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シャーガス病治療薬候補物質、 新規キノン誘導体の既存薬との併用効果
シャーガス病治療薬候補物質、 新規キノン誘導体の既存薬との併用効果 群馬大学大学院保健学研究科 生体情報検査科学領域 教授 嶋田 淳子 1 顧みられない熱帯病 (neglected tropical diseases) ・熱帯地域、貧困層を中心に蔓延している寄生虫、細菌感染症 ・全世界で10億人以上がおびやかされている ・WHOは17の疾患を指定し、この中にトリパノソーマ科原虫による 3疾患(シャーガス病、アフリカ睡眠病、リーシュマニア症)が 含まれている シャーガス病とは ・寄生原虫の南米型トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi )が病原体 ・全世界で約800万人が感染 ・主に中南米に多いが、近年アメリカ合衆国でも流行 ・我が国では輸入寄生虫症として重要 2 南米型トリパノソーマ (Trypanosoma cruzi ) とは ・シャーガス病をおこす寄生原虫で、複雑な生活環をもつ ・サシガメという吸血昆虫に刺されると感染する ・ヒト血液中を鞭毛を使って泳ぎ、心臓の筋肉や神経細胞内で増殖する ・感染後数年~十数年を経て、心筋炎、心肥大、巨大食道、巨大結腸などの症状をおこし死亡する 血流型トリパノソーマ 細胞内型トリパノソーマ サシガメ 南米型トリパノソーマの生活環 3 シャーガス病の臨床症状 急性期 ・ 血液中に多数の血流型虫体が循環して いる ・ 片側の眼瞼周辺に浮腫が出現する ・ 高熱、リンパ節炎、肝脾腫大がみられる 血液中の血流型虫体 片側の眼瞼浮腫 慢性期 ・ 心筋や消化管筋組織に細胞内型虫体が 存在する ・ 心筋炎、心肥大、巨大食道、巨大結腸が みられる ・ 心不全によって死亡する 心肥大 巨大食道 巨大結腸 写真 : Rassi A Jr. (2010) : Lancet. 375, 1388-1402. 4 シャーガス病の既存薬 • ベンズニダゾール(BZL) • ニフルチモックス(NFX) NFX BZL • 活性酸素を放出することにより、抗原虫作用を示す • 副作用が強い • 長期間(60~90日)連続して投与する必要がある • 細胞内原虫(amastigote)に効かないため、慢性期に効果がない 5 天然物コマロビキノン ウズベキスタンのシソ科ムシャリンドウ属の 植物から抽出された化合物。 キノン型ジテルペン構造を有し、南米型 トリパノソーマに対して殺原虫効果がある。 コマロビキノン 虫体への効果および細胞毒性 (M) コマロビキノン ニフルチモックス ベンズニダゾール 昆虫体内型(epimastigotes) 1.0 10.0 30.0 血流型虫体(trypomastigotes) 0.009 宿主細胞(HeLa細胞)への感染 0.009 0.3 1.7 HeLa 細胞の増殖 20.0 103.0 >100 KB 3-1 細胞の増殖 17.0 選択毒性 2.222 343 >59 6 1. キノン誘導体 コマロビキノン GTN004 GTN001 GTN005 GTN002 GTN006 GTN003 GTN007 ⇒キノン骨格をもつ化合物に抗トリパノソーマ効果が見られた 7 2. 新規キノン誘導体 8 3.薬剤開発のためのスクリーニング法 • 血流型虫体(trypomastigote)を用いたアッセイ系 • 培養細胞を宿主としたin vitroアッセイ系 宿主細胞への感染率、 細胞内型虫体(amastigote)の増殖を測定できる • マウスを用いたin vivoアッセイ系 trypomastigote amastigote 3 days Host cell (HT1080) 9 4. T. cruzi の感染率、細胞内型虫体増殖 に対するキノン誘導体の効果 IC50 (M) LD50 (M) 血流型虫体 細胞への感染 細胞内型虫体 細胞毒性 BZL 6.8 1.7 1.75 >100 komaroviquinone 0.25 0.28 0.23 91 GTN019 >10 5.2 3.8 >100 GTN020 9.8 2.3 1.45 >100 GTN022 0.3 0.34 0.55 >100 GTN024 0.54 0.32 0.16 >100 ⇒GTN024、GTN022は既存薬ベンズニダゾール(BZL)より 強い抗トリパノソーマ作用を示し、毒性は低かった 10 5. マウスに対するキノン誘導体の効果 Day 10 Day 0 BZL, GTN022 or GTN024 (10 mg/kg) , i.p. Day 13 血液中虫体数測定 ⇒既存薬BZLと同等の抗トリパノソー マ作用をもつ化合物が見つかった マウス血液中虫体数 ( x 103 cells/ml) T. cruzi 20 16 12 8 4 * * 0 11 Trypomastigotes ( x 105 cells/ml) 6.血流型トリパノソーマに対するGTN024とBZLの併用効果 40 30 20 10 0 10 1 0.1 10 1 0.1 10 1 0.1 10 1 0.1 M BZL GTN024 BZL+ GTN024 (1 M) BZL+ GTN024 (0.1 M) ⇒GTN024を併用することにより、既存薬BZLは低濃度で抗トリパノ ソーマ作用を示した 12 7. BZLおよびGTN024による活性酸素種産生 T. cruzi血流型虫体 HT1080細胞 Fluorescence intensity (RFU) 60 50 40 30 20 10 0 50 10 BZL 50 10 50 10 GTN024 100 M H2O2 ⇒既存薬BZL、GTN024は、宿主細胞および血流型虫体で活性酸素 種を産生した 13 8. BZLおよびGTN024によるミトコンドリア膜電位変化 ⇒既存薬BZL添加ではミトコンドリア膜電位が変化しないが、GTN024 では、宿主細胞および血流型虫体で膜電位が減少した 14 9. BZLおよびGTN024の細胞内虫体に対する作用 ⇒既存薬BZLを原虫感染24h後に添加した場合は、細胞内原虫の増 殖抑制作用が減弱したが、GTN024では、抑制作用が維持された 15 6. 今後の計画 1) GTN024をもとにした構造活性相関 2) Drug‐like 化合物の創製(最適化の継続) ・SARの更なる構築(新規誘導体の合成・抗トリパノソーマ作用の検討) ・候補化合物のセレクション(新規骨格等が見出されれば新規特許の取得) ・薬物動態に関する情報収集及び更なる改善 ・毒性試験(急性・慢性毒性について)/安全性試験等に関する情報収集 ・投与方法(経口投与の検討) 16 従来技術とその問題点 シャーガス病の既存薬は、ベンズニダゾール、 ニフルチモックスの2種類しかなく、 有効性が低い 長期投与が必要である 副作用が強い 慢性期の病態に効果がない 等の問題があり、新規薬剤が望まれている。 17 新規化合物の特徴・既存薬との比較 • 新規治療薬候補リード化合物GTN024を見出すこと に成功した。 • GTN024は南米型トリパノソーマのin vitroおよびin vivoアッセイで既存薬と同等もしくはそれ以上の効果 が見られた。 • GTN024は、活性酸素種を産生する点は既存薬と同 じであるが、ミトコンドリアの膜電位が減少した。 • GTN024は、細胞内型虫体の増殖抑制効果が強く、 既存薬と作用機構が異なると考え られ、既存薬との併用が期待される。 GTN024 18 想定される用途 • 本リード化合物の化学構造をさらに最適化し、 シャーガス病治療薬開発につなげる。 • 上記以外に、アフリカトリパノソーマ原虫により 引き起こされるアフリカ睡眠病に対する効果 が得られることも期待される。 • また、達成されたリード化合物に着目し、同じ トリパノソーマ科原虫疾患であるリーシュマニ ア症の治療薬開発に展開することも可能と思 われる。 19 実用化に向けた課題 • 現在、リード化合物のin vitroおよびin vivoに おける有効性が実証された。しかし、薬物動 態、安全性試験の点が未解決である。 • 今後、さらにキノン誘導体を合成し、有効性に 関する実験データを取得し、シャーガス病治 療薬に適用していく場合の条件設定を行って いく。 • 実用化に向けて、経口投与の可能性を検討 する必要もあり。 20 企業への期待 • 未解決の薬物動態および安全性試験につい ては、製薬企業の技術により克服できると考 えている。 • 創薬の技術を持つ、企業との共同研究を希望。 • また、感染症に対する薬剤を開発中の企業、 感染症分野のグローバルな展開を考えている 企業には、本技術の導入が有効と思われる。 21 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :新規キノン誘導体およびそれ を有効成分とする抗トリパノソーマ剤 • 出願番号 :特願2015-108983 • 出願人 :群馬大学、高崎健康福祉大 • 発明者 :嶋田淳子、岩崎源司、須藤豊 22 産学連携の経歴 ・ 2013年-2014年 JST 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プロ グラム (A-STEP) フィージビリティスタディ・ステージ 探索タイプに採択 ・ 2014年-2015年 JST 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プロ グラム (A-STEP) フィージビリティスタディ・ステージ 探索タイプに採択 23 お問い合わせ先(必須) 群馬大学 研究・産学連携戦略推進機構 知的財産コーディネーター 早川 晃一 TEL 027-220- 8113 FAX 027-220- 8114 e-mail k-hayakawa@gunma-u.ac.jp 24