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日本のスーパーコンピュータは 世界ランキングのトップを奪還できるか
エンタープライズICT総合誌 月刊ビジネスコミューニケーション(Webサイトへ) 日本のスーパーコンピュータは 世界ランキングのトップを奪還できるか 本年 5 月 14 日に、官民合同で た技術を企業が事業に転用することを 設計、作戦シミュレーションなど軍事 2012 年 3 月の完成を目指す、世界最 認める代わりに、メーカーにも開発費 利用の傾向が強いとして、国防総省と 高性能の次世代スーパーコンピュータ 用の一部を負担する契約であった。こ エネルギー省を中心に進めている。現 の開発プロジェクトから、NEC と日立 のため、NEC ・日立は、現在の厳しい 在の次世代スパコンの開発は、IBM と が事実上撤退するとの発表があった。 経営環境下で、製造段階に踏み込んだ クレイの 2 社に委託しており、2010 次世代スパコンは、文部科学省が予算 場合に発生する 100 億円以上とみられ 年 6 月までに、実効性能 2 ペタ FLOPS 総額 1,154 億円を投じ、10 ペタ る資金負担を回避するために離脱を決 で 4 ペタ FLOPS 以上に拡張可能な試 FLOPS(毎秒 10 × 1000 兆回の浮動 めたものと思われる。 作機を製造することとしている。 こうした撤退劇に対して、ベクトル こうした米国のスパコン産業育成策 年度から理化学研究所と富士通、NEC、 型が得意分野とする気象予測や衝突解 によって、毎年 2 回発表されるスパコ 日立が開発を進めていた。このスパコ 析などの分野に大きな影響を与えるこ ン性能ランキングでは、米国メーカー ンは、神戸市のポートアイランド第二 とになり残念という声がある一方、二 が圧倒的であり、今年 6 月 23 日に発表 期地区内に設置することとしており、 兎を追う者は一兎をも得ずという結論 された最新のランキングでは、1 位は 地下 1 階地上 3 階建て、延べ床面積 は見えていたとする声もある。また、 IBM の Roadrunner が 1,456 メタ 17,500 ㎡の計算機棟の建設もすでに そもそもベクトル型スパコン市場が急 FLOPS で、2008 年 6 月以来トップ 始まっている。 速に縮小していることも原因という見 の座を守っている。2 位クレイ、3 位 方もある。 IBM など、9 位まですべて米国のメー 小数点演算)を目指す計画で、2006 スパコンの計算方式は大きく分けて 2 種類ある。ひとつは、比較的小さなデー 結局、理化学研究所は 7 月に、今後 タごとに多数の演算装置で順次処理して の開発計画をスカラー型単独構成にし かでの米国メーカーは、HP が 212 台、 いくスカラー型であり、もうひとつは、 て、富士通と共同で当初計画通り IBM が 188 台など 456 台を占めてい 大量のデータを一括して処理するベクト 2012 年を目指して、性能は 10 ペタ る。わが国のスパコンのトップは 22 位 ル型である。2002 年に、日本は NEC に FLOPS とすると発表した。CPU には、 の地球シュミレータ(NEC)、28 位の 委託して、ベクトル型のスパコン「地球 富士通が設計した、128 ギガ FLOPS 宇宙航空研(富士通)などで、トップ シミュレータ」を完成させたが、このス の世界最速の SPARC64 を採用する。 500 に入った日本のメーカーは 9 台に スパコンの計算速度競争では、以前 パコンは当時の計算速度ランキングで首 カーが独占しており、トップ 500 のな 過ぎない。もちろん、このランキング 位を占めた実績がある。しかしその後、 は日米が激烈な競争を繰り広げてきた。 は設置機関とベンダーの自己申告制で スパコンはスカラー型が大勢を占めてお 特に、2002 年に完成した日本の「地 あり、評価のためのベンチマークにも り、現在の世界のスパコントップ 500 の 球シミュレータ」は、当時の米国のス 異論はあるが、それにしても、わが国 なかで、ベクトル型のスパコンは「地球 パコンの 5 倍近い能力を有していた。 の存在感は薄くなりつつある。 シミュレータ」だけとなっている。今回 日本ではあまり大きく報道されなかっ 今回わが国が計画しているスパコン の次世代スパコン開発プロジェクトでは、 たが、当時米国の新聞は、米国より早 の性能は 10 ペタ FLOPS であるが、こ この 2 つの型を併設し、様々な用途に応 く打ち上げられた旧ソ連の人工衛星 れはわが国の呼称では、1京 FLOPS に える複合型スパコンとして設計された。 「スプートニク」になぞらえて「コンピ 当たる。わが国の1京スパコンが、 そして、スカラー型は富士通が、ベクト ュートニク」と呼んで、大きく報道し 2012 年 3 月に完成し、その時点で、 ル型は NEC と日立が担当することとし た。その後米国政府は巻き返しを図り、 世界のトップにたてるかどうか。大変 て、設計がほぼ終わった段階であった。 大規模なスパコン開発に乗り出してお 厳しいと思うが、そうなって欲しいと り、スパコンの開発は各種兵器の開発 祈りたい。 また、今回の開発計画では、開発し ビジネスコミュニケーション 2009 Vol.46 No.10 5