進められている。オー ストラリアのCSIRO (Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation)が0.2t/h プラントで基本プロセスを開発後、同社が西オーストラリアの亜瀝青炭を対象に10t/hプラ ントによる開発を進めた。 プロセスは図4-25に示すように、数ミリ以下に粉砕された石炭を400℃程度に加熱さ れた水蒸気の多いガス中で急速脱水し、ブリケット成型するもので、機器構成が簡単であ る。フラッシュチューブ内のガスは、大半が石炭から蒸発した水蒸気のため酸素濃度が少 なく、石炭の酸化はほとんど起こらない。脱水後にサイクロンで回収された石炭内部には 水蒸気が満たされた状態になっており、ブリケット成型で圧縮する際に粒子内部、粒子間 の水蒸気が凝縮してガス圧が下がるため、圧縮力が効果的に粒子に伝わり粒子内の空隙が -89- 潰れて急激に密着して成型される。このため成型時のバインダーが不要であり、成型速度 を増大して生産することができるとされている。またダブルロール型の成型機の各ロール の速度に差をつけることにより、ロール間で圧縮力と剪断力を与えてブリケットを緻密化 するため細孔の空隙率は50%以上減少する。このため、強度や自然発火性も問題ないとい われている。 図4-25 BCBプロセス BCB プロセスによるインドネシア低炭化度炭の改質処理の結果を表4-13 に示した。改 質後の水分含有量は 7~10%程度であるが、フラッシュチューブ内での脱水時間が短いた め、水分含有量が多い石炭では製品炭の水分含有量も多くなる傾向があることから、亜瀝 青炭に向いているともいえる。また改質条件が穏和なため、揮発分等の石炭性状の変化は 少ない。 2007 年よりインドネシアの Bayan 社と最初の商業機である年産 100 万 t プラントを東カ リマンタン州に建設し 2009 年上半期に完成した。試運転後、商業運転を開始していると されている。また中国、米国での事業展開も積極的に進めている。 表4-13 BCB プロセスによるインドネシア炭の原炭、製品炭の性状例 原炭水分含有量 (%) 37.6 32.3 26.0 53.6 24.5 39.6 BCB 水分含有量 5.9 7.8 4.6 9.9 4.2 7.8 原炭発熱量 (kcal/kg) 4,094 4,468 5,159 2,656 4,980 3,817 BCB 発熱量 (kcal/kg) 6,095 6,117 6,623 5,234 6,325 5,788 (%) (2) UBC(Upgraded Brown Coal)プロセス 5 1) プロセス概要 UBC プロセスは、60%以上の水分を含有するオーストラリア褐炭液化プロセスの前処 5 気候変動に関する意思決定ブリーフノート No.3、国立環境研究所、2009 年 10 月 -90- 理技術であるスラリー脱水法に基づいて㈱神戸製鋼所により開発された蒸発法の改質技 術であり、油中で脱水することを特徴とする。改質技術のなかで処理条件が最も穏和で あるとともに、脱水後に回収した蒸気の蒸発潜熱を熱源に利用することによりエネルギ ー消費量の削減を図ることや、重質油の吸着による改質炭の安定化を図ることで、従来 の蒸発法の欠点を克服している。2006 年からインドネシアにおいて 600t/d プラントの大 型実証プラントの開発を行っており、その後の商業化計画も進めている。 プロセスは次の工程から構成されている(図4-26)。 スラリー調製工程 a) 粉砕された原炭と軽質油(循環溶剤)及び少量の重質油(アスファルト等)を混合 しスラリー化する。 b) スラリー脱水工程 スラリーを加熱し石炭中の水分を油中で除去後、石炭表面等に重質油が吸着し、脱 水・改質・安定化する。 油分離・回収工程 c) 改質後の石炭から軽質油を分離・回収し、回収油は循環する(改質炭は粉状)。 d) 成型工程 粉状の改質炭を成型する(山元以外で使用する場合の輸送用のため。山元発電等の 場合には成型せずに直接利用することが可能)。 このほかに前処理として石炭の粉砕工程が必要となる。 UBC 法の主な特徴は以下のとおりである。 ・ 脱水条件が穏和(140~180℃、350kPa)なため化学反応が起こらない。このため 廃水処理が容易。 ・ 分離された水分(蒸気)の潜熱を利用することによるエネルギー消費量の低減。 ・ アスファルト等の重質油が多孔質な低品位炭内部の細孔に吸着し石炭性状を安 定化し、自然発火性を抑制。石炭からの脱水後に、低品位炭内部の細孔へ吸着す るため、比較的低い温度、圧力での操作が可能となっている。図4-27 にこの脱 水、重質油吸着の状況を示した。 アスフ ァ ルト 循環油 石炭 l 低品位炭原炭 改質炭(油中脱水後) スラリ ー脱水 スラ リ ー調製 固液分離 (Centrifuge) 凝縮液 ( 廃水) 油分 回収 循 環油 循環 油 表面水 UBC製 品( 粉) 細孔内水 UBC 成 型 重質油 重質油が、細孔内に選択 的に吸着することにより、 水分の再吸着を防止 UBC製品 ( ブ リケッ ト) 図4-26 UBC プロセスのプロセスフロー -91- 図4-27 UBC プロセスの原理 2) 改質炭の性状 低品位炭の改質は、主に脱水が中心であり石炭性状そのものの変化は少ない。UBC プ ロセスによる原炭と改質炭の性状の例を表4-14 に示した。改質により水分が大きく減 少し発熱量が増加しているが、灰分、揮発分等は改質前後でほとんど変化していない。 これは、処理条件が穏和なため、熱分解反応や化学反応等が生じていないことを示して いる。 表4-14 全水分 灰分 揮発分 固定炭素 燃料比 発熱量 UBC 法によるインドネシア炭の原炭、改質炭の性状例 A炭 wt% ar wt% db wt% db wt% db kcal/kg ar kcal/kg db B炭 C炭 D炭 E炭 Raw Coal UBC Raw Coal UBC Raw Coal UBC Raw Coal UBC Raw Coal UBC 22.6 4.4 46.4 49.2 1.06 5202 6721 1.9 4.8 46.9 48.3 1.03 6687 6816 32.4 3.0 50.1 46.9 0.94 4253 6291 2.0 2.9 49.9 47.2 0.95 6441 6573 36.2 4.3 49.7 46.0 0.93 4093 6415 2.0 3.5 49.6 46.9 0.95 6680 6816 40.2 4.2 53.8 42.0 0.78 3488 5832 5.0 4.9 52.5 42.6 0.81 5818 6124 26.0 4.3 47.8 47.9 1.00 5115 6912 2.3 4.2 48.0 47.8 1.00 6996 7160 低炭化度炭で最も問題となる自然発火性は、基礎試験の結果や石炭輸送船によるイン ドネシアから日本への大量サンプルによる試験結果から問題ないことが示されている。 また、燃焼試験の結果では、改質炭は NOx 濃度が瀝青炭に比べて低く、未燃分が少ない ことから良好な燃え切り性を有していること、低 NOx 燃焼条件下でも未燃分をほとんど 排出しないことなど、優れた燃焼特性を示した。低炭化度炭は揮発分が高いことから良 好な燃焼性を有していると考えられるが、高水分のため燃焼効率が低くなるといわれて いる。低炭化度炭の改質により低水分となり、本来の優れた燃焼特性を発揮したものと 推定される。自然発火性、燃焼性については、大量サンプルをインドネシアから日本へ 石炭輸送船により運送し、日本の発電所の実機ボイラーでの燃焼試験を行った結果でも 問題ないことが示された。 600t/d 実証プラントでの開発開始時には、35~40%水分の低品位炭が商業化の対象で あったが、その後、これらの石炭は市場での取引が行われており改質の必要性がないこ とから改質の対象炭は水分 50%以上の褐炭となっており、UBC も水分 60%の褐炭を対 象に商業化計画を進めている。 (3) K-Fuelプロセス K-Fuelプロセスは米国のEvergreen Energy社が開発を進めている非蒸発法の改質技術で ある。プロセスの改良を重ねたあと、ワイオミング州ジレット市近郊に年間75万t(原炭基 準。製品基準では年間50~60万t)のプラントを建設し運転中である。 粗粉砕した塊炭を240℃、34kg/cm2、蒸気中で脱水する方法で、図4-28にプロセスの概 要を示した。従来、塊炭を加圧下で260℃及び430℃の2段階で処理するセミバッチ方式であ ったため、大型化や連続処理化が難点だったが、南アフリカ共和国(以下、「南アフリカ」 と記す)のSasolで実績のあるルルギMark-Ⅳガス化炉を脱水系に採用するとともに、操作 条件を大幅に緩和することで問題を解決した。米国エネルギー省等の補助を受けて自社開 発を進めているため、プロセスの詳細は明らかではないが、ワイオミング州のパウダーリ バー炭田の亜瀝青炭を改質した場合、発熱量は8,000~8,800 Btu/lbから1万500~1万1,500 -92- Btu/lbに向上し、水分含有量は30%から7%に低減できるとしている。しかし、高温、蒸気 での処理のため廃水量が多く、石炭中の有機分が廃水中に溶解、混入するため、廃水処理 に課題があると推定される。一方、高温処理による石炭の分解等により、米国で石炭利用 上の問題になっている石炭中の水銀が30~80%程度除去されることをPRしている。 図4-28 K-Fuelプロセス 2006年ごろからインドネシアの石炭会社とF/Sを行うなど、インドネシアへの普及を図っ たが、現在あまり進展していないようである。 (4) 熱水改質-cs 法(Hot Water Treating) 日揮㈱は、(財)石炭利用総合センター〔現(財)石炭エネルギーセンター〕及び日本 COM㈱(2002 年解散)とともに、「低品位炭の改質技術」の開発を通産省石炭利用技術振 興補助事業として 1991 年より 1996 年までの 5 年間にわたり共同で実施した。この共同開 発の初期段階において、低品位炭の改質方法としてエネルギー効率が良く、改質炭の利用 方法としてのスラリー燃料(Coal Slurry:CS)化に適した熱水改質法(HWT 法:Hot Water Treating の略)を低品位炭改質プロセスに選定、後半(1994 年)には日本 COM㈱小名浜工 場内に世界最大級の HWT 法改質パイロットプラントを建設するとともに、オーストラリ ア褐炭及びインドネシア亜瀝青炭 2 炭種の計 3 炭種を代表低品位炭として改質試験、スラ リー化試験、燃焼試験及びガス化試験を実施し、良好な結果を得た。図4-29 に HWT 法 概念図を示した。 -93- 熱水改質 低品位炭・原炭 高空隙率 高カルボキシル基酸素分 高含水率 高親水性 高揮発分 30min. 改質炭 300 ℃ 150 kg/cm2 図4-29 空隙は収縮し溶融タール類で充填 COOH基はCO2と水に分解 固有水分は大幅に削減 石炭表面は疎水化 揮発分は減少しない 熱水改質(HWT)法 概念図 HWT 法は 300℃の加圧熱水中で脱酸素、脱水作用(水分を蒸発させずに熱水中に抽出さ せる)によって、低品位炭の表面性状を親水性から疎水性に改質し、さらに低品位炭の一 部が分解されることによって発生するタール状物質が低品位炭内部の空隙を充填して内部 へ水分が再吸湿しないようにすることによって、高濃度の石炭スラリーが製造できる技術 である。さらに、本技術はバイオマスの炭化にも適用でき、植物が長い年月をかけて地中 で石炭化していく過程を人工的に 30 分で再現する、人工石炭化プロセスである。将来的に はバイオマスからの人工石炭を混合することによって石炭でありながら、CO2 排出原単位 が石油、天然ガス並の Bio-Coal(スラリーまたはブリケット)製造をめざすものである。 図 4-30 に熱水改質・石炭スラリー製造プロセスを示した。2010 年度から、NEDO 事業とし て褐炭を原料とした石炭スラリーをインドネシアで事業展開するためのデモプラント(年 産 1 万 t 規模)をインドネシアで開始した。 -94- Lignite Upgrading Process Fuel 20mm 300℃ 120bar Slurrification Process 0.02mm 1mm Hot Oil 30℃ 120 bar 80℃ 0 bar Circulated Water 図4-30 熱水改質 石炭スラリー製造プロセス CS HWT 法の改質炭は微粉の固体としても回収できるが、コスト的には石炭スラリー製造 技術(Coal Water Mixture:CWM)製品とする方が適している。このため、他の改質法が瀝 青炭の代替品であるのに対し、HWT 法は重油代替品として既設の重油ボイラーへの適用 が計画されている。また、HWT 法により製造された CWM をディーゼル発電機に利用する 開発も米国で行われていたことから、将来的にはインドネシアの小規模発電で多数利用さ れているディーゼル発電へ適用することも計画されている。 (5) その他の改質法及び乾燥技術 インドネシアで開発された CUB 法(Coal Upgrading-Briquette)があるが、BCB 法とほぼ 同様のプロセス構成である。米国 Alstm 社で 2t/d プラントの運転を行ってオーストラリ ア・ビクトリア州には水分 65%程度の褐炭が大量に賦存し、現在主に発電に利用されてい る。この褐炭発電の効率向上による CO 2 削減等のため、幾つかの脱水改質法が開発されて おり、2009 年ごろからインドネシアへもプロセスの展開、普及を開始している。 また、改質法は脱水と同時に石炭表面を改質することにより自然発火性を抑制するため、 現在の市場で流通している瀝青炭と同様に市場で取り扱うことが可能であることから、改 質炭は輸出用として利用できる。一方、山元発電のように脱水後すぐにボイラーへ供給で きる場合には、よりコストの低い乾燥技術を組み込むことで効率向上、CO2 削減を行うこ とが可能となる。今年度(2010 年)の日本の経済産業省の二国間クレジット調査事業で、 インドネシアの発電所に既存技術であるスチームチューブドライヤによる脱水乾燥を組み 込んだ場合の検討が行われることになっている。 4-4-2 石炭液化 インドネシアは石油輸出国であったが、生産量の停滞や国内需要の増加により現在は石油を 輸入していることもあり、石炭から液体燃料を得ることができる石炭液化には以前から関心が -95- 高く、開発の検討が進められてきた。 石炭の液化には、石炭から直接液体燃料を製造できる直接液化法と、石炭をガス化したあと、 生成したガスを化学反応により液体燃料にする間接液化法に大別できる。一般的に、エネルギ ー効率は、直接液化が 60%以上に対し間接液化が 40~45%と低く、油の収得率も直接液化の 方が多い。また直接液化から油はオクタン価が高くガソリンに適しているが、間接液化の油は ディーゼル用の軽油に適している。 (1) 直接液化 低品位炭の褐炭を対象にした石炭液化としては、1970 年代のオイルショック時にオース トラリア・ビクトリア州の褐炭を対象にした褐炭液化法(図4-31)が日本で開発された が、その後の石油価格の安定化により、液化開発は中断した。この褐炭液化法について、 日本とインドネシアの政府間協議により、1994 年から褐炭液化法の研究協力、及び南スマ トラのバンコ炭、東カリマンタンのブラウ炭、南カリマンタンのサツイ炭を対象とした F/S が行われ、2006 年に液化のセミナーがジャカルタで開催され、これらの成果が報告された。 このセミナーでは、石炭液化油を搭載した車を当時のプルノモ MEMR 大臣が運転するデ モンストレーションも実施された。 この成果を受け、2006 年の国家エネルギー政策(大統領令 2006 年第 5 号)で、2025 年 には石炭液化油でエネルギーの 2%を占めることとなった。また、代替燃料として液化石 炭の供給と利用に関する大統領令 2006 年第 2 号により、経済調整担当大臣以下、エネル ギー鉱物資源、財務、国営企業、運輸、工業、内務、研究技術の各大臣及び州知事、県知 事に対し、液化促進のための担当業務が示された。さらに、経済調整担当大臣令 (No.Kep11/M.Ekon/02/2006)、エネルギー鉱物資源省大臣令(No.1640K/73/Mem/2007)に より、液化の商業化に関する技術検討チーム、液化実用化の促進に関するコンソーシアム チームを結成した。技術チームは、MEMR、経済調整担当省、技術研究応用庁(BPPT)、 バンドン工科大学、インドネシア石炭鉱業協会に、日本の液化技術担当の神戸と双日がメ ンバーとなった。また、コンソーシアムには、MEMR 研究開発庁、国営石炭会社の PTBA のほか、アダロ、バンプ、ブラウ、ブミリソーシズ等の民間石炭会社、液化油を取り扱う プルタミナ等が参加した。 計画では、日本政府、NEDO 及び褐炭液化技術を保有する企業と、1t/d の試験設備と 1 万 3,500bbl/d のセミコマーシャルプラントの建設について MOU を締結し、2009 年から開 始を予定していた。しかし、インドネシア側が液化プラントに対する技術保障を要求した ことに対し、パイロットプラントまでの実績しかない日本側は受け入れなかったため、計 画は中断となっている。 -96- 図4-31 褐炭液化法 (2) 間接液化 間接液化は、石炭ガス化+フィッシャートロプシュ合成反応の組み合わせにより行われ る。フィッシャートロプシュ合成反応は、天然ガスを原料に液体燃料を製造する GTL(Gas to Liquid)プロセスに利用され、既にマレーシア、カタール国(以下、 「カタール」と記す) 等で GTL の商業プラントが建設、稼働しているように、完成された技術である。また、石 炭ガス化も実用化されていることから、間接液化は技術的には問題はない。 直接液化の計画が進展しないこともあり、インドネシアでは間接液化についても検討が 進められた結果、間接液化で唯一実績のある南アフリカの Sasol と BKPM が 2009 年に MOU を締結した。実施計画について現在調整中であるが、今後、原料石炭の検討や間接液化プ ラントからの CO2 による石油(原油)増進回収(Enchanced Oil Recovery:EOR)も含めた 検討を行う計画となっている。 現在商業規模のガス化炉としては Shell や GE のガス化炉があるが、これらは瀝青炭に主 に対応しており、高水分の低品位炭をそのまま利用するには問題がある。これに対し Sasol で利用しているルルギ炉は、固定床のため効率上は流動床や噴流床のガス化炉には劣るも のの、褐炭にも適用可能である。現在、褐炭で大規模に商業化ガス化を行っているのは、 米国のノースダコタ州の褐炭を対象にしたものだけであり、ルルギ炉が仕様されている。 Sasol は GTL でも有力な企業であることから、Sasol によるインドネシアでの間接液化での 問題は少ないように思われる。 4-4-3 石炭ガス化 インドネシアのガスの国内需要は増加しているが、天然ガスの生産はほとんど増加していな -97- いことや、有力な生産地域であったスマトラ北部のアチェの天然ガス生産が地震等の影響もあ って停止したこともあり、天然ガスを原料としているスマトラ北部の肥料工場も生産停止の状 況になっている。また、小規模発電で行われているディーゼル発電機用の軽油の利用量抑制の ため、石炭の小規模ガス化によるガスを利用することも考慮されている。さらに、日本では CO2 排出量の少ない天然ガスの利用を増加したいこともあり、インドネシアの低品位炭をガス化し 合成天然ガスを製造したあと、天然ガス(LNG)として日本へ輸送する計画もある。 これらの状況から、現在インドネシアで取り組まれているガス化の利用計画を図4-32 に示 す。 図4-32 インドネシアにおける石炭ガス化による利用計画 (1) 小規模ガス化 小規模なガス化としては、中小の産業用と軽油を利用するディーゼル発電用を対象にし ている。ディーゼル発電機はインドネシアの小規模発電によく利用されているが、軽油価 格の上昇もあり経済性に問題があることから、軽油量を抑制するため石炭ガス化のガスを 軽油と合わせて燃料とすることを計画している。 図4-33 に示したように、石炭をガス化後、ガス精製工程でタールと粒子を除去し、軽 油と一緒に発電機に導入する簡単な構成になっており、既にプロトタイプのプラントによ り開発が進められている。このガスの利用により、軽油使用量の 60%をガスで代替できる。 中小産業用としては、中国製の 2.5t/hr 以下(ガス量で 9,000Nm3・/h 以下)のガス化炉が あり、セラミック、タイル、石灰石焼成等の工場で利用されている。 -98- 図4-33 ディーゼル発電用石炭ガス化 (2) 大規模ガス化(TIGAR 石炭ガス化ほか) 現在のガス化炉は、低品位炭のガス化では石炭の高水分の問題があるため、そのままで は適用困難な場合がある。日本の IHI が開発している循環流動層ボイラー技術に基づいた 二塔式のガス化炉(TIGAR)は褐炭のガス化にも適用可能なため、インドネシアの低品位 炭をガス化し肥料工場用の原料とする F/S を、MEMR 研究開発庁、国営肥料会社、IHI、 双日が 2006~2007 年に実施した結果、肥料工場用への適用可能性が実証された。これを 受けて、プロトタイプのガス化炉建設の計画が検討された。現在、ガス化炉の技術確立を 経済産業省の補助事業として 2010~2011 年において進めていることから、インドネシアで のガス化計画は 2011 年ごろに再検討される予定である。 4-4-4 コークス化 インドネシアでは製鉄用、鋳物用コークス用の製造に必要な原料炭はほとんど生産されてい ないため、輸入している。原料炭となる石炭は中部カリマンタン地域に存在しているが、イン フラ等の問題から開発が進んでいない。このため、鉄道建設の計画が検討されているが、生産 にはかなりの時間を要するものと推定される。 MEMR 傘下の鉱物石炭技術研究開発センターは、低品位炭からのコークス化の開発を行って いたが、2009 年の日本・インドネシア石炭政策対話での協議の結果、2010 年より日本側が開 発協力することとなり、インドネシア炭からのコークス製造用バインダーの検討等が行われて いる。 -99- 4-5 人材育成 インドネシア MEMR には、人材育成部門として教育訓練庁が設置され、傘下に石油・ガス、 電力・再生・新エネルギー、鉱物・石炭、地質の 4 つの教育訓練センターがある。石炭について は鉱物石炭教育訓練センターが行っているが、主に石炭の生産、保安が対象となっている。電力 関係では、電力・再生・新エネルギー教育訓練センターにおいて研修が実施されている、地方分 権によって地方政府に各種許認可や監督業務が移管されたこともあり、中央政府、地方政府の公 務員を対象とした研修が主体となっている。発電所等の人員の研修については、国営電力公社の PLN の自社内に研修センターがあり、PLN 関連の人員の研修、訓練を実施している。 しかし、これらの教育訓練、研修機関では、CCT に関する研修等は体系的に行われておらず、 日本が実施している CCT に関する研修が実質的にインドネシアの CCT 研修といえる。 4-5-1 日本における CCT 研修概要 日本における CCT 研修は、NEDO 事業として平成 8 年度(1996 年)から(財)石炭利用総 合センター〔現在の(財)石炭エネルギーセンター〕により実施されている。NEDO は、国際 協力関係の事業として、日本の CCT をアジア諸国へ移転・普及するモデル事業を実施していた。 その一環としてソフト面での事業として研修を行っており、アジア太平洋地域への CCT の啓発、 導入、普及支援を図るため、①CCT 導入による対象国の環境改善、②日本の CCT 機器の導入、 ③CCT 導入普及のための人脈形成を目的としている。 このため、研修はモデル事業の実施国を対象国に行っており、当初は中国、タイ王国(以下、 「タイ」と記す)、インドネシア、フィリピン共和国(以下、「フィリピン」と記す)の 4 カ国 を対象として開始され、その後、モデル事業の実施先となったベトナム社会主義共和国(以下、 「モ 「ベトナム」と記す)、マレーシア、インドが順次加わり、2008 年度にモンゴル国(以下、 ンゴル」と記す)が参加している。 1996 年度から 2008 年度までの研修参加者数を表4-15 に示す。 インドネシアからは延べ 167 名が参加している。電力関係では PLN 本社及び関連発電所から の参加者がほとんどだったが、現在では IPP の発電所からの参加者も増えてきている。 表4-15 年度 CCT 研修の国別参加者数 H8 1 9 96 H9 1997 H 10 1998 H 11 1999 H 12 2000 H 13 2001 H 14 2002 H 15 2003 H16 2004 H 17 2005 H 18 2006 H 19 2007 H 20 2008 T o ta l 22 8 27 11 17 8 16 7 19 10 24 11 20 9 12 14 12 11 11 10 11 9 20 11 0 21 2 11 140 12 8 18 11 - - 7 9 5 12 8 9 11 12 8 9 8 6 10 8 11 10 6 10 10 6 9 10 4 9 28 ベ トナ ム 11 9 6 19 フ ィリ ピ ン - 10 - 27 167 89 11 0 マレ ーシア - - - 50 - - - 67 - - - 51 - - - 44 - - - 58 6 6 7 2 4 2 5 3 5 8 4 13 - 17 - 78 - 61 - 61 - 57 - 59 - 60 - 77 - * 21 3 31 72 3 100 823 国名 中国 タイ イン ドネシア インド モン ゴル 計 4-5-2 日本における CCT 研修の内容 研修内容は、モデル事業の CCT の技術に対応した選炭・前処理コース、石炭利用コース、石 炭発電コース等が設定され、各分野の技術者が参加した。また、政府・企業の政策・経営に関 -100- 連する管理者、技術者を対象とした管理者コースも設定し、技術者コースでは専門講義、実習 を主体とするが、管理者コースでは、技術は概論程度とし、経済性評価などを加えて実施した。 2009 年度の研修例を表4-16 に示したが、表のように、事前調査での打合せ、技術者選定 から始まって、研修、研修後のフォローアップで終了する。研修内容については、毎年のニー ズ調査や研修者のヒアリング結果に基づいて国別に内容を検討し、できるだけ各国ごとの状況、 ニーズに対応した研修を行えるように、年度ごとに内容を適宜修正している。 表4-16 石炭火力発電コースの研修-2009 年度高効率石炭火力発電所導入の例 Step1 ・現地カウンターパートとの詳細打合せ、ニーズ発掘 事前調査 ・専門家による事前調査、技術者の選定等 Step2 (例)高効率石炭火力発電所導入等にかかわる技術セミナーの 現地での技術交流 開催 ・USC に係る日本側メーカー、エンジニアリング会社専門家に よる技術交流 ・USC 導入に係る経済性評価 ・対象者は電力会社の技術責任者、発電所設計に係るエンジニ アリング会社技術者等 Step3 高効率石炭火力発電所導入に係る日本での技術交流 日本における技術研 ・現地の電力会社の技術者、発電所設計に係るエンジニアリン 修 グ会社の技術者等を日本に招聘 ・USC の高効率発電所の見学 ・USC に係るボイラー、タービン等のメーカー技術者による技 術研修 ・日本の電力会社の発電所設計技術者による技術研修 Step4 事後調査 フォローアップ ・帰国した技術者のフォローアップのためのセミナー、技術交 流 ・帰国した技術者への面談、成果確認 ・関係機関との研修内容のニーズ確認、打合せ等 -101- 第5章 5-1 環境社会配慮の現状と課題 環境基本情報 5-1-1 社会環境の概要 (1) 国土 インドネシアは、世界最大の群島国家であり、ジャワ、スマトラ、スラウェシ、ボルネ オ(カリマンタン)、ニューギニア(パプア)の5つの本島、小スンダ列島やマラッカ諸島 など30の群島そして大小の有人・無人島の合計1万8,110の島々で構成されている。国土面 積は領土約186万400km2(日本の約5倍)と排他的経済水域及び領海約790万km2と合わせた 合計約980万km2である(図5-1)。 6 出所:State of Environmental Report in Indonesia 2009, Ministry of Environment, 2010 図5-1 インドネシアの行政区分 (2) 行政区分 インドネシアには2層の地方政府が存在し、第1レベルの地方政府が州(Provinsi)であり、 その下位に第2レベルの地方政府である県(Kabupaten)と市(Kota)が置かれている。第1 レベル地方政府としては、2009年時点で28の州、4の特別州、1の首都特別州が設置されて いる。州知事(Gubernur)は州内における地方自治を担うとともに、中央政府の代理機関 としての機能を有しており、州は県・市の境界をまたがる事務、県・市が自ら実施できな い事務、中央政府から委任された補佐任務を実施するとともに、中央政府の代理機関とし て委託を受ける権限分散事務の実施、県・市の行政事務の指導・監督等を行っている。 第2レベルの地方政府は、2006年時点で349県・91市が置かれていたが、2009年には約500 の地方政府が存在するようになった。県と市には行政機能上の差異はなく、都市部に置か れるのが市で、それ以外の田園地域等に置かれるのが県である。なお、県・市には、行政 区としての郡(Kecamatan)とその下には区(Kelurahan)が置かれる。なお、都市以外の 6 インドネシアの地方自治、(財)自治体国際化協会、2009 年 -102- 地域には村(Desa)が置かれているが、これは区の担う行政機能に代わり、地縁的・慣習 的なコミュニティであり、行政区ではない。 7 (3) 人口 インドネシアの人口は2億4,300万人であり、うち約1億人がジャワ島に住む。人口増加率 は2.3~2.7%/年であり2050年には3億8,000万人に達すると推定されている。人口に係る主 要な問題点は以下のとおり。 8 ・ ジャワ、バリへの人口の集中 ・ 幼児・若年層の人口が多い。 ・ 就業率の低さ ・ 妊産婦死亡率及び乳幼児死亡率が高い。 (4) 経済 インドネシアは市場経済原理に基づく経済活動を行っているが、164の国営企業をもち、 主要産品(燃料、コメ、電気など)の価格を統制している。インドネシアは天然資源に恵 まれており、原油、天然ガス、スズ、銅、金などを豊富に産出する。特に天然ガスについ ては世界第2位の輸出国である。しかしながら、原油については近年輸入国となっている。 農業については、コメ、茶、コーヒー、ココア、香辛料、ゴムなどが主要産品である。 世界的な景気後退の影響を大きく受けなかったため、1人当たりのGDPも2005年から2009 年にかけて倍増しており、失業率も順調に低下している。2009年第3四半期のGDPは前年比 で4.2%のプラスとなっており、すべての産業セクターで好調となっている。 9, 10 インドネシアの基本情報を表5-1に示す。R&Iカントリーリスク調査によると、インドネ シアはアジア金融危機後の混乱によりカントリーリスクが劇的に高まり、1996年に6.7(C 評価)あったものが1999年には3.6(D評価)へと急激に指数を悪化させたが、2010年1月の 指数では6.2を記録するまで安定性を回復している。2010年1月にB評価(7以上)の仲間入 りを遂げた中国とインドには及ばないものの、リーマンショック後の世界的な景気後退に もかかわらずカントリーリスクは回復を示し続けている。評価の上昇の要因としては、堅 調な内需に支えられ高い成長を維持する経済、2009年10 月に圧倒的な支持率で発足した 第2次ユドヨノ政権による政治的安定への期待が挙げられる。 7 インドネシアの地方自治、(財)自治体国際化協会、2009 年 State of Environmental Report in Indonesia 2009, Ministry of Environment, 2010 9 同上 10 温室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、グリーンニューディール (GND)研究レポート、2010 年 9 月 Global Forest Resources Assessment 2005, FAO 8 -103- 表5-1 インドネシアの基本情報 出所:温室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、 グリーンニューディール(GND)研究レポート、2010 年 9 月 5-1-2 主な環境問題 (1) 森林破壊 インドネシアは、アジア地域で最も広大な熱帯林面積を誇る国で、世界でも有数の熱帯 林保有国である。島々はかつて鬱蒼とした熱帯林に覆われ、多種多様な動植物の宝庫であ ったが、近年人間の活動により急激に荒廃しつつある。インドネシアの森林の総面積は1950 年には約1億6,200万haあったとされているが、2005年のインドネシアの森林面積は約8,850 万haにまで減少している。2000~2005年の森林減少量はアジア地域の中で最も大きく〔世 界でもブラジル連邦共和国(以下、「ブラジル」と記す)に次いで2番目〕、毎年平均約187 万ha、わずか5年間で935万haもの森林が失われた。 11 森林破壊の原因としては、木材の需要の高まりに伴う「違法伐採」及びパーム油原料の アブラヤシを栽培する大規模プランテーション造成のための伐採などのほか、大規模森林 火災の多発が挙げられる。従来インドネシアの島々では、年間を通じて降雨量が多く、落 雷や自然発火も極めて稀なため、森林火災が起こりやすいとは考えられていなかったが、 大規模なアブラヤシプランテーションを造成するための火入れ(アブラヤシの木を植える 前に、それまであった森林を伐採し、伐採跡地を焼き払う)や、大量伐採による森林の過 疎化・低質化による乾燥が原因とされている。 インドネシアにおける森林火災で特徴的なことは、同国が世界最大の熱帯泥炭保有国で あり、乾燥化していったん火がつくと、地上の森林が燃え尽きたあとも地中で延々とくす ぶり続けることになる。1997~1998年の大規模森林火災の際には、エルニーニョの影響で 乾燥が続き、森林・泥炭が激しく乾燥したところへプランテーション造成のための火入れ 11 Global Forest Resources Assessment 2005, FAO -104- が延焼して、消火不能な状態に陥ったものと分析されている。 12 2005~2009年における森林火災件数及び2000~2005年における7つの島の森林破壊面積 を表5-2、5-3に示す。 表5-2 2005~2009年における森林火災件数 出所:State of Environmental Report in Indonesia 2009, Ministry of Environment, 2010年 表5-3 2000~2005年における7つの島の森林破壊面積 出所:State of Environmental Report in Indonesia 2009, Ministry of Environment, 2010年 (2) 生態系保全 インドネシアはブラジルに次ぐ世界第2位の熱帯林保有国であり、世界の熱帯林の約10% を有している。この森林の大部分は熱帯降雨林であるが、熱帯林や亜熱帯林は、その他の 植生に比べ生物種数が多いといわれている。また、インドネシアの特徴として、同国は① 熱帯多雨林、熱帯季節林、海岸線にみられるマングローブ林、ヌサトゥンガラ等にみられ るサバンナ林、イリアンジャヤにみられる高山帯植生など多様性に富んでいる、②島嶼国 12 地球と未来の環境基金 http://www.eco-future.net/eco/indonesia.html -105- であるため、生物種が隔離・進化している、③異なる動物地理学区分が存在する(ウォー レス線により東洋区とオーストラリア区に分かれている)等の理由から、世界有数の生物 多様性を有しており、地球全体の生物多様性の保全及び潜在的な生物資源の貯蔵庫として、 特に重要な国と位置づけられている。 インドネシアは、このような地理的特性に基づく多様な生息・生育環境により、世界陸 地面積の1.3%の国土に、世界の20%に相当する約32万5,000種の野生動植物が生息・生育 している。植物は世界の約10%にあたる2万9,375種の顕花(種子)植物が生育し、そのう ち、同国にしか生息しない種(固有種)の割合は60%とされている。動物もまた、世界有 数を誇っており、その種数及び固有種の割合が大きい。哺乳類は457種が記録され、この うち固有種の占める割合は49%であり、世界一の生息数である。同様に他の高等動物種数 及びその固有種の割合は、鳥類1,530種で27%、爬虫類514種で59%、両生類285種で40%と なっている。 ワシントン条約付属書Ⅰ掲載の国際的希少種である、シーラカンス、スマトラサイ、ス マトラトラ、サイチョウ、コモドオオトカゲなど、数多くの種が生息し、絶滅危惧種も鳥 類126 種、ほ乳類63種、は虫類21種となっている。 前述したように、森林破壊により貴重な生態系の急激な崩壊が進行しており、その保全 対策は国際的な急務となっている。 13 (3) 水資源及び水質汚染 インドネシアにおける水不足は深刻な状況になりつつある。その原因としては、人口の 増加・集中、産業、農業などにおける水需要の急増と、集水域の森林崩壊による保水能力 の低下が挙げられる。降雨期には森林破壊により地下に浸透することなく洪水となって一 気に流下するため、乾期においては地下水が枯渇する。 2007年におけるインドネシアの家庭で使用する水の約58%は地下水である。Waterworks Companyによる水道供給は16%、河川水3%、雨水2.6%、湧水12.6%などとなっている。 水質汚染も深刻である。家庭、産業、農業などから発生する廃棄物や汚水が主要な汚染 源であるが、2006年における農業やプランテーションに使用される無機肥料と農薬の使用 量は2004年比で5倍となっていることから、これらによる水質汚染も懸念される。 特に人口が急増しているジャカルタ首都圏などの都市部でも水道設備が劣悪であるこ とから生活用水として井戸水が使われること多いが、トイレなどの汚水が地下水に混入し 糞便性大腸菌に汚染されている状況にある。過度の地下水利用により適切な対策を取らな い場合、2015年には水不足に陥る可能性が高い。 14 (4) 大気汚染 インドネシアの大気汚染は人口の集中が続く大都市部を中心に顕在化している。産業活 動による大気汚染については局地的なものを除いて、これまで大きな問題にはなっていな い。一方、多くの人口を抱え急激に自動車が増えているジャカルタ首都圏やスラバヤなど の大都市部では、自動車の排気ガスが原因とみられる大気汚染が年々深刻化しており、既 13 14 インドネシア共和国 生物多様性保全センター設立計画基本設計調査報告書、JICA、2003 年 State of Environmental Report in Indonesia 2009, Ministry of Environment, 2010 -106- に二酸化窒素(NO2)と粉じんについては大気環境基準を超える値が観測されている。自 動車用のガソリンには通常有鉛ガソリンが使用されていること、排ガス対策の難しい古い 自動車が多いことなどを背景に自動車排気ガスによる健康被害の発生も懸念されている。 大気汚染については、環境基準、工場と自動車からの排出基準は決められているものの、 ジャカルタなど一部都市を除いては大気汚染物質のモニタリングはほとんど実施されて おらず、全国的な大気汚染の実態は把握されていない。 1997年夏にカリマンタン島などで発生した大規模な森林火災が、ヘイズといわれる広範 囲な煙害を引き起こした。このヘイズは、数多くの住民に眼病、呼吸器疾患、皮膚病など の健康被害を発生させたほか、航空機の墜落事故までも引き起こしている。その影響範囲 もインドネシア国内にとどまらず、海を越えて隣国のマレーシアやシンガポール共和国 (以下、「シンガポール」と記す)などにも及んだ。毎年広範囲な森林火災が発生するイ ンドネシアでは、これも特有の大気汚染問題のひとつといえよう。 15 (5) 廃棄物管理 インドネシアにおける廃棄物の発生量は、人口の増加、経済活動の活発化、家庭ごみの 増大に伴い、急増しつつある。また、有害・有毒な廃棄物も増えつつあり、その処理は深 刻な社会問題になっている。生ごみの廃棄物不法投棄はネズミの大量発生・伝染病の蔓延 を触発し、悪臭の原因となる。オープンダンピング方式のごみ埋立処分場での火災により 大気汚染が発生したり、埋立処分場の浸出水が水源・地下水・河川の水質悪化の原因とな ったり、さまざまな環境問題の発生原因となっている。 山積みとなった廃棄物の周辺では、人々が皮膚病、チフス、コレラ、赤痢、循環器系な どの病気に罹ることも多い。2005年には、西ジャワ州バンドンの埋め立て処分場で、ごみ の山が崩れ、140人の死者が出た事件も発生した。 インドネシアのごみ処分方式をみると、廃棄物全体の55.5%が最終処分場に運搬されて いるが、全体の40%が処理されているにすぎず、処理場に運搬されない廃棄物量はかなり 膨大である。オープンダンピング方式による埋め立てが一般的であり、管理埋め立て方式 はジャカルタの1カ所にすぎない。有害でない産業廃棄物は、これらの処分場に埋め立て ることが可能となっている。 有害廃棄物の処理・処分に関しては、有効利用、焼却、埋立の3つに分類されて統計が 発表されている。しかし、実際の有害廃棄物の発生量は、届出があった処理・処分量より もかなり多いと考えられている。有害廃棄物の処理・処分を行っているPPLI社の推計によ ると、2003年時点で700万tを超える有害廃棄物が発生しているという。処理・処分されて いる量は、全体の3割程度の可能性がある。 16 5-2 環境管理システム 5-2-1 主要環境関係官庁 インドネシアにおける主要環境関係官庁は以下のとおりである。 15 16 インドネシアにおける環境問題の現状と環境保全政策について、陳 禮俊、環境省地球環境局「平成 15 年度地球環境研究 計画地球環境研究総合推進計画」 、2003 年 インドネシアの産業廃棄物・リサイクル政策、作本直行・小島道一、アジア各国における産業廃棄物リサイクル政策情報提 供事業報告書、日本貿易振興機構・アジア経済研究所、2007 年 -107- (1) BAPPENAS (National Development Planning Agency) BAPPENASは環境管理に関する長期計画の策定及び関係政府機関の調整を行っている。 2004-2009国家中長期開発計画(National Medium-Term Development Plan)では、天然資源 管理方法の改善、経済的により有効な環境保全のあり方などについて述べている。 (2) 環境省(Ministry of Environment:MOE) 環境省は環境政策や環境基準の制定、環境影響評価(Environmental Impact Assessment: EIA) (AMDAL) の評価・承認、環境データの収集などを主務とする調整機関である。環 境省は本省のほか、スマトラ、ジャワ、カリマンタン、バリ、スラウェシの5カ所に支所を もっている。環境省の支所はこれら地方の環境行政と中央政府との調整を行っている。 <環境省設立の経緯> 1972年大統領令第16号により国家環境委員会が設置された。この委員会が天然資源・ 環境保全に関する国家計画を策定し、国家大綱と5年ごとに策定される国家開発計画に天 然資源管理・環境保全計画が盛り込まれる仕組みができあがった。 1978年には、国務大臣を長とし環境行政をも扱う開発環境省(PPLH)が設置された。 1982年に環境管理のための基本規定に関する法律(Basic Provision for Environmental Management: Act No.4 of 1982)が制定され、同年開発環境省を改組した人口環境省(KLH) が設置された。 1990年に大統領令第23号により環境管理庁(Environmental Impact Management Agency: BAPEDAL)が発足した。1993年3月には人口環境省が分割され、環境政策に関する独立 した省として環境省(LH)が設置された。これによって環境省が環境問題に関する政策 の企画立案などの調整機能を果たし、環境管理庁が具体的な環境保全対策や公害対策を 実施する仕組みが整備された。 1999年に地方分権化二法が可決され、その後の不安定な政治情勢ゆえに、十分な政策 準備がなされていないにもかかわらず、2001年から実施に移された。分権化の主体が、 1950年代の地方独立運動に対する抵抗感から、州ではなく県・市に置かれたことも特筆 すべきことであった。インドネシアの分権化議論は、スハルト体制の終焉、民主化要求 の高まり、民族問題激化のなかで、脆弱な政治基盤を分権化による地方支持拡大を通じ て乗り越えようとしたハビビ政権の思惑のなかで誕生した。 17 2002年、環境管理庁は環境省に吸収合併され、現在の環境省ができあがった。旧環境 管理庁の業務は地方政府に委譲された。この合併により、中央官庁が行っていた環境行 政の一部が地方政府に移管されたことが、その後の環境行政の二元化をはじめとする諸 問題もたらす要因のひとつともなっていったと考えられる。 18 (3) 森林省(Ministry of Forestry:MOFo) 森林省は国土の約7割を管轄する機関であるが、現在では森林破壊によりその1/3がもは や森林ではない状態にある。主要責務は、森林の育成・保全、流域管理、林野業及び森林 17 18 地方分権化という課題を考える―「インドネシア」の事例から、菅原由美・東條哲郎、JAMS News No.29、2004 年 Environmental Assessment and Management Related Higher Education: An overview of Indonesian situation, Tjuk Kuswartojo B, 2010 http://twoeam-eu.net/malaysia/utm_presentations/EAMHEindonesiaOverview_TjukKuswartojo.pdf -108- 依存村社会の指導・育成などである。森林省の地方事務所は地方分権化により地方政府の 森林行政機関に吸収されている。 (4) 内務省(Ministry of Home Affairs) 内務省は地方政府における環境行政を監督する責務を有する。同省は地方政府による環 境管理に対する技術的及び予算面での支援を行っている。大部分の地方政府は財務的に中 央政府に大きく依存しており、中央政府から地方政府へ多額の補助金が交付されている。 (5) 地方政府 過去10年来の地方分権の結果、約500の地方政府が存在するようになった。これらの地 方政府は州(Province)/県(district)/市(city)のレベルであり、県及び市レベルの自治体 が環境管理に重大な権限と責任をもっている。地方政府の環境関連制度は以下のようなも のである。 a) 州政府 州政府は中央政府と県・市レベルの地方政府の調整機関であり、地方分権の観点から す る と 、 そ の 存 在 は 大 き い も の で は な い 。 地 方 開 発 企 画 庁 ( Regional Planning and Development Boards:BAPPEDA)が県・市レベルの調整を行う機関であり、各自治体の 地域環境管理計画やモニタリング計画などに対して予算を含む大きな権限を有している。 b) 県・市レベルの地方政府 県・市レベルの地方政府には、Environmental Service Agency (Dinas Lingkungan Hidup) あるいはEnvironmental Office (Kantor Lingkungan Hidup) が置かれている。Environmental Service Agencyは天然資源の回復や保全、汚染防止に関する技術面及び運用面での政策立 案、環境や鉱山に関する法規などを策定する。Environmental Officeは主として汚染防止 や環境モニタリング等の実務面で自治体の環境管理活動を行っている。19 5-2-2 環境法規 (1) 国の環境関連法規 インドネシアで初めての環境に関する総合的・統括的な法律は1982年3月11日の法第4号 で制定された環境管理法である。第5次国家開発計画の期間中(1988~1994年)には、数 多くの環境関連の法律や規則が制定された。 具体的には、生物資源及びその生態系の保全に関する法律(1990年法第5号)、水質汚濁 の防止に関する政令(1990年政令第20号)、環境影響評価に関する政令(1993年政令第51 号)、有害廃棄物の管理に関する政令(1994年政令第19号)のほか、環境管理庁に関する 大統領令(1990年大統領令第23号、1994年第77号大統領令にて改正)などもこの時期に制 定されている。 1997年9月19日には新しい環境管理法が大統領によって署名され、法律となった(1997年 19 INVESTING IN A MORE SUSTAINABLE INDONESIA, COUNTRY ENVIRONMENTAL ANALYSIS 2009, World Bank -109- 法第23号)。これに伴って1982年法第4号の旧環境管理基本法は廃止されている。新しい1997 年環境管理法の特徴としては、①事業活動に対する環境規制の強化、②罰則の強化、③環境 紛争処理規程の充実、④国民の環境情報に関する権利規定の導入などが挙げられる。20 Environmental Protection and Management LawがAct No. 32/2009として2009年10月に制定 された。旧法Environmental Management Act (No. 23/1997)からの主な変更点は、EIA評価・ 認証システム、ライセンス発行システムのほか、関連する法規の改定などである。しかし ながら、同法の改定に伴う関連法規の改定作業が完了していないため、現行のAct No. 27/97 が現在でも有効であり、EIAシステムにも変更はない。関連法規の整備は数箇月以内に終 了する予定であり、そののちには新法に従って環境行政が行われるとのことである(環境 省ヒアリングによる)。 インドネシアにおける主要な環境関連法を表5-4に示す。 表5-4 主要環境関連法 主要環境法 Constitution, 1945 備考 憲法は 2002 年に環境の持続発展性を通したバランスのとれた発 展を協調するように改定された。 Environmental Management Act (No. 23/1997) Basic Forestry Law (No 41/1999) Law on Marine & Coastal Resources 2007 Law on Energy (No 30/2007) Law on Mining 2009 Law on Fisheries (No. 31/2004) Law on Water Resources 2004 Law on Toxic Wastes 1997 他の省庁が管轄する地域や産業セクターについて環境省が環境 法規を定めることができることなどを規定。 森林管理は、①経済成長の促進、②富の公平な分配、③環境の持 続性の確保の 3 つの目標から成る。 沿岸域における適正な商業利用などを規定。 国際条約 エネルギー政策や開発目標を制定する機関の創設などを規定。 鉱山開発許可、鉱山経営者の責任、鉱山活動などに関する規定。 漁業資源の確保と環境との調和などを規定。 水資源管理の地方分権化、水質汚染の防止、開発、保全、災害対 応などを規定。 有害廃棄物のライフサイクル管理及び越境移動の禁止などを規 定。 インドネシア政府の批准した主な国際条約は以下のとおり。 生物多様性条約、ワシントン条約、国際熱帯木材協定、ラムサー ル条約、京都議定書、ウィーン条約、砂漠化対処条約、バーゼル 条約、包括的核実験禁止条約、国際連合海洋法条約、MARPOL73/78 条約 出所:INVESTING IN A MORE SUSTAINABLE INDONESIA, COUNTRY ENVIRONMENTAL ANALYSIS 2009, World Bank(一 部改) 20 日系企業の海外活動に当たっての環境対策(インドネシア編)、 「平成 9 年度日系企業の海外活動に係る環境配慮動向調査」 報告書、財団法人 地球・人間環境フォーラム、1998 年 -110- <参考> Asian Development Bank(ADB)が掲げるインドネシアの主要な環境関連法規は以下のとお りである。 21 ・ Act concerning Basic Provisions for the Management of the Living Environment (Act No. 4 of 1982) ・ Act concerning Indonesian Waters (No. 4 of 1960) ・ Act No. 4 of 1982 on the basic provisions for the management of the living environment ・ Act on the conservation of biological resources and their ecosystems (Act No. 5 of 1990) ・ Act Regarding Waste Management 2008 ・ Decision of Governor of DKJ Jakarta Province no. 58/2004 on mechanism for handling environmental pollution in DKI Jakarta Province ・ Decree No. 1 of the Minister of Agriculture on the Conservation of the Riches of the Fish Resources of Indonesia ・ Decree of the Minister of Energy and Mineral resources No. 1457 K/28/MEM/2000 on the Technical Guidance for environmental management in the mining and energy sector ・ Decree of the Ministry of Forestry No. 424/KPTS-VI/1994 on the Guidelines on Crocodile Management in Indonesia ・ Decree of the State Minister for Environment No. 133/2004 on the standard quality of emission for activities of the fertilizer industry ・ Environmental Management Act 1997 (No. 23 of 1997) ・ Environmental Management, Law Concerning (Law No. 23, 1997) ・ Fisheries Law (No. 9 of 1985) ・ Government Regulation No. 20/1990 on Water Pollution Control ・ Government Regulation No.27/1999 RE Analysis of Environmental Impacts ・ Government Regulation of the Republic of Indonesia regarding environmental impact assessment (No. 51 of 1993) ・ Government Regulation on land use management ・ Indonesia Environmental, Health and Safety (EHS) Legislation ・ Environmental Management, Law Concerning (Law No. 23, 1997) ・ Law No. 41/1999 on Forestry ・ Presidential Regulation No. 5/2006 on National Energy Policy ・ Regulation No. 77 (2001) on irrigation Various Implementing Regulations (2) 国の基準と自治体の基準との関係 インドネシアでは州と特別行政区を第一級自治体、県と特別市が第二級自治体と呼ばれ ている。第一級と第二級の自治体は環境関係の条例を独自に制定する権限をもっている。 県あるいは特別市の水質基準は州政府の基準を参考にして制定されているが、なかにはま ったくユニークな項目が採用されていたり、不合理ともみえる厳しい基準値が設定されて 21 Environmental Laws and Regulations in ADB Developing Member Countries、ADB ホームページ http://www.adb.org/Environment/laws-regulations.asp#Indonesia -111- いることもある。 排水基準を例に取ってみると、国の定める排水基準は1991年に初めて設定されたが、自 治体の基準値はそれよりはるかに早く、1982年にジャカルタ特別行政区も西ジャワ州もそ れぞれ独自の基準値を設定していた。そのため、国の基準値ができたときには既に各工場 には自治体の基準値が設定されておりそのまま現在に至っている。国の基準と自治体の基 準を比較すると採用されている項目が一致していなかったり、基準値について一方が厳し かったり、ゆるかったりまちまちである。1997年の環境管理法の制定によって、自治体の 基準値が国の基準値よりゆるい場合は国の基準に合わせるように定められたが、中央政府 と地方自治体の環境基準にはいまだに統一性がないのが現状である。 22, 5-2-3 23 環境アセスメント関連法規の概要 (1) 関連法規 インドネシアにおけるEIAプロセスはAMDALと呼ばれ、環境影響評価書(ANDAL)、環 境管理計画書(RKL)、環境モニタリング計画書(RPL)から成る。AMDALの作成・評価・ 承認の仕組みは、1999年政令第27号により規定されている。 AMDALの対象となる事業については、2006年環境担当国務大臣令第11号に規定され、 エネルギーセクターを含む13セクターが対象分野となっている。環境担当国務大臣は、事 業規模、範囲、事業予定地と保護区との近接度及び開発が環境に与える影響等に基づき、 AMDALの実施可否を決定する。AMDALが必要でない開発であっても、環境管理(RKL) と環境モニタリング(RPL)は行わなければならない。 州知事/県知事/市長は、現地の立地条件、環境状況を考慮し、管轄地域においてAMDAL を必要とする事業タイプを規定できる。事業者は2006年環境担当国務大臣令第11号だけで なく、活動を行う地域の地方政府/自治体が発行する地方法規(Perda)に注意しなければ ならない。 AMDALに関する一般的なガイドラインは、1994年環境担当国務大臣令第14号、2000年 環境管理庁長官令第9号により規定されている。また、RKL、RPLの作成ガイドラインは、 2002年環境担当国務大臣府令第86号により規定されている。なお、1999年の地方自治法の 施行前は、環境管理庁(BAPEDAL)が、AMDAL、RKL/RPLのための技術ガイドラインを 作成していた。現在は、州/地方政府に環境管理の権限が移譲されているが、すべての州/ 地方政府が、独自の技術ガイドラインを発行したわけではない。発行していない州/地方政 府は、従来のBAPEDALが発行した技術ガイドラインを使用しているので注意が必要であ る。 24 主要な環境影響評価関連法規は以下のとおり。 25 ・ Law concerning Environmental Management (Law No.23/ 1997,Re public of Indonesia ) ・ Government Regulation concerning Environmental Impact Assessment ( Indonesian Government Regulation No.27/1999) ・ 22 23 24 25 Decision on EIA Guidelines ( Decision of the State Minister for the Environment INVESTING IN A MORE SUSTAINABLE INDONESIA, COUNTRY ENVIRONMENTAL ANALYSIS 2009, World Bank 日系企業の海外活動に当たっての環境対策(インドネシア編)、 「平成 9 年度日系企業の海外活動に係る環境配慮動向調査」 報告書、財団法人 地球・人間環境フォーラム、1998 年 インドネシアにおける鉱業環境規則について、池田 肇、金属資源レポート 7 月号、2007 年 Preparatory Study for Indramayu Coal-fired Power Plant Project in Indonesia, Final Report, JICA, 2010 -112- No.021/2000) ・ Decision of the State Minister concerning Community Involvement and Information Disclosure in the Process of Environmental Impact Assessment (Decision of the Head of the Environmental Impact Management Agency No.08/2000) ・ Guidelines for Preparing Environmental Impact Assessment Papers (Decision of the State Minister for the Environment No.08/2006) ・ Decree of the State Minister on Types of Projects and Necessity for Implementing Environmental Impact Assessment (Decree of the State Minister for the Environment No.11/2006) ・ Decree of the State Minister for Procedures of EIA Commission (Decree of the State Minister for the Environment No.05/ 2008) (2) 発電設備に係る環境影響評価 1) EIA が必要な発電設備(火力発電) インドネシアでは電力施設関連の影響評価は、州政府に属するAMDAL評価委員会 (BAPEDALDA)が審査・承認する。ただし、プロジェクトが2州にまたがる場合には中 央政府がAMDALの審査・承認を行う。環境影響評価が必要な事業かどうかは2001年環 境大臣令第17号で定められており、火力発電所では100MW以上の事業が該当する。 2) 環境影響評価手続き 環境影響評価事業の手続きとして、まず事業者は、原則として新聞、地方の村等では 役場の掲示板を利用してプロジェクトの公表を行う。この時期はF/Sの着手前である。そ の後、関係コミュニティにプロジェクトや環境影響評価実施の説明をする。そのときの コメントを反映して、環境影響評価実施計画書(KA-ANDAL)を作成し、再度関係コミ ュニティに説明して合意を得ることになる。合意が得られなければKA-ANDALは修正さ れる。KA-ANDALには、プロジェクトの概要、調査項目、調査範囲、調査方法、分析方 法などを記載する。 その後、事業者は環境影響評価事務局を通じて所轄官庁の承認機関(環境省、州知事、 市長のいずれか)にKA-ANDALを提出し、そこの環境影響評価委員会の承認を得る。こ のときには必要に応じてKA-ANDALの見直しが求められる場合もある(図5-2)。 KA-ANDALの承認を得た事業者は続いて、環境影響評価書(ANDAL)、環境管理計画 書(RKL)、環境モニタリング計画書(RPL)を、環境影響評価事務局を通じて所轄官庁 の承認機関に提出して承認を得る(図5-3)。 26 環境影響評価の実施を必要としない事業においても、ある一定以上の影響を生じる可 能性のある事業については、環境管理計画書(UKL)、環境モニタリング計画書(UPL) の提出が義務づけられている。UKLとUPLが必要かどうかは、BAPEDALDAの判断によ る。さらに、UKLとUPLの提出を必要としない事業でもSPPLと呼ばれている簡略な書類 を提出することになっている。 27 26 27 The Study on the Improvement Measures for Electric Power Generation Facilities in Java-Bali Region in the Republic of Indonesia, Final Report, JICA, 2006 インドネシア国ジャワ・バリ地域発電設備運用改善計画調査ファイナルレポート、JICA、2006 年 -113- 出所:The Study on the Improvement Measures for Electric Power Generation Facilities in Java-Bali Region in the Republic of Indonesia, Final Report, JICA, 2006 図5-2 環境影響評価における住民参加(Public Involvement)システム -114- 出所:The Study on the Improvement Measures for Electric Power Generation Facilities in Java-Bali Region in the Republic of Indonesia, Final Report, JICA, 2006 図5-3 環境影響評価(AMDAL)のプロセス (3) 環境基準・排出基準 国の環境基準は、政府規定または省令により発行される。州/地方政府もまた、環境基準 規定を発行することができる。したがって、事業者は地元政府の環境基準も参照しなけれ ばならない。表5-5に国の主要環境基準を示す。 28 28 インドネシアにおける鉱業環境規則について、池田 肇、金属資源レポート 7 月号、2007 年 -115- 表5-5 国の主要環境基準 法律名 環境規準・排出基準 大気環境基準 1999 年政令第 41 号 大気の排出基準(固定排出源) 1995 年環境担当国務大臣令第 13 号 騒音に関する基準 1996 年環境担当国務大臣令第 48 号 振動に関する基準 1996 年環境担当国務大臣令第 49 号 悪臭に関する基準 1996 年環境担当国務大臣令第 50 号 陸水に関する環境基準 2001 年政令第 82 号 海水に関する環境基準 2004 年環境担当国務大臣令第 51 号 排水基準 2001 年政令第 82 号 出所:インドネシアにおける鉱業環境規則について、池田 5-3 肇、金属資源レポート 7 月号、2007 年 MEMR、PLN の環境社会配慮 5-3-1 環境セクション (1) MEMR MEMRの環境セクションはElectricity Technical & Environment部Electricity Environmental Protection課であり、職員は10名である。同課の主要業務はPLNやプルタミナなどMEMRが 管轄するすべての機関の環境社会配慮に関する政策、指導、管理であり、各機関から提出 された環境モニタリングデータをチェックしている。これらのモニタリングデータは四半 期ごとに取りまとめ、Environmental Management and monitoring Implementation Reportとして 公表している。 (2) PLN 環境セクション PLN環境セクションはPlanning & Technology局Environmental Divisionである。職員数は4 名で、EIA及びGHG業務を行っている。PLNはほぼ全国の支所に環境セクションがあり、 環境担当者が2~3名おり、発電所などの環境管理や環境モニタリングなどを行っている。 EIAは主として大学、研究所に委託して実施している。委託先はサイト近傍の大学に依 頼する場合が多いが、民間コンサルを起用する場合もある。 主要な調査委託先は以下のとおり。 ① Bandung Technology Institute(ITB)in Bandung ② University of Jahmada(UGM)in Jogjakarta ③ University of Indonesia(UT)in Jakarta ④ University of Pajajaran(UNPAD)in Bandung ジャカルタ付近におけるプロジェクトについてEIAを委託する場合、上記②、③が地理 的に適当とのことである。 -116- 5-3-2 現地視察 2010年10月19日、稼働中の石炭火力発電所の環境社会配慮状況を視察した。対象とした発電 所はIndonesia Power スララヤ石炭火力発電所である(図5-4、5-5)。 uralaya 地図:Google Map 図5-4 スララヤ石炭火力発電所位置 同発電所視察における環境上の留意事項は以下のとおりである。 (1) 発電所周辺の地形 発電所は前面を海、後背地を小高い山に囲まれ、煙突高もあまり高くないことから、気 象条件いかんでは後背部にダウンウォッシュが発生し、周辺にばい煙が充満する可能性が ある。発電所の周辺には住宅地が存在している。現地調査時においても発電所周辺には異 臭が感じられた。 (2) 排煙 発電所の排煙処理は電気集塵機のみであり、脱硫、脱硝設備なしで排ガスが大気中に放 出されている。遠方から発電所の煙突を見ると明らかに黄色味を帯びた排煙が放出されて いる様子がうかがえた。発電所の職員によれば、現在は、発電所の設計時に想定された炭 種よりも硫黄分が多い石炭を燃焼する必要性が増加してきていることや、SOx規制が厳し くなってきていることなどから、発電所の排ガス中のSOx濃度が排出規制値を超過するケ ースが増加しているとのことである。安定的に硫黄分の多い石炭を燃焼させるためには、 脱硫装置の設置が望ましいが、脱硫装置を設置できるスペースがないため、技術的な対策 を検討する必要があるとのことである。実際、法改定により2000年から石炭火力発電所に よる硫黄分の排出基準が750mg/m3へと引き下げられたため、2000年以降、0.3%以上の硫黄 分を含む石炭を使用する新規石炭火力発電所については排煙脱硫装置を設置しなければ ならなくなっている。 -117- (3) 石炭積み降ろし埠頭 石炭運搬船からベルトコンベアで搬出する方式及びバージ船内にホイールローダーが3 台入りダンプカーに積み込む方式の2つを見学した。バージ船からの石炭の積み込みの際、 炭塵防止のための散水などの対策はなく、岸壁上には石炭の積み残しや残さが堆積してお り、降水、風により海に流入している模様である。海への流出防止対策はない。 (4) 石炭ヤード ベルトコンベアで石炭ヤードまで運ばれた石炭は高い位置から落下し、石炭パイルをつ くるが、落下位置が必要以上に高すぎて周辺に炭塵を飛散させている。近傍の石炭運搬制 御室内に炭塵が侵入し、職員はマスクをしている。室内の掃除をしていたが、大量の炭塵 が掃き集められており、労働環境は劣悪である。 石炭ヤードはブルドーザーでならされているが、入口が低く奥が高い斜面状態である。 ところどころで燃料炭の自然発熱による煙・水蒸気が見られ、その部分をブルドーザーで 転圧及び周辺の石炭で覆うことにより発火を抑えている。炭塵飛散を抑制するための散水 などの対策を行っている状況はみられない。 後日、PLNの環境セクションを訪問した際、現在稼働中の石炭火力発電所では環境汚染 が問題になっており、スララヤ発電所では石炭ヤードからの炭塵の飛散に対して住民から の苦情が出ているとのことであった。 (5) 石炭灰処分地 処分地は発電所敷地の外にあり、石炭灰は発電所からカバー付きのコンベアで運搬され る。ただし、8号機からのコンベヤは囲いもなく、風雨にさらされれば灰が容易に飛散す る構造となっていた。発電所8号機は、クラッシュ-1プログラムに基づいた中国製の発電所 として建設されている。 処分地は小高い丘の斜面を切り土して設けられており、大量の石炭灰が斜面に沿って盛 り上げられている。入口付近から既に石炭灰が道路上に積もっている状態である。 石炭灰流出防止用に簡単な低いフェンスが設けられているが、入口には何の防止壁もな い。地下浸透防止用のシートなどは確認できなかった。大雨時には石炭灰が斜面から流出 する可能性がある。石炭灰はセメント業者に販売しているということであるが、大量の石 炭灰が存在していることから販売分は全量のごく一部と思われる。 石炭灰処分地の斜面の下方に側溝があり発電所構内に沈澱池と思われるポンドが1つあ る。直近に温排水の放水路があることから、石炭灰ヤードからの排水をいったん沈澱させ、 上澄みを放流水に混入させて処分している模様である。 (6) 環境管理計画 スララヤ石炭火力発電所の環境管理の実態は良好とはいえない状況にある。炭塵飛散に ついては既に住民から苦情が出ているようである。石炭灰の管理も不十分である。今後 JICAが石炭火力発電所建設の支援を行う場合、供用時における環境管理計画の十分な審査 及びその実施状況報告を長期間にわたり求める必要があると考える。 -118- 炭 Loading Jetty 炭 Yard 宅地 電設備 炭灰捨て場 宅地 宅地 出所:Google Map より作成 図5-5 5-4 スララヤ石炭火力発電所の配置 CCT 導入に関連する環境社会配慮事項 本調査は、CCTのうち石炭火力発電所の高効率化に焦点をあて、発電セクターへのクリーンコ ールテクノロジー(CCT)の導入の促進を通じ、特にジャワ=マドゥラ=バリ及びスマトラ系統 における持続的かつ安定的な電力供給及びインドネシア政府が公約とするBAUベースでの温室 効果ガスGHG26%削減に貢献することを目的としている。検討の対象とする高効率化技術として は、超臨界圧発電(SC)、超々臨界圧発電(USC)、石炭ガス化複合発電(IGCC)、二酸化炭素回 収・貯留(CCS)等である。 燃料とする石炭の改質については石炭火力発電所の設備の一部となるため、通常の石炭火力発 電所建設と同様な環境社会配慮を行うことになる。環境社会配慮の実施に際しては、本調査で抽 出した課題を検討するとともに、JICA環境社会配慮ガイドライン2010を軸として、世界銀行(WB) セーフガード・ポリシーや国際金融公社(International Finance Corporation:IFC)パーフォーマン ス・スタンダードなどの国際基準を参考にして調査を進めることが求められる。 -119- 第6章 6-1 気候変動への取り組み状況 気候変動対策の現状と課題 世界の気候変動対策は気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)を軸として進行してきた。ここでは、同条約の経緯及び課題、関連する G8 サ ミット等について述べる。 29, 6-1-1 30, 31 気候変動枠組条約の経緯 (1) 気候変動枠組条約(UNFCCC)の締結 1980 年代、地球温暖化問題がしだいに注目されるようになり、1992 年リオデジャネイロ に 108 カ国の首脳が集まり「環境と開発に関する会議(リオ地球サミット)」が開催された。 この会議において「気候変動枠組条約」が締結され、気候変動問題に関して先進国が主導 的に温室効果ガス(GHG)削減を進める必要があることが明記された。気候変動枠組条約 の締約国は、附属書 I 国(先進国及び経済移行国)、附属書 II 国(先進国)、発展途上国の 3 つに分類され、付属書 I 国が GHG の削減に主導的に取り組む責任を有する一方、途上国 は、排出量削減に義務をもたない「非付属書 I 国」と呼ばれることになった。インドネシ アは非付属書 I 国に属する。 1994 年気候変動枠組条約が 50 カ国の批准により発効し、気候変動枠組条約締約国会議 (Conference of Parties:COP)が最高意思決定機関として位置づけられた。 (2) ベルリンマンデート 1995 年 3 月、ドイツ連邦共和国(以下、「ドイツ」と記す)のベルリンで第 1 回締約国 会議(COP1)が開催され、ベルリンマンデートと呼ばれる決議が採択された。ベルリンマ ンデートでは、第 3 回締約国会議(COP3)までに、枠組条約の第 3 条に基づき付属書 I 国 のみが GHG の数量化された削減目標をもつことが決められた。 (3) 京都議定書 1997 年 12 月、京都において COP3 が開催され、いわゆる京都メカニズムと呼ばれる① ク リ ー ン 開 発 メ カ ニ ズ ム ( Clean Development Mechanism : CDM )、 ② 共 同 実 施 ( Joint Implementation:JI)、③ 排出権取引(Emission Trading:ET)の制度が決められた。また、 1990 年を基準年とし、2008 年から 2012 年の 5 年間に、CO 2、メタン、一酸化二窒素など 6 種類の GHG を、EU は 8%、米国は 7%、日本は 6%削減することが合意された。京都議定 書には発効のための条件として、議定書を 55 カ国以上が批准すること、及び批准した付 属書 I 国の排出量が付属書 I 国の全排出量の 55%以上になることが条件であった。55 カ国 の批准は満たされたものの、最大の GHG 排出国である米国の離脱や、ロシアが 2004 年ま で批准の意向を明確にしなかったため、京都議定書の発効は 2005 年 2 月にまでずれ込ん だ。米国は同条約に参加しているため締約国会議(COP)には参加するが、京都議定書か 29 温室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、グリーンニューディール (GND)研究レポート、2010 年 9 月 30 外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol52/index.html 31 地球温暖化対策、衆議院調査局環境調査室、2010 年 -120- らは離脱してしまったため京都議定書の締約国の会合(Meeting of the Parties: MOP)には 参加していない。 京都議定書の採択以降も、世界の CO 2 の排出量は増加を続けた。その大半は途上国での 増加であり、先進国と途上国の排出量はほぼ同じとなった。特に中国の排出量の増加は著 しく、米国を抜き世界第一の排出国となった。このため、以降行われた COP において、新 興国も排出量削減の責任を負うべきとの声が先進国側から出てきた。一方、途上国側は 1 人当たりの CO 2 の排出量では依然として先進国が途上国を上回っていることや、産業革命 以降の CO 2 排出量を考えた場合、世界の 3/4 の排出量を先進国が占めることから、温暖化 問題を引き起こしたのは先進国であると主張し、先進国側と途上国側との対立が激しさを 増してきた(図6-1)。 出所:外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol52/index.html 図6-1 気候変動枠組み条約国の内訳 32 (4) バリ・ロードマップ このような背景の下、2007 年 12 月インドネシア・バリ島で COP13 が開催され、京都議 定書の第一約束期間の終了する 2013 年以降の削減目標を 2009 年の COP15(コペンハーゲ ン)で決定するための「工程表(バリ・ロードマップ)」が合意された。また、枠組条約の 下に、新たに 2 つの特別作業部会 (アドホック・ワーキンググループ:AWG-LCA 及び AWG-KP)を設置し、2009 年までに 2013 年以降の削減目標について合意を得て採択する ことが決められた(図 6-2)。また、以下の事項が明記された。 ① 排出削減に関するグローバルな長期目標の検討 ② すべての先進国による計測・報告・検証可能な緩和の約束または行動(先進国間の 取り組みを比較できるようにする) 32 ③ 途上国による計測・報告・検証可能な手法での緩和の行動 ④ 森林 ⑤ セクター別アプローチ インドネシアの地方自治、(財)自治体国際化協会、2009 年 -121- ⑥ 排出削減とさまざまな活動との統合 ⑦ 小島嶼国などの脆弱域な国への支援に関する国際協力 ⑧ 革新的技術開発の協力 ⑨ 資金協力 出所:地球温暖化対策について、経済産業省33 図6-2 アドホック・ワーキンググループ:AWG のフレームワーク (5) G8 サミット 2008 年 7 月の G8 北海道洞爺湖サミットにおいて、「2050 年までに世界全体の排出量の 少なくとも 50%の削減を達成するというビジョンを、UNFCCC のすべての締約国と共有す る」ことが首脳宣言に盛り込まれた。2009 年 7 月の G8 ラクイラ・サミット(イタリア) の首脳会議においては、洞爺湖サミットの合意を再確認し、先進国全体では、 「(1990 年ま たはより最近の複数の年と比して)2050 年までに 80%以上削減するとの目標を支持する。」 とされた。また、 「工業化以前の水準からの世界全体の平均気温が 2℃を越えないようにす べきとする広範な科学的見地」も認識された。 (6) コペンハーゲン合意 2009 年 12 月デンマーク王国(以下、 「デンマーク」と記す)のコペンハーゲンで国連の 気候変動枠組条約第 15 回締約国会議(COP15)と京都議定書第 5 回締約国会合(CMP5) が開催されたが、米国を中心とした先進国と新興国を中心とした途上国の対立は激しく、 京都議定書の第一約束期間以降の主要排出国における排出量の数値目標について合意で きなかった。2007 年の COP13 で採択された「バリ合意」を受けて、京都議定書に続く 2013 年以降の新たな枠組み(ポスト京都)に関する政治的な合意である「コペンハーゲン合意 に留意する」ということで決着をみた。 コペンハーゲン合意の主な内容は次のとおりである。 ① 33 世界全体の長期目標として、産業化以前からの気温上昇を 2 度以内に抑制する。 地球温暖化対策について、経済産業省 http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/global.html -122- ② 先進国は 2020 年までの削減目標(中期目標)を、途上国は気候変動緩和行動 (Nationally Appropriate Mitigation Actions: NAMA)を 2010 年1月 31 日までにそれ ぞれ提出する(任意)。 ③ 締約国の行動は測定、報告、検証(Measurability, Reportability and Verifiability:MRV) 可能なものとする。 ④ 先進国は共同で 2010~2012 年の間に 300 億ドルの支援を行い、2020 年までに年間 1,000 億ドルの資金動員目標を約束する。 ⑤ 2015 年までに合意の実施状況を評価する。 (7) COP16 に向けた国際交渉 COP16 は、2010 年 11 月~12 月にメキシコ合衆国(以下、「メキシコ」と記す)におい て開催される予定である。また、本年中に AWG-LCA 及び AWG-KP が複数回開催される予 定である。なお、コペンハーゲン合意に基づき、先進国及び途上国は自国の削減目標等の 提出が求められているが、条約事務局の発表によると 2010 年1月末までに削減目標等を 提出した国は、米国、中国、EU、インド等の主要排出国を含む 55 カ国であり、これらの 国のエネルギー使用による GHG 排出量は世界の排出量の 78%を占める。主要排出国の 2020 年までの削減目標は表6-1、6-2に示すとおりである。 表6-1 主要先進国の削減目標 出所:地球温暖化対策、衆議院調査局環境調査室、2010 年 -123- 表6-2 主要新興国の削減行動 出所:地球温暖化対策、衆議院調査局環境調査室、2010 年 6-1-2 京都議定書の課題 (1) 京都メカニズムの問題点 京都メカニズムでは、国際排出量取引(International Emission Trading:IET)、共同実施 (JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)などを通じて獲得した排出権を自国の削減分とし て算入することができる。このうち IET は、事実上ロシアなどの旧社会主義諸国のホット エアーを買い取るものであり、京都メカニズムの枠外で自発的に実施されているグリーン 投資スキーム(Green Investment Scheme:GIS)のもとで売買されないかぎり、GHG 排出 削減効果をもたない。JI は先進国間で行われる GHG 排出削減に関する国際協力の枠組み であり、資金の出し手となる国には ERU(排出削減単位)と呼ばれるクレジットが付与さ れるが、対象となる国が IET と同じく旧社会主義国にほぼ限定されている。 CDM は先進国が途上国に資金・技術援助を行い、GHG の排出削減事業を実施し、その 結果削減できた排出量を認証排出削減量(Certified Emission Reduction:CER)として自国 の削減分として算入することを認めるものである。CDM は途上国の GHG 排出量を抑制し、 また途上国の持続的発展にも寄与することを目的としており、京都メカニズムのなかで最 も活発に利用されているシステムである。しかしながら、CDM にはその発展を妨げる以 下のような問題点が存在する。 1) 審査が多段階で長期にわたる プ ロ ジ ェ ク ト 設 計 書 ( Project Design Document : PDD ) を 作 成 し 、 指 定 運 営 組 織 (Designated Operational Entity:DOE)により有効化審査を受けてから国連 CDM 理事会 -124- にプロジェクトの登録申請するまでに平均 1.3 年、国連 CDM 理事会に登録されてからも CER が発効されるまで更に平均 1.2 年、計 2.5 年程度の時間が必要である。 2) CER の発効率が低い CER の平均発効率は 82.6%と予想を大きく下回っている。特にバイオガスとメタン回 収・利用の平均発効率はそれぞれ 52.7%と 39.9%と極めて低い。国内の指定機関の有効 化審査を受けて「有効」と審査されても、理事会により登録を却下されるケースもあり、 プロジェクト実施者にとって予見が困難である。 3) CCS(二酸化炭素回収・貯留)と森林部門が事実上 CDM の枠外に置かれている CCS は大気中の GHG 濃度安定化に必要な 2100 年までの世界の緩和努力の 15~55% を占め、非常に高い GHG 排出削減ポテンシャルをもつとされている。しかしながら、 2005 年に三菱 UFJ 証券が世界で初めて CCS-CDM の方法論を CDM 理事会に提出して以 来、CCS-CDM の適格性についての検討が始まったものの、いまだに結論が出ていない。 森林の保全についても GHG 吸収と炭素ストックの放出防止による GHG 排出削減ポテ ンシャルは極めて高いにもかかわらず、新規植林・再植林 CDM(いわゆる CDM 植林) プロジェクトは方法論上の難しさや CER の非永続性などの制度設計上の理由からほと んど実施されていない。また、地球全体の GHG 排出量の 2 割を超え、化石燃料に次ぐ 第二の GHG 排出源となっている森林減少・劣化に由来する GHG の排出については京都 メカニズムの対象にも含められていない。この問題は「森林減少・劣化からの GHG 排 出削減」 (Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation:REDD)として 2005 年からポスト京都議定書をめぐる交渉の主要議題のひとつに含められていたが、COP15 (2009 年 12 月)では法的拘束力のある合意を結ぶことができなかった。 4) 省エネ案件の評価が低い 登録審査にあたり、財政面及び技術面の追加性 34を追求するため、登録プロジェクト が HFC、N 2O、メタン等の CO 2 以外の GHG 排出源に集中している。その一方、省エネ に資する製品、技術、インフラを提供するプロジェクトは、追加性の観点から認められ 難く、事業実施においてもさまざまな課題がある。 5) 特定の国にプロジェクトが集中している CDM ではプロジェクトごとに案件形成するため、削減ポテンシャルが大きく大型案 件も多いアジアや南米の一部の途上国に登録プロジェクトが集中し、中国、インド、ブ ラジル、メキシコの上位 4 カ国の登録案件数でほぼ 3/4 のシェアを占めている。特に中 国の排出権発行数量が世界の 60%を占める。その一方、アフリカなどの後発開発途上国 (LLDC)には CDM プロジェクトが 1 件もない国が多く、地域的なアンバランスが生じ ている。 35, 36 34 CDM による追加的な収益がなければ実現されなかったプロジェクトであることの証明。CDM という仕組みが存在しなくても 実施される可能性が高いプロジェクトに対してカーボン・クレジットを付与すべきではないという考えが基本になっている。 35 温室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、グリーンニューディール (GND)研究レポート、2010 年 9 月 36 今後の新たな柔軟性メカニズムの在り方について、上田康治、温暖化対策 CDM/JI 事業調査シンポジウム 2010、地球環境セ ンター、2010 年 -125- (2) ポスト京都 京都議定書の第一約束期間(2008~2012 年)後の合意形成をめざした COP15 では、政 治的妥協の産物として「コペンハーゲン合意」が結ばれたが、米中が国際法上の義務を伴 う削減目標の設定を拒否するなか、COP16 でも法的拘束力のある合意が成立する可能性は 低く、京都議定書の将来は不確かなものになっている。 国連の潘事務総長は、国連本部で行った 2010 年 8 月の例記者会見の質疑応答で、「われ われは現実的になる必要がある。カンクンの会議で包括的な拘束力のある合意に到達でき ない可能性がある」と語った。また、先週ドイツのボンで開催された気候変動に関する国 連作業部会に出席した複数の代表は、会議では温暖化ガス排出の削減目標に関する議論が、 「前進したというより後退した」と述べている。 37 このように、2013 年以降「ポスト京都スキーム」が合意に至り、その下で各国が GHG 削減に取り組むというような状況が生まれることは予想し難く、当分の間各国はコペンハ ーゲン合意に基づき自発的に GHG の排出削減に取り組むことになると考えられている。 もともと京都議定書に否定的な米国は、オバマ政権下においても、UNFCCC または京都 議定書の枠外で、中国、インド、インドネシア、ブラジルなどの GHG 排出量の多い途上 国とバイラテラルな国際環境協力体制を構築し、その枠組みのなかで GHG の排出削減を 進める可能性を追求してきた。COP15 直前の 2009 年 11 月に中国、インドと立て続けに気 候変動とクリーンエネルギーに関する協力文書に署名し、ブラジルとは 2010 年 3 月に覚 書を締結した。 米中の意向を強く反映する形で作成されたコペンハーゲン合意でもバイラテラルな枠 組みに言及されている。すなわち、先進国は 2020 年の GHG 排出削減目標を、途上国は削 減行動を 2010 年 1 月 31 日までに提出するが、締約国の行動は「測定・報告・検証(MRV) 可能」でなくてはならないとされ、途上国が先進国の支援を受けて行う削減行動も国際的 な MRV の対象に含められた。 こういったバイラテラルな取り組みは MRV が厳格でなければ、クレジットの質に関す る問題を引き起こすおそれがあるが、他方でより柔軟な対応が可能になり、結果として途 上国の持続的開発と GHG 排出量の削減により強く寄与できる可能性がある。MRV の具体 的な内容の討議は現在も継続中である。 わが国では、2010 年 6 月国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation:JBIC) が、「地球温暖化の防止等の地球環境の保全を目的とする海外における事業を促進する業 務(通称 GREEN)」を開始し、当該業務の実施にあたり MRV に係る基本的な考え方、手 続き等を定めた「国際協力銀行の地球環境保全業務における GHG 排出削減量の測定・報 告・検証に係るガイドライン(J-MRV ガイドライン)」を制定している。 37 ロイター、2010 年 8 月 10 日 http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK870652820100810 -126- 米国に加えヨーロッパ諸国やカナダ、オーストラリアなども京都議定書の発効と前後し て覚書などの形でバイラテラルな国際協力体制の構築を進めてきた。近年、日本政府も途 上国とのバイラテラルな協力関係の構築に積極的になってきている。 38, 39, 40, 41, 42, 43 ポスト京都の枠組みをめぐる主要国の立場を取りまとめたものを図6-3に示す。 出所:地球温暖化対策、衆議院調査局環境調査室、2010 年 図6-3 6-2 ポスト京都の枠組みをめぐる主要国の立場 各国の取り組み 6-2-1 主要国における気候変動対策 ここでは米国、EU、日本を対象として気候変動対策の経緯及び現状について、その概要を述 べる。 (1) 米国 2001 年のブッシュ政権による京都議定書からの離脱発表後、単位 GDP 当たりのエネル ギー効率向上は発表されたものの、GHG の排出そのものの削減について対策がとられるこ とはなかった。 2007 年になり、ブッシュ政権は主要排出国 16 カ国が排出目標を立てるための議論の場 として、「エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国(排出国)会議(Major 温室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、グリーンニューディール (GND)研究レポート、2010 年 9 月 39 今後の新たな柔軟性メカニズムの在り方について、上田康治、温暖化対策 CDM/JI 事業調査シンポジウム 2010、地球環境セ ンター、2010 年 40 国際協力銀行ホームページ http://search.jbic.go.jp/search?q=J-MRV+%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83% A9%E3%82%A4%E3%83%B3&lr=lang_ja&site=default_collection&client=force_ja& proxystylesheet=force_ja&output=xml_no_dtd 41 気候変動問題への国際的取り組み:COP15 の評価と今後の課題、亀山康子、海外事情、58 巻 2 号、2010 年 42 COP15 への緊急提言:日本がとるべき外交姿勢を考える、澤昭裕、21 世紀政策研究所 2009 年 http://www.keidanren.or.jp/21ppi/pdf/sawa/091202_02.pdf 43 アジア太平洋の未来戦略:気候政策と持続可能な開発の融合を目指して、地球環境戦略研究機関、IGES 白書、2008 年 38 -127- Economies Meeting on Energy Security and Climate Change)」の開催を呼び掛け、第 1 回会合 が 2007 年 9 月に開催された。オバマ政権になり、この会合は主要経済国会議(Major Economies Forum:MEF)と名前を変え継続されることになった。MEF の第 1 回会合は主 要排出国の首脳が出席し 2009 年 7 月に開催された。さらに、米国政府は二国間でも温暖 化防止に関する技術協力などを進めており、2009 年 7 月に中国政府との間で再生可能エネ ルギー、住宅の省エネなどの協力に関する覚書を締結したのを皮切りに、インド、インド ネシアでも協力体制を打ち出している。 2010 年 8 月には米国環境庁は環境問題に関し多国間あるいは二国間で協力を進める方針 を打ち出した。温暖化問題でも協力を進めることが発表されており、技術協力と温暖化問 題を結びつけ、途上国での排出削減を米国が自国の目標達成に利用する形の多国間、二国 間協力とも考えられている。 オバマ大統領は、大統領選中から温暖化問題に積極的に取り組むことにより、雇用と新 規事業を創出することをねらった方針を打ち出していた。いわゆるグリーンニューディー ルと呼ばれる政策である。2050 年までに米国の GHG の排出量を 83%削減することが目標 とされていた。 この大統領の目標を受け、米国下院では GHG に関する排出権取引を含む American Clean Energy and Security Act が 2009 年 7 月に下院を通過した。提案者の名前からワックスマン・ マーキー(Waxman-Markey)法と呼ばれる本法では、2020 年、2030 年を目標年として段階 的に GHG の削減を進め、2005 年比で 2020 年までに 17%、2030 年までに 42%、2050 年ま でに 83%削減が目標値として織り込まれた。2009 年 5 月、排出量取引制度の導入を含む ワックスマン・マーキー法案が下院の委員会で可決され、同年 6 月には下院本会議でも可 決された。また、同年 11 月には、同様に排出量取引制度導入を含むケリー・ボクサー法案 が上院の環境・公共事業委員会で可決された。 2010 年 5 月 12 日、ケリー議員、リーバーマン議員が 2020 年までに 2005 年比 17%と する草案を公表した。ケリー・リーバーマン法案の概要は次のとおりである。 ・ 2020 年までに 2005 年比 17%、2050 年までに同年比 法案は 2020 年までに 2005 年比 ・ 83%削減。 (注)従来の上院 20%削減 分野ごとに異なる形で 2013 年から排出権取引制度を導入(製造部門は 2016 年に導 入、運輸部門は固定価格で買い取る変則的な形。電力部門は従来どおり。) ・ 二国間の独自の海外クレジットの利用を認める。 ・ 海外石油依存の削減や、石炭、天然ガス、原子力、再生可能エネルギーなどへの投 資拡大、国内エネルギーのインフラの拡充、雇用創出 しかしながら、同法案の今後の審議については、共和党のグラハム議員が共同提案者か ら外れたため、共和党の支持を得られる可能性は低く、本法案が上院を通過する可能性は 低いとの見方が大勢である。 44, 44 45 45 地球温暖化対策について、経済産業省 http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/global.html 成立の機運が後退する米国の気候変動対策法案、奥智之、Washington D.C. Political and Economic Report、三菱東京 UFJ 銀行 ワシントン情報(No.027)、2010 年 -128- (2) EU EU では GHG を産業部門で削減するために、1 万 1,000 カ所の大規模事業所を対象とし た排出権取引制度(EU Emission Trading System:ETS)が 2005 年 1 月に導入された。2008 年からは制度は第 2 期に入り、2013 年から 2020 年の第 3 期が実施されるところまでは決 定されている。加盟国は 2008 年 5 月 8 日現在で 28 カ国に及んでいる。 2005 年 9 月 5 日、第 8 回 EU・中国首脳会議において気候変動に関するパートナーシッ プの立ち上げに合意している。その内容としては、技術協力の主要な分野として、エネル ギー効率化・省エネ・再生可能エネルギー、CCT、メタンガスの回収・利用、炭素隔離・ 貯蔵、水素・燃料電池、発電・送電が挙げられている。また、CDM の実施について協力 関係を強化し、CDM 事業の情報を交換していくこと、CDM 事業への企業の参加を促して いくことなどが盛り込まれている。 EU は 2010 年 3 月に Europe 2020 戦略の一環として、EU Climate and Energy Package 20-20-20(EU 全体の政策として 2020 年までに、GHG を 1990 年比 20%削減すること、再 生可能エネルギーの利用率を 20%にすること、エネルギー効率を 20%改善すること)を 環境・エネルギー政策として打ち出している。他の先進諸国が同等の対策をとる場合には、 GHG の削減を 30%にすることも打ち出している。 46 (3) 日本 わが国では、1997 年の京都議定書の採択を受け、1998 年 6 月に、当面の温暖化対策を 示した「地球温暖化対策推進大綱」が決定された。同年 10 月には、「地球温暖化対策の推 進に関する法律(以下、地球温暖化対策推進法)が、地球温暖化防止を目的とする世界最 初の法律として制定された。 その後、2005 年 2 月の京都議定書の発効を受け、同年 4 月に「京都議定書目標達成計画」 が閣議決定された。同計画は、2008 年 3 月に全面改定され、京都議定書の削減約束達成に 向けた動きとともに、低炭素社会の構築に向けた取り組みも開始された。 安倍元総理は、2007 年 5 月に、「美しい星 50(クールアース 50)」を提案し、世界全体 の GHG 排出量を現状に比べて 2050 年までに半減するとの世界共通の長期目標等を提示し た。2008 年の G8 北海道洞爺湖サミットでは、福田元総理が「『低炭素社会・日本』をめざ して」を発表し、2050 年までに GHG を現状比で 60~80%削減すること等が宣言された。 また、2008 年 7 月には、地球温暖化防止の国内対策を盛り込んだ「低炭素社会づくり行動 計画」が閣議決定された。 政府における動きの一方で、2009 年 4 月「地球温暖化対策基本法案」「低炭素社会づく り推進基本法案」が国会に提出されるなどの動きがあったが、いずれも第 171 回国会で、 衆議院解散により未付託未了となり廃案となっている。 2009 年 9 月 22 日、国連気候変動首脳会合における演説で、鳩山総理は、1990 年比 25% 削減というわが国の GHG 削減の中期目標を表明し、途上国支援として「鳩山イニシアテ ィブ」を発表し、その後の COP15 において、2012 年末までの 3 年間で官民合わせて1兆 7,500 億円(約 150 億ドル)の支援の実施を表明している。 46 温室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、グリーンニューディール (GND)研究レポート、2010 年 9 月 -129- 「コペンハーゲン合意」に基づき、わが国は、条約事務局に対して「1990 年比で 25% 削減」という中期目標を提出した。政府はこの目標を達成するための政策を「チャレンジ 25」と名付け、2009 年 12 月 30 日に閣議決定された新成長戦略(基本方針)において、 「グ リーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」が掲げられ、「環境・エネル ギー大国」をめざすため、あらゆる政策を総動員して「チャレンジ 25」の取り組みを推進 するとしている。また、長期的には、2009 年 11 月に日米両国首脳の間で合意された「気 候変動交渉に関する日米共同メッセージ」において、2050 年までに自らの排出量を 80% 削減することをめざすこととし、「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ検討会」が 環境省に設置され検討が行われている。 47 6-2-2 排出量取引制度の動き 排出量取引制度は、古くは 1970 年代から米国で SO2 や NOx の排出削減手法として用いられ てきた。CO 2 についても、2002 年に開始された英国排出量取引制度〔UKETS、現在は欧州排出 量取引制度(EUETS)に合流〕をはじめ、2005 年からは EU でも排出量取引制度が導入された。 米国ではシカゴ気候取引所(Chicago Climate Exchange:CCX)のような民間主導の取引も活発 化している。また、州等の地域レベルでの排出量取引制度も複数導入を計画している。 最近の動きとして、2007 年 10 月の国際炭素行動パートナーシップ(International Carbon Action Partnership:ICAP)の創設や、2009 年 1 月の欧州委員会の「次期枠組みに関する包括的な提案」 にみられるように、世界各地の国内排出量取引制度をつなごうとする動きもみられる。 世界の排出量取引制度の概要を表6-3、世界の排出量取引総量と取引額の推移を表6-4 に示す。 表6-3 47 世界の排出量取引制度の概要 欧州 欧州排出量取引制 度(EUETS) 2005 年開始。現在第 2 フェーズ(2008~2012 年)。 EU27 カ国、約 1 万 1,400 の直接大型排出源施設を 対象とする。 米国 北東部地域 GHG 削 減イニシアティブ (RGGI) 2005 年、北東部 7 州が合意。2009 年から第 1 遵守 期間 (2009~2014 年) 開始。現在は 10 州が取引 に参加、その他米国 1 州、カナダ 3 州の計 4 州が オブザーバー参加。2008 年から 2009 年までに 6 度 のオークションを実施。2010 年は 4 度のオークシ ョンを開催予定。 米国等 中西部地域 GHG 削 減協定 (MGGA) 2007 年 11 月、米国中西部 6 州とカナダ 1 州の計 7 州が発表。その他オブザーバーとして、米国 3 州、 カナダ 1 州の計 4 州が参加。2009 年 6 月、2012 年 からのキャップ・アンド・トレード制度の導入に 向けた制度設計草案を発表。 米国等 西部気候イニシア ティブ (WCI) 2007 年 2 月発表。2012 年に排出量取引制度導入予 定。現在、米国 7 州、カナダ 4 州の計 11 州が参加、 その他米国 6 州、カナダ 1 州、メキシコ 6 州がオ 地球温暖化対策、衆議院調査局環境調査室、2010 年 -130- ブザーバー参加。 米国 シカゴ気候取引所 (CCX) 2003 年開始。現在第 2 フェーズ (2007-2010 年) 300 団体が参加。 米国 米国気候行動パー ト ナ ー シ ッ プ (USCAP) 2007 年 1 月発表。企業 30 社等が参加。連邦政府に キャップ・アンド・トレード等の排出削減の制度 化を求める。 EU、米国、日本等 国際炭素取引協定 (ICAP) 2007 年 10 月発表。EU、ニュージーランド、WCI、 RGGI 等が排出量取引の共通化を視野に、情報共 有。日本政府はオブサーバー参加。2009 年 5 月、 東京都が正式メンバーとして加盟。 カナダ 気候変動政策 2007 年 4 月発表。2010 年に排出量取引制度を導入 予定。 オーストラリア 排出量取引制度 2007 年 5 月発表。2011 年に排出量取引制導入予定。 2010 年 2 月、同制度に関する法案を議会に提出し ている。 オーストラリア ニューサウスウェ ールズ州 2003~2012 年、排出量取引制度を運用中。 NZ 排出量取引制度 2007 年 9 月発表。2008 年、森林部門へ導入、以後 2015 年まで順次対象部門を拡大予定。2009 年 11 月、同制度に関する法案が可決された。 出所:環境省ホームページ48 表6-4 世界の排出量取引総量と取引額 注)1) EUA とは EU(欧州連合)のみで取引されるアローワンス(割当量)のこと。 48 環境省ホームページ http://www.ets-japan.jp/ovs/index.html -131- 2) Primary CER とは CDM プロジェクトから直接獲得でき、将来発生するであろう排出権を指し、プ ロジェクトベースで取引されている炭素市場の代表的な排出権でもある。 3) Secondary CER は通常その取引が先物や先渡契約で行われ、手続きも簡略化されている。価格は取 引リスクやカウンターパーティーリスクがあること、EU 域内排出量取引制度 (EU-ETS) 内での 使用量に制限があること等の理由により、現在は EUA 価格の約 80%の値段で見積もられている。 Secondary CER は Spot CER とも呼ばれる。 出所:諸外国における排出量取引の実施・検討状況、環境省、2010 年 11 月 6-2-3 新たなメカニズムに向けた動き 2007 年にインドネシア・バリで開催された COP13/CMP3 では、2013 年以降の次期枠組みづ くりの交渉が開始され「バリ行動計画」が採択された。バリ行動計画は 5 つの要素から成り、 COP15 で次期枠組みに関しての合意をめざしていた。しかしながら、COP15 コペンハーゲン会 議においても 2013 年以降の気候変動の枠組みについて明確な合意形成ができず、今なお 2 つ の AWG において議論が進行中である。 次期枠組み交渉では、個別プロジェクト単位を基礎とする CDM とは別に、途上国が設定し た目標値(参照値)の超過達成分に対して、まとめてクレジットを付与する仕組みが検討され ている。これまでの AWG の議論のなかで注目を集めているのが、途上国における排出削減分 (クレジット)を先進国の削減分として繰り入れることを認める以下の制度である。これらの 制度は「(新)柔軟性メカニズム」とも呼ばれている。 1) NAMA (Nationally Appropriate Mitigation Actions)クレジット 途上国が削減行動を登録したうえで実際に削減がなされた場合にクレジットを認める。 NAMA クレジットは、途上国の気候変動政策に何らかの数値目標にコミットさせる誘因と なる点に意義がある。 2) セクター別クレジットメカニズム(Sectoral Crediting Mechanism:SCM) 鉄鋼や電力など産業部門ごとに削減目標を設定し、目標を超えて削減を達成した途上国 にクレジットの発行を認める。SCM は、中国やインドなどにおける重工業部門での大幅な 排出削減につながる可能性が期待できる。 3) REDD 森林の破壊や減少を防いだ途上国に対し、先進国に売却可能なクレジット発行を認める。 REDD は、中南米や東南アジアの熱帯雨林の伐採を防止するためのインセンティヴとなる 可能性を秘めている。REDD の対象とする森林管理の範囲を広げる議論があり、森林の減 少・劣化の防止に加えて、積極的に炭素蓄積を増やす行動も含める「REDD+(プラス)」 という考え方も提案されてきた。REDD+が加わることで、インドや中国など森林減少の 止まった国においても森林管理の強化や植林などで炭素蓄積を増やせば、排出削減となる 余地が出てくる。 49, 49 50 50 今後の新たな柔軟性メカニズムの在り方について、上田康治、温暖化対策 CDM/JI 事業調査シンポジウム 2010、地球環境セ ンター、2010 年 ポスト京都で重み増す“炭素蓄積”途上国の森林減少防止を CO2 削減にカウント、金子憲治、日経エコロジー http://eco.nikkeibp.co.jp/article/special/20100324/103458/?P=1 -132- 以下では上記 NAMA 及び SCM のほか、わが国が提唱している「セクター別アプローチ」 「二 国間クレジット」などについて、世界の新たなメカニズムに向けた動きを述べる。なお、REDD については本調査の対象から外れることから割愛する。 (1) NAMA バリロードマップの合意事項である「途上国による計測・報告・検証可能な手法での緩 和行動」が根拠となっており、途上国が自発的に行う「国内の適切な削減行動(NAMAs)」 に対し、炭素クレジットを付与しようとするものである。この NAMA は、「持続可能な開 発の文脈において」行われるものであり、しかも「測定・報告・検証可能な形(MRV)で の技術、資金、キャパシティビルディング」によって支援され可能になるものとされてい る。 NAMA と既存の CDM との最大の違いは、プロジェクトベースである必要がないことで あり、効率性基準によるプログラムベースまたはセクター別ベースの CDM などがその例 として考えられる。なお、既存の CDM の仕組みの中でも、現在ではプログラム活動 CDM (PoA CDM)が認められており、特定の場所に限定されない複数の活動が対象になってい る。しかし、これまで数件の PoA 案件の設計書が UNFCCC 事務局に提出されてきたが、 登録申請まで至った案件は出てきていない。 NAMA には、一般的に Unilateral NAMAs、Supported NAMAs、Credited NAMAs の 3 種類 あるとされ、炭素クレジットが付与されるのは Credited NAMAs であると理解されている が、現段階では明確な規定はない。NAMA の仕組みは、途上国が各国の削減行動と目標値 (参照値)を登録したうえで、参照値を超過達成した場合にクレジットを発行するという ものであり、途上国が削減行動を実施するためには、先進国からの資金や技術の支援が必 要になる。目標値を達成しなくてもペナルティはない(No Lose と呼ばれる)。 AWG-LCA では、韓国は NAMA クレジットメカニズム、ニュージーランドは NAMA ク レジットメカニズムと NAMA トレードメカニズムを提案している。これらの詳細な内容 は定まっていない(図6-4)。 51, 51 52 53 52, 53 プログラム型 CDM(活動プログラム(PoA))、財団法人地球環境センター http://gec.jp/jp/index.html 市場メカニズムに関する国際交渉の最新動向、水野勇史、IGES 排出量取引セミナー-海外制度、2009 年 10 月 次期枠組における途上国削減行動について、WWF ジャパン気候変動プログラム、スクール「コペンハーゲン 2009」、2008 年 -133- 出所:次期枠組みに向けた CDM 改革、小圷一久、温暖化対策 CDM/JI 事業調査シンポジウム、2009 年 図6-4 NAMA クレジット・トレーディングのイメージ案 (2) SCM NAMA クレジットのうち、電力、鉄鋼などセクターごとに排出削減行動の参照値を設定 し、セクター対策ごとに超過達成分についてクレジットを発行する制度を SCM と呼ぶ。54 2013 年以降の気候変動枠組における CDM 改革の議論のなかで、SCM が脚光を浴びてい る。2009 年 1 月には欧州委員会が、「新興国や厳しい国際競争にさらされている経済部門 においては、プロジェクトベースの CDM を段階的に廃止し、SCM に移行すべき」という 文言を含んだコミュニケを発表した。さらに、2009 年 7 月にイタリアで開催された G8 サ ミットで発表された首脳宣言にも、新興国と開発途上国の炭素市場メカニズムへの参加を 促すための施策として、SCM の重要性が示唆された。AWG-LCA では、EU が SCM 及びセ クター別トレードメカニズム(Sectoral Trading Mechanism:STM)を提案している。 55 以下では、SCM の中でも、代表的な例である「ノールーズ目標」及び「セクトラル CDM」 について述べる。 1) ノールーズ目標 欧米を中心に、SCM の制度設計に関してさまざまな提言がなされているなかで、現在、 最も注目を浴びているのが、欧州委員会による提案である。この提案は、セメント、鉄 鋼などのセクター別に設定される、拘束力のない GHG 排出削減目標(ノールーズ目標) に基づくものである。目標は BAU(現状維持)シナリオにおける排出量よりも厳しく設 定され、目標を超えて削減された場合は、超過削減分に対して炭素クレジットを付与す るが、目標を達成できなかったとしても罰則などは科せられない(図6-5)。 現行の CDM はプロジェクトベースの市場メカニズムであり、個々のプロジェクトが 達成した排出削減に対してクレジットが付与される。そのクレジットが先進国の排出削 54 55 地球温暖化対策について、経済産業省 http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/global.html CDM 改革の行方、林 大祐、海外投融資財団、2009 年 -134- 減目標の達成に使われれば、結果として正味の排出削減はゼロとなるため、オフセット メカニズムとよばれている。SCM は、① 現行のプロジェクトベースの CDM よりも広 い範囲で途上国の排出削減を促し、② BAU 排出量よりも厳しい目標をクレジット化の 基準(ベースライン)とすることで、ゼロサムゲームであるオフセットから正味の排出 削減を生み出すメカニズムへと移行したいという欧州委員会の意図がある。 目標設定に際しては、セクターごとに共通評価基準(生産 1 単位当たりの CO2 排出量 など)に基づいて目標水準を設定するベンチマーク方式を前提としている。SCM の制度 設計に関して最も重要な点は、どのような評価基準に基づいて目標を立てるかである。 一般的に、同一的な生産物を扱っているセクター(電力、セメントなど)では、共通の 評価基準を定めやすい。 SCM における課題としては、次のようなものがある。 ① クレジットの受け取り手はセクターのコーディネーター(政府、産業団体など)と なり、これらは必ずしもプロジェクト実施者と一致しないため、排出削減プロジェク トへの投資インセンティブが制度設計に大きく依存する。コーディネーターはプロジ ェクト実施者に対してクレジット、もしくはクレジット収入を何らかの形で配分する ことになるであろうが、現行の CDM に比べてプロジェクトへの投資インセンティブ が間接的になってしまう可能性がある。 ② セクター内のある企業が大幅削減を達成しても、別の企業が排出を増加させ、結果 としてセクター全体の排出が増加すれば、削減達成をした企業はクレジットを獲得で きないという状況も起こり得る。つまり、公平なクレジット配分規定が事前に合意さ れない限り、投資インセンティブに悪影響を及ぼす可能性もある。 SCM は莫大な量のクレジットを供給する可能性を秘めていると考えられている。すべ ての新興国が参加すると仮定すると、2020 年までの EU と米国の需要の 3 分の 2 を鉄鋼 産業からの供給のみで賄うポテンシャルがある。さらに、ブラジル、中国、メキシコの セメント産業からの供給を加えると EU と米国のすべての需要が満たされ、その他のセ クターからの供給によって市場が供給過剰に陥る可能性もあるとされる。 出所:CDM 改革の行方、林 図6-5 大祐、海外投融資財団、2009 年 ノールーズ目標の仕組み -135- 2) セクトラル CDM セクトラル CDM とは、今までの CDM の構造を基本的には維持しつつ、その対象を セクターまで広げようという考え方である。CDM との最大の違いは、対象範囲がセクタ ー(部門)にまで及ぶという点であるが、そのほかの点、特に追加性審査などが必要な 点は、CDM とは変わらない。ノールーズ目標との比較でいえば、削減量及び削減クレジ ットは、ベースラインに対して決まるため、CDM の本質的な特徴であるオフセット・メ カニズムとしての性質は引き継ぐことになり、地球大での排出量削減には貢献しない。 「クレジットの割引(discount)」という考え方をこの仕組みに加えた場合はこの限り ではない。これは、文字どおり、達成された排出削減量を「割り引いて」クレジットを 発行するという考え方である。例えば、X というプロジェクトによって、ある国のセク ターで排出量が 100t 削減されたとする。通常の CDM プロジェクトであれば、この 100t がそのまま削減クレジットになるが、割引の仕組みの下では「50%」などの割引率があ らかじめ設定され、その率で割り引かれた分(この例では 50t)しかクレジットが発行 されない。そうすると、実際に発生している削減量のうち、半分までしか先進国では排 出量が許されないため、地球規模でのネットで GHG 削減につながる(図6-6)。 56 出所:次期枠組みに向けた CDM 改革、小圷一久、温暖化対策 CDM/JI 事 業調査シンポジウム、2009 年 図6-6 クレジット割引の考え方 (3) セクター別アプローチ 2007 年日本政府は COP13 バリ会議において、ポスト京都議定書の国際枠組みづくりの 選択肢として「セクター別アプローチ」を提唱した。その内容は、産業・運輸・家庭など のセクターごとに特定の技術や産業などに焦点を当て、GHG 削減ポテンシャルを算出し、 それを国別の総量目標に反映させる手法である。GHG 削減ポテンシャルは、省エネ技術の 普及率などを調査し、最も効率の良い技術を導入した場合を想定して算出する。「積み上 56 次期枠組における途上国削減行動について、WWF ジャパン気候変動プログラム、スクール「コペンハーゲン 2009」、2008 年 -136- げ方式」ともいわれ、政治判断で削減目標を義務づけた京都議定書とは違い、公平で統一 的な基準に基づいて国別削減目標を定めようとする考え方である(図6-7)。 それ以前に、米国のシンクタンクである Center for Clean Air Policy(CCAP)は、途上国 に削減目標を課すという命題に対し、国全体での削減目標を設定することは難しいとして も、特定のセクターやエネルギー多消費産業だけでも何らかの削減目標を設定する手法と して「Sector-Based Approach」を提唱している。 日本政府も、途上国への配慮として、上述の積み上げ方式のほかに、オプションとして、 各部門ごとの優れた省エネ技術やベストプラクティスの国際的な共有・技術協力を行う「協 力的セクター別アプローチ」の考え方を追加的に提唱した。その後は、気候変動枠組条約 締約国会合、G8、主要経済国会議(MEF)などでも議論されているものの、各国の思惑も 絡み、具体的なアプローチを策定するまでには至っていない。これまでに、国際エネルギ ー機関(IEA)は主要産業別のセクター別アプローチの可能性を検討し、東京大学の澤教 授らによる「日本版セクター別アプローチ」の提案などが行われている。57 クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(Asia-Pacific Partnership for Clean Development and Climate:APP)はアジア太平洋地域において、増大するエネルギー 需要、エネルギー安全保障、気候変動問題などに対処することを目的として、2005 年 7 月 に立ち上げについて合意された枠組みである。APP はクリーンで効率的な技術の開発・普 及・移転のための協力を行う地域協力の官民パートナーシップであり、日本、オーストラ リア、カナダ、中国、インド、大韓民国(以下、「韓国」と記す)、米国の 7 カ国が参加し ている。 APP では、官民が連携して取り組みを進める「セクター別アプローチ」をとることによ り、それぞれのセクター・対象分野の固有の実情を踏まえた実効的な削減対策を実施する ことが可能で、これまでに 100 件を超えるプロジェクトが進められている。 58 出所:2009 エネルギー白書、資源エネルギー庁 図6-7 57 58 セクター別アプローチの考え方 地球温暖化問題を考える、齋藤 潔、社団法人日本電機工業会、2010 年 平成 22 年版環境・循環型社会・生物多様性白書、環境省 -137- (4) 二国間、多国間クレジット 2009 年の特徴のひとつとして、多国間協力のほか、気候変動に関する二国間協力が大き く進展したことが挙げられる。代表的な二国間協力としては、米国-中国・インド・メキ シコ・ブラジル、EU-中国・インド・ロシア、日本―中国・インド・インドネシアなどが 挙げられる。59 ここではわが国の経済産業省(以下、「経産省」と記す)及び環境省が進める二国間、 多国間クレジットについて、その概要を述べる。なお、二国間、多国間クレジット等の新 たなメカニズムを構築し推進する根拠となるわが国の政策は以下のとおりである。 ・ 途上国支援に関する「鳩山イニシアティブ」(2009 年 12 月 16 日発表) ・ 地球温暖化対策基本法(2010 年 3 月 12 日閣議決定) ・ 新成長シナリオ~「元気な日本」復活のシナリオ(2010 年 6 月 18 日閣議決定) 1) 経産省 経産省は二国間クレジット制度の実現に向けて以下のような活動を行っている。 アクション 100 a) 経産省は 2010 年 8 月に「平成 23 年度経済産業政策の重点 新成長戦略実現アクシ ョン 100」を発表し、100 のアクションを提示した。その中で本調査と関連するアク ションは以下のとおりである。 60 ① ② Action 21:グリーン・イノベーション分野における技術開発に重点的に取り組む。 ・ 先進超々臨界圧火力発電実用化要素技術開発 ・ クリーンコール技術開発(革新的 CO2 回収型石炭ガス化技術開発) Action 26:二国間クレジット制度構築に向けたパイロットプロジェクトを推進す る。併せて、GHG クレジットを生み出す海外プロジェクトを発掘・展開支援する。 ③ Action 27:高効率石炭火力発電や CCS、スマートグリッド等の海外へのインフラ 関連技術・システム輸出を強力に進めるため、政策対話等の場を活用し、わが国の 優れた技術・システムの導入に向けた働きかけや、実証事業等を実施する。 b) 各国との協議 経産省は東南アジアを中心に、二国間約束に向けた政府間協議を開始している。協 議の内容としては、排出量の計測、クレジットの認定、クレジットの配分等を含むも のである。これまでに政府間協議を実施した国は、ASEAN+3〔ベトナム、カンボジア 王国(以下、 「カンボジア」と記す)〕、ベトナム、インドネシア、インド、フィリピン、 ラオス人民民主共和国(以下、「ラオス」と記す)、タイである。経産省の二国間クレ ジット制度案を図6-8に示す。 59 60 気候変動に関する意思決定ブリーフノート No.3、国立環境研究所、2009 年 10 月 経済産業省、新成長戦略実現アクション 100 市場機能を最大限活かした新たな官民連携の構築、平成 23 年度経済産業政 策の重点、2010 年 8 月 -138- 出所:二国間クレジット制度について、経済産業省、2010 年 10 月 図6-8 c) 二国間クレジット制度(案) 二国間クレジット制度パイロットプロジェクト事業 経産省は「二国間クレジット制度パイロットプロジェクト事業」の公募を本年度 (2010 年)2 回実施している。第 1 次公募結果では、石炭火力、送配電、鉄鋼、セメ ント、再生可能エネルギー、道路交通、工場省エネ、REDD など温室効果ガス排出削 減の観点から重要な分野について 15 件が採択されている。第 2 次公募結果では、原 子力、CCS のような CDM の対象外の分野や交渉上重要な国を中心に、質の高い案件 を 15 件採択したとしている(表6-5)。 61 61 二国間クレジット制度について、経済産業省、2010 年 10 月 -139- 表6-5 経産省・二国間クレジット制度パイロットプロジェクト事業 出所:二国間クレジット制度について、経済産業省、2010 年 10 月 -140- 2) 環境省 環境省における二国間クレジット制度実現のための活動は以下のとおりである。 二国間・多国間メカニズムに対する方針 a) ・ 途上国等における新たなメカニズムを想定した案件の発掘や、既に実施されてい るキャパシティビルディング等の既存のチャンネルも活用しつつ、二国間・多国 間メカニズムに対する理解を深める。 ・ 理解が深まった途上国等との間で、上記取り組みの両国間の認知度を上げ、更な る取り組みの拡大を図るため、協定の締結等に取り組む。 ・ 上記取り組みと並行して、その成果も踏まえつつ、二国間・多国間メカニズムの 制度設計をより精緻化するための検討を行う。また、2013 年以降の次期枠組みに おいては、従来のメカニズムズの改善が図られるよう、また、次期枠組みの新柔 軟性メカニムに、二国間・多国間メカニズムが組み込まれるよう、国際交渉にお いて必要な主張を行う。 62 b) 二国間・多国間メカニズムへの取り組み 環境省の新メカニズムへの取り組みを図6-9に示す。 出所:今後の新たな柔軟性メカニズムの在り方について、上田康治、温暖化対策 CDM/JI 事 業調査シンポジウム 2010、地球環境センター、2010 年 9 月 図6-9 62 環境省の新メカニズムへの取り組み 今後の新たな柔軟性メカニズムの在り方について、上田康治、温暖化対策 CDM/JI 事業調査シンポジウム 2010、地球環境セ ンター、2010 年 -141- c) 新柔軟性メカニズム実現可能性調査 環境省は、温室効果ガス排出削減の効果が期待される CDM や JI に関する新規プロ ジェクトを発掘・支援するため、1999 年度から CDM/JI 事業調査(実現可能性調査) を実施している。従来の事業に加え、今年度(2010 年)の調査から 2013 年以降の次 期枠組みの下で導入される可能性のある新たな柔軟性メカニズムの制度設計の検討に 資する知見・経験を集積することを目的として、 「 新柔軟性メカニズム実現可能性調査」 の案件募集を行い、3 案件が採択されている(表6-6)。 表6-6 2010 年度新柔軟性メカニズム実現可能性調査 調査名 調査分野 廃棄物管理 採択案件一覧 廃棄物及び廃水管理部門の総合的NAMA実現可 能性調査 対象国 事業区分 タイ NAMA 交通 交通 NAMA 実現可能性調査 ラオス NAMA その他 泥炭管理NAMA実現可能性調査 インドネシア NAMA 出所:今後の新たな柔軟性メカニズムの在り方について、上田康治、温暖化対策 CDM/JI 事業調査シンポジウム 2010、地球環 境センター、2010 年 9 月 6-3 インドネシアにおける気候変動対策 6-3-1 気候変動対策の概要 (1) インドネシアの GHG 排出量 インドネシアは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)・京都議定書において非付属書 I 国であり、GHG の排出削減義務は負っていないが、経済成長に伴うエネルギー消費量の増 加等により、GHG の排出量は近年急増している。森林に由来する CO 2 を含めれば、米国、 中国に次ぐ世界第 3 位の GHG の排出国である。 インドネシアにおける GHG 排出量の部門別内訳を(表6-7)に示す。インドネシア で最大の GHG 排出源となっているのは「土地利用・土地利用変化及び林業」(Land Use, Land Use Change and Forestry:LULUCF)であり、総排出量の 71.3%に達する。インドネシ アの GHG 排出量は LULUCF を含まない場合世界第 12 位にとどまるが、LULUCF(森林・ 泥炭火災を含む)の GHG 排出量を含めると世界第 3 位となる。同国の森林・泥炭火災由 来の GHG 排出量は非常に大きく、1997 年に発生したインドネシアの大規模森林・泥炭火 災による炭素放出は世界全体の炭素放出の 13%から 40%に達する。それゆえ、同国の森 林・泥炭火災の防止は極めて重要な国際的課題となっている。 63 63 室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、グリーンニューディール (GND)研究レポート、2010 年 9 月 -142- 表6-7 インドネシア部門別 GHG 排出量(2005 年) 出所:温室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、 グリーンニューディール(GND)研究レポート、2010 年 9 月 (2) 気候変動対策 2009 年 12 月ユドヨノ大統領は Business as Usual (BAU)レベルで 2020 年までに 26% の GHG 削減、海外の支援があれば 2050 年までに 41%の削減を行うと表明した。インドネ シアは COP13 の議長を務め、2013 年以降のポスト京都議定書の枠組み構築に向けた行動 計画(バリロードマップ)を取りまとめたほか、同国自身の包括的な緩和・適応策の実施 に向けた国家行動計画を発表するなど、途上国の中でも積極的に気候変動問題へ取り組ん でいる。 環境省(KLH)からは National Action Plan Addressing Climate Change(RAN-PI)及び Second National Communication、国家開発庁(BAPPENAS)からは Climate Change Roadmap 及び 中期開発計画(Medium Term Development Plan 2010-2014:RPJM) が発表されている。国 家気候変動委員会(DNPI)はインドネシア GHG 削減コスト曲線を算出し、カリマンタン 地方・ジャンビ地方の低炭素経済発展支援についての戦略報告書などを作成している。 2007 年の National Action Plan Addressing Climate Change では、気候変動の包括的な緩和・ 適応策の実施に向け、森林、エネルギー、水資源、農業等の広範な分野を対象に、即時 (2007-09)、短期(2009-12)、中期(2012-25)、長期(2025-50)の行動指針を定めた。ま た、2008 年 7 月には、National Development Planning: Indonesia Responses to Climate Change を策定し、予算面及び各省の年次計画・中期開発計画との連携強化を図った。 インドネシアは日本との気候変動対応プログラムローンの協力関係にあるが、このプロ グラムローンには、さまざまな形で多くの大学が関与している。Padjadjaran 大学の Arief Anshory Yusuf の研究グループでは、一般均衡モデルである INDONESIA-E3 を利用して、 経済(Economy)、衡平(Equity)、環境(Environment)の 3 つの E に対しての分析が進め られている。Bandung 工科大学 Center for Research on Energy Policy ではエネルギー分野で の研究、Bogor 農科大学 Centre for Climate Risk and Opportunity Management では森林分野 -143- での研究が行われ政策決定者に発信されている。 64 インドネシアにおける気候変動対策の経緯を表6-8に示す。 表6-8 インドネシアにおける気候変動対策の経緯 1994 年 8 月 国連気候変動枠組条約批准(署名:1992 年、発効:1994 年) 1996 年 共同実施活動(AIJ)開始 1999 年 10 月 非附属書Ⅰ国として第 1 回目の国別報告書(National Communication)を 提出 2001 年 9 月 CDM 国家戦略研究(エネルギーセクター)が完成 2002 年 6 月 エネルギーセクターCDM 国家チームを設置 2003 年 3 月 CDM 国家戦略研究(森林セクター)が完成 2003 年 4 月 気候変動対策委員会(National Commission for Climate Change; Komisi Nasiomal Perubahan Iklim)の設置 2004 年 12 月 京都議定書批准(署名:1998 年、発効 2005 年) 2005 年 7 月 CDM の指定機関として「CDM 国家委員会」を組織 2007 年 12 月 2007 年 12 月 2008 年 7 月 2008 年 7 月 国連気候変動枠組み条約第 13 回締約国会議(COP13)をバリで開催し、 「バリ・ロードマップ」を採択。 「 気 候 変 動 の た め の 国 家 行 動 計 画 ( National Action Plan Addressing Climate Change)」を策定 「 気 候 変 動 に 対 す る 国 家 開 発 計 画 ( National Development Planning: Indonesia Responses to Climate Change)」を策定 国家気候変動協議会〔Dewan Nasional Perubahan Iklim(National Council for Climate Change):DNPI〕の設置 国家気候変動推進協議会 DNPI が指定国家機関(Designated National 2009 年 10 月 Authority:DNA)の事務局に指定される。DNPI はインドネシアにおけ るナショナルフォーカルポイントであり、インドネシア大統領が議長を 務める。 ユドヨノ大統領によるインドネシアは 2020 年までに温暖化ガス排出を 2009 年 12 月 BAU レベルで 26%減少させるとの目標表明。海外の支援があれば 2050 年までに 41%の削減を行うと表明。 2010 年 12 月 COP16 に第 2 回目の国別報告書(Second National Communication)を提 出予定 出所:京都メカニズム情報プラットフォーム、京都メカニズム国別ポートフォリオ65(一部改)、National Council on Climate Change, Indonesia 66 64 65 66 炭素社会研究 2009、低炭素社会国際研究ネットワーク(LCS-RNet)事務局、2010 年 3 月 都メカニズム情報プラットフォーム、京都メカニズム国別ポートフォリオ http://www.kyomecha.org/ National Council on Climate Change, Indonesia http://id.linkedin.com/pub/amanda-katili/8/169/bb6 -144- 6-3-2 エネルギーセクターの対策概要 インドネシアにおけるセクター別の GHG 排出量は、LULUCF が 71.3%でインドネシア全体 の排出量の 3 分の 2 近くを占めている。次いで、エネルギーセクターの 19.4%であり、2 つの セクターを合わせるとインドネシア全体の約 9 割を占めることになる。前述したように、 LULUCF 対策については、森林伐採や大規模プランテーション開発などインドネシアの社会経 済的な要因が複雑に絡んでいるうえ、新たな柔軟性メカニズムとして注目されている REDD に ついても国際的な排出権制度の確立にはかなりの時間を要するため、今後の LULUCF セクター における GHG 排出削減対策には困難が予想される。一方、エネルギーセクターについては、 以下に述べるように、かなり具体的な取り組みが開始されている。 2003 年の最終エネルギー消費は、石油 54.4%、天然ガス 26.5%、石炭 14.1%であり、この 3 部門で実に 95%を占めていた。しかしながらインドネシアは 2004 年から石油の純輸入国に転 落したことから、政府はしだいに再生可能エネルギーの開発に力を入れるようになった。2005 年末には同国政府は石油依存度を下げ、石炭や天然ガスの割合を引き上げる一方、バイオ燃料 を含む再生可能エネルギーの利用を拡大する政策を発表した。政府の政策の変化に伴い 2005 年のエネルギー消費は、石油 20%、石炭 33%、天然ガス 30%、バイオ燃料 5%、地熱 5%、そ の他再生可能エネルギー5%、液化石炭 2%となり、石油への依存度が低下し、再生可能エネル ギーのシェアが増加した(図6-10)。政府は、2007 年に石油製品に対する補助金を大幅に削 減する措置をとるなど、石油の国内消費の一層の削減に取り組んでいる。 67 出所:温室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアル プロジェクト、グリーンニューディール(GND)研究レポート、2010 年 9 月 図6-10 インドネシアのエネルギー消費(2005 年) 2006 年 1 月には大統領令第 5 号国家エネルギー政策 (National Energy Policy) が公布され、 2025 年のエネルギー消費目標として石油 20%、新エネルギー及び再生可能エネルギー17%、 石炭 33%、天然ガス 30%とした。新エネルギー及び再生可能エネルギーの内訳は、バイオ燃 料 5%、地熱発電 5%、石炭液化 2%、その他 5%(バイオマス、原子力発電、太陽光発電、風 力発電)である。これまで原子力発電の事業主体に関する議論はあまり行われてこなかったが、 67 室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、グリーンニューディール (GND)研究レポート、2010 年 9 月 -145- 事業としての原子力発電が議論されることになった。 68, 69 2010 年 1 月には大蔵省令 2010 年第 10 号(No.21/2010)が公布され、再生可能エネルギーに 関する税制上の優遇措置が講じられた。同省令は、地熱、風力、バイオ燃料、太陽光、水力、 海流・海洋温度差を再生エネルギーと定め、再生エネルギー事業に対する投資額の 30%分の課 税所得からの控除、固定資産の償却期間の短縮、外国への支払い配当源泉税率の 10%への引き 下げ、欠損金の繰越期間の最大 10 年への延長、スペアパーツを除く機械・機器輸入の際の付 加価値税や輸入関税免除を盛り込んでいる。今回の再生エネルギー向けの優遇税制を通じ、ユ ドヨノ政権が掲げる 2020 年時点で GHG26%削減方針に沿って民間投資を積極的に呼び込む姿 勢を示している。2007 年 11 月に環境省から発表された気候変動国家行動計画でも、エネルギ ー・ミックスの多様化、省エネの推進、CCS を含むクリーンエネルギーの開発を、喫緊の課題 として挙げている。 70, 6-3-3 71 CDM の現状 (1) CDM 管理体制 インドネシアでは、2004 年以降、日本や欧州諸国などの協力により CDM に関する体制 整備、あるいは CDM 案件の発掘・実施を行ってきた。2005 年 7 月 CDM 事業を行ううえ で必要な指定国家機関(DNA)が設立され、CDM 国家委員会 (National Commission for CDM: Komisi Nasional Mekanisme Pembangunan Bersih / KN-MPB) が設置された。同委員会 は事務局と技術チームを含む委員会メンバーによって構成され、必要に応じて専門家グル ープ及び関係者間による特別会合を設置する(図6-11、12)。 それぞれの役割は以下のとおりである。 ① CDM 国家委員会:プロジェクトの承認など実施する。 ② 事務局:プロジェクト申請の受付をはじめ、CDM 審査手続きを円滑に行うための事 務一切を掌握する。また、書式、必要書類の有無などの観点からの書類チェックも行う。 現在、DNPI が事務局を務め、インドネシアにおけるナショナルフォーカルポイントと なっている。 ③ 技術チーム:CDM 委員会を技術面から支援しており、プロジェクトの妥当性を、技 術的・専門的見地から検証している。なお、専門家グループ及びステークホルダー・フ ォーラムからの意見を参考にすることもある。 ④ 専門家グループ、ステークホルダー・フォーラム:必要に応じて設置され、CDM 国 家委員会及び技術チームがその設置の判断を行う。 72 68 2009 エネルギー白書、資源エネルギー庁 インドネシア共和国、社団法人 日本原子力産業協会、2010 年 7 月 70 室効果ガス削減のための新たな国際協力枠組み、アジア太平洋研究所トライアルプロジェクト、グリーンニューディール (GND)研究レポート、2010 年 9 月 71 State Ministry of Environment, “National Action Plan Addressing Climate Change,” Jakarta, Indonesia, November 2007 72 都メカニズム情報プラットフォーム、京都メカニズム国別ポートフォリオ http://www.kyomecha.org/ 69 -146- 出所:京都メカニズム情報プラットフォーム、京都メカニズム国 別ポートフォリオ73 図6-11 CDM 委員会の構成 出所:京都メカニズム情報プラットフォーム、京都メカニズム 国別ポートフォリオ74 図6-12 CDM 承認手続き (2) CDM 実績と課題 従来の CDM メカニズムの下ではインドネシアの GHG 排出削減ポテンシャルは十分に 活用されてこなかった。国連 CDM 理事会に登録されている CDM プロジェクト数は、2010 年 11 月 16 日現在インドネシアは 49 件であり、内容は廃棄物処理関係が 30 件と大部分を 73 74 都メカニズム情報プラットフォーム、京都メカニズム国別ポートフォリオ http://www.kyomecha.org/ 同上 -147- 占めている。関係国は、オランダ王国、スイス連邦(以下、 「オランダ」 「スイス」と記す)、 英国などの欧州勢が最も多く、次いで日本の順となっている。 75 登録件数を中国及びインドと比較すると、中国 1,031 件、インド 561 件であり、インド ネシアの CDM 理事会登録済みプロジェクト数はこれらの国よりもはるかに少ない。また、 CDM 承認済み及び審査中の案件数をみた場合でも、インドネシアの案件数は中国、インド に遠く及ばない(表6-9)。また、2012 年までの GHG 排出削減量でみても、中国の 10.2Mt-CO2e、インドの 2.6Mt-CO2e に対して、インドネシアは 0.2t-CO2e にすぎない。 表6-9 インドネシアにおける CDM プロジェクト件数 出所:IGES CDM 国別ハンドブック、地球環境戦略研究機関、2010 年 7 月 インドネシアが実質世界第 3 位の GHG 排出国であることを考えた場合、これらは極端 に少ない数値である。原因は、6-1-2で述べたように、森林部門が事実上 CDM の枠 外に置かれていることにあり、同国にとっても最も GHG 削減ポテンシャルが高い森林部 門において CDM が全く利用されていないことによると考えられる。2010 年 6 月現在にお ける同国の植林 CDM(A/R CDM)の登録件数は 0 件であり(表6-10)、DNA 有効化審 査中のものを含めてもわずかに 1 件にとどまっている。 76 表6-10 インドネシアにおける部門別 CDM 理事会登録済みプロジェクト 出所:IGES CDM 国別ハンドブック、地球環境戦略研究機関、2010 年 7 月 75 76 アジア太平洋の未来戦略:気候政策と持続可能な開発の融合を目指して、地球環境戦略研究機関、IGES 白書、2008 年 京都メカニズム情報プラットフォーム、京都メカニズム国別ポートフォリオ http://www.kyomecha.org/ -148- 6-3-4 第 2 回国別報告書(Second National Communication) インドネシアの第 1 回目の国別報告書(National Communication)は 1999 年に作成され、今 回が 2 回目となる。第 2 回国別報告書(Second National Communication:SNC) は GEF の資金 提供の下で国連開発計画(United Nations Development Programme:UNDP)の支援により環境省 を中心として作成された。GHG インベントリーとともに 2010 年 11 月にメキシコ・カンクンで 開催予定の第 16 回締約国会議 (COP16) に提出される予定である。 第 1 回目の国別報告書では GHG インベントリーは 1990 年のデータを使用したが、SNC にお ける GHG インベントリーは、2000~2005 年のデータを用いて 2006 IPCC Reporting Guidelines に従って作成された。使用したデータが最新ではないことや、排出係数としてすべて IPCC ガ イドラインのデフォルト値を用いているなど、インドネシアの実情に合わせるため改善の余地 が大きい。今後はインドネシアとして 2 年ごとに国別報告書を出す方針である。 SNC はドラフトの段階であり現在未公開であるため、ここでは既に公開されている「Summary for Policy Makers: Indonesia Second National Communication Under The Unite Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC), MOE(環境省), November 2009」により、SNC の 概要を述べる。 77 (1) GHG インベントリー SNC に記載された GHG インベントリーによれば、最大の GHG 発生源は森林セクター〔土 地利用変化及び林業の活動(Land Use Change and Forestry:LUFC)〕であり、次いでエネ ルギーセクター、泥炭火災(Peat Fire)、廃棄物セクターの順となっている。本調査の対象 であるエネルギールーセクターについては、2000 年においてインドネシア全体の GHG 排 出量の 23%を占め、エネルギーセクターの総 GHG 排出量の 98%は化石燃料の燃焼に起因 している。GHG 排出量の内訳は、石油・ガス精製 51.5%、輸送 18.2%、電力・熱生産 12.2% の順となっている。2000~2005 年までの GHG 総排出量は、2000 年の 33 万 3,540.98 Gg か ら 2005 年の 39 万 5,989.72 Gg に増加しており、増加量として 25%、増加率は 3.74%/年と なっている(表6-11)。 今回 SNC で取りまとめたインドネシアの GHG 総排出量は、これまで WB などの計算結 果よりも低い数値となった。この理由は LUFC 及び Peat の部分の数値が低いことによる。 これは過去の知見が森林破壊の面積や森林火災を過剰に見積もっていることや、情報の少 ないカリマンタンにおける推定量の違いに起因している。インドネシアとしては森林省や 農業省と協力して更に精度の向上に努めるとしている。 77 Summary for Policy Makers: Indonesia Second National Communication Under The Unite Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC), MOE, November 2009 -149- 表6-11 セクター別 GHG インベントリー *LULUCF (LUCF and Peat Fires) 出所:Summary for Policy Makers: Indonesia Second National Communication Under The Unite Nations Framework Convention on Climate Change(UNFCCC), MoE, November 2009 (2) 気候変動対応ロードマップ インドネシア政府は気候変動を開発プロジェクトの中に盛り込むため、National Action Plan on Climate Change (MoE、2007) により GHG 削減と適応活動を示し、この計画をフ ォローするため National Development Planning: Indonesia responses to climate change を作成 した。BAPENAS は 2010~2014 年の 5 年間の中期開発計画(Mid-Term Development Plan: RPJM)及び 2030 年までの PRJM を作成している。BAPPENAS が策定した気候変動対応ロ ードマップのスキームを図6-13 に示す。 出所:Summary for Policy Makers: Indonesia Second National Communication Under The Unite Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC), MoE, November 2009 図6-13 気候変動ロードマップスキーム -150- (3) 資金計画 これらの気候変動対策を促進するため、インドネシア政府は外部からの資金援助を呼び 込 む 施 策 を 展開 す る 計 画 で あ る 。 そ の ひ と つ に Indonesian Climate Change Trust Fund (ICTTF; BAPPENAS, 2009) がある。ICCTF では、以下の 5 つの目的をもっている。 ① エネルギーセクターにおける再生可能エネルギーへの投資促進 ② 森林破壊によるGHG削減のための持続可能な森林管理及びピートランド管理 ③ 沿岸域、農業、水資源における脆弱性の削減 ④ 気候変動対策と適応に対する資金援助 ⑤ 気候変動計画への外部からの資金導入 ICTTF の資金フローを図6-14 に示す。 出典:Summary for Policy Makers: Indonesia Second National Communication Under The Unite Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC), MoE, November 2009 図6-14 ICTTF の資金フロー (4) 気候変動予測 インドネシアでは 14 の数値シミュレーションモデルを作成して GHG 排出量増加に伴う 気候変動シナリオを想定し、その影響を予測している。この数値シミュレーションモデル は General Circulation Models(GCMs)と呼ばれている。その結果、大部分のモデルで、BAU ケースでは、ジャワ、バリ、West Nusa Tenggara(NTB)、East Nusa Tenggara(NTT)、パプ アにおいて乾期の降水量が増加し、他の地域では減少するという結果となっている。また、 2050 年及び 2080 年までにスマトラ北部及びカリマンタンを除いたインドネシア全土で、 より降水量が増加すると予測されている。GHG 排出削減対策実施シナリオでは、上記降水 量の変動パターンは BAU ケースよりも小さくなると予測している。 -151- (5) 気候変動への適応策 1) 農業及び漁業 気候変動は農業の活動パターンを変化させる可能性がある。現在の農業は灌漑水を利 用したコメの二期作が中心であるが、気候変動によって乾期の降水量が激減した場合、 二期作は不可能となり、コメと他の作物の栽培パターンに変えざるを得なくなるかもし れない。ジャワ島におけるコメの収穫量を予測すると、2025 年及び 2050 年では現在よ りもそれぞれ 1,800 万 t 及び 360 万 t 減少するともいわれている。 このような農業への影響を抑えるためには、ジャワ島以外のところに大規模な農地を 造成することや、コメの単位面積当たりの収穫量を増加させることも考慮する必要があ る。気温や降水量の変化に伴う病害虫問題も対策が必要である。 海面レベルの上昇は、直接的には農地の消失及び間接的には塩水の侵入により、農業 に大きな負の影響をもたらす。また、水産業についても沿岸部の養殖池の消滅によりエ ビや魚類養殖などの生産に大きな影響がある。これらの温暖化影響を Subang District を 例に取ってみると、4 万 3,000 人以上が職を失い、8 万 1,000 人の人がほかの収入源を探 さざるを得なくなるであろうと推定される。 2) 海面上昇 多くのモデルは 2050 年及び 2100 年における海面上昇が+25cm 及び+50cm となると 予測している。このような海面上昇により沿岸部の多くの地域が海水に浸ることになる。 また、海水面の上昇に伴い地下水位が上昇し地盤が不安定化する。この水位上昇レベル で水没する島はないが、波浪の影響により Alor (next to Timor Leste)、Pelampong (next to Singapura)、Senua (next to Malaysia)、Simuk and Sinyaunyau (next to India) などの 島々が荒天時には海水に浸ることになると予想される。 3) 水資源 現在でもジャワ島やインドネシア東部の島々では水不足ではあるが、気候変動により、 より多くの地域で水不足が深刻化すると予測されている。このような水不足は人口の急 増と都市部の産業化により一層深刻な問題となる。対策としては、水の余裕のある地域 から水不足の地域へ水を供給するシステムを構築することなどが考えられている。 4) 森林 乾期における降水量の減少及び雨期の期間短縮は森林火災のリスクを高めることに つながる。特に Sumatra 及び Kalimantan の 2 つの島では森林火災が発生しやすくなる。 エルニーニョが発生した場合、森林火災の発生する可能性は一段と増加するようになる。 5) 健康 気候変動によりマラリヤ、デング熱、コレラ、下痢、生物媒介の病気の発生リスクを高 める。デング熱を例にとった場合、年々増加する傾向にあり、ラ・ニーニャが発生して降 水量が増加した際に急増する傾向がある。都市部においては、降水量の少なくない時期に 側溝や水たまりなどの水質が悪化してデング熱やマラリヤが流行する可能性も高い。 -152- (6) エネルギーセクターの気候変動緩和対策 SNC では PEN(Pengelolaan Energi Nasional) :Blueprint of National Energy Management, 2006 (MEMR)における 3 つのシナリオ(BAU、RIKEN、PERPRES)について 2025 年までの エネルギー供給予測を行っている。ここで、RIKEN は国家省エネルギー計画(National Energy Conservation Plan, 2005)であり、GHG 削減シナリオとして、省エネ、発電所のクラ ッシュプログラム、石油から LPG への燃料転換、強制的バイオ燃料の使用などを含んでい る。PERPRES(Peraturan Presiden Republik Indonesia)は「国家エネルギー政策」大統領令 5 号(2006 年 1 月)を意味し、2025 年のエネルギー消費目標として石油 20%、新エネルギ ー及び再生可能エネルギー17%、石炭 33%、天然ガス 30%を掲げている。 PEN の比較対象として、Energy Outlook 2006-2030 の予測結果が併記してある。Energy Outlook 2006-2030 では、BAU のほか、Alternative(ALT)のシナリオとして GHG 削減対策 として IGCC、太陽光発電、廃棄物焼却、炭層ガス(Coalbed Methane:CBM)、石炭液化な どの要素が含まれている。 表6-12 にこれら 2 つの比較結果を示す。PEN 及び Energy Outlook 2006-2030 の BAU 予測値では比較的類似した結果となっており、PEN-RIKEN の予測結果によれば 2020 年に はエネルギーセクターの GHG 削減量は BAU 比で 35~40%の削減が見込めるとしている。 PEN のシナリオに基づくエネルギーセクターの GHG 排出予測結果を図 6-15 に示す。 表6-12 PEN 及び Energy Outlook 2006-2030 におけるエネルギー供給予測 *単位:MMBOE: Million Barrels of Oil Equivalent (石油換算バレル) 出所:Summary for Policy Makers: Indonesia Second National Communication Under The Unite Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC), MoE, November 2009 -153- 出所:Summary for Policy Makers: Indonesia Second National Communication Under The Unite Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC), MoE, November 2009 図6-15 PEN における CO2 排出予測 6-4 電力セクターのケーススタディ 2010 年 3 月 31 日インドネシアにおけるセクター別気候変動対策ロードマップ (Indonesia Climate Change Sectoral Roadmap: ICCSR) が 9 つの重要セクターについて発表された。これらの セクターは、①森林、②エネルギー、③工業、④運輸、⑤廃棄物、⑥農業、⑦海洋・漁業、⑧水、 ⑨健康である。 ここでは本調査の対象である電力セクターにおける GHG 排出削減ケーススタディについて述 べる。主に参考とした ICCSR は以下のとおりである。 ・ ICCSR Energy Sector Part 1 (Jawa-Bali Power System) 78 ・ ICCSR Energy Sector Part 2(Sumatera Power System) 79 ・ ICCSR Energy Sector Part 3 (Gas Flaring Reduction) 80 (1) RUKN/RUPTL RUKN(Rencana Umum Ketenagalistrikan Nasional)はインドネシアにおける電源セクターの 電力需給予測、投資・資金計画、一次エネルギー管理、再生可能エネルギー及び新エネルギ ー計画などを包括的に定める国家電源開発計画である。電力事業者は RUKN に基づき、電力 供給総合計画 RUPTL(Rencana Umum Penyediaan Tenaga Listrik)を作成しなければならない。 インドネシア国有電力会社(Perusahaan Listrik Negara Persero:PLN)は 2009~2018 年の RUPRL を作成しており、同計画には PLN 独自で進めるプロジェクトと IPP スキームの下での民間事 業者の計画が盛り込まれている。第 2 次クラッシュプログラムでは、PLN が水力発電と火力 78 79 80 ICCSR Energy Sector Part 1(Jawa-Bali Power System), BAPPENAS, March 2010 ICCSR Energy Sector Part 2(Sumatera Power System), BAPPENAS, March 2010 ICCSR Energy Sector Part 3(Gas Flaring Reduction), BAPPENAS, March 2010 -154- 発電(ガスと石炭)を主に開発し、IPP は主に地熱発電を開発する方針としている。 81 なお、インドネシアの電気事業は、発電部門を PLN とその子会社、あるいは IPP が受け 持ち、送・配電部門 を PLN が独占してきたが、インドネシア国会は 2009 年 9 月 8 日「新・ 新電力法案」を可決した。改正前の「電力法」では、国有電力公社(PLN)が電気事業を独 占的に行うとされていたが、 「新・新電力法案」では新たに中央・州政府に電気事業の許認可 権を付与することが盛り込まれた。 82 RUKN 及び RUPTL はインドネシアの社会経済状況に合わせて毎年見直されることになっ ている。PLN の RUPTL は Java – Bali System (JBS)のほか、Sumatra、 Kalimantan、Sulawesi、 Nusa Tenggara-Maluku-Papua の 4 地域についてもカバーしている。 (2) CO2 排出予測 PLN は RUPTL に基づき発電セクターからの CO2 排出量を予測している。予測モデルとし ては、電源開発計画シミュレーションモデル(Wien Automatic System Planning Model:WASP) が使用され、まず最適電源投入計画が分析・検討される。Java – Bali System(JBS)を例にと ってみると、超臨界微粉炭火力 1,000MW、亜臨界石炭火力 600 及び 300MW、コンバインド サイクル・ガスービン 750MW、コンバインドサイクル・液化天然ガスタービン 750MW、石 油焚きオープンサイクル・ガスタービン 200MW、地熱発電 55MW、揚水発電 250MW などの 投入が WASP の計算条件として考慮されている。 次に、最適電源投入計画に基づき、時系列に投入予定発電施設からの CO 2 排出量の計算を 行う。計算は各発電設備の燃料消費量と CO 2 転換率から CO2 排出量を求めている。なお、各 パラメー ターには 、気 候変動に 関する政 府間 パネル( Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)のデフォルト値を用いている。RUPTL に基づくインドネシア全体の電力セ クターからの CO2 排出予測を図6-16 に示す。 RUPTL にしたがって発電所の建設が進められた場合、インドネシア電力セクターにおける CO2 排出量は、2009 年の 1 億 1,600 万 MtCO 2 から 2018 年には 2 億 7,000 万 Mtv に達すると 予測される。また、発電方式別にみると、2018 年の CO2 総排出量の 84.5%が石炭火力に起因 すると予測されている。 81 82 2 次クラッシュプログラムの概要、斎藤芳敬、JICA 専門家、2010 年 2 月 インドネシア:新・新電力法が成立、海外電力調査協会 http://www.jepic.or.jp/news/pdf/20090925-04.pdf -155- 凡例:Batubara: 石炭、Gas:天然ガス、LNG:液化天然ガス、HSD:水力、 MFO:石油 出典:ICCSR Energy Sector Part 1 (Jawa-Bali Power System), BAPPENAS, March 2010 図6-16 RUUPTL に基づくインドネシア電力セクターにおける CO2 排出量の予測結果 (3) ケーススタディ(Jawa-Bali 間) Jawa-Bali 間の電力セクターを対象とした CO2 排出予測のケーススタディ結果を以下に示 す。ケーススタディの目的は次のとおりである。 ① CO2 削減ポテンシャル分析 ② 持続可能な CO 2 削減方法の分析 ③ CO2 削減シナリオの検証 ④ 費用対効果の高い CO 2 削減のための戦略・政策の提言 (4) 想定シナリオ 以下のシナリオを想定した(表6-13)。モデルは前述の WASP を使用した。 表6-13 ケーススタディのシナリオ シナリオ 内容 備考 Base-case シ ナ 発電設備の気候変動対策への政策介入のないシナリオ。 リオ 最も費用のかからない発電設備投入計画。 RUPTL シ ナ リ 2009 年時点で想定される実用可能技術あるいは RUPTL 実現性の高いシ オ に記載された技術に基づくシナリオ。再生可能エネルギ ナリオ BAU ベース ー(主に地熱発電)を含む。 Total Carbon 燃料となる石炭及び石油について将来的に可能性のある 想 定 さ れ る CO 2 Emission Cap 技術を Base-case シナリオに追加。最新技術の既存施設へ 削減のためのベ with New の導入や CCS(CO 2 回収・貯留)技術を含む。原子力発電 ストシナリオ。た Technologies and 所については導入するケースと導入しないケースを想定 だし、実現性には with/without している。このシナリオは最先端技術、CCS、原子力発 技術及び資金的 NPP シナリオ 電などを導入した場合に、CO2 排出枠がどの程度の大き などの問題があ さになるのかを調べるものである。 る。 -156- (5) シミュレーション結果 各シナリオのシミュレーション結果は以下のとおりである。 1) Base-case シナリオ CO2 の総排出量は 2009 年の 83 MtCO2 から 2020 年には 236 MtCO 2 に増加した。増加率は 約 185%である(図6-17)。 2) RUPTL シナリオ 2020 年の CO 2 総排出量は、Base-case シナリオの 236 MtCO 2 から RUPTL シナリオでは 218 MtCO2 と約 18 MtCO 2、約 7.6%の削減となる(図6-18)。 3) New Technology and with or without NPP シナリオ このシナリオは火力発電所に最先端技術を導入し、さらに CCS や原子力発電をも考慮し た場合を想定したものである。ここでいう最先端技術とは、超臨界石炭火力発電を意味す る。地熱発電や水力発電は考慮してあるが、新エネルギーや最新の再生可能エネルギーに ついては、大規模な商業ベースでの運転は不可能であるため、このシナリオには含まれて いない。シミュレーション結果は下のとおりである。 a) 原子力発電なしのケース(図6-19) 最先端技術及び CCS を PLTU Indramayu 発電所及び PLTGU Muara Tawar 発電所に導入 した場合、Base-case に比べて約 40 MtCO2、約 17%の CO 2 削減となる。 b) 原子力発電ありのケース(図6-20) 最先端技術のシナリオに約 4,000 MW の原子力発電及び上記 2 カ所の CCS を加えたケ ースでは、Base-case に比べて約 62MtCO 2、約 26%の CO 2 削減となる。 (6) 評価 報告書では上記ケーススタディ結果を以下のように評価している。 「一連のケーススタディにより、最先端の高効率発電技術、CCS や原子力発電の導入は、 CO2 削減を考えるうえで有力なツールであることが分かった。しかしながら、多くの発電所 へ CCS を設置するというような強力な手法を導入しない限り、CO2 の劇的な削減は望めない。 火力発電所への CCS の導入は発電効率を低下させるため、CCS 導入のための補助金や、厳 格に CO 2 排出を取り締まる環境法規などがない限り、CCS は魅力あるものとはなり難い。原 子力発電についても CO 2 削減の観点からは同様である。」 -157- 図6-17 Base-case シナリオ 図6-18 図6-19 New Technology and without NPP シナリオ RUPTL シナリオ 図6-20 New Technology and with NPP シナリオ 出所:ICCSR Energy Sector Part 1 (Jawa-Bali Power System), BAPPENAS, March 2010 -158- 6-5 ドナーの支援 インドネシアの気候変動に係る主要ドナー支援の概要は以下のとおりである。83, 84, 85, 86, 87, 88 (1) 世界銀行 世界銀行(WB)は、気候変動対策戦略(Strategic Framework on Climate Change:SFCC, 2008) において、2009~2011 年度における WB グループの気候変動対応活動のロードマップを示し ており、気候変動問題は、環境問題を超えたより複雑で包括的な問題であり、この問題への 対処は、社会的・経済的変革をもたらす機会ととらえている。 Country Partnership Strategy:CPS(2009-2012)では、貧困撲滅及び経済成長のための投資 環境整備を目標とし、電力セクターにおいてもインドネシアの自立発展性強化のため急増す る電力需要に対するインフラ支援を行うとしている。また、発電効率の改善や IPP 導入等の 電力セクター改革も重視し、近年では、2003 年 6 月に「ジャワ・バリ系統再編・強化事業」 を支援している。 最新の気候変動に関する支援としては、インドネシアの「Country Environmental Analysis 2009」レポートを作成している。同レポートには、①気候変動に対するセクター別対策、② 土地利用と気候変動、③エネルギーと気候変動、等についてインドネシアにおける対策と課 題が述べられている。 2010 年 4 月には総額 2 億米ドルの「Climate Change Development Policy Loan(CC DPL) Program」をインドネシア政府と合意している。同計画は、インドネシア政府の気候変動に対 する政策アジェンダを作成することを目的としている。政策アジェンダの内容は、①インド ネシアの GHG 対策、②重点セクターにおける適応力の向上、③制度及びセクター横断的な 政策の策定などである。 このほか、「Indonesia Climate Change DPL(P120313)や「ID-Aceh Forest and Environment Project(P098052)」などの気候変動関連プロジェクトを実施中である。 (2) 国連開発計画(United Nations Development Programme:UNDP) UNDP は、2007 年 12 月に発表された FAST FACTS において、貧困対策に向けたカーボン・ ファイナンスの取り組みを促進するほか、開発途上国がミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)の達成に向けて、環境・エネルギー・気候リスクマネジメント を考慮した対策を計画・実施できるよう支援を行うとしている。 インドネシアは 2010 年 11 月開催予定の COP16 において第 2 回国別報告書(Second National Communication:SNC)を提出する予定であり、その DRAFT レポートは既に完成している。 SNC の取りまとめは環境省が行い、UNDP はその作成支援を行っている。予算は 40 万 5,000 米ドル、プロジェクト期間は 2007~2009 年である。 2009 年 11 月にはインドネシア森林省と UNDP との間で、UN-REDD programme の調印を行 83 84 85 86 87 88 コベネフィット型気候変動対策と JICA の協力、JICA、2008 年 6 月 Worldbank ホームページ http://www.worldbank.org/ UNDP ホームページ http://www.undp.org/ ADB ホームページ http://www.adb.org/ GTZ ホームページ http://www.gtz.de/en/ ノルウェー大使館ホームページ http://www.norway.or.id/Norway_in_Indonesia/Environment/-FAQ-Norway-Indonesia-REDD-Partnership-/ -159- った。UN-REDD Programme は国連環境計画(UNEP)、国連食糧農業機関(FAO)、国連開発 計画(UNDP)が 2008 年 9 月に共同で提案したもので、ノルウェー王国(以下、「ノルウェ ー」と記す)政府が 3,500 万ドルを拠出している。2010 年 11 月には Draft National Strategy REDD+が作成されている。 UNDP は前述の CC DPL Program において、NAMA についての支援を行っているほか、6 -3-4第2回国別報告書(Second National Communication)で述べた Indonesian Climate Change Trust Fund(ICCTF)のファンドマネジャーを務めており、ICCTF の設立支援を行っ ている。このほか、小水力支援や Country Programme Action Plan (CPAP) 2006-2010 の策定 など多くの分野で活動している。 (3) アジア開発銀行 (ADB) ADB は 10 年以上前から気候変動問題に取り組んでおり、アジア・太平洋の各国に対し、 エネルギー効率向上や再生可能エネルギーをはじめとする低炭素インフラに対する新しい投 資金融メカニズムを提示してきた。 2008 年 5 月 5 日、ADB は気候変動の影響を緩和し、アジア・太平洋地域の各国が地球温 暖化に対応するため、新たに「気候変動基金」 (Climate Change Fund)を設立することを明ら かにした。基金の当初拠出金は 4,000 万ドルであるが、各国や他の開発援助機関、基金、民 間企業などからの追加拠出も可能としている。この基金によって ADB は、低炭素経済への 移行支援や気候変動に強いインフラの確立だけでなく、生活様式、住民移転、及び健康に対 する変化といった気候変動に併発する広範な社会的脆弱性の問題の克服にも取り組むことが できるとしている。 ADB の対インドネシア支援の基本戦略文書は「対インドネシア国別戦略計画(Country Strategy and Program:CSP, Indonesia)」である。ADB は、Country Strategy and Program Update (2006-2009) において、電力分野では電力効率の改善と民間参入を促すことを目標に掲げ、 セクター改革、インフラの改善、再生可能エネルギーの推進を行うとしている。 2002 年には「送電セクター改革事業」「再生可能エネルギー開発事業」に借款を供与して いる。進行中のインドネシアの気候変動関連プロジェクトは以下のとおり。 1) Expanding the Use of Clean Energy ・ Renewable Energy Development and Power Transmission Improvement Sector Project (Project Cost: $162,000,000, Status: Ongoing) ・ Tangguh LNG Project〔ADB Assistance: $350,000,000(private sector loan), Status: Ongoing〕 2) Promoting Climate-Resilient Development ・ Integrated Citarum Water Resources Management (Project Cost: $921,000,000, Status: Ongoing) (4) GTZ ドイツ技術協力公社(Gesellschaft für Technishe Zusammenarbeit:GTZ)は、ドイツ経済開 -160- 発協力省(MBZ)下の国際技術協力実施機関であり、1975 年以来インドネシアの支援にあた ってきた。1994 年、Technology Assessment for Energy Related CO 2 Reduction Strategies for Indonesia を実施し、1989~2024 年の 35 年間のインドネシアにおける CO 2 削減戦略を策定し た。C/P は環境省である。 ドイツ経済開発協力省は、インドネシア政府と援助方針について 2 年ごとに政策対話を行 い、援助方針を策定している。2007 年 10 月のインドネシア国別援助計画では、優先分野と して、①気候変動、②民間セクター開発、③地方分権化に伴うガバナンス強化の 3 分野が対 象とされ、インドネシア政府と合意に至った。GTZ はインドネシアの GHG インベントリー 作成に協力している。 (5) ノルウェー 2010 年 5 月 27 日オスロ気候・森林会議(Oslo Climate and Forest Conference 2010)がノル ウェーのオスロで開催された。この会議において、ノルウェーとインドネシアは、REDD に おいて、パートナーシップの締結に合意した。これは、インドネシアの森林及び泥炭地に関 係する GHG 排出量の削減政策にノルウェー政府が今後数年間で 10 億米ドルの資金援助を行 うというものである。 資金はまず、インドネシアの気候・森林戦略の最終決定、排出削減の監視・報告・確認の ための能力育成と制度化、これらを可能にするための政策や制度改革の整備などに充てられ る。また、天然の森林や泥炭地のプランテーション開発に対する新規承認が 2 年間にわたっ て凍結される。2014 年までには、確認された排出削減に対して資金を提供する全国的な機構 へと移行する計画である。資金の管理は、信頼し得る世界的な金融機関が国際的な受託責任、 ガバナンス、環境、社会的な基準に従って行うことになっている。ノルウェー政府の C/P は UKP4 という大統領直属機関である。 (6) 日本 わが国の対インドネシア国別援助計画では、重点分野として①民間主導の持続的な成長、 ②民主的で公正な社会づくり、③平和と安定を掲げ、 「 民間主導の持続的な成長」実現のため、 経済インフラ整備等の支援に力を注ぐ方針である。わが国の気候変動に対する基本方針につ いては、6-2-1で述べたとおりである。 JICA はインドネシアとの間で「気候変動対策プログラム・ローン(Climate Change Program Loan:CCPL)」を対象として、2007 年から 3 期にわたり円借款を行っている。CCPL の仕組 みは、日本とインドネシアとの間でインドネシアの気候変動対策に関する政策対話を行い、 気候変動対策の具体的な政策アクションを設定したうえ、政策アクションの達成状況をモニ タリングし、資金を供与するものである。本円借款では国際的な連携・協調案件として、第 1 期から協調融資に参加しているフランス開発庁(Agence Francaise de Developpement)に加 え、第 3 期からは WB も政策対話に参加し、協調融資に参画することになった。これまでの 支援内容は以下のとおりである。 89 89 インドネシア円借款「気候変動対策プログラム・ローン」、外務省国際協力局国別開発協力第一課、2010 年 8 月 -161- ① 2007 年より政策対話を実施し、2007 年から 2009 年までの各年ごとにインドネシア側が 実施する気候変動に関する主要政策アクションの一覧表である「政策マトリックス」の作 成を支援。 ② 2007 年のインドネシアにおける気候変動対策の実施状況を確認したうえで、2008 年 8 月に「気候変動対策プログラム・ローン」(供与限度額約 308 億円)を供与。 ③ 2008 年のインドネシアにおける気候変動対策の達成状況を計 3 回のモニタリングを通じ て確認したうえで、2009 年 12 月に「第 2 次気候変動対策プログラム・ローン(景気刺激 支援を含む)」(供与限度額約 374 億円)を供与。 ④ 2009 年のインドネシアにおける気候変動対策の達成状況を計 2 回のモニタリングを通じ て確認したうえで、2010 年 6 月に「第 3 次気候変動対策プログラム・ローン」(供与限度 額約 272 億円)を供与。 出所:対インドネシア円借款「気候変動対策プログラム・ローン」、外務省国際協力局国 別開発協力第一課、2010 年 8 月 現在、専門家派遣による技術支援として、JICA により「気候変動対策能力強化プロジェク ト」が開始されている。このプロジェクトは以下のような 3 つのサブプロジェクトから構成 されている。 90, 91 1) サブプロジェクト 1:インドネシアの適切な緩和行動の策定及び開発計画における適応 策の主流化 ・ 実施機関:国家開発企画庁(BAPPENAS) ・ サブプロジェクト目標:①MRV 可能な国の適切な緩和行動(NAMA)の作成に係る能 力強化、②開発計画における適応策の主流化のための能力強化 2) サブプロジェクト 2:脆弱性評価 ・ 実施機関:気象・気候・地球物理庁(BMKG) ・ サブプロジェクト目標:気候変動に対する脆弱性評価実施の能力強化 3) サブプロジェクト 3:国家 GHG インベントリー整備 ・ 実施機関:環境省(KLH) ・ サブプロジェクト目標:関係機関の協働による国家 GHG インベントリー作成のため の能力強化 期待される成果としては以下のようなものがある。 1) 気候変動対策支援協力プログラムとしての一体的な実施 気候変動プログラムローンなど、プログラムとしての一体的な実施を推進する。 90 91 JICA プレスリリース http://www.jica.go.jp/press/2010/20100623_01.html 「インドネシア国気候変動対策能力強化プロジェクト」内部資料、JICA、2010 年 8 月 -162- 2) COP 等への発信 国際的な気候変動に関する会議(COP 等)において成果を発表し、積極的な情報発信を 行う。 3) 日本政府の気候変動交渉に対する技術的貢献 環境省、国立環境研究所との密接な連携をとり、交渉と現場をつなぐ役割を果たす。 4) 柔軟な枠組み 国際的な気候変動対策の枠組みが構築される重要な時期に柔軟に対応できるよう、気候 変動対策を包括に取り組める柔軟な TOR と、5 年間のプロジェクト期間を設定する。 5) 幅広い人材育成 各分野の人材育成のため、短期研修、長期研修を各サブプロジェクトに組み込み、各分 野の中期的な人材育成を視野に入れる。 -163-