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平成 26 年度 非エネルギー起源温暖化対策海外貢献事業

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平成 26 年度 非エネルギー起源温暖化対策海外貢献事業
平成 26 年度 経済産業省委託事業
平成 26 年度
非エネルギー起源温暖化対策海外貢献事業
(途上国における森林の減少・劣化の防止等への
我が国企業の貢献可視化に向けた実現可能性調査事業)
「ジャンビ州荒廃泥炭地管理による二国間クレジットREDD+
プロジェクト実現可能性調査」
報 告 書
平成 27 年 3 月
清水建設株式会社
目
次
1. 事業目的 ...........................................................................................................................1
2. FS の背景 ..........................................................................................................................2
3. プロジェクトの概要 ........................................................................................................3
4. FS 実施内容 .......................................................................................................................5
5.
FS実施体制 .......................................................................................................................6
6.
FS結果:MRV方法論の構築 ..........................................................................................6
6.1 既存方法論と本方法論構築のプロセス....................................................................6
6.2 方法論のサマリー........................................................................................................6
6.3 定義...............................................................................................................................6
6.4 方法論適用の適格性要件............................................................................................6
6.5 リファレンスシナリオ及びバウンダリーの設定...................................................6
6.6 モニタリング手法.......................................................................................................6
6.7 方法論「荒廃泥炭地における水位管理による泥炭分解の抑制」........................6
6.8 排出削減量評価............................................................................................................6
7.
FS の結果:方法論のモニタリングツールとその開発 ................................................. 7
7.1
モニタリング手法の開発 ......................................................................................... 18
7.2
モニタリング項目 ..................................................................................................... 19
7.3
モニタリングツール ................................................................................................. 21
7.3.1 水理地形単位 ............................................................................................................. 21
7.3.2 降水量 ......................................................................................................................... 21
7.3.3 気温 ............................................................................................................................. 22
7.3.4 地形 ............................................................................................................................. 23
7.3.5 土地利用・被覆 ......................................................................................................... 24
7.3.6 水門・水路 ................................................................................................................. 25
7.3.7 地下水位 ..................................................................................................................... 26
7.3.8 泥炭深 ......................................................................................................................... 45
7.3.9 排出係数 ..................................................................................................................... 46
7.3.10 将来性の有るツール ............................................................................................... 46
8.
FS の結果:事業サイトにおけるモニタリングと排出削減量評価 ........................... 52
8.1
対象領域 ..................................................................................................................... 52
8.2
モニタリング ............................................................................................................. 52
8.2.1 水理地形単位 ............................................................................................................. 52
8.2.2 降水量 ......................................................................................................................... 53
8.2.3 気温 ............................................................................................................................. 54
8.2.4 地形 ............................................................................................................................. 54
8.2.5 土地利用・被覆 ......................................................................................................... 56
8.2.6 水門・水路 ................................................................................................................. 58
8.2.7 地下水位 ..................................................................................................................... 59
8.2.8 泥炭深 ......................................................................................................................... 62
2
8.2.9 排出係数 ..................................................................................................................... 63
9. FS 結果: 対象国・プロジェクト対象地域の気候変動を巡る情勢、政策等の概況 ....64
9.1 対象国の気候変動を巡る情勢
9.2 泥炭地管理に関する情勢・政策等
9.3 プロジェクト対象地域における気候変動情勢・政策等
10. FS 結果: プロジェクトの協力体制、ファイナンスその他の環境整備 .....................71
10.1 プロジェクトの具体的協力可能性
10.2 プロジェクトの実現に必要なファイナンス
11. FS 結果: プロジェクトを通じて得られる経済的効果とその他の効果 .....................74
参考文献 ………………………………………………………………………………………78
3
1.
事業目的:
我が国は、気候変動問題の解決に向け、海外での温室効果ガス排出削減に貢献でき
る優れた技術や製品を多く持っている。しかし、現在これらの技術や製品の普及等を
通じた途上国での貢献を唯一制度的に後押しする「クリーン開発メカニズム(CD
M)」は、我が国が得意とする低炭素技術(省エネルギー技術、新エネルギー技術、
高効率石炭火力等)に対する適用が比較的少ない状況にある。また、難易度の高い手
続を要することや審査プロセスが複雑であること等から、中小規模の途上国にとって
は活用が難しいものとなっており我が国が低炭素技術・製品を通じて途上国において
広く貢献していくことを後押しするには不十分な状況にある。
そこで、日本国政府は、我が国が世界に誇る低炭素技術・製品の途上国への普及等
を積極的に推進して、世界規模での地球温暖化対策を進めていくため、CDMを補完
する制度として、
「二国間クレジット制度(JCM)」の構築を行っている。
JCMは、既に、アジアやアフリカ諸国との間で制度に関する二国間文書に署名し
(2014 年 12 月時点でモンゴル、バングラディシュ、エチオピア、ケニア、モルディ
ブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ
の 12 ヶ国と調印)
、そのうち数カ国との間で具体的な運用を開始しており、JCMと
我が国の低炭素技術の普及に期待が寄せられている。JCMの署名国からのREDD
+に対する関心も高く、JCMにおいてREDD+分野に関するプロジェクトを行う
ことは、世界をリードする取組となることが期待される。
本調査は、インドネシア共和国におけるREDD+分野に関するプロジェクトの具
体的協力可能性、プロジェクトを実施した場合に適用可能な排出削減方法論の検討、
プロジェクト実施に向けたファイナンス面その他の環境整備のあり方等について調
査することにより、REDD+分野における我が国企業の貢献可能性を可視化するこ
とを目的とする。
4
2.
本実現可能性調査の背景
インドネシアは世界最大の熱帯泥炭賦存国(25万km2の80%以上)であるが、こ
れまでに森林伐採が進み農業目的で排水が行われてきている。水位低下に伴う泥炭の
乾燥化による好気性分解と泥炭火災が発生し、日本の排出量に匹敵するCO2が排出
されている。
プロジェクトサイトであるジャンビ州東タンジュンジャブン県のベルバックデル
タは(下図参照)、1970年代に森林伐採が行われ、1980年代に稲作農地整備
の目的で、水路・水門がインドネシア政府公共事業省、同農業省により整備された。
その後の維持管理が不十分であるために泥炭低地の荒廃が進み、乾季の水位低下に
伴う泥炭の好気性分解が進んでいる。水管理の不十分さにより乾季の水位低下が起こ
り、泥炭層の好気性分解が進み、それに伴いCO2が排出されている。
同時に、泥炭層の分解は土地の沈下を引き起こしており、年間2~4cmの割合で
沈下が進んでいるため、沿岸低地の雨季の洪水状態がひどくなり、国家的対策が急務
である。
また、適切な水管理(水路・水門の整備と運用)が行われていないために、乾季の
水位低下に伴う乾季の稲作不実施、雨季の洪水状態による低生産性により現状は1~
2トン/haという低収量であり、農民の生活は貧しく、水位管理によりこれを改善
する必要性がある。インドネシアは年間200万トン前後のコメを輸入しており、食
糧安全保障上からも生産性の向上が必須である。
図2.1
プロジェクトサイト
(スマトラ島ジャンビ州東タンジュンジャブン県の農業用地)
5
3.
プロジェクトの概要
インドネシア・ジャンビ州において、既存水門改良や水路整備などの水位管理によ
って地下水位を回復させ、人工排水により乾燥した泥炭の好気性分解を抑制し、CO2
排出を削減する。また、地下水位回復により稲作の収穫量増加が期待され、それによ
ってもたらされる籾殻発生増加に応じて、籾殻を活用したバイオマス燃料利用の稲乾
燥機を導入し、さらなる温室効果ガス排出削減を図る(下図参照)。
当該事業カウンターパートは公共事業省であり、対象エリアはスマトラ島ジャンビ
州の東タンジュンジャブン地方の20,000ha程度を想定、排出削減量は40万tCO2/年程度
と推算される。環境汚染対策効果としては、泥炭火災の抑制による大気質改善が挙げ
られる。
Before
CO2 emissions by peat decomposition
drainage
Dry peat
After
Biomass
Water
control
=
Rice
husk
Rice yield
increase
Emissions reductions by water table increase
ash
Water table
increase
図2.2
4.
Water
gate
Peat in Groundwater
Drying facility
プロジェクト活動のイメージ図
実現可能性調査の内容:
本調査は、プロジェクトサイトであるスマトラ島ジャンビ州東タンジュンジャブン
県のベルバックデルタを対象に実施する。サイトは荒廃泥炭農地であり、適切な水管
理により、泥炭の分解抑制による排出削減と、稲作収量増加を行うことが重要である。
そこで本調査は、プロジェクト実施に必要となる方法論の構築および実施体制整備
に向けて、以下の項目の調査・検討を実施した。
(1) モニタリング手法の開発、排出削減方法論の検討
1)モニタリング手法の開発
6
2)サイトモニタリング
3)排出削減方法論構築と削減見込量の試算
(2) 対象国及び当該プロジェクトが対象とする地域等の気候変動を巡る情勢、政
策等の概況(特にREDD+)の把握
1)対象国の気候変動を巡る情勢の把握
2)プロジェクト対象地域における気候変動情勢・政策等の把握
3)泥炭地管理に関する情勢・政策等の把握
(3) プロジェクトの具体的協力可能性及びその実現に必要なファイナンスその他
の環境整備に関する検討
1)プロジェクトの具体的協力可能性の検討
2)プロジェクトの実現に必要なファイナンスに関する検討
(4) プロジェクトを通じて得られる経済的効果とその他の効果に関する検討
5.
実現可能性調査の実施体制
清水建設が以下の機関の協力を得て調査を実施した。
 東京大学・生産技術研究所: 竹内渉准教授の研究室により、衛星気象デー
タ処理、それを利用した地下水位・沈下量・稲作収量の解析を行った。
 地圏環境テクノロジー: 計測・衛星データに基づいて調整した水理モデル
を用いて地下水位変動を計算し、方法論への適用性を検討した。
 プリマラヤ地質コンサルタント(ジャンビ大学関係者)
: サイトにおける水
位計測(手動、ロガー)、雨量計測、沈下量計測を行った。
 スリウィジャヤ大学: サイトにおいて、稲作と水位管理、農民組織、関係
組織連携に関して検討を行った。
調査実施体制を下図に示す。
協力
清水建設
外注
カウンターパート
尼・公共事業省
東京大学生産技術研
究所
尼・農業省
ジャンビ州・東タンジュンジャブン県
地圏環境テクノロジー
プリマラヤ地質コンサ
ルタント(ジャンビ大学)
スリウィジャヤ大学
図 5.1
調査実施体制
7
6. FS 結果 : 熱帯荒廃泥炭地における排出削減プロジェクトのための方法論
当事業・活動では、以下の方法により GHG の排出削減を行う。削減量を定量化す
るための方法論は、平成 24 年度に構築した
「熱帯泥炭の再湿化方法論 Draft version 3.0」
(環境省委託事業)をベースに、衛星データ解析を取り込み効率化を図ると共に、3
年間継続して得られているモニタリングデータを使用して、モニタリング項目の精度
の設定と検証を行い、より合理的で適用性の高いものとした。
6.1 既存方法論と本方法論構築のプロセス
本FSにおける方法論構築において、主に参照した方法論およびガイドラインは以下
の通りである。
荒廃熱帯泥炭地における排出削減量を評価するためのCDM方法論は存在しない。国連
レベルでは、熱帯泥炭地を含むWetlandsにおける温室効果ガス排出量の定量化に関し
て、2006年のIPCCガイドラインの補足ガイドラインが2014年に報告されている。本調
査において開発した方法論では、このIPCCガイドラインを参照している。
2013 Supplement to the 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories:
Wetlands
一方,VCS(Verified Carbon Standard)では,熱帯泥炭の再湿潤化によるGHGs排出量削
減の方法論が承認されており、本FSにおける方法論構築において参照した。ただし、
この方法論は農地を対象にしていないため、本プロジェクトが対象とするような、農
地として用いられている泥炭地における排出量削減活動には適用できない。
VM0027, Methodology for Rewetting Drained Tropical Peatlands, Version 1.0, 10 July
2014
VM0027は、2011年11月に公開されパブリックコメントを受付し、2nd assessmentを経て、
2014年7月に承認されている。一方、本FSにおける方法論は,2011年度調査において
モニタリング技術の検討を開始し、2012年度のFSにおいてその第一版を作成した
(http://gec.jp/main.nsf/jp/Activities-GHGmitimecha-FS2012_jcmfs-05)。
本FSにおける方法論とVM0027は、ほぼ同時期に検討が進められたものであるが,水
位を泥炭からの排出量の指標(proxy)として採用し、水位データから排出量を算定
する考え方に共通点がある。ただし、同方法論は農地を対象にしていないため、本FS
で対象とする泥炭地には適用できない。
また、VCSにおいてベラルーシを主な対象地として泥炭地の再湿化プロジェクトにお
ける排出削減量を評価するための新しい方法論 ”Baseline and Monitoring Methodology
for the Rewetting of Drained Peatlands used for Peat Extraction, Forestry or Agriculture” が
提案されており、現在Second Assessmentの段階である。この方法論は、AFOLU
(Agriculture, Forestry, and Other Land Use)分野のものであり、農地も対象にしている
が、窒素肥料を使わないことを適用条件にしており、したがってN2Oの排出は対象に
していない。地表面の植生と水位を排出算定量の指標(proxy)として採用する手法を用
い(GESTs =GHG Emission Site Types) 、沈下量などに基づいた泥炭ストック量の評価
は行わないやり方である。ただし、この方法論は温帯地方のみを対象にしている。
次節以降では、これまでに構築した方法論version 3.0をベースに、実際のプロジェ
8
クトへの適用を念頭に置いて、地下水位のモデル化、衛星データの利用方法等に関し
てより詳細な検討を進めた結果を反映した方法論を記述する。
なお、この方法論をJCM事業の実施に当たり適用する場合は、JCM二国間委員会にて
認証を受ける必要がある。
6.2 方法論のサマリー
熱帯泥炭の再湿化方法論:この方法論は、インドネシアの森林伐採が行われた荒廃
泥炭地において、水門と水路による水管理を行い地下水位を上昇させ、泥炭層を再湿
化することにより泥炭の分解を抑制し、GHG の発生を削減することを目的にする事
業において、排出削減量を定量化するための方法論である。排出量の定量化には、地
下水位を指標として用いる。当該事業のリファレンスシナリオは、現状維持、すなわ
ち事業が無ければ、荒廃泥炭地の再湿化は行われないものとする。事業サイトは稲作
農地を含むことができる。稲作に伴う排出量は、インドネシアの単位面積当たりの稲
作目標生産量を超えた場合に評価するものとし、CH4, N2O 等の関連する GHG に関し
ても評価する。
6.3 定義
泥炭地: 部分的に分解した有機物(灰分35%以下、炭素重量12%以上)で深さが50cm
以上のエリア*
6.4 方法論適用の適格性要件
本方法論は、以下の要件をすべて満たすことができるプロジェクトに適用することが
できる。
1

2014年1月1日以前に人工的な排水が実施されている熱帯泥炭地帯において、技
術的な方法(排水路への水門の設置など)によって地下水位の上昇を引き起こ
し、乾燥化が進む泥炭を再湿地化するプロジェクトであること。

プロジェクトサイトは、インドネシア共和国の海抜100m以下の熱帯泥炭地帯に
位置していること。また、泥炭の厚さは平均で地表面から0.3m以上の厚さがあ
ること*。

プロジェクトエリアは、単数あるいは複数の完結した流域を含んでいること。
また、プロジェクトエリアは、プロジェクト境界の外側に位置する泥炭地との
間に水文学的に関係性がない範囲となっているか、あるいは仮に関係性があっ
ても、地域環境や地域住民に負の影響を及ぼさないこと。

プロジェクトエリア内の泥炭地が排水によって影響を受けていることを示せる
こと(例えば、地下水位や泥炭の沈下量を示すデータ)。

プロジェクト実施時に,リファレンス水位が、水理モデルにより評価が可能で
あること。また、プロジェクト実施中に,地下水位が計測値あるいは水理モデ
ルにより評価が可能であること。

プロジェクトの実施が新たな自然破壊を引き起こさないこと。
Policy Memo: Peatland Definition Form Uncertainty to Certainty, 2012.08, Indonesia Climate Change Center
9
6.5 リファレンスシナリオ及びバウンダリーの設定
リファレンスシナリオの設定
インドネシア共和国内では、低標高地域の熱帯泥炭の重要性は認識されており、国
家排出削減目標に盛り込まれているものの、その対策のための法整備はされておら
ず、既開発泥炭地における水位管理は行われていない。また、パーム農園やパルプ農
園の開発のための泥炭地の開発も進んでいる。
当該サイトにおいても、泥炭地管理は全く行われていないため、当該事業のリファ
レンスシナリオは現状維持、すなわち水位回復が行われない状態を基準と考える。し
たがって、地下水位回復による泥炭好気性分解抑制による削減量による削減量がプロ
ジェクトによる排出削減量であるという設定である。
以上は、CDM的な考え方であるが、ホスト国関係者と協議を行い、事業開始前に対
策が行われていない地域で削減活動を行う場合もあると考えられる。その場合には、
仮に法的には泥炭地管理が行われるべきサイトにおいても、上記と同様のリファレン
スシナリオを設定できるものとするのが、排出削減活動を促進するためには合理的で
あると考える。
プロジェクトバウンダリの設定
1) 地理的な境界
プロジェクトの地理的な境界は、独立した1つ以上の流域範囲であり、個々の流域
は、他の流域の泥炭地と水文学的に独立していること。流域は地形特性等に基づき設
定され、電子地形情報等を用いて明確にされるものとする。
2) 対象とするGHG
対象とするGHGカーボンプール及びGHGは、表に示すとおりである。
カーボンプール
地上部の樹木バイオマス
地上部の樹木以外バイオマス
地下部(根等)のバイオマス
リター
枯死木
土壌
対象
No
No
No
No
No
Yes
No
木材製品
排出源
リファレン
スシナリオ
プロジェク
ト実施後
泥炭の好気
性分解
泥炭の嫌気
性分解
泥炭の好気
性分解
稲作増産に
GHG
対象
CO2
Yes
N2O
No
CH4
No
CO2
Yes
N2O
Yes
理由/説明
保守的にみて考慮しない
保守的にみて考慮しない
保守的にみて考慮しない
保守的にみて考慮しない
保守的にみて考慮しない
プロジェクト活動によって作用を受けるメインプー
ルである。
保守的にみて考慮しない
理由/説明
リファレンス排出量は、メイン排出源及びガスであ
る。
リファレンス排出量の方がプロジェクト排出量よ
りも多いため、保守的にみて考慮しない。
排水された泥炭地では無視できる。CH4 は排水路の
中から生じるが、保守的にみて考慮しない。
プロジェクト活動によって作用を受けるメイン排
出源及びガスである。
国の政策の稲作目標生産量(2004-2014 は 3 ton/ha,
10
伴 う GHGs
発生
水位上昇と
稲作増産に
伴 う GHGs
発生
CH4
Yes
2015-2019 は 4 ton/ha, 2020 以降は 4-6 ton/ha)以下
の場合には考慮しない。実際の生産量が目標値を超
えた場合には、インドネシア政府設定のデフォルト
値を用いて計算する。それが無い場合には、IPCC
ガイドラインに沿って評価する。
泥炭の再湿化に伴う CH4 の排出量は、1t-CO2/ha/y
程度で、CO2 発生量に比べて小さいため考慮しな
い。
稲作に伴う CH4 発生は、国の政策の稲作目標生産
量(2004-2014 は 3 ton/ha, 2015-2019 は 4 ton/ha, 2020
以降は 4-6 ton/ha)以下の場合には考慮しない。実
際の生産量が目標値を超えた場合には、インドネシ
ア政府設定のデフォルト値を用いて計算する。それ
が無い場合には、IPCC ガイドラインに沿って評価
する。
6.6 モニタリング手法
下記のパラメータのモニタリングを行う。モニタリングの具体的な手法、求められ
る頻度、精度等に関しては、7章に記載する。
パラメータ
Ai
RWTi
内容
地下水位と泥炭深が均質
とみなせる地形単位(プロ
ット)
事業実施がない場合の年
間平均水位
(リファレンス水位)
PWTi
プロジェクト実施時の年
間平均水位(プロジェクト
水位)
DPi
プロジェクト開始時のプ
ロットにおける平均泥炭
深
各プロットにおける削減
量のクレーム期間の上限
T limiti
測定方法等
事業開始時に衛星データあるいは測量にて決定し、
1 年毎に変化のある場合には更新する。
事業実施前に、水位低下が地表面から 50cm 以上の
データを含む、最低一年間のモニタリングを行い、
水理モデルによる再現性を確認すること。
事業開始以降は、対象年毎に当該年の気象データを
用いて水理モデルで算定する。あるいは、事業実施
による水管理の影響を受けない場所に、リファレン
ス水位計測点を保存して、その妥当性を水理モデル
により検証した上で用いる。
対象年毎に計測データより求める、あるいは水理モ
デルで算定し、代表点での計測値で検証する。水理
モデル算定値と計測値との差が最少となるように、
モデルパラメータの最適化を行ったうえで計算を
行うものとする。
各プロット毎に、事業実施前に計測しておく。
各プロットの泥炭深、泥炭密度、炭素量から求めら
れる、炭素賦存量を CO2 に換算し、その値を事業
実施時に発生する CO2 量の積算が超えた場合には、
泥炭の賦存量が消失したものと見なすべき期間。
11
6.7 方法論「荒廃泥炭地における水位管理による泥炭分解の抑制」
1.
Title of the Methodology
“Mitigation of Peat Decomposition through Water Table Management for Drained
Peatlands in the Republic of Indonesia”
2.
Summary of the Methodology
The methodology can be applied to project activities of water table control to reduce
aerobic decomposition of peat in drained tropical peatlands through rewetting using
technical methods, such as installation of water gates in drainage channels in the
Republic of Indonesia.
Related methodology: VCS Methodology, REWETTING OF DRAINED TROPICAL
PEATLANDS IN SOUTHEAST ASIA.
3.
Applicability Conditions
This methodology is applicable to projects that satisfy all of the following conditions.
Check
Condi
-tion
1
This project controls groundwater level for rewetting of peatlands by technical methods
such as installation of water-gates in drainage channels in tropical peatlands where
manmade drainage was implemented prior to January 1, 2014.
2
The project site is tropical peatlands located at altitude lower than 100 m in the
Republic of Indonesia, where thickness of peat should be more than 0.5 m in average*.
3
The project area includes singular or multiple complete watersheds. It is clear that the
project area has no hydrological relation to peatlands located outside of the project
boundary, or if a relationship does exist it exerts no adverse impact on the environment
or local citizens.
4
It can be demonstrated that the peatlands inside the project area are influenced by
drainage, e.g. there is data indicating groundwater level lowering and/or peat
subsidence.
5
Following project implementation, it is possible to evaluate the mean groundwater level
by measurements or a hydraulic model confirmed with measurements. During project
implementation, the reference groundwater level should be able to be calculated with
the hydraulic model.
6
The project implementation shall not cause additional nature destruction.
*1 Policy Memo: Peatland Definition Form Uncertainty to Certainty, 2012.08, Indonesia Climate Change Center
4
Necessary Data for Calculation
The data that needs to be set in advance in the project registration stage or data that
requires monitoring after project implementation are as indicated below.
The calculation tool is attached to the methodology, so it is possible to calculate the
emission reductions by inputting the following data.
12
Explanation of data
Area of plot
Peat depth
Reference mean annual water level
Mean annual water level when project is implemented
Emission factor for CO2 from peat decomposition
Emission factor for N2O from rice cultivation
Emission factor for CH4 from water level raising
Symbol
Ai
DPi
RWTi
PWTi
EFPEAT-CO2
EFPEAT-N2O
EFPEAT-CH4
Value
Unit
m2
m
m
m
tCO2/ha/m/y
tCO2/ha/m/y
tCO2/ha/m/y
Subscript i corresponds to a hydrogeological unit area, which is sub-region of the project area.
6
Terms and Definitions
Term
Tropical peat
Peat
control
decomposition
Plot
Emission factor of peat
decomposition EFPEAT
7
Definition
Peatland is an area with an accumulation of partly decomposed organic matter,
with ash content equal to or less than 35%, peat depth equal to or deeper than
50 cm, and organic carbon content (by weight) of at least 12% (Policy Memo:
Peatland Definition Form Uncertainty to Certainty, 2012.08, Indonesia
Climate Change Center)
In cases where peat is dried as a result of drainage by human activities,
aerobic microbial decomposition of peat takes place. The decomposition rate
can be reduced through restoring the groundwater level and thereby rewetting
the dried peat. The reference mean annual water level (RWL) is the mean
annual water level in the case where groundwater level management isn’t
carried out. The mean annual water level when project is implemented is the
mean annual water level following restoration of the groundwater level
(PWL).
This is the unit of hydraulic terrain at which the mean water level and peat
characteristics are deemed to be uniform.
This expresses the CO2 emissions per unit area of peat and at each annual
groundwater level.
Project Boundaries
The project boundary shall include the following GHG emission sources and GHG
emissions.
The project boundary is as described below.
 Geographical Boundary
The geographical boundary of the project is one or more independent watershed, and
each watershed should be hydrologically independent of peatlands in other
watersheds. The watershed boundaries are set based on topographical characteristics,
etc. and are clarified using electronic topographical information, etc.
Moreover, the project participants need to demonstrate the relationship between land
inside the project boundary and position of peatland by using measured values
and/or satellite images, etc.
 Target GHGs
The following tables indicate the targeted GHG carbon pools and GHGs.
Carbon Pool
Aboveground tree biomass
Aboveground non-tree biomass
Underground (roots, etc.) biomass
Included?
No
No
No
Justification/Explanation
It is conservative to omit.
It is conservative to omit.
It is conservative to omit.
13
Litter
Dead trees
Soil
Wood products
No
No
Yes
No
Source
Aerobic
decomposition
in peatland used
as paddy field
Gas
Included?
CO2
Yes
N2O
No
CH4
No
CO2
Yes
N2O
Yes
CH4
Yes
Reference scenario
Anaerobic
decomposition
After project
implementation
Aerobic
decomposition
in peatland used
as paddy field
Anaerobic
decomposition
in peatland used
as paddy field
8
It is conservative to omit.
It is conservative to omit.
Main pool addressed by project activities.
It is conservative to omit.
Reason/Explanation
Main source and gas to be addressed by the
project activities.
N2O emissions are conservatively not
accounted for in the reference scenario by
this methodology
Considered negligible in drained peatlands.
CH4 emissions can be generated in drainage
channels, but these are conservatively not
accounted for in the reference scenario by
this methodology.
Main source and gas to be addressed by the
project activities.
When rice production exceeds national
policy target 3 ton/ha in 2004-2014, 4 ton/ha
in 2015-2019, 5-6 ton/ha after 2020), N2O
emission shall be evaluated.
When rice production exceeds national
policy target (3 ton/ha in 2004-2014, 4 ton/ha
in 2015-2019, 5-6 ton/ha after 2020), CH4
emission shall be evaluated.
Reference Scenario
During the set project period, the rewetting of peat land is not carried out either as a
policy or obligatory activity in the project area in the Republic of Indonesia.
9
Reference Emissions and Calculation
RE y = REPEAT, y
RE y
CO2 emissions in the reference scenario [tCO2/y]
REPEAT, y
Reference CO2 emissions due to peat decomposition [tCO2/y]
REPEAT, y
= Σ Ai * min(RWTi,y, DPi,y ) * EFPEAT, y
Ai
Unit of hydrogeological area (plot) [ha] at which the mean water level and peat
depth are deemed to be uniform; the number of plots on the project site is N.
DPi, y
Mean annual peat depth of unit i
RWTi, y
Reference mean water level is the annual mean water level [m] in the case where
groundwater management isn’t carried out.
EFPEAT, y
CO2 emission factor [tCO2/ha/y/m] of peat decomposition. The default value set by
the Government of Indonesia shall be used. If the default value is not available, the
project participant can set an emission factor based on latest IPCC Guidelines or
latest peer reviewed paper.
N
i=1
14
10 Project Emissions and Calculation
PE y = PEPEAT, y
PE y
CO2 emissions arising from the project [tCO2/y]
PEPEAT, y
CO2 emissions due to peat decomposition when the project is implemented
[tCO2/y]
PEPEAT, y
= Σ Ai * max (PWTi,y, DPi, y ) * EFPEAT-CO2 + EFPEAT-N2O + EFPEAT-CH4)
Ai
Unit of hydrogeological area (plot) [ha] at which the mean water level and peat
characteristics are deemed to be uniform; the number of plots on the project site is
N.
PWTi, y
Mean annual water level [m] when the project is implemented. This is calculated
using the hydraulic model using satellite climate data (precipitation,
air-temperature) and should be verified with continuously monitored in-situ water
levels.
EFPEAT-N2O
This is N2O emission factor associated with rice production. N2O emission should
be evaluated using default number set by Indonesian government. If the default
value is not available, the project participant can set an emission factor based on
latest IPCC Guidelines or latest peer reviewed paper.
EFPEAT-CH4
This is CH4 emission factor associated with rice production. CH4 emission should
be evaluated using default number set by Indonesian government. If the default
value is not available, the project participant can set an emission factor based on
latest IPCC Guidelines or latest peer reviewed paper.
N
i=1
11 Leakage emissions and Calculation
It is assumed there will be no leakage arising as a result of project implementation.
12 Calculation of Emission Reduction
Emission reductions are calculated from specific reference emissions and project
emissions.
ERy = REy - PEy
Emission reductions in year y [tCO2/y]
ERy
Reference emissions in year y [tCO2/y]
REy
Project emissions in year y [tCO2/y]
PEy
13 Monitoring
The project developers must monitor the parameters described in the table below based
on the calculation method of the selected GHG emission reductions.
Parameter
A
RWTi
Description
Area of plot, where
hydrology
and
peat
conditions can be assumed
identical in each plot.
Reference mean water
level is the annual mean
water level [m] in the case
where
groundwater
management isn’t carried
Measurement Method
The plot area shall be determined in PDD before
project start, and updated every year based on satellite
data and/or land survey.
This is calculated using the hydraulic model using
in-situ or satellite measured climate data (precipitation,
air-temperature) and should be verified with monitored
in-situ water levels at least for one year when the water
15
out.
PWT
DP
T limiti
Mean annual water level
when the project is
implemented
Mean annual peat depth
Maximum period (year) of
possible credit claiming in
each plot
level lower more than 50cm below the ground level in
prior to the project implementation.
After the project implementation, this should be
calculated using in-situ or satellite measured climate
data (precipitation, air-temperature).
Calculated using a hydraulic model* using satellite
climate data (precipitation, air-temperature) and
confirmed with groundwater levels measured at
specified points in PDD.
Peat depth of each plot shall be measured before
project implementation.
During project activity, peat depth shall be measured
before each Verification, and DP can be determined
assuming its annual change rate to be constant.
Existing carbon stock in terms of CO2 shall be
calculated using 1) peat depth, 2) peat bulk density and
3) carbon amount of the peat in each plot. The total
amount of CO2 emission during the project period
shall not exceed the existing carbon stock in terms of
CO2. T limit can be determined by comparison of the
two numbers of calculated CO2.
16
6.8 排出削減量評価
事業サイトおよびホスト国全体での排出削減ポテンシャル
計算条件として、対象サイトには水路で囲まれた100ha毎のプロットが約100カ所存
在し、各プロットの年平均水位をGL-0.6mからGL-0.3mに上昇させるものとする。泥
炭分解に伴うCO2排出の排出係数は4(5)のグラフをベースに決定する。水位上昇と稲
作増産に伴う、N2O, CH4の排出は保守的に最大値を考慮する(IPCC2013ガイドライン
1次ドラフトにおける排出係数を参考。4.(5)参照)。したがって、Ai=100ha (i=1~100),
N=100, EFPEAT-CO2=69 tCO2/ha/y/m となり、CO2排出削減量の計算は、以下のようにな
る。ここに、稲作収量は政府の目標値に達しないと想定して含めない。
100
REPEAT, y =
Σ 100ha * 0.6m * 69 tCO2/ha/y/m = 414,000 tCO2/y
i=1
100
PEPEAT, y =
Σ 100ha * 0.3m * 69 tCO2/ha/y/m = 207,000 tCO2/y
i=1
ERy = REy - PEy = 414,000 – 207,000 = 207,000 tCO2/y
以上より、地下水位回復量が0.3mの場合、事業サイト10,000haにおける削減可能量は
20.7万tCO2/年となる。
当該事業・活動を普及させた場合の、ホスト国全体での排出削減ポテンシャルは、
同様に以下のように推定できる。インドネシアにおける感潮帯にある農地は、既開発
だけを対象にしても 83.5 万 ha 存在しており、この面積における生産性を上げること
により、現在インドネシアが輸入している米(400 万トン程度)の多くを賄うことが
可能である。上記の農地の多くは泥炭地と同じ地域に存在するが、保守的にその 1/3
が泥炭地であるとすると、インドネシアの泥炭地における既開発低地は約 28 万 ha と
なる。したがって、1 万 ha 当たりの削減量 20.7 万 tCO2/y x 28 万 ha = 580 万 tCO2/y と
なり、年間約 580 万トンの CO2 削減ポテンシャルがある。
17
7.
FS の結果:方法論のモニタリングツールとその開発
7.1 モニタリング手法の開発
沿岸泥炭地からの排出削減事業は,一般に数万~数十万ヘクタールを対象とするた
め,面的,時間的に効率的なモニタリングの方法が求められている。水位回復により
乾燥泥炭層を再湿潤化する際には,事業前後での排出量の差を求める必要がある。
GHG 排出量の算定方法は,直接計測と間接計測に大別される。直接計測は,大気-
陸面間の GHG 排出量をチャンバー法により測定するが,広範囲の調査地への長期間
の適用は技術面,コスト面含めて常に容易であるとは限らない。間接計測は,GHG
排出量と相関性の強い地下水位をプロキシとして用いるものである。
熱帯泥炭地における地下水位の計測データによると,例えば,図 7.1 に示すように
平均地下水位と CO2 排出量の良い相関が得られている。事業前後の地下水位をモニタ
リングには,①現地計測,②水理モデルを用いた数値解析,③衛星データを用いた解
析,がツールとしてあげられる。
現地計測は,泥炭や水位に関するデータを直接取得できる利点がある。しかし,調
査地となる泥炭低湿地の広大な面積を対象としなければならないこともあり,サイト
へのアクセスも通常困難である。さらに,多数の地点の長期にわたる測定データをも
とに,泥炭層分布や水位の時間的・空間的なばらつきや不均一性を把握し,測定デー
タの代表性を検討しなければならない。その上で,地域的特性が反映された長期的に
安定なモニタリング地点を事業開始前のリファレンス水位として決める必要がある。
図 7.1 平均地下水位と年排出量の関係(Hooijer, et al., 2014)
水理モデルは,集中型,分布型に大別される様々な手法が考案されており,いずれ
18
も衛星データや現地計測データ等を用いて,気象,土地被覆・植生,地形,地質,水
利用に関するデータを反映させ,現地で測定された水位データを用いて適切な較正を
行うことで現況及び将来の良い推定が得られる。しかし,調査地に関する質的・量的
に十分な情報が得られることは少なく,測定データを用いた水理モデルの較正は必ず
しも容易ではない。
衛星データによる解析は,広大な面積の沿岸泥炭地を捉えることができる。使用す
る衛星,搭載センサーによっても異なるが,気象,地形,植生などの地表面状態を表
すデータを取得することできる。地下水位等の地表面下の状態を直接測ることはでき
ない。地表面植生の活性を示した NDVI(正規化植生指数)や蒸発散量等と水位との
相関式を用いて間接的に地下水位を推定することが行われているが,地下水位は局地
の地形,地質条件に左右されやすいため,画像データの水平解像度の粗さや相関式の
数値精度に十分注意しなければならない。
いずれの手法も長所・短所をもち,単独の手法のみで十分なケースは少ないと考え
られ,相互に補間可能なモニタリング手法の構築が不可欠である。
7.2 モニタリング項目
前章に述べたとおり,排出量の算定に必要なモニタリング項目は,①水理地形単位
の面積,②排出係数,③地下水位の 3 項目が基本とされる。また,事業開始前のベー
スラインを把握するためには,調査地の④水門・水路,⑤泥炭深,⑥排出係数,等の
現在の状況に関する基礎データも重要なモニタリング項目となる。
上述のように,これらをモニタリングするツールとしては,現地計測,水理モデル,
衛星データの利用が考えられる。いずれを用いるかは,広範囲におよぶ沿岸泥炭地の
特徴と関係付けて決定すべきである。採用する手法に応じて,上記のモニタリング項
目の他に様々な追加情報が必要となる。特に,水理モデルを用いて地下水位をモニタ
リングする際には,調査地の水文水理環境と関係するモニタリング項目(⑦降水量,
⑧気温,⑨地形,⑩土地利用・被覆)が付加される。
これらのモニタリング項目に対して,ここでは MRV 方法論に沿った適切なモニタ
リングを行うための諸元(地点数,頻度,要求される精度)を沿岸泥炭地の特徴を踏
まえて検討した。表 7.1 にモニタリング項目とそれぞれの諸元を示す。個々の詳しい
解説とモニタリングに用いる手法(モニタリングツール)については,次節 7.3 にて
述べる。
19
表 7.1 モニタリング項目,ツール
モニタリングツール 2)
モニタリング
記号
単位
用途
項目
1
水理地形単位
A
2
降水量
Pr
3
気温
T
4
地形
H
5
土地利用・被覆
7
水門・水路
8
水位
9
泥炭深
10 排出係数
m
モニタリングの諸元
1)
EF
現地
調査
水理
モデル
衛星
データ
空間
(計測点数)
沿岸泥炭地特性
を踏まえて決定
時間(頻度)
事業前
事業後
変化が生じた
1回
年毎
必要精度
プロジェクトエ
リアの 10%
●
○
mm/bwk HM
○
●
同 上
1 回/2 週間
1 回/2 週間
5mm/bwk
℃
HM
○
●
同 上
1 回/2 週間
1 回/2 週間
1.0m
m
PLT/HM
○
●
同 上
1回
変化が生じた
年毎
0.1m
-
HM
○
●
同 上
1回
同 上
-
-
PLT/BL
●
○
全地点
1回
同 上
-
1 回/2 週間
1 回/2 週間
0.1m
1 回/2 週間
1 回/2 週間
0.1m
1 回/年
変化が生じた
年毎
3)
RWT
PWT
m
EF/BL
●
DP
m
PLT/BL
○
EFPEAT-( )
tCO2/ha/
EF/BL
y
○
●
水理地形単位に
1 点以上
沿岸泥炭地特性
を踏まえて決定
同 上
1) EF:排出量算定式の入力値,PLT:水理地形単位の設定,HM:水理モデルの入力値,BL:ベースラインの決定
2) ●:必須,○:任意
3) 既報値の平均地下水面と CO2 排出量の関係から読み取れるばらつき(約 40 tCO2/ha/y/m)を踏まえて保守側の数値を採用する
20
7.3 モニタリングツール
7.3.1 水理地形単位
プロジェクトエリア内の泥炭分布,層厚及び分解状態が一様とみなせる水理地形単
位の面積(ha)を定義する。第 6 章に述べた MRV 方法論適用の適格性要件に基づき,
泥炭の厚さは平均で地表面から 0.5m 以上の厚さがある範囲を対象とし,事業実施前
後の排出量を算定する入力値として用いる。
泥炭がモザイク状に分布し,層厚及び分解状態が一様とみなせる連続した範囲を定
義することが特に困難な場合は,泥炭の分布状態によらない水理地形単位を定義する。
ただし,水理地形単位に占める泥炭分布域の割合を用いて以下の面積補正を行う。
A=WPEAT×Ad
ここに,Ad は水理地形単位(m2),WPEAT は水理地形単位の面積に対する層厚 0.5m
以上の泥炭分布域の面積比(-)である。
WPEAT,Ad の面積計算は,地理情報システム(GIS)上でポリゴン化した数値データを
用いて行う。対象地域の地図が入手できる場合は,それらを GIS へ取り込み,数値デ
ータは地図と同一の投影法,測地系で作成する。
モニタリング精度は,排出量算定結果の精度に直接現れるため,プロジェクトエリ
アの面積に対して 10%以下または保守側の設定値であることを確認する。水理地形単
位は,事業開始時に決定し,工事等により変化のある場合には 1 年毎に更新する。
7.3.2 降水量
降水量は,水理モデルへ入力するパラメータとして用いる。
降水量のモニタリングには,現地観測が直接的であるが,近年では衛星による雨量
観測センサーを用いた観測技術が広く普及している(宇宙航空研究開発機構,2008)。
このうち,全球衛星観測データを用いた解析プロダクト GSMaP(Global Satellite
Mapping of Precipitation)は,我が国の科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進
事業(CREST)研究領域「水の循環系モデリングと利用システム」の研究課題「衛星
による高精度高分解能全球降水マップの作成」(研究代表者:岡本謙一 大阪府立大
学工学系研究科 教授, 期間:2002~2007 年)によって開発され,2007 年以降は JAXA
降水観測サイエンスチームにより引き続きアルゴリズム開発が行われているもので
ある。
GSMaP は世界の雨分布速報(http://sharaku.eorc.jaxa.jp/GSMaP/index_j.htm)より入手
可能である。データ緒元は次のとおりである。
物理量
領域
空間分解能
時間分解能
表示時刻
降雨強度 [mm/hr]
(60S~60N)
緯度経度 0.1 度格子(赤道付近で約 11km メッシュ)
1 時間
世界標準時 UTC
(日本標準時 JST = 世界標準時 UTC +9 時間)
Takeuchi et al. (2010) は,中央カリマンタンを対象に GSMaP から得られる降水量デ
ータを用いて地下水面変化を解析し,現地観測データを良好に再現できることを示し
ている。
21
図 7.2 に,GSMaP 解析プロダクトの降水量とスマトラ島ジャンビ州の沿岸泥炭地
で実測した地上観測データを 2 週間毎に集計し比較した結果を示す。1 日,2 週間及
び 1 か月のそれぞれの期間降水量に対して,GSMaP 解析プロダクトと地上観測デー
タとを比較し精度を検証した結果,一部の特異な数値を除き,2 週間以上の期間降水
量で,解析降水量と観測降水量には良い相関が見られ,両者の差異は約±50mm/bwk
である。モニタリング精度は,このばらつきの 10%以下と考えて 5mm/bwk(0.36mm/d)
とする。また,モニタリング頻度は,7.4.2(2)で述べた地下水位観測と整合させて 2 週
間に 1 回とする。
200
PlotA
Obsevation (mm/biweekly)
PlotB
PlotC
150
PlotB'
100
50
0
0
50
100
150
GSMaP(mm/biweekly)
200
・
・ 図 7.2 地上降水量観測データと衛星解析データ(GSMaP)に比較
(スマトラ島ジャンビ州東タンジュンジャブン地方,インドネシア共和国)
7.3.3 気温
気温は,水理モデルへ入力するパラメータの 1 つであり,蒸発散量の算定に用いら
れ る 。 現 地 で の 気 温 観 測 に 困 難 は な い が , 現 在 , 世 界 気 象 機 関 WMO(World
Meteorological Organization)に加盟する各国の気象機関からの通報データをインター
ネットで容易に入手することができる。ここでは,このうちの最もデータ量が充実し
ているアメリカ海洋大気庁(NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration)の
データダウンロードサイトより,日単位の気温観測データを利用する。データ入手は
下記ウェブサイトから可能である。モニタリング頻度は,7.4.2(2)で述べた地下水位観
測と整合させて 2 週間に 1 回とする。
NOAA GHCN (Global Historical Climatology Network)-Daily
https://www.ncdc.noaa./oa/climate/ghcn-daily/
図 7.3 は NOAA から入手した気温データ(Jambi 地点,インドネシア)とスマトラ
島ジャンビ州における沿岸泥炭地の地上観測データを比較したものである。それぞれ
日データと 30 日移動平均データを示した。参考に気象庁から公表されている同地点
22
の月平均気温データを示した。これよる,NOAA と地上観測データの気温差は概ね 1℃
程度である。最近 1 年間のそれぞれの平均気温を求めると,現地観測は 26.6℃,NOAA
は 26.9℃となり,両者はほぼ整合する。
ジャンビ州の沿岸泥炭地における蒸発散量をハーモン法により算定すると,平均蒸
発散量は約 40mm/bwk (bwk=biweekly)となる。気温 1℃の違いは,蒸発散量にして約
0.2mm/d の相違となる。また,2 週間では約 2.8mm となり,これは平均蒸発散量の約
7%に相当する。両者の観測地点は同一ではないものの差は小さく,水理モデルによ
る地下水位の計算結果に有意な影響を与えるものではないと考えられる。したがって,
水理モデルへ入力する気温データには,NOAA の公開データを用いることとする。
なお,事業対象地域の付近の地上観測データが無い場合は,現地で気温測定を行う。
35.0
現地観測値
NOAA(Jambi)
気象庁*(Jambi)
30 区間移動平均 (現地観測値)
30 区間移動平均 (NOAA(Jambi))
日平均気温(℃)
30.0
25.0
20.0
*気象庁は月平均気温を表示
図 7.3 地上気温観測データと NOAA 公表データとの比較
(スマトラ島ジャンビ州東タンジュンジャブン地方,インドネシア共和国)
7.3.4 地形
プロジェクトエリア内の地形標高は,ベースラインの決定や分布型水理モデルへの
入力値等として用いられる。
分布型水理モデルでは,対象範囲をメッシュに細分化し,それぞれに地形標高を与
えるため,地形測量のみでは得られない高密度の地形モデル DEM(Digital Elevation
Model)を必要とする。VCS では,主に泥炭ドームを前提とした地形モデルの作成方法
として 2 とおりのオプションを与えており,LiDAR (Light Detection And Ranging) と
SRTM (Shuttle Radar Topography Mission) の利用を認めている。いずれも,地形測量デ
ータとの比較による厳格な精度検証が求められている。SRTM については,現地計測
データが利用できない場合に LiDAR との比較による精度検証が認められている。
しかし,沿岸泥炭地のような地形勾配がほとんどない平坦な地域では,SRTM の精
度は極端に低く,数メートル以上の誤差が含まれる(図 7.4)。この誤差は,地上植生
やノイズを除去するようなデータ補正によっても精度改善は困難である。このことは,
地形勾配のある泥炭ドームとは異なる特徴の 1 つと考えられる。
23
これらを踏まえて,本検討では後述する水理モデルの種別(すなわち,集中型水理
モデル,分布型水理モデル)に応じて,地形標高のモニタリング手法を次のように使
い分ける。
水理モデル種別
モニタリングの方法
必要な範囲
地下水観測井,
集中型水理モデル*
現地測量
分布型水理モデル
LiDAR
4 測線(横断 2 測線,縦
断 2 測線)以上
プロジェクトエリア全
体
*水理モデルへの入力値としては使用しない。
集中型水理モデルを用いる場合,測量結果をモデルの入力データとして直接用いる
ことはないが,それらはベースラインの把握,地下水位標高を算定する基準レベルと
して用いる。
なお,モニタリング精度は垂直 0.1m,水平 1m とする。これは,熱帯泥炭地におけ
る地下水位観測データのばらつきの幅に基づき設定した地下水位と同等の精度とし
たものである(7.3.7 参照)。なお,モニタリングは事業前に最低 1 回,事業後は工事
等による影響があった年に実施する。
14
SRTM30m
12
測量データ
標高(m)
10
8
6
4
2
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
距離(m)
14
SRTM30m
12
測量データ
標高(m)
10
8
6
4
2
0
0
図 7.4
2000
4000
6000
距離(m)
8000
10000
12000
沿岸泥炭地(スマトラ島ジャンビ州)における SRTM と地形測量値の比較例
7.3.5 土地利用・被覆
プロジェクトエリア内の土地利用・被覆は,ベースラインの決定,分布型水理モデ
ルへの入力値に用いられる。データソースは既存調査資料,衛星データ及び現地調査
24
のいずれか,あるいはそれらの複数を組み合わせて利用する。
分布型水理モデルにより地下水位を解析する場合は,対象範囲をメッシュに細分化
し,それぞれに土地利用・被覆条件を割りあてる必要がある。集中型水理モデルを用
いる場合は直接必要としない。
これらを踏まえて,上述の地形モニタリングと同様に,水理モデルの種別(集中型
水理モデル,分布型水理モデル)に応じて,土地利用・被覆のモニタリング手法を次
のように使い分ける。
水理モデル種別
必要な範囲
集中型水理モデル*
プロジェクトエリア全
体
分布型水理モデル
同上
モニタリングの方法
既存調査資料
既存調査資料,衛星デ
ータ及び現地調査のい
ずれか,あるいは複数
の組み合わせ
*水理モデルへの入力値としては使用しない。
土地利用・被覆分類のモニタリングに求められる精度は,分布型水理モデルによる
地下水位解析結果にどのような感度を与えるかによって異なり,また泥炭分布や水門
操作等の他の不確実要因とも相互に関係し複雑である。集中型水理モデルの場合は,
土地利用・被覆分類を直接用いる必要がないため,排出量算定結果へ影響を与えない。
ここでは,土地利用・被覆分類の水平解像度を衛星データの解像度相当である 30m
以下とし,複数の代表地点について現地調査データとの比較がなされていることとす
る。
なお,モニタリングは事業前に最低 1 回,事業後は工事等による影響があった年に
実施する。
 水門・水路
プロジェクトエリア内における水門・水路の配置や基本緒元等が詳しく纏められた
資料は,ほとんどの場合入手することは難しい。仮に入手できたとしても,過去の土
地改良当時の情報であり,現状を反映するものではない。利水設備の老朽化や農民に
よる水利用実態の変化等を踏まえると,それらを事業開始前のベースラインを確定す
る基礎データとして使うことはできない。したがって,事業開始前に,水門,水路(1
次,2 次,3 次他)の現状と稼働状況の現地調査を実施する。
現地調査は目視観察,写真撮影による水門の使用状況,水路内の流動状況の記録,
農民からのヒアリングにより,下記事項を整理する。
・ 位置座標
・ 標高
25
・
・
・
・
・
・
・
ゲート形式
水門の幅と高さ
調査時の開閉状況
水門操作の動作確認
水路内の流動状況
常時の水門操作状況
図 7.5 ホイール型手動式水門
7.3.7 地下水位
(1) 現地での地下水位観測
地下水位の現地計測データは,第 6 章で示した排出量算定式に入力される直接の
モニタリング項目として用いる。また,MRV 方法論適用の適格性要件に含まれるよ
うに,現状の地下水位低下が排水路の影響を受けていることを示す 1 つのエビデン
スとしても用いられる。
地下水位の計測は,PVC パイプを泥炭層の下の地盤面まで挿入して仕上げた観測
井を用い,水位測定器によりパイプ内の水面位置を測る。図 7.6 に PVC パイプを用
いた地下水観測井の設置例を示す。PVC パイプ長,管頭高,径,開孔率,保護メッ
シュ等の諸元は,現地の泥炭層の特性,雨季の冠水状況等を踏まえて決定する。
PVC pipe with 40-50 mm diameter
300mm
Cap
Iron Wood
Nylon
L=2m-4m
Holes with 20mm diameter
50mm
水位観測用 PVC パイプ設置例
Peat layer
Data
Cap
Mineral soil
図 7.6 PVC パイプを用いた地下水位観測井の仕上げ状況
26

地下水位観測は,事業開始の前後で行う。事業開始前のリファレンス水位 RWT
は,事業の影響が及ばない地点に観測井を設置し,そこでの計測値をベースラ
インとする。事業開始後のプロジェクト水位 PWT はプロジェクトエリア内に設
ける。

リファレンス水位を測定する地点に対して,事業の影響が現れる場合は,事業
開始前の(または事業開始後であってもその影響を受けていない期間を含めた)
計測データを用いて較正された水理モデルによる算出値を代替とする。

地下水位の観測緒元(期間,頻度,地点数)は次のとおりとする。
 熱帯地域の雨季,乾季の変動パターンが捉えられるよう,観測期間は事業開
始前 1 年以上とする。地下水観測は,事業完了まで継続する。
 測定頻度は 2 週間に 1 回以上とする*1。
 地点数はプロジェクトエリア内の水理地形単位(プロット)毎に 1 点以上と
する。ただし,上記で決定した水理地形単位の妥当性が確認できるよう,同
じ水理地形単位内で複数地点の地下水位観測を行い,測定値の代表性を確認
する。

なお,水位測定器は,測定頻度に応じて手動式,自動式を選定する。
*1 地下水位の測定頻度と地点数
沿岸泥炭地の地下水面は,ほぼフラットな地表面付近にあり(一般には地表
面下30cmより浅い),降雨に対する地下水位変動の時間遅れが小さい(Hooier,
2003)。泥炭層中の地下水は,動水勾配が小さく流動がほとんど生じないため,
降雨と蒸発散の正味の変化が地下水位変化に直接現れると考えられている(e.g.
Dolan et al., 1984; Hooijer, 1996)。しかし,これらの知見は泥炭ドームに対して得
られたものであり,潮位変化の影響を受ける沿岸泥炭地でそのまま適用できる
ものかは明らかでない。
そこで,実際にインドネシア共和国ジャンビ州の沿岸泥炭地において,自動
式水位計を用いて複数地点の地下水位観測を実施した(図 7.7)。後述のとおり,
実測された地下水位変化は,降水と蒸発散を考慮した集中型モデルに対して,
水路を介した圃場の水の出入りを考慮する項を加えることにより,ほぼ適切に
再現できることが分かった。なお,図中に示した凡例は,測定間隔の違いを示
す。これより,地下水位の年変動パターンを捉えるためには,少なくとも2週間
以下の間隔で測定を行えば良いことがわかる。
27
5.0
Water level (EL:m)
4.5
4.0
3.5
10min
biweek
1day
1month
1week
3month
3.0
図 7.7 計測頻度の異なる地下水位観測データの比較
(スマトラ島ジャンビ州東タンジュンジャブン地方,インドネシア共和国)

地下水位観測に求められる測定精度は次のとおりである。
 熱帯泥炭地における沈下速度と年平均水位の関係が多数の実測値に基づき求
められている(Hooijer et al., 2012; Couwenberg et al., 2010)。この関係式に基
づくと,同一の沈下速度に対する年平均地下水位のばらつきは約 1.0m/y で
ある(図 7.8)。これは,対象地の泥炭特性,植生や降水の不均一性,計測
誤差等に起因するものと考えられる。
 実測値に基づく年平均水位の誤差が,このばらつき範囲を超える場合,排出
係数の適用そのものが困難になる。
 そこで,このばらつき範囲の 10%以下を年平均水位に対して許容する誤差と
考えると,測定時に許容できる誤差は約 0.1m となる。
図 7.8 平均地下水位と沈下量の関係(Hooijer, et al., 2012)
28
(2) 水理モデルによる地下水位の定量化
地下水位のモニタリングは,現地計測に加えて水理モデルを用いて定量化する。
7.4.1 で述べたように,地下水位は,排出量算定式に入力される直接のモニタリング項
目として用いられる。事業後の地下水位回復の予測には,現地計測値は使えないため,
水理モデルによる定量化が必要となる。
水理モデルによる地下水位変動の数値解析は,雨季,乾季を含めた季節変動パター
ンが捉えられるよう,事業開始前に最低 1 年以上の期間を対象とする。事業開始後は,
1 年毎に追加される現地観測データを加えて水理モデルを再較正し,毎年更新する。
水理モデルによる算定値と現地計測値との差は平均二乗誤差(RMSE)が 0.1m 以内であ
ることとする。
a) 地下水位変動の数値解析
対象領域の水位変動を数値解析により求める手法には,河川流出,地下水流
動,両者を一体的に取り扱うもの等,様々なものが存在する(図 7.9)。これら
は,対象領域の空間表現と考慮する物理現象の違いによって①集中型水理モデ
ル(ボックスモデル)
,②分布型水理モデル,に大別される。
集中型水理モデルは,対象システム内の詳細な現象や相互関係を考えず,概
念的な点に集中化させて入力-応答関係のみを表現するものである。概念モデ
ルとも呼ばれる。
分布型水理モデルは対象の気象,地形条件等の空間不均一分布をメッシュ状
に細分化された単位の集合として表現し,現象間の詳細な相互関係を物理数学
的法則(たとえば,質量,運動量の保存則)に厳密に基づいて表現する。同じ
分布型水理モデルであっても,空間離散化の次元やメッシュ解像度の違い等に
よっても必要な入力データや較正の程度は様々である。
どちらも長所,短所をもち,いずれの水理モデルを用いるかは,数値解析の
目的,利用可能なデータや目的達成のための効率性等のバランスに左右され,
それらに応じた使い分けがなされる。
29
集中型水理モデル
分布型水理モデル
図 7.9 水理モデルの分類例(登坂博行:地圏水循環の数理,2006)
b) 水理モデルの選定
上述のように,集中型,分布型のいずれの水理モデルを用いるかは,数値解析
の目的,利用可能なデータや目的達成のための効率性等を考慮し,泥炭層中の地
下水位変化を特徴づける要因に応じた使い分けがなされる。
7.3.7 で述べたように,沿岸泥湿地の地下水面は,ほぼフラットな地表面付近に
あり,不飽和帯は発達しにくい。そのため,降雨に対する地下水位変動の時間遅
れが小さい。既往研究によると,泥炭層中の地下水は動水勾配小さく流動がほと
んど生じないとされ,地下水位変化は降雨と蒸発散の正味の変化が直接現れる特
徴が指摘されている(e.g. Dolan et al., 1984; Hooijer, 1996)。このことは,対象領域
を集中化した質量保存式(集中型水理モデル)により,地下水位の定量化が可能
であることを意味し,これは水収支法として呼ばれ既に利用されている(e.g.
Dolan et al., 1984; Hooijer, 1996, 2003)。逆に,現地の連続的な水位観測データ(降
雨の無い 24 時間)が既知であれば,夜間と日中の水位低下量から地下水流出量,
30
蒸発散量を精度良く見積もることができる(Hooijer, 2003)。
以上より,沿岸泥炭湿地における地下水位の定量化には,その特徴を反映した
集中型水理モデルの適用性が高いと考えられる。一方で,利用可能な現地データ
が制限されやすい中では,詳細な現象を考慮する分布型水理モデルを無理に用い
ても,相応の精度を見出すことはできないと考えられる。したがって,沿岸泥炭
湿地の地下水位変化を定量化するための水理モデルの選定は,集中型水理モデル
を優先させ,現地の状況に応じて,追加的なモニタリングを行いながら分布型水
理モデルの適用を判断してゆくことが合理的である。
集中型水理モデルによる地下水位の計算値と現地計測値の差が,前述の要求精
度に対して極端に乖離し,分布型水理モデルで考慮可能な地下水位変動に流動や
貯留性の不均一性が寄与していると推定される場合などは,水収支法の適用範囲
を超えるものと考え,分布型水理モデルを選択する。
c) 集中型水理モデル(ボックスモデル)
集中型水理モデルは,対象領域の全域ないし典型的な幾つかの水理地形単位に
対して上述の水収支法を適用し,一定期間の貯留量変化から地下水位変化を定量
化する手法である。
図 7.10 に対象領域を集中型水理モデルによって表現する概念を示す。領域内
の泥炭層中の地下水流動,水路網配置による詳細な流れや圃場との相互作業は考
慮しない。巨視的に流入は降雨(Precipitation)と水路からの浸透(Inflow),流出
は蒸発散(Evapotranspiration)と水路への浸出(Outflow)と考える。
Precipitation
Inflow
Evapotranspiration
Lumped
Outflow
Model
Project Area
図 7.10 集中型水理モデルの概念
泥炭層中の地下水面変動には,地下浸透した降雨が地下水面上方の不飽和域を
降下移動し,地下水面に到達する間の時間遅れや水平方向の動水勾配による流動
の影響が含まれる。このうちの流動による寄与を上述の沿岸泥炭地の特徴を利用
した水収支法の考え方を適用して無視すると,当該領域に対する質量保存式は次
のとおり表される。
31
式中の記号の意味は次のとおりである。
記号
単位
内容
平均降水量
平均蒸発散量
平均流入出量
地下水位変化が生じる期間
の面積
有効間隙率
水理地形単位(プロット)の識別子
水理地形単位の総数
貯水量変化量
地下水位変化
入出力
入力
入力
入力
入力
入力
入力
入力
入力
出力
出力
蒸発散量は,大気-陸面間の熱収支式を解く手法,気象要素や土地被覆・植生デ
ータを元に算出する手法など,多数の手法が考案されている。国際連合食糧農業機関
FAO は,気象,植生条件を考慮可能なペンマン・モンティース法と呼ばれる手法の利
用を推奨しているが,いずれの手法を用いてもほぼ同等の推定結果となる(Jianbiao Lu,
et al. 2005)。そこで,本検討では,可照時間と気温のみから可能蒸発散量を算定する
ことができるハーモン法を用いる。
ハーモン法による可能蒸発散量は以下の式で算定される。
ここで, は日平均蒸発散量 (mm/d), は 12 時間を 1 に規格化した可照時間
(-), は飽和絶対湿度 (g/m3) を示す。可照時間 は対象地の緯経度から算定し,
12 時間を 1 に規格化して上式に与える。気温は,既に述べたアメリカ海洋大気庁
NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)より公表されている地上観
と気温
測データを用いる。飽和絶対湿度 は理想気体を仮定し,飽和水蒸気圧
から以下の式によって算出する。
飽和水蒸気圧
は以下に示す Lowe の式より求める。
ここに,
32
平均流入出量 は,水路を介して当該領域から流入出する正味の水量に相当し,
近似的には,水路内の地点 と圃場内の地点 の間の水位差と透水係数等を計測し,
一次元方向のみの浸透流理論を適用した次式によって推定することができる。
ここに,
記号
単位
内容
領域 の 次水路への流出量
領域 の透水係数
領域 と水路 間の断面積
領域 の平均水位
水路 の平均水位
2 地点間の距離
水路次数を表す識別子
当該領域での水路次数の総和
入出力
出力
入力
入力
入力
入力
入力
入力
入力
ただし,平均流入出量 を現地計測された地下水位を再現する較正パラメータ
として用いる場合には,水収支式で考慮されていない次の要因に起因する誤差が
含まれる点に留意する必要がある。
 降水分布の不均一性
 気温,植生分布の不均一性(蒸発散量)
 泥炭分布,分解状態のの不均一性
 水路の規模(1 次,2 次,3 次),水門操作の有無,時期による違い
 水路を介した潮位変化の影響範囲と時間遅れ
図 7.11 は,実際の沿岸泥炭地で 2012 年以降に測定された水位観測データを用
いて,様々な平均流入出量に対する観測値と計算値の誤差(RMSE:2 乗平均平
方根誤差)をプロットしたものである。ここでは,平均流入出量を水理地形単位
の面積で規格化して示した。
これより,年毎に傾向の違いが見られるが,誤差を最小化する平均流入出量
(以下,同定値と呼ぶ)が存在することがわかる。2012 年,2014 年については,
平均流入出量の同定値はそれぞれ 0.1mm/d,0.0mm/d である。2013 年については,
他の年に比較して乾季の雨量が多かったことが影響し,同定値は 0.6mm/d となっ
た。これは,2013 年の平均水位が高く,平均流入出量が正の値,すなわち当該領
域からの流出が多く見積もられたためである。2012 年,2014 年の平均流入出量
はほぼ同じ同定値となり,乾季を含む 1 年間の現地観測水位データによる水理モ
33
デルの較正を行う事により,適切な平均流入出量を算出できることが示唆された。
0.30
0.28
0.26
RMSE
0.24
0.22
0.20
0.18
0.16
2012年
2013年
0.14
2014年
2012年~2014年
0.12
‐1 ‐0.9‐0.8‐0.7‐0.6‐0.5‐0.4‐0.3‐0.2‐0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
R(mm/d)
図 7.11 平均流入出量 R に対する観測水位と計算水位の誤差(単位:m)
d) 分布型水理モデル
上述した理由により分布型水理モデルを選定する場合には,プロジェクトエリ
ア内をメッシュに細分化し,現象間の詳細な相互関係を物理数学的法則に厳密に
基づいて流体移動現象を解析する。
分布型水理モデルには国内外に多数のソフトウェアが公表されているが,沿岸
泥炭湿地の水門操作に対する地下水位変化を再現・予測しようとするには,次の
重要な機能的要件を考慮する必要がある。
 降水,気温(蒸発散)等の気象要素の時間的・空間的変化を考慮できる
こと
 地形,泥炭層分布等の 3 次元表現が可能であること
 水路網中の開水路流れを考慮できること
 開水路流れ,氾濫流等の地表水と地下水の相互作用(カップリング)を
考慮できること
 地上環境条件の変化が泥炭層中の水位変化へ与える影響を考慮できるこ
と
 自然潮位変化を与えることができ,圃場内の水面変動を解析できること
 水門操作(ゲート開閉)を考慮できること
分布型水理モデルを扱う既存のソフトウェアの多くは,上述の機能的要件に
ある地表水と地下水の相互作用現象を取り扱うことができない。一般に地表水,
地下水のいずれか一方だけを対象とするソフトウェアである。両者を一体的に
モデル化し,これらの要件を満たすものとしては,GETFLOWS (Tosaka et al.,
2000),SIMGRO(van Walsum, et al, 2007),MIKE-SHE (Refsgaard et al., 1995) 等
34
がある。
GETFLOWS は,3 次元地圏流体流動を対象とした汎用数値シミュレータであ
り,初期バージョンは東京大学登坂博行教授により開発された。GETFLOWS
は,地表水流動にマニング則(マニング型の平均流速公式),地下流体を多相多
成分流体系とした一般化ダルシー則を採用し,両者の連成挙動を実用速度で解
析する (Tosaka,H et al, 2000)。また,流れによる熱や溶質の輸送プロセスを考慮
することができ,水温や物質濃度の時空間変動を解析することができる。さら
に,時間・空間で変化する陸面の土地利用,植生による遮断,蒸発散,気象条
件等を柔軟にモデル化することができ,流域における様々な水循環プロセスを
一体化した統合解析を実現する(図 7.12)。
図 7.12 地圏流体シミュレータ GETFLOWS の対象系の概念
一方,SIMGRO(SIMulation of GROundwater and surface water levels)は,既に VCS
(Verified Carbon Standard)方法論 (VCS, 2014)での使用が認められている分布
型水理モデルであり,陸面と大気のエネルギー交換を考慮する
SVAT(Soil-Vegetation -Atmosphere Transfer)モデル,地表水及び地下水流動の各コ
ンポーネントを関係付けた統合解析を実現する。図 7.13 に SIMGRO のモジュー
ル構成図を示す。
表 7.2 に GETFLOWS と SIMGRO の主要機能の比較を示した。
機能的には,いずれも,上述の要件を満足する。しかし,対象系を構成する部
分領域(以下,単にコンポーネントと呼ぶ)の統合化手法に違いがある。
SIMGRO は地表水を 1 次元開水路流れ,地下水を不飽和帯,飽和帯の各コンポ
ーネントに分離して計算が行われ,それらを再結合することで系全体を統合化す
る。個々のコンポーネントを再結合するためには,そのための特別なパラメータ
を必要とする。この再結合のためのパラメータは,一次交換係数等と呼ばれ,係
数そのものに物理的意味をもたない。現地で計測できる物理量でもない。このよ
35
うな係数はモデルの較正パラメータとしても用いられる。現在のある特定の条件
下で物理的意味を持たないパラメータにより較正された水理モデルを将来予測
へ適用する際には十分な留意が必要である。
一方,GETFLOWS は対象となる地形,地層等の 3 次元分布を直接表現するモ
デル化手法によるため,上述のようなコンポーネントへの分離,再結合が本質的
に不要となる。地表水は開水路と周囲の低平地を区別しないため,水路からの圃
場への越流や圃場内の平面的な氾濫流についても表現することが可能である。沿
岸泥炭湿地の水理地形分類 A,B のように雨季に圃場が湛水する場合も,地下へ
の浸透,水路への流入出等の相互影響を自然に解析することができる。上述の物
理的意味のない較正パラメータの類は含まれないため,将来の異なる条件設定に
対する適用性は高い。さらには,GETFLOWS は日本独自の純国産ソフトウェア
製品であり,これまでの国内外の事業への適用実績も豊富である。
以上を踏まえ,本検討では沿岸域泥炭湿地の地下水位を監視する分布型水理モ
デルとして GETFLOWS を採用する。
図 7.13 SIMGRO の構成モジュール
36
表 7.2 GETFLOWS と SIMGRO の主要機能比較
GETFLOWS
SIMGRO7.2.0
対象プロセス/機能
(Tosaka et al. 2010)
対象スケール
次元
流体系
気象
陸面
人工系
流体
カップリング
並列計算
その他
水
空気
熱
物質(溶存物質)
降雨
樹冠遮断
蒸発散
土地利用
利水施設
取排水
地下水揚水
地表水
不飽和地下水流
動
飽和地下水流動
植生⇔土壌
地表水⇔地下水
任意(実験室~流域ス
ケール)
2D(地表水流動)
3D(飽和・不飽和流動)
可
可
可
可
可
可
Hamon 法
Penman-Monteith 法
Makkink 法
熱収支法(バルク法),
他
可
可
可
可
非定常/拡散波近似
一般化ダルシー則
(Walsum et al. 2011)
地域スケール
1D(開水路,不飽和流
動)3D(飽和流動)
可
不可
可
可
可
可
Penman-Monteith 法
Makkink 法
可
可
可
可
準定常/貯留関数法
Rechards 式
一般化ダルシー則
Rechards 式
不可
可
完全陰的
半陰的(逐次法)
可
可
(コア数制限なし)
(コア数 2-8)
一体化された統合型流 複数のモデル
域シミュレータ
(SVAT/Meta SWAP/
MODFLOW)組み合わ
せたパッケージソフトウ
ェア。モデル間のデー
タ交換・連成は,欧州で
開発された OpenMI 規
準を採用。
37
GETFLOWS の解析に用いる主要な入出力データを表 7.3 に示す 。使用する入力
データは,気象,地形,地質,土地利用・植生,水利用及び人工構造物に関する分
類に大別される。出力データは,全ての格子毎に計算・出力される一次出力と一次
出力を用いて算出される二次出力に分類される(表 7.4)。
表 7.3 GETFLOWS で用いる主な入出力データ
内容
パラメータ
記号
降水
気温
土地被覆・植生
地形
地質(泥炭分布・分解)
入出力
入力
入力
入力
入力
入力
雨量強度
粗度係数*
地盤高
透水係数,間隙率他
水門・水路
配置,水門操作
入力
潮位
入力
出力
蒸発散量
出力
地下水位(全水頭)
流量
出力
* 土地利用・被覆分布モデルは,地表面の粗度(Roughness)の推定と関連付けら
れ,圃場内の氾濫流や河川・水路内の流出挙動に影響する。土地利用や水路構造の
違いに対する粗度の設定はマニングの粗度係数(単位は m-1/3s)を用いる。水路や
河川に対するマニングの粗度係数の範囲を図 7.14, 図 7.15 及び図 7.16 に示す。
分類
一次変数
二次変数
表 7.4 GETFLOWS の一次,二次出力
出力項目
圧力
飽和度
地表水の水深
地下水位(全水頭)
蒸発散量
流速(ダルシー流速,実流速)
流量(単位時間当たりの体積ないし質量)
地表面からの涵養水量(涵養フラックス)
地上への湧出水量(湧出フラックス)
水収支
滞留時間
備考
流体相(水相,空気相)毎
流体相(水相,空気相)毎
流体相(水相,空気相)毎
流体相(水相,空気相)毎
流体相(水相,空気相)毎
流体相(水相,空気相)毎
38
図 7.14 人工水路・改修河川・自然河川の粗度係数
(日本河川協会,建設省河川砂防技術基準案同解説 調査編)
図 7.15
水路の粗度係数(土木学会,水理公式集)
39
図 7.16
マニングの粗度係数 n の概略値〔牧草地・耕作地・藪・樹木〕
(土木学会,水理公式集)
(3) 衛星データによる地下水位の定量化
衛星データ
衛星から得られる情報のみを用いて地下水位を推定する試みも行われている
(Takeuchi et al., 2010)
。
これは,上述した GSMaP から得られる降水量,ひまわり(MTSTAT)から得られ
る気温を用いて水収支式から求められるものであり,上述の集中型モデルと同等
の考え方によるものである。本手法は,上述の集中型水理モデルによる地下水位
の定量化に対して下表に示す特徴をもつ。これらは,プロジェクトエリアの広さ
や特徴に応じて使い分けることができる。
集中型水理モデルによ
る地下水位の定量化
適用可能な空間スケール
地域,広域スケール
プロジェクエリア(水収支を 降水量,気温の現地計
適用する領域)との対応付 測データを用いること
け
で可能
計算結果の代表性の確認 水理地形単位毎に地
位水位の現地計測デ
ータを用いることで可
能
事業効果の検出(プロジェ 適切な水理地形単位
クト水位の定量化)
に対して,事業前後の
水路と圃場間の交換水
量(流入出量)を見積も
ることで可能
衛星データによる地下
水位の定量化
(図 7.17 参照)
広域スケール
衛星画像の撮影範囲,
空間分解能による
同上
現状の空間解像度で
は困難
ここでは,インドネシア・ジャンビ州・ベルバックデルタについて,衛星デー
40
タ(降水量,気温,植生等)を準備した.最終的にはスマトラ島全域に適用可能
なツールの開発を目指し,北緯 6 度から南緯 6 度,東経 97 度から 105 度の
矩形領域を対象として,衛星データセットの開発を行った.
図 7.17 に衛星データによる地下水位の計算手順を示す。図上段の赤枠で示し
た部分が地下水位計算を行う手順である。降雨は,前述の GSMaP,気温はひま
わりからのデータを用いて,地表面の乾燥度を表す指標である mKBDI(modified
Keeth-Byram Drought Index)を算定する。KBDI は,土壌水分状量に応じた森林火
災の起こりやすさを表す指標であり,0 (No drought)~800 (Extreme drought)の数
値をとる(Keetch and Byram 1968)。これをもとにして考案された mKBDI は,地
下水位と良い相関があることが確認されており,カリマンタンで実測された地下
水位によれば GWT = −0.0045 × mKBDI の関係式が見出されている。
地下水位計算部
図 7.17 衛星データによる地下水位計算フロー(Takeuchi et al., 2010)
図 7.18は,衛星,センサー,国名,それから得られるデータを時系列に図示し
たものである.ひまわり以外の衛星の将来打ち上げ計画は明らかとなっていない
が,気象衛星ひまわりは2025 年まで運用が決まっている.本研究で主に使用す
る植生指数,地温から求める乾燥度と地下水位,降雨データは,ひまわりから求
めているため,将来にわたって常時モニタリングが可能な状態となっている.
Satellite
MTSAT
HIMAWARI
HIMAWARI
MODIS
GSMaP
ALOS PALSAR
ALOS2 PALSAR2
Country
Japan
Japan
Japan
USA
Japan
Japan
Japan
Parameter 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025
LST
LST
NDVI
NDVI
Rainfall
InSAR
InSAR
図 7.18 衛星,センサー,国名,それから得られるデータの時系列情報
降水量
降水量データは,宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が提供する GSMaP を使用し
た.2007 年 1 月 1 日から 2014 年 12 月 31 日までの毎時のデータを収集し,幾何
補正,切り出し処理を行った.空間分解能は 10km,時間分解能は 1 時間である.
41
気温
気温データは,東京大学生産技術研究所で受信・処理している気象衛星ひまわ
りの熱赤外画像を使用した.既存の推定アルゴリズムを用いて 2007 年 1 月 1 日
から 2014 年 12 月 31 日までの毎時のデータから地表面温度を算出した[大吉ら,
2010].雲の影響を取り除くために,1 日 24 枚観測されたデータのうち最大値を
日代表値として画素ごとに選び出し,雲なし画像を作成した.これに幾何補正,
切り出し処理を行った.空間分解能は 4km である.
図 7.19 提供する衛星データセットの地理的範囲
(北緯 6 度から南緯 6 度,東経 97 度 から 105 度の矩形領域である)
地下水位の解析は,降水量,気温,植生指数,土地被覆情報から乾燥指数 (KBDI)
を作成し,サイトの水位計測データを用いて比較を行うことにより,地下水位を
算出した(Takeuchi et al., 2010).この手法は,同じインドネシアのボルネオ島に
ある中央カリマンタンの泥炭湿地用に開発されたアルゴリズムであり,まずは,
それをそのまま適用した.図 7.20 は,ジャンビ・バルベックデルタにおける衛
星からの地下水位推定結 果と現場計測とを比較したものである.雨季に当たる
2 月から 5 月にかけては,地表面は冠水状態に近いと考えられる.衛星からの
推定結果は,地下水位を乾燥側に過大評価する傾向にあるが,年間を通じておお
むねよく一致した値が合えられたものと考えられる.パランカラヤで得られたパ
ラメータをそのまま適用して,ジャンビサイトの計測結果と比較したところよく
一致したことは,衛星で推定可能な地下 2m 程度の地下水位の挙動は同じとみな
してよいことを示唆している.
42
図 7.21 は,バルベックデルタ (南緯 1.2 度,東経 104.1 度) における衛星か
らの地下水位推定結果を示している.図中の黒い実線は地下水位を,縦の棒線は
降水量を表して いる.これによると,乾季の当たる毎年 8 月から 9 月にかけ
て降雨が少なく,地下水位 が大きく低下することがわかる.降雨があると比較
的早く地下水位は回復するが,乾燥に伴う地下水位の低下は,それに比べると緩
やかである.2011 年や 2012 年の乾季 は降雨が極端に少なく,エルニーニョが
発生した年とされているが,9 月の半ばに地下 水位が 90cm 近くまで低下して
いると推定され,定量的にもこれを裏付ける結果となった.地下水位が 60cm よ
り低くなると,火災に対して脆弱性が高くなるとの報告がある ため,火災に対
しての危険度を判定するための観測ツールとしての活用も期待される (Takeuchi
et al., 2011)
.
図 7.20 バルベックデルタにおける衛星からの地下水位推定結果と現場計測との比較.
43
図 7.21 バルベックデルタ (南緯 1.2 度,東経 104.1 度) における衛星からの地下水
位推定結果(図中の黒い実線は地下水位を,縦の棒線は降水量を表している)
なお,上記の地下水位モニタリングを効率的にできるように,ポータルサイト
を作成した(図 7.22).トップサイトには,最新のスマトラ島全体の地下水位分
布情報(図 7.22 の A)が表示される.過去の履歴を辿りたい場合は,図 7.22 の B
から,年・月・日と階層化されたメニューからアクセスすることができる.ジャ
ンビ・バルベックデルタの地下水位は,図 7.22 の C から 2007 年から最新年の時
系列のグラフと元データにアクセスすることができる.
44
図 7.22 地下水位モニタリングのためのポータルサイト
(http://webgms.iis.u-tokyo.ac.jp/GWT/)
7.3.8 泥炭深
プロジェクトエリア内の泥炭分布,層厚及び分解状態は,水理地形単位の決定及び
事業開始前のベースラインを確定するための基礎データとして用いる。泥炭の水平,
垂直方向の分布状態の把握は現地調査による。現地調査では,ハンドオーガーを用い
て泥炭サンプリングを行い,泥炭分布データに関する以下の諸量を記録する。
45
・
位置座標
・
泥炭層の深度と厚さ
・
分解状態(fibric, hemic, sapric)
これらの調査結果は,GIS を用いて地図上に表示する。泥炭サンプリング調査は事
業開始前に実施する。必要なサンプリング数は,上記 7.3.7 の地下水位観測と同様に,
水理地形単位(プロット)毎に 1 点以上とする。ただし,上記で決定した水理地形
単位の妥当性確認を含めて,同じ水理地形単位内で複数地点の地下水位観測を行い,
測定値の代表性を確認する。
泥炭層の深度と厚さは,サンプリングした試料にメジャーをあて目視により計測す
る。これらの測定値は地下水位との相対的な位置関係の評価に用いられ,最終的には
排出削減量の推計結果に影響する。したがって,測定に求められる精度は上述の地下
水位観測と同等である。上述のとおり,年平均地下水位のばらつき約 1.0m/y に対し
て 10%以下の許容誤差を考えると 0.1m となる。
7.3.9 排出係数
排出係数は,第 6 章で示した排出量算定式に入力される直接のモニタリング項目と
して用いる。ベースラインの決定にも用いる重要なモニタリング項目である。
対象サイトの排出係数を求めるには,既存調査資料または沈下法による現地計測が
ある。第 6 章で述べたとおり,泥炭沈下量は年間 CO2 排出量との明らかな相関を示す
ことが示されており IPCC ガイドライン(IPCC 2006,2014)においても,同様の関係
が参照されている(図 7.1)。現時点でインドネシア政府決定の排出係数は無く,かつ
IPCC Guidelines 2006 にも沿岸泥炭地に対する具体的数値の記載は無い。そのため,
スマトラ島の森林伐採後の泥炭プランテーションにおいて,沈下量計測とガスフラッ
クス計測の両計測法で検証され,かつ最も保守的な値である,Hooijer et al. (2012)によ
る関係を採用し EFPEAT-CO2=69 tCO2/ha/y/m とする。
モニタリング精度は,広大な沿岸泥炭地の不均一性を考慮すると,真値の幅も大き
いと考えられ,要求精度として一意に決定することは困難である。ここでは,現状の
測定技術による既報値のばらつき約 40 tCO2/ha/y/m を踏まえて,その保守側の数値を
採用することで代用する。
なお,モニタリングは事業前に最低 1 回,事業後は工事等による影響があった年に
実施する。
7.3.10 将来性の有るツール
(1) 地形解析
地形データの解析は,日本の陸域観測衛星だいち (ALOS) に搭載された PALSAR
を使用した.図 7.23 に PS-InSAR 解析に用いたジャンビ周辺の地図画像である.対
象地域であるジャンビを含む 2007 年 12 月から 2010 年 11 月にかけて観測 され
た画像から,軌道条件から十分な条件を満たすと判定された 6 枚の画像を選び出し,
2009 年 3 月の画像をマスター画像として干渉 SAR 解析を行った (Tsunoda et al.,
2014). これにより雨季の冠水と乾季の泥炭の分解に伴う泥炭層の沈降の分布図が作
成された.
46
図 7.23 PS-InSAR 解析に用いたジャンビ周辺の地図画像.
図 7.24 に InSAR 解析に用いたジャンビ周辺の InSAR 解析画像を示す.同図には,
PS-InSAR 解析の結果得られた衛星視線方向の年間平均変動速度を示した.正の値(青
色) が隆起,負の値(赤色) が沈下を意味している.北東の海岸近くでの沈下現象と南
西の河川沿いでの隆起現象が顕著であったことを示唆する推定結果となった.それぞ
れの地域において,最大 109.51 mm/year の沈下及び最大 76.91 mm/year の隆起が解析
結果から推定された.沈下の著しい地域と泥炭地の分布地域が広く重なり合っている
ので,泥炭の荒廃が確かに沈下現象の引き金になっていることが推測される.また推
定結果から,研究対象地域内で空間的に不均一な変動が生じていることも確認できる.
この不均一性について議論をするため,図中に示した A,B,C の円で囲んだ領域に
含まれる PS 点群について,より詳細な変動分析を行った.船着場が存在し,定点位
置情報として船着場周辺(B の円) とその他の領域内(A と C の円) の PS 点群が示す
挙動を比較することで,対象地域内の地盤変動の空間的不均一性を定量的に評価し,
その特性を検討することを試みた.
図 2.4A,B, C は,それぞれの円領域内の変動を時系列で示したものである.Ave は
各円に含まれる PS 点の変位の平均値(エラーバーは標準偏差) を示し,SV は沈降速
度を示し,平均沈降速度が直線の傾きとして一定に与えられた場合の変動線を表す.
B のグラフに着目すると,微小な変動は存在するものの比較的安定した挙動を示して
いる.これは,この地域の PS 点が不動点である船着場から近いためであると考えら
れる.一方で,A と C のグラフでは,小さな振動を繰り返しながら大きく沈下もし
くは隆起していることが読み取れる.微小振動は,雨季乾季の季節に影響されている
可能性が大きいのではないかと考察した.また,全観測期間を周期とするかのような
長周期的な変動も存在しているようにも読み取れる.さらに興味深いことに,どちら
かが沈下を示すともう片方では隆起が起きるというような逆相関の関係性が確認さ
れた.変動の規模も一致しているようである.この原因は不明であるが,精度検証と
ともに解明に努めることを今後の課題としたい.
47
図 7.24 InSAR 解析に用いたジャンビ周辺の InSAR 解析画像
(2) 稲作収量解析
植生指数を用いて稲作収量の解析を行うことができる。植生データは,米国宇宙研
究機構 (NASA) が提供する極軌道衛星データ MODIS データを入手し,2007 年 1
月 1 日から 2014 年 12 月 31 日までの 8 日間合成画像 (MOD13Q1) から正規化
植生指数 (NDVI) を算出し,幾何補正,切り出し処理を行った.空間分解能 は 250m
である.図 7.25 に MODIS の可視画像の一例を示す.
稲作収量は,MODIS NDVI の植生データと圃場レベルでの稲作収量データとの回
帰 分析によって求めた.図 7.26 は,ジャンビの圃場レベルでの稲作収量データと
MODIS NDVI の値を示している.これによると,ジャンビ地域の圃場では雨季作の
一期作が実施されており,収量は 1ha あたりおよそ 1 から 4 トンとばらつきが大
きく,全般的に米の生産性は低い.また年によって収量に大きなばらつきがみられ,
2012 年から 2013 年にかけては豊作だったが,2013 年から 2014 年にかけては不作
であった.不作の年の収量は,豊作の年の 4 割程度まで落ち込むことがあることが
確認された.
図 7.27 は,図 7.26 に示したサンプルプロットのうち代表的な点である 2, 4, 11 を
選ん で 2010 年から 2014 年までの MODIS NDVI の値を表示した.これによると,
いずれの プロットも,雨季に相当する 11 月から 2 月にかけて NDVI の値が上昇,
ピーク,下降 の変動をしていることがわかる.雲に起因する NDVI の低下がみられ
るため,これら の値の平均値を収量との解析に使用することとした.
図 7.28 は,MODIS NDVI と圃場レベルでの稲作収量データとの回帰分析結果を示
し ている.MODIS NDVI は雨季作に相当する 11 月から 2 月の平均値を示してい
る.指数関数で回帰分析を行った結果,決定係数 R2 が 0.728 と高い相関関係が導
かれた.
48
図 7.25 スマトラ島の MODIS の可視画像の一例
図 7.26 ジャンビの圃場レベルでの稲作収量データ(サンプル)
49
図 7.27 プロット 2,4,11 の 2010 年から 2014 年までの MODIS NDVI の値.
50
図 7.28 MODIS NDVI と圃場レベルでの稲作収量データとの回帰分析結果.
51
8. FS の結果:事業サイトにおけるモニタリングと排出削減量評価
8.1 対象領域
インドネシア・ジャンビ州の沿岸泥炭湿地(図 8.1)を対象に,第 6 章で述べた
MRV 方法論に沿ったモニタリングを行った。ここでは,上述した一連のモニタリン
グデータを用い,水門改良や水路掘削などによるプロットの水位管理によって地下水
位を実験的に回復させるとともに,人工排水により乾燥した泥炭の好気性分解を抑制
することによる CO2 排出削減量を評価した。
Rantau Rasau
Canals
Simpang Puding
Berbak river
▲Kampung Simpang
図 8.1 プロジェクトサイト(スマトラ島ジャンビ州東タンジュンジャブン地方の農業
用地)
8.2 モニタリング
8.2.1 水理地形単位
以降のモニタリング項目で述べるように,プロジェクトエリア内の泥炭層厚は地区
によって異なり,約 3m 以下の範囲で薄く不均一に分布する。地下水位は概ね GL-1m
より浅い位置にある。泥炭層中の地下水位と水路の水位変化はほぼ全域で潮位に応答
し,水理地形分類ではカテゴリーA, B, C に相当する(7.3.1 参照)。一部の地域では,雨
季には排水不良となり湛水域が現れる(水理地形分類 A,B)。対象領域内の植生は,
南側ベルバック川沿いに低地性の開拓地が占め,内陸にはプランテーション農業がモ
ザイク状に分布する。
このように調査対象地は多様な不均一性が複雑に入り組んだ空間分布に特性付け
られる。そのため,単純に地形から分水界を見出して水理地形単位を定義することは
困難である。また,泥炭層の沈下,水門操作,感潮水路等の影響を受け,分水界が常
に同じではないと考えられる。一方で,本サイトはほぼ全域が水路を介した感潮域に
あり,場所による泥炭層厚の違いは小さく(約 3m 以下),また地形はほぼフラットで
ある等の共通の特徴も有している。これらの共通点に着目すると,プロジェクトサイ
52
ト全体を同一の水理地形単位として扱うことが考えられるが,測定データの代表性が
明らかでない。
このような沿岸泥炭湿地に対し,合理的な水理地形単位の決定法や観測計画の考え
方に対するガイドラインはなく,参考となる過去の調査事例もない。
そこで,本調査では,まず 1 次,2 次水路で囲まれた約 100ha の範囲を設定し,集
中観測を行うプロットと呼ばれる範囲を選定した。このプロットはプロジェクトエリ
ア内の複数個所に設置した(図 8.2)。プロットの外側にもプロジェクトエリア内に定
点の調査地点を多数設けた。
同一プロット内に設置した複数個所の測定データからは,プロット内の空間的分布,
ばらつきを分析する。また,異なるプロット間の測定データからは,プロジェクトエ
リア全域の空間的分布,ばらつきを分析する。これらの分析結果から,沿岸泥炭地に
おける測定値の代表性を考察し,水理地形単位の取り方を検討した。
B'
C
B
A
プロット(約 100ha)
A,B,B’及び C プロット
図 8.2 プロジェクトエリアと水理地形単位(プロット)
プロジェクトエリア(約 10,000ha)
8.2.2 降水量
プロジェクトエリアの降水量をモニタリングするための衛星データ GSMaP を入手
した。本データは 0.1°メッシュを単位として取得することができ,対象地域のベルバ
ックデルタ一帯では 4 つの画像(AO212, AO213, AP212, AP213)に関するデータが該当
した。図 8.3 に 2014 年 3 月以降の時間雨量データ(AO212,図右上)を示す。他の
画像との差異を確認するため,この期間の累積雨量を比較したところ(図右下),い
ずれも,約 10 か月間の累積雨量は 1800mm となり,画像間の違いは見られなかった。
53
AP212
AO213
AP213
10.0
9.0
8.0
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
Cumulative height (mm)
AO212
Precipitation (mm/h)
経度 / 緯度 (WGS 84)座標 0.1度×0.1度のグリット
GSMAP_NRT データ抽出位置
AO212
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
AO212
AO213
AP212
AP213
図 8.3 GISMaP 降水量データ
8.2.3 気温
方法論に従い,気温データのモニタリングはアメリカ海洋大気庁 NOAA の GHCN
(Global Historical Climatology Network)-Daily より日単位データを入手して用いた。図
8.4 に 2013 年 1 月以降の Jambi 地点における気温データを示す。1 日の気温変化は 5℃
前後であり,1 年を通じて同一のパターンを示す。図中の実線は 14 日間の移動平均を
示し,雨季と乾季の傾向の違いが見られる。期間中の平均気温の変化は小さく 26.6℃
であった。なお,前述のハーモン法に従い,この気温データを用いて算定された蒸発
散量は 2~3mm/d で横ばいであった。
30
Air temperature (degC)
29
28
27
26
25
24
23
22
2013
21
2014
20
J
F M A M J
J A S O N D J
F M A M J
J A S
図 8.4 気温観測データ(NOAA GHCN-Daily)
8.2.4 地形
プロジェクトエリア内の 5 測線 A~E,プロット A,B 及び C を中心に地形測量を
行った。図 8.5 に測量地点と測線位置を示す。図 8.6 は,このうちの測線 BB’及び
CC’に沿った地盤高を示したものである。これより,プロジェクトエリア内の地形は
54
北側が高く,南側が低くなり,標高はおよそ 1~3m,地形勾配はほぼ無く全体が平坦
な特徴をもつ。
D
E
B
A’
E’
D’
C’
A
C
B’
図 8.5 地形測量地点と測線
55
6
A‐A’ 5
C‐C’ 標高(m)
4
3
2
1
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
16000
18000
距離(m)
B
B’
6
B‐B’
5
標高(m)
4
3
2
1
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
8000
距離(m)
C
C’
図 8.6
BB’及び CC’側線の地形測量結果(標高)
8.2.5 土地利用・被覆
ベースラインを把握するため,調査対象地をカバーする既存の土地利用・被覆デー
タを入手した。前述のとおり,集中型水理モデルを用いる範囲では,これらのデータ
は入力データとして用いる必要はない。
図 8.7にシンガポール国立大学(Centre for Remote Imaging, Sensing and Processing,
National University of Singapore)より公表されている250mメッシュ土地利用・被覆マ
ップを示す(CRISP/NUS)。ベルバック川沿いに低木草の開拓地が占め,内陸にはプ
ランテーション農業がモザイク状に分布する。
56
図 8.7 土地被覆(2010年,CRISP/NUS)
作付け毎にさらに細分化したデータが Jambi 大学で作成されている。図 8.8 に 1973
年,1989 年,1998 年,2008 年のベルバックデルタの土地被覆の変遷を示す。約 10
年毎に作成され,最近の約 40 年間の変化を確認することができる。1973 年では「森」
と「水田」から構成されていた植生が,「ガーデンミックス」,「低木グローブ」を経
て,2008 年には,「ココナッツ」,「ゴム」,「オイルパーム」へ変わり,モザイク状に
不均一な分布を示す。
1973 年
1989 年
57
1998 年
面積(ha)
年
植生
1
2
3
4
5
6
7
8
*
**
***
2008 年
森
ライス
低木グローブ
ガーデンミックス
ココナッツ
村
ゴム
オイルパーム
合計
1973*
1989**
1998**
2008***
16,302.58
11,198.34
569.79
1,704.33
18,457.90
1,144.30
4,126.25
2,504.71
133.22
186.46
10,610.65
6,274.77
4,953.23
5,584.63
460.97
28,070.71
28,070.71
28,070.71
166.66
12,425.46
1,351.50
729.62
9,526.74
198.65
1,046.66
2,625.43
28,070.72
: 1973 年ベルバックデルタ調査と衛星データ
:ランドサット TM の分析と農民からの情報
:ランドサット TM の分析と農民からの情報および現地調査
図 8.8 ベルバックデルタの植生マップ(Asmadi, 2010)
8.2.6 水門・水路
プロジェクトエリア内の既設の水門配置とその操作状況,基本諸元を確認するため
の現地調査を行った。
表 8.1 に調査結果(一部抜粋)を示す。約 200 箇所の水門を対象に,形式(GATE
CONTROL TYPE),使用状況(STATUS),幅(W)・高さ(H),水深(D),開閉操作確認
(AVAIILAVLE OF GATE OPERATION)等の基本データを取得した。また,水門全景と
周囲の写真撮影を行い,水路内の流動状況及び周囲の植生状態を確認した。
本調査の結果,大部分の水門は開放された状態であり,水流による路床洗掘や法面
変形等のため完全に閉鎖できない水門が多く確認された。一部の農村単位では,潮見
表で水量の干満を知り,開閉操作が行われている。周囲の受益区との連携運用は体系
的なものではなく,慣習的な範囲で行われている模様である。
58
表 8.1
NO
DATE
CODE
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
21-Nov-11
22-Nov-11
22-Nov-11
25-Nov-11
22-Nov-11
22-Nov-11
22-Nov-11
22-Nov-11
22-Nov-11
sk 20
simpang puding
simpang puding
simpang alahan
simpang alahan
sk 3
sk 4
sk 5
sk 6
sk 7 alahan
sk 7 alahan
sk 6
sk 6
sk 5
sk 5
sk 4
sk 4
sk 3
sk 3
sk 2
sk 1
sk 1
sk 1
水門諸元及び操作状況の調査結果(抜粋)
COORDINATE
X
-1.14459
-1.22234
-1.22234
-1.22318
-1.22318
-1.22678
-1.23836
-1.24475
-1.24956
-1.25243
-1.25243
-1.23781
-1.23702
-1.23413
-1.23336
-1.23008
-1.22939
-1.22604
-1.22504
-1.22181
-1.21928
-1.21928
-1.21928
Y
104.09723
104.07850
104.07850
104.07882
104.07882
104.08069
104.08252
104.08230
104.08491
104.08568
104.08568
104.09840
104.09944
104.09570
104.09661
104.09245
104.09324
104.08835
104.08948
104.08673
104.08412
104.08412
104.08412
ELEVATION
GATE CONTROL
TYPE
11
18
18
20
20
15
18
17
17
17
17
14
17
16
19
14
13
14
14
15
12
12
12
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
Wheel
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
manual
STATUS
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
CLOSE
OPEN
OPEN
OPEN
OPEN
CLOSE
CLOSE
SIZE
W
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
120
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
H
288
559
559
445
445
287
305
306
287
603
603
353
287
287
287
301
287
287
287
284
548
548
548
HEIGHT OF
OVERFLOW
WATER
DEPTH
95
260
110
140
150
88
98
80
80
313
151
70
8
85
115
120
0
124
112
91
270
0
0
125
222
222
200
200
123
175
137
95
293
293
126
101
130
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N.G
N.G
N.G
N.G
:
8.2.7 地下水位
(1) 現地計測結果
プロジェクトエリア内に設けたプロット内外の複数地点に地下水位観測井を設置
した。図 8.9に観測点配置を示す。
各プロットでは,測定値のばらつき及び代表性を確認するため,プロット内に複数
の観測井を設置した。プロット外の観測井についても,プロジェクトエリア全体での
測定値のばらつき及び代表性を確認するため,複数地点を設置した。観測期間は2011
年11月から開始し,現在も継続している。本モニタリングは,上述べる方法論に従っ
て2週間に1回の頻度で水位測定を行っている。
図 8.10,図 8.11に測定結果を示す。いずれも地表面から水面までの距離を示し,プ
ロット毎(PlotA, Plot B及びPlot C)及びプロット外(Transections)の分類で整理した。
正の数値は地上,負値は地下に水面があることを表す。各プロット内の赤の太線は,
同一プロット内の同時期の測定データの平均値を表す。
これらの測定結果によると,乾季と雨季の水位変動パターンの違いが明瞭に見られ,
毎年 9 月以降の乾季に水位の低下傾向が確認される。2013 年の乾季は,前後の年に対
して降水量が多かったため,水位の低下量はわずかであった。プロット毎の平均水位
(赤の太線)は,それぞれの測定データとほぼ同じパターンで変動しており,プロッ
ト内の水理的特性に関する不均一性は顕著でないと考えられる。このような傾向はプ
ロットによらず,全てのプロットで同様の傾向である。
図 8.11にプロット毎に集計した平均地下水位とプロット外の広域における平均地
下水位の関係性を示す。いずれのプロットについても,プロット外の平均地下水位と
の相関性は,決定係数0.7~0.8の範囲と高い。したがって,プロジェクトエリア内の
地下水位は,ほぼ同様の変動パターンを示し,場所による違いは顕著でない。これは
沿岸泥炭地の水理的特性の空間分布がほぼ均一であることを示唆するものである。
59
平均水位
Plot C
400
380
360
340
320
300
280
260
240
220
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
Water level (GL.m)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
‐0.1
‐0.2
‐0.3
‐0.4
‐0.5
‐0.6
‐0.7
‐0.8
‐0.9
‐1
‐1.1
‐1.2
‐1.3
‐1.4
‐1.5
‐1.6
‐1.7
‐1.8
‐1.9
‐2
Water level (GL.m)
2011/11/1
2011/12/1
2012/1/1
2012/2/1
2012/3/1
2012/4/1
2012/5/1
2012/6/1
2012/7/1
2012/8/1
2012/9/1
2012/10/1
2012/11/1
2012/12/1
2013/1/1
2013/2/1
2013/3/1
2013/4/1
2013/5/1
2013/6/1
2013/7/1
2013/8/1
2013/9/1
2013/10/1
2013/11/1
2013/12/1
2014/1/1
2014/2/1
2014/3/1
2014/4/1
2014/5/1
2014/6/1
2014/7/1
2014/8/1
2014/9/1
2014/10/1
2014/11/1
2014/12/1
Plot A
400
380
360
340
320
300
280
260
240
220
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
‐0.1
‐0.2
‐0.3
‐0.4
‐0.5
‐0.6
‐0.7
‐0.8
‐0.9
‐1
‐1.1
‐1.2
‐1.3
‐1.4
‐1.5
‐1.6
‐1.7
‐1.8
‐1.9
‐2
2011/11/1
2011/12/1
2012/1/1
2012/2/1
2012/3/1
2012/4/1
2012/5/1
2012/6/1
2012/7/1
2012/8/1
2012/9/1
2012/10/1
2012/11/1
2012/12/1
2013/1/1
2013/2/1
2013/3/1
2013/4/1
2013/5/1
2013/6/1
2013/7/1
2013/8/1
2013/9/1
2013/10/1
2013/11/1
2013/12/1
2014/1/1
2014/2/1
2014/3/1
2014/4/1
2014/5/1
2014/6/1
2014/7/1
2014/8/1
2014/9/1
2014/10/1
2014/11/1
2014/12/1
平均水位
Precipitation (mm/d)
Plot B
Transections
400
380
360
340
320
300
280
260
240
220
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
Precipitation (mm/d)
平均水位
400
380
360
340
320
300
280
260
240
220
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
Precipitation (mm/d)
Primary Canal
Precipitation (mm/d)
2011/11/1
2011/12/1
2012/1/1
2012/2/1
2012/3/1
2012/4/1
2012/5/1
2012/6/1
2012/7/1
2012/8/1
2012/9/1
2012/10/1
2012/11/1
2012/12/1
2013/1/1
2013/2/1
2013/3/1
2013/4/1
2013/5/1
2013/6/1
2013/7/1
2013/8/1
2013/9/1
2013/10/1
2013/11/1
2013/12/1
2014/1/1
2014/2/1
2014/3/1
2014/4/1
2014/5/1
2014/6/1
2014/7/1
2014/8/1
2014/9/1
2014/10/1
2014/11/1
2014/12/1
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
‐0.1
‐0.2
‐0.3
‐0.4
‐0.5
‐0.6
‐0.7
‐0.8
‐0.9
‐1
‐1.1
‐1.2
‐1.3
‐1.4
‐1.5
‐1.6
‐1.7
‐1.8
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2011/11/1
2011/12/1
2012/1/1
2012/2/1
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2013/4/1
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2014/10/1
2014/11/1
2014/12/1
Water level (GL.m)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
‐0.1
‐0.2
‐0.3
‐0.4
‐0.5
‐0.6
‐0.7
‐0.8
‐0.9
‐1
‐1.1
‐1.2
‐1.3
‐1.4
‐1.5
‐1.6
‐1.7
‐1.8
‐1.9
‐2
Water level (GL.m)
Plot B’
Secondary Canal
Plot C
Plot B
Plot A
Berbak River
図 8.9 プロジェクトサイトの地下水位観測点配置
図 8.10 地下水位モニタリング結果
(2 週間毎の観測データ,2011 年 11 月~2014 年 12 月)
60
図 8.11 プロット別地下水位(横軸)とプロット外広域地下水位(縦軸)の相関性
(2) 水理モデルによる解析結果
方法論に従い,集中型水理モデルによる地下水変動解析を行い,事業前後の地下水
位(リファレンス水位,プロジェクト水位)を算定した。
プロジェクトエリア内の全地下水位観測データの平均値(2012 年~2014 年)を求
め,集中型水理モデルの解析結果と比較した(図 8.12)。
平均流入出力量 R を用いて水理モデルの較正を行った結果,平均観測水位を最もよ
く再現する R は 0.025mm/d(水面が地下にある場合),5mm/d(水面が地上にある場
合)であった。このときの RMSE は 0.156m であった。方法論の要求精度は RMSE が
0.1m 以下でなければならない。そこで,平均流出量を降水量に依存させた関数式
R=A×(Pr)B により表し,再較正を行った。A,B は較正パラメータを表す。その結果,
RMSE=0.142m とな若干の改善が見られたが未だ精度を満足しない。同様にして,平
均流出量を観測水位に依存させた関数式 R=A×RWTB とした場合,RMSE=0.141m とな
った。しかし,依然として方法論の要求精度を満たすには約 0.04m の精度改善が必要
である。複数年の雨季,乾季毎の観測データ(複数年の平均降水量,平均地下水位)
に対して較正を行う等の手法改良または詳細な分布型水理モデルの利用可能性を検
討する必要がある。
事業後の地下水位観測データは,Plot A 内で実施した水位管理実験で得られた結果
を用いた。同様にして,集中型水理モデルによる地下水位の解析結果を行い,観測デ
ータと比較した(図 8.13)。平均観測水位を最もよく再現する R は-0.4mm/d となり,
事業前の値よりも小さくなった。これは,水位管理により圃場から水路への排水が抑
制された効果を示唆するものである。
61
図 8.12 集中型水理モデルによるリファレンス水位の計算結果(事業前)
図 8.13 集中型水理モデルによるプロジェクト水位の計算結果(事業後)
8.2.8 泥炭深
プロジェクトエリア内の約 200 地点で,泥炭分布を把握するためのサンプリング調
査を実施した。これは水理地形単位(プロット)毎に 1 点以上とする方法論の要求事
項を満たす調査地点数である。図 8.14 にサンプリング配置と各地点の泥炭層の層厚
(0~1m,1~2m,2~4m に区分)を示した。これらの調査地点の層厚を GIS 上で数
値化し,点データを空間内挿補間することで,プロジェクトエリア内の泥炭層分布を
推定した(図 8.15)。これによると,泥炭の分布する範囲はモザイク状に不均一であ
り,大部分が 2m より小さいことがわかる。一部に 2m 以上の地域も見られるが,連
続的な広がりは見られず点状に分布している。
62
図 8.14 泥炭層厚のサンプリング調査地点
図 8.15 泥炭層厚分布の推定結果
8.2.9 排出係数
第 6 章で述べたとおり,
Hooijer et al. (2012)による排出係数 EFPEAT-CO2=69 tCO2/ha/y/m
を用いる。
なお,対象サイトは沿岸泥炭地であり,他の地域を対象とした既存の排出係数の適
63
用性が不明である。泥炭湿地で計測される沈下量には,感潮の影響による排水・吸水,
営農による地表面荷重に対する圧密など,分解以外の体積変化が含まれる。圃場から
の排水による沈下の長期的傾向のみを定量化することは容易でない。そこで,本調査
では上述の地下水位モニタリングと合わせて沈下量の計測を実施し,現時点でのロー
カルな排出係数を求めた。図 8.16 に沈下法により求めた CO2 排出量と平均地下水位
の関係を示す。ばらつきがやや大きいが,排出係数は 76.7 tCO2/ha/y/m となり,現時
点では Hooijer et al. (2012)らの数値とほぼ整合する結果となった。
図 8.16 沈下法により求めた CO2 排出量と平均地下水位の関係
上記のとおり,沈下量計測値の全てが分解によるものではない。泥炭がほとんどの
分布しない地点や沈下傾向がみられない地点(吸水等による体積膨張と考えられる)
のデータを除外し,年平均地下水位を排水深として, CO2 排出量を図 8.17 のとおり
整理した。ここでは,計測値の 40%が分解による沈下量と仮定した。図下段には Joosten
et al (2009)らのデータを示す。これによると,測定値の期間,標本数に違いがあるも
のの,現状の CO2 排出量は約 75 tCO2/ha/y/m であり,Joosten et al らのデータとほぼ
整合する。
64
Period: Nov.2011 to Oct. 2013
Volumetric carbon content: 0.068 gC/cm3
40% oxidative component to total subsidence
This study
Joosten et al.,2009
図 8.17 沈下法により求めた CO2 排出量,沈下量,排水深との関係
65
9. FS 結果: 対象国・プロジェクト対象地域の気候変動を巡る情勢、政策等の概況
9.1 ホスト国の気候変動に関する情勢
以下に、ホスト国における気候変動政策に関する情勢を列記する。

インドネシア政府は、国連に提出したNAMA活動方針(2010)に基づき、国家行
動計画(RAN-GRK, 2010)を策定し、その中で「サステナブルな泥炭地管理」、
「森林破壊・土地荒廃の低減」は、最優先課題として位置付けられている。

泥炭地からのCO2排出量は2005年時点で、約8億トンと全排出量の38%を占め、
対策がなされない場合には2030年時点で約10億トンに増加すると予測されて
いる(National Council for Climate Change; DNPI、2010)。

国家開発企画庁(BAPPENAS)は、2020年までの国家削減目標の達成を目的に、
部門別ロードマップを基にした国家行動計画を作成し、関連省庁との調整を担
当。

実施プログラムは70からなり、下記の原則・基準に基づいて優先づけられる。
また、関連部門・地方政府・その他の経済主体が緩和行動の実施を計画・開発・
監視・評価する際の指標となる。

将来にわたり、泥炭地を含む土地利用からの排出量が最大であり、土地利用分
野からの排出を6.7億トン(自国NAMAによる削減分26%)、3.7億トン(支援
NAMAによる削減分15%)削減するのが2020年までの目標である。

具体的な、プロジェクト計画と予算化に関しては、インドネシア国家気候変動
評議会(DNPI)、REDD+庁、JCM事務局、環境森林省(2015年2月に環境省と森
林省が統合)、公共事業・住宅省(2015年2月に公共事業省と住宅省が統合)
等の関連省庁が検討を進めている。
図9-1 インドネシアにおける排出量予測
(Updating Indonesia’s Greenhouse Gas Abatement Cost Curveより)
66
図9-2 インドネシアにおける国家・州レベルの連携*
*「新メカニズ情報プラットフォーム」website より(原 典 :Thamrin, S.(BAPPENAS)(2010), "Developing
Nationally Appropriate Mitigation Actions (NAMAs) in Indonesia", Cancun)
9.2 REDD+、泥炭地管理に関する情勢・政策等
以下に、インドネシアにおけるREDD+、泥炭地管理に関する情勢・政策に関する情
報を列記する。
 インドネシアでは、排出削減ポテンシャルが高く、対策コストが比較
的 抑 え ら れ る REDD+ に 関 心 が 高 く 、 国 際 的 な 支 援 を 受 け て 積 極 的 に
取組もうとしている(下表参照)。
図9-3 インドネシアにおける森林資源に関する政策動向
(「新メカニズ情報プラットフォーム」websiteより)

2010年に締結された「インドネシア・ノルウェーREDD+パートナーシップ」に
おいて、ノ ル ウ ェ ー 政 府 は イ ン ド ネ シ ア に お け る 森 林 減 少 ・ 劣 化 お よ
び 泥 炭 地 か ら 排 出 さ れ る GHG削 減 の た め 、活 動 の 成 果 に 応 じ て 最 大 10
億 USD を 支 援 す る と し た 。 こ れ を 受 け て 、 イ ン ド ネ シ ア に お け る
REDD+政 策 の 推 進 お よ び プ ロ ジ ェ ク ト の 実 施 が 期 待 さ れ て い る が 、現
67
在 ま で に 消 化 さ れ た 関 連 予 算 は 、 支 援 可 能 総 額 の 5%で あ る 0.5億 USD
にとどまっている。

インドネシア-日本の二国間オフセット・クレジット制度JCMのインドネシア側
事務局とのやり取りの中で、以下の情報が得られている。
- 現時点で、非エネルギー分野のREDD+、土地利用関係のプロジェクトについ
ては、クレジットがプロジェクト利益の源泉であること、そのクレジットの
取り扱いが未定であることから、自らの投資で事業を開始することが難しい
ことを理解している。
- そうした環境の中で、REDD+、土地利用関係のプロジェクト実施を促進する
ためには、国際基金を含めて、マルチの資金を活用できる枠組みを考えたい。
そのために、JICA資金を利用して検討を進める予定である。本FS案件をケ
ーススタディの一つとして扱いたい。

森林保全分野の活動としては、国連やJCMの枠組みに先行して、希少動物や植
物を保全するという側面を持つプロジェクトに対して、欧米からの寄付金をベ
ースとする活動が先行しており、WWF、ロンドン動物学会(ZSL)、Wetland
International, Fauna&Flora International(FFI)等のNGOが、活発に活動を行ってい
る。

例えば、MCA(Millennium Challenge Account)基金により、ジャンビ国立公園
の泥炭森林とスマトラトラの保全に対して、WWF, ZSLらが活動を行っている。
FFIは欧米からの寄付金をベースに、コミュニティフォーレスト保全活動を実
施。

泥炭地管理に関しては、アメリカの基金をベースに、Indonesia Climate Change
Centre (ICCP)が設立され、これまでに関係者会議を年数回開催し、泥炭地保全
に向けての取りまとめを行おうとしてきた(下記写真は2013年5月に開催され
た際のもので、北大・大崎先生、Dr. Hooijer、インドネシア政府・大学関係者
らが出席し、清水建設からは平山が出席)。
68
図 9-4 ICCP主 催 の 泥 炭 地 管 理 に 関 す る 会 議 ( 2013.05の 際 )

こうした活動をまとめて、同機関が、泥炭地管理に関するレポート「Integrated
Sustainable Peatland Management, 2014」、「ICCC Peatland Definition and Peatland
Mapping Methodology Assessment Report,2013」等を発行した。泥炭地の定義、
泥炭深度等の計測手法、衛星データに基づく地下水位推定手法(本FSメンバー
である竹内渉教授の研究成果)がまとめられており、北海道大学がJST-JICAプ
ロジェクトとして実施した中央カリマンタンの荒廃泥炭地での研究成果も盛
り込まれている。

ICCPは、活動の一環として、インドネシアにおける泥炭地の統合マップ作り
(One Mapping)に取り組んだが、関係者間の調整が難しく、最終的には完成
に至らなかったと聞いている。

2014年の大統領選挙、大統領交代に伴う省庁再編等を含む政策変更の影響を受
けたこともあり、気候変動対策、REDD+、泥炭地管理に関連する政策に関して
は、全般的に表立った動きが見られない。
9.3 プロジェクト対象地域における気候変動情勢・政策等
以下に、プロジェクトサイトが属する、ジャンビ州および東タンジュンジャブン県
における気候変動政策に関する情報を列記する。

ジャンビ州では、インドネシア政府が2011年11月に策定した国家行動計画
(RAN-GRK)を受けて、州レベルの行動計画(RAD-GRK)を策定している。

その結果、排出削減に対する州政府、県関係者の意識は、向上してきているこ
とが感じられる。5年前には、一部の州・県関係者は、泥炭地管理よりもパー
ム農園開発が重要とのスタンスを取る方もいたが、現在では、それを表だって
コメントする方は少なくなっている。

適正な泥炭地管理を妨げる原因の一つである、パーム農園開発、パルプ林開発
の分野においても、関係者に対する国際的圧力から、新たな泥炭森林地におけ
る開発を行わない旨を企業ポリシーとして位置付けつつある。

そうした動きを受けて、深い泥炭層が賦存する、スマトラ島東海岸を対象に、
泥炭分布のLidar調査等を実施しようとする計画がある。

ジャンビ州を含む地方レベルでの、土地利用に起因する排出や排出削減、その
管理等に関する知識レベルの向上には、大学がその役割を部分的に担ってい
る。

ジャンビを含むスマトラ島の低湿地に関する研究は、先駆者である古川久雄博
士により行われており、1983年頃にジャンビ州の低湿地に初めて入った旨を書
かれている(インドネシアの低湿地、古川久雄著、1992)。

ジャンビ大学には、泥炭研究所が設置されており、本FSメンバーであるAsmadi
助教授(古川博士のサイトワークのサポートを経験)を含めて、泥炭地保全に
対する関心が高い。2014年には、ジャンビ大学主催で「サステナブルな土地利用
69
技術に関する国際セミナ(International Seminar on Land Reclamation Technology
for Sustainable Land-Use、2014.11.06-07)」が開催され、本FSに関する発表を基
調講演において行った。

2013年5月には、インドネシア灌漑学会の年次大会がパレンバンで開催され、
州知事が開会挨拶を行い、公共事業省の灌漑局、水資源局の現局長、歴代局長
を含む関係者が参加した。オープニングの基調講演において、気候変動対策関
連のトピックが取り上げられ、その一環として、本FSの内容紹介を基調講演に
て行った。

稲作に関しては、東タンジュンジャブン県(TJT)の LP2B(持続可能食糧開発計画
=稲作地を転用せずに、今後も稲作地として使用していくための計画)は、県議
会承認を経て中央に提出された(2014 年)。当初案の対象 17,000ha を 28,000ha
に増やすよう指示があり、TJT 側は対応を進めている。

TJT 農業局長他と一緒にプロジェクトサイトを見て回り、水管理の重要性、農
民組合と連携して、水門管理を進めることを、TJT の翌年度事業計画に入れる
ことで合意。

2012 年に圃場内に3次水路と水門を設置して、パイロット事業(乾季に水を圃
場内導入し、稲作を実施)を実施した Plot A は、現在まで継続して、水位管理
とモニタリングを実施して来ている(図 9-5~9-7 参照)。ここの農民達は、LP2B
の下での稲作持続同意書に最初サインをしなかった。その理由は、TJT の担当
者からの説明を受けた際に、サインをすると稲作以外にパームを植えると(圃
場の端や、自宅前の敷地に植栽しているケースがある)牢屋に入れられると、
受け止めたためである。

その後、別のスタッフと地元大学関係者が丁寧に説明を行った結果、LP2B の
下で支援(農薬、肥料、種もみ等の支給)を受けながら稲作を行っていくこと
ができる制度である旨を理解して、同意書へのサインをし、農民組合が水管理
組合を兼ねて活動を行っていく姿勢を見せている。

このように、いい制度であっても地元民への説明の仕方次第で、受け入れを拒
まれる可能性が有ることがあるため、地元民の理解を丁寧に行い、理解を得る
事が大事である。本 FS では、次章に示すように、地元農民に本 FS の目的や実
施内容に関する説明会を行い、継続して協力して水管理を進めること、地元政
府・中央政府と連携して、水管理組合を組織し、LP2B の下で適切な水管理と
稲作増産を行う方向で合意している。

このように、本 FS では、地元の大学関係者を先導役として、地元農民との対
話を継続して行い、協力体制を築いている。図 9-8 にその一例を示す。
70
図 9-5 パイロットサイト Plot A における3次水門による水位管理
(フラップゲートにより圃場側の水位を、排水側である2次水路よりも高く保った状態)
図 9-6 パイロットサイト Plot A の排水側である2次水路
図 9-7 パイロットサイト Plot A における稲作状況と雨量計(左側手前)
71
図9-8 地元農民組合とのプロジェクトに関する対話会
72
10. FS 結果: プロジェクトの体制、ファイナンスその他の環境整備
10.1 プロジェクトの具体的協力可能性
インドネシア中央政府の公共事業省(PU)は、当該地域の開発および今後の低地開
発担当官庁であり、政策決定および地方公共事業局を指導する立場にある。したが
って、水位管理のための水門・水路の管理計画に関しては、PUと共同で進める予定
である。一方、対象地域での運営はジャンビ州・東タンジュン・ジャブン県政府の
公共事業局および農業局が、日本側プロジェクト実施コンソーシアムのカウンター
パートとなる体制を考えている(図10-1参照)。
現在までの複数年にわたる、FS実施における協力関係から、関係機関との協力関
係は築けている。それに加えて、JCMクレジットがプロジェクトの主なリターンで
ある、REDD+および土地利用関連の非エネ起プロジェクトにおいては、下図のよう
な官民のパートナーシップの下でプロジェクトを実施する際には、プロジェクトの
投資スキーム、得られるクレジットの配分等に関する枠組みを、JCM委員会にてオ
ーソライズして行く必要がある。
Public-Private Joint Project
Min of Public Works
Supervision
Local Government
– Jambi province
– Tanjung Jabung Timur
Cooperation
Project Consortium
図 10-1 事業実施時の協力関係
本FSで想定している、実施プロジェクトのスキーム案は以下のようである。

1次、2次、3次水路と水門の整備を、日本側プロジェクト実施者が投資により行
う。同時に、PUによる整備計画・資金を事業計画の一部として取り込む。

地元関係者に、その事業計画を示し合意を得る。地元政府は、稲作増産計画
LP2Bとの整合性等を含めて、その事業計画を検討し、地元農民のニーズを反映
する形で修正を行い、対象地域の農民の合意を取る。

地元農民との対話の際には、本FSで培ってきた、地元大学関係者を先導役とし
て、地元農民の理解を得る形で進める。

地元政府の農業局、公共事業局、経済局(Bappeda)の協力の下で、地元農民主
体により、3次水路・水門の設置を行い、1次・2次水門と連動して、各農民の圃
場における水位管理(導水と排水)が可能なようにする。
73

地元農民は、農民組織毎に(Farmers’ Group)、1次・2次水門の開閉を適
時に行う、水位管理組織(Water User Association)を設定する。図10-2は、
水門管理における考え方(案)を示しており、地元大学関係者らが提案し
ているものである。

水門の開閉は、イスラム暦(陰暦)をベースに潮の満ち引きを利用して行
う簡単な方法とし、泥炭再湿化と稲作生産性の向上を目指す。水位管理組
織は、水門開閉、水路管理に加えて、他のプロットとの水位管理・調整、
生産品目の育成状況のチェック等も担当する。

事業者側は、水位管理前と後における水位の状態をモニタリングし(詳細
は、6章の方法論を参照)、排出削減量を定量化する。

削減量に応じて得られるクレジットは、事業投資額と公共事業省の整備管
理費に応じて分配を行う。
図10-2 水位管理のためのフロー図(図中、P3A=Water user association)
74
10.2 プロジェクトの実現に必要なファイナンス
プロジェクトサイト 10,000ha あたりのプロジェクトコストの概算を、図 10-3 に示
す。初期投資額が約 300 万ドル、年間の運営費が約 20 万ドルである。実施に必要な
資金は、日本側のプロジェクトコンソーシアムが負担することを想定しているが、現
状では JCM クレジットの市場が存在しないために、投資を行うことは難しい。
10,000ha から得られるクレジット量を、保守的に 100,000tCO2/年とした場合には、
1ton 当たりのクレジット価格を 600 円と想定すると、プロジェクト収入は 6,000 万円。
これに対して、初期投資を 10 年間の減価償却とすると、運営費用と併せた、年間の
支出額は約 5,000 万円となる。したがって、利益が年間 1,000 万円出る可能性が有る
ことになる。
以上の計算には、このプロジェクトのもう一つの効果である、稲作増産の経済的効
果は考慮していない。
Phased Project Cost (10,000ha)
1. Capex: 3 million USD
 Gate/canal improve/install
 Tertiary gate/canal install
 Monitoring equipment
 Validation
2. Opex: 0.2 million USD
 Gate/canal operation/maintenance
 Monitoring equipment
 Monitoring & data process
 Verification
図 10-3 プロジェクトコストの試算
JCM クレジットの市場が現時点では無いため、上記の経済性検討を含めて、事業の
実現可能性については、①2020 年以降の国連気候変動枠組み、②そこでの土地利用に
関する排出削減の枠組み、③同じくフレキシブルメカニズムに対する枠組みが固まる
のを待つ必要がある。2015 年の国連気候変動パリ会議(COP21)において、これらが討
議され進展することが期待されている。
したがって、現時点では、上記 9.2 に記載した JCM インドネシア側事務局の考えの
ように、複数の外部基金(資金)を利用して、排出削減の取組みを促進することが現
実的であると考える。
75
11. FS 結果: プロジェクトを通じて得られる経済的効果とその他の効果
上記のように、プロジェクトの直接的な源泉はクレジット収入である。ここでは、
それ以外の稲作増産に伴う経済的効果と、インドネシアのサステナブルな発展への貢
献に関して記載する。
11.1 稲作収量の増加
荒廃泥炭農地において水位管理を適切に行うことにより、排出削減のみではなく、
乾季と雨季において、タイムリーな稲作を行うことが可能になる。図 10-4 に示すよ
うに、雨季には多すぎる雨で圃場の水位が高くなり過ぎて、植付、刈取りが適時に行
えない状況にある。一方で、乾季には水位低下により、表層土が乾燥するのみでなく、
下層の硫酸性土壌の酸化を引き起こし、雨季の初期において、圃場内水の pH が大き
く低下し、コメの生育を阻害している。これらの問題を、水管理を行うことで緩和し、
稲作収量を現在の 2 トン/ha/年という、熱帯地方における生産量としては非常に低い
ものを、4トン/ha/年程度に向上することが可能になると考える。
図 10-4 に示すように、稲の生産量が増えると、それに伴い発生する籾殻をバイオ
マス燃料として利用し、熱風を発生させてコメを乾燥させ、品質を向上させることが
可能になる。これまで、農民はタイムリーな植付けや刈取りを行えず、コメの品質が
下がるために、買取価格を低く抑えられてきた。この一連の対策により、コメの生産
性と品質を上げることで、農民の収入を増やすことが可能である。この考え方は、ス
リウィジャヤ大学ロビヤント教授と共有するものであり、彼の指導により、パレンバ
ン・ムシ川下流において、すでに農民達の生活レベルが向上している。ジャンビサイ
トにおける、これまでの一連の調査においては、彼と彼のスタッフがメンバーとして
参加し、同様の活動を続けて来ている。図 10-5 にその一例として、Rantau Makmur
村で協力関係にある農民たちによる刈取りの状況を示す。
Before
After
Rice husk ahs and dry soil ration
Biomass dryer
図 10-4 水位管理による稲の適時生産、籾殻燃料による米乾燥、および燃焼灰による
土地の中性化
76
図 10-5 Rantau Makmur 村における稲の適時生産現場
77
11.2 ホスト国の開発政策・戦略等との整合性
インドネシア共和国において、食糧の安定供給は最重要政策の一つであり(大統領
令No. 132/2001)、食糧安全保障の観点からインドネシア公共事業省では今後数十年の
国家計画として、沿岸低地の灌漑と農地化という計画を持っている。ジョコウィ新大
統領も、稲作増産を強化する考えを強く打ち出しており、公共事業省大臣に対して、
300万haの既存灌漑地のリハビリと、新規灌漑地100万haの開発を行うよう指示を出し
た。
これに対して、公共事業省灌漑局長より、どのように実施していくかに関して相談
を受け、本FSにおいても実施してきた、農地における水管理方法を適用して、持続可
能な開発を行うことを助言。新たな開発は最小限にして、既存の内の生産性を倍増す
ることで、インドネシアはコメの輸入が必要なくなることを改めて、関係者と共有し、
今後も協力して進めることで合意。
これまで実施してきた、一連のFSにおける成果を有効に利用していく目的で、公共
事業省、農業省、BAPPENAS、環境省他の関係者が集まり、次の段階への展開を討議
した(2014年2月)。その結果、国際基金への応募を行い、拡大したスケールで実証事
業を提案することに決定し、PU水資源総局長によるレターを作成。図10-6、図10-7に、
この会議にて用いられた、本事業のコンセプトを示す。
Adaptation
Mitigation
GHG Emission
Reduction by
Peatland Mitigation
Food Security
Rice Yield
Increase
Co-benefit
• Suppress peat decomposition & subsidence
• Water level control
• MRV* methodology
(Monitoring/Satellite Data/Hydrology Modeling)
• Water supply improvement
• Minimize pyrite oxidation
• Cropping pattern improvement
Water
Management
• Water canal/gate upgrade
• Water use association
Sustainable Spatial Planning
図 10-6 サステナブルな土地利用のための GHG 排出緩和と食糧安全保障
(GHG* ABATEMENTBATEMENT AND FOOD SECURITY FOR SUSTAINABLE
SPATIAL PLANNING)
78
Hydrology modeling
On site monitoring
Remote sensing
Lumped & physics-based model
Water budget based GWT
-1.0
0
-0.8
1km-mesh GWT map
-0.6
Calibrate
-0.4
GWL (GL-m)
Calibrate
GWT & Subsidence
-0.2
50
Rainfall(mm/d)
Box Model
Obs. (Average)
100
150
200
0.0
250
0.2
300
0.4
350
0.6
400
0.8
450
1.0
500
Precipitation (mm/d)
Draft potential (KBDI)
GWT simulation
MRV
Before
After
Improved food
security
CO2 emission
reduction
WaterManagement
図 10-7 MRV 方法論と水位管理のための適用技術
(MRV METHODOLOGY AND APPLIED TECHNOLOGIES)
79
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