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宇宙利用支援システムに関する調査研究報告書

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宇宙利用支援システムに関する調査研究報告書
システム技術開発調査研究
19-R-4
宇宙利用支援システムに関する調査研究
報 告 書
-要 旨-
平成20年3月
財団法人 機械システム振興協会
委託先 財団法人 無人宇宙実験システム研究開発機構
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring-keirin.jp
序
わが国経済の安定成長への推進にあたり、機械情報産業をめぐる経済的、社会的諸条件は急
速な変化を見せており、社会生活における環境、防災、都市、住宅、福祉、教育等、直面する
問題の解決を図るためには、技術開発力の強化に加えて、ますます多様化、高度化する社会的
ニーズに適応する機械情報システムの研究開発が必要であります。
このような社会情勢に対応し、各方面の要請に応えるため、財団法人機械システム振興協会
では、財団法人日本自転車振興会から機械工業振興資金の交付を受けて、機械システムに関す
る調査研究等補助事業、新機械システム普及促進補助事業を実施しております。
特に、システム開発に関する事業を効果的に推進するためには、国内外における先端技術、
あるいはシステム統合化技術に関する調査研究を先行して実施する必要がありますので、当協
会に総合システム調査開発委員会(委員長 東京大学 名誉教授 藤正 巖氏)を設置し、同委
員会のご指導のもとにシステム技術開発に関する調査研究事業を実施しております。
この「宇宙利用支援システムに関する調査研究報告書」は、上記事業の一環として、当協会
が 財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構に委託して実施した調査研究の成果でありま
す。今後、機械情報産業に関する諸施策が展開されていくうえで、本調査研究の成果が一つの
礎石として役立てば幸いであります。
平成20年3月
財団法人機械システム振興協会
はじめに
宇宙開発技術及び民生部品の宇宙転用技術の進展により、衛星の小型化、高機能化、低コス
ト化が可能となったことから、今後の商業市場は大型と小型の 2 極化に進むものと言われてい
る。諸外国においては、災害監視、安全保障、ミッション実証、ベンチャ企業によるアイデア
実証、技術者育成、教育等への小型衛星の利用促進が図れるとして、国家機関、企業等におい
て積極的な小型衛星技術の開発が進められている。また同時に、小型衛星の普及促進には低コ
ストでかつ打上時期、打ち上げ軌道等において、自由度の高い打ち上げ手段の実現が不可欠と
して、低コスト小型ロケットの開発及び検討が進められている。
我が国の宇宙開発の主流は先端技術開発を目指したもので、これら技術はそのまま商用に利
用できるものは少なく、技術の熟成、コスト低減等の産業技術開発のための更なる施策が求め
られている。また、我が国の宇宙開発は、膨大な資金投資を要することから、大企業の独占的
な産業となっているが、宇宙開発の低コスト化を推進し宇宙の敷居を下げることにより、中小
企業、ベンチャ企業の参入を促し、我が国宇宙産業のプレーヤ拡大を図る必要がある。これら
の施策が、宇宙利用の促進による市場の拡大及び新規市場の創成につながり、我が国の宇宙産
業界の活性化に寄与するものと期待されている。
経済産業省及び独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構においては、小型衛星の
利用は初期投資が少ないことから事業リスクが小さく、新規企業の宇宙への参入、新規宇宙利
用産業の創生が期待できるとして、平成 17 年度及び 18 年度にマイクロ衛星に係わる利用ニー
ズ及び技術調査を実施した。この結果、小型衛星の普及、宇宙実証等による技術開発の加速、
宇宙の更なるコスト低減には、機動的な低コスト打ち上げ機会の提供が求められている。これ
らの結果を踏まえて、経済産業省及び独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構は平
成 20 年度より小型化、高機能、短納期を実現する小型衛星の開発に着手する予定である。
世界の打ち上げ市場を見ると、1 トン以下の衛星を単独で打ち上げるロケットは少なく、小
型衛星打ち上げは他の衛星との相乗り(マイクロ衛星にあっては、ピギーバック)打ち上げに
頼らざるを得ず、打上機会及び打上時期が極端に制限されている。諸外国においては、小型衛
星の機動的な運用、将来の小型衛星市場を睨んで次世代の低コストで機動性の高い打ち上げ手
段の実現を目指した開発、検討が進められている。この中で、低コスト化の実現性が高く、打
上げ場所設定の自由度が高い空中発射システムの有効性が高く評価されている。また、空中発
射システムは、将来の再利用型システム開発のためのステップとしても位置付けられている。
我が国の衛星打ち上げは、大型衛星の打ち上げ能力を持つ H-IIA ロケットしかなく、開発中
の GX ロケット及び計画中の新固体ロケットも打ち上げ能力としては 1 トン以上を有するもの
であり、諸外国で検討されている小型衛星の普及に必要な小型ロケットの検討は成されていな
い。我が国の衛星打ち上げ用のロケットの開発、製造及び打ち上げは、独立行政法人宇宙航空
研究開発機構(JAXA)がロケットの先端技術開発を目的として進めてきたもので、打ち上げ商
業市場への投入を目的としてリカリングコストの低減を目指して開発されたものではない。
2006 年 6 月の総合科学技術会議において、JAXA での開発終了後に民間移転し宇宙活動の活性
化を図ることとなったものの、打ち上げは民間から JAXA に委託し種子島宇宙センタから打ち
上げるものである。
日本の衛星打ち上げ射場としては、JAXA の種子島宇宙センタ及び内之浦宇宙空間観測所の 2
ヶ所があるが、日本の特異な状況である漁業対策のために打上期間は漁期を避けた年間 190 日
間に限定されていることから、商業打ち上げにとっては大きなマイナスになる。
本調査研究は、宇宙利用サービス等において宇宙に知見のない企業等でも参入を容易にし、
小型衛星の普及促進を加速するものとして、平成 18 年度に実施した「マイクロ衛星打ち上げ
用空中発射システムに関する調査研究」を踏まえて、空中発射システムと小型衛星を組み合わ
せて低コストで打ち上げ機会を提供できる、「宇宙利用支援サービス」について調査研究を行
うものである。
平成20年3月
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構
目
次
序
はじめに
1 調査研究の目的 ............................................................. 1
2 調査研究の実施体制 ......................................................... 2
3 調査研究の内容 ............................................................. 7
3-1 技術動向調査 ............................................................... 8
3-1.1 小型衛星の動向 ........................................................... 8
3-1.1.1 米国................................................................. 8
3-1.1.2 欧州................................................................. 8
3-1.1.3 中国................................................................. 9
3-1.1.4 ロシア............................................................... 9
3-1.1.5 イスラエル........................................................... 9
3-1.1.6 インド............................................................... 9
3-1.1.7 韓国................................................................. 9
3-1.1.8 小型標準バス ........................................................ 10
3-1.2 空中発射システムの技術動向 .............................................. 11
3-1.2.1 既存航空機を適用した空中発射システム検討動向 ........................ 11
3-1.2.2 母機の開発を伴う空中発射システム検討動向 ............................ 12
3-1.2.3 空中発射システム開発の長期的展望(将来再使用ランチャー戦略) ........ 13
3-2 宇宙利用支援システムの検討 ................................................ 21
3-2.1 ミッション要求の検討 .................................................... 21
3-2.1.1 衛星のサイズと運用軌道 .............................................. 21
3-2.1.2 衛星搭載............................................................ 21
3-2.2 運用構想 ................................................................ 21
3-2.3 システム構成と機能配分 .................................................. 22
3-2.4 空港 .................................................................... 23
3-2.4.1 下地島空港.......................................................... 23
3-2.4.2 大樹町多目的航空公園 ................................................ 24
3-2.5 航空機 .................................................................. 24
3-3 マイクロ衛星システム検討 .................................................. 30
3-3.1 マイクロ衛星システム検討条件設定 ........................................ 30
3-3.1.1 打上げシステムインタフェース ........................................ 30
3-3.1.2 マイクロ衛星ミッション調査 .......................................... 30
3-3.2 マイクロ衛星システム検討 ................................................ 31
3-3.2.1 50kg級マイクロ衛星 .................................................. 31
3-3.2.2 100kg級マイクロ衛星 ................................................. 32
3-3.2.3 300kg級マイクロ衛星 ................................................. 32
3-3.3 ミッションインタフェース検討 ............................................ 33
目
次(続き)
3-3.3.1 50kg級マイクロ衛星のインタフェース .................................. 33
3-3.3.2 100kg級マイクロ衛星のインタフェース ................................. 34
3-3.3.3 300kg級マイクロ衛星のインタフェース ................................. 34
3-3.3.4 標準バスの適用ミッション例 .......................................... 35
3-3.4 開発計画策定 ............................................................ 35
3-4 打上げシステムの検討 ...................................................... 40
3-4.1 システム運用検討 ........................................................ 40
3-4.1.1 打ち上げ場所 ........................................................ 40
3-4.1.2 ロケット打上げ管制 .................................................. 41
3-4.2 ロケット性能の検討 ...................................................... 43
3-4.2.1 母機からのロケット分離条件と打上能力 ................................ 43
3-4.2.2 ロケットの形態と打上能力 ............................................ 44
3-4.3 ロケットシステムの技術検討 .............................................. 46
3-4.3.1 航空機搭載、分離方式の調査 .......................................... 46
3-4.3.2 アビオニクス系の技術検討 ............................................ 49
3-4.3.3 低コスト化に係る民生部品の調査 ...................................... 50
3-4.4 技術課題の整理 .......................................................... 53
3-4.4.1 宇宙利用支援システムの技術課題 ...................................... 53
3-4.4.2 開発ステップ ........................................................ 54
3-5 法規制に係わる調査検討 .................................................... 72
3-5.1 民間の宇宙活動に関する宇宙先進国の法制度 ................................ 72
3-5.2 私企業の宇宙活動に適用可能な現行法制 .................................... 73
3-5.3 宇宙基本法(案)による今後の展望 ........................................ 75
4 まとめ .................................................................... 76
5 調査研究の今後の課題及び展開 .............................................. 80
参考文献 ...................................................................... 84
1 調査研究の目的
宇宙では地上と異なる特異な環境に曝されることから、地上技術とは異なる特別な配慮が
必要となる。このため、宇宙の商業市場においては低コストであり、かつ実証されたすなわ
ち宇宙で使用された実績のある技術の適用が求められる。しかし、我が国の宇宙開発は先端
技術開発を目的とすることから商用衛星等低コスト化に資する産業技術開発の機会に恵ま
れず、また大規模プロジェクトであることから、開発機会も非常に数少なく大企業の寡占状
態となっている。宇宙産業の活性化を図り世界の商業市場における競争力強化には、特異な
かつ高度な技術を有する中小企業等の宇宙産業への参入の促進、宇宙の低コスト化に資する
施策が期待されている。
宇宙の低コスト化、利用の促進として、経済産業省及び独立行政法人新エネルギー・産業
技術総合開発機構の「SERVIS プロジェクト」として、民生部品・民生技術の宇宙転用のため
のガイドラインの策定、初期投資が少なく事業リスクの小さいマイクロ衛星の調査が進めら
れている。また、財団法人機械システム振興協会の調査研究として「マイクロ衛星打ち上げ
用空中発射システムに関する調査研究」
、ロケットに係わる研究者及び技術者有志の研究会
として「固体ロケットコスト低減研究」が行われている。これらの成果を活用することによ
り、ロケットと衛星からなる低コストで即応性の高い宇宙利用支援システムの実現が可能と
なる。
本調査研究では、これまでの各機関等で実施された成果を活用して宇宙へのアクセス機会
を提供する、宇宙利用支援システムの構築に係わる技術検討を行う。本システムは、マイク
ロ衛星、打ち上げシステム、運用等から構成され、技術の宇宙実証、宇宙利用を低コスト、
短期間で実現する利便性の高いものである。本システム実現は、宇宙の知見がない事業者に
あっても宇宙への参入が容易になり、宇宙産業の裾野の拡大、新たな宇宙利用事業の創成が
期待でき、我が国の宇宙産業の競争力強化、活性化に寄与する。
1
2 調査研究の実施体制
本調査研究の実施体制は、財団法人機械システム振興協会内に「総合システム調査開発委員
会」を、財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構内に「次世代衛星輸送インフラ検討委員
会」を設置し、本調査研究の計画、実施状況、実施結果について意見・アドバイスをいただき
ながら進めた。技術検討、評価は財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構で実施したが、
検討に必要な情報収集は外注作業として企業に請け負わせて実施した。また、基本となる衛星
及び固体ロケットシステムに係わる解析、打ち上げに必要な支援システムの検討は、機構の技
術要求に基づき専門企業に再委託し実施した。
財団法人機械システム振興協会
総合システム調査開発委員会
委 託
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構 (USEF)
次世代衛星輸送インフラ検討委員会
株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース
:打上システム検討及び運用検討、技術課題の整理
日本電気株式会社
:小型衛星に係わる技術情報収集及び技術整理
有限会社オービタルエンジニアリング
:ロケット用アビオニクスの低コスト化に係わる民生部品等の情報収集
シー・エス・ピー・ジャパン株式会社
:低コスト打上げ、法規制等に係わる情報収集及び整理
2
各役割・構成は以下のとおりである。
・財団法人機械システム振興協会、総合システム調査開発委員会は、全体の進行や作業状況の
チェックを行い、成果報告書を確認する。
・財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構は、外注先からの技術情報、再委託先からの解
析、検討結果等をもとに、技術動向分析、システム検討、全体のとりまとめを行う。
・次世代衛星輸送インフラ検討委員会は、大学、省庁、独立行政法人宇宙航空研究開発機構等
の研究者等で構成し、調査研究計画、実施状況、実施結果の妥当性等の審査を実施する。
・再委託先の株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペースは、固体ロケットシステムのシス
テム、サブシステム機器等の解析、省力化、期間短縮等を実現するための運用方法の検討、
空中発射システムの実現に係わる技術課題の整理及び課題解決のための方策を検討する。
・外注先として、シー・エス・ピー・ジャパン株式会社は低コスト打上げ、法規制等に係わる
情報収集を、有限会社オービタルエンジニアリングはロケット用アビオニクスの低コスト化
に係わる民生部品等の情報収集情報収集を実施する。
3
総合システム調査開発委員会の委員名簿を以下に示す。
総合システム調査開発委員会委員名簿
(順不同・敬称略)
委員長
東京大学
藤 正
巖
名誉教授
委 員
埼玉大学
太 田 公 廣
地域共同研究センター
教授
委 員
独立行政法人産業技術総合研究所
金 丸 正 剛
エレクトロニクス研究部門
副研究部門長
委 員
独立行政法人産業技術総合研究所
志 村 洋 文
産学官連携推進部門
産学官連携コーディネータ
委 員
東北大学
工学研究科 教授
中 島 一 郎
(未来科学技術共同研究センター長)
委 員
東京工業大学大学院
廣 田
薫
総合理工学研究科
教授
委 員
東京大学大学院
藤 岡 健 彦
工学系研究科
准教授
委 員
東京大学大学院
大 和 裕 幸
新領域創成科学研究科
教授(副研究科長)
4
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構内に置かれた「次世代衛星輸送インフラ検討委
員会」の委員名簿を以下に示す。
氏
名
所 属 ・ 役 職
委 員
雛田 元紀
宇宙科学研究所名誉教授
委 員
青木 節子
学校法人慶應義塾大学総合政策学部教授
委 員
稲谷 芳文
委 員
小川 博之
委 員
景山 正美
防衛省技術研究本部航空装備研究所研究企画官
委 員
清原 博
むさし国際法律事務所所長
委 員
徳留 真一郎
委 員
林 友直
学校法人千葉工業大学附属総合研究所教授
委 員
横山 幸嗣
学校法人千葉工業大学附属総合研究所専任研究員
オブザーバ
村田 真一
オブザーバ
松田 聖路
株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース
オブザーバ
足立 忠司
株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース
オブザーバ
横手 淳
株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース
オブザーバ
長岡 信明
日本電気株式会社
オブザーバ
金岡 充晃
シー・エス・ピー・ジャパン株式会社
オブザーバ
山口 耕司
有限会社オービタルエンジニアリング
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系教授
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系助教授
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
宇宙科学研究本部宇宙輸送工学研究系助教授
経済産業省製造産業局航空機武器宇宙産業課
宇宙産業室宇宙開発一係長
5
(続 き)
氏
名
所 属 ・ 役 職
オブザーバ
知久 多喜眞
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構
オブザーバ
金井 宏
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構
事務局
冨士 隆義
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構
事務局
佐々木 謙治
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構
事務局
浜 一守
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構
事務局
牛越 淳雄
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構
6
3 調査研究の内容
本システムに係わる、衛星、空中発射システム等の国内外の動向調査を行い、システム構
築のための技術検討を行う。
(1)技術動向調査
マイクロ衛星、空中発射システム等に係わる諸外国における技術動向の調査を行う。
(2)宇宙利用支援システム構想検討
宇宙利用支援システムの構想検討を行い、その構成要素であるマイクロ衛星、打ち上げ
システム、運用等に係わる機能配分等の検討を行う。
検討にあたっては、利用者とのインタフェース作業、打上げに向けたマイクロ衛星及び
ロケットの整備、打上作業などの省力化、期間短縮を図ることを考慮する。
(3)マイクロ衛星システム検討
マイクロ衛星の技術動向等に基づき、コスト低減を念頭に多用なミッションへの対応を
考慮したバスシステム、機能配分、ミッションインタフェースの標準化、ミッション機器
へのリソース配分等の検討を行う。
(4)打ち上げシステム検討
空中発射システムの技術動向等に基づき、ロケットシステム、支援システムの概念検討
を行う。検討にあたって、低コスト化を考慮したサブシステム、コンポーネントレベルの
機能・性能の基本計画を設定し、民生部品等の適用等よる低コスト化の可能性及び必要な
研究・開発ステップを示す。
(5)法規制に係わる調査検討
本システムの運用及び産業利用の促進に係わる法規制の整理を行い、対処方針等につい
て検討を行う。
7
3-1 技術動向調査
3-1.1 小型衛星の動向
小型衛星は、大型衛星に比し低コスト化、開発期間の短縮が図れることに加え、基盤技術(電
子部品・機器の小型化、MEMS の進歩など)の進展等により高機能化が可能となったことから、
中・大型衛星によるミッションを代替あるいは補完し得る能力を確保しつつある。このため、
諸外国では、小型衛星の研究・開発、利用が進みつつある。
3-1.1.1 米国
3-1.1.1.1 政府及び議会の認識
小型衛星に関して、上院予算歳出委員会では 2006 年度予算議会レポートのなかで以下のよ
うに小型衛星をサポートする考え方を示している。
また、ブッシュ大統領が 2000 年 1 月に発表した米国家ナノテクノロジー・イニシアティブ
(NNI)のグランドチャレンジ(挑戦的研究)において、小型宇宙機が宇宙探査の鍵となる要
素として位置付けられている。
3-1.1.1.2 国防総省
小型衛星を巡る米国の最近の議論を概観すると、民事・商業利用分野、安全保障分野共にそ
の有用性、将来性には高い関心が示されているものの、事業戦略、ビジネス戦略、安全保障戦
略上の位置付け、取り組みの姿勢についてはそれぞれ温度差が見られる。米国でマイクロ衛星
に最も注目し、戦略上明確に位置付けているのは安全保障上の有用性を高く評価している国防
総省(DoD)であり、“Operationally Responsive Space (ORS)”の研究開発において、DARPA
が大きな役割を果たしている。
3-1.1.1.3 NASA
NASA では、戦略計画書においてマイクロ衛星が明確には位置づけられていないが、90 年代
後半から科学探査ミッションを中心に衛星の小型・高機能化が進められ、将来の技術戦略の一
方向として、マイクロ衛星の革新的な機能・性能向上を MEMS などの高機能化技術を使って達
成することを目指してきた。NASA の技術開発戦略及び戦略技術分野が包括的に示された「NASA
技術計画(NASA Technology Plan)」では革新的で重要な技術の第一に先端小型化技術が挙げ
られている。
3-1.1.1.4 民間の動き
小型衛星に対して、米国民間企業も具体的な動きを見せている。例えば、民間初の月探査機
の開発を進めている SpaceDev 社は 2005 年 11 月 7 日、新しい小型衛星バスプログラム
“SpaceDev Modular Microsat Bus” を発表した。
また、
AeroAstro 社は、
EELV Secondary Payload
Adapter(ESPA)プログラムの最初のミッションとして 2006 年に打ち上げ予定の STPSat-1 の
主契約社であり、同プログラムを通じて技術の蓄積を図っている。
3-1.1.2 欧州
NASA に比べて小型衛星プログラムが多く、特に月を含めた惑星探査に小型衛星を積極的に利
8
用しようという気運が強い。また、Proba、SMART ミッションを通して、小型衛星の有効性を認
識したと思われる。英国の SSTL 社は、諸外国の技術者育成、技術移転等を通じて、自社衛星
の海外展開を進めるとともに、100kg 級の商用衛星を目指した開発を行っている。
2004 年 9 月に開催された ESA/CNES 主催の 4S(Small Satellite Systems and Service)シ
ンポジウムでは小型衛星による編隊飛行の有効性が議論された。
小型衛星は、コンステレーション化することにより、少ない予算で諜報等の軍事宇宙能力の
向上、地球観測ミッションの高度化に寄与し、、エレクトロニクス技術の進展がプログラムコ
スト削減に有効な手段とされている。
3-1.1.3 中国
中国は「十五」計画(第 10 次 5 ヵ年計画=2001~2005 年)で小型衛星の開発利用をハイテク
分野における 20 の重要項目の一つとして掲げ、「863 計画」(1986 年 3 月に提案された中国
における「ハイテク研究発展計画」)によって積極的に開発を推進した。
中国空間技術研究院(CAS)は独自の小型衛星バス CAST968 を開発し欧州などと国際協力を
推進している他、ベンチャ企業「航天清華衛星技術有限公司(HTST 社)が 50~60kg クラスの
マイクロ衛星を SSTL 社の技術協力を得て開発し商業サービスを展開中している。また、中国
は MEMS、ナノテクノロジー分野でも積極的な研究開発を行っている。
3-1.1.4 ロシア
2006 年に入り新しいロシア連邦宇宙プログラム(2006 年~2015 年)を公表した。火星研究、
宇宙周囲環境監視システムなどのプログラムが含まれている。ロシアは軍事技術研究等を背景
に小型衛星関連技術を蓄積しているほか、Dnepr ロケットなど低コストの打ち上げ手段を保有
しており、国際市場で優位な展開を図っている。
3-1.1.5 イスラエル
2005 年 6 月、イスラエルの IAI 社とラファエル社がマイクロ衛星に特化したベンチャ企業設
立で合意、MicroSat Ltd 社を設立した。新会社は重量 10kg 程度~120kg の小型衛星の共同開
発と販売を行う。最初の事業は CNES と共同の VENUS プログラムである。
3-1.1.6 インド
インド宇宙研究機構(ISRO)は、アマチュア無線用マイクロ衛星 HAMSAT(43.5kg)を 2005
年 5 月、CARTOSAT-1 とともに打ち上げた実績を有するほか、Anna 大学 Aerospace Research
Centre とマイクロ衛星 ANUSAT(50kg)の共同プログラムを進めている。このプログラムは 2002
年 1 月に ISRO によって承認され、インドにおけるマイクロ衛星開発及び利用の COE(Center of
Excellence)を構築し、MEMS の利用など将来に向けた技術蓄積を図るほか、学生の教育機会の
提供などを目的としている。
3-1.1.7 韓国
韓国は、 韓国航空宇宙研究所(KARI)が 2003 年 9 月に「科学技術衛星1号」(重量 110kg)
のマイクロ衛星を打ち上げたほか、衛星ベンチャ企業の SaTReC-i 社がマレーシアの国有企業
とマイクロ衛星の共同開発を行うなど、官民両サイドで小型・マイクロ衛星の開発に積極的で
9
ある。さらに、数年内に独自に開発したロケットで 100kg の科学衛星を宇宙センター(建設中)
から打ち上げる計画を有するなど、マイクロ衛星とその打上げ手段の双方の獲得を急いでいる。
3-1.1.8 小型標準バス
諸外国では、衛星の低コスト化を目指した小型衛星バスの標準化が進められており、ナノ衛
星、マイクロ衛星、ミニ衛星と各用途に応じた使い分けがされている。各衛星は、個別に機能
するだけではなく、技術戦略に基づいて有機的に連携してそれぞれの役割を担い、全体として
宇宙全体の活性化、技術の向上に寄与している。
地球観測ミッションを搭載した世界の小型衛星の一覧を表 1.1-1 に示す。
表 1.1-1 小型地球観測衛星
質量区分
50kg級
100kg級
200kg級
質量区分
300kg級
400kg級
衛星
DLR-TUBSAT
国名
ドイツ
Maroc-Tubsat
モロッコ、ドイツ
運用機関
DLR
質量 軌道高度 軌道傾斜角
ミッション
45 716*737
98.36
3head CCDカメラシステム
47
830
98.85
EIC(地球イメージングカメラ):3CCDカラーカメラ
Low resolution video Camera:CCDカメラ
Micron1
ウクライナ
NKAU
66
280*640
82.6
OrbView1
USA
OrbImage
68
733*749
69.99,SSO
NigeriaSat1
AlSat1
ナイジェリア
アルジェリア
CNTS
80
90
686
981*752
SSO、98.2 高走査幅マルチスペクトル撮像システム
98.2
3 Spetral bands
Bird1
ドイツ
DLR
92
551*580
97.8
BNSCSat1
イギリス
Briish National Spae Centre
100
686
SSO,98.2
TacSat1
USA
NRL,DoD
110
540
64
DEMETER
フランス
CNES
120
800
98.7
661
98.1
Parasol
フランス
CNES
120
AlSat2A,2B
アルジェリア
CNTS
130
Bilsat1
トルコ
TUBITAK-ODTU-BILTEN
130
686
SSO,98.2
RapidEye1,2,3,4,5
RazakSat/MACSAT
EROS-A1,2
Clark(SSTI2)
ドイツ
マレーシア
イスラエル
USA
RapidEye
Imagesat international
NASA
150
200
250
284
620
685
480
475
97.79
7
SSO
97.3
288
523
124*134
97.5
97.5
TV camera of visible range
OTD:OpticalTransient Detector
GPS/MET:an atmospheric monitoring instrument
two-channel infrared Hot Spot Recognition Sensor
system(HSRS)
Wide-Angle Optoelectronic Stereo Scanner(WAOSS-B)
imager in 3 spectral bands
IR camera
visible-light digital camera
IMSC(3つのサーチコイル磁気センサによる3軸磁気観測システ
ム)
ICE(4種のセンサによる電気観測システム)
IAP(プラズマ分析器)
ISL(Langmui測器)、IDP(粒子検知器)
POLDER-P
2.5meters in panchromatic mode
10 metres in each of 4colour bands in multispectral mode
Lewis(SST1)
USA
NASA
衛星
国名
運用機関
NigeriaSat2
ナイジェリア
OrbView3
Orbview2
Earlybird1
SMOS
EROSB
EROSC
USA
USA
USA
ESA
イスラエル
イスラエル
GeoEye
GeoEye
Earthwatch Inc.
ESA
Imagesat international
Imagesat international
HY1
中国
CAST
Bhaskara1
インド
TacSat2
USA
AFRL,DoD
ROCSAT1/FORMSAT1
台湾
NSPO
402 588*601
35
OCO
USA
NASA
430
98.2
DSCOVER
USA
NASA
440
Bhaskara2
インド
Kompsat1
韓国
KARI
Jason1
USA
NASA,CNES
500
1366
66
Jason2
USA
NASA,CNES
553
1336
66
質量 軌道高度 軌道傾斜角
3spectral bands, COBAN, GEZIN
COBAN,is a nine-band low resolution multi-soectral image
CCD-based earth imaging
MAC
CCDカメラ
Worldview,MyMaps,X-ray Spectrometer,Atmosph.Tomography
HIS:Earth imaging Hyperspectral Imager
LEISA:Linear Etalon Imaging Spectral Array
UCB:Ultraviolet Cosmic Background
ミッション
高分解能イメージャー
広域マルチスペクトルイメージャー
304
470
97、SSO 0.45-meter aperture camera
309
470
97.2、SSO 0.45-meter aperture camera
317 480*488
97.3
Early Bird Imaging Sensor
317
763
98.4
MIRAS
350
560
SSO
larger camera og CCD/TDI type
350
500
SSO
Camera with CCD/TDI
10-band ocean color scanner
360
798
SSO,98.8
4-band CCD imager
TV camera system
360 495*515
50.7
SAMIR
Pinhole X-ray sky survey
375
419
40
ESI(地表面イメージャー)
300
700
SSO
705
L1-Orbit
444 512*517
50.7
469 694*729
98.28
500kg級
10
Ocean Color Imager
Experimental Communication Payload
Ionospheric Plasma and Electrodynamics Instrument
CO2全量測定用高分解能分光計
Scripps-EPIC
Scripps-NISTAR
Plasma-mag
two-band TV Camera
two-frequency satellite microwave radiometer
Electro-OpticalCamera
Ocean Scaning Multispectral Imager
Space Physics Sensor
JMR,TRSR,LRA
Poseidon2,DORIS
Poseidon-3,WSOA
AMR,DOIS,GPSP,LRA
3-1.2 空中発射システムの技術動向
空中発射システムは、米国、ロシア、ウクライナ、カザフスタン、イスラエル、フランス、
スペイン、中国、韓国、日本がシステム検討をしている。(図 1.2-1)2007 年における空中発
射検討動向一覧を母機流用型と母機新規開発型に分けて表 1.2-1 に示す。
[ロケット搭載方式]
は、図 1.2-2 示すように‘背負い式’、‘吊下げ式’、‘空中給油式’、‘ワイヤー牽引式’、
‘放出落下式’があるが、最も主流と考えられるのは航空機(母機)側の改造要素が比較的少
なくなる‘吊下げ式’と‘放出落下式’である。
3-1.2.1 既存航空機を適用した空中発射システム検討動向
(1) QuickReach(Airlaunch LLC)
Airlaunch LLC のロケット QuickReach は、C-17 を母機とする空中発射システムであり、打
上げ方式は貨物扉による放出落下式である。このロケット開発は、米国の DAPRA が技術的チャ
レンジとして開発している FALCON 計画の一端として実施されている。この FALCON 計画は
Airlaunch LLC の 他 に 、 Lockheed Martin 、 Microcosm 、 Space Exploration Technologies
Corporation(SPACEX)の 4 社で開発を行っている。FALCON ロケットは、高度 200km、傾斜角
28.5 度の低軌道へ、重量 1000lbs(450kg)の衛星を打上価格$5million(約 6 億円)で 24 時
間以内に打上げ可能という要求に基づいて開発されている。QuickReach ロケットは液体エンジ
ンであり、液体酸素と取扱の簡単なプロパンを使用している。QuickReach の構成を図 1.2-3、
飛行プロファイルを図 1.2-4 に示す。
Airlauch LLC の開発は、2004 年から Phase 2A($11mil)、2005 年 9 月から Phase 2B($17.8mil)
が実施され、2008 年初頭現在、Phase 2C(図 1.2-5)が進行中であるり、2010 年までに、ORS
が要求する即応型宇宙システムを達成目標としている。
(2) Rocket Starflyer Inc.(NF-104)
Rocket Starflyer Inc.は、NF-104 を使用した弾道飛行型宇宙旅行ビジネスと衛星打上げ空
中発射システムとして、複座型の F-104 を入手して機体尾部エンジンを新型化させ、液体燃料
タンク容量を増加して、高度 100km まで上昇できる機体を開発すると発表した。NF-104 の機体
改造計画を、図 1.2-10 に示す。Rocket Starflyer Inc では、過去の技術遺産と新規技術を加
えて、早期にビジネス入りするプランを発表した。
(3) ISHIM
ロシアとカザフスタンの共同開発の予定だった、
Mig-31I を利用した空中発射システム ISHIM
(図 1.2-7)が、カザフスタン独立運動に対するロシア側の拒否反応により中止された。今後
はロシア単独開発になるとされている。
(4) Air START 計画(POLYOT)動向
An-124 と 3 段式の液体ロケット POLYOT の組み合わせによる空中発射システム Air START 計
画(Air Launch Aerospace Corporation(ALAC))は、2007 年 8 月段階では設計概要を完了し
ており、LEO 3000~4000kg、GTO 1600~1700kg、GEO 600~800kg の打上げ能力を有している。
打ち上げ射場としては、ロシア国内の他スリランカのコロンボ、インドネシアのビアク島や
11
スラバヤ、南アフリカ、ブラジルのアルカンタラへの進出を計画している。
Air START は“微小重力+圧力打ち出し方式”を採用している。ロケットが収納された円筒を
航空機の胴内に搭載し、ズームアップによる微小重力下において円筒内のロケットを圧力によ
り打ち出し、ロケットを前部より放出している。放出された POLYOT は、放出落下後に機体か
ら距離 250m 離れた段階で点火される。Air START の概要を図 1.2-8 に示す。
AIRSTART 計画は開発期間 3 年で運用は 20 年としている。開発費$120-130mil(120 億円~130
億円)、打上費用$20-23mil(20 億円~23 億円)で、年間打ち上げ回数を 5~6 回とし、開発
費は運用開始から 4 年~5 年で回収可能としている。
3-1.2.2 母機の開発を伴う空中発射システム検討動向
母機を新規開発するコンセプトは、開発期間に時間を要するものの、将来の空中発射システ
ム能力向上と再使用ロケット化に繋がると指摘されている。その計画一覧を表 1.2-2 に示す。
(1) 米国
米国は XCOR が実機開発、
SPACEWORKS がコンセプト発表、
Lockheed Martin、
Orbital Sciences、
Northrop Grumman が研究中である。
XCOR は有人弾道飛行型宇宙旅行機であり、空中発射システムは副次的なミッションとして位
置付けられている。SPACEWORKS は、ARES(Affordable REsponsive Spacelift Hybrid Operational
System)を 2006 年後半に発表した。ARES の第一段目は高速無人再使用機として垂直打上げさ
れ、マッハ数 7、高度 50km まで上昇、上段の使い捨てロケットを切離す。ARES の飛行プロフ
ァイルを図 1.2-9 に示す。
Orbital Sciencess、Lockheed Martin、Northrop Grumman は HLV(Hybrid launch Vehicle:
図 1.2-10)の技術検討を実施している。これは 2006 年に USAF がコンセプト研究契約として実
施したもので、HLV の要求は、1 段目再使用、2 段目使捨ロケットである。
(2) フランス
フランスでは、小型ランチャーとしてラファール戦闘機と輸送機を利用した空中発射システ
ム、多目的型無人航空機の亜音速飛行による空中発射システム PERSEUS project、アリアン5
の補助ブースターを飛行回収させる高速無人再使用機の研究(BARGOUZIN)と、第一段目の高速
無人再使用機のコンセプトを流用し、第 2 段目も再使用する EVEREST を公表している。
CNES では 2015 年~2025 年での実現を目指して、小型ランチャーとして、地上打上げランチ
ャーと空中発射システム計画
(図 1.2-11)
を 2007 年に発表した。
地上発射ロケットは MINI-VEGA
や LYRA を計画し、空中発射システムとしてラファール戦闘機(MLA)や貨物機(MLAL)を利用
した案を計画、将来は再使用機として MLR を計画している。
PERSEUS project(図 1.2-12)は、亜音速空中発射システム(DEDALUS)であり、UAV に固体
ロケットやハイブリッドロケットを使用して吊下搭載する一方、貨物輸送、観測カメラ搭載(偵
察)のミッションをこなす。
CNES では、
ASTRIUM やロシアのスニマッシュ
(Tsniimash)
とモルニア(Molnya)と共に Ariane-5
ロケット技術を流用した補助ブースター回収(再使用型ブースター)の研究をしている。
BARGOUZIN(図 1.2-13)と命名された飛行回収型ブースター(高速無人再使用機)であり、補
助ブースターを飛行帰還させる技術修得を目標にしていると見られる。
12
EVEREST は、CNES と EADS Space Transportation、Dassault によって検討されている。設計
コンセプトは 2004 年と 2006 年、2007 年(図 1.2-14)に公表されている。
(3) ロシア
ロシアでは Khrunitchev やモスクワ大学らが、高速無人再使用機の研究をしている。これは
新規に開発中の Angara ロケットのバリエーションとして、ロケットエンジンはケロシン/液
体酸素とし航空機エンジン RD35 に展開翼を搭載した、高速無人再使用機(飛行回収型ブース
ター)の Angara-Baikal である。Angara-Baikal は垂直に打上げられ、高度約 60km、速度 M5.64
で上段の使捨ロケットを分離する。Angara-Baikal の飛行プロファイルを図 1.2-15 に示す。
Angara はライト型、ミッド型、ヘビー型が計画されており、ヘビー型の全体重量は 773 トンで
低軌道へ 24.5 トンの投入が可能とされている。その Angara の将来バリエーション(図 1.2-16)
として再使用化が計画されており、Angara-Baikal として高速無人再使用機(飛行回収型ブー
スター)が検討されている。
3-1.2.3 空中発射システム開発の長期的展望(将来再使用ランチャー戦略)
米国、ロシア、フランスでは、空中発射システムから将来の TSTO に向けた、段階的な発展
シナリオを作成している。(図 1.2-17)
(1) 米国
米国では打上手段における戦略・政策は国防関連機関が担当している。DELTA-IV、ATLAS-V、
MINOTAUR 等の多くの打上手段は国防関連機関の予算で管理・開発されている。米国では将来の
再使用化を含む、将来輸送手段み向けた中長期の技術開発計画を示している。
(図 1.2-18、-19)
<米国の将来へ向けた技術開発事項>
・ 再使用・長寿命・推進エンジン開発、エアフレーム、熱防御システム、短期的修理可能な
システムを構築
・ 低費用、高信頼性の使い捨てアッパーステージ
・ 自動的で適応能力を有した離陸(打上)・運用・帰還システム
・ ミッション実施は 48 時間以内
・ 高信頼性組立システムとヘルスモニタ機能を有し、飛行中でも進路変更が可能
(2) ESA
欧州宇宙組織 ESA でも 2025 年以降へ向けて新規輸送手段をめざした FLPP(Future Launchers
Preparatory Programme:図 1.2-20)という、将来ランチャー準備計画がある。これは、2020
年以降のランチャー計画を模索しようとするもので、使捨型・再使用型ランチャー双方を研究
開発するとしている。この再使用ロケット時代へ向けて、2007 年 8 月 ESA が再使用ロケットエ
ンジン開発を実施すると公表された。
ESA では 2020 年~2025 年にかけて次世代ランチャーの運用開始を目標としており、再使用
型ロケットも提案の 1 つとして含まれている。EADS Astrium は将来の再使用型ランチャーのコ
ンセプトを発表し、有翼型の RBCC エンジンのフライバックブースター及び有翼の上段もしく
は使捨上段が検討されている。
CNES と EADS Astrium では 2030 年以降のランチャー案
(図 1.2-21、
13
-22)を発表している。[Vulcain-2 エンジンを使用した BARGUZIN] 、[Vulcain エンジンを次世
代化した VEDA を利用した EVEREST]、[VEDA エンジンか VOLGA エンジンを利用した AMAZONE]コ
ンセプト案を 2007 年 10 月に発表した。このほかにも低費用のエンジンを目標にした VIKING-H
を計画し、将来の使捨・再使用ランチャーエンジンを開発するとしている。
また CNES は、大型の ARIANE-V、中型の SOYUZ、小型の VEGA ランチャーを構築(図 1.2-23)
後に、VEGA より小型のランチャーを 2015 年~2020 年にかけて計画(図 1.2-24)している。
(3) ロシア
ロシアの長期ロードマップは公表されていないが、再使用ロケット戦略ビジョンを有してい
るものと考えられる。
・
1990 年代にエネルギアがロシア版スペースシャトル BURAN(ブラン)計画の延長で
TSTO 計画を公表していたこと
・
再使用ロケットを研究中であること(Baikal)
・
ロシアがヨーロッパ(特に CNES)と共同開発(メタンエンジンや BARGUZIN システム)
に参加していること
・
ロシア技術をアメリカが取り入れていること(RD-180 エンジン、NK-33 エンジン、
QUICKREACH のプロパンエンジン、ZENIT-3SL ロケット等)
・
ロシア自身も技術的知見を有していること
表 1.2-1 空中発射システム検討動向一覧(母機が航空機)
Launch Vehicle
SR19+ORION50XL+ORION38
Boeing/Orbital Science
液体エンジン等
P80+CASTOR120+ORION50
Peacekeeper(固体&液体)
Lockheed Martin
Northrop Grumman/PAN AERO名称不明(液体)
Quickreach(液体)
Airlaunch LLC
名称不明(固体)
Space Launch
Japan HASTIC(hybrid)
RocketPlane
NK33+ORION50
SPACEWORKS Engineering
不明(固体)
General Kinetics Inc
名称不明(concept study1) NK33+ORION50
名称不明(concept study2) CASTOR120+ORION50
名称不明(concept study3) SR19+ORION38
名称不明(concept study4) 固体
Russia
ISHIM(固体)
Russia/Australia/UK
M-55 launcher(固体)
Air Launch System Inc
Polyot(液体)
Yuzhnoyes SDO
Svitiaz(液体)
CNES/ONERA
MLA(Micro Launcher Airborne)
CNES/ONERA
MLAL(Mini Launcher Airlaunched)
CNES/ONERA
MLR(Micro or Mini launcher reusable)
RAFAEL
LAL(固体)
RAFAEL
HAL(固体)
INTA
AQUARIUS(固体)
CNSA
名称不明(固体)
KARI
名称不明(固体)
ISAS/旧日産(IHI Aerospace) M-V (固体)
ISAS/旧日産(IHI Aerospace) SS-520(固体)
USEF/IHI Aerospace
固体ロケット(50、9トン級)
USEF/IHI Aerospace
固体ロケット(9トン級)
USEF/IHI Aerospace
固体ロケット(9トン級)
Coutry/Company
アメリカ
ロシア
ウクライナ
カザフスタン
フランス
イスラエル
スペイン
中国
韓国
日本
Aircraft
搭載方式
分離速度
F-15GSE
背負、胴体吊下式 超音速
C-5
An-124VS
F-14
C-17
F-4G
Modify Reajet25(XP)
Modify C-5(twin C-5)
NF-104
B747-400
B767
MD11
NB-52H
MiG-31I
M-55
An-124AL
Modify An-225
ラファール
貨物機(機体不明)
機体不明
F-15
B-747
F-18、E-2000
不明
F-15K
B-747
C-130, F-15
B-747
C-X
F-15
背負式
亜音速
放出落下式
亜音速
胴体吊下
超音速
放出落下式
亜音速
胴体吊下
超音速
胴体吊下
極超音速
胴体翼吊下式
亜音速
胴体、翼吊下げ 超音速
胴体吊下
亜音速
胴体吊下
亜音速
胴体吊下
亜音速
胴体吊下
亜音速
胴体吊下
超音速
背負式
亜音速
放出落下式
亜音速
背負式
亜音速
胴体吊下
超音速
放出落下式
亜音速
胴体吊下
超音速
翼吊下
超音速
翼吊下
亜音速
胴体
超音速
不明(胴体吊下?) 不明
胴体吊下
超音速
背負式
亜音速
胴体吊下、翼吊下 亜・超音速
翼吊下、背負式 亜音速
放出落下式
亜音速
胴体吊下、背負式 超音速
Source:Responsive Space conference,Space launch,RocketPlane,General Kinetics,CNES,Airworld,Airlaunch System Inc,Myasishchev,Yuzhnoyes,INTA,ISAS
14
表 1.2-2 空中発射システム検討動向一覧(母機は新規開発)
Coutry/Company
XCOR Aerospace
Sytem
name
Xerus
ARES
(HLV)
HLV
HLV
HLV
Launch Vehicle
Aircraft/Engine
(Launcher or Engine)
(flyback booster)
搭載方式 分離速度
不明
Methane Engine
背負式 極超音速
LOX/RP-1
背負式 極超音速
Merlin+Kestrel
SPACEWORKS Engineering
F118-GE-100
Orbital Sciences
背負式 極超音速
Lockheed Martin
背負式 極超音速
Northrop Grumman
背負式 極超音速
RD190(RD180 base)
極超音速
不明
NK33+ORION50
アメリカ 名称不明(concept study1)
CF34-200
NK43(NK33 base)
極超音速
名称不明(concept study2)
不明
Castor120+ORION50
CF6-80-C2
RB68(RS68 base)
極超音速
名称不明(concept study3)
不明
SR19+ORION50
CF6-80-C2
RJ10(RL10 base)
極超音速
名称不明(concept study4)
不明
SR19+ORION38
RB-710
DEDALUS
Multipurpose HA UAV
胴体吊下 亜音速
ONERA/CNES
PERSEUS
(ハイブリッド)
CF-34-3
LOX/LH2
CNES/Tsniimash(露)
BARGOUZIN
フランス
極超音速
LOX/LH2
(Aircraft Engine: ?)
/Molnya(露)
(HLV)
LOX/LH2 Enginex5
EVEREST
背負式 極超音速
LOX/LH2 Enginex2
CNES/EADS
CF6-80
(TSTO)
Angara-Baikal
RD-191
ロシア Khrunichev
極超音速
LOX/kerosene
RD35
(HLV)
Source:XCORE、Orbital Science、Lockheed Martin、SPACEWORKS Eng、Northrop Grumman、CNES、IAC-04-V.4.07、Airworld、Russian Spaceweb
図 1.2-1 空中発射システム開発国
図 1.2 -2 ロケット搭載・打上方式
15
図 1.2-3 QuickReach の構成(Source: AIAA-RS4-2006-2003)
図 1.2-4 飛行プロファイル
(Source: AIAA-RS4-2006-2003)
図 1.2-5 Phase-2C 開発事項と目標
(Utah State Small satellite conference 2008)
図 1.2-6 NF-104 機体改造計画と計画費用(Source: General Kinetics Inc)
図 1.2-7 ISHIM
16
図 1.2-8 Air START
(Source:ALAC)
図 1.2-9 ARES 飛行プロファイル(Source:SpaceWorks)
図 1.2-210 Lockheed Martin、Orbital Sciences、Northrop Grumman の HLV 案
図 1.2-11 CNES 空中発射
図 1.2-12
システム計画案(source:CNES)
(エアランチ・貨物輸送・観測)
17
PERSEUS project
図 1.2-13 再使用補助ブースターBARGOUZIN
図 1.2-14 2007 年発表 EVEREST コンセプト
図 1.2-15 Angara-Baikal の飛行プロファイル(source:Khrunitchev)
図 1.2-16 Angara-Bikal のバリエーション (source:Khrunitchev)
図 1.2-17 空中発射システム開発の長期的展望
18
図 1.2-18 米国の F-15 空中発射システムの早期確立による利用戦略
図 1.2-19 2025 年以降の再使用・低費用の宇宙アクセス手段構築戦略案
(Source:AF S&T Challenges,AFRL 2006)
図 1.2-20 ESA の FLPP 計画(ESA)
図 1.2-21 CNES の再使用ランチャー長期計画案(CNES)
19
図 1.2-22 再使用化へのデモ案と Astrium の宇宙旅行ツアー案
(source:CNES,Astrium)
図 1.2-23 2007 年発表、CNES 宇宙輸送のシステム・技術のロードマップ(CNES)
図 1.2-24 フランスの小型ランチャー計画(2015-2020 年)(source:CNES)
20
3-2 宇宙利用支援システムの検討
欧米では数百 kg 以下の小型衛星に着目し、安全/災害保障、ミッション実証、技術者育成、
教育利用の促進が図れるとともに、小型衛星を利用した産業は、初期投資が少なく事業リス
クが小さくなる利点があるため、新規企業の宇宙事業参入や新規産業の登場すると期待され
ている。しかし、世界の打上げ市場からみても1ton 以下の小型の衛星を単独で打ち上げる
ロケットは少ない。また我が国では飛行安全、漁業問題の関係から、ロケットを打ち上げる
場合に飛行経路の制約や打上げ時期の制約を受けるという問題もある。
このような問題の解決を図り小型衛星のニーズにこたえるべく、衛星とロケットを組み合
わせてシステムの提供を行うことにより、宇宙利用者宇宙利用者の煩雑性の 1 部を解消する
とともに、空中発射による衛星打ち上げによりロケット及び運用のコスト低減を目指した。
・小型衛星打ち上げのニーズに資する即応性、利便性を持った運用の実現を目指す
・空中発射による打上げ地点の自在性を活かせる発射/追跡管制のシステム構成を目指す
・射場/飛行安全のみならず、空中発射固有の打上げ(発射)時の安全を確保する
上記の実現に向けて、民間インフラ/技術を積極的に活用していく
3-2.1 ミッション要求の検討
3-2.1.1 衛星のサイズと運用軌道
本項では世界各国の小型衛星の動向からそのニーズを調査し、技術実証のみならず可視セン
サによる地球観測ミッションにも対応可能な小型衛星として、運用軌道高度 500km(軌道傾斜
角 I=45°、SSO)とし、以下の 3 種を設定した。
(1) 50kg 級衛星システム 重量:約 50kg、寸法:500×500×500mm 程度
(2) 100kg 級衛星システム 重量:約 100kg、寸法:600×600×700mm 程度
(3) 300kg 級衛星システム 重量:約 300kg、寸法:1200×1200×1100mm 程度
3-2.1.2 衛星搭載
一般に空中発射ロケットでは、点火時、モータ排気流の地面からの反射による音響増大効果
が無いため、ペイロード音響環境が低減される。ペガサスロケットでは、ロケット点火時の音
響環境は評定にならず、母機離陸時が評定となっていることから、陸上発射ロケットとして M-V
ロケット、空中発射ロケットとしてペガサスロケットを例に検討を行った。打上げ環境条件を
図 2-1 に示す。衛星検討の当たっては、これらの条件を考慮して行う。
ロケットと衛星の結合部(PAF)は、可能な限り標準化されたものを使用することにより、
ロケットや衛星の単独運用でも多くの衛星やロケットのインタフェースが整合するように、
Ariane V ロケットの ASAP(MicroSat、MiniSat 用 PAF)や ESPA(EELV SecondaryPayload Adapter)
を基準にすることが望ましい。
3-2.2 運用構想
空中発射システムは我が国の限られた国土、四方を海に囲まれた環境下において、漁業問題
による打上げ可能期間や基幹ロケット運用との干渉を受けずにユーザ要請に対してタイムリ
21
ーな打上げが可能で、小型システムとしての打上能力向上に寄与し、かつ、最低限の固定資産
で運用可能であるというメリットを持つ。
図 2-2 に空中発射システムの全体システム構成と、全体システム運用の構想について示す。
(1) 即応性、利便性を実現する運用シナリオ
即応性、及びそれに伴う利便性を実現するために世界一の運用性を持ったシステムとする。
(a) 発射整備作業期間
:<14 日
(b) 発射指令受理~打上げまで
:<2 日
(c) 衛星レートアクセス
:<3 時間
これらの目標設定に対する運用イメージを図 2-3 に示す。
(2) 発射機離陸から帰還までの運用シナリオ
発射機が離陸(Take off)してから、帰還するまでの運用シナリオを図 2-4 に示す。
(3) 自在性を実現する運用シナリオ
空中発射システムの場合、地上局等の既存のインフラを使用せず、かつ新規の専用設備を最
小化することで打上げ地点、及び運用そのものの自在性を実現するため、ロケット運用のため
の専用インフラを最小化した打上げシステムを目指す
・地上局を使用しない運用システム構成
-衛星経由でのテレメトリ送信
-レンジセーフティ機能の自律化
・発射管制/追跡管制設備の簡素化、少人化
これらの目標設定に対する運用イメージを図 2-5 に示す。
(4) 運用組織体制
空中発射システムにおける運用組織体制の構想案を図 2-6 に示す。
3-2.3 システム構成と機能配分
(1) システム構成
空中発射システムの全体システム構成を図 2-7 に示す。
また全体システム構成のうち、打上げシステムの構成について表 2-1 に示す。
(2) 整備・運用における機能配分
a. 整備作業における機能配分
ア 発射整備作業
① 構造、推進系の発射場搬入形態はステージ単位で可能な限り完成形態に近い状態と
し、火工品等の最小限の組立・艤装工程で作業が完了できるようにする。
② アビオニクスは、発射場搬入前にシステムレベル、又はサブシステムレベルで十分
な検証を行う。
③ 発射場での電気系点検は以下により自動化を推進し、点検時間の短縮をはかる。
・コンポーネント単位での自己診断機能の充実
22
・シーケンス点検を機体側で実施(管制側は監視/緊急停止のみ実施)
・点検データ処理(規格値との照合、トレンド評価)の自動化(管制側機能)
イ 衛星結合作業
① 発射指令待ち状態が発生した場合、ロケットは完成形態(火工品装着済み、フェア
リング内装品を除く)で保管する。
② ロケットは保管状態で定期点検が実施可能な構成とし、そのための人員を確保する。
なお、定期点検は基本的に各コンポーネントの自己診断機能により実現する。
③ ロケット側の移動を少なくして衛星結合を効率的に行うため、簡易クリーンブース
を用いた運用を行う。
ウ Y-0 作業
① 航空機への結合作業が効率的に実施できるようにするため、結合方式の簡素化、電
気/空調インタフェースの簡素化をはかるとともに、専用治具を用意して最小限の人
員で結合作業が実施可能なようにする。
② 最終ドアクローズまでの作業は屋内で実施することを基本とするが、即応性、利便
性の観点から空中発射の利点を活かすべく、航空機が離着陸可能な範囲での耐侯性を
有するロケットシステムとする。
b. 運用における機能配分
運用における機能配分のうち、空中発射システム固有の運用体制となる航空機離陸
後についての検討を行った。
打上げ当日の航空機への遠隔指示等に対して迅速に対応する必要があることなどか
ら、ロケットシステム発射用航空機システム及び管制システム開発の前提となる、航
空機離陸後の地上、航空機、ロケットの機能配分の考え方を表 2-2 に示す。
3-2.4 空港
空中発射システムを構成する支援システムとして、ロケット及び衛生の整備、ロケットの母
機への搭載、母機の離発着を行う空港は必要不可欠である。また、空港から海上までのルート
に人口密集地が無いこと、作業員、ロケット、衛星などの人員、器材の輸送ルートが確保でき
ることが必要である。現在、空中発射支援システムの国内空港として、沖縄県宮古郡伊良部町
下地島にある下地島空港、北海道広尾郡大樹町にある多目的航空公園を候補としている。
図 2-8 に下地島及び大樹町多目的航空公園の位置を示す。
3-2.4.1 下地島空港
下地島に隣接する伊良部島は約人口 10,000 人であるが、下地島にはほとんど民家は無い。
また図から分かるように滑走路は海に突き出しているため、発射母機は民家上空を飛行するこ
となく海上へ進出できる。空港周辺の土地は、下地島のほぼ全域 60 万 m3(内之浦宇宙空間観
測所 70 万 m3)が沖縄県所有の土地であり、安全区域の設定や、ロケット、衛星の整備施設を
建設するのに十分な土地を確保しやすいといえる。図 2-9 に下地島空港の航空写真を示す。下
地島空港は、日本国内航空会社のパイロット養成空港として利用されている。訓練空港である
23
ため、計器着陸(ILS)を両端に備え、滑走路も着陸帯 3120m、幅 60mあり、駐機スポット、
照明装置(夜間使用可能)、管制塔、化学消防車を備えており、大型機が離着陸可能な環境で
ある。周囲に人口密集地域がなく、離陸後は直ぐに海上へと出られるため飛行安全を確保でき
る。また当該空港は、拡張工事をすれば 4000m まで滑走路延長が可能である。
3-2.4.2 大樹町多目的航空公園
大樹町多目的航空公園は東部、南部が海に面している。また滑走路の海側の大部分を町が所
有していることから、発射母機は民家の上空を通過することなく海上へ進出できる。
(図 2-10)
しかし、航空公園の滑走路は L=1000m,W=30mと空中発射の支援システムとして利用するため
には滑走路の拡張、耐圧強化が必須である。大樹町では 20 年以上前からスペースポート構想
検討を進めていることもあり、航空宇宙事業の展開については住民、農業、漁業関係者を含め
て友好的である。
3-2.5 航空機
空中発射システムには既存の民間・軍用航空機を流用することを想定した。表 2-3 に各種航
空機の性能諸元を、また図 2-11 に輸送機の搭載スペースについて示す。
これらの調査を行った航空機の中で、C-X は構内で開発中のデュアルユースの機体であり、
Boeing747、F-15 とともに日本国内で使用される航空機であることから、入手性やロケット搭
載のための機体改修といった観点で、空中発射ロケットの母機として好ましいと考えられる。
以降では母機候補として Boeing747、C-X、F-15 のいずれかを用いることをベースラインと
して検討を行う。
(a)準静的加速度(制限荷重)
横加速度
Pegasus
9G
3.6G
M-V
15G
7.5G
(c)ランダム振動(ATレベル)
1
M-V
-: 機軸
-: 横
0.1
PSD (G2/Hz)
機軸加速度
(b)音響
0.01
0.001
Pegasus
-: 機軸,横(上下)
-: 横(左右)
0.0001
10
100
1000
振動数 (Hz)
10000
振動数 (Hz)
(d)衝撃(ATレベル)
10000
ペガサスロケット
全備9トン級ロケット 1段点火時(推定値)
160
Pegasus
M-V ATレベル
加速度 (G)
音圧レベル[dB]
150
150
140
130
1000
M-V
100
120
110
100
32
63
125
250
500
1000
2000
4000
10
8000
10
周波数[Hz] (1/1oct)
M-Vロケット
図 2-1 打上げ環境条件
24
100
振動数 (Hz)
1000
10000
小型衛星分離
通信衛星
3段目点火
3段目燃焼終了
フェアリング分離
2段目燃焼終了、分離
1/2段分離
(FITH)
【ロケット】
・ロケットシステム
-飛行安全の自律化(GPS適用)
【ロケットの管制】
・管制システム
-衛星経由でのロケットモニタ
打上げ用航空機
空港
1段目点火、 発射
【母機】
・発射用航空機システム
-航空機
-ロケットI/F(搭載・分離・空調・監視・制御)
-発射管制I/F(データ通信・音声通信)
【空港】
・航空機発射場支援設備
-衛星・ロケットの組立・整備・保管
-航空機への搭載
-航空機の整備
図 2-2 空中発射システムの全体システム構成と全体システム運用構想
発射整備作業期間:<14日(保管期間除く)
発射指令受理~(=ターンアラウンドタイム):<2日
打上げ当日作業
Air Base
ロケット系
製造/組立/点検
備蓄用火薬庫
輸送
Y-0作業
(・保管)
組立棟(@Air Base)
・点検
・各段最終組立
・各段電気系点検
・段間結合
・ロケット電気系点検
・衛星/NF結合
・全段電気系点検
・航空機結合前I/F点検
・航空機結合
・点検
・衛星単体点検
(・保管)
衛星整備室
ペイロード
製造/組立/試験
輸送
発射用航空機
単体整備/移動
・システム点検
・FTS点検
・SAD Safety Pin取り外し
・GO/NO GO判断
-航空機/ロケット
-ペイロード
-発射/追跡管制
-気象
-レンジセーフティ
・外部電源投入
Take Off
衛星レートアクセス:3時間
図 2-3 空中発射システム 即応化対応のための運用目標
Cruise
Terminal Countdown
テレメータデータ送信
(衛星経由)
Climb
・ロケット空調
・テレメータデータ中継
・レンジングデータ中継
・ロケット空調
・テレメータデータ中継
・レンジングデータ中継
・(IMUデータ補正)
・内部電源切換
・最終GO/NO GO判断
・SADアーム駆動
・(熱電池起動)
・NAVスタート
・ロケット分離
テレメータデータ送信/
レンジングデータ送信/
コマンド受信
(バックアップ)
レンジングデータ送信
(衛星経由)
追跡管制センター
・退避マヌーバ
・テレメータデータ中継
・レンジングデータ中継
・帰還
音声
発射管制センター
テレメータデータ送信
(衛星経由)
レンジングデータ送信/コマンド送信
(バックアップ)
(衛星経由)
追跡管制センター
図 2-4: 空中発射システム ミッションシナリオ<Take Off~帰還>
25
システム目標~ロケット運用専用インフラを最小化した打ち上げシステム~
・地上局を使用しない運用システム構成
(1)衛星経由でのテレメトリ送信 (2)レンジセーフティ機能の自律化
・発射管制/追跡管制設備の簡素化及び少人化
民間インフラ
(インマルサット)
静止軌道
<<ロケット搭載機能>>
【航法・誘導】
・複合航法(GPS/INS)
民間インフラ
(Orbcomm or Iridium)
GPS
低軌道
航空地球局
or
携帯基地地球局
航空機通信
テレメータ送信
and
コマンド受信
(バックアップ)
【テレメータ】
・インマルサット(TBD)経由(1ch)
・航空機経由(バックアップ)
【レンジ・セーフティ】
・レンジ・セーフティ機能の自律化
-GPS+IMUによるレンジング
-破壊機能の自律化
-レンジングデータ送信
(Orbcomm(TBD)/航空機経由)
・インマルサット(TBD)経由の指令破壊
(バックアップ)
レンジング
データ送信
ゲートウェイ地球局
HF無線(音声)
発射管制/追跡管制センター
<<航空機搭載機能>>
【地上I/F】
・データ:
インマルサット(TBD)経由
・音声
航空機(HF)無線
地上局の排除
インターネット
【ロケットI/F(分離後)】
・テレメータデータHUB機能
(無線、バックアップ)
・レンジングデータHUB機能
(無線、バックアップ)
図 2-5 空中発射システム 自在性確保のための運用イメージ
空中発射システム
ペイロード
プログラム責任者
打上サービス
監督者
プログラム責任者
契約調整
契約責任者
ミッション
インタフェース調整
ミッション責任者
・打上運用計画
・ミッション解析
・射場運用/発射管制
・追跡管制
打上運用計画担当
・ミッション要求設定
・機体製造・整備計画
・打上げ運用計画
・各種手続き/申請
ミッション解析担当
・飛行経路解析
・制御系解析
・軌道誤差解析
・RFリンク解析
・飛行安全解析
・衛星分離解析
・機械/熱/電気系解析
・コンタミ解析
契約責任者
ミッション責任者
射場運用/発射管制指揮者(LC)
・射場/打上運用全体管理
衛星運用指揮者
機体組立・整備担当
・ロケット組立
・システム試験
・衛星結合
・発射用航空機整備
・ロケット-航空機組付
品質保証・安全担当
発射用航空機搭乗担当
・操縦士
・副操縦士
・ロケット/ペイロードオペレータ
発射管制担当
航空機管制担当
飛行安全担当
地上安全担当
気象担当
設備保安・維持担当
追跡管制指揮者
図 2-6 空中発射システム 運用組織体制構想
26
衛星システム
宇宙利用支援
システム
ミッションを含む衛星本体 衛星
衛星の追跡・管制など
衛星支援システム
打上システム
衛星打ち上げ用固体ロケット、
及び移動台車 ロケットシステム
打上支援システム
発射用航空機システム
ロケットを輸送、発射する母機
管制システム
指令管制システム
発射管制システム
追跡管制システム
管制支援システム
航空機発射場支援設備
打上げ準備支援システム
ロケットの打上げを行う管制卓、表示装
置などのシステム
ロケットを航空機から分離、点火するま
での管制を行うシステム
ロケットを追尾するためのテレメトリ受信、
レーダ、コマンド送信を行うシステム。
飛行安全系、地上安全系、気象系、地
上通信系、衛星通信系など指令管制、
発射管制を行う上で必要となる支援シ
ステム
航空機の整備、ロケット及びロケット/衛
星組み立て・整備・保管、航空機への
搭載を行う施設、設備。空港に設置。
衛星情報・要求に基づくミッション解析、
組立整備点検の作業・文章管理などを
行う支援システム
図 2-7 全体システム構成
45
40
35
大樹町多目的航空公園
30
下地島空
25
125
130
135
140
145
150
図 2-8 下地島及び大樹町の位置
図 2-9 下地島空港
(Source: 国土交通省大阪航空局下地島空港事務所)
27
図 2-10 大樹町多目的航空公園
a. An124-100
b. C-5
航空機 An-124-100
貨物室長さ
42.6m
幅
6.4
高さ
4.4
容積
2650m3
c. C-17A GlobemasterⅢ
航空機
貨物室長さ
幅
高さ
C-5
43.8m
5.8m
4.1m
d. C-X(次期輸送機)
航空機
貨物室長さ
幅
高さ
容積
C-17A
26.8m
5.5m
4.0m
3
591m
*高さ3.8m
図 2-11 輸送機の貨物
表 2-1 打上げシステム構成(案)
打上げシステム構成(案)
打上システム
ロケットシステム
ペイロードインタフェース系
推進系
構造系
母機インタフェース系
姿勢制御系
火工品系
アビオニクス系
打上支援システム
発射用航空機システム
発射用航空機
ロケットシステムインタフェース系
ロケット搭載構造系
ロケット分離機構系
ロケット空調系
ロケット監視/制御系
ペイロード監視/制御系
発射管制システムインタフェース系
発射用航空機飛行監視データ送信系
ロケットデータ中継系
ペイロードデータ中継系
音声連絡系
管制システム
指令管制システム
発射管制システム
発射管制卓
モニタ端末
コマンド端末
データサーバ
追跡管制システム
(地上局(テレメータ系))
(地上局(GPSテレメータ系))
(地上局(コマンド系))
(テレメータ中継衛星)
(テレメータ中継衛星用基地局)
管制支援システム
飛行安全系
地上安全系
気象系
地上通信系
航空機-管制間通信系
航空機間データ中継衛星
航空機間データ中継衛星用基地局
HF無線局
航空機発射場支援設備
ロケット組立・整備支援システム
ロケット組立・整備設備
ロケット点検支援設備
ペイロード組立・整備設備
航空機整備支援システム
保安貯蔵設備
打上げ準備支援設備
解析ツール
文書管理ツール
28
表 2-2: 航空機離陸後~ロケット分離までの運用における機能配分
機能要素
機能配分
地上(発射管
・最終 Go/No Go 判断:各系からの監視状況を集約の上、最終的なロケット分離の判断を実施。判断の
制)
実施はミッション責任者が行う。
・打上げに関わる各系への指示:ミッション責任者の指示のもと、あるいは代行執行承認のもとで発
射管制指揮者(LC)が各系への指示を行う。
・航空機の状態監視:航空管制側からの情報 and/or 航空機無線からの直接伝達情報により、航空機
の飛行状況の監視を行う。異常が発生した場合は直ちに LC へ報告する義務を有する。
・ロケットの状態監視:ロケットからのテレメータ情報により、ロケットの状態監視を行う。異常が
発生した場合は直ちに LC へ報告する義務を有する。
・その他の状態監視:飛行安全、地上安全(Take off 前のみ)、気象(Take off 前のみ)に関しての情報
監視を行う。異常が発生した場合は直ちに LC へ報告する義務を有する。
地上(追跡管
・追跡データ監視:ロケットからの追跡データを監視し、発射管制側へ送信する。異常が発生した場
制)
合は直ちに LC へ報告する義務を有する。
航空機
・ロケット分離の実施:最終 Go/No Go 判断の後、LC からの分離指示を受けてカウントダウン、分離
を実行する。分離の実行は Air Crew が行う。航空機にとって fatal となり得る異常が発生しない
限り、指示によらないロケット分離は許容されない。なお、LC からの分離指示後の Abort 判断権
限は Air Crew に移行する。
・航空機飛行状態の報告:航空機の飛行状態を航空管制 and/or 発射管制へ報告する義務を有する。
報告の実行は Air Crew が行う。
・ロケットのオペレーション:LC からの指示に基づき、ロケットへの自動/手動制御を行う。制御の
実行は航空機に搭乗したオペレータが行う。オペレータはロケットの状態監視を補佐的に実行す
るが、独自の判断によるオフノミナルの制御を行ってはならない。
・ロケット状態監視データの中継:ロケットのテレメータデータの中継を行う。
中継機能は専用装置により行われる。
・ペイロードのオペレーション:LC からの指示に基づき、ペイロードへのオペレーションを行う。
実行は航空機に搭乗したオペレータが行う。オペレータは独自の判断によるオフノミナルの制御を
行ってはならない。
ロケット
・安全機能:航空機搭乗員の安全を確保するため、ロケット分離が検出されるまで破壊機能、その他
の火工品点火機能に対するインヒビット機能を有する。なお、ロケット機能の暴走による安全機能
の喪失を防止するため、カウントダウンシーケンスは航空機側から実施する。
表 2-3 各種航空機の主要諸元
Boeing747
A340
An124-100
C-5
C-17
C-X(次期輸送機)
F-15
MiG31
全長 (m)
70.67
59.39
69.1
75.5
53.4
43.9
19.43
22.69
全幅 (m)
65.1
60.3
73.3
67.9
51.8
44.4
13.05
13.46
全高 (m)
19.3
16.74
21.08
19.9
16.8
14.2
5.63
6.15
自重 (t)
181
129
175
170
125
61
14
22
最大離陸重量 (t)
394
260
405
380
265
141
36
46
77
P&W
F117-PW100
(18t)
4基
30
11
8
GE-Aviation
CF6-80C2
(28t)
P&W
F-100PW-220
(10t)
D-30F6
(15t)
2基
2基
M 0.77
M 0.8
搭載量 (t)
発動機
発動機数
65
47
150
118
CFMI
P&W PW4000 or
GE
プログレス
GE CF6-80C2 CFM56D-18T TF39-GE-1C
5C2
or
(20t)
(23t)
(14t)
RR RB2114基
4基
4基
4基
2基
巡航速度
M 0.85
M 0.86
800 km/h
833km/h
141,500
348,740R
193,624
-
-
10,380
23,500
10,600+
10.895
13,700
12,200(巡航高度)
19,000
20,600
3,300
燃料搭載量 (L)
213,818
実用上昇限度 (m)
13,700
M2.5(最大速度) M2.83(最大速度)
航続距離 (km)
13,330
12,416
4,500
5,522
9,815
6,500(積載量12ton)
1,270
離陸滑走距離 (m)
3,475
3,000
2,520
2,987
2,360
-
-
950
着陸滑走距離 (m)
2,134
1,960
900
725
915
-
-
900
29
3-3 マイクロ衛星システム検討
3-3.1 マイクロ衛星システム検討条件設定
3-3.1.1 打上げシステムインタフェース
a. 空中発射母機とロケットとの電気的なインタフェースは、コールドロンチ対応が要求条
件の一つであるが、小型衛星の多くはコールドロンチ対応で設計されており問題はない。
b. 打上げまでのバッテリへの電力供給や、衛星状態確認のためのアンビリカルライン有無
の調整が必要、空中発射母機の構成に係わり、特に打上げ時の切り離し等の運用が難しい。
c. 有人の空中発射母機に対し、異常時の推薬による汚染を避けるため、微毒、無毒の推薬
種を搭載する。また緊急時の推薬排出の必要性の調整も考慮する必要がある。
d. 航空機のエレクトロニクスによる衛星の誤動作の確認が必要である。
e. 打上げロケットを母機の外部に搭載の場合、高空での母機の飛翔時にフェアリング内温
度がかなり下がることが予想されるため、保温の方式検討も考慮する必要がある。
3-3.1.2 マイクロ衛星ミッション調査
(1) ミッション候補
宇宙利用支援システムのベースラインミッション案として、安全・安心の観点から光学セン
サによる地球画像取得を第1候補とする。機能の制約される軽量のマイクロ衛星(50kg 級~
100kg 級)では軌道上実証ミッションについても考慮する。ミッションとのインタフェース条
件は、簡易性と低コスト性を考慮し、衛星標準バスに適合したものとする。
50kg 級:低分解能カメラ、ストア通信・伝送、技術実証
150kg 級:多くは数 m~数 10m 級分解能の画像取得衛星、技術実証
300kg 級:高分解能(m 級前後の分解能)画像取得
(1) 光学センサ検討
マイクロ衛星に搭載する光学センサのサイズを分解能から見積もった。分解能を設定すると
回折限界から必要な光学系の口径が決まってくる。図には高度 500kmでの運用を想定した場合
の光学センサの口径と分解能の関係を図 3-1 に示す。
(2) 運用軌道検討
地球観測衛星は通常光学的条件を一定にし、全世界のグローバルマッピングが出来る様、太
陽同期軌道(極軌道)に投入される。即応観測/監視システムの場合、特定点観測を考慮する
と低軌道傾斜角軌道による連続観測性、観測頻度の増加を利用する事も考えられる。図 3-2 に
は Responsible Space で発表された”Partially Continuous Earth Coverage from a Responsive
Space Constellation”(AIAA-RS-2007-2001)の例を示す。表 3-1 に示す様に特定時間の可視時
間率が増えているのが分かる。
(3) 低コスト化要件の検討
a. 量産効果
複数機開発や共通部品化/共通ユニット化を行うことで、短期開発にはないコスト改善
が見込める。
30
b. 民生利用
民生品は一般に大量生産され、またコマーシャルベースで販売出来る必要があることか
ら、コストは低いが、宇宙環境への適用が可能かの評価が必要である。
c. コンポーネント削減
統合化機器の利用による製造/開発期間の短縮、設備/人員の削減効果を考慮する。
d. 人件費削減
開発/製造期間短縮はコンポーネントの削減や試験の自動化等で対応し、試験の自動化、
期間の短縮化には機器の共通化や試験標準化の効果が大きく、標準バス化が有効である。
3-3.2 マイクロ衛星システム検討
前節で設定した検討条件をもとにマイクロ衛星システムの検討を行った。検討対象とし
ては、世界の小型衛星需要を考慮して 50~300kg 級のマイクロ衛星とした。
システム検討要求条件として、空中発射に適合するインタフェース、光学センサによる地
球画像取得、低コスト化要件の反映及び継続利用としての汎用バス化を設定している。
3-3.2.1 50kg級マイクロ衛星
50kg 級衛星の場合、統合化によるコンポーネント削減を反映した衛星バスとした。衛星制御
は、統合化制御装置による集中制御であり、姿勢制御方式は重力傾度安定またはスピン安定、
ボディーマウント太陽電池セルと統合化制御装置で制御供給される電源系構成とした。ミッシ
ョンとしては低分解能 CCD カメラによる地球撮像や、
ストア通信、
軌道上技術実証などがある。
50kg 級衛星の外観を図 3-3 に、機能系統図を図 3-4 に示す。
(1) 衛星コンフィギュレーション
50kg 級のマイクロ衛星の姿勢制御方式としては、リソースレベルを考慮すると重力傾度安定
方式、スピン安定方式が考えられるが、いずれも衛星形状は、製造コストの抑制とインテグレ
ーションが容易なことから箱型とした。重力傾度安定方式、スピン安定方式の衛星コンフィギ
ュレーションを図 3-3 に示す。
(2) 衛星システム構成の検討(機能系統の検討)
マイクロ衛星のシステム構成として、衛星の制御方式に集中制御方式、並びに機器接続のイ
ンタフェースとして市販標準インタフェースをデータバスとして採用し、データハンドリング、
姿勢制御、並びに熱制御といった機能を統合化制御装置として 1 台に集約、機器接続の簡便化
を図ることによりこの施策が実現出来る。質量、電力、及び搭載面積等の重複リソースの削減、
集中制御に伴うインテリジェント機器の統合と機器台数の削減により、全フェーズでのコスト
を削減する。標準インタフェース(データバス)での機器接続とすることにより、ユーザ I/F
に係わる調整、試験等の期間の短縮を図る。
標準インタフェースを採用し市販のパソコンを地上試験装置とし、衛星シミュレータに要す
るコストを削減する。また、衛星を制御する統合化制御装置は、姿勢制御方式、搭載ミッショ
ン等に対応しカスタマイズが必要な機能及びパラメータについては、ソフトウェアで対応する。
31
3-3.2.2 100kg級マイクロ衛星
ここでは衛星サイズと前節での光学系の検討を反映し、2.5m 級望遠鏡搭載とし、統合化によ
る標準バスの考え方を反映し、統合化衛星制御系(DMS)で衛星全体の管制を行う。
推進系は小型衛星では特にスラスタサイズが相対的に衛星コンフィギュレーションに占め
る割合が大きくなるため、100kg 級衛星では標準では非搭載とし、ミッションに応じたオプシ
ョン機能とする。100kg 級衛星の外観を図 3-5 に、機能系統図を図 3-6 に示す。
(1) コンフィギュレーション
ミッションとバスのクリーンインタフェースを考慮し、さらに多様なミッション機器サイズ
への対応が出来る事を考慮すると、ミッションをバス部とは分離して搭載するコンフィギュレ
ーションが望ましい。また、太陽電池パドルの搭載が必要と考えられるため、ボックス型で側
面パネルが強度剛性部材となるコンフィギュレーションをベースとする。
衛星システム構成のシンプル化を考慮し、ミッション非運用時は太陽指向を行うことで、太
陽電池パネルを1次展開のみの固定翼とし、追尾系を搭載しない方式とした。恒星センサは反
太陽側になるように+X 方向に搭載している。100kg 級マイクロ衛星は光学センサによる地球観
測を標準ミッションとしており、観測時は(+Z 面を)地球指向姿勢で飛翔する。よって通信ア
ンテナは+Z 面側に主アンテナ(S 帯アンテナ)、オプション追加の場合も X 帯アンテナを搭載
する。非観測時は太陽指向で飛翔するため、上記 2 台のアンテナで常時地上方向に回線を取る
ことが出来ない。ユーザ側で常時回線成立を要求する場合は、最大4台までのアンテナを搭載
し、アンテナルーティングモジュールにより地上との回線の維持を行う。
(2) 衛星システム構成の検討(機能系統の検討)
100kg 級のマイクロ衛星のシステム構成としては、
衛星の集中制御を行う統合化制御系を DMS
として実現し、機器接続の標準インタフェースとして SpaceWire および USB をデータバスとし
て採用し、データハンドリング、姿勢制御、並びに熱制御といった機能を統合化制御系として
集約、衛星システム構成と共に機器接続の簡便化を図ることにより対応した。
DMS(衛星データマネージメントシステム)はハードウェアとしては DMU(衛星データマネジ
メントユニット)単品で構成される。
本ハードウェアに、データ処理系フライトソフトウェア、姿勢制御系フライトソフトウェア、
熱制御系フライトソフトウェア、および衛星データマネジメント系オペレーティングソフトウ
ェアを搭載する。これによって、従来衛星の DHU 上、AOCU 上、及び HCE 上で動作していたソフ
トウェアをベースに開発可能になるよう考慮し、単独の CPU 上で動作するための設計要素を衛
星データマネジメント系オペレーティングソフトウェアに集約してソフトウェア設計の容易
性を確保する。また、ミッション機器の制御は DMS 側で実施する。
3-3.2.3 300kg級マイクロ衛星
300kg 級になると、小型衛星用のコンポーネントや機器統合化などを受けて、多様なミッシ
ョン搭載への対応が可能である。衛星の基本構成は 100kg 級衛星と同じである。
図 3-7 には 1m 以下の分解能の光学センサ搭載ケースの 300kg 級衛星の外観を、図 3-8 に機
能系統図を示す。
32
(1) コンフィギュレーション
多様なミッション機器サイズへの対応が出来る事を考慮すると、ミッションをバス部とは分
離して搭載するコンフィギュレーションが望ましい。また、太陽電池パドルの搭載が必要と考
えられるため、側面パネルにある程度の強度が必要となる。従って、ボックス型で側面パネル
が強度剛性部材となるコンフィギュレーションをベースとする。多様なミッションへの対応を
考慮し、太陽電池パネルは固定翼と、回転翼の選択が出来る方式とした。恒星センサは標準姿
勢で太陽指向と地球指向に対応できるように、側面に搭載している。
(2) 衛星システム構成の検討(機能系統の検討)
300kg 級のマイクロ衛星のシステム構成としては、衛星の集中制御を行う衛星制御系を民生
技術ベースの SpaceCube2 として実現し、機器接続の標準インタフェースとして SpaceWire お
よび USB をデータバスとして採用し、データハンドリング、姿勢制御、並びに熱制御といった
機能を統合化制御系として集約、衛星システム構成と共に機器接続の簡便化を図ることにより
対応した。民生技術の適用を考慮して、データレコーダ、I/O モジュールの採用、USB による
接続を考慮している。300kg 級マイクロ衛星でも、100kg 級衛星と同じくミッション機器の制
御は衛星制御系(SpaceCube2)側で実施する。これらを反映したシステム構成(機能系統)を
図 3-8 に示す。
3-3.3 ミッションインタフェース検討
宇宙利用支援システムとしての利用を考えた場合、衛星システムとしてはミッションとのイ
ンタフェースを標準化し、多様なミッション要求に対応出来ると共に、対応の限界も考慮して
おく必要がある。前節での3ケースの衛星標準バス検討に伴って設定した標準ミッションイン
タフェース条件を表 3-5 に示す。
3-3.3.1 50kg級マイクロ衛星のインタフェース
50kg 級マイクロ衛星では、多様性のあるミッション機器の搭載、並びにコンステレーション
の構成を含め、複数機を製造することを念頭においたミッションインタフェースとする必要が
ある。このことから、マイクロ衛星のミッションインタフェースは、搭載ミッションが確定し
た単機の衛星での最適設計に対し、搭載ミッションへの依存性を極力排除した汎用性の高いシ
ンプルなものとして低コスト化に繋げ、且つユーザフレンドリなインタフェースとした。
(1) 機械/熱/電気インタフェース
a. 機械的 I/F は、システム側からミッション I/F パネルを供給し、ミッション機器をそ
のパネル上に搭載する方式とすることで、衛星システムとの標準化を図る。
b. 熱的 I/F は、
衛星全体のリソースの制約、
ミッション機器配分電力最大 15W を考慮して、
ミッション機器は従属熱制御とし、バス側で温度制御を実施する。
c. 電気的 I/F は、単一電源バス(28V 供給)からの供給とする。
信号インタフェースは、データバスによる通信とする。機械的なインタフェースはデー
タバスに接続するコネクタとなる。
50kg 級マイクロ衛星の標準データバスは、有望なデータバス技術(USB2.0、IEEE1394、
及び CAN)及び宇宙用として ESA が開発・採用する Space Wire(IEEE1355)について検討
33
した結果、50kg 級マイクロ衛星では特に、小型軽量性・搭載性要求、更には必要部品の汎
用民生品での入手性が不可欠な要素を考慮し、USB2.0 を第1候補としている。
(2) 衛星シミュレータ
標準化したデータバスと標準バス構成により、電気的インタフェース分界からバス側のパソ
コンベースのシミュレータを作成することで開発・試験の簡易化を可能とする。
3-3.3.2 100kg級マイクロ衛星のインタフェース
100kg 級マイクロ衛星でも、50kg 級マイクロ衛星と同じように、多様性のあるミッション機
器の搭載、並びにコンステレーションの構成を含め、複数機を製造することを念頭においたミ
ッションインタフェースを考慮した。
(1) 機械/熱/電気インタフェース
a. 機械的 I/F は、ミッション搭載パネルを機械的インタフェース分界点とし、ミ衛星シス
テムとの標準化を図る。ミッション機器は、ミッション搭載パネル上の構体外搭載になる。
b. 熱的 I/F もミッション搭載パネル上のミッション機器の取付点を分界点とし、熱流量設
定による独立熱制御とすることでインタフェースの簡便化を図っている。
c. 電気的 I/F は、単一電源バス(50V 供給)からの供給とする。信号インタフェースは、デ
ータバスによる通信とする。100kg 級マイクロ衛星の標準データバスは、有望なデータバ
ス技術(USB2.0、IEEE1394、及び CAN)及び ESA が開発・採用する Space Wire(IEEE1355)
について検討し、宇宙用の高速データバス実績から SpaceWire を第1候補としている。
(2) 衛星シミュレータ
標準化したデータバスと標準バス構成により、電気的インタフェース分界からバス側のパソ
コンベースのシミュレータを作成することで開発・試験の簡易化を可能としている。DMS を PC
(パーソナルコンピュータ)上に実現し、周辺バス機器をインタフェース条件で PC 上でシミ
ュレートする構成である。
3-3.3.3 300kg級マイクロ衛星のインタフェース
多様性のあるミッション機器の搭載、並びにコンステレーションの構成を含め、複数機を製
造することを念頭においたミッションインタフェースを考慮した。
(1) 機械/熱/電気インタフェース
a. 機械的 I/F
ミッション搭載パネルを機械的インタフェース分界点とし、衛星システムとの機械的
I/F の標準化を図る。ミッション機器はミッション搭載パネル上の構体外搭載になる。ミ
ッション搭載パネルのインタフェース点は多様なミッションに対応できるよう、衛星の構
造様式を考慮して、複数のインタフェース方式を準備している。
b. 熱的 I/F
熱も同じくミッション搭載パネル上のミッション機器の取付点を分界点とし、熱流量設
定による独立熱制御とすることでインタフェースの簡便化を図っている。
34
c. 電気的 I/F
電源供給は、単一電源バス(50V 供給)からの供給とする。信号インタフェースは、デー
タバスによる通信とする。機械的なインタフェースはデータバスに接続するコネクタとな
る。300kg 級マイクロ衛星の標準データバスは、SpaceWire を第1候補としているが、デ
ータレートの低いインタフェースに付いては USB2.0 も併用している。
(2) 衛星シミュレータ
標準化したデータバスと標準バス構成により、電気的インタフェース分界からバス側のパソ
コンベースのシミュレータを作成することで開発・試験の簡易化を可能としている。衛星搭載
の SpaceCube2 に対応する SpaceCube 及び SpaceCube の機能を利用した周辺機器インタフェー
スにより実現する。ミッション機器は SpaceCube インタフェースとなる。
3-3.3.4 標準バスの適用ミッション例
マイクロ衛星標準バスの各種ミッションへの適用性につき、300kg 級マイクロ衛星バスを例
として以下に示す。300kg 級標準バスは、標準仕様としてミッション側へのリソース配分は質
量 200kg(Max)、電力 300W(Max)であり、バス側仕様として、
•
構体系:パネル構造(ミッション搭載パネルインタフェース)
•
統合化制御系:必要に応じたミッション機器制御(S/W 搭載)
•
データバス:SpaceWire
•
姿勢制御系:3軸あるいはスピン
•
電源系:Li-Ion バッテリ(容量調整可)
•
太陽電池パドル:2翼固定あるいは回転パドル
•
推進系:オプション(標準非搭載)
の様な選択が出来る。図 3-9 にはこれらの選択に基づいた、各種ミッション例を示している。
ハイエンドの実用衛星から、軌道上技術実証レベルのローエンド機までの対応が標準バス構成
の組み合わせにより、それぞれのミッションに対応した衛星システムの実現が可能である。
3-3.4 開発計画策定
(1) 開発スケジュールの検討
図 3-17 は標準的なマイクロ衛星の開発スケジュールである。1号機は標準バスの初号機と
想定した場合であり、設計と EM フェーズで1年半を想定している。2号機以降は標準バスと
して、ミッション側との仕様調整後は1年半で開発完了となる。50kg 級衛星の場合、衛星組立・
試験は4ヶ月程度に短縮出来るが、機器調達で長納期品との関連で1年を見ている。大量生産
化、あるいは民生利用でリードタイムが短縮出来る場合は、開発期間も短縮出来る。
(2) 短期間での衛星製造
従来の衛星開発では、製造完了までの期間が部品、コンポーネント調達と、衛星システムと
して完成する AIT 期間が支配的であった。この期間を即応ミッションに適した期間まで短縮す
ることが、小型即応衛星システム開発に要求されることになる。
調達期間短縮には、従来の衛星製造の考え方を変えて、コンポーネントレベル、サブシステ
ムレベル等機能ユニット単位での完成品の保管を行っておくことで、即時の衛星バスの製造を
行うこととする。ミッション要求に応じたリサイジングが必要な部分(バッテリ、パドル等)
35
は標準サイズ化を行うことで、必要なサイズを組み合わせのみで実現できるようにしておく。
また、AIT 期間の短縮には、上記ユニット単位で準備された機器に対し、機器完成時に衛星シ
ミュレータベースでユニットレベルでの試験の完了に基づく保証を行っておき、システムレベ
ルでは簡略化した機能評価試験で対応する事を考慮すべきである。また、機械・熱環境試験は
標準バスとして設定したインタフェース条件内での評価は1号機開発時に QM 等で評価してお
くことで、フライト品については機械試験はモーダルサーベイ、熱試験は熱真空によるベーキ
ングを兼ねた数サイクルの確認試験によるワークマンシップ確認程度に留めることが必要で
ある。本検討のマイクロ衛星では全て集中制御ベースで構成されており、衛星制御計算機、PnP
タイプのインタフェース等、上記の開発短縮の考えには対応できる構成になっている。
光 学 系 口 径 (m )
分解能と光学系口径
8
7
6
5
4
3
2
1
0
熱赤外分解能3mの時の
小型化タイプの口径
可視光
短波長赤外
熱赤外
熱赤外(小型化゙)
0
1
2
可視近赤外分解能
0.5mの時の口径
3
4
現状設備及び技術で対
応可能な口径
分解能(m)
短波長赤外分解能1m
*軌道高度 500Kmを想定
の時の口径
図 3-1 光学センサの分解能と口径の関係
図 3-2 低軌道傾斜角軌道の観測パターン例
ロケット分離機構
ミッション搭載領域
ロケット
分離装置
Sバンド
アンテナ
GPSアンテナ
Y
X
地心方向
Sバンド
アンテナ
スピン軸
Z
ミッション搭載領域
太陽センサ
GPS
アンテナ
スピン軸
伸展マスト
a.重力傾度方式
b.スピン安定方式
図 3-3 50kg 級マイクロ衛星外観
固有アプリソフト
(重力傾度安定タイプ対応)
DIP
PI-1
標準インタフェース
PI-2
TRP
MDP
電源制御器
ヒータ
(標準)
温度センサ
(標準)
固有アプリソフト
(スピン安定タイプ対応)
ミッション部
統合化制御装置(メインプロセッサ)
TRP
MDP
電源制御器
ヒータ
(標準)
温度センサ
(標準)
MTQ
SAS
BUS
電源
PI-1
標準インタフェース
GAS
火工品/
フランジボルト
(必要に応じ)
PI-3
DIP
GPS
GAS
MTQ
GPS
MST
SAP
CNV
ミッション部
統合化制御装置(メインプロセッサ)
SAP
火工品/
フランジボルト
(必要に応じ)
CNV
BUS
電源
BAT
BAT
a.重力傾度安定方式
b.スピン安定方式
図 3-4 50kg 級マイクロ衛星機能系統図
36
PI-2
PI-3
恒星センサ
光学センサ
軌道上コンフィギュレーション
太陽電池パドル
S帯アンテナ
打上げ時コンフィギュレーション
図 3-5 100kg 級マイクロ衛星外観
図 3-6 100kg 級マイクロ衛星 機能系統図
軌道上コンフィギュレーション
光学センサ
太陽電池パドル
S帯アンテナ
打上げ時コンフィギュレーション
図 3-7 300kg マイクロ衛星外観図
推進系(オプション)
統合制御装置(DMU) に代わり、民生技術ベースのSpaceCube2,
データレコーダ,I/Oモジュールを採用 (USB-I/Fにて接続)
図 3-8 300kg 級マイクロ衛星の機能系統図
37
バスモジュール
・構体 : パネル構造
300kg級標準バス
・統合化制御系
・データバス : Space Wire
・姿勢制御系 : 三軸 or スピン
・電源系 : PCU+Li-Ion BAT
・太陽電池パドル : 2翼固定 or 回転
・推進系 : オプション
Mission
Module
ミッションモジュール
・独立構成
・質量 : ~200kg
・電力 :~300W
Bus Module
科学観測
安全保障
(ORS)
技術実証
・信頼度:機能冗長
・三軸制御
・低アジリティ
・回転パドル
・RCS無し
・信頼度:実績による単系
・スピンor三軸
・低アジリティ
・固定パドル
・RCS無し
実用リモセン
(ハイエンド)
・信頼度:実績による単系
・三軸制御
・高アジリティ
・固定パドル
・RCS無し
海外向け
(ローエンド)
・信頼度:完全冗長
・三軸制御
・中アジリティ
・回転パドル
・RCS有り
・信頼度:機能冗長
・三軸制御
・低アジリティ
・回転パドル
・RCS有り
図 3-9 マイクロ衛星標準バスの各種ミッション適用例(300kg 級標準バス)
マイルストン
受注(初号機)
打上げ
0
受注(2号機以降)
12
6
18
24
30
36
初号機
設計・開発
MTM製造
/試験
TTM製造
/試験
機器調達/FM製造
衛星組立・試験
2号機以降
仕様調整・設計修正
機器調達
衛星組立・試験
図 3-10 マイクロ衛星の標準開発スケジュール
表 3-1 運用軌道による特定地点の可視時間の割合
Optimum
Coverage
inclination
53.0°
33.8°
44.5°
Target
Latitude
40.0°
24.5°
32.0°
Inclination
90.0°
98.6°
3.4
2.8
3.0
3.5
2.8
3.1
Height = 800km
At optimum
inclination
5.5
5.9
5.6
表 3-2 50kg 級マイクロ衛星諸元
項
目
諸
元
50kg級
打上げロケット
空中発射、H-2A ピギーバック等
軌道
太陽同期軌道
衛星質量
50kg (バス:35kg ミッション:15kg)
寸法
500×500×500mm程度
電力
発生電力:50W BAT容量:4Ah
消費電力 バス:15W ミッション15W
姿勢制御
重力傾斜安定
姿勢制御精度
姿勢決定精度
通信
電源
使用周波数帯
伝送レート
データ処理方式
5°程度
数度(<5°)程度
スピン安定
5°程度
(スピン軸方向)
数度(<5°)程度(スピン軸方向)
Sバンド帯(送信、受信)
TLM:16kbps/1kbps程度、CMD:1kbps程度
TDM方式(Time Division Multiplexing)
安定化電圧(+12V、±5V等)を集中供給
38
表 3-3 100kg 級マイクロ衛星諸元
項目
軌道
マイクロ衛星主要諸元・特徴
LEO、(太陽同期/非同期の依存性はない)。
備考
標準軌道:高度
700kmSSO
衛星質量
120kg
ミッション質量配分 35kg (ミッション比率:30%)
標準ミッション
光学センサによる地球観測@700km太陽同期軌道
分解能:2.5m(パンクロ)、10m(G/B/R/NIR)
Swath:10km
衛星サイズ
600 x 600 x 710(mm) (標準ミッションの光学センサ込み)
発生/ミッション配 180W以上/65W
@50V
分電力
データレート
S帯:アップリンク4kbps、ダウンリンク2Mbps(Max)
指向精度
姿勢制御精度:0.008°
姿勢安定度:30arcsec/1.4sec(短期)、0.114°/sec(中
期)
自動化/自律化 観測位置への自動指向運用
従来の自動化(マクロ・コマンド)、自律化(LLM移行など)
を含む。
撮像位置精度
±2km
撮像性能
30シーン/日
アジリティ
±30°(ノミナル)~45°(Max)
姿勢変更速度:180°/5
クオタニオンベースの任意姿勢変更可能
分(0.6°/sec)
表 3-4 300kg 級マイクロ衛星の諸元
システム諸元(案)
200 kg
150 kg
350 kg
質量
・バス
・ミッション
<TOTAL>
電力
SAP発生電力:
940 W
ミッション供給電力: 300 W
サイズ
1.2mx1.1mx1.25m(パドル収納時)
信頼性
寿命:3年 (ノミナル)/5年(拡張)
バス信頼度: ~0.7 @EOL
衛星制御系
統合化制御系, SpaceWireデータバス
姿勢制御系
STT+GPSベース,高精度ポインティング
高アジリティ,TDI撮像対応
電力系
リチウムイオンバッテリ(~35AH)
高効率TJセル(η~27%),固定/回転パネル
通信系
Sバンドマルチモード中継器
通信速度:~512kbps/~2Mbps (up/down)
推進系
オプション
表 3-5 マイクロ衛星の標準ミッションインタフェース
項目
搭載領域
領域サイズ(mm)
配分質量
配分電力
データ量
50kg級
反PAF面の一部
500×500×100
15kg
15W
10kbps(MAX)
指向精度
5度
熱制御
軌道制御
従属熱制御
N/A
100kg級
反PAF面
600×600×300
35kg
65W
2Mbps(MAX)
0.008度(慣性指向)
0.03度(地球指向)
独立熱制御
オプション
39
300kg級
反PAF面
1000×1000×400
150kg
300W
2Mbps(MAX)
0.008度(慣性指向)
0.03度(地球指向)
独立熱制御
オプション
3-4 打上げシステムの検討
3-4.1 システム運用検討
3-4.1.1 打ち上げ場所
空中発射システムでは、所定の発射地点までロケットを輸送した後に母機から分離する。空
中発射では陸上発射のように特定の打ち上げ設備を利用しないことから、発射地点の自由度が
高い。そのため、飛行経路やモータケース、フェアリングなどの構造物落下地点の制約を緩和
でき、飛行安全や漁業問題からの制約を受けず、打上げ能力を最大にする最適発射方位角を選
択することができる。本項では、下地島空港、大樹町多目的航空公園からロケット発射母機が
離陸する場合の空中発射ロケット発射地点選定を行う。選定方法として、現在唯一実用化され
ている空中発射システムであるペガサスロケット(Orbital Sciences 社)を検討例とし、ロケ
ットの真空中落下予測点を検討することで、飛行安全上の制約が少なく、ロケットが持つ打上
能力を最大限に引出せる発射射点を選定する。
・機体諸元:ペガサスロケットの機体諸元を表 4.1-1 に示す。
・発射方式:発射方式は B-52 爆撃機を用いた亜音速水平発射とする。
・分離条件:分離高度 12192[m]、分離速度 M=0.8(238[m/s])
・制約条件
発射地点:国内の輸送機、旅客機等を母機とした場合に、無給油で空中発射を行え、ま
た、母機に戦闘機を用いる場合も考慮し、発射地点は空港から 1500[km]
以内とする。なお、戦闘機を用いた空中発射では空中給油は必須である。
一段モータ点火までの姿勢:機軸上下角γ=0°、フェアリング:母機分離後
124 秒とする。
IIP 制限 :空中発射ロケットでは発射地点が自由に選択できるため、飛行安全の制約が
緩和されるとし、IIP 制限は行わない。
ロケットは打上能力が最大になるようにインプレーン投入とする。
・検討結果:下地島空港、大樹町多目的航空公園のそれぞれについて、空中発射ロケットの
発射地点を選定した結果を以下に示す。図 4.1-1 に空港と発射地点との位置関
係を示す。また図 4.1-2 に真空中落下予測点を示す。
-紀伊半島沖:空港 下地島空港
発射地点の標点位置:北緯 31° 東経 136°付近
下地島空港からの距離:約 1300[km]
図 4.1-2 において、紀伊半島沖を発射地点とし、投入軌道を SSO(太陽同期軌道)
とした真空中落下予測点は、2 段目構造物がインドネシア共和国の島嶼部に落下するこ
とを示している。そのため紀伊半島沖から SSO500[km]の軌道へ直接、衛星を投入す
る飛行経路の実現性は低い。
-北海道沖:空港:大樹町多目的航空公園
発射地点の標点位置:北緯 45° 東経 157°付近
40
大樹町多目的航空公園からの距離:約 1100[km]
北海道沖射点では衛星を軌道傾斜角 45°に投入する場合、ロケットを真東に発射す
ることとなる。そのため地球の自転速度を打ち上げに最大限利用できロケット打上能
力が高くなる。
発射点付近あるいは飛行経路下にある航空路、海路の調査、インドネシア、ミクロネシア、
オーストラリアなどオセアニアにおける人口稠密地と飛行経路の関係など、飛行安全に関する
更なる検討が必要である。
3-4.1.2 ロケット打上げ管制
空中発射システムの有効性は、打上げ時期、打上げ場所の制約を受けないこと、及び陸上発
射に比して安価なシステムを構築できる可能性が高いところにある。
(1) 飛行安全要求
表 4.1-2 に衛星打上げロケットの飛行安全要求を示す。空中発射においてもこれらの飛行安
全要求に従わなければならないが、空中発射の利点を損なわないように最新技術の導入も念頭
において、飛行安全の達成を検討することが重要と判断する。
(2) 空中発射飛行管制方式
a. 陸上発射ロケット管制方式
本項ではまず、図 4.1-3 に現在一般的に行われている、通常の陸上発射ロケット管制方
式について示す。陸上発射用ロケット管制システムは、空中発射システムと異なり、打ち
上げ時期、打上げ場所の制約を受けることを許容している。このため、空中発射システム
ではこれらの陸上発射用ロケット管制システムの専用設備をなくすことを主眼に検討を
進め、空中発射方式の特性を損なわないシステムを達成する
b. 空中発射ロケット管制方式
空中発射する場合の飛行管制方式候補を表 4.1-3 に示す。空中発射の打ち上げ場所の制
約を排除するためには、ロケット打上げ管制専用設備を極力用いない方式が必要である。
表おいて、5 番~9 番がこの条件を満たすと考えられる。
ア. GPS の使用
飛行安全に必要なロケット位置を計測するのにGPSを使用し、これにより、専用
の打上げ管制装置を構成する、ロケット位置を計測する 2 次レーダが排除できる。
イ. 商業通信衛星の利用
地上とロケット間通信を、打ち上げ場所の制約がなくなる商業通信衛星回線を利用
する。これにより、専用の打上げ管制装置を構成する専用のテレメータ、コマンド送
信機、指令破壊コマンド送信機が排除できる。
5番~9番の方式選定においても、飛行安全の観点から、2回線の確保が必要である。
5番~7番は通信衛星の通信2回線を確保する必要あり。信頼性の観点から衛星1機で通
41
信2回線確保するより、衛星2機それぞれ1回線を確保するほうが望ましい。但し、2機
の衛星を利用する方がコストアップとなるデメリットがある。8番、9番は、ロケット搭
載の自律飛行中断システムを採用しており、地上との回線が不要であり低コストを実現で
きるが、人間が介在できないためシステムの信頼性を十分に確保することが重要である。
自在性のための究極の案として 9 番の完全自律飛行方式が、低コスト化の観点から
最も有効な方式と考えられる。但し、自律飛行中断の信頼性を確保できるまでは、衛
星2機を使用した7番の方式を実現するのが現実的と考えられる。
c. 通信衛星
先述の空中発射管制方式では、空中発射ロケットの打上げ管制に必要な通信回線を確保
するため、商業通信衛星の利用を提案している。ここでは、利用可能な商業通信衛星に関
して調査検討を行い、表 4.1-4 に利用可能な商業通信衛星に関して検討した結果を示す。
LEO のオーブコム、イリジュウムは、通信量が少なく本システムには活用できない。GEO
の通信衛星のうち JSAT は、通信量が最も多く有効であるが、通信をカバー領域が日本と
その近傍に限られており、空中発射の運用場所に制限が生じる。
調査検討結果では、インマルサット、インテルサットが利用可能と判断される。インマ
ルサットは、通信量が現行 64kbps である。この通信量は、ロケット打ち上げ管制に用い
られている約 200kbps に比べて少ないが、通信内容の整理、データ圧縮等により十分運用
可能と判断できる。さらに高容量通信が可能な、BGAN 方式が利用できるようになると通信
量の問題は解消される。インマルサットの衛星を利用した場合に、ロケット打上げ専用回
線を用いた場合に対し、通信遅れが 0.25 秒加算されるがこの程度の遅れ量は、運用上問
題ないと判断される。最も重要な回線系の信頼度は、誤り率:10-10bit/秒であり信頼度
は十分である。インテルサットは、仕様等に不明な点が多いが、米国の SEA LAUNCH 社が
海上発射システムで活用しており、空中発射においても活用できると判断している。
検討の結果、空中発射に活用できる商業通信衛星はインマルサット(航空機用)、イン
テルサットの2種類確保できると考えられる。これにより、回線系信頼度の観点から必要
な2機種が確保できると判断できる。
d. 姿勢制御系の検討
ア. 姿勢基準系目標性能
表 4.1-5 に衛星打ち上げロケット姿勢基準系に求められる目標性能を示す。姿勢基準
が取りにくい空中発射においても地上発射と同等の姿勢基準系の性能が求められる。
イ. 管制基準系用ジャイロ検討
表 4.1-6 に姿勢基準系に使用するジャイロの検討結果を示す。衛星打ち上げ性能を有
するジャイロは、3種類ある。最新式の慣性基準用ジャイロは、リングレーザジャイロ
(LRG)が用いられている。リングレーザジャイロ、オプティカルファイバージャイロ
(FOG)は稼動部がなく寿命が長い、このため長時間運用時には有効な方式であるが、
ロケット打ち上げは、時間的に短時間であり寿命は無視できる。
低コスト化を重視する空中発射システムにおいては、最も低コストであり従来から用
いられているチューンドライジャイロ(DTG)の採用が妥当と判断する。
42
e. 慣性基準初期化方式検討
表 4.1-7 に空中発射システム用慣性基準系初期化方式の検討結果を示す。
慣性基準は時間経過に従ってドリフトによる誤差が蓄積し姿勢目標性能を達成できな
くなる。このため、ロケット打ち上げ前に、慣性基準系の初期化を行い必要な精度を達成
する。慣性基準の初期化を実施する場合、地上発射では、地球の自転をリファレンスにし
ているが、空中発射では、この地球の自転のようなリファレンスは使用できない。空中発
射における母機搭載時に慣性基準系を初期化するのに最も有効な方式は GPS をリファレン
スにする方式である。ディファレンシャル GPS,キネマティック GPS は位置計測精度が高
いが、基準局が必要であり基準局で受信したリファレンス位置情報をロケットに伝達する
必要があり、通信距離による運用上の制約がある。
C/A コード GPS は、位置計測精度は低いが、数10mの位置計測誤差はロケット運用許
容できる範囲である。また、慣性基準系を初期化する方式として、GPS を用いて計測する
速度と慣性基準を用いて計測する速度の誤差を無くするように姿勢基準系を初期化する
方式があり、C/A コード GPS の速度精度 10cm/秒で十分な精度である。
慣性基準系初期化方式として価格的にも安価であり、必要な姿勢基準初期化を達成でき
る、C/A コード GPS を用いた方式が最も有効と判断する。
f. 慣性基準系初期化方式概念
ロケットに搭載した慣性基準系を直接初期化する方式と、母機搭載慣性基準系を別に持
ち GPS で母機搭載慣性基準系を初期化し、この母機搭載慣性基準系にスレーブさせてロケ
ット搭載慣性基準系を初期化する方式が考えられる。ここでは、ロケットに搭載した GPS
を用いて直接慣性基準系初期化する方式を検討する。ロケット搭載 GPS を稼動させるため
の一案として、母機に GPS アンテナを搭載し、このアンテナで受信したデータをリピータ
を介してロケット搭載 GPS に伝達する方式を提案する。この方式により、母機搭載時おい
てもロケット搭載 GPS を稼動させることができ慣性基準系の初期化が実現できる。
3-4.2 ロケット性能の検討
ミッション要求を達成するための空中発射ロケットサイズ(全備重量)は海外等における空
中発射システムの検討事例の調査、トレース結果、ミッション要求に対しロケットサイズを以
下のように設定した。なお、これらのロケットは全て 3 段式固体ロケットと設定している。
・ 衛星重量 50kg 級:全備重量 4.5ton 級ロケット
・ 衛星重量 100kg 級:全備重量 15ton 級ロケット
・ 衛星重量 300kg 級:全備重量 30ton 級ロケット
3-4.2.1 母機からのロケット分離条件と打上能力
空中発射システムでロケットは、高高度において発射母機から分離、あるいは投下される。
そのためロケットは点火時に初速と高度を持っており、これらによって以下に示す理由から打
上能力が向上する。
①ロケット点火時高度が高いため、ロケット側の上昇高度を少なく抑えられる。
②ロケット点火時に発射母機の飛行速度が初速として与えられる。
③ロケット点火時の高度が高いため大気圧が低く、大気圧による速度損失が少ない。
43
(1) 検討条件
a. 機体諸元
表 4.2-1~4.2-3 に検討に用いた全備重量 4.5ton、15ton、30ton 級ロケットの機体
諸元を示す。
b. ロケット点火時の飛行経路角
図 4.2-1 に示すロケット点火時の経路角は、以下の 2 種類で検討を行った。
・最適経路角
・水平発射(経路角γ=0°)
c. 母機からのロケット分離条件
分離高度:8~15km、分離速度:50~450m/s
分離地点:紀伊半島沖(北緯 31°,東経 136°)
d. 投入軌道
図 4.2-1 飛行経路角
投入軌道:高度 500km 円軌道、軌道傾斜角:45°
e. 制約条件
フェアリング:高度 125km 以上で開頭すること。
IIP 制限:空中発射ロケットでは発射地点が自由に選択できるため、飛行安全の制
約が緩和されるとし、IIP 制限は行わない。ロケットは打上能力が最大になるように
インプレーン投入とする。
(2) 検討結果
各ロケットサイズにおいて、
ロケット分離条件と打上能力の関係を以下の図 4.2-2~図 4.2-4
に示す。また、図には、各種発射母機によるロケット分離条件の範囲を円で示している。
(3) 発射母機によるロケットの打上げ可能重量
図 4.2-2~図 4.2-4 から得られた発射母機の種類による各ロケットの打上能力を図 4.2-5 に
示す。また、衛星投入軌道を SSO500[km]にした場合の打上能力も示す。
3-4.2.2 ロケットの形態と打上能力
各ロケットサイズに対して適切な母機、母機搭載方式を検討することで、ロケットの形態を
決定する。決定したロケット形態と 4.2.1 項の検討結果から、その打上能力を明確にする。
(1) 母機搭載方式の比較
空中発射ロケットの母機搭載方式は母機が亜音速機の場合、吊下げ式、背負い式、及び胴内
格納方式が、また母機が超音速機の場合は吊下げ式、背負い式が考えられる。
表 4.2-4、表 4.2-5 に各国で実施、検討されているロケットの母機搭載方式と空中発射方法
の特徴を示す。また各母機搭載方式で搭載可能なロケット重量についても述べる。
(2) 母機搭載方式とロケット形態のトレード
表 4.2-4、表 4.2-5 を用いて各サイズのロケットに対して適切な母機搭載方式及びロケット
形態のトレードオフを行った。トレードオフの結果を表 4.2-6 に示す。また、それぞれのロケ
ットで選択された発射母機、
発射方式による飛行プロファイル例を図 4.2-6~図 4.2-8 に示す。
44
またトレード結果に基づくロケットのシステムベースラインを表 4.2-7~表 4.2-9 に示す。
(3) 投入軌道に対する打上能力
a. 検討条件
ア. 機体諸元
機体諸元は表 4.2-7~表 4.2-9 に示した、各サイズのロケットのシステムベースラ
インを使用する。
イ. 発射方式
それぞれのロケットサイズについてトレードオフした発射方式を採用する。
全備重量 4.5ton 級:超音速ズームフライト方式(図 4.2-6)
全備重量 15ton 級:振子式空中透過方式(図 4.2-7)
全備重量 30ton 級:亜音速水平発射方式(図 4.2-8)
ウ. 母機からの分離条件
全備重量 4.5ton 級:分離高度 15[km]、分離速度 M=1.5(430[m/s])
全備重量 15ton 級:分離高度 10[km]、分離速度 0[m/s]
全備重量 30ton 級:分離高度 12[km]、分離速度 M=0.8(240[m/s])
なお、分離地点は紀伊半島沖(北緯 31°東経 136°)とする。
エ. 投入軌道
軌道高度:高度 150~500[km]、軌道傾斜角:45°、97.4°(SSO)
オ. 制約条件
フェアリング:高度 125[km]以上で開頭すること。
IIP 制限:空中発射ロケットでは発射地点が自由に選択できるため、飛行安全の
制約が緩和されるとし、IIP 制限は行わない。
ロケットは打上能力が最大になるようにインプレーン投入とする。
b. 検討結果
図 4.2-9~図 4.2-14 に各サイズのロケットにおける、投入軌道と打上能力の関係を
示す。また、図 4.2-15~図 4.2-17 にロケットの真空中落下予測点を示す。
(4) PBS を利用したホーマン遷移投入方式
図 4.2-15~図 4.2-17 に示すように、紀伊半島沖からでの軌道高度 500[km]太陽同期軌道
(SSO)への直接投入では、2 段目構造物の落下点がインドネシア島嶼部となることから飛行経
路の成立性は見込めず、飛行安全の観点から 2 段目構造物はより北に落下させる必要がある。
そこで図 4.2-18 に示すように 3 段目燃焼終了時に軌道高度 150×500[km]の SSO 遷移軌道に
投入し、遠地点で PBS 燃焼により 500[km]SSO 円軌道に軌道遷移を行う打上方式(PBS ホーマ
ン遷移投入方式)をとり、2 段目構造物の落下点を北側に調整する。本投入方式による真空中
落下点を検証するために全備重量 15t 級ロケットを用いたケーススタディを行った。
a. 検討条件
ア. 機体諸元
検討する機体は PBS を備えた全備重量 15ton、30ton 級ロケットとする。機体諸元
は表 4.2-10 に示す。直接 SSO500[km]へ衛星を投入する形態に比して、アポジキッ
45
クに利用する推進剤などの重量が増加している。また、3 段目の一部の機器を PBS で
利用するとし、モータケースなどの 3 段目構造物は分離しないとする。
イ. 発射方式
発射方式は振り子式空中投下方式を採用する。
図 4.2-19 飛行プロファイルを示す。
ウ. 母機からの分離条件
分離条件を以下に示す。
分離高度:10[km]、分離速度:0[m/s]
なお、分離地点は紀伊半島沖(北緯 31°東経 136°)とする。
エ. 投入軌道
軌道高度:高度 500[km]、軌道傾斜角:45°、97.4°(SSO)
オ. 制約条件
フェアリング:高度 125[km]以上で開頭すること。
IIP 制限:空中発射ロケットでは発射地点が自由に選択できるため、飛行安全の制約
が緩和されるとし、IIP 制限は行わない。
ロケットは打上能力が最大になるようにインプレーン投入とする。
b. 検討結果
表 4.2-11 に打上能力を示す。また、図 4.2.2-20 にロケットの真空中落下予測点を
示す。図から分かるように 2 段目構造物は、インドネシア共和国の島嶼部から離れた
点に落下している。
3-4.3 ロケットシステムの技術検討
3-4.3.1 航空機搭載、分離方式の調査
3-4.2.2 項において、各ロケットの母機への搭載性とロケット打上性能から、以下のように
ロケットサイズに対して適切な母機候補と搭載方式がトレードオフされた。
方式 A 全備重量 4.5ton 級ロケット(母機:F-15 搭載方式:胴体下吊下げ)
方式 B 全備重量 15ton 級ロケット(母機:C-X 搭載方式:胴体内格納)
方式 C 全備重量 30ton 級ロケット(母機:Boeing747 搭載方式:背負い式)
(1) 航空機搭載、分離方式の実施例
各々の母機搭載、分離方式について実施/検討例を以下に示す。表 4.3-1 から分かるように、
方式 A~C にはそれぞれ世界各国において既存の民間機、軍用機を用いた実施/検討例があるこ
とから、各航空機搭載、分離方式には実現性が十分あるといえよう。
(2) AirLaunch LLC 社 QuickReach
検討した母機搭載、分離方式において方式 A、C ではロケットは母機の外部に搭載されてい
る。これらの方式ではロケット切り離し後、ロケットの空力操舵や母機の退避マヌーバにより
分離が行われるが、方式 B においてロケットは母機内部に格納されている状態であるため、他
と異なる特異な分離方式がとられる。そこで表 4.3-1 で方式 B の実施/検討例として示した
AirLaunch LLC 社の空中発射システムについて、その母機搭載、分離方式を調査した。
46
a. 空中発射方式のトレードオフ
AirLaunch LLC 社は、DARPA(防衛高等研究計画局)による低価格・即応・小型衛星打
ち上げ計画である FALCON プログラムの Phase 1 として以下に示す空中発射方式のトレー
ドスタディを行った。また FALCON プログラムの要求は以下のようである。
打上能力:450kg(LEO185km)
コスト:年平均 20 回の打上を 10 年行う事を想定して$5million 以下
(射場等の経費も含む)
投入精度:高度±25km 以下 軌道傾斜角±0.1°以下
フェアリングエンベローブ:長さ 1.5m 以上 直径 1.0m 以上
即応性:24 時間以内に警戒状態(alert status)にできること
打上命令受領から 2 時間以内にロケットを打ち上げること
24 時間に 16 機打ち上げること
ア. トレードオフ結果サマリ
AirLaunch LLC によって行われたトレードスタディのまとめを表 4.3-2 に示す。
イ. 母機搭載方式のトレードオフ
搭載方式のトレードオフを、表 4.3-3 に示す。
母機搭載方法のトレード結果として、ロケットを胴体内に収納する方式が表に示
す特徴から最も適すると結論付けられた。
ウ. 投下方向のトレードオフ
投下方法のトレードオフを、表 4.3-4 に示す。
ロケット投下方向のトレード結果として Forward Facing Launch が表に示す特徴
から最も適すると結論付けられた。
エ. ロケットの姿勢変更法トレードオフ
ロケットの姿勢変更方法のトレードオフを表 4.3-5 に示す。
ロケットの姿勢変更法のトレード結果として Stabilizing Parachute が表に示す
特徴から最も適すると結論付けられた。
オ. 母機からの投下方法のトレードオフ
投下方法のトレードオフを表 4.3-6 に示す。
母機からの投下方法のトレード結果として Gravity Air Launch(GAL)がに示す特
徴から最も適すると結論付けられた
カ. 母機内でのロケット移動方法のトレードオフ
母機内のロケット移動方法のトレードオフを表 4.3-7 に示す。
b. クイックリーチ空中発射システム
以下にトレードオフにより選ばれた母機搭載方法、分離方法について述べる。
ア. 母機搭載方法
AirLaunch LLC 社が開発している空中発射システムのロケット母機搭載方法は、母
機にア C-17 グローブマスタⅢを用い、その貨物室後部扉からロケットを差し込む方
式である。ロケットを搭載した SLC を運搬装置に乗せトラックで牽引し、工場でロ
47
ケットを搭載した SLC を陸送、鉄道、船舶などを利用し、母機が離陸する空港まで
輸送することも可能である。母機にはロケット、SLC、SLC 運搬装置を各 1 台搭載で
きるため、C-17 を 1 機で 1 つの空中発射システムを成せるとされる。
AirLaunch LLC 社のロケットは QuickReach と呼ばれ全長:66 feet(19.8m)、直
径:7 feet(2.1m)、重量 72,000 lb(32.4t)の 2 段式液体ロケットで、推進剤は
LOx/C3H8 である。図 4.3-1 に QuickReach ロケットの概要図を示す。C-17 のカーゴ・
コンパートメントに、QuickReach ロケットは 2 機搭載できる。また、ロケットは母
機貨物室内で発射前に点検を行うこともできる。図 4.3-2 に SLC について示す。
イ. 分離方法
QuickReach ロケットの分離方法は Gravity Air Launch(GAL) とよばれ、母機から
重力以外の力を用いずに投下する。ロケットは先述の SLC 内側に備えてある約 100
個の車輪とタイヤ上を転がることで母機の外へ排出される。このとき SLC は母機内
に残るため海上への投棄物も少なく、SLC の再利用ができる。
① ロケット投下方向
ロケットの投下方向は図 4.3-3 に示すように、ノズル部を下にして母機からロ
ケットを投下(Forward Facing Launch)としている。Forward Facing Launch に
は以下のような特徴がある。
・陸上発射と比較して打上性能が 30%向上する
・母機やロケットに異常があってもペイロードを守ることができる
(緊急時、ロケットを破棄してペイロードを分離・回収すると思われる)
・投下のためにロケット架台を必要としない
・ロケットを引出すためのパラシュートや火工品を用いないため信頼性が高い。
② ロケット点火姿勢確立方法
ロケット点火姿勢確立方法は図 4.3-4 に示すように、小さなパラシュート
(drogue chute)を用いて姿勢安定を安定させ、ロケットの機首が垂直になるま
で引き起こす。Drogue chute を用いた姿勢安定には以下のような特徴がある。
・軽量、信頼性が高い
・ロケット投下前に母機内で drogue chute 等の点検ができる
・USAF の直径 15feet drogue chute をそのまま利用できる。
③ 投下方法
ロケットの投下方法は Gravity Air Launch(GAL)とよばれる。母機は機首を 5
~7(deg)持ち上げ、搭載したロケットを重力のみを利用して投下する。投下時
のロケットの速度は母機のデッキの角度により 6~7.5(m/sec)(20~25(ft/sec))
となる。GAL では以下のような特徴がある。
・重力以外の力を利用しないのでシンプルで信頼性が高い
・母機を改修する必要がない
・27(t)までの投下試験がすでに C-17 を用いて行われている
④ 母機内でのロケット移動方法
母機内でのロケット移動方法を図 4.3.1-5 に示す。母機内でロケットは先述し
48
た SLC についている車輪及びタイヤの上を転がり、貨物扉から投下させる。母機
内でのロケット移動方法には以下のような特徴がある。
・ロケットに対して点で荷重をあたえない。
・SLC は母機内に残るため再利用できる。また TFOA(Things Falling Off of the
Aircraft)が発生しない。
・車輪やタイヤは航空機の在庫品が利用できる
3-4.3.2 アビオニクス系の技術検討
(1) アビオニクスの低コスト化
低コストアビオニクスを実現する以下の課題を解決する必要がある。
①高性能部品の活用問題
②高信頼性部品の供給性問題
③高信頼性部品の高コスト問題
図 4.3-6 に低コストアビオニクスを実現するための方策概念を示す。
限られた高信頼性部品ではなく、現在活用可能な先端の民生部品(COTS品)を活用する
ことで、低価格の高性能部品の入手性に悩まされることはなくなるが、民生部品の信頼性を確
保するための方策を実現する必要が生じる。さらに、作業の効率化による省力化の達成やシス
テム簡素化のため、以下のような技術の達成が必要と考えられる。
a. 新たな品質保証方式の確立
低コスト・高性能 COTS の活用を可能にする評価手法の確立が必要であり、従来のよ
うに製造から品質保証を行う方式に変わる新しい品質保証方式を確立する必要がある。
b. 機器のモジュール化・共通化
機器のモジュール化を推進することにより、機器の開発、機器のメンテナンス、運
用時の故障対応等を容易にし、省力化が図られ低コストにつながると考えられる。こ
のためには、インタフェース等の標準化を行うことが求められる。さらに、モジュー
ル化した機器の共通化は、低コストアビオニクス実現には重要なテーマである。しか
し機器の共通化は、衛星打ち上げロケットにおける飛行安全の確保とも関わり、簡単
共通化できない部分がある。図 4.3-7 にロケットアビオニクスの共通化候補を示す。
・飛行安全通信機と一般通信機の共通化
・飛行安全系電顕と一般機器電源の共通化
(2) インタフェース、コンピュータの標準化
インタフェース等の標準化に寄与する技術の1つが PLUG&PLAY 化を可能にするコンピュータ
標準化である。コンピュータシステムの標準化は、コンピュータシステム構成に依存する部分
が大きく、方式を確定するには、運用も考慮した検討が必要になってくる。
・周辺機器(センサー等)は標準のインタフェースで結合する。(米国の例:USB)
・CPUを備えモジュール化された機器間結合は共通プロトコルで結合する。
(米国の例:Space Wire)
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・システム間の通信では、通信ネットワークで結合する。(米国の例:TCP/IP)
・システムソフトは、柔軟性の高いソフトを採用する。
(米国の例:JAVA、但し、日本の場合は、TORON系か?)
(3) 機体のセルフチェック
自動故障診断機器構成例を図 4.3-8 に示す。自動故障診断には機器のモジュール化が欠かせ
ない。モジュール単位でCPUを持ち機器の内部診断を可能にする分散処理方式が効果的であ
る。但し、システムレベルの診断ではこられを統合するメインCPUが求められる。
(4) ハーネス省力化
ロケット搭載機器間をワイヤレス化する技術の推進も省力化並びにシステムの簡素化を可
能にする技術として追及する必要がある。図 4.3-9 にロケット段間通信の概念を示す。
(5) アビオニクスの構成
ここまでの検討を元にアビオニクスの構成案を作成した。図 4.3-10 にアビオニクスの構成
を示す。
3-4.3.3 低コスト化に係る民生部品の調査
3-4.3.3.1 宇宙用部品の要件
現在の宇宙用部品に対する考え方は、大きな転換期にあり、従来の高信頼性専用部品から、
低コスト化を第一の目標とした方向へとなっている。これは、世界的に「宇宙開発」から「宇
宙産業」へと時代が変化したことへの必然的な方向性であり、民生部品に求められるものと同
様である。つまり、市場において競争力を持つことであり、以下の要件を考慮する必要がある。
(1) 小型化
低コスト化と小型化に関しては、全体として共通の課題であり、小型化することによる重量
の削減は、輸送コストの直接のパラメータでもある。また、小型化することにより、機能を落
とすことなく低コスト化が達成されることもある。
(2) 信頼性
信頼性の考え方は、従来の構成部品の信頼度の積み重ねからの考え方を転換し、部品点数の
削減、分散型システムによる冗長構成、インタフェースの標準化による信頼性の向上等々の、
全体システムとしての信頼性の観点から、機器レベル(ユニットレベル)への信頼性の考え方
を明確にしていく必要がある。宇宙用にのみ使用するのではなく、他分野で継続的に使用され
ることも信頼性確保の上で重要である。
(3) 即応性
即応的に打上ができることは、市場として大きなニーズが見込まれている。即応性を確保す
るためには、単に打上システムが即応性を有しているだけではなく、機器、部品、組立、試験、
開発手法等全てのフェーズでの即応性を確保する必要がある。このためには、機器のモジュー
ル化・標準化、部品の入手性、試験・開発環境の整備、自己診断システム化、修正・拡張の容
50
易性などが必要と考えられる。
(4) 供給安定性
宇宙用部品の多くは、輸入部品に頼っており、安定的な部品の入手性を保証されていないも
のも多く存在する。また、国産部品・機器であっても、大手メーカの宇宙関連からの脱退、小
ロット・受注生産による長納期・高コストといった課題がある。
部品の民生品利用を進めることで、部品の入手性や、最新技術の流用といった面については
改善されるが、輸送システムの場合、打上の信頼度の維持の観点から、十年単位での安定的な
部品供給が求められる。民生品は製品開発のサイクル期間が短く、十年単位での部品を確保す
るためには、在庫の確保といった課題を抱えている。
機器・部品・材料の供給安定性を確保するためには、市場の拡大と安定的なニーズの確保が
重要である。現状では、宇宙衛星用、宇宙輸送系用、航空機用、無人機用、ロボット・産業機
器用、防衛用と、縦割りの規格や認定制度等があり、それぞれが専用の機器、部品の制度や開
発を行っているのが現状である。共通化や標準化を進め、要求仕様が異なっていたとしても共
通的に使えるシリーズ化した機器等の開発を進め、宇宙産業だけではなく、横方向への市場拡
大を図ることが、今後の民生技術を活用していく上で最重要な課題であると考える。
3-4.3.3.2 民生部品・技術
将来型宇宙機・輸送システムに利用可能と考えられる技術・製品、また現在開発が進められ
ている技術について以下に記す。
(1) オンボードコンピュータ
現在多くのパソコンや家庭用ゲーム機に使用されている一部の最新の CPU は、SOI (Silicon
on Insulator) の技術により製造されている。SOI は、CMOS LSI の高速性・低消費電力化を向
上させる技術であり、絶縁膜上に形成した単結晶シリコンを基板とした半導体、および半導体
技術のことをいう。SOI チップは、民生半導体でも近年危惧されている宇宙から降り注ぐ中性
子線によるソフトエラー(放射線によるビット反転エラー)の発生確率が極めて低い特性を持
っており、宇宙用や高い信頼性が必要とされる産業分野で活用され始めている。
(2) ジャイロスコープ
姿勢制御に用いられるジャイロスコープには、様々な方式があり、古くからある機械式(こ
ま方式)、レーザ、光、各種 MEMS 方式等がある。低価格、小型化を考えると、MEMS センサが優
位であるが、安定性や精度に難があり、そのままでは使用することが難しい。現在の性能より
一桁性能が向上すれば、他のセンサ情報から補正方法との組合せにより安定性や精度の補償を
おこなうことにより使用できる可能性がある。
RLG(レーザーリングジャイロ)方式は、精度が非常に高く、航空機やロケットに多く用い
られている。欠点として高価であることである。
FOG(光ファイバージャイロ)方式は RLG に比べ小型であることから、産業用に多く用いら
れている。温度変化に敏感という欠点があるが、温度制御を行うことにより、短時間であれば
非常に安定性を高めることが可能である。
51
(3) GPS
GPS は小型衛星等において、車載用の GPS を改造しドップラーシフトに対応したものを使用
してきた。近年、GPS のソフト・ハードのアーキテクチャーのオープンソースを利用した、衛
星搭載用 GPS の開発が、大学を始め、JAXA のオープンラボ制度で行われている。
オープンソースをベースとすることで、組込みソフトウェアで低コスト・短期間で柔軟なシ
ステム構築が可能となる。
(4) 通信機技術
a. RF-MEMS 可変容量素子
携帯電話等にみられるように、近年ひとつの機器で複数の周波数を利用する方式が広が
っている。異なる周波数を利用するため無線システムは複雑化しており、MEMS 技術を利用
した、RF 可変容量素子の開発が、いくつかの大手メーカで進められている。
MEMS 化により、大幅な部品点数の削減と小型化が期待でき、信頼性向上が期待できる。
宇宙用途として利用できるかどうかが今後の課題である。
b. MMIC を利用した送信機
MMIC とは、能動素子(トランジスタやダイオードなど)と受動素子(伝送線路, 抵抗, 容
量, インダクタンスなど)を一体化したマイクロ波回路をマイクロ波集積回路( MIC :
microwave integrated circuit )とよび、マイクロ波回路技術と半導体処理技術を融合し
た技術である。現在 60GHz 程度までの汎用 MMIC が市販されている。
3-4.3.3.3 無線化技術
M-V ロケットにおける、計装配線の距離は数百 km に及び、その重量は約 150kg に達する。
この計装配線を削減するためには、無線通信、光通信等のワイヤレス技術が必要となる。特に、
ロケットでは、各種センサーと計測器間の配線長が長いという特色があるが、ワイヤレス化を
した場合、信号線を無線化したとしても、電力については、有線による供給か、各部位でバッ
テリを持たせなくてはいけないという欠点が発生する。
(1) FBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)
離れた場所のセンシング手段として、FBG:光ファイバ・ブラッグ・グレーティング(Fiber
Bragg grating,)技術がある。FBG は、UV 線を用いて光ファイバのコア中に回折格子を形成し、
光フィルタとしての機能を持たせた光ファイバ型デバイスである。回折格子を光ファイバ中に
非破壊的に直接形成できるため、低損失・小型・高信頼性・伝送用光ファイバとの整合性など、
多くの利点を有する。FBG により、温度、圧力、ひずみを測定することが可能であり、ひとつ
の光ケーブルで 30km に及ぶセンシングも可能である。ロケットのモニタ用センシング技術と
しての利用は、計測器側装置の開発が進めば可能と考えられ、部品点数や I/F の削減、重量低
減が期待できる。
(2) 無線規格
数メートルから数十メートル程度の無線ネットワーク通信は WPAN(無線パーソナルエリアネ
ットワーク)と呼ばれ、現在 IEEE802.15 規格として Bluetooth、UWB、ZigBee の 3 方式の規格
化が進められている。
52
ZigBee は家電のネットワーク向けとして規格化され、低速で転送距離が短い代わりに、安価
で消費電力が少ないという特徴を持つ。アドホックなネットワークを構成することが可能で、
子機それぞれがネットワークの中継点として機能することができる。次世代衛星やロケットの
センサネットワーク手段として有望と考えられる。日本では、2.4GHz 帯しか利用できないとい
う欠点があるが、近年量産通信モジュールの供給も開始し民生分野での利用が広がっている。
ZigBee 方式は、小型衛星のコンステレーション飛行における衛星間通信や、地上のセンサネ
ットワークとしての利用が期待できる。
UWB は、もともと米国の軍事技術として始まり、2002 年に米国で民間利用が許可されたばか
りの規格である。特長として低消費電力、高速通信、高精度な位置測定やレーダとしての機能
も併せ持つ。広い周波数帯を使用することから、各国の電波法や他の通信帯域との干渉の問題
があるが、システム内の高速通信手段としての可能性はある。
3-4.3.3.4 その他の技術
ロケットの制御システムの構成において、現在はオンボードコンピュータによるクローズド
プログラムでの制御が行われている。
産業機器、生産設備、生産ロボット等には広く PLC (Programmable Logic Controller)が用
いられている。近年では PLC ユニットの高性能化が進み、計測系の制御にも用いられている。
PLC はラダーと呼ばれるプログラム(シーケンス制御)でオープンプログラムとして実行さ
れるため、非常に実行速度が速く、また信頼性も高い。現在の PLC はモジュール化され、工場
の生産現場で使われるため耐環境性が高く、自己診断システム等も備える。
長年培われた高信頼性のシステムであることから、観測ロケットのシステムとしての活用が
考えられる。
市販の PLC ユニットでは、超小型のモジュールも存在する。一般的に使われるモジュールで
も CPU ユニットで 10cm 四角程度の大きさであり、USB インタフェースや LAN 接続により、プロ
グラムの書き換え、モニタ、診断等が行えるため、射場整備の簡易化が期待できる。
3-4.4 技術課題の整理
宇宙利用支援システムにおける打ち上げロケットシステムとして、小型衛星のニーズに資す
る即応性・利便性、自在性を有する空中発射システムを検討してきた。これらの検討の結果必
要な技術要素は、大きく、空中発射システム固有の技術、空中発射の即応性・利便性を向上さ
せるための技術、空中発射の自在性を確保するための技術に大別される。このうち空中発射の
即応性・利便性の向上、自在性の確保につながる技術は、運用面からのロケットの低コスト化
に繋がる技術であり、陸上発射や海上発射にも必要な技術である。
3-4.4.1 宇宙利用支援システムの技術課題
宇宙利用支援システムの技術要素を
・
空中発射システム固有の技術
・
空中発射の自在性を確保するための技術
・
空中発射の即応性・利便性を向上させるための技術
・
その他(諸外国の動向から今後取組むべき技術)
に大別してまとめたものを表 4.4-1 に示す。これらを実現するための技術課題についても整
53
理した。
3-4.4.2 開発ステップ
本項では目標としている、宇宙利用支援システムの打ち上げシステム実現のための開発ステ
ップ案を示す。
前項でまとめた技術要素は技術レベルの観点から大きく以下の 3 つに分類することができる。
a. 従来のロケット技術の延長線上で打ち上げシステムの開発フェーズもしくは運用フェ
ーズにて取り込めば良い技術
b. 空中発射の母機への搭載や母機からの投下方式などの新規技術にあたるもの
c. 近年の IT 技術など民生技術をロケットへ適用するもの
上記 b.や c.にあたる技術要素については打ち上げシステムの本格的開発に入る前に、b.は
技術的成立性を示すための要素研究と試作試験が必要であり、c.には観測ロケットなどの手段
を用いた民生技術の適用性に関する実証が必要である。
各技術要素に対して、研究・開発・運用で必要と考えられるステップの案を表 4.4-2 にまと
めた。この表からわかるように、自在性・即応性・利便性に関わる技術はここで検討している
システムだけでなく、テストベッドとして利用しようと考えている観測ロケットにも適用でき
るし、観測ロケットを衛星打ち上げのナノランチャ化する際にも適用可能であり、ロケット開
発の技術的な幅が非常に広がる。
ここでは検討課題の整理までで、検討内容や試験内容の詳細まで検討することができて
いないが、今後、研究開発の規模、スケジュール等の詳細を早急に示し、宇宙利用支援シ
ステムの開発促進につなげていく必要がある。
表 4.1-1 ペガサスロケットの機体諸元
ステージ 推進薬量[kg] 構造重量[kg] 構造効率 Isp,Vac[sec] 姿勢制御 モータ
1st
12152
1868
0.87
295.3
空力操舵 ORION50S
2st
3026
376
0.89
295.5 TVC+RCS ORION50
3st
782
203
0.79
291.1 TVC+RCS ORION38
NF
111
18518
全備重量
-
北緯[degN]
50
40
30
北海道沖射点
(N:45°、E157°付近)
約1100[km]
大樹町多目的航空公園
(N:42.5°、E:143.4°)
約1300[km]
紀伊半島沖射点
(N:31°、E:136°付近)
下地島空港
(N:24.8°、E125.0°)
20
120
130
140
150
160
170
180
東経[degE]
図 4.1-1 空港と発射地点の位置関係
図 4.1-2 ロケットの真空中落下予測点
54
表 4.1-2 ロケットの飛行安全要求
項目
内容
トランスポンダ
・打上げ~地球周回軌道投入、又は
事前に設置したゲートまで
・飛行中断:原則破壊
1 期間
・ロケットの落下予測域が落下限界
線と接触
・落下予測域の監視不能
・飛行中断機能喪失の可能性 等
2 基準
3 監視のためのデータ
・(主)ロケットの現在位置、落下予測
域算出のためのレーダ、テレメトリ
・(補助)搭載機器の作動状態、飛行
継続能力の推定に資するテレメトリ
2次レーダ(2系統)
・レーダ2系統+テレメ1系統(原則)
・保安用コマンド2系統
4 監視のための電波リンク
・制御コマンド1系統
テレメータ
指令破壊コマンド
送信機(2系統)
コマンド送信機
図 4.1-3 陸上発射ロケット管制方
表 4.1-3 飛行管制方式のトレードオフ
ロケット位置計測
テレメータ
コマンド 指令破壊 評 価
1
従来方式
2次レーダ(地上)x2
地上受信機x1
地上送信機x1
地上送信機x2
x 地 上専 用 施設 によ
る運用制約大
2
テレメータで測距
(案1)
(指令破壊に測距パ
ルスを含め、テレメで受
信)
地上受信機x2
(トラッキング機能追加)
(指令破壊系に
含める)
地上送信機x2
x 地 上専 用 施設 によ
る運用制約大 3
テレメータで測距
(案2)
同上
地上送信機x2
(トラッキング機能追加)
同上
地上送信機x2
x 地上施設による
運用制約大
4
GPS
地上通信機
ロケット搭載GPS
地上送信機x2
同上
地上送信機x2
x 地上施設による
運用制約大
5
航空機x1
通信衛星x1
同上
航空機搭載テレメータx1
通信衛星x1
同上
航空機搭載コマンドx1
通信衛星(データ)x1
○運用制約がない
6
航空機x2
同上
航空機x2
搭載テレメータx2
同上
航空機x2
搭載テレメータx2 ○ 運用制約が無い
7
通信衛星x2
同上
通信衛星x2
同上
通信衛星x2
*
8
自律指令破壊x1
同上
航空機搭載又は通信
衛星テレメータx1
同上
航 空 機 又 は 通信 衛 星x
1
自律指令破壊x1
△ 運用制約が無い
自律破壊は課題あり
同上
航空機搭載又は通信
衛星
同上
自律指令破壊x2 通信衛星(音声) x 1
図4 1 4
航空機又は通信
衛星x1
9
自律指令破壊x2
図4 1 5
(GPS衛星)
(通信衛星#1)
*
航空機に通信機器の
航空機に通信機器の
○ 運用制約が無い
*
航空機に通信機器の
△ 運用制約が無い
自律破壊は課題あり
(通信用衛星#2)
テレメータ#2
テレメータ#1
・コマンド#1
・破壊指令#1
(GPS位置情報)
・コマンド#2
・破壊指令#2
(GPS位置情報)
(通信回線:音声)
(衛星地上局♯2)
(データ通信)
(衛星地上局♯1)
衛星打ち上げ用航空機
地上管制局
図 4.1-4 飛行管制方式の概念図(No.7:通信衛星 2 機による飛行管制)
55
(通信用衛星 #2)
(通信衛星# 1)
(GPS衛星)
自律飛行中断×2(冗長)
(ロケット位置)
(ロケット速度)
テレメータ2 回線
(ロケット位置情報)
(航空機位置)
(航空機速度)
衛星打ち上 げ用航空 機
(データ通信)
(通信回線:音声)
(衛星地上局 ♯2)
地上管制局
(航空機との通信回線)
(衛星地上局 ♯1)
(ロケットとの通信回線)
図 4.1-5 飛行管制方式の概念図(No.9 完全自立飛行中断システムによる飛行管制)
表 4.1-4 空中発射システムに利用可能な商業衛星
衛星名
インマルサット
・M4
・Swift(航空機用)
・BGAN (高容量)
JSAT
インテルサット
オーブコム
イリジュウム
衛星軌道
GEO
GEO
GEO
LEO
LEO
通信容量
UP:64kbps
Down:64Kbps
UP:2Mbps
Down:10Mbps
UP:64kbps
Down:64Kbps
UP:2. 4kbps
Down:4.8Kbps
UP:2. 4kbps
Down:2.4Kbps
通信可能範囲
太平洋全域
日本国内
(高指向性)
太平洋全域
太平洋全域
太平洋全域
通信遅れ 0.25秒
通信信頼性
誤り率:10^10bit
/秒
インターフェース:RS232C
インターフェース
電圧:5V
判定
○
備考
通信量の検討が必要
×
通信範囲が運用範囲
をカバーせず
×
通信量が少ない
○
Sea Launchで使用
通信量の検討が必要
BGANは回線信頼
度が未確認
表 4.1-5 姿勢基準系目標性能例
項 目
角度増分積分値信号 加速度計測
ミスアライメント
表 4.1-6 ジャイロ性能
内 容
・計測範囲 (ピッチ、ヨー) :±200deg/s以上
(ロール ) :720 deg/s以上
・バイアス安定度 :0.04 deg/s以上
・ランダムウォーク :0.03 deg/√h
・スケールファクター安定度 :0.02 deg
・初期姿勢誤差 : 0.02 deg
・計測範囲 ・バイアス安定度 ・スケールファクタ安定度 ・スケールファクタ非直線性 ・ミスアライメント安定性 ・バイアス振動感度 ×
通信量が少ない
:±196m/s2(±20G)以上
:980μm/s2(±100μG)以下
:200ppm
:30μG/G2
:0.01deg
:20μG/G2 rms
・方位角精度(ロール) :0.2 deg(3σ)
・姿勢角精度(ピッチ/ヨー) :0.02 deg(3σ)
・初期速度(ロール、ピッチ、ヨー):0.2m/s
56
リングレーザジャイロ
(RLG)
光ファイバージャイロ
(FOG)
チューンドライジャイロ
(DTG)
精 度
0.01°/秒
0.01°/秒
0.01°/秒
消費電力
12W/1軸
5W/1軸
40W/1軸
重 量
400g/1軸
200g/1軸
200g/1軸
寿 命
10**5 時間
10**4 時間
10**3 時間
価 格
300万円/1軸
200万円/1軸
130万円/1軸
民間空中発射用
慣性センサ評価
○
○
◎
表 4.1-7 姿勢基準系の初期化方式比較
項 目
内 容
条 件 精 度
評 価
高精度IN S
高 安定、約0. 0 1°/h
の INS を 使 用 し 、 INS
使用可能時間内で運用
初期安定決定後約1時間以
内に打ち上げ
初期誤差=0.02°可能
△
最高性能INSが必要
IN SをC/AコードGPSと
GPS速 度テ ゙ー タ により初
期化
GPS精度15m(3σ)
GPSによる初期化
初期誤差=0.02°可能
可能性あり
◎
最も実効性が高い
3
IN S+C/Aコード
GP Sによるロケット
イフライト補正
IN SをC/AコードGPSと
GPS速度データにより
ロケット飛翔時に補正
GPS精度15m(3σ)
最 終要求姿勢誤差範囲
内を達成可能
○
実効性あり
4
IN S+キネマティッ
クGPSによる初期
化(案1)
IN Sを高精度キネマテ
ィックGPSで初期化
GPS精度30cm(3σ)
初期誤差=0.02°可能
性あり
△
ロケットに地上基準局か
らアップリンクが必要
5
IN S+キネマティッ
IN Sをロケットの頭部
、尾部に配置したキネ
マティックGPSで初期
化
ロケット長16mの頭部、と
尾部のGPSアンテナセット
初期誤差=1°
クGPSによる初期
化(案2)
X
性能不可
6
キネマティック
GPSによる姿勢計
測
衛星打ち出し姿勢をロ
ケットの頭部、尾部に
配置したキネマティッ
クGPSで計測
ロ ケッ ト長 3 mの 頭部、 と
尾部のGPSアンテナセット
GPS精度30cm(3σ)
姿勢誤差=5.7°
X
性能不可
7
スターセンサ等で
衛星打ち出し姿勢をス
ターセンサ等で計測
スターセンサ±70arc秒
姿勢誤差=0.019°
△
1
地上初期化
2
IN S+C/Aコード
姿勢計測
GPS精度30cm(3σ)
(3σ)
計測レート:1Hz
更なる実現性の検討が必
要
表 4.2-1 全備重量 4.5ton 級ロケットの諸元
項目
1段
2段
質量特性
3段
1段
推進特性
2段
3段
姿勢制御方式
全備重量4.5ton級
構造[kg]
330(430)
推進薬[kg]
2900
構造[kg]
110
推進薬[kg]
760
構造[kg]
80
推進薬[kg]
280
フェアリング
50
全備質量
4510(4610)
真空中比推力[s]
290
真空中推力[kN]
137
燃焼時間[s]
60
真空中比推力[s]
295
真空中推力[kN]
41
燃焼時間[s]
53
真空中比推力[s]
295
真空中推力[kN]
13
燃焼時間[s]
62
1段
TVC+RCS(空力操舵)
2段
TVC+RCS
3段
TVC+RCS
( )内の値は水平発射で 1 段目に主翼を持つときの値
表 4.2-2 全備重量 15ton 級ロケットの諸元
項目
1段
2段
質量特性
3段
1段
推進特性
2段
3段
姿勢制御方式
全備重量15ton級
構造[kg]
1160(1460)
推進薬[kg]
10500
構造[kg]
390
推進薬[kg]
2500
構造[kg]
205
推進薬[kg]
600
フェアリング
90
全備質量
15445(15745)
真空中比推力[s]
285
真空中推力[kN]
367
燃焼時間[s]
80
真空中比推力[s]
295
真空中推力[kN]
103
燃焼時間[s]
70
真空中比推力[s]
295
真空中推力[kN]
25
燃焼時間[s]
70
1段
TVC+RCS(空力操舵)
2段
TVC+RCS
3段
TVC+RCS
( )内の値は水平発射で 1 段目に主翼を持つときの値
57
表 4.2-3 全備重量 30ton 級ロケットの諸元
項目
1段
2段
質量特性
3段
1段
推進特性
2段
3段
姿勢制御方式
全備重量30ton級
構造[kg]
2470(3220)
推進薬[kg]
18000
構造[kg]
670
推進薬[kg]
4000
構造[kg]
330
推進薬[kg]
1800
フェアリング
180
全備質量
27450(28200)
真空中比推力[s]
292
真空中推力[kN]
606
燃焼時間[s]
85
真空中比推力[s]
290
真空中推力[kN]
134
燃焼時間[s]
80
真空中比推力[s]
292
真空中推力[kN]
90
燃焼時間[s]
57
1段
TVC+RCS(空力操舵)
2段
TVC+RCS
3段
TVC+RCS
( )内の値は水平発射で 1 段目に主翼を持つときの値
図 4.2-2 全備重量 4.5ton 級ロケットの分離条件と打上能力
図 4.2-3 全備重量 15ton 級ロケットの分離条件と打上能力
58
図 4.2-4 全備重量 30ton 級ロケットの分離条件と打上能力
図 4.2-5 発射母機種類と打上能力
表 4.2-4 母機搭載方式と空中発射方法(亜音速域)
分離速度域
航空機搭載方式
亜音速域
胴体格納方式
吊下げ式
背負い式
適用例
Orbital Science社
搭載質量:23t
ペガサスロケット
(固体3段式)
発射方式
ロケット形態
AirLaunch社(開発中)
搭載質量:32t
QuickReach
(LOX/C3H8 2段式)
NASA(シャトルの輸送等)
搭載質量:70t
エンタープライズ
(着陸試験機)
亜音速水平発射
振子式空中投下
亜音速水平発射
ロケットは主翼を持つ。
ロケットは投下された
後、姿勢を水平に保ち
つつ母機が十分に離
れた点で点火を行う。
その後、空力操舵によ
り引き起こしを行いな
がら上昇。
ロケットは母機後方へ
投下された後、パラ
シュートを用いて姿勢
を垂直に引き起こし、
点火姿勢を確立させ
る。
ロケットが適切な姿勢
になったときに点火。
母機は0Gダイブで退
避。ロケットは主翼揚
力で母機から離れた後
に点火、空力操舵で引
き起こす。
空力操舵のため、主翼 投下後、点火姿勢確立 母機から離れるため、
を持つ。
のためノズル部にパラ また空力操舵のために
シュートを設ける。
主翼を設ける。
地面、母機脚部と干渉
しない形態であること
が必要。
母機は側方へ退避マ
ヌーバして安全確保。
後方へ投下するため母 母機は0Gダイブで退避
機は退避しやすい。
して安全確保。
安全性
ロケットを取り付けるパ 母機改修の必要はな
イロンが必要。
い。
母機とロケットの
母機脚部・地面とのク
適合性
リアランスが必要。
母機の補強・改修が必
要。
耐空審査が必要。
母機候補と
搭載可能重量
Boeing 747:~20t
C-X:~26t
Boeing 747:~70t
分離条件例
M 0.8 (237(m/s))
高度 12,000(m)
(全備重量19tロケット)
高度 9,000(m)
(全備重量32tロケット)
M 0.7(200(m/s))
高度 10,000(m)
(全備重量50tロケット)
59
表 4.2-5 母機搭載方式と空中発射方法(超音速域)
表 4.2-6 ロケットサイズに対する母機搭載方式のトレードオフ
Boeing747
C-X(次期輸送機)
発射母機
吊下式
胴体内格納
ロケット
◎
搭載性
4.5ton級
打上能力
搭載性
15ton級
打上能力
搭載性
30ton級
搭載可能
母機改修の必要が無い
△
搭載可能
大幅な母機改修が
必要
×
×
ミッション要求不達成
ミッション要求不達成
◎
○
搭載可能
ロケットを取付ける
パイロンが必要
搭載可能
母機改修の必要が無い
△
搭載可能
大幅な母機改修が
必要
○
SSO500[km]Cir: 100[kg]
LEO500[km]Cir: 160[kg]
○
SSO500[km]Cir: 120[kg]
LEO500[km]Cir: 180[kg]
×
×
搭載可能
ロケットを取付ける
パイロンが必要
搭載不可
重量過多
-
打上能力
○
搭載可能
ロケットを取付ける
パイロンが必要
F-15
背負い式
-
○
搭載可能
大幅な母機改修が
必要
○
SSO500[km]Cir: 310[kg]
LEO500[km]Cir: 400[kg]
吊下式
○
搭載可能
ロケットを取付ける
パイロンが必要
背負い式
△
搭載可能
大幅な母機改修が
必要
○
SSO500[km]Cir: 50[kg]
LEO500[km]Cir: 100[kg]
×
搭載不可
重量過多
×
搭載不可
重量過多
-
×
搭載不可
重量過多
×
搭載不可
重量過多
-
母機搭載形式
ロケット形態
搭載母機:F-15
搭載方式:吊下式
発射方式:ズームフライト
ロケット形態:
陸上発射ロケットと同等
搭載母機:C-X
搭載方式:胴体内格納
発射方式:振子式空中投下
ロケット形態:
1段目ノズル部に
パラシュートをつける。
搭載母機:Boeing747
搭載方式:背負い式
発射方式:亜音速水平発射
ロケット形態:
1段目に主翼を備える。
注 1:分離高度 15[km],分離速度 M=1.5(430[m/s])、注 2 分離高度 10[km],分離速度 0[m/s]
注 3:分離高度 12[km],分離速度 M=0.8 (240[m/s])
表 4.2-7 全備重量 4.5ton 級ロケットのシステムベースライン
60
表 4.2-8 全備重量 15ton 級ロケットのシステムベースライン
表 4.2-9 全備重量 30ton 級ロケットのシステムベースライン
母機:F-15
2段燃焼終了
ロケット:全備重量4.5t
1段分離/
2段点火(FITH)
分離後、母機は退避
3段点火 衛星分離
3段燃焼終了
2段コーステ ィング中
フェアリ ング分離
動圧最大
ロケット分離
高度:15km
Mach :1.5
1段点火
ズームフライト開始
図 4.2-6 全備 4.5ton 級ロケット飛行プロファイル
61
母機:C-X
2段コーステ ィング中
フェアリング分離
ロケット:全備重量15t
3段燃焼終了
衛星分離
3段点火
1段分離/
2段点火(FITH)
2段燃焼終了
動圧最大
1段点火
投下後、母機は退避
高度:10km
速度:0m/s
図 4.2-7 全備重量 15ton 級飛行プロファイル図
母機:B-747
ロケット:全備重量30t
2段燃焼終了
2段点火(FITH)
高度:12km
Mach :0.8
衛星分離
3段燃焼終了
1段分離/
ロケット分離
3段点火
2段燃焼中
フェアリ ング分離
動圧最大
1段点火
図 4.2-8 全備重量 30ton 級ロケット飛行プロファイル
100
近地点高度250km
ペーロード質量[kg]
95
近地点高度300km
90
近地点高度350km
85
近地点高度400km
近地点高度450km
80
75
近地点高度500km
70
250
300
350
400
450
遠地点高度[km]
軌道傾斜角 i=45°
全備重量4.5t級ロケット
図 4.2-9 全備重量 4.5ton 級ロケット打上能力(i=45°)
62
500
70
65
ペーロード質量[kg]
近地点高度250km
60
近地点高度300km
55
近地点高度350km
50
近地点高度400km
近地点高度450km
45
近地点高度500km
40
250
300
350
400
遠地点高度[km]
450
500
軌道傾斜角 i=97.4°
全備重量4.5t級ロケット
図 4.2-10 全備重量 4.5ton 級ロケット打上能力(i=97.4°)
220
近地点高度250km
近地点高度300km
ペーロード質量[kg]
210
200
近地点高度350km
190
近地点高度400km
180
近地点高度450km
170
近地点高度500km
160
150
250
300
350
400
450
500
遠地点高度[km]
軌道傾斜角 i=45°
全備重量15t級ロケット
図 4.2-11 全備重量 15ton 級ロケット打上能力(i=45°)
150
140
ペーロード質量[kg]
近地点高度250km
130
近地点高度300km
120
近地点高度350km
近地点高度450km
110
近地点高度400km
近地点高度500km
100
250
300
350
400
450
遠地点高度[km]
軌道傾斜角 i=97.4°
全備重量15t級ロケット
図 4.2-12 全備重量 15ton 級ロケット打上能力(i=97.4°)
63
500
600
近地点高度250km
575
ペーロード質量[kg]
近地点高度300km
550
近地点高度350km
525
500
近地点高度400km
475
近地点高度450km
450
425
近地点高度500km
400
250
300
350
400
遠地点高度[km]
450
500
軌道傾斜角 i=45°
全備重量30t級ロケット
図 4.2-13 全備重量 30ton 級ロケット打上能力(i=45°)
450
430
ペーロード質量[kg]
410
近地点高度250km
390
370
近地点高度300km
350
近地点高度350km
近地点高度450km
330
近地点高度400km
310
近地点高度500km
290
250
300
350
400
450
遠地点高度[km]
軌道傾斜角 i=97.4°
全備重量30t級ロケット
図 4.2-14 全備重量 30ton 級ロケット打上能力(i=97.4°)
図 4.2-15 全備 4.5ton 級ロケットの真空中落下予測点
64
500
図 4.2-16 全備 15ton 級ロケットの真空中落下予測点
図 4.2-17 全備 30ton 級ロケットの真空中落下予測点
アポジキック後の軌道
(500[km]Cir)
ΔV
500[km]
150[km]
遠地点において加速を行う
必要ΔV=約100[m/s]
地球
3段目燃焼終了時の軌道
(150*500[km])
図 4.2-18 ホーマン軌道遷移
表 4.2-10 PBS を備えた全備重量 15ton 級ロケットの諸元
ステージ 推進薬量[kg] 構造重量[kg]
構造効率
Isp,Vac[sec]
姿勢制御
1st
10500
1166
0.900
285
TVC+(2段目RCS)
2st
2500
388
0.866
295
TVC+RCS
3st
600
240
0.714
295
TVC+RCS+PBV
NF
全備重量
-
90
-
-
-
15394
65
備考
・燃焼パターン
(次期固体,2段モータベース)
・燃焼パターン
(次期固体,3段モータベース)
・燃焼パターン
(次期固体,3段モータベース)
・アビオニクス80kgを含む
・2段コースティング中開頭
・衛星重量を含まない
図 4.2-19 PBS を備えた全備重量 15ton 級ロケットの飛行プロファイル
表 4.2-11 打上能力
仕様
投入軌道
軌道傾斜角
打上性能
PBS形態
150*500[km]
(PBSで500[km]Cir.に軌道遷移)
45°
97.4°(SSO)
180[kg]
115[kg]
図 4.2-20 PBS を備えた全備 15ton 級ロケットの真空中落下予測点
表 4.3-1 航空機搭載、分離方式の実施例
母機搭載方式
分離方法
方式A(4.5t級ロケット)
母機:超音速機
搭載方法:胴体下吊下げ
発射方法:超音速ズームフライト
母機が超音速上昇飛行中に、ロケットを ・AFRL:4.5t級固体3段ロケット
胴体下パイロンから切り離す。
母機:F-15
分離条件:高度11.5km 速度500m/s
母機はすぐに高速旋回して退避する。 打上能力:100kg(LEO225kmCir)
実施/検討例
・ロシア・カザフスタン:ISHIM
母機:MiG 31
ロケット全備重量:10.3ton
分離条件:高度15-18km 速度590-620m/s
打上能力:120kg(LEO600kmCir)
方式B(18t級ロケット)
母機:亜音速機(輸送機)
搭載方法:胴体内格納
発射方法:振子式空中投下
方式C(30t級ロケット)
母機:亜音速機(旅客・貨物機)
搭載方法:背負い式
発射方式:亜音速水平発射
輸送機後部の貨物扉から後方へ投下。 ・AirLunch LLC:クイックリーチ
母機:C-17
ロケットが適切な点火姿勢を確立するま
ロケット全備重量:32.4ton(2段LOx/C3H8)
でに母機は退避する。
分離条件:高度9km
打上能力:450kg(LEO200kmCir i=28.5°)
・USAF:Minuteman3(実施)
母機:C-5A
1974にミサイルを架台ごと母機から投下する
実験を実施
など
母機がゼロGダイブを行い、ロケットが ・NASA:スペースシャトル(輸送・滑空試験)
主翼揚力で母機から離れることで分離
母機:B-747
する。
オービタ重量:70ton
母機と安全な距離が取れた時点で点火 ・yuzhnoye:ブラン(輸送)
する。
母機:An-225-100
オービタ重量:60ton
など
66
表 4.3-2 トレードスタディ結果サマリ
項目
選定結果
打上げ方式
選定理由
・即応性、コストの観点から陸上発射、海上発射ではFalconプログラムの要
求を満たせなかった
・現在生産中で配備数が多い
C-17
・C-17のみが母機を改修せずに1ミッションでロケットを 2機投下できる
・性能改善の余地がある
・母機改修の必要がない ・外部からロケットが見えない
・胴内収納のため液体推進薬のボイルオフが少ない
胴体内収納
・母機内でロケットの点検が可能
・約40t級のロケット投下実績がある
・地上発射と比してペイロード30%向上
Forward Facing launch
(ノズル部を下にして投下) ・母機、ロケットに以上があってもペイロードを守れる
・投下のためにロケット架台を必要としない
・複数のパラシュートや火工品を使用しないので信頼性が高い
小さなパラシュート
・軽量、信頼性が高い
・ロケット投下前に母機内で点検ができる
(drogue chute)による
姿勢安定
・USAFの直径15feet drogue chuteをそのまま利用できる
・重力以外の力を利用しないのでシンプルで信頼性が高い
重力のみによる引出し
・27[t]までの投下試験がC-17Aを用いて行われている
・ ロケットに対して点で荷重を与えない、母機に対する荷重も減らすことが
ホイール、タイヤを用いる できる
・Wheel,SLC*1)は母機内に残り、再利用できる
備考
空中発射
母機候補
母機搭載方式
母機からの投下方向
ロケットの姿勢変更法
母機からの投下方法
母機内でのロケット
移動方法
表4.3-3
表4.3-4
表4.3.-5
表4.3-6
表4.3-7
*1) 図 4.3-2 参照
表 4.3-3 母機搭載方式
母機搭載
方式
胴体内収納
胴体(翼)下吊下
背負い式
牽引
空中での
推進薬供給
気球
―
概要図
特徴
○ 母機改修の必要がな ○ 切り離しが容易に行える ○ 大きなロケットを輸送す ○ 母機から容易に切り △ ケロシンと液体酸素のよ × 非 常に大 きな 気球が
うな組合せの液体推進薬 必要
○ X-15,X-34, ペ ガ サ ス , る こ と が で き 、 過 去 に 離しが可能
い
× 風の穏やかな日のみ
Space Shuttle の着陸試 △ 母機に多少の改 修 にのみ使用できる。
○ 外部からロケットがま SpaceShipOne
打上可能
験機(Enterprise)に用い が必要
で実績がある。
ったく見えない
× 翼、離着陸装置は小さく × 気球は無人で戻ってく
られた
○ 胴内に収納されて い
× ロケットに翼と車輪 することができるが推進 るため、気球にも地上の
るため推薬のボイルオ × 母 機 に大幅な改修が必
薬供給時に高度を維持で 構造物にもダメージを与
× 母機改修に高いコスト が必要
要
フが少ない
× ロケットにパイロット きるよう大きなジェットエン える可能性がある。
○ 輸送機内でのロケット × ロケットのサイズは翼下 が必要
× 気球 は再 利用できな
で 11 [ t ] (25,000 [ lb ] ) × ロケットは母機に衝突し もしくは高度なフライト ジンが必要
の点検が可能
ないため大きな翼による コントロールシステム × 推進薬満載時の機体重 い
○ 本方 式で は 39.6 [ t] (B-52)
量を支えるための翼の強
が必要
胴体下で 23[t](51,000 空力操舵が必要
(87,320[lb])までの投下
×母機である Boeing747 は × 母機が離陸を中止し 度が 必要 ( し た がっ て翼
[lb])(L-1011)
実績がある
11.6~13.7[km]で巡航で た 場 合 や 牽 引 ラ イ ン 重量は部分的にしか減少
○ 1974 年に C-5A から
きるがロケットの重さと抵 が切れた場合に安全 しない)
Minuteman1 ミサイルの
× 母機の後ろで位置を維
抗 の た め Enterprise は 上の問題がある。
投下に成功している。
持するためにパイロットが
5.8~7.9[km]の間で投下
必要
された。
トレード結果
○
表 4.3-4 投下方向
母機からの
投下方向
Forward Facing
Launch
Aft Facing
Launch
Zoom Climb Launch
ノズル部を下にして投下
ノーズフェアリングを
下にして投下
母機の機首を上げた状態で
ノズル部を下にして投下
概要図
方式
特徴
トレード結果
○ 地上発射と比較してペイロードは 30%向上す △ 地上発射と比較してペイロードは 10%ほどしか向 ○ 母機の経路角を 1deg 上げることに 7[lb](約 3kg )ペイ
ロード質量が向上する。
上しない。
る。
○ 母機、ロケットに異常があってもペイロードを × パラシュートによって大きな加速度 3[G]を受ける
× 母機、ロケットに異常があるとペイロードを守るこ × 母機のマヌーバのために乗務員の高度な訓練が必要
守ることができる。
× 母機はロケット投下後ターンや降下をおこなって退避
とができない
○ 投下のためのロケット架台を必要としない
○ 複 数 の パ ラ シ ュ ー ト 、 火 工 品 (explosive × ノズルを守るために投下のためのロケット架台が する必要がある
cut-aways and line cutter)を使用しないので信 必要
× 複数のパラシュート、火工品が必要なため信頼
頼性が高い
性が低い
○
67
表 4.3-5 ロケットの姿勢変更法(1/2)
姿勢変更法
Stabilizing Parachute
Fin
Reaction Control System
ノズルに取り付けた、パラシュートを用いて
ロケットの姿勢を安定させる
空力操舵による引き起こし
スラスタによる姿勢変更
概要図
方式
○ 軽量、信頼性が高い、危険性が少ない
× モータの推進力なしでロケットを安定させる翼 × 非常に大きなスラスタが必要となる。(指示大
○ 小さなパラシュート(drogue chute)が利用され、ロケット は、母機の胴体に搭載するには大きすぎる。
気速度 268[km/h]( 145[KIAS]*1)で 1814[kgf]
投下前に母機内で点検ができる
(4000 [lbf ] )、指 示 大 気速 度 463 [km/h ] 250
○ USAF が現在空中投下ミッションに使用している直径
[KIAS]で 6804[kgf](15000[lbf ]))
15feet の drogue chute が利用できる
× active control system が必要
特徴
トレード結果
○
*1) ノット指示対気速度(Knot Indicated Air Speed)
表 4.3-5 ロケットの姿勢変更法(2/2)
姿勢変更法
Somersault
Sling Blade
Static Line
ロケットが目的の姿勢に回転した
時にモータへ点火する
Kite(凧)を用いてロケットを浮かび上がらせ、姿勢を調
整してモータに点火する
母機とロケットの先端をラインで結ぶ
概要図
方式
× 適切なピッチ方向になるまでに時間がかかりす ○ 高度が母機より高くなり、下方向の速度も発生しない × ロケットのモータが点火するまで母機がマヌーバ
できないため、母機は退避できない。
ぎ、高度が減少し、下方向の速度も大きくなるた ためペイロード質量の向上が見込まれる
めペイロードの向上が少ない。
× active control system が必要となる
× 凧を効果的に配置することが技術的に困難
特徴
トレード結果
表 4.3-6 母機からの投下方法
排出方法
Gravity Air Launch
(GAL)
Pneumatic Launch Using
Sabots
Pneumatic Launch Using
Muzzle Seal
Pneumatic Launch Using a
Bellows
Parachute Launch
概要図
Sabot
Sabot
方式
重力による落下。
特徴
圧 縮 し た空 気と チ ュ ー
ブ,sabot を用いてロケット
を押し 出す。チューブを母
機の外部まで伸ばす。
○:27[t](60,000[lb])までの
投下試験が C-17A を
用い て行 わ れ てい
る。
○ :重力以外の力を利用
しないのでシンプルで
信頼性が高い。
トレード結果
○:ミサイルのサイロや潜
水艦 で使用さ れて い
る。
×:母機にチューブを取り
付 け る 必要 が あ り 、
母機に大幅な改修が
必要。
×:ペイロードフェアリング
に大きな圧力がかか
る。
Bellows or Balloon
ベ ローズ やバルー ンを
圧縮した空気とチューブ
を用い てロケットを押し 出 用 い て ロ ケ ッ ト を 押 し出
す。チューブを母機の外ま す。
で伸ばさず 、チューブから
sabot が出た後、ロケット
はチューブ上を滑る。
○: 母機を改 修す る 必要 △:ロケットの表面が滑ら
かで ある必要はな い
がない。
が、 GAL 方式がより
×:ロケットの表面が滑ら
シ ンプルで 信頼性が
かで す べ りが 良い こ
高い。
とがもとめられる。
パラシュートを用いて引
き出す。
×:投下時にチップオフが
発 生す る懸 念 が あ
る。
×:パラシュー トに異常が
あり 遅い速度で 母機
から引き出されると 、
ロ ケッ ト 先 端が 母 機
の構造に衝突する可
能性がある。
×:パラシュートの力が大
き すぎ るとロケッ トが
ピッチアップし 適切な
射 角を 取 る こ と を 妨
げる。
○
表 4.3-7 母機内でのロケット移動方法
排出方法
Wheels and
Pneumatic Tires
Air Injection Levitation
Rails
Expendable Launch Sled
概要図
Wheels,Tires
特徴
トレード結果
Strake
Sled
○ ロ ケ ッ ト に 対 し 点で 荷 重 を 与 え × teeter point*2 でチップオフによる集中 ×ロケットの両側に堅牢な strake が必要 × 架台の弾道係数が小さいためロケット
ず、母機に対する荷重も減らすこと 荷重に対応できない
から架台が離れない
となる
× 気体によってロケットを浮かせるには
ができる
× 架台はロケット重量の 10~20%にな
○ wheel,SLC*1 は母機内に残り再利 ロケットと Levitation pad とのクリアラン × teeter point*2 でロケットの strake の一 り多くの TFOA (Things Falling Off of the
用できる
Aircraft)を発生させる
スは非常に小さくなくてはならないの 部に対して集中荷重が発生する
× 架台の再利用ができないためコストが
で、ロケット表面は非常に滑らかな必
高くなる
要がある
× Levitation pad の一部に集中した荷重
がかからぬようにロケット投下中母機、
ロケットともに安定していなければなら
ない
○
68
*1) 図 4.3-2 参照
*2) 図 4.3-2 参照
図 4.3-1 QuickReach ロケット概要
図 4.3-2 Storage and Launch Canister(SLC)
図 4.3-3 ロケット投下方向
図 4.3-4 点火姿勢確立方法
図4.3-5 ロケットの母機内での移動
課題
高性能部品の活用問題
高信頼性部品の供給性問題
最先端のアビオニクス取得
ロケットアビオの安定的取得
高信頼性部品の高コスト問題
低コスト化対応
方策
COT活用を可能にする
COTSの活用 バージョン変更対応
システムの簡素化
省力化
必要
技術
低コスト・高性能COTSの
活用を可能にする評価手
法の確立(評価試験主義)
達成 目標
民生GPS 民生慣性装置民
生コンピュータ 民生バッテリ
モジュール化推
PLUG&PLAY化 を可能にするコンピュー 進による効率的
組み立て
タの標準化
バス通信:・SpaceWire等
標準OS :TRON等 通信モジュール 誘導コンピュータモジュール 電源モジュール 航法慣性装置モジュール
ワイヤーレス化
の推進による省
力化
自動故障診断
による省力化
ロケット段間 無線通信装置
地上自己診断
装置 ON-BORD自
己診断システム
69
図 4.3-6 低コストアビオニクス
実現の方策概念
誘導制御系
ロケット
ステージ
計測通信系
一般機器
誘導制御計算機
飛行安全機器
コマンド受信機
飛行安全
コマンド受信機
テレメータ
レンジテレメータ
プログラマブルタイマ
3段
計測通信系
一般機器
一般機器
飛行安全機器
ロケット搭載点検系
飛行安全
制御装置
分散型点検装置
点火系電池
慣性センサユニット
GPS受信機
飛行安全用
電池
計測・制御用
電池
飛行安全
制御装置
2段
データ収集
装置
分散型点検装置
点火系電池
飛行安全用
電池
計測・制御用
電池
ハードウェアI/F
飛行安全
制御装置
レートジャイロ
パッケージ
1段
データ収集
装置
横加速度計
分散型点検装置
点火系電池
飛行安全用
電池
計測・制御用
電池
ハードウェアI/F
図 4.3-7 ロケット搭載アビオニクスの共通化
3段
(自律分散点検)
せンサ#1
A
管制装置
(高速US)
標準I/F
電源システム
(SpaceWire)
内部点検
内部点検
せンサ#L
アクチュエータ#1
I/F
通信ネットワーク
ホストコンピュータ
標準I/F
アクチュエータ#M
I/F
LAN
システム点検
B
内部点検
(光通信又は無線通信)
TCP/IP
内部点検
2段
段間信号ライン配線の
省略
地上点検システム
I/F
火工品#1
誘導制御装置
標準I/F
I/F
内部点検
C
火工品#N
1段
点火装置
データ通信バス
内部点検
図 4.3-8 自己診断機器構成例
図 4.3-9 ロケット搭載ネットワーク
段間通信方式(案)
Airborne Support
Interface Subsystem
Serial BUS Communication
External Power
Emergency Commands
Flight termination
Subsystem
Electrical Power
Subsystem
GN&C
Subsystem
Instrumentation &
Communication
Subsystem
LASE
Attitude Control
Subsystem
Sensor
Launcher-Air borne
support System
interface Equipment
Ordnances power is
derived from EDLCs so
that the number and
capacity of Batteries can
be reduced.
GPS-Ant.
Launcher Separation
Detecting Connectors
(to AFTS & GPS/INS)
LNA
LNA
AFTS
BATT
Autonomous Flight
Termination System
Autonomous Flight
GPS-Rec.
Termination System
IMU
Data Processing
GPS-Rec.
Timer
MEMS IMU
RF Transmitter
Data Processing
Batteries & EDLCs
Timer
RF Transmitter
Batteries & EDLCs
AFTS
Emergency
Commands
(Main Power BUS
cut off, etc)
External Power
for Batteries &
EDLCs Charge
for Electrical
Components
BATT
Sensor I/F
3rd Stage
Sensor
Sensor
GPS/INS
Flight
GPS-Rec.
IMU
Computer
Main Computer(s)
DAU-Tx /Rx
Data Acquisition
Encoding
RF Transmitter
PDB
Power Distribution
for Valves &
Actuators
Power Supply
to each component
GPS rec. is
adapted to high
dynamics (G and
jerk).
RCS-DRV
Valve Drivers
Valves
ODC
Ordnances
Ordnance Controller
including EDLCs
EAC
Electrical Actuator
Controller
MN
Actuators
Ordnances
Emergency
Commands
(Main Power BUS
cut off, etc)
External Power
for Batteries &
EDLCs Charge
FTS
FTS
Flight Termination
System
FlightEDLCs
Termination
including
System
including EDLCs
BATT
for Electrical
Components
BATT
2nd Stage
PDB
Power Distribution
for Actuators
EAC
Ordnances
Electrical Actuator
Controller
Power Supply
to each component
MN
Actuators
Sensor I/F
ODC
Sensor
Ordnance Controller
including EDLCs
Sensor
Sensor
Ordnances
Emergency
Commands
(Main Power BUS
cut off, etc)
External Power
for Batteries &
EDLCs Charge
FTS
FTS
Flight Termination
System
FlightEDLCs
Termination
including
System
including EDLCs
Common BUS
or Network
Power line
Signal line
BATT
1st Stage
PDB
Power Distribution
for Actuators
EAC
Ordnances
Interface between
Launcher and
Airborne support
system is simplified as
much as possible.
BATT
for Electrical
Components
Power Supply
to each component
Electrical Actuator
Controller
RG-PKG
Rate Gyros
Sensor I/F
ODC
This subsystem is
fully autonomous and
independent from
other subsystems.
Ordnance Controller
including EDLCs
Ordnances
Sensor
Time
deterministic
common BUS or
Network is
implemented.
図 4.3-10 アビオニクスの構成
70
Sensor
Sensor
FIN
Actuators
表 4.4-1 宇宙利用支援システムの空中発射ロケットシステムの技術課題
71
表 4.4-2 宇宙利用支援システムの打ち上げロケットシステムに関する開発ステップ
NO.
種別
技術項目
新規技術
1
母機搭載・投下技術
○
2
点火姿勢安定化技術
○
3 空中発射要素技術 発射シーケンス技術
従来の
民生技術 ロケット
の適用 技術の
延長
研究
開発
○
○
INS初期化技術
○
ロケット・地上間衛星通信技術
○
7
自律型飛行安全技術
○
8
INSインフライト誤差補正技術
○
自動診断技術
○
組立・艤装の簡素化
○
自在性
9
即応性・利便性
衛星軌道投入高精度化技術
12
ミッション解析の即応化対応技術
13
民生部品適用によるアビオ低コスト化
○
14
低衝撃分離技術
○
15
フェアリング、段間構造の簡素化
○
16
ペイロード標準インタフェース
その他
試作による
地上検証
観測ロケッ
トによる技
術実証
○
)
11
打
ち
空上
中げ
発ロ
射ケ
シ
スト
テシ
ムス
テ
ム
ッ
5
(
固体モータ航空機搭載安全技術
10
運用
風洞試験、航空機からの投下
実験による空中発射方式選定
4
6
技術開発のステップ
○
BBMによる地上検証
○
3-5 法規制に係わる調査検討
3-5.1 民間の宇宙活動に関する宇宙先進国の法制度
(1) 国際的動向
宇宙開発・利用についての国際法上の規制は特異なものであり、非政府団体の活動でも、国
が一元的に国際的責任を負うという制度である(宇宙条約第6条)。これは、「打上げ国」と
いう類型の国家が、非政府団体の打上げに関して生じた損害について、国際的に担う損害賠償
責任を含む(宇宙条約第7条および損害責任条約)。そのため、私企業を中心とする非政府団
体が宇宙利用に参入するに従い、国が負うことになる賠償責任を企業に求償し、分担し、ある
いは免除するための国内法を策定するようになった。米国法はその中でも最も進んだ法を有し、
商業宇宙打上げ法の改正により、1998 年には再突入ロケット運用の免許条件を、2006 年には、
有人宇宙ロケット運用の免許条件を規定した(同法第 70104 条および打上げ規則 413.3.)。
(2) 日本の現状
1967 年の宇宙条約には原当事国として加盟したが、その後の宇宙関係条約については加盟が
遅れ、1983 年に救助返還協定(1968 年)、損害責任条約(1972 年)および宇宙物体登録条約
(1975 年)に一括加入した。その時点で国内法策定の必要性の有無が検討されたが、「閣議口頭
了解 宇宙3条約の締結及びその実施について」(1983 年3月 29 日)により、①関係省庁は、
これら3条約が円滑に国内履行されるように緊密な協力の下に「必要な措置」をとること、②
損害責任条約公布により国民に周知徹底を図り、同条約の履行を確保すること、③関係省庁は、
今後の宇宙開発の展開に応じ、既存の日本法制で対処しきれない事態が生じることが予見され
る場合には、関係省庁が緊密な協力の下に一体になって取組み、そのような事態が生じる前に
必要な立法措置を取るものとする、という決定がなされた。その後、1991 年、1992 年に、1983
72
年の閣議口頭了解の第1点に基づく「必要な措置」として、それぞれ、第一種電気通信事業者
および日本放送協会が打上げを委託する通信衛星や放送衛星の登録や当該衛星のもたらし得
る損害責任の解除方法について、省庁間の申し合わせを行った。1983 年の閣議口頭了解の第3
点を必要とする事態には至っていないという認識の下、既存の国内法に基づいて、省庁間の協
力により対処する、という内容である。
国内法策定に踏み切るかについては、1987 年に「宇宙開発委員会宇宙関係条約特別部会」が、
現行法制の欠缺部分を調査し、次の3点を主たる理由として、法制定は不必要という判断にい
たった。すなわち、①宇宙物体の打上げを行うのは東京大学および宇宙開発事業団(NASDA)の
みであること、②登録条約の対象となる宇宙物体の追跡は、NASDA が一元的に行うこと、③有
人宇宙の計画が具体的に存在しないこと、である。1990 年代に入り、私企業が自社の衛星の管
制を担うようになった後も、電波法に基づく宇宙局設置許可申請等により、行政指導が十分に
行われるとの整理で、国内法制定は行われていない。
3-5.2 私企業の宇宙活動に適用可能な現行法制
世界的には、私企業が参入する宇宙活動で宇宙空間を直接利用するものは、通信・放送衛星
の運用を筆頭に、打上げ産業(有人打上げを含む)、リモート・センシング衛星運用・画像販
売業等である。ここでは、特に宇宙活動としての特色が強く出る打上げ産業の参入に絞り、現
行日本法の下での運用状況を記載する。
(1) 閣議口頭了解に基づく「必要な措置」
2003 年に宇宙三機関統合に伴い、宇宙航空研究開発機構法(JAXA法)に一定の規定を設
け、国が負う国際的責任を担保することとした。JAXA法第 18 条2項(打上げ業務基準の
国の認可)に基づく宇宙開発委員会の安全評価基準(「ロケットによる人工衛星等の打上げに
係る安全評価基準」)に従って、ロケットは技術的条件に合致するかどうかの調査を受ける。
具体的には、JAXA が宇宙開発委員会に提出した打上げ計画書が、同委員会の安全部会で調査審
議され、その結果が宇宙開発委員会に送付されることになる。調査審議の対象は、保安防御対
策、地上安全対策、飛行安全対策、安全管理体制などである。これは、米国法をはじめとして、
商業打上げに関する国内法をもつ約 15 カ国の免許要件の一部とほぼ同じ規定、
手続きとなる。
(射場管理等について細部の厳格さは異なる。)
H-IIA ロケットの民間移管後も、この手続きについては、JAXA の委託打上げとしての打上げ
業務の範囲にとどまる打上げであり、
この状況は変わらない
(JAXA 法第 18 条第1項4号参照)
。
さらに、JAXA 法第24条(主務大臣による必要な措置の要求)により、条約履行について必要
があると主務大臣が認識するときには、JAXA に対し必要な措置をとるよう求めることができる
という規定がおかれ、個々の打上げにおいて柔軟な対処が可能となるよう確保されている。打
上げの枢要な部分と射場を管理することにより、私企業のロケットを用いる打上げであっても、
全体としてJAXAの打上げ執行の枠内であり、JAXA 法の規制で十分であるという整理である。
(2) 問題点
(a) JAXA が最終的に打上げを管理する場合のみを想定した法制であり、今後、H-IIA 以外
の民間ロケットで、
その存在を JAXA が知り得なかった場合にはまったく対処していない。
しかし、現在、そのような状況は想定されていない。開発中の GX ロケットは、民間主導
73
で開発する中型ロケットだが、文部科学省、経済産業省などがその開発状況を逐一知り
得る状況にあるため、JAXA の打上げ体制に組みこむことが可能である。
しかし、省庁の関与がまったくなく、私企業のみで作り上げるロケットについては、
JAXA 法第 18 条および第 24 条に基づく、国の担保が働かず、また、打上げを実施するた
めに行う手続きが存在しない。
(b) 現行法上、火薬を燃料としないロケットについては、私人が私有地で打上げ実験を行
うことを規制する法は存在しない。北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)はハイ
ブリッド型ロケットによる打上げサービス業の展開を企図して、これまで北海道大樹町
の原野で実験を行ってきた。8回目にあたる 2007 年 12 月8日に、上空 1000 メートルで
の機体の分離がうまくいかず、初めて打上げ実験に失敗した。そのため、安全対策など
に問題がなかったか、道警による調べを受けることとなった。
このロケットは、いまだ地球周回軌道に乗る実験をしているものではなく、弾道飛行
の実験にとどまっている。宇宙物体登録条約上は、国連登録が義務づけられるのは、地
球周回軌道に乗った衛星等(第2条第1項)であるが、一方、損害責任条約上、失敗し
た打上げも打上げに含まれる(第1条(b))。このロケットが宇宙活動に該当するの
かどうかは不明である。宇宙関係諸条約は、「宇宙の探査及び利用」、「自国の活動」、
「研究」(それぞれ宇宙条約第1,6,9条)などの用語を定義なしで用いており、「宇
宙活動」という語は使用しない。国内法においては、宇宙活動を定義する場合(英国法、
ロシア法等)もあるが、日本として、なにをもって宇宙活動、と考えるかは不明確であ
る。商業利用をめざすハイブリッドロケット打上げ実験が繰り返されているにもかかわ
らず、1983 年の閣議口頭了解第3点に基づく法制定が行われないことには、「宇宙活動」
の範囲の共通認識がないことも、その一因として挙げることができるかもしれない。
このロケットの研究、実験については、経済産業省が社団法人日本航空宇宙工業会(S
JAC)の協力のもとに作成した、「火薬を推進薬としないロケット打上げサービスの
実施ガイドライン」の技術条件、安全条件および財政条件(3億円以上の損害賠償保険
に入っておくこと)に従って行われることになっている。同ロケットの打上げ失敗を受
けて、SJACに「小型ロケット打上げ安全基準検討委員会」を再設置したが、省庁間
の緊密な協力の下に行われている活動とはいえないであろう。
(c) 日本が商業打上げ市場開拓、確立という意図をもつであろうことは、H-IIA ロケットの
民間移管からもわかるが、具体的な姿が見えてこない。特にベンチャ型(大学等研究機
関を含む)のロケット開発、射場を所有し自らのロケットを同射場から打ち上げようと
する私企業(外国企業を含む)、陸域の射場ではなく海中発射、空中発射等を想定する
私企業の活動を規制しまたは許可する方が存在しない。許可は原則禁止という想定のも
とで発給されるので、許可条件がない場合は、活動は禁止されていないと解釈すること
は、一応は可能であるが、実際の運用を概観すると、これまで2(2)②の例のように、
なんらかの省庁の実質的監督に服することがほとんどである。したがって、新規事業者
にとってわかりやすい、手続きが法規として明確に基礎づけられていることが好ましく、
JAXA法に基づく国際宇宙法の国内履行に含めることは、現状では不可能である。
74
3-5.3 宇宙基本法(案)による今後の展望
(1) 宇宙基本法の目的と産業振興に係る規定
2007 年6月 20 日、与党が「宇宙基本法案」を衆院に上程した(第 166 通常国会 議案番号
50)。同法案は、「宇宙開発に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、宇宙開発に関
し、基本理念及びその実現を図るために基本となる事項を定め、国の責務等を明らかにし、並
びに宇宙基本計画の作成について定めるとともに、宇宙開発戦略本部を設置する等の必要があ
る」ため、提出された(同法案「理由」より)。日本の宇宙開発利用を、文部科学省主導の下
での先端科学技術研究開発追求から、国家安全保障向上、産業振興、国民生活の福利向上(安
全・安心社会の構築を含む)などの多様な目的の実現追求に変更するための法案提出であり、
その手段が、首相直属の機構、宇宙開発戦略本部である。
宇宙基本法案が可決された場合には、したがって、宇宙開発利用の機構改革がなされ、初め
て真の意味での日本の宇宙戦略策定が可能となるであろう。基本法案第2条(補足的には第 14
条も関係する)により、宇宙の平和利用の意味が、国際標準の「非侵略」利用から憲法第9条
の制約部分を差し引いた範囲の活動と変わり、「戦力」に至らない必要最小限の自衛のための
宇宙の防衛利用は可能となるため、宇宙産業の振興に加わる制約も減少することになる。宇宙
の平和利用を「非軍事」利用に限定して解釈する政策(1969 年の国会決議による)を維持し続
けると、軍隊の利用に供する衛星の打上げに利用されるかもしれないロケットエンジン等の輸
出も困難となるからである。(GPS 衛星打上げに用いる予定のデルタ3に組みこまれることか
ら、LE-5 エンジンの輸出を断念した事例がある。もっとも、この問題は、2002 年の法制局解
釈で一部解決がついているが、ここでは、委細については省略する。)
産業振興のための障壁をなくすという消極的支援のほかに、「宇宙開発は、---(中略)---我
が国の宇宙産業その他の産業の技術力及び国際競争力の強化をもたらし、もって我が国産業の
振興に資するように行わなければならない」と規定する第4条(産業の振興)や「政府は、宇
宙開発に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上又は金融上の措置その他の措置を講
じなければならない」と規定する第 11 条(法制上の措置等)に基づく積極的支援が要求され
ている。したがって、産業振興の目的でなんらかの措置が取られることが期待されるが、基本
法の特色として、義務の名宛人とその内容、期限が不明瞭な部分があり、直接的に宇宙基本法
に基づく措置がとられることは必ずしも期待できない。しかし、宇宙基本法案第 35 条が、同
法施行後、宇宙活動に係る法制の整備を総合的、計画的かつ速やかに実施しなければならない
(第1項)とし、かつ、「前項の法制の整備は、国際社会における我が国の利益の増進及び民
間における宇宙開発の推進に資するよう行われるものとする」(第2項)と、規定されている
ので、近い将来、民間の宇宙産業を促進するための国内法-たとえば宇宙活動法-が整備され
ることはかなりの程度で見込まれるといえよう。
(2) 宇宙活動法への期待
宇宙活動法に盛り込むべき、喫緊の課題としては、次の2点が挙げられるであろう。①宇宙
活動または「宇宙の開発・利用」の定義、②国の関与なく宇宙物体を開発・製造した私人が日
本国内、または日本国外で当該物体の実験、運用を行うための条件を、第一に宇宙物体登録条
約との関係から(自国の管轄権を行使する前提としての登録であるため)、次に損害賠償体制
の中に明確に位置づけ、諸外国の法制度と同等の私企業育成にかなう財政条件の既定を置くこ
75
と、である。まずは、この2点の法制化が、打上げ産業の確立のために必要であろうかと考え
られる。
4 まとめ
小型衛星の高機能化の実現が明確となり、その即応性、低コスト性等に着目され主に軍事、
技術実証、科学技術、技術者育成等に有効な手段として現在開発、研究等が進められている。
しかし一方では、小型衛星のコストメリットに大きな注目が集められ、諸外国では、将来の小
型衛星、小型ロケットに係わる商業市場でも競争力強化を目指して、産官学が一体となって小
型衛星等の開発に取り組んでいる。
一方、我が国においては宇宙開発、宇宙利用における小型衛星の技術的位置付け及び宇宙利
用促進の有効性に関する認知が充分に成されておらず、単なる教育、技術者育成の手段として
捉えられており、単発的に小型衛星開発が行われるものの、長期戦略に基づいた小型衛星開発
計画が欠けている。経済産業省は、将来の小型市場における競争力強化を目指して、小型衛星
に係わる継続的な開発の推進を検討している。
平成 20 年度からその第1ステップとして、
300kg
級以下の小型衛星の高機能化、納期短縮、低コスト化に資する技術開発を実施する。小型衛星
は、従来の衛星開発のダウンサイジングではなく、小型特有の設計思想を構築するとともに、
成果を公開し、共有することにより小型衛星分野への参画企業の拡大及び新規企業の参入を促
進し、宇宙全体の裾野の拡大を目的としている。
宇宙利用に当たっては、事業化に必要なペイロードの開発/調達、衛星の調達、適切な打上
げ手段の確保、事業周波数の確保、衛星の追跡/運用手段の確保等の複雑な手続きが必要とな
るばかりでなく、地上設備投資も膨大なものになる。特にベンチャ企業等にあっては、技術支
援、共同利用の可能な追跡管制施設、運用支援等の必要な支援体制を講じなければ、新規参入
は望めない。また、ベンチャ企業等の小型衛星は当面は地球周回衛星となるが、利用サービス
に当たっては時間分解能の向上が望まれるが、1 企業で複数機を所有することは資金的に困難
なことから、小型衛星を所有する複数社で協定し、通常時の自社衛星の利用の他、緊急時等の
必要に応じて互いの衛星を補完し合うことにより、時間分解能を向上させる手だて等が望まれ
る。これら手だてを、小型衛星の販売、運用サービス提供等と組み合わせたビジネス展開等が、
小型衛星利用の促進に大きく寄与するものと考える。
本調査は、小型の衛星と小型ロケットを組み合わせたシステムを提供することにより、宇宙
利用者の煩雑性の一部の解消を目指すとともに、衛星、ロケット及び運用のコスト低減を狙っ
て、空中発射による衛星打ち上げ、ロケットの自律飛行、衛星回線を利用した追跡/運用管制、
民生技術の適用等について実現性を調査したものである。
(1) 技術動向調査
(a) 小型衛星
小型衛星は、教育手段に止まらず技術実証、地球観測、軍事利用から将来的には商業利
用分野への大きな飛躍が見込めるとして、諸外国では CubeSat から数百 kg までの衛星に
ついて標準バスを構築し、教育から宇宙技術の実証利用手段としてや、軍事、商業利用等
の実用衛星への適用までの技術開発を系統立てて実施している。
76
(b) 打上機
小型衛星促進の阻害要因として、打ち上げ機会が非常に少なく、多くは大型ロケットの
ピギーバック若しくは副衛星としての打ち上げ機会に頼らざるを得ず、打上時期及び打ち
上げ軌道の自由度がないのが実情である。また、ピギーバック打上げは研究等の利用に限
られており、商業利用衛星の打ち上げはほとんど期待できない。諸外国では、小型衛星の
打ち上げ機会を低コストで提供する手段として、小型ロケットの開発、研究に着手してい
る。この中で、即応性、コスト低減に有効な手段であるとともに、衛星の打ち上げ軌道に
応じて任意に打上げ場所が設定できることから、空中発射システムに注目が集まっている。
現在米国、ロシア、ウクライナ、カザフスタン、イスラエル、スペイン、中国、韓国等で
開発や研究が進めている。特に、イスラエル、中国、韓国では、自国からの打上げには地
理的なハンディを抱えており、今後の活動に注目される。また、ロシア等との共同開発と
して、豪州、インドネシア、ブラジル、イタリア、オランダ、スエーデン等も自国の打上
げ手段の保有を検討している、
空中発射システムは、短期的には低コストで小型衛星を打ち上げる有効な手段と捉えら
れるが、諸外国、特に米国、ロシア、フランスでは、TSTO(Two Stage to Orbit)の実現
に向けた技術開発のスタートと位置付け、国家機関が中心となり技術ロードマップを策定
し、戦略的に取り組んでいる。
(2) 宇宙利用支援システム構想検討
本調査研究は、打上機とロケットを組み合わせたシステムを提供するもので、衛星分離まで
を前提とし、衛星運用は今後の検討課題としている。宇宙利用支援システムは、可能な限り既
存インフラを使用して実現性を検討することとした、検討条件の設定を行った。
(a) 小型衛星
小型衛星は、地球観測ミッションに対応できる、50kg 級、100kg 級及び 300kg 級の 3 種
を想定した。これら衛星を高度約 500km の円軌道に投入することを目標とした。
(b) 空港
適用する空港は、定期便運行に使用されていないこと、滑走路が海岸線に近いこと、空
港への重量物や人員の輸送が確保できること、空港内又は空港周辺に施設等の建設が可能
なことと等を条件にし、設備面から沖縄県宮古市の下地島空港と、打ち上げ軌道の自由度
が高いことから北海道大樹町の多目的航空公園の適用を前提とした。
(c) 航空機
航空機は、民間利用が可能な B-747、デュアルユースを計画している C-X 輸送機の他、
超音速機として F-15 の 3 機種を、今年度の検討のための前提とした。
(d) 打上げシステム
固体ロケットをベースとした空中発射システムとし、打上げの由度の向上及びコスト低
減の観点から、地上のインフラに頼ることなく安全手段が確保できる自律飛行が可能なこ
ととした。また、段階的な完全自律飛行への移行手段として、商用衛星回線を利用した、
ロケット飛行状態のモニタ及び地上コマンドの受信が可能なものとした。
77
(3) マイクロ衛星システム検討
3 種の衛星について検討を行い、衛星はデータバスを採用し、統合化制御装置により集中制
御で行う。50kg 級衛星では、姿勢制御方式は重力傾度安定ないしはスピン安定、ボディーマウ
ント太陽電池セルと統合化制御装置で制御供給される電源系構成とした。100kg 級及び 300kg
級の衛星は、統合化による標準バスの考え方を反映し、統合化衛星制御系(DMS)で、TT&C 機
能、姿勢軌道制御機能、熱制御機能、自律化/自動化機能、ドライバ機能、データ蓄積機能、
ミッション機器インタフェース等の衛星全体の管制を行う。推進系は、100kg 級、300kg 級衛
星とも標準では非搭載とし、ミッションに応じたオプション機能とする
本衛星に搭載可能な可視望遠鏡(パンクロ)としては、高度約 500km の地球周回軌道からの
解像度として、50kg 級衛星で約 10m、100kg 級衛星で約 2.5m、300kg 級衛星で約 1m のものが想
定される。
(4) 打ち上げシステム検討
(a) 飛行管制
ロケットの飛行管制として、GPS、INS の搭載により自律飛行を可能とするとともに、バ
ックアップとして商用衛星回線を使用したロケット飛行状況のモニタ及び指令破壊コマ
ンドの送信を可能とするシステムを検討した。商用利用可能な通信衛星としては、インマ
ルサット、インテルサット等の適用を考える。
(b) 打上げ性能
上記(3)項の衛星を高度約 500km の円軌道に投入する打ち上げシステムとして、B-747、
C-X、F-15 を利用したシステム検討を行った。解析結果の一例を下表に示す。
Boeing747
C-X
F-15
ロケット全備重量
30 トン
15 トン
4.5 トン
航空機搭載方式
背負い式
胴体内格納式
吊り下げ式
ロケット分離条件
水平分離
胴体内から落下
ズームフライト
分離高度 12km
分離高度 10km
分離高度 15km
分離速度 M0.8
分離速度 0m/s
分離速度 M1.5
高度 500km 円軌道
SSO 310kg
SSO 100kg
SSO 50kg
打上げ能力
LEO 400kg
LEO 160kg
LEO 100kg
(c) 適用空港と打上げ場所
ここでは、航空機の航続距離を考慮して打上げ場所を決定した。
・ 下地島空港
下地島空港からの距離 1,300km の紀伊半島沖(北緯 31°、東経 136°)を打上げ場
所に設定した。軌道傾斜角 45°以内では問題ないが、SSO 打上げでは真空中落下予測
点は、2 段目構造物がインドネシア共和国の島嶼部に落下することになるため、飛行
安全の観点から 2 段目構造物はより北に落下させる必要がある。そのため、3 段目燃
焼終了時に軌道高度 150×500[km]の SSO 遷移軌道に投入し、遠地点で PBS 燃焼によ
り 500[km]SSO 円軌道に軌道遷移を行う打上方式(PBS ホーマン遷移投入方式)をと
78
り、2 段目構造物の落下点を北側に調整する。
・ 大樹町多目的航空公園
多目的航空公園からの距離約 1,100km、北緯 45°、東経 157°付近を打上げ場所に
設定した。北海道沖射点では衛星を軌道傾斜角 45°に投入する場合、ロケットを真東
に発射することとなる。そのため地球の自転速度を打ち上げに最大限利用できロケッ
ト打上能力が高くなる。また、SSO への投入においても問題はない。
(5) 法規制に係わる調査検討
(a) 現行法
衛星の打上げに際しては、海上交通安全法に基づく水路通報、航空法に基づくノータ
ム等の必要な処置の他、火薬類、高圧ガス等の関連法に従って実施することになる。飛
行安全に関しては、JAXA の種子島宇宙センタ及び内之浦宇宙空間観測所等の設備を使用
した飛行安全基準が設定されているが、これは JAXA の内部基準であり、その他のもの
の宇宙活動を規制するものではない。
空中発射システム固有の法規制としては、航空法に定める爆発物等の輸送禁止に関す
る規制があり、現状では航空機へのロケットの搭載は禁止されている。しかし、国土交
通省令の適用除外として、「航空機以外の輸送手段を用いることが不可能又は不適当で
ある場合において、国土交通大臣の承認を受けて輸送する物件」がある。米国では、
Orbital Sciences Corporation が L1011 を使用した空中発射システムによる打ち上げ事
業を、FAA の認可を得て実施していることから、空中発射による所要の安全基準の確保
は技術的には可能である。
(b) 宇宙基本法
国際宇宙法の締結に伴い、多くの国が国際法の整備を行っているが、我が国は 1987
年の宇宙開発委員会宇宙関係条約特別部会において、衛星の打ち上げ、衛星の追跡は宇
宙開発事業団(当時)と宇宙科学研究所(当時)が行うことと、有人の計画が存在しな
いことから、我が国では国内法の整備は不要とされた。また、1990 年代に入り、私企業
が自社衛星の管制を担うようになっても、電波法に基づく宇宙局設置許可申請等により、
行政指導が十分に行われるとして、国内法は制定されていない。
2007 年 6 月に与党の宇宙基本法が衆議院に上程されたが、これが制定されると宇宙開
発利用の機構改革及び宇宙活動法制定が急がれる。現在、政府や民間等の種々のレベル
において宇宙基本法の制定後の検討が進められている。
打上げ産業の確立のためには、宇宙物体登録条約と損害賠償体制の 2 点について、諸
外国の法制度と同等の私企業育成に係わる法制化が望まれる。
(6) 実現性
我が国の空中発射システムに関する検討で公にされているものとしては、1990 年に宇宙科学
研究所(当時、現 JAXA)と日産自動車(当時、現 IHI エアロスペース)等が M-V ロケットをベ
ースとしたシステムの検討がされている他は、2006 年度に(財)機械システム振興協会からの
委託調査で実施した「マイクロ衛星打ち上げ用空中発射システムに関する調査研究」程度にと
どまる。今後早急に諸外国の研究/開発に遅れを取ることなく進めるためには、多くの課題が
山積している。
79
・ 航空機へのロケット搭載、ロケット分離及び点火等に関する、先行している諸外国の特
許等の制約の有無
・ 高速航空機(戦闘機)や輸送機及び旅客機を使用する場合、機体等の使用に係わる制約
の有無
・ ロケット搭載のための航空機の改造にともなう耐空証明の取得
・ 航空法の「爆発物の搭載禁止」に抵触する、航空機へのロケット搭載に対する対応
・ ロケット搭載の航空機の離着陸に使用する空港の選定と承認
・ 空中発射システムによる衛星打ち上げの事業性
特許や、航空機改造対する対応や事業性等については、先行する海外企業等との連携が有効
な手段である。航空法等の国内法への抵触については、米国で商業打ち上げを実施している
Pegasus を事例に、安全性に対する充分な説明が可能と思われる。空港については、当面は我
が国では既存空港の中から現状の運用状況を踏まえて選定するべきであり、安全に係わる立地
条件、運用性等の観点から大樹町多目的航空公園と下地島空港が有力である。
空中発射システムのメリットの一つには、特定の射場を必要とせずに何処からでも打てるこ
とにあるが、現在の飛行安全基準ではロケットの地上追尾が求められている。これを満たすた
めには、飛行経路を特定するか、追尾機能を有する艦船や航空機を配備することが必要となり、
空中発射システムの機動性及びコストメリットが半減される。そのため、ロケットに GPS 受信
機、INS を搭載し、自律飛行機能及び飛行中断機能を持たせることにより空中発射のメリット
を最大限に引き出す必要がある。完全自律飛行に関しては、安全確保の観点から所要の信頼性
データの蓄積が求められることから、自律飛行の初期段階では、地上追尾の可能な飛行経路を
利用した地上追尾との併用やロケット飛行状況のモニタと指令破壊コマンドの送信を衛星回
線により実施するなどの段階的な移行が求められる。
ロケットの完全自律飛行については、未だ海外においても実用化されておらず、自律飛行及
び自律飛行中断に係わる技術や、段階的に自律飛行に移行するために、衛星回線を利用した双
方向通信に係わる技術開発が、諸外国にとっても有効なデータとして提供できるものと考える。
5 調査研究の今後の課題及び展開
平成 18 年度に実施した「マイクロ衛星打ち上げ用空中発射システムに関する調査研究」及
び本調査研究をとおして、
(1) 小型衛星が、宇宙技術開発の促進に重要な役割を担っていること。
(2) 小型衛星が将来の商業市場での戦略商品になること。
(3) 空中発射システムが小型衛星打上げの有効な手段であること。
(4) 将来の再利用型輸送システムの重要な技術ステップであること。
が明確になった。また、小型衛星の設計方針、小型衛星打ち上げ用のロケットとして空中発射
システムに求められる打上げ能力、技術課題と解決のための方策が明らかとなった。
諸外国では、即応的な軍事利用手段、低コスト商業打上げ手段、地理的ハンディキャップの
克服手段、国家予算規模に応じた少額投資の打上げ手段、宇宙開発後進国の早急な打上げ機保
有の手段等として空中発射システムを捉え、開発、研究等を進めている。また、英国の SSTL
(Surrey Satellite Technology Limited)、イスラエルの IAI(Israel Aerospace Industries
80
Ltd.)等では小型に特化して先進的な衛星開発を行っている。米国では、ORS として、高機能、
低コスト小型衛星と小型打上機、運用手段の開発を進めている。
我が国においても、諸外国に遅れをとることなく小型衛星及び空中発射システムの開発が望
まれる。小型衛星については、経済産業省が 2008 年度より開発に着手することになり、同時
並行して小型衛星の技術開発及び利用技術に関する戦略が構築されるものと期待する。しかし、
小型輸送システムについては、JAXA の次期固体ロケットの開発が着手されるものの、本調査研
究で求められる小型衛星の打ち上げに必要な小型輸送システムとして、空中発射システムの開
発に早期に着手する必要がある。
小型衛星打ち上げシステムの発展シナリオとして、観測ロケットのコスト低減と観測ロケッ
ト及びその技術展開により NanoSat、MicroSat、MiniSat の打上機とするビジョンが、「小型
ロケット研究会」から報告されている。これは小型化による宇宙活動の活性化を、確実かつ早
急に実現する有効な手段であり、2 段式の観測ロケット SS-520 のコスト低減を図るとともに、
衛星打ち上げ用として 3 段式ロケットへの改造、スケールアップ、地上発射、空中発射システ
ムへの展開等により、観測ロケットの充実及び数 kg~300kg 程度の衛星の打上げ機の整備のシ
ナリオが記載されている。(図―1 小型ロケットのビジョン)
本格的な小型衛星開発は、経済産業省が実施することから、これとは別に空中発射システム
の実現が求められる。開発に至るステップとして、ロケット、地上システムの具体化に必要な
解析が求められる。空中発射システムの具体的な解析に加えて、日本の打上げ手段では新たな
方式となるロケットの自律飛行及び衛星による追跡管制について、観測ロケット等を使用した
実証が望まれる。本方式は空中発射特有の技術ではなく、ロケットのサイズ、陸上/海上/空中
打上げによる打上方式に係わらない共通の技術であり、今後の商業打ち上げ方式の有効な手段
となりうる。また、小型衛星の商業展開を目指して、海外企業との協力の可否、協力の枠組み
等についても検討を進める必要がある。
また、宇宙基本法の制定に伴い策定される宇宙活動法に関し、民間活動の促進の見地から意
見を集約する必要がある。
81
Vision for Sounding Rocket
Application driven
・Increase in usage of Nano-Satellite (CubeSat, CanSat) for Educational purposes
・Emerging demand for Nano-Satellite constellation
Missions
- Space Science
- Technology Demonstration
(hypersonic X vehicle, re-entry
capability, component testing)
- Micro-g Experiments
•Sounding
・ Low-cost
Nano-satellite
launcher to open
up new markets
Rocket
Review
・Low-cost
sounding rocket
・Market expansion
Technology driven
•
•
Next generation launch system technology
Building up experience of the launch operation
図-1 小型ロケットのビジョン(1/4)
Phased Development
Current
Capability A
Suborbital
mission
S-520
SS-520
Development
Capability B
Four CubeSats per
launch
NS-520
NL-520
Demonstration of basic
technologies for the lowcost launcher
Technology
demonstration of low-cost
launcher
Ten launches
per year
AL-520
New launch business
model
•FW for 1st stage motor
・3rd motor
・Economy in scale
•Low-cost avionics
•Low-cost launch
control system
•Nano launcher
・Air launch technology
•Adapter for multip le
satellites
Manufacturing
Assembly
Privatization
Private-led
Launch operation
JAXA/ISAS
JAXA/ISAS
Regulations
Capability C
Preliminary study Deliberation
図-1 小型ロケットのビジョン(2/4)
82
Private
Enforcement
Vision for Small Satellite Launcher
OPTION
1
NL - 1000
LEO 50kg Satellite
Precise injection by PBV
AL -1000 -S
AL -1000-H
SSO 50kg Satellite
Subsonic Air Launch
SSO 100kg Satellite
Supersonic Air Launc
• Low Cost Avionics, and
Launch Control System
SS - 520
・ Air Launch Technology
NL - 520
AL -520
• Low Cost Avionics, and
Launch Control System
OPTION
2
・ Air Launch Technology
NL - 1500
NL -1500 -S
SSO 300kg Satellite
Subsonic Air Launch
SSO 150kg Satellite
Precise injection by PBV
図-1 小型ロケットのビジョン(3/4)
図-1 小型ロケットのビジョン(4/4)
83
参考文献
3 調査研究の内容
1-1) 平成 17 年度 小型衛星検討委員会活動報告書(財団法人無人宇宙実験システム研究開
発機構)
1-2) 小型ロケット研究会資料(財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構)
1-3) Responsive Space conference
1-4)(財)機械システム振興協会、マイクロ衛星打ち上げ用 空中発射システムに関する調査
研究報告書(平成 19 年 3 月):http://www.usef.or.jp/gijyustu/pdf/18-R-3.pdf
1-5)AIAA-RS4-2006-2003
1-6)Utah State Small satellite conference 2008
1-7)IAC(International Astronautical Congress)
1-8)Utah State Small satellite conference 2008
1-9)General Kinetics Inc :http://www.gkllc.com/
1-10)Flight international
1-11)EADS
1-12)Air Launch Aerospace Corporation(ALAC)
1-13)SpaceWorks Engineering Inc.:http://www.sei.aero/
1-14)CNES
1-15)Khrunitchev
1-16)npoenergomash:http://www.npoenergomash.ru/
1-17)AF S&T Challenges,AFRL 2006
1-18)ESA
1-19)EADS Astrium:http://www.astrium.eads.net/
1-20)Googlemap:http://maps.google.co.jp/
2-1) (財)機械システム振興協会、マイクロ衛星打ち上げ用 空中発射システムに関する調査
研究報告書(平成 19 年 3 月)
2-2)”Pegasus User’s Guide”, Release5.0, Orbital Sciences Corporation (2000)
2-3) Googlemap:http://maps.google.co.jp/
2-4) 沖縄県庁 http://www.pref.okinawa.jp/airport/index/
2-5) 北海道大樹町 http://www.town.taiki.hokkaido.jp/pages/koukuu/index.html
2-6)国土交通省大阪航空局下地島空港事務所
2-7)沖縄県土木建築部空港課
2-8)“Jane’s ALL THE WORLD’S AIR CRAFT 2003-2004” Paul Jackson MRAeS
2-9)C-5 GALAXY Fact Sheet
http://www.af.mil/factsheets/factsheet.asp?id=84
2-10)朝雲新聞社 http://www.asagumo-news.com/graph/PXCX.html
3-1)”Partially Continuous Earth Coverage from a Responsive Space Constellation”
(AIAA-RS-2007-2001)
84
4-1) Goleta Air & Space Museum
http://www.air-and-space.com/
4-2) Orbital Sciences HP http://www.orbital.com/
4-3) ”Pegasus User’s Guide”, Initial Release, Orbital Sciences Corporation (1988)
4-4) KDDI HP http://www.kddi.com/index.html
4-5) INTELSAT HP http://www.intelsat.com/
4-6) JSAT HP
http://www.jsat.net/index.html
4-7) ORBCOMM Japan HP http://www.orbcomm.co.jp/
4-8) Iridium HP http://iridium.com/
4-9) ”Pegasus User’s Guide”, Release6.0, Orbital Sciences Corporation (2007)
4-10) “Responsive Space Launch The F-15 Microsatellite Launch Vehicle”, Julia Rothman,
Erika Siegenthaler, AIAA-LA Section/SSTC Responsive Space Conference 2003-9002
4-11) “航空情報 No.769” 株式会社酣燈社(2007 年 10 月号)
4-12) AirLaunch LLC HP http://www.airlaunchllc.com/
4-13) “Trade Studies for Air Launching a Small Launch Vehicle from a Cargo Aircraft”,
Marti Sariul-Klijn, etc., AIAA-2005-0621
4-14) “Responsive Air Launch Using F-15 Global Strike Eagle”, Timothy T. Chen, Preston
W. Ferguson, RS4-2006-2001
4-15) “An Air-Launch Vehicle as a Derivative of the Japanese M-V Rocket”, H.Matuo,
M.Kohno, T.Makino, Y.Nagao, R.Akiba IAF90-178
4-16) JAXA HP http://www.jaxa.jp/
4-17) NASA HP http://www.nasa.gov/
4 調査研究の成果(まとめ)
――
5 調査研究の今後の課題及び展開
小型ロケット研究会資料(財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構)
85
-禁無断転載-
システム技術開発調査研究 19-R-4
「宇宙利用支援システム関する調査研究」報告書
(要旨)
平成 20 年 3 月
作 成 財団法人機械システム振興協会
東京都港区三田一丁目 4 番 28 号
TEL 03-3454-1311
委託先 財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構
東京都千代田区神田小川町二丁目 12 番地
TEL 03-3294-4834
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