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特 集 第5世代移動通信システムの展望 - ITU-AJ
特 集 第5世代移動通信システムの展望 国内外の取組動向 ―「諸外国の取組みと日本との連携」 & 「電波政策2020懇談会 最終報告のポイント」― 総務省 総合通信基盤局 電波部 移動通信課 新世代移動通信システム推進室 1.はじめに 本稿では、5Gの実現に向けた取組みのうち、 「諸外国の 現在、電波の利用は、我々の日常生活に不可欠となって 取組みと日本との連携」に加え、2016年1 ~ 7月に総務副 いる携帯電話や無線LANなどの無線通信ネットワークの 大臣が主催する懇談会として開催された「電波政策2020 ほか、ドローンをはじめとするロボット、医療、環境など 懇談会」の検討結果を紹介する。 様々な分野に広がっており、 あらゆる「モノ」がネットワー 2.諸外国の取組み クにつながるIoT(Internet of Things)社会の本格的な 到来が期待されている。 2.1 欧州 一方、モバイルブロードバンドの進展に伴う移動通信ト EU全体での研究・イノベーションを促進するための枠組 ラフィックの増加への対応やモバイルを活用した新たな みである「Horizon2020」を通じて、2014年から2020年ま サービスの提供も求められている。このような状況に対応 での7年間で7億ユーロの投資が予定されており、民間から するため、総務省では、第5世代移動通信システム(5G) も30億ユーロ以上の投資が予定されている。2015年より の2020年の実現に向けて、超高速、多数同時接続、低遅 5Gの研究開発プロジェクトである「5GPPP」のもと、同 延などの要求条件を達成するための産学官の連携による プログラムを活用した「METIS II」などの研究開発プロ 研究開発や、各国の政府・5G推進団体との連携強化など ジェクトが実施されている。 の国際連携・協力、2017年度開始予定の総合実証試験の 5Gの利活用については、5GPPPを中心に、 「Vertical」 具現化、5Gの利用が想定される周波数帯の検討などを推 をキーワードとし、①自動車、②工場・製造、③エネルギー、 進している。 ④医療・健康、⑤メディアの5分野を特定し、利活用に特 ■図1.欧州における5G利活用分野 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 特 集 第5世代移動通信システムの展望 化したワークショップの開催等を通じて、利活用分野との また、2016年2月には、KT、NTTドコモ、SK Telecom及 連携強化を進めている。 びVerizonの4社は、5G実現に向けた実証を行っている企業 英国では、産業界からの協力を得て、サリー大学に5Gイ 間での協力を促進するために、 「5G Open Trial Specification ノベーションセンター(5GIC)が設置され、5G無線技術テ Alliance」を共同で設立した。 ストベッドを活用した実証等が2015年から開始されている。 また、エリクソンやノキア等の通信機器ベンダーは各国 2.4 中国 の通信事業者と連携し、5Gの共同研究開発を実施し3GPP 今年6月に開催された5G等の国際的なイベントであるモ 等における標準化活動を主導している。 バイルワールドコングレスにおいて、中国移動は2020年ま での5G実現を目指すことを発表した。また、中国工業・ 2.2 アメリカ 情報化部は5G技術研究開発試験を2016年から2018年の3年 FCC(連邦通信委員会)は、2016年7月14日に5G用周波 間で実施することを発表している。 数を特定し開放することを発表した。その中では 27.5- また中国移動、華為のそれぞれは、NTTドコモとも共 28.35GHz、 37-40GHzを免許帯として、64-71GHzを免許 同で5G実現に向けた取組みを推進している。 不要帯として開放することが明らかにされている。免許不 要帯とされた64-71GHzについては、既に免許不要帯とされ 3.日本と諸外国との連携 ている57-64GHzと組み合わせると、連続した14GHzの帯 2020年の5G実現に向けて、主要国・地域において産学 域が免許不要帯として利用可能になる。また、37-37.6GHz 官の連携による5G推進団体が、日本における5GFMと同様 は商業用途同士もしくは商業用途と公共用途の間で動的に に設立されている(図2参照) 。各団体は5Gの利用分野や 帯域を共有する仕組みを導入予定である。 技術課題等をとりまとめた白書を発表するとともに、研究 民間においては、Verizonを中心に、アルカテル・ルーセ 開発等の推進を行っている。 ント、エリクソン、ノキア、クアルコム、サムスン等が参画 また、 団体間の国際連携を強化するための取組みとして、 した5G実現に向けたフォーラム(Verizon 5G Technology 5GMFはワークショップの開催や、MoUの締結を行ってい Forum)が2015年9月に設置されており、2016年よりフィー る(図3参照) 。特に欧米中韓の5G推進団体である5GPPP、 ルドテストを開始しその動きを活発化させている。また、 5G America、IMT-2020 PG、5G Forumとは、5団体による Verizonは2017年から28GHz帯を用いた5Gの商用サービス マルチラテラルMoUを締結しており、そのMoUに基づき、 を開始することを発表している。AT&Tも5G早期導入計 各地域持ち回りによる5G Global Eventを年2回開催するこ 画に向け、エリクソン、インテル等とともに、2016年中に実 ととし、その第1回会合が2016年5月に北京で開催された。 証実験を開始することを発表している。 4.電波政策2020懇談会 最終報告のポイント 2.3 韓国 総務省では、2016年1月から「電波政策2020懇談会」を 韓国は、2018年の平昌オリンピックに向けて、サムスン 開催し、 第5世代移動通信システム(5G)や次世代ITS(高 を中心にKTやSK Telecom等が実証試験を計画している。 度道路交通システム)などの新たなモバイルサービスの実 特に28GHz帯を用いて20Gbpsの通信速度の実現を目指し 現に向けた推進方策等の検討を行ってきた。 ている。利用シーンとしては、プレスセンター、空港、会 2016年7月にとりまとめられた最終報告では、クラウド 場等において ホログラム、スーパーマルチビュー、VR、 に集積される様々な種類の大量のデータの流通に不可欠 Giga Wi-Fiを提供することを想定しており、2020年の商用 なIoT時代のICT基盤に5Gを位置付けるとともに、9つの利 サービス開始を目指している。 活用分野と3つのプロジェクト、9つの推進モデルが提示さ 研究開発においては、5G 研究開発プロジェクト(Core れ、プロジェクトの推進等を通じて、2020年の5G実現に Technology Project, Giga Korea Project)を通じて、2020年 向けた取組みを加速させていくこととされた。本稿では、 までに4.9億ドルを投資する予定であり、5Gの新たな市場 「電波政策2020懇談会」における5G最終報告のポイントを 創出のため、中小企業の参加を促すとともに、技術移転の まとめている。 支援も行っている。 4Gまではスマートフォンやタブレット等への情報配信を ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■図2.各国・地域における5G推進団体 ■図3.5GMFにおける国際連携活動 行うことがサービスの中心だったが、5Gでは、 「超高速」と えられている。 いった特徴に加え、 「低遅延」や多数のセンサーや端末が 同時に接続される「同時多数接続」といった特徴を持って ①スポーツ(フィットネス等) おり、自動車分野をはじめ、これまで以上に多様な分野で ②エンターテインメント(ゲーム、観光等) の活用が期待されている。以下に示した9つの分野への横 ③オフィス/ワークプレイス 展開をいかに実現するかが、5G普及の重要なポイントと考 ④医療(健康、介護) ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 特 集 第5世代移動通信システムの展望 ⑤スマートハウス/ライフ(日用品、通信等) 実証、②ビジネス展開を見据えた環境整備、③地域活性 ⑥小売り(金融、決済) 化等に資する地方への展開、④国際標準化・国際展開の4つ ⑦農林水産業 の観点から取り組むこととされた。 ⑧スマートシティ/スマートエリア ①戦略的な研究開発・実証については、キーテクノロジー ⑨交通(移動、物流等) に重点化した研究開発を推進するとともに、日欧の共 同研究のように諸外国との戦略的な連携に基づく研 これらの9つの利活用分野への展開を進めるため、5Gが 究開発や実証を進めていくことが重要である。 実現した段階から横展開を進めるのではなく、導入前の研究 ②ビジネス展開を見据えた環境整備としては、研究開 開発や実証の段階から、多様な利活用分野との連携を行う 発と同時に、制度整備も併せて検討していくこと、国 ことが重要となる。このため、9つの利活用分野への5Gの 際的な調和、社会実装の容易性等に留意した周波数 早期展開を図るため、 5Gの主要な要求条件である 「超高速」 、 の確保を行うこととされた。 「多数同時接続」 、 「超低遅延」を踏まえた「ウルトラブロー ③地域活性化等に資する地方への展開については、多 ドバンド」 、 「ワイヤレスIoT」 、 「次世代ITS」の3つのプロジェ 様な関係者が参加できるオープンテストベッドを東京 クトを推進することが示された(図4参照) 。 だけでなく地方にも整備するなどにより、地域活性化 3つのプロジェクトについては、プロジェクトごとに3つの や地方創生にも寄与すること等とされた。 具体的な「推進モデル」が同時に示された(図5参照) 。今 ④国際標準化・国際展開については、5GMF関係者など 後、プロジェクトの推進に向けて、通信事業者や通信機器 産学官が連携した戦略的な国際標準化・国際展開を引 ベンダーだけでなく、利活用分野の関係者を巻き込んで実 き続き推進するとともに、技術とサービスを連携させ 施体制を構築し、プロジェクトの具体的な内容の検討を進 た総合的なシステムの国際展開を行うこととされた。 めていくことが重要である。 また、ユーザからのフィードバックに基づく高速PDCA プロジェクト推進にあたっては、①戦略的な研究開発・ サイクルを併せて推進していくことで、5G時代における新 ■図4.次世代モバイルサービス実現プロジェクトの推進と広がる利活用 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■図5.9つの「推進モデル」 ■図6.プロジェクトの総合的推進方策 たな価値の創造、社会が抱える課題の解決等につながっ て行くことが期待される。 5.おわりに 今後、総務省では、電波政策2020懇談会の検討結果を踏 まえ、5GMFとも連携しながら、2020年の5G実現に向けて 具体的な検討をさらに進めてまいります。 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 特 集 第5世代移動通信システムの展望 第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)の白書公開について ―2020年以降の第5世代移動通信システムの実現を目指して― 第5世代モバイル推進フォーラム事務局 一般社団法人 電波産業会 一般社団法人 情報通信技術委員会 ( ) 1.はじめに 2.5GMFの活動概要について 我が国においても、第 5 世代移動通信システム(以下、 5GMFの最高意思決定機関が総会であり、年度毎の活動 5G)の検討を加速するとともに、諸外国との連携やITU-R 報告・計画及び収支決算・予算、規約改定、役員選出等 等の国際標準化への貢献等を円滑に行うため、総務省「電 を行い、年1回程度開催されている。顧問には、大学等の 波政策ビジョン懇談会」の中間報告を受け、2014年9月に 学識経験者、通信事業者、メーカ、関係団体、総務省から 「第5世代モバイル推進フォーラム(英語名称:The Fifth 現在30名が就任している。顧問会議においては、5GMFの Generation Mobile Communications Promotion Forum) 」 活動全般について活発な意見交換が行われている。次に (以下、5GMF)が設立された。5GMFは、情報通信関係 主な活動の概要を紹介する。 者のみならず、広範な分野の専門家を含めた相互の連携・ 協力を図り、産学官が参加し一体となって活動を開始した。 2.1 白書の作成 5GMFには設立当初に4つの委員会、2016年1月に「総合 5GMFの設立当初からの重要課題の一つであり、4委員 実証試験推進グループ」を設置(図1)し、研究活動を進 会の研究活動の成果として、5GMF白書第1版(英文) 「5G めている。2016年8月19日現在、会員数は101名である。な Mobile Communications Systems for 2020 and beyond」 お、5GMFの事務局は、一般社団法人電波産業会(ARIB) を作成し、2016年5月末に5GMFホームページ(http://5gmf. 及び一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)が務めて jp/)において公開した。また、要約版として Executive いる。 Summary(日・英)を公開した。 本稿では、5GMFの活動概要と、活動の成果物である 「5GMF白書第1版(英文) 」の主な内容を紹介する。なお、 本稿は、5GMF事務局が執筆した。 2.2 5Gシステム総合実証試験計画の検討 2017年度から実施予定の「5Gシステム総合実証試験」の 実施計画や実施フレームワーク等の検討を行うことを目的 に、2016年1月に臨時総会を開催し、5GMF内に「5Gシステ ■図1.5GMFの組織図(敬称略) ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ム総合実証試験推進グループ」を設置した。 5Gのコンセプトや実現に向けた課題等の検討を行い成果 同グループでは、これまでに各委員会及びグループメン を網羅的にとりまとめたものである。白書の作成にあたっ バーから実証試験のプロジェクトを募集し、延べ30件以上 ては4つの委員会が緊密に連携し作成に努めた。編集の段 の応募があった(2016年7月時点) 。主なプロジェクトは、 階では、各委員会からの代表者を集めた白書編集タスク ①スタジアム、イベント会場におけるエンターテインメン フォースを設置し調整等を行った。 トシステム、②安心・安全な社会を実現するモバイル監視・ 保安システム、③高速鉄道等の移動体向け高速・高信頼 3.1 全体概要 通信、④ロボットや車両等の遠隔制御、監視、自動運転の 本白書は、2013年9月にARIBの高度無線通信研究委員 サポートであった。 会に設置された、 「2020 and Beyond AdHoc」から2014年 今後は、総務省主催「電波政策2020懇談会」の報告書 9月末に公表された白書“Mobile Communications Systems の内容等を参照しつつ、実施すべきプロジェクトの選定や for 2020 and beyond”を先行研究として参照しながら検討 具体的な実施計画や実施フレームワーク等の策定を行う予 を進めた。 定である。 白書の作成にあたり、IMT-Advancedに代表されるいわ ゆる第4世代移動通信システム以前のシステムとは、利用 2.3 5G団体との連携及びイベント等への対応 環境、実現するサービス、システムの性能等の違いを意識 海外の 5G 推進団体等との間で協力覚書(MoU)を 6 件 し、検討を開始した。 締結し、ワークショップの開催等を行った。国内外の5Gに 関するワークショップ等のイベントには5GMFから講演者 3.2 5GMF白書の構成 を積極的に派遣し、 活動成果の発表等を行っている。また、 白書は、図2のとおり、記載範囲(Scope) 、 合計13の章、 CEATEC JAPANやワイヤレステクノロジーパーク (WTP) Annexで構成されており、主な内容は次のとおりである。 開催期間中にワークショップの共催等を行い、一般聴講者 3.2.1 イントロダクション、白書の目的(第1章~第2章) 向けの啓発活動も行っている。 イントロダクションでは、5Gの検討が必要となった社会 3.5GMF白書の紹介 的な背景や第3章以降の主な内容を紹介している。白書の 5GMF白書は、産業界における5G利活用の促進や新た 主な目的として、5Gを実現するためのキーコンセプト及び なビジネスの市場創出、ビジネスの海外展開等を期待し、 キーテクノロジーを明らかにすることを示した。 ■図2.白書の構成 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 特 集 第5世代移動通信システムの展望 3.2.2 市場動向とユーザトレンド(第3章) ア化(Network Softwarization)とスライシング(Slicing) 」 インターネットの利用が、パソコンからスマートフォン、 を特定した。 タブレット等の端末に広がり、さらにセンサー機器、ロボッ さらに、ITU-R のビジョン勧告である M.2083-0(IMT ト、自動車のような新たなデバイス等へ拡大が予想され、 Vision -“Framework and overall objectives of the future 多様なサービスの実現が想定される中、5G時代にどのよ development of IMT for 2020 and beyond” )を基に、典 うな通信環境やサービスが求められるのかを考察した。 型的なユースケース(超高信頼性・超低遅延通信、大規 模通信、拡張モバイルブロードバンド)と、そのユースケー 3.2.3 通信トラフィックのトレンド及びコストインプリ スの実現に必要となる性能の拡張を例示した。 ケーション(第4章~第5章) モノとモノとの通信等による今後のトラフィック増加に 3.2.5 典型的な利用シナリオ(第7章) 伴い新たな通信トラフィックの様態が発生する可能性を指 多様な利用シーンを具体的に記述する利用シナリオを① 摘した。構築・運用コストは、幅広いレンジでの通信需要 エンターテインメント(図4) 、②交通、③産業応用、④災 を満たす必要があり、柔軟、かつ、漸次拡張可能な技術 害対策の4つの区分に分けて検討を行った。いずれの利用 形態を適用して構築されることが重要であることを示した。 シーンにおいても時間、場所、状況などの要件の動的変動 に応じて、ネットワークは動的に最適化されることの重要 3.2.4 キーコンセプトとキーテクノロジー(第6章) 性を指摘した。 5Gのキーコンセプトとして、図3のとおり、あらゆる利用 シーンでユーザが満足できる「エンドツーエンドの品質提 3.2.6 無線技術及びネットワーク技術(第8章~第12章) 供(Satisfaction of End-to-End Quality) 」と、この品質提 5G向けの周波数帯として、特に6GHz-100GHzの範囲 供のためにあらゆる利用シーンにおいて柔軟に対応できる において、望ましい周波数帯の検討を行った。検討は、ユー ネットワークの「超柔軟性(Extreme Flexibility) 」を有 スケース及び技術的観点(ステージ1:図5) 、既存システ することの2つを示した。 ムとの共用・共存の観点(ステージ2) 、国際協調の観点(ス また、5Gのキーコンセプトを実現するためのキーテクノロ テージ3)の3段階で進め、ステージ2での検討成果として、 ジーとして、 「拡張ヘテロジニアス・ネットワーク(Advanced 望ましい周波数帯のリストを示した。 Heterogeneous Network) 」及び「ネットワークのソフトウェ また、5Gシステムの導入にあたり、無線アクセス技術 ■図3.ポテンシャルアプリケーションのマッピング 10 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■図4.エンターテインメントの利用シナリオイメージ (注1)この値は、既存3GPPバンドの周波数と帯域幅を参考に比帯域5%を想定した場合の実装上望ましい連続帯域幅であり、所要周波数帯域幅(周 波数需要)および規制当局が決定する周波数割当幅を示しているわけではない。この帯域は、周波数の効率的な利用、実装上の観点から連続 であることが望ましい。 (一方5Gのアプリケーション(Mobile Broadband、M2M等)を考慮すると、数百MHzから数GHzの帯域幅が望ましいが、 実際に各レンジで5Gに利用可能な帯域幅を考慮する必要がある。 ) (注2)カバレッジの値は、電波伝搬条件、展開シナリオ、適用する無線技術などに依存する。 ■図5.ステージ1:6GHz以上周波数帯の分類と特性評価 及びネットワーク技術の検討を行い技術の概要や課題を 3.3 今後に向けて 示した。 本白書では5Gの姿を網羅的に検討したが、2017年度から 開始する予定の総合実証試験における技術及びアプリケー 3.2.7 まとめ及び将来のビジネス等への展望 (第13章~ Annex) 5GMFは、検討の成果をITUや3GPP等の国際標準化活動 への貢献や海外5G団体との連携等を既に行ってきた。今 後も2020年以降の5Gシステムの導入を促進するための活 ション等の検証結果や今後の5Gのための周波数の検討を踏 まえ、新たな活動成果を次回の改版に向けとりまとめる予 定である。 4.おわりに 動を継続する。 5GMFは、 5Gを利用する産業界やユーザとなる一般の方々 Annexには、現時点での5Gシステムの検討動向を基に、 に向けた広報活動を今後も促進する予定です。2020年以降 将来のビジネスの展望を考察した。 の5Gの実現に向け活動が拡大し、さらに活発となるようご 協力の程、宜しくお願い致します。 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 11 特 集 第5世代移動通信システムの展望 5G実現に向けたドコモの展望 きしやま 株式会社NTTドコモ 5G推進室 主任研究員 よしひさ 岸山 祥久 1.はじめに を皮切りに本格的な5Gの標準化議論が開始されている。 今日、スマートフォンやタブレット端末の普及によって、 ドコモでは、LTEの商用サービスを開始した2010年頃か いつでもどこでも気軽にインターネットを通じたサービス ら5Gの検討を開始し、技術コンセプトの提案や、伝送実験、 やアプリ、動画や音楽などが楽しめるようになったが、よ 標準化議論をリードするなど、様々な研究開発活動を進め り高度なサービスへの需要はますます高まっている。また てきた。本稿では、2020年での5G実現を見据えたドコモ 2010年以降、移動通信のトラフィック量は急激に増加して の展望とともに、こういった取組みの概要を述べる。 きており、通信事業者には、増加したトラフィックを収容 しつつより優れた品質でこれらのサービスを提供するモバ 2.5G実現に向けたコンセプト イルブロードバンド(MBB:Mobile Broad Band)の実 2.1 5G技術コンセプト 現が期待されている。さらに、あらゆるモノが無線でネッ 移動通信の世代とは関係なく、2Gや3Gでもスマートフォ トワークに接続するIoT(Internet of Things)関連のビジ ンが利用できるように、5Gで提供するサービスの多くは ネスが近年非常に注目されており、通信事業者にとって、 4Gでも提供可能であると考えられる。しかしながら、同じ IoTによって開拓される新領域のサービスを支えるインフ サービスであっても通信技術の向上によって、より快適に、 ラ(基盤)の提供は、今後ますます重要になってくるもの より様々な環境で楽しめるようになる。将来的には5Gの通 と考えられる。 信品質を前提とした新しいサービスも誕生し、いつしか このような背景を元に、第4世代(4G)であるLTE及び 5Gは普通のこと(いつか、あたりまえになること)になっ LTE-Advancedの次世代となる第5世代の移動通信システム、 ていくのだろうと考えられる。 すなわち「5G」の早期実現に対する期待が近年非常に高 5Gの時代である2020年代のキラーサービスを予測するこ まっている。移動通信システムの標準化団体である3GPP とは困難であるが、現状想定され得るサービスは、図1に (3rd Generation Partnership Project) で は、2015年9月 示す2つのトレンドに大別できる。すなわち、高精細動画ス に「3GPP RAN Workshop on 5G」会合を開催し、これ トリーミング(4K/8K動画) 、拡張現実感(AR:Augmented ■図1.5Gで想定される様々なサービス 12 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) Reality) 、触覚や体の動きなどの音や映像以外のメディア また、センチメートル波(3-30GHz)やミリ波(30GHz 通信(触覚通信)などMBBサービスの拡張と多様化、 及び、 以上)など、これまで移動通信で使われてこなかった高周 あらゆるモノが機器間通信(M2M:Machine to Machine) 波数帯においては、十分なカバレッジを確保しつつ性能改 等によって無線でネットワークに接続するIoTである。 善を図るため、無線パラメータの最適化や多数のアンテナ これら将来のサービスを実現するための無線アクセス技 素子を用いるMassive MIMO技術[1]などを適用するNew 術の発展において、取り得るアプローチとして2つの方向 RATの導入が必要である。将来的にはNew RATを既存周 性がある。すなわち、1つはLTE及びLTE-Advancedをさ 波数帯にも適用していくことが考えられるが、eLTE的な らに進化させていくアプローチ、もう1つは全く新しい無線 アプローチに比較して相応のゲインが必要である。 アクセス技術(RAT:Radio Access Technology)を導入 するアプローチである。前者は既存LTEシステムとの後方 2.2 段階的な5G技術導入のアプローチ 互換性(バックワードコンパチビリティ)を保持しながら このようなeLTEとNew RATの組合せからなる5Gの展開 継続的に進化するものであるのに対し、後者はLTEとの後 シナリオの例を図3に示す。2020年を目指す最初の5G導入 方互換性を維持するよりも、性能改善を優先させるアプ 時においては、大容量化が必要な都市部エリアなどを中心 ローチである。 に5Gすなわち、eLTE及びNew RATを展開する。ここで、 図2に示すように、ドコモの5Gの定義に対する考えは、 eLTEとNew RATは、キャリアアグリゲーションやDual 継続的なLTE/LTE-Advancedの進化(eLTE:enhanced Connectivity技術[2]によって協調し、カバレッジを確保し LTE)と新たに導入されるRAT(New RAT)との組合せ つつ大容量化を実現する。将来的には5Gの展開エリアは である。eLTEによって基本的なカバレッジエリアやブロー 都市部から郊外エリアまで幅広く展開され、ミリ波などの ドキャストなどのサービスを提供しつつ、幅広い周波数帯 非常に高い周波数帯も必要に応じて追加されていくように を用いた広帯域化に適したNew RATによって飛躍的な高 なることも想定される。以降、このような2020年以降にお 速・大容量化などの性能改善を実現するコンセプトである。 ける5Gの進化を「5G+」と呼ぶ。 5Gでは、既存の周波数帯でもシステム容量を改善すること New RATの導入を2020年に実現するためには、3GPPに ができる非直交アクセス(NOMA:Non-Orthogonal Multiple おける最初の規格の標準化を2018年中には完了する必要 Access) や、低遅延化を実現するための無線フレーム設 がある。一方、ITU-Rの5G (IMT-2020)の要求条件を満 計など、周波数帯によらず適用可能な無線アクセス技術も たす無線インタフェース規格の標準化は、ITU-Rのスケ 提案されている。これらの技術を既存周波数帯に適用する ジュールに沿って3GPPでは2019年末頃までに完了してお 場合、特に5Gの導入初期ではLTEとの後方互換性を保持 けば間に合う。従って、段階的な技術導入(前者が5G、 することが望ましく、eLTE的なアプローチが有望である。 後者が5G+に相当)のアプローチが有効であり、3GPPへ [1] ■図2.ドコモの5Gの技術コンセプト ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 13 特 集 第5世代移動通信システムの展望 ■図3.5Gの展開イメージ ■図4.5Gの導入と継続的な進化 も国内外の複数企業の連名で提案し、コンセンサスが得ら に関する機能、例えば超多数のM2M端末をサポートする れている 。ここで、比較的短期間で最初のNew RAT規 ための機能などをサポートする方向性が有望だと考えられ 格を完成させるためには、最初から多くの機能を盛り込む る。将来的には、5G+においてNew RATにも多くの機能 ことよりも、 将来的な拡張性(フォワードコンパチビリティ) が盛り込まれ、5G時代の未知のサービスを含む多種多様な を重視した基礎設計をしっかり行うことを優先する必要が サービスやシナリオに対応していくものと考えられる。 [3] ある。また、図4に示すように、5G+は5Gとの互換性を保 持しながらの連続的な進化であるべきである。これは4G 3.ドコモの5Gへの取組み のLTEとLTE-Advancedにおける互換性の関係と同様で 3.1 技術検討とシミュレータ試作 ある。 ドコモでは、LTEの商用サービスが開始された2010年頃 図5に、2020年の導入をターゲットとした無線アクセス技 から5Gに関する検討を開始し、 FRA(Future Radio Access) 術の候補を示す。前述したように、5GではMBBの拡張と という名称で次世代移動通信システムの要求条件や技術 IoTの双方がサービスのトレンドとして考えられている。ま コンセプトを提案した[4][5]。ドコモとして「5G」という名称 た、5Gは大容量化が必要な都市部などから順次エリアを拡 を最初に用いたのは2013年10月に開催された「CEATEC 大していく展開となることが想定される。従って、2020年 JAPAN 2013」という展示会においてであり、5Gの技術コ の初期導入の段階では、New RATは都市部などで要求さ ンセプトを可視化しつつ、5Gの大容量化技術を評価する れる高速・大容量といったMBBの拡張をサポートし、それ ことができるリアルタイムシミュレータを開発し、当展示 を補う形で、面的なカバレッジを有するeLTEが様々なIoT 会における総務大臣賞を受賞した。2014年9月には、この 14 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■図5.5Gにおける無線アクセス技術の候補 ■図6.5Gシミュレータ伊勢志摩バージョン ■図7.20Gbpsの通信容量を達成した屋外実験の様子 ような技術コンセプトをドコモ5Gホワイトペーパーとして との協力による5G実験を開始し、2015年7月には「5G Tokyo 公開した 。 Bay Summit 2015」の開催とともに実験協力を拡大し、現 5Gリアルタイムシミュレータの試作は、5Gの大容量化技 在までに計13社との5G実験に向けた協力を合意するに 術が様々な環境で有効であることを示すため、 東京(新宿) 至っている[9]。本年2月には、エリクソン社との共同実験 版、スタジアム版、ルーラル(田舎)版とバージョンアップ により、15GHz帯を用いた屋外環境での通信実験によって、 してきた(東京版とスタジアム版をYou Tubeにて動画公 2ユーザ合計で20Gbpsを超える5Gマルチユーザ通信実験 ) 。最新版は、2016年G7サミットが開催された伊 に世界で初めて成功した[10]。図7に20Gbpsの通信容量を実 [1] 開中 [6] [7] 勢志摩のバージョンであり、図6に示すように、バス、電車、 現した屋外実験の様子を示す。基地局アンテナから複数 船といった様々な乗り物に5Gの伝送品質が提供される様 のビームで2台の移動局装置に対し、同時に同一周波数 子をデモするシミュレータとなっている。 (800MHzの帯域幅)を使用したデータ送信を行い、受信 時最大20Gbpsを超える通信容量の無線データ通信を実現 3.2 5G伝送実験 した。 5Gの伝送実験としては、2012年12月に東京工業大学と 現在、ベンダー各社とともに取り組んでいる5G伝送実 の共同研究で、世界初の屋外移動環境での10 Gbps伝送に 験を大別すると、①既存のセルラバンドを含む幅広い周波 成功した 。さらに、2014年5月より世界の主要ベンダー 数帯に適用可能な周波数利用効率改善技術に関する実験 [8] ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 15 特 集 第5世代移動通信システムの展望 協力、②ミリ波帯を含む高周波数帯の活用のための無線イ 予定である。図8に、2016年5月に開催された「5G Tokyo ンタフェース設計及び超多素子アンテナによるMassive Bay Summit 2016」における、これら5G実験協力の展示 MIMO伝送技術に関する実験協力、③5G端末デバイスの の様子を示す。 検討に向けたキーデバイス(チップセット)ベンダーとの 2020年の5G導入に向けて想定しているスケジュールを 実験協力、④5G無線伝送技術及び超高周波帯での無線装 図9に示す。伝送実験については、2017年以降、5Gの周波 置の性能を評価するための測定技術に関する測定器ベン 数帯として有望な候補である4.5GHz帯や28GHz帯を中心 ダーとの実験協力に分類される(表参照) 。①については、 とし、無線技術の検証とともに、サービスやアプリケーショ ブロードバンド通信やM2Mなど、様々なアプリケーショ ンと連携したよりシステム的な実験を進めていく予定であ ンに適した無線伝送方法や信号波形の設計をはじめ、超 る。3GPP標準化では、New RATのPhase I仕様が2018年 高密度に配置した光張出しスモールセルによるシステム容 半ばまでに、Phase II仕様が2019年中に完成される予定で 量の増大化技術やMIMO伝送におけるさらなる周波数利用 ある。ドコモでは、これら3GPPの標準仕様に準拠した5G 効率の向上など様々な要素技術の検証を対象としている。 (及び5G+)を2020年から順次導入すること目指していく。 ②については、現在利用されている周波数よりも高い、例 えば6GHzを超える周波数を有効活用するための広帯域移 4. おわりに 動通信技術、具体的には高周波数帯における電波伝搬損 本稿では、さらに高速・大容量なMBBや、あらゆるモノ 失の補償に有効な超多素子アンテナを用いた高速大容量 が無線でネットワークに接続するIoTといった、様々なサー 伝送技術やミリ波帯の移動通信への応用を目指した要素 ビスを実現可能とする次世代移動通信システム5Gの研究 技術の検証を行っている。③については、小型・低消費 開発の取組みの概要について、世界動向を交えつつ解説 電力の5Gデバイス実現に向けた試作に関連した実験を行 した。ドコモでは2020年での5Gサービスの実現、及びそ う予定である。④については、ミリ波帯における電波伝搬 れ以降の継続的な5Gの発展(5G+)に向けて、研究開発 の解明や超多素子アンテナにより構成されるアクティブア と標準化を推進していく。 ンテナシステムの無線性能の評価手法に関する実験を行う ■表.世界主要ベンダーとの5G実験協力概要 16 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■図8.「5G Tokyo Bay Summit 2016」の様子 ■図9.5G導入に向けたスケジュールの想定 参考文献 [1] ドコモ5Gホワイトペーパー、2014年9月。 https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/ whitepaper_5g/ [2] 内野ら、 “さらなる高速大容量化を実現するキャリアアグ リゲーション高度化およびDual Connectivity技術, ”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル、Vol.23、No.2、pp.35-45、 2015年7月。 [3] 3GPP RWS-150036,“Industry vision and schedule for the new radio part of the next generation radio technology,” RAN Workshop on 5G, Sep. 2015. [4] 中村ら、 “LTEの発展と将来無線技術の展望, ”信学技報、 vol.111、no.451、RCS2011-334、pp.107-114、2012年3月。 [5] Y. Kishiyama,“LTE enhancements and future radio access,”Seminar on Future Wireless Technologies, Nov. 2010. [6] docomo 5G リアルタイムシミュレータの紹介: https://www.youtube.com/watch?v=75R2TU4w0IE [7] docomo 5Gリアルタイムシミュレータ(スタジアム版)の 紹介: https://www.youtube.com/watch?v=UVE3BN-9nmg [8] 報道発表資料: “超高速移動通信の実現に向けた屋外伝 送実験で世界初の10Gbps信号伝送に成功, ”2013年2月。 [9] 報道発表資料: “世界主要ベンダーとの5G実験を拡大, ” 2015年7月。 [10]報道発表資料: “世界初、屋外環境で通信容量20Gbpsを 超える5Gマルチユーザ通信実験に成功, ”2016年2月。 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 17 特 集 第5世代移動通信システムの展望 5Gに向けたKDDIの展望 KDDI株式会社 技術開発本部 シニア・ディレクター KDDI株式会社 次世代ネットワーク 準備室 マネージャ まつなが さか い あきら 松永 彰 1.はじめに せいいちろう 酒井 清一郎 KDDI株式会社 次世代ネットワーク 準備室 マネージャ なり た けん じ 成田 憲治 ②あらゆるものが接続されるIoTの実現 第 5 世代移動通信システム(5G)については、現在、 IoTによりあらゆるものが接続されることによって、あ ITU-Rや3GPPにおける標準化作業と平行して、数々の技 らゆるものをトラックし、大規模なビッグデータの活用によ 術開発や実証実験が実施されており、グローバルな規模 る解析が可能になる等、新たな付加価値を創造する可能 で2020年頃の実用化に向けた動きが着実に進行していると 性が生まれる。その価値の創造には、5Gを利用する様々な ころである。 産業と手を携えて共にアプリケーションを創造し、その要 5Gでは、ネットワーク能力の飛躍的な拡張といった技術 件に応じた5Gネットワークを構築していく必要があろう。 面の進歩ばかりでなく、アプリケーションの多様性、社会 ③社会基盤を支える役割、期待の飛躍的な増大 的に果たす役割、産業界との密接な関わり等、従来の移動 5Gは、2020年の社会基盤を支える役割を担い、様々な 体通信システムから大きな変革が期待される。 社会問題の解決に貢献し、社会にあって欠くべからざる不 本稿では、5Gに対する期待や5Gが実現する世界及びそ 動の存在になると想定される。 の実現に向けた技術を紹介する。 2.5Gを取り巻く環境と目指す世界 図1に示すように、5Gには、エンターテインメントに代表 されるワクワクする体験の提供、数々の産業振興、地方社 2.1 5Gに対する期待 会の活性化等の社会問題解決への貢献、安心安全の確保 5Gを特徴づける変革としては、以下のものが挙げられる。 等の社会基盤としての役割等、多くの環境変化への対応 ①大幅な能力拡張と、多様な要件に対する柔軟かつ効率 が期待される。KDDIは5Gに向けて、ネットワーク能力を 的な対応 拡張し、様々な新たな利用シナリオを具現化して上記期待 5Gでは、モバイル・ブロードバンドの拡張、多接続マ に応え、通信サービスを超えた付加価値を産業界と共に提 シン通信、超低遅延と高信頼性等の利用シナリオが提案 供し、快適なライフデザインの実現を目指す。 されており*、それに伴って、従来は実現が困難であった 様々な新たなアプリケーションや、4Gでは実現できない体 2.2 5Gで目指す世界 感の提供の可能性が生まれると期待される。一方、ネット 5Gの特性を活かして実現が期待されるユースケースを ワークはその多様性を増す要件に対して柔軟かつ効率的 に対応する必要があろう。また、高速化や低遅延等の実 図2に示す。以下、幾つかの例を紹介する。 (1)VRとAR 現には、無線、コア、バックホール等の5Gを構成するネッ 拡張ブロードバンドや超低遅延を活用する例として、 トワーク要素間で、従来に比して、より緊密な連携が必要 バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)を挙げる となると想定される。 ことができる。VRの応用例として、スタジアム内の複数 カメラ映像をもとにユーザが指定する視点からの映像をリ * IMT Vision –“Framework and overall objectives of the future development of IMT for 2020 and beyond”, ITU-R勧告 M.2083-0 2015年9月 18 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■図1.2020年に向けた環境変化 ■図2.5Gで目指す世界 アルタイムで合成したり、遠隔地からのイベント参加を可 生活環境に大きな変革をもたらすと考えられる。産業分野 能にする等、今までにない超臨場感の提供が可能になろう。 では、多様なセンサからのデータを網内のコンピューティ (2)コネクテッドカー ング・リソースにて最適に分析・処理することで、新たな 超低遅延、高信頼性を必要とするシナリオでは、 「コネ 価値創出が進むと想定される。また、個人の生活環境に クテッドカー」や「無人農機の制御」など様々な分野での おいても、屋内外センサやウェアラブルなデバイスからの 自動化や高度化と同時に、安心安全の確保への要求にも データを活用し、いつでもどこでも人々の生活、健康、安 応えることが期待される。コネクテッドカーの例では、車 心安全に寄与することが期待される。 両診断、運転者健康モニタ、事故・故障時の緊急自動通 「パーソナルナビゲーション」の例では、行き先の混雑 報等が安心安全のためのサービス機能として求められてこ 状況、交通障害、天気などの膨大な情報を多数のセンサ よう。 を通じてリアルタイムに収集し、予めネットワーク上に蓄 (3)IoT(多接続マシン通信) 積した情報と統合することにより、その日のスケジュール あらゆるものをネットワークにつなげるIoTは、今後、 に合わせた最適な行動パターンをナビゲートすることが考 デバイス数の飛躍的な増大とユースケースの多様化によっ えられる。 て、産業振興や社会基盤の発展に寄与し、産業や個人の ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 19 特 集 第5世代移動通信システムの展望 3.5Gサービス実現のためのシステム・アーキテクチャ と、「ユーザ・セントリック」コンセプトの実現 イスに加え、エッジがコンピューティングを担うことも5G 前述のように、5Gでは、大容量・高速化、多接続性等 性を加味してダイナミックかつ最適にコンピューティング の能力拡張に伴って、様々な新たなアプリケーションの可 の役割を分担することが、ネットワーク・リソースを効率 能性が生まれ、その多様な要件に対してネットワークが柔 的に利用して5Gサービスに必要な要件を満たすために必 軟かつ効率的に対応する必要がある。従来のシステムにお 要となろう。ビッグデータ処理には、大量なデータを収集 いては、ユーザがシステムの能力に合わせなければならな 可能なクラウドが、リアルタイム処理や局所的な処理には い場合も生じたのとは対照的に、5Gネットワークは、いつ エッジやデバイスがそれぞれ適していると考えられる。 時代の特徴の一つであり、この三者間において、以下の特 でも、どこでも、ユーザが満足を感じることができる体感 ・クラウド:全体最適・集約型・統合的 品質を実現することを目指す。 ・エ ッ ジ:部分最適・分散型・協調的 ビッグデータや各種センサとネットワーク能力の拡張に ・デバイス:局所最適・自律的 より、新たな価値をユーザの要望に先回りして提案するこ とも、新たな体験価値の創出につながると考えられる。 3.2 無線システムのエリア構築 5Gでは、このように、ユーザの要求に応える体感品質 大容量・高速化、多接続、低遅延等、様々なユースケー を提供する「ユーザ・セントリック」コンセプトを実現す スの多様な要件に応じ、具体的には下記の要素を勘案し ることを目指し、そのためのシステム・アーキテクチャの て、最適な無線エリアを構築する必要がある。 構築と以下のようなネットワーク技術の具現化が必要とな ・利用する周波数帯の特性、帯域幅(6GHz超、未満等) ろう。 ・無線方式、技術(変調・MA方式、Massive MIMO、 ①階層間のダイナミックなコンピューティングの役割分担 ②無線システムのエリア構築 Beamforming等) ・想定される利用ケース(モバイル・ブロードバンド、 ③テクノロジーの違いを意識させないシームレス・ネッ トワーク IoT、低遅延等) ・要件(速度、セル径、屋内外、端末密度等) ・既存システムとの連携、インタワークの必要性 3.1 役割分担による最適なネットワーク利用 一例として、図4に示すように、今までにない超臨場感 5Gで実現が期待される低遅延化やリアルタイム性等の新 あるVR/ARサービスを提供するため、スタジアム等のサー たな要件に加え、アプリケーションに応じた様々な要件を ビス提供エリアに新RATを展開したり、イベント会場や駅 効率的に満たすためには、要件に応じて適切なネットワー 前広場等において密集するトラフィックを新RATに収容 ク・リソースを用いることが必要である。図3にコンピュー することが考えられる。 ティング・リソースの階層構造例を示す。クラウドやデバ ■図3.最適リソース配分による付加価値提供 20 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■図4.5Gエリア構築例 ■図5.柔軟なネットワーク構築と運用の高度化例 3.3 シームレス・ネットワークの実現 5Gでは、4G等の従来世代のシステムを含め、様々な無 ・柔軟なネットワーク構築 NFV(Network Function Virtualization) 線方式との連携が必要であるが、ユーザに対して、インフ SDN(Software Defined Network) 、サービスチェイ ラの世代、プラットフォームやテクノロジーの違いを意識 ニング させない形で「最適な」ネットワーク選択を行い、ユーザ ・ネットワーク構築の迅速化・運用の高度化 が満足を感じることができる体感品質をいつでもどこでも NFV 提供するシームレス・ネットワークの実現が求められる。 NFV-MANO(Management & Orchestration) シームレス・ネットワークにおいて、5Gアプリケーショ ンの多様な要件に柔軟に対応し、産業界やバーティカル・ 4.おわりに プレーヤーとのパートナーシップを強化するネットワークの 本稿では、5Gを取り巻く環境と目指す世界、その実現 構築の一手法として、図5に示すように、ネットワークを に必要となる5Gシステム・アーキテクチャを紹介した。今 仮想的に分割し、多様なサービス要件に効率的かつ柔軟に 後、5G実用化に向けて、標準仕様の策定や各種実証実験 応えるスライス・ネットワークが挙げられる。以下にその目 がさらに活発になると想定され、KDDIは5Gによるユーザ・ 指すところと、各々を実現する技術を挙げる。 セントリックなサービスの実現を目指して、取組みを引き ・多様なネットワーク要求に対応 続き推進していく所存である。 スライス・ネットワーク ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 21 スポットライト 衛星通信分野における世界無線通信 会議(WRC-19)へ向けての展望 KDDI株式会社 グローバル技術・運用本部 グローバルネットワーク・オペレーションセンター 副センター長 かわ い のぶゆき 河合 宣行 1.はじめに は既にFSSに分配されているダウンリンク帯域を海上移動 2015年11月に開催された世界無線通信会議(WRC-15) 衛星業務(MMSS)に拡大するもののため、衛星業務へ では、衛星通信分野において、無人航空機システム導入 の純粋な追加分配は、 議題1.6のダウンリンクのみであった。 のための周波数分配、 グローバルフライトトラッキング(人 工衛星を利用した民間航空機追跡システム)の導入、 グロー 2.2 衛星通信の新たな利用 バルに利用可能な移動する地球局の導入等が決定された 無人航空機システム(UAS:Unmanned Aircraft System) ほか、衛星関連規則・手続きの見直しも行われた。次回世 や移動する地球局(ESIM:Earth Station In Motion)といっ 界無線通信会議(WRC-19)においても、衛星システムの た、FSS帯域を移動プラットフォームに利用する形態の新 さらなる高度化や利用拡大をにらんだ、いくつかの衛星関 たな利用の仕組みが広がった。また、グローバルフライト 連の議題や、地上業務との共用・両立性の検討に関する トラッキング(GFT)のため、1090MHz帯が航空移動衛星 議題が挙げられている。 (ルート)業務(AMS(R)S)へ新たに分配された。表2 本稿では、WRC-15での結果を概観し、WRC-19に向け に本分野の結果概要を示す。 た衛星関連の議題の展望について述べる。 2.WRC-15の結果 2.3 衛星規則・手続き見直し 衛星軌道や周波数の逼迫を受け、衛星調整に係る規則・ WRC-15の主な結果について、①固定衛星業務(FSS) 、 手続きの見直しに関する20件の課題が挙げられ、白熱した 移動衛星業務(MSS)への新規・追加分配関連、②衛星 議論が展開された。表3に本分野の結果概要を示す。 通信の新たな利用、③衛星規則・手続きの見直し、の3つ 3.WRC-19の議題 の分野に分けて、以下に記載する。 WRC-19の議題を表4に示す。WRC-15に続き、多数の衛 2.1 新規・追加分配関連 星関連の議題が挙げられている。①FSS、MSSへの新規・ 表1に示す通り、30GHz以下のFSS、MSSへの新規・追 追加分配関連、②衛星通信の新たな利用、③衛星規則・ 加分配関連議題が多数あったが、地上系業務や受動業務 手続きの見直し、④IMT(International Mobile Telecom- との共用が難しく、新規・追加分配は一部にとどまった。 munications)との共用、の4つの分野に分けて、各分野 議題1.6と議題1.9.2では分配があったが、前者のうちアップ の概要と展望を記載する。また、本研究会期のSG4、SG5 リンクは、既にFSSに分配されている帯域の制限解除、後者 関連会合にて各議題に関する研究が既に着手されている ■表1.WRC-15の結果(新規・追加分配関連) 議題 1.6.1 1.6.2 内容 FSSへのKu帯新規一次分配 ①10−17GHz帯(250MHz幅:第1地域) ②13−17GHz帯(300MHz幅:第2、3地域) 結果概要 13.4−13.65GHz(↓)分配(第1地域) 14.5−14.75GHz(↑)分配(第1、2地域)(*1) 14.5−14.8GHz(↑)分配(第3地域)(*1) 1.7 5091−5150MHz帯のFSS利用見直し 2016年以降も5091−5150MHz(↑)一次分配を維持 1.9.1 7150−7250MHz帯及び8400−8500MHz帯のFSSへの新規分配 分配無し 1.9.2 7375−7750MHz帯及び8025−8400MHz帯のMMSSへの新規分配 7375−7750MHz(↓)分配 1.10 22−26GHz帯のMSSへの新規分配 分配無し ↑ 衛星アップリンク ↓ 衛星ダウンリンク (*1)放送衛星業務(BSS)フィーダリンク用に限定されていたが、第1、第2地域の30か国及び第3地域の9か国(日本を含む)で、当限定が解除された。但し、 運用にあたり、地球局最小アンテナ径、PFD制限、国境からの離隔距離等の制限あり。 22 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■表2.WRC-15の結果(衛星通信の新たな利用) 議題 内容 結果概要 1.5 FSS帯域の無人航空機システム(UAS)利用 FSSに使用されているKu帯(14/10/11/12GHz) 、Ka帯(30/20GHz) において、無人航空機システム(UAS)の利用を可能とする決議採択。 1.8 5925−6425MHz及び14−14.5GHzにおける船上地球局(ESV)の 関連規定見直し 船上地球局(ESV)の関連規定を見直し。C帯(6/4GHz)で1.2mア ンテナの利用が可能となった(従来は2.4m以上) 。(*1)Ku帯関連規定 は変更無し。 9.2 RR適用上の矛盾及び困難に応じた措置 19.7−20.2GHz(↓) 、29.5−30.0GHz(↑)でFSS衛星が移動プラッ トフォーム地球局(ESIM:Earth Station in Motion)に、グローバル に利用可能となった。 特別 議題 グローバルフライトトラッキング(人工衛星を利用した、民間航空機 追跡システムの導入 航空機が発する1087.7−1092.3MHzのADS-B(*2)信号を衛星にて受 信できるよう、同帯域を航空移動衛星(ルート)業務(AMS(R)S) に分配。 (*1)この場合の海岸線からの運用離隔距離(事前合意無し)は330km。2.4m以上のアンテナでは300kmのまま。 (*2)放送型自動従属監視(Automatic Dependent Surveillance Broadcast) ■表3.WRC-15の結果(衛星規則・手続き見直し) 議題 内容 結果概要 7 衛星調整・通告・登録関連の規則・手続き見直し ・決議86に従い、衛星網の事前公表、調整、通告及び登録に係る規則・ 手続きの見直しを毎回WRCで実施。WRC-15では、計20項目の課 題を審議。 ・RRの主な変更点:①事前公表情報(API)手続きのバイパス(調整 が必要な衛星網の場合) 、②衛星ホッピング防止に関する措置導入、 ③衛星網運用休止規定の見直し。 9.1.2 調整アーク(*1)縮小とRR9.41条見直し ・調整アークを縮小(C帯:±8° →±7° 、Ku帯:±7° →±6° ) ・衛星網通告時の他衛星網への与干渉評価基準にPFD値を導入。 (*1)RR9条に従って、FSS静止衛星網間の調整を行う際、調整相手先となる衛星網を、申請対象の衛星網の軌道位置を中心に一定範囲(±x° で表記)の軌道 弧上のもののみとする概念(但し、RR9.41条に基づき先方から発議があれば、当該軌道弧の外側にある衛星網とも調整を行う必要がある) 。 ■表4.WRC-19議題 ※赤字は、SG4配下のWP(WP4A、WP4B、WP4C)が責任グループとなっている議題 番号 議題 責任WP 1.1 50−54MHz帯におけるアマチュア業務への周波数分配(第一地域) WP5A 1.2 401−403MHz帯および399.9−400.05MHz帯におけるMSS/METSS/EESS地球局の電力制限 WP7B 1.3 460−470MHz帯における気象衛星業務への一次分配への格上げ及び地球探査衛星業務への一次分配 WP7B 1.4 RR付録30号Annex-7の見直し WP4A 1.5 17.7−19.7GHz帯及び27.5−29.5GHz帯における固定衛星業務帯域での移動する地球局の利用 WP4A 1.6 37.5−39.5GHz帯、39.5−42.5GHz帯、47.2−50.2GHz帯、50.4−51.4GHz帯の非静止衛星による固定衛星通信業務にお ける規制枠組みについて WP4A 1.7 短期ミッションの非静止衛星軌道による宇宙運用業務の適用条件 WP7B 1.8 GMDSSの近代化及び新たな衛星プロバイダ WP5B 1.9 ①GMDSS及び船舶自動識別装置(AIS)の保護のための156−162.05MHz海上無線装置規制 ②海上移動衛星業務の156.0125−157.4375MHz帯及び160.6125−162.0375MHz帯新規分配 WP5B WP5B 1.10 GADSSの導入及び利用 WP5B 1.11 列車−沿線間の鉄道無線通信システム WP5A 1.12 ITSの推進のための世界的、地域的な周波数利用の協調 WP5A 1.13 IMTの周波数特定 TG5/1 1.14 固定業務への既分配帯域における高高度プラットフォーム(HAPS)の規制措置 WP5C 1.15 275GHz以上の周波数帯における能動業務の特定 WP1A 1.16 5150−5925MHz帯におけるWAS/RLANの使用 WP5A 2-6、8 省略 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 23 スポットライト 7 衛星調整・通告・登録関連の規則・手続き見直し 9 ITU-R局長報告に基づく措置 9.1 WRC-15以降のITU-R活動に基づく措置 9.1.1 1885−2025MHz帯及び2110−2200MHz帯におけるIMTの導入 9.1.2 1452−1492MHz帯におけるIMTと放送衛星業務の共存性 9.1.3 固定衛星業務に分配された3700−4200MHz帯、4500−4800MHz帯、5925−6425MHz帯、6725−7025MHz帯 における非静止衛星システムの技術運用上の課題 9.1.4 サブオービタル宇宙船上の局 9.1.5 RR脚注5.447号及び5.450A号におけるITU-R勧告M.1638-1及びM.1849-1の参照に伴う技術的及び規則的影響 9.1.6 EV用WPTの研究 9.1.7 無免許の地球局端末の運用管理のための手法等の研究 9.1.8 マシンタイプコミュニケーション導入に向けた技術運用面の研究と帯域調和 9.1.9 固定衛星業務の51.4−52.4GHz帯の分配及びスペクトル要件 9.2 RR適用上の矛盾及び困難に応じた措置 9.3 決議80(軌道と周波数の公平利用)に応じた措置 10 将来WRCの議題 WP4A WP4C/WP5D WP4A/WP5D WP4A WP5B WP5A WP1B WP1B WP5D WP4A WP4A ■表5.WRC-19議題(新規・追加分配関連) No. タイトル 内容 37.5−39.5GHz(↓) 、39.5−42.5GHz(↓) 、47.2−50.2GHz (↑) 、50.4−51.4GHz(↑)帯の非静止軌道・固定衛星通信シ ステムの技術・運用課題及び規則条項の検討 Q/V帯(50/40GHz)の非静止衛星FSSシステムの運用に係る 技術・運用条件や規則面の検討を行うもの。同帯域で運用する 静止衛星網の保護、非静止衛星システム間共用、受動業務の保 護についても併せて検討する。 WP4A 9.1.3 固 定 衛 星 業 務 に 分 配 さ れ た3700−4200MHz、4500− 4800MHz、5925−6425MHz、6725−7025MHzに おける 非 静止衛星システムの技術・運用課題及び規則条項の検討 C帯(6/4GHz)における非静止衛星FSSシステムの運用を可能 とすべく、RR21/22条の改定を検討する。 WP4A 9.1.9 51.4−52.4GHz帯における固定衛星業務(↑)の周波数要求及 び新規分配の検討 左記帯域のFSSのスペクトラム要件を検討し、これを踏まえて 新規分配の検討を行う。 WP4A 1.6 ため、以下では、それらの審議状況にも適宜触れる。 責任WP のような、RR22条の実効電力束密度(epfd:Equivalent Power Flux Density 1)* 規定が無いため、非静止衛星シ 3.1 新規・追加分配関連(表5参照) ステムの導入が難しく、議題1.6はその整備を検討するも WRC-15の結果が示すとおり(2.1項参照) 、30GHz以下の のである。一方、同帯域はほぼ全域にわたって地上系業 周波数でのFSSやMSSへの新規・追加分配は、地上系業 務への分配があり、一部、受動業務への分配もある。また、 務や受動業務との共用の観点から難しい。そこで、WRC-19 議題1.13(IMTへの周波数特定)の候補周波数帯とも重複 では、 (i)さらに高い周波数の利用、 (ii)非静止衛星の利 (37.5-42.5、47.2-50.2、50.4-52.6GHz)しているため、詳 用条件の整備に関する議題が挙げられている。 細な共用検討が必要となるものと想定される。また、議題 Q/V帯(50/40GHz)の利用に関しては、議題1.6で、37.5 9.1課題9.1.9においては、51.4-52.4GHz帯のFSS追加分配 -39.5、39.5-42.5、47.2-50.2、50.4-51.4GHz帯の非静止 が検討対象である。なお、Q/V帯では、降雨減衰に加えて、 衛星利用のFSSにおける規制枠組みが検討される。現状、 低仰角では大気吸収損失も非常に大きいため、留意が必 Q/V帯では、 Ku帯(14/10/11/12GHz)やKa帯(30/20GHz) 要である。 *実効電力束密度(epfd) 静止衛星網では、衛星ダウンリンクの電波強度の制限は、地表面での電力束密度(pfd:Power Flux Density)で規定される。一方、 静止衛星網の地球局アンテナは、所望の衛星方向への指向性を有している。実効電力束密度(epfd)は、地球局のアンテナ指向パター ンを加味して、pfd規定を補正するもの。epfdを使った非静止衛星システムからの干渉量の計算では、被干渉となる静止衛星網の地 球局アンテナの正面方向(主軸)と干渉波到来方向の受信利得差による干渉波低減効果が、許容値自体に織り込まれている。従って、 epfd規定は、pfd規定に比べて、静止衛星軌道方向以外からの干渉に対して寛容な指標となる。 24 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 議題9.1課題9.1.3では、C帯(6/4GHz帯)の5925-6725/3700 議は、SARPsの制定状況を含め、WRC-19及びWRC-23で -4200MHzにおけるRR21条、22条の規定の見直しが検討 見直しが行われる。 される。同帯域のepfd規定はWRC-03において決められた WRC-15では、GFTのために1090MHz帯がAMS(R)S が、運用形態が静止衛星に比較的近い長楕円軌道(HEO) に分配された。これを受けて、WRC-19では、議題1.10に を想定したものであり、HEO以外の非静止衛星に適用す おいて、全世界的な航空機の遭難・安全システム(GADSS) ることを想定した見直しが必要とされている。また、現規 の導入に関し、ICAOからの要求条件を考慮し、地上系・衛 定には含まれていない、6725-7025MHz/4500-4800MHz 星系のトラフィック、性能基準、追加分配要否及び共用検 への適用も検討対象である。 討が行われる。UAS、GFT(GADSS)共に、今後のICAO での検討の進捗がポイントとなろう。 3.2 衛星通信の新たな利用(表6参照) また、WRC-19の議題1.8は、全世界的な海上遭難・安全 WRC-15では、船舶・航空機の需要増に対応するため、 システム(GMDSS)の近代化及び新規のプロバイダ(イ 第1 ~第3地域でアップリンク29.5-30.0GHz、ダウンリンク リジウム)を追加した場合の他業務との共用検討やRR改 19.7-20.2GHzのKa帯FSS帯域でESIM利用を可能とする決 訂の影響を、MSSの追加分配も視野に入れて検討するも 議156が採択された(既存の地上系業務に有害な干渉を与 のである。イリジウムのGMDSSへの組入れを実現したい えないこと、地上系業務からの保護を求めず、かつその発 米国と、インマルサットとの関係や隣接の電波天文業務保 展に制約を与えないことを条件とする) 。WRC-19では、議 護の観点から、これを阻止したい欧州の間での駆け引きの 題1.5のもと、ESIMの適用帯域の拡大(下り17.7-19.7GHz、 中で審議が進むことが予想される。 上り27.5-29.5GHz)が検討される。当該帯域は、グロー バルに地上系業務への分配がなされており、米国、韓国ほ 3.3 衛星規則・手続き見直し(表7参照) かが第5世代移動体システムへの利用を検討している。ま WRC-19議題1.4は、 第1/2/3地域間の放送衛星業務(BSS) た、当該帯域は、FSS利用においても、各種の、非静止衛 とFSSの運用周波数の違いに留意し、Annex-7に規定され 星システムと静止衛星網間の共用条件に係る規定があり、 ている軌道制限の妥当性を見直すもの。議題7は、衛星調 複雑な共用検討が予想される。 整・通告・登録関連の規則・手続きを広く見直すもの。 WRC-15では、 UASの運用に必要となる制御回線(CNPC: 2016年4月のWP4A会合では、以下の3件の課題が提起さ Control and Non Payload Communication)へのFSS帯域 れ、今後検討されることとなった。 利用が検討され、Ku/Ka帯が、決議155に記載された条件 ・課題A:NGSOの運用開始(BIU)の定義 のもと、本用途に利用可能となった。同決議には、UASの ・課題B:AP30/30Aの第1地域及び第3地域のリスト登 利用に先立ち国際民間航空機関(ICAO)が当該の技術標 準(SARPs:Standard And Recommended Practices) を制定すること、地上業務や他のFSS網からの干渉を受け ても運用できるように設計されていること、他の主管庁の 録放送衛星パラメータの変更 ・課題C:AP30B 8.13条とRR No.11.43A条の整合性に ついて 今後のWP4A会合で、引き続き、課題の収集が行われる。 地上業務に干渉を与えないこと等が定められている。本決 ■表6.WRC-19議題(衛星通信の新たな利用) タイトル 内容 1.5 No. 固定衛星業務における静止衛星軌道上の宇宙局と通信する、移 動する地球局による、17.7−19.7GHz帯(↓)及び27.5−29.5GHz 帯(↑)の利用 WRC-15において、19.7−20.2GHz(↓) 、29.5−30.0GHz(↑) のESIM利用が合意された。本議題はESIM帯域の拡張に関し、 技術運用特性や既存業務との共用・両立性条件を検討する。 責任WP 1.8 海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS) の近代化及び新たな衛星プロバイダ IMOの活動を勘案のうえ、GMDSSの近代化及び新規のプロバイ WP5B ダを追加した場合の他業務との共用検討やRR改訂の影響を、 (WP4C) MSSの追加分配も視野に入れて検討する。 1.10 航空における遭難及び安全に関する世界的な制度(GADSS)の 導入 GADSSの導入に関し、ICAOからの要求条件を考慮し、地上系・ 衛星系のトラフィック、性能基準、追加分配要否及び共用検討 を行う。 WP4A WP5B ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 25 スポットライト ■表7.WRC-19議題(衛星規則・手続き見直し) No. タイトル 内容 責任WP 1.4 RR付録30号Annex-7の見直し 第1/2/3地域間のBSSとFSSの運用周波数の違いに留意し、 Annex-7に規定されている軌道制限の妥当性を見直す。 WP4A 7 衛星調整・通告・登録関連の規則・手続き見直し 衛星調整・通告・登録関連の規則・手続き(RR9 〜 11条)の 見直し・改善を検討する。 WP4A ■表8.WRC-19議題(IMTと衛星業務の共用) No. タイトル 内容 責任WP 9.1.1 1885−2025MHz帯及び2110−2200MHz帯におけるIMTの導入 2GHz帯(1980−2010MHz、2170−2200MHz)における地上 IMTコンポーネントと衛星IMTコンポーネントの共存性について 検討する。 WP4C WP5D 9.1.2 1452−1492MHz帯におけるIMTと放送衛星業務の両立性(第1、 第3地域) WRC-15で合意に至らなかった、 同帯域のIMTと放送衛星業務 (音 声)の両立性を技術・運用及び規則面から検討する。 WP4A WP5D 1.13 IMTの周波数特定 IMT2020に向けて、24.25−86GHzの範囲で移動業務の追加一次 分配、IMTの特定を検討する(候補周波数帯:24.25−27.5、31.8 −33.4、37−40.5、40.5−42.5、42.5−43.5、45.5−47、47 −47.2、47.2−50.2、50.4−52.6、66−76、81−86GHz) 。 TG5/1 3.4 IMTとの共用(表8参照) を行うものであり、WP4AとWP5Dが共同責任グループと WRC-15議題1.1(移動業務への追加分配及びIMTへの特 なっており、本課題も既に両WPで検討作業が開始されて 定)において、衛星業務に関連する帯域では、L帯(1.5GHz) 、 いる。今後、BSS(音声)受信局の保護に関する検討が進 C帯(4GHz帯)を中心とした検討が行われたが、需要や各 む予定である。 業務の位置付けに、地域間や多国間で大きな隔たりがあり、 衛星業務とIMTの共用・共存検討が難しいことが改めて浮 4.おわりに き彫りとなった。WRC-19では、議題1.13において、第5世代 昨今、衛星通信サービスでは、通信衛星の大容量化や 移動体通信システムに向けて、24.25-86GHzの範囲でIMT 地球局技術の革新等を背景に、ブロードバンド化や移動 の特定が検討される。3.1項に示したとおり、Q/V帯の候補 衛星・固定衛星の融合が進展している。こうしたトレンド 周波数が議題1.6及び議題9.1課題9.1.9と大きく重なってお に基づき、衛星通信へのスペクトラム需要が旺盛であるが、 り、再び、衛星業務とIMTの共用・共存検討が焦点となる。 2 ~ 3章に示したとおり、既存業務との共用の観点から新 また、議題9.1の課題9.1.1及び9.1.2においても、衛星業務 規・追加分配は難しく、WRC-19に向けては、さらなる移 とIMTの共用・共存が検討される。課題9.1.1は、前研究会 動衛星・固定衛星の融合や非静止衛星の利用等によりス 期から議論が継続しているもの。RA-15において、IMTの ペクトラム需要に応える方向で検討が進んでいる。一方、 チャネルプランを規定するITU-R勧告 M.1036の改訂が審 地上系の移動体分野においても、第5世代移動体通信シス 議され、同一帯域で地上IMTもしくは衛星IMTを隣接地 テムの実現に向けた、さらなるブロードバンド化を背景に 域で展開した際に、有害な干渉が報告されれば、技術・ IMTへの需要が逼迫しており、多くの周波数帯で衛星通 運用上の措置が必要なこと、本件のITU-Rでの検討が必要 信とIMTの共用・共存検討が必要となっている。 な旨のノートが付された。これを受けて、WRC-15で決議 2016年~ 2017年にかけて、WRC-19に向けた各種の検討 212が改訂され、ITU-Rに技術検討が要請されるとともに、 が本格化していくことが予想されるが、本稿で紹介した内 WRC-19の議題化が図られた。本課題のCPMテキスト作成 容が、衛星通信分野での検討状況と方向性の把握の一助 は、WP5D( 衛 星IMT→ 地 上IMTの 干 渉を 検 討 )及 び となれば幸いである。なお、本稿は、2016年5月31日に開 WP4C(地上IMT→衛星IMTの干渉を検討)の共同責任 催された、日本ITU協会主催第347回ITU-R研究会での発 となっており、両WPで既に検討作業が開始されている。 表「衛星通信分野における世界無線通信会議(WRC-19) 課題9.1.2はWRC-15でのIMT特定に関連したL帯(1452 へ向けての展望」から抜粋したものである。 -1492MHz)におけるIMTとBSS(音声)との共存検討 26 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) (2016年5月31日 ITU-R研究会より) ブロックチェインの分類に関する一考察 おか だ 国立情報学研究所 情報社会相関研究系 准教授 ひと し 岡田 仁志 1.はじめに 2.仮想通貨の要素技術として 金融と工学を融合したFinTechの分野において、ブロッ ブロックチェイン技術は、分散型仮想通貨の草分けであ クチェイン技術の可能性が注目されている。ブロックチェ るBitcoinシステムの要素技術として実装されたことで注目 イン技術は、分散型仮想通貨を支える技術として提案さ を集めた。2008年に登場したBitcoinシステムは、取引の記 れたものであったが、その用途に限定されることはない。 録を不可逆的に記録するブロックチェイン技術、及び、時 中心を持たないP2Pネットワークにおいて正確かつ効率的 制的三式簿記と呼ばれる固有の記述方式などの組合せに にデータを授受する特性を活かすことによって、あらゆる よって、P2Pネットワーク上における貨幣的な価値の流通 応用が可能になると期待されている。 を実現させた。ブロックチェイン技術はBitcoinシステムに こうした特性に着目して、複数の省庁等においてブロッ 代表される分散型仮想通貨を成立させる要素技術である クチェインの可能性を議論する研究会が設立された。経済 から、Bitcoinシステムの特性を理解することは、ブロック 産業省は2016年2月にブロックチェインの産業への応用に チェイン技術を理解するための有用なアプローチである。 関する研究会を開催し、同年3月に報告書を公表した。同年 ブロックチェイン技術の特性を分析する前提として、仮 5月には、英文による報告書概要を公表している。 想通貨の特性を概念的に記述するならば、次のような要素 2016年4月には日本銀行にFinTechセンターが設立された。 を有するものであると定義することができよう。すなわち、 同月には、日本銀行にFinTech勉強会が設置され、情報技 仮想通貨とは、法定通貨のような強制通用力を持たない代 術、法律、及び経済の分野から有識者が参加して、ブロッ 替的な決済手段であって、利用場所が限定されない汎用 クチェイン技術の可能性に関する検討が行われている。 性と、支払いの相手が限定されない転々流通性を兼ね備 金融のコア技術に関する標準化を担うISO TC68には、 えるものである。 2015年にデジタル・カレンシーの通貨記号に関する標準化 さらに、 発行者との関係で仮想通貨の特性を分析すると、 を扱うSC7にサブグループが設置された。同サブグループ 発行者の存在する中央型仮想通貨、管理者が貴金属など は、2016年4月にフランクフルトで開催されたTC68の年次 を引当てとして発行する電子貴金属、及び、特定の発行 総会においてレコメンデーションを提案し、いずれも了承 者が存在しない分散型仮想通貨の3類型に分けることがで されている。レコメンデーションは仮想通貨の通貨記号に きる(図1) 。これらの3類型のうち、分散型仮想通貨にお 関する取扱いを規定したものであるが、付帯的な提案とし いては信頼できる第三者機関が存在しないにもかかわら て、ブロックチェイン技術の応用可能性を議論する組織の ず、取引を不可逆的に記録する仕組みとして、ブロックチェ 設置がレコメンドされている。 イン技術及びその他の要素技術が実装されている。 ただし、この付帯的な提案については、オーストラリアの 分散型仮想通貨においては、ブロックチェイン技術を実 標準化機関であるStandards Australiaから、ブロックチェ 装することは、おそらく不可避的である。これ以外の類型 イン技術の標準化に関する新たなTCの設立が提案された としての中央型仮想通貨、電子貴金属においても、ブロッ ことを受けて、組織の重複を避けるため設置が見送られて クチェイン技術を実装する場合がある。ただし、これらの いる。オーストラリア提案によるTCの設置については、 2類型においては、ブロックチェイン技術を実装すること 本稿の執筆時点において、 加盟国による投票の過程にある。 は必須であるとは言えない。 このように、ブロックチェイン技術の応用可能性につい このように、ブロックチェイン技術の特性は、仮想通貨 ては、仮想通貨としての実装だけでなく、FinTechの基幹 の機能及び分類との関係で理解する限りにおいては明確 技術としての活用が提案されている。さらには、金融分野 である。しかしながら、ブロックチェイン技術を金融のみ に限定することなく、あらゆる産業分野への応用が検討さ ならず産業界のあらゆる取引の基盤へと展開する過程にお れている。 いては、改めてブロックチェインとは何かを議論する必要 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 27 スポットライト ■図1.仮想通貨の特性と決済手段における位置付けに関する分類 生する仮想通貨をコインベースと呼ぶが、これを売買する 市場が成立して、仮想通貨の価格が形成されている。 このようなブロックチェインは、自由参加型であり、市 ■図2.ブロックチェインの分類(市場と許可の観点から) 場型である(図3) 。 おそらく、自由参加型であることと、市場型であること は、相互に必然的な条件ではないが、理想的な関係にある。 がある。これが、昨今のFinTechを取り巻くブロックチェ なぜなら、何らかの主体による調整を受けない自由参加型 イン技術に関する議論の出発点である。 のブロックチェインにおいて、マイニングを行うフルノー 3.ブロックチェインの分類論 ドとして参加するマイナーを維持するためには、価格形成 のための市場が成立していて、報酬としてのコインベース 仮想通貨を定義することが容易ではないように、ブロッ を受け取るインセンティブが維持されることが必要とされ クチェインを定義することも困難な試みである。ここでは、 るからである。 定義に関する議論には言及しないこととし、代わりに、ブ Bitcoinシステムと同様の構造を有するAlternative Coins ロックチェインの機能に着目して、 分類を試みることにする。 と呼ばれる分散型仮想通貨においては、同じく、誰もがフ 本章の議論は、 『FinTechと金融サービスの将来像』 (山 ルノードで参加することのできる自由参加型のブロック 崎重一郎)に依拠する。以下は、山崎教授のスライドにヒ チェインが採用されており、コインベースを受け取るイン ントを得て著者の解釈を論じたものであり、あり得べき間 センティブとしての市場と価格が形成されている。ただし、 違いは著者の責任である。 広義のAlternative Coinsにおいては、Bitcoinシステムと は異なる構造を有するものを含む場合がある。 3.1 自由参加型パブリックチェイン 例えば、仮想通貨の市場においては、広義の仮想通貨 Bitcoinシステムを念頭に置くと、分散型仮想通貨のブ として、中央集権型仮想通貨に価格が形成されることがあ ロックチェインは、誰もが許可なくして「採掘」 、すなわ る。これらの中央集権型仮想通貨は、中央に発行主体が ちマイニングを行う主体となることのできる、自由参加型 存在していて、発行量及び取引の承認プロトコルの全てを の仕組みであることが分かる。マイニングの報酬として発 発行主体が意図的に管理するものである。この場合にも、 28 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■図3.自由参加型パブリックチェイン ■図4.許可型パブリックチェイン 効率性の観点からブロックチェインに類した構造をとる場 自由参加型パブリックチェインと許可型パブリックチェイ 合があるが、1つの主体が唯一のフルノードとして参加す ンの違いは、参加するノードが信頼できる第三者による実 るプライベートチェインであるから、そもそもブロックチェ 在性の認証を受けているか否かに存する。そして、認証局 インの条件を満たさないと考えられる。これについては諸 の運営を支配する主体が、さらに特権ノードとして何らか 説あるが、本稿では、プライベートチェインをブロックチェ の権限を与えたノードのことを、許可済みノードと呼ぶ。 インの分析対象に含めないこととする。 こうしたブロックチェインは、許可型であり、市場型で ある(図4) 。 3.2 許可型パブリックチェイン ところで、自由参加型パブリックチェインの典型である さて、Bitcoinシステムにみられるように、自由参加型パ Bitcoinシステムにおいては、信頼できる第三者が存在しな ブリックチェインにはインセンティブとしてのコインベー くても記録の正しさが担保されるように、計算量に応じた スを流通させる市場が形成されるが、許可型パブリック 多数決の仕組みが実装されている。そこでは、無数の高性 チェインにも市場が形成される。ここで、許可型のブロッ 能コンピュータが計算量に応じた「投票権」を持っており、 クチェインというのは、取引を検証してブロックを生成す 計算競争の勝利者が多数決の代表者となる。大規模な計 る権限を有するフルノードが、認証局による許可を受けた 算量を保有するほど、勝利者になる確率は高くなる。これ ノードと、単に実在性だけを認証された一般ノードとの混 が、Bitcoinシステムに特有のマイニングという作業である。 成によって成立している場合を指す。 世界中から多数の一般ノードがマイニングに参加して、 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 29 スポットライト 計算問題の正解を発見するということは、高性能のコン しくマイニングに参加することが特徴であった。すなわち、 ピュータを含む無数の計算機が大規模な計算量を投入した 許可済ノードと一般ノードが競争的にマイニングを行うこ ことの証明が残ることを意味する。この含意から、計算問 とによって、結果としてPOW法が実現されていた。 題の正解となる数のことを、 POW(Proof of Work)と呼ぶ。 これに対して、許可型のコンソーシアムによってブロッ このように、一般ノードが多数参加することは、計算量 クチェインを構成することも可能である。ここでコンソー を投入したことの結果としてのPOWに意味を持たせるた シアムとは、ある目的のために形成された企業連合体など めに不可欠である。すなわち、限定された許可済ノードだ の、限定されたメンバーだけがノードとして参加すること けで構成されるようなブロックチェインにおいては、POW を指す。コンソーシアムがブロックチェインを構成する場 法に代わる何らかの正当性の根拠が必要となる。 合には、認証局を運営する主体から認められた許可済ノー さて、許可型パブリックチェインにおいては、許可済ノー ドだけに参加者を限定する。 ドと一般ノードが併存する。一般ノードの役割は、マイニ 企業連合体がブロックチェインのコンソーシアムを構成 ングのために計算量を投入し、POWの発見に寄与するこ する場合には、参加企業は契約に基づいて権利関係の内 とによって、ブロックチェインの分散性と耐改ざん性を高 容に合意している。この場合、参加する企業群が競争的 めることである。これに対して、許可済ノードは、認証局 にマイニングを行うPOW法をとることは必然的ではない。 を運営する主体によって特権ノードとして設置されてお むしろ、合意に基づく省力的な方法をとるほうが賢明であ り、アセットの発行ノードや監査ノードなどの特権ノード る。具体的には、ブロックを検証する順序を予め決定して として特別な役割を果たす。 おき、当番制でブロックを検証していく方法などが合理的 ブロックチェインの構成に関しては、許可済ノードだけ である。この検証方法のことを、ローテーション法と呼ぶ。 で構成するほうが効率的であるとする見方と、不特定多数 こうして構成されたブロックチェインは、許可型であり、 の一般ノードが参加することが不可欠であるとする見方と 非市場型である(図5) 。 が存在するが、許可型パブリックチェインは、これらの中 許可型コンソーシアムチェインにおいては、一般ノード 間型として位置付けられる。 が参加することはないため、ブロックを検証するインセン ティブを準備する必要はない。従って、ブロックチェイン 3.3 許可型コンソーシアムチェイン を維持する副産物として仮想通貨を発生させることは必要 許可型パブリックチェインでは、認証局を運営する主体 条件ではなく、また、副産物として何らかの仮想通貨が発 から特別な権限を与えられた許可済ノードと、認証局から 生する構成をとった場合であっても、市場を成立させるこ 実在性の証明だけを受けた一般ノードが混在しながら、等 とは必要条件ではない。 ■図5:許可型コンソーシアムチェイン 30 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) このように見ると、許可型コンソーシアムチェインは、 ままであった。本稿では、ブロックチェインを2つの視座 不特定多数の参加者によって維持される自由参加型パブ から論じることを試みた。 リックチェインや、一定数の許可済ノードと多数の一般ノー 本稿では、ブロックチェインを市場型/非市場型という ドによって維持される許可型パブリックチェインなどと比べ 視点と、許可型/自由参加型という視点から分類して論じ ると、エネルギー効率に優れた手法であるようにも見える。 た。ブロックチェインの分析軸に関しては定説が形成され しかしながら、許可型コンソーシアムチェインには問題 ておらず、これ以外の視点による分類のほうが説明に優れ 点も存在する。コンソーシアムに参加する企業連合体がメ ている可能性は多分に残されている。 ンバーの交代なしに長期にわたって存続することは稀であ すなわち、本稿はブロックチェインの分類論を通じて、 り、参加者の変遷によってはノード間の結託などの不正が その可能性と限界について議論する契機に過ぎない。何を 起こりやすくなる。また、参加企業が入れ替わる度に権限 もってブロックチェインと呼ぶかという定義の外延は、ブ の設定を変更する必要から、少数の特権ノードが大きな設 ロックチェインの要素技術は何であるかという議論と密接 定権限を握ることになり、そもそもブロックチェイン技術 に関連する。さらに、マトリクス上においては、現在の技 を利用する意義が疑わしくなる。 術による実装を想定できる組合せと、実装例を想定するこ 果たして、許可型のブロックチェインは、ブロックチェイ とが容易ではない組合せが存在する。ここで援用したマト ンとしての要件を充たすのであろうか。殊に、参加者が限定 リクスにおいても、第4の組合せとして自由参加型コンソー されている許可型コンソーシアムにおいては、ビザンティ シアムの構成が想定されるが、本稿ではその可能性につい ン問題と呼ばれるノード間の結託による不正の可能性も懸 て言及しないこととした。 念される。これに対しては、契約関係によって不正が禁止 新しい技術の定義論は、どのような実装が登場するか されていることを以て解決したとする法的アプローチや、 に依存して流動的である。従って、分析軸の妥当性につ POW法に代わる適切なアルゴリズムを実装することで解決 いても、実装例を吟味しながら、仮説と検証を繰り返すこ できるとする技術的アプローチなどの対案が示されている。 とになる。こうして、異なる分析軸からブロックチェイン おそらく、これは分類上の特性だけで論じられるもので の性質を考察することによって、次第に技術の特性が明ら はなく、ブロックの正当性を検証するアルゴリズムの工夫 かになる。こうした議論が収束に近づく頃には、ブロック とも密接に関わることであるから、どこまでをブロックチェ チェインの産業への応用が普及し、社会基盤として日常的 インと呼ぶべきかという定義についての議論は、マトリクス に利用される技術へと成長していることであろう。 上の分類論だけによって容易に結論付けることはできまい。 ただ一つ確かなことは、自由参加型パブリックチェイン であるBitcoinシステムでは、これまで数年間にわたって、 ブロックチェイン運用の根幹に関わるエラーが発生してい ないとされていることである。これと比較すると、許可型 コンソーシアムチェインは閉じた環境となることに起因す る弱点を否定することはできず、ブロックチェインとして 正確に動作するかは未知数である。許可型コンソーシアム の利点を活かしながら、ブロックチェインとしての性能を 維持できるような、最適なアルゴリズムを設定できるかは、 今後の実証実験の行方にかかっている。 4.おわりに FinTechの興隆を受けて、ブロックチェイン技術の可能 性が注目されているが、その定義や類型については曖昧な 参考文献 [1] Distributed ledger technology: beyond block chain Government Office for Science, United Kingdom(19 January 2016) https://www.gov.uk/government/publications/distributedledger-technology-blackett-review [2] FinTechと金融サービスの将来像 山崎 重一郎(Mar 30, 2016) http://www.slideshare.net/11ro_yamasaki/fintech-60247773 [3] 仮想通貨―技術・法律・制度 岡田 仁志, 高橋 郁夫, 山崎 重一郎(May 29, 2015)東洋 経済新報社 http://store.toyokeizai.net/books/9784492681381/ [4] 貨幣の歴史にみる仮想通貨の特異性-国家の通貨高権か らCODEによる通貨発行へ- 岡田 仁志(May 26, 2016)Nextcom26号 https://www.kddi-ri.jp/nextcom/volume?from=news ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 31 スポットライト 2016年世界情報社会・電気通信日の 特別記念局8J1ITU運用レポート きのした 日本ITU友の会アマチュア無線クラブ 会長 しげひろ 木下 重博 1.特別記念局 8J1ITUについて のエレクトロデザイン株式会社のアンテナ実験場でもあり周 8J1ITUは毎年「世界情報社会・電気通信日」をPRする 囲を霞ヶ浦の湖に囲まれた見晴らしの良い丘の上の高台に、 ために特別な呼び出し符号“8J1ITU”の免許を受け5月1日 26mのタワーを始め4本のタワーに1.8MHzから430MHzの に開局し、5月31日に閉局する期間限定の特別局です。 全てのアマチュアバンドで運用可能な高性能アンテナを持 特別局の運営は古くは日本アマチュア無線連盟の協力に ち、夜間の通信もできるように宿泊施設を持っています。 よって運営されていましたが、2001年に財団法人日本ITU アンテナの周辺には湖と関東平野が広がり、遮るものは周 協会内に「日本ITU協会アマチュア無線クラブ」が結成さ 囲に何もない無線に絶好の場所です。HFのDX通信に利用 れ、以降の記念局の運用は日本ITU協会アマチュア無線ク される14MHzから28MHzにかけてのアマチュアバンドで ラブが行う事となりました。クラブ結成当時から8J1ITUの は、それぞれのタワーで別々のバンドを運用できるように 運用は茨城県かすみがうら市にある1KW局を拠点として アンテナを配置してあるので、1.9MHzから28MHzでは任意 中心に活動を行ってきました。その後日本ITU協会アマ の4バンドで4人のオペレータによる同時運用が可能です。 チュア無線クラブは2012年に「日本ITU友の会アマチュア VHF、UHFのアマチュアバンドも含めると最大6人が同 無線クラブ」と改称し、日本ITU協会とは別の独立した団 時運用できる設備になっています。14MHzでは6エレメン 体として8J1ITUの記念局の運用を通じて「世界情報社会・ 電気通信日」をPRするクラブとして新たな体制で発足し ました。日本ITU友の会アマチュア無線クラブは事務局を 千葉県流山市に置き、財団法人日本ITU協会、CQ出版社、 エレクトロデザイン株式会社などの後援を受けて、茨城県 かすみがうら市に設置した移動しない1KW局と、50Wの 移動する局の2つの無線局JO1ZZAを運用しています。5月の 1か月間だけ指定事項の呼び出し符号を特別記念局8J1ITU に変更し、毎年全世界の約1万局と交信し、交信相手には 「世界情報社会・電気通信日」をPRする記念のQSLカード (交信後に発行する交信証書)を発送しています。 運用の中心となるかすみがうら市の無線局は、後援団体 ■写真2.丘の上にそびえるアンテナ ■写真1.2016 年の8J1ITUのQSLカード ■写真3.強力な八木アンテナ群 32 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) トのフルサイズ八木アンテナの電波は世界中に、50MHz 4.2016年の運用 では14エレメントの八木アンテナの電波は遠く関西まで電 今年のHFバンド(3MHz-30MHz)の伝搬のコンディ 離層を経由せずに電波を送る事ができます。HFではヨー ションは、太陽活動の低下に伴い昨年よりさらに低下し、 ロッパや北米を走行中のモービル局と何度も交信した実績 特に北米のHFの伝搬が悪く、SSBによる交信はかなり厳 持ち、5Wの電力で南極の昭和基地ともSSBで交信した実 しく、CWで何とか交信できる程度でした。ヨーロッパ方 績を持っています。 面も北米方面に比較すると少しましな程度で、伝搬が開け 2.運用の準備 ても持続時間が短く、そのタイミングも悪く、オペレータ が揃い24時間稼働できる週末の土曜の夜に限ってコンディ 運用に入る前の準備期間では、4月16日に毎年恒例となっ ションが悪いという日ばかりでした。昨年海外局と5,121局 たクラブ員による霞ヶ浦のアンテナ周辺の草刈りを行いま も交信できたのに比べて、今年は4,575局と不振でした。 した。今年は春の気温が低かったせいもあって、雑草の伸 こうした伝搬の悪さは国内でも同じで、昼間の7MHz帯で びも遅かったので例年より早く作業を終える事ができまし は例年はコンディションの低下に悩む事などあまり無いの た。運用する無線室や宿泊施設の清掃も合わせて行いま ですが、普段は混み合って運用できる空き周波数がほとん した。恒例の裏の竹林でのたけのこ掘りも大収穫です。参 ど無いバンドで空き周波数が目立ち、いくらCQ(特定の 加したクラブ員の方にこの場を借りてお礼申しあげます。 相手を指定しない呼出し)を出してもなかなか呼んでもら えないといった場面もありました。 今年の運用開始日の5月1日は日曜日だったので、前日の 4月30日の夜からベテランのオペレータ7人が徹夜で運用し ようと待機し、AM00:00の運用開始を待ちました。カウン トダウンをしていよいよ運用を開始しましたが、期待とは 裏腹にDXの伝搬は開かず、国内の無線局は皆寝ている時 間帯なのでコールもまばらで、DXはCWが中心の運用とな りました。 朝が来て国内中心の交信に移り、初日とあって国内の局 からは沢山呼ばれましたが、7MHzだけが使えて他のバン ドはあまり交信数が伸びず、使えるバンドに対してオペ ■写真4.収穫したたけのこ 3.無線機設備の整備 昨年から使用している1.8MHzのダイポールアンテナの レータが余る状態でした。それでもCWのオペレータがそ ろったおかげで初日の交信数は1,527局でした。 連休の間にどれだけ交信数を伸ばせるかで、全体の交 信数が決まってしまうとも言えるのですが、今年の連休は エレメントが切断したために、4月16日の草刈りの日にクラ ブ員の協力を得て、エレメントの交換作業を行いました。 今年はDX局2局を含む65局とこのアンテナで交信していま す。 また複数の局が同時に運用する場合、それぞれの送信 する強力な信号のスプリアスが高調波関係にある別のバン ドの受信を妨げるのが普通ですが、これを軽減するために それぞれの受信機の入力回路にバンド別にスイッチでON/ OFFできるRFのノッチフィルタを設置しました。この改 造のおかげで複数の局の同時運用時の混信がかなり軽減 されました。 ■写真5.無線局の運用風景 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 33 スポットライト DXのコンディションが悪くパイルアップ(多くの局が一 OM(年配の男性)と多彩な方々が運用に参加しました。 度に呼び出しを受ける)になる事は少なく、CQ連呼する また、海老名君のお父さんがジュネーブの ITU 特別局 いつもとは様子の違う運用が始まりました。 4U1ITUとSSBで交信に成功しています。小学生を筆頭に バンドのコンディションが悪い場合はCWの運用比率が 3人で運用に参加した海老名さん親子は、5月22日の週末だ 高くなります。今年は昨年よりさらに悪いコンディション けで1,207局の交信を行い運用に貢献しました。こうした だったために、普通ならCWの交信比率が高くなるのです 少しずつ努力の積み重ねにより、終わってみれば霞ヶ浦の が、DXのコンディションの悪化を国内の交信で補った結 交信数は12,922局と昨年比でわずか10局少ないだけのほぼ 果、今年のCWの運用比率は昨年58%だったものが今年は 同等の活躍となりました。 52%と逆に減少しています。 今年の移動する局の運用では、クラブ始まって以来初の 参加者で最年少のオペレータは、3級の免許を取り立て 小笠原(JD1)での移動運用を行いました。これはクラブ で記念局にて初オンエアした小学校6年生の海老名君でし 員の斎藤氏が個人で小笠原に船で行き、運用するタイミン た。そのほか、中学生、大学生、社会人、YL(若い女性) 、 グが8J1ITUの運用期間と重なったので、その貴重な1日を ■写真6.集まったオペレータによる集合写真 ■写真7.頑張った小、中学生とお父さん(右端は筆者) 34 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 世界各国から届いたQSLカードを展示しました。また、今 年の8J1ITUの活躍の様子をビデオで展示し、併せて式典 会場でアマチュア無線のリモートによる公開運用を行いま した。コンディションの関係で、今年のリモートは8J1ITU 局を断念し、北海道にあるクラブ会長の個人局JA8CCLを 使って運用しましたが、18MHzのバンドで連続して国内 から呼ばれ、とても良い公開運用となりました。 5.おわりに 2016年の8J1ITU記念局の運用は、電波伝搬のコンディ ションがさらに悪化する中で設備の保守改良、様々なモー ■写真8.海上移動中の斎藤氏 ドでの運用、移動運用の地点をさらに広範囲にするなど、 数々の努力を重ねた結果、昨年度の実績を上回る13,000局 個人のコールサインではなく8J1ITUで運用していただき に迫る交信を達成し、1か月の限定された期間で運用する ました。また、 航海中の船内からも海上移動で運用し129局、 記念局としては、国内最高の運用実績を上げ「世界情報 小笠原村移動では505局の交信を達成しました。 社会・電気通信日」を国内外に広くPRできました。これは、 さいたま市移動では井岡氏が1人で1,302局と全交信の ひとえに日本ITU協会の皆様のお力添えと、日本ITU友の 10%を行い、関東以外では山形と熱海市でも運用を行いま 会アマチュア無線クラブの会員の努力の賜物と皆様に感 した。 謝したいと思います。 2016年5月17日に行われたITUの「世界情報社会・電気 これからもより多くの世界中のアマチュア無線家に「世 通信日のつどい」の式典の会場では、昨年のITU150周年 界情報社会・電気通信日」をPRするために設備を整備充 で交信した局世界のITU記念局との交信記念のQSLカード 実し、日本を代表する特別記念局として活動していきます をはじめ50MHzでアフリカの局と交信したQSLカードなど ので応援をよろしくお願いいたします。 ■写真9.「世界情報社会・電気通信日のつどい」会場での交信の様子 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 35 会合報告 2016年次ITU理事会の結果概要報告 つち や 総務省 情報通信国際戦略局 国際政策課 いわ い 総務省 情報通信国際戦略局 国際政策課 ゆ き こ 土屋 由紀子 ゆうすけ 岩井 優介 1.概要 する国(中国、ロシア、UAE、アフリカ諸国等)と、 「具 2016年次ITU理事会は、5月25日から6月2日にかけて、 体的な提案作成は、同作業部会のマンデートを越えてい スイス・ジュネーブのITU本部にて開催された。 る」 、 「マルチステークホルダーアプローチに反する」とい 理事会は、全権委員会議(4年に1回開催。ITUの最高 う趣旨の発言をする国(欧米諸国、 日本、 オーストラリア等) 意思決定機関)の会期の間のITUをめぐる環境変化に対応 とで意見が分かれた。 するため、広範囲な電気通信政策問題を検討することを任 各国(サウジアラビア、米国、ロシア、ルワンダ)が非 務として毎年開催されるものである。 公式に調整した結果、以下の合意案が作成され、全体会 今年は、昨年9月に持続可能な開発目標(SDGs)が策 合での承認を経て、議長レポートに盛り込まれることと 定されて以降初めて開催される理事会であり、ITU構成国 なった。 (193か国)のうち47の理事国から350名以上が参加し、ITU の重要議題について審議が行われた。 今次理事会の議長は、慣例に基づき昨年の理事会副議長 ① ITU事務局が作成したオープンコンサルテーション 会合のサマリーを同作業部会に提出し、審議する。 ② 上記審議の結果について、合意事項及び合意に至 のJulie Zoller氏(米国)が初の女性議長として選任され、 らなかった場合にはその両論を同作業部会議長レ 副議長は新たにEva Spina氏(イタリア)となった。また、管 ポートに反映し、必要に応じて理事会に報告する。 理委員会の議長はKirill Oparin氏(ロシア) 、同副議長は昨 年に引き続きVernita Harris氏(米国)及びAbdourahmane (2)SDGsに向けたWSIS成果の実施におけるITUの役割 Touré氏(マリ共和国)が務めることとなった。 WSIS作業部会の議長(ロシア)からの同作業部会の活 以下、今次理事会の個別主要議題の詳細について報告 動報告(文書8)に続き、米国(文書84)及びロシア(文 する。 書87)より、理事会決議1332「WSIS成果の実施における 2.個別主要議題の対処結果 2.1 一般的な政策、戦略 ITUの役割」の修正に関する寄与文書について説明がなさ れた。 続けて、SDGsとITUの役割に関して事務局から説明が (1)国際的なインターネット関連公共政策課題に関する理 なされ(文書58) 、米国から、SDGs達成に向けた2030アジェ 事会作業部会での提案作成について(文書51) 、寄与 ンダ実施におけるITUの役割に関する決議案が提案された 文書:ロシア・アルメニア・ベラルーシ・タジキスタ (文書75) 。 ン(文書91) 、サウジアラビア(文書92) 、ルワンダ(文 WSISとSDGsとは密接に連携するため、理事会議長の提 書98) 案により、上記2つのテーマを同時に検討し合意案を作成 はじめに、同作業部会の議長(サウジアラビア)から、 するためのドラフティング会合が開催され、同作業部会の 2回のオープンコンサルテーション会合を含む同作業部会 議長であるVladimir Minkin氏(ロシア)が議長を務めた。 の活動報告とともに、理事会決議1336に基づく同作業部会 日本も参加したドラフティング会合での検討の結果、昨 のマンデートに国際的なインターネット関連公共政策課題 年9月に国連総会で策定されたSDGsに対するITUの役割に に関する具体的な提案作成が含まれているかについて、構 ついて、 「SDGs達成を促進するため、ITUはWSISフレー 成国の見解が一致していないため、今次理事会で検討す ムワークを基礎として活用していく」等の文言を理事会決 る旨説明がなされた。 議1332に追加することとし、全体会合にて承認された。 ロシアほか3か国、サウジアラビア、ルワンダからの「同 作業部会は具体的な提案を作成すべき」との提案を支持 36 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) (3)国際 電 気 通 信 規 則(ITRs:International Telecom- フランであると報告された。本文書は異論なく承認された。 munication Regulations)のレビュープロセス(文書 66) 、寄与文書:米国(文書81) 、ロシア(文書90) 2014年全権委員会議決議146にて設立が決定した、ITR (3)国連合同監査団(JIU:Joint Inspection Unit)によ るレビュー報告(文書49、67) の見直しを行う専門グループに関して、米国及びロシアか JIU副委員長より、以下の内容を含む12の勧告が報告さ ら寄与文書について説明がなされた。両国の提案した決議 れた。 案をベースに合意案を作成するため、Fabio Bigi氏(イタ ・支出削減、収入増加を含む包括的な財務計画の策定。 リア)を議長としたドラフティング会合が開催されること ・管理委員会の枠組みを含むITU内部での調整強化、 となった。2回のドラフティング会合(日本も参加)の結果、 セクター間タスクフォースの影響力及び活動の強化。 以下のとおり、専門グループの所掌事務及び作業方法に関 ・新しい財源の探索を含めた包括的な戦略計画の作成、 する決議案が作成された。 ① 議長1名と各地域からの副議長6名を専門グループ に設置。 ② 専門グループは、2012年の改正ITRの課題や電気通 他の国連機関のベストプラクティスに則った人的資源 政策、ジェンダーや地理的要因に配慮した人的配置。 事務局より、これらの勧告の実施計画を作成しいくつか 実行中であり、2017年の理事会で進捗報告する旨説明さ 信の新しいトレンド等を考慮し、2012年改正ITRの れた。 レビューを行う。 これに対して構成国からは、 「勧告のフォローアップが ③ 専門グループの実会合は、2017年及び2018年の理 事会作業部会に合わせて開催する。 (計3回予定) ④ 専門グループは、2017年の理事会に進捗状況を報 重要である」 (スペイン、スイス、オーストラリア) 、 「各勧 告をITUは責任を持って実施していくべき」 (米国、 ケニア、 ドイツ、サウジアラビア)等のコメントがあった。 告し、2018年の理事会において、同年開催の全権 これらを踏まえ、理事会は事務総局長に対して勧告の 委員会議への報告書に関する最終報告を行う。 実施と次回理事会での報告を指示した。 本決議案は全体会合において承認され、専門グループ の議長には、2010年全権委員会議議長を務めたFernando Borjon氏(メキシコ)が選出された。 (4)2017年~ 2020年ITU事業計画(文書28、29、30、31、 32) なお、2018年全権委員会議において、専門グループの ITU各セクター(R:無線通信部門、T:電気通信標準 検討結果を踏まえて、世界国際電気通信会議の開催の有 化部門、D:電気通信開発部門、事務総局)の2017年~ 無が判断される見通しである。 2020年の事業計画について事務局から説明が行われ、審 議が行われた。各セクターの事業計画は概ね支持され、 2.2 財政・人事 事務局案のとおり採択された。 (1)2015年度ITU財政報告(文書42) 事務局より、2015年におけるITUの財政状況が報告され、 (5)外部監査勧告の報告及びフォローアップ(文書50) 日本が昨年の理事会にて提案した財政指標を今年の報告 2014年財務諸表に対する外部監査報告での勧告につい に盛り込んだ旨説明があった。本文書は異論なく承認され て、以下の3点が報告され、ノートされた。 た。 ① 紛失/盗難項目に関する勧告:在庫管理規定が2015年 12月に変更された。 (2)収支年次報告(文書9) ② 団体医療保険制度及び退職後健康保険制度に関す 事務局より、2016年~ 2017年予算の初年における収入 る勧告:IPSAS 25(従業員給付)の国際的なアクチュ 支出の状況について説明があった。理事会決議1375に基づ アリー研究に関する要件を2016年3月に規定。関連 き、2016年の予算見込額は1億6076万スイスフラン、支出に する入札公募を2016年4月に実施予定。 ついては継続的な効率化追求により予算内に収めることを 目標としており、2016年2月22日時点の実績値として、収 ③ リスク分析に関する勧告:2016年の内部監査計画 立案のため、リスク分析が行われた。 入が1億2678万3千スイスフラン、支出が2062万1千スイス ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 37 会合報告 (6) 独 立 管 理 諮 問 委 員 会(IMAC:Independent ア等からはカテゴリーの新設を支持する発言があった。 Management Advisory Committee)年 次 報 告( 文 審議の結果、合意に達しなかったため、本議題につい 書22) ては作業部会で引き続き検討することとなった。 はじめに、IMAC議長からIMAC年次レポートの概要が 報告された。本報告に対しケニアから、3.27に記載のアフ (10) 退職年次の引上げによる財政的影響(文書43) リカ地域事務所の継続的な予算不足、セキュリティの課題 事務局より、国連規程の変更に伴い2018年以降の給与 などについて質問があったが、予算不足についてはDセク 体系の変更と定年退職年齢の65歳への引上げが施行され ター全体で見ればバランスされた予算になっており、将来 る旨と、それに伴う財政的影響について報告された。 的には事務局が予算調整すること、セキュリティについて 財政的影響として、2018年~ 2019年の支出予算の増加 は現在取り組んでおり今後も向上していく旨が事務局より は830万スイスフランが見込まれるが、ITUでは早期退職 説明された。 制度の活用、新規採用抑制などにより支出の増加を抑える また、2015年次理事会に、IMACレポートの勧告のタイ 旨、併せて報告された。 ムラインを設定するよう日本から寄書を提出したが、本件 これに対し、スペインやドイツ等から定年退職年齢の65歳 に関する状況を日本から確認した。これに対し事務局より、 への引上げについて、下記の意見が出された。 現在適切なタイムラインについてIMACと検討しており、 理事会作業部会で今後検討される旨報告があり、本文書 は承認された。 ① 早期退職することによってインセンティブが生じる ような仕組みを策定すること。 ② ITUの厳しい財政状況に鑑みれば、定年引上げに 伴う追加的財政負担は看過できない。 (7)ITUの体系的リスク管理の実施(文書50) IMAC勧告に基づき、リスクの再測定などがなされてい る旨報告があり、ノートされた。 ③ 本支出を考慮して、他の部分で異なる財政支出削 減を検討すること。 上記コメントに対して、事務局から本規程に従わないこ とで追加費用が発生する旨の説明があり、早期退職制度 (8)IMAC勧告のフォローアップ(文書50) はじめに、 財政人事作業部会の議長代理(スイス)から、 のための費用として3百万スイスフランをリザーブアカウ ントから使用するという旨の本案は承認された。 内部監査やリスク管理等に関して報告がなされた。併せて、 IMACレポートは勧告の実施における優先度を示唆するも のではあるが、タイムフレームの作成については、勧告の 財政的影響を考慮してITUが作成すべきである旨が述べら れ、ノートされた。 2.3 ITUイベント (1)世界電気通信/ICT政策フォーラム(WTPF) (文書 59) 、寄与文書:米国(文書85) WTPFは、電気通信/ICTの急速な変化に伴う問題及び 政策課題に関する国際的な共通認識の醸成を目的として、 (9)ITUメンバーシップの見直し(文書50) 、寄与文書: 米国(文書83) 世界中のステークホルダーが意見交換をするフォーラムで ある。前回は「インターネットに関する国際公共政策課題」 はじめに事務局から、課金減免されたSMEカテゴリー をテーマに、インターネットガバナンス、IXP、IPv6等に の創設、NGO・アカデミアの参加の見直し、料金免除基 関して議論を行った。 準の見直し等の検討状況、及びアルゼンチンが提案した 今次理事会では、WTPF開催の必要性について決定す ITU-Tの研究委員会(SG:Study Group)へのSMEのト ることが求められており、米国から「2017年のWTPF開催 ライアル参加について報告された。次に米国から、 「カテ は不要。2018年の全権委員会議にて開催の是非を議論す ゴリーを新設・変更した際の収入の増減の検討が必要。 べき」との提案がなされた。米国を支持する発言がカナダ、 アルゼンチンからの提案についても同様に検討が必要」と オーストラリア、日本、UAE等からあった一方、開催の必 の発言がなされた。 要性を主張する発言がブラジル、サウジアラビア、インド、 オーストラリア、日本等が米国を支持、ロシアも収入構 メキシコ等からあった。 造への影響に懸念を示した一方、スペイン、サウジアラビ 審議の結果、事務総局長が引き続き加盟国と調整を続 38 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) け、来年の理事会でWTPFの必要性について報告するこ イスフランとするとともに、竣工時期を2023年とすること ととなった。 も決定された。 また、本計画の推進に当たり、各地域から1か国の構成 (2)2017年世界電気通信開発会議(WTDC-17)の開催場 所及び日程(文書56) 国が参加するアドバイザリーボードを設置することとなっ た。 WTDC-17が2017年10月9日~ 20日にかけてアルゼンチ ン・ブエノスアイレスで開催される案が報告され、異論な (2)国 際 電 気 通 信 番 号 資 源 ( I N R : I nt e r nati onal く承認された。テーマは「ICT for SDGs」となった。 Numbering Resources)からの 収 入 源 創 出( 文 書 69) 、寄与文書:米国(文書79) 、サウジアラビア(文 (3)2019年世界無線通信会議(WRC-19)の開催場所及び 日程(文書27) 、寄与文書:米国(文書76) 書96) INRへの新たな課金により、ITUの新たな収入源を創出 事務局から、RA-19(無線通信総会)を2019年10月21日~ しようとするもので、2014年の理事会において事務局から 25日にかけて、WRC-19を2019年10月28日~ 11月22日にか 提案がなされた。財政人事作業部会においてトライアルの けて、ジュネーブにて開催する案が報告された(第2回CPM* 実施、コストリカバリベースでの実施などについて検討が は2019年2月末予定) 。 行われているが、合意に達していない。 本案に対し、米国から2019年第2四半期でのCPM開催が 事務局から作業部会での検討状況が報告された後、米 提案され、CPMの日程に関しては議論の内容がレポート 国から「長期間議論が行われているがコンセンサスが得ら に反映されることとなった。RA-19及びWRC-19の日程に れていないため、本件の検討は継続せず、コスト削減や効 関しては、事務局提案のまま承認された。 率化に注力すべき」旨の提案があった一方、サウジアラビ またエジプトからWRC-19招致を検討している旨コメン アから「INRの一部に課金すべき」との提案があった。 トがあり、開催場所については2017年次理事会にて報告さ 各国からは、 「導入に賛成」 (インド、ロシア、中国、 れることとなった。 UAE等) 、 「ITUの財政状況に鑑みると収入増が必要」 (ス ペイン) 、 「希望する国で実施すべき」 (ブルガリア) 、 「INR 2.4 その他の考慮すべき報告 (1)ITU本部ビルの建て替え(文書7) への課金により利益を上げるべきでない」 (英国、スウェー デン) 、 「導入に反対」 (日本、オーストラリア、ポーランド 2014年の全権委員会議において、現在の3つのITU本部 等)など様々な意見が述べられた。 ビル(ベロンベ、タワー、モンブリアン)のうち、老朽化 議論が収束しないため、Caroline Greenway氏(オース したベロンベビルのあり方について検討することが決定さ トラリア)を議長とするアドホックグループが設置された れ、建物作業部会(議長:スペイン)で審議が行われ、コ が合意には達せず、作業部会で引き続き検討し、来年の ストが最も低廉となる「タワービルを売却し、ベロンベビ 理事会に報告することとなった。 ルを建て替える」旨の報告書が本年2月にとりまとめられた。 本報告に対し、中国、ロシアから「慎重な判断が必要 (3)宇宙資産国際登録システムの監督機関としてのITUの であり、今次理事会で最終決定すべきでは無い」との意 役割(ユニドロワ、文書36) 、寄与文書:米国(文書 見があり、日本からは報告書とりまとめに謝意を示しつつ、 「本プロジェクトの財政的影響は非常に大きいため、ITU 82) 昨年のITU理事会での宇宙資産議定書に基づく宇宙資 の予算計画に収まるかどうかの詳細な検討が必要である」 産国際登録システムの監督機関としてのITUの役割に関す 旨を発言した。 る議論をフォローアップするとともに、第4回登録機関設 各国との非公式な調整の結果、スペイン、米国、カナダ、 立準備委員会(2015年11月開催)の状況について事務局 オーストラリア等の強い支持により、本報告書が全体会合 から報告された。 にて承認された。併せて、総事業費の上限を1億4700万ス 事務局からの「ITUが監督機関になるかどうかの最終判 *CPM(Conference Preparatory Meeting) :WRC準備会合のひとつ ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 39 会合報告 断は2018年全権委員会議で行われるとしつつも、諸制度 て新たな活動は行うべきではない。DOAに関する活動は、 が整った際にはITUが監督機関になることについて理事会 ITU-Tにおける標準化活動に焦点を絞るべき」との趣旨の は承認してほしい」という要求について、米国から本理事 発言を行った。 会での承認は時期尚早である旨指摘があった。 電気通信標準化局(TSB)との審議及び各国との非公 ITUが監督機関になることに対して反対を表明する国は 式な調整の結果、ITUによるDOA活動及びDONA財団と ないものの、今次理事会での承認については大半の構成 の関係についての理解を深めるため、TSBと関心を有する 国が慎重な姿勢を示したため、今次理事会では承認せず、 構成国とは引き続き話し合うこと、また、DOAの技術的 次回全権委員会議で決定することとなった。 観点からの検討は関連するSGにて実施することとなった。 (4)財政的・戦略的影響を有する覚書へのITUの参加(文 (6)ITUとインターポールとの協力協定(文書71) 書50) 、寄与文書:米国(文書80) 、サウジアラビア(文 サイバーセキュリティに関するインターポールとの協力 書94) 協定へのサインについて、今次理事会での暫定的な承認 2014年全権委員会議決議192に基づき、財政的・戦略的 を求める旨の提案が事務局よりなされた。これに対し米国 影響を有する覚書にITUが参加する場合の基準及びガイ より、 「サイバーセキュリティはITUのマンデートを越えて ドラインについて、財政人事作業部会の議長代理(スイス) いる。詳細を更に確認すべき」との指摘がなされた。 から、1年かけて検討された作業部会案が説明された。米 インターポールとの協力に関しては強い反対はないもの 国から「作業部会案を支持する。本案を理事会で承認す の、他の国からも今次理事会ではなく2018年全権委員会 べき」という発言がなされ、オーストラリア、カナダ、ポー 議での決定を促す発言が多い一方、中国、インド等からは ランド、日本が米国案の支持を表明した。一方、サウジア 今次理事会での承認を求める発言がなされた。 ラビアから「作業部会案には不明確な箇所があり、更なる 急きょ、Micaela Klein氏(米国)を議長としたドラフティ 検討が必要」との提案があり、中国、南アフリカ、ルワン ング会合が開催され(日本も参加) 、議論を行った結果、 ダ等がこれを支持した。 以下の決定案が作成された。 審議の結果、合意に達しなかったため、今次理事会で の承認は見送り、引き続き作業部会において検討すること となった。 ① 2014年全権委員会議決議130の範囲内にて、イン ターポールとの協力を継続する。 ② 児童オンライン保護・デジタル捜査・マルウェアに 関する活動、及びその活動がITUのマンデート及び (5)ITUのDOA(Digital Object Architecture)への関与 (文書50) 、寄与文書:米国(文書78) 、ロシア(文書 89) 、サウジアラビア(文書93) リソースの範囲内であること等の懸念事項に関する 対応を事務総局長へ要請する。 本決定案が全体会合にて承認されるとともに、2017年 ITUは2014年にDONA(Digital Object Numbering 次理事会に再度報告されることとなった。 (協力協定への Authority)財団との覚書を締結し、DOAに関する活動を サインは、今次理事会では承認が見送られた。 ) 進めているが、米国からは「ITUのDOA関連活動の継続 には覚書は不要であり破棄すべき」との提案がなされた。 対してロシアからは「覚書はITUの役割と矛盾していな (7)議長・副議長の選出基準を含む理事会作業部会の創 設及び管理について(文書50) い」 、サウジアラビアからは「ITUはDOAの活動を推進す 作業部会の創設及び管理に関する理事会決議1333の修 べき」という趣旨の提案がなされた。 正案が事務局より提出され、作業部会の議長・副議長の DOA活動を支持する主にアジア・アフリカ諸国(インド、 選出基準に関して、ジェンダーバランスや地理的要因を考 中国、パキスタン、UAE、南アメリカ、ナイジェリア等)と、 慮すべきとの意見が各国から出された。ロシアを議長とす ITUは特定の技術をプロモートすべきではない等の理由か る各国で調整の結果、ITUでの会議及び他政府間組織で ら、覚書の必要性に疑問を呈する欧米諸国(カナダ、オー の経験が選定基準として盛り込まれた理事会決議1333の ストラリア、英国、スウェーデン等)とで意見が対立した。 修正案が承認された。 日本は「理事会での合意がない以上、ITUはDOAに関し 40 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) (8)理事会文書の公開(文書50) 、寄与文書:ロシア(文 書88) 議の結果、①は5ページ以内を「推奨」とし、かつ事務局 が英語に翻訳すること、という内容で合意し、その旨を理 会議文書に関わる経費削減に努めるため、理事会の情 事会決定495に反映した修正案が全体会合にて承認され 報文書(理事会に承認などのアクションを求めない各国か た。 らの寄書、またアクションを求めないため提出者が情報文 また、ロシアから、理事会及び理事会作業部会に決定 書であると考える文書)に関して、以下のとおり事務局か を求める事務局文書は理事会及び作業部会の開催30日前 ら理事会決定495の修正案が説明された。 までに該当ウェブサイトに掲載されること、という旨の理 ① 電子文書はオリジナル言語のみで5ページ以内とし、 事会決定556の修正案が提示され、承認された。 要約文書を提出者が付すること。 ② 上記要約文書を踏まえ、理事会でアクションが必要 であると考えられる文書は、国連公用6言語に翻訳 (9)情報/文書へのアクセス方針案(文書50) 、寄与文書: 米国(文書77) 、サウジアラビア(文書95) される。なお文書がウェブサイトに掲載されてから 情報/文書へのアクセス方針専門委員会の議長(ブルガ 5日後までに構成国は翻訳必要の意思を伝える必要 リア)から、ITUの情報/文書へのアクセス方針について がある。 報告された。本方針については2017年1月から試行され、 これに対し各国から、①5ページ以内という制限、及び 2017年及び2018年次理事会で報告、2018年全権委員会議 ②5日後という短い期限について、懸念が表明された。審 の場で最終的な方針が決定されるということで承認された。 ■今次理事会参加者による集合写真 (©ITU/M.Jacobson-Gonzalez、flickrのITU Pictures提供) ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 41 会合報告 G7香川・高松情報通信大臣会合結果報告 やぶした 総務省 情報通信国際政策課 政策係長 ゆうすけ 籔下 裕介 1.はじめに 2016年5月26日、27日、我が国が議長国を務める「G7伊 勢志摩サミット」が開催された。また、サミットの関連会合 の一つとして、 「G7香川・高松情報通信大臣会合」が4月 29日、30日の2日間香川県高松市で開催された。 日本からは高市総務大臣が議長を務めるとともに、林経 済産業大臣、松下総務副大臣、輿水総務大臣政務官らが 出 席した。 また、G7各 国 及びEU、 国 際機 関(ITU及び OECD)の代表が参加した。 大臣会合では、IoT、AIなどの新たなICTの普及する社会 における経済成長の推進やセキュリティの確保、ICTを利用 ■写真1.栗林公園でのフォトセッション した地球規模課題の解決等につき活発に議論が行われた。 また、あらゆる人やモノがグローバルかつシームレスにつ ながる「デジタル連結世界(Digitally Connected World)」 の実現に向けた基本理念や行動指針をとりまとめた「憲章」 及び「共同宣言」を採択するとともに「共同宣言」の附属 書として「協調行動集」を策定した。 具体的には、 ①2020年までに新たに15億人をインターネットに接続 ②自由でオープンなインターネットを支える情報の自由な 流通を確保 ③安全・安心なサイバー空間の実現に向けて、国際連携 によりサイバーセキュリティを確保しつつ、テロや犯罪 ■写真2.大臣会合の様子 への悪用に対抗 ④高齢化、防災、教育、医療などの地球規模課題の解 決に活用し、 「持続可能な開発のための2030アジェン ダ」の推進に貢献 など、ICT分野の基本的な方針について合意し、G7として 一致したメッセージを発出した。また、会合期間中に、各 国代表との二国間会談、産学リーダーによるG7 ICTマルチ ステークホルダー会議、ICT関連の展示、エクスカーショ ンなどの各種イベントを実施した。 筆者は、情報通信大臣会合を開催することが決定した 2015年の夏以降、主に成果文書のドラフティングに携わった。 以下では、昨今のICTをめぐる国際的な潮流や、G7各 国の動向も踏まえつつ、G7香川・高松情報通信大臣会合、 及び関連会合・イベントの結果について報告したい。 42 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■写真3.大臣会合で議長を務める高市総務大臣 2.G7香川・高松 情報通信大臣会合 際的に高まっている。 G7の枠組みにより情報通信について深く議論されるの このような動きを背景に、イノベーションの推進や創出の は、1995年にブリュッセルにおいて大臣会合が開催されて ため、 IoT推進団体間の国際連携を推進することで一致した。 以来、実に21年ぶりであった。ブリュッセルでの会合名は、 また、AIについては、ネットワーク化されることにより、 「G7 Ministerial Conference on the Global Information 膨大な情報・データの処理が可能となり、大きな経済効果 Society」と題され、今や広く普及している情報インフラは、 がもたらされる一方、いずれAIの機能が人類の知能に匹敵 当時は“新しい技術”であり、これから普及を進めようと するようになった際に、社会に大きな影響・リスクも与える いう時代背景のもと開催された。 であろうことも踏まえ、我が国より、AIのネットワーク化が その後、21年の間に、インターネット、モバイル通信等 社会経済に与える影響の分析を国際機関と連携し実施する のICTの技術進歩と世界的な普及によって、経済や社会の など、AIの開発原則の議論に着手することを提案し、各国 在り方も大きな変化を遂げた。そして、近年、ICTはIoTや から賛同が得られた。 ビッグデータ、AI、5Gといった新しいICTとそれを支える ICTインフラとサービスの世界的普及によって、地球上の全 ②情報の自由な流通とサイバーセキュリティ ての人とモノがいつでもどこでも、容易にグローバルかつ インターネットは、情報の自由な流通を促し、民主主義 シームレスに接続する世界を実現させつつある。 の発展に貢献するだけでなく、経済成長に欠かすことので このような世界を「デジタル連結世界(Digitally Connected きない基盤となっており、その効果を最大化するためにも World) 」と呼び、この世界へと移行する歴史的機会を捉え、 情報の自由な流通の確保が必須であることが確認された。 ICTを如何に経済成長やイノベーションに結び付けるか、 そのためにG7として、サイバー空間の政策決定に政府、企 そのためにセキュリティやプライバシーに配慮しつつどのよ 業、学会、市民社会など全ての関係者の参画によるマルチ うに情報の自由な流通を確保するべきか、また、依然とし ステークホルダー・アプローチを支持することを確認した。 て存在するデジタルディバイドを解消し、ICTの利益を世 また、データローカライゼーション(サーバー設備等の国内 界全体で包摂的に享受するためにはどうすべきかといっ 設置)要求のような情報の自由な流通を阻害する行為につ た課題について、議論を行い、情報通信政策の今後の在 いて、正当な公共政策目的がある場合を除き、G7として反 り方を規定するG7としての一致した強いメッセージを世界 対することで一致した。 に発出することが、今回のG7情報通信大臣会合の目標で また、オープンかつ安心・安全なインターネット環境を維 あった。 持・実現するため、セキュリティの確保やプライバシーの保 このような問題意識を背景に、以下の4つを大臣会合の 護が重要であることも確認された。一部の国において、セ 議題とし議論を行った。 キュリティの確保のために、インターネットへの検閲やアク ①新たなICTがもたらすイノベーションや経済成長 セス制限など、政府による規制が行われている状況も踏ま ②情報の自由な流通とサイバーセキュリティ えつつ、自由かつ安心・安全なインターネット環境の実現 ③ICTによる地球規模課題の解決 方策について議論し、サイバー攻撃傾向の分析技術に関す ④国際連携と国際協力 る研究や、サイバーリスクを客観的に把握するための指標 各議論の概要を以下に述べる。 の活用などの取組みを推進することにつき一致した。 ①新たなICTがもたらすイノベーションや経済成長 ③ICTによる地球規模課題の解決 日本では2015年9月以降、総務省情報通信審議会IoT政 2015年9月に国連総会で「持続可能な開発のための2030 策委員会等でIoTの議論が行われている。また、2015年10月 アジェンダ」が採択され、貧困、女性の社会進出、教育、 にIoT推進コンソーシアムが設立され、産学官の連携によ 防災といった地球規模の開発課題に関する目標が世界的に り、IoT推進に関する技術開発や新規ビジネスモデルの検 合意されるとともに、これらの課題の解決のために、ICT 討が進められている。諸外国においても、米国において が大きな役割を果たすことも確認された。これを背景にG7 Industrial Internet Consortiumが設立され、ドイツがイ が先進的知見を有する、高齢化社会や防災などの分野に ンダストリー 4.0を提唱するなど、IoTを推進する動きが国 おけるICTの活用を推進し、同アジェンダの実現に寄与す ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 43 会合報告 ることが確認された。 また、ICTへのアクセスの重要性も改めて確認された。 2015年9月の国連総会で米国が提唱した「グローバルコネク トイニシアティブ」も踏まえ、2020年までに15億人を新たに インターネットに接続可能とすることを目指すことで一致した。 また、我が国より、 「質の高いインフラパートナーシップ」も 踏まえ、質の高いICTインフラの構築の推進について、G7に おける連携の可能性を提案、各国から概ね賛意が示された。 ④国際連携と国際協力 上記の①~③を実際に実現するための国際連携・国際 協力の重要性について議論が行われた。 ■写真4.G7ICTマルチステークホルダー会議で 挨拶する松下総務副大臣 上記の議論を踏まえ、G7各国の連携・協力による取組 みを強化するため、 「デジタル連結世界」の実現までの、 今後10年~ 15年先を見据えた中長期の目標や基本理念を まとめた「デジタル連結世界憲章(Charter for the Digitally Connected World) 」を採択するとともに、憲章を踏まえ、 デジタル連結世界の実現に向けた行動計画を取りまとめた 「G7情報通信大臣会合共同宣言(Joint Declaration by G7 ICT Ministers) 」を採択した。 また、G7各国の具体的な取組みを集め、国際機関も含 めた相互の連携・協力を図るべく、共同宣言の別添として、 「協調行動集(G7 Opportunities for Collaboration)」を 策定した。 ■写真5.G7ICTマルチステークホルダー会議の様子 2017年G7議長国であるイタリアが情報通信大臣会合を 開催することが歓迎された。 ②G7学生ICTサミットin 高松 情報通信大臣会合に先立ち、2015年12月にG7香川・高 なお、本会合に関する結果、概要等(表1~ 4)を本稿 松情報通信大臣会合推進協議会、香川県、高松市の主催 の最後に示す。 で「G7学生ICTサミット in 高松」を開催した。G7各国及 3.その他大臣会合関連会議・イベント びEU(スウェーデン)から学生計10名がパネルディスカッ ションを行い、次の世代を担う若い世代がICTの将来の課 大臣会合への機運を高めるため、会合の準備期間中、 題について議論を行った。議論の結果、 「The Future in 及び、会合中、関連会合・イベントが開催された。 Your Hands」と題された提言が策定され、同会合の代表 者によってG7情報通信大臣会合に報告された。 ①G7 ICTマルチステークホルダー会議 29、30日の大臣会合と並行して4月29日に「G7 ICTマル ③二国間会談 チステークホルダー会議」が開催された。同会議では、松 大臣会合の機会に、高市総務大臣は、欧州委員会、英国、 下総務副大臣が出席し、ICTによるイノベーションと経済 米国と二国間会談を実施した。欧州委員会アンシップ副委 成長等の諸課題について日米欧の産学官のリーダーが参加 員長、英国ベイジー文化・デジタル経済担当大臣とはIoT し、集中的に議論が行われ、その結果は大臣会合で発表・ 社会に向けた更なる連携の強化を図ることに合意した。ま 共有された。会議には約300人が参加するとともに、 インター た、米国ノベリ国務省次官とは、デジタルディバイド解消に ネットでライブ配信が行われた。 向けて協力を進めることに合意した。並行して、松下総務 44 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 副大臣はイタリアと、輿水総務大臣政務官はドイツと二国 同付属文書は、関係閣僚会合で議論されたサイバーの 間会談を行った。 議論の結果がまとめられたものである。具体的には、主に G7香川・高松情報通信大臣会合で議論されたサイバーの ④ICT関連展示 経済的側面と、主にG7広島外相会合で議論されたサイバー 「2020年に向けた社会全体のICT化」をテーマに、今回 の安全保障の面に関する議論を踏まえ、サイバー分野に関 の大臣会合の開催に合わせて、関係企業・団体のご協力 するG7の合意事項として取りまとめられたものである。 により、我が国の先端的なICTの展示会を開催した。高市 同付属文書によって、自由な情報流通と開かれたサイ 総務大臣とG7各国等の代表が展示会を視察し、地元の方々 バー空間の確保が経済・社会の発展に不可欠であるととも を含め、延べ約3,500人が来場した。 に、その維持・確保のためにG7が一致して行動を進めるこ とが必要であるということが首脳レベルでも確認され、世 界に示されたことは情報通信政策を進める上でも非常に意 義があると考える。 5.おわりに 先に述べたが、筆者は2015年の夏以降、主に成果文書 のドラフティングに携わった。成果文書の調整に当たって、 G7各国担当とは、メールベースでのやり取りや累次にわた る事務レベルでの対面会合、直前期には連日のテレビ会議 などを通じて事前準備を進めた。21年ぶりのG7での議論 ■写真6.ICT関連展示の視察 であり、調整は決して簡単ではなかったが、自由と民主主 義という共通の価値観を有しているG7から一致したメッ セージを発信しようという目標を共有し、G7各国からは常 ⑤地元の主催行事 に積極的な貢献・サポートが得られた。結果、4月30日、 香川県・高松市は、 「世界の宝石」とも称される瀬戸内 成果文書が取りまとまり、G7として世界に一致したメッセー 海と緑豊かな自然に囲まれ、魅力ある文化、芸術や特色あ ジを発信した。今後の情報通信の国際的な議論の中で1つ る産業が育まれた。会合前日に、香川県・高松市主催の のマイルストーンとなる瞬間に携わることができたことを非 歓迎レセプションが開催され、浜田知事と大西市長からG7 常に光栄に思う。 各国代表に歓迎の挨拶が述べられた。また、会合終了後、 ICTの可能性・技術開発のスピードに鑑みると、今後も 浜田知事の案内で直島へのエクスカーションを行い、G7各 G7として継続的な議論は不可欠だと考える。来年のG7議 国代表は「地中美術館」で芸術鑑賞のひと時を過ごした。 長国はイタリアであり、イタリアからは来年、情報通信大 4.G7伊勢志摩サミット ICT(サイバー)の重要性については、2016年5月26日、 臣会合を開催する旨が表明されている。本年の情報通信大 臣会合の議論をイタリア会合につなげ、更に議論を深めて まいりたい。 27日のG7伊勢志摩サミットでも議論が行われた。首脳宣言 最後になるが、情報通信大臣会合の開催に当たっては、香 においてサイバーの重要性について言及されるとともに、 川県や高松市など多くの関係者の方々に多大なご貢献をいた 同宣言の付属文書として「サイバーに関するG7の原則と行 だいたものであり、この場を借りて改めてお礼申し上げたい。 動」が採択された。 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 45 会合報告 ■表1.G7香川・高松情報通信大臣会合 開催結果 ■表2.G7情報通信大臣会合 デジタル連結世界憲章の概要 46 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) ■表3.G7情報通信大臣会合 共同宣言の概要 ■表4.G7情報通信大臣会合 協調行動集の概要 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 47 会合報告 ITU-R SG5関連会合の結果について 前 総務省 総合通信基盤局 電波部 移動通信課 新世代移動通信システム推進室 システム開発係長 (現 総務省 総合通信基盤局 電波部 電波環境課 認証推進室 国際認証係長) 総務省 総合通信基盤局 電波部 基幹・衛星移動通信課 国際係長 前 総務省 総合通信基盤局 電波部 基幹通信課 国際係長 (現 総務省 消防庁 国民保護・防災部 防災課 防災情報室 課長補佐) 1.はじめに おおむら ともゆき おく い まさひろ あ べ としかず 大村 朋之 奥井 雅博 阿部 敏和 2.SG5第11回会合 国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)のSG5(地上 2.1 SG5の所掌及び会合の概要 業務研究委員会)関連会合が、2016年5月9日から24日に 地上業務を所掌するSG5会合では、WRC-19会期の初回 かけてスイス(ジュネーブ)のITU本部で開催されたので、 の会合であるため勧告案等の文書審議は行われず、SG5の その概要を報告する。 体制の検討等が行われた。本会合には、31か国から157名 SG5は、陸上・航空・海上の各移動業務、固定業務、無 が出席し、我が国からは11名が参加した。 線測位業務、アマチュア業務及びアマチュア衛星業務を 所掌しており、前回会合までは我が国の橋本明氏(NTTド 2.2 主要議題及び主な結果 コモ)が議長を務めていたが、本会合からのWRC-19会期 ① SG5の体制の検討 では英国のMartin Fenton氏が議長に就任している。SG5 SG5の下のWPは前会期と同様4つのWP体制が維持さ は、表1に示すとおり、従前からの 4 つのWorking Party れ、CPM19-1会合で要請されていたWRC-19議題1.13(将 (WP)と本会合において正式設置された1つのTask Group 来のIMT開発に向けた24.25-86GHz帯における移動業務 (TG)から構成され、本2016年5月期はSG5会合、WP5Dを の追加一次分配を含むIMT特定のための周波数に関する 除く3つのWP会合とTG5/1会合が開催された。 検討)のためのTask Group 5/1(TG5/1)の設立が承 IMTを所掌するWP5D会合については、直近では2016年 認された。 6月14日から22日にかけて第24回会合が開催されており、そ の結果については本報告においては割愛させていただく。 ② 各WPとTGの議長の選出 以下では、5月9日に開催された SG5 会合、5月10日から WP5A、WP5B、WP5D の議長は前会期から継続され、 20日に開催されたWP5A、WP5B、WP5C会合及び5月23日 WP5C 議 長 は 中 国 推 薦 の Pietro Nava氏(Huawei) 、 から24日に開催されたTG5/1会合の主要議題と主な結果に TG5/1 議 長 は カ ナ ダ の Cindy Cook 女 史(Industry ついて報告する。 Canada)が選出された。 3.WP5A第16回会合 ■表1.SG5の構成 組織名 所掌 議長 SG5 地上業務 WP5A 陸上移動業務(IMTを除く)アマ チュア業務、アマチュア衛星業務 WP5B 無線測位業務、航空移動業務、 海上移動業務 WP5C 固定業務 Pietro Nava 氏 (華為技術) WP5D IMT Stephen Blust 氏 (AT&T) TG5/1 WRC-19 議題1.13 48 Martin Fenton 氏(英国) Jose Costa 氏 (Ericsson Canada) John Mettrop 氏(英国) Cindy Cook 女史 (カナダ) ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 3.1 WP5Aの所掌及び会合の概要 WP5Aでは、IMTを除く陸上移動業務、一部の固定業務 (FWA:Fixed Wireless Access) 、アマチュア業務及びア マチュア衛星業務に関する技術的検討を実施している。本 会合には、42か国から229名が出席し、我が国からは15名 が参加した。前回会合と同様に、表2のとおり5つのWorking Group(WG)体制のもとで、検討が行われた。本会合で は114件の入力文書について検討が行われ、63件の文書が 出力された。 ③ PPDR(公共保安及び災害救援)に関する検討 ■表2.WP5Aの審議体制 担務内容 WP5A 議 長 Jose Costa 氏(カナダ) WG1 アマチュア業務、 アマチュア衛星業務 Dale Hughes 氏(オーストラリア) WG2 システムと標準 Lang Baozhen 氏(中国) WG3 PPDR (公共保安及び災害救援) Amy Sanders 女史(米国) WG4 干渉と共用 Michael Kraemmer 氏(ドイツ) WG5 新技術 吉野 仁 氏(日本) WRC-15で改訂された決議646(Rev.WRC-15)の変更 結果を受け、 PPDR用周波数を整理した勧告ITU-R M.2015 の改訂に関する作業文書を作成し、今後の改訂のため のガイドラインドキュメントを作成して議長報告に添付 された。 ④ 干渉と共用に関する検討 WRC-19議題1.16(5GHz帯RLANと他の業務との共用 検討)に関して、RLAN技術特性及び運用要求に関す る作業文書、RLAN航空計測に関する作業文書、RLAN 共用検討に関する作業文書に関する作業開始が合意さ 3.2 主要議題及び主な結果 れた。 ① アマチュア及びアマチュア衛星に関する検討 WRC-19議題1.1(50-54MHz帯のアマチュア業務へ ⑤ 高度道路交通システム(ITS)に関する検討 の分配の検討)に関する作業計画及びCPMテキスト案 WRC-19議題1.12(ITS用周波数の世界的調和)に関 に向けての作業文書、50-54MHz帯におけるアマチュ して、日本よりCPMテキスト案の骨子と、今後の作業 ア業務と既存業務との共用検討についての暫定新レポー 計画案を提案し、ドイツ・米国等のサポートも得られ、 ト草案M.[AMATEUR_50MHZ]に向けての作業文書 合意された。ITS利用状況の調査レポートに関する新レ を作成した。また前回会合からキャリーフォワードされ ポート案ITU-R M.[ITS USAGE]の作成作業は議長報 た勧告M.1732「共用検討で使用されるアマチュア及び 告に添付され、次回会合へキャリーフォワードされた。 アマチュア衛星業務で運用されるシステムの特性」に関 し、次回会合での完成を目指して暫定改訂案として WP5A議長報告に添付した。 ⑥ 275−450GHzの周波数帯における陸上移動業務への 周波数特定に関する検討 WRC-19議題1.15(275-450GHzの周波数帯における陸 ② 鉄道無線に関する検討 上移動業務及び固定業務への周波数特定の検討)に関 WRC-19議題1.11(列車沿線間の鉄道無線通信システ して、日本提案を元に275GHzの移動無線システムの特 ム(RSTT)に関する検討)のためのRSTTの技術運用 性に関する暫定新レポート案M.[300GHZ_MS_CHAR] 特性とスペクトラム要求についての暫定新レポート案 の作業文書が作成され、議長報告に添付され次回会合 M.[RAIL.RSTT]の作業文書のほか、CPMテキスト案 にキャリーフォワードされた。 のための作業文書、作業計画案等が、議長報告に添付 され次回会合にキャリーフォワードされた。またITU加 盟国等に鉄道無線システムに関する質問を行うための回 4.WP5B第16回会合 4.1 WP5Bの所掌及び会合の概要 章が準備され、その後6月3日に5/LCCE/60として各国、 WP5Bは、無線測位業務、航空移動業務及び海上移動 セクターメンバー等に発出された。 業務に関する技術的検討を実施している。本会合には、 また2014年に日本提案により作業が開始された鉄道 38か国から221名が出席し、我が国からは6名が参加した。 無線リンクに関する暫定新レポート案M.[RAIL.LINK] また、125件の文書について検討が行われた。 作業文書は、その内容が合意され、タイトルを「ミリ波 帯における特定鉄道通信システム」へ変更した後、暫 4.2 主要議題及び主な結果 定新レポート案への格上げが合意され、議長報告に添 ① 無人航空機及び決議155に関する検討 付された。次回エディトリアル修正を経て最終化される WRC-15議題1.5において、 無人航空機システム(UAS) 予定である。 の制御及び非ペイロード通信(CNPC)のために固定衛 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 49 会合報告 星業務(FSS)に分配された周波数帯を使用することが (IALA)より、ITU-R新レポート案の提案があり、160MHz 検討され、WRC-15においてUAS CNPCの利用に関する 帯でAPPENDIX18に記載がない周波 数 帯(160.975- 決議155が作成された。本決議にはUAS CNPC利用のた 161.475MHz)を衛星VDEのダウンリンクで利用するこ めの条件や行うべき検討事項が列挙されている。本会 とが提案された。我が国及びドイツより、APPENDIX18 合においては米国及び英国から決議155で指示されてい に記載のない周波数を候補とすることに懸念が示された。 る検討事項を誰(WP5B、WP4A、ICAO等)が担当す 結果として、作業計画、CPMテキスト案及びITU-R新レ べきか整理した寄与文書が入力された。本寄書につい ポート草案M.[VDES-SAT]に向けた作業文書(ロシア てイランより、WP5BではWP5Bの所掌の内容のみ検討 及びIALAの入力を統合したもの)が作成され、議長報 すべきであるとの見解が示され、WP5Bが検討すべき項 告に添付された。また、WP4C、5A、5C、6A、6B及び 目のみについて整理を行った。前研究会期に作成中で 7Dへ宛てたリエゾン文書が作成され、VDES衛星への分 あったレポートM.[UAS-FSS]について、米国、ドイ 配検討対象となっている周波数帯(156.0125-157.4375MHz ツ等からレポートとして完成させるべきとの意見があっ 及び160.6125-162.0375MHz)全域にわたり、当該及び たが、WRC-15において決議155が作成されたことから、 隣接周波数で運用中システムの技術及び運用特性を求 フランス、ロシアから決議155に沿って新たな文書を作 めた。 成すべきとの意見もあり、結論は出ず、次回会合で継続 検討することとなった。 ④ WRC-19議題1.10(GADSSの導入、利用に関する周 波数要求及び規則条項) ② WRC-19議題1.8(GMDSSの更新及び近代化)に関 する検討 WRC-19議題1.10は、ICAOで検討されているGADSS (全世界的な航空遭難・安全システム)に関する周波数 WRC-19議題1.8は、決議359(WRC-15改)による全 等を検討する議題である。本会合では、アルゼンチン工 世界的な海上遭難・安全システム(GMDSS)の更新及 科大学から衛星搭載のADS-Bのようなメッセージ(位 び近代化のための規制条項の検討であり、GMDSSの更 置情報メッセージ)の受信確率のシミュレーション結果 新としてイリジウム衛星システムの導入が議論の中心と が入力されたが、ITU-RにおけるGADSS検討はICAO なることが想定されている。本会合ではWP4Cの要求事 文書の最終化を待つべきとの共通認識から、本文書は 項の確認を求めるWP4Cのリエゾン文書について検討さ 議長報告に添付され、次回WP5B会合へ持ち越された。 れ、決議359(WRC-15改)resolves2に関わる研究(追 5.WP5C第16回会合 加衛星プロバイダに関する研究)をWP4Cに要請すると ともに、本議題解決のMethodとしてイリジウム衛星の 5.1 WP5Cの所掌及び会合の概要 使用周波数をRR付録第15号へ記載すること(RR第5条 WP5Cは、固定無線システム並びに30MHz以下の固定 の修正はしない)が考えられる旨が記載された。また、 及び陸上移動業務のシステムに関する技術的検討を表3に 米国より議題1.8の作業計画及びCPMテキスト案に向け 示す体制のもとで実施している。このうち、WG5C-4の議 た作業文書が提案され、議長報告に添付された。 長については、本会合でNTTの大槻氏が就任した。 ③ WRC-19議題1.9.2(衛星VDES及び海上通信の高度 ■表3. WP5Cの審議体制 化のためMMSSの周波数分配及び規則条項)に関す る検討 本議題は、WRC-15議題1.16において衛星VDEのため に海上衛星移動業務の分配が検討されたが、ロシアの 反対によりWRC-19議題1.9.2として持ち越すこととなっ たものである。本会合では、ロシアよりVDES衛星と宇 宙監視レーダーとの共用検討に関する新レポート案に向 けた作業文書の提案があった。また、国際航路標識協会 50 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 担務内容 WP5C 議 長 Pietro Nava 氏 (華為技術) WG5C-1 30MHz以下のシステム Brian Patten 氏(米国) WG5C-2 30MHz−18GHzのシステム Nasarat Ali 氏(英国) WG5C-3 18GHz以上のシステム及び 一般的な寄与文書 Haim Mazar 氏(ATDI) WG5C-4 WRC議題に関連しない勧告、 レポート等の見直し 大槻 信也 氏(日本) 本会合には、34か国、18機関から171名が出席し、我が 71-86GHZ]の作成が進められている。 国からは9名が参加した。日本寄書4件を含む63件の入力文 本会合では、前回議長報告に付された暫定新レポー 書等について検討が行われ、12件のリエゾン文書を含む ト案に向けた作業文書において、ITU-R勧告M.2057から 30件の出力文書が作成された。 引用されている我が国で使用される自動車レーダーが、 他のものよりもFSとの両立性が低いものとして扱われて 5.2 主要議題及び主な結果 いる点について、参照されているパラメータの扱いが適 ① WRC-19議題1.15(275-450GHzの能動業務への特 切でないことから、修正を行う提案を我が国から行った。 定)に関する検討 審議の結果、これを反映した暫定新レポート案が議 WRC-19議題1.15は、現在、受動業務にのみ特定され 長報告に付され、次回会合で継続検討することが合意さ ている275-1000GHzの周波数帯のうち、275-450GHzの れた。 周波数範囲で固定業務等の能動業務への特定に関する 検討を行うものである。 本会合では、本議題に関する検討の促進のため、我 が国から275-450GHz帯固定業務アプリケーションの技 ④ 固 定 無 線 シ ス テ ム に 対 す るLarge/Massive MIMO (Multiple Input Multiple Output)技術の適用性に関 する検討 術運用特性に関する新レポートの作成等について提案を 我が国から、多数のモバイルバックホールを展開する 行った。 ための将来技術として、固定無線システムにおける 審議の結果、日本提案に基づく暫定新レポート案に Large/Massive MIMOの検討を開始すること、その検 向けた作業文書が議長報告に付され、次回会合で継続 討結果として、固定無線システムの利用動向に関する 検討することが合意された。 ITU-Rレ ポ ートF.2323にLarge/Massive MIMOの 記 述 また、関連する外部標準化機関やWPに対して、本件 を追加することを提案した。 に関する作業状況を周知するとともに、関連する技術運 審議の結果、上記の内容を追加したITU-Rレポート 用特性について情報提供を求めるリエゾン文書を発出 F.2323改定に向けた作業文書が議長報告に付され、次 した。 回会合で継続検討することが合意された。 ② ITU-R勧告F.1777の改定に向けた検討 6.TG5/1第1回会合 ITU-R勧告F.1777は、放送補助業務で用いるシステム 6.1 TG5/1の所掌及び会合の概要 と他業務との共用検討用パラメータを記載している勧告 TG5/1は、WRC-19議題1.13(将来のIMT開発に向けた である。 24.25-86GHz帯における移動業務の追加一次分配を含む 本会合では、我が国から、日本国内で使用されてい IMT特定のための周波数に関する検討)の検討に必要な るSTL(Studio to Transmitter Link)のパラメータと、 ITU-Rの研究を実施する責任グループであり、IMTと他業 700MHz帯FPU(Field Pickup Unit)の周波数移行に 務の共用検討等を行い、CPMテキスト案を完成させること 伴う新周波数帯のシステムに関するパラメータを追加す となっている。今回は第1回会合であるため、具体的な共 る提案を行った。 用検討やCPMテキスト案の作成には着手せず、検討体制、 審議の結果、上記の提案に基づく作業文書が議長報 議長、マネジメントチーム、今後の会合計画に関しての審 告に付され、次回会合で継続検討することが合意された。 議を行った。本会合には、31か国から161名が出席し、我 が国からは8名が参加した。また、13件の文書について検 ③ 自動車レーダーと固定業務の両立性に関する暫定新レ 討が行われた。 ポート案の検討 71-76GHz及び81-86GHz帯で運用される固定業務の 6.2 主要議題及び主な結果 P-P/P-MPアプリケーションと76-81GHz帯で運用される ① TG5/1での審議体制の検討 自動車レーダアプリケーションの両立性に関する暫定新 TG5/1での審議体制について、日本、CEPT、中国、 レポート案 ITU-R F.[FS/RLS COMPATIBILITY IN ブラジル、カナダ提案に基づき検討を行った結果、CPM ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 51 会合報告 ■図.TG5/1の検討体制(WG構成、議長) テキスト案作成担当WG、3つの周波数レンジごとの共 7.今後の予定 用検討担当WGを設置することとなった。併せて、各 次回のWP5D会合は2016年6月と10月に、WP5A、WP5B、 WGの作業目的の設定、WG議長の選出を行い、本TG5/1 WP5C、SG5会合は11月にジュネーブにてそれぞれ開催さ の運営管理を行うマネジメントチームに関して、TG5/1 れる予定である。 議長・副議長、各WG議長、SG5議長に加え、各地域会 合とTG5/1の連携を強化するため、6地域の各地域グ 8.おわりに ループ(APG、ASMG、ATU、CEPT、CITEL、RCC) 今回のSG5関連会合は、WRC-15後の最初の会合であり、 の議題1.13コーディネータで構成することとした。TG5/1 前会期からの継続案件の審議に加えて、WRC-19に向けた の審議体制については図のとおり。 議題の検討が開始され、前会期ではあまり参加していな かった国からの参加も見受けられた。 ② 作業計画の検討 SG5会合では、通常行われる勧告案等の文書審議ではな 日本、中国、カナダ提案をベースとした議長提案を元 く、SG5の体制の検討等が行われ、その結果を受けて各 に審議を行った結果、大まかなスケジュール、作業内容 WP会合、TG会合での検討がスタートされた。またSG5会 として表4の内容が合意された。各会合の具体的なスケ 合では前SG5議長である橋本氏へも多くの賛辞が送られた。 ジュールについては調整を継続することとした。 今回の各WP会合、TG会合において、日本からも積極的に ■表4.TG5/1のスケジュール、作業内容 スケジュール 作業内容 議論に貢献できたことは、長時間・長期間にわたる議論に 参加された日本代表団各位、会合前の寄書作成や審議に 貢献していただいた関係各位のご尽力のたまものと、この 第1回会合(2016年5月、今回) 体制構築、作業計画策定 第2回会合(2017年4 〜 7月) CPMテキスト案作成開始、共用検討 ひな形検討、共用検討開始 第3回会合(2017年中盤) CPMテキスト案作成、共用検討 予定である。我が国が一層貢献・活躍できるよう、今後の 第4回会合(2017年終盤) CPMテキスト案作成、共用検討 審議に向けて関係各位のさらなるご協力をお願い申し上げ 第5回会合 (2018年、必要に応じて) 第6回会合(2018年) 52 CPMテキスト案作成、共用検討完了 CPMテキスト案作成完了 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 場をお借りして深く御礼申し上げる。 WRC-19までの今会期では、IMT-2020の実現に向けた 議論を含め、引き続き地上業務の研究が活発に行われる る。 第16回APT政策規制フォーラム(PRF-16)の 結果について 総務省 情報通信国際戦略局 国際協力課 1.はじめに より、5Gは決してhot spot systemではないこと、これ 2016年7月12日から14日まで、新宿京王プラザホテルに までにない大規模な投資が必要であるとする考えが当 おいて、日本(総務省)のホストにより、第16回APT(ア たらないこと、3GPPスペックをベースに5Gを立ち上げ ジア・太平洋電気通信共同体)政策規制フォーラム(PRF-16) るタイミングとして2020年は合理的であることなどが紹 が開催された。PRFは、アジア・大洋州域内の主要な政策・ 介された。 規制等の課題をテーマとしたフォーラムであり、通信主管 (3)IoTとスマート・シティの課題と活用事例では、総務省 庁のハイレベルが参加するAPTの重要な会合の一つであ からセキュリティ対策室がIoTセキュリティ・ガイドラ る。 イン等についてプレゼンテーションが行われ、その取 今回のフォーラムにはAPT加盟国(シンガポール、中国、 組みについて紹介された。 韓国、インド、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、 (4)OTTサービスに係る政策・規制については、グーグ 日本等) 、賛助加盟員(AT&T、インテル、ノキア等) 、UN、 ルやノキアの参加を得てパネルディスカッションが行 OECD、グーグル、Grab、Netflix等、計114名が参加した。 われ、そのニューパラダイム、アプローチ方法やセキュ 2.開会式等 (1)開会:輿水政務官による開会の挨拶が行われ、当該 フォーラムにおける参考として、5月に行われたG7サ ミット及び大臣会合の成果等が紹介された。 (2)会合1日目:レオン前回議長から引き継ぎ、ホスト国の リティ・プロテクション、ローカリゼーションなどに ついて、意見交換が行われた。 4.企業視察 PRF-16参加者を対象として、NEC及び富士通のショー ルームの視察が行われた。参加者は日本の最先端のICT技 谷脇新議長が選出された。同日のレセプションでは、 術を間近に見ることができ大変好評であった。関係各位の 鈴木総務審議官のほか、株式会社海外通信・放送・ ご協力にあらためて御礼申し上げる。 郵便事業支援機構(JICT)の細井常務取締役からも 挨拶が行われ、その設立趣旨や活動状況の紹介が行 5.その他 次回会合(PRF-17)の時期、開催場所は、2016年11月 われた。 3.PRFの各セッション の管理委員会(MC)までに決定されることとなった。 (1)会合1日目のラウンドテーブルでは、谷脇新議長の 司会進行により、日本からは鈴木総務審議官、タイの パンサック副大臣、モルディブのイリアス長官、Grabtaxi 及びNetflixの参加を得て、ICT政策と規制の動向・現 状について、各パネリストのプレゼンテーション及び 質疑応答が実施された。 全般的に、各パネリストが提示した諸課題や問題に 対しては、自由と規制のバランスを持った対応が重要 であることが認識された。 (2)IMT-2020(5G)ビジネス対話が行われた。NTTドコモ ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 53 この人・あの時 ITU-R勧告の新旧交代 —総務大臣賞受賞に当たって— はしもと 株式会社NTTドコモ ネットワーク部 標準化カウンセラー あきら 橋本 明 1.はじめに て相応しくない」と強い反論を受けました。脚注に列記さ 第48回 世界情報社会・電気通信日に当たり、総務大臣 れた国は40以上ありましたがその多くは発展途上国で、会 賞を受賞し、大変光栄に存じております。 合で日本提案を支持した国は中国だけでした。そのため勧 長年にわたり私の国際標準化活動を支えてくださった日 告への追記は断念し、代わりに日本の周波数配置を記載し 本政府並びに所属組織NTT・ドコモの関係各位に感謝申 た報告(Report)を作成することで妥協しました。すなわ し上げる次第です。 ち、この時の教訓として、脚注による周波数分配に基づく 私は1980年以来ITU無線通信部門(ITU-R)の会合に継 方式の勧告作成は困難であることを学びました。 続的に参加し、近年は会議取りまとめ役としての議長を任 その後約10年が経過した1990年代になって、ITU無線通 されるようになりましたが、永年勤続したこと以外に個人 信局長から「Reportの作成はITU-Tでは行っていないので 的成果として誇れるものはないので、いわゆる「年功」で ITU-Rでも極力〈勧告〉を策定するように」とのGuideline 賞を頂いたと理解しています。 が出されました。当時のSG9では議長であった日本の室谷 この35年余りの間に無線通信の分野では、技術の進展 正芳氏の指導の下にこの方針に従って、Report作成を実 が著しく、世界的規模で市場が拡大し、それに伴って標 質中止するとともに、既存Reportについても廃止または類 準化と電波の規制に関わる国際会議の重要性は特に増し 似課題を扱う勧告への統合を進めました。その結果、上 てきました。ITU-Rの活動で学んだことは数多くあります 述の勧告F.595についても元の日本提案を含んだReportを が、私の限られた分野の体験は既に別の機会に概略述べ 採り入れた改訂案が特に反対もなく承認されました(F.595 [1] [2] たこともあり 、それを見直すだけでは本誌読者の方々 改訂4版のAnnex1、1995年承認) 。ここに「脚注分配に基 に有意義な寄稿にならないと考え、本稿では新しい観点か づく方式の周波数配置を含む勧告」が誕生したのです。 らの所感を述べることとします。 この話はこれで終わりではありません。1990年代後半頃 2.最初に関わった勧告の変遷 から、我が国では光ファイバーによる基幹伝送路構築が進 み、中継距離の短い20GHz帯無線方式による長距離伝送 1981年のITU-R(当時はCCIR)のStudy Group 9(SG9) への需要はほぼなくなりました。 会合で、 「17.7-19.7GHz帯固定無線中継方式の無線周波数 このため総務省でも周波数利用法の見直しが行われ、当 配置に関する勧告案(現在の勧告ITU-R F.595) 」に新たな 該帯域は17.7-19.7GHzの範囲でアクセス系や移動基地局 追加配置を提案しました。これは、当時NTTの無線関係者 のBackhaul linkへの適用に再編されました。この新情報 が全力を挙げて開発・推進していたデジタル無線中継方式 を勧告に反映させるため、2005年に勧告F.595の改訂提案 を伝送するためもので、特に1チャネル当たり400Mbit/sの を我が国から再度行いました。その際、日本の旧情報を含 大容量(他国の使用例では280Mbit/s)を実現するため使 むAnnex1をそっくり17.7-19.7GHz帯の新提案内容に入れ 用周波数範囲の上限を21.2GHzまで拡張していました。無線 替えたので、一度は日の目を見た「脚注分配に基づく方式 通信規則(RR:Radio Regulations)によると19.7-21.2GHz の勧告」はその役割を終えて当該部分が削除され現在に の範囲では、固定無線中継方式(固定業務)が世界的規 至っています。 模で使用できません。ただし、日本を含む相当数の国では、 以上の経緯から、 (1) 「脚注分配に基づく方式の勧告」 特例としてRRの脚注(5.524)の周波数分配により、固定 は極めて少ないが実現例がないわけではないこと、さらに 業務の使用が条件付き(同じ帯域の衛星業務に制約を加え 重要なことは、 (2)技術の進展や諸情勢の変化により「役 ない)で認められていました。 割を終えた」と判断される勧告は原提案元の責任で内容 この提案に対して欧州諸国からは「RRの脚注分配に基 更新(update)または削除(deletion)を提案すべきこと、 づく方式は、使用できる国が制限されるので国際標準とし の2点を申し上げたいと思います。 54 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 3.勧告の削除・見直しのガイドライン 年改版されたばかりですが、更に次の改訂を提案してよい 私の受賞理由に「長年の国際標準化活動で得た経験・知 のでしょうか」との質問を受けることがあります。勧告改 識に基づきITU-Rの手続規則の見直しにおける議論を主 訂の頻度について、決議ITU-R 1-7, A.2.6.1に以下のような 導」との項目が含まれています。 記述があります。 ITU-Rの手続規則の原本と言えるものが決議ITU-R 1で 「Recommendations should not normally be revised す。この決議ITU-R 1は毎会期ごとに改訂が行われており、 more frequently than every two years, unless the proposed 私もその都度改訂案を提出してきました。その中で特に印 revision, which complements rather than changes the 象に残っているのが「勧告のアップデートまたは削除」に agreement reached in the previous version, urgently 関する条項です。その要点は2005年のRAG(無線通信ア needs to be included, or unless significant errors or *1 ドバイザリーグループ)会合に提案しましたが 、当時ア omissions are identified.」 ラブの論客として有名であったNabil Kisrawi氏(故人、 すなわち、 「前改訂での合意事項の変更ではなく補足を シリア)との議論を経て、決議の当該箇所のdraftingを行 提案する改訂が早急に必要な場合、または重要な誤りが いました。その個所の記述は概ね以下のような内容で、こ 認められる場合を除いて、2年以内の改訂は通常行うべき れは現在もほぼそのまま受け継がれています(決議ITU-R ではない。 」とされています。この規定は、あまり頻繁に 1-7、A.2.6.2.1.9.1-2) 。 国際標準が変わると製造中の装置へ影響が生じるため、こ れを防ぐためのものですから基本的には尊重すべきです。 “内容更新が最近の10-15年間行われていない古い勧告 ただし、 「変更ではなく補足」との条件で改版が必要との (old Recommendations)については、できる限り改版作 合意が得られれば、2年以内の改訂も可能です。実際に携 業を行わず、以下の事項を考慮してもはや不要と判断され 帯電話のように新技術の導入を頻繁に要する方式の場合、 る場合は削除(deletion)を提案すべきである。 関連勧告を毎年改版していた時期もありました。 - 内容が正しくてもITU-R勧告(国際標準)として適 5.勧告削除の実績 当であるか。 - 古い記述は他の既存勧告でカバーされていないか。 私がITU-R SG5の議長を務めた2期8年間に、SG5が所掌す - 一部のみが有用となっている場合、他の勧告へ統 る分野で、新たに採択された勧告と削除された勧告を集計す 合の可能性はないか。 ” ると表に示すように総数として大差がないことが分かります。 ■表.ITU-R勧告の新規採択と削除の状況 (Study Group 5=地上無線業務関連) Kisrawi氏や私のように長い間ITU-R活動に関わってき た古株ほど「古いものは要らない」との考えに前向きなの は面白い傾向です。 勧告削除の提案に対しては、 「本方式はまだ使われてい 会期 2007-2012 2012-2015 計 新勧告 18 16 34 削除勧告 25 5 30 るので削除することは時期尚早」との意見をよく聞きます。 この期間に採択した勧告には日本が積極的貢献を行っ しかし「勧告」は単なる記録として保管しておくことに意 た第5世代携帯電話方式(5G IMT)のビジョンや高度道 味があるわけではありません。世界各国へ「推奨すべき技 路交通システム (ITS) に関する新勧告が含まれます。一方、 術」として正当性があるか否かがポイントです。自国で新 我が国は「削除提案」も積極的に行い勧告の新陳代謝を 規導入をストップしたような方式を他国へ推奨することが 促進してきました。 適当とは思えません。 新勧告の採択は数が多いほどSG活動が活性化している ことの現れです。一方、削除数については、単純に多いほ 4.勧告改訂の頻度に対する制約 ど良いとも言えませんが、削除の公式承認には全加盟国の ITU-R勧告の改訂を提案するに当たり、 「この勧告は昨 合意が必要ですので、そのためその都度古い勧告の内容 *1 2007年以前には勧告のupdateに関する取り決めは別の決議ITU-R 44で扱われており、その後決議ITU-R 1に統合されたので、 当時の日本提案は決議ITU-R 44の改訂として提出された。 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 55 この人・あの時 についてレビューが行われます(本稿section3:勧告削除・ RA-07時に勧告M.1085のComment欄にあった「削除に合 見直しのガイドライン参照) 。従って、勧告削除を適宜行っ 意」の記述は勧告M.1185に付すべきものでしたが、何らか ているグループでは勧告全体の在り方に関する評価が適 の行き違いで勧告M.1085の欄に書かれてしまったのです。 正に行われていると言えるでしょう。 このためRA-07以降、勧告M.1085はITU のHPなど公開出 版物で有効な勧告としての扱いを受けず、標準化活動の 6.間違って削除された勧告 舞台から姿を消していましたが、たまたまどこの国からも 私は、4年ごとの世界無線通信会議(WRC)で、過去 この扱いに疑問を呈する意見は出ませんでした。 のWRC決議を検証し、必要に応じて古い情報の更新を図る 私はこの経緯を把握したので、必要資料を揃えてITU-R グループの議長も務めてきました。最近のWRC-15の期間 Secretariatに「勧告M.1085の削除は間違いであり、有効な勧 中、その作業過程で1つの決議中に奇妙な記述を見つけま 告として復活させるように」要請しました。Secretariatも状 *2 した。そのWRC決議217は、Wind profiler radar の導入 況を理解し、 直ちに復活に応じてくれたので、 2007年に 「間違っ 条件を扱うものですが、文中に使用周波数帯に応じて各帯 て削除された勧告」は8年後の2015年にようやく復権しました。 域のWind profiler radarの特性を与える3つのITU-R勧告 この8年間は私のSG議長在任期間でもありましたが、議長退 (勧告M.1226、勧告M.1085、勧告M.1227)が参照されてい 任直後に間違いに気づいて復活させたので、Wind profiler ます。そのうちの1つ勧告M.1085(400MHz近傍帯域にお radarの将来研究に問題を生ずることはなくなりました。 けるWind profiler radarの技術運用特性)に、 「本勧告は 2007年の無線通信総会(RA-07)で削除された。 」との 7.おわりに Secretariat Noteが付されていました。削除された勧告が 本誌編集委員会から総務大臣賞受賞に当たっての想い WRC決議中で参照されることは全くないわけではありま を執筆する機会を与えられましたので、本稿では35年の国 せん。しかしこの場合、3つの勧告は決議と同年の1997年 際標準化活動を振り返って「ITU-R勧告の新旧交代」につ に完成しており、いわば3点セットとして決議の内容を補 いて考察しました。私が議長を担当したSG5では古い勧告 完するものです。そのうちの1つだけが削除されている(勧 の更新・削除をこの8年間促進してきましたが、それ以前 告として無効になっている)ことは極めて不自然です。 に間違って削除された事例があることも発見しました。 そこで私は、RA-07で本当にこの勧告削除が行われたの ITU-Rの研究委員会では議長の任期は最長2期(約8年) か調べてみました。その根拠らしきものとして、当時の と定めており、私もこの規約に基づいて退任しました。退 Study Group 8(SG8)からRA-07に提出された勧告リスト 任後の感想として、組織にも「新旧交代=人心一新」が において勧告M.1085のComment欄に「2004年12月のSG8 必要なように、常に新しい観点が求められる標準化活動で 会合で削除に合意」との記述を発見しました。この勧告リ は、同時に古いoutputの内容にも目を向ける姿勢が重要で ストが作成・審議されたのは前任議長の時代ですから私の あることを申し添えたいと思います。 記憶にはありませんでした。これが根拠とすると、2004年 本稿を終えるに当たり、今後我が国の無線通信技術発 のSG8会合まで遡る必要があるので、当時の議事録を見ま 展のため、若い世代の方々が国際標準化の分野で一層の したが、驚いたことにM.1085の削除は同会合に提案され 成果を挙げてくださることを祈念して、ひとまず役割を終 ておらず、議事録にも一切記述がありません。SG会合で えた旧世代からのメッセージと致します。 勧告の削除を合意すると最終承認のため加盟国郵便投票 に付すのですが、その手続きも行われていませんでした。 その代わり別の事実が判明しました。そのSG8会合では、 番号の良く似た違うテーマに関する「勧告M.1185(150MHz 帯における移動地球局と地上局間の調整距離決定法)の 削除」が合意されていたのです。これについてはその後の 参考文献 [1] 橋本明 「電波功績賞(電波産業会創立20周年記念特別賞) を受賞して」 、ARIB機関誌、ARIB BULLETIN、No.90、 2015年8月、電波産業会。 [2] 橋本明 「無線標準化活動35年の歩み」 、電気通信、Vol.78、 No.827、2015年12月、電気通信協会。 郵便投票も行われ削除手続きは完了しています。どうやら、 *2 Wind profiler radarは、地上から上空に向けて電波を発射し、大気中の風によって散乱される電波を受信して、その情報を処 理することで、上空の風向・風速を測定・表示する装置。 56 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) シリーズ! 活躍する2016年度国際活動奨励賞受賞者 その2 いし だ かずひと 石田 和人 クアルコムジャパン 標準化部長 https://www.qualcomm.co.jp/ ワイヤレス電力伝送に関する国内技術基準の策定に尽力するとともに、 ARIBでの標準規格策定に大きく貢献 した。 また、 国際標準化活動として、 APT AWG会合やITU-R SG1会合におけるワイヤレス電力伝送の技術的 検討に対して、 我が国の研究成果や意見を反映するため寄与文書を作成するとともに、 エディタとして関係国 間の意見調整を行い、 勧告案や報告の策定に主導的役割を果たした。 また、 APG15-5会合及びWRC-15会合 では、 ワイヤレス電力伝送の周波数利用に関する検討を提案し、 WRC-19に向けた緊急課題として承認された。 ワイヤレス電力伝送技術のための周波数国際協調をめざして -ITU-RとAPTにおけるワイヤレス電力伝送の周波数国際協調活動と国内標準化- ITU-R SG1におけるワイヤレス電力伝送(WPT)技術 アや欧米の多くのWPT関連企業が虎視眈々と日本でのビ の研究課題が今日の技術課題を包含するようになったのは ジネスの機会をうかがっています。その一方で、私が参加 2012年の改定(QUESTION ITU-R 210-3/1)以降で、比 した国際会合の内外で、ビジネスに向けた積極的活動を行 較的近年のことです。2016年3月の省令改正で、これまで う日本企業の姿が決して多いと言えないのは将来の商用展 議論されてきたWPT技術向けの法制度が初めて国内電波 開の時期における懸念材料です。 法に明確に記載されました。しかし、未だにITU-R等の国 ブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)のWPT 際的な無線通信の取決めの中に明確な定義はありません。 ワーキンググループ(リーダー = 庄木裕樹氏(東芝) )標 Short Range Deviceなど既存の制度を参照する主管庁や地 準開発部会において、私は主査の任を執らせていただきま 域があるものの、様々なアプリケーションが期待されてい した。WGの皆様の法制度整備や共存検討における詳細な るWPT技術要求条件や、既存の電波サービスとの共存条 検討の結果、2015年にモバイル機器向けWPTとして3つの 件を記載するものはなく、地域的または国際的に適用可能 WPT技術をARIB STD-T113として標準化することができ な勧告や標準を今後作っていく必要があります。 ました。今後の事業化の進展を期待します。 2014年 に ITU-R SG1 で WPT 報 告 書(Report ITU-R 最後に、周波数有効利用に関し言及させてください。 SM.2303)が承認されました。現在モバイル機器向けWPT WPT機器から既存システムへの影響は、総務省電波利用 周波数の勧告案の議論が進んでいます。さらに、WRC-15 環境委員会WPT作業班で詳細に検討され、WPT技術に では電気自動車向けWPTがWRC-19の緊急検討課題に指 課題を提示するとともに、解決できたものは法制度に反映 定され、今後WP1Bで議論を進めることになりました。こ されました。その一方で、既存システムの耐干渉性能も明 れらの出来事は、国内外でのWPTの周波数協調や既存シス らかになり、システム共存の難しさを関係者に示しました。 テムとの共存検討を進める上で画期的なことだと思います。 無線周波数の逼迫が大きな問題となっている今日、既存シ 日本は、ITU-RやAPT無線グループ(AWG)における ステムの耐干渉性能の向上も重要な課題と思います。導入 議論において、国内法制度整備の状況や検討結果を寄与 が有望視されている電波利用技術が既存システムへの干 文書にまとめてタイムリーに紹介するとともに、それらを 渉を低減するのは当然のことですが、同時に、適切な周波 報告書や勧告案に反映し、国際周波数協調のための技術 数割当とともに既存システムの耐干渉能力の向上も、周波 調査や検討で主導的役割を果たしてきました。今日、アジ 数有効利用をさらに促進できると思います。 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) 57 情報プラザ ITUAJより 編集委員より 創立45周年 当協会は1971年9月1日に設立され、今年で45周年を迎えます。 これもひとえに皆様のご支援ご協力の賜と心より感謝致しており 情報通信技術の発展と子育て ます。 改めて協会の使命を考えてみました。 私共に出来るのは、 「つなぐ」事です。まず、 「人と組織のつな がり」 。ITUを始めとする国際機関との関係を強化する事で、例 えば、ITU-T、R、D全てのセクターとつながりのある法人様は限 ソニー株式会社 られる中、中立的立場を活かして情報を提供し、交流の場を作っ いいむら ゆう こ 飯村 優子 ております。 そして、 「ノウハウのつながり」 。ITU Study Group議長を始め とした豊富な人材のネットワークを活かし、セミナ等の開催で、 ノウハウを習得していただく機会をご提供しております。 最後に、 「情報のつながり」 。ITUジャーナル等の機関誌の発行 により、世界の動向を日本へお伝えし、日本の動向を世界へ発信 しております。 今後もつなぎの場を作り続けて参りますので、ご活用いただけ れば幸いです。何とぞよろしくお願い申し上げます。 標準化の業務に携わり早や12年が過ぎようとしています。その 間2回の育児休職をいただき3年ほど業務を離れた時期もありまし たが、復職後も標準化の業務に戻り、そして2年前に新たにITU ジャーナルの編集委員として加わることができとても嬉しく思っ ています。 今日は、育児を通して見たICT社会をご紹介したいと思います。 今や情報通信は育児や子ども達の日常にも大きく関わっていま す。我が家の幼稚園児は、ディスプレイであればパソコンでもテ レビでも、指でタッチしてスクロールしようとします。誰からも 教わってはいませんが、スマートフォンの操作性が当たり前に身 編 集 委 員 委員長 亀山 渉 早稲田大学 委 員 米子 房伸 総務省 情報通信国際戦略局 〃 稲垣 裕介 総務省 情報通信国際戦略局 〃 藤原 誠 総務省 情報通信国際戦略局 についているようです。体操や英会話と並んでコンピュータを正 課内に扱う幼稚園もあり、習い事では小学生向けのプログラミン グ教室も。保護者会ではスマートフォンでメモを取り、不参加だっ たママ友にSNS経由でリアルタイムに情報共有する方も見かけま す。 私自身もパソコンとインターネットを使ったテレワークの活用 で、子育てと仕事の両立に恩恵を受けています。これから、子育 〃 網野 尚子 総務省 総合通信基盤局 て支援施策が一層充実し、子育て世代の労働力増加も見込まれる 〃 深堀 道子 国立研究開発法人情報通信研究機構 中で、最新のICT技術は育児環境の改善や両立支援にますます貢 〃 岩田 秀行 日本電信電話株式会社 献していくと思われます。そこには、今までにない新しいビジネ 〃 中山 智美 KDDI株式会社 スチャンスも潜在しているかもしれません。 〃 小松 裕 ソフトバンク株式会社 IoT、VR、AR、自動運転、AIと、これからも様々な技術の長 〃 津田 健吾 日本放送協会 〃 石原 周 一般社団法人日本民間放送連盟 〃 吉田 弘行 通信電線線材協会 〃 中兼 晴香 パナソニック株式会社 〃 中澤 宣彦 三菱電機株式会社 期間にわたる研究開発成果が新たなサービスを生み出していくこ とでしょう。デジタルネイティブ第2世代と呼ばれる我が子たちの 未来にどのような情報通信社会を継承していけるのか。そんな「母 目線」も持ちながら、ITUジャーナルの編集に携わっていければ と思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 〃 東 充宏 富士通株式会社 〃 飯村 優子 ソニー株式会社 〃 江川 尚志 日本電気株式会社 〃 岩崎 哲久 株式会社東芝 〃 田中 茂 沖電気工業株式会社 〃 三宅 滋 株式会社日立製作所 〃 斧原 晃一 一般社団法人情報通信技術委員会 ITUジャーナル Vol.46 No.9 平成28年 9 月 1 日発行/毎月 1 回 1 日発行 発 行 人 小笠原倫明 一般財団法人日本ITU協会 〒160-0022 東京都新宿区新宿1-17-11 BN御苑ビル5階 〃 菅原 健 一般社団法人電波産業会 顧 問 小菅 敏夫 電気通信大学 〃 齊藤 忠夫 一般財団法人日本データ通信協会 〃 橋本 明 株式会社NTTドコモ 〃 田中 良明 早稲田大学 58 ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9) TEL.03-5357-7610 (代) FAX.03-3356-8170 編 集 人 森 雄三、大野かおり、石田直子 編集協力 株式会社クリエイト・クルーズ Ⓒ著作権所有 一般財団法人日本ITU協会 平成二十八年九月一日発行 (毎月一回一日発行) 第四十六巻第九号 (通巻五四一号) ITUジャーナル