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2011年チャオプラヤ川大洪水と 新たな洪水予測
2011年チャオプラヤ川大洪水と 新たな洪水予測システムの開発 金澤 裕勝1・井上 康2・藤本 幸司3・栗城 稔4・布村 明彦5 1(財)河川情報センター 企画・調整部長 企画・調整部 3(財)河川情報センター 情報技術システム部長 4(財)河川情報センター 研究第二部長 5(財)河川情報センター 理事・研究顧問 2(財)河川情報センター タイ国では2011年,チャオプラヤ川流域において大規模な洪水が発生し,広い範囲で長期間にわたる浸 水被害を受けた.タイ政府は,河川の水位・流量や浸水区域等の状況把握や情報発信が不十分であったこ とが,被害拡大に繋がったり混乱を招いたりしたとの反省から,適切な洪水予測と情報伝達・共有体制の 確立が重要であると認識し,その対策について2012年5月末にJICAプロジェクトとして日本に技術協力を 要請した. 河川情報センターでは,JICAからの要請を受け,タイ国の今後の洪水関係情報システムに関する計画策 定と,緊急対策として2012年洪水期に即座に運用できる新たな洪水予測システムの開発を行った.タイ国 諸機関が観測する水象・気象データに基づき,1週間後までの河川水位・流量と浸水区域を予測計算する 解析システムを作成した.さらに,住民や行政機関等のユーザーが誤解なく判断・行動に役立てられるよ うに配慮されたインターネットによる情報配信システムを構築し,限定的に9月初めから運用を開始した. 本報告は緊急暫定システムについてのものである.タイ政府等との意見交換などを踏まえて必要な改善 を図り,一般公開版システムとする予定であり,今後のタイ国での被害軽減への幅広い活用が期待される. Key Words :タイ国,JICA,チャオプラヤ川,洪水予測システム,浸水区域 1.はじめに ントから構成される. タイ国では,2011年7月から断続的に続いた50~ 100年に一度と言われる記録的な大雨1)により,被災 地が全国に広がる大規模な洪水が発生した 2), 3), 4) . 特に,例年とは異なり,台風が連続してタイ国の北 東部を襲ったことから,タイ国最大の流域を持つチ ャオプラヤ川において洪水が長期化し,バンコク都 や多くの日本企業が立地する工業集積地のあるアユ タヤ等も洪水被害を受けた.これにより,タイ国内 のみならず,国際経済にも大きな影響を与えた.こ れに対し,日本政府は緊急援助(物資供与)を実施 し,その後追加的な物資供与や専門家チーム(上水 道,地下鉄,空港,排水ポンプ車)の派遣を行った. 気候変動や土地利用変化等の影響の下で,2012年 度以降も同様,あるいはこれを越える規模の洪水が 発生する危険性は十分にあると考えられ,このよう な洪水に備えて,被害を受けた施設の応急復旧/改 修及び新規施設の建設,並びに中・長期的視点に立 った対策の検討が必要となった. これに対し,国際協力機構(JICA)は,現在「チ ャオプラヤ川流域洪水対策プロジェクト」を実施中 である.当該プロジェクトは次の3つのコンポーネ コンポーネント1: 気候変動や土地利用変化等を考慮した流域の洪 水管理計画の策定 (サブコンポーネント1-1): レーザープロファイラによる詳細地形図の作成 (サブコンポーネント1-2): タイ国政府作成の水資源管理マスタープランの 科学的・工学的裏付けのための詳細検討 コンポーネント2: 防災・災害復興支援無償の概略設計の実施 コンポーネント3: 2012年洪水期に備えた洪水データ分析システム の構築及び洪水管理システム構築のための中・ 長期的な行動計画の策定 河川情報センターは,このうちコンポーネント3 を受託,実施している.ここではコンポーネント3 のうち,洪水データ分析システム(洪水予測システ ム)の構築について報告する. 1 4-1 ・ バンコク市内の道路上の浸水(BMA) 予測情報としては,降雨と潮位のみが公表された. リアルタイムでの情報提供は,テレビ,ウェブサ タイ国においては,長い歴史の中で利水中心の水 イト,ソーシャルネットワーク,SNS(Facebook®, 情報管理システムを構築し,そのシステムを監理, Twitter®やYouTube®)を通じて行われ,民間及び学 運営することにより多大な成果を収め,国の発展に 界やNGOが重要な役割を果たした.これらは政府の 寄与してきた.他方,治水面での水情報管理につい 役割の一部を補う形で,洪水モニタリング,氾濫地 ては,利水面に比べて必ずしも十分とは言えない状 図,洪水予測解析の結果を発表して注意を促し,被 況にある.洪水被害軽減のためには,的確な水防活 害軽減・避難情報の提供を行った. 動,避難,浸水防止のための準備が不可欠であり, タイ国政府に対しては,より正確な洪水情報を提 このためには,洪水流量及び氾濫域の現況把握に加 供して欲しいとの声が工業団地の日本企業からも上 え,それらの予測が重要な情報となる.さらに,洪 がったが,中には,政府機関は不正確な情報を発信 水流量及び氾濫域の予測情報が,政府機関内,自治 していたとする声もあった 6) .タイ国政府は,各機 体,住民,工場関係者,農民等に確実に伝わること 関が観測データそのものの提供に消極的で,それぞ が不可欠かつ重要であるが,2011年の洪水において れが加工あるいは解釈した(時に互いに矛盾する) は,適時適切な情報が十分に伝わり,対策に活かさ 情報を提供したことで批判を受けた,と認識してい れ,被害軽減に寄与する,という状況にはならなか る 7) .その反省から,「洪水に係る指揮を統一的に った2). 司 る機関 」と して Office of the National Water and タイ国チャオプラヤ川流域の河川や水路等の管理 Flood Management Policy (ONWF) が新たに構築され, は,バンコク都の内水対策以外は,水及び河川の利 ウェブサイト 8) を通じて観測データを中心とした情 用に基づいた組織・制度によって行われている.例 報提供を行っている.HAIIも各機関からの情報を幅 えば,農業用水の確保のための農業・協同組合省王 広く収集し,同様に観測データを主とした情報提供 立 灌 漑 局 ( RID ) , 水 力 発 電 の た め の 電 力 庁 を行っている9). (EGAT),天然資源としての河川の管理を行う天 2011年洪水時には,「現況を正確に知りたい」, 然資源・環境省水資源局(DWR),舟運のための 「今後の予測情報が欲しい」,「政府等の対策の予 河川浚渫を行うタイ国港湾庁(PAT)がある.これ 定と効果を知りたい」などの要望が多く聞かれた 5). らに情報技術・通信省気象局(TMD)も含め,各機 これらは,正しい現状確認と共に予測と対策に関す 関はそれぞれの目的で雨量,河川水位の観測を行っ る情報が十分に伝達されなければならないことを示 ている.観測データは,概要がインターネットを通 している.「いつ頃自分のところが浸水するか」, じて公開されているが,データがリアルタイムで統 「どの程度の浸水が見込まれるか」,「どこの危険 合される仕組みにはなっていない.さらに,一組織 性が高いか」,「何が大変か」,「いつ頃水が引く においても,調達の年度やプロジェクトごとにシス か」などの予測情報が適切に公開されれば,「浸水 テムが構築されており,例えば,RIDがチャオプラ への準備(避難・土嚢積み・車の待避など)」, ヤ川の支川,下流部をそれぞれ異なるモデルを使っ 「農作物の被災前の刈りいれ」,「工業製品の待避, て流出計算を行うなど,効率的な洪水管理のために 従業員の安全確保」が可能となる.政府等の防災機 流域全体を一体として捉えることの障害となってお 関も,「緊急の土嚢・ポンプ設置などで効果的止水 り,このことがデータ統合をより困難にしている. 対策」,「効果的なダム・水門等の操作」,「破堤 このように,関係各機関や住民等が災害対策に不可 による被害の想定」などの対応を行うことが可能と 欠な水象・気象・氾濫等の情報を共有できる状況には なく,効果的な水害対策に大きな支障となっている. なる.そのため,情報の多様な受け手に対し,広く 共有される予測情報の提供には非常に大きな意義が ある. 2.タイ国における洪水管理情報の現状と課題 3.2011年洪水期とその後の情報に関する状況 2011年の洪水期では,住民は次のようなインター ネット上の情報から洪水の状況を把握していた5). ・ 河川水位・流量(RID,HAII,バンコク首都圏 庁(BMA)) ・ チャオプラヤ川河口潮位予測(タイ地方政府, タイ国海軍,HAII) ・ 3日予測降雨図(TMD,HAII) ・ レーダ雨量(TMD,Hydro and Agro Informatics Institute (HAII),米国海軍総合科学研究所) ・ 浸水状況の衛星画像(Geo-Informatics and Space Technology Development Agency (GISTDA)) 4.システム構築に当たっての基本的考え 2011年洪水およびその後の状況に鑑み,JICAを通 じた技術協力として,2012年7月にタイ国チャオプ ラヤ川流域における洪水予測システムの構築に着手 した.2ヶ月という短期間に数々の工夫を行い,各 機関の協力も得て同年9月初めに洪水予測システム のプロトタイプを「Flood Risk Information」として 構築し,緊急対応として2012年の洪水期(9月~10 月)にタイ政府機関や工業団地の日本企業などの希 望者にモニター登録してもらい情報提供を行った. 2 4-2 (1) 情報ニーズからのアプローチ 本システムは,諸機関に分散する種々の観測デー タを集積し,タイ国の流域特性に適した解析モデル に導入することにより,チャオプラヤ川流域全体に わたって氾濫の短期的な危険性を明示することを第 一義としたシステムである.本システムから発信さ れる情報は,通常のように行政側から検討・伝達さ れる「送り手主体」ではなく,ユーザーとなる様々 な個人・団体の行動・判断の必要性からアプローチ した「受け手主体」となるものである.つまり,3. で示したように,「被害軽減のために必要な行動が 何か」からスタートし,「そのために必要な情報が 何か」を考え,その情報を正しく知るため「どのよ うな加工やシミュレーションが必要か」という検討 から解析系を構築し,最終的に「そのために必要な データが何か」に基づいて,入出力データを決定す ると言うアプローチを取る.そのため,都市住民, 農民,工場,マスメディア,水防機関を対象とした アンケート調査を実施し,ユーザーが必要とする情 報が何であるかを調査している. 表-1 チャオプラヤ川と他河川との比較 (2) 提供する情報 水位・流量や浸水区域の現況把握については,昨年 の洪水を踏まえタイ政府が情報システムについてのさら なる充実を検討し,実施してきている. そうした現況情報と併せてタイ国での減災に役立つよ うに,日本が技術協力して構築する本システムは,水位・ 流量と浸水区域の予測を行うものとし,以下の情報を提 供することとした. ア) 明日から7日後までのチャオプラヤ川の主要地 点の水位・流量予測値,及び過去7日分のそれら の実測値 イ) 明日から7日後までの浸水区域の予測図(浸水 は,いわゆる外水と内水の双方を含む) また,こうした情報を活用して,例えば上流の利水ダ ムの運用を変えた場合の下流への影響・効果,特定の 箇所で破堤(人為的なものを含む)した場合の周辺への 浸水の影響や下流への影響,大規模土嚢積みなどの 緊急防護ライン設置の効果,緊急排水ポンプ設置によ る効果など,種々の水害時の緊急対策への活用ソフトの 付加についても検討して行く予定である. さらに,情報の受け手の住民や行政機関等の人々に とって,わかりやすく,使いやすい入手ができるように, 以下のような表示や提供のシステムとすることを目指した. ・ 一般向けのものは,基本となる情報の提供を第一に 考え,付属の機能が少ないシンプルなものとする. ・ ウェブサイトでの提供とし,タイ国の住民・行政ともに 普及が進んでいるiPad等のタブレット端末に適合した 表示メニューや画面デザインとする. ・ すぐに操作ができるようにマニュアルレスなものとする. 踏まえたものとする必要がある. チャオプラヤ川ナコンサワン地点の2011年の河川 流量と,その上流域の平均降雨を示したものが図-1 である.図中の○が実績流量だが,日本で通常行っ ている評価手法では洪水継続時間は数ヶ月というこ とになる. この図を昨年の9月23日前後で拡大したものが図2である.例えば9月30日時点で1週間後の9月30日の 流量を予測した場合,その予測流量は①予測1週間 の降雨の影響,②過去1週間の降雨の影響,③それ 以前の降雨の影響,に便宜的に分けることができる. このとき,流量の構成比率は①≶②<③の関係にあ り,チャオプラヤ川では長時間にわたる流域からの 流出量が最も支配的になっている.また,データの 確からしさ(確実度)から見れば,①=気象解析に よる降雨予測<②=実際降った雨を基にした流出予 測<③=上流で観測された流量からの予測,という 大小関係にある.これらの特性を踏まえ予測結果の 感度分析なども行って,予測システムを検討したが, こうした分析はチャオプラヤ川での洪水予測が,日 本の河川における予測よりも確実度があることも物 語っている. チャオプラヤ川の流出波形を見ると,2ヶ月から6 ヶ月の長さを持つ大きな波形と,数日で急激に上昇 する小さな波形等が合わさって構成されている.後 者は各観測地点の比較的近傍に降雨が集中したとき に発生している.チャオプラヤ川流域は日本の総面 積の半分近い面積の広大な流域であり,日本でよく 行われる流域平均雨量などの考え方は適切でなく, 降雨の場所が各地点の流量に大きく影響している. 特に防災・減災のための情報としては,大きな波 形の部分も重要であるが,既に河川水位が高いとき に近傍上流に雨が降ると急激に水位が上昇し河川氾 濫が始まるので,このような数日での水位上昇を的 確に捉え情報発信・共有することが大変重要である. そのため,観測流量,観測雨量だけでなく,予測雨 量も入力データとして用いることとしている. (3) チャオプラヤ川の特性を踏まえた予測 チャオプラヤ川と利根川などを比べると,表-1の通り であり,予測流量等を検討する場合にも,こうした特性を (4) 自然災害関係情報の不確実性への対処 自然災害関係の予測情報は,不確実性を伴っている. 自然現象そのものの不確実性もあれば,シミュレーショ 3 4-3 流域平均雨量(mm/day) ナコンサワン流量 (m3/s) 予測 1 週間の降雨の影響 ナコンサワン流域平均雨量(mm/day) 計算流量(予測 1 週間無降雨) 計算流量(過去 1 週間+予測 1 週間無降雨) 計算流量(実績降雨) 実績流量 過去 1 週間分の降雨の影響 それ以前の降雨の影響 図-1 2011 年のナコンサワン地点の流量と上流域雨量 前1週間の雨量52.8mm 後1週間の雨量55.48mm 7000 0 20 6000 計算流量min2(過去1週間+予測1週間無降雨) 5000 40 予測1週間の降雨の影響 計算流量min1(予測1週間無降雨) 計算流量(実績降雨) 過去1週間分の降雨の影響 60 予測値 実績流量 80 4000 100 流域平均雨量(mm/day) ナコンサワン流量(m3/s) ナコンサワン流域平均雨量(mm/day) 3000 それ以前の降雨の影響 現時刻 2000 120 図-2 10/3 10/2 10/1 9/30 9/29 9/28 9/27 9/26 9/25 9/24 9/23 9/22 9/21 9/20 9/19 9/18 9/17 9/16 9/15 9/14 9/13 9/12 9/11 9/10 9/9 140 ナコンサワン地点流量の構成(図-1 赤枠部分の拡大) ンモデル等による不確実性もある.後者については,技 術の進展での改善も期待されるが,前者については技 術的な工夫を施しても限度があるものである. 事前の予測情報の開発や使用については,日本に おいても洪水予測,土砂災害警戒情報,緊急地震速報, 火山噴火警報などの導入時やその後の運用において, いわゆるオオカミ少年問題をはじめ多くの試行錯誤を繰 り返してきた. 今日の日本では,それぞれの情報の精度を高める努 力は当然だが,まったく予測と結果の実測が一致しない とその情報は発信したり使用したりすべきではないという 意見はほとんど無くなってきている.それぞれの予測情 報の精度等を等身大で捉え,そうしたものであるというこ とをわきまえて,できるだけ活用すべきという考えが大勢 である.特に,防災施設というハードだけではすべての 災害に対処できない中で,少しでも被害を少なくすると いう減災のためには,予測をはじめ情報の活用というソ フト対策は大変重要である. タイ国では,天気予報は行われているものの,自然災 害予測情報はこれが初めてのものである.タイ国が,昨 年の大水害を踏まえ,抜本的な水害対策を進めていく 上で,今後ハードとソフトの総合的な対応をとっていくこ とは不可欠である.不確実性に対する的確な対応も含 め,予測情報の活用に今後しっかりと取り組んでいかな ければならないと考えられる. この度の日本の技術協力は,シミュレーションやシス テム構成もさることながら,こうした災害関係情報のあり 方やその活用において,日本が苦労・工夫してきたこと 4 4-4 を伝達することが最も重要であると考え,実施している. このような考えのもと,提供する情報は,後述するよう に単一のシミュレーション結果でなく,確実度を考えた幅 を持った情報の形にするなどの工夫をしている. 5.システムの構成 (1) 観測データ とりあえずの緊急対応として,本システムで使用 した観測データは,表-2および図-3に示す通りであ り,今後タイ政府との調整結果等を踏まえ,より適 切なものにしていくこととしている. 表-2 緊急対応における解析に使用したデータ数と ソース データ種類 データ数 情報源 水位 125 Hydro Center 110), 211), 512) 流量 131 Hydro Center 1, 2, 5, RID water13) 雨量 112 Hydro Center 1, 2, 5, TMD ダム放流量 3 RID water (EGAT の情報) (2) 降雨予測データ タイ国気象局(TMD)による予測降雨量の数値デ ータとしての入手が即座には困難であったため,暫 定措置として日本国気象庁(JMA)が国連WMOの 枠組みの中で行っている全球数値予報モデルによる 降雨予測データ(概ね50kmピッチ)を用いた. (3) 流出計算 a) モデルの概要 JICA/JSTの途上国に対する協力枠組みを活用した 国際共同研究「気候変動に対する水分野の適用策立 案・実施支援システム構築プロジェクト」 (Integrated Study Project on Hydro-meteorological Prediction and Adaptation to Climate Change in Thailand; 略称IMPAC-T) において,チャオプラヤ川 流域への適用のために特別に整備された水資源モデ ルH08をナコンサワンにおける流量計算に用いるこ 雨量 ととした.IMPAC-Tは,東京大学とカセサート大学, 水位,流量 RID,TMDが中心となって実施されている.H08モ ダム デルの概要を図-4に示す.H08モデルは,地形情報 を考慮して陸面過程モデル,河川モデル,貯水池操 図-3 観測点の位置(緊急対応) 作モデルを結合したモデルであり,日雨量および月 日雨量(リアルタイム) 平均気象要素(気温,気圧,日射量等)を入力デー ティーセン分割 タとして,任意地点の流量予測値を出力できる14), 15). データ バイナリデータ 降雨強度(5 分メッシュ) 解析範囲はチャオプラヤ川上流域(北緯:13~20 度,経度:97~102度)とし,プミポンダム流域, 地形情報 Tepographical アルベド シリキットダム流域および灌漑区域と非灌漑区域を 気圧 モデル化した.入力値として9kmメッシュ単位の雨 結合モデル 量,気象データを用いる. 水蒸気圧 陸面過程モデル b) 計算手順 日射量 河川モデル 月平均 IMPAC-Tプロジェクトによってカセサート大学に 雲量 貯水池操作モデル 設置されたサーバに雨量データをCSV形式で保存し 気温 バイナリデータ て,H08モデルを実行し,任意地点の1~7日先まで 海面水温 任意地点の予測流量 の流量予測値をCSV形式で出力させる.出力された (5km ピッチ) CSVファイルは表示系サーバにFTP転送され,計算 図-4 H08 モデルの概要 14) 結果は自動的にウェブ表示に反映される.解析結果 の一部(ナコンサワン地点)を後述する氾濫計算モ 洪水リスク管理を行う場合,より詳細な地形データ デルの境界条件として利用する. に基づき,リアルタイムで氾濫現象を適切に再現す ることが必要である.また,チャオプラヤ川流域に (4) 氾濫計算 おいては,その氾濫原の面積が広大であることから, a) モデルの概要 効率的,かつ精度良く氾濫現象を再現するモデルが 洪水予測モデルを用いて,チャオプラヤ川流域の 必要となる. 5 4-5 本システムでは,土木研究所ICHARMが開発した, 降 雨 流 出 氾 濫 モ デ ル ( Rainfall-Runoff-Inundation Model: RRI モデル)を適用した.RRIモデルは,流 域を任意の大きさのメッシュに分割し,降雨を入力 として河川流出から洪水氾濫までを一体的に解析す るモデルであり,広大なチャオプラヤ川流域を解析 するのに適したモデルである16), 17).図-5に予測地点 と境界条件設定地点の位置を示す. RRIモデルは,2次元流出解析(流出・氾濫同時解 析)モデルおよび1次元河道モデルから成り,いず れも拡散波近似した運動量方程式を基礎式とする. 降雨流出過程をより適切に表現するため,地中部の 流出過程(鉛直浸透流および側方地中流)を考慮し ている.また,流出解析部と河道部との水のやり取 りは越流公式で計算している. 緊急対応においては,上流モデル(ナコンサワン 上流域)および下流モデル(ナコンサワン下流域) 共にRRIモデルで流出解析を行い,上流モデルのナ コンサワン予測流量を下流モデルのナコンサワン地 点予測流量に引き継いだ. b) 計算条件と入出力データ 流出・氾濫予測計算を実行するための計算条件及 び入出力データは次の通りである. ・ 予測は1日1回とし,毎日6時のデータを用い,7 日先までの予測を行った. ・ 実績降雨としてRID,TMDの地上雨量観測値を ティーセン分割して与えた. ・ 予測降雨は4(2)で設定したJMA予測雨量(最大・ 最小)を用いた. ・ ダム諸量はEGAT,RIDより取得し,予測側は現 時刻の値を継続することとした. ・ 分派量はRIDより取得し,予測側は現時刻の値を 継続することとした. ・ 実際の氾濫域を示すGISTDAの衛星画像データを 利用し,シミュレーションにフィードバックさ せ,氾濫予測の初期範囲として用いた(図-6). ・ 最大及び最小予測雨量に対応する各地点の予測 流量・水位・浸水深分布を6時間毎,7日先まで 出力させた. (5) 精度検証 2011年及び2006年の洪水を対象に,RRIモデルの 精度検証を実施した.検証期間は,2006年5月~11 月,2011年6月~12月の雨季を対象とし,検証に使 用する降雨は,地上観測所雨量のティーセン分割雨 量を用いた.モデルの境界条件として,ダム実績放 流量,下流端実績潮位,堰実績流量を収集し,モデ ルに反映した. 主要地点(ナコンサワン,チャイナート,アユタ ヤ等)の流量,水位および下流域の氾濫状況につい て,実績を概ね再現できるようにパラメータを調整 した.2011年洪水の再現結果を図-7,8に示す.図8上段は予測シミュレーション,下段は衛星画像に よる実績浸水域(赤い部分)の経時変化を示してい る.また,図-9は痕跡調査に基づく最大浸水深分布 ●:出力地点 ●:上流端流量入力位置 Nakhon Sawan (C.2) Uthai Thani Manorom Flood Gate Makhamthao Flood Gate Pholthep Flood Gate Baromattat Flood Gate Maharaj Flood Gate Sing Buri Pasak dam Lopburi Flood Gate ●:分派設定地点 Bang Kaew Flood Gate Ang Thong Phong Pheng Canal Bang Ban Canal Tha Ruea Ayutthaya Bang Sai -:モデル河道設定位置 Tidal level ●:下流端水位入力位置 図-5 RRI モデルにおける予測地点及び境界条件設定 地点 GISTDA による浸水域の衛星 画像データ(最新) シミュレーション結果 (計算時) フィードバック 浸水域 図-6 システム表示分 RRI モデルにおける実浸水域のシミュレーション へのフィードバック である.概ね,地点流量変化の一致,浸水域におけ る経時的な浸水フロント・範囲の一致,最大浸水深 の一致が見られることから,これらが再現可能であ ると考えられた. (6) 予測値の変動幅等の設定 本システムにおいて,不確実性を持っている予測 情報であるにもかかわらず,確実なものとして誤解 される心配がある部分は,以下のようなものである. 【値についての誤解】予測値(河川主要地点の水 位・流量,浸水区域の各メッシュの浸水深)が確実 にその値となる誤解 【場所についての誤解】地図表示はおおまかな地域 の傾向を示すものであるが,確実にその場所を示す ものとの誤解 一般公開に向けてのタイ政府との調整結果により 変更があることが想定されるが,とりあえずの緊急 暫定システムとしては,以下のように対処すること とした. 6 4-6 10/27 10/6 Nakhon Sawan 11/9 Flow Rate (m3/s) Chainat Ayutthaya 計算値 実測値 図-7 RRI モデルによる計算流量と 実測流量の比較 上段:予測(シミュレーション),下段:実績(GISTDA 衛星画像) 図-8 予測浸水域と実績浸水域の経時的変化の比較(2011 年洪水) a) 流量(水位)の不確実さを踏まえた情報 5(4)までのシミュレーションにより求められる基 本的な予測値で示すのではなく,変動誤差を含んだ ものであるので,それを加味した最大値と最小値の 値をグラフ表示することとした, 流量等の変動幅としては,上流流量から下流流量 を推定する際の誤差,降雨観測データから河川流出 量推定に際しての誤差,気象予測による今後の降雨 量の誤差などにより生じる.4(3),(4)で述べたよ うなことから,緊急暫定システムとしては,最も影 響する気象予測による今後の降雨量のみの変動幅を 考えることとした.具体的には,7日後までの予測 雨量の最大値は,JMA予測雨量に既往の予測雨量‐ 観測雨量間の誤差分布特性値を加えたものとした. 最小値も同様に既往の予測と実観測の分布特性値を 用いることも考えられるが,分布特性について検討 すべき点があることと,基本的な予測値と降雨量ゼ ロとした場合の予測値があまり差がない場合が多い ことから,今後の降雨量がゼロの場合の予測値を最 小値とした. 2012年での実運用における最大値・最小値表示の 予測値と実績の観測値の例を図-10に示す.なお現 段階で,予測雨量の最大・最小値とその算定根拠を 検討中であり,今年度の降雨データの分析に基づい て,上述の定義を変更する予定である. b) 浸水区域の不確実さを踏まえた情報 浸水深の直接的表示ではなく,浸水のおそれ(リ スク)がない区域,浸水のおそれがある区域,浸水 のおそれが高い区域の3区分で表示し,さらに1km メッシュでの分布情報を大まかな地域での状況であ ると理解されやすいように,複数の近傍のメッシュ 7 4-7 河道 流域境界 0.0-0.2m 0.2-1.0m 1.0-3.0m 3.0-9.0m 図-9 痕跡調査に基づく最大浸水深分布 予測最大値 予測中間値 予測最小値 実績流量 図-10 ナコンサワン (C.2)流量 最大・最小値による予測流量表示の例 の値を平均化して大まかな地域での情報に加工し表 示することとした. 浸水のおそれの程度については,とりあえず以下 のような浸水の可能性で区分した. ・ 浸水のおそれがある区域(Riskと表示)は,少 しでも浸水の可能性がある4(5)a)で示した最大 予測降雨の場合に浸水が予測される区域とした. ・ 浸水のおそれが高い区域(High Riskと表示)は, 浸水する確実性が高い区域であるので,4(5)a) で示した最小予測降雨でも浸水する区域とした. 浸水についての危険性(リスク)は,他のリスク 概念でもそうであるように,現象(ダメージ)の大 きさと遭遇可能性とが複合したものである.そのた め,リスク区分の方法については,浸水深等を基に した大まかな表示とする方法についても検討中であ り,タイ政府とも相談して公開版を構築することと している. (7) 情報表示システム a) 表示システムの概要 解析から得られた,流量・水位及び浸水深分布の 7日先までの予測結果を出来るだけ多くの人々に対 して,迅速に伝達できるようにするため,人目を引 く外観で操作が容易なウェブ表示システムを構築し た.システムはトップページ,Flow Rate(模式図) 及びFlood Area(氾濫域図)から構成される.模式 図は,予測流量・水位の変動と地点毎に設定されて いる注意及び警戒レベルとの関係をグラフ化して表 示するものである. 一方,氾濫区域図は,予測浸水深分布に基づき, 一定の深さ以上での浸水の恐れがある区域を表示す るものとした.本システムによるシミュレーション はおよそ1kmメッシュの地形データに基づいた浸水 深評価を行うものであり,表示される結果も同じ解 像度しか持ちえない.また,入力データの誤差によ り浸水深の値も不確実性を有し,確定値として捉え ることは出来ない.そのため,浸水深表示を行うと, 特定地点において予測浸水深と実水深との比較や異 なる地点毎の比較が出来るかのような誤解が生じる 恐れがある.本システムによる氾濫予測は,マクロ に流域を捉え,およそどのあたりに浸水の恐れがあ るかを見るためのものである.そのことを明確に示 すために,浸水深ではなく,浸水リスクの大きさで 予測氾濫域を表現することとした. トップページには流量・水位予測値を表示する模 式図と氾濫域図へのリンクのみを配置した(図11(a)参照).両図では,基本画面やグラフ上には 数値データが表示されないようにするなど,極力シ ンプルなものとした. b) 模式図表示(流量・水位予測) 模式図表示は次の3つのレイヤから構成される. レイヤ1: チャオプラヤ川流域を模式的に示した平面図およ び鳥瞰図(図-11(b)及び(c)参照) ・ 予測地点,ダムを示すシンボルを配置 ・ 予測当日の水位状況を予測地点シンボルの色に より表現(平常:緑,注意:黄,警戒:赤) ・ 更新日時,ガイド図(画面表示位置)を表示 レイヤ2: ポップアップによる選択地点での流量値表示 レイヤ3: 別ウィンドウによる選択地点の予測流量及び予測 水位の経時変化グラフ(図-11(d)及び(e)参照) ・ 警戒レベルは氾濫が起こりうる水準 ・ 注意レベルは氾濫発生に対する注意喚起水準 ・ 現時点(更新日)が中心,その左側は実績値 (7日間),右側は予測値(7日間) ・ 予測データのうち,ピンクラインは最大予測, 緑ラインは最小予測 予測雨量の項で述べたように,各予測値は不確実 性を有するため,入力として与えた予測雨量の最大, 最小値に対応する計算値がそれぞれ表示されるよう にした.7日先までの流量・水位予測のグラフを表 示させることにより,予測値の変化と警戒,注意レ ベルとの関係を確認することにより,いつ頃氾濫の 可能性があるかを視覚的に把握できる. c) 氾濫域予測表示 氾濫域予測表示は,20cm以上の水深が予測される 区域の拡がりをメッシュへの色付けによりGoogle Map上に表示させた(図-11(f)参照).1~7日先の 氾濫域を選択表示させることができる.表示の特徴 は次の通りである. ・ High risk区域(青),Risk区域(水色)及びrisk なし(着色なし)の3領域で表示 ・ 流域全体と下流域を切替表示可能 ・ 拡大縮小,移動が可能(iPad等でのタッチスク リーン操作に対応) ・ 更新日時,ガイド図(画面表示位置)を表示 (8) 改善への対応 2012年洪水期への緊急対応として構築・運用され た本システムのプロトタイプから,来年度以降も利 用可能な有用なシステムへと再構築すべく検討を行 っている.モニター登録ユーザーからの意見集約と タイ政府機関との議論・協議結果に基づいて,入力 データの収集,解析システムへの効率的なデータ導 入,予測雨量の入力値としての考え方と不確実性の 定量,予測氾濫域の表示内容などの改善を行い,年 内に一般公開していく予定である.そのため,本報 告で示した,システムの各ステップにおける方法は 大幅な変更の可能性があり,それによってユーザー の意思決定に資するシステムの構築に向けた改善が 図られる. 5.おわりに 浸水危険性の範囲とタイミングをチャオプラヤ川 流域全体にわたって明示し,日々更新し配信するシ ステムを構築することができた.被害軽減を図るた 8 4-8 (b) 流域模式図・平面図(Flow Rate) (a) トップページ (c) 流域模式図・鳥瞰図(Flow Rate) (d) 流量予測グラフ (f) 氾濫域図(Flood Area) (e) 水位予測グラフ 図-11 洪水予測システム(Flood Risk Information System)の表示画面 めには,予測・予報は大変重要な方策の一つであり, 2011年の大水害を被ったタイでのニーズは高い.こ れまであまり予測・予報を行ってこなかったタイに おいて,ハードとソフトの総合的な防災を目指すべ く,この領域に展開していくのは必然である. 一方で,これらの情報に含まれる不確実性をどの ように扱うかを考えることは,予測シミュレーショ ン等に基づく予測データ,予警報等において,極め て重要である.我が国の洪水予測と予警報,土砂災 害警戒情報,緊急地震速報,東海地震予知情報,火 山噴火警戒情報等においても,情報の不確実性に関 する検討・整理を踏まえて実施されてきており,タ イでの洪水予測においても,十分に不確実性の吟味 を行い,被害軽減に繋がるものを目指した. また,シミュレーションの不確実性もさることな がら,防災情報としても,間違った使い方をするこ とは全く逆効果であることは明白であり,情報が持 つ不確実性とその的確な活用を分析し,単にシミュ レーションの計算結果を示すのではなく,情報の形 や伝え方を効果的かつ誤解がないようにすることと した. 本プロジェクトでは,予測シミュレーションも重 要であるが,それ以上に予測情報を使った,減災の ためのより的確なリスクマネジメントの手法を伝え ることが重要である.不確実性を持った科学的情報 をどのように社会的情報とするかなど,日本が苦労 し,悩み,培ってきたことを基に技術協力すること が柱となっている.どのような形・示し方・タイミ ングが最良であるのか,誤解無く,効果的に伝わる 情報として設計できるかをさらに検討し,具体化す る予定である. 謝辞:本プロジェクト遂行の全般にわたり,JICAか らサポートをいただきました.解析システムの構築 9 4-9 においては,IMPAC-TよりH08モデルを,(独)土 木研究所ICHARMよりRRIモデルを提供していただ きました.本システムへのH08モデルの適用にあた っては,IMPAC-Tより多くの御協力・御助言をいた だきました.タイ国のDWR,カセサート大学,RID, TMDには,観測データなど種々の情報提供や計算資 源を提供いただきました.また,本稿の作成にあた り,パシフィックコンサルタンツ(株),(株)建設技 術研究所,(株)NTTデータ,富士通(株)及びNEC(株) に資料を提供いただきました.ここに感謝の意を表 します. 8) 9) 10) 11) 12) 13) 参考文献 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) The World Bank: Thai Flood 2011 Rapid Assessment for Resilient Recovery and Reconstruction Planning, Ch.1 The Disaster, p.10, 2012. 川崎昭如,小森大輔,中村晋一郎,木口雅司,西島 亜佐子,沖一雄,沖大幹,目黒公郎:2011年タイ洪 水における緊急災害対応: 政府機関の組織間連携と情 報共有に着目して,地域安全学会論文集,No.17, 2012. 小森大輔,木口雅司,中村晋一郎:2011年タイ国チ ャオプラヤ川大洪水の実態および課題と対策,河川, 2012年1月号,pp18-25,2012.. 東京大学生産技術研究所沖研究室,『2011年タイ洪 水関連情報』,http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/ Mulabo/ news/2011/ ThaiFlood2011.html News/Information about Flood Disaster, Viewpoints for Thailand, http://thaiview.wordpress.com/2011/10/15/ bigflood/, 4 November 2011 (in Thai), retrieved 31 August 2012. 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THE SEVERE FLOODING OF CHAO PHRAYA RIVER IN 2011 AND DEVELOPMENT OF A NOVEL FLOOD FORECASTING SYSTEM Hirokatsu KANAZAWA, Yasushi INOUE, Koji FUJIMOTO, Minoru KURIKI and Akihiko NUNOMURA In 2011, severe flooding occurred and caused immense and long-term damage to a wide extent of the Chao Phraya river basin in Thailand. Thai Government reflected that insufficient flood forecasting and lack of information transmission based on flood forecasting resulted in an expansion of damages and a confusion for Thai peoples. They recognized that adequate flood forecasting, and transmission and sharing of information to the public should be established, and then, they requested a technical cooperation on the countermeasure to Japan as JICA project on the end of May 2012. As requested by JICA, Foundation of River & Basin Integrated Communications, Japan designed an information system related to a flood for Thailand. Furthermore, we developed a novel flood forecasting system for Chao Phraya river basin, which be operable immediately in the flood season of 2012 as an urgent action. The analytical system for forecasting calculation of discharge, water level and inundation depth until 1 week later was established based on various observed data, such as rainfall, river and dam discharge, and water level, managed by several Thai governmental organization. The system for distribution and transmission of the forecasting information via internet was also developed to help 10 4 - 10 residents’ or administrative organs’ judgement and effective action during flooding without misunderstanding. Finaly, the system started to be operated in a limited way from the beginning of September. Here we show the urgent temporary system. Necessary modification based on a discussion with Thai Government and the other stakeholders are scheduled to develop a system opened to the public. The flood forecasting system is expected to utilize widely on the reduction of damages. 11 4 - 11