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城ヶ尾遺跡の再検討

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城ヶ尾遺跡の再検討
目
次
《研究ノート》
土器胎士の鉱物を求めて2
-土器製作推定地のための基礎研究一
調査第二課第二調査係・・・・・・1
城ヶ尾遺跡の再検討
馬籠亮道・長野眞一・・・
・・9
剥片尖頭器石器群とその前後の石器群について
­南九州における最新の調査成果から-宮田栄二・・・・・・・・・27
九州における縄文時代の二つの耳飾り
-九州の決状耳飾と耳栓について-
新東晃一・・・・・・・・・37
戦争遺跡に関する考察
一鹿児島県における戦争遺跡の意義とその活用方法について抜水茂樹・・・・
・・45
《資料集成》
鹿 児 島 県 出 土 土 師 器 の 法 量 デ ー タベース 2 調 査 第 一 課 第 一 調 査 係
科学分析報告一覧
《年報平成16年度》
・・55
南の縄文調査室..・・・・・・・66
。・・・・・・・・・・・・・・・70
研究紀要・年報『縄文の森から』創刊号∼第3号目録・・・・.
。,・75
城ヶ尾遺跡の再検討
­後期旧石器時代第Ⅱ文化層∼第Ⅲ文化層の石器群を中心として一
馬籠亮道・長野眞一
AReexaminationofJogaoSite
EspeciallyontheStoneToolsfrom2ndand3rdCalturalStageofLatePaleolithicPeriod
MagomeRyodo,NaganoShinichi
要旨
本稿では,霧島市福山町城ヶ尾遺跡の旧石器時代石器群について,従来整理が不十分であった石器群の重複を整
理し,石器群の層位的変遷を再検討する。その結果,特に第Ⅱ文化層と第Ⅲ文化層では,角錐状石器・三稜尖頭器
を主体とする石器群と小型ナイフ形石器群が層位的に分離され,これらの層位的な上下関係が確認された。また,
角錐状石器の形態と石材利用に地域性がみられる点はすでに多くの研究者によって指摘されているところであるが
(岩谷1997,萩原1987等),本稿では角錐状石器の形態と石材利用について検討を行い,加えてリダクシヨン・プ
ロセスを評価することで,角錐状石器にみられる形態差が機能差を反映したものである可能性を指摘した。同時に,
当該期の県内の資料を概観し,角錐状石器盛行期前後の石器群の変遷について予察を行った。
キーワード三稜尖頭器角錐状石器,小型ナイフ形疋
小型ナイフ形石器, リ ダク シ ョ ン ・ プ ロ セ ス
1はじめに
筆者らは,2003年に鹿児島県霧島市福山町所在の城ケ
尾遺跡の報告書を執筆した(鹿児島県立埋蔵文化財セン
ター2003)。城ヶ尾遺跡は鹿児島県霧島市福山町に所在
尾遺跡第Ⅱ文化層∼第Ⅳ文化層の石器群について,ナイ
フ形石器の形態的評価や上下移動の影響を考慮し,「本
し,国分平野に向けて流れる検校川水系と,宮崎県側へ
終末期ナイフ形石器石器群→細石刃石器群 とする変遷
も想定でき」ると述べた(松本2005)。
来的には第Ⅱ∼第Ⅳ文化層の順に'1角錐状石器石器群→
流れる大淀川水系の分水嶺に近い位置に立地する。本地
域は地理的に東九州と南九州をつなぐ位置を占めるだけ
でなく,地域テフラであるP-15,P-17等を介在しながら
阿部敬は城ケ尾遺跡の角錐状石器についてリダクシヨ
ンの影響を考慮し,当該器種の形態的バリエーションを
旧石器時代の石器群の変遷を層位的に確認できる,極め
リダクションの過程を示すものと論じた(阿部2005)。
て重要な地域でもある。城ヶ尾遺跡ではXV層∼X層の
馬籠は,東九州自動車道関連遺跡の調査成果をまとめ
間で合計5つの文化層が確認された。
るにあたり,城ヶ尾遺跡第Ⅱ文化層が角錐状石器主体,
その後,東九州自動車道関連で九養岡桐木,桐木耳
第Ⅲ文化層が小型ナイフ形石器主体となる見通しを示し
た(馬籠2005)。
取遺跡などの報告書が刊行され,宮崎県側においても多
くの調査成果が公表されつつある。それとともに,城ケ
尾遺跡の石器群についてもいくつかの言及がなされ,当
さしあたっては,各文化層の組成の検討と,第Ⅱ文化
層において豊富に組成される角錐状石器の製作技術と形
該石器群について再検討を行う必要が生じてきた。その
概要については既に別稿(馬籠2005)で述べたが,本稿
では再度基礎資料を提示し,前稿までに触れられなかっ
関連資料については,当面「角錐状石器」の呼称を用い,
た問題や新たな知見を折り込みながら検討を行いたい。
分類については前稿(馬籠・長野2004)を踏襲する。九
態分類の検討が課題である。
なお,本稿では三稜尖頭器・角錐状石器,およびその
州地方においては,断面三角形を呈する資料が多く,伝
2城ヶ尾遺跡の石器群をめぐる諸問題
統的に「三稜尖頭器」(橘1975)の名称が使われる場合
が多いが,本稿で対象とする資料には,橘の定義から逸
城ケ尾遺跡の石器群は,XⅣ層主体の第1文化層,X
Ⅲ層主体の第Ⅱ文化層XⅡ層主体の第Ⅲ文化層,XI
脱する資料が含まれるためである。また筆者自身,同一
の名称を与えられているこれらの石器群について,異な
層主体の第Ⅳ文化層X層主体の第V文化層に区分でき
る。XⅣ層の下部と上部で燈色パミスが確認され,それ
る機能を備える別器種として再分類することを含め,検
ぞれP-17,P-15に比定される。報告書刊行当時,遺物の
上下移動を考盧して整理を行ったが,時間的制約等の諸
討の必要性を感じているからでもある。
事情から石材分類や接合作業が十分でなく,結果として
器の変形に言及した阿部の指摘もあるので,その問題を
整理した上で検討する。まずは以上のような論点を踏ま
角錐状石器の分類については,リダクションによる石
各文化層の石器群の峻別や器種認定に課題を残した。
このうち,筆者らは既に,城ヶ尾遺跡第Ⅱ文化層中に
えながら,再度基礎資料の提示を進めたい。
ナイフ形石器が「安定的に」存在するとした報告書刊行
当時の見解は撤回した(馬籠・長野2004)。
3各文化層の石器群について
松本茂は,終末期のナイフ形石器を傭撤する中で,城ケ
各文化層のエリア配置状況を第1図に示した。
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第1文化層はD-3区(第1エリア)とB,C-4
区(第2エリア)に主たる分布域がある。
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いずれのエリアも,やや節理が発達する暗緑 国
色∼薄緑色の硅質頁岩を主体とする。第2エリ
アには台形石器と切出形のナイフ形石器が含ま
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石材利用面からみれば,一括性の高い石器群と
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ぼ独立した石器群と判断できる。
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第Ⅱ文化層はXⅢ層を主体とする石器群であ
る。XⅡ層を主体とする第Ⅲ文化層と分布が重
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複し,両文化層の石器群は再検討が必要である。
第1図から,第Ⅱ文化層と第Ⅲ文化層の各エ
リアの分布には,複数のエリアで平面的な重複
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関係が確認できる。両文化層の主な利用石材は ー
黒曜石I類,黒曜石Ⅱ-A,n-B,n-C類黒曜
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このうち,頁岩については報告書中に十分な
分類を反映することが出来なかったので,主要
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岩識別の精度にはおよばないが,おおむね石器
群の石材利用傾向を抽出するには十分である。
なお,肉眼的特徴から同一母岩と考え得るも
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のについては特に注記する。
頁岩I類:茶褐色∼黒灰色を呈する級密な頁
岩で節理はほとんど発達せず,全体的に均質な
のが特徴である。宮崎県平野部で多用される綴
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I-A類:茶褐色系の色調を呈するもの。
I-B類:黒色系の色調を呈するもの。
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ス系の石材で雑多な石材を含む。
報告書中に掲載した文化層と自然居位の対応
関係を抽出するために,平面的に重複する上下
の石器群を比較する。なお,検討の対象は角錐
状石器とナイフ形石器に絞った。石核や剥片等
-
り
(第3,4図)
第Ⅱ文化層第10エリアの石器群は,角錐状
石器と台形石器を中心とする。報告書刊行後
に239+240,238+244,231+235,227+228が
接合した。角錐状石器台形石器はXⅢ層か
らの出土資料が多い。角錐状石器には黒曜石
n-A類(209,212,224,接合No.35等),n-B類
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については適宜参照することとする。
①第Ⅱ文化層第10エリア,第Ⅲ文化層第6エリア
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頁岩Ⅱ類:節理のやや発達する淡緑色の頁岩
でやや白く風化し,珪質を帯びるものもある。
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第2図城ケ尾遺跡第1文化層出土石器及び石器出土状況
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第3図城ヶ尾遺跡第Ⅱ文化層第10エリア,第Ⅲ文化層第6エリア石器出士状況
(211,236),n-C類(223),頁岩I-A類(213,216),頁岩で使用される頁岩とは異なり,石材的に下層との関連
I-B類(218),頁岩Ⅱ類(222+225,23+244,231+235),頁を見いだすことは出来ない。逆に507は頁岩I-A類を
岩Ⅲ類(239+240,229)が使用される。その他に台形石器素材とし,大型の側縁加工のナイフ形石器として形態
(204,206),大型の側縁加工のナイフ形石器(214,215,217),的にも石材的にも第Ⅱ文化層に位置づけられる。また,
国府型ナイフ形石器関連資料(207,210)がある。台形石515,516,518,519,520等の大型の石核はほとんどが頁岩Ⅱ
器204は黒曜石Ⅱ-B類で角錐状石器211,236と,台形石類である。全てがXⅡ層出土であったため,従来第Ⅲ文
器 2 0 6 は 黒 曜 石 Ⅱ - C 類 で 角 錐 状 石 器 2 2 3 と 同 一 母 岩 で 化 居 の 資 料 と して き た が , X Ⅱ 層 主 体 の 石 器 群 に こ の 石
ある。また大型の二側縁加工ナイフ形石器215は頁岩I材を利用するものがほとんど見られないこと,平面的に
-A類を素材とし,角錐状石器213,216と同一母岩である。重複する第Ⅱ文化層の角錐状石器関連資料と石材が共通
角錐状石器をみると,全般的に石材と形態がよく対応することなどから,頁岩Ⅱ類の大型石核については,改
する。黒曜石を素材とするものは比較的短身で寸胴なもめて第Ⅱ文化層に所属するものと評価しておきたい。
のが多く,頁岩を使用するものは逆に比較的細身で大型②第Ⅱ文化層第11エリア,第Ⅲ文化層第7エリア(第5図)
のものが多い。形態との関連で考えれば,黒曜石Ⅱ類が
第Ⅱ文化層第1lエリアは,黒曜石Ⅱ-A類と頁岩
角錐状石器Ⅱ類に,頁岩I類が角錐状石器Ⅲ類に,頁岩Ⅱ類を主体とする。285,286,287,288が黒曜石Ⅱ-A類,
Ⅱ類が角錐状石器I類におおむね対応する。289,290が頁岩Ⅱ類である。279は砂岩質の頁岩である。
エリア内には黒曜石Ⅱ類,頁岩Ⅱ類の調整剥片が豊283は珪質頁岩だが頁岩Ⅱ類とは別個体である。280は
富に残されており,活発な石器製作が行われたことを示斑状に白く風化する黒色の頁岩である。形態的に529と
唆する。一方で頁岩I類については調整剥片があまりみ類似し,第Ⅲ文化層に位置づけられる可能性もある。
ら れず, 石 器 製 作 の 痕 跡 は 希 薄 で あ る 。 黒 曜 石 Ⅱ 類 や 頁 角 錐 状 石 器 は 黒 曜 石 Ⅱ - A 類 を 素 材 と す る も の は 比 較
岩Ⅱ類における製作の途中で破断したと考えられる資料的短身で寸胴なものが多く,先端部が欠損しているも
(211,236、231+235,239+240等)は,このような状況を裏のが多い。これに対応するかのように先端部のみの破断
付 け る も の と 理 解 で き る 。 資 料 が み ら れ , 先 端 部 と の 接 合 資 料 も 観 察 さ れ る ( 接 合
第Ⅲ文化層第6エリアは,ほとんどが玉随チャーNo.87)。併せて285,287等は破断後に先端部に再加工を
卜のナイフ形石器で占められる。498は下層のXⅢ層加えており,破断後も加工が一定度継続していることを
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窺わせる。このことから黒曜石Ⅱ類の製品については,類の剥片類が多く観察され,活発な石器製作行為を示唆
石器生産だけでなく,維持管理行為も行われている可能する。330,333,336等は先端部に細かい加工が集中してい
性が高い。頁岩Ⅱ類の289,290については整形が十分でる。特に330は大きな剥離の後に先端部に細かい剥離が
なく,製作途上の資料と理解できる。観察できる。頁岩I類を素材とする335も先端部の一方
第Ⅲ文化層第7エリアは基部加工のナイフ形石器,小が挟られるかのように調整剥離が進行しており,左右対
型の角錐状石器からなる。チャート,玉随,珪質頁岩を称形よりも先端部の先鋭化を意識した印象を与える。第
主体とする。石器形態の面からも,石材利用の面からも,Ⅱ文化層第1lエリアと同様に,石器生産だけでなく石
下層の第Ⅱ文化層第1lエリアとはよく分離できる。器の維持管理行為を指摘できる一群である。
③第Ⅱ文化層第14エリア,第Ⅲ文化層第10エリア(第6図)第Ⅲ文化層第1Oエリアは玉随頁岩製のナイフ形石
第Ⅱ文化層第14エリアは,角錐状石器を主体とする器と頁岩I-B類を素材とする角錐状石器が含まれる。
石器群である。330.331,333,336は黒曜石Ⅱ-A類を,335頁岩I-B類を素材とする角錐状石器(556)はXⅢ層出
は頁岩I-A類を素材とする。やはり石材と形態との結土の角錐状石器と共通点が多<」第Ⅱ文化層に位置づけ
ぴつきが強く,黒曜石Ⅱ類が角錐状石器Ⅱ類と,頁岩Iられる。558は頁岩I-A類の石核であるが,第Ⅱ文化
類が角錐状石器Ⅲ類に対応する。エリア内には黒曜石Ⅱ層の製品群に関連するかどうかは判断できない。
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第8図城ヶ尾遺跡第Ⅱ文化層第16エリア,第Ⅲ文化層第12エリア出土石器及び石器出土状況
④第Ⅱ文化層第15エリア,第Ⅲ文化層第11エリア(第7図)曜石I類(360,358),黒曜石Ⅱ-A(350,352,356),黒曜石Ⅱ
第Ⅱ文化層第15エリアは,角錐状石器,台形石器,-C類(363),頁岩I-A類(353,354,355,357)がある。やは
小型ナイフ形石器,掻器が含まれる。このうち,小型り石材と形態の結びつきが強い。364は台形石器の範H壽
ナイフ形石器についてはほとんどがXⅡ層からの出土でで捉えられ,角錐状石器363と同一母岩である。頁岩I
あり,上層の第Ⅲ文化層第1lエリアの石器群と形態的-A類を素材とする角錐状石器のうち,354,355,357はほ
にも石材的にも共通点が多い。従って,まず最初にこれぼ同一母岩と判断できる。382,383,384はいずれも頁岩Ⅱ
らの小型ナイフ形石器については,上層の第Ⅲ文化層に類を素材とする石核(382,383)及びブランク(384)である。
位 置 づ け ら れ る べ き も の と 判 断 さ れ る 。 角 錐 状 石 器 は 黒 第 Ⅲ 文 化 層 第 1 l エ リ ア は 角 錐 状 石 器 は 組 成 さ れず,
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第9図城ケ尾遺跡第Ⅱ文化層第17エリア,第Ⅲ文化層第14エリア出土石器及び石器出土状況
小型のナイフ形石器だけで組成される。石材は頁岩を使できるが,素材となりうるような剥片は確認できず,製
用 す る も の が 多 い 。 品 自 体 は 遺 跡 外 か ら の 搬 入 品 と み ら れ る 。
⑤第Ⅱ文化層第16エリア,第Ⅲ文化層第12エリア(第8図)第Ⅲ文化層第12エリアは玉随を主体とする石器群で
第Ⅱ文化層第16エリアは,角錐状石器,国府型ナイ構成される。器種は判然としないが,隣接する第Ⅲ文化
フ形石器,台形石器を組成する。391,392,393は,XⅡ層層第13エリアの小型のナイフ形石器と同一母岩であり,
出土であり、石材や石器形態の共通性から,上位の第Ⅲこれらの関連資料と評価して良いようだ。
文化層に帰属させるべきものと判断される。角錐状石器⑥第Ⅱ文化層第17エリア,第Ⅲ文化層第14エリア(第9図)
は黒曜石Ⅱ-A類(406,408等)を主体とし,黒曜石Ⅱ-C第Ⅱ文化層第17エリアは黒曜石Ⅱ-A類を素材とする
類(397,407等)や黒曜石I類(400)を客体的に組成する。角錐状石器を主体とする。小型のナイフ形石器(423)は
先端部を欠損するものが多く,これに対応するかのよう上位の第Ⅲ文化層第14エリアの出土資料との関連から,
に先端部の破断資料が多く検出されている。黒曜石I類XⅢ層出土ながら第Ⅲ文化層に所属する可能性が高い。
を素材とする400や接合No.67は,先端部付近を大きく黒曜石Ⅱ-A類を素材とする角錐状石器は形態的には角
挟るような調整剥離の後,先端部付近に細かな剥離痕が錐状石器Ⅱ類に分類されるものが多い。特に接合No.59
観察される。404や接合資料No.64のような細身小型のは先端部からの調整剥離が極度に進行しており,この種
資料は,類例が少なく所属文化層の判断が困難だが,石の石器の最終形態を示す資料として注目される。
材 や 出 土 層 位 か ら 第 Ⅱ 文 化 層 所 に 属 す る も の と 考 えて お 第 Ⅲ 文 化 層 第 1 2 エ リ ア は 小 型 の ナ イ フ 形 石 器 台 形
きたい。この他に第Ⅱ文化層第16エリアを特徴づける石器,基部加工のナイフ形石器等で構成される。頁岩Ⅱ
ものとして,チャートを素材とする国府型ナイフ形石器類を素材とする大型の石核(624)が含まれるが,これは
群の存在を指摘できる。周囲に調整剥片等が散見され,他のエリア同様第Ⅱ文化層に位置づけられる可能性が
エリア内で何らかの調整加工を行っている可能性が想定高い。ナイフ形石器はいずれもチャートや硅質頁岩を素
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第10図城ヶ尾遺跡出土石器変遷図
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ただ,阿部が例示する資料には,阿部自らが指摘する
材とするが,XⅢ層の角錐状石器等に用いられる石材と
は異なるものである。小型の台形石器(595,596,597)が一
ように,素材利用の面からも,形態変遷の面からも素直
定割合組成される点はこのエリアの特徴である。
な連続性を認めることは出来ない。石器のリダクション・
平面的な位置が重複するエリアの石器群の検討か
ら,一部に評価の難しい石器が残るものの,角錐状石器
プロセスについて,より確かな結論を得るためには,同
一石材の,変形過程を追証しうる製品群を抽出して検討
を主体とする石器群と,小型のナイフ形石器を中心とす
を行う必要がある。「ブランクの整形から機能部の作出
る石器群が分離できることが示されると思う。
これらの結果は,平面的な重複が少ない第Ⅱ文化層第
を経て,ある一定の機能を充足できそうな状態に至って
3エリア,第4エリア,第7エリア,第8エリア,第9
エリア(玉随の資料は要検討),第Ⅲ文化層第13エリア,
尾遺跡の角錐状石器のある一群については,核心を突く
第15エリア,第16エリアの組成内容とも調和する。
石器に見られる形態的変異は,一概にそのようなリダク
ションのみで説明できるものではない。
指摘であるが,あとでみるように,城ヶ尾遺跡の角錐状
次に,第Ⅲ文化層とXI層主体の第Ⅳ文化層の関係を
みてみたい。第Ⅳ文化層は位
もなお整形が継続している」という阿部の指摘は,城ヶ
等型を含む細石刃核と小
また,阿部は石器形態に影響を与えるリダクションを,
型ナイフ形石器を中心組成とする。ナイフ形石器と細石
「側縁を狭めるタイプ」と「長軸方向を縮小するタイプ」
に整理する。前者は「仮に刺突具の生産を企図している
刃核の共伴関係については,慎重に評価する必要がある。
第Ⅳ文化層第4ブロックは,第Ⅲ文化層第14エリア
と重複しており,ナイフ形石器868,869は下層からの浮
のであれば,製作の過程としても捉えうる」ものとし,
き上がりの可能性が高い。黒曜石I類を素材とする細石
刃石器群が中心になるブロックと判断できる。
適用され(中略)殆どの場合が器体の再加工過程である
と予測される」とする。前者が製作工程の一部を取り込
第Ⅳ文化層第5ブロックについても,平面的に第Ⅲ
文化層第13エリアとの重複関係にある。ただし,ナイ
む場合があるのに対し,後者はより管理的性格の強い調
フ形石器のほとんどはXI層出土であり,第Ⅲ文化層第
13エリアが,本来はXI層を中心とする石器群である
ことも否定できない。細石刃石器群との関係は別にして
も,細身小型の小型ナイフ形石器群が第Ⅲ文化層のナイ
フ形石器群から分離できる可能性があり,従来と同様に
第Ⅳ文化層の石器群として取り扱っておきたい。
後者は「刃部の鈍磨や先端部の破損などの事態に応じて
整加工ということになる。
阿部はこの二つのリダクションについて,段階性を意
識しながらも明確な区分を避けている。確かにこれらは,
阿部が指摘するように,ある面では状況に応じて交互に
用いられるものに相違ないし,場合によっては不可分な
場合もあろう。しかし,多様な形態的変異が認められ,
ともすれば異なる機能が想定きれるような石器群を峻別
第Ⅳ文化層第1エリアは細石刃石器群とナイフ形石
する場合において,「一定の機能を充足しうる段階」に
器,角錐状石器を含む。下層からの浮き上がりが多く含
まれるものとみられる。
至る整形加工と,その後の管理的性格の強い調整加工を
第V文化層については第1エリアに細石刃石器群がま
とまってみられる他は散漫な出土状況であり,下層から
評価に全く異なる意味合いを与えるため,重要である。
の浮き上がり資料がかなり含まれるものと考えている。
する段階で検討しなくてはならない課題であった。報告
以上の検討の結果,再構成した各文化層の石器群の組
成は,おおむね第10図のようになる。
次に,城ケ尾遺跡の旧石器時代石器群を代表づける角
分けて評価することは,製品の形態的バリエーションの
そもそも,このような問題は,報告書に実資料を掲載
書に十分反映できなかった反省も含め,ここで石材別に
資料群を検討してみたい。
第11図には,素材の利用形態や形態的連続性を考慮
して,石材別に想定しうるリダクション・プロセスに沿っ
錐状石器について,検討を行いたい。
て,代表的な資料を示した。
4角錐状石器のリダクションと分類の問題について
黒曜石I類は2点の角錐状石器(358,360)があり,形
阿部は,城ケ尾遺跡の角錐状石器について,リダクショ
ンを考慮した評価を行った(阿部前掲)。阿部の主張は,
態的には角錐状石器Ⅱ類に分類される。これらは裏面の
ほぼ全面に腹面加工が施されており,素材の形状やリダ
角錐状石器の製作・再生に伴うリダクションが,角錐状
クション過程を窺い知ることは出来ない。また,第11
石器の最終形態に影響を与える重要な要素であることを
強調するものである。
図には示さなかったが,調整剥片が接合し極度にリダク
ションが進行した資料がある(接合No.67)。358,360から
角錐状石器の最終形態に,リダクシヨン・プロセスが
の連続性は認められないが,このような資料からリダク
作用するという阿部の指摘は重要であった。これまでの
ションによる変形過程を予測することは出来るだろう。
筆者らの分類にもそのような視点は欠けており,阿部の
黒曜石Ⅱ-A類は,本遺跡で最も多く使用されている
石材である。製作される角錐状石器はⅡ類が多く,数
指摘を考盧に入れた再検討が必要になる。
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態的には角錐状石器Ⅱ類に分類されるものもある。製品
の当初形態で60mm前後のものを志向し,238+244等
ち,主体を占める角錐状石器Ⅱ類はほとんどが横広の剥
の資料の存在から,リダクシヨンによって徐々に器長を
片を素材とする。素材剥片のサイズを推定可能な資料も
減じていくものと,当初から器長が60mm前後とやや器
少なくなく,当初形態で40mm前後の製品が主流である。
一方,角錐状石器I類は腹面加工のために,素材形状
長が短いもの(112,222+225)がある。両者が製作段階で
を窺い知ることが難しいが,最大長は60mm前後にな
意識的に分離されたものかどうかは判断できないが,素
材的な規制が少なからず影響していることは理解できる。
ものが多い。腹面加工や基部付近のプロポーションから,
287,52,172,219等がリダクシヨン過程を示す可能性があ
222+225等は先端部付近に細かな剥離が観察され,リダ
る。52は調整剥片と接合しており(接合No.56),阿部が
以上の検討から,リダクシヨンによって形態的に変
指摘するように,先端部付近へのリダクシヨンを示すも
のと判断したい。
化するものが少なくないことは確認できた。しかし,一
黒曜石Ⅱ-B類は,第Ⅱ文化層第10エリアに分布が集
中する。図示していないが角錐状石器I類を志向して破
長が40mm前後に収まるものが少なくなく,リダクシヨ
ンによる器長の変化を考慮してもなお,石材によって製
断した資料が含まれている。
作される製品形態には明確な差異が認められる。
クションによる形態変化を予測できる。
方で城ケ尾遺跡の角錐状石器の中には製作当初から最大
黒曜石Ⅱ-C類は,黒曜石石材の中では黒曜石Ⅱ-Aに
つぐ石材である。363のようなやや大ぶりの資料もある
結果として,城ヶ尾遺跡にみられる角錐状石器の形態
が,基本的には50のようなやや小型の資料が目立つ。
的バリエーションは,阿部が指摘するようなリダクショ
ン・プロセスのみで説明されるものではない。やはり当
製品はほとんどが横広の剥片を素材とし,形態的には角
初から指摘するように,素材の形状と石材に対応した石
錐状石器Ⅱ類に分類される。先端部付近にリダクシヨン
器製作技術の選択があり,それをベースにリダクシヨン・
プロセスを考盧するのが適当であると考えられる。
を受け,倭小化されて最終形態に至る製品が多い。
当初形態で最大長は60mm∼70mm程度になる。なお,
むしろ重要視すべきなのは,製品の形態や石材によっ
て,看取されるリダクションに位相差がある点である。
つまり,黒曜石Ⅱ-A類やⅡ-C類を素材とする角錐状
角錐状石器I類と角錐状石器Ⅲ類をつなぐ、ような資料は
石器では非常に顕著なリダクションを認めうる一方で,
みられず,本遺跡では両者はそれぞれ別のリダクシヨン
頁岩I類を素材とする角錐状石器I類には,ほとんど認
頁岩I類は,角錐状石器I類とⅢ類に利用されている。
リダクション過程を十分に復元することは出来ないが,
過程をたどるものと考えられる。
ることができない。頁岩Ⅱ類を素材とする角錐状石器I
頁岩Ⅱ類は大型の石核も散見され,特徴から在地系の
石材と判断できる。製品は角錐状石器I類が多いが,形
類には,ある程度のリダクションを示す証拠があり,角
錐状石器Ⅲ類についても左右非対称に整形された335な
­22­
I
4
"
Ⅷ
K3・Si
K3・Si
K3・Sh
鑿 鐘
⑱
… 崎 蝿
… 縛 鋤
鼠 墨 …
4
3
8
4
9
J
3
・
O
b
(
三
)
­
第13図帖地遺跡の角錐状石器関連資料
どの 存 在 か ら , 一 定 の リ ダク シ ョ ン を 想 定 し う る 。 ま た , 後 者 に つ いて も , 必 ず し も 目 的 が 槍 先 と しての
城ヶ尾遺跡の角錐状石器について,製作段階の整形剥刺突具に限られない可能性がある。先端部付近に観察さ
離を除き管理的性格の強いリダクションをまとめると,れる細かな剥離からは,むしろドリル的な使用を想定し
先端部の先鋭化を企図するものと,必ずしも先端部付近うるのであり,左右非対称の資料や倭小化した資料の存
の先鋭化を企図しないものに大別できる。前者は,角錐状在はこれを補強する。なお,石材によるリダクシヨンの
石器Ⅱ類の212,238等にみられるものであり,角錐状石位相差は,石材に対する管理意識の違いを反映するもの
器Ⅲ類にみられるリダクシヨンもこのタイプである。と考えられる。
一方,後者は角錐状石器I類の黒曜石Ⅱ-A類287や頁これらから,角錐状石器I類は槍先としての機能を色
岩Ⅱ類の238等においてみられる。また,あまり顕著で濃く残しながらも,リダクシヨンによって加工具に転用
はないが角錐状石器Ⅱ類の黒曜石Ⅱ-C類50などもこのされる場合があることが推察できる。角錐状石器Ⅱ類に
範 晴 で 理 解 で き る 。 つ い て は 加 工 具 と し て 性 格 が よ り 強 く 認 め ら れ , 角 錐 状
このようなリダクシヨンの差は,少なからず,リダク石器Ⅲ類についても,一部は加工具と評価できる。
シヨンが目的とする機能差に由来すると考えられる。先これらの推論は,現段階で使用痕などの検討を経たも
端部を丸める後者の調整は,明らかに刺突具の機能にはのではなく,また槍先としての機能を排除するものでも
そぐわない。むしろ,掻器的な機能を想定した加工と理ない。むしろ,加工具としての機能は型式設定の段階(西
解した方がよい。このことは,角錐状石器Ⅱ類やリダク川・杉野1959)より想定されていたものであり,一見し
シヨンが進行した角錐状石器I類の先端部付近に腹面かて多様な機能を備え,リダクションによってそれが推定
らの細かな剥離痕が観察される場合が多いこと,これらされる点は,阿部(前掲)も指摘しているところである。
の資料に先端部からの衝撃剥離(例えば御堂島1991)をむしろ,九州において槍先としての機能が想定されて
示 す 例 が ほ と ん ど な い こ と か ら も 示 唆 さ れ る 。 き た 一 群 に つ いて , 形 態 的 に 分 離 で き , さ ら に リ ダク シ ョ
­23­
鋼鐙
= 瓢 鯛臘
"職鐵職麹
糟
畷鞠薫 繍
蝿
報簿
報
露
鵬 劇患 麹劇 溌
・
鱗 鐵
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第14図小原野遺跡の角錐状石器関連資料
­24­
一
5
蜘
ンに位相差が認められ,加えて一部に加工具としての機
に近く,石核や大型の剥片,ナイフ形石器や角錐状石器
能や転用が想定される点で,注意を要するのである。
を豊富に組成し,原産地遺跡として評価できる。
5角錐状石器を含む石器群の位置づけについて
ナイフ形石器は報告者によって,主に二次加工部位に
よってⅢ類に分類されているが,素材剥片の形状や利用
これまでに,城ケ尾遺跡の石器群について,各文化層
石材を考盧すると,各石器群の特徴をより明確に抽出で
の石器群の構成を再検討するとともに,形態別にリダク
きる。報告者の分類とやや異なる点もあるので,各石器
群の代表的な資料を第14図に示しながら検討する。
ション・プロセスによる影響の評価を行った。
結果,角錐状石器石器群と小形ナイフ形石器群は層位
22,23,24,27は小型の一側辺または二側辺加工の小型ナ
的に分離され,角錐状石器石器群→小形ナイフ形石器群
への移行を確認できた。また,リダクション・プロセス
イフ形石器である。切出形の形状を意識したものが多
による影響を考盧してもなお,角錐状石器における石材
利用の点から抽出が可能である。117,118,116,110は小型
と形態の間には強い相関性が看取でき,さらに石材や形
台形石器であり,黒曜石Ⅲ類を主体とするものである。
109,112,115等の台形石器はチャートや黒曜石Ⅱ類,頁岩
く,珪質頁岩や黒曜石Ⅲ類を主体とする。形態や石材
態におけるリダクションの位相差から,角錐状石器の形
態間の機能的差異についても示唆できたと思う。
などを使用しており,製品のサイズや石材利用の観点か
ところで,このような変異はどのような背景によるも
のであろうか。最後に,これらの石器群を評価するため
ら,やはりこれらは分離することができる。
に,県内の同一時期の資料を踏まえながら,筆者なりの
型剥片を素材とするもので,基部と先端部に部分的な加
工が看取される。灰色の良質な頁岩を主体とする。
54,55,30,49,56.57,31等は連続的に剥離された縦長の小
考えを記しておきたい。
同じく40,1,3,39など,4段目から6段目に示した資料
は,縦長の剥片を素材とするナイフ形石器である。54,55
前原和田遺跡(鹿児島県立埋蔵文化財センター2000)
前原和田遺跡は鹿児島県曽於市福山町に所在し,城ヶ
尾遺跡に近接する。城ケ尾遺跡と同じXⅢ層段階で角錐
状石器とそれに関連する石器群がまとまって出土した。
等の灰色の頁岩を素材とする一群と比べてやや大きめの
資料が多く,黒曜石Ⅱ-A類を素材とするものが多い。
バリエーションも認められるが,基本的には連続剥離さ
石材は,城ヶ尾遺跡の頁岩Ⅱ類に対応する在地系の頁
れた縦長剥片を素材としており,基部付近を中心に側縁
岩が主体を占める。
に二次加工が施される。
角錐状石器とナイフ形石器が出土しており,ナイフ形
石器は両側縁に急角度の調整剥離が施され,基部には腹
面加工が観察される。製作技術から角錐状石器との近縁
同じく2,4,42,108等はさらに大型の資料であるが,や
はり縦長ないし素材を縦位に利用する点で共通の基盤に
性が窺われる(桑波田2003)。角錐状石器はI類(73,77,79)
とⅡ類(71,154)がみとめられる。ナイフ形石器は角錐状
属する石器群である。潤沢な石材供給を反映した原産地
石器Ⅲ類との関連も考えられるところである。
遺跡特有のバリエーションと理解できるかもしれない。
8段目はやや評価の難しい一群であるが,基本的には
帖地遺跡(喜入町教育委員会2000)
縦置きの素材利用であり,連続剥離された縦長剥片を素
摩半島中部の鹿児島県鹿児島市喜入町に所在する。
XⅡ層∼XⅧ層で合計4枚の文化層が確認された。
材とするナイフ形石器の最終形態を示す可能性がある。
角錐状石器関連資料では,XⅢ層から頁岩を素材とす
る資料がまとまって検出されている。資料実見の結果,
錐状石器である。このうち69,70,157,158はチャートを
68,69,70,157,158,128,130,136,125,122,124,131,127は角
素材とするものであり,黒曜石Ⅱ-A類を素材とする
68,122とあわせて,形態的に一括性の高い一群である。
ほとんどが白色に風化するシルト質頁岩で同一母岩であ
る。横剥ぎの剥片を素材とし,器厚が薄く,腹面加工が
68,69,70,158については,横長の剥片を素材とする点が
顕著に観察できるのがこの遺跡の資料の特徴である。資
料実見の際いくつかは接合し,製品の当初形態で最大長
が40mm前後のものが多い。特に3734+4357は3734の
特徴的であり,城ケ尾遺跡の角錐状石器Ⅱ類に対応する。
先端部にリダクションが看取できる資料が散見されるこ
とには注意を要する。154,142はやや薄手の剥片を素材
剥離後4357の先端部付近に複数の剥離痕が観察され,
とする周縁加工石器である。側縁に急角度の二次加工を
リダクションを繰り返しながら最終形態に至る過程を
施し,先端部方向からの調整が特徴的に看取できる。
小原野遺跡の角錐状石器は,最大長が40mm前後で
示す資料として注目される。角錐状石器に伴う石器群が
はっきりしないが,最大長が50mmを超えるような大
あり,城ケ尾遺跡に見られるような最大長が60mm前
型の資料が存在しない点は本遺跡の角錐状石器群の特徴
後の角錐状石器I類やⅢ類を含まない。また,素材は例
を示す点として評価できる。
外はあるものの,基本的には横広の剥片を利用している。
小原野遺跡(大口市教育委員会2000)
石材供給が潤沢な原産地遺跡において大型の資料が見
られない点は重要であり,南九州の角錐状石器の地域的
鹿児島県大口市に所在する。日東などの黒曜石原産地
­25­
な特徴を示すものか,あるいは大型の刺突具を組成しな
い時期的な特徴と理解できる。
小原野遺跡を特徴づけるのは,角錐状石器と連続剥離
された縦長剥片を素材とするナイフ形石器である。宮田
たいo
併せて,南九州における角錐状石器I類の減少と角錐
状石器Ⅱ類の盛行は,当該地域における生業相の特徴と
それに適応する石器群の動態を反映している可能性があ
栄二は,基部と先端部に加工を施し,全体形を木葉形に
る。松本茂は,南九州の角錐状石器を含む石器群から小
仕上げる一群を「小原野型尖頭器」と呼び,終末期の小
型ナイフ形石器が盛行する段階を「大型利器需要低減説」
とそれに続く「選択石材影響説」として構造的な評価を
形ナイフ形石器群の前段階に位置づけた(宮田2005)。
これらの縦長剥片を素材とするナイフ形石器は,基部
に調整を施すのが基本であるが,素材の形状によっては,
側縁全体や先端部付近に加工を施す場合もある。基部加
工を基本としながらも,素材の形状等に応じて柔軟な二
与えた(松本2005)。城ヶ尾遺跡などにみられる角錐状
石器の諸相は,そのような角錐状石器盛行期→小形ナイ
フ形石器への構造的変化を既に内包するものと評価でき
る。角錐状石器の系譜や変遷関連する石器群との関係,
次加工を施している。
角錐状石器の使用痕に基づく機能推定,地域的特徴の抽
縦長剥片を連続的に剥離する技術は,同遺跡で報告さ
れている円錐形の石核の(例えば271,272等)存在によって,あ
出等を再度踏まえたより詳細な検討が必要になるが,こ
れらについては機会を改めて論じることにしたい。
る程度確立された技術基盤に則ったものと評価できる。
横剥ぎの剥片を素材とする角錐状石器の素材生産技術と,
最後になりましたが,宮田栄二・桑波田武志氏はじめ,
縦長剥片を連続的に剥離するナイフ形石器の製作技術の
違いは極めてはっきりしており,両石器群は少なくとも
阿部敬,松本茂,藤木聡,立神勇志の各氏には貴重なご
技術的には明確に分離できる。
意見を頂きました。また,資料実見に際し鹿児島市教育
委員会,大口市教育委員会の担当者の方々には大変お世
話になりました。末文ながら,記して御礼申し上げま爽
6まとめ
城ケ尾遺跡の石器群の再検討によって,第Ⅱ文化層→
【引用・参考文献】※報告書は紙数の都合上割愛した。
第Ⅲ文化層において角錐状石器を含む石器群→小型ナイ
フ形石器を含む石器群への移行が層位的に確認できた。
阿部敬2005「!'剥片尖頭器'1はなぜ消えたか?」「物
質文化』79
岩谷史記1997「九州尖頭器石器群の中にみる三稜尖
角錐状石器については,リダクションによる形態変
頭器の編年的位置」「九州旧石器』3号
異の影響を評価してもなお,石材と形態には強い相関
織笠昭1987「角錐状石器の形態と技術」「東海史学』
関係が看取され,また,先端部付近にみられる剥離痕の
特徴やリダクションの評価,先端部の破断方向の傾向か
桑波田武志2003「鹿児島県におけるナイフ形石器文
ら,一部には槍先としての機能に加えて加工・調整具と
化後半期の研究」「縄文の森から』
しての機能を色濃く推定できる。同様の要素は帖地遺跡
創刊号
橘昌信1975「宮崎県船野遺跡における細石器文化」
2
や小原野遺跡の角錐状石器にも見出すことができ,少な
『史学論叢」3
くとも南九州では,一定の傾向として捉えられる。
また,城ケ尾遺跡第Ⅱ文化層→第Ⅲ文化層にみられる
西川宏・杉野文-1959「岡山県玉野市宮田山西地点
石器群の変化は,同時に素材の横位利用→縦位利用への
変化と換言できる。石核形態の違いはさておき,連続剥
萩原博文1994「九州における角錐状石器の編年と地
離した縦長剥片に部分的な加工を施す小原野遺跡のナイ
フ形石器の一群は,縦長剥片の連続剥離と素材の縦位利
馬籠亮道・長野眞一2004「角錐状石器の製作技術に
ついて」「九州旧石器」8
用,基部を含む部分加工という点で,東九州においてナ
イフ形石器文化終末期に位置づけられる基部・先端部加
馬籠亮道2005「鹿児島県における東九州自動車道関
の石器」「古代吉備」3
域的特徴」『古代文化」46­9
連遺跡の調査成果」『九州旧石器』9
松田清孝2003「小丸川流域産石器石材の同定」「宮
工のナイフ形石器との技術的関連性を指摘できる。双方
崎県総合博物館研究紀要」25
に類似する資料は城ヶ尾遺跡第Ⅲ文化層にも散見される
ことから,小原野遺跡の石器群は城ヶ尾遺跡第Ⅱ文化層→
松本茂2005「九州地方の!'ナイフ形石器文化終末期
第Ⅲ文化層にみられる素材利用の変化をつなぐ位置に評
価できるだろう。現段階では地域的な特徴を反映したも
のである可能性は捨てきれないものの,小原野遺跡にお
御堂島正1991「石錐と有舌尖頭器の衝撃剥離」『古代』
とその前後」『石器文化研究」12
9
2
宮田栄二2005「鹿児島の¦日石器時代」「黒潮を渡った
旧石器時代の人びと」講演会資料
ける角錐状石器I類の不在もこれを補強する要素と考え
られる。以上から,角錐状石器→縦長剥片を素材とする
ナイフ形石器→小型ナイフ形石器への変遷を考えておき
-26-
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