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放射光を用いた Deep X-ray Lithography とその応用

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放射光を用いた Deep X-ray Lithography とその応用
放射光を用いた Deep X-ray Lithography とその応用
近接場光応用工学研究センター
粟 津
浩 一
本研究は早稲田大学 理工学研究科 電気・情報生命専攻 大木義路研究室の修士課程の皆さんと行いました。
粟津 浩一
産業技術総合研究所
藤巻 真
産業技術総合研究所
崔 明秀(H13~14)
栗山 育飛 (H15~ )
東芝研究開発センター
早稲田大学理工学研究科
近接場光応用光学研究センター 近接場光応用光学研究センター
モバイル通信ラボラトリー
電気・情報生命工学専攻
■はじめに■
■放射光を用いたナノインプリントとは■
昨年 12 月にITRS(International Technology Roadmap for
電子ビーム描画でレジストを露光した場合、アスペク
Semiconductor)に初めて、imprint lithographyという言葉
ト比を高くすることは難しい。これに対してシンクロト
が載った。2014 年にはDRAMのハーフピッチが 32nmに
ロン放射光(SR 光)を光源に用いれば、高い指向性と低
達することが予測され、これに対応できる手法として取
い光散乱から高アスペクト比が期待できる。本リソグラ
り上げられた。これまでも、ナノインプリントはMEMS
フ ィ ー の 日 本 語 訳 は な い が 、 Deep X-ray
や金型成型によるレンズの作製などで細々と研究され
Lithography(DXL)という用語が英語ではしばしば使わ
てきたのだが、このことにより一気に本流の技術になる
れるので以後 DXL と呼ぶことにする。Fig.1(a)は産総研
可能性が出てきた。
なぜかというとリソグラフィーの手
で所有する 750MeV の SR 光施設 TERAS の写真である。
法として、ArFエキシマレーザ、F2レーザに続く光源と
写真下方より接線方向に伸びるビームラインは放射線
してEUVが有望視されているが、そのさらに先の技術
防御用の厚さ 1m の壁を抜けてクリーンルーム内へと
をそろそろ検討すべき時期になってきたということで
導かれる。Fig.1(b)はクリーンルーム内に設置された照
あろう。ナノインプリントには幾つもの手法が提案され
射ステージである。SR 光リング室(Fig.1(a))までは超高
ているが、一番実用化に近いのは、電子ビーム描画によ
真空、前室はターボ分子ポンプで排気している。前室最
り高精度な「鋳型」を形成し、それをスタンプにしてリ
下流は 50 ミクロン厚のベリリウム膜になっており、こ
ソグラフィーを行うというものである。
電子ビーム描画
れよりも下流側は大気圧となっており、
ヘリウムを流し
法はスループットに問題があるとされてきたが、「鋳
て照射を行う。Fig.1(b)の右側に見えているのは後述す
型」作製のためであればさほど問題にはならない。また、
る三次元加工を行うためのゴニオメーターである。三次
現在のステッパーのように高価な装置にはならないと
元照射の場合もベリリウム隔膜と試料台の間はヘリウ
いうことも魅力的である。
ムにて置換を行う。
真空中で行わないのは操作が簡単に
我々は高アスペクト比のナノインプリント技術開発
なることだけではなく、照射中にチャンバー内の不純物
を 行 っ て い る 。 将 来 像 と し て は 、 AWG(Arrayed
が照射表面に付着することを防ぐことができるためで
Waveguide Gratings)やフォトニック結晶、フレネルレン
ある。Fig.2 は TERAS より発生する SR 光の光子エネル
ズといった光学部品や多孔質触媒、バイオセンサー、
ギーと放射強度(輝度)の関係を示したものである。
DNA チップ、マイクロ流路、µ-TAS をスタンプで作製
SR 光の特徴は遠赤外線~可視~紫外~真空紫外~X 線
することを目標としている。また、これまでセラミック
領域と幅広い波長領域の光が発生することである。
スやガラスを微細加工する技術は半導体に比べて遅れ
Fig.2 は 100eV~10keV 領域の放射強度を示している。SR
ていたが、本技術を用いることにより可能となる。
光そのものの輝度を黒の実線で示した。これに対して、
我々のビームラインには、
ベリリウムの窓とヘリウム置
換槽がある。
これらを通ると放射強度はどのようになる
ように微細加工の技術がナノオーダーに達しているの
かも Fig.2 に示した。まず、50 ミクロン厚さのベリリウ
もかかわらず、大きなパターンの研究開発から脱却でき
ム隔壁とヘリウム置換槽(光路長 10cm)を通過したあ
なかったのは、セラミックスや金属をサブミクロンオー
との放射強度は緑の点線に、またベリリウム隔壁が 100
ダー以下で充填する技術がなかったことに起因する。
産
ミクロンな場合は赤の点線のようになり、放射強度は著
総研では、セラミックスでは早稲田大学大木義路教授と、
しく減少する。しかしながら、DXL の場合、結果的に
また金属では㈱オプトニクス精密と共同でサブミクロ
はこのような放射強度分布はむしろ望ましいといえる。
ン以下のパターンに関しても緻密に充填する技術を開
まず、2keV よりも低エネルギーの光の場合、高分子中
発した。ここでは、その一部に関して紹介する。
を光が透過する際に光散乱が大きくなり、加工の精度が
低下すると考えられる。また、逆に 4keV 以上の高エネ
ルギーの光の場合、高分子中で二次電子が発生し、やは
■X 線マスクについて■
X 線マスクの基本構造を Fig.3(a)に示した。窒化シリ
り加工の精度が低下すると考えられている。具体的には、
コン膜は X 線を良好に透過するためにメンブレンとし
基板に高分子が“焼きついた”状態になってしまうこと
て利用する。この上に X 線の透過率の低い金属(Ta, Au
を経験する。従って、750MeV の SR 光施設の場合、50
など)でパターンを描く。2 ミクロンの窒化シリコン膜
ミクロンのベリリウム隔壁と 10cm の He 置換槽の組み
と 1 ミクロンのタンタルパターンを基本に設計を行っ
合わせをベストな条件と考えて採用した。
た。Fig.3(b)に放射強度の変化(計算値)を示した。黒
DXL 後から金型を形成する方法は 80 年代初期にドイ
の実線で示したのは、50 ミクロンのベリリウム隔壁透
ツのカールスルーエ原子力研究所で提案され、
過後の放射強度を示している。これに対して 2 ミクロン
LIGA(LIthographie Galvanoformung und Abformung) と呼
の窒化シリコン膜透過後は緑の点線、2 ミクロンの窒化
ばれてきた。このプロセスの基本は、金型を高分子体に
シリコン膜+1 ミクロンのタンタルパターン透過後は
押し付ける、いわゆるエンボス加工を行い、この高分子
赤の点線となる。この赤と緑の点線の差が、X 線マスク
金型を使い捨てにしてこのなかにスラリーや微粒子状
のコントラストとなる。
のセラミックスを充填して焼き固めるというものであ
る。以後今日まで LIGA のほとんどは数十ミクロン~ミ
■高分子厚膜の加工■
リメートルオーダーのパターンでアスペクト比が数~
高分子としては、電子ビーム描画用のレジストが各
100 という形状であった。電子ビーム描画に代表される
社より販売されている。我々は、東京応化工業製の
避も困難であるので好ましくない。我々は液相析出法
9
6×10
-2
Brightness (sec mA mrad 0.1%bw)
しく変化してしまう。収縮過程でのクラックの発生の回
9
7×10
TERASからの放射強度分布
9
5×10
6Å~3 Å
放射光利用に最適領域
-1
-1
9
4×10
3×10
低エネルギーによる
散乱のため不適切
9
9
2×10
50micron Be
9
1×10
0
1000
を細管に充填する方法として成功した。LPD 法のメカ
ニズムはまだ不明の部分もあるが、以下のように考えら
高エネルギーに
よる二次電子の
発生のため不適切
100micron Be
100
(Liquid Phase Deposition)を用いることで、セラミックス
4
10
Energy (eV)
Fig.2 TERASより発生する放射光とBe窓通過後の
光強度分布
れている。化学平衡状態にあるチタンの飽和溶液を用意
する。
TiOSO4 + H2O ⇔
TiO2 + H2SO4
*
ここに平衡をずらす作用を持つ硼酸や尿素を添加する
ことにより*の化学平衡は右にずれる。
しかし尿素添加
から二酸化チタン(TiO2)の析出が始まるまでに数時間
OEBR-1000、日本ゼオン製の ZEP シリーズ、またその
の遅れがあるために、実際には毛細管現象で高分子「鋳
他開発段階のレジストなど 6 種類程度を用いて比較研
型」の細管に過飽和溶液が十分に入り込んだ後で析出が
究を行った。それぞれ、一長一短があるために用途に応
開始する。これが、細管形状に忠実に析出が起こるメカ
じて使い分けている。また、表面の改質も不可欠であり
ニズムであろうと考えている。高分子「鋳型」形状に忠
研究開始から3年経過し著しく技術を向上でき、我々の
実に二酸化チタンが充填されていることはFig.6 のSEM
レシピ通りにすれば誰でもここで紹介している写真程
像でも明らかである。次に高分子鋳型を選択的に除去し、
度のものであれば作製可能である。
二酸化チタンのみを残したものがFig.7 である。X線回
折(XRD) による解析の結果得られた二酸化チタンの構
■二次元加工■
造はアナターゼ相と同定され、また屈折率 2.5 が得られ
まずは二次元加工について説明する。Fig.3 (a)のマス
ておりアナターゼ相の屈折率の文献値と一致すること
クを高分子厚膜上に載せて密着露光させる。Fig.4 にそ
から膜はSEM像のみでなく屈折率の観点からも緻密で
のポンチ絵を載せた。このためのジグや露光技術に関し
あると判断された。
さらにこの試料を高温で焼成するこ
ても工夫が必要となる。その後、現像を行うことで Fig.5
とによりもう一つの多形であるルチル相に相転移でき
のような高分子「鋳型」が形成できる。ここでは、X 線
ることもXRDにより確認された。この焼成後の膜の屈
マスクのパターンを忠実に再現した、直径 640nm の穴
折率は 2.65 となり、ルチル相の屈折率の文献値 2.7 に近
が確認でき、
また断面観察のために高分子試料を割ると、
い値が得られた。
基板(この場合シリコン)まで直線性よく貫通している
ことがわかる。側面も滑らかであり、これが DXL の特
徴といえる。
■三次元加工■
三次元構造体作製用の装置の写真と原理を Fig.8 に示
次にこの高分子「鋳型」にセラミックスを充填する。
した。放射光に対して 35°~55°の間で傾斜がつけられ
このような細管に充填する方法は限定されており、一般
るゴニオメータである。45°でマスクパターンが四角形
的な製膜方法である CVD やスパッタでは達成できない。
であればゴニオメータを 120°回転させて三回照射す
アスペクト比の高い細部へ粉体を充填するには、粉のま
ることによりジャングルジムの形状のネガ型の鋳型と
まではなく良質な顆粒にする方法がある。しかし、サブ
なる。二次元構造体を作製したときと同じ X 線マスク
ミクロンを均質に充填するには例えば 50nm 程度の顆
を用いて、ゴニオメータを 35°傾けて三回照射を行な
粒を形成し、
かつ滑りよく深部にまで到達しなくてはな
い得られた三次元高分子「鋳型」を Fig.9 に示した。一
らない。これは、現在の粉体工学での達成は極めて困難
箇所から三方向に直径 400nm の孔が開いていることが
である。これまでもゾルゲル法での充填が試みられたが、
確認できる。この「鋳型」に二次元のときと同様の手法
あまりきれいに充填できない上に出来上がる構造体は
で LPD 法を用いて二酸化チタンを析出させ、高分子の
多孔質ゲルであるために、
焼結プロセスが不可欠となる。
みを選択的に除去すると Fig.10 のような三次元の二酸
乾燥・焼結工程が入ることで収縮が起こり、サイズが著
化チタンの構造を得ることに成功した。
9
1×10
1µm Ta
2µm silicon nitride
8×10
20mm
6×10
50µm Be
8
8
2mm
50µm Be + 2µm SiN
8
4×10
50µm Be + 2µm SiN
+ 1µm Ta
8
2×10
X-ray mask (top view)
silicon wafer
(side view)
Fig.3(a) X線マスクの構造
■サブミクロン精度電鋳■
0
0
2000
4
4000 6000 8000 1×10
photon energy (eV)
Fig.3(b) Be窓, SiNメンブレン, Taマスク透過後の
放射光強度
「集積・大規模並列化可能」「低コスト」
「実装容易」で
電鋳(Electroforming)を行う場合は基板と高分子厚膜
あって、「温度特性」「量産性」「信頼性」「光ファイバ
の間に電極が必要となる。メッキ(Electroplating)の場合
ーや他の機器との多段接続性」に優れていることなどが
は基板表面を装飾する目的のため、基板から剥ぐという
上げられる。
工程はないが、電鋳の場合は剥ぐという工程が入るため
今回、
フォトニック結晶構造を形成した二酸化チタン
より高度な技術が必要となる。Fig.5 左側に示したよう
は、シリコン等の半導体に比べて光通信波長帯での光透
なサブミクロンサイズで高アスペクト比の鋳型に忠実
過率が高く、
かつその屈折率が光ファイバーの屈折率と
な電鋳を行う場合、電鋳、表面改質などに高度な工夫が
近いため、ファイバーとの整合性に優れている。すなわ
必要となる。金を電鋳後、高分子除去を行うと Fig.11
ちデバイスへの入出力ロスが大幅に低減できるため次
のような金型が出来上がる。電鋳量が少なければ鋳型の
世代フォトニックネットワーク用光デバイス開発にと
穴の途中で止まってしまうし、多すぎると高分子体の表
って重要な素材である。また半導体に比べて熱膨張係数
面にキノコ状に金が溢れてしまうので、
最適条件を見つ
が低いため温度管理も楽になる。本製作技術によって、
けるまでにはさらに労力を要する。
フォトニック結晶の光透過率の向上、光ファイバーとの
接合損の軽減、そして温度管理負担の軽減が実現されれ
■波及効果■
ば省エネ効果も期待できる。さらに、プロセスにドライ
1. 半導体分野
エッチング工程がないので低環境負荷であることや、
鋳
先にも紹介したとおり、ITRS2004 にF2レーザリソグ
型成型法であるために低コストで製作が可能なことな
ラ フ ィ ー の 次 の リ ソ グ ラ フ ィ ー と し て imprint
どの利点も有しており、今後、注目される作製技術であ
lithographyが候補に初めて挙がった。これまで、光源の
ると言える。
短波長化により集積度を上げて来た歴史からすると大
3. バイオ分野
きな変化といえる。また、同時にEPL(Electron Projection
10 年前にヒトゲノムの解析研究が開始された当初に
Lithography)も候補として挙げられている。EPLが成功
比べてシークエンシング終了期限は大幅に短縮された。
するか否かは安価で精密なstencil maskが作れるかどう
これは、キャピラリーアレイ電気泳動の DNA シークエ
かにかかっている。DXLと精密電鋳技術は有力なstencil
ンサーの出現によりゲノム解析が急進したことによる
mask作製技術であるとも言える。
といえる。ゲノムシークエンシング終了が目前に迫った
2. 情報・通信分野
今日、ポストゲノムシークエンシングの課題として、ゲ
次世代フォトニックネットワークに不可欠な光デバ
ノム創薬、オーダーメイド医療、個人ゲノムが注目を集
イスの素材となるフォトニック結晶は、
一般にはシリコ
めている。特に、1 塩基多型解析(SNP)は欧米をはじめ
ン等の半導体をベースに研究が進められている。次世代
日本でも、1999 年以来 5 省庁横断国家プロジェクトと
フォトニックネットワーク用光デバイスに求められる
なっている。20 年で 6 桁多い塩基対のシークエンシン
仕様としては、「超小型」「低消費電力(低挿入損失)
」
グの達成が望まれている。
解析手法のうち最近最も注目
されているのがマイクロチップ電気泳動であり、基本原
取ることができる。
この微小試料を溝内に充填されたゲ
理は、以下のとおりである。まず、十文字に彫った数十
ル中を電気泳動させることによって、サイズごとに分離
ミクロンの幅の溝にゲルと緩衝液を充填して、
電場をか
することが可能となり、サイズごとに分かれたサンプル
ける。次に直交する方向に溝に電場をかけることで、直
のバンドを蛍光もしくは紫外光で検出するという方法
交部分の微小体積の試料を正確にかつ再現性よく切り
である。
現在、
溝はウエットエッチングまたはドライエッチン
として LIGA が注目されている。さらにゲルに換わるナ
グにより形成されたものが用いられているが、
前者は流
ノ分離担体を作製することが望まれている。現在ではメ
路断面が楕円形に、後者は断面が極めて粗いことが、電
チルセルロースのようなポリマー溶液を用いてポリマ
気泳動の再現性や蛍光もしくは紫外光で検出するとき
ー同士の絡み構造を作製し、孔を形成させる。DNA は
の精度に大きく影響してきている。また、1 枚あたり数
ポリマー溶液中を泳動する間にゲルと同様の分子ふる
万円であるため、ウイルス等を扱うことを考えるとディ
い効果により分離が達成される。10~80 ナノメートル
スポーザブルが望ましい。さらに、半導体集積回路と同
程度のサイズの構造体を作製できればゲルやポリマー
様、より多くの試料をより早く分離・分析するには、溝
溶液を用いなくとも簡便にそして高速で DNA 解析をチ
の更なる微小化を進める必要があるが、この時、溝の深
ップ上で行うことができる。高アスペクト比の流路に高
さが浅くなってしまうことは、蛍光もしくは紫外光で検
アスペクト比のピラーアレイが形成できれば、
高精度な
出するときの分析感度を下げてしまうので好ましくな
塩基対の分離が可能となる。特に 100nm 程度のピッチ
い。以上をまとめると、流路の微細化、高アスペクト比
を持つピラーアレイの形成によって 4 乗オーダーの塩
化、流路の平滑性の向上、ディスポーザブル化が望まれ
基対の分離が可能となるので、今後の発展が興味深い。
ていることがわかる。これら、全てを満足する製造技術
■今後の課題■
ンビームの利用が提案されている。クラスターイオンビ
DXL を用いたナノインプリントでのネックは x 線マ
ームはクラスターがダイアモンド表面で炸裂し、表面を
スクをいかに安価にかつ精密に作製できるかにかかっ
走ることにより平滑化させる技術である。将来的にはダ
ている。x線露光の解像度は波長λ×マスクとウエハー
イアモンド開発は目覚しい勢いで進んでおり、
通常の膜
のギャップgの 1/2乗で表せる。従って、単純には解
形成技術により平滑表面を有する膜を作製できると考
像度の向上には短波長化が有効であるといえる。しかし、
えられている。
前述のとおり短波長x線はエネルギーが大きいために
レジスト剤に対してもさらなる研究開発が必要であ
レジストや基板の原子に衝突して出てくる二次電子の
る。ただ、半導体リソグラフィー用の材料の延長線上に
量が増え光学像がぼやける
(解像度の悪化)ことになる。
あるか、全く別の発想で開発されるのかまだ明確にはな
このため、一般の放射光の教科書や総説には波長 7-8 オ
っていないのが現状である。現在はPMMA, エポキシ樹
ングストロームが最適であると書かれている。
しかし最
脂が用いられているがこれはi, g線~KrFレーザ~ArFレ
近ではこの定説を見直し、
二次電子の影響を最小限にで
ーザ~F2レーザの流れとは全く異なった発想といえる。
きるレジストの開発により、広い波長域を有効に活用さ
厚膜、金属あるいはセラミックスを充填した後、剥離し
せることが提案されている。また広い波長域の活用によ
やすいもの、逆にしにくいもの、現像液(アルカリ)耐
り露光時間の大幅な短縮を目指すことも必要である。
さ
性向上、高感度化といった特徴あるレジストが求められ
らにマスク形成材料を抜本的に見直すことにより、高い
ている。ただ、これらの物性は相反するものであり全て
透過率を持つメンブレンを有するマスクを作製する。
現
の同時達成は困難である。例えば、PMMAでは低感度
在、x線のマスクの価格は面積、パターンの精度、パタ
であるが剥離は容易であるというのが特徴である。
ーンのサイズ、パターンのアスペクト比から決定されて
PMMAに感光剤、PAG(Photo Acid Generator)の導入によ
いる。
メンブレン部分とマスク部分のコントラストをつ
る高感度化も期待できる。逆に、ハンドリングの観点か
けるには、高アスペクト比パターンになってしまうので、
らは、低感度のものが扱いやすい。エポキシ系はアルカ
高価格になる。低アスペクト比のマスクパターンで高透
リ不溶で剥離困難であるが強い膜であるという特徴が
過率のメンブレンを用いることで露光時のコントラス
ある。高密度化(緻密化)による現像液耐性の向上も望
トが良好につく。従って、高精度な露光パターンの形成
まれる。
が可能となるばかりでなく、深い加工が短時間で達成で
きる。
■産総研Deep X-ray Lithography Laboratory(DXL2)■
また、フォトリソグラフィーの常套手段である位相シ
産総研つくば中央第二事業所内にシンクロトロン放
フト法を導入し、さらに縮小投影を行う。この時の集光
射光施設(TERAS)がある。この実験室の一つは簡易型の
ミラーは炭化珪素(SiC)や白金(Pt)でコーティングした
クリーンルームとなっており、1980 年代に旧電子技術
ものでなく、ルテニウム(Ru)やロジウム(Rh)に変更して
総合研究所 電子デバイス部で 0.25 ミクロンのライン&
短波長に対する反射率を高める。x線露光において、常
スペースを達成している。現在ではここでDeep X-ray
に議論されるのが価格の問題である。しかし、ASET で
Lithographyを行うことが可能となっている。この実験室
は、x線露光に要する費用は KrF エキシマレーザーリ
をDXL2と呼んでおりドラフトチャンバー、化学実験台、
ソグラフィーよりも高いが、ArF エキシマレーザーリソ
光学顕微鏡、超純水製造装置の他にFig.1(b)で紹介した
グラフィーよりも安価であるとの試算を出している。
メ
ような三次元ゴニオメーターを設置している。また
ンブレンとして SiN, SiC が今日、広く用いられている
DXL2の特記すべきもう一つの特徴は、大面積照射が可
が、ダイアモンドに置き換えることにより著しく透過率
能であることである。最近の放射光の装置系研究者の関
が増大する。
これはシリコン原子による吸収がなくなる
心は高エミッタンス化にあったため、国内の他の施設の
ためである。特に短波長(高エネルギー)領域で顕著で
照射面積は数平方ミリ程度であるのに対して、DXL2で
ある。ただし、これまで通常に手に入るダイアモンド膜
は現状縦横 1cm×2cmの照射が可能である。このサイズ
はアモルファスでないため、結晶構造を反映し平滑でな
はビームラインのダクトサイズとベリリウムの隔壁の
かった。表面平滑化の一つの手法としてクラスターイオ
サイズで決まっており、大面積の隔壁に置換することで
縦サイズは 1cm程度と変わらないが横方向 10cm程度ま
で大面積化が可能である。現在、ナノインプリント用の
金型形成やイオンビームリソグラフィー用のマスクの
作製を目的とした高分子鋳型の作製を行っている。今後
ビジネスモデルの明確なテーマやサイエンスとして深
みのあるテーマに関しては、これまで蓄積した我々の微
細加工技術のノウハウを積極的に開示しつつ、
このビー
ムラインを広く開放していく予定である。まずは、ご連
絡いただければ相談に応じたいと考えている。
本研究は、原子力委員会の評価に基づき、文部科学省
の原子力試験研究費により実施されたものである。
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