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ストック・オプション制度の導入に対する株式市場の反応

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ストック・オプション制度の導入に対する株式市場の反応
ス トック ・オプション制度の導入に対する株式市場の反応
雀
要
茜
旨
本研 究 は、ス トック ・オプシ ョン制度の導入が株式市場 に与 える影響 を分析 した。ス トック ・オプシ ョンの導入
に対 して株式市場 は統計 的 に有意 な プラスの反応があ った。 さらに、業績 の状況 に よって分 けた二つの グループ
(
業績が良い企業 と業績が悪 い企業)それぞれの株式市場の反応 も確認 した。業績が悪い企業の株価の累積超過収
益率 は業績が良い企業 の累積超過収益率 よ りも高いことが明か となった。 これ らの結果 は、株式市場がス トック ・
オプシ ョン制度 の導入 を評価 している一方で、ス トック ・オプシ ョン制度の乱用 を懸念 していることを示唆 してい
る と思 われ る。
キー ワー ド :ス トック ・オプシ ョン、 インセ ンテ ィブ、経営者報酬 、キ ャッシュフロー
1.は じめに
ス トック ・オプシ ョンとは、予 め締結 された
契約 に基づいて、企業 の取締役 (
経営 陣)や従
1
9
9
0
年代 か ら、ス トック ・オプシ ョン制度が
業員 な どが将来 において予 め定 め られた価額 で
世界 中の注 目を浴 びている。 アメ リカにおいて
一定数量 の 自社株 を、一定期 間にわたって購入
は、1
9
9
0
年代 か ら株主運動が盛 んにな り、その
。その
す るこ とがで きる選択権 の こ とであ る 2)
利用 が促 進 され た。 ア メ リカ上位企業 1
0
0
社の
仕組み は次 の ようになってい る。 まず、企業 は
経営者報酬 におけるス トック ・オプシ ョンによ
ス トック ・オプシ ョンを経営者や従業員 に付与
る報酬 の比率 が 、8
0
年代半 ばの 2%か ら、1
9
9
4
す る。 この時 に、行使 で きる株式 の数、行使 で
年 の2
6%に上 昇 し、 さ らに1
9
9
8
年 に5
3.
3%に達
きる価格 (
行使価格)及 び行使 で きる期 間が企
してい る 1
)
。 ス トック ・オプシ ョン制度 はアメ
業 によって決め られ る。 その後、一定期 間 を経
リカのみ な らず、 フランス、 ドイツな ど欧州諸
てか ら、経営者や従業員 はス トック ・オプシ ョ
国や 日本 、 シ ンガポール、韓 国な どのアジア諸
ンを行使 し、企業か ら行使価格 で株式 を購 入す
国で も採用 される ようになった。
る。 この と きに、市 場 の株 価 が行 使 価 格 を上
ス トック ・オプシ ョン制度が注 目され る理 由
は、その仕組 み と関連 している。
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8-21
回って上昇すれば、経営者 や従業員が入手 した
株式 を市場 で売却 し、市場価格 と企業か らの購
2) 樺 田龍三 (
20
01
)「ス トック ・オプション会計の
現代的課題 『自己株式会計論』 白桃書房 223頁。
」
- 1
63 -
経 済 学研 究
第72巻 第2・3合併号
入価格(行使価格)との差額を利益として得る
て、株価の累積超過収益率が有意にプラスで
ことができる。付与された後に、市場株価と行
あった。DeFusco et al.(1990)がサンプルを変
使価格との差額が大きくなればなるほど、経営
えて、Brickley et al.(1985)と同様な方法で調
者や従業員のストック・オプションによる報酬
査を行ったところ、一致する結果を得た。ま
も増大する。
た、DeFusco et a1.(1990)は90年代以降導入し
上記の仕組みから、次の効果が期待できる。
たストック・オプション制度の企業を対象に調
自己利益の最大化を追求する経済人である経営
了し、公表日に有意なプラスの株価反応があっ
者や従業員は、ストック・オプションを付与さ
たことを証明した。米国のみならず、他の国で
れた後に、自分の報酬を増大させるために株価
もストック・オプション制度の導入による株価
を上昇させるインセンティブが高く、株価を上
への影響も検証されている。Ding&Sun(2001)
げるような努力を行っていくことが想定され
はシンガポール企業の従業員を対象にしたス
る。彼らの努力による株価の上昇は株主の利益
トック・オプション制度の導入に対して、株式
の増大につながる。よって、ストック・オプ
市場の反応を調査し、その結果もプラスである
ションは経営者や従業員と株主の利益と一致さ
ことを報告した3)。以上をまとめると、調査サ
せる方法であり、企業価値の増大に繋がる効果
ンプルや調査期間が異なる(ストック・オプ
が期待される。この効果が一般的には「インセ
ション制度の内容や利用状況の相違)が、株式
ンティブ効果」と言われる。
市場は、ストック・オプション制度を導入する
ストック・オプションのインセンティブ効果
情報に対して好意的に反応していると言える。
が実現できると想定すれば、株式市場の投資家
つまり、ストック・オプション制度の導入が企
はストック・オプションの導入を歓迎し、企業
業価値の増大に結びつくと株式市場が判断して
を高く評価する。それによって、株価が上昇
いるのである。
し、企業価値が増大する。
日本では、1997年に一般企業向けのストッ
実際、ストック・オプション制度が企業価値
ク・オプション制度が解禁された。それから、
を高めるかどうかに関して、ストック・オプ
企業はストック・オプションを積極的に導入し
ション制度の導入が株式市場にどのような影響
ている。日興証券の調査によると、2003年6月
を与えるのかを調査した先行研究がある(表1
までに上場企業の3割にあたる1,175社がス
参考)。
トック・オプションを導入している4)。従来、
Brickley et al.(1985)の実証研究によると、
日本企業は低い株主利益率(ROE)に示される
取締役を対象にしたストック・オプションを含
ように株主利益を軽視する傾向があると言われ
む長期インセンティブ報酬制度の導入に対し
てきた。ストック・オプションは従来の報酬形
表1 ストック・オプション制度の株価効果の先行研究
企業数
対象年度
研九者名
175
Brick量ey,Bhagat&Lease(1985)
1979−1982
107
DeFusco, Johns◎n&Zorn(1990)
1978−1982
620
Yermack(1997)
1992刊994
40
Ding&Sun(2001)
1992−1995
松浦義昭(2001)
1997−2000
121
分 期間
対象ラン
日次(2日間)
長期株式連動報酬
日次(60日間)
ストック・オプション
日次(140日間)
日次(21日間)
日次(21日間)
ストック・オプション
一1・64一
価反応
プラス
プラス
プラス
プラス
自己株式ストック・オプション プラス
ストック・オプション
ストック・オプション制度の導入に対する株式市場の反応
態(基本給、賞与)と違い、株価と連動し、株
ような影響を与えるのか、株式市場がこのよう
主利益を重視するような経営を促すことが期待
な状況をどう判断するのかが、興味深い課題で
される。この新しい報酬制度に対し、株式市場
あるQ「
がどのように反応するのかに関する研究はまだ
うえのような先行研究を踏まえて、本論文は
十分には行われていない。’
次の2点に関する実証分析を行なう。①自己株
松浦(2001)は1997年から2000年までに公表
式方式及び新株引受権式方式のストック・オプ
された「自己株式方式」のストック・オプショ
ションの導入に対し、株式市場の反応を確認す
ンに対する株式市場の反応を分析し、記者発表
る。②個別決算情報に基づいて、業績が良い企
日にプラスの超過収益率の結果を報告した。し
業と業績が悪い企業を分けて、それぞれのス
かし、ストック・オプション制度の導入にあた
トック・オプション導入に対し、株式市場の反
り、「自己株式方式」と「新株引受権方式」が
応を検証する。言い換えれば、業績良い企業の
あるものの、松浦の研究では、「自己株式方式」
ストック・オプション導入の株価効果及び業績
のみが分析対象となっている。本論文は自己株
悪い企業のストック・オプション導入の株価効
式方式及び新株引受権方式とも分析対象にして
果を明確にする。
いる。
以下、第2節では、ストック・オプション制
また、筆者の調査によると、ストック・オプ
度の解禁をめぐる商法改正の経緯を説明し、日
ション導入の公表日の近くに個別決算の公表が
本のストック・オプション制度の問題点を指摘
集中するケースが多い5)。公表した企業業績の
する。第3節で、サンプル及び分析方法を紹介
情報が株式市場に影響を与えることができると
し、第4節で株価の反応に関する分析結果の報
考えられる。桜井(1994)の研究結果によると、
告及び考察を行う。第5節では、これらの分析
公表日において個別決算データに対する株式市
に基づく結論を述べる。
場の反応が統計的に有意である。しかも、いい
業績を公表した企業の株価がプラス方向に反応
2.ストック・オプション制度の解禁及び諸問題
し、悪い業績を公表した企業の株価がマイナス
方向に反応することも明らかにされている。本
ストック・オプション制度は日本では、1997
研究のケースにおいても、企業業績の情報がス
年に商法改正により一般企業に利用できるよう
トック・オプション導入の株価効果に影響を及
になった。その商法改正は、従来の審理過程を
ぼしている可能性が高い。そこで、業績の差異
経由せず、議員立法によって成立した。法案が
がストック・オプション導入の株価効果にどの
1997年5月7日に衆議院法務委員会を通過し、
16日に、参議院本会議で可決成立し、6月1日
3) シンガポールのストック・オプションに対して法
から実施されることになった。このようにス
人税の優遇措置が設けられていない。日本のス
トック・オプションもこのような措置がない。
4) 日経産業新聞、2003年7月4日。・
トック・オプションは一ヶ月足らず制度化され
た。
5)連結決算を個別決算と一緒に公表する企業と連
結決算を個別決算より遅れて公表する企業がある
ので、本論文では最初に公表された企業業績状況で
ストック・オプション制度の導入により、自
ある個別決算の内容を注目する。
己株式取得を促すことを日本政府は期待してい
165一
経 済 学 研 究
第72巻 第2・3合併号
た6)。まだ㍊実務界では業績向上への意欲や志
一つは、日本の株式市場で形成された株価が経
気を高める手段として、ストック・オプション
営者や従業員の努力成果であるかどうかという
を利用する意図があった7)。さらに、株価の値
問題である。朝日新聞の「論壇」に、早稲田大
上がり(業績の向上)が報酬増につながるため、
学の奥島孝康総長は、「ストック・オプション制
(業績連動グ報酬制度として一般株主に理解さ
度は、証券市場の価格形成が取締役や従業員の
れやすい(評価されやすいということを意味し
会社に対する貢献・努力を反映する、健全かつ
ているかも1しれない)という実務界の意見も
公正なものであるとの仮定のもとに成り立って
あった8)。しかし、ストック・オプションが急
いる。ところが、我が国の証券市場の現状とい
に導入されたために、それに関する税制、会計
うのは、その信頼回復のためにさまざまな抜本
制度、情報開示などの環境が整備されていな
単制度改正が論じられている段階である。そう
かった。
すると、取締役や従業員は価格形成に影響を与
実際、こ:のよ.うな「急速」な商法改正は商法
えることができる立場にもあるから、その能力
学者をはじめ多ぐの学者に批判された。商法学
に対する成果ではなくして、株価操作的行為ま
者は、ストッグ宰オプションの導入に対する発
たはインサイダ「取引による不当な成果を獲得
言が封じられたと反発し、集団で抗議行動に乗
することにもなりかねない」と、指摘した11)。
り出し、250名の声明を出した。これは『日本経
もう一つの問題は、ストック・オプション制度
済新聞』などで報道された。「オプション権を
の設定について、(1997年において)報酬委員会
もらう側の経営者またはその経営者予備軍であ
の設置や情報開示などが十分に整備していない
る幹部従業員の意見だけが徴されて、それ以外
ため、経営陣に有利なようにお手盛り的にオプ
の利害関係者も、すなわち株主、債権者等の立場
ションが付与されるなど乱用の危険性があると
を代弁しで意見を述べるであろうはずの学者と
いうことである12)。アメリカ企業では、社外取
か法曹界等は、.意見を表明する時間的余裕が与
締役からなる報酬委員会の監視やCEOを含む
えられずに法律が成立しようとしている。その
上位5位までの役員報酬の個別開示などが厳し
立法プロセスに対して遺憾の意を表明した」9)。
く要求されている。日本企業では、元々、株主
さらに、「ス・トック・オプションの解禁について
の視点が軽視される傾向があり、制度上ストッ
経団連の要望が殆ど無条件に採用されている密
ク・オプションの利用に対する監視や規制が固
室の改正作業」だという厳しい指摘もあったlo>。
まっていない。つまり、健全なガバナンスが存
具体的には、二つの問題が指摘されている。
在していない。このような環境で導入されたス
トック・オプシヲン制度は、経営陣に株主利益
6)柴健次(1997)『自己株式とストック・オプショ
ンの会計』新世社、89頁。
7)①日本経済新聞、1997年5月16日、14版、『ストッ
ク・オプション トヨタ、年内導入』、②日本経済
新聞、1997年5月19日、42版、『ストック・オプッ
を重視する経営姿勢に転換させるより、単なる
9)第140回国会法務委員会第9号会議録(1997年5
10) 日本経済新聞、1997年5月8日、15版、「発言封
じられた、商法学者が反発」
11) 朝日新聞、1997年5月14日、12版、「商法改正案
は大企業偏重」
12)伊藤邦雄、「ストック・オプション制度の諸課題」
月15日)、江頭憲治郎の発言より。
『企業会計』、97年VoL49,No.9
ション定着は』
8) 日本経済新聞、1997年5月19日、42版、『ストッ
ク・オプッション定着は』
166一
ストック・オプション制度の導入に対する株式市場の反応
経営者により多い報酬を与えてしまい、株主の
ク・オプション炉穫極的に用いられている左め
利益を損なう可能性がある。 、、
である。最初にストック・オプションの効果を
さらに、2002年忌商法改正により、委員会等
期待し、擬似ストック・オプションを導入した
設置会社の特例を適用し、大企業は従来の監査
企業一ソニー(株)はこの業種に属している14)。
役制度を継続するか委員会などを設置するかを
2002年10月までの財務会計基準委員会の統計に
選択できるようになったが、報酬委員会などを
よると、.新興市場の企業を除いて、東証1部上
導入しない企業が半数以上であった。また、役
場企業の中で電気機器に分類される企業がス
員報酬についての個別開示についても、法律上
トック・オプションを導入する件数(110件)が
の義務はなく、株主総会で要求されても積極的
最も多かった(表2参照)。また、上場3市場の
に対応する企業が少ない13)。このような法的不
企業に占めるストック・オプション導入企業の
備を残したままでは、日本企業においてストッ
割合において、電気機器のほうが平均値の27%
ク・オプションが安易に利用される可能性が高
を超え、最も高い数値を示している15>。
いと思われる。
分析期間は1997年から2001年までとする。
ストック・オプションの効果は日本ではアメ
1997年5月の商法改正により、入トック・オプ
リカほど期待できないのではないかという問題
ション制度が正式に導入され、『2001年11月の商
が残されている。ストック・オプションが経営
法改正により、従来のストック・牙プション制
者に対するインセンティブとして十分半機能な
度が廃棄され、2002年4月から」「新株予約権」
く、同制度の導入が株主利益を高めない、ある
という新しい方式が実施された。本論文では、
いは損ねる可能性がある。よって、日本の株式
旧商法(1997年商法)のストック・オプション
市場はストック・オプション制度の導入を評価
に対する株価の反応を分析するので、2001年12
しない、あるいは懸念する可能性が残されてい
月までにストック・オプションを導入した企業
るのである。
を対象としている。
1997年から2001年までの東証1部上場の電気
3.サンプルと分析方法
機器に分類される企業の有価証券報告書より、
45社をストック・オプション制度の導入企業と
本論文では、東証1部上場の電気機器(日経
して抽出した(表3参照)。同一会社が複数回
分類)に所属する企業を分析対象とする。その
ストック・オプション制度を実施したケースも
理由は同産業に属する企業において、ストッ
あったが、本論文の分析では最初に導入する時
期を利用する。
13) 日本経済新聞、2004年6月23日。
14) 1995年9月に、ソニ「が初めてストック・オプ
ションと同じな効果を期待する報酬形態、「ワラン
ト型ストック・オプション」を採用した。つまり、
会社がワラント付き社債を発行し、ワラントの部分
を社員に交付する方法である。当時、正式なストッ
ク・オプションの利用が法律の規定によって禁止さ
れていたため、この方法は「擬似ストック・オプショ
ン」と呼ばれている。
株価のデータは東洋経済新報社の「株価CD二
ROM」・から抽出した。また、東証株価指数
15) 宮島英治・黒木文明(2004)「ガバナン:ス構造と
企業パフォーマンスの関係について」、『コーポレー
ト・システムに関する研究報告書』、財務省ホーム
ページ、54頁。
一167一
経済学研究 第72巻第2・3合併号
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三遍難論叢蘇蜜繍轍離疑鶴舞
計総
襯
場肺興新
謹東
訥東
種業
表2 登録市場、業種別ストック・オプションの導入件数
(注)2002年10月2日までの集計、公開企業996社、合計1803件。
(出所)財務会計基準機構1(2003)「わが国におけるストック・オプション制度に関する実態調査」
(TOPIX)を市場全体の株価インデックスとし
て使用した。個別銘柄の株価は権利落ち修正済
み株価終値を使用した。
分析は日次データを用いたイベントスタ
ディーの方法で、ストック・オプション制度の
表3 統計データ
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
・合計(社)
45
比率
期待収益率を求めた。期待収益率の算出におい
て、市場モデルを利用した16)。
R,,=α,+β,R履+ε,,(市場モデル、式1)
R =個別銘柄である証券εが旧における株価
”
185238
12月まで 導入会社(社)
発表に対して、異常の株価の変動から得られる
の変動から得られる収益率
R =市場全体の株価インデックスmが旧に
〃π
おける株価の変動から得られる収益率
100%
α,,β、=最小二乗法によって求められた市場モ
168一
ストック・オプション制度の導入に対する株式市場の反応
デル直線の切片と傾き
公表日については、アメリカの先行文献で
θゴ,=旧における証券‘に固有の撹乱項
は、ストック・オプションの導入が新聞に掲載
されないため、よく取締役会の決議日や株主あ
本論文では、t日について、次のように定義.
てに委任状を郵送した日、また株主総会の日が
した。ストック・オプションの導入が公表され
利用されている。日本の企業のストック・オプ
た日を“0”とし、公表日前の170日から21日ま
ション制度の導入にあたり、取締役会が決議し
での151日の取引日を市場モデルのパラメータ
た後に、記者発表が行われ、そして、日本経済
の推定に用いた。そして、ストック・オプショ
新聞に掲載される。公表日がアメリカより明確
ンの公表による超過収益率を求めた。ここで、
である。筆者は取締役会の決議日、記者発表日
公表日前後の15日(一15日∼+15日)を検定期
及び日本経済新聞の掲載日を確認した。
間とし、合計31日の取引日の超過収益率を計算
ストック・オプション制度に関する取締役会
する。31日のそれぞれの実際の株価収益率から
の決議日及び記者発表日の情報が大和証券
市場モデルに基づいて計算された期待リターン
SMBCの発行したストック・オプションに関す
を控除すると、残差リターン(prediction error)
るレポート(2004年版)から調べた17>。取締役
が求められる(式2)。さらに、個別証券の残差
会が決議された直ぐ後に、記者発表が行なわれ
リターンPEを足し合わせたものにN(複数の証
ているため、取締役会の決議日と記者発表日が
券N個)で割って、平均残差リターン(average
ほぼ一致している。一方、筆者は日本経済新聞
prediction error)を求める(式3)。さらに、一
がストック・オプションの導入を掲載した日も
定の期間の超過収益率を累計に足し合わせた場
確認し、掲載日が記者発表日より遅れているこ
合は、累積平均残差リターン(cumulative
とが分かった(表4を参照)18)。松浦(2001)
prediction error)が求められる(式4)。平均残
の先行研究では、記者発表日を利用している。
差リターンと累積平均残差リターンがイベント
本論文も、記者発表日を正式の公表日として利
事象の株価効果を反映し、しばしば超過収益率
用し、イベントスタディーの事象日「t=0」と
と累積超過収益率と呼ばれ、本論文ではそれぞ
した。
れ略称してPEとCPEで示す。
PEゴ,=R∫’一@+、β∫R刑,),
P峠ΣP恥
(式2)
(式3)
17)SMBCの調査レポートでは、決議日及び公表日前
の株価を報告している。筆者がそれらの公表日を
調べたところ、SMBCに基づく公表日がほぼ決議日
と一致し、日本経済新聞の掲載日より早いことが分
かった。よって、SMBCに基づく公表日が記者発表
憲
αrE筑κ一ΣPE,
T識一15,K=十15(式4)
∫=τ
日であることが考えられる。
18)例えば、“オムロン、ストック・オプション導入
で15万8千株、5億円、株主総会で正式決定”と日
本経済新聞が1998年5月19日に記載されている。
16)市場モデルの説明については、Warner et al
SMBCに基づく記者発表日が1998年5月18日であ
(1g88)、(1g87)を参照。
る。
一169一
経済学研究 第72巻第2・・3合併号
表4 1997年∼2001年ストック・オプション導入の東証1部電機機器企業
社名
導入方式
取締役会
?議日
SMBCに
ツく公表日
日経に
つ個別決算の
ュ公表日@ 公表日
5月7日
5月27日
5月27白・
5月27日
る月21日
5月21日
5月19日
5月19日
5月19日
5月19日
3月25日
5月21日
5月26日
5月26日
5月19日
5月19日
5月28日
5月12日
5月20日
5月20日
5月22日
5月22日
5月22日
6月19日
5月20日
5月20日
8月6日
8月6日
1997/5/26 1997/5/26
自己株式
1998/5/26 ・1998/5/26
自己株式
2和泉電気
1998/5/20 1998/5/20
3東京エレクトロン
自己株式
1998/5/18 1998/5/18
自己株式
4堀場製作所
1998/5/18 1998/5/18
自己株式
5オムロン
1998/3/24 1998/3/24、
自己株式
6松下電器産業
7アドバンテスト
1998/5/25 1998/5/25
自己株式
1998/5/18 1998/5/18
8ヨゴオ
自己株式
1998/5/11
1998/5/11
自己株式
9SMK
1999/5/18 1999/5/18
自己株式
10日立マクセル
1999/5/21
1999/5/21
自己株式
11ニチコン
1999/5/21
1999/5/21
自己株式
12山一電機
1999/5/19
1999/5/19
自己株式
13京セラ
1999/8/5
新株引受権 1999/8/5
14船井電機
2000/1/24
2000/1/24
自己株式
1月25日
15松下電工
新株引受権 2000/5/25 2000/5/25 5月26日・
16アイコム
1アデンセイ・ラムダ
2000/5/19 2000/5/19
自己株式
5月20日
2000/5/15 2000/5/15
自己株式
7月1日
18アンリツ
新株引受権 2000/5/18 2000/5/18 5月19日
19日本無線
20アロカ
新株引受権 2000/5/17 2000/5/18 5月19日
新株引受権 2000/5/26 2000/5/26 5月27日
21沖電気工業
22芝浦メカトロニクス 自己株式
2000/5/12 2000/5/12
5月13日
2000/5/25 2000/5/25
自己株式
5月26日
23日新電機
24イビデン
2000/5/16 2000/5/17
自己株式
5月18日
新株引受権 2000/5/25 2000/5/25 5月26日
25富士通
新株引受権 2000/4/28 2000/4/28 4月29日
26日立製作所
2000/5/22 2000/5/22
自己株式
5月23日
27日東工業
2000/6/26 2000/6/26
自己株式
6月27日
28コ一遍ル
29メガチップス
2000/5/25 2000/5/25
自己株式
5月26日
2000/5/12 2000/5/12
自己株式
5月13日
30三洋電機
2000/5/16
31シスメックス
2000/5/16
新株引受権
5月17日
32パイオニア
新株引受権 2000/5/15 2000/5/15 5月16日
2000/4/24 2000/4/24
自己株式
4月25日
33TDK
2000/5/26 2000/5/26
34日本シイエムケイ 自己株式
5月27日
2000/5/18
2000/5/18
自己株式
5月19日
35日通工
#########
36千代田インチグレ 新株引受権 2000/10/27
10月28日
2000/5/12 2000/5/12
自己株式
5月13日
37NEC
2001/5/25 2001/5/25
自己株式
38ヒ貫生電機
5月31日
2001/5/28 2001/5/28
自己株式
5月30日
39新光電気工業
新株引受権 2001/5/17 2001/5/17 5月18日
40新日本無線
2001/5/25 2001/5/25
自己株式
41タムラ製作所
5月31日
2001/4/27
新株引受権
2001/4/27
4月28日
42三菱電機
2001/5/24 2001/5/24
自己株式
43日本電池,
5月25日
2001/5/14
2001/5/14
自己株式
44小糸製作所.
5月15日
自己株式
2001/5/29 2001/5/30
45帝国通信工業
5月3旧
1メルコ
170一
1月25日
5月26日
5月27日
5月16日
5月19日
5月19日
5月27日
4月28日
5月26日
5月18日
4月1日
4月29日
5月23日
6月27日
5月26日
5月13日
5月17日
5月16日
5月12日
5月27日
5月19日
10月28日
5月13日
5月25日
4月28日
5月18日
5月26日
4月28日
5月25日
5月15日
5月30日
ストック・オプション制度の導入に対する株式市場の反応
4、分析結果
いる点が挙げられる。ス,トック.・オプショ、ンを
公表した融業45社のう・.ち、82%に相当する37社
サンプルの分析の結果を、表5∼表10で報告
がこれに該当する(表5)。ぞめため、ストッ
している。
ク・オプションの公表日前後の株価の反応が個
別決算の影響を受けている可能性がある。以下
(1)サンプル全体の分析結果
では37社を対象に分析を行う。
まず、公表日における株価の反応をみる。公
個別決算の内容に基づき、好業績と悪業績に
表日における株価効果を検証した結果は表5に
分けて、それぞれの影響について分析する。株
示している。超過収益率PEの数値から見ると、
式市場は前期の実績利益に基づいて利益を予測
公表日に株価の反応が1%水準で有意なプラス
し、株価が形成される19)。前期より向上した業
である。さらに、検証期商において大きな数値
績情報を’公表した企業を好業績企業(good
が公表日に集中しているか否かを確かぬカイ
news)とする。一方、業績:が前期より低下した
ニ乗検定を行った。そこで、統計的な有意性検
という情報を公表した企業を悪業績企業(bad
定の結果を得た。つまり、公表日に集中して大
news)とする。
きな株価反応があったことが確認できた。
分析を行う時に、業績となる指標は個別決算
次に、公表日前後31日間の株価の反応をみ
の純利益と経常利益を用いる。ここで経常利益
る。この検定期間の結果を表6に示している。
が用いられる理由は、大多数の日本企業が収益
ストック・オプションの公表日にぐ日次超過収
指標のなかで経常利益を最も重視しているから
益率は、公表日前後と比べて高い数値(1.537)
のである20)。経常利益は営業利益のほかに、財
を示し、累計超過収益率CPEも跳ね上がって、
務テクによる収支結果も含み、一時的な特別損
統計水準が5%から1%水準に上がっている。
益などを除き、企業の業績をより正確に評価し
しかも、公表日の影響が大きく、公表後51日ま
ていると思われる。37社の中で29社が、経常利
で、統計上有意なCPEが維持されて吟る。よっ
益と純利益ともに、前期を上回る業績内容を公
て、ストック・オプションの導入に対して株価
表しているご業績低下した企業はわずか8社し
は好意的に反応しているヒとが分かる。すなわ
かない。この状況から、企業は業績良いときに
ち、投資家がストック・オプションのインセン
ティブ効果を期待し、この制度の導入を評価し
ig) 先行研究・(桜井、1994)によれば、株式市場は前
ている。この結果は、米国の先行研究や松浦の
期の実績利益をもって当期利益を予測し、株価が形
成される。そこで、ランダム・ウォーク・モデルに
よって将来期間の年次利益に関する市場の期待形
戒を説明することが合理である。純粋なランダム・
ウォーク・モデル場合は、「当期期待利益=前期実績
利益」と仮定する。前期実績利益より高くなれば、
株式市場の期待を超え、株価が高まるが、前期実績
・利益より低くなれば、株式市場の期待に答えられ
ず、株価が低下する。桜井久勝「第8章決算発表に対
「自己株式方式」を限定した場合の研究結果ど
一致している。
(2)個別決算の影響を考慮した場合の累積超過収
益率CPEの結果
する株式市場反応」(1994)『会計利益情報の有用性』
ストック・オプション導入に関する特徴の一
千倉書房248頁
つとして、公表日が決算日の1日前に集中して
ガバナンスのアンケート調査」
20)財務総研調査(2002)「「わが国企業コーギiノート・
171
経.済 学 研 究 第72巻 第2・3合併号
表5 公表日における株価反応の結果
標本数
45
CPE
t値
カイニ乗
59.4644*
2.4146***
1.537
(注)①公表日のCPEが、検定期間全体の平均値と比べて有意に大きいかいなかを統計
的に、確かめるため、t検定を行った。帰無仮説を[CPE=0]、対立仮説を
[ごPE>0]として片側検定を行った。②検定日のCPEの値が、検:定期間中の他
の日と比べて、有意に大きいか否かを確かめるため、元のデータを標準化させ、
カイ2乗検定を行った。帰無仮説を[δ2=1]、対立仮説を[δ2>1]とする仮
説検定を行った。③有意水準1%(***)、有意水準5%(**)、有意水準10%(*)。
④SMBC公表日が三和証券のSMBCホームページを参照。
表6 ストック・オプション導入前後の株価反応
CPE
PE
t値
一15
0.0769
一〇.434
0.0769
0.12
一14
0.6192
1,149
0.6961
0,769
一13
0.7769
1,286
1,329
一12
0.4205
三〇.193
t473
t8936
一11
一〇.9608
一2.734
0.9327
0,652
一10
一〇.4179
一1.021
0.5148
0,328
一9
1.6446 2.428***
2.1595
1,275
一8
0.5872
0,701
2.7467
1,517
一7
0,199
0,393
2.9457
一6
1.2691
一5
0.1987
.日次
1.977**
t値
t479
t534
4.2148
2.082**
一〇.077
4.4135
2。079**
0,827
4.9568
2.236**
一〇.2255
一1.963
4.7313
2.050**
一2
一〇.2487
一〇.92
4.4827
1.872**
一1
0.6639
1,232
5.1466
2.076**
…iiiiii…懲
ii…iiii㈱鱒i蘇
iiii
0.5433
一3
iii︷
一4
1
0.6201
2
3
一〇.0747
0.3474
0,082
7.5764 2.716***
4
一〇.2872
一1」99
7.2892 2.547***
5
6
一〇.3234
一t391
6.9658
2.375**
0.1737
一〇.504
7.1395
2.378**
7
1」555
1,644
8,295 2.702***
0,359
0,533
8,654 2.760***
0.1651
0,096
8,819 2.756***
10
0,294
一〇.462
9.1131
2.792***
11
一1.196
一2.039
7,917
2.381**
12
13
14
15
0.0592
一〇.706
7.9762
2.355**
8
gr
0,638
一〇.231
7.3038 2.768***
7.2291
2.662***
0.4674
0,422
8.4437 2.450***
一〇.0031
一〇.515
8.4406 2.408***
一〇.4284
一t82
8.0121
2.248**
(注)①有意水準1%(***)、有意水準5%(**)。
t値の計算方法は、Dodd, P and Warner.J.B(1983)を参考。
ストック・オプションを選好する傾向があるこ
の分析結果は表7(純利益ベース)、表8(経
とがわかる。
常利益ベース)に示している。好業績、悪業績
好業績企業と悪業績企業のそれぞれ、公表日
の企業とも統計上5%水準で有意なPEが公表
を中心とする31日間(一15∼+15)のPEとCPE
日(t=0)に見られる。しかも、それぞれの
一172一
ストック・オプション制度の導入に対する株式市場の反応
PEが公表日前後の数値より高い数値を示して
差の検定には、独立2標本の差のt検定(平均
いる。つまり、プラスの株価の変動はこの日に
値)とMann−Whitneyげ(中央値)検定を用いた。
集中している。このことは、好業績企業のみな
二つグループの差の検定結果は表9(純利益
らず、悪業績企業のストック・オプション採用
ベース)、表10(経常利益ベース)に示されて
も株式市場が評価していることを示している。
いる。純利益ベースの場合は、全ての期間にお
次に、好業績と悪業績のPEを比較して、それ
いて悪業績のCPEが好業績のCPEより高いこと
ぞれの株価効果を解明する。まず、表7(純利
が見られる。10日間のCPEについては、平均値
益ベース)では、公表日の2日前から、悪業績
が5%の有意水準で、中央値が1%の有意水準
のPEが好業績のPEを上回っていることが見ら
で差があったことが証明されている。経常利益
れる。一2日において、悪業績のPEが一〇.087
ベースの場合においても、全ての期間の悪業績
であるに対して、好業績のPEが一〇.146である。
のCPEは当該期間の好業績のCPEを上回ってい
この状況が公表日後の7日まで続いている。ま
ることが見られる』5日間のCPE及び7日間の
た、表8(経常利益ベース)を見ると、公表日
CPEについて、統計上有意な水準で二つのグ
の7日前から悪業績のPEは好業績のPEより高
ループの差があったことが証明された。純利益
い数値を示し、しかも、この状況も暫らく継続
ベース及び経常利益ベースの検定結果とも、悪
している(公表日後1日まで)21)。よって、あ
業績めCPEと好業績のCPEとの問に差があるこ
る一定の期間において悪業績のPEのパフォー
とを示唆した。株式市場が悪業績企業のストッ
マンスが好業績のPEより高いことが見られる。
ク・オプション採用をより高く評価していると
ここでは、一定の検定期間において、好業績
考えられる。
と悪業績という二つのグループの累積超過収益
なぜ、株式市場は悪業績企業のストック・オ
率(CPE)の差を検定した。検定期間は3日間
プション採用を高く評価しているのか?先行研
のCPE(一1日∼十1日)、5日間のCPE(一2
究では、ストック・オプション採用に対する株
日∼+2日)が設けられた。この期間、において
式市場の反応が「インセンティブ仮説」に基づ
は、ストック・オプション採用という情報は市
いて説明している22)。「インセンティブ仮説」
場に流れる可能性が高いと考えられる。また、
は、ストック・オプションを採用することで、
純利益ベースの企業業績の状況を考慮し、10日
経営者に株主利益に沿った経営を行う誘因を与
間のCPE(一2日∼+7日)、及び経常利益ベー
えることを指す。ここで「インセンティブ仮
スの企業業績の状況を考慮し、7日間のCPE
説」を適用すると、悪業績企業のストック・オ
(一5日∼+1日)の差についても検証した。
プションによる「インセンティブ効果」が好業
績企業のストック・オプションによる「インセ
ンティブ効果」より高いと説明できる。つま
21)ただし、ストック・オプション採用の公表日にお
り、悪業績企業の経営者はストック・オプショ
いては、好業績のARが高くなっている。公表日の
7日前から悪業績のPEが高くなった理由はストッ
ンが付与され、好業績企業の経営者より株主利
ク・オプションの採用が事前に市場に流れている可
能性があると考えられる。また、他の情報が市場に
流れ、株価に追い込まれた原因もあるかもしれな
い。ここで特定できない。
22) 松浦(2001)、25∼26頁』
一173一
経 済 学 研究 第72巻 第2・3合併号
表7 純利益ベーニスのAR、℃AR
悪業績
好業績
PE
一15
一〇.371
CPE
CPE
PE
一〇.515
一〇,371
0,606
0,471
一〇.389
t値
t値
一14
1,104
1,534
0,733
0,123
0,096
一〇.265
一13
0,384
0,533
1,117
2,208
1,719
1,943
一〇。322
1,529
一12
0,457
0,635
t574
一〇.413
一11
一〇.646
一〇。897
0,928
一t727
一t344
一〇.198
一10
一〇201
一〇.279
0,728
一1.823
一1.419
一2.021
一9
1,705
2,368
2,432
1,140
0,887
一〇.881
一〇.413
一8
0,777
1,080
3,209
一〇.531
」7
0,396
0,550
3,605
0,928
0,722
一1.412
一〇.484
一6
t267
1,760
4,872
0,765
0,595
0,281
一5
0,254
0,353
5」26
0,283
0,220
0,564
一4
一〇.270
一〇.375
4,856
1,018
0,792
1,582
一3
0,013
0,019
4,870
一か日660
一〇.514
0,921
一2
一〇.146
一〇.203
4,724
一〇.087
一〇.068
0,834
一1
α219
0,304
4,943
0,680
0,529
1,514
6,921
i;:::㈱36:、ii
i曇ili,:壽631抱;:
3,610
:・:,i噛’
潤C、:
lli::1:iゑ78.:;1
;;il::2諏48:幽:
1
0,805
1,118
7,726
0,914
0,712
4,525
2
3
一〇.008
一〇.011
7,718
0,299
0,233
4,824
一〇。022
一〇.031
7,696
0,009
0,007
4,834
4
一〇.441
一〇.613
7,255
0,259
0,202
5,093
5
6
7
8
9
10
一〇.535
一〇.743
6,720
一〇.103
一〇.080
4,989
0,046
0,063
6,766
0,686
0,534
5,676
0,747
1,038
7,513
4,462
3,473
10,138
0,392
0,544
7,904
0,355
0,276
10,493
0,526
0,730
8,430
一〇.322
一〇.251
10」71
0,819
t137
9,249
一1.259
一〇.980
8,912
11
一1.788
一2,484
7,461
一〇.950
一〇.739
7,962
12
13
14
15
一〇.143
一〇.199
7,318
1,594
1,240
9,556
0,106
0」48
7,424
0,748
0,582
10,304
0,373
0,518
7,797
0,405
0,315
10,709
一〇.445
一〇.618
7,353
一〇.136
一〇.106
10,572
(注)①有意水準1%(***)、有意水準5%(**)。
t値の計算方法は、Dodd,P and Warner.J.B(1983)を参考。
益に沿った経営を行うことになる。しかし、な
の享受している高株価に対する参加という形で
ぜ、悪業績企業の経営者は好業績企業の経営者
存在し、経営者の追加報酬となる…」どハ」
より高いインセンティブを示す、あるいは悪業
バード大学のベイカー教授が指摘したことがあ
績企業の高いインセンティブ効果が市場に期待
る23)。また、近年、財務制約がある企業は積極
されるのかについては、「インセンティブ仮説」
的にストック・オプションを採用している結果
で答えられないのである。
が報告されている24)。つまり、ストック・オプ
「経営困難の企業のストック・オプションが、
ションの採用により、企業のキャッシュ・ウ
現金を支払わず優秀な人材を確保することが、
ローを節約する効果があると言える。本研究で
!
一定の限界内で存在の理由をもつが、繁栄して
いる企業のストック・オプションが、現在まで 23)生駒道弘(1960)『ストック・オプションの研究』
131頁∼136頁。
にすでに達成された成果に基づいて現在の株主 24) Yermack,D (1995)
一174一
ストック・オプション制度の導入に対する株式市場の反応
表8 経常利益ベースのAR、 CAR
好業績
PE
t値
CPE
PE
悪業、
t値’
CPE
一〇.135
一〇.097
一α389
一〇.330
一α389
0,939
1,312
0,842
0,722
0,614
0,333
0,585
0,817
1,427
1,479
1,257
1,813
一12
0,082
0」14
1,509
0,947
0,805
2,759
一11
一〇.712
一〇.995
0,797
一1.485
一t263
1,274
一10
一〇.787
一tO99
0,010
0,302
0,257
1,576
一9
1,633
2,280
t642
1,400
1,190
2,976
一8
0,542
0,757
2,184
0,323
0,274
3,299
一7
0,716
1,000
2,900
一〇.232
一〇。197
3,067
3,732
一15
一〇.097
一14
一13
一6
1,295
1,808
0,565
0,154
0,215
4,195
4,349
0,665
一5
0,646
0,549
4,378
一4
一〇.146
一〇.204
4,203
0,568
0,483
4,945
一3
一〇.240
一〇.335
3,963
0,258
0,219
5,203
一2
一〇,596
一〇。833
3,367
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一〇.285
10,576
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一〇.287
一〇.401
6,099
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一〇.255
10,277
5
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7
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一〇.329
一〇.460
5,770
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一〇.721
一〇.447
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5,323
2,472
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11,901
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6,618
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0,798
7,189
9
0,494
0,690
10
0,734
11
1.2
13
14
15
10,911
9,429
2,104
14,376
一〇.253
14,079
7,684
一〇.207
一〇.176
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8,418
一〇.952
一〇.809
13,872
12,919
一2.061
一2.878
6,357
0,040
0,034
12,959
一〇227
一〇.318
6」30
1,898
1,614
0,424
0,592
6,553
一〇。402
一〇.342
14,858
14,456
0,583
0,814
7」36
一〇.357
一〇.303
14,099
一〇.564
一〇.788
6,572
0,296
0,252
14,395
∼
2,476
Z.297
.一
(注)①有意水準1%(***)、有意水準5%(**)。 ・
t値の計算方法は、Dodd,P and WarnerJ.B(1983)を参考。
示した悪業績企業のストック・オプション採用
報酬キャヅシュ・フローより多く節約したかど
に対する株式市場の反応はこのような「キャッ
うかを調べるために、ストック・オプショ、ン採
シュ・フロー仮説」によって説明できるかもし
用年の役員一人当たりの賞与の変化状況を確認
れない。もしストック・オプションが従来の現
した。調べた結果は、ストック・オプション採
金報酬(役員賞与)の代わりに利用されるなら
用年において役員一人当たりの賞与が前年と比
ば、企業は少ない現金支出で人材を確保し、あ
べて減少している悪業績企業の割合が50%に対
る’いは労働意欲を高めることができる。悪業績
して、好業績企業がわずか2割強であることが
企業は、現金報酬の代わりにス・トック・オプ
分かつ’た(表10参照)。半数の悪業績企業に
ションを採用する可能性が高いと考えられる。
とって、ストック.・オプション採用により従来
ストック・オプションの採用により、悪業績
の現金報酬の支出を抑制し、多くのキャッ
企業の報酬キャッシュ・フローが好業績企業の
シュ・フローを節約できた。ここでは詳しく実
175一
経済学研究 第72巻
第2・3合併号
表9 業績状況別のCPE(純利益ベース)
分析期間
悪業績
好業績
Z
ポ
(3日間)一1日・∼+1
一〇.q74
3,002
3,691
2,848
3,903
一〇.29596
一〇.18447
2,643
9,217
一1・753**
「1.660*
一〇.282
(5日間)一2日∼+2
(10日間)一2日ヴ+7
(注〉①有意水準1%(***)、有意水準5%(**)。
t値の計算方法は、Dodd,P and Warner.J.B(1983)を参考。
Z値はMann−Whitney U検定で求められた数値。
表10.業績状況別のCPE(経常利益ベース)
分析期間
好業績
悪業績
t
Z
3日間一1日∼+1
2,778
4,505
一〇.847
一〇.885
2,350
5,708
一1.369*
一1.660*
t950
7,522
一1.790**
一1.918*
5日間一2日∼+2
7日間一5日∼+1
(注)①有意水準1%(***)、有意水準5%(**)。
t値の計算方法は、Dodd,P and Warner。J.B(1983)を参考。
Z値はManrWhitney U検定で求められた数値。
表11 業績別企業の役員一人当たり賞与の変化
純利益ベース
好業績
悪業績
プラス件数 マイナス件数 維持
7
12
42%
3
38%拶
プラス件
経常利益ベース
マイナス件数 維持
10
12
8
9
24%
34%
41%
28%
31%
5
0
’∴お魏
証分析を行なわないが、表10の結果は「キャッ
4
2
㌧∵::5◎%:
25%
2
25%幽:’:
効果が顕著であることが分かった。
シュ・フロー仮説」を支持している可能性があ
5.結論と今後の課題
る。
以上の結果をまとめると、次のことが言え
以上の分析により、次の2点が明らかになっ
る。好業績企業のみならず、悪業績企業のス
トック・オプション採用に対しても、プラスの
た。
株価の反応があった。言い換えれば、企業業績
第一に、ストック・オプションの導入が、株
の状況に関らずストック・オプションの採用が
式市場に評価され、公表日に超過収益率が生
企業価値の増大に貢献できる。また、悪業績企
じ、プラスの株価効果があるとの結果が得られ
業のCPEは好業績企業のCPEを上回っているこ
た。これはアメリカでの実証研究(Brickley,et
とが確かめられた。役員一人あたりの賞与の変
aL 1985,De徹sco,et al,1990)、シンガポールの
化を確認したところ、悪業績企業において、ス
Ding&Sun(2001)の実証研究及び松浦(2001)
トック・オプションの採用により従来の現金報
酬め支出を抑制し、キャッシュ・フローの節約
の先行研究の結果と一致している。日本企業の
ストック・オプションの導入は企業価値の増大
一176一
ス トック ・オプシ ョン制度の導入に対する株式市場の反応
に繋が る と市場が判 断 している。 先行研 究 は、
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6
頁。
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この ような結果 をインセ ンテ ィブ仮説 に基づ い
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て説明 してい る。
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第二 に、業 績 の 良 し悪 Lは ス トック ・オ プ
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シ ョン公表時の株式市場 の反応へ影響 を与 え、
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業績 の悪化 している企業 は業績 の良い企業 よ り
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高い株式市場 の評価 を得 て、株式市場が特 にプ
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績企 業 と比べ て、悪 業 績企 業 にお け るス トッ
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増大 に結 びつ く傾 向が あ る。 これは、「キ ャ ッ
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時 におけるプラスの株価効果が確認で きた。新
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る。 今後 、投資家 に期待 される ようなインセ ン
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9,
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頁
駒道弘 (
-
177
-
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