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シェールガス: 安定生産に欠かせない環境リスク克服への技術的考察

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シェールガス: 安定生産に欠かせない環境リスク克服への技術的考察
作成日: 2011/6/17
石油調査部: 伊原 賢
公開可
シェールガス: 安定生産に欠かせない環境リスク克服への技術的考察
(米国エネルギー情報局 EIA、JOGMEC 石油調査部、世界石油工学者協会 SPE 資料ほか)
世界のエネルギー市場を沸かせた非在来型ガスだが、開発の課題となってくるのが環境への影響で
しょう。他の資源開発と同じように、それは「開発推進派」と「環境派」の攻防として顕在化しています。
最大の問題は、シェールガスの開発業者がガス井を掘削し、岩盤に割れ目をつくる際に懸念される帯
水層汚染です。帯水層とは地表付近の水源で、飲料用水もそこから汲み上げられます。このため、とりわ
け人口の密集した環境であれば、汚染リスクへの不安が高まり、開発を妨げる要因となります。また開発
に必要な水の確保はコスト面からも容易ではありません。開発規制や検査、関係機関との調整などリスク
軽減は欠かせません。水質汚染リスクをはじめ、これらの問題を克服したうえでシェールからの安定的な
ガス生産も可能になるでしょう。
本報告では、水圧破砕流体の組成、用水の確保、環境派の懸案事項、水処理の現状と今後につい
て、掘り下げます。
1. はじめに
図1は、非在来型天然ガスをイメージする「天然ガスの資源量トライアングル」と呼ばれるものです。在
来型天然ガス資源よりも流動性がかなり劣る地下の硬い岩石に閉じ込められたタイトガス、コールベッド
メタン、シェールガスの開発には、水平坑井や水圧破砕といった技術の進歩(図2)が必要でした。これら
技術の目的は、石油や天然ガスを貯留する岩石からの流路を如何に作るかにあります。図1からお分か
りのように、非在来型は在来型よりも豊富な資源量が魅力です。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に
含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図 1 天然ガスの資源量トライアングル
図 2 水平坑井と多段階の水圧破砕のイメージ
9 水平坑井: 石油や天然ガスの閉じ込められた岩石の層に沿って掘削される井戸(坑井)のこと。
通常の垂直・傾斜井に比べ、岩石との接触体積が多く取れるため、一坑当りの生産量を数倍に
増やすことができ、80 年代後半より広く、石油開発に使われるようになった。石油や天然ガスの
地下からの回収率を向上させる万能薬とも言われる。
9 水圧破砕: 原油や天然ガスが存在する地層に圧力をかけて作った人工的なフラクチャー(割れ
目)により、原油や天然ガスの流れにくさを改善する技術。坑井を介して、水・酸・合成化合物か
ら成る流体に圧力をかけて作られた地層の割れ目に、流体に混ぜた砂の粒子を圧入・保持させ
ることで、圧力を除去した後も割れ目が閉じないようにする(図3)。1940 年代後半に開発され、60
年強の歴史がある。その後の技術進歩に伴い、地層に沿って段階的に作ったフラクチャーの分
布もモニタリングできるようになり、シェールガスといった非在来型天然ガスの生産増に大きく寄
与している。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に
含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図 3 水圧破砕技術の概要
米国エネルギー情報局 EIA が 4 月 5 日に「世界のシェールガス資源量評価レポート」をプレスリリース
しました。このレポートでは、世界のシェールガス賦存堆積盆地(48)の 69 層準の根源岩(シェール)の
「技術的回収可能資源量」を評価しています。シェールガス賦存堆積盆地の広がりは大きいものです。
「技術的回収可能資源量」は6,622Tcf(Tcf:兆立方フィート)と推定されました(図4)。世界の在来型天
然ガスの残存確認可採埋蔵量約6,400Tcf(2009年末)、年間の天然ガス消費量106Tcf(2008年)と比べて
も膨大なことが判ります。注目すべきは、従来技術では地下から採り出しやすい「在来型ガス」の供給が
限られている、ないし、在来型ガスが減退している国(例えば、中国・南アフリカ・欧州)に、意外とシェー
ルガスの資源量が期待できることです。
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かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図 4 世界のシェールガスの技術的回収可能量(2011 年 4 月)
世界のエネルギー市場を沸かせたシェールガスですが、開発の課題となってくるのが環境への影響
でしょう。他の資源開発と同じように、それは「開発推進派」と「環境派」の攻防として顕在化しています
(図5)。「環境派」は、開発反対を主張しています。
現に開発の一時凍結は、米国のニューヨーク州、フランス、南アフリカほかで報告されています。一方、
開発推進の動きは、米国のペンシルベニア州、テキサス州、英国、中国、ポーランド、イギリス、カナダほ
かで見られ、環境被害を否定しています。
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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図5 フラクチャリング流体の取り扱い方に係るシェールガス開発推進派と環境派の攻防
図6は米国における主なシェールガスの開発エリアを示しています。
図6 米国の有望なシェールガス開発エリア
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最大の環境問題は、シェールガスの開発業者がガス井を掘削し、岩盤に割れ目をつくる際に懸念さ
れる帯水層汚染です。帯水層とは地表付近の水源で、飲料用水もそこから汲み上げられます。このため、
とりわけ人口の密集した環境であれば、汚染リスクへの不安が高まり、開発を妨げる要因となります。
本報告では、水圧破砕流体の組成、用水の確保、環境派の懸案事項、水処理の現状と今後について、
米国を中心とした公開情報を基に掘り下げていきたいと思います。
2. 水圧破砕/フラクチャリング流体
2.1 フラクチャリング流体の組成
フラクチャリングを行うために加圧して坑井に送り込む流体を、フラクチャリング流体と呼びます。フラク
チャリング流体の大部分を占める水に様々な添加物を加えて調製しますが、その組成はシェールガスの
開発フィールド毎、あるいは会社(開発業者、サービス会社ほか)毎に異なります。ひとつのフィールドで
もフラクチャリング作業の段階に応じて変化させます。例えば、最初は水だけを用いて坑内や地層の洗
浄を行い、次に酸を加えて余分なセメントや岩石の一部を溶解した後、潤滑剤等を加えて地層の破砕を
進め、最終段階でプロパントと呼ばれる粒子状の物質を添加する、というのが一般的なフラクチャリング
の手順になります(図3)。
フラクチャリング流体の成分とその作用、および組成の例を表1、および図7~図9に示します。この組
成は最終段階での組成と考えられます。
表1 フラクチャリング流体の成分・組成例
出所:
1)-2)
3)
4)
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5)
出所: 1)
図7 成分・組成例1
出所: 3)
図8 成分・組成例2
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出所: 4)
図9 成分・組成例3
図7~図9で明らかですが大部分は水です。水以外の主要な成分としてプロパントと呼ばれる砂等の
粒子があります。プロパントは、フラクチャリングを完了して加圧を解除した後、形成したフラクチャーを
支えて再び閉じるのを防ぐ目的で用いられます。地上からフラクチャー形成位置までプロパントを沈積
することなく輸送するために、ゲル化剤を用いて粘性を大きくするほか、その輸送を補助するための繊
維状の物質(熱分解し、地層に吸収される生分解樹脂ほか)を用いることもあります。
フラクチャリング流体には圧入を容易にするために摩擦損失が少ないことが要求される一方、プロパ
ント輸送のため、および逸水を防止して昇圧を容易にするために、ある程度の粘性が必要です。万一の
漏洩を考慮して無毒性あるいは低毒性であることも要求されます。このようなことから、フラクチャリング流
*
体には水と砂以外にゲル化剤、スケール 防止剤、一部の岩石やセメント溶解のための酸、摩擦低減剤
などの様々な化学薬品が含まれます。ゲル化剤は地層中で熱分解し、吸収されるものが選択されます。
各社は様々な組成のフラクチャリング流体を開発しており、従来、それはフラクチャリングにおける重
要なノウハウでした。しかし、最近はフラクチャリング流体による環境汚染を懸念するシェールガス開発
*
溶解限度を超えて析出した固形物。水中に存在する化合物の内、ある種のものは、水に対する溶解度が有限であり、その濃度が溶解度を
超えるとスケール(またはスラッジ)を生成する。スケールが生成されると、管路においては管路抵抗の増大、ヒーターや熱交換器では熱効率
の低下をきたし、更に進めば、管路が閉塞される。スケール対策は、各種設備の効率と安全性を維持する上で、重要な役割を持つ。
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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
反対派(環境派)に対する配慮から、可能な限り添加剤の種類を減らし、かつ有害なものを排除すると共
に、その組成を積極的に公開する方向のようです。米国の中小ガス生産会社の団体のホームページ
「Energy in Depth」では、添加物は全体の0.49%に過ぎず、「プール水の消毒」、「化粧品の添加物」等、
日常生活における用途が記載されており、その安全性を主張しています2)。
表1の成分・組成例の1から4は公開年がこの順であり、2010年7月公開の成分・組成例3ではそれ以前
に比較して添加物の種類が大幅に少ないことが判ります。成分・組成例4は2011年2月に公開されたもの
であり、成分・組成例3で使用されていた塩酸を含みません。なお、深い(高圧の)シェール層では低粘性
のフラクチャリング流体(Slick-Water)を使用しますが、これは摩擦低減剤と同様に圧入を促進するためで
す。また、浅い(低圧の)シェール層では窒素などの気泡を混入したフラクチャリング流体なども用いられ
ます。
2.2 フラクチャリング用水の確保
フラクチャリングでは大量の水を使用することから、その確保が一つの課題です。河川水のほか、例
えばBarnettシェールのDallas/Fort Worthプロジェクトでは空港の水設備から供給を受けたようであり、消
火用水を使用することもあります。河川水の場合には取水量の制約を受けるため、降水量が多い時期に
取水してシェールガス生産現場付近の池等で貯水しておき、フラクチャリングに備えるようです。また、ゴ
ルフ場の池を水源または貯水池に利用する例も報告されています6)。
このような大量の水資源利用もシェールガス開発反対派が懸念することの一つであり、それに対する
配慮と、水確保に関する不安材料解消の両面から、フラクチャリング後に地上に戻る水(Flowback)を処
理して再利用することが主流になりつつあります。
2.3 シェールガス開発反対派が挙げる懸念事項
ここで、シェールガス開発反対派が挙げる懸念事項をまとめると、次の3点となります。
(1) 大量の淡水使用
(2) フラクチャリングによる地下水汚染、およびガス漏洩
(3) Flowbackの環境への排水に伴う汚染・・現在は州レベルの規制
(1)については、これまでに述べた通りです。(2)については、フラクチャリング流体や天然ガス自体が
岩石の亀裂を通じて帯水層に達しての汚染や、水井戸からガスが検出されることを懸念しており、またそ
の可能性を示す実例も報告されています。(3)に関しては、現状では石油、天然ガス生産等に伴う坑排水
の処理や管理は州レベルの規制を受けていますが、公共水処理場への排水禁止やEPA(米国環境保護
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かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
庁)による排水規制ガイドラインを連邦政府レベルで強化すべきとの主張がなされています。
3. 水処理の現状と今後
3.1 シェールガス開発における水処理
新鮮な水をフラクチャリング流体に使用するために必要な水処理については、公開情報は得られま
せんでした。前述のように、河川水やゴルフ場の池の水等が使用されていることから、通常の水ならば特
段の処理は不要と推定されます。従って、シェールガス開発で水処理が必要なのはFlowbackの環境へ
の排水、あるいは再利用における処理と考えられます。現状のFlowbackの主たる処分方法は次の通りで
す。
(1) 公共水面(河川等)への排水
(2) 工業用、または公共水処理場への排水
(3) 枯渇した油井、ガス井等、あるいは帯水層に圧入
(4) フラクチャリングに再利用
(1)と(2)については、現状では州レベルの規制をクリアする排水処理が必要ですが、規制値以下にす
る必要性に触れた少数の文献があるのみで、具体的処理方法に関する公開情報は得られませんでした。
シェールガス開発反対派の動きもあり、(1)と(2)に関する今後の規制は厳しくなることが予想されます。
(1)の例として、Fayettevilleシェールにおいて、環境基準に適合する処理の後、灌漑用水として利用す
ることが記載されています6)。2008年当時、MarcellusシェールではFlowbackを処理した上でアパラチア川
に放流していましたが、それが同川の高塩分濃度の原因ではないかと疑われている例もあります7)。
現在は(3)が一般的なようですが、シェールガス開発地域はこれまでに石油・ガス生産が行われなか
った地域が多く、地下圧入用の還元井が十分にないことが多いため、例えばMarcellusシェールでは帯
水層への注入が行われています8)。環境保護団体はこれが飲料水用水源に与える影響を強く懸念して
おり、Marcellusシェールの一部が含まれるニューヨーク州議会における、2010年末の開発凍結法案の可
決9)につながったものと考えられます。今後は他の地域、あるいは米国外においても、規制強化や開発
停止/減速への動きは広がる可能性が考えられます。
そういう背景から、環境への影響回避と水の確保の両面でメリットが期待できる(4)の方法が注目されて
おり、既に一部で実用されていると共に、様々な取組みが行われています。問題となるのはコストですが、
開発業者の一つDevon Energy社によれば、現状の再利用は排水よりもややコスト高だが、その差は縮ま
りつつあるとのことです10)。
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Flowbackを再利用するために必要な水処理に対して、具体的基準に関する情報は得られませんでし
たが、様々な情報をまとめると、主要なポイントは次の3点と考えられます。
① 塩分濃度の低減
② 浮遊固形分(TSS:Total Suspended Solid)の除去
③ スケール生成物質(TDS:Total Dissolved Solid ほか)の除去
①は、様々な添加剤の作用を妨げる、地中における地化学的反応で固体が析出してガス流路を閉塞
する恐れがあるためと推定されます。②はガス流路の閉塞と関連するほか、摩擦低減剤の効果が弱まる
ことを警戒するからです。③は坑内や地層中でスケールが付着し、岩石の孔隙やガス流路の閉塞をもた
らすためと考えられます。
③において処理すべきスケール生成物質には、Flowbackに溶解している自然界の放射性物質
(NORM:Naturally Occurring Radioactive Material)も含まれます。Flowbackに地下の放射性物質が溶解
することはシェールガス開発に特有の問題ではなく、溶解している放射性物質の強度もそのままならば
健康に全く問題ないレベルです。しかし、Flowbackの再利用によってその濃度が上昇し、水に対する溶
解度の限界を超えるとスケールとなって沈積し、ある程度の強度の放射線源となることを警戒するもの
です6)。そのほか、副次的に必要な処理として、次の4点が挙げられます11)。
・添加したポリマー(摩擦低減剤)の除去
・油・グリース分のコントロール
・全有機物炭素(Total Organic Carbon)の減少
・微生物・細菌のコントロール
これ以降、Flowbackの再利用を目的とする水処理について、その現状を述べたいと思います。
3.2 Flowback処理技術に対する取組み
Flowbackの処理と再利用は既に一部で行われていますが、米国ではコストダウンを主目的として、以
下のような技術開発や試験プロジェクトが進められています11)。これらプロジェクトの内容にはFlowback
再利用のための水処理だけでなく、公共の水源と競合しない代替水源やシェールガス生産に関連する
水の特性把握なども含まれている模様です。
(1) Industry Water Conservation Consortia
・BSWCMC(Barnett Shale Water Conservation and Management Committee)
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・ASWCMC(Appalachian Shale Water Conservation and Management Committee)
・Marcellus Shale Coalition
(2) シェールガス生産会社による既存技術・ノウハウの試験
(3) RPSEA Program
・RPSEA(Research Partner Ship to Secure Energy for America)は米国エネルギー産業を代表す
る180 機関以上で構成する非営利組織
(4) NETL-DOE Program
・NETL(National Energy Technology Laboratory)は米国エネルギー省(DOE)傘下の研究機関
(5) NYSERDA Project on Shale Gas Issue
・NYSERDA(New York State Energy Research and Development Authority)はニューヨーク州エ
ネルギー研究開発局
(2)の例として、DTE Gas Resources社によるオンサイト分離とろ過を組み合わせた方法(詳細は不明)
の試験や、Devon Energy社がBarnettシェールで行った同様な技術試験があります。しかし、DTE Gas
Resources社では経済性なしとの結論が出た模様です12)。現在、適用可能なFlowback処理技術として、蒸
留、膜分離、オゾン処理/膜分離が挙げられています11)。これらのうち、入手情報について、以下に紹介
します。
3.3 現状で適用可能なFlowback処理方法
3.3.1 蒸留
現状で最も実績があるFlowback処理方法であり、以下に、Fountain Quail Water Management社、GE
Water & Process Technology社、およびVeolia Water Solutions & Technologies Oil & Gas社の技術を説明
します。蒸留による水処理技術を保有するこのほかの会社には、212 Resources社、Intevras社、Aquatech
社、Total Separation Solutions 社11)があり、石油・天然ガス分野の水処理では最も一般的な処理方法で
す。
文献によれば、Flowbackの主な処理法は逆浸透膜と蒸留8)10)であり、蒸留法では塩分濃度45,000ppm
まで対応可能です10)。Devon Energy社は蒸留設備を使用して2,500バレル/日(約400m3/日)のFlowback
を処理し、回収した2,000バレル/日(約320m3/d)の淡水を再利用しており8)、またChesapeake社はテキサ
ス州Fort WorthのBrentwoodで4基の蒸留設備を設置予定です8)。
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(1) Fountain Quail Water Management社
Fountain Quail Water Management社(以下、Fountain Quail 社と略)は、石油・天然ガス分野のエンジ
ニアリングサービス会社Aqua-Pure社の子会社であり、シェールガスのFlow Back処理設備専門の会社
です。2004 年以来、Barnettシェールでは同社の設備によるFlow Back処理を行っており、2008年4月時
点で累計570万バレル(約91万m3)を処理して、その約80%に相当する450万バレル(約71.5万m3)の水を
回収、再利用したとのことです12)。BarnettにおけるFlow Back 処理量は約76013)~95011)m3/日であり、水
回収率は80~85%とのこと13)。同社の技術はMarcellusシェール(水の回収率75~80%)やFayettevilleシェ
ール(水の回収率95%)でも使用されています13)。
蒸留法では、蒸発した蒸気の再圧縮方法により、蒸気エジェクタを用いる熱的圧縮(TVR:Thermal
Vapor Recompression)と圧縮機を用いる機械的圧縮(MVR:Mechanical Vapor Recompression)があり、
Fountain Quail 社の方式は後者です14)。
図10にFountain Quail 社の方式のフローを示します。図中左上の「Feed」が坑井からのFlowbackであ
り、蒸留後の水や濃縮水と熱交換して予熱された後、蒸発器(図中ではSeparator)に流入します。蒸発器
には循環ラインがあり、内部の流体は圧縮後の高温蒸気との熱交換で加熱されます。また、蒸発器は圧
縮機のサクション(吸入)側にあるため減圧されており、内部流体はさほどの高温でなくても容易に気化
します。気化して圧縮された高温蒸気は蒸発器の循環ラインを流れる流体と熱交換して冷却され、蒸留
水となって再利用のために送られます。この方式では、Flowback中の塩分や固形分等は濃縮水として排
出されます。Fountain Quail 社の移動可能なスキッドマウント型装置の概観図と写真を図11~図13に示
します。
出所: 14)
図10 Fountain Quail Water Management社の蒸留方式のフロー
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出所: 13)
図11 Fountain Quail Water Management社のスキッドマウント型蒸留装置の概観図
出所: 11)
図12 Fountain Quail Water Management社のスキッドマウント型蒸留装置(1)
出所: 14)
図13 Fountain Quail Water Management社のスキッドマウント型蒸留装置(2)
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(2) GE Water & Process Technology社
トレーラー積載型の蒸留装置であり、図14にイラストを示します。2010年9月にプレス発表され15)、2011
年始めごろから出荷予定。Fountain Quail社と同様に機械的圧縮と推定できます。能力は50ガロン/分
(約11.4m3/時=273m3/日)です。
出所: 15)
図14 GE Water & Process Technology 社のトレーラー積載型蒸留装置
(3) Veolia Water Solutions & Technologies Oil & Gas社
Veolia Water Solutions & Technologies Oil & Gas社(以下、Veolia 社と略)はその名の通り、油・ガス田
における水処理専門のサービス会社です。ここで述べる蒸留方式のほか、後述の沈積・ろ過・膜分離方
式の技術も保有しています。
図15にVeolia社の蒸留設備(ZLD:Zero Liquid Discharge)を示します。図15の設備設置場所は不明で
すが、シェールガスフィールドに設置されたものではない可能性があります。ZLD はVeolia社グループ
のHPD社が開発した技術であり、図15の外観から蒸気エジェクタを用いる方式のようです。Veolia 社に
よれば固形分を含む水処理に適するそうで、以下の特徴を挙げています。前述のFountain Quail 社との
相違は下の2)であり、廃棄物が濃縮水ではなく固体である点です。
1) NaCl、CaCl、重金属を効果的に除去
2) 廃棄物は固体ケーキ状であり、埋め立て処理可能:ZLD(Zero Liquid Discharge)
3) 前処理不要で設備費、運転費削減可能
この技術はMarcellusシェールのFlowbackでデモを行い、95%の水を回収して再利用可能としています
16)
。
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かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
出所: 16)
図15 Veolia Water Solutions & Technologies Oil & Gas 社の蒸留設備(ZLD)
3.3.2 膜(逆浸透膜)分離
前述のように、逆浸透膜は蒸留と並ぶ主要なFlowback処理方法とされています10)。ただし、蒸留法で
は塩分濃度45,000ppm まで対応可能なのに対し、逆浸透膜は35,000ppmまでとされています10)。
逆浸透膜を用いる処理における課題は、固体粒子等による膜の閉塞であり、一般に化学的操作によ
る前処理と組合せて用いられるようです。閉塞防止のために、膜への特殊なコーティングも検討されてい
ます3)。
(1) Veolia Water Solutions & Technologies Oil & Gas社
Veolia社では前述の蒸留方式のほか、逆浸透膜を用いる技術も保有しています。
同社のOPUS(Optimized Pretreatment and Unique Separation)方式の概略フローを図16に示します。
OPUS方式はVeolia 社グループのN.A. Water Systems社が開発した技術であり、処理対象水の脱ガス・
遊離油分除去後、化学的軟化(chemical softening)を行い、金属等の浮遊固体粒子をろ過した後、逆浸透
膜で処理します。Veolia 社によれば、高pHでの運転によって生物・有機物・固体のスケールを防止する
ことが可能であり、所要エネルギーが少ないことが特徴としています16)。
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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
出所: 16)
図16 Veolia社のOPUS方式概略フロー
Veolia 社のOPUS 方式設備の写真を図17に示します。図17の設備設置場所は不明ですが、シェー
ルガスフィールドではない可能性が高いと思います。
出所: 16)
図17 Veolia 社のOPUS 方式設備
(2) EnCana社における逆浸透膜によるFlowback処理
カナダの中堅シェールガス開発業者であるEnCana社では、米国のBarnettシェールにおいて逆浸透
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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
膜によるFlowback 処理を行っています8)。主としてFlowback中の塩類を除去するのが目的であり、処理
能力は10,000バレル/日(約1,590m3/日)です。ただし、塩化物濃度は20,000ppm が限界とのこと。逆浸透
膜ではなく、限外ろ過(Ultra Filtration)です。EnCana の処理装置を図18に示します。
出所: 11)
図18 EnCana が使用中の限外ろ過(Ultra Filtration)処理装置
(3) その他の技術
GeoPure社やEcosphere Technologies社ほかが逆浸透膜によるFlowback処理技術を保有しています
11)
。
・GeoPure社: 限外ろ過と逆浸透膜の組合せ
・Ecosphere Technologies社: オゾン処理と逆浸透膜の組合せ
3.3.3 化学的処理
(1) Veolia Water Solutions & Technologies Oil & Gas社
前述のVeolia社の蒸留方式(図15)と逆浸透膜方式(図17)は、写真の印象では比較的大規模なプラント
のようですが、同社では化学的Flowback処理ができる可搬型装置MULTIFLOも開発しています16)。
図19、図20にMULTIFLOの外観と概要図を示します。この装置は化学処理によるスケール成分(Ca、
Mg、Ba、Sr、Fe、Mn)除去が目的であり、アルカリやポリマーを加えて沈殿、凝集、分離を行います。その
効果を表2に示します。この装置は可搬型であり、容量として5,000~25,000バレル/日(約795~4,000m3/
日)の4タイプが用意されています。2010年11月からMarcellusシェールガス開発でFlowbackの再利用に
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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
向けた処理に使用されています16)。
出所: 16)
図19 Veolia 社のMULTIFLO外観
出所: 16)
図20 Veolia 社のMULTIFLO概要図
表2 Veolia 社のMULTIFLO の性能データ
出所: 16)
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(2) Superior Well Services社
Superior Well Services 社は、スケールを生成する二価陽イオン除去に効果的な方法として、次のよう
な処理方法を開発しており、新鮮水に近いフラクチャリング流体用水を回収可能としています17)。
1) 二価イオンと金属の沈殿に適するpHに調整
2) 二価陽イオン添加剤(Ba、Sr、Ca 等)で可溶性イオンを沈殿
3) Fe2+をFe3+に転換して沈殿除去
4) 必要に応じて殺菌、消毒
5) 残留固形分をろ過
表3に処理前後の水質の比較を示します17)。二価陽イオン除去に一定の効果が認められるが、「極め
て高い効果」とまではいかないようです。Flowback処理がこの程度で十分であるということは、Flowback再
利用のための水処理では、高度処理のような精緻な処理は不要と考えられます。
この方法の開発と同時に塩分濃度に対する許容範囲が広い摩擦低減剤も開発し18)、Marcellusシェー
ルのCabot Oil & Gas社が開発するフィールドにおいて、Flowbackから回収した水のみでフラクチャリン
グを行っています。
表3 Superior Well Services 社の方法による処理前後の水質比較
出所: 17)
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(3) Ozone Technologies Group社、Kerfoot Technologies社
Ozone Technologies Group社は、Kerfoot Technologies社のNANOZOX プロセス20)を用いるFlowback
処理技術を開発しています19)。Kerfoot Technologies社のNANOZOX プロセスは、表面を過酸化水素で
覆われたオゾンのマイクロ・ナノバブルで油分や有機化合物を分解する技術です。これを用い、Ozone
Technologies Group社は10万~100万ガロン/日(約380~3,800m3/日)の容量をもつFlowback処理装置
を開発しました。固定型から可搬型まで各種が用意されています。実際のシェールガスフィールドにお
ける適用は報告されていません。
(4) PPC(Process Plants Corporation)社
PPC社の方式は、酸素を水中に吹き込んで重金属や化学物質を95%除去するもので、砂フィルタを
併用すれば懸濁固体分(TSS:Total Suspended Solid)を99.05%除去可能としています21)。この技術をシェ
ールガスフィールドのFlowbackに適用した例は報告されていないが、酸性鉱山排水の処理で実績があ
るとのことで、処理結果の例を図21に示します。
出所: 21)
図21 PPC 社の方式の処理結果例
3.3.4 その他
GTI注)ではFlowback の再利用に向けた技術開発を行っており、その一つとして電気透析法による無
機物除去技術の開発を進めています。詳細は不明ですが、原理図を図22に示します。まだ、室内実験
の段階と推定されます。
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出所: 3)
図22 GTI の電気透析法による無機物除去技術の原理
注) GTI(Gas Technology Inst.)は、天然ガスを中心とする新エネルギー技術の非営利研究開発機関であり、イリノイ工科大学内に設置された
The Institute of Gas Technology とGRI(Gas Research Institute)が2000 年に統合されてできた組織。
4. Flowback の性状
Flowback のフラクチャリング流体としての再利用に関する管理フローを図23に示します。この図によ
れば、Flowback を処理せずそのまま次のフラクチャリング流体に用いる場合もありますが、その判断基
準に関する情報は得られませんでした。後述のように、Flowback 性状は一定ではなく、時間と共に変化
することに留意が必要です。
出所: 3)
図23 Flowback の再利用に関する管理フロー
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Flowback性状の経時変化の例を図24、図25に示します。図24はTDS(Total Dissolved Solid)の変化で
あり、横軸はフラクチャリング後の日数です。実際のシェールガスフィールドでのデータですが、具体的
フィールド名は不明です。
出所: 3)
図24 Flowback 中のTDS(Total Dissolved Solid)の経時変化
図25はTDS のほか、塩素、バリウム、硫化物の経時変化であり、Marcellusシェールでのデータです。
横軸は図24とは異なり、累積Flowback量であることに注意して下さい。Flowback流量が不明のため、図
24の横軸との対応は不明です。
出所: 17)
図25 Flowback性状の経時変化
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これらの図から、Flowback中の様々な成分は一般に時間と共に増加するが、成分毎、あるいはフィ
ールド毎にその様相は異なると思われます。表4に入手したFlowback性状を示します。いずれも実デー
タであるが、具体的フィールド名は不明です。例3と例4については、累積Flowback量を時間軸とする経
時変化を示しました。表の下部にある「Langelier Saturation Index」の説明18)は、少し専門的ですが次の通
りです。
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表4 Flowbackの性状
出所:
3)
3)
17)、18)
22)
5. まとめ
今まで解説してきたように、シェールガスの開発に必要な水の確保はコスト面からも容易ではありま
せん。開発規制や検査、関係機関との調整などリスク軽減は欠かせません。ガス生産に伴う水
(Flowback)の汚染リスクをはじめ、これらの問題を克服したうえでシェールからの安定的なガス生産も可
能になるでしょう。保安(Safety)と環境調和(Environment)を十分意識したシェールガス開発が望まれま
す。
<出所>
1) Modern Shale Gas:Development in the United States:A Primer、US DOE レポート、2009年4月
2) Energy in Depth(米国中小ガス生産会社の団体)ホームページ、http://www.energyindepth.org/frac-fluid.pdf
3) Hayes, T.、Produced Water Research Project、RPSEA Unconventional Gas Conference 2010 発表資料、2010年4月
4) Hydraulic Fracturing、Range Resources 社、2010年7月、同社ホームページ、
http://www.rangeresources.com/rangeresources/files/6f/6ff33c64-5acf-4270-95c7-9e991b963771.pdf
5) Range Resources 社のCompany Presentation、2011年2月、同社ホームページ、
http://www.rangeresources.com/rangeresources/files/9d/9d718f88-13ab-4b93-a486-75245346598e.pdf
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6) Denney, D.、J. Pet. Tech.、Vol.61、No.8、pp53-54、2009年8月
7) USGS(米国地質調査所)ホームページ、http://geology.com/usgs/marcellus-shale/
8) Arthur, J.D.、Prudent and Sustainable Water Management and Disposal Alternatives Applicable to Shale Gas Development、The Ground Water
Protection Council 提出資料、2009年1月
9) 日本経済新聞、2010年12月3日
10) Gas Drilling Waste-Water Disposal、2008 年2 月、http://www.stwresources.com/_pdf/tarrant-county-produced-water.pdf
11) Hayes, T.、Shale Gas Water Management Consortiums: Marcellus and Barnett Regions、GWPC UIC Forum Workshop: Hydraulic Fracturing
Water Issues、発表資料、2011年1月
12) Arthur, J.D.他、Evaluating Implications of Hydraulic Fracturing in Shale Gas Reservoirs、Paper Presented at SPE Americas E&P
Environmental and Safety Conference、SPE 121038、2009年3月
13) Fountain Quail社プレスリリース、2010年7月29日、http://www.fountainquail.com/investor/press/assets/FQWM-MARC.pdf
14) Water Treatment Technology Fact Sheet、All Consulting ホームページ、
http://www.all-llc.com/publicdownloads/ThermalDisillationFactSheet.pdf
15) プレス発表、GE Water & Process Technology社、2010年9月30日、http://www.gepower.com/about/press/en/2010_press/093010.htm
16) Veolia Water Solutions & Technologies Oil & Gas社ホームページ、
http://www.vwsoilandgas.com/en/markets/upstream/onshore/unconventionalgaswatertreatment/
17) Papso, J.、Blauch, M.、Grottenthaler, D.、Cabot Gas Well Treated with 100% Reused Frac Fluid、2010年、
http://www.taeradio.com/sponsor/superior-well-services/reuse-rather-than-release.pdf
18) Blauch, M.E.、Paper Presented at SPE Unconventional Gas Conf.、SPE 131784、2010年2月
19) Ozone Technologies Group, Inc.ホームページ、http://www.ozonetechnologiesgroup.com/applications_ShaleGasFractureTreatment.php
20) Kerfoot Technologies, Inc.ホームページ、http://www.kerfoottech.com/environmental-technology-products-nanozox.asp
21) Reuse Frac Water by Removing 95%、PPC(Process Plants Corporation)社パンフレット、
http://ppc-site.com/images/FRAC_FLOWBACK_WATER_TREATMENT__Water_Recovery_System001.pdf
22) Blauch, M.、World Oil、Vol.231、No.7、pp D121-D124、2010年7月
以上
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