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GIS ベースのゲーミングシミュレーションを用いた高齢者の活動交通分析
東京大学大学院
正 会 員
大森
宣暁
東京大学
正 会 員
室町
泰徳
東京大学大学院
正 会 員
原田
昇
東京大学大学院
フェロー
太田
勝敏
1.はじめに
交通は活動の派生需要であるというアクティビティアプローチの視点から、個人の交通行動の意思決定構造を
明らかにし、きめ細かな政策評価を行うことを目的とした研究が近年盛んに行われている。本研究では、詳細な
時空間データを利用し、個人の活動スケジュールや活動機会のサービス時間帯等の時空間制約を導入して、活動
パターンの選択肢集合を生成するモデルを GIS とリンクして、実際の活動パターンおよび代替活動パターンを地
図と時間軸上に表現できる、応答型のゲーミングシミュレーションツール SMAP(Simulation Model for Activity
Planning)を開発する。本ツールを用いて高齢者世帯に訪問面接調査を行い、現状の活動パターンに影響を与え
ている様々な制約を把握し、制約条件の変化による活動パターンの変更可能性を検討する。
2.ゲーミングシミュレーションツールの開発
ゲーミングシミュレーション手法は、1970 年代のオックスフォード大学交通研究所(TSU)の HATS
(Household Activity-Travel Simulator)に起源を置く 1)。本研究は、HATS を GIS 上で開発し、さらに代替活
動パターン生成モデルをリンクしようという試みである。SMAP は、GIS ソフトウェア MapInfo を MapBasic
によりカスタマイズした。また、代替活動パターン生成モデルは C 言語で作成しており、MapBasic 上で呼び出
す構造とした。SMAP の概念図を図1に示す。現状の活動パターン、および制約条件から生成される代替活動パ
ターンを GIS 上で地図と時間軸上に表示する。さらに入力変数を変更することで、制約条件の変化による新たな
活動パターンの選択肢集合を表示し、調査対象者の選択意向を得る。二人の複数日の活動スケジュール制約を明
示的に考慮しているため、同乗という交通手段や、複数日の外出活動のトレードオフも考慮可能である。図2に
SMAP の画面の例を示す。
制約条件
交通需要サイド
個人 A
個人 B
交通手段の利用可能性
・ 運転
・ バス
・ 自転車
基本属性
・ 年齢
・ 性別
・ 職業
活動スケジュール
・ 開始時刻、継続
時間、場所の固
定性
居住地
移動時間
・徒歩限界時間
交通費
・一日最大交通費
交通手段の利用可能性
・ 運転
・ バス
・ 自転車
基本属性
・ 年齢
・ 性別
・ 職業
活動スケジュール
・ 開始時刻、継続
時間、場所の固
定性
居住地
交通供給サイド
移動時間
・徒歩限界時間
交通費
・一日最大交通費
活動機会サイド
交通手段別時間帯別
交通手段別時間帯別
ネットワーク所要時間
ネットワーク移動費用
活動機会立地
活動機会サービス時間帯
交通手段
・ 徒歩
・ 自転車
・ バス
・ タクシー
・ 運転
・ 同乗
時刻
・ プリズム
日
・ 他の日
代替活動パターン生成モデル
個人 A のある外出活動の、交通
手段、時刻、日に関する代替活
動パターンの選択肢集合
制約条件の変化
個 人 A、 個 人 B の 活 動 パ タ ー ン
の GIS 上 へ の 時 空 間 表 示
図1
SMAP 概念図
図2
キーワード GIS、ゲーミングシミュレーション、高齢者
連絡先 〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1、電話 03-5841-6234、FAX 03-5841-8527
SMAP 画面例
年齢
:68歳
性別
:女
世帯構成:一人
時間
利用可能交通手段:徒歩、バス、タクシー
徒歩時間制約
:30分/トリップ
交通費予算
:5,000円/日
現在
年齢
:89歳
性別
:女
世帯構成:息子、嫁、孫1人
平日
時間
コミュニティバス運行日
利用可能交通手段:徒歩、タクシー、同乗
徒歩時間制約
:20分/トリップ
交通費予算制約 :3,000円/日
休日
高齢者のプリズム
高齢者のプリズム
同乗
タクシー
タクシー
徒歩
バス
運転者のプリズム
運転
徒歩
移動
移動
A
B
自宅
図3
A
B
外出活動
外出活動
A
BC
自宅
活動機会
自宅
週一日コミュニティバスが運行する場合
図4
A
B
活動機会
自宅
図活動機会が休日も利用できる場合
6.3.11 活動機会が休日も利用できる場合
3.制約条件の変化による行動の変更可能性
平成 11 年 11 月上旬、同年 2 月に一週間のダイアリーと PHS データを収集した秋田市内に居住する 13 世帯 20
人の高齢者の中で 2)、12 世帯 18 人に対して訪問面接調査を行った。本調査によって、高齢者の交通行動に対する
個別の詳細な制約条件を汲み取ることができ、制約条件の変化による興味深い活動パターンの変更可能性が示さ
れた例を以下に挙げる。図3、図4は、左側が現在のプリズム制約と外出活動を、右側が制約条件の変化による
プリズム制約と外出活動の変更意向を時空間座標上に表現したものである。
図3のサンプルの利用可能な交通手段は徒歩、バス、タクシーである。もし、コミュニティバスが週一日だけ
決まった曜日に運行する場合、現在徒歩を利用しているスーパーA への買い物は、コミュニティバスの運行日に
合わせて、曜日を変更する可能性があると答えた。しかし、現在バスを利用している病院 B への通院は、担当医
の診察曜日が決まっているため、コミュニティバスの運行日に合わせることはできない。夜は暗いため外出しな
いことにしており、事実上プリズムは存在しないものと考えられる。
図4のサンプルは子供夫婦と同居しており、同乗の利用可能性がある。平日は、運転者が日中会社 C に通勤し
ているため、同乗成立可能性は非常に低い。病院 B は平日のみ診察可能なため、平日にタクシーを利用して通院
している。病院 B が日曜日も診察を始めた場合、運転者は高齢者を自動車で送迎することが可能であり、高齢者
は日曜日に同乗を利用して通院すると答え、運転者もそれを了解した。また、病院 A は平日の午後にも診察可能
だが、仲の良い友人も午前中に病院 A に通院しているため、午前に行くことに決めている。
4.まとめ
本研究では、GIS ベースのゲーミングシミュレーションツールを開発し、高齢者世帯に対して訪問面接調査を
行うことで、詳細な個人特有の制約条件を把握し、世帯員間の相互作用や複数日単位での外出活動のトレードオ
フを考慮して、制約条件の変化による活動パターンの変更可能性に関して有益な考察ができた。今後は、世帯間
での相乗り行動やトラベルブレンディングなどへの適用や、GPS による詳細な行動データを用いて、出発時刻選
択、経路選択、駐車場選択行動の分析への適用などを考えている。
参考文献
1)Jones, P., M. C. Dix, M. I. Clarke and I. G. Heggie:Understanding travel behavior. Aldershot: Gower, 1983.
2)大森, 室町, 原田, 太田:世帯員間の相互作用を考慮した活動交通分析∼時空間制約に着目した同乗可能性∼, 土木計画学
研究・講演集 No.22(2), pp.675-678, 1999.
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