...

主 論 文 の 要 旨 論 文 内 容 の 要 旨

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

主 論 文 の 要 旨 論 文 内 容 の 要 旨
報告番号
※
第
主
論文題目
氏
名
号
論
文
の
要
旨
Studies on the effects of hair cosmetics on human
hair by secondary ion mass spectrometry
(二次イオン質量分析法による毛髪に対する頭髪化粧
品の効果に関する研究)
小島 徹
論 文 内 容 の 要 旨
毛髪の形状、ヘアスタイル、髪色は人の印象に大きな影響を与え、さらにその人の
個性や魅力を表現している。人々は健康で美しい髪となるため様々な頭髪化粧品を使
用している。頭皮や髪の洗浄、状態を整えるため、シャンプーやコンディショナーが
使用されている。また、パーマネントウェーブやヘアカラーは希望するヘアスタイル
や髪色となるため使用されている。毛髪に対してより効果の高い頭髪化粧品を開発し
ていくためには頭髪化粧品がどのように毛髪に作用しているのかを知ることは非常に
重要である。本研究では毛髪に対する頭髪化粧品の作用機序の理解を進めるため、2
種 類 の 二 次 イ オ ン 質 量 分 析 法 (SIMS)、 飛 行 時 間 型 SIMS(TOF-SIMS)と ナ ノ ス ケ ー ル
SIMS(NanoSIMS)を そ れ ぞ れ の 分 析 手 法 の 特 徴 を 活 か し て 使 用 し 、頭 髪 化 粧 品 中 の 成
分 が 作 用 す る 毛 髪 の 部 位 (第 2 章 、 第 3 章 、 第 5 章 、 第 6 章 )と 頭 髪 化 粧 品 が 毛 髪 組 織
の 組 成 へ 与 え る 影 響 (第 4 章 )に 関 し て 検 討 を 行 っ た 。
第 2 章 で は 、2 つ の 化 粧 品 成 分 の 浸 透・吸 着 性 に 関 し て TOF-SIMS を 用 い て 検 討 し
た 。ダ メ ー ジ 毛 を ア ミ ノ 酸 の 一 種 で あ る L-テ ア ニ ン で 処 理 す る こ と に よ り 、L-テ ア ニ
ン の 毛 髪 内 部 へ の 浸 透 性 を 解 析 し た が 、ダ メ ー ジ 毛 に は L-テ ア ニ ン 由 来 の ピ ー ク が 確
認 で き な か っ た 。構 造 中 の 水 素 の 一 部 が そ の 安 定 同 位 体 で あ る 重 水 素 (D)で ラ ベ ル 化 さ
れ た L-テ ア ニ ン を 使 用 し た と こ ろ 、D − イ オ ン を 高 強 度 で 検 出 す る こ と が で き 、D − イ オ
ン を L-テ ア ニ ン 由 来 の 特 徴 的 な フ ラ グ メ ン ト イ オ ン ピ ー ク と し て 使 用 す る こ と が 可
能 と な っ た 。 D ラ ベ ル 化 L-テ ア ニ ン で 処 理 し た ダ メ ー ジ 毛 を TOF-SIMS 測 定 す る と
D− イ オ ン ピ ー ク が は っ き り と 検 出 さ れ 、 さ ら に D− イ オ ン の マ ッ ピ ン グ を 行 っ た と こ
ろ、テアニンがダメージ毛の内部に深く浸透し、毛髪内部の全体に分布していること
が確認された。次にカチオン化ポリマーの一種であるカチオン化キトサンの毛髪表面
へ の 吸 着 性 に 関 し て 検 討 し た 。カ チ オ ン 化 キ ト サ ン の TOF-SIMS ス ペ ク ト ル に お い て
検 出 さ れ る m/z 102 の ピ ー ク が 構 造 中 の カ チ オ ン 性 置 換 基 由 来 の フ ラ グ メ ン ト イ オ ン
ピ ー ク で あ る こ と を 同 定 し 、 最 も 強 く 検 出 さ れ る ピ ー ク で あ る m/z 58 よ り も 毛 髪 表
面への吸着性評価に適したピークとして選択した。カチオン化キトサン処理毛の
TOF-SIMS 測 定 に お い て 毛 髪 表 面 よ り m/z 102 の ピ ー ク が 検 出 さ れ 、毛 髪 表 面 へ の 吸
着 状 態 を 評 価 す る た め m/z 102 の イ オ ン マ ッ ピ ン グ を 行 っ た と こ ろ 、毛 髪 表 面 に 一 様
に吸着していることが確認された。さらに健常毛とダメージ毛のカチオン化キトサン
の吸着状態を比較したところ、その違いを視覚化することができた。
第 3 章では、ダメージ 毛に対する植物油 の効 果を調べ、その植物油 の浸透性に関し
て TOF-SIMS を 用 い て 検 討 し た 。ダ メ ー ジ に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る 好 ま し く な い 毛 髪
変 化 の 1 つ と し て 水 中 に お け る 膨 潤 性 の 増 加 が あ り 、そ れ を 抑 制 で き る 成 分 の 探 索 し
たところ、水素添加パーム油に高い効果が確認された。水素添加パーム油中に含まれ
るトリグリセリドの1つであるトリパルミチンを指標とし、水素添加パーム油の毛髪
内部への浸透性に関して調査した。トリパルミチン配合コンディショナーで処理した
毛 髪 の TOF-SIMS 測 定 で は ト リ パ ル ミ チ ン 由 来 の ピ ー ク を 確 認 す る こ と が で き な か
っ た た め 、測 定 感 度 を 改 善 す る 目 的 で D ラ ベ ル 化 ト リ パ ル ミ チ ン を 使 用 し た 。D ラ ベ
ル 化 ト リ パ ル ミ チ ン 配 合 コ ン デ ィ シ ョ ナ ー で 処 理 し た 毛 髪 の TOF-SIMS 測 定 に お い
て D−イ オ ン ピ ー ク が は っ き り と 検 出 さ れ 、 D− イ オ ン マ ッ ピ ン グ に よ り ト リ パ ル ミ チ
ン は ダ メ ー ジ 毛 内 部 の 外 周 部 分 に 局 在 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。TOF-SIMS イ オ ン
マッピング像とレーザー顕微鏡像を組み合せることにより、トリパルミチンがダメー
ジ毛のキューティクルとコルテックス外周部に浸透していることが明らかとなった。
得られた結果より、水素添加パーム油はダメージ毛のキューティクルとコルテックス
外周部に作用することによって膨潤抑制効果を発揮しているものと考えられる。
第 4 章では、ブリーチ処理の結果として生じる毛髪メラニンの組成変化について
NanoSIMS を 用 い て 検 討 し た 。ブ リ ー チ 処 理 は メ ラ ニ ン を 部 分 的 に 酸 化 分 解 す る こ と
により髪色を明るくしており、メラニンの化学構造の変化に伴って元素組成の変化も
予 想 さ れ る た め 、 黒 髪 未 処 理 毛 と ブ リ ー チ 毛 の 元 素 組 成 の 比 較 を 行 っ た 。 NanoSIMS
の
16 O − イ オ ン 像 に お い て 数 百 ナ ノ メ ー ト ル サ イ ズ の 粒 子 状 領 域 よ り 強 く
16 O − イ オ ン
が 検 出 さ れ た 。NanoSIMS 測 定 前 後 の レ ー ザ ー 顕 微 鏡 像 を 比 較 す る こ と に よ り 、そ れ
ら 粒 子 状 領 域 が メ ラ ニ ン で あ る こ と を 特 定 し た 。黒 髪 未 処 理 毛 と ブ リ ー チ 毛 の
オン像を比較するとブリーチ毛のメラニンからより強く
16 O − イ
16 O − イ オ ン が 検 出 さ れ 、さ ら
に メ ラ ニ ン の イ オ ン 強 度 値 の 算 出 と デ ー タ 解 析 を 行 っ た と こ ろ 、ブ リ ー チ 毛 の
16 O − イ
オ ン 強 度 、 16 O − / 1 2 C 14 N − イ オ ン 強 度 比 は と も に 黒 髪 未 処 理 毛 よ り も 高 い 値 を 示 し た 。
NanoSIMS を 用 い た 黒 髪 未 処 理 毛 と ブ リ ー チ 毛 の 比 較 は ブ リ ー チ 処 理 が メ ラ ニ ン 粒
子中の酸素量を増加させることを示した。
第 5 章 お よ び 第 6 章 で は 、毛 髪 微 細 構 造 中 に お け る 酸 化 染 料 の 染 着 部 位 に 関 し て 安
定 同 位 体 で 標 識 さ れ た 酸 化 染 料 を 使 用 し 、NanoSIMS を 用 い て 検 討 し た 。通 常 の 酸 化
染料と構造中のベンゼン環上の水素がその安定同位体である D でラベル化された酸化
染料との毛髪の染色性と染色時に生成する酸化染料重合物を比較することにより、D
ラベル化酸化染料を用いた場合でも通常の酸化染料と同じような染色が起こり、生成
す る 酸 化 染 料 重 合 物 の 構 造 中 に D が 維 持 さ れ て い る こ と を 確 認 し た 。こ れ は D ラ ベ ル
化酸化染料を使用して毛髪を染色した場合に生成する酸化染料重合物の特徴的なフラ
グ メ ン ト イ オ ン と し て D − イ オ ン を 使 用 で き る こ と を 示 し て い る 。D ラ ベ ル 化 酸 化 染 料
で 染 色 し た 黒 髪 の 横 断 面 を 作 製 し NanoSIMS 測 定 を 行 っ た と こ ろ 、 D − イ オ ン が 横 断
面全体から検出され、さらに数百ナノメートルサイズの粒子状領域から特異的に強く
検出された。同一人物から入手した黒髪と白髪の染色性を比較することにより、染色
し た 黒 髪 の NanoSIMS イ オ ン 像 に お い て 観 察 さ れ た D − イ オ ン が 強 く 検 出 さ れ た 粒 子
状領域がメラニンであることを特定した。D ラベル化酸化染料で染色した毛髪を
NanoSIMS で 測 定 す る こ と に よ り 、酸 化 染 毛 剤 の 染 着 部 位 と し て こ れ ま で あ ま り 注 目
されていなかった毛髪メラニンが重要な染着部位の 1 つであることを明らかにした。
第 6 章では酸化染毛剤の重要な染着部位の1つであるキューティクルの微細構造中
における酸化染料の染着挙動に注目して検討を行った。毛髪を切断面に対して垂直に
置き樹脂に包埋してから横断面を作製するという一般的な方法で作製した毛髪横断面
の NanoSIMS 測 定 を 行 っ た が キ ュ ー テ ィ ク ル 微 細 構 造 中 の 染 着 挙 動 を 確 認 で き な か
ったため、毛髪横断面の作製方法を改良した。樹脂に毛髪を包埋する際に切断面に対
し て 斜 め 置 き 横 断 面 を 作 製 し た 結 果 、横 方 向 に 広 が っ た 楕 円 形 の 毛 髪 横 断 面 が 得 ら れ 、
両 端 部 分 の キ ュ ー テ ィ ク ル 層 の 厚 さ を 約 3 倍 に 広 げ る こ と が で き た 。改 良 し た 方 法 で
作 製 し た 毛 髪 横 断 面 の NanoSIMS 像 と 原 子 間 力 顕 微 鏡 像 の 比 較 よ り 、他 の キ ュ ー テ ィ
ク ル 微 細 構 造 よ り も エ ン ド キ ュ ー テ ィ ク ル か ら 12 C − イ オ ン が 強 く 検 出 さ れ る こ と が 確
認 さ れ た 。 D ラ ベ ル 化 酸 化 染 料 を 使 用 し て 染 色 し た 毛 髪 の D − / 1 H − イ オ ン 比 像 の hue
saturation intensity(HSI)変 換 を 行 っ た と こ ろ 、 エ ン ド キ ュ ー テ ィ ク ル が 他 の キ ュ ー
テ ィ ク ル 微 細 構 造 よ り も 高 い D − / 1 H − イ オ ン 比 を 持 つ こ と が 確 認 さ れ た 。こ の 結 果 は 酸
化染毛剤の染色によって生成する酸化染料重合物が他のキューティクル微細構造より
もエンドキューティクルに多く染着していることを示している。改良した方法で作製
し た 毛 髪 横 断 面 の NanoSIMS 測 定 に よ り 、キ ュ ー テ ィ ク ル 微 細 構 造 中 で の 酸 化 染 料 の
染着性の違いを明らかにすることができた。
本 研 究 で は 異 な る 特 徴 を 持 つ 2 種 類 の SIMS を 毛 髪 の 研 究 に 使 用 し た 。 TOF-SIMS
を 用 い た 検 討 で は 、毛 髪 内 部 へ の 化 粧 品 成 分 の 浸 透 挙 動 を そ の 成 分 の D ラ ベ ル 化 物 を
使用することにより明らかにすることができた。また化粧品成分の毛髪表面での吸着
性状態をより適切なフラグメントイオンピークを選択することによって確認すること
が で き た 。NanoSIMS を 用 い た 検 討 で は 、毛 髪 微 細 構 造 の 1 つ で あ る メ ラ ニ ン の ブ リ
ー チ 処 理 に よ る 元 素 組 成 の 変 化 を 直 接 的 に 観 察 す る こ と が で き た 。さ ら に NanoSIMS
と同位体標識法とを組み合わせることにより、毛髪微小領域内での酸化染料の染色挙
動を明らかにすることができた。本論文は毛髪に対する頭髪化粧品の効果、影響を明
ら か に す る た め の 分 析 手 法 と し て SIMS が 最 も 有 用 な 手 法 の 1 つ で あ る こ と を 示 し
た 。 SIMS を 効 果 的 に 使 用 し た 毛 髪 の 研 究 が 今 後 も 行 わ れ て い く こ と に よ り 、 頭 髪 化
粧品の作用機序の解明が進み、その知見を基にして効果の高い頭髪化粧品が開発され
ていくことは人々の髪の健康と美しさの実現に貢献していくものと考えられる。
Fly UP