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技術戦略マップを活用した新ビジネス創出プランニングの
平成18年度技術戦略マップローリング事業(技術戦略
マップの応用研究)に関する委託事業報告書
技術戦略マップを活用した
新ビジネス創出プランニングの
ディスカッション・マニュアル
IS-Plan
(Innovation Strategy-Plan)
平成 19 年 3 月
経済産業省
委託先:社団法人 科学技術と経済の会
イノベーション支援技術研究委員会
はじめに
経済産業省では、平成17年3月に技術戦略マップの初版である「技術戦略マップ20
05」を策定・公開して以来、翌年4月には「技術戦略マップ2006」として改訂し、
現在は「技術戦略マップ2007」の平成18年度末完成を目指し、ローリング(アップ
デート作業等)を行っています。技術戦略マップ2007は新たなファイバー分野を追加
し、25技術分野になる予定です。これらの広範囲にわたる技術情報である技術戦略マッ
プには、様々な活用の可能性があります。例えば、技術戦略マップはグローバルな視点で
通用する日本の有望技術を抽出していますので、これらをもとに地域に存する有望技術の
強み弱み分析にも活用することができます。また、技術戦略マップや地域での技術データ
ベース等を駆使しながら、研究者と地域の中小企業等のマッチングをしたりすることも可
能となります。このような工夫によって、新しい地域コンソーシアム事業のシーズ発掘や
新連携事業等の案件形成に繋げることができるのではないでしょうか。
一方で、地域における具体的な事業化に向けた取り組みには、技術的な視点の検討だけ
では不十分です。技術的な検討に合わせて、将来マーケットの中でどのようなニーズがあ
り、どのような製品やサービスが求められ、またそれら製品等がどのように生産され、販
売されるのかと言ったトータルな視点でのビジネスモデルをも合わせて検討することが必
要不可欠となります。さもなければ研究開発だけが先行してしまい、結局うまくビジネス
に結びつかなかったという結果しか残りません。しかしながら、これらを合理的に検討し
たり進めたりするのには困難がつきまといます。特に地域の中小企業にとっては、大きな
難関となります。これらのハードルを乗り越えるために何かサポートをできないかとの発
想から、社団法人科学技術と経済の会によって既に得られているビジネスモデリングの手
法をもとに、これらと従来の技術ロードマッピングの手法(含む技術戦略マップの積極的
な活用)を組み合わせることにより、新たな事業戦略(技術戦略と経営戦略)を生み出す
手法をディスカッション・マニュアルとして策定することに致しました。具体的な事例を
多く含んだ分かり易い内容になるように心がけて作成しています。是非地域のコーディネ
ータの方々にお読み頂き、現場での実践にご活用頂きたく願っております。
末尾にはなりますが、報告書(マニュアル)の策定にあたりまして、その意義と価値に
ご理解を頂きケーススタディにご協力を頂きました関係企業の皆様、政策投資銀行他関係
機関の皆様、並びに報告書とりまとめに際し中心的な活動を頂いた社団法人 科学技術と経
済の会、阿部リーダー他の皆様方にこの場を借りて改めて御礼申し上げます。
平成19年3月
経済産業省
産業技術環境局
企画官(産業技術研究開発戦略担当)
渡邉
政嘉(まさよし)
目
次
はじめに
第一章
目的と概要 --------------------------------------------------------------------------1
1−1
技術戦略マップの使われ方---------------------------------------------------------------------1
1−2
技術ロードマッピングを方法論として活用した地域産業の活性化 -----------------4
1−3
本報告書の構成 ------------------------------------------------------------------------------------6
第二章
新ビジネス創出プランニングのコンセプト-------------------------------- 7
2−1
ビジネスモデル設計手法と戦略ロードマッピング手法との結合・統合 -----------7
2−2
新ビジネス創出プランニングのフレームワーク------------------------------------------9
2−3
本マニュアルの活用対象者------------------------------------------------------------------23
2−4
本マニュアルの有効性を発揮できる適用領域------------------------------------------25
第三章
新ビジネス創出プランニングの作業プロセス--------------------------- 27
3−1
事前準備、主旨説明 ---------------------------------------------------------------------------27
目的、ゴール、及び作業イメージの共有化、必要知識の確認、作業体制の決定
3−2
ワークショップ1 ------------------------------------------------------------------------------28
マイビジョンとマイウィルの発表
既存ビジネスモデルによる検討、ギャップの発見とその対策
METI 技術戦略マップの活用による関連技術ロードマップ作成
各事例における技術戦略マップの活用事例場面
3−3
ワークショップ2 ------------------------------------------------------------------------------36
ビジネスシナリオ計画による新ビジネス目標の探索、発掘、設定
未来のビジネス目標を実現するための自社技術ロードマップ作成
3−4
ワークショップ3 ------------------------------------------------------------------------------44
未来ビジネスモデルの完成
統合ロードマップの完成
3−5
事後報告:報告・検討会等によるブラッシュ・アップ------------------------------48
第四章
事例編 ------------------------------------------------------------------------------------------50
1.TAMA事例1 ------------------------------------------------------------------------------------------51
2.TAMA事例2 ------------------------------------------------------------------------------------------66
3.浜松事例 --------------------------------------------------------------------------------------------------- 84
おわりに ----------------------------------------------------------------------------------- 100
<News Release>-------------------------------------------------------------------------------ⅰ
「技術戦略マップ」の検索サービス(Kamome)の公開について --------------------- ⅰ
参考資料:「技術戦略マップ」の検索サービス(Kamome)の公開について --------- ⅲ
― 対話的な操作で効率良い検索が可能に ―
第一章
目的と概要
ビジネスモデルとロードマップはビジネスにおいて共通言語を提供するコミュニケーシ
ョンツールとなり、異なる立場の人々が戦略や新規事業の全体像を共有するツールとなり
得ます。新しいビジネスのプランニングの過程において、関係者間の認識・理解を深め、
ギャップの発見、課題の再設定、俯瞰的・整理された簡潔な図表による可視化、解決策・
意思決定の品質を高めることに大いに役立ちます。
従来はビジネスモデル設計とロードマップ手法とは別個に研究され扱われるケースが多
かったのですが、本 IS-Plan はビジネスモデル設計手法とロードマップ手法とを組み合わ
せ、新ビジネス創出プランニングのための手順・手法を体系化しました。
本手法の活用によって、やみくもに個々にトライされていた将来像を参加者が共通して
捉えることや、あるいは新規事業につきものの不確実性の要因や誰が正しいのか判りづら
かったことを可視化し、たたき台を作成することが可能となります。見えないものが見え
てくる可能性を広げ、またリスクを抽出することができます。成果物は当該事業化プロジ
ェクト固有のビジネスモデルとロードマップであり、これらは関係者にどう行動すれば良
いか示してくれる道標となります。
その手法は、①マイビジョン・マイウィルによって未来のあるべき姿を描く、②「技術
戦略マップ」を技術、製品機能、市場の潮流を俯瞰するデータベースとして活用する、③
シナリオ計画法によってビジネスモデルを設計することで未来のビジネス目標を発掘・設
計する、④未来のビジネス目標を実現する自社技術ロードマップを作成する、⑤総合戦略
ロードマップを描く、というものであります。本マニュアルにおいてこれら手法・手順を
実例とともに解説します。
1−1
技術戦略マップの使われ方
本 IS-Plan では、経済産業省の「技術戦略マップ」
(以下 METI-STRM と略記)を先進
的技術の情報源として、またロードマップ作成のモデルとしてフルに活用します。
〔注 METI-STRM の URL:
http://www.meti.go.jp/policy/kenkyu_kaihatu/main-toptrm2007.htm〕
METI-STRM は、①産業技術政策の研究開発マネジメントツール、②民間企業等研究開
発者に対する重要技術に関する情報提供、③国民理解の増進、などを目的に作られていま
す。その分野(現在 24 分野)の第一線の専門家を集めて作成されているため、民間企業
が自社の技術開発ロードマップを検討・策定するような場合においても、極めて信頼性の
高い、貴重な情報源となり得ます。
一般企業にとってどのようなケースで METI-STRM を使うことが適切か、想定した
1
「METI- STRM 利用方法案」を図1に示しました。自社の技術開発方向と組み合わせ、
新たな①発想に使う、当該技術や作成委員会メンバーを知って②相談先(連携先)の選択
に使う、興味ある複数の分野の技術を合わせて③異分野融合に使う、自社技術の④開発計
画策定の参考に使う(データの引用等)、直接⑤自分達自身の戦略ロードマップ策定の参考
にする、自分達のロードマップの陳腐化を防ぐために、一定期間毎に計画の見直しをする
⑥ローリングに使う、などの使われ方が考えられます。
IS-Plan の実行に当たって、どの段階でどの様な使い方が考えられるかを、図2「技術
戦略マップの活用場面」に示しました。特に、自社技術の構想を確定する段階、自社の技
術ロードマップを策定する段階での活用が有効となります。実際の活用については、本文
の中で順次事例に沿って説明していきます。
(企業としての)METI-STRM 利用方法案
(企業としての)METI-TRM利用方法案
①発想に使える
・・・・俯瞰的ロードマップ
②相談先(連携先)の選択に使える
・・・・どこに聞きに行けばよいか
③異分野融合に使える
・・・・異分野企業
④開発計画策定の参考に使える
・・・・データの引用等
⑤自分達自身の戦略ロードマップ策定の参考にする
・・・・環境×製品×技術×リソース
⑥ローリングに使える
・・・・ロードマップ策定後の定期見直しの参考になる
図 1 企業としての METI-STRM 利用方法案
2
METI-STRM の活用場面
=「イノベーション支援技術(IS-Plan)」における使われ方=
BM+STRM 設計
構想→確定
アイデア
・構想
アイデアを
検証するた
めに,STRM
を検索。
俯瞰的
環境
シナリオ策
戦略 RM
計画の
RM 策定
調査
定
策定
ローリング
アイデアの実
現を RM の形
に描く。
→構想を練る
+同志(連携相
手)を募る
STRM を参
考にして、市
場・技術動向
を調査する。
STRM を参考
にして、複数の
シナリオを検
討する。特に融
合領域のシナ
リオ作りの参
考にする。
BMの策定と並
行して、その製品
開発のためのR
Mを策定。市場、
製品、技術、リソ
ース、の間にリン
ケージを張る。
図2 技術戦略マップの活用場面
3
定期的に新しい
STRM に照らし
て計画のローリ
ングを行う。
1−2
技術ロードマッピングを方法論として活用した地域産業の活性化
中小企業の活性化と地域の再生を目的とした政策、
「新連携」、
「産業クラスター」などで
は、事業分野を異にする事業者の連携体が新事業を創出することが考えられています。こ
のようなケースにおいて、ビジョンの共有化、コミュニケーション、課題の発見・解決な
どを強化、支援、加速することができるツールが求められています。
中小企業基盤整備機構の中小企業・ベンチャー総合支援センターに寄せられた平成 17
年度 窓口相談件数 14,504 件のうち、事業計画作成に関する相談は 2,057 件で第 3 位であ
ります。上位の 4 項目はマーケティング、資金調達、事業計画作成、公的支援制度(計 9,085
件)で、いずれも事業化戦略策定(ビジネスモデル設計)がベースとして関連しています。
この事実からもこのようなツールの有用性が高いことが裏付けられます。
経済産業省が 2005 年、2006 年に公表した「技術戦略マップ」は現在 24 の産業分野にわ
たり、その内容は、技術動向・市場動向を踏まえた、①導入シナリオ、②技術マップ、及
び③ロードマップの 3 部で構成されています。この「技術戦略マップ」に地域技術シーズ
のデータベースを加え、異業種・異分野提携による地域コンソーシアムなどの促進、地域
の産学連携を通じた新連携事業等の創出に役立たせることが可能です。(図3)
ロードマップにはこのような利点がありますが、一方短所と思われる特徴も見られます。
例えば、①ビジネス価値評価が困難、②R&D 成果の魅力度の表現が困難、③事業システム
やオペレーションモデルの表現が困難、などが挙げられます。これらの短所はビジネスモ
デル設計手法などによって強化することが可能と考えられます。IS-Plan(新ビジネス創出
のためのプランニングマニュアル)はその要請に応える目的で作成したものです。
このことは、中小企業基盤整備機構へ寄せられた多大な相談案件や地域・中小企業が困
っている課題、すなわち事業化戦略策定(ビジネスモデル設計)への対応、支援策へのニ
ーズに合致するものです。
4
図 3 概念図「技術ロードマッピングを方法論として活用した地域産業の活性化」
出所:渡邉政嘉、研究技術計画学会、MOT 分科会(06.6.17)講演資料より
5
1−3
本報告書の構成
本報告書は図4に示すフローによって構成されています。
・使用目的
・活用方法
§1 目的と概要
本マニュアルの使用目的、
効用などについて解説
・BM モデル設計と戦略 RM 手法の結合
・フレームワークの設定
・適用領域と活用対象
§4 作成事例
今回のマニュアル作成に
向けて行ったケーススタ
デイの概要を紹介
§2 コンセプト
本マニュアルの具体的な
考え方や進め方の基本コ
ンセプトを提示
TAMA 事例:1
TAMA 事例:2
§3 作業プロセス
上記コンセプトに対して
具体的ケースを例示しな
がら分かりやすく解説
浜松事例
・事前説明
・My Vision My Will の作成
・関連技術ロードマップの作成
・未来ビジネス用自社 RM 作成
・未来ビジネスモデルの完成
・統合ビジネスモデルの完成
IP Plan 最終成果物完成
技術戦略マップ
検索サービス事例の紹介
図4 本報告書の構成
6
第二章
2−1
新ビジネス創出プランニングのコンセプト
ビジネスモデル設計手法と戦略ロードマッピング手法との結合・統合
ビジネスモデル設計は、アイデアや研究開発の成果をいかに上手に企業価値へ結びつけ
るかを目的に研究開発されてきました。誰に、何を、どのように提供するかというビジネ
スの骨格、どのように競争に勝つかという視点、どのように利益を上げるかという収益の
視点、事業の継続性や持続性をどのように維持するかという視点などから構成されること
が一般的です。
戦略ロードマップは、市場、事業、製品、技術、リソースなどのレイヤー別ロードマッ
プを統一的に時間軸で表現するもので、全体を俯瞰でき、レイヤー内にマイルストーンを
設定、レイヤー間の項目を関連付けるなどの戦略立案ツールとして活用することができま
す。投資タイミング、市場機会や動向、代替技術の選択肢の意思決定を支援するツールと
なりえます。ボトルネックの発見や、欠落技術の発見と開発加速、必要資源の見積もりに
も有用です。
表1はそれぞれの長所、短所をまとめたものです。ビジネスモデル設計手法の長所は、
R&D 成果の価値創造設計手法であり、ビジネスアイデア又はコンセプトからビジネスモデ
ルを設計する手法です。
表 1 ビジネスモデル設計手法と戦略ロードマッピング手法の長所、短所の補完関係
ビジネスモデル設計手法の長所
① R&D 成果のビジネス価値をモデリング
でき、評価が可能
② ビジネスアイデアからビジネスコンセ
プトを創出するモデリングツール
③ 財の調達・生産・販売方法等のオペレ
−ションをモデリングできる
①
②
③
④
戦略ロードマッピング手法の長所
市場、事業、製品、機能、技術、リソ
−スのロードマップを多層構造で時間
軸上に表現、俯瞰図を提供
② 市場構造と機会の発見、投資タイミン
グ、代替技術、いつからどの技術を開
発すべきかの意思決定を支援
③ 意思決定のための知識構造:ギャップ
の発見、ボトルネックの発見、開発の
加速・減速の発見、リソースの見積も
りが可能
ビジネスモデル設計手法の短所
市場動向と機会の発見がしにくい
投資タイミングが判りにくい
代替技術の選択肢が判りにくい
いつからどの技術を開発すべきかが判
りにくい
①
戦略ロードマッピング手法の短所
ビジネス価値評価が困難
R&D 成果の魅力度の表現が困難
事業システムやオペレーションモデル
の表現が困難
④ 網羅性を満たすための作成とメンテナ
ンスの負担増
①
②
③
7
戦略ロードマップの長所は、ビジネス、技術とリソースをどのように開発するかの計画
立案に適することにあり、その結果として意思決定のための知識創造(ボトルネックの発
見、欠落技術の発見と開発加速、必要資源の見積もり)に役立ちます。
ビジネスモデル単独では、市場動向と機会の発見がしにくく、投資タイミングを判断す
ることは困難であると思われます。さらに、技術の投入タイミングの判断、すなわち市場
の方向、代替技術の選択肢の判断が困難であるという弱点があります。
また、戦略ロードマップ単独では、ビジネスの価値評価ができない、R&D 成果の魅力度
の表現ができないという短所があります。また、事業システムやオペレーションモデルの
表現が困難であるという弱点もあります。
ビジネスモデル設計と戦略ロードマッピングそれぞれの弱点や課題となっている項目
が、ちょうど相手側の得意とする項目になっており、二つを融合、統合することで総合的
なイノベーション支援手法として活用度が高まります。これが新ビジネス創出プランニン
グ(IS-Plan)のコンセプトです。
図5 概念図「ビジネスモデル設計手法と戦略ロードマッピング手法の結合・統合化
本手法は本格的な事業計画、投資計画作成の前段階として、関係者の意識を合わせ、アイ
デアを細大漏らさず抽出する、それによって引き続いての事業計画作成がスムーズにいく
ことを目的としています。比較的短期に集中的に行うことが適切のようであります。経験
上、2 週間程度の間隔を置き、全体として 4 日間程度の集中作業(全体で 2 ヶ月前後)で
作り上げるのがタイミングとして適当であると考えています。
8
2−2
新ビジネス創出プランニングのフレームワーク
新ビジネス創出プランニングの手法は、①マイビジョン・マイウィルによって未来のあ
るべき姿を描く、②「技術戦略マップ」を技術、製品機能、市場の潮流を俯瞰するデータ
ベースとして活用する、③シナリオ計画法によってビジネスモデリングすることで未来の
ビジネス目標を発掘・設計する、④未来のビジネス目標を実現する自社技術ロードマップ
を作成する、⑤総合戦略ロードマップを描く、というビジネスモデリングとロードマッピ
ング手法を融合・統合した手順でプランニングすることであります。
新ビジネス創出プランニングの概念的なフレームワークを図 6 に示します。プランニン
グのステップは7段階のフェーズに分かれます。これらを 3 回のワークショップを含む5
回の会合に分け進めます。ワークショップとは、全員で汗をかき共同作業をする会合を指
します。
<事前準備>
Phase 1
ビジネス
アイディア
<WS-1>
<WS-2>
Phase 2
My Vision
My Will
Phase 4
ビジネス モデリング
Phase 6
ビジネスシナリオ
計画法
ギャップ
現状(As is)
ビジネスモデル
<WS-3>
未来(To Be)ビジ
ネス目標設定作業
未来ビジネス
モデル
Data
Base
My Vision
My Will 確定
未来ビジネス目標設定
市場、商
品等の
RM
METI戦
略RM
Start Up
BM
・メンバー決定
・役割分担
総合戦略
ロードマップ
(IS-Plan)
技術ロードマッピング
自社技術ロー
ドマッピング
関連技術
検索
関連技術
ロードマップ
自社技術
ロードマップ
Phase 3
Phase 5
図 6 新ビジネス創出プランニング(IS-Plan)のフレームワーク
9
<報告・検討会>
総合戦略ロード
マップの共有
Phase 7
〈本マニュアルにおける作業ステップ(会合とフェーズの関係)〉
会合(WS)とフェーズ(Ph)との関係を次表で示します。以下のフレームワークご
との説明では、該当する部分に色を付していますので、全体の中での位置付けを念頭
においてお読み下さい。
会合(WS) 事前準備会
ワークショップ-1
フェーズ(Ph) フェーズ 1
フェーズ 2
フェーズ 3
ワークショップ-2
フェーズ 4
フェーズ 5
ワークショップ-3
事後報告会
フェーズ 6
フェーズ 7
フェーズ1 = 事前準備、主旨説明=
事前準備会
Ph-1
WS-1
Ph-2
Ph-3
WS-2
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
フェーズ1では、目的、ゴール、及び作業イメージの共有化、必要知識の確認、作業体
制の決定、参加メンバーの人選を行います。
進め方としていくつかの方式がありますが、ここでは二つのケースを想定します。一つ
はMOT専門家、地域コーディネータなどの専門家が本マニュアルを活用して推進する研
修プログラム、もう一つは研修を受けた企業メンバーが主体となりワークショップ・リー
ダーとなって自分の事業戦略・商品企画のプランニング作業を推進する場合です。表 2 に
構成員とその役割をまとめたものを示しますこの表に沿って構成員の人選を行います。
(1)ケース1
プログラム・リーダーが主催者となり、テーマ関係者、ワークショップ・リーダーなど
とのすり合わせ後、関係者の支援の下に事前準備を行うやり方です。プログラム・リーダ
ーがプランニング作業の進行役、作業取り纏めなど全体の推進役を勤めることとなります。
(2)ケース2
ワークショップ・リーダーが主催者となり、テーマ関係者、プログラム・リーダーなど
とのすり合わせ後、関係者の支援の下に事前準備を行います。ワークショップ・リーダー
がプランニング作業の進行役、作業取りまとめなど全体を推進する役割を担うこととなり
ます。
10
表 2 構成員とその役割
構成員
プログラ
ム・リーダ
ー
ワークシ
ョップ・リ
ーダー
メンバー
アドバイ
ザー
ケース1
事業企画の実践型研修
検討会の進行役、主旨説明、マニュ
アルの説明、テーマ全体のとりまと
め世話人
検討テーマの責任者、企業の開発部
門のチームリーダークラスを想定
している。
現状のビジネスアイデア、及び未来
の「マイビジョン、マイウィル」を
発表する。
成果発表報告会などで発表を行う。
営業、経営企画、生産、開発などの
異なる機能、部門からの参加が望ま
しい
プログラム・リーダーを補佐する。
プログラムを推進するために必要
な知識・情報を準備、提供する。
検討テーマの市場、技術、社会のニ
ーズについてアドバイスする。
METI-STRM の活用の仕方などをア
ドバイスする。
ケース2
事業戦略・商品企画の実践プランニング
テーマ全体の進め方の説明、検討会の進
行役、ワークショップ・リーダーへ助言
を与える。
検討テーマの責任者、企業のの開発部門
のチームリーダークラスを想定してい
る。
現状のビジネスアイデア、及び未来の「マ
イビジョン、マイウィル」を発表する。
最終成果のとりまとめ責任者。
プランニングに必要・不可欠な関係者。
ワークショップ・リーダーを補佐する。
プログラムを推進するために必要な知
識・情報を準備、提供する。
検討テーマの市場、技術、社会のニーズ
についてアドバイスする。
METI-STRM の活用の仕方などをアドバイ
スする。
フェーズ2 = 「マイビジョン、マイウィル」の発表、ギャップ分析=
事前準備会
Ph-1
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
フェーズ2では、ワークショップ・リーダーおよびメンバーが参加して、本作業の対象、
すなわち研究開発成果などをベースとしたビジネスアイデアを明らかにします。そのアイ
デアを対象として、ビジネスモデルのフレームワーク(注1)を活用して現状延長線上で実現
可能なビジネスモデルを描きます(現状ビジネスモデル:通称 As is ビジネスモデル)。
ここで、ワークショップ・リーダーは未来のあるべき・望ましい姿としての「マイビジ
ョン、マイウィル」(注2)を発表して、この「マイビジョン、マイウィル」と上記の現状延
長線上で実現可能なビジネスモデルとの間のギャップを発見するようにします。
(注1)ビジネスモデルのフレームワーク:
ここでいうビジネスモデルとは、誰に(ターゲット顧客)、何を(提供価値)、どのよう
に提供し(提供方法)、どのように収益を上げるか(収益モデル)などの項目のもとにビジ
11
ネスを描写したものを言います。このフレームワーク(項目)を活用して描いたものが現
状(As is)ビジネスモデルです。
(注2)マイビジョン、マイウィル:
マイビジョン・マイウィルはトップダウン型でロードマップを描く手法です。ワークシ
ョップ・リーダーが、目標となる「未来のありたい姿」を作業の初期段階で仮説として参
加メンバーへ開示します。
開示の具体的な内容は、「現状」から「ありたい姿」へ向けての事業領域、顧客、売上、
利益、商品数、従業員数、技術・機能レベルでの強み、などのメッセージ性に富んだ言葉、
あるいは数値です。
(ヒント)
ワークショップ・リーダーから発表される「マイビジョン、マイウィル」は既存事業あ
るいは製品・サービスから大きく飛躍したコンセプトが望まれます。売り上げ規模も一桁
以上大きくするなど挑戦的、革新的なものがよいでしょう。これは未来への「チャレンジ
する姿」を描いたものであるからです。
マイビジョン、マイウィルを生み出す方法としては、ブレーンストーミングのように自
由に議論すること、属性を列挙し、それらを組み合わせること、あるテーマにとって似て
いるものを活用すること、KJ 法(文化人類学者の川喜多二郎:東京工業大学名誉教授、
がデータをまとめるために考案した手法)のように自由に書き出してまとめる、などがあ
ります。
A 電子部品メーカには、現在の課題から将来を展望し、新製品や新技術へ繋ぐ、販売部
門と技術部門との定期的会議が存在しており、ここでの情報交換により、顧客ニーズ動向
と技術動向の間のギャップが日常的に認識できる仕組みが設定されていると言われていま
す。これはギャップ分析手法が日常的に研究開発活動に取り入れられている一例といえる
でしょう。
ワークショップ・リーダーが不慣れな場合はプログラム・リーダーが「マイビジョン、
マイウィル」の作成を、先行事例などを参照することで支援することが必要です。
フェーズ3 =METI-STRM の活用による関連技術ロードマップ作成=
事前準備会
Ph-1
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
次にフェーズ3では、「マイビジョン、マイウィル」と現状延長線上で実現可能なビジ
12
ネスモデルとの間のギャップを埋めるために、関連技術ロードマップ群の作成を行います。
その際に役に立つのが METI-STRM です。METI-STRM を Web 上であるいは CD で用い、関連技
術のキーワード検索を行います。後述のキーワードの選び方などに留意し関連分野、関連
項目について抜き出し、ギャップを埋めるために必要な技術をロードマップなどの表形式
に整理します。
実際の METI-STRM 利用の方法については第3章3−2(フェーズ3)の項を参照下さい
(P. 31)。
(ヒント)
この作業によって当該分野を、関連分野を含めて全体の中で俯瞰することができ、技術
をシナリオ予測や関連技術の中で位置づけることができます。このより確度の高い、信頼
性の高いデータを参考にして、フェーズ5で自社技術ロードマップを作成することなりま
す。
フェーズ4 =ビジネスシナリオ計画による未来ビジネス目標の探索、発掘、設定=
事前準備会
Ph-1
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
フェーズ4では、フェーズ2で明らかにした「マイビジョン、マイウィル」と現状ビジ
ネスモデルとのギャップを整理します。このギャップを解決するためのビジネスモデリン
グ作業をビジネスシナリオ計画法(補足1参照、P.17)によって行います。この方法は;
①産業のバリューチェーン分析(補足 3、P.19)、
②マクロ環境分析(PEST 分析)(補足 2、3、P.18∼19))
、
③「5 つの力」フレームワーク分析(補足 2、4、P.18、P.21)、
とそれらを土台にした、
④シナリオの分析とシナリオの作成作業(補足 5、P.22)、
から構成されています。
シナリオ作成作業によって、 未来のありたい姿 を描いた「マイビジョン、マイウィル」
を現実化するための具体的な事業拡大シナリオ、「未来ビジネス目標」を設計します。
(ヒント)
この「未来のビジネス目標」の設計品質が IS-Plan の最終成果である 統合戦略ロード
マップ
の品質・そのものを左右する重要なフェーズです。
13
フェーズ5 =未来ビジネス目標を実現するための自社技術ロードマップ作成=
事前準備会
Ph-1
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-5
Ph-4
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
フェーズ5では、
「未来のビジネス目標」を実現するための製品機能、及び製品機能を実
現するために必要とされる技術群のロードマップを作成します。フェーズ3に比べ、さら
に絞り込んだ範囲で「技術戦略マップ」を製品機能、実現技術群のロードマッピングに活
用することになります。さらに、ここでは広く・深く専門的な外部資料や社内の研究開発・
製造技術部門などに蓄積されたノウハウを用いることが推奨されます。METI-STRM では
このような細部までには踏み込んでいないことが多いためです。これを自社技術ロードマ
ップと呼んでいます。
フェーズ6 = 未来ビジネスモデルの完成、統合戦略ロードマップの完成=
事前準備会
Ph-1
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-5
Ph-4
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
フェーズ6では、自社技術ロードマッピングの実施中の内容や発見を反映して、シナリ
オ別のターゲット顧客、商品、供給方法、収益モデルを確認して未来ビジネスモデルを完
成させます。最後は、自社技術ロードマップを多層構造のロードマップへ再構成する作業
です。レイヤー間のギャップやボトルネックなどの発見、投資タイミングが正しいかどう
かの検証などを行うもので、これが統合戦略ロードマップです。
完成した未来ビジネスモデル(To be ビジネスモデル)と自社技術ロードマップを融合
したものが統合戦略ロードマップであり、最終成果物となります。
フェーズ7 = 事後報告・検討会 =
事前準備会
Ph-1
WS-1
Ph-2
Ph-3
WS-2
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
フェーズ7は新ビジネス創出プランニング活動の成果を関係者へ報告、検討作業するプ
ロセスです。報告はメールなどの手段で行うこともできます。しかしながら、報告・検討
会を開催し参加メンバーが直接社内の経営トップ、及び新ビジネスの関係者へフェース・
14
トゥ・フェースで報告・紹介することによって、新ビジネス創出プランが揉まれ鍛えられ、
より優れた成果になることが期待できます。またワークショップの成果が広く関係者間で
共有化されることになります。
IS-Plan が新ビジネス創出プランニング手法として有用であり、かつ中間成果物が異な
った背景の人々のコミュニケーション手段としても有用であることを示すこともできます。
活動の取り組みそのものが広くメンバー以外にも認知され、参加メンバーの活動の苦労も
報われることとなるでしょう。
表 3(1) IS-Plan 実施スケジュールの例 (その1)
会合回数
(2週間毎)
第1回目
0.5 日
第2回目
0.5 日
第3回目
0.5 日
会合名
事前準備
ワークショップ 1
ワークショップ 2
フェーズ
フェーズ 1
会合目的
主旨説明
フェーズ 3
フェーズ 2
My Vision My
フェーズ 5
関連技術ロードマップ 未来ビジネス目標の 未来ビジネス目標実
Will の発表と分 の作成
作業内容
フェーズ 4
設定
現のための自社技
析
術 RM の作成
・目的の共有化
・現状でのビジネ ・ギャップ分析のため ・バリューチェーン分析
・目標達成のため
・ゴールの確認
スアイディア収集
の技術群の RM 作
・作業知識確認
・My Vision My ・METI-STRM よ ・「5つの力」分析 成
・作業体制決定
Will 原案作成
り関連技術 RM を ・シナリオ分析
・現状⇔将来ビ
抽出
の関連技術抽出
・PEST 分析
ジネスモデルのギヤッ
プ分析
成果(物) ・構成メンバー決定 ・My Vision My ・ギャップ補完のた
・役割分担決定
Will 決定
未来ビジネス目標の 自社技術 RM
めの関連技術 RM 設定
15
表 3(2) IS-Plan 実施スケジュールの例 (その2)
会合回数
(2週間毎)
第4回目
1日
第5回目
0.5 日
会合名
ワークショップ 3
報告・検討会
フェーズ
フェーズ 6
フェーズ 7
会合目的
未来ビジネスモデル、統合戦 検討結果の報告
略マップの完成
作業内容
・自社技術 RM の未来ビ ・経営トップへの報告
ジネスモデルへの反映
・IP-Plan の周知
・未来ビジネスモデル内の各
要素間の整合
・未来ビジネスモデルと自社
技術 RM の融合
成果(物)
・統合戦略 RM の共有
・未来ビジネスモデル
・統合戦略 RM
16
補足1
シナリオ及びシナリオ・プランニングとは何か
補足を別出しにして「ビジネスモデル」の設計手法の基礎であるシナリオ・プランニン
グの概要と作業手順を説明します。
【用語の説明】
シナリオとは、未来に起こる可能性のある一連の出来事を物語のように文章化したもの
です。
シナリオ・プランニングとは、開発すべき製品・サービスや収益モデルについて、複数
のシナリオを想定しながら分析を行い、リスク・リターンを正しく把握して研究開発、製
品開発、事業化の計画を立てるための手法です。注意すべきことは、未来予測の正確度を
上げ、それに基づく一直線の計画を立てるものではなく、複数の未来シナリオに対応した
条件分岐を含むような計画を立てることであります。
シナリオプランナーには、社会の周縁的な人や組織から発生するような変化の兆候を読
み取るセンス、広範な人的ネットワーク、ステレオタイプにならない自由な物の見方、さ
まざまな要素から新しいロジックを発見する洞察力などが必要であるとされています。
【作業方法】
シナリオ・プランニング手法の流れは以下の通りです。ただし、この順序で一度だけ行
えばよいというものではなく、記述レベルを高度化しながら繰り返し行うことが必要であ
ります。
1.
ビジネスを取り巻く外部環境の把握・分析
2.
自社の状況や方向性の把握・分析
3.
静的なビジネスモデル
①
「誰に」
「何を」「どのように」提供するのか
②
「誰から」「何に対して」「いくらの」収入を得るのか
③
「誰に」
「何に対して」「いくら」支出をするのか
④
新規参入の仕組み
⑤
模倣に打ち勝つための自社の強み
など
およその流れを把握し、個々の分析・設計作業が行われている意味を見失わないように
することが肝要です。
〔参考図書〕
「実践シナリオプランニング」
池田・今枝著、東洋経済新報社、2002 年刊
17
補足2
外部環境の分析
ここではビジネスモデル設計の前提となる外部環境の分析手法として、
「産業バリューチ
ェーン分析」
、「PEST分析」、「5つの力フレームワーク分析」を説明します。
【産業バリューチェーン分析】
検討対象の製品やサービスが属する業界における、素材・部品・リソースの調達、完成
品の生産、卸売り、小売り、レンタル、ASP、アフターサービスといったその製品・サー
ビスの価値(バリュー)を顧客に提供するためのプロセス、及びそれらのプロセスに登場す
る企業の強み、弱みを分析します。
【PEST分析(マクロ環境分析)
】
検討対象の製品やサービスが置かれる外部環境をP(Political;政治的)、E(Economic;経
済的)、S(Sociological;社会的)、及びT(Technological;技術的)という4つの側面から幅広
く、もれなく分析します。PEST分析はマクロ環境分析とも言います。
①
Political
国や自治体による規制や支援策など
②
Economic
大局的な経済環境や、業界全体の収支動向など
③
Sociological
人口動態(少子・高齢化)、文化圏(都市・農村、関東・関西)、宗教など
④
Technological
関連技術の進歩レベルや対抗技術の動向など
【5つの力フレームワーク分析(ミクロ環境分析)】
①業界内での競争、②新規参入の脅威、③代替品の脅威、④供給業者との取引の交渉力、
⑤顧客との取引の交渉力、という5つの視点から市場の競争環境を分析します。5つの力
フレームワーク分析は有名なマイケルポーターが提唱しています。事業競争力の分析に用
いられ、ミクロ環境分析とも言います。
【ポイント】
外部環境分析を誤ると製品・サービスの競争力や収益力が変わってくるため、もれなく、
かつ必要なところは詳細に分析しておく必要があることを理解してください。現在の状況
だけではなく、将来予測を含めることも重要であります。
〔参考図書〕
「実践シナリオプランニング」
池田・今枝著、東洋経済新報社、2002 年刊
「競争の戦略」M.ポーター著、土岐他訳、ダイヤモンド社、1995 年刊
18
補足3
図表を用いた外部環境の分析の着眼点 (1)
産業バリューチェーンは対象とする製品やサービスの仕入れや開発という初期の段階か
ら、納入した後のサービスや保守までのサイクルの中で価値の源泉となっているプロセス
を分析し、当該事業の強みや弱みを探ります、下図にその着眼点を示します。
素材・部品
調達
開発
生産
マーケ
ティング
販売
物流 サービス
ヒト・モノ・カネ・情報の連鎖(チェーン)
どの部分(機能)
で、付加価値が
生み出されてい
るか
どの部分に強み、
弱みがあるか
分析・調査
・対象会社の付加価値のつき方
・主要成功要因
発見・確認
・自社の強み、弱み
・コアコンピタンス
図 A
産業バリューチェーンの着眼点
19
PEST分析の着眼点を下図に示します。
■P(Political
政治的環境変化要因)
■E(Economic
各国の経済動向
特定産業における市場動向
為替相場の変動
金利の変動
エネルギーや素材価格の変動
大規模プロジェクトの動向
国際政治動向の変化(GATT、FTA)
マクロ経済政策の変更(金利、為替)
産業規制の変更(参入規制、規制緩和)
税制の変更(間接税、優遇税制)
環境規制の強化(CO2、NOX、PM)
■S(Sociological
社会的要因)
■T(Technological
人口動態の変化(人口増大、高齢化)
社会的意識の変化(中流意識、宗教)
世論の動向(環境問題)
災害の発生(大地震)
疫病の流行(BSE、鳥インフルエンザ)
図 B
経済的環境変化要因)
技術的要因)
技術革新(情報通信、環境、バイオ)
異分野技術との連携
特許、規格、知財権の国際的動向
オープン化による技術取引市場の拡大
PEST分析の着眼点
〔参考図書〕
「実践シナリオプランニング」
池田・今枝著、東洋経済新報社、2002 年刊
20
補足4
図表を用いた外部環境の分析の着眼点 (2)
5つの力、つまり競合者、新規参入者、代替品、供給側、顧客という5つのプレーヤー
について市場の競争環境を分析するもので下図にそのフレームワーク分析の着眼点を示し
ます。
図
図 C
5つの力フレームワーク
新規参入の脅威
◆参入障壁を構成する要因
とその高さ
◆マクロ環境変化が算入障
壁に与える影響
供給業者の交渉力
◆価格の引き上げ
◆質の低下
◆供給の停止
◆カルテル
◆川上への進出
既存競合企業同士の競争
顧客の交渉力
◆価格の引き下げ
◆価格の引き下げ
◆広告拡大
◆質の向上
◆新製品投入サイクル短縮
◆競争企業同士の競争
◆顧客サービス拡大
◆川下への進出
代替製品・サービスの脅威
【事例】
◆電力産業とガス産業
◆新品市場と中古市場
◆音声通話と電子メール
図 D
5つの力フレームワークにおける着眼点
〔参考図書〕
「競争の戦略」M.ポーター著、土岐他訳、ダイヤモンド社、1995 年刊
21
補足5
シナリオ・ドライバーの絞り込み、及びシナリオの構築
ここでは、無数に存在する未来のシナリオの中から、詳細に検討すべきシナリオをどの
ように選択すれば良いのかという方法についてそのポイントを述べます。
【作業方法】
(1) シナリオ・ドライバーの絞込み
図 A∼図 D の外部環境分析から、①不確実性が高い、②自社への影響が大きい、こ
れらに当てはまるような項目を複数発見します。さらに、それらの項目の影響度や相
関関係等を検討し、重要項目を例えば二つに絞り込みます。
エラー!
大
自社への影響
・シナリオ構成要因
・シナリオ構成要因
・
・
E1
E2
・シナリオ構成要因
・シナリオ構成要因
・
・
F1
F2
・シナリオ構成要因
・シナリオ構成要因
・
・
G1
G2
・シナリオ構成要因
・シナリオ構成要因
・
・
H1
H2
大
不確実性
小
図E
シナリオ・ドライバーの絞込み
(2) シナリオの構築
(1)で絞り込んだシナリオ・ドライバーを使用し、それぞれの項目が起こる、起こら
ない、可能性が高い・低いといった状況を組み合わせて、マトリックス型、ツリー型
などの表記でシナリオを構築します。そして、それぞれのシナリオの内容を物語のよ
うに文章化しておきます。
低
シナリオドライバー2
高
低
「シナリオ」A
「シナリオ」B
「シナリオ」C
「シナリオ」D
シナリオドライバー-1
高
図F シナリオの構築
〔参考図書〕
「実践シナリオプランニング」
池田・今枝著、東洋経済新報社、2002 年刊
22
2−3
本マニュアルの活用対象者
本マニュアルを活用する対象者として、ここでは3つのケースを想定しています。
ケース1:研究開発、事業開発のチームリーダーがプランニング主体(図7)
研究開発、事業開発のチームリーダークラ
スが新事業企画、新商品企画の立案作業にお
いて本マニュアルを活用することでプロジェ
クトの品質向上を図ります。
本マニュアルは R&D・開発部門主体の人
が、マーケティング部門、事業部門、営業部
門、経理部門、企画部門を視野に活動すると
きの支援ツールになります。また、R&D・開
発部門主体の人が、マーケティング部門、事
業部門、営業部門、経理部門、企画部門主体
の人々とビジネス視点の共通言語で議論する
ときの支援ツールともなります。
図7 研究開発、事業開発のチームリー
そのため R&D・開発部門のチームリーダ
ダーがプランニング主体のケース
ーが、部門内やチームメンバーとの議論やボ
ートメンバーや上級マネージャーへの説明に
活用できます。また、部門外、社外の人々に
対しても議論する際の共通言語となります。
ケース2:地域・中小企業経営幹部がプランニング主体(図8)
地域・中小企業経営幹部が新事業企画、新
商品企画の立案作業においてケース1と同様
に活用できます。あるいは企業内メンバーと
の議論や説明、さらに投資家・主要顧客への
説明に共通言語として活用できます。さらに
社外・連携体と議論する場合の共通言語とす
ること可能です。
図8 地域・中小企業経営幹部
がプランニング主体のケース
23
ケース3:地域コーディネータが異業種連携による新事業プランニングのとりまとめ(図9)
地域コーディネータ等が、複数の企業・大
学・公設試験研究機関などによる連携体の新
事業創出のプランニングツールとして活用す
るケースです。
すなわち、市場から遠い大学、業界や専門
領域・規模・経営スタイルの異なる企業、試
験研究が主体の公設試などからの、経験や考
え方の異なる参加メンバーを得て、地域コー
ディネータ等が軸になって議論を進め、新事
業創出に向けてプランニングを行うケースで
す。
ケース1、ケース2、にくらべても共通認
識・共通言語のより少ないケースであります
が、「METI-STPM」の活用を軸に議論を進め
図9 地域コーディネータが異業種連携
による新事業プランニングをとりまとめ
るケース
ることにより、幅広い技術融合・新技術創出
が期待できます。
IS-Plan はこのように、ケース1、ケース2、及びケース3で想定したような幅広い対
象者がおり、事業計画立案等で困っている人や組織内イノベータ、あるいはビジネスリー
ダーとなる方は特に対象となり得ます。
24
2−4
本マニュアルの有効性を発揮できる適用領域
(1)有効なテーマ
本マニュアルの活用対象として取り上げるのにふさわしいテーマには、次のものがあり
ます。
①複数企業による共同研究開発型事業、②研究開発はある程度進んだが事業計画が見えな
いテーマ(新規事業のスタートアップに相当)、③ある程度の事業にはなっているが停滞
しており、一段階レベルアップさせたいテーマ(いわゆる第二創業に相当)
(2)IS-Plan がカバーする領域
以下の図では、時間軸と投資規模軸上で IS-Plan が主にカバーすると考えられる領域を
示します。
企業における事業計画との対比∼量産時の投資額が大きい業種の場合(【例】製造業)
を図 10-1 に示します。
企業における事業計画との対比∼量産時に大きな投資が必要なく、試作や開発段階での
投資が大きい業種の場合(【例】ソフトウェア業)を図 10-2 に示します。
ベンチャー支援・インキュベーション活動との対比を図 10-3 に示します。本図で、各プ
ロセスの規模は対象市場・技術によって異なることとなります。
投資規模
事業計画
量
産
IS-Plan
量産試作
研究開発
時間軸
図 10-1 企業における事業計画との対比
∼量産時の投資額が大きい業種
25
投資規模
事業計画
量産
試作・検証・
開発・製作
IS-Plan
研究開発・
市場開拓
時間軸
図 10-2 企業における事業計画との対比
∼量産時の投資額が小さい業種
投資規模
量産・販
ベンチャー支援・
売・投資
インキュベーション
の回収
IS-Plan 量産試作・
研究開発
市場開拓・
資材手当
等
時間軸
図 10-3 ベンチャー支援・インキュベーションとの対比∼各プ
ロセスの規模は対象市場・技術によって異なる
26
第三章
新ビジネス創出プランニングの作業プロセス
本章では前章で示したフレームワークに沿って具体的な事例に基づく解説を行います。
プランニングの作業プロセスでは中堅企業A社の福祉関連事業および今回行ったフィール
ドスタディからの事例を引用しました。
(ヒント)
本作業プロセスの事例は標準的なものであり、ケース・バイ・ケースで会合回数、作業
内容等はケースの実情に合わせて変更可能です。プログラム・リーダー、ワークショップ・
リーダーの腕の見せ所でもあります。
3−1
事前準備、主旨説明(フェーズ-1)
新ビジネス創出プランニングの会合回数と作業内容を概念図として図11に示します。
第一回では主催者側(プログラム・リーダー)から目的、ゴール、及び作業イメージの共有化、
必要知識の確認、作業体制の決定などを含む主旨説明を本ディスカッション・マニュアル
を活用して行います。
フェーズ1
事前準備会
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
Ph-3
WS-2
Ph-5
Ph-4
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
エラー!
○:主催者
■:参加企業
◎共同作業
第1回(事前準備)
第2回(ワークショップ 1)
第3回(ワークショップ 2)
第1回(0.5 日)
○主旨説明
目的の共有化
ゴールの確認
作業イメージ
必要知識の確認
作業体制決定
第2回(0.5 日)
第 3 回(0.5 日)
■My Vision My Will 発表
◎現状ビジネスモデル検討
◎関連技術 RM 検討
■未来ビジネス目標設定
◎自社技術 RM 検討
←2W→
←2W→
←2W→
第4回(ワークショップ 3)
第5回(事後報告)
第 4 回(1日)
第 5 回(0.5 日)
◎未来ビジネスモデル最終化
◎総合戦略 RM 最終化
◎成果発表資料作成
◎発表報告会
←2W→
図11 会合回数と作業内容の概念図
27
◎成果発表会
(ヒント)
第一回会合でワークショップ・リーダーとサブリーダーを選出すること、第二回会合に
ワークショップ・リーダー、サブリーダーからマイビジョン、マイウィルを発表してもらう
ことになります。したがって第一回会合の主催者側の説明において、ワークショップ・リー
ダー、サブリーダーがマイビジョン、マイウィルをイメージできるようにすることが肝心
です。作業日程の間隔は二週間程度が望ましい作業工程です。
第二回、ワークショップ1では参加メンバーによって現状ビジネスモデルの検討が行わ
れ、ビジネスモデルのフレームワークで表現されます。続いてワークショップ・リーダー
からマイビジョン、マイウィルの発表があり、現状モデルとマイビジョンモデルの間にあ
るギャップを発見するようにし、課題として整理します。現状モデルに関連する技術ロー
ドマップ群は METI 技術戦略マップを活用することで作成します。
第三回、ワークショップ2ではビジネスシナリオ計画法を活用し、グループ討議によっ
てマイビジョンモデルを満足する「未来のビジネス目標」の探索、発掘、及び設定を行い
ます。未来のビジネス目標を実現するための製品・サービス機能、及びその機能を実現す
る技術群を、技術ロードマッピング作業からマイルストーン毎に明確にしていきます。こ
のようにして「未来のビジネス目標」に辿りつく自社技術ロードマップを作成します。
第四回、ワークショップ3では未来のビジネスモデルを完成し、続いて統合戦略ロード
マップを完成させます。
3−2
ワークショップ1(フェーズ-2、フェーズ-3)
フェーズ2では、ワークショップ・リーダーから会社概要、事業を取り巻く経営環境、
検討対象としている製品・サービスについて簡単に現状と将来展望をレビューし、続いて
マイビジョン、マイウィルの発表を行います。
フェーズ3では、「マイビジョン、マイウィル」と現状延長線上で実現可能なビジネス
モデルとの間のギャップを埋めるために必要な技術をロードマップなどを表形式に整理
します。
フェーズ2「マイビジョン、マイウィル」の発表、ギャップ分析
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
フェーズ2−1
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
「マイビジョン、マイウィル」の発表
ここではワークショップ・リーダーが「マイビジョン、マイウィル」の発表を行います。
ワークショップ・リーダーから発表される「マイビジョン、マイウィル」は、既存事業
あるいは製品・サービスから大きく飛躍したコンセプト、売り上げ規模も一桁以上大きく
28
するなど挑戦的、革新的なものが望まれます。
〈マイビジョン、マイウィルの事例〉
図 12 A社の福祉事業事例:マイビジョン、マイウィルの概念図
フェーズ2−2
現状ビジネスモデルによる検討、ギャップの発見
一方、参加メンバーによって現状ビジネスモデルの検討が行われ、ビジネスモデルのフ
レームワークを用いて現状から想定されるビジネスモデルが表現されます。現状モデルと
マイビジョン、マイウィルモデルの間にあるギャップを発見、課題として整理します。
ビジネスモデルを構成する要素としては、誰に何をどのように提供するか、どのように
収益を上げるか、どのように事業を継続するか、という三つです。
本マニュアルではビジネスモデルのフレームワークは、①市場・顧客、②提供する製品・
サービス、③事業システム、④収益モデル、⑤成長モデルから構成されものとしています。
29
〈マイビジョンと現状ビジネスモデルとのギャップの事例〉
表 4 は、A社の福祉事業の現状ビジネスモデルを作成し、これによる検討結果を示した
ものです。現状事業の延長線上では、どうがんばっても 10 年後に 5.6 億円の売り上げが見
込めるにとどまりました。 40 億円というマイビジョン目標との間に大きなギャップが存
在することが分かります。
ギャップ
発 見
表 4 A社の福祉事業事例:現状ビジネスモデルによる検討結果
(ヒント)
A社の福祉事業の事例ではギャップの発見とその対策へ向けて、ワークショップ2にお
いて経営責任者の参画を求めてビジネスシナリオ計画作業を行う段取りをつけました。ワ
ークショップを円滑に進める、議論の品質を高めるためには適切な人物の招聘が不可欠で
あり、ここがプログラム・リーダーの腕のみせどころでもあります。
30
フェーズ3
事前準備会
Ph-1
METI-STRM の活用による関連技術ロードマップ作成
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
ここでは、ギャップを解消するため、METI の「技術戦略マップ」を用いて、対象とする
技術分野を深堀したり、適用市場を広げる検討を行います。
「技術戦略マップ」は、毎年更新され冊子体と CD-ROM の形で発行されており、以下のイ
ンターネット・ウェブサイトにも掲載されています。
・経済産業省/研究開発「技術戦略マップ」
→http://www.meti.go.jp/policy/kenkyu_kaihatu/main-top.html
・NEDO/「技術戦略マップ(分野別技術ロードマップ)」
→http://www.nedo.go.jp/roadmap/index.html
各サイトにはそれぞれ検索システムが用意されています。2007 年 2 月からは産総研が開
発した文章による検索が可能な検索エンジン
kamome が提供されており、自分のアイデ
アを記述する文などから検索をスタートさせることができます。関連するキーワード候補
が列挙されますので、その中からより適切なキーワードを探し、次に示す検索に結び付け
ることもできます。→別掲の News Release 資料参照
(http://kamome.i-content.org/tsm2006.html)
一般的には、自分のパソコンに取り込んだ電子データか CD-ROM を用いて、PDF や Excel
の検索システムによってキーワード検索を行い、目指す技術・技術分野を探るのが効率的
です。
「技術戦略マップ」は、技術導入シナリオ、技術マップ、ロードマップの 3 部構成に
なっており、どのような関連技術があるか(技術マップ)、その開発予測はどうなっている
か(ロードマップ)、どのような導入が図られようとしているのか(導入シナリオ)、など
を読み取ることができます。
例えば、目指す技術開発を代表するキーワードを用いて検索することにより、先進 24
技術分野の中から関連する技術領域を探り出すことができ、新たな適用市場をイメージす
ることが可能となります。以下では、関連技術領域のロードマップを探索・抽出して、
「マ
イビジョン、マイウィル」を実現する道筋を発見していくステップを示します。
31
各事例における技術戦略マップの活用事例場面
以下に、どんな場面でどんな技術戦略マップが参考になり得るかを、いくつかの事例を
挙げて紹介します。
(1) 自社技術のロードマップを調査するケース
・自社の研究開発計画との対比、自社ロードマップとの対比
・自社技術の実現時期や事業化時期を客観的に把握
<技術戦略マップのリファレンスと自社技術ロードマップへの活用検討事例1>
視覚障害者支援システムの事例では、 人間生活技術分野における安全・安心で働きが
いのある環境ロードマップ により、2012 年には障害者が働きやすい作業環境が整備され
ると予測されていることが分かりました。また
ユーザビリティ関連のロードマップ
か
らは、2012 年にセンサ、コミュニケーション、認識関連技術が確立され、実用化される見
通しであることがわかり、自社技術による製品の実現可能時期を予測できました。
(図 13)
図 13 視聴覚障害者支援システム→人間生活技術分野」安全・安心で
働きがいのある環境のロードマップ(2006 年度冊子 p.404)
32
(2) 市場(ユーザ)技術を調査するケース
・自社技術の応用分野予測
・事業化計画立案
・ビジネスモデルの展開や拡大
・事業計画の拡大
<技術戦略マップのリファレンスと自社技術ロードマップへの活用検討事例2>
有機ナノ粒子開発の事例では、ナノテクノロジー分野の電子部品のロードマップ等から、
自社高分子微粉体技術の応用分野を探索しました。(図 14)
図 14 高分子材料→「ナノテクノロジー分野」電子部品のロードマップ(METI-STRM2006 年度
冊子 p.244、p.273)
33
(3) 競合・代替技術動向を調査するケース
・自社の研究開発計画との対比
・代替技術の登場によるリスク分析
・競合技術との優劣性分析
<技術戦略マップのリファレンスと自社技術ロードマップへの活用検討事例3>
イメージングソフトウェア開発の事例では、
「情報通信分野」コンピュータ/アプリケー
ションソフトウェア関連のロードマップから、情報検索ソフト、データベース用ソフトの
将来技術動向を探り、類似競合技術としての優劣分析・リスク分析の参考にしました。
(図 15)
図 15 イメージングソフトウェア→情報通信分野」コンピュータ/
アプリケーションソフトウェア関連のロードマップ(METI-STRM2006 年度冊子 p.28)
(4) インフラ系・環境・生産技術等の動向調査するケース
・事業化のための計画
・PEST 分析
・コスト面や製造/品質管理等でのリスク分析
34
<技術戦略マップのリファレンスと自社技術ロードマップへの活用検討事例4>
視覚障害者支援システムの事例では、ネットワーク技術分野のロードマップから、将来
製品に必要なネットワーク・インフラについて、いつ頃どのような通信網が整備され、ど
のような機能を持つ機器が自社製品に活用できるかを予測しました。(図 16)
図 16 視聴覚障害者支援システム→「情報通信分野」
ネットワーク技術のロードマップ(METI-STRM2006 年度冊子 p.29∼p.30)
35
3−3
ワークショップ2(フェーズ4、フェーズ5)
ワークショップ2ではビジネスシナリオ計画法(補足1∼5参照)を活用し、グループ
討議によってマイビジョンモデルを満足する「未来のビジネス目標」の探索、発掘、及び
設定、自社技術ロードマップの検討・作成を行います。
フェーズ4
ビジネスシナリオ計画による未来ビジネス目標の探索、発掘、設定
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
Ph-3
WS-2
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
具体的手順としては、まず①産業のバリューチェーン分析(補足 3)、②マクロ環境分析
(PEST 分析)(補足 2、3)、③マイケル・ポーターの「5 つの力」フレームワーク分析(補
足 2、4)、④シナリオプランニングによるシナリオ作成(補足 1)、をおこないます。これ
らを踏まえて、⑤静的ビジネスモデルへのシナリオの影響をまとめ(補足 5)、⑥事業規模
拡大へ向けたシナリオ「未来のビジネス目標」を設定します。この新ビジネス目標を実現
するための技術ロードマッピング作業から、自社技術ロードマップを作成します。
①
産業のバリューチェーン分析(補足2、補足 3
P.18、P.19 参照)
対象の製品・サービスが置かれる業界における部品・リソース調達、生産、卸売り、
小売り、レンタル、アフターサービスといったその製品・サービスの価値(バリュー)を顧
客に提供するためのプロセス、及び、それらのプロセス間のヒト・モノ・カネ・情報の連
鎖(チェーン)を認識し、対象産業の付加価値のつき方、主要成功要因、各プロセスの特徴
やそれぞれのプロセスに登場する企業の強み、弱みを分析するのに有効です。
36
<産業のバリューチェーンと自社のバリューチェーン及び成功要因検討事例>
産業のバリューチェーンを描くことで、自社のドメインを定義することができます。A
社の場合、企画提案、設計、入札、建設、引渡・運用がドメインとなります。
自社のバリューチェーンは当該事業の自社内ビジネスプロセスと関連しますが、A社の
場合、製造は外部委託を特徴としています。個別プロセスの成功要因を図のように併記す
ると自社の強み、弱みが概括できるようになります。(図 17)
図 17 A社の事例:産業のバリューチェーンと自社のバリューチェーン及び成功要因
②
マクロ環境分析(PEST 分析) (補足 2、3 P.18、P.19 参照)
事業環境を変化させる代表例としてマクロ環境変化要因が挙げられます。この場合には、
PEST のフレームワークが有効であり、検討対象の製品・サービスが置かれるP(Political:
政治的)、E(Economic:経済的)、S(Sociological:社会的)、T(Technological:技術的)の4つ
の側面から幅広く、もれなく分析できます。
代表的な例示として、P:国や自冶体による規制や支援策など、E:大局的な経済環境
や、業界全体の収支動向など、S:人口動態(少子・高齢化)、文化(都市・農村、関東・関
西)、宗教など、T:関連技術の進歩レベルや対抗技術の動向など、があげられます。
37
<マクロ環境分析(PEST分析)事例>
A社の場合、P:法律の改正(バリアフリー新法等)、S:人口動態の変化(障害者数の
増加、高齢者)、社会的意識の変化(バリアフリー、ユニバーサルデザイン、安心・安全
への関心の高まり)、E:まちづくり等のプロジェクトの動向、T:技術革新(インター
ネット、ユビキタスを利用した新システムの出現)、などが変化要因として列記されます。
(図 18)
Political(政治的環境変化要因)
Economic(経済的環境変化要因)
・産業規制の変更(参入規制、規制緩和)
・補助金の対応
・法律の改正(バリアフリー新法等)
・景気の変動
・特定産業における市場動向
・システムの標準化
・まちづくり等のプロジェクトの動向
・プロジェクトの担い手の変化
Sociological(社会的環境変化要因)
Technological(技術的環境変化要因)
・人口動態の変化(障害者数の増加、高齢化) ・既存システム以上のスペックをもったシステム
・社会的意識の変化(バリアフリ−、ユニバー
の出現
サルデザイン、安全安心への関心の高まり) ・技術革新(インターネット、ユビキタス、ナノ
・災害の発生(大地震、水害等緊急時の避難誘
テクノロジーを利用した新システムの出現)
導)
・他業種技術の容易な転用や他業種・他アプリと
の連携)
図 18 A社の事例:マクロ環境分析(PEST分析)
③「5 つの力」フレームワーク分析(補足 2、4 P.18、P.21 参照)
市場の競争環境を a) 業界内での競合、b) 新規参入の脅威、c) 代替製品・サービスの脅
威、d) 供給業者の取引交渉力、e) 顧客の取引交渉力、という5つの視点から分析します。
<「5 つの力」フレームワーク分析事例>
「5 つの力」フレームワーク分析の事例を示します。(図 19)
図 19 A社の事例:「5 つの力」フレームワーク分析
38
シナリオプランニングによるシナリオ作成(補足 1 P.17 参照)
④
無数に存在する未来「シナリオ」の中から、詳細に検討すべき「シナリオ」を選択する
ポイントをつかむことが要点です。
①∼③の環境分析内容から、a) 不確実性が高い、b) 自社への影響が大きい、これらに
あてはまるような項目を複数個発見し、さらに、それらの項目の影響度や相関関係等を検
討しつつ、重要項目を例えば2つに絞り込みます。
<シナリオドライバーの抽出事例>
シナリオドライバーの抽出の事例を示します。
A社の場合、不確実性が高い、かつ自社への影響が大きいボックスに(1)既存システム以
上のスペックをもったシステムの出現、(2)技術革新(インターネット、ユビキタスを利用
した新システムの出現)、及び(3)社会的意識の変化(バリアフリー、ユニバーサルデザイン、
安心・安全への関心の高まり)をあげることができました。
(図 20)
図 20 A社の事例: シナリオドライバーの抽出
次に、シナリオドライバーとして絞り込んだ項目を、
「起こる、起こらない」、
「可能性が
高い、低い」といった状況を組み合わせて、マトリックス型やツリー型などの表記で「シ
ナリオ」を構築して、それぞれの「シナリオ」の内容を物語のように文章化しておくこと
が肝要です。
<シナリオの作成事例>
シナリオ作成の事例を示します。(図 21)
A社の場合、社会参加を確立する技術力が高くなる・低いまま、ユニバーサルデザイン
のニーズが大きくなる・小さいまま、という2軸でマトリックスを作成しました。それぞ
れの枠にヘッドタイトル(市場拡大、戦国時代など)をつけて、シナリオを完成させました。
39
図 21 A社の事例:シナリオの作成
⑤
静的ビジネスモデルへのシナリオの影響(補足 5 P.22 参照)
それぞれの「シナリオ」の内容を物語のように文章化します。
<シナリオの構築事例>
A 社の文章化したシナリオ事例を次に示します。
・市場拡大
現状の、視覚障害者誘導システム運営に加え、視覚以外の障害者協会との連携により、
他障害者・高齢者向けの情報提供システムのへ進出することとします。携帯端末及びイン
フラ設備より、携帯端末購入者(障害者、高齢者)、インフラ設備提供者(国、自治体等)
の双方から利益を得るビジネスモデルの構築が可能であることが明らかになりました。
・戦国時代
ユニバーサルデザインニーズは高いものの、同等のサービス提供が可能な技術が複数あ
るため、シグナルエイド(電波方式)を採用するメリットをインフラ設備提供者(自治体
など)、シグナルエイド購入者(視覚障害者など)に提示する必要があります。具体的には、
自治体等への企画提案型営業の強化、視覚障害者団体への営業の強化、ローコスト、ハイ
スペック機器の提供などが必要となるでしょう。
・ニッチ
ユニバーサルデザインニーズは、市場が比較的新しいこともあり、まだまだ未開拓分野
であるため、特に障害者への適用を考慮したニーズを拡大することに重点を置く必要があ
ります。しかし、自治体等のインフラ設備の普及があってこそ効果が出るものであり、公
共施設などによる導入などが考えられます。この場合、障害者分野に合わせたシステムの
カスタマイズが重要となります。
40
・迷走
現状の市場規模が小さく、新技術の開発に投資することが難しいため、現状のビジネス
だけでは成立は困難を来たすと推測されます。しかし、他障害者、高齢者を見越した市場
としての展開が考えられ、また、開発投資を回収するためには、障害者・高齢者向けニー
ズの調査及び開発技術の他分野への転用などの立案が必要となることが判明しました。
(ヒント)
「シナリオ」の内容を物語にすることが極めて重要です。この物語が「未来のビジネス
目標」を活き活きと描いてくれるからです。この未来のビジネス目標の発掘・設計が新ビ
ジネス創出プランニングの山場です。
A社の福祉事業の例では、
「マイビジョン、マイウィル」と現状ビジネスの延長線上から
得られる売上高とに大きなギャップが存在します。そのギャップを解消する事業拡大シナ
リオ∼「未来のビジネス目標」を作成しました。
⑥
事業規模拡大へ向けたシナリオ
事業拡大に向けたシナリオ、「未来のビジネス目標」を検討します。
<未来ビジネス目標事例>
A 社の事例では、事業拡大シナリオ∼「未来のビジネス目標」は高齢者・障害者生活支
援システムというビジネス分野であることを発掘しました。具体的には(1)難聴者磁気
誘導システム、(2)緊急避難情報システム、(3)スーパー防犯灯(緊急通報システム)
等です。
自社技術ロードマップのイメージを得るために、この3事例を簡単に紹介します。
(1)難聴者磁気誘導システム
(図 22)
このシステムは、ホール、会議室で行われる講演等の音声を難聴者が本人の補聴器(誘
導コイル付の物)又は、磁気コイル付専用受信機で容易に聴取できるシステムです。ホー
ル、会議室内の音響装置より出力された音声信号によって難聴者アンプと床に埋設された
ループアンテナで誘導磁界を発生させ、難聴者の持っている補聴器(誘導コイル付の物)
又は、磁気コイル付専用受信機の誘導コイルに音声信号を誘起させて聴取するシステムで
す。
41
(2)緊急避難情報システム (図 23)
このシステムは、主に聴覚障害者の方へ事故
補聴器
や災害発生時の避難警報をLEDの文字表
補聴用アンプ
示やフラッシュランプで知らせ、避難誘導す
るものです。
ループアンテナ
図 22 難聴者磁気誘導システム
図 23 緊急避難情報システム
(3)スーパー防犯灯(緊急通報システム)(図 24)
このシステムは、従来の防犯灯に、カメラ・非常
用の赤色灯・インターホン・サイレン・音声案内装
システムイメージ図
置が取り付けられています。事件や事故などの緊急
時に、ボタンを押すことにより、警察本部の通信指
令室に直接通報でき、同室の警察官と通話ができま
不審者です
す。また、視覚障害者歩行支援システムの機能も兼
ね備えたシステムです。
不審者です
IP 通信網
図 24 スーパー防犯灯
フェーズ5
事前準備会
Ph-1
未来ビジネス目標を実現するための自社技術ロードマップ作成
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
「未来のビジネス目標」を実現するための製品機能、及び製品機能を実現するために必
要とされる技術群のロードマップ(自社技術ロードマップ)を作成します。
42
<自社技術ロードマップの事例>
A 社の事例では、ワークショップ2の前半の作業であるフェーズ4において「未来のビ
ジネス目標」を想定することができました。すなわち、新規製品・既存市場領域において
は、コミュニティ支援システム、具体的にはスーパー防犯灯(緊急通報システム)及び緊
急避難情報システムを新ビジネス目標としました。これで、A社にとって売り上げ規模 30
億円の新ビジネスを想定することができたわけです。
既存製品・新規市場領域においては、障害者等の歩行支援システム、具体的には視覚障
害者に限定することなくユニバーサルデザインが広く世の中に受け入れられていく流れの
中で、高齢者や他の障害者への対応製品・サービスを未来のビジネス目標とすることが、
A社にとって売り上げ規模 30 億円を掲げることを可能にしました。
このケースにおいては、2015 年に新ビジネス目標としてスーパー防犯灯(緊急通報シス
テム)、緊急避難情報システム、高齢者や他の障害者への対応製品・サービスを設定いたし
ました。この未来製品・サービスを 2015 年に実現するために必要となる製品機能、製品
機能を実現するために必要となる技術群をロードマッピングし、整理したものが表 5 です。
表 5 A社の事例:自社技術ロードマップ
43
(ヒント)
第二創業テーマの事業戦略策定では、What to make が描けず、そのためにロードマ
ップも作成できないケースが多く見られます。ビジネスモデリングとロードマッピングを
融合・統合した本手法では What to make をビジネスモデリングの中から発見、発掘、
設計することができます。ワークショップ 2 のフェーズ4作業の成果出力である「未来の
ビジネス目標」がこれに該当するわけです。
「未来のビジネス目標」が決まれば、もう一度「技術戦略マップ」へ戻り目標を実現す
るための機能、機能を実現するための技術群を時間軸上にマッピングする作業は極めて楽
しい作業となるはずです。
3−4
ワークショップ3(フェーズ6)
第三章ではここまで IS-Pan を用いて、A社の福祉事業を素材として新ビジネス創出の
プランニング作業を行ってきました。ワークショップ1では As is ビジネスモデル作成、
関連技術ロードマッピング、My Vision My Will と As is ビジネスモデルとのギャップの
抽出・整理を行い、ワークショップ2では前述のギャップからシナリオプランニング手法
などを用いて未来のビジネス目標を設計しました。未来のビジネス目標を実現するための
製品・サービス機能、機能を実現する技術群をロードマッピング手法によって明らかにし
ました。
ワークショップ3では、未来ビジネスモデルと統合戦略ロードマップを完成します。
フェーズ6
未来ビジネスモデルの完成、統合戦略ロードマップの完成
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
フェーズ6−1
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
未来ビジネスモデルの完成
シナリオ作成で検討したターゲット顧客、商品、供給方法、収益モデルを確認して未来
ビジネスモデルを完成させます。
<未来ビジネスモデルの検討事例>
A 社の事例では、シナリオプランニング手法によって事業拡大シナリオ∼「未来のビジ
ネス目標」は高齢者・障害者生活支援システムというビジネス分野であることを発掘しま
した。具体的には(1)難聴者磁気誘導システム、(2)緊急避難情報システム、(3)ス
ーパー防犯灯(緊急通報システム)等です。これらのことをビジネスモデルのフレームワ
ークを用いて表現したものが表 6 です。
As is ビジネスモデルは視覚障害者歩行支援システムを地方自治体、ゼネコン・サブコ
44
ンへ納品するためのモデルです。提供方法と収益モデルは企画提案型・自社販売、システ
ム販売、端末販売、保守メンテナンスです。しかしながら、これによる現状の延長線上か
らは大きな成長目標を描くことが困難でした。(3-2 ワークショップ1参照)。
一方、事業拡大シナリオとして高齢者・障害者等の歩行支援システム、コミュニティ支
援システムというビジネス分野を描き出すことが可能でした。A社の福祉事業にとって、
これらはそれぞれ「既存製品・新規市場」、「新規製品・既存市場」に相当するものです。
既存製品・新規市場としては、既存製品である視覚障害者向け歩行支援システム、及び
シグナルエイド(交差点で音声が出る機能、青信号の延長機能)を警察庁、地方自治体、
鉄道事業者等、ホテル/百貨店へ向けて、視覚障害者以外の障害者・高齢者・病弱者等の
歩行支援システムに拡大して提供することで売り上げ20億円以上へと事業拡大を図りま
す。一方・新規製品・既存市場としては、既存市場・顧客である国土交通省、地方自治体、
商店街、その他民需需要へ向けて、新規製品・サービスである安全なコミュニティー支援
システム(危険予知、回避を含む)、及び交番の代替機能を提供することで売り上げ20億
円以上へと事業拡大を図るものです。マクロ環境トレンドから需要が予測される安全、安
心、バリアフリーなまちづくり実現を目指すものです。
表 6 A社の福祉事業の事例:未来のビジネスモデル完成
45
フェーズ6−2
統合戦略ロードマップの完成
フェーズ 6-1 における未来ビジネスモデルを踏まえ、自社技術ロードマップを多層構造
の戦略ロードマップへ再構成する作業です。
<統合戦略ロードマップの検討事例>
A 社の事例では、前述の表 5 で 2015 年における福祉事業の未来ビジネス目標である、
コミュニティ支援システム:スーパー防犯灯、緊急避難システム、及び高齢者・他の障害
者向け歩行支援システムを実現するため、その製品機能として多機能型、GPS 機能型、小
型軽量化、低価格、長時間連続使用、個別情報化などを抽出しました。
製品機能およびそれらを実現する要素技術をもう一度 METI-STRM をデータベースと
して読み込んで抽出、整理したものが図 25 です。
要素技術として IPv6 適用、ピアトゥピア通信プロトコル標準化、モバイル燃料電池、
フレキシブル軽量ディスプレイ、センサ−、コミュニケーション技術などが抽出されまし
た。2015 年時点でA社の福祉事業部門には、これらの要素技術が製品機能を具現化する、
システムとして顧客へ提供する水準で活用できる体制になっていなければならないわけで
す。未来ビジネスモデルを完成し、未来のビジネス目標を実現する製品機能、要素技術を
METI-STRM をデータベースとして、あるいは他の外部資料等を用いて自社技術ロードマ
ップのブラッシュ・アップを行う必要があります。
図 25 A社の事例:METI-STRM の自社技術ロードマップへの活用
46
これらを多層構造の時間線表にマッピングしたものが統合戦略ロードマップです。図 26
にA社の福祉事業を事例としたものを示します。
図 26 A社の福祉事業の事例:統合戦略ロードマップの完成
47
3−5
事後報告:報告・検討会等によるブラッシュ・アップ(フェーズ7)
ワークショップ終了後に新ビジネス創出プランニング活動の成果を関係者へ報告、検討
する作業を行い、必要な場合には引き続き投資計画、要員等リソース計画作成などへ進む
ことになります。
フェーズ7
事前準備会
Ph-1
事後報告・検討会
WS-1
Ph-2
Ph-3
WS-2
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
フェーズ7に相当するこの報告・検討作業は単にメールや資料配布などの手段で行うこ
ともできますが、実際に会合を開催し参加メンバーが直接社内の経営トップ及び新ビジネ
スの関係者へ報告することにより、結果がさらに高次元のものとなることが期待できます。
〈事後報告の事例〉
実際に A 社の事例では、事後の報告会によって、高所大所から、あるいは異なる利益集
団の立場から、ビジネスモデル、自社技術ロードマップ、統合戦略ロードマップを共通の
言語として「新ビジネスプラン」が揉まれ、鍛えられました。その結果、より優れたビジ
ネスプランができ上がるととともに、この報告・検討会に参加した関係者に「新ビジネス
プラン」が共有化されました。活動の取り組みそのものも広くメンバー以外にも認知され、
参加メンバーの活動に対する苦労も報われることとなりました。
IS-Plan を用いて作成した新ビジネスプランの検討会を実施する上でいくつかの留意点
を以下に述べます。成果物の効用及び活用の特徴に言及するとよいでしょう。
(1) METI-STRM との関連性
METI-STRM 自体は多数の専門家が作成した普遍的・客観的な内容ですが、その利用
にあたっては当該テーマの研究開発や事業化を考える立場から独自の視点が付け加えられ
ています。
「未来のビジネス目標」を設定する過程で、担当者でなければ把握できないよう
な絞り込み、広くかつ深い専門的な項目間の関連付け、外部資料をも用いた製品機能、実
現技術群のロードマッピングが行われることが普通です。このような過程を経て、自社技
術ロードマップにまとめていることを十分説明すると良いと思われます。
(2) ビジネスモデル
単に技術的な路線だけでなく、自社技術ロードマッピングの内容や発見を反映して、シ
48
ナリオ別のターゲット顧客、商品、供給方法、収益モデルを確認してビジネスモデルが完
成されています。そのために、マクロ環境の動向、当該テーマに関する競争環境、自社バ
リューチェーン、シナリオ作成等の手法が活用され、最後は、自社技術ロードマップを多
層構造のロードマップへ再構成し、未来ビジネスモデルと統合した統合戦略ロードマップ
を完成させています。このようなプロセスを説明することが望ましいでしょう。
(3) 統合戦略ロードマップ
従って、統合戦略ロードマップはレイヤー間のギャップやボトルネックなどの発見、投
資タイミングが正しいかどうか、経営トップ、あるいは異なる利害集団と議論を戦わせる
ための提案資料としては大変に適しています。
IS-Plan が新ビジネス創出プランニング手法として有用であり、かつプランニングの作
業から得られた中間成果物が異なった背景の人々の間で「新ビジネスプラン」、あるいは「新
製品開発プラン」、「新技術開発プラン」を議論する共通のコミュニケーション手段として
も有用である旨、理解を得るとよいでしょう。
49
第四章
事例編
1. TAMA事例1
有機ナノ粒子の開発と新規用途の創出による事業の拡大
2. TAMA事例2
ソフト事業「新商品戦略立案」
3. 浜松事例
中堅中小複数企業によるR&D事業のビジネスモデリング
への応用
50
TAMA事例1
有機ナノ粒子の開発と新規用途の創出
による事業の拡大
B 社(化学系機能材料メーカー)
1.フィールドスタディの概要
2.新ビジネス創出プランニング作業
2-1 事前準備、主旨説明会(第一回会合:フェーズ-1)
2-2 ワークショップ1(第二回会合:フェーズ-2、フェーズ-3)
2-3 ワークショップ2(第三回会合:フェーズ-4、フェーズ-5)
2-4 ワークショップ3(第四回会合:フェーズ-6)
本資料は経産省委託テーマ「技術戦略マップの応用研究」における(社)科学技術と経
済の会、イノベーション支援技術実践研究会の中での事例討議をまとめたものであり、必
ずしも B 社(化学系機能材料メーカー)の事業戦略を反映するものではありません。
51
1.フィールドスタディの概要
1)
2)
3)
4)
5)
6)
B社(化学系機能材料メーカー)創立:1948 年、資本金:30 億円、社員
数:250 名
業務:粘着剤・微粉体・機能材等の製造販売、装置・プラントの設計・製
造・販売
テーマ:「有機ナノ粒子の開発と新規用途の創出による事業の拡大」
目的:既存事業の見直しによる第2創業戦略
特徴:ナノレベル有機系粉体を開発し新商品・新市場を開拓
参加者: ①営業担当者(リーダー)
②営業部門長
③営業担当者
④営業担当者
⑤研究開発部門室長
⑥生産技術担当者
オブザーバー: (社) TAMA 協会
実施時期:2006 年 11 月∼12 月
52
2.新ビジネス創出プランニング作業
2−1
事前準備、主旨説明会(第一回会合:フェーズ-1)
フェーズ1
事前準備、主旨説明
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
Ph-3
WS-2
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
JATES イノベーション支援技術研究委員会がプログラム・リーダー、主催者となりテー
マ関係者、ワークショップ・リーダーなどとのすり合わせ後、関係者の支援の下に事前準
備を行いました。
フェーズ1では、目的、ゴール、及び作業イメージの共有化、必要知識の確認、作業体
制の決定を行うこととします。
プログラム・リーダーはB社首脳と事前打ち合わせを行い、B社の粉体事業の現状と課
題の概要、目標設定、作業イメージの共有化、作業体制について協議を行いました。その
結果以下のようなことが明らかになり、目標設定、作業体制も整いました。
B社は粉体事業の成長率を年率 20%に見込んでいます。主な用途は、①光学用途、②化
粧用添加剤用途、③トナー添加剤用途、④フィルム改質剤用途、⑤塗料・インキ添加剤、
⑥その他、となっています。この中でB社(化学系機能材料メーカー)は光学関連用途を
主力としています。しかしながら、B社首脳の悩みは光学関連用途がいつまで牽引役にな
っていられるか不安に思える経営環境材料があります。
1. 光学関連用途の市場予測:2007 年以降は年率 10%以下の安定成長が予測されること。
2. 部材構成変化による使用量の低下:粒子を使用しない光学シートの登場が予測される
こと。
このような経営環境を打破すべく、粉体事業をB社の柱事業にするための事業戦略、す
なわち既存事業の見直しによる第2創業戦略の立案が望まれていました。社長の賛同のも
と「有機ナノ粒子の開発と新規用途の創出による事業の拡大」をテーマに①営業担当者(リ
ーダー)、②営業部門長、③営業担当者、④営業担当者、⑤研究開発部門室長、⑥生産技術
担当者が IS-Plan による新ビジネス創出プランニング作業へ参画しました。
主旨説明会ではプログラム・リーダーから「技術戦略マップを活用した新ビジネス創出
プランニング」のディスカッション・マニュアルのたたき台を用いて作業の目的、ゴール、
及び作業イメージの共有化、必要知識の確認、作業体制についての事前説明を行いました。
事前説明会で重要なことはワークショップ・リーダーを選出すること、ワークショップ・
リーダーには次回 My Vision/My Will の発表を依頼することです。
53
2−2
ワークショップ1(第二回会合:フェーズ-2、フェーズ-3)
この会合では、ワークショップ・リーダーから会社概要、事業を取り巻く経営環境、検
討対象としている製品・サービスについて簡単に現状と将来展望をレビューし、続いてマ
イビジョン、マイウィルの発表を行う手順で作業を行いました。
フェーズ2
「マイビジョン、マイウィル」の発表、ギャップ分析
事前準備会
Ph-1
フェーズ2−1
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
「マイビジョン、マイウィル」の発表
ワークショップ・リーダーから発表された「マイビジョン、マイウィル」は「既存用途
から新規用途へ、ナノ粉体事業を 10 年後に 100 億円規模の事業にしたい!!」という、
充分に挑戦的、革新的なものとなりました。(図1)
図 1 B社のナノ粉体事業事例:マイビジョン、マイウィル
フェーズ2−2
現状ビジネスモデルによる検討、ギャップの発見
一方、参加メンバーによって現状ビジネスモデルの検討が行われ、ビジネスモデルのフ
レームワークを用いて現状から想定されるビジネスモデルと、マイビジョン、マイウィル
モデルの間にあるギャップを発見し、課題として整理することとしました。
ビジネスモデルを構成する要素としては、誰に何をどのように提供するか、どのように
収益を上げるか、どのように事業を継続するか、という三つであります。ここでは、技術
者・研究者のためのビジネスモデル設計手法を用いることとしました。
ビジネスモデルのフレームワークは①市場・顧客、②提供する製品・サービス、③事業シ
ステム、④収益モデル、⑤成長モデルから構成されます。
表 1 はB社のナノ粉体事業の現状ビジネスモデルによる検討結果の一例を示したもので
す。既存事業の延長線上では 10 年後に 31 億円の売り上げを見込めるに過ぎないので、100
億円というマイビジョン目標との間に大きなギャップがあることが明らかとなりました。
54
B to B
用 途
市場全体
当社参入可能市場
顧客
提供する製品
・サービス
事業システム
収益モデル
成
長
モ
デ
ル
2006 年現在
1 年後
5 年後
10 年度
インクジェット
(色材 150 億円)
C 社、E 社
体外診断薬
3,200 億円/年
30 億円/年
A 社、B 社
インクジェット用 体外診断薬(例:インフルエン
インク
ザ、感染症)向けの色材
特注品
特注品
試作検討費、単品 試作検討費、単品販売
販売
5 万円
20 万円
ギャップ
50 万円
300 万円
1,000 万円
5億円
100億円
1 億円
30 億円
事業
表1 B 社のナノ粉体事業事例:現状ビジネスモデルによる検討結果
フェーズ2−3
ギャップとその対策へ向けた成長分野の発掘・設計
100 億円というマイビジョン目標との間に存在する大きなギャップをいかに解決する
か、新らたな成長分野の検討を行い、アンゾフのマトリックスを活用して新規市場、新規
用途を発掘しました。
図 2 B社のナノ粉体事業事例:成長分野の発掘・設計
55
フェーズ3
METI-STRMの活用による関連技術ロードマップ作成
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
フェーズ3−1
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
METI 技術戦略マップの戦略的活用
B社の場合、①電子・情報通信分野へ事業展開を強化する、②粉体事業部としては有機
ナノ粒子を事業化することが経営方針として打ち出されています。
①と②を実現するためには METI 技術戦略マップを活用することができます。活用のス
テップとしては最初に全体像を把握し、次に目標を明確にするという手順で進めることと
します。市場及び顧客の求めるニーズ、機能、実現手段としての技術を METI 技術戦略マ
ップの活用により把握することができます。
図 3 B社のナノ粉体事業事例:METI 技術戦略マップの戦略的活用(1)
素材メーカーであるB社にとっては METI 技術戦略マップを戦略的に活用することで
BtoBのビジネスに、顧客ニーズやトレンドが見えてきて、製品の可視化が可能となっ
てきます。また、周辺技術、リスク(法規制)の動向を確認することもできます。
56
図 4 B社のナノ粉体事業事例:METI 技術戦略マップの戦略的活用(2)
フェーズ3−2 METI 技術戦略マップの活用による関連技術ロードマップ作成
図 5 コンデンサーの技術ロードマップの事例
57
図 6 液晶ディスプレーの技術ロードマップの事例
図 7 微粒子計測の技術ロードマップ例
58
図 8 リスク評価・管理の技術ロードマップの事例
2-3
ワークショップ2(第三回会合:フェーズ-4、フェーズ-5)
ワークショップ2ではビジネスシナリオ計画法を活用し、グループ討議によってマイビ
ジョン・モデルを満足する「未来のビジネス目標」の探索、発掘、及び設定を行うことと
します。
具体的手順としては、①産業のバリューチェーン分析、②マクロ環境分析(PEST 分析)、
③マイケル・ポーターの「5 つの力」フレームワーク分析、④シナリオプランニングによ
るシナリオ作成をおこない、次に⑤静的ビジネスモデルへのシナリオの影響をまとめ、⑥
事業規模拡大へ向けたシナリオ「未来のビジネス目標」を設定することです。このような
プロセスが標準的な手順です。
B社のナノ粉体事業の場合、
「未来のビジネス目標」の探索、発掘、及び設定については、
経営方針が明確化し、「ギャップとその対策へ向けた成長分野の発掘・設計」(ワークショ
ップ1のフェーズ2−3)において、100 億円というマイビジョン目標との間に存在する
大きなギャップをいかに解決するかについて、検討を行いました。そのため、アンゾフの
マトリックスを活用した新規市場、新規用途を発掘する作業の中で、事業規模拡大へ向け
たシナリオ「未来のビジネス目標」が相当程度、前倒しで明らかになってきていたので、
B社のケースでは、シナリオ作成(ワークショップ2、シナリオプランニングによる)は
簡便に済ますことができました。
59
フェーズ4
事前準備会
Ph-1
①
ビジネスシナリオ計画による未来ビジネス目標の探索、発掘、設定
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
産業のバリューチェーン分析
産業のバリューチェーンを描くことで、自社のドメインを定義することが可能となりま
す。B社の場合、マーケティング、製造技術、製造が自社の強みですが、この検討の結果、
B社にとって未来ビジネスに対処していくためには上流の構想・戦略・ビジョンを強化す
ること、及び商品企画力の強化が必要なことが見えてきました。(図9)
図 9 B社のナノ粉体事業事例:産業のバリューチェーン分析
②
マクロ環境分析(PEST 分析)
事業環境を変化させる代表例としてマクロ環境変化要因があります。ここでは、粉体製
品に関するマクロ環境分析を行い、結果を図 10 に整理しました。
60
Political(政治的環境変化要因)
・安全性規制
・特定物質の輸出入規制
・国際基準の未整備
・国家間取引
・知的財産権の保護(海賊版の規制)
・イノベーションに対する関心が高まり、
設備投資の増加
Sociological(社会的環境変化要因)
・エネルギー問題(資源の枯渇)
・廃棄規制(大気汚染)
・人体環境への関心
・ナノ技術が使いこなせない
・人口動態の変化(少子高齢化)
・産業構造の変化
(製造業の衰退、サービス業増加)
Economic(経済的環境変化要因)
・景気変動
・他国の台頭
・為替の変動
・国際間の税制
・企業の吸収合併
Technological(技術的環境変化要因)
・技術革新
・他業種技術との連携
・技術目標が達成出来ない
・情報の非公開
・競合の技術革新
・特許抑制
・技術の一般化・公知化
図 10 B社のナノ粉体事業事例:マクロ環境分析(PEST 分析)
③「5 つの力」フレームワーク分析
市場の競争環境を a) 業界内での競合、b) 新規参入の脅威、c) 代替製品・サービスの脅
威、d) 供給業者の取引交渉力、e) 顧客の取引交渉力、という5つの視点から分析するこ
ととします。
図 11 B社のナノ粉体事業事例:「5 つの力」フレームワーク分析
61
④
シナリオプランニングによるシナリオ作成
無数に存在する未来「シナリオ」の中から、詳細に検討すべき「シナリオ」を選択する
ポイントをつかむことが狙いです。
図 12 B社のナノ粉体事業事例:シナリオ分析
⑤
事業規模拡大へ向けたシナリオ
シナリオプランニングによるシナリオ作成作業から、B社のナノ粉体事業にとって事業
規模拡大分野として新規コンデンサー部材が浮き彫りになってきました。新規コンデンサ
ー部材という新たな事業分野を開拓することによって 100 億円というマイビジョン目標と
の間に存在する大きなギャップを解決することができるというシナリオを得ることができ
ました。
フェーズ5
事前準備会
Ph-1
未来ビジネス目標を実現するための自社技術ロードマップの作成
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
ワークショップ2の前半の作業であるフェーズ4において「未来のビジネス目標」を明
らかにしてきました。すなわち、B社にとって売り上げ規模 70 億円を想定できる新規コ
ンデンサ部材が未来ビジネス目標になるということです。
この未来製品・サービスを 2015 年に達成するための製品機能、製品機能を実現するた
62
めに必要となる技術群をロードマッピングし、整理したものが表 2 です。
表 2 B社のナノ粉体事業事例:自社技術ロードマップ
①20nm 有機無機複合
化技術
②20nm 分散化技術
①20nm 粉体化プロセス
②薄膜生成プロセス
①光学材料
②新規コンデンサ部材
2−4
ワークショップ3(第四回会合:フェーズ-6)
ワークショップ3では、未来ビジネスモデルと統合戦略ロードマップを完成させること
を目標とします。
フェーズ6
未来ビジネスモデルの完成、統合戦略ロードマップの完成
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
フェーズ6−1
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
未来ビジネスモデルの完成
現在の市場はインクジェット用インク、体外診断薬、樹脂添加剤です。
シナリオプランニング手法によって 2015 年の事業拡大目標はインクジェット及び新規
コンデンサー部材という事業分野によって実現できることが明らかになってきました。
事業の収益モデルは①有機粒子のエマルション販売、および②有機-無機複合粒子のエマル
ションを販売するためのものです。
(表 3)
63
表 3 B社のナノ粉体事業事例:未来ビジネスモデル
フェーズ6−2
統合戦略ロードマップの完成
マクロ環境・市場は触媒分野の拡大が続き、ナノ粒子の医療分野、膜応用分野への拡大
が続くと想定します。収益モデルとしては試作検討費、単体販売、インク販売、複合加工
販売へとシフトしていくという予測を立てました。
社会全般の技術ロードマップとしては、現在の 60nm 粒子合成が 5 年後には 20nm、10
年後には 20nm 有機無機複合技術の確立へと発展すると想定しました。5 年後にはリスク
管理手法が明確になり、暴露評価手法が確立されることが予測でき、10 年後にはナノ粒子
の体系的リスク評価手法が確立されると見ることができます。
インクジェット、及びコンデンサ部材事業を 5 年後、10 年後に軌道に乗せ、100 億円事
業とするためには自社技術ロードマップ、プロセス技術ロードマップ、リスク対策ロード
マップにおける各項目ごとのマイルストーンを実現する必要があります。
これらを多層構造の時間線表にマッピングしたものが統合戦略ロードマップです。図 13
にB社のナノ粉体事業を示しました。
64
現在
5年後
10年後
マクロ環境
・市場
収益モデル
技術ロードマ
ップ(社会全
般)
触媒応用分野の拡大
ナノ粒子の医療分野・膜分野への拡大
試作検討費
リスク管理手法の明確化
ナノ粒子の体系的リスク評価手法の確立
暴露評価手法の明確化
60nm粒子合成確立
20nm粒子合成確立
色目
技術ロードマ
ップ(自社)
20nm有機無機複合技術確立
イン クジェット
粒径コントロール
被覆性
新規コン デン サ部材
均一薄膜
分 散
60nmスケ ールアップ
プロセス 技術
インク販売 複合加工品販売
単品販売
100nm粉体化
20nmスケ ールアップ
60nm粉体化
20nm粉体化
大学、他社との連携
100億円
事 業
繰り返しの提案
ユーザー評価技術確立
リスク対策
開発の効率化
売上規模
0.5百万円
用途開拓
3億円
100億円
図 13 B社のナノ粉体事業事例:統合戦略ロードマップ
65
TAMA事例2
ソフト事業「新商品戦略立案」
C社(IT 系ソフトウェア開発企業)
1.フィールドスタディの概要
2.新ビジネス創出プランニング作業
2-1 事前準備、主旨説明会(第一回会合:フェーズ-1)
2-2 ワークショップ1(第二回会合:フェーズ-2、フェーズ-3)
2-3 ワークショップ2(第三回会合:フェーズ-4、フェーズ-5)
2-4 ワークショップ3(第四回会合:フェーズ-6)
本資料は経産省委託テーマ「技術戦略マップの応用研究」における(社)科学技術と経
済の会、イノベーション支援技術実践研究会の中での事例討議をまとめたものであり、必
ずしもC社(IT 系ソフトウェア開発企業)の事業戦略を反映するものではありません。
66
1.フィールドスタディの概要
1) C社(IT 系ソフトウェア開発企業):創業 1985 年、資本金 1 億円、社員数 350 名
2) 業務:受注型アプリケーション・ソフトウェア及び制御系ソフトウェアの設計開発、
及び同分野技術者派遣サービス事業
3) テーマ:「画像解析ソフトウェア
カルシウムイメージング
の開発とその事業化」
4) 目
的:新商品開発による新事業立ち上げ戦略
5) 特
徴:大学医学研究室向け画像解析ソフトを核に新市場開拓
6) 参加者: ①研究開発者(リーダー)
②ソフトウェア開発者
③ハードウェア営業担当者
④マーケティング担当者
⑤人事部門担当者
および JATES イノベーション支援技術研究委員会メンバー(3 名)
オブザーバー: (社)TAMA 産業活性化協会(社団法人首都圏産業活性化協会)
7) 実施時期:2006 年 10 月∼11 月
67
2.新ビジネス創出プランニング作業
2−1
事前準備、主旨説明会(第一回会合:フェーズ-1)
フェーズ1
事前準備会、主旨説明
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
Ph-3
WS-2
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
ワークショップに先立って、JATES イノベーション支援技術研究委員会プログラム・リ
ーダーはC社首脳と事前打ち合わせを行い、C社のソフト事業の現状と課題の概要、本作
業の目標設定、作業イメージの共有化、作業体制について協議しました。その結果 JATES
委員会側にとっては以下のようなことが明らかになり、C社側においても本作業の主旨に
ついて理解が深まり、目標の設定や作業体制の準備へと進むに至りました。
C社は創業が 1985 年と若い企業で、ソフトウェア、電気・機械設計、通信・移動体設計
を中心とした分野で人材派遣業を主軸に企業成長を図ってきました。事業所を全国規模で
展開し、社員数も毎年 10%程度増え現在では 350 名まで成長しています。
しかしながら、C社首脳は人材派遣業のみではC社の成長と収益の牽引役には不十分で
あると考え、自社技術、自前商品の開発を戦略的事業分野に位置づけようとしています。
この方針に沿って数年前から種々の企画が行われています。例えば、ある私立大学と共同
で光通信部品の研究開発を進めるという産学連携によるIT関連の自前商品の開発が行わ
れています。自主開発製品では、例えば、パソコン操作支援のためのシール(「良くミエー
ル」)のインターネット販売などが試みられています。
バイオ分野への進出も90年代末から心掛けられ、バイオと当社が得意とするITや電
気電子との連携が模索され、2000年代に入りある国立大学と医療情報分野での共同研
究が始められました。今回テーマとして取り上げられることとなる「カルシウムイメージ
ング」に関わるソフトウェア開発は、その過程から生まれてきたものです。
かくしてC社社長の賛同が得られ、テーマとしてこの「画像解析ソフトウェア
ウムイメージング
カルシ
の開発とその事業化」が選定されました。本テーマについて、①研究
開発者(リーダー)、②ソフトウェア開発者、③ハードウェア営業担当者、④マーケティン
グ担当者、⑤人事部門担当者が参画することとなり、IS-Plan による新ビジネス創出プラ
ンニング作業がスタートすることとなりました。
第一回会合では JATES イノベーション支援技術研究委員会がプログラム・リーダー、主
催者となりテーマ関係者、ワークショップ・リーダーなどとのすり合わせ後、関係者の支
援の下に事前準備を行いました。
68
この主旨説明会ではプログラム・リーダーが「技術戦略マップを活用した新ビジネス創出
プランニング」のディスカッション・マニュアルのたたき台を用いて作業の目的、ゴール、
及び作業イメージの共有化、必要知識の確認、作業体制についての事前説明を行いました。
ワークショップ・リーダーが選出され、ワークショップ・リーダーには次回 My Vision/My
Will の発表が依頼されました。
2−2
ワークショップ1(第二回会合:フェーズ-2、フェーズ-3)
第二回会合では、ワークショップ・リーダーから会社概要、事業を取り巻く経営環境、
検討対象としている製品・サービスについて簡単に現状と将来展望を概括して頂き、続い
て My Vision/My Will の発表が行われました。
フェーズ2
「マイビジョン、マイウィル」の発表、ギャップ分析
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
フェーズ2−1
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
製品・サービスの概要
①視神経に着目したバイオ研究
視覚関連のバイオ分野の研究開発として、視神経の回復や再生はひとつの大きなテーマ
となっています。具体的には、ある種の細胞を培養することによって、神経細胞を創成し、
視覚の回復につなげることができないかという研究です。培養した細胞がどの程度神経細
胞に近づいたかを確認するための方法として、
「カルシウムイメージング」という手法があ
ります。カルシウムイメージングでは、蛍光プローブという機能性分子を用いて、細胞内
のカルシウムイオンの可視化を行い、神経伝達物質などの外部要因によって生ずるカルシ
ウムイオンの濃度変化の時間を追って観察します。
このように、カルシウムの濃度変化自体はカルシウムイメージングで追うことが可能で
すが、最終的な目的としては培養した細胞がどれだけ神経細胞に機能的に近づいたかを確
認する必要があります。神経細胞にのみカルシウムイオン濃度の変化が起こる物質を外部
刺激として培養した細胞に与え、カルシウムイオン濃度が変化した場合、培養という作業
によって元々の細胞が神経細胞に近づいたことが確認できます。
②
実験の手順
(1) 培養
細胞をシャーレ上で培養します。
69
(2) 蛍光顕微鏡による観察
培養した細胞に蛍光プローブを添加し、蛍光顕微鏡で観察します。このとき、蛍光顕微
鏡は可視化されたカルシウムイオンを画像として撮影します。設定された時間間隔で複数
枚の撮影が行われます。実験者は実験の途中で神経伝達物質などを添加し、外部刺激を与
えます。このとき、添加された物質によって細胞内のカルシウムイオンの濃度が変化した
場合、それは撮影された画像の輝度の変化となって現れます。撮影された画像はコンピュ
ータ内にファイルとして蓄えられます。
(3) 画像解析
撮影された画像の解析を行い、撮影途中で添加
した外部刺激に対するカルシウムイオンの濃度変
化を解析します。これにより、外部刺激に対する
神経細胞と培養した細胞それぞれの反応性を比較
することができ、どれだけ神経細胞に近づいたか
を評価することが可能となります。この解析は顕
微鏡付属の PC(パソコン)で行います。
③
カルシウムイメージング支援ソフトとは?
■画像解析ソフトウェア
このようにカルシウムイメージングは、カルシウムイオン濃度の刺激に対する変化を蛍
光顕微鏡で観察するもので、前半は顕微鏡でのカルシウムイオン濃度測定、後半は測定結
果の解析という流れになっています。前半の濃度測定では、観察対象を時間経過とともに
蛍光顕微鏡によって撮影し、カルシウムイオン濃度の変化を複数の画像としてファイル化
します。カルシウムイオンの濃度は画像の濃淡となって現れます。後半の解析では、撮影
された画像を元にカルシウムイオンの濃度変化が時間経過とともにどのように生じている
かを調べ、それを元に刺激に対する反応性を調べる作業を行います。
前半の作業の結果は顕微鏡システムで撮影された画像ファイルとなっており、後半はそ
の画像を元に解析を行うこととなるのですが、これまでの解析手法では問題点がいくつか
あることが明らかになっています。
70
■ これまでのソフトウェアの問題点
・顕微鏡付属の PC でしか行えない
解析ソフトウェアが顕微鏡のシステムと切り離せず、なおかつライセンスが 1 台の PC
のみに対してという形がほとんどです。
・解析ソフトウェアは基本的に高額(100 万円∼)
解析ソフトウェアは一般的に高額なため、顕微鏡システム付属 PC 以外への導入は困難と
なることが多い。
・解析自体が手間のかかる作業となっている
後半の解析ソフトウェアは解析対象画像をディジタルデータ化し、その数値を元に解析
を行います。しかし、いったん解析の情報が数値情報となってしまうと、実際に撮影され
た画像との関連が希薄となり、数値自体の変化が実際に反応していたのか、またはゴミの
様な物が通過して反応しているように見えるだけなのかの判断を行うことが面倒となりま
す(数値データと画像データの突き合わせを行わなくてはならない)
。
また、数値からグラフを作成することが必要になりますが、この作業は通常 PC の表計算
ツール(Excel 等)を使用して行うこととなります。この場合、数値の読み込みや表の作
成は手作業で、作業効率の悪化を招いています。
このような問題点を解消するための解析専用ツールが「カルシウムイメージング支援ソ
フト」です。
フェーズ2−2
「マイビジョン、マイウイル」の発表
ワークショップ・リーダーから発表された”My Vision/My Will”は、「このカルシウムイ
メージング支援ソフトウェア開発による年商50万円程度の現事業を、5年後に1億円規
模の事業にしたい!!」というものでした。十分に挑戦的、革新的なものでありました。
図 1 C社のソフト商品企画の事例: My Vision/My Will
71
フェーズ2−3
現状ビジネスモデルによる検討、ギャップの発見
フェーズ2−3として、参加メンバーによって現状ビジネスモデルの検討が行われ、将
来について現状の延長線上で想定されるビジネスモデルが表現されました。その結果、現
状モデルとマイビジョン、マイウィルモデルの間にあるギャップを見出し、そのギャップ
を課題として整理しました。
表 1 C社のソフト商品企画の事例:現状ビジネスモデルの検討結果
B to L(Labs)
B to B(to L)
・市場
・各種大学(O 大 S 研/T 大 O 研 等) ・A社、B社、C社
(各種大学/研究所等)
・顧客
・研究所等(国立研究所等)
提供する製品・ ・カルシュームイメージング
同左
サービス
ソフト(@3万円)
汎用画像解析ソフトウエア
(@30万円)
事業システム
収益
成 2006 現在
長
1年後
モ
デ 5年後
ル
カタログ品・標準仕様品
・ライセンス販売
カタログ品・標準仕様品
・ライセンス販売
0円
0円
ギャップ
発見
40万円
150万円
300万円
600万円
1億
円
ビネスモビデルのフレームワークは、①市場・顧客、②提供する製品・サービス、③業
システム、④収益モデル、⑤成長モデル、からなるものです。表 1 にC社のソフト商品企
画における現状ビジネスモデルによる検討結果を示しました。
これによると、既存事業の延長線上では 5 年後にわずか 750 万円の売り上げが見込めるに
過ぎません。1 億円というマイビジョン目標との間に大きなギャップがあることが判明し
ました。このギャップを乗り越えるためにはどうすればよいのか、これが大きな課題であ
るということがここで認識されたわけです。
フェーズ3
METI-STRMの活用による関連技術ロードマップ作成
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
フェーズ3−1
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
METI 技術戦略マップの戦略的活用
そこで、既存事業の延長とマイビジョン目標との大きなギャップを解決する検討に着手
することとし、まず METI「技術戦略マップ」を活用し、関連技術の動向予測や市場の予
測を行うこととしました。
技術戦略マップから本テーマに関連する技術分野を抽出し、表 2 に整理しました。
まず、
72
カルシウムイメージング技術はライフサイエンス分野にあり、研究開発が大項目、創薬、
診断、治療機器が中項目、分子イメージングが小項目に該当します。一方、本技術の特徴
である画像処理技術は情報通信分野にあり、コンピュータ・ネットワークが大項目、アプ
リケーション・ソフトウェア、ネットワーク・ノード技術が中項目、情報検索・データマ
イニング、大容量化・高速化が小項目に該当します。
表 2 C社のソフト商品企画の事例:技術戦略ロードマップ 2006 の関連項目
フェーズ3−2 METI 技術戦略マップの活用による関連技術ロードマップ作成
本研究開発のテーマはライフサイエンスとソフトウエアの両方の性格を持つため、
「技術
戦略マップ」からこの両分野関連の項目を抽出しました。
ケース1:ライフサイエンス関連のロードマップ
その中から創薬・診断分野のロードマップを抜粋し図 2 に整理しました。
創薬ではゲノム創薬が「分子標的創薬」から「分子レベルでの疾患メカニズム解明の発
展・投与前診断の拡大」へ進み、2020 年代には個別化医療の進展(テーラーメイド)へ進
化すると予測されています。検査場所も検査センターなど専門の場所から、生活の場にお
いて自分でモニタする方向へと進化するであろうということも読み取れます。
このように、
「技術戦略マップ」によって細胞内イメージング技術、及びバイオインフォ
マティックスの大きな技術のロードマップが示され、C社がカルシウムイメージング支援
ソフトウェアの商品企画を進める場合に、次の一手をどう打つかなどの技術戦略資料とし
て活用されることとなりました。
73
図 2 創薬・診断分野の技術ロードマップの事例
ケース2:アプリケーション・ソフトウェア関連のロードマップ
コンピュータ分野のロードマップ(画像処理アプリケーションソフト関連)を抜粋し、
図 3 に示します。
図 3 画像処理アプリケーションソフト関連の技術ロードマップの事例
74
この作業によって、①情報検索は時とともに複雑・多機能な検索が可能となり、データ
マイニングアルゴリズムの進化により、ユビキタスへの応用や超大規模なデータへのデー
タマイニングが可能となる、また、②データベースに関しては大容量化が進み、アプリケ
ーションとの融合が進む、③コンテンツに関しては、種々の配信ネットワークが登場しそ
の融合が進むことによりそれを管理するシステムの重要性が高くなる、ということが技術
シナリオとして見えてきます。
2−3
ワークショップ2(第三回会合:フェーズ-4,フェーズ-5)
ワークショップ3(第三回会合)ではビジネスシモデル設計論を活用し、グループ討議
によって”My Vision/My Will”を満足する「未来のビジネス目標」の探索、発掘、及び設定
を行いました。
具体的手順としては、①バリューチェーン分析、②マクロ環境分析(PEST 分析)、③マ
イケル・ポーターの「5 つの力」フレームワーク分析、④シナリオプランニングによるシ
ナリオ作成、⑤静的ビジネスモデルへのシナリオの影響まとめ、⑥事業規模拡大へ向けた
シナリオ「未来のビジネス目標」設定、というようなプロセスが標準的とされています。
今回のテーマに対して、この手法適用が行われました。
フェーズ4
事前準備会
Ph-1
①
ビジネスシナリオ計画による未来ビジネス目標の探索、発掘、設定
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
企業のバリューチェーン分析
当該企業のバリューチェーンを描くことで、事業ドメインを認識し定義することができ
ます。C社の場合、マーケティング、受注活動、研究、試作、製品化、販売、保守という
価値連鎖(バリューチェーン)となっています。新規市場の開拓、新規製品の開発へ向け
て大学と共同研究していること、実験室の仕組みに詳しいこと、全国に営業支店網がある
ことなども強みといえます。
75
図 3 C社のソフト商品企画の事例:バリューチェーン分析
②マクロ環境分析(PEST 分析)
事業環境を変化させる代表例としてマクロ環境変化要因があります。画像解析ソフトウ
ェア
カルシウムイメージング
の開発とその事業化に関するマクロ環境分析を行いまし
た。
Political(政治的環境変化要因)
・イノベーション関係の投資の増加
・バイオ、ライフサイエンス、ロボット、
ナノテクが重点分野で研究開発投資が
拡大
・安全、安心、セキュリティ危機管理に対
する政治的関心が増大する。
・IT 化の推進(U-Japan)
Sociological(社会的環境変化要因)
・先端計測の重要度が上がることによる研
究者の増加
・膨大なデータ処理に対するニーズの増加
・バイオ分野以外の画像処理ニーズの増加
(情報通信分野・製造産業分野….)
・健康志向社会の到来、健康管理のパーソ
ナル化(診断映像の持ち帰り)
Economic(経済的環境変化要因)
・大学の法人化による研究費の扱いの変化
・既存ソフトウエアの低価格化
・既存ソフトウエアの高性能化
・大学研究室の IT 化
・授業(医学・薬学・生命科学・農学・工学)
、
教育の IT 化
Technological(技術的環境変化要因)
・技術革新による先端計測の進化
・ネットワーク/ストレージシステムの大規
模化高速化
・システム構築のフレームワーク化(商品)
が進み成熟度の高いシステムが容易に構
築できる
・映像系コンテンツの研究投資の増加
・医療分野での映像活用(MRI,CT,PET)の
進展
図 4 C社のソフト商品企画の事例:マクロ環境分析(PEST 分析)
76
Political(政治的環境変化要因)としては、(1)イノベーション関係の投資の増加、(2)バ
イオ、ライフサイエンス、ロボット、ナノテクが重点分野で研究開発投資が拡大、(3)安全、
安心、セキュリティー危機管理に対する政治的関心が増大する。
Economic(経済的環境変化要因)としては、(1)大学の法人化による研究費の扱いの変
化、(2)既存ソフトウェアの低価格化、(3)既存ソフトウェアの高性能化、(4)大学研究室の
IT化、(5)授業(医学・薬学・生命科学・農学・工学)、教育のIT化が進む。
Sociological(社会的環境変化要因)としては、(1)先端計測の重要度が高まることによ
る研究者の増加、(2)膨大なデータ処理に対するニーズの増加、(3)複雑な検索を行う事に対
するニーズの増加、(4)バイオ分野以外の画像処理ニーズの増加(情報通信分野・製造産業
分野…)、(5)健康志向社会の到来、健康管理のパーソナル化(診断画像の持ち帰り)が進
む。
Technological(技術的環境変化要因)としては、(1)技術革新による先端計測の進化、(2)
ネットワーク/ストレージシステムの大規模化高速化、(3)システム構築のフレームワーク化
(部品)が進む、(4)成熟度の高いシステムが容易に構築出来る、(5)映像系コンテンツの研
究投資の増加、(6)医療分野での画像活用(MRI,CT,PET)の進展が進む。
③「5 つの力」フレームワーク分析
市場の競争環境を a) 業界内での競合、b) 新規参入の脅威、c) 代替製品・サービスの脅
威、d) 供給業者の取引交渉力、e) 顧客の取引交渉力、という5つの視点から分析します。
図 5 C社のソフト商品企画の事例:ミクロ環境分析(5F s 分析)
77
図 5 はC社のカルシウムイメージング汎用画像解析ソフトを事例にマイケル・ポーター
の五つの力分析を適用したものです。
④
シナリオプランニングによるシナリオ作成
上記①∼③の結果を活用して無数に存在する未来「シナリオ」の中から、詳細に検討す
べき「シナリオ」を選択するポイントをつかむものです。
図 6 C社のソフト商品企画の事例:シナリオドライバーの抽出
①∼③の環境分析内容から、a) 不確実性が高い、b) 自社への影響が大きい、これらに
あてはまるような項目を複数個抽出します。さらに、それらの項目の影響度や相関関係等
を検討し、重要項目を例えば2つに絞り込みます。
C社の場合、不確実性が高い、かつ自社への影響が大きいボックスに、(1) 授業(医学・
薬学・生命科学・農学・工学)、教育のIT化、(2)先端計測の重要度が上がることによる
研究者の増加、(3)目的が専門的もしくは汎用的内容となるため、説明が困難なおかつ社内
理解の獲得が困難、があげられました。(図6)
次に、シナリオドライバーとして絞り込んだ項目を、
「起こる、起こらない」、
「可能性が
高い、低い」といった状況を組み合わせて、マトリックス型やツリー型などの表記で「シ
ナリオ」を構築します。そして、それぞれの「シナリオ」の内容を物語のように文章化し
ます。
⑤
事業規模拡大へ向けたシナリオ
シナリオプランニングによるシナリオ作成作業から、C社のソフト商品企画にとって事
78
業規模拡大分野として、(1)本製品を大学の医学部に限定することなく農学部、工学部、生
命学部、薬学部などへシステム販売する、(2) 実験管理システムとして付加価値を高め販
売する、(3) 画像特化型データベース、及び個別受注型・画像管理システムへ発展させ、
その構築及び運用サービスを企業、画像データベースのヘビーユーザーへ販売する、とい
う方向性が得られました。(表 3)
表 3 新規製品の開発、新市場の開拓のシナリオ
フェーズ5
未来ビジネス目標を実現するためのロードマップ作成
事前準備会
Ph-1
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
ワークショップ2の前半の作業であるフェーズ4において「未来のビジネス目標」が明
らかになってきました。すなわち、C社にとって売り上げ規模1億円を想定できる新規製
品・新規市場として、画像特化型データベース、画像管理サービス、新規製品・既存市場
としての実験管理システム、既存製品・新規市場が未来のビジネス目標として見えてきま
した。(表 4)
79
表 4 ビジネスシナリオ(5年後)の完成
2013 年をひとつのターゲットとして、この未来製品・サービスを実現するために必要と
なる技術を抽出します。所要の製品機能、製品機能を実現するために必要となる技術群を
ロードマッピングし、整理したものが表 5 です。
表 5 C社のソフト商品企画の事例:自社技術ロードマップ
80
2−4
ワークショップ3(第四回会合:フェーズ-6)
ここまで IS-Pan を用いて、C社のソフト商品企画の事例を素材として新ビジネス創出
のプランニング作業を行ってきました。第1回会合でオリエンテーションを行い、ワーク
ショップ1では As is ビジネスモデル作成、関連技術ロードマッピング、My Vision/My
Will と As is ビジネスモデルとのギャップの抽出・整理を行いました。
ワークショップ2では前述のギャップからシナリオプランニング手法などを用いて未来
のビジネス目標を設計しました。未来のビジネス目標を実現するための製品・サービス機
能、機能を実現する技術群をロードマッピング手法によって明らかにしました。
最後にワークショップ3では、未来ビジネスモデルと統合戦略ロードマップを完成する
こととします。
フーズ6 未来ビジネスモデルの完成、統合戦略ロードマップの完成
事前準備会
Ph-1
フェーズ6−1
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
未来ビジネスモデルの完成
研究者、技術者のためのビジネスモデル設計手法におけるビジネスモデルのフレームワ
ークを活用して、C社のソフト商品企画の未来ビジネスモデル(5 年後)を完成しました。
(表 6)
表 6 C社のソフト商品企画の事例:未来ビジネスモデル(5 年後)の完成
81
As is ビジネスモデルはイメージング解析ソフトウェアを特定の大学医学部、特定の研
究室へ販売する、汎用画像解析ニーズのある企業(研究所)へ販売しようとするものでし
た。このビジネスモデルでは、5 年後の売上高としては 750 万円程度しか見込めず大きな
成長の絵が描けなかったわけです。
一方、事業規模拡大シナリオとして(1) イメージング解析システム、汎用画像解析シス
テム、及び実験管理システムを大学の医学部に限定することなく農学部、工学部、生命学
部、薬学部などへシステム販売する、(2)画像特化型データベース、及び個別受注型・画像
管理システム構築及び運用サービスを企業、画像データベースのヘビーユーザーへ販売す
る、というモデルにより大きな絵を描くことができました。これによって 5 年後に 1 億円
規模の事業へ成長できるとの期待が生まれました。
フェーズ6−2
統合戦略ロードマップの完成
C社のソフト商品企画では、マクロ環境・市場の動向として、安全、安心、セキュリテ
ィー危機管理に対する政治的関心が増大する、バイオ、ライフサイエンス、ロボット、ナ
ノテクが重点分野で研究開発投資が拡大する、健康志向社会の到来、健康管理のパーソナ
ル化(診断画像の持ち帰り)が進む、u-Japan 政策でコンテンツの創造・流通・利用促進
が進む。先端計測が重点課題研究テーマになる、と予測しています。
そのようなマクロ環境、市場動向においてC社は大学医学部との共同研究でカルシウム
イメージング解析システムの開発を行っています。このイメージング解析システムをベー
スに 5 年後に 1 億円規模のソフト事業を創出する商品企画を、IS-Plan を活用して行いま
した。得られた結果を統合戦略ロードマップとして図 7 にまとめました。
82
ロードマップ
2007
マクロ環境
・市場
事業
2010
①販売開始
②販売開始
②改訂版/カスタマイズ版の開発・販売
③販売開始
④マーケ ティング
製品・機能
2013∼
u-japan政策(コンテンツの創造・流通・利用促進)
バイオ、ライフサイエンス、ロボット、ナノテクが研究の重点分野に、各分野でのIT 化促進
健康志向社会の到来、健康管理のパーソナル化等の医療のIT化促進
②製品完了
画像特化型DBサービス運用開始
④販売開始
③製品完了
1億円
③製品の改定(多実験対応等)
画像特化型DB応用製品(サービス)作成
④製品完了
解析の高機能化/応用製品の汎用化
技術 ①カルシウムイメージング
ソフト
既存システムとの互換性
実用化に向けた検討
多機能化
独立端末型
個別カスタマイズ対応
③との統合に向けた改良
②汎用画像解析 ソフト
実用化に向けた検討
特定実験に向けた対応
③実験管理システ
ム
④画像特化型
データベース
ノウハウの蓄積
①②との統合システム
必要機能の検討
ノウハウの蓄積
ノウハウの蓄積
多機能化
様々な実験への対応
多機能化
ノウハウの蓄積
多機能化
運用開始
新方式の画像形式標準化
応用システム 運用開始
新方式の画像形式検討
応用システムの検討
新方式の特許出願
汎用画像形式対応
比較方式の特許出願
比較方式の検討
多機能化
個別カスタマイズ対応
サービス提供開始
応用システム 完成
特許出願
リソース
図 7 C社のソフト商品企画の事例:統合戦略ロードマップ
83
浜松事例
中堅中小複数企業によるR&D事業の
ビジネスモデリングへの応用
−浜松:地域新生コンソーシアム研究開発事業−
テーマ:「光電伝送ファイバ」
1. フィールドスタディの概要
2. 新ビジネス創出プランニング作業
2-1 事前準備、主旨説明会(第一回会合:フェーズ-1)
2-2 ワークショップ1(同:フェーズ-2、フェーズ-3)
2-3 ワークショップ2(第二回会合:フェーズ-4、
フェーズ-5)
2-4 ワークショップ3(第三回会合:フェーズ-6)
本資料は経産省委託テーマ「技術戦略マップの応用研究」における(社)科学技術と経
済の会、イノベーション支援技術実践研究会の中での事例討議をまとめたものであり、必
ずしも地域新生コンソーシアム研究開発事業の事業戦略を反映するものではありません。
84
1.フィールドスタディの概要
1)
2)
3)
4)
浜松:地域新生コンソーシアム研究開発事業業務
テーマ:「光電伝送ファイバ」
目的:中堅中小複数企業によるR&D事業のビジネスモデリングへの応用
特徴:地域の中核である大学とそれぞれユニークな技術を持つ 4 社の集合
体に対してそれぞれの将来ビジネスとの係わりを検討
5) 参加者: ①電気 A 社技術部(リーダー)
②電気 A 社市場開発部
③光学メーカ B 社開発本部
④システム会社 C 社計測部門責任者
⑤システム会社 C 社計測部門マーケッティング担当
⑥計測・エンジニアリング会社 D 社技術営業
⑦総括研究代表者・大学教授
管理法人:浜松地域テクノポリス推進機構
オブザーバー:日本政策投資銀行
実施時期:2007 年 1 月∼2 月
85
2.新ビジネス創出プランニング作業
2−1
事前準備、主旨説明会(第一回会合:フェーズ-1∼フェーズ-3)
フェーズ1
事前準備会
Ph-1
事前準備会
WS-1
Ph-2
Ph-3
WS-2
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
プログラム・リーダーは、地域活動を支援する日本政策投資銀行の仲介の下、事前に浜
松地域テクノポリス推進機構、および総括研究代表者である静岡大学教授に面会し、趣旨
の説明をおこないました。その後、浜松地域テクノポリス推進機構が中心になり、取り上
げテーマの選定、参加企業および参加者の特定を図りました。
浜松地域テクノポリスでは、これまで大学発の技術シーズを知的クラスター創成事業の
一環として育成してきており、その後、その成果の事業化を目指して地域新生コンソーシ
アムとして活動を続けています。
本来、このテーマには、静岡大学工学部研究室を中心に、それぞれユニークな技術を持
つ 5 社が参加していますが、そのうち研修会を実施する浜松地区に集まりやすい 4 社のメ
ンバーの参加を得ました。同テーマの事業化スキームを図1に示します。各社が得意分野
を分担開発し、事業化する役割となっています。
メンバーが異なる企業で遠方より集まるため、本来会合 4 回・5 コマの研修会のところ
を、会合 3 回・3 コマの研修に圧縮し、全て午後半日というスケジュールで実施しました。
またテーマが技術開発を主体とするため「技術戦略マップ」の活用について重点的に議論
A社
C社
C社
B社
E社
D社
化学メーカ
輸送機器メーカ
図1 光電伝送ファイバ、燃料噴霧液滴センサ、同計測システム事業化スキーム
86
し、その結果未来ビジネス目標、未来ビジネスモデルなど、ビジネスモデルの検討・議
論(フェーズ4)は簡略化することとなりました。
事前準備は電子メール等で進め、第一回会合では、主旨の確認からマイビジョン・マイ
ウィルの発表(フェーズ 2-1)、ギャップの発見(フェーズ 2-2)、技術戦略マップの使い方
(フェーズ 3-1)まで議論を進めました。
2−2
ワークショップ1
フェーズ2
「マイビジョン、マイウィル」の発表、ギャップ分析
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
フェーズ2−1
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
「マイビジョン、マイウィル」の発表
ワークショップ・リーダー(A 社)から、地域新生コンソーシアム事業の紹介を兼ねて、
その概要と柱となる 3 つの分野における技術開発目標の説明がなされました。図2に、そ
れら 3 技術分野のテーマと目指す応用分野を示しました。この「3 年後のプロジェクト達
成目標」が、参加各社の目標・共通認識であり、いわば本事業の マイビジョン・マイウィ
ル に相当します。しかし、これは基本的には技術開発目標であり、
(コンソーシアムの性
格上)参加各社の具体的な事業の詳細までは描かれていません。
マイビジョン・マイウィル
「光電伝送ファイバの実用化開発」
平成18年度地域新生コンソーシアム研究開発事業
3年後のプロジェクト到達目標
(1)光電伝送ファイバ
応用分野:化学プラント・エネルギープラント計測システム用
携帯電話、モバイルPC用光電伝送ファイバ
(2)燃料噴霧計測光ファイバセンサの開発
応用分野:エネルギープラントの熱交換器
化学反応機器用液滴計測センサならびに計測システム
(3)OES(光・電気・物質)マルチファンクションプローブの製作
応用分野:医療関係において診断、治療を同時に行うことが出来る
マルチファンクションプローブの開発
図2 当初のマイビジョン・マイウィル(地域新生コンソーシアム事業の目的)
図3に、各分野の応用事業について議論を経た後の改定版の マイビジョン・マイウィル
を示します。
87
My Vision, My Will
単純光ファイバ、メタルケーブルから光電伝送ファイバへ
―3分野の事業の合計として―
売上げ
5年後(2012)
3億/年
7年後(2014)
35億/年
13年後(2020)160億/年
を目指す。
図3 応用事業検討後のマイビジョン・マイウィル
フェーズ2−2
現状ビジネスモデルによる検討、ギャップの発見
一例として、A 社のハーネス事業(主に自動車向け)では、これまでメタルケーブルや
単純光ファイバをベースにしたビジネスを展開していました。これを、ビジネスモデルフ
レームワークを活用して整理したのが表 1 です。光電伝送ファイバをベースにしたマイビ
ジョン・マイウィルとの間に大きなギャップを発見しました。
表 1 A社のハーネス事業例:現状ビジネスモデルによる検討結果
フェーズ2−3
ギャップとその対策へ向けた成長分野の発掘・設計
光電伝送ファイバ技術野の応用市場を明確化するために、先の 3 分野(光電ファイバ、
燃料噴射計測光ファイバセンサ、光電物質伝送ファイバ)のそれぞれについて、ビジネス
モデルを用いて特徴を整理し、応用市場を検討しました。
検討結果を表 2 にまとめました。
88
表 2 地域コンソーシアムの研究開発成果応用のビジネスモデル
A
B
C
市場、顧客
車
車、プラント
医療
提供価値
開発品
技術
新規ハーネス
光電伝送ファイバ
計測検査装置
燃料噴霧センサー
診断、治療用プローブ
光電物質伝送ファイバ
事業システム
部品販売
装置販売
消耗品(ディスポ)販売
収益モデル
売上目標100億円
(薄利多売)
50台×1000万円(装置)
ここで、日本政策投資銀行からの参加メンバーに、その業務能力を生かし、光電伝送フ
ァイバの3つの応用先それぞれについて現状の市場および研究開発動向を調査し発表して
いただきました。以下は調査テーマのタイトルです。
(1)ハーネス応用分野
「ワイヤーハーネス業界事情」・・・・現状の市場調査
「自動車用の光ファイバの応用」・・・・研究開発動向
(2)計測・検査装置応用分野
「化学・エネルギープラントへの光電伝送ファイバの応用」・・・・研究開発動向
(3)診断・治療用分野
「医療機器業界への光電・物質伝送ファイバの応用」・・・・研究開発動向
技術開発主体の「光電伝送ファイバ」プロジェクトメンバーにとって、視点の異なる調
査機関によるレポートは新鮮であり有用であると好評でした。これらのデータも参考にし
て、その後の議論が進みました。
フェーズ3
METI-STRMの活用による関連技術ロードマップ作成
事前準備会
Ph-1
フェーズ3−1
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
METI 技術戦略マップの戦略的活用
表1、表2の検討を踏まえて、関連技術分野の技術動向、及び応用技術分野の市場動向
を探るために、METI の「技術戦略マップ」の検索を行いました。
検索は C 社、および D 社からの参加メンバーにお願いしました。
フェーズ3−2 METI 技術戦略マップの活用による関連技術ロードマップ作成
表3は、C 社メンバーが、光電伝送ファイバの計測応用について検索した際に閲覧した
89
技術戦略マップの分類項目を示したものです。これらの検索から、特にエネルギー分野の
各種内燃機関の開発に高精度計測機器が必要になるであろうと推測しました。
表3 METI-STRM 関連項目の検索事例(C 社担当)
図4、および図5は、運輸関連(自動車、航空機ほか)、原子力利用技術関連のロードマ
ップであり、これらの図からいつの時点で、どんな計測機器・システムが必要となるかを
読み取ることが出来ました。
90
2000
運輸
2030
2050
2100
※燃費は現状内燃機関比を表す
(軽量化等の効果含む)
自動車
内燃機関ハイブリッド車
車体軽量化、エンジン効率向上、モータ・電力変換効率向上、システム制御高度化
燃費 1.5倍
GTL
合成液体燃料
CTL
エタノールまたはETBE、BDF
バイオマス燃料
BTL
FC効率向上、蓄水素部・車体の軽量化、モータ・電力変換効率向上
燃料電池ハイブリッド車
燃費 3倍
太陽電池による補助給電
4倍
5倍
圧縮、液化、貯蔵材料(無機、合金、炭素、有機)
水素貯蔵
副生水素バッチ輸送 オンサイト燃料改質
水素供給
オンサイト水電解
燃費 4倍
5倍
リチウム電池または新型蓄電装置
(手動ケーブル接続式)
電気供給
空調省エネ
6倍
リチウム電池
蓄電
軽量化
パイプライン輸送
太陽電池による補助給電
電池・車体の軽量化、モータ・電力変換効率向上
電気自動車(近距離用)
自動車共通技術
(燃料電池ハイブリッド車に移行)
2倍
ケーブルレス自動非接触式
超高張力鋼、高張力アルミニウム、マグネシウム、チタン、複合材
ヒートポンプ効率向上、断熱、遮光
機体高性能化、ジェットエンジン効率向上
航空機
[内航船] 軽量化 電動化・プロペラ配置の分散最適化・超電導モータ
超電導モータ
[外航船] 大型化、航行速度最適化
船舶
燃費 2倍
水素燃料電池船
軽量化、モータ・電力変換効率向上、架線・電池ハイブリッド化
鉄道
(非電化区間)
ディーゼル・電池ハイブリッド車
水素FC・電池ハイブリッド車
図 4 運輸関係の技術戦略マップ検索例(2006 年版冊子 p.147)
原 子力利 用技術
■ 運転時にCO2の排出を 伴わない原子力によっ てエネルギー供給を 行う のに必要な技術。
■ ウラン 資源の制約により、効率向上と核燃料サイクル技術の確立が重要。
■ 需要側での省エネおよび機器効率向上がないという 想定の下では、エネルギー需要は2050年で1.5倍、2100年で2.1倍、電化・水素化率が2050年で3倍
(産業部門等需要部門での電化・水素化を すすめる必要があ るため)、2100年で4倍になるため、2000年の総発電量約1兆kWh(3,800PJ)は、2050年には
約4兆kWh(14,000PJ)、2100年には約8兆kWh(29,000PJ)のエネルギー供給が必要となる。
2000
2030
5%
電気・水素化率 20%
ウラン利用効率
<1%
(3,800PJ)
必要総発電量 約1兆kWh
(現状原子力発電量 0.32兆kWh)
2050
60% (14,000PJ)
30%
約4兆 kWh
2100
80% (29,000PJ)
80%
約8兆 kWh
効 率向上 ■ ウラン資源の制約によ り、新型炉の開発などによる 発電効率の向上が必要。
核 燃料サイクルの確 立 ■ ワン スルー型の核燃料利用ではウラン 資源の制約がある ため、核燃料サイ クル技術の確立が必須である 。また、原子力を 最大
利用する 場合の2100年における 発電量8兆kWh(29,000PJ)を 実現する ためには、高速増殖炉(FBR)の早期立ち 上げ(2030年頃)
とプ ルトニウム倍増時間の短縮(現状の35年→20年)が必要となる 。
原子炉の 効率向 上
発電効率 34%
日本型次 世代軽 水炉
43%
36%
45%
出力増強>20%、長寿命化>60年、超高燃焼度>100 GWd/t(6PJ/t )、運転サイ クル>
24ヶ月
第4世代 軽水炉
(超臨界圧炉)
高温ガス炉(第4世代炉)
核燃料サイクル技術
高速増殖 炉 FBR
(核燃料サイクル)
原子力水素
小型炉実証
電力・水素貯蔵技術と連携した負荷追従、コジェ ネ、コプロ (熱化学法、軽水炉−水電解、高温水蒸気電気分解など )
(トリウムTh利用も視野に)
マイナアクチニド核変換
長半減期FP核変換
高度化 (ガス冷却FBR)
発電効率 42%
44%
※原子力最大利用の場合
(核燃料資源制約による)
48%
図5 原子力利用技術関係の技術戦略マップ検索例(2006 年版 p.194)
表4は、D 社メンバーによる燃料噴霧計測光ファイバセンサについて関連語から検索し
91
た例です。これらの検索から、特に医療、製造、環境・エネルギー、半導体分野のプロ
セス計測に高精度計測機器が必要になるであろうと推測しました。
表4 「燃料噴射計測光ファイバーセンサ」関連語検索(D 社担当)
「燃料噴射計測光ファイバーセンサ」関連用語例
検索語
液滴
バブル
気液
噴射
インジェクタ
リアクタ
洗浄
概要
診断・治療機器分野/技術的変化/超音波
バブルの極小化:液滴リガンド付造影剤(100nm)
マイクロバブル気体 2-3 ミクロン
部材/共通基盤/材料製造/液相プロセス/精密化学物質製造プロセス
マイクロ液体回路利用反応強化部材
液滴利用した均一滞留時間制御、ナノバブル製造
化学物質総合管理/リスク削減技術/水域/富栄養化学物質
オゾンマイクロバブルによる完全分解
部材/共通基盤/材料製造/液相プロセス/反応強化用技術
界面利用構造(液液、気液)
部材/共通基盤/材料製造/液相プロセス/精密化学物質製造プロセス
マイクロ反応容器本体/気液系の最適設計
脱フロン対策分野(冷却)/噴射機構…
部材/共通基盤/材料製造/液相プロセス/精密化学物質製造プロセス
マイクロリアクタ装置部材/高温高圧反応器開発(マイクロイオンインジェクタ)
製造プロセスにおけるエネルギー利用の高度化
新規融合反応場(…マイクロリアクタ…)
半導体/プロセス技術/洗浄技術
超臨界流体洗浄、ガス洗浄など
92
頁
区分
53
医療
341
製造
98
環境
326
製造
341
製造
80
環境
342
製造
176
エネルギー
21
半導体
2−3
ワークショップ2(第二回会合:フェーズ-4, フェーズ-5)
フェーズ4
ビジネスシナリオ計画による未来ビジネス目標の探索、発掘、設定
WS-1
事前準備会
Ph-1
①
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
産業のバリューチェーン分析
ここでは、産業バリューチェーンを描くことで、自社のドメインが定義でき、自社の位
置づけを明確化できることを紹介しました。実際には、それぞれのケースについて個別に
産業バリューチェーンを描いてみる必要があります。
図6は、A社光電伝送ファイバのハーネス応用について、産業バリューチェーンと自社
バリューチェーンを描いたものです。産業のバリューチェーンは材料から始まり、機能材
料メーカー、部品メーカー、完成車メーカー、一般消費者と続きます。その中で、自社バ
リューチェーンは商品企画、設計、開発、製造、販売となります。
材料
機能
材料
メー カー
KFS
KFS
部品
メー カー
完成車
メー カー
消費者
KFS
KFS
KFS
産 業 バ リュー チ ェー ン
企画
KFS
設計
KFS
開発
製造
販売
KFS
KFS
KFS
自 社 バ リュー チェー ン
図6 A社 光電伝送ファイバの産業バリューチェーンと自社バリューチェーン
(KFS=Key Factor for Success∼成功要因)
②
マクロ環境分析(PEST 分析)
マクロ環境分析の手法として、PEST 分析を紹介しました。光電伝送ファイバのハーネ
ス応用に関して、PEST 分析を試みた結果を図7に示します。P(政治的環境要因)として、
ワイヤーハーネスは現在、一台あたり 40Kg も使用されている、その産業廃棄物に関する
環境規制が強化される。対人対物認識に関する安定した信頼性がより強く求められるよう
になる。E(経済的環境要因)としては、環境エネルギー問題から燃料効率の向上が求められ
る。資源高騰化の潮流の中でワイヤーハーネスから光ファイバへの転換がより強く求めら
93
れるようになる。T(技術的環境変化要因)としては、光電変換素子の開発、光電コネクター
の開発、センサ技術の高度化、ITS化の加速、自動走行化が現実的になる、車内伝送用
の新規プロトコルが導入されるといったことが列記されます。
Political(政治的環境変化要因)
•産業廃棄物に関する環境規制が強
化される。(ワイヤハーネス使用量 40kg/1台)
Economic(経済的)
•環境エネルギー問題から燃料効率の向
上が求められる。
•資源高騰化の潮流の中でワイヤーハー
ネスから光ファイバへの転換
•対人対物認識に関する安定した信
頼性
Technological (技術的)
Sociological(社会的)
•光電変換素子の開発
•光電コネクターの開発
•センサー技術の高度化
•ITS化
•自動走行化
•車内伝送新規プロトコルの導入
•快適性
•経済性
•安全性
•情報通信網との一体化
•高度エンターテイメントの要求
図7 A社のファーネス事業例:マクロ環境分析 (PEST 分析)
③「5 つの力」フレームワーク分析
市場の競争環境を a) 業界内での競合、b) 新規参入の脅威、c) 代替製品・サービスの脅
威、d) 供給業者の取引交渉力、e) 顧客の取引交渉力、という5つの視点から分析します。
今回のテーマでは、まだ本格的に市場参入するところまで検討が至らず、既存市場におけ
るメーカー名を挙げるに止まりました。
④
シナリオプランニングによるシナリオ作成
無数に存在する未来「シナリオ」の中から、詳細に検討すべき「シナリオ」を選択する
ポイントをつかみます。これらの結果をもとに、それぞれの製品について、シナリオプラ
ンニングを実施することになります。
⑤静的ビジネスモデルへのシナリオの影響
シナリオプランニング作業によって得られた「シナリオ」の内容を物語のように文章化
したものを次に示します。
・市場拡大
大容量伝送、小型軽量化、省スペースが要求される市場、特に自動車、携帯端末市場か
ら、光と電気伝送が一体化された伝送路体の要求が高まっています。当社は、車外画像認
94
識、RSE(Rear Seat Entertainment)など大容量信号伝送と電力パワー伝送が可能な
光電伝送ファイバを提供します。現在当社が有する販売ルートを利用する他に、光送受信
素子メーカーとの連携による新規販売ルートでの新規ビジネスモデルの構築を図ります。
・戦国時代
同軸ケーブルによる信号伝送路体を光ファイバー化していくというニーズは高く、数社
が光導波路として商品を開発し市場で評価され始めています。当社は、光ファイバだけで
なく電気と光を同時に伝送できる一体化光電伝送ファイバを特徴として市場へ投入してい
きます。さらに、ワイヤーハーネスなどのコネクターを有する加工品はコネクターメーカ
ーと連携して商品開発を行い市場への投入を図ります。
・ニッチ
現在のところメタルのワイヤーハーネス全てが光に変わっていくことは考えられません。
しかし、自動車内の配線スペースにも余裕が無く省スペース化の要求が加速され、光ファ
イバへ移行していく頻度が高まることは十分に予想されます。このような状況下で少しず
つ光ファイバの採用実績が増えていく中で、光電伝送ファイバを積極的にPRし市場に認
知されことが重要となっています。
・迷走
現状では市場での要求が小さく地道な商品開発が必要ですが、自動車市場だけではなく
携帯端末市場での要求にも応えることができる商品を開発していかねばなりません。また、
開発投資を回収するためには、光とメタルをうまく複合させた商品の提案を並行して行う
必要があります。
⑥
事業規模拡大へ向けたシナリオ
今回の研修で、A 社は事業規模拡大へ向けたシナリオとして
車外画像認識及びRSE
(Rear Seat Entertainment)へ向けてパワー伝送付き光ファイバを提供する
ビジネス目標
フェーズ5
未来
として選定しました。
未来ビジネス目標を実現するためのロードマップ作成
事前準備会
Ph-1
を
WS-1
Ph-2
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
車外画像認識及びRSE(Rear Seat Entertainment)へ向けてパワー伝送付き光ファ
イバを提供するには、10 年後にはパワー伝送電極付き光ファイバが 50 円以下で提供でき
る生産体制になっている必要があります。それを実現するための機能、技術、競合技術を
表 5 に整理しています。現状と 5 年後も、10 年後に到達までのマイルストーンとして表現
しています。
95
表5 光電ファイバの自社技術ロードマップ(ハーネス応用)(A 社)
現状
5年後
10年後
市場
・ワイヤーハーネスの増大による車
両の重量増加
・軽量化、データの大容量化、コスト
問題→
・光ファイバの需要増
・RSE(Rear Seat
Entertainment)
製品
・ワイヤーハーネス
・プラスチック光ファイバ
・電極付光ファイバ
・PCF、PCS、石英
・パワー伝送電極付光ファイバ
・コスト(50円以下)
機能
・ドア・エアコン等の制御を行う
ボディ系
・エンジン・ブレーキ等の制御を行う
パワートレイン系
・カーナビ・DVD等制御を行う情報系
・車載LAN
・安全装置および認識装置などセン
サ類の増加
・高速道路交通システム
・左同様
・使用する光ファイバの高機能化
・耐候性、耐熱性、コスト減、軽量
化
生産技術
・複合ケーブル→体積・重量の増加、
・性能/コスト見積り(Mbit/sec・円)
・複合(光/電気)コネクタの開発
・光ファイバの長尺生産
・多芯化されたハーネス
・ハーネスの重さ低減から光ファイバ
による大容量伝送
・信頼性の向上
・端末の簡易加工
・細線、軽量化
競合技術
・銅線と光ファイバの複合ケーブル
・耐熱プラスティックファイバ(光伝送)
・光電ファイバとの競合
・ケーブルの細線化、同軸化
・光と同軸の複合ケーブル
TRMの活用
・通信速度の技術ロードマップ
・LSIの技術ロードマップ
・自動車のマイコンロードマップ
・ITSロードマップ
・車の安全性、タイヤの状態のセン
シング技術ロードマップ
技術
2−4
ワークショップ3(第三回会合:フェーズ-6)
ワークショップ3では、未来ビジネスモデルと統合戦略ロードマップを完成させます。
フェーズ6
未来ビ゙ジネスモデルの完成、統合戦略ロードマップの完成
WS-1
事前準備会
Ph-1
Ph-2
フェーズ6−1
WS-2
Ph-3
Ph-4
Ph-5
WS-3
事後報告会
Ph-6
Ph-7
未来ビジネスモデルの完成
例として、表6に光伝送ファイバによるハーネス事業の未来ビジネスモデルを、表7に
光電ファイバセンサ計測システム事業の未来ビジネスモデルを示します。
A 社にとっての提供価値は、光・電気信号を一本の線で伝送できるワイヤーハーネスで
あります。それによって軽量、省スペースが実現できます。また、耐熱性に優れ、それま
で実現が困難であった 150℃という高温環境にも耐えられる光電伝送路をローコストで実
現するものです。
市場・顧客は国内自動車メーカー、海外自動車メーカーです。事業システムの特徴は企
画提案型です。収益モデルとしては、ワイヤーハーネス、光電伝送ファイバ長尺もの、光
電伝送ファイバ・メタル複合ケーブルなどの販売です。持続的成長モデルとしては、高い
信頼性を証明する、デファクトスタンダード化を推進することです。例えば、プラントの
モニタリング装置の場合、産業装置のプロセスに影響を及ぼす気泡、噴霧液滴の状況をリ
96
アルタイムで情報提供し、最適運転へフィードバックすることを提供価値にします。
市場・顧客は化学産業、食品機械、原子力プラントなどです。収益モデルとしてはシス
テム販売、保守・メンテナンスです。
上記のことが表 7 にビジネスモデルのフレームワークを活用することですっきりと整理
されています。
表6 光電ファイバ・ハーネス応用の未来ビジネスモデル(A 社)
「光電伝送ファイバ」 ビジネスモデル:10年後:の完成
商品・事業
基本事業
車載用光電伝送ファイバ
ビジネスモデル
戦略
モデ
ル
ドメイン
・国内自動車ハーネスメーカー
・海外自動車ハーネスメーカー
提供価値
・光/電気信号を1本の線で伝送できるワイヤーハーネス
・軽量、省スペース化の実現
・高耐熱性:150℃に耐えられる光電伝送路
静
的
動
的
提供方法
・企画提案型
収益
モデル
・ワイヤーハーネス販売
・光電伝送ファイバ長尺販売
・光電伝送ファイバ/メタル複合ケーブル販売
持続性、
成長性
インフルエ
ンス図
・高い信頼性を証明する
・デファクトスタンダード化
表7 光電ファイバセンサ計測システム事業の未来ビジネスモデル(C 社)
商品・事業
基本事業
プラントのモニタリング装置
研究開発むけ精密計測機器
ドメイン
新規製品・新規市場
・化学産業
・食品機械
・原子力プラント
新規製品・既存市場
・化学工学研究
・伝熱工学研究
・微粒化研究
提供価値
・産業装置のプロセスに影
響を及ぼす気泡、噴霧液
滴の状況をリアルタイムで
情報提供し、最適運転へ
フィードバックを行う
・高速で運動する微少な気泡
や液滴を高精度で計測し科学
研究促進を支援する
提供方法
・企画提案型/自社販売
・企画提案型/自社販売
収益
モデル
・システム販売
・保守/メンテナンス
・売上10億円
・システム販売
・計測コンサルティング
・売上2億円
持続性、 インフルエ
成長性 ンス図
・液/液系プラントへの適
用
・濃度計測への拡大
・産業機械部品の検査へ適用
拡大
ビジネスモデル
戦略
モデ
ル
静
的
動
的
97
派生事業
フェーズ6−2
統合戦略ロードマップの完成
フェーズ6-1における未来のビジネスモデルを踏まえて、フェーズ5における自社技術
ロードマップを多層構造のロードマップへ再構成したのが、図8、図9に示す「統合戦略
ロードマップ」です。
2005
2007
マクロ環境
外部
2010
車々間通信システムの導入
標準化の動き
耐熱性
2020
防犯センサー
先進旅行者情報システム
車載画像認識システム
プロトコルの選別
通信速度と使われる伝送路体の選別
自動車、ハーネスメーカの動向調査
製品特性コンンセプト
2015
路車間通信システムの導入
先進交通管理システム
リヤシートエンターテイメント
社内事業
2012
2010年市場導入に向けた準備
低価格
光&メタルハイブリッド伝送体の商品化
2009年耐熱車載用
光電ファイバの完成
2010年から売上げ1000万円/年
2015年から売上げ10億円/年
軽量化、大容量化、省スペース
技術ソリューション 耐熱要求 :車内:∼85℃ ルーフ:∼105℃ ボンネット:∼125℃ エンジン周り:∼145℃
FlexRay(Metal)
Metal
2.5∼10M
車載ネットワーク
光
D2B
MOST
IDB1394
5.6M
24.5M
100∼400M
HPCF
光ファイバの種類
耐熱POF(40Mまで)
耐熱GI−POF(3Gまで)
多成分ガラス
石英ガラス
リソース
ナビゲーションシステム
技術戦略マップ
画像処理デバイス:CCD、CMOS、画像処理技術
光デバイスP.281∼287
車載用光伝送部材P.337
図 8 光電ファイバ・ハーネス応用の統合戦略ロードマップ(A社)
再構成に当たって、レイヤー間のギャップやボトルネックなどの発見、投資のタイミング
の検証などを行うことができます。
もともと本研修で取り上げたテーマは、先端技術の開発を主要目標としており、個別の
具体的な製品市場までを強くイメージしてきてはいませんでした。今回の研修によって、
技術開発成果の先にどのような市場が開けるのか、それぞれの参加企業が将来ビジネスの
イメージをはっきりさせることができたことがメリットでした。
また「技術戦略マップ」を活用することにより、開発成果の応用先の枠を広げるヒント
を得ることができ、関連する他の技術の開発動向や市場動向(内燃機関開発、ハーネスな
ど)を把握することができたことも収穫でした。
98
図9
光電ファイバセンサ計測システム事業の統合戦略ロードマップ(C 社)
99
おわりに
◇経緯
社団法人 科学技術と経済の会では 2003 年から事業の創出と発展の方法論「研究開発主
導の新事業起業の研究」、「ビジネスモデル設計論の実践的研究」を産業界技術担当役員な
らびに管理職クラスからなる専門委員会において発展させてきております。この活動の成
果としてビジネスモデル構築の方法論が得られ、いくつか実際の場への適用事例が生まれ
ております。2005 年からは戦略ロードマッピングの調査研究及び実践研究を行っておりま
す。その結果、ビジネスモデリングと戦略ロードマッピングは一方の短所を一方の長所が
補完するという関係があること、統合することでより優れたイノベーションの支援技術(I
ST:Innovation Support Technology)になることを国内外の研究会で発表して参りまし
た。以上のような成果をベースに(社) 科学技術と経済の会は平成18年度「技術戦略マッ
プの応用研究」の公募へ応募させていただき、本研究へ参加させていただきました。
◇フィールドトライアル
研究委員会活動の第一歩といたしまして、 (社) 科学技術と経済の会
の会員企業であ
ります中堅企業A社の福祉関連事業の事例をベースに「技術戦略マップを活用した新ビジ
ネス創出プランニングのディスカッション・マニュアル」のたたき台を作成いたしました。
このディスカッション・マニュアルを用いてTAMA地域では(社)首都圏産業活性化協会
(TAMA 協会)の支援を得て 2 事例、浜松地区では日本政策投資銀行の支援を得て 1 事例の
フィールドトライアルを行いました。
◇到達点
経済産業省「技術戦略マップ」がどのような場面で参考になり得るのか試行錯誤を繰り
返しました。その結果、
①自社技術のロードマップを調査、
②市場(ユーザー)技術を調査、
③競合・代替技術動向を調査、
④インフラ系・環境・生産技術等の動向を調査
という4パターンが存在することが分かりました。そこで、それぞれのパターン特有の「技
術戦略マップ」活用のノウハウ、ドウハウを得ることができました。
また、ビジネスモデリングと戦略ロードマッピングを組み合わせた次のような手順を設
定しました。
①「マイビジョン・マイウィル」と現実のビジネスモデルとのギャップを明確にする。
②技術戦略マップを活用して「関連技術ロードマップ」を作成する。
③ギャップを解決することのできる「未来のビジネス目標」を設定する。
100
④未来ビジネス目標を実現可能にする「自社技術ロードマップ」を技術戦略マップ、及
び関連する広くかつ深い専門的な外部資料・社内資料を用いて描く。
⑤「未来のビジネスモデル」と「自社技術ロードマップ」を融合・統合する。
⑥多層構造で時間軸を入れた、「統合戦略ロードマップ」にマッピングする。
⑦社内で「発表・報告会」を開催し成果の共有をはかる。
このような「ディスカッションのスタイル」をフィールドトライアルによって洗練され
た確かなものにすることができました。本マニュアルはこの研究結果を IS-Plan (Innovation Strategy Plan )として取りまとめたものです。
「中堅・中小複数企業によるR&D事業のビジネスモデリングへの応用」の事例では、
地域の中核である大学とそれぞれユニークな技術を持つ 4 社の集合体に対してそれぞれの
将来ビジネスとの係わりをモデリング、プランニングであすることに挑戦いたしました。
なお、浜松地区で実施しておりますフイードトライアルはこの研究会に参加されている
異業種の4社と我々委員の各位との地理的な条件や、異業種ることの研究会の進め方等の
制約に加え、年度末という時間的制約などから充分なレベルまで成果を引き出すまでには
至っておりません。チャンスがあれば、次の機会の挑戦課題としたいと願っております。
◇関係者への謝辞
委託元であります、経済産業省の関係各位の多大なご指導と、フールド・トライアルに
ご参加いただき、過分なご協力を賜りましたTAMA地区、浜松地区の関係各位、及びこ
のプロジェクトへご参加いただきました、委員各位に深く感謝の意を表します。
平成19年3月
(社)科学技術と経済の会
イノベーション支援技術研究委員会
リーダー
101
阿部
仁志
平成19年3月15日
経 済 産 業 省
独立行政法人産業技術総合研究所
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
独立行政法人科学技術振興機構
「技術戦略マップ」の検索サービス(Kamome)の公開について
経済産業省は、平成17年3月から「技術戦略マップ」を策定・公開し、毎年
ローリング(改訂)を実施しています。この度、産総研は、JST 事業の成果を
活用して、技術戦略マップの検索システムを開発し、サービスを開始しまし
た。
1.経済産業省は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と
協力し平成17年3月に初版の「技術戦略マップ」を策定・公開して以来、毎年ローリング
(改訂)をしています。
2. 当該マップは、産業技術に関する膨大な技術情報を体系的かつ戦略的にとりまとめたも
のであり、これらは、産業界及び関係学協会等で新たな研究や技術開発テーマの発掘、
他分野に跨る共同研究等の連携活動の検討材料、知的財産の維持管理にも有益な情報
ともなります。
3.この度、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)は、独立行政法人科学技術振興機
構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の成果を活用し、技術戦略マップの検
索システムを開発し、検索サービスを開始しました。
4.この検索システムによって、膨大な技術情報の中から必要な情報を効率的かつ効果的に
抽出することが可能となります。検索システムは、インターネットのウェッブサイト
(http://kamome.i-content.org/tsm2006.html)にて公開していますのでご活用ください。
i
(本発表資料のお問い合わせ先)
産業技術環境局研究開発課
担当者:渡邉、福田、山本
電 話:03−3501−1511(内線 3391∼8)
03−3501−9221(直通)
(検索システム「Kamome」のお問い合わせ先)
独立行政法人産業技術総合研究所情報技術研究部門
担当者:橋田
電 話:03−5298―4728
独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造事業本部
担当者:鈴木
電 話:048-226−5635
(技術戦略マップ2006一般に対するお問い合わせ先)
上記、産業技術環境局研究開発課及び
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
企画調整部企画業務課
担当者:近藤、薄井
電 話:044−520−5200
ii
参考資料
「技術戦略マップ」の検索サービス(Kamome)の公開について
― 対話的な操作で効率良い検索が可能に ―
平成19年3月15日
経済産業省
独立行政法人 産業技術総合研究所
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
独立行政法人 科学技術振興機構
■ ポイント ■
経済産業省の「技術戦略マップ2006」を有効に利用する検索サービス。
マップに含まれる多様なコンテンツの効率良い検索が可能に。
イノベーション推進のための有用なツールとして期待。
■ 概 要 ■
経済産業省【経済産業大臣 甘利 明】は、独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘
之】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【部門長 坂上 勝彦】の開発した検索システム
(Kamome)を用いて、経済産業省の「技術戦略マップ2006」のための新しい検索サービスを公開し
た。(http://kamome.i-content.org/tsm2006.html)
「技術戦略マップ」は、経済産業省が独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事
長 牧野 力】(以下「NEDO」という)、産総研、民間企業、大学等の協力のもと、平成17年に策定し
たものである。第2版となる「技術戦略マップ2006」は平成18年に策定され、情報通信、ライフサイ
エンス、環境・エネルギー、製造産業における24分野の技術情報が体系的かつ戦略的に取りまとめ
られている。この技術戦略マップは、将来の社会・国民のニーズや技術進歩の動向等を見据え、要
素技術、要求スペック、導入シナリオ等が時間軸上に整理されており、産学官の「研究開発の共有シ
ナリオ」として位置付けられている。しかし、技術戦略マップには、多様かつ膨大な情報が掲載されて
いるため、従来の検索システムでは、必要な情報に容易にたどり着けず、技術戦略マップを有効に
活用できないでいた。
そこで産総研では、独立行政法人 科学技術振興機構【理事長 沖村 憲樹】(以下「JST」という)の
戦略的創造研究推進事業(CREST)で開発した検索システム(Kamome)を利用して、技術戦略マップ
2006の検索システムを開発した。
検索システム(Kamome)は、「コンテンツ」、「情報家電」、「配信」のようなキーワードを組み合わせ
る従来の検索方法と異なり、「コンテンツを情報家電に配信する」といった表現を使って検索すること
ができ、対話的(インタラクティブ)な操作で欲しい情報を効果的に絞り込むことが可能である。更に、
マップに含まれる多くの図表部分の検索も可能である。今回開発された検索サービスを利用すること
で経済産業省が掲げる技術戦略マップへのアクセスが容易になるので、新たな技術開発テーマの発
掘や、分野を跨った共同研究の検討材料など、企業や大学・研究機関がイノベーションを推進するた
めの有用なツールとなるものと期待される。
iii
■ 背 景 ■
経済産業省は、NEDO、産総研、民間企業、大学等の協力のもと、「技術戦略マップ」を平成17年
度に策定した。第2版となる「技術戦略マップ2006」は平成18年に策定され、情報通信、ライフサイ
エンス、環境・エネルギー、製造産業における24分野の技術情報が体系的かつ戦略的に取りまとめ
られている。この技術戦略マップは、将来の社会・国民のニーズや技術進歩の動向等を見据え、要
素技術、要求スペック、導入シナリオ等が時間軸上に整理されており、産学官の「研究開発の共有シ
ナリオ」として位置付けられている。技術戦略マップは、経済産業省、NEDO 等のWeb サイトで電子
版も掲載され、広く外部からも利用可能になっている。
しかしながら、この「技術戦略マップ2006」には、様々な分野に渡る多様で膨大な技術情報が盛
り込まれている。このため、従来の検索システムでは、ユーザが必要とする情報にたどり着くのが困
難なことが多い。また、一つの技術が複数の分野で使われていることも多いため、検索システムで必
要な情報を網羅的に探すのは容易ではなかった。
その理由は、これまでの検索システムが簡単なキーワードの組み合わせに基づいているためであ
り、人間が普段使う言葉の意味を理解して検索できるシステムの実現が求められていた。
■ 経 緯 ■
産総研では、2000年11月から5年間にわたるJST の戦略的創造研究推進事業のプロジェクト「人
間中心の知的情報アクセス技術」【研究代表者 橋田 浩一】のもとで、意味に基づく高度情報アクセ
スに関する研究を推進してきた。このプロジェクトにおいて、文の意味的な構造を使う対話的(インタ
ラクティブ)な検索システムKamome を開発した。
このプロジェクト終了後も研究成果を発展させてきたが、その一環として、単なる文章だけではなく
図版を含むコンテンツの検索にKamome を拡張し、経済産業省の技術戦略マップ2006に関する検
索サービスに提供することになった。
■ 内 容 ■
「技術戦略マップ2006」は多様かつ膨大な情報を掲載しており、また、一つの技術用語が複数の
分野で使われていることも多い。このため、従来の検索システムでは、ユーザが必要とする情報を網
羅的に探すには困難を要することが多い。
そこで産総研では、検索システムKamome を使って、「技術戦略マップ2006」の検索システムを
開発し、検索サービスを公開することにした。Kamome は、「コンテンツ 情報家電 配信」のようなキ
ーワードの単純な組み合わせではなく、「コンテンツを情報家電に配信する」のような意味的な構造を
含む表現を検索質問とし、これを改訂しながら正解に近付いて行くインタラクティブな検索を行なうシ
ステムである。意味的な構造を正解候補との照合に使うだけではなく、利用者が質問を改訂する際
の支援に使うのが、その特徴である。これにより、キーワードの単純な組み合わせではなかなか見
付からない情報を効率的に探すことが可能となる。
Kamomeに基づく経済産業省の技術戦略マップ2006検索システムのトップページを下記に示す。
「検索質問文」に「MEMS 技術の応用例」のような表現を入力して「検索」ボタンを押すと検索が開始さ
れる。
iv
この結果、正解候補が多数表示されるが、難しい検索の場合には欲しい情報がその中に含まれ
ていないのが普通である。そのようなときは、正解候補の前に表示される下のようなインタフェースを
使って検索質問を改訂し、インタラクティブに検索することができる。この例では、「MEMS」、「技術」、
「応用」、「例」の各々についてその類義語をいくつか選んで検索に含め、「再検索」することになる。
ここで重要なのは、これらの類義語のリストが文脈に応じて変化することである。たとえば下図の
ように、検索質問文が単に「MEMS」である場合と「MEMS の製造」である場合とでは、「MEMS」の類
義語リストが異なって表示される。これは、Kamome が「MEMS」と「製造」の間の係り受け関係を考慮
して意味的により適切と思われる類義語を上位に表示しているためである。
「MEMS」だけの場合の類義語リスト
「MEMS の製造」の場合の類義語リスト
v
このように意味的な構造を用いて、より適切な類義語を利用者に提示し、インタラクティブな検索の
効率を上げ、正解に到達できる可能性を高めることが可能となった。「技術戦略マップ2006」には単
なるテキストだけでなく線表のような図式が多く含まれるが、今回提供しているサービスではそれらに
含まれる意味構造も利用している。
■ 今後の方向性 ■
産総研では、この検索技術をさらに洗練させるとともに、検索や翻訳の対象である情報コンテンツ
の作成を意味に基づいて支援する技術等とこれを連携させながら、知的情報アクセスの技術体系に
関する研究開発を進め、高度な知識循環型社会の実現に貢献する。特に、「技術戦略マップ」の図を
最初から意味に基づいて共有しながら制作し、またそれに関するコメント等も共有することによって知
識創造を活性化するような支援システムを提供したいと考えている。
■ 本件問合せ先 ■
【技術戦略マップに関する問い合わせ先】
・経済産業省
産業技術環境局研究開発課 福田光紀、山本宣行
〒100-8901 千代田区霞が関1 丁目3 番1 号
電話:03-3501-9221 FAX:03-3501-7924
・独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
企画調整部 企画業務課 近藤 和昭、薄井 和善
〒212-8554 川崎市幸区大宮町1310 ミューザ川崎セントラルタワー
電話:044-520-5200 FAX:044-520-5204
【検索システムの技術的な内容について】
・独立行政法人 産業技術総合研究所
情報技術研究部門 橋田 浩一
〒101-0021 千代田区外神田1-18-13 秋葉原ダイビル10 階
電話:03-5298-4728 FAX:03-5298-4523
・独立行政法人 科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課 鈴木 至
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
TEL: 048-226-5635 FAX: 048-226-1164
【プレス発表/取材に関する窓口】
独立行政法人 産業技術総合研究所 広報部
広報業務室 梶原 茂 〒305-8568 茨城県つくば市梅園1-1-1
中央第2つくば本部・情報技術共同研究棟8 階
TEL:029-862-6216 FAX:029-862-6212 E-mail:[email protected]
独立行政法人 科学技術振興機構 広報・ポータル部 広報室
福島 三喜子 〒102-8666 東京都千代田区四番町5−3
TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432
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