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ターゲットマイク技術
スポーツ中継向け「ターゲットマイク技術」を開発 — 歓声に埋もれたスポーツの競技音をクリアに抽出.NHKとの実証実験を実施 NTTは,観客の歓声に埋もれているスポーツの競技 す.一方で,「音声」においては,スポーツの競技音は 音(例:サッカーのキック音)をクリアに抽出する音声 ガンマイク等で収音していますが,観客の歓声に埋もれ 処理ソフトウェア技術「ターゲットマイク技術」を開発 て,視聴者が聞きたい臨場感あふれる競技音を届けるこ しました. とが困難でした.しかし,今回NTTが開発したターゲッ 今回,NTTは,日本放送協会(NHK)と共同で,2014 トマイク技術により,これまで以上にスポーツのダイ 年 ₇ 月以降,実際のスポーツ大会などの実フィールドに ナミックな競技音を視聴者に届けることが可能になり おいて,ターゲットマイク技術を用いた競技音抽出実験 ます. を実施しました.具体的には,「サッカーのキック音, ■今後の予定 選手の叫び声」「相撲の力士の張り手,ぶつかり合う音, NTTでは,NTTのグループ会社を通じて, 1 年以内 行司の声」「ゴルフのショット音,落下音」「野球の打撃 の実用化を目指します.さらに,2020年までには,さま 音」を抽出し,競技音を10〜30 dB(10〜1000倍)強調し, ざまなパートナーとのコラボレーションを通じ,スポー より臨場感のあるダイナミックな音の出力が可能になる ツ観戦において,より臨場感ある競技音の体験を世界中 ことを実証しました. の人々に提供できるよう取り組んでいきます. 現在,スポーツ中継では,「映像」はカメラのズーム NTTでは,今後も,目的音の抽出性能やの音質のさ によってねらった場所を高精細に撮影することが可能で らなる向上を目指した技術改良を図っていきます.ま 2014年 9 月に発表した技術を改良し,スポーツの競技音の収音用に. 空間情報に加え,音源の特性(立ち上がりの鋭さ)をうまく利用することで, 100 dB程度の高騒音下でも目的音(例:キック音)の収音が可能になった. 前回発表した時点の技術 (空間情報を利用した分離) 応援 今回の技術改良 (音源の立ち上がりの鋭さを利用した分離) 応援 応援 応援 キック音 応援 キック音 ターゲットマイク技術 キック音 さまざまな音が混合 応援 振幅 振幅 応援 周波数 雑音が抑圧されて, キック音を強調 周波数 ※ソフトウェア技術なので,従来のガンマイクもそのまま並列で使用可能 図 ターゲットマイク技術 NTT技術ジャーナル 2015.5 65 た,他のスポーツも含めた実証実験をNHKと共同で実 術を単に適用しただけでは,キック音等をクリアに抽出 施し,技術の性能検証を進めていきます. することが困難でした. ■ターゲットマイク技術の詳細 そこで,今回開発したターゲットマイク技術では,例 これまで,遠くの音をピンポイントで抽出する技術と えば,キック音であれば,立ち上がりの鋭いという音源 して,2014年 4 月にNTTが報道発表をした「ズームアッ そのものの性質をうまく利用し,空間情報だけでは取り (1) プマイク技術」 があります.ズームアップマイク技術 除けなかった雑音(歓声や応援)と目的音(キック音) では,複数のパラボラ反射板と約100個のマイクロホン を区別するための処理を追加しました.音の空間情報と で構成された受音系を用いることで,非常に鋭い指向性 音源の時間的性質の双方を活用することで, 2 〜 3 本程 (約 3 度)を達成し,ねらった音をピンポイントで収音 度のマイクロホンでも,ねらった音をクリアに抽出する できることを確認しました.しかし,装置サイズが大き ことを可能としました. く,スタジアムなどの施設へ常設することを前提とした 技術でした. ■参考文献 また,2014年 9 月にNTTが報道発表した高騒音下対 応マイク技術(2)は,複数のマイクロホンで観測した信号 を用いて,周囲雑音を抑圧する信号処理技術です.数本 のマイクロホンであれば,従来の中継用の収音でも使用 されているので,実フィールドでの導入障壁が低くなり ます.本技術では主に空間情報を用いて目的音や雑音の 周波数スペクトルを推定しているため, 2 〜 3 本程度の マイクロホンを用いた場合に,角度幅60度にある目的音 とその他雑音を区別して収音することは可能です.しか し,例えば,サッカースタジアムにおける収音では,全 周囲から歓声や応援が到来するので,この時点の処理技 (1) Focus on the News:“世界初,約 20 m 先にいる任意の人の声をクリアに 収音できる技術を開発,”NTT 技術ジャーナル,Vol.26, No.7, pp.73-74, 2014. (2) Focus on the News:“100 dB の騒音下でも高品質な通話や音声認識を可 能とする小型インテリジェントマイクを開発,”NTT 技術ジャーナル, Vol.27, No.1, pp.82-83, 2015. ◆問い合わせ先 NTTサービスイノベーション総合研究所 企画部広報担当 TEL 046-859-2032 E-mail randd lab.ntt.co.jp URL http://www.ntt.co.jp/news2015/1501/150128a.html 2020を目指した音響技術開発のスタート 小林 和則/ 丹羽 健太/ 小泉 悠馬 NTTメディアインテリジェンス研究所 研究者 研究者 紹介 紹介 音声言語メディアプロジェクト 音環境情報処理グループ 今年度,NTTで継続的に研究開発してきたマイクロホンアレイを用いた収音技術 の魅力を世の中に伝え,さまざまな騒音下(例:車,工場,スタジアムにおけるス ポーツ)で欲しい音だけを収音するという用途で利用していただきたいと考え,技 術開発や広報活動について戦略を立ててきました.2014年4月に発表したズーム アップマイクに関する報道発表以降,社外の方からの問い合わせの数が格段に増え, その中にNHK様もいらっしゃいました.これまで,私たちの部署では,主に通信 用途の音響技術(例:音声会議端末)を手掛けてきたのですが,放送品質を満たす 信号を出力するためには,細かなノウハウ蓄積も含め,技術改良が必要でした. NHK様の音響エンジニアの方々と中継の現場で何度も意見交換を繰り返し,技術のブ (左から)小林和則/小泉悠馬/丹羽健太 ラッシュアップを継続していった結果,いくつかのスポーツにおいて,放送品質の競技音をリアルタイムで抽出できるまでに至りま した. 現在,2020年に向けて,私たち収音チームがようやくスタート地点に立てた段階にあると認識しています.今後,ビッグイベント で,私たちが開発した技術を採用していただくことを 1 つの目標として,どんな音でもクリアに抽出できるように,さらなる技術改良 をいたします.また,現場での運用実績を積み重ねていきたいと考えています. 66 NTT技術ジャーナル 2015.5