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No.46 - JCRファーマ株式会社

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No.46 - JCRファーマ株式会社
Original Article: Pediatric Endocrinology Reviews(PER). Volume 12, No.1, 2014
Editor-in-Chief: Zvi Laron, MD, PhD(h.c.)
Associate Editor: Mitchell E. Geffner, MD
Associate Editor for Japan and Pacific Area: Toshiaki Tanaka, MD
(PER published by: Y.S. MEDICAL MEDIA Ltd.)
46
NO.
CONTENTS
1
2
ソトス症候群
Juan F. Sotos, MD
茨城県立こども病院 小笠原 敦子
思春期の BMI,腹囲によるやせ,肥満の定義:
ポルトガルと国際基準との比較
Beatriz Minghelli, Msc, Carla Nunes, PhD, Raul Oliveira, PhD
国立成育医療研究センター生体防御系内科部 内分泌・代謝科 内木 康博
3
矮小陰茎を有する児のヒト絨毛性ゴナドトロピン
(HCG)
負荷試験に対するテストステロンの反応
Jaja Tamunopriye, Oduwole Abiola O.
たなか成長クリニック 吉井 啓介
今号の概要
“
”Volume 12, No.1, 2014より,①ソトス症候群 1とソトス症候群 2,
②やせ,肥満の定義のポルトガルの基準値と国際基準値との比較,③矮小陰
茎の男児におけるhCG 単回投与のテストステロンの反応,についてのレビュー
を紹介します。
総監修:たなか成長クリニック院長 田中 敏章
本企画は小児内分泌領域(代謝も含む)の海外雑誌 "
"より最新情報をお届けすることを目的とし,医学的かつ
科学的に公平な立場から選択した論文の抄訳を作成しております。
一部,国内での承認外の情報を含んでおりますが,本誌はこれを推奨するものではありません。また,JCRファーマ株式会社は費用面での援助を
行っておりますが,本企画は特定の薬剤の処方誘引あるいは企業の営利を企図するものではありません。薬剤の使用にあたっては最新の添付文書を
ご参照ください。
1 ソトス症候群
Sotos Syndrome 1 and 2
*
Juan F. Sotos, MD
小笠原 敦子 茨城県立こども病院
ソトス症候群は1964年に初めて過成長,特異的顔貌,
が大きい。痙攣は30~40%に合併し,頭部MRIでは脳室
発達遅滞を主症状とする疾患として報告された。その頻
拡大,くも膜下腔拡大,脳梁欠損あるいは低形成,透明中
度は約14,000人出生に1人で,ベックウィズ・ウィードマン
隔欠損などが見られる。
(BW)
症候群やマルファン症候群とほぼ同程度であり,男
(4)
その他の合併症:心奇形
(8~35%)
,尿路・外性
女差はない。本稿では染色体 5q35.2−35.3に位置する
Nuclear receptor binding SET Domain protein 1
器異常
(~19%)
,側彎症
(43%)
のほか,斜視,眼振,視神
(NSD1)
遺伝子
(OMIM#606681)
の異常によるソトス症候
経萎縮など眼科的異常も報告されている。先天性甲状腺
群1
(SOTOS1)
(OMIM#117550)
と,染色体19p13.3に位置
機能低下症や甲状腺機能亢進症の報告もあるが,内分泌
するNuclear Factor I, X type
(NFIX)
遺伝子
(OMIM#164005)
学的な合併症はまれである。良性あるいは悪性腫瘍
(奇形
の異常によるソトス症候群2
(SOTOS2)
(OMIM#614753)
に
腫,白血病,リンパ腫,ウィルムス腫瘍など)
の合併は2.2~
ついて,これまでの報告をもとに概説する。
3.9%に見られる。
● ソトス症候群1
(SOTOS1)
表 . ソトス症候群の臨床症状
ソトス症候群
【臨床症状】
臨床症状
(1)
特異的顔貌:大長頭,突出した前額,禿げ上がっ
%
成長
た前頭部,両眼開離,眼瞼裂斜下,大きな耳介,狭・高
*
過成長(出生前・出生後)
口蓋,下顎突出が特徴で,早期歯牙萌出が 60~80%に見
100
生後3∼4年までの急速な成長
*
られる。
骨年齢の進行
*
100
74
頭蓋顔面
(2)
出生前・出生後過成長:出生前からの過成長の
大長頭*
ため,出生時身長は標準の90~97%tileで,3~4歳頃ま
での成長率が標準よりも高い。暦年齢に対する平均身長
84
突出した前額*
96
両眼開離
91
*
の+2SDより高く,小児期は+3~+4SDであることが多い。
眼瞼裂斜下
93
高口蓋*
96
*
骨年齢は進行し,やや早期に思春期に入るため,成人身
長は+2SD以下であることも多い。個人差はあるがソトス
下顎突出
症候群の成人身長は平均+1.8SD
(男性+1.8SDS±0.88SD,
*
83
発達遅滞*
83
微細運動の欠如
67
発語の遅れ
83
神経系
女性+1.8SDS±1.2SD)
である。両親の身長から算出した予
測身長よりも男性では11cm,女性では7cm高いとの報告
がある。
その他
(3)
発達遅滞:独歩,発語は遅く,粗大運動や微細運
早期歯牙萌出
57
動などに協調運動障害が見られる。乳児期は筋緊張低下
新生児不適応(黄疸,低血糖),哺乳障害
44
のため流涎が多い。怒りやすく雑な性格で行動異常も指
感情コントロールが未熟
摘されている。精神発達遅滞
(IQ40~境界領域)
は80~
かんしゃくを起こしやすい
85%に見られるが,残り約20%は正常でその程度は個人差
特に顕著な症状
*
*
Professor of Pediatrics, The Ohio State University, College of Medicine, Section of Pediatric Endocrinology, Metabolism and Diabetes, Nationwide Children's
Hospital
2
【病 因】
あり,その内訳は変異例83%,欠失例10%である。7~
染色体 5q35に切断点を持つ患者が報告されていたこと
10%の症例は原因が明らかでない。ソトス症候群の原因と
から,2002年にKurotakiらがポジショナルクローニング法
なるミスセンス変異はクロマチンの制御に関与するSET,
でNSD1遺伝子を単離した。NSD1遺伝子は23個のエク
SAC,PHDドメインに発見されているが,5‘端側のNID
ソンより構成される8088bpの蛋白翻訳領域を有し,2696
ドメインには見られない。
個のアミノ酸をコードする遺伝子である。ヒトでは胎児期
NSD1遺伝子の異常がある症例の表現型解析は,特異
から成人までの脳,骨格筋,腎臓,脾臓,胸腺,肺と成人
的 顔 貌99~100%,過 成 長90~100%,発 達 遅 滞97~
末梢血白血球に発現している。
100%,骨年齢促進76~84%で,最初に報告された5例の
NSD1は転写因子で,核内レセプターとの相互作用,ク
臨床所見と同様である。変異例と欠失例を比較すると,欠
ロマチンの制御によって転写調節する。リガンドがない状
失例では過成長の程度が軽度,発達遅滞はより重度,心
態ではNID-Lドメインがコリプレッサーとして,リガンドが
奇形の頻度が高かったが,その他の合併症の頻度に差は
ある状態ではNID+Lドメインがコアクチベーターとして
なかった。
転写抑制と促進の両方の作用を持つ。クロマチンの制御
ソトス症候群の85~90%は孤発例で,10~15%は家族
にはSET,PHDドメインが働く。SETドメインがヒストン
性ソトス症候群であると報告されている。家族例のほとん
H3Lys36
(H3K36)
とヒストンH4Lys20
(H4K20)
をメチル化
どがミスセンス変異である。家族例の頻度が低い理由は
することで,H3K36は発現遺伝子の転写抑制,H4K20は
明らかでないが,Nsd1遺伝子ノックアウトマウスは全例胎
転写活性あるいは抑制,クロマチン濃縮,有糸分裂などに
生期に死亡することから,流産の可能性が高いと思われ
働く。PHD5ドメインのC端にC5HCHモチーフを持つ
る。
PHD6ドメインがあり,最近同定されたNSD1 interacting
まれな例として,ソトス症候群と重複する症状を有し
Zinc-finger protein
(NIZP1)
のC2HRモチーフと結合する
NSD1遺伝子異常のあるウィーバー症候群
(WVS)
,BW
ことが示された。この部位のシスチン,ヒスチジンに変異
症候群が報告されている。WVSの原因はヒストンメチル
があるとNSD1とNIZP1の相互作用が障害される。PHD1,
化トランスフェラーゼをコードするEnhancer of Zeste,
4,5,6ドメインはヒストンH3のメチル化されたLys4また
Drosophila, Homolog 2(EZH2)
遺伝子のヘテロ接合性変
はLys9に結合するが,PHD4,5ドメイン内の既知の11変
異であることから,遺伝子解析でその鑑別は可能である。
異では,このメチル化リジンとの結合が阻害される。また
一方,NSD1遺伝子の重複は低身長,小頭などソトス症候
PHD4,6ドメイン内の変異ではNIZP1との結合が阻害さ
群とは反対の症状を示す。
れる。このことからPHDドメインの変異はNSD1とヒスト
● ソトス症候群 2
(SOTOS2)
ンあるいはNIZP1などのコファクターの結合が阻害される
ことになり,それが脳発達や協調運動に障害が起こる原因
2010年と2012年に,ソトス症候群と類似した表現型を
であると推察されている。
示し,NFIX遺伝子の異常による過成長の症例が報告さ
日本人以外では遺伝子内変異例が 85~90%で,欠失例
れた。NFI蛋白はエストロゲン受容体などの他の因子と共
は10~15%であるのに対し,日本人ではその多くが欠失例
に遺伝子の転写を促進するDNA結合蛋白である。Malan
で約50%にのぼり,変異例は約10%である。日本人の欠失
ら
(2010年)
はNFIX遺伝子を欠失した19p13.1モノソミー2
例は,NSD1と隣接する21の遺伝子を含むおよそ2.2Mbの
例,NFIX遺伝子のヘテロ接合性ナンセンス変異1例を報
共通領域の近位および遠位端に近接するlow-copy-repeat
告し,Yonedaら
(2012年)
はNSD1遺伝子異常がないソト
(LCR)
の非アレル間相同組み換えに由来し,欠失サイズは
ス症候群2例で同定された2つのヘテロ接合性ミスセンス
約1.9Mbである。これに対し欧米,オーストラリアでは欠
変異
(de novo変異1例,母由来変異1例)
を報告した。
失例が少なく,約0.4~5Mbの微細欠失が父親由来の染色
Nfix欠失モデルマウスはマーシャル・スミス症候群
体に見られる。しかしながらLCRで切断が起こるのは
(MRSHSS)に 類 似した症 状 で,ヒトでもMRSHSSの
55%で,45%は異なるメカニズムで切断が起こると考えら
NFIX遺伝子変異が発見された。このことからNFIX遺伝
れている。
子異常がMRSHSSとSOTOS2の原因と考えられている。
MRSHSSでは変異蛋白がドミナント-ネガティブに働くこ
【遺伝子型と表現型】
とでより重症型を示すのに対し,SOTOS2では変異蛋白は
これまで臨床的にソトス症候群と診断された症例を解析
ネガティブ効果を持たずハプロ不全による症状をきたす可
した中でNSD1遺伝子異常が確認されたのは90~93%で
能性が示唆されている。
3
2
思春期のBMI,腹囲によるやせ,肥満の
定義:ポルトガルと国際基準との比較
Body Mass Index and Waist Circumference to Define
Thinness, Overweight and Obesity in Portuguese Adolescents:
Comparison between CDC, IOTF, WHO References
1
2
3
Beatriz Minghelli, Msc , Carla Nunes, PhD , Raul Oliveira, PhD
内木 康博 国立成育医療研究センター生体防御系内科部 内分泌・代謝科
● はじめに
● 結 果
ほとんどの青少年においてBMIは体脂肪の有用な指標
今回の研究はアルガルベ地方の16郡のうち,2郡を除く
であるが,その高い感度,特異度にもかかわらず低身長,
14郡の生徒を対象とした。10~16歳
(平均12.2±1.53歳)
の
高身長,筋肉質,脂肪の分布が正常でない場合などは体
966名のうち男子は437名
(45.2%)
,女子は529名
(54.8%)
脂肪が多くなくてもBMIでは過体重や肥満に分類されて
で10~12歳は574名
(59.4%)
,13~16歳は392名
(40.6%)
で
しまう。だがそれ以上にBMIの一番の限界は,青少年に
あった。体重,身長,BMI,腹囲の平均と標準偏差はそ
おいて肥満ややせの定義が確立していないことである。
れぞれ 48.24±11.68kg,155±11cm,19.82±3.46kg/m2,
CDC,IOTF,WHOなどいくつかの機関から分類基準が
73.11±9.67cmであった。過体重・肥満
(表)
またはやせと
提唱されているが広く受け入れられてはいない。2012年に
分類された群についてBMIの3基準と腹囲による分類と
ポルトガルの青少年における性別,年齢別の腹囲の% tile
の一致率を示した。肥満については男女ともCDCとIOTF
曲線が作成されたことを受け,本研究は同国のアルガルベ
に強い一致相関を認めたが,3基準と腹囲では認めなかっ
地方の生徒を対象とした横断的な観察研究をもとにCDC,
た。一方やせについては3基準間には肥満ほど強い一致は
IOTF,WHOの3基準を比較し,同国民の腹囲曲線との
認めず,3基準と腹囲に一致は認めなかった。
関連づけを行った。
● 考 察
● 対象と解析
アルガルベ地方の青少年966名を対象とした今回の研
アルガルベ地方の全郡の公立学校の第5~9学年
(10~
究では,用いる基準によって違いはあるものの過体重の頻
16歳)
に在籍する男女26,217名を対象に横断的観察研究を
度が高いことが分かった。BMIで評価した場合,IOTF,
行った。人口から算出された統計学的な最小必要対象数
CDC,WHOの各基準で23.8%,25.2%,31.6%が過体重と
は777名で,無回答の可能性,全学年を含めることを考慮
分類され,腹囲で評価した場合 41%が過体重であった。
し,1,000名を組み入れた。BMIはCDC,IOTF,WHOの
この研究では過体重の割合はWHO基準による分類で最
各基準に基づいて評価し,CDCでは年齢別の% tile表に
も多く,IOTFでは最も少なく出ており,基準で大きく左右
基づき5% tile未満を低体重,85~95% tile未満を過体重,
されることが示された。一方ポルトガル全土の10~18歳ま
95% tile以上を肥満と分類した。IOTFでは体表面積1m
でを対象にした研究では,IOTFとWHOの基準による過
2
当たり25kg以上で過体重,30kg以上では肥満とした。
体重の頻度はそれぞれ17.4%,21.8%,肥満の頻度は5.2%
WHOでは-2SD以下をやせとし,-2~1SDを正常体重,
と9.9%であった。アルゼンチンの10~11歳の1,588名の研
1~2SDを過体重,2SD以上を肥満とした。腹囲は立位で
究ではIOTF,CDC,WHOの各基準で過体重の頻度は
肋骨と腸骨の間で水平に2度測定し平均を算出。測定し
27.9%,27.9%,35.5%とアルガルベ地方よりも高かった。米
た腹囲はポルトガルの青少年の% tileに当てはめ,90% tile
国人6,108名,ロシア人6,883名,中国人3,014名を対象に
以上を肥満,75~90% tileを腹囲過大,5% tile以下をや
した別の研究でも同様に,WHOの方が IOTFより過体重
せと定義した。
の頻度が高く出た。特にロシアでは,過体重の割合が
次にBMIの3基準と腹囲について,成長期の定義に基
IOTF 基準では10%のところ,WHO基準では20%と倍と
づき主に男児で成長期に入る前
(10~12歳)
と思春期
(13~
なり,対象が異なってもIOTF 基準では過体重と肥満の頻
16歳)
の2群に分けてκ解析を行った。
度が低く出た。ただし,IOTF 基準確立のもとになった6
1
School of Health Jean Piaget Algarve, Piaget Institute; National School of Public Health, NOVA University of Lisbon; 2 National School of Public Health, NOVA
University of Lisbon; 3Faculty of Human Kinetics, University of Lisbon, Portugal
4
表 . 肥満の分類について各基準での比較におけるκ係数
患者
10∼12歳
13∼16歳
全体
性別
CDC vs IOTF
CDC vs WHO
IOTF vs WHO
(p<0.001, all)(p<0.001, all) (p<0.001, all)
CDC vs 腹囲
(p値)
IOTF vs 腹囲
(p値)
WHO vs 腹囲
(p値)
男児
0.767
0.719
0.553
0.546
0.432
0.556
女児
0.815
0.784
0.728
0.425
0.326
0.451
全体
0.796
0.757
0.656
0.472
0.368
0.493
男児
0.831
0.658
0.624
0.373
0.331
0.394
女児
0.908
0.826
0.825
0.291
0.262
0.307
全体
0.877
0.750
0.734
0.331
0.297
0.348
男児
0.792
0.705
0.584
0.482
0.395
0.496
女児
0.844
0.799
0.759
0.379
0.304
0.402
全体
0.823
0.759
0.685
0.423
0.344
0.442
か国のうち5か国は身長や思春期,肥満に影響を与えうる
使いやすいことからBMIによる分類基準として広く用いら
GDPが世界平均より上回っており,IOTF 基準が全世界
れている。
を代表していないところに限界があるが,今回の研究には
アフリカのセーシェルの5~16歳児33,340名におけるや
その影響は認められなかった。
せの頻度についてIOTFでは29.8%,WHOでは35.6%とす
成人では25kg/m2 以上の過体重と30kg/m2 以上の肥満
るBovetらの報告がある。この報告はMinghelliらによる
の頻度を解析する際,例えば,少女期のBMI上昇がいず
本研究の結果よりかなり高いが,やせおよび過体重の頻度
れは止まる国もある一方で,中年女性においてもBMIの増
が最も高いのはWHO基準で続いてIOTF 基準であるとい
加が認められる国もあるなど,同様に比較するのは困難で
う点では同じである。
ある。また過体重の定義には性別,年齢,地域特性を考
異なる基準が存在するのは,参考基準,手法,対象,カッ
慮する必要がある。10~12歳と13~16歳における過体重
トオフ値,成長曲線の作成手法などに違いがあるためであ
と肥満の定義は特にCDCとIOTFが最も一致している。
る。国によって何をもって正常体重とするかは,各国独自
しかし,この一致率をκ値で表すとCDCとWHOでは0.84,
に作成した成長曲線によって異なる。ポルトガルでは体型
IOTFとWHOでは0.71,CDCとIOTFでは0.64と最後の
分類の基準に腹囲のみを用いており,それは過体重に関し
2つが最も低い。Barbosaらはブラジルにおいて前出の研
てはBMIのWHO基準と相関しているが,やせの基準に
究より年少の5~10歳児181名を対象に肥満の状態を調べ
関してはBMIの3基準とあまり一致していない。Minghelli
たところ,過体重と肥満の頻度はCDCとIOTFで一致し
は以前の研究でポルトガルの青少年用に確立した新規の
ており,Pedrosaらがポルトガルのアベイロにおいて7~9
腹囲による分類基準を用いたが,この基準は欧米の基準
歳児905名を対象に行った調査と同様の結果であった。
との高い一致率を示した。
基準毎の差は性別や年齢でも異なり,BMIの3基準は
今回の研究では対象者の性的成熟が評価されていない
女児では男児に比べよく一致しているが,BMIと腹囲での
点に限界がある。歴年齢は性的成熟とは必ずしも一致し
一致は男児で認められた。過体重におけるBMIと腹囲の
ていないため,同じ年でも身長,体格,BMI,体組成,成
一致は弱く,CDCでは認められなかったが IOTFでは
長率などが異なり成熟年齢に差が出る。性別はそれらの
BMIと腹囲に有意な相関が見られた。やせの頻度は腹囲
違いに影響する因子で,女児は男児より特に青年期早期
で 評 価 す ると2.5%,CDCで は1.9%,IOTFで は2.9%,
では早く成熟する。しかしすべての横断的研究は歴年齢
WHOでは8.4%であった。一方,2~18歳のやせについて
を指標として用いている。さらに7~17歳児201名を対象
CDC,IOTF 基準では中国の1,600名ではそれぞれ13.1%
に,複数の方法で体脂肪分布
(腹囲,臀部周囲,皮脂厚)
と21%,インドネシアの11,756名では21.7%と33.2%,ベト
を評価した結果をDEXA法での結果と比較した研究では,
ナムの53,826名では33.3%と49.1%と,いずれもIOTFの
年齢は中心性の脂肪沈着と強く相関していることが示され
基準の方がCDCと比べて高頻度であったとする報告と,
ている。
10~11歳においてCDC,IOTF,WHOの各基準で2.1%,
● 結 論
2.1%,3.5%と差がないという報告もある。やせ分類の一致
率が最も高かったのはCDCとIOTF 基準で,10~12歳男
BMIによるやせ,過体重,肥満の分類に用いるCDC,
児においてのみ,その一致率が有意に高かった。BMIと
IOTF,WHOの3基準について,一致した結果を出したの
腹囲の基準を比較すると一致率は低く,わずかに13~16
はCDCとIOTFであったが,やせ分類の一致率は低かっ
歳の女児の腹囲とCDC基準が一致しているのみで,全く
た。一方,BMIの各基準と腹囲による分類に一致はあまり
一致しないところもある。IOTFとCDCの基準は普遍的で
見られなかった。
5
3
矮小陰茎を有する児のヒト絨毛性
ゴナドトロピン (HCG) 負荷試験に
対するテストステロンの反応
Human Chorionic Gonadotrophin (HCG) Stimulation Test
and Testosterone Response in Children with Micropenis
1
Jaja Tamunopriye , Oduwole Abiola O.
2
吉井 啓介 たなか成長クリニック
は外来で施行できるという利点がある。本稿では小児内
● はじめに
分泌センターにおいて,矮小陰茎を有する前思春期の児
ヒト絨毛性ゴナドトロピン
(HCG)
負荷試験は小児のさま
にHCG単回投与を施行した結果を報告する。
ざまな精巣疾患に対する重要な内分泌検査の1つである。
● 対象と方法
通常,これは生後 4ヶ月以降の前思春期の男児に対して,
精巣のライディッヒ細胞の機能を評価するために施行され
本研究は,小児内分泌センターにおいて2012年6月~
る。生後数ヶ月以降の前思春期男児に自発的なテストステ
2013年9月の15ヶ月間に矮小陰茎を有する児を対象に
ロン分泌はほとんどない。よって,矮小陰茎やその他の性
HCG 負荷試験を用いて評価した後方視的研究である。症
分化疾患を有する児の原因検索として,ゴナドトロピン値
例記録の後方視的分析により入手した,ホルモンや臨床
の評価とともにHCG 負荷試験が必要となる。
項目に関連するデータを提示する。朝に基礎値として,テ
HCGは精巣でテストステロン産生を誘導する。矮小陰
ストステロンとその他のホルモン
(オプション)
を静脈血で
茎を含む性腺疾患に対するHCG 負荷試験は広く研究され
採取した。その後,HCGを100 iu/kg 筋注
(単回投与)
し,
ている。HCGは二量体の糖蛋白ホルモンで,黄体形成ホ
72時間後にテストステロンとその他のホルモンを採取し
ルモン
(LH)
と共通のサブユニットを有する。HCGはLH受
た。テストステロンが基礎値から0.8ng/mL以上増加した
容体を介して精巣のライディッヒ細胞を刺激し,アンドロ
場合,または負荷後のテストステロン値が 0.9ng/mLより
ゲンを分泌させる。HCG 負荷試験にはいくつかのプロト
高値の場合に正常と判断した。身長,体重,HCG 投与前
コールがある。HCGの半減期は2.5日と長く,血漿中のテ
後の陰茎長,精巣容量,異形症を記録した。
ストステロンを70~120時間緩やかに上昇させる。よって
● 結 果
単回投与は理にかなっていると考えられる。
陰茎の成長と男性化には胎児期早期のアンドロゲン分
9人の矮小陰茎の児のうち6人にHCG 負荷試験が施行
泌が重要である。健康男児のテストステロン値は複雑なパ
された。月齢は2~84ヶ月
(平均49.87ヶ月)
であった。臨床
ターンで推移する。母体HCGによる刺激により,生後1週
的特徴を表1に示した。患者EKは身長が 5% tile未満,
間のテストステロン値は成人の基準範囲の高
値を示す。生後 2~6ヶ月には成人の基準範
表 1. 矮小陰茎を呈した児の臨床的特徴
囲の低値で推移し,生後 6ヶ月以降から前思
患者
月齢
成長
異形症
停留精巣
HCG負荷試験
春期にかけて0.1ng/mL未満と検出感度以下
IA
2
正常
なし
なし
あり
のレベルにまで低下する。前思春期にHCG
EK
13
異常
ダウン症候群
あり
あり
負荷試験が施行されると,テストステロン値
IK
24
正常
なし
あり
なし
は負荷前の2~9倍に上昇する。ラジオイムノ
AA
24
正常
なし
あり
なし
OS
60
正常
なし
なし
あり
AY
72
正常
なし
あり
なし
ES
84
正常
なし
なし
あり
EI
84
正常
なし
なし
あり
OF
36
正常
なし
なし
あり
アッセイ,液体クロマトグラフィー,タンデム
マススペクトロメトリーが使えるようになり,
前思春期のHCG 負荷試験が多くの地域で可
能となった。
HCG 負荷試験は通常1500~5000 units/
m2 を皮下注または筋注する。HCG 負荷試験
1
Consultant Paediatric Endocrinologist, Department of Paediatrics, University of Port Harcourt Teaching Hospital, Rivers State, Nigeria; 2 Consultant Paediatric
Endocrinologist, Paediatric Endocrinology Training Center for West Africa, Lagos University Teaching Hospital, Lagos, Nigeria
6
ダウン症候群の顔貌に合致した。その他の児は正常身長
ンは高値であったが,これは視床下部–下垂体 –性腺系が
であった。対象の4人
(44.4%)
が停留精巣であった。臨床
休眠する前の時期である可能性がある。正常反応が得ら
的特徴とHCG 負荷試験に対する反応を表2に示した。負
れたことは原発性性腺機能不全がないことを示唆するが,
荷前のテストステロン値は0~0.35ng/mL
(平均0.3ng/
セルトリ細胞に影響を与えるような性腺異形成は否定でき
mL)
,負荷後は0.35~3.2ng/mL
(平均1.26ng/mL)
であっ
ない。Kubiniらは前思春期の児におけるインヒビン基礎値
た。ライディッヒ細胞の機能が正常と判断されたのは3人
とHCG 負荷後のテストステロン値が相関する
(r=0.84)
と
であった。HCG 刺激後の陰茎長の増大幅は0.3~0.7cm
しているが,精巣形成不全を有する3人で,HCG 負荷試
(平均0.46cm)
であった。
験でテストステロン正常,インヒビン低値であったとも報
告している。これはライディッヒ細胞より精細管機能がよ
● 考 察
り高度に障害されている可能性を示唆する。テストステロ
HCG 負荷試験によって陰茎の成長や思春期の男性化に
ン合成障害,ライディッヒ細胞形成異常,精巣萎縮,ライ
必要なテストステロン産生能を判断できるとされている。
ディッヒ細胞受容体異常はテストステロン無反応または低
テストステロンとゴナドトロピンは男性の外性器の発達に
反応を示す。本研究で正常反応を示さなかった3人はこれ
必須であり,矮小陰茎の児の精巣機能の評価は重要であ
らの疾患カテゴリーに分類される。性分化異常症に対する
る。テストステロン合成障害,ライディッヒ細胞形成不全,
HCG 負荷試験はさまざまな反応を示すことから,これらの
LH受容体異常,精巣損傷によりテストステロンが低値と
疾患が組み合わさっているかもしれない。陰茎長は5αレ
なる。
ダクターゼによりテストステロンから変換されたジヒドロテ
HCG 負荷試験により,矮小陰茎,停留精巣,思春期遅
ストステロンとテストステロン受容体に依存する。すべて
発症のような性成熟の異常を呈する児の原発性精巣障害
の児で陰茎長の増加が認められたことは,正常なアンドロ
を診断することが可能である。前思春期の児において,視
ゲン受容体と5αレダクターゼの存在を示している。負荷
床下部– 下垂体 – 性腺系は生後 4~6ヶ月後から休眠して
後の陰茎長の増加は,テストステロン治療による陰茎長の
いる。よって生後 4~6ヶ月以降の精巣のLH受容体を刺激
増加が可能であることを示唆する。
するためにはHCG 負荷試験が必要である。
HCG 負荷試験は外来患者に対しても施行できる検査で
HCG 負荷試験には単回投与から複数回投与までさまざ
あり,矮小陰茎を含む性分化異常症の男児の精巣機能の
まなプロトコールがある。正常と異常とを区別するための
評価とその後の治療の方向性に重要である。単回投与は
テストステロン値はプロトコールにより異なる。Grantらは
スクリーニングとして利用し,低反応の場合には複数回投
5日間連日投与と3日間連日投与に差はないと報告してい
与のプロトコールを考慮する。
る。KolonとMillerは,前思春期の精巣機能の評価に
● 結 論
HCG単回投与は信頼性があると報告している。本研究は
HCG 負荷試験は矮小陰茎の児のライディッヒ細胞の機
HCG単回投与で行い,投与72時間後のテストステロン値
を評価した。1人を除いて,刺激後のテストステロンは基
能とテストステロン分泌能を調べるために重要な検査であ
礎値から上昇を認め,3人に正常反応が見られた。患者
る。本研究では1人を除いたすべての対象で負荷後のテ
EKは停留精巣を認めたが,負荷試験により正常な精巣組
ストステロン分泌の増加を認めた。停留精巣の児を含めて
織の存在が示唆されたので,緊急の精巣固定術を施行し
3人
(50%)
に正常反応が認められたことから,停留精巣の
た。患者IAは2ヶ月男児で,他者と比較してテストステロ
児の精巣組織が正常である可能性が示唆された。
表 2. HCG 負荷試験による陰茎長
(cm)
とテストステロン
(T)値(ng/mL)
の反応
患者
停留精巣
陰茎長
(負荷前)
陰茎長
(負荷後)
陰茎長の
変化
T値
(負荷前)
T値
(負荷後)
T値
増加幅
評価
IA
なし
1.9
2.4
0.5
0.35
1.10
0.75
正常
EK
あり
1.7
2.0
0.3
0.35
3.20
2.85
正常
OS
なし
2.0
2.7
0.7
0.35
0.80
0.45
ES
なし
3.0
3.5
0.5
0.35
0.35
0.00
EI
なし
3.0
3.4
0.4
0.00
1.31
1.31
OF
なし
2.0
2.4
0.4
0.20
0.80
0.60
正常
(原著のTable 2とTable 3より抜粋)
7
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