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平成 26 年度 高密度プラズマによる低摩擦・耐熱性炭素系膜の開発 補助

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平成 26 年度 高密度プラズマによる低摩擦・耐熱性炭素系膜の開発 補助
平成 26 年度
高密度プラズマによる低摩擦・耐熱性炭素系膜の開発
補助事業 報告書
平成 27 年 3 月
目次
第 1 章 緒言
1.1 研究背景
1
1.2 ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の特性
1
1.3 表面処理技術
3
1.4 実験目的
6
第 2 章 実験方法
2.1 スパッタリングターゲットの作製
7
2.2 放電プラズマ焼結法
2.2-1 焼結装置概要
7
2.2-2 実験方法
8
2.3 スパッタリング法
2.3-1 スパッタリング装置概要
9
2.3-2 アンバランスマグネトロンスパッタリング法
11
2.4 DLC 膜の作製
2.4-1 装置概要
11
2.4-2 実験方法
13
2.5 X 線回析法
2.5-1 分析装置概要及び原理
15
2.6 摺動試験
2.6-1 試験装置概要
16
2.6-2 試験方法
17
2.7 粗さ試験
2.7-1 粗さ試験概要
17
2.7-2 実験方法
18
2.8 マイクロビッカース硬さ試験法
2.8-1 試験装置概要
19
2.9 熱重量試験
2.9-1 熱重量試験装置概要
20
2.9-2 酸化速度の測定
21
2.9-3 試験方法
21
2.10 示唆熱分析
2.10-1 DTA(Differential Thermal Analysis)の原理
22
2.10-2 試験方法
24
2.11 X 線光電子分光法(XPS)法
2.11-1 分析装置概要
25
2.11-2 XPS 法の原理
25
2.11-3 XPS 法で得たデータの処理方法
26
第 3 章 結果および考察
3.1
金属含有カーボンターゲットの作製
27
3.1-1 スパッタリングターゲットの作製
27
3.1-2 金属含有カーボンターゲットの特性
30
3.2
DLC の微細構造及び表面特性
3.2-1 X 線回析(XRD)法
31
3.2-2 粗さ試験及びマイクロビッカース硬度値測定
33
3.2-3 摺動試験
34
3.2-4 熱重量測定
37
3.2-5 示唆熱分析
40
3.2-6 XPS 法による結合解析
42
第 4 章 結言
62
参考文献
使用機器一覧・付録
謝辞
63
64
67
第 1 章 緒言
1.1 研究背景
材料表面での摩擦によるエネルギーの損失を軽減することは,現在にいたるまで,様々な産業分野にお
いて重要な課題である.特に自動車産業においてはエネルギーロスを軽減することで,高効率化できるだ
けでなく CO2 の削減にも大きく貢献し,地球温暖化を抑制することになる.そこで,摩擦の軽減といった点
にとどまらず,様々な環境下において,表面性状,機械的特性,電気磁気的特性,光学的特性,熱的特性,物
理的特性,化学的特性,装飾特性など,用途に合った材料表面を開発するには,材料表面に新しい機能や
特性を付与し,これまでにない特性の付加を可能にする表面処理技術が注目されている.ダイヤモンドラ
イクカーボン(DLC)コーティングもその 1 つとして挙げることができる.DLC は電気・電子機器から工具,自
動車部品まで幅広く応用されており,DLC 膜の発展はさらに可能性を持っている.
一般に原料となるメタンおよび水素の解離および化学反応を用いた気相法により DLC は作製されるため,反
応時の熱力学的非平衡状態を利用した材料創製が可能となる.現在では,ナノオーダーの構造・組織制御によ
って今までにない優れた材料の開発がおこなわれており,非平衡状態を利用した作製は,ナノテクノロジーを支
える重要な技術である.
1.2 ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の特性
DLC 皮膜とは,ダイヤモンドライクカーボンの略称であり,高硬度などのダイヤモンドと似た物性を持つ,
アモルファスなカーボン膜のことである.
環境・エネルギー問題の観点から,摺動部の摩擦・摩耗を低減するためのコーティング膜の研究開発が盛ん
に行われている.特に DLC 膜は他のコーティング膜と比べ低摩擦で,耐摩耗性に優れるため,トライボロジーの
分野では注目度が高い.自動車においてカム関連部品などは自動車の重要な摺動部である.各種摺動部
品に DLC の特性を与えることで動作効率の向上,長寿命化を実現させ,自動車の低燃費化だけでなく,
部品の長寿命化など,環境問題の解決にもつながる.
しかし DLC 膜は成膜方法,成膜条件および使用環境により,摩擦・摩耗特性が大きく変化するため,使用条
件に合わせて最適な DLC 膜を選択する必要がある.
炭素材料は原子間の結合状態によって様々な結晶構造をとるため,DLC 皮膜はダイヤモンドやグラファ
イトと異なり,定まった結晶構造を持たないが,図 1.2.1 のような構造を持つと考えられている.ダイヤモンド
構造に対応する sp3 結合と,グラファイト構造に対応する sp2 結合の両者の炭素原子の骨格構造が混在して
いるアモルファス構造となっているものと考えられる.
1
図 1.1.1 DLC の構造比較
グラファイト,ダイヤモンド,DLC 膜などの,炭素系材料の一般物性を表 1.2-1 に示す.DLC 膜のヤング
率,硬さおよび電気的性質はダイヤモンドと類似しており,熱伝導率はグラファイトに近い.また,DLC は膜
表面が極めて平滑である.DLC 膜の物性値に幅があるのは,sp2 結合と sp3 結合及び水素含有量の違いで
様々な組織や構造の DLC 膜が存在し,物性値が大きく変化するためである.ダイヤモンドに近い DLC ほ
ど,透明度が高く,電気抵抗が高い傾向を示す.
表 1.2-1 炭素系材料の特性比較
グラファイト
ダイヤモンド
DLC
結晶形態
六方晶系
立方晶
アモルファス
結合構造
sp2
sp3
sp2,sp3 混在結合
密度〔g/㎤〕
2.26
3.52
-3
12
1.2~3.3
16
電気伝導率[Ω/㎝]
10
熱伝導率[W/m・k]
0.4~2.1
1000~2000
a=0.2456
a=0.3567
格子定数(nm)
10 ~10
…
c}=0.6708(層間)
109~14
0.2~30
…
…
ヤング率(GPa)
…
1000~2000
100~800
硬さ(Hv)
…
10000~12000
1000~8000
600
300~500
酸化開始温度
400~450
表 1.2-1 の物性からもわかるように,DLC の膜は,高硬度,耐摩耗性,低摩擦係数,高絶縁性,光化学
安定性,高ガスバリア性,高耐焼き付き性,高生体親和性,高赤外線透過性など優れた特性を持っているこ
とがわかる.
DLC 膜はこれらの特徴を活かし,切削工具や自動車部品など様々な分野に活用されている.DLC の主な
特徴を表 1.2-2 にまとめる.
2
表 1.2-2 DLC 皮膜の主な特徴
耐食性
耐摩耗性
低摩擦係数
低相手攻撃性
離型性
超平滑膜
酸やアルカリに溶解しない
ビッカース硬度が 1500~2500 と高く,耐摩擦摩耗に効果がある
無潤滑での摩擦係数が 0.05~0.2 に下がる
相手材の損傷が低く押さえられる
軟質金属の凝着,焼き付きが減少する
基材の平滑性を損なわない
薄膜
寸法精度を確保できる
絶縁性
大きな電気抵抗を示す
1.3 表面処理技術
表面処理技術とは,めっきや塗装といった素材表面の性質を向上させる工学技術である.表面処理技
術は日用品や産業機械,工業工具,コンピュータなど様々なものに施されている.
表面処理技術は大きく表面改質,表面被膜に分かれている.表面改質は基板の表面を変化させる窒化,浸
炭,イオン注入などである.
めっき,PVD,CVD などは表面被膜に分類される.表面被膜は液相法と気相法に分かれている.液相法がい
わゆるめっきであり,電気めっきや無電解めっきのことで電気めっきは金属イオンを含む水溶液(めっき液)中で,
めっきしようとする製品に電気の還元作用を利用して,金属皮膜(めっき皮膜)を形成する.装飾めっき・防食め
っき・機能めっきなどがあり,微小部品から大型製品まで情報機器,自動車,家電など広い分野で採用されてい
る.装飾,防錆,機能と様々な目的に応じて比較的安価に,適切な金属皮膜を付与できる.無電解めっきは電
気を使わないめっきで,電気の役目をする還元剤がめっき液に含まれている.前処理法が適当であれば,紙・
繊維・プラスチック・金属などあらゆるものにめっきが可能で,膜厚の分布はめっきより均一であるが,めっき速度
はおそい.ごく一部の素材を除き,金属から非金属に至るまで広くめっき可能であり,膜厚精度もきわめて高い
ため,主に機能を重視した工業的用途に使用されている.
気相法は水を使わない表面処理方法の呼び方で,めっきや溶射,PVD 法,CVD 法に分けられる.めっきは
溶融めっき,拡散めっきに分かれている.溶解めっきは高温度で溶融している金属の中に製品を浸漬して引き
上げ,製品の表面に溶融金属の皮膜を形成させる表面処理法である.拡散めっきは素材表面層に金属元素を
拡散浸透させるもので,処理温度(1000℃前後)が高いので,後熱処理を要す.
溶射はフレーム溶射,アーク溶射,プラズマ溶射に分類される.フレーム溶射は酸素と燃料を使用した高速
度ジェットフレームの溶射のことである.高圧の酸素及び燃料の混合ガスを燃焼室内で燃焼させる.高い加速エ
ネルギーにより加速された溶射材料は,ほとんど酸化や組成変化せず高密度皮膜を形成する.アーク溶射とは,
2 本のワイヤーに直流の電気を流しアーク放電させて溶解し,これをエアー又は他のガスにてアトマイズして母
材に付着させる方法で,他の溶射法と比べ圧倒的に効率の良い,安価で簡単な方法である.
プラズマ溶射はプラズマ溶射ガンで生じるプラズマジェットを用いて溶射材料を加熱・加速し,溶融またはそ
れに近い状態にして基材に吹き付ける溶射のことである.高温,高速プラズマ流により完全溶融され高硬度,粒
子間の密着性が高い,高密度でなめらかな皮膜が得られる.
3
PVD 法は真空蒸着,スパッタリング,イオンプレーティングに分類される.真空蒸着は成膜技術の一つで,高
真空中で蒸着材料を加熱し気化,昇華させ気体分子となった蒸着材料が,基板に衝突,付着することによって,
蒸着薄膜が形成される技術である.純金属や昇華し易い酸化物の皮膜生成に用いられる.合金膜や炭化物膜,
窒化物膜などの生成は困難である.スパッタリングは真空容器内に,基板とターゲットとなる金属を対峙させ,真
空にしてから,少量のアルゴンガスを導入し,基板(+)と金属(−)間に直流電圧を印加すると放電が起こる.こ
の放電によってアルゴンはイオン化して金属に衝突し,金属から金属原子やイオンが叩き出されて基板上に堆
積される.イオンプレーティングは,真空蒸着と同様な真空容器内で蒸発した薄膜材料の蒸気をイオン化して,
負の電圧を印加した基材にたたき付けて皮膜を形成するものである.真空蒸着はどちらかといえば密着性が劣
るが,本法はこれを改善したもので,チタン系やクロム系の硬質膜の成膜に使われ,切削工具や金型など使用
条件の厳しいものに用いられる.
CVD 法は熱 CVD,プラズマ CVD,レーザーCVD に分類される.熱 CVD は複数ガスを用いた熱平衡反応に
よる成膜で,成膜材料(反応物質)としては,金属の塩化物などのハロゲン化物が用いられ,それを運ぶキャリヤ
ーガスや反応ガスには,水素が単独または,窒素ガス,炭化水素系ガスとの混合ガスが用いられる.プラズマ
CVD はベースと処理物間に直流のグロー放電を起すことによって,ガス反応を促進させ,TiN を 500〜550℃の
低温で成膜させる.この方法は,膜表面が,熱 CVD よりもはるかに滑らかであること,低温のために処理に伴う
処理物の変形の心配がないことが特徴である.
レーザーCVD は光の作用によってガスの分解や反応を促進させて,成膜するものである.通常波長 200〜
400nm の紫外線を用いて SiO2,TiO2,SiH,ダイヤモンドなどの成膜が可能である.
4
図 1.3-1 表面処理の分類
5
1.4
実験目的
上述してきたように,高分子材料・ナノチューブ・フラーレンを代表とするカーボン材料は.その構造・電気特
性・機械特性が注目され,医療・食品・電気など異なる分野において必要特性を満足するための継続的研究が
なされている.機械分野では,カーボンのもつ潤滑特性を踏まえ,ダイヤモンド結合およびグラファイト結合が混
在した DLC が開発され,切削工具・摺動部材に被履されてきた.DLC は耐摩耗性,低摺動性,化学的安定性
以外に赤外線を透過する特性を持っていることで導体から絶縁体まで電気抵抗を変化できる等の特性を持つ.
従い,さまざまな産業分野に適用されており,これからも適用範囲はますます広がることが予想される.
従来の DLC の作製では,メタンと水素を用いた化学蒸着法(CVD)により作製されてきたが,CVD 法は化
学反応による発熱を利用しているため,成膜温度が高くなり,基板の熱変形が生じやすい.そして,水素を
含有する DLC は 300℃において,水素の離脱とともに,炭化が進み,常温および真空下において低摩擦
係数を示す DLC の機能性を消滅させるなど,膜の劣化が報告されてきた.
本論文では,放電プラズマ焼結法により作製した固体原料であるカーボンターゲットを用いて,アンバラ
ンスマグネトロンスパッタリング法により,水素フリーDLC を作製する.そして,非結晶となる DLC 内に金属粒
子が点在するナノコンポジット膜の創製を見据え,炭化物の形成にともない高硬度および良好な耐酸化性を実
現し,高融点元素であるシリコン(Si)およびタングステン(W)を添加した金属含有 DLC を開発する.さらに,バイ
アス電源により基盤の電圧を変化させることで,放電で生じたイオンのエネルギーを制御しイオン量の増加
を促す.イオン量の増加により膜形成初期に界面での膜物質と基盤物質のミキシング効果で密着性を向
上させ,優れた薄膜の形成を狙う.
金属添加効果により,ナノコンポジットは,結晶質と非結晶質が混在していることから,膜中の粒内・粒会破壊
を抑制すると考えられ,高硬度な膜材料の提供が期待される.また,開発した DLC 膜の微細構造,表面特性
の解析することにより,金属含有 DLC の膜特性に及ぼすバイアス電圧の効果を明らかにする.
6
第2章 実験方法
2.1 スパッタリングターゲットの作製
2.1-1 シリコン(Si),タングステン(W)の特性
本研究では 3 つのカーボンターゲットを使用して実験を行っていく.一つは金属無添加のカーボンターゲ
ット.残りはシリコン(Si),タングステン(W)をそれぞれ添加させた金属含有カーボンターゲットを用いる.従
来の DLC 膜を凌駕する目的として,金属元素を添加したカーボンターゲットを作製する.次に,選択した元
素はシリコン(Si),タングステン(W)の特性を簡単に説明する.また,ここで Si を含有する膜を Si-DLC,W を
含有する膜を W-DLC,金属を含有しない膜を DLC と定義する.
シリコン(Si)
シリコンと表記・呼称されているケイ素(Si)は原子番号 14 番の元素であり,地球に最も多く含まれる元素の
一つである.融点は 1410℃. 半導体製品の多くがシリコンを主成分としている.炭化ケイ素(SiC)や炭化窒
素(Si3N4)は機械特性に優れており,工業的にも有能な元素である.炭化ケイ素は(SiC)は硬度,耐熱性,
化学的安定性に優れていることから,研磨剤や発熱体に使用される.窒化ケイ素(Si3N4)は炭化ケイ素より
も強度や靱性に優れているため,直接工具として用いられる.
タングステン(W)
タングステン(W)は原子番号 74 の元素であり,希少金属の一つである.非常に硬く重い金属で,融点は
3380℃と金属のうちで最も融点が高い.炭化タングステン(CW)は非常に硬度が高い.モリブテンやコバル
トを添加させることで,高温硬度が高く高温で硬さが低下しないため,高速度鋼や超硬合金などに用いら
れる.また,比較的大きな電気抵抗を持つので,電球のフィラメントとして使用される.
2.2 放電プラズマ焼結法
2.2-1 焼結装置概要
放電プラズマ焼結法とは,粉体材料に圧力と低電圧・大電流をかけ,焼結させる圧縮焼結法の一種で,
従来のホットプレスという紛体に加熱場で圧力を掛けながら熱を加え焼結させる焼結法にプラズマ発生機
を組み合わせたものである.この手法を用いてスパッタリングターゲットとなるカーボン試料を作成する.図
2.2-1 に放電プラズマ焼結法の概略図を示す.図 2.2-2 にパルス電流サイクルの概略図を示す.この方法の
特性として,取り扱い操作の容易さ,ランニングコストの低廉さ,焼結技術の熟練不要,材料を選ばない多
様性がある.また,グラファイト(黒鉛)製焼結型でのカーボンの焼結に要する時間において,ホットプレス法
では 5~20 時間必要とするのに対し,本手法では 1 時間程度で焼結体を作製することが可能となる.ハイ
スピード焼結の特性に加え,金属,セラミックス,ポリマー,コンポジット材料をはじめ傾斜機能材料,ナノフ
ェーズ材料,熱電半導体材料など広範囲の材料を対象として先進新材料の合成・加工を可能とすることや,
安全性,確実性など多くの面で,ホットプレス法より優れている.図 2.2-3 は放電プラズマ焼結装置,図
2.2-4 は焼結に用いた黒鉛金型とグラファイトシートを示す.
7
図 2.2-1
放電プラズマ焼結法の概略図
図 2.2-3 プラズマ焼結法装置
図 2.2-2
パルス電流サイクルの概略図
図 2.2-4 黒鉛金型とグラファイトシート
2.2-2 実験方法
膜の原料となるスパッタリングターゲット材料を放電プラズマ焼結法により作製した. 実験手順を以下に
示す.
1. 表 2.1 の仕様通りに試料を量りとり,ポット型ミキサーに 10 分かけ粉末原料を作成する.
2. 図 2.2-4 に示す黒鉛金型の粉末との接触面にグラファイトシートを張る.
3. 黒鉛金型を粉末原料で充填し,荷重 85kN(30MPa),昇温(600℃,20 分)→昇温(1300℃,20 分)→保
8
持(10 分)の焼結条件で焼結を行った.
4. 焼結後 1 時間ほど装置を冷却する.
5. 冷却後装置から黒鉛金型を取り出す.
表 2.1 粉末仕様表 (a)シリコン添加 (b)タングステン添加
(a)
金属種
C
Si
粉末粒径(μm)
20 以下
75 以下
含有量(at%)
95
5
100
含有量(wt%)
89.042
10.958
100.00
質量(g)
29.384
3.616
33.000
3
体積(cm )
12.962
1.553
14.515
体積比
1.027
合計
(b)
金属種
C
W
粉末粒径(μm)
20 以下
0.6 以下
含有量(at%)
95
5
100
含有量(wt%)
55.383
44.617
100.00
質量(g)
30.460
24.540
55.000
体積(cm3)
13.436
1.271
14.708
体積比
1.040
合計
2.3 スパッタリング法
2.3-1 スパッタリング装置概要
図 2.3-1 にスパッタリング装置構成を示す.図に示すように,薄膜の原料となる合金ターゲット,創製され
た膜が堆積する基板,基盤に加えるバイアス電圧,高周波電源からなる.密閉された空気圧の低いチャン
バー内に一対の電極を置き,アルゴンガス(Ar)を導入し直流電圧を流し込んでいくと,一定の電圧を超え
たところでグロー放電が発生する.放電のために生じた正イオンが陰極(カーボンターゲット)に衝突し,弾き
出された薄膜材料が基板上に堆積して薄膜を形成する.原料をグラファイト固体ターゲットとし,スパッタガ
スとして Ar などを用いてターゲットをスパッタリングし,このときにターゲットから放出されるスパッタ粒子を基
板上に堆積させる方法である.
9
図 2.3-2 にスパッタリングの概念図を示す.イオンが衝突したときにスパッタされる原子数(スパッタ率)は
イオンの種類とエネルギーやターゲットの材質によって異なるが高融点金属や複雑な多成分の合金など他
の形成法では形成しにくい物質でも薄膜化できることや,イオンによるボンバートメント効果があるのが特徴
である.スパッタリング法では,磁場を援用されることが多い.これについては,後で詳しく述べたい.また,
これに類似した固体ターゲットを原料として使用する合成法に,レーザーによりターゲットを蒸発させるレー
ザーアブレーション(Laser ablation)法がある
図 2.3-1 スパッタリング装置構成図
電極(+)
基板
イオンがターゲットに
衝突し,はじき飛ばされ
た薄膜材料が基板上
に堆積して薄膜を形成
薄膜層
スパッタリング
ターゲット
電極(-)
図 2.3-2 スパッタリングの概念図
10
2.3-2 アンバランスマグネトロンスパッタリング法
マグネトロンスパッタとは,皮膜形成時に封入ガス圧力を低くし,さらに高密度なプラズマをつくるための
方法として利用される.ターゲットの裏面に配置させた磁石によって,ターゲットの表面には電場と直行して
閉じた磁場が形成される.磁場によって電子がサイクロイド運動を行うことにより,ターゲット表面に高密度
プラズマを形成することができる.高密度プラズマでは,ターゲットに衝突するイオン数が増加することによ
ってスパッタ効率が上がり成膜速度が向上する.また,放電可能なガス圧力を下げることができるので,膜
への不活性ガスの混入量を下げることができる.低圧のため,基板の温度上昇も低いために基板損傷を抑
制しやすいといった特徴も兼ね揃えている.磁場を形成する外側磁極と内側磁極の磁石強度がほぼ同じ
だと,外側磁極と内側磁極の間で閉じた平衡磁場となり,発生したプラズマはターゲット近傍に収束し,基
板方向への拡散が少なくなる.これに対しアンバランスマグネトロンスパッタリングは、外側磁極と内側磁極
のバランスを意図的に崩すことで,ターゲット近傍に収縮していたプラズマの一部が磁力線に沿って基板
近傍まで拡散しやすくなり,プラズマ密度を上げることができる。皮膜生成初期のイオン照射効果による密
着性の向上や、反応性スパッタによる皮膜形成時の反応性の向上といった特徴を持つ.図 2.3-3 にターゲ
ット裏面にあたる,磁石を入れたバッキングプレートを示す.
図 2.3-3
磁石入りバッキングプレート
2.4 DLC 膜の作製
2.4-1 装置概要
アンバランスマグネトロンスパッタリング法により,DLC 膜の作製を行う.アンバランスマグマグネトロンスパ
ッタリング法の原理は 2.3-2 で説明した通りである.図 2.4-1 に本研究室で使用したスパッタリング装置を,
図 2.4-2 にバイアス電源を示す.
薄膜は薄膜材料を分解し基板に飛ばし,基板上で気体→液体→固体と変化させ作製する.固体になる
までの間の空間に空気が存在すると,これと反応し,薄膜材料と異なる薄膜ができてしまう.そのため純度
の高い膜を作りたいときは,アルゴンなど不活性気体中で成膜を行い,なるべく良い真空状態にする必要
がある.本研究室では,ロータリーポンプによって,低真空引きを行い,ターボ分子ポンプにより高真空引き
を行った.ロータリーポンプとは,偏心した回転軸を持ったローター,固定翼,油によって空気を掻き出す.
11
ロータリーポンプの構造上高真空を作ることができない.ターボ分子ポンプとはタービン翼を数万 rpm で回
転させ,タービン翼の表面に衝突した気体分子を跳ね飛ばして排気する機械式の真空ポンプである.油を
使用せず清浄で高い真空度が比較的容易に実現できる真空ポンプである.ターボ分子ポンプは大気圧か
ら動作することはできないので,補助ポンプとしてロータリーポンプを使用した.なお,本研究室のターボ分
子ポンプは 4 分間で 48000rpm の回転数まで上昇し,短時間でロータリーポンプのバックアップを行える.
図 2.4-3 に本研究に導入したターボ分子ポンプを示す.
DLC 膜の製作中の成膜室内は,電源供給や圧力上昇,イオンやスパッタ粒子の運動エネルギー等々に
より,200℃を優に超える温度上昇が起こる.炭素(C),シリコン(Si)タングステン(W)はそれぞれ熱伝導率が
高いため,成膜室内の温度上昇に伴い,スパッタリングターゲット近傍も高温となってしまう.ターゲットとバ
ッキングプレートをボンディングしているインジウムの融点は 156.4℃と低い.そのため,成膜中にインジウム
が溶け出しグロー放電が不安定になる事例があった.ターゲットの温度上昇を防ぐため,ターゲット用冷却
水循環装置を導入し,ターゲット下部を冷却した.冷却水を不凍液ナイブラインとし,冷却設定温度を
-10℃~-15℃に設定することにより,グロー放電を安定させることができた.図 2.4-4 に導入した冷却水循環
装置を示す.
図 2.4-1 スパッタリング装置
図 2.4-2 バイアス電源
12
図 2.4-3 ターボ分子ポンプ
図 2.4-4 ターゲット用冷却水循環装置
2.4-2 実験方法
DLC 膜の作成実験手順を以下に示す.
1.
被膜する基板をエタノール,アセトンで超音波洗浄にかけ基板洗浄する.超音波洗浄機を図 2.4-5 に
示す.
2.
ターゲットとバッキングプレートを設定温度 250℃~300℃に設定したホットプレートにのせ,インジウム
と同時に熱する.インジウムが液化したらターゲットとバッキングプレートを重ね合わせボンディングする.図
2.4-6 にボンディング工程を示す
図 2.4-5 超音波洗浄機
図 2.4-6 ボンディング工程
3.
ターゲット冷却後バッキングプレート裏面にサマリウムコバルト磁石を入れる.
4.
基板,ターゲットを成膜室に設置して,電源や冷却水装置の電源を投入し,ロータリーポンプ,ターボ
13
分子ポンプを立ち上げ成膜室の真空排気を行う.
5.
ターゲット表面の酸化膜や目には見えない汚れを落とすために,ターゲットのクリーニング,後の再真
空時の真空効率を高めるためにベイキングを高周波電力により 200W の電力を導入することで,60 分ター
ゲットのクリーニングを行う.
6.
クリーニングの際に電流と電圧の位相差による損失電圧が存在するので,反射電力(Pr)モニターに表され
る反射電力をなくすために,・TUNE レバー・MATCH のレバーを操作し,反射電力(Pr)0 に近づける.図 2.4-7
に高周波電源装置を示す.
7.
液体窒素を導入し再真空引きを行い,圧力が 5.0×10-3Pa 程度まで真空が引けたら,DLC 膜の成膜を
行う.成膜時は高周波電力により 300W の電力を導入し,反射電力(Pr)を 0 に近づける.
8. バイアス電源を立ち上げ電圧値(なし,500V,1000V,3000V)を設定し,成膜機内のハンドルを回してターゲット
と基盤の位置(45cm)を調節する.(高圧なので電気手袋を必ず着用)
図 2.4-8 に成膜中の成膜室内の様子を示す.
9.
成膜後冷却して基板の取出しを行う.
図 2.4-7 高周波電源装置
14
図 2.4-8 成膜工程
2.5
X 線回析法
2.5-1 分析装置概要及び原理
プラズマで作製した膜は文献等に掲載されない構造を持つことがある.成膜後の各 DLC 膜の結晶構造
解析を X 線回析法(XRD)法で行う.XRD 法は物質中の原子の配列を知る最も有力な手段である.図 2.5-1
に X 線回析法装置,図 2.5-2 に X 線回析装置内部を示す.
図 2.5-1 X 線回析法装置図
2.5-2 X 線回析装置内部
XRD 法で試料に照射される X 線の波長は原子半径と同程度であるため,試料中の原子配列に規則性
があれば,弾性散乱された X 線は互いに干渉し回析現象を示す.図 2.5-3 のような規則正しく並んだ原子
によって構成される 2 つの平行した面に対して波長 λ の X 線を角度 θ で入射させる.面間隔 d は X 線の
波長λと同程度である.上面で反射された X 線と下面で反射された X 線の光路差は 2dsin である.この差
が波長の整数倍であるとき,二面で反射される X 線は互いに強めあい,面に対して角度θの方向に X 線が
15
観測され,次の Bragg の式が成り立つ.
Bragg の式
2dsinθ =
nλ
(1)
ここで
d: 結晶の格子面間隔
θ: 回析角度
n: 整数
λ: X 線の波長
ここで,d は結晶の格子面間隔,n は整数である.XRD 法では角度 θ を変化させながら X 線を試料に照
射し,回折 X 線の強度を測定する.強度がピークを生じる Bragg 角度を式(1)に代入することで面間隔 d を
求めた.この各格子面に対する面間隔を標準粉末物質のデータを集めた JCPDS(Joint Committee on
Powder Diffraction Standards)カードの値と比較することにより,物質同定を行った.なお,実験では膜試料
を 10~20mm2 ほど切り取り設置し,回析角度 20°から 80°で測定を行った.
波長:λ
X線
回折角度
θ
面間隔:d
原子間隔
図 2.5-3 Bragg の条件
2.6 摺動試験
2.6-1
試験装置概要
摺動試験は回転式ボールオンディスク摩擦試験機により行い,摩擦係数を測定した.
図 2.6-1 に試験装置の概要図を示す.回転ステージに試験片を固定し,SUS304 ボールで圧子させたまま
ステージを回転させる.接触間の摩擦力や摩擦係数を応力センサが読み取り,リアルタイムにグラフ化する.
そのため,摩擦時間,荷重の大きさによって,摩擦係数が変化する様子がわかることが特徴である.固体摩
擦は 2 つの固体表面同士の物体間に働く摩擦力は,F=μN で表される.すなわち摩擦力はその面に作
用する垂直力 N に比例する.比例係数の μ を摩擦係数という.また,この式より摩擦力は接触面積,速度
には無関係であることがわかる.
16
図 2.7-1 回転式ボールオンディスク試験器概要図
2.6-2
試験方法
この試験は試験片(基盤)の摩擦係数と物性を知るものである.試験手順を以下に示す.
1.
アームと試料台とを平行にし,原点補正を行った.
2.
基盤を試料台に置き,アームに重りを取り付けた.
3.
試験条件を荷重 500g,回転数 300rpm,回転直径を 2.00mm に指定した.
4.
同条件での各試験の結果を比較した.
2.7 粗さ試験
2.7-1 粗さ試験概要
粗さの測定方法として使われる触針法は,固体表面を曲率半径数㎛程度のダイヤモンドの針の先端で
走査して,針の振幅を拡大記録する.本実験では,試験片の表面粗度,膜厚,摩耗量を測定するために
表面粗度計を使用した.図 2.7.-1 に表面粗度計を示す.
17
図 2.7-1 表面粗度計
2.7-2 実験方法
1. 測定前の校正
標準試料を設置し,スタイラス(針)に異常がないか確認する.
標準試料の粗度値と測定値が大きく外れるようならばスタイラスを交換する.
数回,校正を実施すると標準試料の粗度値と測定値が一致する傾向がある.
2. 膜厚測定
測定条件(曲線 P,測定距離 L に数値を入力,傾斜補正→全体)
ワッシャーの跡にスタイラスを降下させる.
オーバーレンジが発生しないように,ディスプレーのゲージを確認し,接触圧力を高めにする.
3. 摩耗量の測定
測定条件(曲線 P,測定距離 L に数値を入力,傾斜測定→全体)
摩耗溝の手前(円の中心など)にスタイラスを降下させる.
オーバーレンジが発生しないように,ディスプレーのゲージを確認し,接触圧力を高めにする.
4. 表面粗さの測定
測定条件(曲線 R,測定距離 N=5mm,傾斜補正→全体)
膜の表面粗さを確認する測定であるので,膜部分のみをスタイラスが触診するようにする.
スタイラスがワッシャー跡や溝を触診することは不可とする.
18
2.8 マイクロビッカース硬さ試験法
2.8-1 試験装置概要
マイクロビッカース硬さ試験は押し込み硬さ試験法の 1 つであり,圧子を試料に打ち込み,それによる塑
性変形に対する抵抗を測定する.マイクロビッカース硬さ HV は,対面角 θ=136°のダイヤモンド正四角錐
圧子を試料に打ち込み,その際の荷重 F(N)を生じたくぼみ表面積 S(m2)で除した値(F/S)であり,測定する
くぼみ対角線長さ d(m)から次式で求められる.図 2.8-1 にマイクロビッカース硬度試験機を示す.
ビッカーズ硬さ算出式
HV
0.102
0.102 2 sin
2
0.1892
2
ここで
HV:ビッカーズ硬さ
k:定数,k=1/gn=1/9.806650≒0.102
F:試験力(N)
S:くぼみの表面積(mm2)
d:くぼみの2方向の対角線長さの平均(mm),d=(d1+d2)/2
θ:ダイヤモンド圧子の対面角(136°)
gn:標準重力加速度
図 2.8-1 マイクロビッカース硬さ試験機
19
2.9 熱重量測定試験
2.9-1
熱重量測定装置概要
物質は,温度の変化によって熱分解などの化学反応が進行する.材料の熱分解や脱水等の現象を理
解することにより,物質の特性を知ることができる.熱重量分析(TG)とは温度を変化させながら,あるいは一
定の温度に保って、試料の重量を温度または時間の関数として測定する方法.試料ホルダー、測温系、加
熱炉、天秤部、これらの制御回路からなる.図 2.9-1 に熱重量分析器の概略図を示す.本装置では試料の
熱分解を含めた熱反応過程を知ることができる.
図 2.9-1 熱重量分析装置概要図
2.9-2 酸化速度の測定
酸化は物質の表面に酸素原子が追加することによって進行するので,一般に物質の質量は酸素量に比
例して増加する.このような重さの増加量 Δm を,図 2.10-2 に示す.時間 t の経過とともに連続的に測定す
る.高温における材料の酸化過程は 2 つの型に分類される.第 1 の型は一定速度の酸化であり,次式で表
される
(6) k ::酸化の速度定数
∆
は通常正の値である.特殊な材料で酸化物が生成されるとすぐに蒸発して重量減をもたらすので,そ
のような場合
は負となる.
第 2 の型の酸化は放物線状に変化するもので,
∆m
と
(7)
は異なる速度定数である.
20
:酸化の速度定数
図 2.9-2 酸化速度の測定
試料の最初の質量を
時刻 t における質量を m とし,熱分解反応が完了したときの試料の質量を
と
すれば,反応率は次式で表される.
(8)
反応率の対数をとると
(9)
2.9-3 試験方法
1. 装置本体,アンプ,パソコンの電源を入れ,装置本体の正面パネルを操作し加熱炉を下降させる.
2. 装置本体のフックから試料受け皿を取り出す.試料(白金パネル)を直径 6 ㎜程度に切断したら受け皿
にセットし,フックに戻したら加熱炉を上昇させる.
3. 装置本体のバランス調整つまみにてゼロ点調整をおこなう.※ゼロ点が定まらない場合はアルゴンガス
を導入させることで安定させる.
4. パソコンで測定条件を入力して測定を開始する.(本実験では温度レート 10℃/min,目標温度 800℃,
ホールド時間なし,冷却温度 60℃で行った.)
21
2.10 示差熱分析
2.10-1 DTA(Differential Thermal Analysis)の原理
DTA 装置の概略図を図 3.9-1 に示す.DTA は,試料と基準物質の温度を一定のプログラムに従って変化させ
ながら,両物質間の温度差を温度の関数として測定する技法である.つまり DTA は図 3.9-1 に示すように,炉体
内に試料と基準物質を入れ,昇温(または降温)過程における両者間の温度差を検出する測定技法である.
図 2.10-2 に,昇温過程における加熱炉,試料,および基準物質の温度変化(図 2.10-2(a))と,時間に対する
試料と基準物質間の温度差(図 2.10-2(b))を模式的に示す.昇温が開始されると試料および基準物質の温度
は,それぞれの熱容量に依存した温度差で,加熱炉温度よりも遅れて上昇を開始する(図 2.10-2(a)).ここで基
準物質は,測定温度範囲において熱的変化を起こさない物質を用いるため,加熱炉と同じ傾きで温度が上昇
する.昇温の過程で試料が熱的に安定である間は,基準物質との間の温度差はゼロまたは一定で推移するが,
試料に何らかの熱変化が起こると温度差を生じ,このときの温度差を時間に対して示すと,それぞれの反応に応
じて吸発熱ピーク,または段差として記録される(図 2.10-2(b)).例えば試料が融解を起こした場合,融解過程
では試料の温度上昇は止まり基準物質との温度差が大きくなり,融解が終了するとまた元の温度差に戻る.この
過程は,吸熱ピークとして記録され,物質の融点を知ることができる.他の転移や分解などの場合も同様に検出
することができ,試料に特有な熱的な変化を調べることができる.
本研究では株式会社島津製作所製の示差熱分析装置 DTA-50(図 2.10-3)を用いて分析を行った.
図 2.10-1 示差熱分析装置概要図
22
図 2.10-2(a) 加熱炉,試料,および基準物質の温度変化
図 2.10-2(b) 試料と基準物質間の温度差
23
図 2.10-3 示差熱分析装置
2.10-2
試験方法
1.テーブルタップ TA-60WS,熱分析 PC 水循環ポンプの電源を入れる.
2.装置本体,アンプ,パソコンの電源を入れ,装置本体の正面パネルを操作し加熱炉を上昇させる.
3.マイクロセルに薄膜試料とほぼ同じ質量の A12O3 ブロックをセットし左側ディレクターに設置する.
4.マイクロセルに薄膜を下にしてセットし右側ディレクターに設置し,加熱炉を降下させる.
5.パソコンで測定条件を入力して測定を開始する.(本実験では温度レート 10℃/min,目標温度 800℃,ホール
ド時間なし,冷却温度 500℃で行った.)
24
2.11 X 線光電子分光法(XPS)法
2.11-1 分析装置概要
X 線光電子分光法(XPS)法とは,X 線によって励起・放出される光電子を測定する方法である.XPS で用いら
れる電子エネルギーは,30~3000eV の範囲にある.このようなエネルギー範囲の電子は固体との相互作用が
強く,エネルギーを失うことなく固体中から真空中まで脱出できる電子は表面付近の数 nm 程度の深さまでのも
のに限定されている.そのため,XPS 法では表面から数 nm 程度の深さの表面分析が可能である.対象試料は
金属,半導体,有機物,セラミックなどほとんどのすべての固体材料に及ぶ.また,化学状態分析を容易に行う
ことが出来る特徴を持つ.内殻電子の結合エネルギーは原子によって固有の値を有するので,結合エネルギー
を測定することによって元素の同定を行うことができる.また,原子の化学結合状態が異なると結合エネルギー
の値は微妙に変化する.化学シフトを測定することによって,元素の化学結合状態分析を行うことができる.図
2.11-1 に X 線光電子分光法装置を示す.
図 2.11-1 X 線光電子分光法装置
2.11-2 XPS 法の原理
X 線による原子からの光電子の放出過程の概念図を図 2.11-2 に示す.X 線照射によって光電効果が起こり,
内殻電子がエネルギーを吸収して光電子として放出される.この現象は次式で表せる.
25
図 2.11-2 X 線励起による内殻電子の光電子放出過程の概念図
光電子の運動エネルギーEkin を測定し,式(2)より放出光電子の原子内の束縛エネルギーEb を算出する.なお,
X 線で固体表面を効果的に励起するために,また,放出される光電子を高収率で電子エネルギー検出器に導
くために,1.0×10-7Pa 程度まで真空引きし,実験をおこなった.
2.11-3 XPS 法で得たデータの処理方法
C 原子の測定結果処理
・C 原子サンプルを参照
・282eV~290eV のデータをコピー&ペースト
・測定結果の原点補正
・フィッティングパラメータを算出し SP2 と SP3 を分離する.
金属原子の測定結果処理
・Si 原子用サンプル,W 原子用サンプルを参照
・Si 原子⇒97eV~111eV のデータをコピー&ペースト⇒標準位置 99eV からのシフトを確認
・W 原子⇒28eV~44eV のデータをコピー&ペースト⇒標準位置 33.2eV,31.4eV からのシフトを確認
26
第 3 章 結果および考察
3.1 金属含有カーボンターゲットの作製
3.1-1 スパッタリングターゲット製作結果
金属含有カーボンターゲットを作製するための放電プラズマ焼結機での条件を以下に示す.条件は荷重
85N(30MPa)で行い,昇温を 20 分で 600℃,再び昇温を 20 分で 1300℃,その後 10 分 1300℃を保持後に
冷却した.
図 3.1-1 および 3.1-2 に焼結時のモニタリングの結果を示す.モニタリングの結果では,温度,加圧力,
変位の計測値を示している. 図から分かるように,1300℃
に至るまでの間にターゲットの変位が減少しており,これは温度上昇によって,
粉末の接合が進んだ結果,試料の収縮が生じたと考えられる.
図 3.1-1
C ターゲット焼結時モニタリング結果
27
図 3.1-2 C-5Si ターゲット焼結時モニタリング結果
図 3.1-3 C-10Si ターゲット焼結時モニタリング結果
28
図 3.1-4 C-5W ターゲット焼結時モニタリング結果
図 3.1-5 C-10W ターゲット焼結時モニタリング結果
29
3.1-2 金属含有カーボンターゲットの特性
表 3.1 に放電プラズマ焼結機により作製したターゲットの組成を示す.
組成比はほぼ粉末の仕様と同じ値を示した.体粉末調整時に計算した体積 14.1 cm3 に比べると,C-Si
ターゲット 19.67cm3,C-W ターゲット 20.38cm3 となり,大きな値であった.これは,焼結プロセスは粒子間の
接触から始まり,接触面の増大,気孔の消滅,粒成長と進行するのだがターゲットの一部に,気孔の消滅
に至らず気孔を含む接合体が存在するためだと考えられる.
本研究では,厚さ 5mmの焼結体の作製を目標としていたが,C-Si ターゲット 6.9mm,C-W ターゲット
7.2mm となり目標値を上回った.これは,加圧力と温度が低すぎたためと考えられる.今後,必要寸法およ
び緻密性を制御する上での焼結条件の詳細な選定が必要である.
表 3.1 金属含有カーボンターゲットの組成比
ターゲット
C
C-Si
C-W
C
100
95
90
95
90
組成比[at%]
Si
5
10
-
W
5
10
30
直径[cm] 厚さ[cm] 体積[cm3]
6.00
6.90
6.03
5.99
6.04
0.50
0.65
0.66
0.58
0.59
14.137
24.31
18.85
16.34
16.91
3.2 DLC の微細構造及び表面特性
3.2-1
X 線回折(XRD)法
図 3.2-1(a)にバイアス電圧なしでの,図 3.2-1(b)にバイアス電圧 500V での,図 3.2-1(c)にバイアス電圧
1000V での,図 3.2-1(d)にバイアス電圧 3000V での XRD の回折結果を示す.XRD 法では,規則配列を
なす結晶に X 線を入射させ,ブラックの条件式を満足した時に,ミラー指数に対応するピークが現れる.
XRD 法の結果から,DLC と 5Si-DLC,10Si-DLC からみられるピークは基板のピークのみでグラ
ファイト,ダイヤモンドに対応するピークは出現しないことから無秩序に原子が配列するアモルファ
ス構造を形成した.
また,5W-DLC や 10W-DLC は上記の膜とは異なり,立方晶(c-)となる WC1-x や六方晶(h-)となる
W2C の回折角度に近接する微弱なピークが出現していることから,炭化物の微結晶が膜に内在し
ており,5W-DLC と 10W-DLC ではタングステンの炭化物をアモルファスが包みこむナノコンポジッ
ト構造が形成されたことが確認された.
図 3.2-1(a) バイアス電圧なしでの XRD 解析結果
31
図 3.2-1(b) バイアス電圧 500[V]における XRD 解析結果
図 3.2-1(c) バイアス電圧 1000[V]における XRD 解析結果
32
図 3.2-1(d) バイアス電圧 3000[V]における XRD 解析結果
3.2-2 粗さ試験及びマイクロビッカース硬度値測定
表 3.2-2 に各試料における,マイクロビッカース硬さ試験機で測定した硬度値,粗さ試験で計測した膜厚,
算術平均粗さ,摺動試験によって得られた摩耗量の値を示す.
硬さ試験の結果では DLC の値に比べ金属を添加した DLC の方が高い値を示した.硬度値は,各試料
バイアス電圧によって差は見られなかったが,10W-DLC においてはバイアス電圧が大きくなるに従い大き
く下がっている.これはバイアス電圧を上げることによりタングステンの炭化物が肥大化し膜の欠陥につな
がっていると考えられる.
粗さ試験の結果から,摩耗量が膜厚を上回る試料がなかったことから摩耗量が基板に達した基板はない
ことがわかる.平均粗さでは試料,バイアス電圧に関係なく滑らかな膜を作製することができた.さらに
10Si-DLC と 5W-DLC,10W-DLC ではバイアス電圧が高くなるにつれ最大粗さが大きくなっている.これは
バイアス電圧を高くしたことによりアルゴンガスの増大と基板への原子のスピードが速くなり,基板に原子が
強く叩きつけられ成膜面が粗くなったと考えられる.その影響は次項の摺動試験で述べる.
33
表 3.2-2 硬度値及び粗さ試験計測結果
DLC
5Si-DLC
10Si-DLC
5W-DLC
10W-DLC
0V
500V
1000V
3000V
0V
500V
1000V
3000V
0V
500V
1000V
3000V
0V
500V
1000V
3000V
0V
500V
1000V
3000V
硬度値[HV] 摩耗量[μm]
1625.2
0.075
1633.8
0.05
1672.4
0.05
1504.8
0.1
2013.8
0.05
1914.6
0.1
1945.0
0.05
1811.2
0.05
1648.8
0.15
1621.4
0.25
1607.2
0.1
1588.6
0.1
1913.4
0.1
1783.0
0.1
1845.2
0.05
1886.2
0.1
2860.6
0.25
2819.0
1.0
2326.4
0.07
1980.0
0.5
平均粗さ[μm]
0.02
0.01
0.02
0.01
0.02
0.01
0.01
0.01
0.01
0.02
0.02
0.02
0.02
0.02
0.02
0.02
0.01
0.01
0.02
0.02
最大粗さ[μm]
0.52
0.35
0.52
0.44
0.45
0.44
0.26
0.19
0.24
0.35
0.32
0.54
0.48
0.33
0.51
0.61
0.17
0.26
0.28
0.5
膜厚[μm]
0.75
0.5
3.0
1.05
0.95
0.9
0.7
1.0
0.7
2.6
0.8
0.8
0.4
2.5
0.3
4.6
0.65
1.45
2.3
2.0
3.2-3 摺動試験
図 3.2-3(a)にバイアス電圧なし,図 3.2-3(b)にバイアス電圧 500V,図 3.2-3(c)にバイアス電圧 1000V,図
3.2-3(d)にバイアス電圧 3000V の摺動試験結果を示す.試験荷重は全て 4.90N である.
表 3.2-3(a)に摺動距離 25m 地点での摩擦係数を,表 3.2-3(b)に平均の摩擦係数を示す.
バイアス電圧なしにおいては,金属添加の DLC が金属未添加の DLC よりも低摩擦を示した.平均摩擦
係数で金属添加の DLC を比較しても金属を多く添加した 10Si-DLC と 10W-DLC が低摩擦を示すことがわ
かる.
バイアス電圧 500V においては,DLC が他の試料よりも高摩擦を示すことはわかるが,他 4 つの摩擦係
数についてはほとんど違いが生じず優位性は見られなかった.
バイアス電圧 1000V においては,DLC で摩擦係数が振動しており成膜の不均一性が見られる. 平均
摩擦係数では 5Si-DLC が一番低摩擦を示した.
バイアス電圧 3000V においては DLC が一番高い摩擦係数を示した.5Si-DLC と 10Si-DLC,5W-DLC
と 10W-DLC とそれぞれ比較すると 25m 地点での摩擦係数と平均摩擦係数は金属含有量に関わらず似た
挙動を示すことがわかる.
それぞれの試料で最少摩擦係数を示すバイアス電圧が異なった.このことより添加金属の種類と添加量
によって適切なバイアス電圧の供給量が異なることが確認された.
34
図 3.2-3(a) バイアス電圧なしでの摺動結果
図 3.2-3(b) バイアス電圧 500[V]における摺動試験結果
35
図 3.2-3(c) バイアス電圧 1000[V]における摺動試験結果
図 3.2-3(d) バイアス電圧 3000[V]における摺動試験結果
バイアスを加えた基盤の平均摩擦係数を見ると,すべての基盤において μ=0.2 以下を示している.膜な
しのシリコン基板の摩擦係数は μ=0.5 以上あり,通常の固体摩擦が μ=0.5~1.5 程度であるので,DLC 膜
を被膜させることで,低摩擦特性を有することを示している.
シリコンやタングステンなどの金属を含有させることにより摩擦係数を大きく軽減できることがわかった.また,
バイアスを加えることで緻密な膜が形成され,さらに摩擦に強い基盤が形成されたことがわかる.
36
表 3.2-3(a) 摺動距離 25m 地点での摩擦係数
0V
500V
1000V
3000V
DLC
0.162
0.098
0.091
0.156
5Si-DLC
0.077
0.042
0.039
0.047
10Si-DLC 5W-DLC 10W-DLC
0.053
0.151
0.087
0.060
0.058
0.053
0.080
0.091
0.078
0.054
0.088
0.095
表 3.2-3(b) 平均摩擦係数
0V
500V
1000V
3000V
DLC
0.165
0.145
0.111
0.167
5Si-DLC
0.129
0.077
0.052
0.064
10Si-DLC 5W-DLC 10W-DLC
0.077
0.136
0.128
0.089
0.092
0.080
0.080
0.103
0.092
0.063
0.112
0.108
3.2-4 熱重量測定
図 3.2-4(a)にバイアス電圧なし,図 3.2-4(b)にバイアス電圧 500V,図 3.2-4(c)にバイアス電圧 1000V,図
3.2-4(d)にバイアス電圧 3000V での熱重量変化を示す.グラフは温度上昇にともなう単位面積当たりの
DLC,Si-DLC,W-DLC それぞれの熱重量変化を表す.
DLC が 400℃~500℃付近まで微小に重量増加しているのはグラファイトが酸素と結合して重量増加を
引き起こしている.そのあとに重量減少するのは二酸化炭素として気化したためだと考えられる.シリコンや
タングステンを添加した基板については重量が増加した後に減少が見られる.これはグラファイトと添加金
属が酸化が同時に進行し重量増加,その後含有金属の酸化が終了し重量が減少したと考えられる.
グラフより,どのバイアスにおいても DLC と比較して金属含有 DLC の方が反応終了温度が高いところで
反応が終了していることがわかる.金属を含有することにより膜の熱的特性は向上したといえる.
さらに金属を多く含有している方が,反応終了時間が長くなっていることが見て取れる.また,5Si-DLC と
5W-DLC を比較するとどのバイアス電圧でも反応終了温度は 5W-DLC の方が優れていた.10W-DLC にお
いてはどのバイアス電圧においても 800℃まで反応し続けている.このことより金属を多く含有している方が
熱的特性に優れていることがわかる.
37
図 3.2-4(a) バイアス電圧なしでの熱重量測定結果
DLC で 567℃,5Si-DLC で 624℃,10Si-DLC では反応は続いており,5W-DLC では 700℃,10W-DLC
では反応は続いている
図 3.2-4(b) バイアス電圧 500[V]における熱重量測定結果
DLC で 545℃,5Si-DLC で 590℃,10Si-DLC では 764℃,5W-DLC では 645.7℃,10W-DLC では反応
は続いている
38
図 3.2-4(c) バイアス電圧 1000[V]における熱重量測定結果
DLC で 525℃,5Si-DLC で 600℃,10Si-DLC では反応は続いており,5W-DLC では 675℃,10W-DLC
では反応は続いている
図 3.2-4(d) バイアス電圧 3000[V]における熱重量測定結果
DLC で 542℃,5Si-DLC で 625℃,10Si-DLC,5W-DLC,10W-DLC では反応は続いている.
39
3.2-5 示差熱分析
図 3.2-5(a)にバイアス電圧なし,図 3.2-5(b)にバイアス電圧 500V,図 3.2-5(c)にバイアス電圧 1000V,図
3.2-5(d)にバイアス電圧 3000V での示差熱変化を示す.
温度が高くなるにつれ下がっているのは基板中の DLC がグラファイトになるときに起こる吸熱反応を示してい
る.
カーボンやシリコン,タングステンが酸化する場合は発熱反応,ダイヤモンドライクカーボンがグラファイトにな
る過程で吸熱反応を示す.
図 3.2-5(a) バイアス電圧なしでの示差熱分析結果
DLC では 685℃でカーボンが酸化し微弱な発熱反応をしている.5Si-DLC では 511℃でシリコンが酸化し
発熱反応を示している.10Si-DLC では目立った反応を示していなかった.5W-DLC では 625℃でタングス
テンが酸化し発熱反応を示している.10W-DLC では 397℃,551℃,598℃,618℃で発熱反応を,635℃,
734℃においてアモルファスがグラファイトに変化したことを示す吸熱反応を示すことがわかった.
40
図 3.2-5(b) バイアス電圧 500[V]での示差熱分析結果
DLC では 647℃,678℃でカーボンが酸化し微弱な発熱反応をし,594℃では吸熱反応をしている.
5Si-DLC では 663℃,756℃,771℃でシリコンが酸化し発熱反応を示している.10Si-DLC では 507℃で発
熱反応,5W-DLC では 576℃でタングステンが酸化し発熱反応を示している.10W-DLC では 269℃,
362℃,639℃で発熱反応を,544℃においてアモルファスがグラファイトに変化したことを示す吸熱反応を
示す.
図 3.2-5(c) バイアス電圧 1000[V]での示差熱分析結果
DLC ではピークはみられなかった.5Si-DLC では 478℃,556℃でシリコンが酸化し発熱反応を示している.
10Si-DLC では目立った反応を示していなかった.5W-DLC では 603℃でタングステンが酸化し発熱反応を
示している.10W-DLC では 343℃,460℃,591℃で発熱反応を示した.
41
図 3.2-5(d) バイアス電圧 3000[V]での示差熱分析結果
DLC では 514℃でカーボンが酸化し微弱な発熱反応をしている.5Si-DLC では 224℃でシリコンが酸化し
発熱反応を示している.10Si-DLC では 624℃で発熱反応,5W-DLC では 283℃,610℃でタングステンが
酸化し発熱反応を示している.10W-DLC では 465℃,653℃で発熱反応を示すことがわかる.
3.2-6 XPS 法による結合解析
アモルファス構造の分析を進めるため,XPS 法により結合状態を解析した.
図 3.2-6(1)~(4)に DLC[0~3000V]の C1s スペクトルの測定結果,
図 3.2-6(5)~(12)に 5Si-DLC[0~3000V]の C1s スペクトルと Si スペクトルの測定結果,
図 3.2-6(13)~(20)に 10Si-DLC[0~3000V]の C1s スペクトルと Si スペクトルの測定結果,
図 3.2-6(21)~(28)に 5W-DLC[0~3000V]の C1s スペクトルと Si スペクトルの測定結果,
図 3.2-6(29)~(36)に 10W-DLC[0~3000V]の C1s スペクトルと Si スペクトルの測定結果,
表 3.2-1 にそれぞれの C1s スペクトルを分離した SP2 と SP3 の結合比を示す
得られた C1s スペクトルの波形は中心線に対して非対称になることから,ダイヤモンド結合(SP3)およびグラファ
イト結合(SP2)の両者を併せ持つ結合であることがわかった.シリコンやタングステンを含有する試料においても
同様の波形となり,アモルファス構造,ナノコンポジット構造と両者の微細構造は異なるが SP3 結合と SP2 結合を
内在した.
また,Si の標準結合エネルギーは 99eV,W では 31eV および 33.1eV となる.5Si-DLC,10W-DLC における
Si2p ピークは標準的なピーク位置より高エネルギー側に化学シフトしていることがわかる.5W-DLC,10W-DLC
における W4f5/2 と W4f7/2 ピークにおいても,同様の化学シフトが確認された.これらは金属と炭素の強い結合エネ
ルギーが形成された結果,金属結合から共有結合へと遷移したことが要因であると考えられる.
42
図 3.2-6(1) DLC バイアス電圧なしでの結合解析結果
図 3.2-6(2) DLC バイアス電圧 500[V]での結合解析結果
43
図 3.2-6(3) DLC バイアス電圧 1000[V]での結合解析結果
図 3.2-6(4) DLC バイアス電圧 3000[V]での結合解析結果
44
図 3.2-6(5) 5Si-DLC(C) バイアス電圧なしでの結合解析結果
図 3.2-6(6)
5Si-DLC(Si) バイアス電圧なしでの結合解析結果
45
図 3.2-6(7) 5Si-DLC(C) バイアス電圧 500[V]での結合解析結果
図 3.2-6(8)
5Si-DLC(Si) バイアス電圧 500[V]での結合解析結果
46
図 3.2-6(9) 5Si-DLC(C) バイアス電圧 1000[V]での結合解析結果
図 3.2-6(10)
5Si-DLC(Si) バイアス電圧 1000[V]での結合解析結果
47
図 3.2-6(11)
5Si-DLC(C) バイアス電圧 3000[V]での結合解析結果
図 3.2-6(12)
5Si-DLC(Si) バイアス電圧 3000[V]での結合解析結果
48
図 3.2-6(13) 10Si-DLC(C) バイアス電圧なしでの結合解析結果
図 3.2-6(14)
10Si-DLC(Si) バイアス電圧なしでの結合解析結果
49
図 3.2-6(15) 10Si-DLC(C) バイアス電圧 500[V]での結合解析結果
図 3.2-6(16)
10Si-DLC(Si) バイアス電圧 500[V]での結合解析結果
50
図 3.2-6(g17) 10Si-DLC(C) バイアス電圧 1000[V]での結合解析結果
図 3.2-6(18)
10Si-DLC(Si) バイアス電圧 1000[V]での結合解析結果
51
図 3.2-6(19)
10Si-DLC(C) バイアス電圧 3000[V]での結合解析結果
図 3.2-6(20)
10Si-DLC(Si) バイアス電圧 3000[V]での結合解析結果
52
図 3.2-6(21)
5W-DLC(C) バイアス電圧なしでの結合解析結果
図 3.2-6(22)
5W-DLC(W) バイアス電圧なしでの結合解析結果
53
図 3.2-6(23)
5W-DLC(C) バイアス電圧 500[V]での結合解析結果
図 3.2-6(24)
5W-DLC(W) バイアス電圧 500[V]での結合解析結果
54
図 3.2-6(25)
5W-DLC(C) バイアス電圧 1000[V]での結合解析結果
図 3.2-6(26)
5W-DLC(W) バイアス電圧 1000[V]での結合解析結果
55
図 3.2-6(27)
5W-DLC(C) バイアス電圧 3000[V]での結合解析結果
図 3.2-6(28)
5W-DLC(W) バイアス電圧 3000[V]での結合解析結果
56
図 3.2-6(29)
10W-DLC(C) バイアス電圧なしでの結合解析結果
図 3.2-6(30)
10W-DLC(W) バイアス電圧なしでの結合解析結果
57
図 3.2-6(31)
10W-DLC(C) バイアス電圧 500[V]での結合解析結果
図 3.2-6(32)
10W-DLC(W) バイアス電圧 500[V]での結合解析結果
58
図 3.2-6(33)
10W-DLC(C) バイアス電圧 1000[V]での結合解析結果
図 3.2-6(34)
10W-DLC(W) バイアス電圧 1000[V]での結合解析結果
59
図 3.2-6(35)
10W-DLC(C) バイアス電圧 3000[V]での結合解析結果
図 3.2-6(36)
10W-DLC(W) バイアス電圧 3000[V]での結合解析結果
60
表 3.2-1
0V
500V
1000V
3000V
DLC
0.24
0.29
0.23
0.24
C1s スペクトルを分離した SP2 と SP3 の結合比
5Si-DLC
0.17
0.23
0.24
0.21
10Si-DLC 5W-DLC 10W-DLC
0.19
0.09
0.11
0.22
0.18
0.07
0.18
0.17
0.11
0.15
0.19
0.16
表 3.2-1 から結合比は 0.09~0.29 の値を示し,グラファイト成分を主とする炭素系膜となったが,プラズ
マ内の粒子に運動エネルギーを与えるバイアス電圧の増加により,結合比が増加する傾向がみられた.
61
第4章 結言
本研究では,高周波マグネトロンスパッタリング法により金属添加炭素膜を作製し,金属未添加の炭素膜との
比較を行い,さらに,各膜作製時に異なるバイアス電圧を印加することによりバイアス電圧の効果を検証した.
XRD 法による微細構造解析では,DLC と Si を添加した膜はアモルファス構造,W を添加した膜はナノコンポ
ジット構造であることを示した.摺動試験では,金属含有炭素膜の高硬度化により耐摩耗性を向上させ,その結
果,低摩擦となることを示した.XPS 分析により,膜は SP2 結合,SP3 結合,C-O 結合を内在した結合を持ち,Si
を添加した膜では C-Si 結合,W を添加した膜では WC 結合と W2C 結合も同時に内在することがわかった.ま
た,Si および W のピーク位置は,高エネルギー側に遷移し,金属結合から共有結合変化することを示した.熱
重量測定から,金属を添加および添加量により,膜の耐熱性が向上することを明らかにした.
62
参考文献
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2)
池永勝,鈴木秀人 (2003) 事例で学ぶ DLC 成膜技術 日刊工業新聞社,
3)
山本雄二,兼田楨宏 (1999) トライボロジー 理工学社
4)
村木正芳 (2007) トライボロジー 摩擦の科学と潤滑技術
5)
広中清一郎 (2010) 最新 摩擦と摩耗の基本と仕組み 秀和システム
6)
守吉,笹本,植松,伊熊,門間,池上,丸山 (1995)
セラミックスの焼結 内田老鶴圃
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和栗明 他 10 名 (1975) 機械工作法 株式会社養賢堂版
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固体表面キャラクタリゼーションの実際 講談社サイエンティフィック
9)
加藤正直 内山一美 鈴木秋弘 (2010)
物質工業入門シリーズ 基礎からわかる機器分析 森北出版株式会社,
10) 日本表面科学会 (1998)表面分析技術選書 X 線光電子分光法 丸善株式会社,
11) 市村博司,池永勝(2005) プラズマプロセスによる薄膜の基礎と応用 日刊工業新聞社
63
使用機器一覧
1)
SPS 法
放電プラズマ焼結装置 SPS-3.20 MK-4 住友石炭鉱業株式会
2)
スパッタリング法 高周波スパッタリング装置 RFS-200 ULVAC 機工株式会社
3)
バイアス電源 パワーホレスター®Pro3900 アナテック株式会社
4)
XRD 法
5)
XPS 法
6)
硬さ試験 HM-221 ミツトヨ株式会社
7)
摺動試験 FPR-2100 岩谷産業株式会社
8)
熱重量分析 TGA-51 島津製作所株式会社
9)
光学測定装置 LEXT OLS4000 オリンパス株式会社
XRD-7000 島津製作所株式会社
PHI Quantera SXM アルバック・ファイ株式会社
10) 示差熱分析装置 DTA-50 島津製作所株式会社
64
付録
冷水機 LTC-450A 本体仕様書
製品名
形式
循環方式
性能
液温度範囲(℃)
冷却水循環装置
LTC-450A
密閉系向循環
-20~+20
温度制度(℃)
±2.0
冷却能力(W)
450
使用液種類
使用周囲温度範囲(℃)
外形寸法(mm)
質量
清水,純水,エチレングリコール,エチルアルコール
5~35
W218×D430×H563
約 32Kg
構成機能
電気特性
保安維持
付属品
冷凍機
密閉型レシプロ圧縮機 450W
冷媒
R404A
循環ポンプ(50/60Hz)
最大流量 12/12L/min・最大揚程
液層
φ180×H180 約 4.5L
電源
単相 AC100V 50/60Hz
最大運転電流
6.5A
ブレーカー容量
15A
冷凍サイクル
過負荷保護装置 高圧力スイッチ
電気回路
電源遮断機
循環ポンプ
過負荷保護装置
電源コードアダプター
1ケ
循環ノズル
2 ケ 接続口径(ホース接続側)外形 φ11 内径 φ8
ル接続コネクタ側)外形 φ12 内径 φ8.5
温度制度(センサ)
冷凍機 on/off 制御(サーミスタ)
温度設定・表示
キー入力方式 最少設定桁 0.1℃PV・SV デジタル 2 段表示
機能
自己診断機能
外部入・出力
タイマー機能
(ノズ
上・下限温度異常検出・センサ異常・冷凍機オーバーロードリレー 冷
凍機保護タイマー・停電検知・制御温度異常・メモリーエラー
外部温度センサ入力端子・温度計用アナログ出力端子(DC1~5V)
アラーム出力端子(DC12V~17V)
設定範囲/1 分~99 時間(1 分単位)
65
LTS-450A 能力線図
LTC-450A能力線図
700
冷却能力
(W)
600
500
400
300
周囲温度30℃
50Hz
200
100
0
-20
-10 水温
(℃) 0
20
FPR-2100 型摩擦摩耗試験器本体仕様表
項目
使用
印可不可荷重
5~3000g
応力検出機構検出可能範囲
2.5~5000gf
応力検出機構検出分解能
1/20000FS
回転機構
0.1~600rpm(回転モード時)
回転数
1~24rpm(回転往復モード時)
1~200rpm(直線往復測定モード時)
ジンバル最小感度
0.258gw
データサンプリング周期
10msec~
サンプル(試験片)サイズ
φ100mmMAX 厚さ 20mmMAX
圧子(ボール)対応可能形状
φ3/16inch~5mm φ3/8inch~10mm(オプション)
圧子(ボール)材質
各種 SUS,SUJ2,超硬,アルミナ,高分子材料など
計測制御用 対応パソコン
Windows2000,WindowsXP
装置ーパソコン 通信形式
USB 接続
本体寸法
408(W)×546(D)×410(H) 突起部含まず
本体重量
40Kg
使用電源
AC100V 700VA
66
謝 辞
本研究は,平成 26 年度 公益財団法人 JKA 小型自動車等機械工業振興補助事業 研究補助「高密
度プラズマによる低摩擦・耐熱性炭素系膜の開発 補助事業」の支援を受け実施されました.ここに記して
感謝の意を表します.
平成 27 年 3 月吉日
佐賀大学 長谷川裕之
67
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