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日本の自動車保険における保険需要に 関する実証研究 - J

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日本の自動車保険における保険需要に 関する実証研究 - J
【査読済み論文】
日本の自動車保険における保険需要に
関する実証研究
陳
大 為
■アブストラクト
本研究は,1991年から2008年までのパネルデータを用いて,日本の自動車
保険需要の決定要因について実証分析を行った。その結果,所得は自動車保
険需要に正の影響を与えているが,自動車保険需要の価格弾力性は非常に小
さいことが確認された。また,交通事故率は自動車保険需要に大きな影響を
与えない一方で,損失額は保険需要に強い影響を与えていることが分かった。
さらに本研究では,保険料率の自由化や高齢化の進展が自動車保険需要に及
ぼす影響についても検証した。その結果,料率自由化以降,保険契約者は保
険料を自身のリスクに対応させることができるようになっていることが実証
的に確認された。また,高齢化の進行にともない自動車保険契約率は高くな
っているが,収入保険料は逆に減少していることが分かった。
■キーワード
自動車保険需要,料率自由化,高齢化
1.はじめに
近年,日本の保険市場は大きな変革を遂げている。1998年の保険料率の自
由化によって,保険会社は任意自動車保険,火災保険,傷害保険,介護保険
の保険料に関する裁量権を持つことになった。また,近年の少子高齢化によ
る世代構造の変化も保険会社にとって重要な問題である。高齢化ドライバー
/平成23年8月19日原稿受領。
1
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
の交通事故が多発していることから,大手損保では70歳以上のドライバーの
保険料の引き上げを検討している。
このように保険市場の競争環境が激化する昨今において,保険需要を決定
する要因が何であるのかに関する情報は,保険会社にとって重要不可欠なも
のとなっている。もし保険需要の規定要因に関する有益な情報を持っていれ
ば,保険会社はそれにしたがって効率的な販売・価格戦略を実行することが
でき,他社に対して優位なポジションに立つことができよう。それは,水島
(2006)が指摘している
無形財である保険サービスの供給は常に需要を前
提としなければならない という点からも明らかである 。
保険需要は,大きく分けて家計保険需要と企業保険需要に分類される。両
者は質的に異なっている。Farny(1961)は 保険需要は,企業保険に関連
するもっぱら合理的に基礎付けられた需要と家計保険へのもっぱら無合理的
な需要である と主張している 。すなわち,企業は利潤最大化に基づいて
保険商品を消費するのに対して,家計の方は各経済主体が各々の消費パター
ンをもっている。
こうした点を踏まえれば,何が保険需要に影響を及ぼしているかについて
の研究は非常に重要な意義を持つはずである。しかし,日本における保険需
要の実証研究は筆者の知りうる限り非常に少ない。もっともこれまで全く分
析されていなかったという訳ではなく,日本の企業保険需要の実証研究は
Yamori(1999)が,家計保険需要の分析については鳥居(1999)などで行
われている 。
1) 水島一也,2006, 現代保険経済(第8版) 千倉書房,p.82。
2) ファーニー著,高尾厚監訳,保険市場論研究会訳,1991, 保険市場論 生
命保険文化研究所,p.129。
3) 鳥居(1999)は,損保代理店が提供するサービスが有効な販売促進要因とな
っているかどうかを検証するために,自動車保険および火災保険の需要と代理
店の展開の様子との関係を分析している(鳥居昭夫,1999, 需要構造と代理
店の役割 ,植草益編, 現代日本の損害保険産業
108-115)。
2
NTT 出版,第4章,p.
保険学雑誌 第 615号
本研究は,家計の損害保険の中でも自動車保険(本研究において自動車保
険は任意自動車保険のことを意味している)の需要の決定要因について分析
を行っている。ここで自動車保険を取り上げた理由は以下のとおりである。
第一に,日本人の保険思想について, 掛け捨て嫌い という議論がある。
田村(2006)によると 生命保険は,長い間養老保険を主力商品としてきた,
国民の意識の中では 貯蓄の変種 と受け取られてきたから,掛け捨てタイ
プの生命保険というものをそもそも え難かったのではないだろうか と指
摘している 。そのため,生命保険に比べて損害保険のほうがより日本国民
の保険意識を反映すると えられる。第二に,2009年における自動車保険の
収入保険料は損害保険総収入保険料の約49.2%を占めており,ほとんどの日
本の損害保険会社が自動車保険商品を主力として事業を展開している点であ
る。第三に,日本の自動車保険に関するデータの豊富さである。十分なデー
タがそろっていれば,そこから得られる知見はより有益なものとなるであろ
う。
本研究の具体的な貢献は以下のとおりである。第一に,日本の保険市場の
自由化前後のデータを用いて,自由化が自動車保険市場に与える影響を分析
している点である。第二に,世界中で最も高齢化が進行している国のデータ
を用いて,高齢化が自動車保険に与える影響を分析している点である。
本論文の構成は以下のとおりである。第2章では,日本の自動車保険市場
の概況および特徴を検討する。第3章では,自動車保険市場に関する欧米で
の先行研究を議論する。第4章では分析方法およびデータについて説明する。
第5章では,実証モデルと実証分析の結果を紹介するとともに,その解釈を
試みる。最後に,第6章では本研究から得られた結論と今後の課題について
述べる。
2.日本の自動車保険
日本において,車の保険は自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)と自動
4) 田村祐一郎,2006, 掛け捨て嫌いの保険思想 千倉書房,p.7。
3
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
車保険に大別される。自賠責保険は交通事故の被害者保護を目的としている
保険であり,自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づき,原動機付自転車
(原付バイク)を含む全ての自動車に契約することが義務付けられている。
しかし,自賠責保険は,他人を死傷させた場合の対人賠償のみを補償する保
険であり,自身の怪我や他人のモノなどに対する損害賠償は補償されない。
それに対して,自動車保険は自賠責保険の支払限度額を超える部分の補償,
対物賠償損害や自身の怪我および車両損害等の補償として利用される。また,
自動車保険は,法律で加入することが義務つけられている自賠責保険と区別
する意味で,契約者が任意で契約するから 任意自動車保険 とも呼ばれる。
言うまでもなく,任意自動車保険は自賠責保険を補完する商品として重要な
役割を担っている。
2.1. 自由化がもたらした影響
1996年4月改正保険業法が施行されてから最近の10余年は,日本の損保業
界にとって激動の時代であった。保険の自由化は,保険料率の低下,保険市
場の活性化および多様な新製品の開発をもたらした。なかでも,1996年10月
の自動車保険通信販売の認可および生損保相互参入の開始,同年12月の日米
保険協議の決着,1997年9月のリスク細分型自動車保険の認可,1998年7月
の算定会料率使用義務の廃止,2000年7月の料率完全自由化と続く一連の流
れは,戦後半世紀にわたる日本の自動車保険市場の体系を根底から変えたと
言えよう。保険自由化が保険会社に与えている影響,特に自由化による保険
会社の経営効率および規模の経済性などの変化に関する実証研究は,興味深
い研究課題として多くの研究が行われている。一方で,保険自由化によって
生じた保険市場の構造変化に関する実証研究についてはほとんどなされてい
ない。保険自由化の効果を総合的に評価するには自由化前後の保険市場の比
較分析が不可欠であり,本研究では消費者側の観点からみた保険市場の変化
についての分析を試みる。
4
保険学雑誌 第 615号
2.2. 契約率のばらつき
自動車保険に加入するかどうかは自動車保有者個人の選択である。酒井
(1982)の保険需要理論モデルによると,自動車保有者が自動車保険に加入
するか否かにはいくつかの主要な要因がある。具体的には,所得,リスク回
避度,事故率,損失額および保険料率である。これらには地域差があること
が予測されることから,日本における各都道府県の自動車保険平 契約率は
異なるものと思われる。表1では,各都道府県の自動車保険契約率を示して
いる。
表1 日本各都道府県の自動車保険契約率(2008年)
沖 縄
島 根
福 島
高 知
宮 崎
秋 田
鹿児島
岩
山
山
長
大
鳥
佐
熊
長
手
梨
形
野
分
取
賀
本
崎
青 森
新 潟
愛
北海道
群 馬
徳 島
栃 木
福 井
山 口
宮 城
富 山
石 川
岡 山
滋 賀
茨 城
和歌山
香 川
三 重
広 島
福 岡
岐 阜
静 岡
兵 庫
埼 玉
東 京
京 都
千 葉
神奈川
奈 良
愛 知
大 阪
51%-55% 56%-60% 61%-65% 66%-70% 71%-75% 76%-80% 81%-85%
自動車保険の概況(平成21年)により作成
表1が示すとおり,各都道府県の自動車保険契約率は大きく異なっている。
ただし,この契約率のバラつきは,上で挙げたような所得,リスク回避度,
事故率,損失額などの要因だけでもたらされているわけではなく,自動車保
険を代替する商品として共済組合が提供している自動車共済の影響を 慮し
なければならないであろう。
5
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
表2を見ると分かるとおり,表1で自動車保険の契約率が高い(低い)都
道府県は自動車共済の契約率が低い(高い)傾向にあり,自動車保険の代替
財として自動車共済が存在していることが確認される。日本において,共済
は多くの消費者の信頼を得ていることから,自動車保険市場への影響を度外
視できない。このことは日本の保険市場の1つの特徴と言える。日本の自動
車保険市場を分析する場合には,代替財である共済の要因を 慮しなければ
ならない。
表2 日本各都道府県の自動車共済契約率(2008年)
大
阪
0-5.9%
兵 庫
福 岡
愛 知
京 都
埼 玉
茨 城
奈 良
東 京
神奈川
千 葉
岡 山
栃 木
滋 賀
北海道
和歌山
広 島
静 岡
岐 阜
三 重
新 潟
山 梨
福 島
沖 縄
愛
長 崎
熊 本
鹿児島
福 井
富 山
大 分
山 口
青 森
石 川
群 馬
香 川
徳 島
宮 城
6%-10.9%
11%-15.9%
16%-20.9%
山
岩
長
佐
鳥
形
手
野
賀
取
21%-25.9%
秋 田
高 知
島 根
26%-30%
31%-35%
自動車保険の概況(平成21年)により作成
2.3. 高齢化の影響
現在,高齢化の急速な進展が大きな社会問題となっており,自動車保険も
その影響を受けている。日本社会の高齢化が進むことで,自動車保険の対象
とするリスクに変化が生じる可能性が予測される。高齢化が自動車保険需要
に影響を与える要因に関しては,2つの面から 察できる。第一に,被害者
サイドへの影響である。表3が示すとおり,人口10万人当たりの被害者数を
6
保険学雑誌 第 615号
見てみると,死亡については高齢者のリスクは高いが,傷害についてはむし
ろ低くなっており,被害者数合計でも高齢者になるほど少ないことが分かる。
一方,表4によれば,交通事故による被害者の平 損失額は高齢者の方が
高くなっている。このことは,高齢者が被害者となった場合には,より大き
な傷害を被るということを意味している。すなわち,高齢者が被害者となる
自動車人身事故リスクは,事故率において減少するものの,1件当たりの損
失額は増加する。事故率と損失額について,Farny(1961)は 損害発生の
確率は相対的に小さいものの,ありうる損失額が高い場合,保険需要は最大
の強さをもたらす と指摘している 。自動車保険は自賠責保険の支払限度
額を超える部分を補償しているため,事故率よりむしろ損失額の影響を受け
ていると えられる。したがって,高齢化の急進は自動車保険需要にプラス
の影響を与えることが予測される。
第二に,加害者サイドへの影響,すなわち,ドライバーの高齢化による影
響がある。表5によれば,65歳以上の加害者による被害者数および人身損失
額は全年齢平 より低くなっている。その原因は,表6が示すとおり,加害
表3 交通事故による被害者年齢別の人口10万人当たり被害者数(2008年)
被害者年齢
人口10万人あたり被害者数 (単位:人)
後遺障害
傷害
合計
4.1
46.9
885.9
937.0
65∼69才
6.5
58.6
619.8
684.8
70∼74才
9.1
58.8
532.3
600.2
75∼79才
11.8
48.3
416.4
476.5
80才以上
14.7
30.5
248.6
293.9
全年齢平
死亡
損保協会 2008年自動車保険データに見る交通事故の実
態 により作成
5) ファーニー・前掲注2)p.138。
7
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
者が65歳以上のドライバーとなった場合,被害者の死亡率および後遺傷害率
は低くなっているためである。
一方,高齢ドライバーが起こした交通事故による物損の場合,人身事故と
は異なっている。表7をみると,65歳以上のドライバーの事故による損害物
件数は上昇しているが,損失額はより低くなっていることが分かる。ただし,
ドライバーが75歳以上になった場合,損害件数と損失額の両方ともに明らか
な上昇が見られる。
表4
日本の交通事故による被害者年齢別平 人身損失額(2008年)
被害者年齢
平
全年齢平
人身損失額(千円)
1,052
65∼69才
1,553
70∼74才
1,871
75∼79才
2,203
80才以上
2,721
損保協会・2008年自動車保険データに
見る交通事故の実態により作成
表5
交通事故による加害者年齢別の免許保有者1万人当たり被害者数人身
損失額(2008年)
免許保有者1万人当たり
被害者数(人)
免許保有者1万人当たり
人身損失額(百万円)
163
171
65∼69才
120
118
70∼74才
121
119
75才以上
123
122
加害者年齢
全年齢平
交通事故総合分析センター
8
交通統計
平成20年版により作成
保険学雑誌 第 615号
表6 交通事故における加害者年齢別の被害者数(死亡・後遺障害・傷害
別)(2008年)
加害者年齢
死亡
後遺障害
傷害
合計(単位:人)
全年齢平
374
4,283
80,854
85,511
65∼69才
246
3,156
60,061
63,463
70∼74才
149
2,207
39,757
42,113
75∼79才
108
1,239
23,193
24,540
80才以上
54
641
12,227
12,922
交通事故総合分析センター 交通統計
表7
平成20年版により作成
運転者年齢別の免許保有者1万人当たり損害物数・物的損失額
(2008年)
運転者年齢
免許保有者1万人
免許保有者1万人
当たり損害物数(件) 当たり物的損失額(百万円)
16∼19才
2,486
587
20∼24才
1,336
349
25∼29才
912
243
30∼34才
784
208
35∼39才
761
205
40∼44才
750
195
45∼49才
745
186
50∼54才
751
183
55∼59才
781
181
60∼64才
802
179
65∼69才
799
172
70∼74才
832
179
75才以上
915
195
973
236
全年齢平
交通事故総合分析センター
交通統計
平成20年版により作成
9
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
2003年から2008年までの6年間のデータを用いて,高齢ドライバーが加害
者となる自動車リスクの特徴を図1で示した。ドライバーの高齢化進行率と
比較して物損の事故率と損失額の上昇率は相対的に上昇しているが,人身事
故の損失額の上昇率は逆に低くなっており,人身事故率の変化はドライバー
の高齢化進行率とほとんど同じである。一方,高齢者が被害者となる自動車
人身事故リスクについて,事故率は減少するが,損失額は増加している。し
たがって,自動車保険にどのような影響を与えるかを定量的な検証するには,
様々な要因を検討して分析する必要がある。
図1 2003−2008年度における65歳以上のドライバーの人口推移とそれに
よる損害の推移の比較
2003年-2008年の損害保険協会と警察庁の統計データより作成
3.先行研究
保険需要に関するほとんどの実証研究では,回帰モデルによって保険需要
の各要因を分析している。先行研究の知見によると,生命保険需要と損害保
険需要に影響する要因は大きく異なっている。自動車保険は損害保険の一部
分であるため,以下では損害保険需要及び自動車保険需要に関する主要な先
10
保険学雑誌 第 615号
行研究をまとめる。
Sherden(1984)は,1979年のマサチューセッツ州の359の市町村のクロ
スセクション・データを用いて,自動車保険需要と所得,保険プレミアム及
び人口密度との関係を分析した。この論文は3種類の自動車保険―人身傷害
保険(bodily injury),総合保険(comprehensive),車両保険(collision)―
の需要に対する各要因の影響を検討している。被説明変数は,1979年におけ
る3種の保険それぞれの1台当たりの収入保険料である。説明変数は,個人
所得,各市町村の人口密度及び地域料率によって算出したプレミアムである。
その結果,個人所得及び保険プレミアムの係数の符号はそれぞれプラスとマ
イナスであり,1%水準で有意となった。さらに,自動車保険の価格弾力性
は非常に小さいことが確認された。一方で,自動車保険需要は人口密度の上
昇につれて有意に上昇するが,ある程度の人口密度から高い人口密度までの
上昇はわずかであることが示された。
Outreville(1990)は,発展途上国において損害保険の発展水準と金融の
発展水準の関係を明らかにするために,1982年の55の発展途上国のクロスセ
クション・データを用いて,損害保険需要を分析している。被説明変数は,
各国の損害保険密度である。説明変数は,損失率の逆数(保険料/保険金)
を保険プレミアムの代理変数,各国の GDP を所得の代理変数,準貨幣と
GDP の比率を金融発展水準の代理変数としている。その結果,所得及び金
融発展水準の係数の符号は有意にプラスであるが,保険プレミアムの係数は
有意でないことが分かった。
Browne et. al.(2000)は,OECD の国々にわたって損害保険需要の違い
を解明するため,25の OECD 国家の1987年から1993年までの7年間のデー
タを用いて損害保険需要に関する分析を行っている。また,この論文は損害
保険の一部として自動車保険を単独に分析している。具体的には,自動車保
険の保険密度を被説明変数としている。そして,各国の教育水準をリスク回
避度の代理変数,都市人口の比例を事故率の代理変数,自然,鉱物,人口及
び社会資源を富の代理変数,外資保険企業の市場占有率を保険プレミアムの
11
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
代理変数としている。その結果,所得の係数の符号は有意にプラス,富の代
理変数及び外資系保険会社の市場占有率の係数の符号は有意にマイナス,教
育水準及び都市化率の係数は有意でないことが分かった。
Esho et. al.(2004)は,各国の法律システムと財産権の保護が損害保険
需要に与える影響を解明するために,44カ国の1984年から1998年までのデー
タを用いて分析を行った。具体的には,損害保険収入保険料を被説明変数と
し,各国の財産権,法律システム,教育水準及び UAI(uncertainty avoidance index),窃盗率と都市化率,損失率の逆数を被説明変数としている。
彼らはデータによって,クロスセクション,パネルデータ及び GMM の3
つの方法で分析を行った。クロスセクションでの分析結果によると,財産権,
GDP,窃盗率の係数の符号は有意にプラスであるが,損失率の逆数,教育,
UAI 及び法律システムの係数は有意でない。一方,パネルデータの分析で
は,GDP,財産権,教育の係数の符号は有意にプラスであるが,損失率の
逆数の係数は有意でない。また,GMM による分析結果はパネルデータの分
析結果とほぼ同じであるが,損失率の逆数の符号は有意にマイナスとなった。
以上の損害保険及び自動車保険需要に関する先行研究にしたがって,本研
究では損害保険需要の各決定要因を明確にし,日本における自動車保険需要
の独自の決定要因を検討する。
4.分析方法およびデータ
4.1. 分析方法
Sherden(1984)をはじめとする保険需要に関する先行研究ではクロスセ
クション・データによる OLS 推定を行っているが,Browne et al.(2000)
および Esho et al.(2004)では国別の損害保険需要を分析する際に対象と
する国のサンプル数が不足するため,パネルデータでの分析を行っている。
本研究においても,研究対象とする都道府県は47しかないため,パネルデー
タを用いて分析する。
12
保険学雑誌 第 615号
4.2. データ
本研究は日本の47の都道府県を対象とする。検証期間は1991年度から2008
年度までの18年間である。本研究で用いたデータは 自動車保険の概況
の
各年度版(1991-2008年),日本損害保険協会の自動車関連データ,総務省統
計局ホームページの統計データ(1991-2008年)から入手した。検証期間は
18年間であるが,1991年度以降を対象とした理由は,それ以前の年度の
動車保険の概況
自
には必要なデータが掲載されておらず,所有構造の変数を
作成するために必要なデータが入手できないためである。また,自動車共済
の契約率については,1999年以前の各都道府県の自動車共済契約率は入手で
きないため,JA 共済の自動車共済契約率を用いている。
5.実証モデルと分析結果
5.1. 実証モデル
本研究は,自動車1台当りの保険料と自動車保険契約率の2つを被説明変
数とする。Sherden(1984)は自動車1台当りの保険料のみを被説明変数と
しているが,この変数は被保険自動車の保険需要を分析する一方で,未加入
を含めたすべての自動車の潜在的な保険需要を検証できない。それゆえ,本
研究では,鳥居(1999)で採用された自動車保険契約率も被説明変数とし
た 。
また2章で指摘した通り,日本の保険市場は自動車共済も 慮しなければ
ならないため,自動車保険と自動車共済の契約率の合計を被説明変数とした。
被保険自動車と全ての自動車との保険需要をそれぞれ検証するため,自動車
1台あたりの保険料を被説明変数とするモデル1と,自動車保険及び自動車
共済の契約率の合計を被説明変数するモデル2に分けて分析する。
モデル1の分析期間は1991年から2008年までの18年間である。モデル2に
関しては,必要なデータが1993年以降しか入手できないため,分析期間は
1993年から2008年までの16年間である。
6) 鳥居昭夫・前掲注3)p.109。
13
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
本研究では自由化の影響を分析するために全期間を1999年前後の2つの期
間に分けて分析・比較する。1999年の前後で分割した理由は,算定会料率使
用義務が1998年7月に廃止されたためである。1991年から2008年までの全期
間のモデル1においては,1999年以降の年度を1とするダミー変数を用いる。
他方,モデル2において,1993年から1998年までの自動車共済契約率として
JA 共済のデータしか入手できなかったため,自由化のダミー変数は使用し
なかった。
2つのモデルを以下のとおりに設定する。
モデル1
InY =α+βlnincome
βaccident
+βlnprice +βInloss
+βauto
+βage65
+
+βdummy+ε
モデル2
ratio =α+βlnincome
+βlnprice +βInloss
βaccident
+βauto
+
βage65
+ε
ただし,i は各都道府県,t は年度であり,それぞれの変数を以下のとおり
に定義する。
被説明変数
Y
各都道府県における1台あたりの自動車保険収保
ratio 各都道府県における自動車保険と自動車共済の契約率の合計
説明変数
income
各都道府県における個人所得
price
各都道府県における自動車保険プレミアムの代理変数=保険料/
保険金
loss
14
各都道府県における事故1件あたりの損失の代理変数=保険金/
保険学雑誌 第 615号
支払件数
accident
各都道府県における自動車一台あたりの事故率=事故件数/自動
車台数
auto
各都道府県における自動車保有率=自動車保有台数/人口
age65
各都道府県における65歳以上の人口の比率
dummy
1999年以降の年度を1とするダミー変数
モデル1における被説明変数 Y は一台あたりの自動車保険収入保険料,
モデル2における被説明変数 ratio は各都道府県の自動車保険契約率と自動
車共済契約率との合計である。
income は 個 人 所 得 で あ る。Outreville(1990),Browne et. al.(2000),
Esho et. al.(2004),鳥居(1999)は所得が保険需要に正の影響を与える,
つまり,保険商品が正常財(normal goods)であることを示している(高
尾(1991),p.49)。したがって,個人所得の係数の符号はプラスであると予
測される。
price は自動車保険プレミアムの代理変数である。自動車保険プレミアム
は,様々な 要 素 に よ り 設 定 さ れ る た め に か な り 複 雑 で あ る。Sherden
(1984)はマサチューセッツ州における市町村の地域料率によって保険プレ
ミアムの代理変数を作り出したが,日本の場合は都道府県ごとに地域料率が
設定されていないため,この方法は利用できない。一方,他の先行研究にお
いては,実際の保険料率を用いておらず,代理変数を利用している。その中
で,Outreville(1990)お よ び Esho et. al.(2004)で は,損 失 率 の 逆 数
(保険料/保険金)を保険プレミアムの代理変数としている。その理由は,
保険プレミアムが消費者自身のリスクより高くなればなるほど,消費者は保
険商品を消費しにくくなる。一方,保険料が消費者自身のリスクにより近づ
いていれば,保険プレミアムは合理的になり,消費者にとって保険商品を消
費しやすくなる。先行研究では自動車保険プレミアムについて様々な変数が
提案されているものの,自動車保険プレミアムの複雑性により,必ずしも適
15
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
切な代理変数に対するコンセンサスが得られているわけではない。
そこで,本研究は,Outreville(1990)と Esho et. al.(2004)にしたが
い,損失率の逆数を自動車保険プレミアムの代理変数とする。表8と図2は
それぞれ1976年から日本における自動車保険料率の改定および自動車保険契
約率の推移を示している。2つの図表を合わせてみれば,料率の大幅の増加
や減少があっても自動車保険契約率に大きな影響を与えていないようである。
また,Sherden(1984)は自動車保険需要の価格弾力性が非常に小さいこと
を示しており,鳥居・竹中(1999)のシミュレーション結果でも,車両保険
以外の自動車保険需要の価格弾力性は小さいことが予測される 。したがっ
て,日本においても自動車保険需要の価格弾力性が小さいと えられる。
また,この代理変数は,保険プレミアムよりむしろリスクに対する保険料
の適切さの検証になる。つまり,料率規制の影響のため,自由化前では価格
の係数は有意に,自由化後では自動車保険プレミアムの設定は契約者のリス
クに対応するようになっているはずであるから有意ではないと推測される。
accident は事故率であり,分母は各都道府県の車の台数,分子は交通事
故数である。鳥居(1999)は事故率が自動車保険需要に正の影響を与えるこ
とを示している 。したがって,accident の係数の符号はプラスであると予
想される。
表8 自由化前20年における自動車保険料率の改定の推移
76年
78年
対人
+0.8%
−1.9%
対物
+26.5% +16.1%
81年
−7.7%
83年
85年
91年
93年
98年
+30%
−0.5%
−13.1%
−1.5%
−8.60%
+8.1%
+35.2% +16.7%
各年の自動車保険概況により作成
7) 鳥居昭夫・竹中康治,1999, 規制緩和と損害保険産業の構造変化 シミュ
レーション分析
,植草益編, 現代日本の損害保険産業 NTT 出版,第11
章,p.274-278。
8) 鳥居昭夫・前掲注3)p.111。
16
保険学雑誌 第 615号
図2 1976-1999年度における対人対物自動車保険契約率の推移
各年の自動車保険概況により作成
loss は交通事故平 損失額の代理変数である。すべての交通事故の平
損
失額を把握できないために,loss を付保自動車の一件事故に当たる支払保険
金とする。鳥居(1999)は事故損失額が自動車保険需要に正の影響を与える
ことを示している 。よって,この説明変数の符号はプラスであると予想さ
れる。
auto は自動車保有率であり,分母は各都道府県の車の人口,分子は車の
台数である。高尾(1998)は 保険取引は純粋危険下にある危険資産を原資
産としたプットオプションと解釈される と指摘している 。つまり,自動
車保険は自動車を原資産とするため,自動車保有率の変化は自動車保険の需
要に変化をたらすはずである。それゆえ,本研究は各都道府県における自動
車保有率,すなわち1人当たりの自動車保有数を説明変数とする。この変数
9) 鳥居昭夫・前掲注3)p.111。
10) 高尾厚,1991, 保険とオプション―デリバティブの一原型
43。
千倉書房,p.
17
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
の係数の符号はプラスであると予測される。
age65 は各都道府県の65歳以上の人口比率である。第2章の分析により,
高齢者が交通事故の被害者となる事故率は低いが,事故一件当たりの損失額
は高くなっている。この点について,Farny(1961)は 損害発生の確率は
相対的に小さいものの,ありうる損失額が高い場合,保険需要は最大の強さ
をもたらす と指摘している 。それゆえ,急激な高齢化の進行は高齢者が
交通事故の被害者となる可能性を高めるため,車の運転者は自動車保険に入
る可能性が高くなるであろう。一方,ドライバーの高齢化の伸び率に比べる
と,物損の事故率と損失額の上昇率はより高くなっているため,高齢ドライ
バーが自動車保険に入る可能性も高くなるはずである。さらに,先行研究で
は年齢が金銭上の意思決定に与える影響の証拠を提供している。Brown
(1987)によると,富に対するリスク回避度は高齢者が最も高い。Riley
and Chow(1992),Halek and Eisenhauer(2001)はリスク回避度度が65
歳から年齢の上昇とともに上昇することを示している。したがって,モデル
2について age65 の係数はプラスであると予測される。一方,自動車保険
料率はドライバーの運転実績及び年齢などによって設定されるため,age65
の自動車保険収保への影響はマイナスであると予測される。
dummy は自由化の影響を分析するために設定したダミー変数である。モ
デル1においては dummy の係数がマイナスであると予測される。なぜなら,
自由化により,保険プレミアムは低くなっているため,自動車一台あたりの
収入保険料は低くなるであろう。一方,モデル2において,自由化前は JA
共済の自動車共済契約率のデータしか入手できないため,自由化ダミーを用
いなかった。
5.2. 実証結果
ハウスマン検定により,モデル1については変量効果モデルを採択し,モ
デル2については固定効果モデルを採択する。実証結果は次のとおりである。
11) ファーニー・前掲注2)p.138。
18
保険学雑誌 第 615号
表9は,モデル1の検証結果を示している。lnincome の係数はすべての
期間において1%水準で有意にプラスである。これは自動車保険が正常財で
あることを示している。
表9 モデル1の実証結果
被説明変数
lnY
変量効果モデル
変量効果モデル
変量効果モデル
説明変数
91-98パネルデータ
99-08パネルデータ
91-08パネルデータ
lnincome
0.641
(10.87)
0.251
(8.67)
0.376
(11.82)
lnprice
0.394
(12.69)
0.079
(5.07)
0.215
(10.97)
lnloss
0.284
(5.61)
0.157
(7.99)
0.319
(16.20)
accident
0.941
(0.33)
-1.203
(-1.55)
0.994
(1.03)
auto
0.032
(0.24)
-0.049
(-0.80)
0.457
(8.37)
Age65
-1.51
(-4.13)
-2.463
(-23.63)
-1.986
(-16.55)
-0.043
(-9.13)
dummy
切片
-2.658
(-6.56)
1.600
(6.52)
-0.674
(-2.85)
調整済決定係数
0.6145
0.9090
0.8113
は1%水準で有意,
は5%水準で有意, は10%水準で有意,( )内は t 値
lnprice の係数はすべての期間において1%水準で有意にプラスである,
すなわち,保険プレミアムの上昇にともなって収入保険料は高くなっている。
さらに,自由化前の係数は自由化後よりも大きく,有意水準も高くなってい
る。つまり,自由化により契約者が支払う保険料は自身のリスクに対応する
19
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
ようになっており,料率自由化に関して一定の効果があったものと判断され
よう。
accident の係数はすべての期間において有意でない一方で,lnloss の係数
はすべての期間において1%水準で有意にプラスであった。これは自動車保
険需要に対して,事故率に比べて損失額のほうがより強い正の影響があるこ
とを示している。また,auto の係数は全期間において1%水準で有意にプ
ラスであるが,自由化前後の両期間においては有意でなかった。
age65 の係数はすべての期間において1%水準で有意にマイナスである。
さらに,自由化後の期間における age65 の係数は大きくなっており,有意
水準も高くなっている。よって,高齢化の急進行にともなって,高齢化の自
動車保険への影響もより強くなっていることが分かる。
自由化ダミーの係数は1%水準で有意にマイナスである。これは料率自由
化による保険プレミアムの低下,つまり,保険料支払いすぎの減少による結
果であると推測される。
また,決定係数に関して,自由化後の期間の決定係数は,自由化前よりも
大きくなっている。自由化にしたがって,契約者が支払う保険料を自身のリ
スクに対応させることができるようになったことが要因として えられる。
一方,自由化前の期間モデルの決定係数が小さくなったのは,料率規制の影
響からもたらされた結果であると えられる。
表10は,モデル2の検証結果を示している。lnincome の係数は前後の期
間において,それぞれ5%と1%水準で有意にプラスである。これはモデル
1と同様に,保険が正常財であることを示している。また,lnprice の係数
は自由化前の期間において1%水準で有意にマイナスである。さらに,
lnprice の係数が−0.034であることから,日本において自動車保険需要の価
格弾力性は非常に小さいことが分かる。この結果は Sherden(1984)の結果
と一致している。
一方,自由化後の係数は有意でない。この結果は料率自由化の影響を反映
している。つまり,1単位損失あたりの保険料は自由化前より契約者のリス
20
保険学雑誌 第 615号
表10 モデル2の実証結果
被説明変数
ratio
固定効果モデル
固定効果モデル
説明変数
93-98パネルデータ
99-08パネルデータ
lnincome
0.032
(2.37)
0.061
(3.73)
lnprice
-0.034
(-4.51)
0.000
(0.12)
lnloss
-0.011
(-0.80)
0.024
(2.26)
accident
-0.754
(-0.90)
-0.619
(-1.45)
auto
-0.039
(-0.83)
0.183
(4.87)
age65
0.871
(5.98)
0.298
(5.07)
切片
0.520
(2.63)
0.047
(0.34)
調整済決定係数
0.7322
0.4031
は1%水準で有意,
有意,( )内は t 値
は5%水準で有意, は10%水準で
クに対応するようになるため,契約者にとって自動車保険プレミアムの格差
が小さくなり,保険を消費するか否かに影響されなくなったことが推測され
る。
lnloss の係数は,自由化後の期間において5%水準で有意であるが,自由
化前の期間においては有意でない。この結果は料率自由化の影響を反映して
いる。さらに,モデル1の結果に比べ,lnloss の有意性は低くなっている,
つまり,保険加入前の段階において,損失額が保険需要に与える影響が弱く
なっている。一方,モデル1と同じく,accident の係数はすべての期間に
21
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
おいて有意でない。この結果は鳥居(1999)と異なっており ,自動車保険
需要は事故率の影響を受けていないようである。この点に関して,人々は交
通事故に対して高い事故率をもつ印象が強いために,事故率の変化は自動車
保険需要に影響されていないと えられるのではないだろうか。
auto の係数は自由化前の期間において有意でないが,自由化後の期間に
おいて1%水準で有意にプラスである。したがって,自由化以降,自動車保
有率が及ぼす自動車保険需要への影響は強くなっている。
age65 の係数はすべての期間において1%水準で有意にプラスである。す
なわち,高齢化の進行が自動車保険契約率に正の影響を与えることを示唆し
ている。これは Brown(1987),Riley and Chow(1992)及び Halek and
Eisenhauer(2001)の結果と一致している。つまり,高齢化の進展は,高
齢者のリスク回避度を高める上に,高齢者が交通事故被害者になる確率も高
めるため,自動車保険契約率に正の影響を与えていると えられる。
決定係数に関しては,自由化後の期間において小さくなっている。これも
規制緩和の影響であろう。なぜなら,自由化にしたがい,自動車保険に加入
するか否かはより多くの要因に影響されるからである。例えば,新製品の開
発や販売チャネルの革新などの損保会社の努力による影響がある。一方,損
保会社が自社にとって好ましい契約者を選択することも1つの理由として
えられる。
6.結論と課題
本研究は,日本の自動車保険における保険需要の各要因について定量分析
を行った。さらに,自由化及び高齢化が自動車保険市場に及ぼす影響を分析
した。その結果,以下の3点を明らかにすることができた。
第一に,保険需要の要因について以下の点を明らかにしたことである。す
なわち,⑴所得は自動車保険需要に正の影響を与えている,⑵自動車保険需
要の価格弾力性は非常に小さい,⑶自動車保険契約率に比べて損失額は自動
12) 鳥居昭夫・前掲注3)p.111。
22
保険学雑誌 第 615号
車保険収入保険料により強い影響を与えている,つまり,自動車保険加入後
の段階において損失額の影響はより強くなっている,⑷事故率の係数は有意
でない,ことを明らかにした。一定の高水準に達した後の事故率の変化は,
保険需要への影響を弱くすると えられる。したがって,自動車保険は自動
車事故に対する保障の有効かつ主要な手段として,その需要は激しく変動し
ないことを念頭に置くことが必要であろう。
第二に,自由化が自動車保険市場に強い影響を与えていることを明らかに
したことである。モデル1のダミー変数は1%水準で有意にマイナスであり,
また自由化前に比べ,自由化後の価格の係数と t 値は明らかに小さくなって
いる。さらに,モデル2において価格の変数は自由化前に2%水準で有意で
あるが,自由化後において0となり有意ではない。すなわち,各都道府県に
おける1単位損失当たりの保険料のばらつきが小さくなっている。その理由
として,自由化にしたがって自動車保険契約者が支払う保険料を自身のリス
クに対応させることができるようになったことが えられる。各損保会社は
契約者自身のリスクにしたがって自動車保険プレミアムをより正確に設定で
き,無駄な保険料の支払いを減少させる。一方,リスクの高いドライバーは
より高い保険料を支払わなければならない。それゆえ,リスクの高いドライ
バーの保険離れを導く可能性は十分に高い。リスクの高いドライバーの保険
離れは,被害者が十分な損害賠償を受け取ることができない可能性を高める
危険性があるため,このような状況に対応するための適切な制度を策定する
必要がある。
第三に,高齢化の進展が自動車保険に与える影響を明らかにした点である。
2つのモデルの結果によれば,料率自由化以前と以降においても,高齢化は
自動車保険契約率に正の影響を与えるが,自動車保険収保にマイナスのイン
パクトをもたらす。つまり,高齢化にともない,自動車保険契約率は高くな
っているが,収入保険料は逆に減少している。高齢化の進展による収入保険
料減少を抑制するための1つの方法は高齢者の保険料率を高めることである。
自動車保険の価格弾力性は非常に小さく,高齢ドライバーのリスク回避度も
23
日本の自動車保険における保険需要に関する実証研究
より高くなっていることから,高齢ドライバーの自動車保険料率を高めても
直ちに高齢ドライバーの保険離れを導くとは えにくい。実際に損保各社は
高齢者の自動車保険料の引き上げを検討している。しかし,料率を高めるに
は限度があり,社会全体の福利厚生を
えた場合,安直な料率引き上げは長
期的に有効な措置にはならないだろう。最も大事なことは高齢者ドライバー
のリスク特徴に合わせた新しい保険商品を開発することである。
以上,本研究の結果をまとめたが,いくつかの課題も残されている。特に
データの制限によりリスク回避度に関しての検証はできなかった。とはいえ,
先行研究に基づいて,現時点で入手可能なデータをほぼ利用して日本の自動
車保険における保険需要の決定要因と自由化及び高齢化が自動車保険市場に
与える影響を検証したという意味では,本研究には一定の貢献があると思わ
れる。
(筆者は神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程)
参
献
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