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学習材開発セミナー 2010/5/7 M123440 西村 祥太郎 【発表構成】 1.
社会科(地理歴史科・公民科)学習材開発セミナー 2010/5/7 M123440 西村 祥太郎 カリキュラムに基づく自律的・能動的な授業実践の分析2 ~授業記録から分かる授業づくりの論理4(S 中学校)~ 【発表構成】 1. はじめに ~誰の何を明らかにするか~ 2. S 中学校の現状 ~授業者は、どのような子どもに教えているか~ ①学校評価から分かる現状 ②授業から分かる現状 3. 各授業の実際 ~1時間ごとの授業は、どのように行われたか~ ①-1 第1時の授業展開と発問構造 ①-2 学習材と授業展開の関係 ②-1 第2時の授業展開と発問構造 ②-2 学習材と授業展開の関係 ③-1 第3時の授業展開と発問構造 ③-2 学習材と授業展開の関係 ④-1 第4時の授業展開と発問構造 ④-2 学習材と授業展開の関係 ⑤-1 第5時の授業展開と発問構造 ⑤-2 学習材と授業展開の関係 4. 単元構成 ~単元全体は、どのような構造になっていたか~ ①全体構造 ②学習材の使用方法 5. 授業展開から見る授業者の意図 1. はじめに ~なぜこのような授業が行われたのか~ ~誰の何を明らかにするか~ ここでは、本発表の目的を明らかにする。本発表は、開発された学習材を利用した授業 の記録を基に授業づくりの論理を抽出するために行う。この学習材は約40時間分の内容 で構成されるが、3~5時間での実践を依頼している。これは、必然的に内容の取捨選択 が行われる場を設定し、教師がどのように取捨選択を行ったか、なぜそのような取捨選択 を行ったのか、つまり、教師が有するゲートキーピング力1を明らかにするためである。 本発表は、広島市立 S 中学校、荒井氏が実践した単元「アジアを学ぶ」 (全5時間)の場 1草原和博他「多元的な教科観・段階的な目標設定に開かれたモデル地理教科書の開発-教 師のゲートキーピング力の解明に向けて」社会系教科教育学会 1 自由研究発表 2012/2/19 合である。 2. S 中学校の現状 ~授業者は、どのような子どもに教えているか~ 本章では、授業者のゲートキーピング力に影響を与えると考えられる学校の現状を、学 校評価と授業(ビデオ)から、特に学習面に着目して明らかにする。 ①学校評価から分かる現状 S 中学校のホームページ2には、学校評価の結果を記載した学校通信が掲載されている。 ここでは、平成23年度前期の学校評価の結果のうち、学習面に関係する項目の概要を述 べる。学習面の評価は、「~確かな学力の向上~」という項目において、「学習規律・授業 規律」「授業改善」「家庭学習の定着」の3点に集約されている。 1点目の「学習規律・授業規律」では、学習規律が身についたと感じている生徒が約7 割で、学校が目標とする9割を大きく下回っていると分析されている。また、保護者から は、授業中の私語が気になるとの意見が挙げられている。 2点目の「授業改善」の項目では、授業が楽しい、分かるという生徒が約7割で、学校 目標に達していないとされている。 3点目の「家庭学習の定着」についても、身についている生徒が5~6割と、目標の8 割には大きな開きがあると分析されている。 ②授業から分かる現状 実践された授業記録(ビデオ)からも、特に学習規律に問題があることが見受けられた。 例えば、教師の発言と結びつかない発言を行う、教科書や学習材の指示されたページを即 座に開かず、教師の注意を受けるなどの場面がみられた。 3. 各授業の実際 ~1時間ごとの授業は、どのように行われたか~ ①-1 第1時の授業展開と発問構造 本時は西アジアの国々の特色を、環境、宗教、産業の3点から捉えることを目標にして いると考えられる。以下に授業展開の概略と発問構造を示す。なお、授業展開と発問構造 は、ビデオ、授業実践記録を基に発表者が再構成している。 <授業展開の概要> 授業 発問 形成される認識 使用された学習材や教科 展開 導入 書 ○西アジアには何という名前の ・サウジアラビア、アラブ首長国 ・地図帳 国があるか。 連邦、イランなど計16か国 ・学習材 p25「学習の見取 り図」 2 広島市立 S 中学校 http://www. 2 展開 ① ○西アジアは、どのような環境な のか。 ・どの気候区分に属するか。 ・乾燥帯 ・どのような景色がみられるか。 ・砂漠(岩・砂)、ステップ(草 ・どのような生産物があるか。 原) ・ナツメヤシ(オタフクソース) くらいで、農業は盛んでない。 展開 ② ○西アジアにみられる宗教は、ど のようなものか ・西アジアの主な宗教は何か。 ・イスラム教 ・イスラム教はどのような宗教 か。 ・1日5回祈る、酒を飲まない、 ・教科書 p166 1年に1回1か月の断食(日中) 、 ・学習材 p26「サウジアラ 女性の服装は肌の露出が少ない。 ビアのイスラームの女性」 展開 ③ ○西アジアでは、どのような産業 が発達しているか。 ・石油はどのような物質か。 ・黒く、ドロドロしている。 ・掘ったままのものを原油、精製 したものを石油と言う。 ・世界中のどこに石油が集中して ・半分から3分の2が西アジアに ・教科書 p180 いるか。 集中している。 ・学習材 p25 本文 12 行目 ・石油から何が生産されるか。 ・灯油、プラスチック、上靴など ・学習材 p26 アクティビ ・石油は、日本にとってどのよう ・生活に必要不可欠な存在であ ティーⅢ-5 な存在か る。 <発問構造> 資料①を参照 ①-2 学習材と授業展開の関係 本時は、学習材 p25 の本文12行目までと p26 の資料やアクティビティーを参考に、教 師が独自の問いを立て、授業が構成されていると考えられる。本時の MQ は、学習内容か ら考えると「西アジアには、どのような特色があるか」だと言える。しかし、東アジアの 特色を羅列するのではなく、日本との関係性から捉え、子どもが身近に感じるように工夫 されている。例えば、西アジアの生産物として、ナツメヤシを示した際に、「これは、あな たたちの身近なものに使われています」と発問し、オタフクソースの原材料であることを 説明していた。また、展開3では、身近なところに石油製品があふれていることを説明し、 3 日本にとって石油の面でも関係が深いことを認識させている。ここから、明示はされてい ないが、教師の意識の中に「日本と西アジアは、どのように結びついているか」という、 もう1つの MQ が存在するのではないかと考えられる。 また、本時において学習材が使用された場面は以下のとおりである ・導入:p25 の「学習の見取り図」に、地図帳を参考にして国名を書き込むよう指示が出 された。 ・展開2:p26 の「サウジアラビアのイスラームの女性」の写真を用いて、その服装を教 科書にあるイランのイスラム教信者の女性と比較させた。 ・展開3:p25 の本文 12 行目「世界の石油埋蔵量の約 2/3 が眠るこの地域には、…」を、 教科書のデータと比較し、最新のデータとして活用している。 ここから分かることは、学習材は、教師の授業計画を遂行するために、適宜使用されてい ・展開3:p26 のアクティビティーⅢ-5を活用し、生徒の身近にある石油製品を連想さ ることである せている。( 「Ⅲ-5をする」などと明言はされていない) ここから分かることは、学習材は、教師の授業計画遂行のために、適宜使用されている ことである。つまり、資料集のような役割を果たしていると言える。 ②-1 第2時の授業展開と発問構造 本時は、石油から見た西アジアの特色を、歴史的背景、国家体制、産業構造の3点から 捉えさせることを目標にしていると考えられる。以下に授業展開の概略と発問構造を示す。 なお、授業展開と発問構造は、ビデオ、授業実践記録を基に発表者が再構成している。 <授業展開の概要> 授業 発問 形成される認識 展開 導入 使用された学習材や教科 書 ○石油から見ると、西アジアはど のような地域だろう ・世界中の石油の生産・輸出量は ・生産量は 21.1% ・学習材 p26 アクティビ どのようになっているだろう ・輸出量は 27.8% ティーⅡ-2 ・日本は、西アジアにどのくらい ・依存率は 64.9% 石油を依存しているか 展開 ① ・石油が輸入できなくなると日本 ・日本の石油製品や石油利用の にどのような影響があるか 65%が消える ○西アジアの国々は、どのように ・1960 年代に油田を国有化し、 石油を手に入れたのか 自国の石油資源の権利を主張し た(資源ナショナリズム) ・いつから石油が使用されるよう ・120-150 年前から になったか 4 ・石油はどこにあるのか ・地中に埋まっている ・石油を掘るためには、何が必要 ・資金、道具、人材、技術 ・資料集 p206 か ・最初に石油を手に入れたのは誰 ・欧米諸国が手に入れた か 展開 ② ○西アジアの国家の仕組みはど のようになっているか ・主権は誰が握っているのか ・王様が握っている=君主制 ・収入は何から得ているか ・税金がほとんどない ・日本の国家の仕組みはどのよう ・学習材 p28「主な国の政 府収入の内訳」 になっているか ・主権は誰が握っているのか ・国民が握っている=民主主義 ・収入は何から得ているか ・税金の割合が高い ・西アジアの国家の政治体制の違 ・学習材 p26 アクティビテ いを地図に示そう ィーⅡ-3 <発問構造> 資料②参照 ②-2 学習材と授業展開の関係 本時は、学習材 p25 本文 B と p27 本文 A、p26,28 の資料やアクティビティーを踏まえて、 教師が独自の授業構成を行っていると考えられる。本時の MQ は、導入時に示された「石 油から見ると西アジアはどのような地域だろう」である。しかし、前時と同様に、西アジ アの石油生産が与える日本への影響力を説明する、西アジアの国家体制を認識させる際に 日本と比較させるなど、日本との関係を子供が意識するように工夫されていた。本時も明 示されてはいないものの、教師の意識として、 「石油から見て、日本と西アジアはどのよう な関係にあるか」というもう1つの MQ が存在すると考える。 また、本時における学習材の活用は、以下のとおりである。 導入:p26 アクティビティーⅡ-2の表を完成させ、3か国の世界に占める生産量と輸出 量、日本の3か国に対する依存率を把握させた 展開2:p28「主な国の政府収入の内訳」を読み取らせ、日本と西アジア諸国の収入源の 違いを把握させた 展開2:p26 アクティビティーⅡ-3を活用し、地図に政治体制ごとに色分けをさせた(全 体的な傾向までは言及できていない) ここから分かることは、学習材を教師の授業計画に合わせて、順序を入れ替えながら適 5 宜活用していることである。本時の活用のされ方も資料集的と言える。 ③-1 第3時の授業展開と発問構造 本時は、産油国の現状、課題と解決策を、石油収入のメリットとデメリットを出発点に 捉えさせることが目標だと考えられる。以下に授業展開の概略と発問構造を示す。なお、 授業展開と発問構造は、ビデオ、授業実践記録を基に発表者が再構成している。 <授業構成の概要> 授業 発問 形成される認識 展開 導入 使用された学習材や教科 書 ○政府収入における税金の割合 は、国家体制とどのような関係が あるのか ・ブルネイの王様は、どのような ・ホテルを買い与えるなど大盤振 お金の使い方をするのか る舞いである ・西アジアの財政収入はどのよう ・税金収入がほぼない 学習材 p28「主な国の政府 になっているか ・オイルマネーによる収入 収入の内訳」 ・イギリスなど他の国々の財政収 ・税金に頼っている 入はどのようになっているか 展開 ① ○多くの産油国は、どのようにオ ・教科書、スクールバス、教育の イルマネーを使用しているか 無償化のために利用する ・石油収入のメリットは何か ・税金がかからない ・なぜ、日本は税金を集めるのか ・教育の無償化などに必要な財源 を確保するため 学習材 p27「エネルギー資 源の可採年数」、p28、「石 油価格の推移」、 「湾岸諸国 の石油収入の変化」p30「サ ウジアラビアの人口と失 業率の変遷」 展開 ② ○産油国の課題と解決策はどの ようになっているか ・石油収入のデメリットは何か ・石油がなくなると収入が不安定 学習材 p27「エネルギー資 になる、戦争が起きる 源の可採年数」、p28、「石 油価格の推移」、 「湾岸諸国 の石油収入の変化」p30「サ ウジアラビアの人口と失 業率の変遷」 ・石油の産出や使用の減少は、産 ・国家存亡の危機に瀕する 油国にどのような影響を及ぼす 6 のか ・ドバイはどのような対策を行っ ・人工島の建造、投資など石油収 学習材 p29『ドバイの高級 ているか 入に頼らない産業への変換=脱 ホテル「ブルジュ・アル・ 石油化 アラブ」、 『ドバイのリゾー ト開発「パーム・ジュメイ ラ」 ・なぜ、即座に対策を行えたのか ・王様の工夫 ・将来のことを考えていない王様 ・国家の未来が不透明になる⇒国 だったら、どのような問題が発生 家のリーダーの在り方が重要に するか なる ・サウジアラビアはどのような対 ・地方選挙を行った 学習材 p30「サウジアラビ 策を行っているか アの民主化の動き」 ・10年後のサウジアラビアは、 学習材 p30 どのようになっているか ィー アクティビテ Ⅲ-4 <発問構造> 資料③参照 ③-2 学習材と授業展開の関係 本時は、学習材 p27 本文 B と p29 本文 A を中心に、p27~30 の資料やアクティビティー を参考にして教師が独自の授業構成を行っていると言える。本時の MQ は「産油国の現状、 課題と解決策はどのようになっているか」だと考えられる。本時は、多少、他国との政府 収入に触れているものの、産油国の現状と将来に対する取り組みの理解に特化した授業だ と考える。また、産油国の現状と諸問題が日本に与える影響など、日本との関係性で捉え る授業構成にはなっていない。この点が前時までとの大きな違いである。 また、本時の学習材が活用された場面は以下のとおりである。 導入:p28「主な国々の政府収入の内訳」を利用し、西アジアの国々が税収に頼ってい ないことを読み取らせる。 展開1、2:p27「エネルギー資源の可採年数」 、p28、 「石油価格の推移」、 「湾岸諸国 の石油収入の変化」p30「サウジアラビアの人口と失業率の変遷」を利用 し、石油収入のメリット・デメリットを考えさせている。 展開2:p29『ドバイの高級ホテル「ブルジュ・アル・アラブ」』、『ドバイのリゾート 開発「パーム・ジュメイラ」』を利用して、ドバイが脱石油化を目指して いることを視覚的にとらえさせている 展開2:p30「サウジアラビアの民主化の動き」を見せ、サウジアラビアで初めて地方 選が行われたことを読み取らせている。 展開2:p30 アクティビティーⅢ-4を活用し、10年後のサウジアラビアにおける 7 政治参加の状況を予想させている。 ここから分かることは、やはり、教師独自の授業計画に即して、適宜学習材を資料集の ように活用していることである。特に本時は、石油収入のメリット・デメリットを考えさ せる際に、見開きの1ページを超え、複数のページから資料をピックアップしていること から、より資料集としての活用傾向が強いと考える。 ④-1 第4時の授業展開と発問構造 本時は韓国経済の概要を、その仕組みと産業構造の変化から捉えさせることが目標だと 考えられる。以下に授業展開の概略と発問構造を示す。なお、授業展開と発問構造は、ビ デオ、授業実践記録を基に発表者が再構成している。 <授業構成の概要> 授業 発問 形成される認識 使用された学習材や教科 展開 導入 書 ○韓国経済には、どのような特徴 ・石油が出ない国である があるのか 展開 ① 展開 ② 展開 ③ ○朝鮮半島の地理的な特徴はど のようになっているか ・朝鮮半島はどこにあるか ・日本の北西 ・朝鮮半島には何という名前の国 ・大韓民国 があるか ・朝鮮民主主義人民共和国 地図帳 ○朝鮮半島の経済の仕組みはど のようになっているか ・韓国の経済の仕組みはどのよう ・資本主義だが、世界各国同様完 になっているか 全ではない ・北朝鮮の経済の仕組みはどのよ ・社会主義 うになっているか ・社会主義は機能していない ○韓国の産業は、どのように変化 したか ・おもな輸出品はどのように変化 ・1960 年代:加工貿易 学習材 p1 本文2行目~6 したか ・1970 年代:繊維、衣類 行目 ・1980~:機械類(半導体) ・日本はどのような影響を受けた か ・なぜ、エルピーダは業績が悪い ・半導体の生産で韓国企業に及ば のか ないから ・大型パネルの世界シェアの中 ・シャープのみ 学習材 p2 「韓国製品の世 で、日本の会社は入っているか ・中国、韓国の企業が大半 界的シェア」 8 ・携帯電話機の世界出荷台数シェ ・日本は入っていない アの中に、日本の会社は入ってい ・韓国の LG が入っている るか →韓国は世界的な工業国となっ た ・輸出品のランキングはどのよう ・1965 年:繊維品、衣類、木製 学習材 p2 アクティビティ に変化したか 品の順番 ーⅡ-2 ・1985 年:機械類、船舶、衣類 の順番 ・2006 年:機械類、自動車、船 舶 <発問構造> 資料④を参照 ④-2 学習材と授業展開の関係 本時からは、東アジア(朝鮮半島)を題材にしている。この授業は、学習材 p2 本文 A を 基に、p3 の資料やアクティビティーを活用し、教師が独自の構成を行ったと考えられる。 本時の MQ は、 「韓国経済はどのような特徴があるか」だと考えられる。しかしながら、韓 国が急速な工業化を遂げていることを理解させつつも、日本にその影響が及んでいること を身近な事例(エルピーダの業績)を通じて触れるなど、日本との関係性を意識した授業 構成となっている。したがって、本時に関しては、明示されてはいないものの、教師の意 識の中に、 「韓国の経済の特徴は日本にどのような影響を与えているか」という MQ が存在 すると考える。 また、学習材の本時における活用は以下のとおりである。 展開3:p1 本文2行目~6行目を活用し、韓国の輸出品の年代ごとの推移を読み取らせ ている 展開3:p2「韓国製品の世界的シェアの例」を活用し、日本企業の世界的シェアが低い ことと、韓国企業のシェアの高さを読み取らせている 展開3:p2 アクティビティーⅡ-2を活用し、韓国の年代別の輸出品の変化をまとめさ せている ここから分かることは、教師独自の授業構成に応じて、資料集のように学習材を活用し ていることである。西アジアの学習の時と同様の傾向が見受けられる。 ⑤-1 第5時の授業展開と発問構造 本時は、日本と韓国の貿易事情を、両国の貿易での共通点と今後の貿易の在り方に関す る方向性から捉えさせる授業構成となっている。以下に授業展開の概略と発問構造を示す。 9 なお、授業展開と発問構造は、ビデオ、授業実践記録を基に発表者が再構成している。 <授業構成の概要> 授業 発問 形成される認識 使用された学習材や教科 展開 導入 書 ○日本と韓国の貿易事情は、どの ようになっているか 展開 ① ○日本と韓国の貿易における共 ・西アジアと違い、生産すること 教科書 p199、学習材 p6「輸 通点は何か で発展している 出入額の商品分類別割合」 ・輸出品はどのような内訳か ・機械の輸出が増えている ・輸入品はどのような内訳か ・機械の輸入が増えている ・石油の輸入割合はどのように変 ・減少している 化しているか ・繊維品の輸出はどのように変化 ・減少している しているか ・貿易額はどのように変化してい ・年々増えている るか 展開 ○日本と韓国は、貿易における課 ② 題に対し、どのような対策をとろ うとしているか ・各国が生産力を発達させると、 ・関税をかける どのような政策が行われるか ・日本は米に 200%の関税をかけ る ・関税をかけすぎるとどのような ・商品が高額になり、取引しにく 問題があるか くなる ・新しい貿易の在り方として、ど ・2国間で関税を取り払う=FTA のような方法が模索されている か ・日本は、FTA をどの国と結ん ・ベトナムと結んでいる だか ・韓国では、アメリカとの FTA ・反対である に対し、どのような意見が出てい 学習材 p6 「FTA 締結に反 対する韓国の人々」 るか ・なぜ韓国は、アメリカとの FTA (授業時間終了につき、取り組ま 学習材 p6 アクティビティ に対して反対するのか れなかった) ーⅡ-2 (斜字は、子どもが資料を読み取り、獲得した知識を問いの形に置き換えている) <発問構造> 10 資料⑤を参照 ⑤-2 学習材と授業展開の関係 本時は、学習材 p3 本文 A、p5 本文 A を中心に、p4,6 の資料やアクティビティーを活用 して、教師が独自の授業構成を行っていると言える。今回の MQ は、 「日本と韓国の貿易事 情はどのようになっているか」だと考えられる。特に展開1で、日本と韓国の貿易の共通 点を調べさせるなど、日本との関係性で捉えさせようとする授業であることが明確に打ち 出されていた。 また、本時における学習材の活用は、以下のとおりである。 展開1:p6「輸出入額の商品分類別割合(2009)」を、日韓の貿易における共通点を調 べさせるために活用した 展開2:p6 「FTA 締結に反対する韓国の人々」を活用し、韓国でアメリカとの FTA 締 結に反対する人がいることを視覚的にとらえさせた 展開2:p6 アクティビティーⅡ-2を活用し、韓国でアメリカとの FTA 締結に反対す る人がいる理由を説明させようとした(授業時間に間に合わず、ほぼ手つかず の状態である) ここから分かることは、本時も学習材が資料集の役割を果たしていたことである。特に 展開1では、教師が学習材にない独自の学習活動を設定し、その手がかりとして学習材の 資料を子どもに活用させている。 4. 単元構成 ~単元全体は、どのような構造になっていたか~ ①全体構造 単元構成を図式化すると以下のようになると考える。 日本(広島)に住む私たち 関わり 関わり 影響 影響 ○資源のある国(西アジア) ○資源のない国(東アジア) ・産業構造(石油) ・産業構造(工業) ・産業の課題(脱石油化) ・産業の課題(FTA、貿易の在り方) ・国家体制(君主制) ・国家体制(民主主義) 11 本単元はこれまでに見てきたとおり、資源のある西アジアと資源が乏しい東アジアを取 り上げ、それぞれの産業構造、産業の課題、国家体制などを比較する構成になっていると 考えられる。 そして、本単元で1番の特色は、西アジアと東アジアを「日本(広島)に住む私たち」 の視点から、各地域と日本の関係性やもたらされる影響を考えさせ、両地域を身近に捉え させようとしていた点である。つまり、教師が子どもに1つの視座を与えていると言える。 そのため、5時間の授業の中で「日本にとって○○は、どのような影響を及ぼすか」とい った教師の発問、説明が多くみられる。(ビデオ参照) ②学習材の使用方法 したがって、学習材は特定の視点のみからアジア諸地域を捉える構成にはなっていない ので、授業は、教師が学習材の内容を踏まえて再構成したものとなっている。特に本実践 では、教師が学習材の見開き左ページにある本文を踏まえて、日本とのつながりという視 点から、独自の発問を構成し、その発問に生徒が答えるために必要だと考えられる資料や 独自の授業構成を行う上で必要と思われるアクティビティーを適宜活用するという形態で あった。 したがって、学習材は、教師にとって授業構成と実践の参考資料として、子どもにとっ ては、教師の発問や指示に答えるため、受動的に活用されたと言える。 5. 授業展開から見る授業者の意図 ~なぜこのような授業が行われたのか~ 本実践は、学習材を教師が再構成し、独自の授業構成を行っている。とりわけ、西アジ アと東アジアを日本との関係性から捉えているように、教師が一定の視座を与えている点 が本実践最大の特徴である。本章では、この視座が与えられた理由を考察し、本発表のま とめとする。 結論から言えば、子どもたちの学習状況との関係だと考える。第2章で明らかにした通 り、子どもたちは学習面に関して様々な問題を抱えている。学習規律面では、授業中の私 語、授業改善面では、授業が楽しい・分かるという子どもの少なさが挙げられていた。 一方、本学習材はアジアを題材として作成されている。日本はアジアの一部であるが、 地理的な特徴から同じアジアであっても、中学生は、海外諸国となるとどうしてもイメー ジがわかないなど、遠い存在として捉えがちだと考える。 したがって、この学習材をそのまま子どもたちに与えてしまうと、学習状況は改善され るどころか、悪化の一途をたどる。これを防ぐために、日本に住む私たちと言う視点が与 えられたのだと考える。日本との関係性を捉えさせることで、子どもは自らの生活との密 接な結びつきを自覚し、授業に強い関心を抱くだろう。また、強い関心があれば、積極的 に授業にかかわるようになり、私語が減少すると考えられる。このような意図の下で、教 師は学習材を再構成し、授業計画としたのだと考える。 12