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多国間核軍縮交渉を前進させるための 国連公開作業部会(OEWG)参加に関する 岸田文雄外務大臣への要請 2016 年 2 月 16 日 NPO 法人 ピースデポ 【要請事項】 標記国連公開作業部会(OEWG)に関し、次のことを要請します。 (1) OEWG に積極的に参加し、核軍縮議論の深化と前進に貢献すること。 (2)「核軍縮を実現するための具体的で効果的な法的措置」の概念を幅広く理解し、議 論に加わること。 (3) 13 年「ビルディング・ブロック」アプローチ作業文書を生かすとすれば、今回の OEWG の目的にそって改訂し、提案すること。 (4) 諸提案を同時並行に追求することを許す合意形成をリードすること。 (5) 日本自らが核兵器依存から脱却する方向を明確にし、その立場からの発言や貢献を 行うこと。 §1.はじめに 日本政府は、今年 1 月にジュネーブに設置され 2 月から 8 月の 3 会期(15 日間)にわた り議論が行われる上記公開作業部会(以下「OEWG」)への参加を、検討中であると聞い ております。 OEWG には、第 70 回国連総会決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」(A/RES/70/33) によって、次の 2 つのマンデートが与えられています。 1) 核軍縮を実現するための具体的で効果的な法的措置、とりわけ核兵器のない世界の 達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項およ び規範について、実質的に議論する。(決議本文第2節、これを「第 1 マンデート」 と呼びます)。 2)多国間核軍縮の前進に寄与するであろう、他の諸措置についても、勧告の策定に取 り組む。(例)現存する核兵器に関わるリスクに関連する透明性措置;事故、過誤、 無認可によるあるいは意図的な核兵器爆発の危険性を低下、除去するための措置;核 爆発がもたらす人道上の結末に関する認識や理解を促進させるための追加的措置。 (同 第 3 節)。 さらに、OEWG には「実質的作業と合意された諸勧告に関する報告書を提出すること」 が求められています(第 7 節)。同報告書は国連事務総長を通じて軍縮会議(CD)、国連 1 軍縮委員会(UNDC)及び 2018 年までに開催される、核軍縮に関するハイレベル国際会議 に送付されます(第 8 節)。 マンデートの中で特に重要なのが第 1 マンデートです。「法的拘束力のある核兵器の禁 止」の希求はもはや押しとどめることのできない世界の趨勢であり、その岩盤には核兵器 使用による「壊滅的な人道上の結末」への懸念が存在しています。 私たちは、唯一の戦争被爆国であり核軍縮において大きな国際的影響力を持つ日本が、 公開作業部会に参加し、積極的かつ主導的な役割を果たすことを願い、この要請書を提出 します。 §2.日本が OEWG に参加することの意義 核軍縮議論の停滞の中で明確になってきているのが、<核兵器保有国・依存国>と<核 兵器に依存しない国々>との間に深い溝が存在するという図式です。 総会決議 A70/33 の投票結果は次のとおりでした。 賛成:138; 反対:12; 棄権:34 138 か国という圧倒的な多数(全加盟国の 3 分の 2 以上)が賛成した一方、5 核兵器国は すべて反対、核兵器依存国(日本、韓国、オーストラリア、NATO 諸国など)は反対もし くは棄権しました。 5 核兵器国は、第 1 委員会において連名の「反対理由」を発表し、核兵器国の支持や参画 のない法的文書によって核兵器を廃絶することは不可能である、この決議は安全保障上の 考察を無視しているなどと、決議を批判しました。 この図式を視野に置きつつ、私たちは OEWG に日本が参加し、積極的な貢献をなすこと には、次のような大きな意義があると考えています。 1)「『核兵器のない世界』の実現に向け、国際社会の取組を主導していく」という従 来からの政府の方針からみて、不参加はありえない選択だと考えます。 2)核兵器使用による壊滅的な人道上の結末を誰よりも知っている戦争被爆国の歴史的 使命として、具体的提案と議論によって核兵器のない世界の実現に貢献する絶好の機 会です。 3)<核兵器国保有国・依存国>と<核兵器に依存しない国々>の間に「橋をかける」こ とを旨としてきた日本の政策の蓄積を十全に活かしたユニークな貢献をすることがで きます。 4) 日本政府が、すでに平均年齢が 80 歳を超えた被爆者の悲願に応えるための回答を 準備する場となります。 5) 日本が積極的に関与し議論に加わることによって、会議の成果の正統性と説得力が 高められることを、国際社会は期待しています。 2 §3 2013 年から 16 年へ―目に見える前進を 2013 年に開催された OEWG のマンデートは「核軍縮交渉を前進させるための諸提案を 作り出す」ことでした。これに対して 16 年の OEWG は「核兵器のない世界の達成と維持 のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項及び規範について、 実質的に議論する」ことをマンデートとしています。従って今回の OEWG に日本が参加す るにあたっては、次のような観点から、13 年 OEWG に提出した「ビルディング・ブロッ ク」作業文書を基礎にして今回のマンデートに合致した提案を行うことが考えられます。 その場合、次のような要件が加わることが求められると思います。 1)核兵器国、日本のような核兵器依存国などすべての国が「核兵器のない世界」の平 和を追求する準備をする必要があることを前提にした「ビルディング・ブロック」を 構想すること。 2)「ビルティング・ブロック」アプローチが、ベンチマークと時間軸(固定的である 必要はない)をともなった提案になること。 §4.提案されている「法的枠組み」の諸オプションの整理 ピースデポは、核兵器を禁止し廃棄するための「効果的な諸措置」を含む法的枠組みの 交渉開始を追求するという観点から、「核兵器禁止のための法的枠組みの諸オプション」 に継続的に関心を注ぎ、諸文献の調査を通して概念と課題の整理を行ってきました。 別添の「<表>核兵器禁止・廃棄の法的枠組みの諸オプション」に、以下の 5 つのオプ ションの概要、利点と課題をまとめました。この整理は、OEWG において「法的枠組み」 を検討する際の指針として有用であると考えています: オプション 1 包括的核兵器禁止条約(Nuclear Weapons Convention:NWC) オプション 2 簡易型核兵器禁止条約(Nuclear Weapons Ban Treaty:NWBT または Ban Treaty) オプション 3 「枠組み合意」アプローチ(A Framework Agreement Approach) オプション 4 「ビルディング・ブロック」アプローチ(Building Blocks Approach) オプション 5 混合型組み合わせ(A Hybrid Arrangement) §5 OEWG 参加に関する要請事項 私たちは、次のとおり要請します。 (1) OEWG に積極的に参加し、核軍縮議論の深化と前進に貢献してください ①「『核兵器のない世界』の実現に向け、国際社会の取組を主導していく」という政 府の従来の方針にたつならば、不参加はありえない選択だと考えます。 3 ②OEWG は、核兵器使用による壊滅的な人道上の結末を誰よりも知っている戦争被爆 国として、具体的提案と議論によって核兵器のない世界の実現に貢献する絶好の機会 です。 ③<核兵器国保有国・依存国>と<核兵器に依存しない国々>の間に「橋をかける」 ことを旨としてきた日本の政策の蓄積を十全に活かしたユニークな貢献が期待できま す。 OEWG は、日本政府が、すでに平均年齢が 80 歳を超えた被爆者の悲願に応えるための 回答を準備する場ともなるでしょう。日本が積極的に関与し議論に加わることによって、 会議の成果の正統性と説得力が高められることを、国際社会は期待しています。 (2)「核軍縮を実現するための具体的で効果的な法的措置」を幅広く理解し、議論に加わっ てください 核兵器を禁止する直接的な法的枠組みが存在しない現状を、核兵器保有国は「核兵器は 合法的である」ことの証左であるかのようにとらえ、禁止のための議論を回避しています。 第 1 マンデートにおける「具体的で効果的な法的措置」には、適切に改訂されるならば、 13 年に日本が提案した「ビルディング・ブロック」アプローチも含まれます。是非、「具 体的で効果的な法的措置」の概念を幅広く理解して議論に参加してください。世界から集 まる NGO、市民、専門家の意見に耳を傾けてください。 (3) 13 年「ビルディング・ブロック」アプローチ作業文書を生かすとすれば、今回の OEWG の目的にそって改訂し、提案してください 13 年 OEWG に、日本がオーストラリア、ベルギーなど 11 か国とともに提出した作業文 書「核兵器のない世界に向けたビルディング・ブロック」(2013 年 6 月 27 日)は、兵器 用核分裂性物質の禁止、CTBT 発効、核実験モラトリアム、核兵器保有国による消極的安 全保証等、核兵器の総数の削減、安全保障における核兵器の役割の低減、さらには非核兵 器地帯の強化・新設などを例示しながら、「必要性も可能性もある」行動を列挙していま す。この文書を生かすとすれば、今回の OEWG の目的にそって改訂し、提案してください。 改訂にあたっては、例えば次の事項に留意してください: ①ベンチマークや時間軸を明示すること。「中間的目標」であっても時間軸への言及 が必要と思われます。たとえば、核兵器の総数の削減においてそれが求められます。 ②「非核兵器地帯の強化」の項目には、「北東アジア非核兵器地帯の設立」が明記さ れるべきです。 ③「核兵器の役割の低減」は、②との関連において日本自身が核兵器依存から脱する 誓約と行動によって裏うちされるべきです。 4 現状のままの「作業文書」では、「ステップ・バイ・ステップ(漸進的)アプローチ」 と同様に、核保有国などによる現状維持のための口実になりかねません。 (4) 諸提案を同時並行に追求することを許す合意形成をリードしてください 先に示した「法的枠組み」の 5 つのオプションは、いずれも現段階では、その態様に関 する確定的な共通認識は存在しません。したがって、OEWG には、特定のオプションを排 他的に採用するよりもむしろ、議論を通して各オプションの整理が進み、理解が深まり、 より良い提案になってゆくことを促進する役割が期待されます。 ベンチマークや時間軸によって補強・改訂された日本の「ビルディング・ブロック」作 業文書はその材料の一つとなりうるでしょう。 (5) 日本自らが核兵器依存から脱却する方向を明確にし、その立場からの発言や貢献を行っ てください 補強・改訂された「ビルディング・ブロック」作業文書の提案を含め、OEWG における 日本の主張が、信頼性と説得力を持つためには、日本自身が核兵器に依存しない安全保障 政策に転換する準備に入るとの誓約が、OEWG において示されることが必要です。 第 70 回国連総会で採択された日本提案の決議「核兵器完全廃棄に向けた新たな決意のも とでの団結した行動」(A/RES/70/40)の主文第 10 節は次のようにいっています。「関係 する加盟国が、核兵器の役割の重要性や一層の低減のために、軍事・安全保障上の概念、 ドクトリン、政策を継続的に見直していくことを求める。」 日本が、OEWG において自らこの見直し過程を断固として進めると表明し、その立場か らの発言や貢献を行えば、同じように核兵器に依存している他の国々に大きな勇気を与え、 核兵器に依存しない国々は日本の発言に対する信頼を高めるでしょう。 北東アジア非核兵器地帯構想の協議を呼びかけることは、その具体的な一歩になるでし ょう。 以上 5 〔別添〕 【表】 核兵器禁止・廃棄の法的枠組みの諸オプション(ピースデポ作成) オプション 概要 利点と課題 1. 【核兵器の使用及び保有を禁止し、 廃棄するた 核兵器禁止条約 めに必要な諸要素を規定した包括的な条約】 (Nuclear Weapons Convention: NWC) ●「包括的核兵器禁止条約」 とも呼ばれる。 現在の 「モデル核兵器禁止条約」 は、 NGOが起草し、 2007年のNPT準備委員会及び国連総会に、 コス タリカ及びマレーシアが公式文書として提出。 ● モデル核兵器禁止条約 (NWC) は、 以下の要素等を 含んでいる。 一般的義務 (核兵器の開発、 実験、 生産、 備蓄、 移転、 使用及び使用の威嚇を禁止) /段階的廃棄プロセス /検証/条約履行のための機関設置/核物質の国 際管理 ● 2. 【NWCに含まれるべき一部である 「核兵器の使 簡易型 用及び保有」 を先行的に禁止する条約】 核兵器禁止条約 (Nuclear Weapons Ban Treaty: NWBTまたはBan Treaty) 廃棄プロセスや検証に関する条項は盛り込まず、 他 の法的文書によって追加的に補完することを想定 する。 ● ● ●1997年以降、 マレーシア提出のNWC交渉 開始を求める国連総会決議が、 毎年賛成多 数で採択されている。 2009年、 潘基文国連事務総長はいわゆる 「5項目提案」 の中で、 NWCを法的枠組み交 渉のための 「良い出発点」 とした。 ● ● 核保有国は参加拒否の可能性が高い。 交渉に多くの年月がかかるという意見も あるが、 使用禁止だけを先に発効させる作 り方も可能。 ● 非核保有国が主導し、 核兵器の非正統化・違 法化を速やかに実現する意図があるが、 加 盟国が少ないとそうならない。 ● 非核保有国の先行によって、 核保有国との 対立をより深刻化させる懸念がある。 ● 核兵器廃絶国際キャンペーン (ICAN) が推進。 ●「核兵器の使用禁止」 のみを先行的に条約化する案 もある。 3. 「枠組み合意」 アプローチ (A Framework Agreement Approach) 【複数の法的文書(条約、協定、議定書など)に よって、核兵器の禁止・廃棄の法的枠組みとして 機能させるアプローチ】 ある種のNWCやある種のNWBTをこの枠組みの 一部分として含める作り方も可能。 ● ●「気候変動枠組み条約」 と 「京都議定書」 のように、 大枠を括る条約を先に締結し、 その後に詳細に関す る議定書等の文書を交渉し採択していく 「枠組み条 約」 方式もある。 4. 【全体を括る法的枠組みを作らず、 法的文書や 「ビルディング・ 諸措置を積み上げ、 漸進的に核兵器の禁止・廃 ブロック」 棄を目指すアプローチ】 アプローチ (Building Blocks Approach) 核軍縮に関する国連公開作業部会 (OEWG) 作業文 (オーストラリア、 ベルギー、 カナダ、 フィンラ 書で提案。 ● ンド、 ドイツ、 イタリア、 日本、 オランダ、 ポーランド、 ポル トガル、 スロバキア、 スウェーデン、 2013年6月) 様々な分野で先例がある。 5つの議定書を 持つ1980年の 「特定通常兵器使用禁止制 限条約 (CCW) 」 は参考になる。 ● 範囲と設計に関する標準的な様式は存在 しない。 ● 国連事務総長が 「複数の法的文書の枠組み」 と言及した重みがある。 ● NWCを1つの枠組みとして作ることも可 能。 ● ● 核保有国の関与を継続させる狙い。 核保有国や核兵器依存国が繰り返し主張 してきた 「ステップ・バイ・ステップ」 (漸進 的) アプローチと同様に、 核保有国と依存国 による核兵器維持のための口実となりかね ない。 ● 法的枠組みを最終局面における 「ビルディング・ブ ロック」 の1つと考える。 ● 5. 混合型 組み合わせ (A Hybrid Arrangement ) NAC作業文書が言及。 上記1~3から個別要素を抽 出し、 それらを組み合わせ、 あるいは新たな要素を 追加した法的文書。 ● 以下の諸文献を参考に作成した。 ● 新アジェンダ連合 (NAC)作業文書(2015年核不拡散条約(NPT)再検討会議第3回準備委員会、14年4月) (本誌第451号に抜粋訳) ● 中堅国家構想 (MPI) 「A Beacon of Hope(希望へつながる道)」 (ブリーフィング・ペーパー、ジョン・バローズ著、14年9月) (本誌第463-4号に全訳) ● 核軍縮に関する国連公開作業部会 (OEWG)作業文書「核兵器のない世界に向けたビルディング・ブロック」 (オーストラリア、ベルギー、 カナダ、フィンランド、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スウェーデンによる提出。13年6月) ● トゥリーサ・ダンワース「核軍縮に関する効果的な諸措置」 (ディスカッション・ペーパー、14年10月) ● アラン・ウェア 「トゥリーサ・ダンワースによるディスカッション・ペーパーへの反応」 (ディスカッション・ペーパー、15年1月) ● 核兵器廃絶国際キャンペーン (ICAN) 「今こそ核兵器禁止を」 (パンフレット、13年6月) 1996年4月23日第三種郵便物認可 毎月2回1日、 15日発行 3 核兵器・核実験モニター 第465号 2015年2月1日