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割り箸中の亜硫酸分析におけるイオンクロマトグラフ用溶離液の検討

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割り箸中の亜硫酸分析におけるイオンクロマトグラフ用溶離液の検討
割り箸中の亜硫酸分析におけるイオンクロマトグラフ用溶離液の検討
羽石
奈穂子, 金子
令子,中里
東京都健康安全研究センター研究年報
2008
光男
第59号
別刷
東京健安研セ年報
Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 59, 171-174, 2008
割り箸中の亜硫酸分析におけるイオンクロマトグラフ用溶離液の検討
羽石 奈穂子*, 金子 令子*,中里 光男*
割り箸中の亜硫酸塩類分析試験法(厚生労働省の通知法)の2種類のイオンクロマトグラフィー(IC)の測定条件を検討
したところ,感度に大きな違いが認められた.その原因解明のために,IC用溶離液である炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナ
トリウム混液の比率,濃度,流速と亜硫酸の感度との関係を比較した.その結果,溶離液の比率及び濃度は感度に影響を
与えないが,流速を下げることにより感度が上昇することが判明した.この結果に基づき測定条件を改良した結果,通知
法で示される測定条件の約2倍の感度を得ることができた.亜硫酸の定量限界として0.3 µg/mLが確保できた.
キーワード:割り箸,亜硫酸,イオンクロマトグラフィー,溶離液,感度
は じ め に
平成19年11月に厚生労働省より通知された「割りばしに
係る監視指導について」1)により,漂白剤(二酸化硫黄又は
亜硫酸塩類)の溶出限度値が引き下げられ,試験法が改正
水は超純水(用時採取),トリエタノールアミン,亜硫
酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウ
ムは試薬特級(和光純薬(株)製)を用いた.
2) 標準溶液
された.試験法は,割り箸を熱水抽出し,生成した亜硫酸
亜硫酸水素ナトリウム152 mgを1%トリエタノールアミ
イオンを,電気伝導度検出器を用いたイオンクロマトグラ
ン溶液に溶かして100 mLとしたものを標準原液とし,標準
フ(IC)あるいはUV検出器を用いた液体クロマトグラフで
原液を適宜希釈したものを,標準溶液とした.
測定する方法である.分析カラムは,第4級アンモニウム基
をイオン交換基とした2種類の陰イオン交換カラムが指定
されている.カラムに対する溶離液は,組成比の異なる炭
酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムの混液2種類が示
3. 装置
イオンクロマトグラフ:DIONEX社製DXc-500,オートサ
プレッサー(エクスターナルモード)付.
されており,流速を調節して用いることになっている.分
析法の解説2)によると,陰イオン交換カラムとしてIonPac
4. 測定条件
AS12AおよびTSKgel Super IC-AZを推奨している.そこで,
カラム:IonPac AS12A(4 mm i.d.× 200 mm,DIONEX社製)
これらのカラムを用いて最適な溶離液条件について検討し
及びTSKgel SuperIC-AZ(4.6 mm i.d.×150 mm,東ソー(株)製),
た.その結果,両者のカラムを同じ組成比の溶離液を用い
ガードカラム:IonPac AG12A(4 mm i.d.× 50 mm,DIONEX
て電気伝導度検出器で測定した場合には感度に特段の違い
社製)及びTSKguardcolumn SuperIC-AZ(4.6 mm i.d.×10 mm,
は見られなかったが,一方のカラムを用いて組成比の異な
東ソー(株)製),溶離液:炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナト
る2種類の溶離液について比較したところ感度に大きな違
リウムの混液,カラム温度:35°C,検出器:電気伝導度検
いがあることがわかった.このことから,溶離液などの測
出器,オートサプレッサー電流値(mA):[炭酸ナトリウム濃
定条件が感度に影響を及ぼしていることが推察された.
度(mmol/L)×2+炭酸水素ナトリウム濃度(mmol/L)×1]×流
1)
通知 に示されている亜硫酸の定量限界は1膳当たり0.12
mgであり,限度値4 mgに十分対応している.しかし割り箸
速(mL/min)×2.47の計算式で示される値,流速:0.7~
1.5mL/min,注入量:25 µL.
の亜硫酸含有量は,試料によって約100倍程度異なることが
あり,その実態を把握するためにもより高感度の分析法が
必要である.そこで,溶離液条件が感度に及ぼす影響につ
いて詳細な検討を行ったので報告する.
5. 試験溶液の調製
25 mL共栓付試験管に水20 mLを入れて95°Cに加温する.
試料の割り箸1本を2つに切断して浸漬し,95°Cで30分間溶
出を行い試料を除いた.冷後,その5 mLを採り水を加えて
実 験 方 法
25 mLとし,ろ過したものを試験溶液とした.
1. 試料
結 果 及 び 考 察
漂白処理を施した市販の竹製割り箸1種類.
1. 通知に示された2種類のIC条件の比較
2. 試薬および標準溶液
1) 試薬
*
通知1)に示された割り箸中の亜硫酸分析法はICによる測
定法が提示されているが,測定条件として具体的なカラム
東京都健康安全研究センター食品化学部食品添加物研究科
169-0073
東京都新宿区百人町 3-24-1
Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 59, 2008
172
Table 1. IC Conditions for Analysis of Sulfite
Column
Guardcolumn
Elution Solvent
Flow Rate
Electric Current
Column Temperature
Injection Volume
1
2
IonPac AS12A(4 mm i.d.× 200 mm)
TSKgel SuperIC-AZ(4.6 mm i.d.×150 mm)
IonPac AG12A(4 mm i.d.× 50 mm)
TSKguardcolumn SuperIC-AZ(4.6 mm i.d.×10 mm)
2.1 mmol/LNa2CO3+0.8 mmol/LNaHCO3
3.2 mmol/LNa2CO3+1.9 mmol/LNaHCO3
1.5 mL/min
19 mA
35°C
25 µL
0.8 mL/min
17 mA
35°C
25 µL
等が明示されておらず,詳細は別途その解説2)に示されて
2. 溶離液の比率の検討
溶離液の組成成分である炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナ
いる.Table 1.に,解説に基づいたIC測定条件を示した.
カラムは通知で示された長さ200mmのカラムとして,
トリウムの総モル数を測定条件1における2.9 mmol/Lとし,
DIONEX社製 IonPac AS12A(以下DIONEX製カラム)及び
その比率を変化させたときの亜硫酸標準溶液(100µg/mL)の
150mmのカラムとして東ソー(株)製TSKgel SuperIC-AZ(以
面積値をFig. 2に示した.流速は1.5 mL/minに固定し,電流
下東ソー製カラム)の2種類を用いた.流速は試料からの妨
値は前述の式に従い算出した.炭酸ナトリウムの濃度を0.7
害物質の影響を除くために亜硫酸が10~15分で流出する値
~2.7 mmol/Lに変化させたときの亜硫酸面積値は4.67~
を設定した.また,今回の分析ではバックグラウンド低減
5.07 µS×minを示した.炭酸水素ナトリウムの割合が増加
のためにサプレッサー方式を用いているため,溶離液にあ
するに従い面積値が減少する傾向にあるものの,通知に示
わせたサプレッサー電流値を設定した.これらの条件にし
されている炭酸水素ナトリウム濃度(総モル数に占める割
たがい亜硫酸標準溶液(10 µg/mL)を分析したときのイオ
合が測定条件1:27.6%,測定条件2:37.3%)付近では大き
ンクロマトグラムをFig. 1に示した. DIONEX製カラムを
な変動はなかった.しかし炭酸水素ナトリウムの増加によ
用いた測定条件1の亜硫酸の面積値は,東ソー製カラムを用
り亜硫酸の保持時間は長くなり3),炭酸水素ナトリウムが
いた測定条件2で測定した時の約1/2と感度に大きな違いが
2.2 mmol/L以上(75.8%以上)では亜硫酸はカラムに保持され
認められた.そこで,DIONEX製のカラムを用いて,カラ
たまま溶出されなかった.
がわかった.このことから,測定感度の増減は,使用する
カラムの種類よりも溶離液の種類,流速,サプレッサー電
流値等が影響することが示唆された.そこでこの原因を解
明するためにDIONEX製カラムを用い,測定条件1を基本と
して溶離液の比率,溶離液組成の総モル数(濃度),流速を
変化させたときの亜硫酸の面積値を比較した.
5
6
4.5
5.5
4
5
3.5
4.5
3
4
2.5
3.5
2
3
1.5
2.5
1
Peak Area of Sulfite(µS×min)
は東ソー製カラムを用いた測定条件2に近い値を示すこと
Concentration of Na 2CO3 and NaHCO3(mmol/m L)
ム条件を除き測定条件2にしたがい測定したところ,面積値
2
0.5
0
1.5
Fig. 2. Effect of Eluent Composition Ratio on Peak Area of Sulfite
Na2CO3
NaHCO3
Peak area of sulfite
3. 溶離液の総モル数の検討
溶離液の比率を測定条件1と同じ炭酸ナトリウム72.4%,
炭酸水素ナトリウム27.6%に固定し,総モル数を変化させ
たときの亜硫酸標準溶液(100 µg/mL)の面積値をFig. 3に示
した.流速は1.5 mL/min,電流値は前述の式に従い算出し
Fig. 1. Ion Chromatograms of Sulfite Standard(10 µg/mL)
た.総モル数2.9~5.8 mmol/Lのとき亜硫酸面積値は4.98~
by Conditions shown in Table 1
5.33 µS×minとほとんど変動はなかった.一般に溶離液中
A:IC condition 1
B:IC condition 2
C:Kind of column in IC condition 2 changed to Dionex column
のイオン濃度が高いとS/N比が低下するといわれている3)
が,今回設定した最大モル数5.8 mmol/Lでは特にS/N比は低
東
京
健
安
研
セ
年
報
173
59, 2008
下せずベースラインの変動は認められなかった.しかし,
することにより保持時間を短縮する必要があると考えられ
保持時間は総モル数にほぼ反比例し,溶離液の濃度が高い
た.炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの比率は感度に
と亜硫酸の溶出が早まり妨害物質の影響を受ける可能性が
大きな影響を与えないが,炭酸水素ナトリウムの比率が
推測された.
75%以上では保持時間が長くなり亜硫酸が溶出されない可
4.5
4
6
近い値が適当であると考えられた.以上の結果を踏まえ,
5.5
総モル数を2倍に,流速を1.5から0.7 mL/minに測定条件を改
5
3.5
4.5
3
4
2.5
3.5
2
3
1.5
2.5
1
Peak Area of Sulfite(µS×min)
Concentration of Na 2CO3 and NaHCO3(mmol/mL)
能性があるため,通知に記載された2種類の溶離液の比率に
5
良した結果,通知で示される測定条件の約2倍の感度を得る
ことができた.Fig. 5に,改良後の測定条件を用いた亜硫酸
標準溶液(100 µg/mL)及び亜硫酸を含有する市販の割り箸
の試験溶液のクロマトグラムを示した.これにより定量限
界も0.3µg/mLが十分確保できた.
2
0.5
0
1.5
µS
Fig. 2. Effect of Total Molar Concentration on Peak Area of Sulfite
Na2CO3
NaHCO3
Peak area of sulfite
sulfite
4. 流速の検討
溶離液の比率と総モル数は測定上の大きな変動要因とは
考えられなかったため,溶離液の流速について検討を行っ
た.Fig. 4に,溶離液の流速と亜硫酸標準溶液(100 µg/mL)
B
A
min
の面積値との関係を示した.溶離液は,測定条件1と同じ比
率で,総モル数を2倍としたもの(炭酸ナトリウム4.2
mmol/L,炭酸水素ナトリウム1.6 mmol/L)とし,電流値は
前述の式に従い算出した.流速を1.5 mL/min~0.7 mL/min
に変化させると面積値は5.00 µS×min~11.57 µS×minへ増
加したことから,流速が感度に与える影響が大きいことが
Peak Area of Sulfite(µS×min)
判明した.
Fig. 5. Ion Chromatgrams of Sulfite Standard(A)
and Sample Extract(B)
Column:IonPac AS12A(4 mm i.d.× 200 mm), Eluent:
4.2 mmol/LNa2CO3-1.6 mmol/LNaHCO3, Electric Current:19
mA, Flow Rate:0.7 mL/min, Column Temperature:35℃,
Injection Volume:25 µL
12
ま と め
10
割り箸中の亜硫酸分析における,IC測定条件の検討を行
8
った.溶離液の炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムの
比率及び濃度は,感度に大きな影響を与えなかった.しか
6
し,流速は感度に反比例し,妨害物質との分離に支障のな
4
い限り低流量で測定することが,低濃度の亜硫酸分析に効
0.6
0.7
0.8
0.9
1
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
果的であることが分かった.
Flow Rate(mL/min)
文 献
Fig. 4. Effect of Flow Rate on Peak Area of Sulfite Standard
1) 厚生労働省医薬品局食品保健部監視安全課:割りばし
以上のことから,電気伝導度検出器を用いた亜硫酸のIC
測定条件では,流速を遅く設定することが感度を高めるた
に係る監視指導について,食安監発第1113001号,
2007.
めに有効であると考えられた.解説2)では,DIONEX製カラ
2) 河村葉子:食品衛生研究,58,21-26,2008.
ムの流速は1.5 mL/minに設定されているが,0.7 mL/minにす
3) 社団法人日本分析化学会イオンクロマトグラフィー
ると感度は上昇し,実際の測定にも支障はなかった.しか
研究懇談会編:イオンクロマトグラフィーデータブッ
し,保持時間が約2倍になるため,溶離液の総モル数を高く
ク,40-81,1991,(株)科学新聞社,東京.
Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 59, 2008
174
Examination of Elution Solvent of Ion Chromatograph for Detection of Sulfite in Disposable Bamboo Chopsticks
Nahoko HANEISHI*, Reiko KANEKO* and Mitsuo NAKAZATO*
Elution conditions of ion chromatography(IC) for detection of sulfite in disposable bamboo chopsticks notified from ministry
of health,labour and welfare was examined. The separation of sulfite was performed on a anion exchange column with a mixture
of sodium carbonate and sodium bicarbonate as eluent. Ratio and concentration of sodium carbonate and sodium bicarbonate in
the eluent did not influence on sensitivity but influenced on retention time. Flow rate influenced to sensitivity and retention time,
in particular, low flow rate lead to high sensitivity and long retention time. After changing concentration and flow rate of eluent,
detection limit of sulfite increased at 2 times.
Keywords: disposable bamboo chopsticks, sulfite, ion chromatography, eluent, sensitivity
*
Tokyo Metropolitan Institute of Public Health
3-24-1, Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169-0073 Japan
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