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刑法問題集

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刑法問題集
第 一編
刑 法総 論
第 1章
構 成要 件該 当性
第 1問
D
母 親甲 が眠 り込 んで しま い 、そ の睡 眠中 に寝 返り をう ち、 その 結果 乳児 Aを 圧死 せし
め た。 本事 例に 含ま れる 刑法 上の 問題 点に つい て、 次の 各問 いに 答え よ。
1 、 本問 甲は 寝返 りに よっ て Aを 死に 致し てい るが 、か かる 行為 は① 無意 識下 のも のと
し て刑 法処 罰の 対象 にな らな いの では ない か。
2 、 1で 甲の 行為 を処 罰の 対 象に する とし た場 合、 本問 ②甲 の過 失は 、犯 罪論 体系 のい
ず れの 段階 で検 討す べき か。
基 礎 点 20 点
① 【 論 点 】 刑 法 上 の 行 為 概 念 ( 2 点)、【 論 点 】 忘 却 犯 ( 1 点 )
② 【論 点】 過失 犯の 構造 (2 点)
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 母 親 が睡 眠 中 に 寝返 り を う って 乳 児 を 圧死 さ せ
る 行 為 に つ い て は 過 失 致 死 罪 ( 210 条 ) の 成 立 可 能
性 があ る。
しか し 、 母 親の 寝 返 り は反 射 運 動 の一 種 で あ か
【 論点 】刑 法上 の行 為概 念
ら 、本 件 事 案 に刑 法 処 罰 の対 象 と し ての 行 為 が あ
ると いえ るか 。刑 法上 の行 為概 念が問 題と なる 。
2 、人 の 行 為 が自 然 現 象 と区 別 で き るの は 、 人 の
意 思に よ っ て 何ら か の 選 択が な さ れ てい る 点 に 求
め られ る 。 ま た、 単 な る 静止 は 自 然 的に み れ ば 内
心 の意 思 ・ 思 想と 区 別 が つか な い か ら、 こ の 点 を
区 別で き る よ うに 、 行 為 観念 を 組 み 立て る 必 要 が
ある 。
し たが って 、行 為 とは 意思 によ る支 配の 可 能な 、
何 らか の 社 会 的意 味 を 持 つ運 動 ま た は静 止 の こ と
をさ すと 解す る。
3 、以 上 を も って 本 問 を 検討 す る と 、確 か に 睡 眠
中の 行為 自体 は意 思に 基づ かな いもの であ る。
し かし 、行 為と い える ため には 、意 思支 配 の可 能
性 があ れ ば よ い。 本 問 の 場合 は 睡 眠 前に 圧 死 し な
い よう に す べ きで あ っ た とい う 点 で 、意 思 支 配 の
-1-
【 論点 】忘 却犯
可能 性が 認め られ る。
し たが って 、本 問 母親 の行 為は 刑法 上の 行 為に 当
たる 。
以 上 よ り 、甲 の 行 為 全 体 は 処 罰 の 対 象 に な り う る 。
二 、小 問2 につ いて
1 、過 失 を 犯 罪 論 体 系 の ど の 段 階 で 判 断 す る か は 、
刑法 理論 の対 立に 伴い 、争 いが ある。
客観 主 義 刑 法を 徹 底 さ せる 立 場 は 、判 断 対 象 も
客 観的 で あ る べき で あ る とす る 。 そ のた め 、 故 意
・ 過失 な ど の 主観 的 事 情 は、 責 任 段 階で 判 断 す る
こと にな る。
すな わ ち 、 過失 を 責 任 形式 と し 、 本人 に 結 果 発
生 の予 見 可 能 性が あ っ た か否 か に よ って 当 罰 性 を
判断 する とい うこ とに なる 。
2 、し か し 、 法律 上 要 求 され る 注 意 を払 っ て も 結
果 が避 け え な い場 合 ま で 、構 成 要 件 該当 性 が あ る
と して と り あ えず 処 罰 の 対象 と す る のは 不 当 で あ
る。
思う に 、 客 観主 義 と は 言え 、 判 断 基準 が 客 観 的
で ある こ と を 要求 し て い るの で あ り 、判 断 対 象 ま
で客 観的 であ る必 要は ない と解 する。
そこ で 、 過 失犯 は 法 律 上要 求 さ れ る注 意 義 務 違
反 とい う 違 法 行為 を 行 う もの と し て 、違 法 性 の レ
ベル でも 取り 上げ るべ きで ある 。
しか も 、 結 果が 不 可 抗 力で 発 生 す る場 合 は 構 成
要 件 該 当 性 も な い と い う べ き で あ る 。し た が っ て 、
過失 は構 成要 件の 問題 とも 考え るのが 妥当 であ る。
3 、 以 上 から 、 本 件 甲の 過 失 の 有無 は 、 ま ず構 成 要
件 段 階 で 取 り 上 げ 、判 断 を す べ き で あ る こ と に な る 。
な お 、 理論 的 に は その 後 の 違 法性 ・ 責 任 でも 過 失
の 有 無 が 影響 す る こ とに な る が 、構 成 要 件 段階 で 過
失 が あ る こと に な れ ば、 後 の 段 階で は こ れ があ る こ
と に な る 。事 実 上 、 構成 要 件 段 階以 降 で は 、過 失 の
有 無に つい ての 判断 をす る必 要は ない こと にな る。
以
-2-
上
【 論点 】過 失犯 の構 造
第 2問
A
次の ①各 場合 にお ける 甲の 罪責 につ いて 論ぜ よ。
1 、 ②甲 が行 使の 目的 を秘 し て、 教材 用と 偽っ て、 乙に 偽造 通貨 を作 らせ た場 合( 特別
法 違 反 の 点 は 無 視 せ よ )。
2 、③ 公務 員甲 が、 事情 を知 った 妻丙 に、 賄賂 を受 け取 りに 行か せた 場合 。
3 、 ④上 司甲 が、 情を 知っ た 丁に 命令 して 、ワ ープ ロを 用い て偽 造文 書を 作成 させ た場
合。
基 礎 点 20 点
各論 点 1 点
① すべ て間 接正 犯の 成否 が問 題と なる事 例で ある
【 論点 】実 行行 為の 意義
【 論点 】間 接正 犯処 罰の 根拠
② 行使 の目 的が ない 、教 材用 →作 成する 者は 犯罪 をす る意 図な し
→適 法行 為を 利用 した 道具 の典 型例
【 論点 】目 的な き故 意あ る道 具
③ 実際 に賄 賂を 受け 取っ た妻 には 身分は ない →間 接正 犯の 成否 が問 題と なる
↓
し かし
妻は 事情 を知 って いる →そ れで も道具 とい うこ とが でき るか ?
【 論点 】身 分な き故 意あ る道 具
④ 偽造 文書 の作 成 →直 接的 には 丁が して いる が? 丁は それ こ そ機 械的 に道 具と して 使わ れ
て いる のみ →清 書機 代わ り
【 論点 】故 意あ る幇 助的 道具
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 乙 は 偽造 通 貨 を 作っ て い る が、 行 使 の 目的 が な ● 直接 手を 下し た者 から
い 。 し た が っ て 、 乙 は 何 ら 罪 責 を 負 わ な い ( 148 条 1
項 参 照 )。
こ こ で 、乙 に 行 使 の目 的 を も って 偽 造 通 貨を 作 ら
せ た 甲 に は何 ら か の 犯罪 が 成 立 しな い の か 。甲 の 利
用 行為 に正 犯性 があ るか 検討 する 。
2 、思 う に 、 実行 行 為 と は、 当 該 構 成要 件 が 予 定
【 論点 】実 行行 為の 意義
する 結果 発生 の危 険を 有す る行 為であ る。
この よ う な 実行 行 為 は 行為 者 自 ら の手 で 行 わ れ
る のが 通 常 で ある 。 し か し、 こ れ も 道具 な ど の 助
けを 借り てい る場 合が 少な くな い。
-3-
【 論点 】間 接正 犯処 罰の 根拠
だ とす ると 、他 人 を自 己の 意の まま に使 い 、そ の
動 作や 行 為 を 自己 の 犯 罪 に利 用 す る 場合 に は 、 自
ら その 実 行 行 為を し た と 同一 に 考 え るこ と が で き
る 。こ の よ う な利 用 者 は 間接 正 犯 と して 処 罰 で き
ると 解す る。
ここ に 、 目 的が な い 者 は、 犯 罪 事 実を 認 識 し て
【 論点 】目 的な き故 意あ る道具
い ない か ら 、 違法 性 の 意 識を 喚 起 す る可 能 性 は な
い 。と す る と 、目 的 が な い者 は 被 利 用者 た り え 、
利用 者の 行為 支配 性は 認め られ る。
した がっ て、 この 場合 も間 接正 犯が 成立 する 。
3 、以 上よ り、 甲は 通貨 偽造 罪の 罪責 を負 う。
二 、小 問2 につ いて
1 、本 問 で は 、情 を 知 り なが ら も 身 分の な い 妻 を
【 論点 】身 分な き故 意あ る道具
利 用し て 賄 賂 の収 受 を 実 現し て い る 。こ の よ う な
甲 に 収 賄 罪 ( 197 条 1 項 ) の 正 犯 は 成 立 し な い か 。
2 、身 分 な い 者も 十 分 に 自分 の 行 為 の意 味 は 分 か
るか ら、 行為 支配 性は 認め られ ないと も思 える 。
し かし 、身 分な い 者は 犯罪 の中 心と して 行 動す る
意 識が な い か ら、 そ の よ うな 場 合 、 違法 性 の 意 識
を 喚起 す る 可 能性 が 著 し く低 い と い える 。 と す る
と、 行為 支配 性は 認め られ ると いえる 。
し た が っ て 、そ の よ う な 関 係 が 認 め ら れ る 限 り で 、 * そ も そ も 収 受 の 方 法 と し て 、 自
ら 受 け 取 る こ と を 197 条 1 項 は 要
間接 正犯 が成 立す る。
求 して いな い。 左の 結論 は当然
3 、 以 上 から 、 甲 が 正犯 で あ り 、丙 は 単 に 甲の 実 行 * こ の 場 合 、 道 具 と な っ た 者 は 幇
助 犯 ( 62 条 ) と し て 処 罰 さ れ る こ
行 為を 容易 にし てい るに 過ぎ ない 。
した がっ て、 甲は 収賄 罪の 罪責 を負 う。
と にな る。
三 、小 問3 につ いて
1 、本 小 問 で は、 被 利 用 者と 目 さ れ る丁 は 故 意 を
有 した 上 で 、 自ら 実 行 行 為を 行 っ て いる 。 こ の よ
う な 場 合 も 、 甲 に 文 書 偽 造 罪 ( 159 条 1 項 な ど ) が
成立 する のか 。
2 、思 う に 、 単な る 機 械 的行 為 を 行 って い る に 過
ぎ ない 場 合 は 、利 用 者 に とっ て 一 方 的に 利 用 さ れ
て いる 道 具 に 過ぎ な い 。 とす る と 、 行為 支 配 性 は
-4-
【 論点 】故 意あ る幇 助的 道具
肯定 され る。
した が っ て 、利 用 者 が 間接 正 犯 と して 処 断 さ れ
るこ とは あり うる と解 する 。
3 、 本 問 に お け る 丁 は 、 甲 の 命 令 に し た が っ て 、 機 * 被 利 用 者 は 幇 助 犯 ( 62 条 ) と さ
械 的 に 行 為を な し て いる に 過 ぎ ない 。 す な わち 、 本 れ る こ と に な る 。 共 同 正 犯 の 成 立
問 犯 罪 の 中心 は 甲 で あり 、 丁 は 甲の 犯 罪 の 実行 を 容 可 能性 もあ り。
易 にし てい るも ので ある 。
し た が って 、 甲 は 文書 偽 造 罪 の正 犯 と し ての 罪 責
を 負う 。
以
第 3問
上
B
次の ①各 場合 にお ける 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
1 、 甲は ②人 だと 知り なが ら 、加 害の 意図 をも って 、② マネ キン だか らと うそ をつ き、
乙 に人 をピ スト ルで 撃た せた 場合 。
2 、 甲は 、④ Aが 空手 の名 手 と知 りつ つ、 丙を 害す るた め、 これ に命 じて Aに 殴り かか
ら せ、 ⑤A の反 撃を 受け た丙 が怪 我を した 場合 。
基 礎 点 21 点
各論 点 1 点
① やは り各 事例 は間 接正 犯の 事例
【 論 点 】 実 行 行 為 の 意 義 、【 論 点 】 間 接 正 犯 処 罰 の 根 拠
② 結果 を左 右さ せよ うと いう 意思 、正犯 意思 あり
③ マネ キン を壊 す→ 無罪 では なく 、器物 損壊 の意 思が ある
【 論点 】異 なる 故意 犯の 利用
④ 結果 を左 右し よう とい う意 図が ある→ しか し、 結果 発生 はそ れほ ど確 実で はな い
この 点は 考慮 して もし なく ても よい
⑤ 反撃 を受 けた →正 当防 衛で 、適 法行為
【 論点 】適 法行 為の 利用
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 人だ と 知 り なが ら 、 客 観的 に は 情 を知 ら な
い 乙 に 殺 人 罪 ( 199 条 ) の 実 行 行 為 を さ せ て い る 。
た だ し 、 乙 に は 器 物 損 壊 罪 ( 261 条 ) の 故 意 が あ る * 特 に 問 題 文 に 甲 乙 の マ ネ キ ン と
か ら 、 こ のよ う な 乙 を利 用 す る 行為 に 殺 人 罪の 構 成 は ない ので 、他 人物 とみ てよい
-5-
要 件該 当性 が認 めら れる か。
2 、思 う に 、 実行 行 為 と は、 当 該 構 成要 件 が 予 定
【 論点 】実 行行 為の 意義
する 結果 発生 の危 険を 有す る行 為であ る。
この よ う な 実行 行 為 は 行為 者 自 ら の手 で 行 わ れ
【 論点 】間 接正 犯処 罰の 根拠
る のが 通 常 で ある 。 し か し、 こ れ も 道具 な ど の 助
けを 借り てい る場 合が 少な くな い。
だ とす ると 、他 人 を自 己の 意の まま に使 い 、そ の
動 作や 行 為 を 自己 の 犯 罪 に利 用 す る 場合 に は 、 自
ら その 実 行 行 為を し た と 同一 に 考 え るこ と が で き
る 。こ の よ う な利 用 者 は 間接 正 犯 と して 処 罰 で き
ると 解す る。
こ こ に 、乙 は 器 物 損 壊 罪 を 犯 す こ と に つ い て は 、
【 論点 】異 なる 故意 犯の 利用
十 分 の 同 意 が あ る 。 か つ 乙 は 器 物 損 壊 罪 ( 261 条 )
の 故意 を 有 し てい る に 過 ぎず 、 殺 人 罪を 犯 す こ と
の認 識が ない 。
かか る 事 情 は利 用 者 に よる 被 利 用 者へ の 行 為 支
配性 を肯 定す るに 十分 なも ので ある。
3 、 以 上 から 、 甲 の 利用 行 為 は 殺人 罪 の 実 行行 為 と
評 価で きる。し たが って、甲は 殺人 罪の 罪責 を負 う。
二 、小 問2 につ いて
1 、甲 は 丙 を 加害 す る た めに 、 A の 正当 防 衛 に 基
づ く行 為 を 利 用し よ う と して い る 。 この よ う な 甲
の 利 用 行 為 は 、 傷 害 罪 ( 204 条 ) の 実 行 行 為 と 評
価で きる か。
2、 正 当防 衛は 適 法行 為で ある から 、こ れ をす る
者 には 自 己 の 行為 が 犯 罪 を構 成 す る とい う 認 識 が
で きな い 。 と なる と 、 こ れを 利 用 す る者 に は 、 被
利用 者へ の行 為支 配性 が認 めら れると 解す る。
し たが って 、適 法 行為 を利 用し た場 合も 、 間接 正
犯と して 、当 該行 為の 実行 行為 性は認 めら れる 。
3 、 以 上 から 甲 の 利 用行 為 は 傷 害罪 の 実 行 行為 と 評
価 でき 、甲 は傷 害罪 の正 犯と して の罪 責を 負う 。
以
-6-
上
【 論点 】適 法行 為の 利用
* 小問 2に つい て反 対説
思う に、 相手 の 行為 は適 法行 為で ある が、 その よう な行 為 を道 具と して 利用 した 間接 正
犯 を認 める こと がで きる かに 見え る。
しか し、 本事 例 にお いて 法益 侵害 が計 画通 りに 発生 する か 否か につ いて は、 あま りに 偶
然 性の 介在 する 部分 が大 きい 。
した がっ て、 こ のよ うな 場合 は相 手の 道具 性は 肯定 でき ず 、間 接正 犯は 成立 しな いと 解
す る。
3 、本 小問 にお け る甲 の利 用行 為は 結果 発生 の類 型的 危険 に 欠け るか ら、 犯罪 の実 行行 為
と は評 価で きな い。 した がっ て、 甲は無 罪で ある 。
第 4問
A
医 師甲 は① X殺 害の 意図 を もっ て、 ②事 情を 知ら ない 看護 婦乙 に、 誤っ た処 方( これ
に 従 うと 、人 の死 の結 果を 発 生さ せる に十 分な 薬品 がで きる )に よる Xへ の投 薬の 指示
を した 。次 の各 場合 にお ける 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
1 、③ 乙が 途中 で処 方の 誤り に気 が付 き、 処方 を訂 正し たの で、 Xは 死な なか った。
2 、 ④乙 は途 中で 処方 の誤 り に気 が付 いた が、 甲の 意図 を汲 み、 その まま の処 方で 薬を
投 与し たが 、X は他 の看 護婦 の処 置に よっ て助 かっ た。
基 礎点
20 点
各 論点 1 点
① 殺人 罪の 故意 あり
② 故意 がな い看 護婦 を利 用→ 人が 死ねば 業務 上過 失致 死= 過失 犯を 利用 した 犯罪
間接 正犯 の成 否が 問題 とな る
【 論点 】実 行行 為の 意義
【 論点 】間 接正 犯処 罰の 根拠
③ 結果 見発 生→ 未遂 処罰 の有 無→ 実行の 着手 があ るか を検 討す る必 要
【 論点 】間 接正 犯に おけ る着 手時 期
④ 結果 不発 生に な った だけ では ない →甲 の意 図と は異 なり 、 乙は 途中 から 道具 性を 失っ て
い る( 投薬 があ るの で実 行行 為は あるが ?錯 誤論 との 関係 が問 題に なる )
【 論点 】故 意責 任の 本質 と故 意の 成立要 件
【 論点 】間 接正 犯と 錯誤
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 情 を 知 ら な い 乙 を 利 用 し て 殺 人 罪 ( 199 条 )
の 結 果 を 発生 さ せ よ うと し て い る。 ま ず 、 かか る 行
為 の実 行行 為性 は肯 定で きる か。
思う に 、 実 行行 為 と は 、当 該 構 成 要件 が 予 定 す
-7-
【 論点 】実 行行 為の 意義
る結 果発 生の 危険 を有 する 行為 である 。
この よ う な 実行 行 為 は 行為 者 自 ら の手 で 行 わ れ
【 論点 】間 接正 犯処 罰の 根拠
る のが 通 常 で ある 。 し か し、 こ れ も 道具 な ど の 助
けを 借り てい る場 合が 少な くな い。
だ とす ると 、他 人 を自 己の 意の まま に使 い 、そ の
動 作や 行 為 を 自己 の 犯 罪 に利 用 す る 場合 に は 、 自
ら その 実 行 行 為を し た と 同一 に 考 え るこ と が で き
る 。こ の よ う な利 用 者 は 間接 正 犯 と して 処 罰 で き
ると 解す る。
本 問 で は、 甲 は 情 を知 ら な い 乙を 利 用 し て殺 人 の
結 果 を 発 生さ せ よ う とし て い る 。こ こ に 甲 の支 配 可
能 性 は 認 めら れ 、 甲 の行 為 は 殺 人罪 の 実 行 行為 と 評
価 でき る。
2 、し か し 、 乙が 処 方 箋 を書 き 替 え てい る こ と か
【論点】間接正犯における着手時
ら 、殺 人 の 結 果が 発 生 し てい な い 。 そこ で 、 甲 は
期
殺 人 未 遂 罪 ( 199 条 ・ 203 条 ) の 成 否 が あ り う る 。
利用者標準説も被利用者標準説
こ の判 断 の た め、 間 接 正 犯の 実 行 の 着手 時 期 を い
も採らず、個別的に解する説を採
つと 解す るべ きか 。
っ た。
思 うに 、実 行の 着 手は 、具 体的 な犯 罪結 果 発生 の
危険 性が 現実 化し た時 点に 求め られる 。
そし て 、 多 くの 場 合 、 被利 用 者 に よる 行 為 に よ
って 危険 性が 現実 化す るの が通 常であ ると いえ る。
しか し 、 か かる 危 険 性 の発 生 は 、 個々 の 具 体 的
な事 案に よっ て変 わり うる もの である。とす ると、
間 接正 犯 に お いて も 、 実 行の 着 手 時 期に つ い て 利
用 者・ 被 利 用 者い ず れ を 基準 と す る と固 定 化 す る
こ とは 妥 当 で ない 。 場 合 によ っ て 、 実行 の 着 手 を
認 める に 必 要 な危 険 が 発 生し て い る かど う か を 個
別具 体的 に判 断す べき であ る。
本 問 で は、 途 中 で 処方 箋 が 書 きか え ら れ てい る か
ら 、 殺 人 の結 果 発 生 の現 実 的 危 険は 未 だ 発 生し て い
な いと 評価 でき る。
し た が って 、 甲 に は殺 人 未 遂 罪は 成 立 し ない 。 殺
人 予 備 罪 ( 201 条 ) が 成 立 す る に 過 ぎ な い 。
二 、小 問2 につ いて
本 問 甲 は、 間 接 正 犯の 故 意 で 、教 唆 犯 の 結果 を 発
-8-
生 さ せ て いる 。 こ の 場合 甲 の 故 意責 任 を 問 うこ と が
で きる か。
思う に 故 意 責任 の 本 質 は犯 罪 事 実 の認 識 に よ っ
て 違法 性 が 喚 起さ れ る の に、 あ え て 犯罪 に 及 ん だ
【論点】故意責任の本質と故意の
成 立要 件
点 に求 め ら れ る。 し た が って 、 自 己 の犯 罪 事 実 を
認 識・ 認 容 し た場 合 、 故 意責 任 を 問 うこ と が で き
ると 解す る。
こ こに 犯罪 事実 と は構 成要 件と して 刑法 上 類型 化
さ れて い る か ら、 原 則 と して 構 成 要 件に 該 当 す る
事実 さえ 認識 して いれ ば、 故意 責任を 問い うる 。
と すれ ば、 認識 し た内 容と 発生 した 事実 が およ そ
構 成要 件 の 範 囲内 で 符 合 して い れ ば 故意 を 認 め て
よい こと にな る。
逆に 、 構 成 要件 該 当 事 実の 認 識 が なけ れ ば 規 範
● 抽象 的事 実の 錯誤 があ る場合
の 問題 は 与 え られ な い か ら、 そ の よ うな 認 識 が な
い場 合に 行為 者を 処罰 する こと はでき ない 。
し たが って 、構 成 要件 の範 囲内 での 符合 も ない 場
合、 原則 とし て、 故意 は阻 却さ れる。
た だし 、構 成要 件 に実 質的 な重 なり 合い が 認め ら
れ る場 合 に は 、そ の 限 度 で違 法 性 の 意識 を 喚 起 で
き る。 し た が って 、 そ の よう な 場 合 には 、 故 意 責
任を 問い うる とい うべ きで ある 。
上 のよ うな 実質 的 重な り合 いの 有無 につ い ての 判
断 基準 と し て は、 ① 両 罪 の行 為 態 様 、及 び ② 被 侵
*犯罪の重要要素が行為態様と保
護 法益 だか ら
害法 益の 共通 性を もっ て判 断す べきで ある 。
ここ に 、 人 に働 き か け て犯 罪 を さ せる と い う 行
為 の重 要 部 分 につ い て 、 間接 正 犯 と 教唆 犯 の 間 に
重 なり 合 い が 認め ら れ る 。か つ 、 他 人を 利 用 し て
法 益侵 害 の 結 果を 発 生 さ せる 点 か ら して 、 間 接 正
犯の 故意 は教 唆犯 の故 意を 含む 。
し たが って 、軽 い 教唆 犯の 限度 で処 断す る のが 妥
当で ある 。
以 上 か ら 、 甲 は 殺 人 未 遂 罪 ( 199 条 ・ 203 条 ) の 教
唆 犯 ( 61 条 1 項 ) と し て 処 断 さ れ る 。
以
-9-
上
【 論点 】間 接正 犯と 錯誤
第 5問
A
① 甲 は車 で歩 行者 Aに 衝突 し 、A は重 傷を 負っ た。 その 後甲 は事 故の 発覚 を恐 れ、 ②A
の 死 の可 能性 を認 識し なが ら 、③ Aを 自己 の車 に乗 せた 上で Aの 捨て 場所 を探 して いる
う ちに 、A は死 亡し た。
衝突 後の 行為 につ いて 、甲 の罪 責を 論ぜ よ。
基 礎点
21 点
各 論点 2 点
① 業務 上過 失致 傷
② 故意 あり
③ 積極 的に 息の 根を 止め る行 為を してい るわ けで はな い
→た だし 、瀕 死の 者を 手当 もし ないで つれ 回す とい うの は?
【 論点 】実 行行 為の 意義
【 論点 】不 真正 不作 為犯 によ る犯 罪の成 否
解 答例
一、1、本問 甲は 重傷 を負 った Aを 自己 の車 に乗 せ、
結 果 、 A を死 亡 さ せ てい る の で 、そ の 行 為 は殺 人 罪
( 199 条 ) と 評 価 さ れ る 可 能 性 が あ る 。
しか し 、 甲 は死 の 結 果 が発 生 す る 積極 的 行 為 を
行 って い な い 。そ こ で 、 甲の 不 作 為 を殺 人 の 実 行
【論点】不真正不作為犯による犯
罪 の成 否
行為 と評 価で きる かを 検討 する 。
2、 ま ず 、 作 為 で 規 定 さ れ た 犯 罪 に つ い て 、 不 作 為
によ る実 行行 為性 を認 めら れる か。
思 うに 、実 行行 為 は犯 罪の 結果 発生 の現 実 的危 険
を 有す る 行 為 であ る 。 こ のよ う な 、 結果 発 生 の 危
【論点】実行行為の意義(不作為
に よる 実行 行為 があ りう るか)
険を 不作 為に よっ て実 現す るこ とはで きる
し たが って 、不 作 為に も実 行行 為性 を認 め るこ と
はで きる 。
2 、し か し 、 不作 為 犯 と は期 待 さ れ た作 為 を し な
い こと が 犯 罪 にあ た る 場 合で あ る の に、 構 成 要 件
● 構成 要件 の明 示が ない
→処 罰範 囲限 定の 必要 性
には 作為 義務 の内 容が 明示 され ていな い。
そ こで 、不 真正 不 作為 犯の 成立 を限 定す る 必要 が
あ る。 具 体 的 には 不 作 為 に、 作 為 に よっ て 当 該 構
- 10 -
● 構成 要件 的同 価値 性
成 要件 を 発 生 する こ と と の同 価 値 性 が認 め ら れ る
こと が必 要で ある と解 する 。
→作為によると同程度に、当該
不作為は具体的な危険が現実化さ
か よう な構 成要 件 的同 価値 性は 、① 結果 発 生の 現
せ るも のか どう か
実 的危 険 が 発 生し て い る こと ② 結 果 防止 の 可 能 性
● 判断 基準 の定 立
・ 容易 性 ③ 行 為者 に 作 為 義務 が あ る こと か ら 判 断
する 。
作 為義 務の 有無 は 、法 令・ 契約 ・事 務管 理 ・先 行
行為 等の 存在 など の総 合的 に判 断して 認め られ る。
二 、以 上を もっ て、 本問 事案 を検 討す る。
A は 車 でひ か れ た こと に よ っ て、 重 傷 を 負っ て い ● あて はめ
る の で 、 Aの 生 命 ・ 身体 と い う 法益 に 高 度 の危 険 が
生 じて いる 。
ま た 、 車で ひ い た のは 甲 で あ る上 、 A を 車に 引 き
込 ん で お り、 救 助 を なし う る 者 が自 分 し か いな い 状
況 を 作 り 出し て い る 。こ の よ う な事 情 か ら する と 、
甲 には 作為 義務 が認 めら れる 。
ま た 、 車を 用 い れ ば近 く の 病 院に A を 連 れて 行 く
な ど 適 当 な処 置 を と るこ と が で きた の で あ るか ら 、
結 果防 止の 可能 性も 認め られ る。
以 上 か ら、 そ れ 以 後の 不 作 為 には 作 為 と の構 成 要
件 的 同 価 値性 が 認 め られ る 。 す なわ ち 、 本 問甲 の 行
為 に は 殺 人罪 の 実 行 行為 性 を 満 たし 、 か か る甲 の 行
為 とA の死 の結 果と の因 果性 も認 めら れる 。
以上 より 、甲 は殺 人罪 の罪 責を 負う 。
以
第 6問
上
B
① 父親 甲は 周囲 に誰 もい ず 、か つ容 易に 助け られ るの に、 ②溺 れて いる 甲の 子供 乙を
助 けな かっ た。 次の 各事 情が ある 場合 の甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、③ 他の 子供 が溺 れて いる と思 った 場合
2 、④ 甲が 親は 子供 を救 助す る義 務は 全く ない と思 った 場合
基 礎 点 19 点
各論 点 2 点
① 作為 の容 易性 、作 為義 務の 発生 を根拠 づけ る事 実
② 甲の 子供 乙を 助け ない →不 作為 による 殺人 罪の 成立 可能 性
【 論点 】実 行行 為の 意義
【 論点 】不 真正 不作 為犯 によ る犯 罪の成 否
- 11 -
③ 他の 子供 がお ぼれ てい る→ 作為 義務を 認識 でき ない
④ 救助 する 義務 はな い→ 作為 義務 を認識 して いな い
【 論点 】作 為義 務の 錯誤
解 答例
一 、 1 、 甲は 救 助 義 務を 怠 っ て 、お ぼ れ る 子を 助 け
な い と い う 不 作 為 を な し て い る 。か か る 不 作 為 が「 殺
し た 」( 199 条 ) と い え る か 。 殺 人 罪 の 実 行 行 為 性 が
認 めら れる かが 問題 とな る。
2 、 (1) ま ず 、 作 為 で 規 定 さ れ た 犯 罪 に つ い て 、 不
【 論点 】実 行行 為の 意義
作為 によ る実 行行 為性 を認 めら れるか 。
【論点】不真正不作為犯による犯
思 うに 、実 行行 為 は犯 罪の 結果 発生 の現 実 的危 険
罪 の成 否
を 有す る 行 為 であ る 。 こ のよ う な 、 結果 発 生 の 危
険を 不作 為に よっ て実 現す るこ とはで きる
し たが って 、不 作 為に よる 行為 にも 実行 行 為性 を
認め るこ とは でき る。
(2) し か し 、 不 作 為 犯 と は 期 待 さ れ た 作 為 を し な い
こ とが 犯 罪 に あた る 場 合 であ る の に 、構 成 要 件 に
は作 為義 務の 内容 が明 示さ れて いない 。
そ こで 、不 真正 不 作為 犯の 成立 を限 定す る 必要 が
あ る。 具 体 的 には 不 作 為 に、 作 為 に よっ て 当 該 構
成 要件 を 発 生 する こ と と の同 価 値 性 が認 め ら れ る
こと が必 要で ある と解 する 。
(3) か よ う な 構 成 要 件 的 同 価 値 性 は 、 ① 結 果 発 生 の
現 実的 危 険 が 生じ て い る こと ② 結 果 防止 の 可 能 性
・ 容易 性 ③ 行 為者 に 作 為 義務 が あ る こと か ら 判 断
する 。
作 為義 務の 有無 は 、法 令・ 契約 ・事 務管 理 ・先 行
行為 等の 存在 など の総 合的 に判 断して 認め られ る。
3 、 本 問 甲は 作 為 義 務を 果 た す こと が 可 能 であ る に ● あて はめ
も 関わ らず 期待 され る行 為を なし てい ない 。
し か も 、他 に 誰 も いな い 場 合 であ る か ら 、甲 の 不
作 為 は 結 果発 生 の 危 険性 に お い て、 作 為 と 同価 値 で
あ ると いえ る。
し た が って 、 甲 の 不作 為 は 殺 人罪 の 実 行 行為 性 が
認 めら れる 。
- 12 -
二 、1 、 し か し、 甲 は 、 各小 問 と も 作為 義 務 を 具
【 論点 】作 為義 務の 錯誤
体 的に 認 識 し てい な い 。 そこ で 、 甲 に完 全 な 故 意
責任 を問 える かを 検討 する 。
2 、ま ず 、 か かる 錯 誤 が 犯罪 成 立 に どの よ う な 影
響 を与 え る か の判 断 を す るた め 、 作 為義 務 の 体 系
●構成要件要素か違法要素かによ
上地 位を どこ にお くか が問 題と なる。
って、理論的には結論が変わる可
こ の点 、保 証人 的 地位 を構 成要 件要 素、 保 証人 的
能性
義 務を 違 法 要 素と 二 分 し て処 理 す る 見解 が あ る 。
し かし 、 こ の よう な 区 分 は必 ず し も 明確 に な し う
るも ので はな い。
思 うに 、作 為義 務 ない 者の 不作 為を 一端 構 成要 件
● 規範 定立
に 該当 す る と 考え る の は 妥当 で な い 。そ こ で 、 作
為 義務 は 構 成 要件 該 当 性 にお け る 判 断と み る べ き
であ る。
た だし 、作 為義 務 は規 範的 構成 要件 要素 で ある 。
そ のよ う な 構 成要 件 要 素 につ い て は 、素 人 的 認 識
と して 作 為 義 務が あ る と の認 識 が あ れば 、 故 意 は
阻却 しな い。
3 、 具 体 的に は 、 他 の子 供 が 溺 れて い る と 考え た 場 ● あて はめ
合 は 、 作 為義 務 の 認 識を し え な いか ら 、 事 実の 錯 誤
と して 故意 は阻 却さ れる 。
それ に対 し て、 自分 の子 供が 溺 れて いる のに 助け な
く て よ い と考 え た 場 合、 素 人 的 認識 と し て 規範 の 問
題 は与 えら れて いた とい える 。
ここ で、 自 分が 助け なく てよ い と考 えた こと は単 な
る 違 法 性 の錯 誤 が あ った の み で ある 。 こ の 場合 、 故
意 は阻 却し ない と解 する 。
以 上 か ら、 小 問 1 の場 合 、 事 実の 錯 誤 と して 甲 の
故 意 は 阻 却 さ れ る 。 場 合 に よ っ て は 過 失 致 死 罪 ( 210
条 )が 成立 する 可能 性が ある のみ であ る。
こ れ に 対し て 、 小 問2 の 場 合 、甲 の 故 意 は阻 却 さ
れ ず、 甲は 殺人 罪の 罪責 を負 う。
以
第 7問
上
C
次の 各小 問に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 甲は Aを 殴っ たが 、意 外 にも Aは 打ち 所が 悪く て死 んで しま った 。甲 には 発生 した
- 13 -
① 重い 結果 につ いて 過失 がな かっ たと する 。
2 、 甲は 乙と 共同 でA を殴 っ たが 、意 外に もA は打 ち所 が悪 くて 死ん でし まっ た。 その
結 果 につ いて 、② 甲乙 いず れ の暴 行が 原因 かは 不明 であ る( 同時 傷害 の特 則は 傷害 致死
に は 適 用 し な い と せ よ )。
3 、 甲は 乙に Aを 痛め つけ る よう にそ その かし た。 乙は Aを 殴っ たが 、意 外に もA は打
ち 所 が 悪 く て 死 ん で し ま っ た 。甲 に は 発 生 し た 重 い 結 果 に つ い て 過 失 が な か っ た と す る 。
基 礎 点 19 点
各論 点 2 点
① 殴っ て死 んで し まう とい うこ とに 過失 がな いと いう こと が ある のか はさ てお きと して …
… 学説 によ って 結論 が変 わる ので 、この 論点 を書 く必 要→ 【論 点】 重い 結果 と過 失
② 原因 不明 でも 、共 同正 犯と いう ことに なれ ば、 全部 責任 なの で… …
【 論点 】結 果的 加重 犯の 共同 正犯
③ 教唆 者に 過失 がな い場 合
【 論点 】結 果的 加重 犯の 教唆
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は Aを 殴 り 、 結果 A は 死 亡し て い る から 、 傷
害 致 死 罪 が 成 立 す る 可 能 性 が あ る ( 205 条 )。
しか し 、 甲 に重 い 結 果 につ い て 過 失が な い 場 合
【 論点 】重 い結 果と 過失
で も致 死 の 結 果ま で 責 任 が問 わ れ る のか 。 結 果 的
*結果的加重犯の「重い結果の帰
加 重犯 の 成 立 のた め 、 重 い結 果 の 発 生に つ い て 過
責に過失が必要か」の論点は本問
失な いし 予見 可能 性は 必要 か。
のように、犯人に重い結果に過失
2 、こ の 点 、 責任 主 義 の 観点 か ら す れば 、 過 失 が
が ない 場合 しか 書か なく てよい 。
認 めら れ な い 限り 、 重 い 結果 に 責 任 は問 え な い か
に見 える 。
ほとんど書く機会がない論点。
他に各論点がなければ念のため書
し かし 、結 果的 加 重犯 にお ける 基本 行為 に は重 い
結 果を 発 生 さ せる 高 度 の 危険 性 を 内 包し て い る 。
か かる 基 本 行 為か ら 当 然 発生 が 予 想 され る 重 い 結
果 につ い て は 、仮 に 過 失 がな く と も 、結 果 を 予 見
すべ き義 務を 行為 者に 課し てい るとみ うる 。
し たが って 、基 本 とな る構 成要 件に 該当 す る行 為
と 重い 結 果 と の間 に 因 果 関係 が あ れ ば重 い 結 果 に
つい て責 任を 問え ると いう べき である 。
3 、 以 上 か ら 、 甲 は 問 題 な く 傷 害 致 死 罪 ( 205 条 )
の 罪責 を負 う。
二 、小 問2 につ いて
- 14 -
い てお く。
教唆・幇助の場合は特に書いて
お くと よい かも 。
1 、本 小 問 は 致死 の 結 果 がい ず れ の 暴行 が 原 因 と
【 論点 】結 果的 加重 犯の 共同正 犯
し て発 生 し た か不 明 確 な 場合 で あ る 。そ こ で 、 共
同 正犯 の 規 定 が加 重 結 果 につ い て ま で適 用 さ れ る
のか が問 題と なる 。
2 、思 う に 、 結果 的 加 重 犯の 処 罰 根 拠は 基 本 と な
る犯 罪に 重い 結果 発生 の危 険が ある点 にあ る。
と すれ ば、 基本 犯 を共 同し て犯 せば 、当 然 予想 さ
れ る重 い 結 果 につ い て ま で全 部 責 任 を問 う て よ い
と解 する 。
3 、 以 上 から 、 甲 は 致死 の 結 果 につ い て ま で責 任 を
負 う か ら 、 傷 害 致 死 罪 の 罪 責 を 負 う ( 205 条 )。
三 、小 問3 につ いて
1 、 本 問 で甲 は 傷 害 の教 唆 し か なし て い な いか ら 、
重 い 結 果 につ い て ま で責 任 を 負 うの か 。 基 本犯 の 教
唆 の 結 果 、正 犯 者 が 重い 結 果 は 引き 起 こ し た場 合 、
教 唆犯 にい かな る責 任を 問い うる か。
2 、思 う に 、 結果 的 加 重 犯の 処 罰 根 拠は 基 本 と な
【 論点 】結 果的 加重 犯の 教唆
る犯 罪に 重い 結果 発生 の危 険が ある点 にあ る。
とす れ ば 、 正犯 に 加 担 した 者 に も 、当 然 予 想 さ
れ る重 い 結 果 につ い て ま で責 任 を 問 うて よ い と 解
する 。
3 、 し た がっ て 、 正 犯に 教 唆 し て犯 罪 に 加 担し た 甲
は 、 傷 害 致 死 罪 ( 205 条 ) の 教 唆 犯 ( 61 条 ) の 罪 責
を 負う 。
以
第 8問
上
C
次の 各小 問に おけ る刑 法上 の問 題点 を論 ぜよ 。
1 、 ① 甲 乙 が (意 思 の 連 絡 な く )A を 殺 そ う と 、 同 じ ウ イ ス キ ー に 致 死 量 の 毒 を 入 れ た 結
果 、A がそ のウ ィス キー を飲 んで 死亡 した 場合
2 、 ②丙 が車 でB をひ いて 、 Bは 死亡 した が、 丙が ひか なく ても 、後 続の 丁が 車で ひい
た であ ろう と思 われ る場 合
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
- 15 -
① 典型 的な 択一 的競 合の 事例 →致 死量の 毒で なけ れば 、論 点が 生じ ない こと にも 注意
【 論点 】択 一的 競合
② 典型 的な 仮定 的因 果関 係の 事例
【 論点 】仮 定的 因果 関係
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 問 甲乙 は 、 殺 意を も っ て 致死 量 の 毒 をウ ィ ス
キ ー に 入 れ、 こ れ を Aが 飲 ん で 死亡 し て い るか ら 、
両 者 に 殺 人 罪 ( 199 条 ) の 正 否 が 問 題 と な る 。
しか し 、 両 者の 行 為 と 結果 と の 条 件関 係 の 有 無
を 、「 あ れ な け れ ば こ れ な し 」 の 公 式 を も っ て 判
定 する と 、 甲 の行 為 が な くて も A は 死亡 し た し 、
乙 の行 為 が な くて も A は 死亡 し た と いえ る 。 こ の
よ うな 場 合 に も甲 乙 の 行 為と 死 の 結 果と の 間 に 条
件関 係が 認め られ るか 。
2 、思 う に 、 甲乙 が 致 死 量の 半 分 の 毒し か 入 れ て
い な い場 合 な ら ば 、 2 人 の 行 為と 死 の 結 果 と の 間
に 条件 関 係 が 認め ら れ る こと と の 均 衡を 図 る 必 要
が ある 。 危 険 な行 為 を し なが ら 未 遂 に止 ま る の も
不合 理で ある 。
そ こで 、条 件関 係 の公 式を 修正 し、 いく つ かの 行
為 のう ち 、 す べて の 場 合 を除 け ば 結 果が 発 生 し な
い 場合 、 す べ ての 条 件 に つき 条 件 関 係を 認 め る と
すべ きで ある 。
こ のよ うに 解す れ ば、 甲乙 双方 の行 為を 除 けば 結
果 が発 生 し な いか ら 、 条 件関 係 は 認 めら れ 、 妥 当
な結 論を 導き うる 。
以 上 か ら、 甲 乙 双 方の 行 為 と Aの 死 の 結 果と の 間
に 条件 関係 が認 めら れる 。
3 、 し た がっ て 、 甲 乙は 他 の 事 情が な い 限 り、 殺 人
罪 の 罪 責 を 負 う ( 199 条 )。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 問 丙は 、 誤 っ てB を 車 で 引い た と 考 えら れ る
か ら 、業 務 上 過 失 致 死 罪 が 成 立 す る 可 能 性 が あ る( 211
条 )。
- 16 -
【 論点 】択 一的 競合
2 、し か し 、 条件 関 係 の 公式 か ら す ると 、 丙 の 行
【 論点 】仮 定的 因果 関係
為 がな く て も 結果 が 発 生 して い た と いう こ と で 、
B の死 と 丙 の 行為 と の 間 に条 件 関 係 がな い と い う
こと にな りそ うで ある 。
思 うに 、条 件関 係 は現 実に 発生 した 行為 と 具体 的
に 発生 し た 結 果に お い て 判断 さ れ る べき で あ り 、
仮 定的 な 他 の 事実 を つ け 加え て 判 断 する こ と は 許
され ない とい うべ きで ある 。
した がっ て 、本 問事 例で は。 あ くま で丙 がB をひ か
な け れ ば 結果 は 発 生 しな か っ た から 、 条 件 関係 は あ
る とい うべ きで ある 。
3 、 以 上 から 、 特 段 の事 情 の な い限 り 丙 に は業 務 上
過 失 致 死 罪 ( 211 条 ) が 成 立 す る こ と に な ろ う 。
以
第 9問
上
A
次の 各事 案に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1
①甲 は傷 害の 故意 をも っ てA を殴 った 。A は大 けが をし 、病 院に 運び 込ま れた が、
② そ こで 医師 乙が Aを 殺す つ もり で故 意に 手術 ミス を犯 し、 ③結 果と して 、A は死 亡し
た。
2
①甲 は傷 害の 故意 をも っ てA を殴 った 。A は大 けが をし 、病 院に 運び 込ま れた が、
② そこ で医 師乙 が手 術ミ スを 犯し 、③ 結果 とし て、 Aは 死亡 した 。
3
甲は 傷害 の故 意を もっ て 今年 で老 女A を殴 った 。こ れは 通常 人で あれ ば死 に至 らな
い よ うな もの であ った が、 A は心 臓に 病変 を持 って いた 関係 で、 心臓 麻痺 が起 き、 ショ
ッ ク死 して しま った 。
基 礎 点 22 点
① 傷害 の故 意を もっ て暴 行、 Aは ケガ→ 少な くと も傷 害罪 には なる
② 医師 乙の 治療 ミス が介 在→
【 論点 】因 果関 係の 判断 方法
相当 因果 関係 説を 採っ た場 合→ 基礎事 情を どの よう に考 える かも 検討 する
③ 死の 結果 が発 生→ 傷害 致死 罪の 正否を 検討 する
* 相当 因果 関係 説
1点
基礎 事情 の内 容
1点
あて はめ
1点
解 答例
- 17 -
一 、 1 、 いず れ の 事 案も 甲 は A に暴 行 を 行 い、 結 果
と し て A は 死 亡 し て い る か ら 、 傷 害 致 死 罪 ( 205 条 )
が 成立 する 可能 性が ある 。
しか し 、 本 件死 亡 の 結 果は 乙 の 過 失行 為 を 直 接
の 原因 と す る もの で あ る 。そ こ で 、 甲の 行 為 と 死
【 論点 】因 果関 係の 判断 方法
● 条件 説か 、相 当因 果関 係説 か
亡 の結 果 と の 間に 因 果 関 係は 認 め ら れる か 。 因 果
関係 の存 否に つい ての 判断 方法 が問題 とな る。
2 、( 因 果 関 係 の 判 断 方 法 に つ い て 、 条 件 関 係 が
● 条件 説へ の批 判
あれ ば、 即因 果関 係が ある とす る見解 があ る。
し かし 、条 件関 係 は無 限に 広が るお それ が ある か
ら 、犯 罪 の 成 立範 囲 を 妥 当な 範 囲 に 限定 す る こ と
がで きな くな るお それ があ る。
上 記説 によ る不 当 な結 果を 避け るた めに 、 因果 関
● 中断 論へ の批 判
係 の進 行 中 に 他の 行 為 、 事実 が 介 入 する 場 合 は 、
因 果関 係 が 中 断す る と す る理 論 を 導 入す る こ と も
考え られ る。
し かし 、条 件関 係 が存 在す るの に因 果関 係 の存 在
を 否定 す る の は条 件 説 自 体の 否 定 と いう べ き で あ
る 。)
思 うに 、構 成要 件 は社 会通 念か ら処 罰す べ き行 為
を 類型 化 し た もの で あ る 。と す れ ば 、構 成 要 件 該
●自説=相当因果関係説の理由付
け
当 性の 判 断 に おい て は 、 行為 者 に 責 任を 帰 属 さ せ
る のが 社 会 通 念上 妥 当 な 結果 だ け を 選び 出 す べ き
であ る。
し たが って 、社 会 通念 上通 常そ の行 為か ら その 結
果 が発 生 す る こと が 相 当 と認 め ら れ る場 合 に 因 果
関係 の存 在を 認め るの が妥 当で ある。
二 、1 、 そ れ では 、 そ の よう な 相 当 性判 断 の た め
に は、 い か な る事 情 を 基 礎と し て 考 える の が 妥 当
か。
思う に 、 経 験則 上 偶 然 的結 果 で な いも の を 基 礎
事 情か ら 排 除 する こ と は でき な い 。 一方 で 、 行 為
者 にと っ て 偶 然的 事 情 で ない も の を 帰責 の 範 囲 か
ら除 外す る必 要も ない 。
し たが って 、一 般 人が 認識 しえ た事 情と 行 為者 が
特 に認 識 し て いた 事 情 を 因果 関 係 の 基礎 事 情 と 考
える のが 妥当 であ る。
- 18 -
● 基礎 事情 をど のよ うに 考える か
三 、1 、以 上を もっ て各 小問 を検 討す る。
● あて はめ
ま ず 小 問1 に つ い て、 担 当 医 があ え て 患 者を 殺 害 * 社会 的相 当性 の判 断方 法
す る と い うの は 異 常 事態 で あ り 、か か る 結 果は 甲 の
行為と結果との間に「ありうる
傷 害 行 為 から 発 生 す るに 相 当 な もの で あ る とは い え こ と だ 」 と い う 関 係 が あ れ ば 十 分
な い。
である。因果関係の問題は、因果
し た が って 、 A の 死の 結 果 を 甲に 帰 責 す るこ と は の 過 程 に 極 め て 偶 然 的 な 事 情 が 介
で きな い。 Aは 傷害 罪の 限度 で責 任を 負う 。
在した場合に因果関係を否定する
2 、 次 に 小問 2 に つ いて 、 甲 は 手術 が 必 要 なほ ど の 点 にあ るか らで ある 。
大 け が を Aに 負 わ せ てい る 。 そ して 、 そ の よう な 手
因果関係が切れるのは、他人の
術 の 中 で 、医 者 の 治 療ミ ス が あ るこ と は 一 般人 も 認 故 意 行 為 、 き わ め て 重 大 な 過 失 に
識 でき る事 情と いう べき であ る。
基づく行為、自然的事情が介入し
し た が って 、 甲 の 行為 と 乙 の 死の 結 果 と の間 に は た とき に限 られ る。
因 果関 係が 認め られ る。
以上 から 、甲 は傷 害致 死罪 の罪 責を 負う 。
3 、 最 後 に小 問 3 に つい て 、 一 般人 の 認 識 とし て 、
老 女 の 心 臓に 病 変 が ある と い う こと を 知 る こと は で
き な い 。 しか し 、 老 女で あ る 以 上、 何 ら か の病 変 を
持 って いる とい うこ とは 意外 なこ とで はな い。
そ の 意 味で 、 こ れ に暴 行 を 加 えた 弾 み で 、被 害 者
が 死 に 至 る と い う こ と は 、十 分 あ り う る こ と で あ る 。
し た が って 、 A の 死の 結 果 に つい て 甲 に 帰責 す る
こ とは 可能 であ る。
以
第 10 問
上
B
① 甲 は強 盗を 計画 し、 押し 入 るた め家 を調 査し 、凶 器の ピス トル も注 文し たが 、宝 くじ
② が あた り、 金回 りが よく な った ので 強盗 の実 行を 中止 し、 ピス トル の注 文を 取り 消し
た。
甲の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 17 点
各論 点 2 点
① 強盗 予備 罪と して 十分 な行 為を 行って いる
② しか し、 強盗 を予 備段 階で 、中 止して いる →甲 に中 止犯 の規 定の 適用 はな いか 。
【 論点 】中 止犯 の必 要的 減免 の根 拠
【 論 点 】「 自 己 の 意 思 に よ り 」 止 め た と 言 え る に は ?
【 論 点 】「 中 止 」 の 意 義
【 論点 】予 備と 中止 犯
- 19 -
解 答例
一 、 1 、 甲は 強 盗 の 手段 と し て の調 査 ・ 凶 器の 注 文
を し て い る の で 、 強 盗 予 備 罪 ( 237 条 ) の 罪 責 を 負
う かに みえ る。
しか し 、 宝 くじ が あ た った こ と を きっ か け に 、
【 論点 】予 備と 中止 犯
犯 罪の 実 行 を 中止 し て い るの で 、 こ れに 予 備 罪 へ
の中 止犯 の規 定が 適用 でき ない か。
2 、予 備 行 為 には 、 中 止 が考 え ら れ ない と し て 、
予 備犯 に 中 止 未遂 の 規 定 は適 用 さ れ ない と も い い
うる 。
し かし 、実 行し て から 止め れば 免除 の可 能 性が あ
る こと か ら し て、 実 行 し た方 が 有 利 にな る と い う
結論 は是 認で きな い。
そ こ で 、 43 条 但 書 の 準 用 を 認 め る べ き で あ る 。
3 、次 に 、 減 免の 基 準 と なる 刑 は ど こに 認 め る べ
*判例は予備罪に中止犯の規定は
きか 。
全 部適 用し ない とす る。
こ の 点 、予 備 罪 を 基 準 と す べ き と す る 説 も あ る が 、
予 備罪 は 基 本 犯を 減 軽 し たも の で あ るか ら 、 こ れ
以上 減軽 する こと はで きな い。
し たが って 、免 除 のみ を準 用す べき とい う べき で
ある 。
二 、 1 、「 自 己 の 意 思 」( 43 条 但 書 ) で 止 め た と い
【 論 点 】「 自 己 の 意 思 に よ り 」 止
え るか 否 か の 判断 基 準 を いか に 解 す べき で あ る か
め たと 言え るに は?
問題 とな る。
2 、( 中 止 犯 に お い て 、 刑 が 必 要 的 に 減 免 さ れ る
【論点】中止犯の必要的減免の根
( 43 条 但 書 ) 根 拠 に つ い て 、 犯 罪 を 思 い と ど ま っ
拠
た者 に褒 賞を 与え るこ とに 求め る見解 があ る。
*反対説批判をすると論証が長く
し か し 、刑 の 必 要 的 減 免 を 認 め る に 過 ぎ な い 以 上 、 な る の で 、 書 か な く て も よ い
犯 罪の 完 成 を 阻止 す る 効 果は そ れ ほ ど期 待 で き な
い 。 と す る と 、 政 策 の み で は 説 明 で き な い 。)
思 うに 、犯 罪結 果 の完 成を 思い とど まっ た 行為 者
に 対し て は 、 国民 の 規 範 意識 か ら 見 て非 難 は 弱 ま
る。
も っと も、 中止 犯 の規 定に よる 犯罪 防止 の 効果 は
- 20 -
● 自説
皆 無で は な い し、 結 果 発 生し た 場 合 、刑 法 は い か
に 責任 が 減 少 して も 犯 罪 が成 立 す る もの と し て い
る。
し たが って 、責 任 減少 に加 え、 政策 的理 由 を合 わ
せて 考え るべ きで ある 。
3 、か よ う に 責任 阻 却 を 必要 的 減 免 の根 拠 と み る
● 責任 減少 説→ 主観 説
な らば 、 外 部 的傷 害 の 影 響を 受 け ず 自発 的 に 中 止
し たか 否 か を もっ て 、 任 意性 を 判 断 する と の 立 場
をと るこ とが 考え られ る。
しか し 、 人 の意 思 決 定 は何 ら か の 外部 的 事 情 に
基 づい て な さ れる の が 通 常で あ る か ら、 こ れ に 触
発 され た か ら とい っ て 、 すべ て 自 発 性を 否 定 す る
のは 妥当 でな い。
ま た、 中止 の意 思 に積 極的 な後 悔を 要求 す るこ と
● 限定 主観 説の 批判
も 考え ら れ る 。し か し 、 中止 犯 は 単 に刑 の 必 要 的
減 免事 由 に す ぎな い か ら 、そ の よ う な後 悔 の 要 求
は厳 格に 過ぎ る。
そ こで 、い かな る 外部 的事 情が ある かを 判 断し 、
● 折衷 説
か かる 外 部 的 事情 に 触 発 され た に せ よ、 自 由 な 意
責任 減少 →行 為者 を基 準とす る
思 によ っ て 中 止し た と い える な ら ば 、任 意 性 あ り
*批判が自説の理由付けにもなる
とし てよ い。
か ら、 論証 はこ のま まで よい
つ まり 、中 止犯 の 成否 につ いて は、 行為 者 が犯 罪
の 完成 を 妨 げ る認 識 を も たず 、 た と えで き る と し
ても 欲し ない こと をも って たり ると解 する 。
三 、 1、 さ ら に 、 犯 罪 を 「 中 止 し た」( 43 条 但 書 )
【 論 点 】「 中 止 」 の 意 義
とい える には 、ど の程 度の 行為 が必要 か。
こ の点 、着 手未 遂 にお いて は、 未だ 実行 行 為は 終
了 して い な い から 、 単 に 実行 行 為 を 止め れ ば た り
る。
( それ に 対 し て、 実 行 未 遂の 場 合 、 既に 実 行 行 為
*本問では、実行行為の着手はな
が 完了 し て い るか ら 、 実 行行 為 を 中 止で き な い 。
いので、必ずしも実行未遂のこと
し たが っ て 、 結果 発 生 防 止の 努 力 が 必要 で あ る と
ま で明 らか にす る必 要は ない
いう べき であ る。
した 方が 丁寧 とい う程 度
そ して 、中 止行 為 は報 償を 与え るに 値す る もの で
あ る必 要 が あ るか ら 、 そ の努 力 は 真 摯な も の で あ
る 必 要 が あ る と 解 す る 。)
- 21 -
2 、 以 上 をも っ て 本 問を 検 討 す ると 、 金 回 りが よ く ● あて はめ
な る と い うこ と は 、 強盗 計 画 を 取り や め る 決定 的 な
要 素 で は ない 。 に も かか わ ら ず 甲は 強 盗 の 実行 を や
め て い る から 、 甲 に は中 止 犯 の 規定 の 準 用 が認 め ら
れ る。
た だ し 、強 盗 の 刑 を減 軽 し て も予 備 罪 の 刑よ り も
重 く な る ( 236 条 参 照 )。 し た が っ て 、 免 除 の み が 準
用 さ れ 、免 除 が 認 め ら れ な い 場 合 は 通 常 の 予 備 罪( 237
条 )が 成立 する とい うべ きで ある 。
以
第 11 問
上
A
次の 各場 合に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 ①甲 はA に殺 意を もっ て 毒を 飲ま せた が、 その 後② 甲は 後悔 し、 医者 に連 れて 行く
な ど 必死 の介 護を 行っ た。 ③ 乙は 死な なか った が、 そも そも 甲が 飲ま せた 薬物 は致 死量
に 達し てい なか った 場合
2 、 甲は 乙に 殺意 をも って 毒 を飲 ませ たが 、④ その 後甲 は後 悔し 、医 者に 連れ て行 くな
ど 必死 の介 護を 行っ た。 にも かか わら ず乙 が死 亡し た場 合。
基 礎点
21 点
各 論点 1 点
① この 時点 で殺 人未 遂罪 が成 立す るのは 決定
② 後悔 し、 介護 を行 う→ 中止 犯が 問題に なる
「 必死 の介 護」 → 中止 行為 の程 度を 論じ たく なる (中 止行 為 とし て十 分だ とい う観 点か ら
は 論 じ な く て よ い と な り そ う だ が 、 い か に も 論 証 を 誘 っ て い る よ う な の で )。 論 じ た 方 が
よ い。
【 論点 】中 止犯 の必 要的 減免 の根 拠
【 論 点 】「 中 止 」 の 意 義
③ 致死 量に 達し てい なか った →中 止行為 と結 果の 不発 生と の間 に因 果関 係が ない 場合
【 論点 】中 止行 為は あっ たが 、そ もそも 結果 が発 生し えな かっ たと いえ る場 合
④ 中止 行為 を行 った →結 果発 生し てしま った 以上 、未 遂で はな い点 に注 意
→一 度や った こと の巻 き戻 しは きかな い
【 論点 】中 止行 為に も関 わら ず結 果が発 生し た場 合
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 毒物 を 乙 に 飲ま せ て い る。 毒 物 が 致死 量 に * 不能 犯の 論証 も書 いた 方が丁 寧
達 し て い なく と も 、 死の 結 果 に つい て 現 実 的危 険 性
- 22 -
は 認 め ら れ る 。 し た が っ て 、 殺 人 罪 ( 199 条 ) の 実
行 行為 性は 認め られ る。
2 、 (1) し か し 、 甲 は 実 行 行 為 終 了 後 必 死 の 介 護 を
【論点】中止犯の必要的減免の根
行 って い る か ら中 止 犯 の 規定 は 適 用 でき な い か 。
拠
中 止行 為 と 結 果不 発 生 の 間に 因 果 関 係が 必 要 で あ
*中止の任意性について、本問で
るか が問 題と なる 。
は、この要件は明らかにあると思
思 う に 、 中 止 犯 ( 43 条 但 書 ) に お い て 、 刑 が 必
わ れる ので 、省 略で きる 。
要 的に 減 免 さ れる 根 拠 は 、一 次 的 に は、 犯 罪 を 思
いと どま った 者に 対す る褒 賞と いうべ きで ある 。
しか し 、 同 条は 刑 の 必 要的 減 免 を 認め る に 過 ぎ
な い以 上 、 犯 罪の 完 成 を 阻止 す る 効 果は そ れ ほ ど
期 待で き な い 。し た が っ て政 策 の み では 説 明 で き
ない 。
ここ で 、 犯 罪結 果 の 完 成を 思 い と どま っ た 行 為
者 に対 し て は 、国 民 の 規 範意 識 か ら 見て 非 難 は 弱
まる とい える 。
した が っ て 、政 策 的 理 由に 加 え て 、責 任 減 少 を
合わ せて 考え るべ きで ある 。
そし て 、 本 問事 案 に つ いて も 責 任 減少 は 認 め ら
【論点】中止行為はあったが、そ
れ るし 、 褒 賞 も与 え る べ きで あ る 。 また 、 致 死 量
もそも結果が発生しえなかったと
の 毒を 飲 ま せ た後 、 結 果 発生 を 防 止 した と き と の
い える 場合
均衡 を図 る必 要が ある 。
よっ て 、 中 止行 為 と 結 果不 発 生 の 間に 因 果 関 係
が ない た め 、 中止 犯 の 規 定は 適 用 で きな い が 、 準
用を 認め るべ きで ある 。
(2) さ ら に 、 犯 罪 を 中 止 し た と い え る に は 、 ど の 程
度の 行為 が必 要か 。
この 点 、 着 手未 遂 に お いて は 、 未 だ実 行 行 為 は
終 了し て い な いか ら 、 単 に実 行 行 為 を止 め れ ば た
りる 。
これ に 対 し て、 実 行 未 遂の 場 合 、 既に 実 行 行 為
が完 了し てい る。
した が っ て 、結 果 発 生 防止 の 努 力 がな け れ ば 、
犯 罪を 中 止 し たと は い え ない 。 か つ 、中 止 行 為 は
褒賞 を与 える に値 する もの であ る必要 があ るか ら、
少 なく と も 、 その 行 為 は 結果 発 生 を 妨げ る に 必 要
- 23 -
【 論 点 】「 中 止 」 の 意 義
かつ 相当 なも ので ある 必要 があ る。
3 、 本 問 は甲 の 実 行 行為 は 終 了 して い る 。 しか し 、
右 に 述 べ た程 度 の 結 果発 生 防 止 の努 力 が 甲 には 認 め
ら れる 。
以 上 か ら 、 甲 に は 殺 人 未 遂 罪 ( 203 条 、 199 条 ) が
成 立 す る が 、 中 止 犯 の 規 定 ( 43 条 但 書 ) の 準 用 に よ
っ て刑 が減 免さ れる 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 問 では 、 甲 は 殺人 罪 の 実 行行 為 を 行 い、 か つ
結 果 が 発 生し て い る 。こ の 場 合 、結 果 が 発 生し た 以
上 、 中 止 犯の 規 定 の 適用 は な い 。中 止 犯 の 規定 は 未
遂 の 場 合 の 規 定 だ か ら で あ る ( 43 条 参 照 )。
もっ と も 、 責任 減 少 の 点を 考 慮 す ると 、 中 止 犯
の 規定 を 準 用 すべ き と も 言え そ う で ある の で 、 こ
【論点】中止行為にも関わらず結
果 が発 生し た場 合
の点 を検 討す る。
2 、 思 う に 、 43 条 は 未 遂 犯 の 条 文 で あ る か ら 、 中
止 犯の 規 定 は 結果 不 発 生 の場 合 に 限 定さ れ る と み
るべ きで ある 。
す なわ ち法 は、 結 果が 発生 した 場合 は報 償 を与 え
るべ きで ない とし てい ると 解さ れる。
よ って 、結 果が 発 生し た場 合に は中 止犯 の 規定 の
準用 もな い。
3 、 以 上 から 、 甲 は 殺人 罪 の 罪 責を 負 い 、 中止 犯 の
規 定の 適用 はな い。
以
第 12 問
上
A
次の 各事 案に おい て、 甲は 殺人 未遂 罪の 罪責 を負 うか 。
1
①甲 は夜 A家 の寝 室付 近 に向 かっ て、 ライ フル を乱 射し たが 、② その 夜A はた また
ま 旅行 に出 かけ てお り、 その 部屋 には 誰も いな かっ た。
2
②甲 はA に毒 入り ウイ ス キー を飲 ませ て殺 そう とし たが 、③ 毒は 致死 量に 達せ ず、
A は死 なな かっ た。
3
③甲 はA に硫 黄入 りウ イ スキ ーを 飲ま せて 殺そ うと した が、 硫黄 には 人を 殺す 毒性
は ない ので 、A は死 なな かっ た。
- 24 -
基 礎点
20 点
① 相当 危な い人 …… ?常 識で 考え て、殺 人罪 の実 行行 為性 あり とい うべ きで すが 。
② 誰も いな い→ た また まと はい え、 当該 その 事案 につ いて は 絶対 に死 の結 果が 発生 しな い
と 思わ れる 。
【 論点 】不 能犯 と未 遂犯 の区 別
問題 提起
1点
基礎 事情 の内 容
あて はめ
1点
1 点× 3( 各小 問ご と)
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 の ラ イ フ ル を 乱 射 し た 行 為 に は 殺 人 罪 ( 199
条 )の 実行 行為 性が 認め られ るか に見 える 。
しか し 、 目 的と な っ た 部屋 に は 誰 もい な か っ た
わ けで あ る か ら、 客 観 的 には 殺 人 の 結果 発 生 の 危
険は 皆無 であ った とも いえ る。
そこ で 、 行 為に 処 罰 に たる だ け の 危険 性 が あ る
か 、そ れ と も 不能 犯 と し て処 罰 の 対 象か ら は ず さ
れる か、 その 区別 が問 題と なる 。
2 、( こ の 点 、 危 険 性 を 行 為 時 に 存 在 し た 全 事 情 、
お よび 行 為 後 の事 情 ま で 含め 事 後 的 に純 客 観 的 に
判断 すべ きと する 説が ある 。
し かし 、こ のよ う に考 える なら ば、 すべ て の未 遂
犯 は 不 能 犯 と い う こ と に な り か ね な い 。)
思 うに 刑法 は一 般 人へ の行 為規 範で ある 。 した が
っ て、 一 般 人 から 判 断 し て結 果 発 生 の危 険 性 が あ
る場 合の 可罰 性は 認め るべ きで ある。
ま た、 基礎 事情 に 特に 行為 者が 知っ てい た 事情 を
取 り込 ま な け れば 、 妥 当 な結 論 を 導 くこ と は で き
な い 。( た と え ば 、 砂 糖 を 飲 ま せ る 行 為 は 一 般 に
危 険性 は な い 。し か し 、 被害 者 が 重 度の 糖 尿 病 患
者 であ る こ と を行 為 者 が 特に 認 識 し てい る 場 合 を
不 能 犯 と す る こ と は で き な い 。)
以 上か ら、 行為 時 に一 般人 が認 識し 得た 事 情、 及
び 行為 者 が 特 に認 識 し て いた 事 情 を 基礎 に し て 、
一 般人 を 基 準 に具 体 的 危 険の 有 無 を 判断 す る の が
妥当 であ る。
- 25 -
【 論点 】不 能犯 と未 遂犯 の区別
● 客体 の不 能の 事例
3 、 以 上 をも っ て 本 問事 案 を 検 討す る と 、 一般 人 な ● あて はめ
ら ば 、 家 に人 が い る 可能 性 は あ りう る と 考 える は ず
で あ る 。 その よ う な 家に 向 か っ て銃 を 乱 射 すれ ば 、
人 の 死 の 結果 発 生 の 具体 的 危 険 は生 じ る と いう べ き
で ある 。
した がっ て、 甲は 殺人 未遂 罪の 罪責 を負 う。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 小 問甲 は 、 毒 を飲 ま せ て Aを 殺 そ う とし て い ● 不能 犯で も、 方法 の不 能の問 題
る が 、 結 果は 発 生 し てい な い の で、 殺 人 未 遂罪 の 成
否 を検 討す る。
2、甲が 飲ませ た毒 は致 死量 に達 する もの では ない。 ● あて はめ
し か し 、 その 薬 物 に は、 量 に よ って は 人 を 殺害 す る
毒 性 が あ る以 上 、 こ れを 飲 ま せ る行 為 は 、 一般 人 の
判 断か らす れば 十分 に危 険性 が感 じら れる 。
した がっ て、 甲は 殺人 未遂 罪の 罪責 を負 う。
三 、小 問3 につ いて
1 、 本 問 甲の 硫 黄 を 飲ま せ る 行 為に 殺 人 罪 の実 行 行 * 毒と 硫黄 の違 い
為 性が 認め られ るか 。同 様に 検討 する 。
→致死量があるかどうか、さら
硫 黄 は もと も と 人 に対 し て 毒 性が な い 以 上、 こ れ に 致 死 量 に 達 す る こ と は さ じ 加 減
を どの よう に飲 ませ ても 人に 死の 結果 は発 生し ない。 一 つ で あ り う る と い う こ と を 考 慮
か よ う な 場合 、 一 般 人も 死 の 結 果が 発 生 す る危 険 を し てく ださ い。
感 じな い。
以 上 か ら、 本 件 甲 の行 為 に 殺 人罪 の 実 行 行為 性 は
な い。 甲は 殺人 未遂 罪の 罪責 を負 わな い。
以
第 13 問
上
A
次の 事案 にお ける 甲の 罪責 につ いて 論ぜ よ。
1 、甲 がA を殺 そう とし て銃 を撃 った ら、 Bに あた り、 Bが 死亡 した 場合 。
2 、甲 がA を殺 そう とし て銃 を撃 った ら、 AB にあ たり 、A Bが 死亡 した 場合 。
3 、 甲が Aを 殺そ うと して 銃 を撃 った ら、 AB にあ たり 、B が死 亡し た数 時間 後、 Aも
死 亡し た場 合。
基 礎 点 19 点
【 論点 】故 意責 任の 本質 (1 点)
【 論点 】具 体的 事実 の錯 誤
法 定的 符合 説の 論証 (1 点)
一 故意 説の 論証 (1 点)
- 26 -
あ ては め( 各小 問ご とに 1点 )
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 人を 殺 す 意 図を も っ て 拳銃 を 撃 っ てい る の
で 、 殺 人 罪 ( 199 条 ) が 成 立 す る 可 能 性 が あ る 。
し か し 、結 果 と し て 死 亡 し て い る の は B で あ り 、
甲 にと っ て 意 外な 結 果 が 発生 し て い る。 に も か か
【 論点 】具 体的 事実 の錯 誤
● 法定 的符 合説
わ らず 、 甲 に 故意 責 任 を 問い う る か 。故 意 責 任 を
問 うた め に は 、い か な る 程度 の 事 実 の認 識 が あ れ
ばよ いか が問 題と なる 。
2 、思 う に 故 意責 任 の 本 質は 犯 罪 事 実の 認 識 に よ
【 論点 】故 意責 任の 本質
っ て違 法 性 の 意識 が 喚 起 され る の に 、あ え て 犯 罪
に 及ん だ 点 に 求め ら れ る 。し た が っ て、 自 己 の 犯
罪 事実 を 認 識 ・認 容 し た 場合 、 故 意 責任 を 問 う こ
とが でき ると 解す る。
こ こに 犯罪 事実 と は構 成要 件と して 刑法 上 類型 化
さ れて い る か ら、 原 則 と して 構 成 要 件に 該 当 す る
事 実さ え 認 識 して い れ ば 、故 意 責 任 を問 い う る と
解す る。
と する と、 認識 し た内 容と 発生 した 事実 が およ そ
構 成要 件 の 範 囲内 で 符 合 して い れ ば 故意 を 認 め て
よい と解 する 。
さ らに 、一 つの 客 体に 犯罪 結果 を発 生さ せ る意 図
● 数故 意説
で 、二 つ の 客 体に 犯 罪 結 果を 発 生 さ せた 場 合 ど の
よう に処 理す べき か。
思 うに 、上 記見 解 では およ そ構 成要 件の 範 囲内 に
お ける 認 識 の 一致 し か 問 題と し な い 。と す れ ば 、
故 意の 個 数 は 故意 の 認 定 にお い て は 問題 と な ら な
いと いう べき であ る。
し たが って 、こ の 場合 は二 つの 犯罪 が成 立 する と
●二罪成立は重すぎるとの批判へ
解 する 。 こ の よう に 解 し ても 、 両 罪 は観 念 的 競 合
の 配慮
と な る か ら 、刑 の 不 均 衡 は 生 じ ず 、 不 都 合 は な い 。
* 反対 説( 一故 意説 )へ の批判
この点、具体的符合説の批判を
3 、 本 小 問で は 、 甲 が人 を 撃 っ た点 で 認 識 と結 果 は 受 け 入 れ 、 故 意 の 個 数 に つ い て の
一 致 し て いる 。 し た がっ て 、 甲 には B に 対 する 殺 人 み 具 体 的 符 号 を 要 求 す る 見 解 が あ
既 遂 罪( 199 条 )と A に 対 す る 殺 人 未 遂 罪( 203 条 ・ 199 る 。
- 27 -
条 ) が 成 立 し 両 者 は 観 念 的 競 合 ( 54 条 ) と な る と 考
しかし、かように解するのはあ
え る。
まりに技巧的であるのみならず、
二 、小 問2 につ いて
結果が発生したいずれの客体に故
本 件 甲 も、 小 問 1 と同 様 に 殺 人の 実 行 行 為を し な 意 を 認 め る か の 基 準 も 不 明 確 で あ
が ら 、 A B両 方 の 死 亡と い う 思 わぬ 結 果 が 発生 し て る 。
い る。
し か し 、甲 は 人 を 殺す と い う 認識 が あ り 、結 果 と ● あて はめ
し て 人 が 死亡 し て い る。 ま た 、 自説 か ら は 故意 の 個 * 数故 意説 のメ リッ ト
数 は問 題に しな い。
し た が って 、 本 件 の場 合 、 A B双 方 に 対 して 故 意
が 認 め ら れる 。 す な わち 、 甲 に はA B 両 者 に対 す る
殺 人 罪 の 罪責 を 負 い 、両 者 は 観 念的 競 合 の 関係 に 立
つ。
三 、小 問3 につ いて
これ も甲 は殺 人罪 の実 行行 為を 行っ て起 きな がら、
思 わぬ 結果 が生 じた 場合 であ る。
上 記 規 範か ら 本 件 を考 え る と 、い ず れ の 客体 に も ● あて はめ
故 意を 認め るの で、 小問 2と 同様 の結 論に なる 。
( な お 、 本事 例 は 故 意を 一 つ の 客体 に し か 認め な い ● 本 事 例 を 小 問 2 と 別 に 用 意 し た
立 場 か ら は、 B 死 亡 の時 点 で B への 殺 人 既 遂罪 を 認 理 由
め ざ る を 得 な い 。 と こ ろ が 、A も 死 亡 し た 時 点 で は 、
A に 殺 人 罪の 既 遂 を 認め る べ き であ る か ら 、B に つ
い ては 過失 致死 罪と 罪が 変更 され るこ とに なる 。
反 対 説 にた っ た 場 合、 か よ う な問 題 が 生 じる 事 例
で あ る 。そ の 意 味 で も 、自 説 が 妥 当 で あ る と い え る 。)
以
第 14 問
上
A
次の 事案 にお ける 甲の 罪責 につ いて 論ぜ よ。
1 、 甲は Aの 首を 絞め たら ① ぐっ たり した ので 、甲 はA は死 んだ もの と思 って 海岸 に捨
て たと ころ 、② Aが 砂を 吸っ て窒 息死 した 場合 。
2 、 甲が ③A を殺 そう とA を 狙っ てピ スト ルを 撃っ たら 、④ 近く のマ ネキ ンに 弾が 当た
っ た場 合。
3 、 ④甲 は、 悪徳 政治 家で あ る乙 を生 かし てお いて は国 のた めに なら ない と考 えて 、乙
に ナイ フで 斬り つけ てケ ガを させ たが 、周 りの 人間 に取 り押 さえ られ た。
⑤ 甲は 当該 行為 につ いて 違法 性の 意識 は全 くな いが 、そ れで も甲 を処 罰で きる か。
基 礎 点 19 点
- 28 -
① ②A は首 を絞 めて 殺し たと 思っ ていた が、 実は 砂を 吸っ て死 んで いた 場合
→因 果関 係に 錯誤 があ る
【 論点 】故 意責 任の 本質 (1 点)
法定 的符 合説 の論 証( 1 点 )
【 論点 】因 果関 係の 錯誤 (2 点)
③ 人を 殺そ うと して 、器 物損 壊の 結果が 発生 した 。
【 論点 】抽 象的 事実 の錯 誤( 2 点 )
④ 人を ナイ フで 斬り つけ てケ ガ→ 殺人未 遂罪
⑤ 人を 斬り つけ る故 意は ある →た だし、 悪い こと をし てい ると いう 認識 がな い
悪い こと だと 思わ なけ れば 、思 いとど まろ うと いう 機会 はな いの では ない か?
甲の 処罰 をす る必 要が ある ので 、この 点を どう 法律 構成 する か。
【 論点 】法 律の 錯誤 と故 意( 2 点 )
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 の A の 首 を 絞 め た 上 、海 岸 に 捨 て て い る か ら 、
殺 人 罪 の 実 行 行 為 を し て い る ( 199 条 )。
しか し 、 本 件A に 発 生 した 死 の 結 果は 、 甲 の 意
【 論点 】因 果関 係の 錯誤
図 とは 異 な る 原因 か ら 発 生し て い る 。か よ う に 行
為 者に と っ て 意外 な 因 果 経過 を 通 っ て結 果 が 発 生
し た 場 合 、そ の 者 に 完 全 な 故 意 責 任 を 問 い う る か 。
2 、 (1) 思 う に 故 意 責 任 の 本 質 は 犯 罪 事 実 の 認 識 に
よ って 違 法 性 の意 識 が 喚 起さ れ る の に、 あ え て 犯
罪 に及 ん だ 点 に求 め ら れ る。 し た が って 、 犯 罪 事
実 を認 識 し つ つあ え て 行 為を し た 者 に、 故 意 責 任
を問 うこ とが でき ると 解す る。
こ こに 犯罪 事実 と は構 成要 件と して 刑法 上 類型 化
さ れて い る か ら、 原 則 と して 構 成 要 件に 該 当 す る
事 実さ え 認 識 して い れ ば 、故 意 責 任 を問 い う る と
解す る。
と する と、 認識 し た内 容と 発生 した 事実 が およ そ
構 成要 件 の 範 囲内 で 符 合 して い れ ば 故意 を 認 め て
よい と解 する 。
(2) こ こ に 、 因 果 関 係 は 客 観 的 構 成 要 件 に 該 当 す る
事 実で あ る か ら、 因 果 関 係の 錯 誤 も 事実 の 錯 誤 の
問題 とし て捉 える べき であ る。
そし て 、 事 実と 行 為 者 の認 識 し た 事実 が 構 成 要
- 29 -
【 論点 】故 意責 任の 本質
件 の範 囲 内 で 符合 し て い れば 故 意 責 任を 問 い う る
と解 する 。
具体 的 に は 、事 前 に 予 見し た 内 容 と実 際 に 進 行
し た結 果 と の 不一 致 が い ずれ も 相 当 因果 関 係 の 範
囲 内に あ る 限 り、 故 意 を 阻却 し な い とい う べ き で
ある 。
3 、 本 問 甲の 絞 首 か ら、 A の 遺 棄ま で の 一 連の 行 為 ● あて はめ
は 時間 的・ 場所 的関 係か ら一 体と して 把握 でき る。
そ の 中 で 、被 害 者 が 砂 を 吸 引 し て 死 亡 す る こ と は 、
海 岸 に 捨 てる と い う 甲の 行 為 と は相 当 因 果 関係 の 範
囲 内 に あ ると い え る 。一 方 、 甲 の内 心 に お ける 絞 首
に よ っ て Aが 死 亡 す るこ と に つ いて も 、 ま た構 成 要
件 が予 定す る因 果関 係の 範囲 内に ある とい える 。
こ の よ うに 内 心 と 客観 的 事 実 のい ず れ も 相当 因 果
関 係 の 範 囲 内 に あ る か ら 、甲 の 故 意 は 阻 却 さ れ な い 。
以 上 か ら 、 甲 は 殺 人 既 遂 ( 199 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
二 、小 問 2 に つい て
1 、 本 小 問で は 甲 は 人を 殺 す 意 思を も っ て 、殺 人 の
結 果 発 生 の 危 険 、 及 び 器 物 損 壊 罪 ( 261 条 ) の 結 果
を 発生 させ てい る。
この よ う に 認識 と 客 観 的な 事 実 と が、 異 な る 構
【 論点 】抽 象的 事実 の錯 誤
成 要件 に ま た がっ て 不 一 致を き た し てい る 場 合 、
いか に処 理す べき か。
2 、思 う に 、 構成 要 件 該 当事 実 の 認 識が な け れ ば
規 範の 問 題 は 与え ら れ な いか ら 、 そ のよ う な 認 識
がな い行 為者 を処 罰す るこ とは できな い。
し たが って 、構 成 要件 の範 囲内 での 符合 も ない 場
合 、一 般 的 に は、 故 意 は 阻却 さ れ る とい う べ き で
ある 。
た だし 、構 成要 件 に実 質的 な重 なり 合い が 認め ら
れ る場 合 に は 、そ の 限 度 で違 法 性 の 意識 を 喚 起 で
き る。 し た が って 、 そ の よう な 場 合 には 、 そ の 限
度で 故意 責任 を問 いう ると いう べきで ある 。
右 のよ うな 実質 的 重な り合 いの 有無 につ い ての 判
断 基準 と し て は、 ① 両 罪 の行 為 態 様 、及 び ② 被 侵
害法 益の 共通 性を もっ て判 断す べきで ある 。
cf . 参 考
* 遺棄 罪と 死体 遺棄
保護法益について前者が身体の
安 全、 後者 が宗 教感 情
→重 なり 合い なし
* 窃盗 と占 有離 脱物 横領
他人の物を自己または第三者の
占有下に移す→行為態様の重なり
以 上 の 要件 を も っ て殺 人 罪 と 器物 損 壊 罪 の構 成 要 合 い あ り 、 保 護 法 益 は 他 人 の 財 産
- 30 -
件 の 重 な り合 い を 判 断す る と 、 被侵 害 法 益 の点 で 重 → これ も重 なり 合い あり
な り合 いは 認め られ ない 。
過 失 の 器物 損 壊 罪 は成 立 し な いか ら 、 甲 には 殺 人
未 遂 罪 ( 203 条 ・ 199 条 ) の み が 成 立 す る 。
三 、小 問3 につ いて
1 、 本 問 甲は 人 を ナ イフ で 斬 り つけ て い る が、 死 の
結 果 は 発 生 し て い な い の で 、 殺 人 未 遂 罪( 203 条 、199
条 )が 成立 する 可能 性が ある 。
しか し 、 甲 には 違 法 性 の意 識 は 全 くな い の で 、
かか る事 情が 甲の 犯罪 成立 に影 響を与 える か。
2 、(1)こ の 点 、判 例 は 違 法 性 の 意 識 を 不 要 と す る 。
し かし 、 不 可 抗力 に よ っ て違 法 性 の 意識 を 欠 い た
場 合で す ら 、 処罰 す る と いう の は 、 あま り に 必 罰
主義 的で ある 。
一方 、 違 法 性の 意 識 な い場 合 は 処 罰で き な い と
す る説 も あ る が、 確 信 犯 ・行 政 犯 の 処罰 に お い て
不都 合を 生じ 、妥 当で ない 。
(3) 本 来 、 犯 罪 事 実 の 認 識 ・ 認 容 が あ れ ば 行 為 者 へ
の非 難は 十分 に可 能で ある 。
とは い え 、 違法 性 の 意 識を 喚 起 す る可 能 性 が 全
く ない の に 処 罰す る こ と はで き な い 。と す る と 、
違 法性 の 意 識 は故 意 の 成 立に は 不 要 であ る が 、 違
法性 の意 識の 可能 性は 故意 の成 立に必 要と 解す る。
した が っ て 、違 法 性 の 意識 の 可 能 性す ら な い 場
合 は、 故 意 を 阻却 し 、 過 失犯 の 成 否 が問 題 に な る
にす ぎな いと いう べき であ る。
3 、 以 上 をも っ て 本 問を 検 討 す ると 、 甲 に 全く 違 法
性 の 意 識 がな い と し ても 、 人 を 殺す と い う 行為 に つ
い て違 法性 の意 識を 抱く 可能 性が ない とは いえ ない。
し た が って 、 甲 の 故意 の 成 立 に影 響 は な く、 甲 は
殺 人 未 遂 罪 ( 203 条 ・ 199 条 ) に よ っ て 処 断 さ れ る 。
以
第 2章
第 15 問
違 法性
A( 1は C)
次の 各小 問に おけ る甲 の罪 責を 論ぜよ 。
- 31 -
上
【 論点 】法 律の 錯誤 と故 意
1 、甲 がA 家に 訪問 した 際に 、① 無断 でA 家に 備え 付け のち り紙 を一 枚使 用し た場合
2 、 ②A が「 俺が 悪か った 、 俺を 殴っ てく れ」 とい った ので 甲は 少々 ケガ をさ せて もや
む を得 ない と思 いな がら Aを 殴り 、軽 い怪 我を させ た場 合
基 礎 点 20 点
各論 点 1 点
① ちり 紙を 所有 者を 排除 する 意思 を以て 、経 済的 用法 に従 って 利用
→窃 盗罪 の構 成要 件該 当性 あり 、ただ 、処 罰の 必要 性は ある のか ?
【 論点 】可 罰的 違法 性の 理論
② 甲が Aを 殴っ た行 為→ 軽い ケガ を発生 させ てい るの で、 傷害 罪に あた る
Aが 「殴 って くれ 」と 傷害 の依 頼があ る→ 違法 性が 阻却 され ない か
【 論点 】被 害者 の同 意の 処罰 阻却 根拠
【 論点 】被 害者 の同 意の 成立 要件
→ 前 提 論 点 【 論 点 】 違 法 性 阻 却 の 原 理 、【 論 点 】 違 法 性 の 本 質
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 形 式 的 に は 窃 盗 罪 ( 235 条 ) の 構 成 要 件 に
該 当す る行 為を 行っ てい る。
しか し 、 甲 の侵 害 し た 財物 の 価 値 は、 ち り 紙 一
枚と 低い 。そ れで も、 甲に 窃盗 罪は成 立す るか 。
2 、思 う に 、 刑罰 法 規 の 適用 に は 重 大な 人 権 侵 害
が 伴う 。 し た がっ て 、 刑 罰の 適 用 対 象と な る 行 為
は それ に 見 合 うだ け の 法 益侵 害 の 危 険を 発 生 さ せ
るも ので なけ れば なら ない 。
その よ う な 危険 性 が な い行 為 は 、 未だ 社 会 的 相
当 性を 失 わ ず 、当 該 行 為 には 違 法 性 はな い と 解 す
る。
した が っ て 、か よ う な 場合 は 、 形 式的 に 構 成 要
件 に該 当 す る 行為 が あ っ ても 、 違 法 性が 阻 却 さ れ
ると 解す る。
3 、 本 件 甲の 行 為 は ちり 紙 一 枚 を無 断 使 用 する も の
で あ る 。 ちり 紙 の 財 産的 価 値 は きわ め て 低 く、 こ れ
を 不 法 に 領得 し て も 、刑 法 処 罰 に必 要 な 法 益侵 害 の
結 果は 発生 しな い。
した がっ て、 甲は 何の 罪責 も負 わな い。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 問 では 、 甲 は Aを 殴 り 、 傷害 結 果 を 発生 さ せ
- 32 -
【 論点 】可 罰的 違法 性の 理論
て い る か ら 、 甲 に は 傷 害 罪 ( 204 条 ) が 成 立 す る 可
能 性が ある 。
しか し 、 本 問の 場 合 A は傷 害 行 為 につ い て 同 意
【 論点 】被 害者 の同 意の 成立要 件
を して お り 、 かか る 同 意 が犯 罪 の 成 立に い か な る
影響 を与 える か。
2 、傷 害 罪 の 条文 に は 、 同意 の な い こと は 要 求 さ
● 反対 説批 判
れ て い な い ( 204 条 参 照 )。 し た が っ て 、 同 意 が あ
っ ても 傷 害 行 為の 構 成 要 件該 当 性 が 阻却 さ れ る わ
けで はな い。
ここ に 、 違 法性 の 本 質 は、 社 会 倫 理規 範 に 違 反
し た法 益 侵 害 また は そ れ への 脅 威 に ある 。 し た が
【 論点 】違 法性 阻却 の原 理
【 論点 】違 法性 の本 質
っ て、 違 法 性 阻却 の 根 拠 は当 該 行 為 が社 会 的 相 当
性を 有す る点 にあ ると 解す る。
そし て 、 同 意が あ る 場 合は 傷 害 行 為も 社 会 的 相
当 性あ る 行 為 とい う べ き であ る 。 し たが っ て 、 被
【論点】被害者の同意の処罰阻却
根拠
害者 の同 意は 違法 性阻 却事 由で あると 解す る。
ここ に 違 法 性が 阻 却 さ れる に は 次 のよ う な 要 件
● 被害 者の 同意 の要 件
を満 たす こと が必 要で ある と解 する。
ま ず、 ①同 意の 内 容が 被害 者に とっ て処 分 可能 な
法 益に 関 す る こと で な く ては な ら ず 、か つ 、 ② 自
ら 有効 な 同 意 をな す こ と が必 要 で あ る。 ま た 、 同
意 は③ 行 為 時 に存 在 し て いな け れ ば なら な い 。 同
意 は当 該 犯 罪 行為 を 対 象 とす る も の であ る か ら で
ある 。
さ らに 、同 意あ る 侵害 行為 が社 会的 相当 性 ある と
い うた め に 、 ④同 意 の 表 示と 行 為 者 によ る 同 意 の
認 識ま で 必 要 であ る と い うべ き で あ る。 最 後 に ⑤
承 諾に 基 づ い て行 わ れ る 行為 態 様 自 体、 社 会 生 活
上是 認で きる 相当 なも ので なけ ればな らな い。
3 、 以 上 をも っ て 本 問を 検 討 す ると 、 身 体 の安 全 は ● あて はめ
個 人 が 処 分可 能 な 法 益で あ る 。 また 、 特 に 何の 事 情
も な い か ら 、A は 有 効 な 同 意 を し て い る と 解 さ れ る 。
本 問 事 情 では 他 の 要 件も 具 備 さ れて い る と 考え ら れ
る。
し た が っ て 、 甲 に は 傷 害 罪 ( 204 条 ) は 成 立 し な
- 33 -
い。
以
第 16 問
上
A
次の 各小 問に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、甲 は① Aの 同意 を得 て、 Aを ナイ フで 刺し 、② Aに ひん 死の 重傷 を負 わせ た場合
2 、 A は ③ 他 人 の ミ ス を 自 分 の ミ ス だ と 勘 違 い し て 、「 俺 を 許 し て く れ 、 殴 っ て く れ 」
と 甲 に言 った 。甲 は事 情は 知 って いた が、 Aの こと を気 に入 らな かっ たの で、 もの のつ
い でと Aを 殴っ た。
3 、 ④A 家が 火事 にな った の で、 勝手 にA 家に 侵入 して 家財 道具 を甲 が外 に運 び出 した
場合
基 礎 点 20 点
各論 点 1 点
① 被害 者の 同意 があ るの で… …
【 論点 】被 害者 の同 意の 処罰 阻却 根拠
【 論点 】被 害者 の同 意の 成立 要件
② 瀕死 の重 傷→ それ でも 違法 性が 阻却さ れる のか ?
【 論点 】い かな る傷 害に おい ても 同意は 有効 か
③ 真実 を知 って いた ら、 同意 をし なかっ たか も… …
【 論点 】錯 誤に 基づ く同 意
④ 同意 はな いが 、同 意を 求め られ たら同 意し ただ ろう とい う状 況
【 論点 】推 定的 同意 (緊 急避 難説 )
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 問 では 、 甲 は Aを ナ イ フ で刺 し 、 傷 害結 果 を
発 生 さ せ て い る か ら 、 甲 に は 傷 害 罪 ( 204 条 ) が 成
立 す る 可 能性 が あ る 。し か し 、 本問 の 場 合 Aは 自 ら
へ の 傷 害 につ い て 同 意を し て お り、 か か る 同意 が 犯
罪 の成 立に いか なる 影響 を与 える か。
2 、 (1) 思 う に 、 違 法 性 の 本 質 は 、 社 会 倫 理 規 範 に
【論点】被害者の同意の処罰阻却
違 反し た 法 益 侵害 ま た は それ へ の 脅 威に あ る 。 し
根拠
た がっ て 、 違 法性 阻 却 の 根拠 は 当 該 行為 が 社 会 的
相当 性を 有す る点 にあ ると 解す る。
そし て 、 同 意が あ る 場 合は 傷 害 行 為も 社 会 的 相
当 性あ る 行 為 とい え る 場 合が あ る と いう べ き で あ
- 34 -
る。
した が っ て 、被 害 者 の 同意 は 違 法 性阻 却 事 由 で
ある と解 する 。
(2) そ し て 、 違 法 性 が 阻 却 さ れ る に は 次 の よ う な 要
【 論点 】被 害者 の同 意の 成立要 件
件を 満た すこ とが 必要 であ ると 解する 。
まず 、 ① 同 意の 内 容 が 被害 者 に と って 処 分 可 能
な 法益 に 関 す るこ と で な くて は な ら ず、 か つ 、 ②
自 ら有 効 な 同 意を な す こ とが 必 要 で ある 。 ま た 、
同 意は ③ 行 為 時に 存 在 し てい な け れ ばな ら な い 。
同 意は 当 該 犯 罪行 為 を 対 象と す る も ので あ る か ら
であ る。
さ らに 、同 意あ る 侵害 行為 が社 会的 相当 性 ある と
い うた め に 、 ④同 意 の 表 示と 行 為 者 によ る 同 意 の
認 識ま で 必 要 であ る と い うべ き で あ る。 最 後 に ⑤
承 諾に 基 づ い て行 わ れ る 行為 態 様 自 体社 会 生 活 上
是認 でき る相 当な もの でな けれ ばなら ない 。
3 、た だ 、 A はナ イ フ で 刺さ れ て い るか ら 重 大 な
【論点】いかなる傷害においても
傷 害を 負 っ て いる と 考 え られ る 。 か かる 傷 害 結 果
同 意は 有効 か
の発 生に つい てま で、 Aは 同意 をなし うる のか 。
この 点 、 お よそ 同 意 あ る以 上 、 す べて 処 罰 さ れ
ない とす る立 場が ある 。
し かし 、死 の結 果 を発 生さ せる 高度 の危 険 性が あ
る 行為 に つ い ては 、 被 害 者の 承 諾 が あっ て も 到 底
社会 的相 当行 為で ある とは いえ ない。
し たが って 、重 大 な傷 害に 対す る承 諾は 無 効と す
るの が妥 当で ある 。
以 上 か ら、 甲 の 傷 害行 為 に つ いて は 違 法 性が 阻 却
さ れな い。 甲は 傷害 罪の 罪責 を負 う。
二 、小 問2 につ いて
1 、本 小 問 で 、甲 は A を 殴っ て い る ので 少 な く と
も 暴 行 罪 の 罪 責 を 負 う 可 能 性 が あ る ( 208 条 )。
しか し 、 A は他 人 の ミ スを 自 分 の ミス と 考 え る
と いう 錯 誤 に 陥っ て い る 。A は 真 実 を知 れ ば 、 同
意 をし な か っ たと 考 え ら れる の で 、 かか る 同 意 の
効力 をい かに 解す べき かが 問題 となる 。
2 、 (1) こ の 点 、 法 益 侵 害 に つ い て 意 味 を 認 識 し て
- 35 -
【 論点 】錯 誤に 基づ く同 意
同 意し て い る 以上 、 同 意 自体 に は 何 ら錯 誤 が な い
と して 、 そ の 有効 性 に 影 響は な い と する 見 解 が あ
る。
しか し 、 意 味を 認 識 し てい れ ば 、 いか な る 同 意
有効 であ ると 考え るの は極 端で ある。
(2)
思 うに 、規 範 的に みて 有効 な承 諾が あ ると は
認 めら れ な い 場合 も あ る 。し た が っ て、 こ の よ う
な 承諾 が な さ れた 場 合 は 、承 諾 は 無 効で あ る と い
うべ きで ある 。
一方 、 本 問 事案 の よ う に被 害 者 が 勝手 に 勘 違 い
を して 俺 を 殴 って く れ と 言っ て い る にす ぎ な い 場
合 、か か る 錯 誤は 同 意 の 有効 性 に は 影響 を 与 え な
いと いう べき であ る。
した がっ て、 甲は 無罪 であ る。
三 、小 問3 につ いて
【 論 点 】 推 定 的 同 意( 緊 急 避 難 説 )
火 事 場 から 家 財 道 具を 運 び 出 す行 為 は 、 住居 侵 入 * 推定 的承 諾の 概念 肯定 説
罪 ( 130 条 ) の 構 成 要 件 に 該 当 す る 。
本事例の場合、事態を正しく認
そ れ で は、 社 会 的 相当 行 為 と して 違 法 性 は阻 却 さ 識 し て い れ ば 不 在 者 は 同 意 し た で
れ ない か。
あ ろう とい える 。
この よう な 同意 を推 定し て 行う 行
この 点 推 定 的承 諾 と い う概 念 を 用 いる 見 解 が あ
る 。し か し 、 行為 時 に 同 意が 存 在 し ない 以 上 、 被
害者 の承 諾の 問題 とす るこ とは できな い。
為は社会的相当性があり、違法性
を 阻却 する とい うべ きで ある。
ただ し、 承 諾の 推定 の判 断 は被 害
思う に 、 本 件事 案 で は 、正 当 な 利 益を 保 護 す る
ため に、 正当 な者 に対 して 侵害 を加え てい る。
者の立場に立って、客観的・合理
的 に行 われ なけ れば なら ない。
し た が っ て 緊 急 避 難 ( 37 条 1 項 ) の 問 題 と し て
考え るの が妥 当で ある 。
本問 の行 為 は上 記基 準に 照 らし 、
社会的相当性あるといえる。した
が っ て 、行 為 の 違 法 性 は 阻 却 さ れ 、
以 上 よ り 、 本 問 甲 に は 犯 罪 は 成 立 し な い ( 37 条 1 犯 罪 は 不 成 立 と な る 。
項 )。
以
第 17 問
上
A
次の 各場 合に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 ①甲 は乙 に殴 りか から れ たの で、 手拳 で反 撃を した 。し かし 、② 甲は 乙の 侵害 をう
す うす 予期 して いた 場合 。
2 、上 記 事 案 で 、③ 甲 が こ の 機 会 を 利 用 し て 積 極 的 に 乙 を 加 害 す る つ も り で あ っ た 場 合 。
- 36 -
3 、 ④乙 に殴 りか から れた と ころ で、 甲は 手拳 で反 撃を した 形に なっ たが 、甲 は乙 の攻
撃 を認 識し てい なか った 場合 。
基 礎 点 21 点
各論 点 1 点
① 殴り かか られ たの で、 殴り 返す →正当 防衛 の、 少な くと も相 当性 はあ る
② かよ うな 要件 は正 当防 衛の 成否 にどの よう な影 響を 及ぼ すか ?
③ 積極 的加 害意 図が ある 場合 →防 衛の意 思の 有無 に関 わる
【 論点 】急 迫性 の要 件
【 論点 】防 衛の 意思 の要 否
④ 甲に は全 く防 衛の 意思 なし
【 論点 】偶 然防 衛の 当罰 性
【 論点 】防 衛の 意思 の内 容→ 防衛 の意図 は必 要か
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 乙の 加 害 行 為か ら 自 ら を防 衛 す る ため に 反
撃 を し て い る か ら 、 正 当 防 衛 ( 36 条 1 項 ) に よ っ て
犯 罪の 成立 が阻 却さ れる 可能 性が ある 。
しか し 、 甲 は攻 撃 を あ らか じ め 予 期し て い る 。
【 論点 】急 迫性 の要 件
攻 撃を あ ら か じめ 予 期 し てい る 場 合 も「 急 迫 」 性
は 失 わ れ な い の か ( 36 条 1 項 )。
確 かに 通常 の場 合 、急 迫性 ある 侵害 とは 、 予期 し
な い侵 害 の こ とを 指 す 。 しか し 、 強 盗よ け に 護 身
用 の木 刀 を 準 備し て い た 者が 現 に 強 盗に 襲 わ れ た
場 合、 逃 げ る しか な い と いう の は 不 当で あ る 。 す
な わち 、 法 は 予期 さ れ た 侵害 を 避 け るべ き 義 務 を
課す る趣 旨で はな いと 解す るべ きであ る。
し たが って 、予 期 によ って 急迫 性が 当然 に 失わ れ
るも ので はな い。
他 の 正 当防 衛 の 要 件に つ い て 欠け る と こ ろは み ら
れ ない から 、甲 には 犯罪 は成 立し ない 。
二 、小 問2 につ いて
1 、小 問 1 と 異な り 、 甲 は進 ん で そ の機 会 を 利 用
し 積極 的 に 相 手を 加 害 す る意 思 で 侵 害に 臨 ん で い
る。 この 場合 、甲 に正 当防 衛は 成立す るか 。
こ の点 、急 迫性 が失 われ ると する判 例が ある 。
- 37 -
【 論点 】防 衛の 意思 の要 否
しか し 、 急 迫性 は 客 観 的な 状 況 の 問題 で あ る か
ら 、防 衛 者 の 意思 に よ っ て急 迫 性 の 存否 が 左 右 さ
れる もの では ない 。
すな わ ち 、 現実 に 法 益 侵害 の 結 果 また は そ の 危
険 が発 生 し て いれ ば 、 急 迫性 の 要 件 は存 在 す る と
い うべ き で あ る。 す な わ ち、 こ の 場 合に も 急 迫 性
は 認め ら れ 、 むし ろ 本 問 は防 衛 の 意 思の 問 題 と い
うべ きで ある 。
2 、 ( 1)そ こ で 、「 防 衛 す る た め 」( 36 条 1 項 ) と
は 正当 防 衛 の 要件 と し て 、防 衛 の 意 思を 必 要 と す
る趣 旨か が問 題と なる 。
思う に 、 違 法性 の 本 質 は社 会 倫 理 規範 に 違 反 す
る 法益 侵 害 ま たは そ の 危 険に あ る と いう べ き で あ
る 。と す れ ば 、社 会 的 に 相当 と い え る行 為 に つ い
ては 、違 法性 が阻 却さ れる とい うべき であ る。
正当 防 衛 に よる 行 為 が 処罰 を 阻 却 され る の は ま
さ に、 社 会 的 相当 性 あ る 行為 で あ る から で あ る 。
こ こで 、 防 衛 行為 が 社 会 的に 相 当 な 行為 と い う に
は、 防衛 する 意思 を必 要と すべ きであ る。
行 為 は 主 観 と 客 観 の 統 合 体 で あ る 。し た が っ て 、
こ のよ う に 内 心が 違 法 性 に影 響 を 及 ぼす と す る 主
観的 正当 化要 素を 認め るこ とは 何ら差 し支 えな い。
(2) そ れ で は 、 本 小 問 の 甲 に 防 衛 の 意 思 は 認 め ら れ
【論点】防衛の意思の内容→防衛
るか 。防 衛の 意思 の内 容が 問題 となる 。
の 意図 は必 要か
思う に 、 防 衛行 為 は 興 奮・ 逆 上 し て反 射 的 に な
さ れる こ と が 多い 。 こ の よう な 場 合 に正 当 防 衛 を
が成 立し ない とす るこ とは 妥当 ではな い。
した が っ て 、防 衛 の 目 的あ る と い うに は 防 衛 の
認 識で た り 、 防衛 の 意 図 まで は 必 要 ない 。 す な わ
ち 、防 衛 の 意 思と は 、 急 迫不 正 の 侵 害を 認 識 し つ
つ 、そ れ を 回 避し よ う と する 心 理 状 態を 指 す と 解
する 。
ただ し 、 積 極的 加 害 意 図が あ る 場 合は 、 も は や
防 衛の 意 思 が ある と は 言 えな い 。 こ の場 合 は 、 侵
害 を回 避 し よ うと す る 意 思す ら 認 め られ な い か ら
であ る。
3 、 本 小 問で は 、 甲 には 積 極 的 加害 意 図 が ある 。 し
た が っ て 甲に は 防 衛 の意 思 が 認 めら れ な い 。甲 は 暴
- 38 -
行 罪 ( 208 条 ) も し く は 傷 害 罪 ( 204 条 ) の 罪 責 を 負
う。
三 、小 問3 につ いて
本 問 甲 は乙 を 攻 撃 して お り 、 かつ 防 衛 の 意思 を 全
く 欠く 。
小問 2 で み たよ う に 、 正当 防 衛 の 成立 に は 、 防
【 論点 】偶 然防 衛の 当罰 性
衛 の意 思 が 必 要で あ る と いう べ き で ある 。 し た が
っ て 、か か る 意 思 を 欠 く 偶 然 防 衛 に よ る 行 為 で は 、
正 当防 衛 と し ての 違 法 性 阻却 は さ れ ない と い う べ
きで ある 。
さら に 、 偶 然防 衛 の 場 合、 行 為 者 はど の よ う に
処断 され るべ きか 。
思う に 、 違 法性 阻 却 の 対象 は 構 成 要件 に 該 当 す
る事 実全 体で ある と解 する 。
した が っ て 、結 果 と 行 為を 切 り 離 して 判 断 す る
の は妥 当 で な い。 構 成 要 件該 当 事 実 があ り 、 違 法
性 阻却 事 由 が ない 以 上 、 既遂 犯 と し て処 断 す べ き
であ ると 考え る。
以 上 か ら 、 甲 は 暴 行 罪 ( 208 条 ) も し く は 傷 害 罪
( 204 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
以
第 18 問
上
A
次の 事案 にお ける 、甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 甲が 乙を 馬鹿 にし た上 で 、殴 れる もの なら 殴っ てみ ろと 言っ た。 結果 、意 外に も乙
が 殴り かか って きた ので 、甲 は驚 いて 反撃 し、 乙に 負傷 させ た場 合
2 、 小問 1の 事案 の下 、甲 は 乙の 反撃 を予 想し てお り、 これ 幸い とば かり こて んぱ んに
し た場 合は どう か。
3 、 甲が 乙と つか み合 いを し てい たと ころ 、乙 が突 然ナ イフ で刺 そう とし たの で、 甲は
近 くに あっ た棒 で一 撃し 、乙 の手 に怪 我を させ た場 合
基 礎点
21 点
各 論点 2 点
【 論点 】防 衛者 の挑 発行 為あ る時
【 論点 】喧 嘩闘 争
解 答例
- 39 -
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 乙に 暴 行 を 加え 、 傷 害 結果 を 発 生 させ て い
る か ら 、 傷 害 罪 の 罪 責 を 負 う 可 能 性 が あ る( 204 条 )。
しか し 、 甲 の反 撃 し た 乙の 攻 撃 は 、も と も と 甲
【 論点 】防 衛者 の挑 発行 為ある 時
の 侮辱 を 原 因 とす る も の であ る 。 こ のよ う に 不 正
の 侵害 が 防 衛 者の 挑 発 行 為に 基 づ く もの で あ る 場
合 、 正 当 防 衛 ( 36 条 1 項 ) は 成 立 す る か 。
2 、ま ず 、 急 迫性 は 客 観 的な 状 況 の 問題 で あ る 以
上 、相 手 の 攻 撃が 間 近 に 迫っ て さ え いれ ば 急 迫 性
は 認め ら れ る 。そ の 他 の 要件 も 満 た す以 上 、 正 当
防衛 が成 立す るよ うに も思 われ る。
しか し 、 挑 発行 為 を 原 因と し て 招 かれ た 侵 害 へ
の 反撃 は 、 社 会的 相 当 性 ある と は 言 えな い 場 合 が
あ る。 こ の よ うな 場 合 を 不処 罰 と す るな ら ば 、 逆
に法 秩序 を乱 すこ とに なる 可能 性があ る。
した が っ て 、か よ う な 場合 に 限 り 、反 撃 行 為 は
防 衛行 為 と は 言え ず 、 正 当防 衛 の 成 立自 体 は 否 定
され ると いう べき であ る。
そし て 、 社 会的 相 当 性 の有 無 は 、 挑発 行 為 の 程
度 、乙 の 反 撃 の程 度 等 の 事情 を 総 合 勘案 し て 具 体
的に 決せ られ ると いう べき であ る。
3、本 問侵 害は 挑発 行為 を原 因と してい る。しか し、 ● あて はめ
挑 発 に 対 して 、 暴 行 をす る と い うの は 反 撃 とし て 過
度 の も の であ り 、 乙 の反 撃 が 意 外な も の で ある 点 も
無 理 は な い。 し た が って 、 特 段 の事 情 が な い限 り 、
正 当防 衛は 成立 する と解 する 。
した がっ て、 甲は 何の 罪責 も負 わな い。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 問 の場 合 も 、 前段 と 同 様 に甲 の 行 為 の社 会 的
相 当 性 を 全体 的 に 判 断し 、 そ の 当罰 性 を 判 断す べ き
で ある 。
2 、 本 件 甲は 、 乙 の 反撃 を 予 想 し、 正 当 防 衛的 な 機 ● あて はめ
会 を 利 用 して 乙 を 加 害し よ う と いう 意 図 を 持っ て い
る 。 か か る甲 の 行 為 には も は や 社会 的 相 当 性を 認 め
る こと はで きな い。
した がっ て、 甲は 傷害 罪の 罪責 を負 う。
三 、小 問3 につ いて
- 40 -
1 、本 件 の よ うな 喧 嘩 闘 争の 場 合 、 喧嘩 両 成 敗 の
【 論点 】喧 嘩闘 争
考 え方 か ら 、 旧判 例 は 正 当防 衛 の 観 念を 入 れ る 余
地が ない とし てい た。
2 、し か し 、 一方 の 攻 撃 が新 た な 別 個の 侵 害 の 開
始 と認 め ら れ る場 合 や 攻 撃が 素 手 か らナ イ フ に 変
わ るな ど 攻 撃 が質 的 に 急 激に 重 大 化 した 場 合 な ら
ば、 正当 防衛 を認 める 余地 があ ると解 する 。
3、本問 ではつ かみ 合い の喧 嘩を して いた とこ ろで、 ● あて はめ
い き な り 乙が ナ イ フ で攻 撃 を な して い る 。 これ は 新
た な別 個の 侵害 の開 始と いう こと がで きる 。
し た が っ て 、 甲 の 攻 撃 は 正 当 防 衛 ( 36 条 1 項 ) と
し て 違 法 性 が 阻 却 さ れ 、傷 害 罪 の 成 立 は 阻 却 さ れ る 。
以
第 19 問
上
B
次の 場合 、甲 はい かな る罪 責を 負う か。
1 、 乙の 飼っ てい る犬 が飛 び かか って きた ので 、甲 は手 持ち のナ イフ で反 撃し 、犬 を刺
殺 した 場合
2 、 乙に 殴ら れそ うに なっ た ので 、甲 は小 石を 投げ たら 、近 くを 通っ た人 に当 たっ た場
合
基 礎点
21 点
各 論点 2 点
【 論点 】不 正の 意義 と対 物防 衛の 可否
【 論点 】防 衛行 為の 結果 が他 人に 生じた 場合
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 件 甲 に よ る 犬 の 殺 傷 は 、 器 物 損 壊 罪 ( 261 条 )
の 構 成要 件に 該当 す る。 しか し、 甲は 自己 を 守る ため
に 、 上記 行為 を行 っ てい る。 そこ で、 甲に 正 当防 衛の
成 立の 可能 性が ある 。
こ こ に 乙 の 飼 っ て い る 犬 に よ る 攻 撃 は「 不 正 」
( 36
条 1 項 )の 侵害 とい える か。 その 意味が 明ら かで な
- 41 -
【 論 点】 不正 の 意義 と対 物 防衛 の
可否
く問 題と なる 。
* 小問 1に つい て反 対説
2、 思う に 、正 当防 衛に おい て 反撃 行為 が広 く許 容
「不 正」 の意 味が 問題 とな る。
され るの は 、侵 害者 の行 為が 「 不正 」で ある から で
思 うに 、処 罰 する ため の 不正 と
あ る 。こ の よ う な 法 の 自 己 保 全 の 考 え 方 か ら す れ ば 、 正 当 防 衛 の 成 立 要 件 と し て の 不 正
「不 正」 と は刑 法上 の違 法性 を 指す と解 する べき で
の 侵害 とは 別に考 える べきで あ
ある 。
る 。な ぜ な ら 、た と え ば 動 物 で も 、
し た が って 、 動 物 や自 然 現 象 、行 為 と は いえ な い
法 益 を侵 害す る こと があ る 以上 、
人の 挙動 に よる 侵害 に対 して の 正当 防衛 は当 然に は
不 正 の侵 害は な しう ると 考 える の
成 立 し な い 。 こ れ は 緊 急 避 難 ( 37 条 1 項 ) な ど に
が 常識 的で ある から であ る。
よっ て処 理さ れる べき であ る。
し たが って 、 不正 の侵 害 とは 刑
た だ し 、 上 記 動 物 や 自 然 現 象、 人 の 挙 動 に つ い て 、
法 上 の違 法性 に 限ら ず、 動 物に よ
物の 所有 者 や本 人の 故意 ・過 失 が認 めら れれ ば、 人
る 侵 害に 対し て も正 当防 衛 は可 能
の行 為に よる 侵害 とし て正 当防 衛が認 めら れる 。
で ある とい うべ きで ある 。
ま た 、「 不 正 」 行 為 は 違 法 行 為 で あ れ ば 、 有 責 で
以 上 か ら 、 甲 に は 正 当 防 衛 ( 36
ある 必要 は ない 。責 任能 力が な い者 によ る侵 害行 為
条 1 項 )が 成 立 し 、処 罰 さ れ な い 。
に対 して も 、正 当防 衛を 行う こ とは でき るこ とに は
注意 すべ きで ある 。
3 、 ( 1)以 上 を も っ て 甲 の 罪 責 を 検 討 す る に 、 乙 の 犬
の 管 理が 十分 でな い とか 、乙 が甲 に犬 をけ し かけ たよ
う な 場合 は、 その 行 為は 正当 防衛 とし て違 法 性が 阻却
さ れる 。甲 は何 の罪 責も 負わ ない 。
( 2) 一 方 、 上 記 の い ず れ の 事 情 も な い 場 合 も 、 甲 の 行 ● 対 物 防 衛 否 定 説 → 緊 急 避 難 の 成
為 は 、 緊 急 避 難 ( 37 条 1 項 ) に よ っ て 、 違 法 性 が 阻 否 に つ い て 検 討 す る こ と
却 され る可 能性 があ る。
甲 は身 体と いう 法 益を 守る ため 、他 人の 財 産を 侵害
し て いる 場合 にあ た る。 この 場合 生じ た害 が 、避 けよ
う とし た害 を越 えな かっ たと いえ る。
そ こで 、他 の手 段 を採 り得 たか など 、他 の 要件 が整
う 限 りで 、緊 急避 難 が成 立す るこ とに なる 。 そう なれ
ば 、や はり 甲は 何の 罪責 も負 わな いこ とに なる 。
二 、小 問2 につ いて
甲は石を投げて他人に傷害の結果を発生させてい
る 。 した がっ て、 形 式的 には 傷害 罪に 当た る 行為 をな
し てい る。
し かし 、 甲は 自己 の身 を守 る ため に、 上記 行為 を
なし てい る 。か よう な場 合、 そ の行 為を どの よう に
評価 すべ きか 。
本 事例 を 評価 する なら ば、 正 であ る者 に反 撃す る
- 42 -
【 論 点】 防衛 行 為の 結果 が 他人 に
生 じた 場合
こと で現 在 の危 難を 回避 した と いう べき であ る。 ま
た、 防衛 の意 思に は避 難の 意思 も含ま れる 。
し た が っ て 、 緊 急 避 難 ( 37 条 1 項 本 文 ) と し て
扱う べき であ る。
以上 より 、甲 は何 の罪 責も 負わ ない 。
以
第 20 問
上
C
い わゆ る ①緊 急 避難 及 び② 自 救行 為 にあ た る行 為 がな さ れた 場 合、 な ぜ犯 罪 の成 立が
阻 却さ れる か、 理由 を説 明せ よ。
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
① 【論 点】 緊急 避難 の正 当化 根拠
② 【論 点】 自救 行為
解 答例
一 、緊 急避 難が 犯罪 成立 を阻 却す る根 拠
1 、 緊 急 避 難 ( 37 条 1 項 ) に あ た る 事 由 が あ る と
【 論点 】緊 急避 難の 正当 化根拠
き 、犯 罪 の 成 立が 阻 却 さ れる 根 拠 が 明ら か で な く
問題 とな る。
2 、こ の 点 、 責任 阻 却 事 由に 過 ぎ な いと す る 見 解
があ る。
し か し 、 37 条 1 項 本 文 は 、 他 人 の 行 為 に つ い て
の 緊 急 避 難 を 認 め て い る が 、こ の よ う な 場 合 に は 、
期待 可能 性が ない とは いえ ない 。
また 、 避 難 によ っ て 侵 害さ れ る 法 益の 価 値 が 、
保 全さ れ る 法 益よ り 高 く ても 責 任 が 失わ れ る 場 合
は ある は ず で ある 。 な の に、 緊 急 避 難に お い て は
法益 権衡 の原 則が 採用 され てい る。
思 うに 、緊 急避 難 は重 要な 法益 を保 全す る ため の
社会 的に 相当 な行 為で ある と考 えるべ きで ある 。
3 、し た が っ て、 緊 急 避 難は 違 法 性 阻却 事 由 と 考
える べき であ る。
- 43 -
* 行為 無価 値が 前提
二 、自 救行 為の 当否 とそ の根 拠
1 、自 救 行 為 とは 、 正 当 防衛 を 認 め るだ け の 侵 害
の 急迫 性 ・ 現 在性 は 存 在 しな い が 、 国家 機 関 の 救
【 論点 】自 救行 為
● 概念 の紹 介
済 を待 っ て い ては 権 利 の 回復 が 困 難 にな る 場 合 、
侵 害者 に 対 し 自ら 実 力 に より 救 済 を 図る 行 為 を い
う。
そ のよ うな 概念 が 認め られ るか 明文 なく 問 題と な
る。
2 、思 う に 、 国家 機 関 が 法秩 序 の 回 復を す る い と
● 許容 でき るか 否か の判 断
ま がな く 、 権 利保 護 の 緊 急性 ・ 必 要 性が 高 度 に 認
め られ る 場 合 があ る 。 こ のよ う な 事 態を そ の ま ま
放 置す れ ば 、 法が 不 法 を 擁護 す る 結 果と な り か ね
ない 。
し たが って 、か か る場 合に 、自 力に よる 権 利救 済
を許 容す る余 地は ある いう べき である 。
3 、た だ し 、 自力 救 済 の 禁止 の 趣 旨 を没 却 す る お
● 自救 行為 の成 立要 件
そ れが あ る か ら、 安 易 に 広く 認 め る こと は で き な
い 。次 の よ う な厳 格 な 基 準の も と で 認め ら れ る に
過ぎ ない とい うべ きで ある 。
ま ず、 ①回 復す べ き権 利が 正当 であ り、 ② 回復 手
段の 相当 性が 認め られ るこ とが 必要で ある。また、
③ 国家 の 救 済 を待 つ こ と がで き な い よう な 回 復 の
必 要性 ・ 緊 急 性が 認 め ら れる こ と も 必要 で あ る 。
さ らに 、 主 観 的正 当 化 要 素と し て 、 自救 の 意 思 も
* 自救 の意 思→ 行為 無価 値から
要求 すべ きで ある 。
以
第 3章
責任
第 21 問
A
上
1 、 甲は 乙が 突然 手を 振り 上 げた ので 、① 殴ら れる と思 って 思わ ず乙 を突 き飛 ばし 、け
が を させ た。 ②し かし 、乙 が 手を 振り 上げ たの は、 単に 乙が タク シー を呼 ぶた めで あっ
た。
2 、 ③乙 が殴 りか かっ てき た ので 、④ 甲は 木の 枝で 反撃 する つも りで 客観 的に は斧 で反
撃 した 。
3 、 ⑤甲 は乙 が突 然手 を振 り 上げ た( 乙は タク シー を呼 ぶつ もり しか ない )の で、 殴ら
- 44 -
れ る と思 い、 甲は 反撃 した 。 ⑥甲 は棒 で反 撃す るつ もり であ った が、 その 棒に は釘 がた
く さん つい てい た。
4 、 ⑦甲 は乙 が突 然手 を振 り 上げ た( 乙は タク シー を呼 ぶつ もり しか ない )の で、 殴ら
れ る と思 い、 ⑧甲 はそ うと 知 って いな がら 、釘 がた くさ んつ いた 棒で 反撃 し、 乙に 怪我
を させ た。
基 礎 点 17 点
各小 問ご とに 2 点
① 「殴 られ る」 とい う内 心に 対応 する反 撃に つい て、 相当 性は ある 。
② 現 実 に は 、 乙 に よ る 急 迫 不 正 の 侵 害 な し → 【 論 点 】 違 法 性 阻 却 事 由 の 錯 誤 、【 論 点 】 誤
想 防衛
③ 急迫 不正 の侵 害が ある
④ 防衛 行為 の程 度が 過剰 →た だし 、その 認識 がな い= 過剰 防衛 の一 種
【 論点 】誤 想過 剰防 衛
⑤ 急迫 不正 の侵 害な し→ 侵害 があ るとの 誤認
⑥ 内心 に対 応す る反 撃に つい て、 相当性 もな し→ 【論 点】 誤想 過剰 防衛
⑦ 急迫 不正 の侵 害な し→ 侵害 があ るとの 誤認
⑧ 内心 に対 応す る反 撃→ 相当 性の 程度を 越え てい るこ とを 知っ てい る
→【 論点 】誤 想過 剰防 衛
過剰 防衛 の規 定の 準用 は? →【 論点】 過剰 防衛 によ る刑 の減 免の 根拠
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 問 甲 は 客 観 的 に は 傷 害 罪 ( 204 条 ) に 該 当 す
る 行 為 を 行 っ て お り 、そ の 点 に つ い て の 故 意 も あ る 。
し か し 、甲 は 乙 に よる 不 正 の 侵害 の 存 在 を誤 認 し
た 結果 、上 記行 為を 行っ てい る。
この よ う に 違法 性 阻 却 事由 に 錯 誤 ある 場 合 、 行
為者 をど のよ うに 取り 扱う べき か。
【 論点 】違 法性 阻却 事由 の錯誤
【 論点 】誤 想防 衛
2 、 (1) 思 う に 故 意 責 任 の 本 質 は 犯 罪 事 実 の 認 識 に
よ って 違 法 性 が喚 起 さ れ るの に 、 あ えて 犯 罪 に 及
ん だ点 に 求 め られ る 。 し たが っ て 、 自己 の 犯 罪 事
実 を認 識 ・ 認 容し た 場 合 、故 意 責 任 を問 う こ と が
でき ると 解す る。
こ こで 、違 法性 阻 却事 由が ない のに ある と 認識 し
た場 合、 違法 性を 喚起 する こと はでき ない 。
し たが って 、違 法 性阻 却事 由に 錯誤 があ る とき 、
犯 罪事 実 を 認 識し て い る とは い え ず 、故 意 は 阻 却
され る。
- 45 -
(2) 一 方 で 、 違 法 性 阻 却 事 由 に 関 す る 評 価 を 誤 っ た
場合 は、 これ は法 律の 錯誤 があ るに過 ぎな い。
思う に 、 犯 罪事 実 の 認 識・ 認 容 が あれ ば 原 則 と
し て非 難 可 能 性と し て 十 分で あ る 。 とは い え 、 違
法 性の 意 識 を 喚起 す る 可 能性 が 全 く ない の に 処 罰
す るこ と は で きな い 。 と する と 、 違 法性 の 意 識 は
故 意の 成 立 に は不 要 で あ るが 、 違 法 性の 意 識 の 可
能性 は故 意の 成立 に必 要で ある ことに なる 。
した が っ て 、違 法 性 の 意識 の 可 能 性す ら な い 場
合に 限定 し、 故意 を阻 却す ると いうべ きで ある 。
3 、 以 上 をも っ て 本 問を 検 討 す ると 、 甲 は 自ら の 身
体 へ の 攻 撃の 存 在 を 誤認 し て い る。 こ の よ うな 事 実
の 認 識 が ある 場 合 、 傷害 行 為 の 実行 に つ い て違 法 性
の 意識 を喚 起で きな い。
し た が って 、 甲 に は故 意 犯 は 成立 し な い 。誤 認 に
過 失 が あ る場 合 、 過 失致 傷 罪 の 罪責 を 負 う のみ で あ
る。
二 、小 問2 につ いて
1、本 小問 では、乙に よる 急迫 不正 の侵 害に 対し て、
甲 は 防 衛 行為 と し て 過剰 な 斧 に よる 反 撃 を 行っ て い
る か ら 、 客 観 的 に は 過 剰 防 衛 ( 36 条 2 項 ) の 結 果 が
発 生し てい る。
しか し 、 甲 は上 の 過 剰 性に つ い て 認識 が な い 。
この よう な場 合甲 に故 意を 認め ること がで きる か。
2 、こ の 場 合 、犯 罪 者 の 認識 に お い ては 、 防 衛 行
為 の相 当 性 の 要件 を 満 た し、 正 当 防 衛が 成 立 し て
いる 。
し たが って 、行 為 者は 犯罪 事実 を認 識し て いな い
の で、 故 意 犯 は成 立 し な い。 過 失 犯 の成 否 を 検 討
す るの み で あ り、 傷 害 ・ 死亡 の 結 果 が発 生 し て い
ない なら ば、 無罪 であ る。
3 、 た だ し、 斧 を 木 の枝 と 誤 信 する こ と は 、そ の 重
さ の 違 い から ほ と ん ど考 え ら れ ない 。 し た がっ て 、
通 常 は 故 意は 阻 却 さ れず 、 過 剰 防衛 と し て 処理 さ れ
る こと にな ろう 。
三 、小 問3 につ いて
1 、 本 問 で は 甲 は 暴 行 、 ま た は 傷 害 罪 ( 204 条 ) の
- 46 -
【 論点 】誤 想過 剰防 衛
構 成 要 件 に該 当 す る 行為 を 行 っ てい る 。 し かし 、 急
迫 不正 の侵 害に つい て誤 想が ある 。
2 、 か つ 甲は 釘 付 き の棒 で 攻 撃 して お り 、 誤想 し た
攻 撃に 比し て客 観的 には 過剰 な攻 撃を 行っ てい るが、
そ の 点 に つい て も 甲 は認 識 が な い。 甲 の 認 識上 は 完
全 な 正 当 防衛 で あ り 、甲 に は 違 法性 の 意 識 を喚 起 で
き るだ けの 事実 の認 識が ない とい える 。
3 、 し た がっ て 、 甲 の故 意 が 阻 却さ れ る 。 傷害 結 果
が 発 生 し てい な い な らば 、 甲 は 無罪 と い う こと に な
る。
三 、小 問4 につ いて
1 、 本 小 問に お け る 甲は 傷 害 罪 の構 成 要 件 に該 当 す
る 行為 を行 って いる 。
か か る 行為 は 、 急 迫不 正 の 侵 害を 誤 認 し て行 っ た
も ので ある が、 ただ 、甲 は過 剰性 を認 識し てい る。
2 、 (1)過 剰 防 衛 と の 認 識 あ れ ば 、 違 法 性 の 意 識 を 喚
起 す る こ とは で き る 。し た が っ て、 故 意 犯 が成 立 す
る。
た だし 、過 剰防 衛 にお ける 刑の 減免 の根 拠 は、 緊
急 事態 に お い ては 行 き 過 ぎが あ っ て も避 難 が で き
【論点】過剰防衛による刑の減免
の 根拠
ない ので 、責 任が 減少 する 点に も求め られ る。
か よ う な事 態 は 、 侵害 の 存 在 を誤 想 し て いる 時 に
も あて はま る可 能性 があ る。
し た が って 、 認 識 通り 、 過 剰 防衛 の 規 定 を準 用 す
る べ き で あ る ( 36 条 2 項 )。
(2) と は い え 、 免 除 の 規 定 を 準 用 す る こ と は 許 さ れ
●過剰性に認識がある場合の特別
な い。 過 剰 性 に認 識 が な い場 合 も 、 過失 犯 が 成 立
な 処理
し 、罪 に 問 わ れる 可 能 性 があ る 。 と なる と 、 故 意
が 成立 す る の に刑 が 全 部 免除 さ れ る とい う の は 不
均衡 だか らで ある 。
3 、 以 上 よ り 、 甲 は 傷 害 罪 ( 204 条 ) の 罪 責 を 負 う
が 、 場 合 によ っ て 過 剰防 衛 の 規 定が 準 用 さ れ、 刑 が
減 軽さ れる 可能 性が ある 。
以
- 47 -
上
第 22 問
B
① 甲 は、 酒を 飲め ば我 を忘 れ て暴 れる 一種 の病 気で あっ た。 ②甲 はそ の事 情を 熟知 しな
が ら も、 ③傷 害を 行う こと を 意図 し、 酒を 飲ん だと する 。こ れを 前提 とし て次 の各 場合
に おけ る、 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
1 、甲 は酒 を飲 んで 人に 襲い かか り、 心神 耗弱 状態 に陥 った とこ ろで 傷害 をし た場合 。
2 、酒 を飲 んだ 後、 その まま 寝て しま った 場合 。
基 礎点
21 点 → 原 因 に お い て 自 由 な 行 為 の 可 罰 性 を 基 礎 づ け る 構 成 ( 2 点 )
各小 問の あて はめ →1 点ず つ
① 病的 酩酊 の症 状あ り
② ③事 情を 知り なが ら酒 を飲 む、 傷害を 行う こと を意 図
→傷 害時 に心 神耗 弱状 態で も完 全な責 任を 問う べき では ない か?
【 論点 】原 因に おい て自 由な 行為
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 客 観 的 に 傷 害 罪 ( 204 条 ) の 構 成 要 件 に 該
当 する 行為 を行 って いる 。
し か し 、傷 害 時 に は、 甲 に は 心神 耗 弱 状 態に 陥 っ
て い る 。 この よ う な 場合 、 甲 は 無条 件 に 責 任の 減 少
が 認め られ 、刑 が減 軽さ れる か。
2 、 (1) 責 任 能 力 は 原 則 と し て 実 行 行 為 時 に 存 在 し
【 論点 】原 因に おい て自 由な行 為
な けれ ば な ら ない 。 と す ると 、 犯 行 が限 定 責 任 能
● 原則 の指 摘
力 下で 行 わ れ てい る 場 合 、責 任 が 減 少し 、 刑 が 減
軽 さ れ る ( 39 条 2 項 ) と い う こ と に な り そ う で あ
る。
し かし 、か かる 結 論は 素朴 な法 感情 に反 す る。 行
● 妥当 な結 論に つい て
為 者の 責 任 能 力あ る 時 点 にお け る 行 為に よ っ て 責
任 無能 力 等 の 状態 が 招 か れ、 犯 罪 結 果が 生 じ た 場
合完 全な 責任 を問 うべ きで ある 。
か かる 場合 の可 罰 性を 肯定 する 理論 を、 上 記行 為
と 責任 の 同 時 存在 の 原 則 との 関 係 で いか に 構 成 す
べき か。
(2) ( こ の 点 、 自 己 の 責 任 無 能 力 状 態 を 道 具 と し て
利 用す る 点 に 可罰 性 を 認 める 見 解 が ある 。 こ の 立
場 は、 原 因 設 定行 為 を 実 行行 為 と 解 する の で 、 行
- 48 -
● 反対 説批 判
為と 責任 の同 時存 在の 原則 は堅 持され る。
し かし 、原 因設 定 行為 に、 実行 行為 とい え るだ け
* 左記 の立 場
の 危険 性 を 認 める こ と は 常識 に 反 す る。 ま た 、 こ
→心神耗弱状態で他人を害した
の 理論 に よ れ ば責 任 の 判 断に お い て 始め て 実 行 行
場合、完全な責任を問うことの説
為 が何 か が 決 定す る こ と にな る か ら 、理 論 の 筋 道
明が難しくなるという問題点もあ
と し て 疑 問 が あ る 。)
る
思 うに 、責 任非 難 は違 法な 行為 をな す最 終 的な 意
思 決定 に 向 け られ る も の であ る 。 こ こで 、 結 果 行
為 自体 が 原 因 行為 時 に な され た 意 思 決定 の 実 現 で
あ ると 評 価 で きる 場 合 、 そこ に お け る最 終 の 意 思
決 定と は 、 原 因設 定 行 為 時に お け る 意思 決 定 で あ
る。
と すれ ば、 この 場 合は 実行 行為 のと きに 責 任能 力
があ った 場合 と同 視し てよ い。
し たが って 、上 記 場合 にお いて 、責 任能 力 が意 思
決 定時 に 存 在 すれ ば 、 全 体と し て 責 任を 問 う て よ
いと 解す る。
3、以 上の 法的 構成 から、本件 甲の 行為 を評 価す る。
甲 は 、 酒 を飲 ん だ 場 合の 自 己 の 状況 を 熟 知 しつ つ 、
し か も 傷 害結 果 を 意 図し な が ら 酒を 飲 む に 至っ て い
る。
と す れ ば、 最 終 的 に発 生 し た 結果 は 、 原 因設 定 行
為 時 に な され た 意 思 決定 が 実 現 した も の で ある と い
え る。
し た が って 、 本 件 甲に は 完 全 な責 任 を 問 うこ と が
で きる 。以 上、 甲は 傷害 罪の 罪責 を負 う。
二 、小 問2 につ いて
本件 甲は 傷害 を決 意し 、酒 を飲 んだ だけ であ る。
か よ う な行 為 の み は犯 罪 結 果 発生 の 危 険 性と し て
は 、 不 十 分で あ る か ら、 未 遂 犯 が成 立 す る のは 、 あ
く まで 現実 に危 険性 が高 まっ たと きで ある 。
こ の 点 、場 合 に よ って 酒 を 飲 んだ だ け で 実行 の 着
手 を 認 め る見 解 も あ るが 、 未 遂 処罰 に 必 要 なだ け の
危 険性 が認 めら れる とは 考え にく く、 妥当 でな い。
し た が って 、 本 件 甲の 行 為 は 何の 可 罰 性 もな く 、
無 罪で ある 。
以
- 49 -
上
● 自説
第 4章
共犯
第 23 問
A
甲 丙は ①得 られ た財 物を 山 分け する 約束 の下 、A 宅に 強盗 に入 ろう と企 て、 くじ 引き
の 結 果 、丙 が 見 張 り 役 を す る こ と に な り 、A 宅 の 入 り 口 付 近 で 見 張 り を 開 始 し た 。一 方 、
② 甲 は鉄 棒を もっ てA 宅に 侵 入し 、就 寝中 のA に対 し金 を出 せと 脅迫 した が、 Aが これ
に 応じ なか った ので 、A を鉄 棒で 脅し つつ 、縛 り上 げた 。
一 方甲 の妻 乙は 甲が 鉄棒 を 持っ て自 宅を 出た こと を見 て憂 慮し 、甲 の後 を追 って A宅
ま で 赴い たと ころ 、③ 甲に 出 会い 、甲 から 金員 強取 のた め協 力す るよ うに 説得 され た。
乙 はや むな く承 諾し 、甲 と共 に、 財物 を物 色し 、財 物を 取得 した 。
乙 丙 の 罪 責 を 論 ぜ よ ( 住 居 侵 入 罪 は 論 じ な く て よ い )。
基 礎点
22 点 → 各 論 点 1 点
① 共謀 はあ る→ た だし 、や って いる こと は見 張り のみ 、強 盗 の実 行行 為自 体は して いな い
【 論点 】共 同正 犯の 処罰 根拠
【 論点 】共 謀共 同正 犯
② 甲の 行為 →強 盗行 為そ のも の
③ 甲か ら強 盗に 加 担す るよ う説 得は ある →し かし 、共 同し て した 行為 は財 物の 物色 ・取 得
のみ
【 論点 】承 継的 共同 正犯
解 答例
一 、乙 の罪 責に つい て
1 、 本 問 乙 は 、 甲 が 強 盗 罪 ( 236 条 1 項 ) の 実 行 行 為
と し て 、 Aの 反 抗 を 抑圧 し た 後 、財 物 奪 取 行為 の み
に 加担 して いる 。
この よ う に 、先 行 行 為 者が 、 既 に 実行 行 為 の 一
【 論点 】承 継的 共同 正犯
部 を終 了 し た 後、 後 行 行 為者 が 関 与 した 場 合 、 後
行 者 を 共 同 正 犯 ( 60 条 ) と し て 処 罰 で き る か 。
2 、 (1) 思 う に 、 共 同 正 犯 と は 、 行 為 者 相 互 間 に 意
思 の連 絡 が あ って 、 互 い に他 の 一 方 の行 為 を 利 用
して 犯罪 事実 を実 現す るも ので ある。
一部 実 行 全 部責 任 の 原 則の 根 拠 は 、こ の よ う な
場 合に 物 理 的 ・心 理 的 に も犯 罪 の 実 行が 容 易 に な
り 、法 益 侵 害 の可 能 性 が 倍加 す る 点 に求 め る べ き
であ る。
- 50 -
【 論点 】共 同正 犯の 処罰 根拠
(2) こ こ に 、 後 行 者 が 、 先 行 者 の 行 為 及 び 結 果 を 積
極 的に 自 己 の 犯罪 遂 行 の 手段 と し て 利用 す る こ と
は 可能 で あ る 。ま た 、 先 行者 も 後 行 者の 加 入 に よ
っ て自 己 の 犯 罪の 実 現 が 容易 に な る こと が 考 え ら
れる 。
か よう に 先 行 者と 後 行 者 が相 互 に 利 用補 充 し あ
って 一定 の犯 罪を 実現 する こと は可能 であ る。
ただ し 、 後 行者 の 行 為 と無 関 係 な 先行 者 の 行 為
・ 結果 に 利 用 補充 関 係 は 認め ら れ な いの も 、 も ち
ろん であ る。
した が っ て 、先 行 者 と 後行 者 に 上 記関 係 が あ る
と き に 限 り 、共 同 正 犯 の 成 立 を 認 め る べ き で あ る 。
3 、 以 上 をも っ て 本 問を 検 討 す ると 、 乙 は 、甲 か ら ● あて はめ
事 情を 知ら され た上 で実 行行 為の 一部 を行 って いる。
さ ら に 、 乙は 甲 に よ る先 行 行 為 を利 用 し て 、犯 罪 を
実 行 し て いる し 、 甲 も乙 の 加 入 によ っ て 犯 罪の 遂 行
が 容易 にな って いる 。
し た が っ て 、乙 に は 犯 罪 全 体 に つ い て 共 同 正 犯( 60
条 )が 成立 し、 強盗 罪の 罪責 を負 う。
二 、丙 の罪 責に つい て
1 、 本 問 丙は 強 盗 罪 の構 成 要 件 に該 当 す る 行為 を 直
接 行 っ て いる わ け で はな い 。 こ のよ う な 丙 はい か な
る 場 合 も 幇 助 犯 ( 62 条 1 項 ) と し て 処 断 せ ざ る を 得
な いの か。
2 、前 述 の 通 り、 一 部 実 行全 部 責 任 の原 則 の 根 拠
【 論点 】共 同正 犯の 処罰 根拠
は 、共 同 行 為 によ っ て 物 理的 ・ 心 理 的に も 犯 罪 の
実 行が 容 易 に なり 、 法 益 侵害 の 可 能 性が 倍 加 す る
点に 求め られ る。
この 点 を 満 たし て い る なら ば 、 実 行行 為 を な す
た めに 行 為 を 共同 す る に 過ぎ な い 者 も正 犯 と す べ
き であ る 。 す なわ ち 、 共 同実 行 と は 実行 行 為 の 共
同を 必ず しも 要し ない とい える 。
以上 か ら 、 謀議 に 加 わ った 者 は す べて 正 犯 と し
て処 罰し うる と解 する 。
具体 的 な 共 謀共 同 正 犯 の成 立 要 件 とし て は 、 ①
正 犯と し て の 共同 意 思 の 存在 、 ② 実 行と 評 価 で き
る だけ の 共 謀 の事 実 、 ③ 共謀 者 の い ずれ か に よ る
- 51 -
【 論点 】共 謀共 同正 犯
実行 行為 の存 在が 必要 であ ると 解する 。
3 、 以 上 をも っ て 、 本問 を 検 討 する と 、 丙 は山 分 け
を す る 約 束を し 、 役 割分 担 に つ いて も 、 た また ま 見
張 り の 役 につ い た だ けで あ る に 過ぎ な い 。 この よ う
な 事情 から して 、① ②の 要件 は認 めら れる 。
そ し て 、甲 乙 の 犯 罪の 実 行 が ある か ら 、 ③の 要 件
も 認め られ る。
以 上 か ら、 丙 は 、 甲乙 と 共 に 強盗 罪 の 共 同正 犯 と
し て処 断さ れる と解 する 。
以
第 24 問
上
B( 1は C)
1 、 ①甲 乙は 共同 で溶 接作 業 を行 って いた が、 溶接 によ って 発生 する 熱や 火花 によ って
溶 接 箇所 周辺 にあ る可 燃物 に 着火 する 危険 性が ある のに 、両 名と も何 ら遮 へい 措置 等の
発 火 防止 措置 を講 じな いま ま 溶接 を続 けた 結果 、可 燃物 に着 火し て近 隣の 建物 に燃 え移
り 、 こ れ を 焼 損 し た 。 甲 乙 に 業 務 上 失 火 罪 ( 117 条 の 2) が 成 立 す る か 。
2 、 ②甲 はA を殺 害す る計 画 を立 て、 ③乙 に毒 の調 達を 依頼 した 。乙 はや めた ほう がよ
い と いい なが らも 、毒 を用 意 して 甲に 手渡 した が、 ②事 前に 計画 が発 覚し 、甲 は逮 捕さ
れ た。
乙の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
① 可燃 物に 着火 する 危険 性が ある のに、 何ら 結果 発生 を防 止す る措 置を 執っ てい ない
→両 者と も注 意義 務を 怠っ てい る
【 論点 】過 失の 共同 正犯
② 甲は 殺人 計画 を立 てた のみ →実 行の着 手に 至っ てい ない
③ やめ た方 がよ い→ 殺人 の正 犯意 思はな い
ただ し、 殺人 予備 につ いて は予 備行為 その もの を行 って いる
【 論点 】予 備の 共同 正犯
【 論点 】他 人予 備の 可否
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 乙 は共 同 で 作 業を 行 っ て いる 。 こ の よう な 場
合 両 名 の いず れ の 過 失か ら 結 果 が生 じ た の か因 果 関 ● な ぜ 単 独 犯 二 つ で は だ め な の か
係 が必 ずし も明 らか でな いと いう 場合 が少 なく ない。 を 指摘 した 。
- 52 -
そこ で、 過失 犯の 共同 正犯 の成 否が 問題 とな る。
2 、過 失 犯 は 無意 識 を 本 質と す る か ら、 共 同 実 行
【 論点 】過 失の 共同 正犯
の意 思が 認め られ ない とい う見 解があ る。
し かし 、過 失犯 に も注 意義 務違 反と して の 実行 行
為 が認 め ら れ るし 、 こ の 実行 行 為 を 共同 し て 行 う
こと は十 分観 念で きる 。
し た が っ て 、 過 失 の 共 同 正 犯 ( 60 条 ) は 認 め ら
れる とい うべ きで ある 。
3 、以 上か ら、 甲乙 の罪 責を 検討 する 。
二 人 は 一つ の 目 的 に向 け 、 一 方が 他 方 の 行為 を 利
用 し つ つ 行為 を し て いる 。 ま た 、溶 接 作 業 を行 う 際
に は 、 可 燃物 が 着 火 し、 本 問 に おけ る よ う な結 果 が
発 生す るこ とは 予見 でき る。
にも かか わ らず 、遮 へい 措置 を 行う など 必要 な措 置
を 行 わ な かっ た 点 に は予 見 義 務 違反 が 認 め られ る 。
か つ 、 か よう な 心 理 状態 に つ い て意 思 の 連 絡が あ っ
た とみ るこ とが でき る。
し た が っ て 、 甲 乙 に は 業 務 上 失 火 罪 ( 117 条 の 2)
の 共 同 正 犯 ( 60 条 ) が 成 立 す る と 解 す る 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 問 乙 は 甲 の 殺 人 予 備 行 為 ( 201 条 ) に 加 担 し
て い る 。 かか る 他 人 の犯 罪 行 為 に加 担 し て した 予 備
行 為 を 刑 法上 い か に 評価 す べ き か、 明 ら か でな く 、
検 討す る。
2、 (1 )こ の 点 、 他 人 の た め の 予 備 行 為 の 可 罰 性 を
肯 定し 、 予 備 罪の 単 独 犯 とし て 処 断 する 見 解 が あ
る。
しか し 、 予 備罪 は 条 文 上自 己 の 犯 罪を 犯 す 目 的
が 必要 で あ る と読 む の が 素直 で あ る 。理 論 的 に 予
備 行為 は 未 遂 行為 の 前 段 階に 位 置 す るも の で あ る
こ とか ら し て も、 予 備 行 為を す る 者 は自 ら 正 犯 と
し て犯 罪 を 実 行す る 意 思 を持 つ 者 で なけ れ ば な ら
ない 。
した が っ て 、他 人 予 備 の成 立 は 否 定す べ き で あ
る。
- 53 -
【 論点 】他 人予 備の 可否
(2) 思 う に 、 予 備 行 為 に も 実 行 行 為 を 観 念 す る こ と
【 論点 】予 備の 共同 正犯
が でき る か ら 、そ の よ う な行 為 を 共 同し て 実 行 し
た 場合 に は 共 同正 犯 と し ての 処 罰 を 認め る の が 素
直 であ る 。 し たが っ て 、 本件 は 共 同 正犯 と し て 処
断す るの が妥 当で ある 。
し かし 、他 人の 犯 罪行 為を 幇助 する 意思 で 予備 行
為を した 者を 予備 罪の 正犯 とし てよい のか 。
確 かに 、予 備は 犯 罪実 行の 前段 階で ある か ら、 予
備 行為 を す る 者は 実 行 行 為を す る 目 的を 有 す る 必
要が あろ う。
し かし 、か かる 実 行の 目的 ある こと は身 分 と考 え
る こと が で き る。 と す る と、 自 ら 犯 罪を 犯 す 意 思
あ る者 と 共 同 して 予 備 行 為を す れ ば 、他 人 予 備 を
す る 目 的 あ る 者 に も 完 全 な 罪 責 を 問 う て よ い ( 65
条 1 項 )。
し たが って 、自 ら 犯罪 を実 行す る意 思が な い者 も
予備 の共 同正 犯と して すべ きで あるこ とに なる 。
3 、 以 上 より 、 乙 は 殺人 予 備 罪 の罪 責 を 負 い、 甲 の
予 備罪 とは 共同 正犯 の関 係に 立つ 。
以
第 25 問
上
C
甲 は、 乙が A家 に侵 入す る 所を 目撃 した ので 、不 審に 思っ て自 分も A家 に侵 入し た。
す ると 、① 甲は Aを 気絶 させ た上 で、 付近 を物 色し はじ めた 。
甲 は乙 の存 在を 一切 知ら な いも のと して 、次 の各 場合 にお ける 、住 居侵 入行 為後 の乙
の 罪責 を論 ぜよ 。
1 、 ②乙 が、 これ 幸い とA 家 の物 色を 始め 、A 家の 物を 奪取 した 場合 (承 継的 共同 正犯
の 成 否 に つ い て は 、 こ れ を 肯 定 す る も の と す る )。
2 、乙 が、 甲を 手助 けす るつ もり で、 外で 見張 りを した 場合 。
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
① Aを 気絶 →付 近を 物色 =強 盗致 傷罪
② 乙→ 甲に よっ て作 り出 され た状 況を利 用し て、 財物 奪取 →強 盗か 、窃 盗か
【 論点 】片 面的 共同 正犯
③ 甲の 犯罪 を容 易に する 行為 があ る→幇 助犯 の成 否が 問題
【 論点 】片 面的 共犯 (幇 助犯 )
- 54 -
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 小 問で は 、 乙 は甲 の 行 為 を利 用 し て 財物 奪 取
行 為を 実行 して いる 。
こ の よ うに 、 共 同 実行 の 意 思 が一 方 に し か存 在 し
な い と き 、 共 同 正 犯 ( 60 条 ) と し て 処 断 で き る か 。
2 、思 う に 共 同正 犯 と し て一 部 実 行 全部 責 任 を 負
【 論点 】共 同正 犯の 処罰 根拠
う 根拠 は 、 互 いに 意 思 を 通じ て 犯 罪 を共 同 実 行 す
る こと で 、 物 理的 ・ 心 理 的に 犯 罪 結 果の 実 現 が 容
易に なる から であ る。
し た が っ て 、共 同 正 犯 と し て の 処 罰 の た め に は 、
共 同実 行 の 事 実と 共 同 実 行の 意 思 が 必要 で あ る と
いう べき であ る。
とこ ろ が 、 片面 的 共 同 正犯 に お い ては 、 共 同 実
【 論点 】片 面的 共同 正犯
行 の意 思 に 欠 ける 。 し た がっ て 、 こ の場 合 は 共 同
正犯 とし て処 罰す るこ とは でき ないと 解す る。
3 、 以 上 から 、 乙 は 自己 が な し た行 為 の 限 度で 、 窃
盗 罪 ( 235 条 ) の 罪 責 を 負 う に 過 ぎ な い 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 問 では 、 乙 は 一方 的 に 、 甲の 犯 罪 を 容易 に す
る 意 思 で 、幇 助 行 為 を行 っ て い る。 他 方 、 乙は 甲 の
存 在は 知ら ない 。
こ の よ うに 、 幇 助 の意 思 が 一 方に し か な い場 合 、
片 面的 幇助 は認 める べき か。
2 、思 う に 、 狭義 の 共 犯 の処 罰 根 拠 は正 犯 を 通 じ
て 法益 侵 害 な いし そ の 危 険を 惹 起 し た点 に あ る 。
し かし 、 か か る危 険 を 惹 起さ せ る の に、 正 犯 と 共
犯と の意 思の 連絡 は必 要な い。
した が っ て 、意 思 の 連 絡の 有 無 は 幇助 の 成 否 に
関係 がな いと いう べき であ る。
3 、 以 上 か ら 、乙 は 強 盗 罪( 236 条 1 項 )の 幇 助 犯( 62
条 1 項) の罪 責を 負う 。
以
- 55 -
上
【 論点 】片 面的 共犯
第 26 問
C
1 、① 過失 犯を 教唆 ・幇 助す るこ とは でき るか 。
2 、 ②た また まナ イフ を置 き 忘れ たこ とに よっ て、 ③あ る者 に傷 害罪 の犯 意を 生じ させ
た り 、既 に犯 意を 生じ た者 の 犯行 を容 易に した 場合 、② ナイ フを 置き 忘れ たこ とを 犯罪
と して 処罰 でき るか 。
3 、 ④甲 女は 自分 の恋 人乙 に 、乙 の不 倫相 手A 女経 由で 、A 女の 夫で 公務 員で ある Bが
賄 賂を 受け 取る よう にし むけ ろと 唆し た。 結果 Bは 賄賂 を受 け取 った 。
4 、 乙 はA 女 が公 務 員 B の代 わ りに 賄 賂を 受 け 取り に 行く こ とを 聞 きつ け たの で 、受
取 場所 まで A女 を送 り届 け、 見張 りを やっ た。
基 礎 点 21 点
各論 点 1 点
① 【論 点】 過失 犯の 共犯
② 過失 行為 →③ のよ うな 教唆 ・幇 助行為 を導 き出 して いる
【 論点 】過 失に よる 教唆 ・幇 助
④ やや こし いけ ど、 再間 接教 唆の 事例
甲女 →乙 →A 女→ B
【 論点 】再 間接 教唆 は処 罰さ れる か
⑤ これ は間 接幇 助の 事例
【 論点 】間 接幇 助は 処罰 され るの か
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、過 失 犯 の 教 唆 の 可 罰 性 は 認 め ら れ る か( 61 条 )。 【 論 点 】 過 失 犯 の 共 犯
思う に 、 過 失犯 は 無 意 識を そ の 要 素と し て い る
● 教唆 犯の 可罰 性
ので 、犯 意を 生じ させ るこ とは 不可能 であ る。
し たが って 、過 失犯 への 教唆 犯はあ り得 ない 。
2 、 一 方 、 過 失 犯 の 幇 助( 62 条 ) は 認 め ら れ る か 。
観念 的 に 、 過失 犯 を 幇 助す る こ と が考 え ら れ な
いわ けで はな い。
しか し 、 過 失行 為 を 幇 助す る と い う結 果 を 発 生
は 偶然 に 頼 る 要素 が 大 き く、 処 罰 に 値す る 法 益 侵
害 の発 生 の 危 険性 が 認 め られ な い 。 しか も 、 た だ
で さえ 軽 い 過 失犯 の 刑 を 減軽 す る と 刑が 軽 す ぎ て
処罰 の意 味が なく なる 。
した が っ て 、過 失 犯 の 幇助 を し て も、 処 罰 の 対
- 56 -
● 幇助 犯の 可罰 性
象に なら ない 。
二 、小 問2 につ いて
1 、本 問 の よ うに 、 ナ イ フを 置 き 忘 れた こ と に よ
【 論点 】過 失に よる 教唆 ・幇助
っ て、 犯 意 を 生ぜ し め た 者を 、 教 唆 犯と し て 処 罰
● 教唆 の可 罰性
で き る か 。 過 失 行 為 に よ る 教 唆 犯 ( 61 条 ) の 成 否
が問 題と なる 。
思う に 、 正 犯に 準 じ る とさ れ る 教 唆の 法 定 刑 を
過失 犯に 科す こと は妥 当で ない 。
し か も 、 故 意 に 犯 意 を 生 ぜ し め る と い う「 教 唆 」
( 61 条 ) の 語 義 に 反 す る 。
した が っ て 、過 失 に よ る教 唆 は 処 罰で き な い と
いう べき であ る。
2 、 同 様 に 、 過 失 に よ る 幇 助 ( 62 条 ) も 処 罰 で き
● 幇助 の可 罰性
ない と解 する 。
処罰 範 囲 が 不当 に 広 が るし 、 処 罰 の必 要 性 が あ
るほ どの 危険 性も 認め られ ない からで ある 。
3 、以 上、 本問 のよ うな 行為 は罪 を構 成し ない 。
三 、小 問3 につ いて
A 女 は B に 単 純 収 賄 罪 ( 197 条 ) を 犯 す よ う 教 唆
し 、そ のA 女を 乙が 教唆 して いる 。
乙 は 間 接 教 唆 犯 ( 61 条 2 項 ) と し て 処 罰 さ れ る
が、 その 乙を さら に教 唆す る行 為は可 罰的 か。
【論点】再間接教唆は処罰される
か
思う に 、 共 犯の 処 罰 根 拠は 間 接 的 な法 益 の 侵 害
に ある と い う こと が で き る。 と す れ ば、 犯 罪 行 為
を唆 すこ とが 教唆 だと 考え るこ とがで きる 。
し た が っ て 、 間 接 教 唆 の 教 唆 も 「 教 唆 」( 61 条 )
とい うべ きで ある 。
以上 から 、甲 女は 収賄 罪の 教唆 犯の 罪責 を負 う。
四 、小 問4 につ いて
A 女 は B が 収 賄 罪 ( 197 条 ) を 実 行 す る こ と を 容
易 に す る 幇 助 犯 ( 62 条 ) と い う こ と が い え る 。
では 、 そ の A女 を 幇 助 する 間 接 幇 助行 為 は 可 罰
的か 。
【論点】間接幇助は処罰されるの
か
思う に 、 間 接幇 助 行 為 につ い て は 、正 犯 を 幇 助
- 57 -
し てい る と 考 える こ と が でき る 。 し たが っ て 、 間
接幇 助も 可罰 的で ある とい うべ きであ る。
以上 から 、乙 は収 賄罪 の幇 助犯 の罪 責を 負う 。
以
第 27 問
上
B
甲 は乙 が金 に困 って いる こ とを 聞き つけ たの で、 乙に 俺が 財物 を買 い取 って やる から
窃 盗を 行え 、と 教唆 をし た。
① 共 犯 の 従 属 性 に つ い て 論 じ た 上 で 、 次 の 各 場 合 に お い て 、 甲 に 窃 盗 罪 ( 第 235 条 ) の
教 唆 犯 ( 第 61 条 ) が 成 立 す る か 。
1 、② 乙が 窃盗 を行 わな かっ た場 合
2 、③ 乙が 犯罪 を実 行し たが 、刑 事未 成年 であ った 場合
3 、 ④甲 は乙 が実 行に 着手 し ても 結果 は絶 対に 発生 しな いと 思っ てい たの に、 乙が 犯罪
を 実行 し、 結果 を発 生さ せた 場合
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
① 【論 点】 狭義 の共 犯の 従属 性
② 【論 点】 教唆 の未 遂
③ 【論 点】 責任 無能 力者 の教 唆
④ 【論 点】 結果 が発 生し ない と認 識しつ つ犯 罪を 教唆 した 場合 (未 遂の 教唆 )
解 答例
一 、共 犯の 従属 性に つい て
1 、共 犯の 実行 従属 性の 問題 につ いて
従属 性 の 問 題と し て 、 まず 、 正 犯 が成 立 し な い
に も関 わ ら ず 、共 犯 を 独 自に 処 罰 で きる か が 問 題
【 論点 】狭 義の 共犯 の従 属性
● 実行 従属 性の 問題
とな る。
思う に 、 刑 法の 機 能 は 法益 保 護 に ある か ら 、 正
犯 を通 じ て 法 益侵 害 ・ 危 険を 惹 起 し たと こ ろ に 処
罰根 拠を 求め るべ きで ある 。
すな わ ち 、 共犯 は 正 犯 者を 媒 介 と して 、 犯 罪 の
実 現に 加 担 す るの み で あ るの で 、 共 犯行 為 の み で
は、 結果 発生 に至 る現 実的 危険 性に乏 しい 。
し たが って 、正 犯 によ る法 益侵 害の 危険 が 発生 し
- 58 -
* 処罰 根拠 論か ら明 らか にした 。
て 初め て 処 罰 すべ き で あ る。 す な わ ち、 正 犯 が 実
行行 為に 着手 して 初め て処 罰で きるこ とに なる 。
2 、共 犯の 要素 従属 性の 問題
上記 の よ う に、 共 犯 処 罰の た め に は、 正 犯 が 犯
● 要素 従属 性の 問題
罪の 実行 に着 手す るこ とが 必要 である。それ では、
共 犯処 罰 の た めに は 、 正 犯は い か な る程 度 ま で 犯
罪の 構成 要素 を具 備す る必 要が あるか。
「 犯罪」
( 61
条 )、「 正 犯 」( 62 条 ) の 意 味 が 問 題 と な る 。
思 うに 、共 犯は 正 犯を 通じ て法 益侵 害を 行 う点 に
処 罰根 拠 が あ る。 と す る と、 共 犯 の 可罰 性 を 認 め
る に は 、正 犯 者 が 違 法 な 行 為 を な し た こ と を 要 し 、
それ でた りる とい うべ きで ある 。
すな わち 、 正犯 行為 が違 法性 ま で備 えれ ば共 犯も 処
罰 でき ると 解す る。
二 、1 、小 問1 につ いて
本件 の よ う に、 犯 罪 の 実行 を 教 唆 した が 、 正 犯
【 論点 】教 唆の 未遂
が 実行 に 着 手 しな か っ た 場合 、 教 唆 者を 処 罰 で き
るか 。
上で 述 べ た よう に 、 教 唆犯 の 処 罰 根拠 は 正 犯 を
介 して 間 接 的 に法 益 侵 害 の結 果 を 発 生さ せ た 点 に
求め るべ きで ある 。
この 点 で 、 正犯 が 実 行 に着 手 し な けれ ば 、 そ の
よ うな 法 益 侵 害の 結 果 を 発生 さ せ て いる と は 言 え
ない 。
し たが って、この 場合、教 唆者 は処罰 でき ない。
だ か ら 、本 問 甲 に も 窃 盗 罪 の 教 唆 犯 は 成 立 し な い 。
2 、小 問2 につ いて
乙が 刑 事 未 成年 者 で あ った 場 合 、 乙は 違 法 行 為
を 行え る が 、 有責 な 行 為 は行 え な い 。か か る 乙 を
教唆 した 場合 、教 唆犯 は成 立す るか。
前段 で 述 べ たよ う に 、 共犯 処 罰 の ため に は 、 正
犯が 違法 行為 を行 うこ とで 足り る。
本 件 乙 は 窃 盗 罪 ( 235 条 ) の 構 成 要 件 に 該 当 す
る 違法 行 為 を して い る 。 した が っ て 、こ れ を 教 唆
- 59 -
【 論点 】責 任無 能力 者の 教唆
し た 甲 は 、 窃 盗 罪 の 教 唆 犯( 61 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
3 、小 問3 につ いて
未 遂処 罰に は処 罰 に必 要な 危険 性の 発生 が 必要 で
【論点】結果が発生しないと認識
あ る。 一 方 で 、共 犯 の 処 罰根 拠 は 正 犯を 介 し て 危
しつつ犯罪を教唆した場合(未遂
険を 発生 させ る点 にあ る。
の 教唆 )
こ こで 、正 犯が 実 行行 為を 行え ば、 結果 発 生の 危
険 は発 生 す る 。と す れ ば 、こ れ を あ えて 行 う よ う
に教 唆す れば 、そ の可 罰性 は肯 定しう る。
し たが って 、教 唆 犯の 故意 とし ては 、被 教 唆者 が
実 行行 為 を 行 う認 識 で た り、 結 果 の 発生 を 認 容 す
るこ とま では 必要 ない と解 する 。
以
上
* 未遂 の教 唆不 可罰 説の 論証
本問 では 教唆 者 甲に 正犯 の犯 罪実 行に つい ての 故意 が全 く 欠け る。 この よう な場 合、 甲
に 教唆 の故 意を 認め るこ とが でき るか。
思う に、 未遂 処 罰に は処 罰に 必要 な危 険性 の発 生が 必要 で ある が、 故意 責任 を問 うに は
こ の点 につ いて の 認識 が必 要で ある 。と なる と、 故意 犯の 成 立に は、 結果 につ いて まで の
故 意が 要求 され るこ とに なる 。
ここ で、 教唆 者 にそ のよ うな 危険 な結 果発 生の 認識 がな け れば 、教 唆の 故意 に欠 ける と
い うべ きで ある 。
以上 から 、正 犯 の実 行の 着手 につ いて 、甲 に故 意が 欠け る 以上 、甲 は処 罰さ れな いと い
う べき であ る。
第 28 問
A
次の 各場 合に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 甲乙 がA 家に 強盗 に入 る 計画 をた てた が、 甲が 、② 押し 込む 前に 怖じ けず いて ①や
め た場 合。
2 、 二人 でA 家に ②押 し込 ん で( =住 居に 侵入 し、 脅迫 を開 始し て) から 、甲 が犯 罪の
実 行 を① 放棄 した 場合 。ま た 、放 棄す るに 止ま らず 、③ 甲が 乙の 犯罪 の実 行を いっ たん
① やめ させ たが 、乙 が新 たな 意思 をも って 犯罪 を実 行し た場 合は どう か。
3 、 甲乙 がA を殺 害す る計 画 を立 て、 ④乙 がA に毒 を飲 ませ た。 ⑤乙 が立 ち去 った 後、
甲 はA がか わい そう にな って 、苦 しむ Aに 解毒 剤を 飲ま せて 助け た。
基 礎 点 19 点
各小 問の 処理 する ごと に 1 点
① すべ て、 犯罪 を途 中で 放棄 して いる。
- 60 -
② 押し 込む 前に やめ る→ 実行 の着 手前の 離脱
【 論点 】共 犯関 係か らの 離脱 (3 点)
【 論点 】共 犯へ の中 止犯 の適 用( 1 点)
③ 実行 行為 が終 了前 →離 脱の 問題
あえ て犯 罪の 実行 をや めさ せる →中止 犯の 問題
小問 2で は、 離脱 と中 止犯 の両 方が問 題に なる
④ 乙が 毒を Aに 飲ま せる →実 行行 為が終 了、 離脱 は問 題に なら ない
⑤ 中止 犯の 成否 が問 題に なる
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 問 甲 は 、 住 居 侵 入 ( 130 条 )、 強 盗 ( 236 条 )
の 実 行 行 為に 着 手 す る前 に 犯 罪 の実 行 を 断 念し て い
る。
し か し 、共 犯 と し て処 罰 さ れ るた め に は 、必 ず し
も 実 行 行 為を 担 当 す る必 要 は な く、 実 行 行 為を 担 当
し て い な いこ と は 、 甲の 強 盗 罪 の罪 責 を 否 定す る た
め の 決 定 的理 由 に な らな い 。 犯 罪行 為 を 断 念し た 者
の 罪 責 を 考慮 す る に は、 こ の 者 が共 犯 関 係 から 離 脱
し てい るか 否か を判 断す る必 要が ある 。
2 、 (1) こ こ に 、 離 脱 と は 、 共 犯 関 係 に あ る 者 の 一
部 が犯 罪 の 完 成に 至 る ま での 間 に 犯 意を 放 棄 し 、
自 己の 行 為 を 中止 し て そ の後 の 犯 罪 行為 に 関 与 し
ない こと をい う。
その 効 果 と して 、 離 脱 者は 犯 罪 結 果に つ い て 責
任を 問わ れな いこ とに なる 。
(2) 上 記 の よ う に 処 理 さ れ る の は 、 行 為 と 因 果 性 が
な い結 果 へ の 責任 を 問 う わけ に は い かな い か ら で
ある 。
とす れ ば 、 離脱 の 効 果 を認 め る に は、 離 脱 者 が
自 己の 行 為 と 他の 行 為 者 によ る そ の 後の 行 為 と の
因果 性を 除去 する 必要 があ ると いうべ きで ある 。
(3) 具 体 的 に は 、 着 手 前 の 離 脱 の 場 合 は 、 他 の 共 謀
者 に対 し て 共 謀関 係 か ら の離 脱 の 意 思表 示 を な せ
ば たり る 。 そ れだ け で 、 共同 実 行 の 意思 が 解 消 さ
れる から であ る。
それ に 対 し て、 着 手 後 の離 脱 に つ いて は 、 離 脱
者 は他 の 共 謀 者の 実 行 行 為を 阻 止 し て、 当 初 の 共
- 61 -
【 論点 】共 犯関 係か らの 離脱
謀に 基づ く実 行行 為を 阻止 する 必要が ある 。
他方 、 結 果 が発 生 し た 場合 で も 、 他の 共 謀 者 が
現 に行 っ て い る実 行 行 為 を中 止 さ せ た上 、 そ れ 以
後 実行 行 為 を 継続 す る こ との な い 状 態を 作 り 出 せ
ば 離脱 を 認 め てよ い 。 そ の時 点 で 共 犯関 係 が 解 消
され たと みう るか らで ある 。
3 、 以 上 をも っ て 本 件を 検 討 す るに 、 怖 じ けず い た ● あて はめ
だ け で は 、着 手 前 で あっ て も 、 離脱 が あ る とは い え
な い 。 少 なく と も 、 他の 行 為 者 への 離 脱 の 意思 表 示
の が 必 要 だか ら で あ る。 こ れ が ない 以 上 、 甲も 全 部
責 任を 負わ ざる を得 ない 。
し た が っ て 、甲 は 住 居 侵 入 ・ 強 盗 罪 の 罪 責 を 負 い 、
乙 と は 共 同 正 犯 ( 60 条 ) の 関 係 に た つ 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 小 問で は 、 甲 は押 し 込 ん でか ら 行 為 を止 め て
い る 。 か よう に 実 行 に着 手 し た 後に 、 共 犯 関係 か ら ● 規範 のお さら い
離 脱 を す るに は 、 共 犯者 の 誰 も が、 当 初 の 共謀 に 基
づ く 実 行 行為 を 継 続 する こ と の ない 状 態 を 作り 出 す
必 要が ある 。
し た が って 、 後 段 の場 合 で 初 めて 甲 は 離 脱が 認 め ● あて はめ
ら れる こと にな る。
離 脱 が 認め ら れ な い場 合 、 甲 は完 全 な 罪 責が 問 わ
れ る 。 前 段の 場 合 、 甲は 住 居 侵 入罪 に 加 え 、強 盗 既
遂 罪 ( 236 条 ) の 罪 責 を 負 う こ と に な る 。
他 方 、 後段 で は 甲 は住 居 侵 入 をし た 上 で 、犯 罪 の
実 行 に 着 手し て い る 。そ の 後 共 犯者 が 発 生 させ た 結
果 に 責 任 を 負 う い わ れ は な い の で 、 強 盗 未 遂 罪 ( 243
条 ・ 236 条 ) の 罪 責 を 負 う こ と に な る 。
2 、さ ら に 、 小問 2 の 後 段に お い て 、結 果 が 発 生
して も中 止を 認め るべ きか 。
思う に 、 離 脱が 認 め ら れる 場 合 、 未遂 犯 と し て
処 断 さ れ る 以 上 、 43 条 但 書 の 文 言 に 反 し な い 。 し
か も行 為 と 結 果と の 因 果 性を 除 去 し てい る 場 合 に
は 、中 止 犯 の 効果 と し て 、褒 賞 を 与 える べ き で あ
る。
した が っ て 、離 脱 が 認 めら れ る 者 には 中 止 犯 と
し て 、 43 条 但 書 が 適 用 な い し 準 用 さ れ る と い う べ
きで ある 。
- 62 -
【 論点 】共 犯へ の中 止犯 の適用
以 上 か ら 、後 段 の 甲 に は 中 止 犯 の 規 定 が 適 用 さ れ 、
強 盗に つい て刑 が減 軽、 また は免 除さ れる 。
三 、小 問3 につ いて
本 問 で は、 乙 が 毒 を飲 ま せ た 時点 で 殺 人 罪の 実 行 ● 中 止 犯 し か 問 題 に な ら な い 点 に
行 為 は 終 了 し て い る ( 199 条 ) か ら 、 離 脱 は 問 題 に 注 意
な らな い。
た だ し 、甲 は 、 自 己の 意 思 に よっ て 結 果 防止 の た
め 必 要 か つ相 当 な 行 為を 行 い 、 結果 発 生 を 防止 し て
い る。
し た が っ て 、 甲 は 殺 人 未 遂 罪 の 罪 責 ( 199 条 ) を
負 うが 、中 止犯 の規 定が 適用 され る。
以
第 29 問
上
B
次の 各事 例に おけ る甲 乙の 罪責 を論 ぜよ 。
1 、 ①甲 乙が Aを 痛め つけ て やろ うと 共謀 し、 暴行 に及 んだ 。甲 が傷 害の 故意 しか なか
っ たに も関 わら ず、 乙が 殺人 の故 意を もっ て、 Aを 刺し 、殺 害し た場 合
2 、 甲が 丙に 傷害 を教 唆し た にも 関わ らず 、丙 が殺 人の 故意 をも って 人を 刺し 、殺 害し
た 場合
3 、 甲が 丙に A家 に強 盗に 入 るこ とを 教唆 した が、 B家 に強 盗に 入っ た場 合。 丙が 単に
A 家 とB 家を 間違 った 場合 と 、A 家の 戸締 まり が厳 重で 、一 度あ きら めて 帰り かけ たと
こ ろ 、一 緒に 強盗 に行 った 丁 が強 硬に B家 に強 盗に はい るよ うに 主張 した 場合 に分 けて
論 ぜよ 。
基 礎 点 21 点
【 論点 】共 犯と 抽象 的事 実の 錯誤
共同 正犯 の場 合
教唆 犯の 場合
2点
2点
【 論点 】共 犯と 具体 的事 実の 錯誤
・ 各小 問の あて はめ → 1 点ず つ
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 問 甲乙 に は 傷 害致 死 又 は 殺人 罪 に つ いて の 共
同 正 犯 ( 60 条 ) の 関 係 が 見 ら れ る 。
し か し 、本 問 で は 甲乙 の 間 の 認識 に 不 一 致が 見 ら
- 63 -
れ る 。 殺 人 行 為 を 犯 し た 乙 に 殺 人 罪 ( 199 条 ) が 成
立 す る の は 当 然 で あ る が 、甲 は い か に 処 断 さ れ る か 。
2 、 (1) こ の 点 、 罪 名 の 従 属 性 を 強 調 し 、 重 い 罪 の
【 論点 】共 犯と 抽象 的事 実の錯 誤
共 同正 犯 が 成 立し 、 軽 い 罪の 故 意 し かな い 者 は 軽
* 罪名 従属 性の 問題
い 罪 の 限 度 で 処 断 刑 が 決 ま る ( 38 条 2 項 ) と す る
● 行為 共同 説を 批判
立 場が あ る 。 しか し 、 犯 罪の 成 立 と 科刑 を 分 離 す
る解 釈は 妥当 では ない 。
(2) 思 う に 、 共 同 正 犯 で は 共 同 の 正 犯 行 為 を 通 じ て
● 犯罪 共同 説
法 益侵 害 も し くは そ の 危 険を 発 生 さ せる も の で あ
る 。と す れ ば 、共 同 し て 特定 の 構 成 要件 を 実 現 し
たと いう 事実 を要 する いう べき である 。
そ うす ると 、共 犯 間の 故意 が異 なる 場合 、 共犯 が
成 立し な い か にも 見 え る 。し か し 、 両者 の 故 意 に
● 部分 的犯 罪共 同説
つ いて 、 構 成 要件 的 に 重 なり あ る 範 囲に つ い て は
犯罪 の共 同が 認め られ る。
し たが って 、上 の 限度 で共 犯の 成立 が認 め られ る
と いう べ き で ある 。 重 な り合 い の 有 無は 、 各 犯 罪
の 行為 態 様 、 及び 保 護 法 益に 共 通 点 が見 ら れ る か
否か をも って 判断 する こと が妥 当であ ると 解す る。
3 、 本 問 事案 を 見 る と、 傷 害 罪 と殺 人 罪 の 保護 法 益
は 、 そ れ ぞれ 人 の 身 体・ 生 命 で あり 、 類 似 点が 見 ら
れ る 。 し かも 、 犯 罪 の行 為 態 様 につ い て も 相違 点 は
少 ない 。
以 上 か ら、 本 問 で は死 の 結 果 が発 生 し て いる こ と
か ら 、 甲 には 傷 害 致 死罪 が 成 立 する 。 甲 乙 は傷 害 致
死 罪の 限度 で、 共同 正犯 の関 係に 立つ こと にな る。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 問 の よ う に 、 教 唆 ( 61 条 ) の 内 容 と 実 現 し
【 論点 】共 犯と 抽象 的事 実の錯 誤
た 結果 が 異 な る場 合 、 教 唆者 に は い かな る 犯 罪 が
* 教唆 犯の 場合
成立 する か問 題と なる 。
2 、思 う に 、 構成 要 件 に 該当 す る 客 観的 事 実 を 認
識 した 場 合 、 規範 の 問 題 が与 え ら れ 、違 法 性 の 意
識 を 喚 起 す る こ と が 可 能 と な る 。に も か か わ ら ず 、
あ えて 犯 罪 事 実を 実 現 す る点 に 故 意 犯が 重 く 処 罰
され る理 由が ある 。
とす れ ば 、 犯罪 事 実 は 構成 要 件 と して 与 え ら れ
る から 、 原 則 とし て 構 成 要件 に 該 当 する 事 実 さ え
- 64 -
認識 して いれ ば、 十分 故意 責任 を問い うる 。
した が っ て 、認 識 し た 内容 と 発 生 した 事 実 が お
よ そ構 成 要 件 の範 囲 内 で 符合 し て い れば 故 意 が あ
ると いう べき であ る。
とす る と 、 構成 要 件 の 範囲 内 で の 符合 も な い 場
合、 一般 的に は、 故意 は阻 却さ れるこ とに なる 。
ただ し 、 構 成要 件 に 実 質的 な 重 な り合 い が 認 め
ら れる 場 合 に は、 そ の 限 度で 違 法 性 の意 識 を 喚 起
で きる 。 し た がっ て 、 こ の場 合 に は 、そ の 限 度 で
故意 責任 を問 いう ると いう べき である 。
教唆 犯 も 、 犯罪 に 重 な り合 い が 認 めら れ る 限 度
で罪 責を 負う とい うべ きで ある 。
3 、 以 上 か ら 、 甲 は 傷 害 致 死 罪 ( 204 条 ) の 教 唆 犯 * 結 果 的 加 重 犯 の 教 唆 の 論 点 も あ
( 61 条 ) と し て 処 断 さ れ る こ と に な る 。
り うる
三 、小 問3 につ いて
1 、 本 小 問前 段 に つ いて は 、 具 体的 事 実 の 錯誤 の 問
題 と し て 処理 で き る 。す な わ ち 、住 居 侵 入 強盗 を 教
唆 し 、 結 果と し て 住 居侵 入 強 盗 の結 果 が 発 生し て る
以 上、 故意 は認 めら れる 。
し た が っ て 、 甲 は 強 盗 罪 ( 236 条 ) の 教 唆 犯 と し
て の罪 責を 負う 。
2 、 こ れ に対 し て 、 後段 に つ い て乙 が B 家 に強 盗 に ● 教唆 の因 果性 の問 題
入 っ た の は、 甲 の 教 唆に よ る も ので は な く 、丙 に 強
盗 に入 るよ うに 説得 され たか らで ある 。
共犯も、行為と結果との間に因
果関係が必要であることは注意す
と な る と、 こ の 場 合甲 の 教 唆 と、 乙 に よ る強 盗 の べ き
結 果 と の 間に 因 果 性 はな い 。 す なわ ち 、 甲 によ っ て
法 益侵 害の 結果 が発 生さ せら れた わけ では ない 。
以上 から 、甲 は無 罪で ある 。
以
上
第 二編
第 1章
第 30 問
財 産罪 以外 の個 人的 法益
B
1 、 会社 が倒 産し て世 をは な かん だ夫 に対 して 、① 妻は 自殺 をす るよ うに すす めた 。こ
の 時点 にお ける 妻の 罪責 を論 ぜよ 。
2 、 上記 の事 案で 、② 夫が 俺 も後 を追 って 死ぬ から 、と 嘘を つい た結 果、 妻が 自己 の殺
害 に承 諾し 、夫 が殺 人の 実行 行為 に及 んだ 場合 、夫 の罪 責を 論ぜ よ。
- 65 -
3 、 会社 が倒 産し て、 夫が 一 家心 中し よう とし て妻 を殺 した 。③ 夫は 承諾 の存 在を 知ら
な か った が、 妻が 真意 によ る 承諾 をし てい た場 合と 、④ 夫が 承諾 の存 在を 誤信 した 場合
と に分 けて 、夫 の罪 責を 論ぜ よ。
基 礎 点 17 点
各 2点
① これ だけ で犯 罪に でき るか
【 論 点 】 自 殺 関 与 罪 ( 202 条 ) の 処 罰 根 拠
【 論点 】自 殺関 与罪 の着 手時 期
② 承諾 殺に 見え るが →承 諾は 錯誤 による もの
【 論点 】承 諾殺 人罪 の承 諾~ 錯誤 による 場合
③ 殺人 の故 意で 承諾 殺人 の結 果が 発生し た場 合→ 殺人 未遂 か承 諾殺 人か
④ 内心 で承 諾殺 →こ れ以 上の 罪に 問うこ とは でき ない
【 論点 】抽 象的 事実 の錯 誤
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 妻 は 自殺 を す る よう に 唆 し てい る か ら 、自 殺 関
与 罪 ( 202 条 ) が 成 立 す る 可 能 性 が あ る 。
しか し 、 こ の時 点 で は 夫は な ん ら 自殺 行 為 に 着
【 論点 】自 殺関 与罪 の着 手時期
手 して い な い が、 そ れ で も、 妻 に 犯 罪が 成 立 す る
か。 自殺 関与 罪の 着手 時期 が問 題とな る。
2 、 (1) こ の 点 、 自 殺 関 与 罪 が 共 犯 の 特 別 類 型 で あ
【 論 点 】 自 殺 関 与 罪 ( 202 条 ) の
る と考 え る な らば 、 自 殺 者の 自 殺 行 為の 開 始 に 実
処 罰根 拠
行の 着手 時期 を求 める べき こと になる 。
cf.【 論 点 】 承 諾 に よ り 法 定 刑 が 軽
しか し 、 自 殺は 、 既 遂 に達 す れ ば 処罰 の 対 象 が
減 され る根 拠
存 在し な く な るし 、 未 遂 の場 合 に 自 殺未 遂 者 を 処
同 意 殺 ( 202 条 ) は 、 他 人 の 生
罰 する の は 国 民の 処 罰 感 情に 反 す る 。自 殺 は か よ
命を侵害するものとして、その可
うな 理由 から 犯罪 では ない 。
罰 性は 肯定 され る。
とな る と 、 自殺 関 与 罪 は共 犯 の 特 別の 類 型 と み
るべ きで はな い。
ただし、同意殺人罪では、被殺
者が死について承諾をなしている
思う に 、 生 命は 本 人 だ けが 左 右 し うる も の と い
う べき で あ る 。す な わ ち 、他 人 の 生 命へ の 関 与 は
から、現象的には、自殺関与と類
似 する 。
自 ら の 生 命 の 関 与 と 質 的 に 異 な り、 可 罰 性 が あ る 。
また 、被 殺 者の 自由 な意 思 決定 に
した が っ て 、自 殺 関 与 罪は 上 記 趣 旨か ら 処 罰 さ
より生命が放棄されている。この
れる 独立 の犯 罪類 型で ある とい うべき であ る。
場合、法益侵害の程度は普通殺人
罪 より 小さ い。
( 2)と す れ ば 、 自 殺 関 与 罪 の 実 行 行 為 は 、 自 殺 へ の 関
- 66 -
以上 同意 殺 人罪 は、 可罰 的 であ る
与 行 為 そ のも の を 実 行行 為 と 解 する べ き で ある 。 す が 、 通 常 の 殺 人 罪 よ り も 法 定 刑 が
な わ ち 、 教唆 行 為 の 開始 に 実 行 の着 手 が あ ると 解 す 軽 減さ れて いる こと にな る。
る。
3 、 以 上 から 、 自 殺 をす る こ と を教 唆 し た 妻は 自 殺
関 与 未 遂 罪 の 罪 責 を 負 う ( 202 条 ・ 203 条 )。
二 、小 問2 につ いて
本 問 妻 は、 夫 の 虚 言を 信 じ て 自ら の 死 に つい て 承
諾 をし てい る。
こ の よ う に 、同 意 が 錯 誤 に よ る も の で あ る と き 、
殺 害 行 為 を 承 諾 殺 人 罪 ( 202 条 )、 殺 人 罪 ( 199 条 )
のい ずれ によ って 評価 すべ きか 。
【論点】承諾殺人罪の承諾が錯誤
に よる 場合
一方で、錯誤が意思決定に重大
思 うに 、追 死が 自 殺の 決意 にと って 本質 的 であ る
な影響を与えているとまでは言え
な らば 、 自 殺 につ い て の 自由 な 意 思 決定 が 失 わ れ
ない場合、承諾は真意によるもの
る 。こ の よ う な状 況 で な され た 承 諾 は、 錯 誤 に よ
として、有効であるということに
る承 諾と して 、無 効と すべ きで ある。
なる。この場合、殺害行為は承諾
承 諾が 無効 な以 上 、本 件殺 害行 為は 殺人 罪 の構 成
要件 によ って 評価 され るこ とに なる。
殺 人罪 によ って 評価 され る。
*承諾の有効・無効について個別
的 に考 える 説を 採っ ても よい。
以 上 か ら 、妻 の 承 諾 は 無 効 で あ り 、夫 は 殺 人 罪( 199
条 )と して 処罰 され る。
三 、小 問3 につ いて
1 、 ま ず 、前 段 で は 、客 観 的 に 承諾 殺 人 罪 の結 果 が
発 生 し て いる が 、 行 為者 は 殺 人 罪の 故 意 を もっ て 行
為 に 望 ん でい る 。 一 方、 後 段 の 場合 は 、 承 諾殺 人 罪
と い う 軽 い罪 を 犯 す 意思 で 殺 人 罪と い う 重 い罪 を 犯
し てい る。
この よ う に 錯誤 が 異 な る構 成 要 件 にま た が る 場
合は 、い かに して 処理 すべ きか 。
2 、 (1) 思 う に 、 故 意 責 任 の 本 質 は 、 反 対 動 機 の 形
成 可能 性 が あ るに も か か わら ず 、 あ えて 犯 罪 行 為
を行 った 点に ある 。
とす る と 、 違法 性 の 意 識喚 起 の 可 能性 が あ る 場
合 は、 そ の 限 度で 故 意 責 任を 問 い う ると 解 す る 。
具 体的 に は 、 認識 と 客 観 的事 実 が 構 成要 件 の 範 囲
で符 合し てい れば 、故 意責 任を 問いう る。
(2) 一 方 、 錯 誤 が 異 な る 構 成 要 件 に ま た が っ て い る
場合 、原 則と して 故意 は阻 却さ れる。
しか し 、 両 構成 要 件 の 間に 、 重 な り合 い が 認 め
- 67 -
【 論点 】抽 象的 事実 の錯 誤
ら れ れ ば 、そ の 限 度 で 違 法 性 の 意 識 は 喚 起 し う る 。
し たが っ て 、 かよ う な 重 なり 合 い が 認め ら れ る 限
度で 故意 責任 を問 うこ とが でき ると解 する 。
3 、 こ こ に、 承 諾 殺 人罪 と 、 殺 人罪 は 行 為 態様 ・ 被
侵 害 法 益 の点 で 共 通 する 。 一 方 の犯 罪 を 犯 す故 意 で
他 方 の 犯 罪を 犯 し た 場合 、 違 法 性の 意 識 喚 起の 可 能
性 はあ る。
と す れ ば、 前 段 の 場合 、 客 観 的に 発 生 し た以 上 の
責 任 を 行 為者 に 負 わ せる わ け に はい か な い 。し た が
っ て 、 夫 は 承 諾 殺 人 罪 ( 202 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
一 方 後 段の 場 合 、 承諾 殺 人 の 限度 で し か 違法 性 の
意 識 を 喚 起す る こ と はで き な い 。し た が っ て、 夫 は
承 諾 殺 人 罪 ( 202 条 ) の 罪 責 を 負 う こ と に な る 。
以
第 31 問
上
B
次の 各場 合に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 ①甲 は命 中さ せる つも り はな いが 、威 嚇す る故 意を もっ て、 石を 乙に 向か って 投げ
た が、 意外 にも 乙に 石が 命中 し、 乙は 怪我 をし た。
2 、 甲が 嫌が らせ 目的 で執 拗 に乙 に電 話を した ら、 ②意 外に も乙 がノ イロ ーゼ にな って
し まっ た場 合
3 、 甲 は妊 婦 であ る A 女に 薬 物を 飲 ま せた と ころ 、 ③A 女 の生 ん だ子 供 B に傷 害 結果
が 発 生し てい た。 ④甲 の毒 物 投与 によ って 、A 女の 分娩 時期 が早 まっ たな どの 事実 がな
い もの とす る。
基 礎 点 19 点
各小 問 2 点 ずつ
① 暴行 の故 意し かな い→ ②傷 害の 結果が 発生 した 、ど うす る?
【 論 点 】 傷 害 罪 ( 204 条 ) の 成 立 に 必 要 な 故 意
② 傷害 の故 意は ない 、暴 行の 故意 もない →結 果と して 傷害 結果 が発 生し た場 合
③ 傷害 結果 が発 生→ ただ 、行 為を した時 期に は胎 児は 存在 しな い
④ 堕胎 罪に はで きな い
【 論点 】胎 児性 傷害 をい かに 処断 すべき か
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 問 甲は 暴 行 の 故意 を も っ て傷 害 の 結 果を 発 生
- 68 -
さ せ て い る。 こ の よ うに 、 傷 害 の結 果 は 生 じた が 、
暴 行 を す る故 意 し か ない 場 合 、 行為 者 を ど のよ う に
処 断す べき か。
2 、 傷 害 罪 ( 204 条 ) の 成 立 に は 、 あ く ま で そ の
【 論 点 】 傷 害 罪 ( 204 条 ) の 成 立
故 意が 必 要 で あり 、 故 意 ない 限 り 傷 害罪 を 成 立 さ
に 必要 な故 意
せ るこ と は で きな い と も 考え 得 る 。 この 立 場 か ら
は 、 本 件 は 暴 行 罪( 208 条 ) と 過 失 傷 害 罪( 209 条 )
と の 観 念 的 競 合 ( 54 条 ) に よ っ て 処 断 す る こ と に
なろ う。
し かし 、傷 害の 故 意と 暴行 の故 意を 明確 に 区別 す
る のは 不 可 能 に近 い 。 に もか か わ ら ず、 か よ う に
解 する と 、 処 断刑 が あ ま りに 軽 す ぎ 、妥 当 な 結 論
を導 けな い。
思う に、
「 傷害 する に至 らな かっ たと き」
( 208 条 )
と いう 文 言 は 、傷 害 罪 が 結果 的 加 重 犯で あ る こ と
を予 定し てい ると いえ る。
し たが って 、暴 行 ・傷 害の 故意 のい ずれ に かか わ
ら ず、 傷 害 結 果を 発 生 さ せた 場 合 、 傷害 罪 が 成 立
す ると い う べ きで あ る 。 すな わ ち 、 傷害 罪 は 暴 行
の結 果的 加重 犯と 故意 犯の 複合 形態と いえ る。
3 、以 上か ら、 甲は 傷害 罪の 罪責 を負 う。
二 、小 問2 につ いて
本 問 甲 は嫌 が ら せ 目的 で 電 話 をか け た こ とに よ っ
て 、 意 外 にも 乙 に ノ イロ ー ゼ の 結果 を 発 生 させ て い
る。
し か し 、嫌 が ら せ 電話 を か け るこ と は 暴 行の 実 行
行 為 と は いえ な い 。 この よ う な 場合 、 基 本 犯が な い
か ら 、 傷 害の 故 意 が ない 限 り 、 傷害 罪 は 成 立し な い
と いう べき であ る。
以 上 か ら 、 甲 は 過 失 致 傷 罪 ( 209 条 1 項 ) の 罪 責 し
か 負わ ない 。
三 、小 問3 につ いて
1 、 甲 は 乙に 毒 物 を 投与 し て い るが 、 本 問 の場 合 、
分 娩 時 期 が 早 ま っ て い な い か ら 、 不 同 意 堕 胎 罪 ( 215
条 )は 成立 しな い。
一方 、 B に 傷 害 の 結 果が 発 生 し て いる が 、 甲 の
実 行 行 為 時 B は 胎 児 で あ っ た 。胎 児 は 人 で は な い 。
- 69 -
【論点】胎児性傷害をいかに処断
す べき か
こ の場 合 、 甲 に傷 害 罪 の 成立 を 認 め るこ と が で き
るか 。
2 、ま ず 、 胎 児は 母 体 の 一部 で あ る と考 え れ ば 、
胎 児へ の 攻 撃 は、 母 体 と いう 人 に 対 する 傷 害 と い
え る。 そ の 上 で、 生 ま れ た子 と い う 人に 傷 害 結 果
が 発生 す る の であ る か ら 、傷 害 罪 の 成立 を 認 め る
こと がで きそ うで ある 。
し かし 、胎 児に 対 する 傷害 を母 体へ の攻 撃 と解 す
る と、 自 己 堕 胎は 自 己 傷 害と い う こ とに な る 。 と
な ると 、 自 己 堕胎 が 可 罰 的で あ る こ との 説 明 が つ
かな い。
し かし 、傷 害結 果 が生 じた 胎児 が生 まれ た 場合 、
母 親へ の 攻 撃 によ っ て 、 母親 の 健 康 な子 供 を 産 む
と いう 機 能 が 害さ れ る と みる こ と が でき る 。 す な
わ ち、 母 親 に 対し て 結 果 が発 生 す る 傷害 罪 と み る
のが 妥当 であ る。
3 、 し た が っ て 、 甲 に は 傷 害 罪 ( 204 条 ) が 成 立 す
る と解 する べき であ る。
以
第 32 問
上
C
甲 は 、山 中 で ハ イ キ ン グ を し て い た と こ ろ 、① 乙 が A を 殴 っ て い る 現 場 に 出 く わ し た 。
乙 が 立ち 去っ た後 、① 甲は A を前 々か ら気 に入 らな く思 って いた ので 、怪 我を して うず
く ま って いる Aに 数発 足蹴 を 食ら わし て立 ち去 った 。さ らに 、③ 丙は 苦し んで うめ いて
い る Aを 発見 した が、 面倒 な こと に関 わり 合い にな るの はご めん だと 考え 、丙 はそ のま
ま A を置 き去 りに した 。④ A はそ の後 死亡 した が、 死亡 の原 因と なっ た傷 害が 甲乙 いず
れ の暴 行に よる もの か不 明で ある 。
甲乙 丙の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎点
21 点
各 論点 2 点
① ②甲 乙は Aに 強度 の暴 行を 加え ている →傷 害結 果が 発生 して いる のは 明ら か
③ Aは 怪我 をし てい る= 扶助 を要 すべき もの
これ を置 き去 りに する 行為 は、 遺棄罪 を構 成し ない のか 。
ただ 置き 去り にす るだ けな らば 処罰す る必 要は ない ?
【 論点 】遺 棄の 意義
④ 死の 結果 と甲 乙の 行為 との 間の 因果関 係が 不明 であ る。
【 論 点 】 同 時 傷 害 の 特 例 ( 207 条 ) の 趣 旨
- 70 -
【 論 点 】 207 条 の 適 用 範 囲 ( 傷 害 致 死 に 適 用 で き る か )
解 答例
一 、甲 乙の 罪責 につ いて
1 、 甲 乙 は傷 害 行 為 を行 っ て お り、 結 果 と して A が
死 亡 し て いる 。 し か し、 A の 死 の結 果 と 甲 乙の 行 為
と の 因 果 関 係 が 明 ら か で な い か ら 、 甲 は 傷 害 罪 ( 204
条 )の 限度 でし か罪 責を 負わ ない のが 原則 であ る。
しか し 、 傷 害罪 に つ い て、 意 思 の 連絡 が な く と
も 共 犯 の 例 に よ る と さ れ て い る が ( 207 条 )、 こ の
【 論 点 】 207 条 の 適 用 範 囲 ( 傷 害
致 死に 適用 でき るか )
場 合、 甲 に 同 規定 が 適 用 され る か 。 傷害 致 死 罪 に
同時 犯の 特則 が適 用で きる か否 かが問 題と なる 。
2 、 (1) 同 時 犯 に お い て は 、 行 為 者 相 互 間 に 意 思 の
連 絡が な い 。 した が っ て 、単 独 犯 と して そ れ ぞ れ
の 行為 者 に つ いて 犯 罪 の 成否 が 検 討 され る の が 原
則で ある 。
し か し 、207 条 は 傷 害 行 為 が 行 わ れ た 場 合 に 限 り 、
意 思の 連 絡 な くて も 共 犯 規定 に よ り 処罰 さ れ る 場
合を 認め るも ので ある 。
一 つの 客体 に複 数 の暴 行が 競合 した 場合 、 発生 し
た 傷害 の 原 因 行為 の 特 定 が難 し い 。 因果 関 係 の 推
定 は、 そ れ で も行 為 者 に 処罰 を 免 れ させ る べ き で
は ない 、 と い う政 策 的 理 由に よ っ て 認め ら れ る も
ので ある 。
とす る と 、 本問 の よ う な場 合 に も 上の 趣 旨 は 当
て は ま る か ら 、 207 条 の 適 用 を 認 め う る か に 見 え
る。
(2) し か し 、 本 条 は 因 果 関 係 が 不 明 な 場 合 、 既 遂 結
果 につ い て 犯 罪者 に 帰 責 でき な い と の刑 法 の 原 則
を 修正 す る も ので あ る 。 した が っ て 、安 易 に 適 用
範囲 を拡 大す るこ とは でき ない 。
本条 が 、 人 を「 傷 害 し た」 場 合 と 規定 し て い る
こと はそ の現 れと いう べき であ る。
し た が って 、 原 則 通り 、 甲 乙 はA の 死 の 結果 に つ
い て は 責 任 を 負 わ な い 。 甲 乙 は 傷 害 罪 ( 204 条 ) の
- 71 -
【 論 点 】 同 時 傷 害 の 特 例 ( 207 条 )
の 趣旨
罪 責を 負う のみ であ る。
二 、丙 の罪 責に つい て
1、Aは 扶助を 要す べき 者と いう こと がで きる から、
こ れ を 置 き 去 り に し た 丙 は 、 遺 棄 罪 ( 217 条 ) の 罪
責 を負 う可 能性 があ る。
しか し 、 丙 はA を 発 見 した 後 、 そ のま ま 置 き 去
【 論点 】遺 棄の 意義
り に し た の み で あ る 。 こ こ に 、「 遺 棄 」( 217 条 )
には 置き 去り 行為 も含 むか 。
2 、 思 う に 、 217 条 は 保 護 責 任 の な い 者 を 処 罰 す
る 規定 で あ る から 、 そ の よう な 者 に は不 作 為 を 処
罰す るた めの 基礎 とな る作 為義 務はな い。
し た が っ て 、 217 条 の 遺 棄 は 移 置 の み を 指 す と
いう べき であ る。
( 一方 で 保 護 責任 者 に は 不作 為 を 処 罰す る 基 礎 と
なる 作為 義務 の存 在が 認め られ る。
し た が っ て 、 218 条 の 遺 棄 は 移 置 の み な ら ず 、
置 き 去 り を も 意 味 す る と 解 す べ き で あ る 。)
3 、以 上か ら、 甲は 無罪 であ る。
以
第 33 問
上
B
郵 便局 員甲 は局 長の こと を 日頃 から 気に 入ら なか った ので 、① 局長 を批 判す る文 書を
局 内 に掲 示す るた め、 こっ そ り夜 間に 郵便 局に 侵入 する 計画 を立 てた 。甲 は郵 便局 に入
る 際 に 、② ビ ル の 管 理 人 に 対 し て 事 情 を 話 し 、黙 っ て 通 し て も ら う 話 が つ い て い た の で 、
す ん なり 郵便 局内 に侵 入で き た。 甲が 侵入 して みる と、 局長 室が 開い てい る様 子で あっ
た の で、 こわ ごわ 局長 室を 覗 いて みる と、 ③局 長が 仕事 に疲 れて 眠り 込ん でい たの で、
嫌 が らせ をし てや ろう と考 え 、④ 局長 室の 扉を 閉め 、そ の外 に机 やい すを おい て、 簡単
に は 開か ない よう にし た。 と ころ が、 甲の 帰宅 後、 管理 人は 話が 大き くな るこ とを おそ
れ 、 局長 室の 前の 机や いす を 取り 除き 元に 戻し てお いた ので 、⑤ 局長 は閉 じこ めら れた
こ とに つい ては 気が つか なか った 。
本問 事例 にお ける 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
① 正当 な理 由が ない のに 侵入 した ……と いえ るか
② 管理 人が 建物 の内 部へ の進 入を 許可し てい る→ 侵入 態様 とし ては 正当
- 72 -
【 論点 】住 居侵 入 罪の 処罰 根拠 →い かな る場 合に 正当 な理 由 なく …… 侵入 した こと にな る
か
③ ⑤被 害者 は監 禁の 事実 に気 がつ かなか った
【 論点 】逮 捕・ 監禁 罪の 客体
④ 人を 物理 的に 監禁 する 行為 があ る
解 答例
一 、 ま ず 、夜 間 郵 便 局に 侵 入 し てい る こ と を捉 え 、
甲 に は 住 居 侵 入 罪 ( 130 条 ) が 成 立 す る 可 能 性 が あ
る。
しか り 、 甲 は管 理 人 の 承諾 を 得 て 建物 に 進 入 し
【 論点 】住 居侵 入罪 の処 罰根拠
て い る 。 そ こ で 、「 正 当 な 理 由 が な い の に … 侵 入 」
( 130 条 前 段 ) と は 、 い か な る 態 様 に よ る 立 ち 入
りを 指す のか 。
この 点 、 平 穏を 害 す る 態様 に よ る 住居 へ の 立 ち
入り を指 すと する 見解 があ る。
し かし 、平 穏は 社 会の 平穏 と結 びつ きや す く、 本
罪 の保 護 法 益 が社 会 的 法 益で あ る と みる 考 え 方 の
残滓 がみ られ る。
そも そ も 、 個人 の 意 思 から 法 益 を 分離 す る の は
妥 当で な い 。 この 点 を 中 心に し て 住 居侵 入 罪 の 保
護法 益を 考え るべ きで ある 。
そこ で 、 本 罪の 保 護 法 益は 住 居 に 誰を 立 ち 入 ら
せ 、誰 の 滞 留 を許 す か を 決め る 自 由 であ る と い う
べ きで あ る 。 した が っ て 、住 居 等 の 一定 の 場 所 を
管 理支 配 す る 権利 を 害 す る立 ち 入 り が本 罪 で 処 罰
され ると いう べき であ る。
本 問 に おい て は 、 建物 の 管 理 権者 は 局 長 であ る 。 * 犯罪 の成 立を 否定 して もよい
管 理 人 は 管理 の た め 手足 と し て 利用 さ れ て いる も の
に す ぎ な い。 そ し て 、本 問 甲 に よる 侵 入 を 局長 は 認
め な か っ たと 予 測 さ れる か ら 、 甲に は 建 造 物侵 入 罪
が 成 立 す る ( 130 条 前 段 )。
二 、1 、 次 に 、甲 は 局 長 を局 長 室 に 閉じ こ め て い
【 論点 】逮 捕・ 監禁 罪の 客体
る が、 局 長 に はそ の よ う な認 識 が な い。 こ の よ う
* 原則 論
な 場 合 甲 に 監 禁 罪 ( 220 条 ) が 成 立 す る か 。
2 、思 う に 、 本罪 の 保 護 法益 は 身 体 活動 の 自 由 で
- 73 -
あ る。 し た が って 、 本 罪 の客 体 は 身 体活 動 の 自 由
を有 する 自然 人で あり 、嬰 児な どは除 外さ れる 。
それ で は 、 実行 行 為 の 時点 で 具 体 的な 行 動 の 意
* 論点
思・ 能力 がな い者 は、 本罪 の客 体とな るの か。
思う に 、 被 害者 が た ま たま 行 動 の 意思 を 起 こ す
か 否か で 、 犯 罪の 成 否 が 左右 さ れ る こと に な る の
は 妥当 で は な い。 身 体 活 動の 自 由 と は、 行 動 し た
いと きに 行動 でき る自 由と いう べきで ある 。
し たが って 、客 体 の有 する 自由 の程 度は 潜 在的 ・
可 能的 自 由 で たり 、 本 罪 の客 体 た る ため に 具 体 的
な行 動の 意思 ・能 力は 必要 ない という べき であ る。
さ らに 、監 禁・ 逮 捕の 事実 を被 害者 は認 識 して い
る 必要 が あ る かに つ い て も、 不 要 で ある と い う こ
とに なる 。
3 、 以 上 か ら 、 甲 は 監 禁 罪 ( 220 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
以
第 34 問
上
A( 1は B)
1 、 甲は 、A 女を 姦淫 する 際 、傷 害結 果発 生の 認識 を持 ちつ つ、 傷害 の結 果を 発生 させ
た 。 甲 は い か な る 罪 責 を 負 う か 。さ ら に 、甲 が 死 の 結 果 を 認 容 し な が ら 、A 女 を 姦 淫 し 、
A 女が 死亡 した 場合 につ いて も論 ぜよ 。
2 、 乙は 、B から 財物 を強 奪 する 際、 傷害 結果 発生 の認 識が 持ち つつ 、傷 害の 結果 を発
生 さ せた 。こ の場 合、 乙は い かな る罪 責を 負う か。 乙が 死の 結果 を認 容し なが ら、 Bか
ら 財物 を強 奪す るた め暴 行し 、B が死 亡し た場 合に つい ても 論ぜ よ。
基 礎 点 19 点
* それ ぞれ の論 点が 導か れる 典型 的な事 例
181 条 、 240 条 の い ず れ の 条 文 も 結 果 的 加 重 犯 に 関 す る 条 文 で あ る の は 間 違 い な い
→ 重い 結果 に故 意が ある 場合 の処理 は?
【 論 点 】 強 姦 致 死 傷 ( 181 条 ) で 重 い 結 果 に 故 意 あ る 場 合 の 取 扱
傷害 の場 合
2点
殺人 の場 合
2点
【 論点 】強 盗致 死傷 で、 重い 結果 に故意 があ る場 合の 取扱 い
あわ せて 2 点
- 74 -
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 強姦 犯 人 で あり 、 死 傷 の結 果 を 発 生さ せ て
い る か ら 、 強 姦 致 死 傷 罪 ( 181 条 ) の 成 立 が ま ず 考
え ら れ る 。し か し 、 上の 規 定 は 、一 次 的 に は死 傷 の
結 果に 故意 がな い場 合を 規定 して いる と解 され る。
そ こ で 、強 姦 犯 人 が死 傷 に 故 意あ る 場 合 、本 罪 で
処 罰で きる のか が問 題と なる 。
2 、 ま ず 、 強 姦 致 傷 罪 ( 181 条 ) は 結 果 的 加 重 犯
【 論 点 】 強 姦 致 死 傷 ( 181 条 ) で
で ある か ら 、 故意 あ る 場 合と な い 場 合が 同 一 の 条
重 い結 果に 故意 ある 場合 の取扱
文で 規定 され るの は不 自然 であ るとも いえ る。
そ こで 、故 意あ る 場合 は、 強姦 罪と 殺人 罪 もし く
は 傷害 罪 と の 観念 的 競 合 が成 立 す る との 見 解 が あ
る。
し かし 、傷 害結 果 が発 生し た場 合、 強姦 罪 と傷 害
罪 の観 念 的 競 合に 止 ま る とす れ ば 、 無期 に よ る 処
罰の 可能 性が なく なり 、刑 の均 衡を失 する 。
3 、思 う に 、 姦淫 行 為 の 際、 傷 害 の 結果 が 伴 う こ
と は多 い 。 と すれ ば 、 傷 害の 故 意 あ る場 合 は 強 姦
致 傷罪 の 構 成 要件 に お い て予 定 さ れ てい る と 考 え
るの が素 直で ある 。
以上 から 、 傷害 の故 意あ る場 合 は強 姦致 傷罪 が成 立
す ると 解す るの が妥 当で ある 。
そ れ に 対し て 、 殺 人の 結 果 に つい て は 上 の論 理 は
妥 当 し な い。 し た が って 、 殺 人 の故 意 あ る 場合 は 、
強 姦 罪 と 殺人 罪 の 観 念的 競 合 と して 処 理 さ れる と 解
す るべ きで ある 。
3 、 以 上 か ら 、 前 段 の 場 合 、 甲 は 強 姦 致 傷 罪 ( 181
条 )の 罪責 を負 うこ とに なる 。
一 方 で 、 後 段 で は 、 甲 は 強 姦 罪 ( 177 条 ) と 殺 人
罪 ( 199 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 乙 は 暴行 の 手 段 とし て の 暴 行に よ っ て 、B の 死
傷 の 結 果 を 発 生 さ せ て い る か ら 、 強 盗 致 死 傷 罪 ( 240
条 )が 成立 する 可能 性が ある 。
し か し 、 甲 は 殺 人 の 故 意 が あ る の で 、 240 条 を
- 75 -
【論点】強盗致死傷で、重い結果
甲 に 適 用 で き る か 。 240 条 が 殺 人 の 故 意 あ る 場 合
に 故意 があ る場 合の 取扱 い
も含 むか が問 題と なる 。
2 、 思 う に 、 240 条 の 趣 旨 は 強 盗 の 際 に 暴 行 ・ 脅
迫 が行 わ れ 、 被害 者 が 負 傷・ 死 亡 す るこ と が 顕 著
にみ られ るた め、 これ を重 く罰 したも ので ある 。
そし て 、 強 盗の 際 に 殺 意・ 傷 害 の 故意 あ る こ と
は 十 分 あ り 得 る こ と で あ る か ら 、 240 条 が 故 意 あ
る場 合を 予定 して いな いと は考 えられ ない 。
結果 的 加 重 犯特 有 の 「 よっ て 」 の 文言 が な い と
い う こ と も 、 240 条 の 上 の よ う な 性 格 を 表 し た も
ので ある とい うこ とが でき る。
し た が っ て 、 240 条 に は 死 傷 結 果 に 故 意 あ る 場
合も 含ま れる 。
3 、 以 上 から 本 件 甲 は、 前 段 は 強盗 傷 人 罪 、後 段 は
強 盗 殺 人 罪 ( 240 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
以
第 35 問
上
B
1 、 ①甲 は、 政党 も傘 下に お さめ る宗 教団 体A の代 表が 、複 数の 女性 信者 と特 定の 関係
が あ るこ とを 、② 綿密 な取 材 の結 果、 つき とめ た。 ③そ こで 、代 表ひ いて は当 該宗 教団
体 の 反社 会性 を世 に訴 える た め、 ④取 材内 容を 雑誌 で公 表し た。 後、 甲は 名誉 毀損 罪で
起 訴 され たが 、そ の裁 判の 際 、⑤ 甲は 取材 内容 の真 実性 の証 明に 失敗 した 。甲 の罪 責を
論 ぜよ 。
2 、 ⑥上 記事 例で 、名 誉毀 損 罪が 不成 立に なっ たと した 場合 、別 に侮 辱罪 は成 立し ない
か 、検 討せ よ。
基 礎点
19 点
各 論点 2 点
① 摘示 した 事実 →人 の社 会的 評価 を低下 させ るに たる 具体 的事 実
→た だし 、代 表の 地位 から 、公 共の利 害に 関わ る事 実と いえ ない か
【 論点 】事 実の 公共 性
② 確実 な資 料・ 根拠 によ る表 現で あると みて よい
③ 公益 を図 る目 的が ある とい って よい
④ 公然 事実 を摘 示し たと いえ 、名 誉毀損 罪の 構成 要件 該当 事実 あり
⑤ 失 敗 し た ら だ め で し ょ う … … と い う 気 も す る が 、 230 条 の 2 な ど に よ っ て 、 自 分 の 行 為
が 犯罪 では ない と考 えて いた なら 、そう いう 甲を 保護 しな くて よい のか ?
【 論 点 】 230 条 の 2 の 法 的 性 格
【 論点 】真 実性 の証 明に 関す る錯 誤
- 76 -
⑥ 侮辱 罪が 、事 実 を摘 示し た場 合に も成 立す ると なれ ば、 別 に侮 辱罪 が成 立す る可 能性 は
あ るが ……
【 論点 】侮 辱罪 の保 護法 益( 名誉 毀損と 侮辱 罪の 区別 )
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 公然 と 事 実 を摘 示 し て いる か ら 、 名誉 毀 損
罪 ( 230 条 1 項 ) の 構 成 要 件 に 該 当 す る 行 為 を 行 っ て
い る 。し か も 、真 実 性 の 証 明 に 失 敗 し て い る か ら 、230
条 の 2 の 適用 もな い。
し か し 、甲 は 社 会 的影 響 力 の 大き い 団 体 の反 社 会
性 を 訴 え ると い う 公 益目 的 を も って 、 事 実 の摘 示 を
し て い る もの で あ る 。に も か か わら ず 、 い かな る 場
合 も 甲 が 処 罰 さ れ る こ と は 、表 現 の 自 由( 憲 法 21 条 )
保 障の 観点 から して も認 めら れな い。
そこ で 、 場 合に よ っ て は、 甲 の 処 罰を 免 れ さ せ
る法 的構 成が 問題 とな る。
【論点】真実性の証明に関する錯
誤
2 、こ の 点 、 甲の 故 意 を 阻却 す る こ とで そ の 可 罰
性を 否定 する 見解 があ る。
し か し 、 230 条 の 法 的 性 質 は 処 罰 阻 却 事 由 で あ
る と解 さ れ る 。真 実 性 の 挙証 責 任 を 被告 人 に 負 わ
せて いる から であ る。
そし て 、 処 罰阻 却 事 由 の有 無 は 故 意の 成 立 と 関
係な いか ら、 上記 見解 は妥 当で ない。
実質 的 に も 、非 難 可 能 性が な い と いう よ り 、 端
的 に違 法 性 の ない 行 為 で ある と 解 す るの が 妥 当 で
あ る 。確 実 な 資 料 ・ 根 拠 に 基 づ い た 事 実 の 摘 示 は 、
表 現の 自 由 の 正当 な 行 使 とい う べ き であ る か ら で
ある 。
した が っ て 、た と え 証 明に 失 敗 し ても 、 本 行 為
は 正 当 行 為 ( 35 条 ) と し て 、 違 法 性 が 阻 却 さ れ る
とい うべ きで ある 。
そ し て 、 正 当 行 為 と い う た め に は 、 ま ず 230 条
の 2 にお け る 二つ の 要件 の 具備 が 必要 で ある 。 す
な わち 、 摘 示 事実 が 公 共 の事 実 に 関 する 事 実 で あ
り、 行為 者に 公益 目的 がな けれ ばなら ない 。
その 上 で 、 確実 な 資 料 ・根 拠 に 基 づい て 事 実 の
摘 示 を し て い る こ と が 35 条 適 用 の 要 件 と 解 す る 。
- 77 -
3 、以 上を もっ て本 問を 検討 する 。
まず 、 本 件 事実 は 巨 大 な宗 教 団 体 の会 長 の 私 行
【 論点 】事 実の 公共 性
に 関す る も の であ る 。 こ の場 合 に も 、事 実 の 公 共
性は 認め 得る か。
こ の 点 、( 旧 出 版 法 な ど で は 、 私 行 は 事 実 証 明
の 対 象 か ら 除 外 さ れ て い た 。 し か し 、) 当 該 私 人
の 社会 的 活 動 の性 質 、 社 会に 及 ぼ す 影響 力 に よ っ
て は、 私 行 で あっ て も 、 事実 の 公 共 性を 認 め う る
場合 はあ ると 解す る。
当該 私 人 の 社会 活 動 が 公人 と い え るも の で あ る
な らば 、 そ れ に対 す る 批 判、 評 価 の 一資 料 と な る
から であ る。
した が っ て 、当 該 事 実 に事 実 の 公 共性 を 認 め て
よい と考 える 。
さ ら に 、甲 は 、 綿 密な 調 査 の 上、 当 該 団 体の 反 社
会 性 を 世 に訴 え る た めに 、 表 現 行為 を な し てい る 。
し た が っ て、 甲 の 表 現の 目 的 に 公益 目 的 は ある し 、
表 現が 確実 な資 料・ 根拠 に基 づい てい ると もい える。
し た が っ て 、甲 の 表 現 行 為 か ら は 、35 条 に よ っ て 、
違 法性 が阻 却さ れ、 甲は 無罪 とな る。
二 、小 問2 につ いて
1 、 前 段 で述 べ た よ うに 、 甲 は 名誉 毀 損 罪 での 処 罰
は さ れ な い 。 そ の 場 合 に 、 改 め て 侮 辱 罪 ( 231 条 )
が 成 立 す るこ と が あ りう る か 。 両者 の 区 別 が問 題 と
な る。
2 、こ の 点 、 名誉 毀 損 罪 と成 立 範 囲 を区 別 す る た
【論点】侮辱罪の保護法益(名誉
め 、侮 辱 罪 の 保護 法 益 を 名誉 感 情 と する 見 解 が あ
毀 損と 侮辱 罪の 区別 )
る。
しか し 、 こ の見 解 は 侮 辱罪 で 公 然 性が 要 求 さ れ
て いる こ と が 説明 で き な い。 ま た 、 幼児 や 感 情 の
な い法 人 も 侮 辱罪 の 主 体 とい う べ き であ る か ら 、
保護 法益 は両 罪と も外 部的 名誉 という べき であ る。
そ こ で 、「 事 実 を 摘 示 し な く て も 」( 231 条 ) と あ
る こと か ら 、 事実 の 摘 示 の有 無 で 区 別す る の が 妥
当 であ る 。 す なわ ち 、 事 実を 摘 示 す る場 合 が 名 誉
毀 損罪 で あ り 、事 実 を 摘 示し な い 場 合が 侮 辱 罪 と
- 78 -
いう こと にな る。
3 、 本 件 で甲 は 事 実 を摘 示 し て いる か ら 、 別に 侮 辱
罪 が成 立す るこ とは ない 。
以
上
* 甲の 保護 のた めの 法的 構成 ~故 意を阻 却す ると する 見解
この 点 、真 実 性の 挙 証責 任 を被 告 人に 負 わせ て いる か ら、 単な る 処罰 阻 却事 由 と考 え る
説 があ る。
しか し 、表 現 の自 由 に基 づ く真 実 の公 表 は、 積 極的 に 正当 な行 為 と評 価 され る べき で あ
る。
思う に 、事 実 の公 共 性・ 目 的の 公 益性 が 認め ら れる 場 合、 真実 の 公表 は 違法 な 行為 と は
評 価で きな い。
し た が っ て 、 230 条 の 2 は 違 法 性 阻 却 事 由 を 定 め た も の と い う べ き で あ る 。
と す る と 、 230 条 の 要 件 事 実 が な い の に あ る と 考 え た 場 合 、 認 識 と し て は 完 全 な 正 当 行
為 であ るか ら、 故意 責任 を問 うわ けには いか ない 。
し たが って 、か かる 場合 故意 を阻 却し 、名 誉毀 損罪 が成 立し ない と解 する 。
ここ で 、い か なる 場 合に 故 意を 阻 却す る とい え るか 。 軽率 にも 真 実で あ ると 誤 信し た 者
を 保護 する のは 、名 誉権 を不 当に 害する 結果 とな る。
名誉 の 保護 と 表現 の 自由 と の調 和 と均 衡 の観 点 から 、 確実 な資 料 ・根 拠 に照 ら し、 誤 信
に 相当 の理 由が あ る場 合に 故意 が阻 却さ れる と解 する 。す な わち 、証 明可 能な 程度 に真 実
で ある と誤 信し た者 が故 意責 任を 阻却さ れる と解 する 。
第 2章
第 36 問
財 産に 対す る罪
B
次の 事案 にお ける 甲の 罪責 につ いて 論ぜ よ。
1 、甲 は乙 の運 転す る① トラ ック の荷 台に こっ そり 乗り 込み 、数 十キ ロ移 動を した。
2 、② 甲は 乙の 占有 する 麻薬 を盗 んだ 。
3 、 甲は 、情 報を 同業 他社 に 渡す 意図 で、 ③機 密情 報が 書か れた ファ イル につ いて 、会
社 で業 務用 のコ ピー 用紙 一枚 にコ ピー し、 家に 持ち 帰っ た。
基 礎 点 19 点
各小 問 2 点
【 論点 】財 物の 意義
① 運送 利益 が「 財物 」に あた るか
② 禁制 品が 「財 物」 にあ たる か
③ 情報 が「 財物 」に あた るか
解 答例
- 79 -
一 、 1 、 甲は 、 ト ラ ック の 荷 台 に乗 っ て 、 運送 と い
う 利得 を得 てい る。
この よ う に 、運 送 と い う利 得 を 得 るこ と は 「 財
物」 の取 得に あた るか 。
【 論点 】財 物の 意義
● 運送 利益 が「 財物 」に あたる か
2 、思 う に 、民 法 85 条 は、 物 を 有 体 物 と 定 義 す る 。
こ れを 参 考 に して 、 原 則 とし て 財 物 とは 有 体 物 を
指す と解 する こと にな りそ うで ある。
しか し 、 電 気な ど の エ ネル ギ ー を 盗用 す る も の
を 取り 締 ま る 必要 が あ る 。し た が っ て、 管 理 可 能
な物 を財 物に 含め るべ きで ある 。
ただ し 、 財 物が 物 と い う概 念 か ら 乖離 し す ぎ る
の は妥 当 で な い。 し た が って 、 財 物 とは 、 物 理 的
に管 理可 能な 物を さす と解 する 。
3 、 以 上 をも っ て 本 問内 容 を 判 断す る と 、 運送 と い
う 利 得 は 物 理 的 な 管 理 が 不 可 能 で あ る 。し た が っ て 、
甲 に は 利 益窃 盗 が 成 立す る の み であ る か ら 、不 可 罰
と なる 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 甲 は 麻薬 と い う 禁制 品 の 占 有を 自 己 に 移転 し て
い る か ら 、 窃 盗 罪 ( 235 条 ) の 罪 責 を 負 う 可 能 性 が
あ る。
しか し 、 麻 薬の よ う に 、私 人 に よ る所 有 ・ 占 有
が 禁止 さ れ て いる 物 は 、 財産 罪 の 客 体に は な ら な
い ので は な い か。 禁 制 品 も財 物 に あ たる か が 問 題
とな る。
2 、思 う に 、 禁制 品 も そ の没 収 に は 一定 の 手 続 が
必 要で あ る 。 すな わ ち 、 法律 上 の 没 収手 続 に よ ら
な けれ ば 没 収 され な い と いう 意 味 で 事実 上 の 占 有
が可 能で ある 。
し たが って 、法 律 的手 続に よら ない 奪取 行 為に 対
し ては 刑 法 上 保護 の 必 要 があ る か ら 、そ の 範 囲 に
おい ては 財物 性を 認め るべ きで ある。
3 、 以 上 から 、 麻 薬 も財 物 に 当 たる の で 、 甲は 窃 盗
罪 ( 235 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
三 、小 問3 につ いて
- 80 -
【 論点 】財 物の 意義
● 禁制 品が 「財 物」 にあ たるか
1 、 本 件 甲は コ ピ ー 用紙 一 枚 を 家に 持 ち 帰 って い る
が 、 こ の 点だ け を み ると 、 処 罰 に値 す る 法 益侵 害 が
な く、 犯罪 は成 立し ない 。
し か し 、甲 は 会 社 の機 密 情 報 をコ ピ ー 用 紙に 写 し
取 っ て も いる か ら 、 かか る 行 為 を全 体 的 に みて い か
に 評価 でき るか 。
2 、 (1) 「 財 物 」 と は 、 小 問 1 で み た よ う に 少 な く
【 論点 】財 物の 意義
と も物 理 的 な 管理 が 可 能 なも の で な けれ ば な ら な
③ 情報 が財 物に あた るか
い。
とす れ ば 、 情報 は 人 の 観念 の 産 物 であ る か ら 、
これ は財 物に あた らな い。
(2) し か し 、 か か る 情 報 の 財 貨 的 価 値 は 高 い 。 と す
れ ば、 こ れ が 記録 さ れ た 紙全 体 の 価 値も 、 単 な る
紙と は異 なり 、財 貨的 価値 が高 いとみ うる 。
とす れ ば 、 かよ う な 情 報が 記 録 さ れた 紙 を 窃 取
する 行為 は十 分可 罰性 があ ると いって よい 。
3 、 以 上 をも っ て 本 件を 検 討 す るに 、 会 社 の機 密 情
報 は 、 同 業他 社 に 売 り渡 す こ と がで き る ほ どの 価 値
が あ る 。 かよ う な 情 報が 記 載 さ れた 紙 は 、 もは や 単
な る コ ピ ー用 紙 一 枚 の価 値 と 同 列に み る こ とは で き
な い。
し た が って 、 か か る用 紙 を 家 に持 ち 帰 っ た甲 は 、
窃 盗罪 の罪 責を 負う こと にな る。
以
第 37 問
上
B
次の 各事 例に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 ①A は公 衆ト イレ に入 る ため 、ト イレ のす ぐ前 にあ る公 園の ベン チの 上に 自分 の鞄
を 置 いた 。通 りが かり の甲 は 一部 始終 を見 てい たが 、前 々か ら鞄 がほ しい と思 って いた
の で、 ②そ のま ま鞄 を領 得し た。
2 、 ③甲 は乙 の経 営す るコ ン ビニ エン スス トア で店 番を して いた が、 ⑤店 の商 品を 勝手
に 食べ たり 、日 常用 品を 自分 の家 に持 ち帰 って 使用 した りし た。
3 、 郵便 局員 甲は 、自 己が 届 ける こと にな って いた ⑤現 金書 留を 家に 持ち 帰り 、⑥ 封を
切 って 、中 身の 金銭 を領 得し た。
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
- 81 -
① Aの 占有 はあ るか
② 鞄を 自己 の占 有下 に移 して いる
→A の占 有が ある なら 窃盗 罪、 なけれ ば遺 失物 等横 領と なる
③ 店に 雇わ れた 者→ 委託 新任 関係 が…… ある のか ?
④ 店の 商品 に手 をつ ける 行為 →横 領か、 窃盗 か。 甲に もと もと 占有 があ るか を検 討!
【 論点 】上 下・ 主従 間の 占有
⑤ ⑥本 来届 ける べき 金を 自分 のも のにす る→ 横領 か、 窃盗 か。
【 論点 】封 緘物 の占 有
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 が 鞄 を 領 得 し た 行 為 に つ い て 、 こ れ は「 他 人 」 ● 要 件 事 実 の あ て は め が 問 題 に な
の 占 有 を 侵害 し た も のと い え る か。 A の 占 有が あ る る
か どう かの 判断 基準 が問 題と なる 。
* 参考
2 、 思 う に、 占 有 は その 意 思 と 事実 か ら な るも の で
自動車の試乗を装って、自動車
あ る 。 特 に占 有 の 事 実は 、 問 題 とな る 物 の 種類 、 物 に 載っ て逃 げる 行為
の 保 存 の 態様 、 占 有 の意 思 を 持 つ者 と 、 物 との 位 置
関 係な ど諸 般の 事情 から 総合 判断 すべ きで ある 。
自動車の機動性、ガソリンはス
タンドで容易に入れられること→
3 、 こ こ に本 件 A は 、一 次 的 に 公園 の ベ ン チに 鞄 を こ れ か ら 考 え る と 、 キ ー を 受 け 取
置 い た に 過ぎ な い か ら、 そ の 占 有の 意 思 は 認め ら れ っ たら 占有 移転
る。
∴だまして占有移転させた、とし
ま た 、 公衆 ト イ レ と公 園 の ベ ンチ と の 距 離も 近 接 て 詐欺 罪
し て い る か ら 、 そ こ に 鞄 が 短 時 間 放 置 さ れ た だ け で cf . 占 有 移 転 の 時 期 を 遅 ら せ 、 窃
あ るな ら、 Aの 占有 の事 実も ある とい って よい 。
盗 罪と する 見解 もあ る
以 上 か ら、 甲 は 他 人の 占 有 を 侵害 し 、 鞄 を自 己 の
占 有 下 に 移し て い る とい え る 。 した が っ て 、甲 は 窃
盗 罪の 罪責 を負 う。
二 、小 問2 につ いて
甲 は 店 の商 品 を 領 得し て い る が、 商 品 の 占有 が 甲
に あ れ ば 、横 領 罪 、 そう で な け れば 窃 盗 罪 とな る 。
甲 の 罪 責 を確 定 す る ため 、 本 問 コン ビ ニ エ ンス 店 内
の 商品 の占 有は 誰に ある かが 問題 とな る。
思う に 、 本 問甲 の よ う な使 用 人 の 占有 は 上 位 者
の占 有を 機械 的に 補助 する もの に過ぎ ない 。
した が っ て 、占 有 は 上 位者 に あ る とい う べ き で
ある 。
【 論点 】上 下・ 主従 間の 占有
* 参考
もっ とも 下 位者 とは いえ 、 上位 者
との間に高度の信頼関係があり、
支配している財物についてのある
以 上 か ら、 使 用 人 が店 の 物 を 盗ん だ 場 合 は窃 盗 罪 程 度 の 処 分 権 が 委 ね ら れ て い る 場
- 82 -
( 235 条 ) が 成 立 す る 。 本 問 甲 は 窃 盗 罪 の 罪 責 を 負 合 が あ る 。 こ の よ う な 場 合 、 下 位
う。
者には占有が認められる。ここで
三 、小 問3 につ いて
下位者がその財物をほしいままに
1 、 本 問 封筒 は 、 財 物を 封 印 ・ 施錠 し た 物 であ る か 処 分 す る 行 為 は 横 領 罪 ま た は 業 務
上 横 領 罪 ( 252 条 1 項 2 項 ) を 構 成
ら 、封 緘物 にあ たる と考 えら れる 。
そこ で、 封緘 物の 中身 の占 有は 誰に ある か。
す るこ とに なる 。
2 、思 う に 、 封緘 に よ っ て中 身 を 披 見で き な い か
【 論点 】封 緘物 の占 有
ら 、内 容 に つ いて の 事 実 上の 支 配 は 委託 者 に あ る
とせ ざる を得 ない 。
した が っ て 、封 緘 物 全 体の 占 有 は 受託 者 に 帰 属
し てい る が 、 中身 は 委 託 者に 帰 属 し てい る と す べ
きで ある 。
( 本見 解 に よ ると 全 体 を 領得 す れ ば 軽い 横 領 で 、
中 身を 抜 き 取 れば 重 い 窃 盗と い う 結 論と な る 。 こ
のよ うな 結論 は奇 妙で ある かに 見える 。
しか し 、 在 中物 を 領 得 する 意 思 が ある の が 普 通
で ある の で 、 その 場 合 窃 盗罪 が 成 立 する か ら 、 奇
妙な 結論 とは いえ ない 。
また 、 封 緘 物の 委 託 を 受け る 者 が 業務 上 の 占 有
者 で あ れ ば 、 窃 盗 罪 と 業 務 上 横 領 罪 ( 253 条 ) の
法 定 刑 は 同 じ で あ り 、 問 題 は な い。)
以上 か ら 本 件を 検 討 す ると 、 甲 は 業務 上 封 筒 を
占 有 す る 者 で あ る の で 、こ れ を 持 ち 帰 っ た 時 点 で 、
業 務上 横 領 罪 が成 立 す る 。さ ら に 、 中身 を 抜 き 取
っ た時 点 で 、 委託 者 の 占 有を 自 己 の 占有 に 移 し て
いる から 、窃 盗罪 が成 立す る。
そ し て 、両 罪 は 実 質上 同 一 の 法益 を 侵 害 する も の ● 罪 数 の 処 理 は 難 し い の で 覚 え て
で あ る か ら、 窃 盗 罪 が成 立 し た 場合 は 、 業 務上 横 領 お く
罪 は窃 盗罪 に吸 収さ れる 。
以
第 38 問
上
B
甲 (刑 事未 成年 では ない ) は兄 Aが いつ も外 国製 の高 級時 計を 自慢 する ので 、懲 らし
め る ため 、① 時計 をど こか に 隠し てや ろう と考 えた 。② 甲A は普 段同 じ部 屋を 使っ てい
た の で、 甲は 夜こ っそ りA の 机を 開け てみ ると 、時 計と 一緒 に前 から 気に 入っ てい た②
- 83 -
ア イ ドル のブ ロマ イド が入 っ てい た。 ③甲 は、 後で ゆっ くり 見よ うと 考え て、 ④時 計と
ブ ロ マイ ドを 取り 出し た。 次 の日 にな って 、甲 は「 さあ 、ど こに 時計 を隠 そう か」 と考
え た が、 どこ にも 隠す あて が なか った ので 、ち ょう ど金 がな いこ とも 考え て、 ⑤事 情を
知 らな い友 人に 「こ れを 買っ てく れ」 と持 ちか け、 売っ てし まっ た。
甲の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
① 時計 をど こか に隠 して やろ う→ 隠匿の 意思 しか ない
② 同じ 部屋 を使 って いた →甲 が兄 の部屋 に入 って も、 住居 侵入 には なら ない
③ 後で ゆっ くり 見る →不 法領 得の 意思は 認め られ るか ?微 妙な とこ ろ
【 論点 】領 得罪 成立 にお ける 不法 領得の 意思
④ 時計 とブ ロマ イド を( 兄の 机の 中から )取 り出 す→ 兄の 占有 を侵 害し てい る
⑤ 事情 を知 らな い友 人に 財産 罪に よって 得ら れた 物( =贓 物) を購 入さ せて いる
→詐 欺罪 の成 否 が問 題に なる 。し かし 、犯 人自 身に よる 得 物の 処分 →不 可罰 的事 後行 為
で はな いか 。
【 論点 】盗 取物 を他 人に 処分 した 場合
解 答例
一 、 1 、 まず 、 甲 は Aの 机 か ら 、時 計 と ブ ロマ イ ド
を 取 り 出 し て お り 、そ の 点 に つ い て 甲 は 故 意 が あ る 。
し か し 、甲 は 時 計 につ い て は 、隠 す 意 思 しか な い
し 、 ブ ロ マイ ド も 後 でゆ っ く り 見よ う と い う意 思 し
か な い 。 この 場 合 、 甲に い か な る罪 責 を 認 める べ き
か 。 領 得 罪の 成 立 に 不法 領 得 の 意思 が 必 要 か問 題 と
な る。
2 、思 う に 、 他人 の 財 物 を自 己 ま た は他 人 の 占 有
【論点】領得罪成立における不法
に 移転 す る 意 思が あ れ ば 領得 罪 が 成 立す る と 考 え
領 得の 意思
た 場合 、 拾 っ た物 を 警 察 に届 け る の も占 有 離 脱 物
* 前田 先生 の基 本書 にあ る説例
横 領 罪 ( 254 条 ) に な る お そ れ が あ る 。 そ も そ も 、
領 得罪 が 重 た く処 罰 さ れ る理 由 は 、 不法 に 利 益 を
得よ うと いう 点の 誘因 が強 い点 に求め るし かな い。
だか ら 、 領 得罪 の 構 成 要件 に 該 当 する と い う に
は 、ど う し て も不 法 領 得 の意 思 と い う主 観 的 超 過
傾向 を判 断せ ざる を得 ない 。
では 、 そ の 不法 領 得 の 意思 の 内 容 をい か に 考 え
るべ きか 。
● 不法 領得 の意 思の 内容
→必 要説 から 導か れる 根拠
まず 、 不 可 罰的 な 使 用 窃盗 と 窃 盗 罪と の 区 別 の
- 84 -
た め、 不 法 領 得の 意 思 が 認め ら れ る ため に は 、 所
有者 とし て振 る舞 う意 思が 必要 である 。
さら に 、 窃 盗罪 と 毀 棄 罪と を 区 別 する た め 、 物
を 経済 的 用 法 にし た が っ て利 用 す る 意思 も 必 要 と
いう べき であ る。
3 、 以 上 を も っ て 本 問 を 検 討 す る と、 時 計 に つ い て 、
甲 は 行 為 時に は 、 そ れを 隠 す 意 思し か な い 。す な わ
ち 、 時 計 を経 済 的 用 法に し た が って 利 用 す る意 思 が
欠 け る 。 また 、 ブ ロ マイ ド に つ いて は 、 そ の財 産 的
価 値 、 甲 Aが 兄 弟 で ある こ と か ら考 え る と 、A の 支
配 を 排 除 する ま で の 意思 を 甲 に 認め る こ と はで き な
い。
し た が って 、 甲 に は不 法 領 得 の意 思 は 認 めら れ な * 成 立 す る と 、 同 居 の 親 族 の 間 の
い た め 、 甲 に 窃 盗 罪 ( 235 条 ) は 成 立 し な い 。
犯罪→親族相盗に関する論述が必
二 、 1 、 次に 、 甲 は 友人 に 時 計 を売 却 し よ うと し て 要
い る 。 こ の時 点 で は 目的 物 は 甲 の占 有 物 と なっ て い
る か ら 、 占 有 離 脱 物 横 領 罪 ( 254 条 ) が 成 立 す る 。
た だ し 、親 族 間 の 特 例( 244 条 1 項 )の 適 用 に よ っ て 、
上 の 罪 責 に つ い て は 免 除 さ れ る ( 255 条 )。
2 、 (1)さ ら に 、 甲 の 売 却 行 為 に 友 人 に 対 す る 詐 欺 罪
( 246 条 1 項 ) が 成 立 す る の で は な い か 。
(2) こ の 点 、 犯 罪 者 自 身 に よ る 売 却 行 為 は 不 可 罰 的
【論点】盗取物を他人に処分した
事後 行為 にす ぎな いと も思 える 。
場合
しか し 、 不 可罰 的 事 後 行為 が 処 罰 され な い 根 拠
は 、当 該 構 成 要件 が そ の 後の 違 法 な 財産 状 態 に つ
いて まで 評価 して いる と考 えら れる点 にあ る。
とす れ ば 、 新た な 法 益 が侵 害 さ れ てい る と い え
る 場合 に は 、 当該 行 為 は 別個 に 評 価 され る べ き で
ある 。
( 3)そ し て 、 詐 欺 罪 は 全 体 財 産 に 対 す る 罪 で は な く 、 * な お 、 親 族 間 の 特 例 の 適 用 は な
個 別 財 産 に対 す る 罪 であ る 。 さ らに 、 事 情 を知 っ て い 。 詐 欺 罪 に よ っ て 領 得 さ れ た 金
い れ ば 友 人は 本 件 時 計を 買 い 受 けな か っ た と考 え ら 銭 の 占 有 者 ・ 所 有 者 は 友 人 の も の
れ る。
だ から 、明 らか であ る。
以 上 か ら、 本 問 売 却行 為 を し た甲 は 詐 欺 罪の 罪 責
を 負 う ( 246 条 1 項 )。
以
- 85 -
上
第 39 問
B
甲 (刑 事未 成年 では ない ) はお 金に 困っ て、 同居 の兄 乙が いつ も身 につ けて いる 外国
製 の 高級 時計 を盗 み出 すこ と を考 えた 。① 時計 は乙 の友 人の Aの もの であ った が甲 は乙
の 時 計だ と考 えて いた 。② 夜 にな って から 、甲 が乙 の机 を開 けて 、時 計を 手に とり 、ポ
ケ ット に入 れた 瞬間 に、 乙に 見つ かり 、止 めら れた とし て、 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 19 点
各論 点 2 点
① 時計 の占 有者 は乙 →所 有者 はA
ただ 、甲 は占 有者 ・所 有者 とも 乙だと 考え てい る
【 論点 】親 族関 係は 犯人 と誰 との 間に必 要か
【 論点 】親 族関 係の 錯誤
② 甲が 乙の 机を 開け た→ 物色 行為 の開始 、窃 盗罪 の実 行の 着手 あり
・ 時計 をポ ケッ トに 入れ る→ 占有 は移転 して いる か
【 論点 】窃 盗罪 の既 遂時 期
解 答例
一 、 1 、 まず 、 甲 は 他人 乙 の 占 有下 に あ る 財物 を 自
己 の 占 有 下に 移 そ う とし て い る 。夜 こ っ そ り机 を 開
け て 、 時 計に 触 れ れ ば財 物 奪 取 の危 険 は 十 分高 ま る
か ら 、 実 行の 着 手 が ある と 言 え る。 し た が って 、 甲
は 、 窃 盗 罪 の 罪 責 を 負 う 可 能 性 が あ る ( 235 条 )。
しか し 、 犯 行時 、 甲 は 乙に 行 為 を 制止 さ れ て い
る 。こ の 点 を いか に 評 価 すべ き か 。 窃盗 罪 の 既 遂
時期 が問 題と なる 。
2 、 思 う に 、 窃 盗 罪 ( 235 条 ) の 既 遂 時 期 は 、 被
害 者が 占 有 を 喪失 し 、 行 為者 が 占 有 を取 得 し た と
きと いう こと がで きる 。
ただ し 、 行 為者 が 占 有 を取 得 し た 時期 に つ い て
は 、物 の 性 質 ・被 害 者 の 管理 の 態 様 など 諸 般 の 事
情を 考慮 して 個々 的に 判断 する ことに なる 。
本件 目 的 物 であ る 時 計 のサ イ ズ を 考え る と 、 甲
が 乙 の 机 か ら 取 り 出 し て 、自 ら の 手 中 に 収 め れ ば 、
十分 に甲 が占 有を 得た とい って よい。
3 、し たが って 、甲 は窃 盗罪 の既 遂の 罪責 を負 う。
- 86 -
【 論点 】窃 盗罪 の既 遂時 期
二 、 1 、 しか し 、 甲 乙間 に は 親 族関 係 が あ るか ら 、
こ の 場 合 親 族 間 の 特 例 の 適 用( 244 条 1 項 )に よ っ て 、
甲 は処 罰を 阻却 され そう であ る。
とこ ろ が 、 本問 に お け る目 的 物 の 所有 者 は 他 人
で あ る A で あ る 。 そ こ で 、 244 条 適 用 の た め に は 、
【論点】親族関係は犯人と誰との
間 に必 要か
所 有者 ・ 占 有 者・ 窃 盗 犯 の三 者 の 誰 との 間 に 必 要
か。
思う に 、 親 族間 の 窃 盗 行為 の 処 罰 が阻 却 さ れ る
理 由は 、 家 庭 内の 問 題 は 法が 介 入 せ ず自 主 的 に 解
決さ せる こと が妥 当で ある との 政策的 考慮 にあ る。
しか し 、 他 人を 巻 き 込 めば 家 庭 内 の事 件 と は い
えな い。
し た が っ て 、 244 条 適 用 の た め に は 、 関 係 者 す
べて の者 の間 に親 族関 係が 必要 である 。
以 上 か ら、 本 小 問 の場 合 、 甲 には 親 族 間 の特 例 は
適 用さ れな い。
2 、し か し 、 甲は 時 計 の 所有 者 も 乙 だと 考 え て い
【 論点 】親 族関 係の 錯誤
る 。か よ う に 、親 族 関 係 がな い に も かか わ ら ず 、
親 族関 係 が あ ると 誤 信 し た窃 盗 犯 人 をど の よ う に
扱う べき か。
親 族 間 の 特 例 に よ る 窃 盗 犯 の 処 罰 阻 却 ( 244 条 )
は 、前 述 の 通 り「 法 律 は 家庭 に 入 ら ず」 と の 観 点
から 政策 的に 認め られ たも ので ある。
す な わ ち 、 244 条 の 法 的 性 質 は 一 身 的 処 罰 阻 却
事 由と い う べ きで あ る 。 とす る と 、 その 点 の 錯 誤
は 故意 の 成 否 に影 響 を 与 えな い 。 親 族関 係 が な い
こと は故 意の 内容 では ない から である 。
以上 から 、甲 は窃 盗罪 の罪 責を 負う 。
以
第 40 問
上
B
次の 各事 例に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 甲は 、① 深夜 で誰 もい な い路 上で 、後 ろか ら女 性乙 に対 して 、脅 迫的 言辞 とと もに
モ デ ルガ ンを 突き つけ 、金 を 差し 出す よう に言 った 。し かし 、② 乙は 反抗 抑圧 され ず、
- 87 -
単 に畏 怖し て金 を差 し出 した 。
2 、 甲は 男性 Aに 、③ 昼間 の 路地 裏で 、誰 が見 ても おも ちゃ だと 分か るピ スト ルを 突き
つ け て、 単に 金を 差し 出す よ うに 命じ た。 とこ ろが 、④ 特に Aは 憶病 だっ たの で、 Aは
反 抗を 抑圧 され つつ 、金 を差 し出 した 。
基 礎 点 17 点
各論 点 2 点
① それ ぞれ の記 述 =強 盗罪 にい う反 抗抑 圧に たる 暴行 ・脅 迫 があ るか 、そ れと も恐 喝罪 に
と どま るか の判 断 要素 にな る→ モデ ルガ ンと いう 部分 以外 は 、暴 行・ 脅迫 が強 度で ある と
認 定す る要 素に なり そう 。
【 論点 】強 盗罪 の暴 行・ 脅迫 の意 義
【 論点 】強 盗罪 の暴 行・ 脅迫 の判 断基準
② 反抗 抑圧 の結 果が 発生 して いな い→た だ、 畏怖 して 財物 を交 付し てい る
・ 恐喝 罪の 結果 しか 発生 して いな い→強 盗未 遂罪 にす べき ?
【 論点 】被 害者 が任 意に 財物 を交 付した 場合 の強 盗罪 の成 否
③ 通常 なら ば、 恐喝 罪が 成立 する 程度の 行為 しか ない
④ 反抗 抑圧 され て財 物を 差し 出す →強盗 罪の 結果 は発 生し てい るが ……
これ は、 脅し たか らと いう より も、被 害者 の性 格が 臆病 だっ たか らで はな いか ?
【 論点 】相 当因 果関 係の 問題
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 脅迫 的 言 辞 を利 用 し て 、財 物 を 奪 取し て い
る か ら 、 強 盗 罪 ( 236 条 ) が 成 立 す る 可 能 性 が あ る 。
し か し 、 本件 甲 は モ デル ガ ン を 突き つ け て いる 点 か
ら 、甲 の行 為が 強盗 罪の 実行 行為 とい える か。
強盗 罪 の 成 立に は 、 財 物奪 取 の 手 段と し て の 暴
行 ・脅 迫 の 程 度が 、 反 抗 抑圧 に た る もの で あ る 必
【論点】強盗罪の暴行・脅迫の意
義
要が ある 。
しか し 、 そ のよ う な 程 度に あ る か 否か の 判 断 基
準を いか に解 すべ きか 。
【論点】強盗罪の暴行・脅迫の判
断 基準
思う に 、 客 観的 に は 強 盗の 手 段 と 呼べ な い 暴 行
・ 脅迫 し か 加 えら れ て い ない 場 合 に は、 強 盗 罪 の
成立 を認 める べき でな い。
した が っ て 、一 般 人 を 基準 と す る のが 妥 当 で あ
る。
ただ し 、 判 断に あ た っ ては 、 暴 行 ・脅 迫 自 体 の
強 度・ 態 様 に 加え 、 被 害 者の 性 別 ・ 年齢 、 犯 行 の
- 88 -
時 刻・ 場 所 な どの 要 素 を 考慮 に 入 れ 、具 体 的 に 判
断さ れね ばな らな い。
以 上 を もっ て 本 問 を検 討 す る と、 甲 は 深 夜後 ろ か ● あて はめ
ら 脅 迫 的 言辞 と と も に女 性 に モ デル ガ ン を 突き つ け
て い る 。 被害 者 の 性 別・ 犯 行 の 時刻 ・ 場 所 ・脅 迫 の
態 様 を 考 え る な ら ば 、手 段 が モ デ ル ガ ン で あ っ て も 、
当 該 行 為 には 反 抗 抑 圧に た る も ので あ っ た とい う べ
き であ る。
し た が って 、 甲 は 強盗 罪 の 実 行行 為 に 着 手し て い
る とい うべ きで ある 。
2 、し か し 、 本 問 乙 は 財 物 を 交 付 し て い る も の の 、
【論点】被害者が任意に財物を交
反 抗抑 圧 さ れ てい な い 。 この よ う な 場合 、 甲 の 罪
付 した 場合 の強 盗罪 の成 否
責を どの よう に解 する べき か。
本問 の よ う に、 恐 怖 心 が生 じ た 場 合、 判 例 は 強
盗 罪 は 既 遂 と す る 。し か し 、こ の 場 合 は 恐 喝 罪( 249
条) の結 果が 発生 して いる に過 ぎない 。
し た が って 、 強 盗 罪は 、 未 遂 とな る と い うべ き で * 全 く 恐 怖 心 は 生 じ な か っ た 場 合
あ る 。 す な わ ち 、 甲 は 強 盗 未 遂 罪 の 罪 責 を 負 う ( 236 は 、 問 題 な く 強 盗 未 遂 罪 に 止 ま る
条 ・ 243 条 )。
( 243 条 ・ 236 条 ) と い っ て よ い 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 小 問甲 は 、 昼 間、 男 性 に 対し て 、 あ から さ ま
に お も ち ゃと 分 か る 銃を 突 き つ けて い る 。 かよ う な
行 為 の み では 、 客 観 的に み て 、 反抗 抑 圧 に たる も の
と はい えな い。
し か し 、本 問 で は 特に 相 手 が 憶病 で 、 反 抗が 抑 圧
さ れ て い るか ら 、 強 盗罪 の 結 果 が発 生 し て いる 。 か
よ う な 重 たい 結 果 に つい て 甲 に 帰責 す る こ とが で き
る か。
2 、 (1) 思 う に 、 構 成 要 件 は 社 会 通 念 か ら 処 罰 す べ
【 論点 】相 当因 果関 係
き 行為 を 類 型 化し た も の であ る 。 と すれ ば 、 構 成
*意外な事情が介在して、重たい
要 件該 当 性 の 判断 に お い ては 、 行 為 者に 責 任 を 帰
結 果が 発生 した 場合
属 させ る の が 社会 通 念 上 妥当 な 結 果 だけ を 選 び 出
すべ きで ある 。
し たが って 、社 会 通念 上通 常そ の行 為か ら その 結
果 が発 生 す る こと が 相 当 と認 め ら れ る場 合 に 因 果
関係 の存 在を 認め るの が妥 当で ある。
- 89 -
(2) そ れ で は 、 上 記 相 当 性 判 断 の た め に は 、 い か な
る事 情を 基礎 とし て考 える のが 妥当か 。
思う に 、 経 験則 上 偶 然 的結 果 で な いも の を 基 礎
事 情か ら 排 除 する こ と は でき な い 。 一方 で 、 行 為
者 にと っ て 偶 然的 事 情 で ない も の を 帰責 の 範 囲 か
ら除 外す る必 要も ない 。
し たが って 、一 般 人が 認識 しえ た事 情と 行 為者 が
特 に認 識 し て いた 事 情 を 因果 関 係 を 判断 す る 際 の
基礎 事情 と考 える のが 妥当 であ る。
3 、 こ れ をも っ て 本 問を 判 断 す ると 、 相 手 がそ の よ ● あて はめ
う に 臆 病 な人 間 で あ ると い う こ とは 、 一 般 人に と っ
て は認 識し 得な い事 情で ある とい って よい 。
し た が って 、 甲 が その よ う な 事情 を 特 に 認識 し て
い な い 限 り、 強 盗 罪 の責 任 を 負 わせ る わ け には い か
な い。
し た が っ て 、 甲 は 恐 喝 罪 ( 249 条 ) の 罪 責 を 負 う
に 留ま る。
以
第 41 問
上
A
次の 各場 合に おけ る甲 乙の 罪責 につ いて 論ぜ よ。
1 、 ①甲 はA を殴 った とこ ろ 、A は打 ち所 が悪 くて 死ん でし まっ た。 甲は 驚い たが 、毒
も く らわ ば皿 まで と考 え、 ② Aの 死体 を探 り、 財布 を領 得し た。 甲が 立ち 去っ た後 、そ
れ を一 部始 終み てい た③ 乙は 死体 に駆 け寄 り、 Aの 腕時 計を 奪取 した 。
2 、甲 は④ Aを 殺害 した 上で Aの 財布 を奪 取し よう と考 え、 実行 に移 した 。
3 、 ⑤甲 はA を殴 った とこ ろ 、A は反 抗を 抑圧 され た。 甲は その 時点 で財 物奪 取の 意思
を 生じ たの で、 襟首 をつ かん でA を立 ち上 がら せた 上で 、A に金 を差 し出 させ た。
基 礎 点 17 点
各論 点 2 点
① 傷害 致死 罪
② 自分 が殺 した Aの 財物 を奪 う→ 窃盗罪 など 、そ れな りの 罪に する 必要 があ るの では ?
【 論点 】死 者の 占有
③ 死体 から 財物 を奪 取→ やは り死 体には 占有 はな いの が原 則
④ はじ めか ら被 害者 を殺 して 、財 物を奪 う→ 強盗 殺人 の計 画
【 論点 】死 傷の 結果 に故 意あ る場 合の処 理
【 論点 】死 者の 占有 と強 盗殺 人
- 90 -
⑤ 財物 奪取 の意 思を 生じ たの は、 反抗抑 圧に たる 暴行 をし た後
【 論点 】反 抗抑 圧後 に財 物奪 取の 意図を 生じ た場 合
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、甲 の罪 責
本問 甲は Aを 殴っ て、死に 至ら しめて いる。但 し、
死 の 結 果 につ い て 故 意は な い と 思わ れ る か ら、 傷 害
致 死 罪 ( 205 条 ) が 成 立 す る 。
さ ら に 、甲 は A 殺 害後 に 財 物 奪取 の 意 思 を生 じ 、
領 得 し て いる 。 甲 の 罪責 確 定 の ため 、 財 物 の占 有 は
A にあ ると いえ るか が問 題と なる 。
思う に 、 占 有は 、 占 有 の事 実 と そ の意 思 を 要 素
【 論点 】死 者の 占有
と する 。 し か し、 死 者 に はい ず れ も 認め ら れ な い
から 、死 者の 占有 は認 めら れな い。
ただ し 、 被 害者 が 生 前 に有 し た 占 有は 、 殺 人 犯
人 に対 す る 関 係で は 、 殺 人と の 時 間 的・ 場 所 的 近
接性 があ る限 り、 なお 刑法 的保 護に値 する 。
と する と、 殺害 か ら被 害者 の死 を利 用し た 財物 奪
取 まで の 一 連 の行 為 を 全 体的 に 観 察 する と 、 財 物
奪取 は生 前の 占有 を侵 害す る行 為と評 価で きる 。
し た が っ て 、 甲 の 奪 取 行 為 は 窃 盗 罪 ( 235 条 ) と ● あ て は め
し て 処 断 され る べ き であ る 。 な お、 傷 害 致 死罪 と 窃
盗 罪 は 併 合 罪 の 関 係 に 立 つ ( 45 条 )。
2 、乙 の罪 責
乙 は 甲 と 同 様 に A の 財 物 を 奪 取 し て い る 。し か し 、 ● あ て は め
前 項 の 法 的構 成 を 前 提と す れ ば 、A の 死 に 関わ っ て
い ない 乙が Aの 生前 の占 有を 侵害 する こと はな い。
し た が って 、 乙 は 占有 離 脱 物 を領 得 し た に過 ぎ な
い 。 乙 は 遺 失 物 等 横 領 罪 ( 254 条 ) の 罪 責 を 負 う に
過 ぎな い。
二 、小 問2 につ いて
1 、 ま ず 、 甲 は 殺 人 の 故 意 が あ る の で 、 240 条 を
【論点】死傷の結果に故意ある場
甲 に 適 用 で き る か 。 240 条 が 殺 人 の 故 意 あ る 場 合
合 の処 理
も含 むか が問 題と なる 。
*この論点は適用条文を確定する
思 う に 、 240 条 の 趣 旨 は 強 盗 の 際 に 暴 行 ・ 脅 迫
- 91 -
ためのもの→なるべく最初に書く
が 行わ れ 、 被 害者 が 負 傷 ・死 亡 す る こと が 顕 著 に
こと
みら れる ため 、こ れを 重く 罰し たもの であ る。
そし て 、 強 盗の 際 に 殺 意・ 傷 害 の 故意 あ る こ と
は 十 分 あ り 得 る 事 で あ る か ら 、 240 条 が 故 意 あ る
場合 を予 定し てい ない とは 考え られな い。
結果 的 加 重 犯特 有 の 「 よっ て 」 の 文言 が な い と
い う こ と も 、 240 条 の 上 記 の よ う な 性 格 を 表 し た
もの であ ると いう こと がで きる 。
し た が っ て 、 240 条 に 故 意 あ る 場 合 は 含 ま れ る 。
以 上 か ら 、 甲 は 240 条 の 罪 責 を 負 う 可 能 性 が あ る 。
2 、 (1)次 に 、 殺 害 は 、 反 抗 抑 圧 状 態 の 極 限 概 念 と い
え る 。 し たが っ て 、 客観 的 に 、 甲の 行 為 は 強盗 殺 人
罪 の実 行行 為と いえ る。
(2) し か し 、 殺 し て 物 を 奪 う 認 識 と は 、 殺 人 と 占 有
【 論点 】死 者の 占有 と強 盗殺人
離 脱物 横 領 罪 の故 意 に 過 ぎず 、 強 取 の意 思 に 欠 け
るの では ない か。
思う に 、 被 害者 か ら 殺 人に よ っ て 占有 を 離 脱 さ
せ て財 物 を 奪 う行 為 に つ いて は 、 全 体的 に 見 れ ば
生前 の占 有を 侵害 した とい うべ きであ る。
した が っ て 、殺 し て 物 を奪 う と い う認 識 は 暴 行
を 手段 と し て 生前 の 占 有 を侵 害 す る 故意 と い う べ
き であ る 。 す なわ ち 、 甲 には 強 盗 殺 人の 故 意 が あ
る。
3 、 以 上 か ら 、 甲 は 強 盗 殺 人 罪 ( 240 条 ) の 罪 責 を
負 う。
三 、小 問3 につ いて
1 、本 問 甲 は 、反 抗 を 抑 圧さ れ た A から 財 物 を 奪
【論点】反抗抑圧後に財物奪取の
取し てい る。
意 図を 生じ た場 合
しか し 、 暴 行・ 脅 迫 が 財物 奪 取 の 手段 と さ れ て
い ない 。 し た がっ て 、 こ の場 合 、 甲 は原 則 と し て
窃 盗 罪 ( 235 条 ) の 罪 責 を 負 う に 過 ぎ な い か に み
える 。
2 、し か し 、 かか る 場 合 でも 、 財 物 奪取 時 に 、 新
たに 暴行 ・脅 迫が あれ ば強 盗罪 としう る。
そし て 、 こ の場 合 の 暴 行・ 脅 迫 は 通常 に 比 較 し
て 、軽 度 の も ので よ い 。 なぜ な ら 、 既に 反 抗 を 抑
- 92 -
圧 され て い る 者に 対 し て は、 軽 度 の 暴行 ・ 脅 迫 で
被害 者は 反抗 を抑 圧さ れる から である 。
3 、 以 上 をも っ て 本 問を 検 討 す ると 、 既 に 反抗 を 抑
圧 さ れ た Aに 対 し て 襟首 を つ か んで 立 た せ れば 、 再
度 Aが 反抗 抑圧 状態 に陥 るに 十分 であ る。
し た が っ て 、 甲 は 強 盗 罪 ( 236 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
以
第 42 問
上
B
次の 事案 にお ける 甲乙 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 甲は ①麻 薬の 購入 代金 の 支払 を免 れる ため 、② 売主 乙を 殺害 する 計画 を立 て、 実行
に 移し た。
2 、③ 甲は 麻薬 の入 手を 依頼 され 、購 入資 金と して 預か って いる 金を 横領 した 。
3 、④ さら に、 乙は 2の 横領 金を 甲か ら小 遣い とし ても らっ た。
基 礎 点 19 点
各論 点 2 点
① 麻薬 購入 代金 の支 払い を免 れる →財産 上の 利益 を得 る
ただ 不法 な契 約上 の利 益で ある 点に注 意
【 論点 】処 分行 為の 要否
【 論点 】不 法原 因給 付と 強盗
② 殺害 →暴 行の 一種 、こ れに よっ て利益 を得 る= 強盗 の故 意
【 論点 】死 傷の 結果 に故 意あ る場 合の処 理
③ 不法 なが ら委 任契 約の 受任 者が その事 務処 理費 用を 横領
→た だ、 不法 契約 に基 づく 給付 は返還 請求 の対 象に なら ない ので は?
【 論点 】不 法原 因給 付と 横領
④ 財産 罪に よっ て領 得さ れた 物→ これを 譲り 受け れば 、盗 品等 譲受 罪に なる 。
しか し、 判例 のよ うに 追求 権説 を採る と?
【 論点 】不 法原 因給 付と 贓物 罪( 盗品等 に関 する 罪)
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 ま ず 、甲 は 乙 の 殺害 に よ っ て債 務 を 免 れよ う と
し て い る か ら 、 強 盗 殺 人 罪 ( 236 条 2 項 ・ 240 条 ) が
成 立す る可 能性 があ る。
し か し 、 甲 は 殺 人 の 故 意 が あ る の で 、 240 条 を
- 93 -
【論点】死傷の結果に故意ある場
甲 に 適 用 で き る か 。 240 条 が 殺 人 の 故 意 あ る 場 合
合 の処 理
も含 むか が問 題と なる 。
思 う に 、 240 条 の 趣 旨 は 強 盗 の 際 に 暴 行 ・ 脅 迫
が 行わ れ 、 被 害者 が 負 傷 ・死 亡 す る こと が 顕 著 に
みら れる ため 、こ れを 重く 罰し たもの であ る。
そし て 、 強 盗の 際 に 殺 意・ 傷 害 の 故意 あ る こ と
は 十 分 あ り 得 る 事 で あ る か ら 、 240 条 が 故 意 あ る
場合 を予 定し てい ない とは 考え られな い。
結果 的 加 重 犯特 有 の 「 よっ て 」 の 文言 が な い と
い う こ と も 、 240 条 の 上 記 の よ う な 性 格 を 表 し た
もの であ ると いう こと がで きる 。
し た が っ て 、 240 条 に 死 亡 の 結 果 に 故 意 あ る 場
合も 含ま れる 。
2 、 し か し、 乙 が 殺 害さ れ た 場 合、 甲 は 事 実上 債 務
を 免 れ る こと は で き るが 、 乙 は 何ら 処 分 行 為を 行 っ
た わけ では ない 。
そ こ で 、 236 条 2 項 成 立 の 際 、 被 害 者 の 処 分 行 為
【 論点 】処 分行 為の 要否
が必 要か 問題 とな る。
思 うに 、 1 項 強 盗 に お い て 処分 行 為 は 不 要 で あ
るか ら、 2 項 も同 様に 解す べき である 。
し たが っ て 、 2 項 強 盗 の 成 立に つ い て 、 処 分 行
為は 、不 要で ある 。
しか し 、 被 害者 か ら 強 盗に 利 益 が 移転 し た か 否
か の判 断 は 慎 重に す る 必 要が あ る 。 特に 本 事 例 で
は 、単 な る 殺 人罪 と 強 盗 殺人 を 区 別 する た め に 、
殺 害行 為 に 上 のよ う な 利 益移 転 が 認 めら れ な け れ
ばな らな い。
具 体 的 に は 、債 権 の 行 使 を 当 分 の 間 不 可 能 に し 、
支 払の 猶 予 を 得た の と 同 視し 得 る 程 度の 危 険 が 、
殺害 後に 発生 する 必要 性が ある 。
本 問 で も 、 上 記 の よ う な 事 情 が あ れ ば 、 236 条 2 項
の 成 立 に 、必 ず し も 乙の 処 分 行 為は 必 要 が ない と い
う べき であ る。
3 、 し か し 、 本 問 乙 の 請 求 は 公 序 良 俗 ( 90 条 ) に
【 論点 】不 法原 因給 付と 強盗
反 する も の と して 、 民 法 上認 め ら れ ない 。 に も か
* 強く 公序 良俗 に反 する 利益
かわ らず 、甲 に利 得が ある か。
利益供与自体が公序良俗違反に
- 94 -
思う に 、 刑 事法 上 処 罰 に値 す る か 否か は 、 民 事
属 する 場合 をさ す。
法 上と は 別 に 、財 産 に 対 し刑 事 法 上 の保 護 が 必 要
か否 かに よっ て判 断す べき であ る。
すな わ ち 、 強く 公 序 良 俗に 反 す る 利益 で な い 限
り、 強盗 罪が 成立 する とい うべ きであ る。
そし て 、 本 問債 務 は 麻 薬購 入 の 対 価と は い え 、
金 銭債 務 で あ るか ら 、 強 く公 序 良 俗 に反 す る も の
とは いえ ない 。
し た が っ て 、 甲 は 強 盗 殺 人 罪( 236 条 2 項 、 240 条)
の 罪責 を負 う。
二 、 小 問 ( 2)に つ い て
1 、 本 問 のよ う に 不 法原 因 給 付 物を 横 領 し た場 合 、
横 領 罪 ( 252 条 ) は 成 立 す る 可 能 性 が あ る 。
しか し 、 民 法上 は 反 射 的に 所 有 権 が移 転 し 、 返
【 論点 】不 法原 因給 付と 横領
還 請求 は で き ない と す れ ば、 本 件 金 銭の 他 人 物 性
が否 定さ れる ので はな いか 。
2 、こ の 場 合 、横 領 行 為 の可 罰 性 を 肯定 す れ ば 、
刑 法を も っ て 返還 を 強 制 する こ と に なり 、 法 秩 序
の統 一性 を破 ると も見 える 。
しか し 、 刑 法と 民 法 と では 他 人 物 性を 別 に 考 え
る べき で あ る 。す な わ ち 、刑 法 の 他 人物 性 は 不 法
な 領得 行 為 に 対し て 刑 法 上保 護 す べ き利 益 が あ る
か否 かと いう 観点 から 判断 すべ きであ る。
そし て 、 禁 制品 や 窃 盗 犯の 財 物 奪 取が 処 罰 さ れ
る 均衡 上 、 不 法原 因 給 付 物も 横 領 罪 の客 体 と い う
べき であ る。
3 、 以 上 より 、 本 問 甲は 他 の 横 領罪 の 要 件 が備 わ れ
ば 、 横 領 罪 ( 252 条 ) の 罪 責 を 負 う こ と に な る 。
三 、 小 問 ( 3)に つ い て
1 、 本 件 乙は 、 財 産 罪に よ っ て 領得 さ れ た 財物 を 無
償 で 譲 り 受 け て い る か ら 、 盗 品 等 無 償 譲 受 罪 ( 256
条 1 項) の罪 責を 負う 可能 性が ある。
し か し 、 乙 が 受 け 取 っ た の は 、 前 段 同 様 に 不 法 【 論 点 】 不 法 原 因 給 付 と 贓 物 罪( 盗
原 因給 付 物 で ある 。 こ れ が、 乙 の 犯 罪の 成 否 に 影
響を 与え るの では ない か。
2 、す な わ ち 、本 罪 が 民 法上 認 め ら れる 本 権 者 の
- 95 -
品 等に 関す る罪 )
追 求権 を 侵 害 する 罪 で あ ると 解 す る 立場 が あ る 。
こ の立 場 に 立 てば 、 民 法 上の 返 還 請 求権 が 否 定 さ
れ る以 上 、 損 害は な く 、 犯罪 は 成 立 しな い と い う
こと にな ろう 。
しか し 、 本 罪に よ っ て 保護 さ れ る 、刑 法 上 の 追
求 権は 刑 法 上 の当 罰 性 の 観点 か ら 判 断す べ き で あ
る 。と す れ ば 、そ の 追 求 権の 内 容 は 、民 法 上 の 規
定 に拘 泥 す る こと な く 、 もと も と の 権利 者 に 事 実
上 認め ら れ る 返還 請 求 権 でも 広 く 含 むと 解 す る べ
きで ある 。
3 、 以 上 から 、 乙 は 上の よ う な 追求 権 を 侵 害す る も
の とし て、 盗品 等無 償譲 受罪 の罪 責を 負う 。
以
第 43 問
上
A
甲 は① 乙宅 に窃 盗に 入り 、 ②タ ンス に手 をか けた とこ ろ、 Aに 発見 され たの で、 ③何
も 取 ら ず に 逃 げ た 。 ④ A は 甲 を 捕 ま え よ う と 追 い か け 、 A 宅 か ら 500 メ ー ト ル 離 れ た 公
道 上 で甲 を捕 まえ た。 とこ ろ が、 甲を 心配 して 追い かけ てき た甲 の子 分乙 がそ こで 甲A
に 出く わし 、⑤ 事情 を把 握し た乙 は甲 と共 にA に暴 行を 加え 、そ の反 抗を 抑圧 した。
乙の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 20 点
各論 点 1 点
① 住居 侵入 罪は 忘れ ない
② 窃盗 の実 行の 着手 →窃 盗の 身分 を取得 して いな いと 、後 で事 後強 盗の 話に でき ない
【 論点 】窃 盗罪 の着 手時 期
③ 既遂 未遂 の判 断に 使う かも
④ 「窃 盗の 機会 」に 暴行 ・強 迫を したと いえ るか
【 論点 】暴 行・ 脅迫 と窃 盗行 為と の関係
⑤ 暴行 ・強 迫の み、 乙は 甲と 共同 してい る
反抗 を抑 圧→ 【論 点】 暴行 ・脅 迫の程 度は 十分
【 論 点 】 暴 行 ・ 脅 迫 の み に 加 功 し た 者 の 罪 責 、【 論 点 】 共 犯 と 身 分
解 答例
一 、 1 、 乙の 罪 責 を 論じ る に は 、ま ず 甲 の 罪責 を 確
定 す る 必 要 が あ る 。 甲 は 住 居 侵 入 罪 ( 130 条 ) を 犯
- 96 -
し た上 で、 窃盗 行為 を行 おう とし てい る。
こ こ に 、 窃 盗 罪 ( 235 条 ) の 着 手 時 期 と し て は 、
【 論点 】窃 盗罪 の着 手時 期
占 有侵 害 の 具 体的 危 険 が 高ま っ た と きと い う こ と
が でき る 。 具 体的 に は 原 則、 物 色 行 為が あ れ ば 、
窃盗 罪の 着手 が認 めら れる とい うべき であ る。
本問 甲は 上に いう 物色 行為 を行 って いる 。
た だ 甲 は何 も 取 ら ずに 逃 走 し てい る の で 、本 問 甲
は こ の 時 点で は 窃 盗 罪の 未 遂 に 該当 す る 行 為を 行 っ
て い る ( 243 条 ・ 235 条 )。
2 、 さ ら に、 甲 は 追 いか け る A に暴 行 を 加 えて い る
の で 、 甲 に は 事 後 強 盗 罪 ( 238 条 ) が 成 立 す る 可 能
性 があ るの で検 討す る。
ま ず 、 事 後 強 盗 罪 ( 238 条 ) に お け る 暴 行 ・ 脅
【 論点 】暴 行・ 脅迫 の程 度
迫 の程 度 は 、 相手 方 の 反 抗を 抑 圧 す る程 度 の も の
で ある 必 要 が ある 。 同 罪 は強 盗 と し て評 価 さ れ る
もの だか らで ある 。
本 問 甲 は乙 と 共 に Aの 反 抗 を 抑圧 し て い るか ら 、
こ の点 要件 を満 たす 。
3 、 し か し 、 甲 の 暴 行 は 窃 盗 の 現 場 か ら 、 500 メ ー
ト ル 離 れ た場 所 で 行 われ て い る 。こ の 場 合 、窃 盗 が
暴 行 ・ 脅 迫を な し た とい え る か 。事 後 強 盗 にお け る
暴 行・ 脅迫 と窃 盗行 為と の関 係が 問題 とな る。
思 う に 、 事 後 強 盗 罪 ( 238 条 ) は 強 盗 と し て 扱
われ る。
【論点】暴行・脅迫と窃盗行為と
の 関係
とす れ ば 、 強盗 罪 に お ける 暴 行 ・ 脅迫 が 財 物 奪
取 の手 段 と し て行 わ れ る 必要 が あ る こと と の 均 衡
を図 らね ばな らな い。
し た が っ て 、事 後 強 盗 罪 に お け る 暴 行 ・ 脅 迫 は 、
窃 盗の 機 会 に 行わ れ る 必 要が あ る 。 すな わ ち 、 窃
盗 行為 と 暴 行 との 間 に あ る程 度 の 関 連性 を 要 求 す
べき であ る。
具体 的 に は 、原 則 と し て窃 盗 の 現 場と 時 間 的 場
所的 に近 接し た場 所で 暴行 が行 われる 必要 があ る。
し かし 、 そ う でな く と も 窃盗 の 現 場 の継 続 的 延 長
と いえ る 場 合 には 、 な お 窃盗 の 機 会 性は 失 わ れ な
- 97 -
いと いう べき であ る。
本 問 甲 はA の 追 跡 を受 け て い るか ら 、 公 道上 で あ ● あて はめ
っ て も 、 そこ は 窃 盗 の現 場 の 継 続的 延 長 と いう べ き
で ある 。
以 上 か ら 、 甲 に は 事 後 強 盗 罪 ( 238 条 ) が 成 立 す
る。
た だ し 、事 後 強 盗 罪は 財 産 犯 であ る か ら 、財 産 の ● 既遂 ・未 遂の 判断
奪 取 が 実 現 さ れ て い な い 場 合 は 、 未 遂 ( 243 条 ) に
止 まる とい うべ きで ある 。
ま た 、 窃盗 罪 は 後 に成 立 し た 事後 強 盗 罪 に吸 収 し ● 罪数
て 評価 され る。
二 、1 、 こ の よう に 甲 は 事後 強 盗 犯 であ る 。 こ の
【論点】暴行・脅迫のみに加功し
よ うな 甲 の 行 為に つ い て 、暴 行 ・ 脅 迫部 分 に だ け
た 者の 罪責
加 功し た 乙 は 刑法 上 い か なる 評 価 を 受け る か を 検
討す る。
2 、 (1) ま ず 、 こ の 事 案 を い か な る 問 題 と 扱 う べ き
か。
( この 点 、 窃 盗行 為 に 実 行の 着 手 時 期を 認 め 、 本
罪 を承 継 的 共 同正 犯 と し て扱 う こ と もで き そ う で
ある。しか し、窃盗 行為 に実 行の 着手を 認め れば、
窃 盗を す れ ば 、す べ て 事 後強 盗 罪 の 未遂 罪 に 問 わ
れ る こ と に な り か ね ず 、 妥 当 で な い 。)
思う に 、 本 罪の 性 質 は 窃盗 犯 と い う身 分 あ る 者
しか 犯せ ない 身分 犯と いう べき である 。
すな わ ち 、 実行 行 為 は 暴行 ・ 脅 迫 であ る か ら 、
共犯 と身 分の 問題 とし て扱 うべ きであ る。
で は、 本罪 は真 正身 分犯 か不 真正身 分犯 か。
窃盗 の 身 分 のな い 者 が 実行 行 為 を する と 、 暴 行
・ 脅迫 罪 と な るこ と か ら 不真 正 身 分 犯と も い え そ
うで ある 。
しか し 、 暴 行・ 脅 迫 と 準強 盗 で は 保護 法 益 が 全
く 異な る 。 し たが っ て 、 本罪 を 暴 行 ・脅 迫 罪 の 加
重 類型 と す る のは 無 理 が あり 、 真 正 身分 犯 と い う
べき であ る。
(2 )次 に 、 65 条 1 項 は 身 分 の な い 者 も 共 犯 と す る
一 方 で、 2 項 で は 、 非 身 分 者 には 通 常 の 刑 を 科 す
と して い る 。 ここ で 各 項 の関 係 を い かに 解 す べ き
- 98 -
【 論点 】共 犯と 身分
か。
こ の点 、1 項は 共犯 成立 の規 定、 2 項 は不 真正 身
分 犯の 科 刑 の 規定 と す る 説が あ る 。 しか し 、 犯 罪
の成 立と 科刑 を分 離す るこ とは 妥当で ない 。
思 う に 、1 項 は「 身 分 に よ っ て 構 成 す べ き 犯 罪 」2
項 は「 身 分 に よっ て 特 に 刑の 軽 重 が ある と き 」 と
し て いる 。 こ の よ う な 文 言 に 着目 し 、 1 項 は 真 正
身 分 犯に つ い て の 規 定 で あ り 、2 項 は 不 真 正 身 分
犯に つい ての 規定 であ ると いう べきで ある 。
さ ら に 、 65 条 1 項 の 共 犯 に は 、 共 同 正 犯 が 含 ま
れる か。
思う に 、 非 身分 者 も 身 分者 を 通 じ て法 益 侵 害 す
るこ とは 可能 であ る。
し た が っ て 、 65 条 1 項 の 共 犯 に は 共 同 正 犯 が 含
まれ ると いう べき であ る。
3 、 以 上 をも っ て 本 問を 検 討 す ると 、 事 後 強盗 罪 は
真 正 身 分 犯 で あ る 。 し た が っ て 、 65 条 1 項 の 問 題 と
な る。
そ し て 、甲 乙 は 共 同 正 犯 と 評 価 す べ き で あ る か ら 、
乙 は 65 条 1 項 に よ っ て 、 事 後 強 盗 罪 の 共 同 正 犯 の 罪
責 を 負 う と い う こ と に な る ( 238 条 ・ 60 条 )。
以
第 44 問
上
B
甲 は金 銭を 窃取 する ため に 、A 家に 侵入 する 計画 を立 てた 。た だし 、発 見さ れた 場合
に 脅し て逃 げる ため の道 具を 用意 した 。
1 、① 上の 段階 で警 察に 捕ま った とし て、 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
2 、 ②甲 は、 A家 に侵 入し 、 金の ある 場所 を探 し、 机の 引き 出し を明 けた とこ ろで 、A
が 現 れた 。A はび っく りし て 逃げ 出そ うと した が、 甲は 逃げ られ て通 報さ れて は困 ると
考 え 、③ 「待 ちや がれ 」と さ けび 、さ らに びっ くり した Aを 捕ま えて 縛り 上げ た上 で、
金 銭 を奪 って 逃げ た。 Aは 甲 に「 待ち やが れ」 とい われ た際 に、 恐怖 のあ まり 精神 に障
害 をき たし た。 この 場合 の甲 の罪 責を 論ぜ よ。
基 礎 点 19 点
各論 点 2 点
① 実行 の着 手前 、 準備 段階 で逮 捕→ 予備 罪が 成立 する しか な いが 、窃 盗予 備罪 は不 可罰 だ
し?
【 論点 】事 後強 盗の 予備
- 99 -
② 窃盗 とし ての 身分 を取 得し てい る
③ 暴行 ・強 迫を 加 え、 財物 奪取 →暴 行・ 脅迫 が財 物奪 取の 手 段そ のも のに なっ てい るか ら
… …事 後強 盗で はな い
【 論点 】居 直り 強盗
→ 窃盗 との 罪数も 気を つけ るこ と
④ 脅迫 によ る致 傷
【 論点 】脅 迫に よる 致傷
【 論点 】強 盗と 致傷 を生 じた 暴行 ・脅迫 との 関係
【 論点 】致 傷の 程度
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 問 行為 者 は 、 窃盗 の 意 図 しか な い 。 しか し 、
暴 行 ・ 脅 迫の た め の 道具 を 用 意 しよ う と し てい る と
こ ろ を 捉 え て 、 強 盗 予 備 罪 ( 237 条 ) と し て 扱 っ て
よ いか 。
本小 問 の 行 為者 に つ い て、 現 実 に 被害 者 を 脅 す
【 論点 】事 後強 盗の 予備
か否 かは 確定 的で ない 。
しか し 、 見 つか っ た 場 合に 脅 す 意 思は 確 定 的 で
あ る。 す な わ ち、 脅 す か 否か が 条 件 にか か ら し め
られ てい るに 過ぎ ない 。
さら に 、 事 後強 盗 は 強 盗を も っ て 論ず る と さ れ
て い る ( 238 条 )。
以上 か ら 、 事後 強 盗 罪 につ い て も 予備 罪 が 成 立
しう ると いう べき であ る。
本 問 甲 は 強 盗 予 備 罪 ( 237 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 甲 は A家 に 侵 入 し、 か つ 財 物窃 取 の 目 的を も っ
て 机 の 引 き 出 し を 明 け た の で 、 住 居 侵 入 罪 ( 130 条 )
を 犯し た他 、窃 盗の 実行 にも 着手 して いる 。
しか し 、 そ の後 甲 は 財 物奪 取 の た め、 自 分 を 発
見 した A を 縛 り上 げ 、 財 物を 奪 取 し てい る 。 す な
わ ち、 甲 の 行 為に つ い て みる と 、 暴 行・ 脅 迫 が 財
物奪 取の 手段 とな って いる 。
と す る と 、 こ の 場 合 は 通 常 の 強 盗 罪 ( 236 条 )
が 成立 す る 。 そし て 、 事 前の 窃 盗 行 為は 強 盗 行 為
に吸 収さ れて 評価 され ると 解す る。
- 100 -
【 論点 】居 直り 強盗
2 、 (1)し か し 、 A は 甲 の 「 待 ち や が れ 」 と の 脅 迫 的
言 辞 に よ って 精 神 に 異常 を き た して い る 。 そこ で 、
甲 に は 強 盗 致 傷 罪 ( 240 条 前 段 ) が 成 立 す る 可 能 性
が ある 。
し か し 、 脅 迫 に よ っ て 発 生 し た 負 傷 も 240 条 に
いう 負傷 とい える か。
【 論点 】脅 迫に よる 致傷
暴行→傷害というつながりがな
思う に 、 脅 迫行 為 を 原 因と し て 、 被害 者 が 畏 怖
く ても 、致 傷か ?
し 、危 険 な 行 動に 走 っ た り、 生 理 的 機能 を 害 す る
こと は経 験則 上あ り得 る。
し た が っ て 、 脅 迫 に よ っ て 発 生 し た 負 傷 も 240
条に いう 負傷 とい える 。
( 2) さ ら に 、 240 条 成 立 の た め の 脅 迫 は 、 強 取 の 手 段
と され た脅 迫に 限る べき か。
思う に 、 本 罪の 趣 旨 は 、刑 事 学 類 型上 、 強 盗 行
為 の際 、 致 死 傷の 結 果 が 顕著 に 見 ら れる か ら 、 こ
【論点】強盗と致傷を生じた暴行
・ 脅迫 との 関係
れに 対し て厳 罰を もっ て禁 圧す る点に ある 。
とす れ ば 、 脅迫 の 範 囲 を、 財 物 奪 取の 手 段 と し
て なさ れ た も のに 限 定 す るこ と は 、 処罰 範 囲 と し
て、 狭き に失 する 。
しか し 、 偶 然発 生 し た 致傷 の 結 果 まで 強 盗 犯 に
帰責 する のは 妥当 でな い。
そこ で 、 強 盗の 機 会 に 致傷 の 結 果 が発 生 し た 場
合に 本条 の適 用が ある とい うの が妥当 であ る。
す な わ ち 、 240 条 に い う 負 傷 と は 、 財 物 奪 取 ・
確 保に 向 け ら れた 一 連 の 行為 の 中 で 発生 し た も の
とい うべ きで ある 。
(3) 最 後 に 、 強 盗 致 傷 罪 成 立 の た め の 致 傷 の 程 度 は
傷害 罪と 同程 度で よい のか 。
思う に 、 被 害者 が 反 抗 を抑 圧 さ れ る程 度 の 暴 行
が 加え ら れ た 場合 、 軽 微 な傷 害 の 結 果が 発 生 す る
のが 通常 であ る。
こ の よ う な 場 合 に 、 す べ て 240 条 が 成 立 す る と
なる と 、本 罪 は 7 年 以上 の 懲役 で ある か ら、 酌 量
減軽 して も執 行猶 予を つけ るこ とがで きな い。
- 101 -
【 論点 】致 傷の 程度
さら に 、 軽 い傷 害 の 結 果は 強 盗 罪 の中 で 評 価 さ
れて いる とみ うる 。
した が っ て 、傷 害 罪 に いう 傷 害 よ りも 重 い も の
で ある こ と が 必要 で あ る 。具 体 的 に は、 医 師 の 治
療を 必要 とす る程 度の もの を必 要とす べき であ る。
3 、 以 上 をも っ て 本 問に あ て は める と 、 甲 の脅 迫 は
偶 然 的 な もの で は な く、 強 盗 の 機会 に 行 わ れた も の
と 評価 すべ きで ある 。
そ し て 、乙 に は 精 神的 障 害 を 発生 し て い るか ら 、
傷 害の 程度 とし ても 、十 分で ある 。
し た が っ て 、 甲 は 強 盗 致 傷 罪 ( 240 条 前 段 ) の 罪
責 を負 う。
以
第 45 問
上
B
次の 各事 案に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 ①甲 は乙 に対 して 、ち ょ っと 君の 時計 を見 せて くれ 、と いっ て時 計を 受け 取り 、そ
の まま 走っ て逃 げた 。
2 、 甲は 通り がか りに Aの 店 に立 ち寄 って 買い 物を し、 ②A から おつ りを 受け 取っ た瞬
間 、額 が 多 い こ と に 気 が つ い た が 、③ こ れ 幸 い と 受 け 取 っ て そ の ま ま 立 ち 去 ろ う と し た 。
A は お つ り を 渡 し す ぎ た こ と に 気 が つ い て 、「 お つ り 返 し て く だ さ い よ 」 と い い な が ら
④ 甲を 追い かけ たの で、 甲は Aに 暴行 を加 え、 その まま 逃げ 去っ た。
3 、 甲は ⑤家 に帰 って から A から 受け 取っ たお つり の量 が多 いこ とに 気が つい たが 、こ
れ 幸 いと ばか りに その おつ り を使 って しま った 。そ の後 甲は Aか ら「 おつ りを 多く 渡し
ま せん でし たか 」と 聞か れた とき 、⑥ もら って ない と嘘 をつ いた 。
基 礎 点 19 点
各論 点 2 点 +小問 3の 処理 2 点
① 君の 時計 を見 せて くれ 、と 嘘を つく→ 欺罔 行為 あり ?? ?
ただ し、 相手 は財 産を 処分 する 意思な し
【 論点 】欺 く行 為と 財産 的処 分行 為との 関係
② 釣り が多 い→ 買主 とし て、 相手 に告知 する 義務 があ る
③ これ 幸い と→ 相手 の錯 誤を 利用 して不 当な 利益 を得 よう とし てい る
【 論点 】不 作為 によ る欺 罔行 為
④ 暴行 によ って 釣り 銭の 返還 を免 れる→ 強盗 利得 罪の 成否 が問 題に なる
⑤ 欺罔 行為 はな いの で、 詐欺 罪に はでき ない
⑥ 後で うそ をつ く、 この 行為 の可 罰性は ?
- 102 -
解 答例
一 、小 問1 につ いて
甲 は 乙 に嘘 を つ い て時 計 を 利 得し て い る 。か か る
甲 の 罪 は 詐 欺 罪 ( 246 条 1 項 ) と な る か に も 見 え る 。
しか し 、 詐 欺罪 の 欺 罔 行為 は 、 被 欺罔 者 を 錯 誤
に 陥れ て 、 財 物を 交 付 さ せる よ う な もの で あ る 必
【論点】欺く行為と財産的処分行
為 との 関係
要が ある 。
した が っ て 、欺 罔 行 為 はあ く ま で 財産 の 処 分 に
向け られ てい る必 要が ある 。
本 問 甲 の嘘 は 乙 に 財産 を 処 分 させ る 意 思 を生 じ さ
せ る も の では な い 。 した が っ て 、甲 に は 詐 欺罪 は 成
立 せ ず 、 窃 盗 罪 ( 235 条 ) が 成 立 す る の み で あ る 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 (1)甲 は 、 釣 り 銭 が 余 計 に 出 さ れ て い る こ と に 気
が つき なが ら、 これ をそ のま ま受 け取 って いる 。
この よ う な 相手 方 の 不 知・ 錯 誤 を 利用 し て 、 利
【 論点 】不 作為 によ る欺 罔行為
得を 得る 行為 は詐 欺罪 にあ たら ないか 。
(2) 思 う に 、 詐 欺 罪 に お け る 欺 罔 の 手 段 に 制 限 は な
い 。す な わ ち 、欺 罔 行 為 は不 作 為 で もな し う る 。
処 分権 者 が 錯 誤に 基 づ き 財産 を 処 分 しよ う と し て
い る際 に 、 告 知義 務 が あ りな が ら 、 義務 を 果 た さ
なか った 場合 であ る。
( 3)本 問 甲 に は 条 理 上 釣 り 銭 が 余 分 で あ る こ と を 告 知
す る 義 務 はあ る と い うべ き で あ る。 し た が って 、 相
手 が 錯 誤 に陥 っ て い るこ と を 利 用し 、 余 分 に釣 り 銭
を 受 け 取 る 行 為 は 詐 欺 罪 ( 246 条 1 項 ) が 成 立 す る 。
2 、 さ ら に、 甲 は 釣 り銭 を 返 す よう に 主 張 して 追 い
か け て く るA に 暴 行 を加 え 、 釣 り銭 の 返 還 を免 れ て
い る 。 か か る 行 為 は 、 強 盗 利 得 罪 ( 236 条 2 項 ) に 当
た る可 能性 があ る。
本罪 の 成 立 の際 に は 、 既遂 時 期 の 確定 の た め 、
被害 者の 処分 行為 が必 要か どう かに争 いあ る。
こ の点 は 、 1 項 強 盗 に お い て処 分 行 為 は 不 要 で
- 103 -
【論点】強盗罪の成立における処
分 行為 の要 否
あ る から 、 2 項 も 同 様 に 解 す べき で あ る 以 上 、 被
害者 の処 分行 為は 不要 であ ると いうべ きで ある 。
ただ し 、 利 益移 転 の 有 無は 判 断 が 困難 で あ る の
で 、こ れ を 慎 重に す る 必 要が あ る 。 具体 的 に は 、
暴 行・ 脅 迫 に よっ て 、 債 権の 行 使 を 当分 の 間 不 可
能 にし 、 支 払 の猶 予 を 得 たの と 同 視 し得 る 程 度 の
効果 が発 生す る必 要性 があ る。
本 件 の 場合 、 甲 は 通り が か り の者 で あ る から 、 こ
の 時 点 で 釣り 銭 の 返 還が な さ れ なけ れ ば 、 事実 上 A
が 釣り 銭を 確保 する こと は不 可能 にな る。
か よ う な事 情 の 下 、A に 暴 行 を加 え 、 そ の請 求 を
免 れれ ば、 その まま 甲は 利得 を得 るこ とに なる 。
した がっ て、 本件 甲は 強盗 利得 罪の 罪責 を負 う。
3 、 最 後 に詐 欺 罪 と 強盗 罪 の 関 係が 問 題 に なる が 、 ● 罪数 の処 理に 気を つけ て
い ず れ も 同一 の 法 益 確保 に 向 け られ た 行 為 なの で 、
こ れ を 二 罪と し て 評 価す る こ と は不 当 で あ る。 し た
が っ て 、 重い 強 盗 罪 に軽 い 詐 欺 罪は 吸 収 さ れ、 強 盗
一 罪で 処断 する こと が妥 当で ある 。
三 、小 問3 につ いて
ま ず 、 本件 甲 は 家 に帰 っ て か ら初 め て お つり が 多 ● 詐欺 罪・ 遺失 物等 横領 罪の成 否
い こ と に 気が つ い た ので あ る か ら、 こ こ に 詐欺 の 事
実 も 意 思 もな い 。 し たが っ て 、 前段 と は 異 なり 詐 欺
罪 は 成 立 しな い 。 A の占 有 か ら 離れ た 金 銭 を領 得 し
た も の と し て 、 甲 は 遺 失 物 等 横 領 ( 254 条 ) の 罪 責
を 負う 。
か つ 、 その 後 甲 が Aに う そ を つい た 行 為 につ い て ● 後の 行為 の評 価
は 、 既 に 甲に 領 得 さ れた 利 益 を 確保 す る た めの 手 段
と し て な され た 行 為 であ る 。 し たが っ て 、 これ は 別
罪 を構 成し ない 。
以上 から 、甲 は遺 失物 等横 領一 罪の 罪責 を負 う。
以
第 46 問
上
B
次の 各場 合に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 初め から ②無 銭飲 食の 意 図が あり なが ら、 ①そ の意 図を 秘し て甲 が料 理を 注文 した
場 合。
2 、甲 が飲 食中 に財 布を 忘れ たこ とに 気づ き、 ②黙 って 逃げ た場 合。
- 104 -
3 、 飲食 後初 めて ②無 銭飲 食 を意 図し 、甲 が店 の店 主に 、① 支払 の意 思が ない のに 後で
払 いま すと 言っ た場 合。
4 、 ②飲 食後 初め て無 銭飲 食 を意 図し 、甲 が店 の店 主に 「ト イレ に行 って くる 」と ウソ
を つい てそ のま ま逃 げた 場合 。
基 礎 点 21 点
各小 問 1 点
① 相手 方の 財産 の処 分に 向け られ た欺罔 行為 あり
【 論点 】詐 欺罪 の構 造
② 無銭 飲食 の意 図→ 注文 する 時点 からそ のつ もり なら 、詐 欺罪 成立
その 後支 払い を免 れる 意思 を生 じた場 合→ 詐欺 罪に する こと が難 しく なる
【 論点 】無 銭飲 食
【 論点 】処 分行 為の 要否
解 答例
一 、小 問1 につ いて
本 問 甲 につ い て は 、注 文 し た 時点 で 挙 動 によ る 欺
罔 行 為 が ある 。 そ の こと に よ っ て飲 食 物 の 提供 を 受
け て い る か ら 、 甲 は 詐 欺 罪 の 罪 責 を 負 う ( 246 条 1
項 )。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 問 甲も 前 段 と 同様 に 無 銭 飲食 を 行 っ てい る 。
こ の点 につ いて 、詐 欺罪 が成 立し ない か。
2 、 詐 欺 罪 ( 246 条 ) の 成 立 に は 、 欺 罔 行 為 に よ
っ て被 欺 罔 者 が錯 誤 に 陥 った 結 果 と して 処 分 行 為
を し、 財 物 ・ 利益 が 欺 罔 者又 は 第 三 者に 移 転 す る
こと が必 要で ある 。
すな わ ち 、 欺罔 行 為 ・ 錯誤 ・ 処 分 行為 ・ 利 益 の
移 転と い っ た 事由 に 因 果 関係 が 認 め られ る 必 要 が
ある 。
3 、 本 問 甲は 、 注 文 の時 点 で は 詐欺 罪 の 故 意に 欠 け
る 。ま た、 逃げ る行 為は 欺罔 行為 では ない 。
し た が って 、 本 事 例は 利 益 窃 盗と し て 、 不可 罰 と
な ると いう べき であ る。
三 、小 問3 につ いて
甲 の 「 後で 払 う 」 とい う こ の 行為 自 体 が 欺罔 行 為
で ある 。
こ の 行 為に 対 し て 、相 手 が 支 払の 猶 予 の 意思 表 示
- 105 -
【 論点 】詐 欺罪 の構 造
を す れ ば 、 問 題 な く 詐 欺 利 得 罪 ( 246 条 2 項 ) が 既 遂
に なる 。
二 、小 問4 につ いて
1 、 本 問 甲は 、 ト イ レに 行 く と うそ を つ い て代 金 の
支 払 い を 免れ て い る ので 、 詐 欺 罪が 成 立 す る可 能 性
が ある 。
2 、し か し 、 店主 は 甲 に 対し て 支 払 いを 免 除 す る
【 論点 】無 銭飲 食
意 思は な い の で、 甲 を 黙 って 見 送 っ た店 主 が 処 分
【 論点 】処 分行 為の 要否
行為 をし たと いえ るか 。
思う に 、 処 分意 思 に 基 づく 処 分 行 為の 存 在 は 不
可罰 的な 利益 窃盗 との 区別 から 必要な 概念 であ る。
した が っ て 、そ の よ う な区 別 が で きる な ら ば 、
そ の限 度 で 明 確な 債 務 免 除の 意 思 表 示は 不 必 要 と
すべ きで ある 。
そこ で 、 欺 罔し な か っ たな ら 、 相 手方 が 必 要 な
作 為を す る と 認め ら れ る 事情 が あ る 場合 に は 、 不
作為 によ る処 分行 為を 認め ても よいと 解す る。
3 、 本 問 の場 合 、 真 実を 知 れ ば 、甲 が ト イ レに 行 く
こ と を 店 主は 許 さ な かっ た と 考 えら れ る 。 した が っ
て 、 甲 は 処分 行 為 に 向け ら れ た 欺罔 行 為 を 行っ て い
る と 評 価 でき る 。 か つ錯 誤 に 陥 った 店 主 は 甲に 利 益
を 移転 させ る結 果を 導く よう な承 諾を 行っ てい る。
し た が っ て 、 甲 は 詐 欺 罪 ( 246 条 2 項 ) の 罪 責 を 負
う。
以
第 47 問
上
B
1 、 甲は 乙に 「そ の時 計を し てい ると 呪わ れる から 捨て た方 がい い」 と① 勧め た上 で、
乙 が捨 てた 時計 を② 拾っ た場 合、 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
2 、 甲は 乙に 貸金 債権 があ っ たが 、乙 から ②既 に弁 済を 受け てい た。 にも かか わら ず、
甲 は 乙に 領収 書を 発行 して い ない こと をい いこ とに 、乙 への 貸金 返還 につ いて 訴訟 を起
こ し、 勝訴 判決 を得 た場 合、 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
3 、 甲は ③裏 口入 学の 仲介 を 乙に 依頼 した が、 乙は 初め から ④仲 介を する つも りは なか
っ た の で 、甲 か ら 金 を 受 け 取 っ て そ の ま ま 逃 げ た 。こ の 場 合 の 乙 の 罪 責 を 論 ぜ よ 。逆 に 、
裏 口 入学 はう まく いっ たが 、 ⑤甲 は乙 を欺 罔し て、 うま く代 金の 支払 を免 れた 。こ の場
合 の甲 の論 ぜよ 。
- 106 -
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
① だま して 処分 をさ せて いる →た だし、 占有 を移 転さ せよ うと いう 意思 はな い
【 論点 】欺 罔し て財 物を 放棄 させ た場合
② 既に 弁済 を受 けて いた にも かか わらず 、二 重に 弁済 を受 ける 目的 で訴 訟→ 勝訴 判決
訴訟 では 真実 通り の結 論が 出る とは限 らな い
→ 裁判 所は 弁論 主義 、立 証責 任など のル ール に従 って 裁判 をせ ざる を得 ない
【 論点 】訴 訟詐 欺
③ 少な くと も公 序良 俗に 反す る契 約
④ 典型 的な 詐欺 で はな いか ?被 害者 が不 法な 話に 飛び つい た 点は 犯罪 の成 否に 関係 が… …
あ るの か?
【 論点 】不 法契 約( 不法 原因 給付 )と詐 欺罪
⑤ 不法 な契 約に 基づ いて 発生 した 債務→ 民法 上無 効で 履行 する 必要 なし
→こ の義 務の 履行 を免 れて も、 被害は ない ので はな いか ?
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 問 甲は 乙 を 欺 罔し 、 利 益 を得 て い る ので 、 詐
欺 罪 ( 246 条 1 項 ) が 成 立 す る 可 能 性 が あ る 。
しか し 、 甲 は自 己 へ 直 接利 益 を 移 転さ せ る よ う
な 欺罔 行 為 を 行っ て い な い。 甲 の 欺 罔行 為 は 詐 欺
【論点】欺罔して財物を放棄させ
た 場合
罪の 欺罔 行為 とい える か。
2 、 思 う に 、 詐 欺 罪 ( 246 条 ) の 成 立 に は 、 欺 罔
【 論点 】詐 欺罪 の構 造
行 為に よ っ て 被欺 罔 者 が 錯誤 に 陥 っ た結 果 処 分 行
*詐欺に関する問題ではとりあえ
為 をな し 、 財 物・ 利 益 が 欺罔 者 又 は 第三 者 に 移 転
ず 書い てお く論 証
する こと が必 要で ある 。
すな わ ち 、 欺罔 行 為 ・ 錯誤 ・ 処 分 行為 ・ 利 益 の
移 転と い っ た 事由 に 因 果 関係 が 認 め られ る 必 要 が
ある と解 する 。
ここ に 、 財 物が 放 棄 さ れれ ば 、 行 為者 は 当 該 物
を 自由 に 拾 得 でき る 。 つ まり 、 被 欺 罔者 の 処 分 行
為 によ っ て 、 欺罔 行 為 者 の事 実 上 の 支配 下 に 財 物
が移 転し てい ると いう べき であ る。
3 、 し た が っ て 、 本 問 甲 は 詐 欺 罪 ( 246 条 1 項 ) の 罪
責 を負 う。
二 、小 問2 につ いて
- 107 -
1 、 本 小 問の よ う に 、裁 判 所 を 騙し て 、 勝 訴判 決 を
得 る行 為は 、詐 欺罪 を構 成す るか 。
2 、裁 判 所 は 弁論 主 義 に 拘束 さ れ 、 たと え 真 実 と
【 論点 】訴 訟詐 欺
異 なっ て も 訴 訟の ル ー ル に則 っ て 裁 判を す る 義 務
が ある 。 こ の 点を 強 調 す れば 、 訴 訟 によ る 詐 欺 は
ない とみ るこ とも でき そう であ る。
しか し 、 裁 判所 は 当 事 者に 争 い が ある 事 実 に つ
い ては 、 自 由 心証 に よ っ てそ の 有 無 を判 断 す る 。
と すれ ば 、 裁 判官 が 事 実 誤認 し 、 錯 誤に 陥 る こ と
はあ り得 ると いう べき であ る。
しか も 、 裁 判所 の 判 決 の結 果 、 強 制執 行 に よ っ
て財 物を 交付 させ るこ とが でき る。
した が っ て 、裁 判 所 が 被欺 罔 者 兼 処分 権 者 で あ
る 詐 欺 罪 ( 246 条 1 項 ) が 成 立 し う る と い う べ き で
ある 。
3 、 本 問 甲は 裁 判 所 に事 実 誤 認 をさ せ 、 勝 訴判 決 を
得 てい る。
し た が っ て 、 甲 は 詐 欺 罪 ( 246 条 1 項 ) の 罪 責 を 負
う こと にな る。
三 、小 問3 につ いて
1 、前 段に つい て
本小 問 の よ うに 、 裏 口 入学 の 仲 介 人が 逃 げ た 場
合 、注 文 者 は 金銭 の 返 還 請求 は で き ない こ と が 通
常 で あ る ( 民 法 708 条 参 照 )。
に も か か わ ら ず 、 乙 に 詐 欺 罪 ( 246 条 2 項 ) は 成
立す るか 。
思 うに 、 詐 欺 罪の 成 立 に おい て 重 要 なの は 欺 罔
さ れな け れ ば 処分 行 為 を しな か っ た であ ろ う と い
う点 であ る。
した が っ て 、民 法 上 の 返還 請 求 の 可否 に は 関 係
な く、 本 問 の よう な 場 合 にも 当 然 に 詐欺 罪 が 成 立
する とい うべ きで ある 。
以 上 よ り 、乙 は 詐 欺 罪( 246 条 2 項 )の 罪 責 を 負 う 。
2 、後 段に つい て
甲は 乙 を 欺 罔し て 債 務 を免 れ て い る。 し か し 、
- 108 -
【 論 点 】 不 法 契 約( 不 法 原 因 給 付 )
と 詐欺 罪
乙 の金 銭 債 権 は、 公 序 良 俗に 反 し 、 無効 と い う べ
き であ り 、 乙 には 民 法 上 の請 求 権 は ない 。 そ れ で
も 、 甲 に 詐 欺 罪 ( 246 条 2 項 ) は 成 立 す る か 。
思う に 、 財 産罪 が 可 罰 的で あ る の は、 他 人 の 財
産 ・利 益 を 不 法に 得 る こ とで 財 産 秩 序が 乱 れ る 点
に あ る 。そ し て 、 本 問 甲 の よ う な 行 為 に よ っ て も 、
財 産秩 序 が 乱 れる と い う 関係 を 見 い だす こ と は で
きる 。
し た が っ て 、 甲 は 詐 欺 罪 ( 246 条 2 項 ) の 罪 責 を 負
う。
以
第 48 問
上
B
甲 は① 拾っ たク レジ ット カ ード を使 って 、東 京・ 新横 浜間 の切 符と 京都 大阪 間の 定期
券 を 購入 した 。そ の上 で甲 は 、② 東京 から 切符 を利 用し て入 札し 、京 都大 阪間 の定 期券
を 利用 して 大阪 の出 札口 を出 た。 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 17 点
各論 点 2 点
① 拾っ たク レジ ット カー ドを 利用 して支 払い →支 払意 思が ない
【 論点 】詐 欺罪 の構 造
【 論点 】ク レジ ット カー ドに よる 詐欺
② 京都 ~横 浜間 を乗 車す る権 利が 甲には ない →キ セル 乗車 をど うや って して 処罰 する か
【 論点 】キ セル 乗車
【 論点 】処 分意 思の 要否
解 答例
一 、 1 、 まず 、 本 問 甲は 拾 っ た クレ ジ ッ ト カー ド を
使 っ て 物 品購 入 を し てい る 。 こ のよ う に 、 支払 意 思
が な い ま まカ ー ド を 提示 し 、 物 品を 購 入 す る行 為 は
詐 欺 罪 ( 246 条 ) を 構 成 す る か 。
2 、 (1) 思 う に 、 詐 欺 罪 の 成 立 に は 、 欺 罔 行 為 に よ
って 被欺 罔者 が錯 誤に 陥っ た結 果処分 行為 をな し、
財 物・ 利 益 が 欺罔 者 又 は 第三 者 に 移 転す る こ と が
必要 であ る。
すな わ ち 、 欺罔 行 為 ・ 錯誤 ・ 処 分 行為 ・ 利 益 の
- 109 -
【 論点 】詐 欺罪 の構 造
移 転と い っ た 事由 に 因 果 関係 が 認 め られ る 必 要 が
ある と解 する 。
( 2)上 記 要 件 を 本 事 案 が 満 た す か を 検 討 す る 。
ま ず 、 支払 意 思 の ない カ ー ド の提 示 は 挙 動に よ る
欺 罔 に あ たる と い え る。 そ の こ とに よ っ て 、加 盟 店
は 錯誤 に陥 り、 財産 を甲 に差 し出 して いる 。
しか し 、 法 的構 成 と し て、 財 産 的 損害 が ど こ に
発生 する と考 える べき か。
【論点】クレジットカードによる
詐欺
思 う に 、詐 欺 罪 は が 個 別 財 産 に 対 す る 罪 で あ る 。
* 判例 によ った
し たが っ て 、 加盟 店 が 商 品を 失 っ た 点に 財 産 的 損
害 を観 念 す べ きで あ り 、 この 時 点 で 一項 詐 欺 罪 が
成立 する とい うの が妥 当で ある 。
3 、 以 上 から 、 拾 っ たク レ ジ ッ トカ ー ド で 乗車 券 を
購 入 し た 行 為 に つ き 、 甲 は 詐 欺 罪 ( 246 条 1 項 ) の 罪
責 を負 う。
二 、1 、 加 え て、 甲 は い わゆ る キ セ ル行 為 を 行 っ
【 論点 】キ セル 乗車
て い る 。か か る 乗 車 行 為 が 詐 欺 利 得 罪( 246 条 2 項 )
を構 成す るか 。
2 、 (1) 思 う に 、 出 札 口 で 清 算 す べ き な の に 正 規 の
運 賃の 支 払 が 済ん で い る かの よ う に 装う 点 に 欺 罔
行為 があ ると いう べき であ る。
そし て 、 改 札係 員 は 錯 誤に よ っ て 請求 す べ き 運
賃 の支 払 い を 請求 で き な くな る 。 す なわ ち 、 不 作
為に よる 処分 行為 をな して いる といえ る。
(2) こ の 点 、 出 札 係 は 請 求 す べ き 債 務 の 存 在 す ら 知
らな いか ら、 処分 行為 はな いと も考え られ る。
しか し 、 処 分意 思 に 基 づく 処 分 行 為の 存 在 は 不
可罰 的な 利益 窃盗 との 区別 から 必要な 概念 であ る。
した が っ て 、そ の よ う な区 別 が で きる な ら ば 、
そ の限 度 で 明 確な 債 務 免 除の 意 思 表 示は 不 必 要 と
すべ きで ある 。
そこ で 、 欺 罔し な か っ たな ら 、 相 手方 が 必 要 な
作 為を す る と 認め ら れ る 事情 が あ る 場合 に は 、 不
作為 によ る処 分行 為を 認め ても よいと 解す る。
そ し て 、本 問 で は 甲が 正 規 の 運賃 を 払 っ てい な い
- 110 -
【 論点 】処 分意 思の 要否
と い う 事 情を 知 っ て いる 場 合 、 出札 員 は 、 甲の 出 場
を 許さ なか った と解 され る。
3 、 し た が っ て 、 甲 は 詐 欺 利 得 罪 ( 246 条 2 項 ) の 罪
責 を負 う。
以
上
* クレ ジッ トカ ード 詐欺 に関 する 学説
支払 意 思な い まま カ ード を 提示 し 、物 品 を購 入 する 行 為は 刑法 上 いか に 評価 さ れる べ き
か。
ま ず、 支払 意思 ない カー ドの 提示 は挙 動に よる 欺罔 にあ たる とい える 。
また 、 加盟 店 は、 行 為者 に 支払 い 意思 が ない こ とを 知 った なら ば 、カ ー ドの 提 示に 対 し
て 物品 は引 き渡 さ なか った と言 える 。し たが って 、商 品を 加 盟店 が犯 人に 引き 渡し た時 点
で 、錯 誤に よる 処分 行為 はあ る。
次 に、 財産 的損 害を どの よう に考 える べき か。
思 う に、 加 盟店 は 商品 を 引き 渡 して も 、ほ と んど 必 ず立 て替 え 払い を クレ ジ ット 会 社
か ら受 けう るか ら、 そこ には 損害 はない 。
し か し 、商 品 を 引 き 渡 し て か ら 一 ヶ 月 後 に は 、ク レ ジ ッ ト 会 社 に 確 実 に 損 害 が 発 生 す る 。
こ こに 財産 的損 害の 発生 をみ るこ とがで きる 。
し た が っ て 、被 欺 罔 者 ・ 処 分 行 為 者 が 加 盟 店 で あ り 、被 害 者 が ク レ ジ ッ ト 会 社 と 構 成 し 、
詐 欺罪 の成 立が 肯定 され るこ とに なる。
第 49 問
B
次の 各場 合に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 ①甲 は担 保目 的物 であ る 車に つい て、 弁済 の期 日が 到来 した 朝に 、② 債務 者乙 に無
断 で車 を持 ち出 した 。甲 の罪 責を 論ぜ よ。
2 、他 人が 平穏 に占 有す る甲 の所 有物 を、 ③甲 が恐 喝的 手段 をも って 取り 戻し た場合
3 、甲 が④ 債権 の回 収に 際し て脅 迫的 な言 辞を 用い た場 合
基 礎 点 19 点
各小 問 2 点
① 所有 権者 は甲
② 現在 占有 をし てい るの は乙 →占 有権限 はな いが 、占 有を して いる こと に変 わり なし
→奪 取罪 によ る被 侵害 法益 は何 かによ って 結論 が変 わる
【 論点 】財 産犯 の保 護法 益論
③ 小問 1が 窃盗 →2 では これ が恐 喝にな った のみ
∴ 論点 は小 問1 と 同じ →た だし 、権 利行 使と して の恐 喝= 違 法性 が阻 却さ れる 可能 性あ り
【 論点 】権 利行 使と 恐喝
④ 債権 の回 収→ 物で あろ うが 、何 らかの 利益 であ ろう が債 務者 の権 利が 制約 され る
→こ れを 恐喝 的手 段で 実現 する のは、 保護 法益 論と は別 の考 慮が 必要
- 111 -
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 民法 上 は 、 本問 車 に つ いて 所 有 権 を取 得 し
て い る 。 しか し 、 甲 が自 力 で 権 利を 実 現 す れば 、 債
務 者 丙 の 占有 が 侵 害 され る 。 そ こで 、 財 産 罪の 保 護
法 益は 占有 か、 本権 かが 問題 とな る。
2 、思 う に 、 財産 罪 は 究 極的 に は 所 有権 を 保 護 す
【 論点 】財 産犯 の保 護法 益論
るも ので ある 。
しか し、 現代 の複 雑な 所有 ・占 有関 係の 下で は、
本 権 を 保 護 す る た め に 、権 原 の 有 無 に か か わ ら ず 、
平 穏な 占 有 は 保護 す る 必 要が あ る 。 財物 の 占 有 侵
害 にお い て 、 権原 に よ る かど う か を 確認 す る こ と
は到 底望 みえ ない から であ る。
し たが って 財産 罪 は平 穏な 占有 を保 護法 益 とす る
と解 する のが 妥当 であ る。
3 、 以 上 をも っ て 本 問を 判 断 す るに 、 乙 の 占有 は 、
も と も と 権 原 の あ っ た 占 有 で あ る か ら 、少 な く と も 、
現 在も 平穏 であ ると いえ る。
し た が って 、 か よ うな 乙 の 占 有を 侵 害 し てい る の
で 、 甲 は 窃 盗 罪 ( 235 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 小 問に お い て 、甲 は 恐 喝 的手 段 を 用 いて い る
が 、 そ の 財産 は 甲 に 所有 権 が あ る。 そ れ で も、 甲 に
恐 喝 罪 ( 249 条 ) は 成 立 す る か 。
2 、 こ の 点、 奪 取 罪 の保 護 法 益 は、 前 段 で 述べ た よ
う に、平穏 な占 有で ある。甲は 恐喝 的手 段に よっ て、
こ れを 侵害 して いる 。
し た が って 、 甲 の 行為 は 恐 喝 罪の 構 成 要 件に 該 当
す る。
3 、た だ し 、 権利 の 実 行 の際 に は 、 交渉 ・ 説 得 が
【 論点 】権 利行 使と 恐喝
必 要に な る こ とが あ り 、 その 中 で 恐 喝的 言 辞 が 用
* 本権 者に よる 権利 行使
い られ る こ と はあ り う る 。こ れ を す べて 処 罰 の 対
象と する こと は行 き過 ぎで ある 。
違法 性 の 本 質は 社 会 倫 理規 範 に 反 する 法 益 侵 害
に 求め る べ き であ る が 、 権利 行 使 の 際に 恐 喝 的 手
- 112 -
段 を用 い る こ とは 、 場 合 によ っ て 社 会的 相 当 性 が
未だ 失わ れな いと いう こと があ りえる 。
し た が って 、 具 体 的事 情 に よ って は 、 違 法性 が 阻
却 され 、甲 は無 罪と なる 。
三 、小 問3 につ いて
1 、 本 問 では 、 甲 が 恐喝 的 手 段 によ っ て 、 財物 を 交
付 さ せ て いる 。 し か し、 債 務 者 は財 物 の 交 付に よ っ
て 債 務 を 免 れ て い る か ら 、 損 害 は な い と 思 え る 。 そ cf . 占 有 侵 害 が あ れ ば 、 そ れ だ け
れ で も 恐 喝 罪 ( 249 条 ) は 成 立 す る か 。
で 損害
2 、こ の 点 、 実質 的 な 権 利侵 害 は な いが 、 脅 し た
【 論点 】権 利行 使と 恐喝
点 に は 犯 罪 性 が あ る と し て 、 脅 迫 罪 ( 222 条 ) の
* 債権 を持 つ者 の権 利行 使
成立 に止 める べき であ ると の立 場もあ る。
しか し 、 債 務を 免 れ る こと と 金 銭 を脅 し 取 ら れ
る こと と の 利 益は 等 価 で はな い 。 正 規の 手 続 き で
し か取 戻 を 受 けな い と い う利 益 が 害 され て い る か
らで ある 。
恐喝 罪 は 個 別財 産 に 対 する 罪 と い うべ き で あ る
か ら、 恐 喝 が なか っ た な らば 財 物 交 付は な か っ た
と いう 関 係 が あれ ば 、 財 産的 損 害 は 認め ら れ る 。
以 上 よ り 、本 問 事 例 で も 財 産 的 損 害 は 認 め ら れ る 。
た だ し 、前 段 で 述 べた よ う に 、い か な る 場合 も 恐
喝 罪が 成立 する と解 する こと はで きな い。
具 体 的 には 、 債 権 の回 収 行 為 が権 利 行 使 の範 囲 内
に あ る と 認め ら れ る なら ば 、 正 当行 為 と し て違 法 性
が 阻却 され ると いう べき であ る。
し た が っ て 、上 の よ う な 事 情 が 認 め ら れ な い 限 り 、 ● 結 論
甲 は 恐 喝 罪 ( 249 条 ) の 罪 責 を 負 う こ と に な る 。
以
第 50 問
上
A
甲 は業 務に おい てA と土 地 の① 売買 契約 を結 び、 ②A から 代金 を受 け取 った にも かか
わ ら ず、 ③自 己に 登記 があ る こと をい いこ とに 、④ 目的 物を 乙に も売 却し 、か つ乙 に登
記 も 得さ せた 。乙 が二 重譲 渡 の事 実に つい て、 ⑤善 意の 場合 、⑥ 悪意 の場 合、 ⑦背 信的
悪 意の 場合 のそ れぞ れに つい て、 甲乙 にい かな る犯 罪が 成立 する か論 ぜよ 。
- 113 -
基 礎 点 19 点
【 論点 】二 重譲 渡の 処理 →超 典型 問題
甲に 横領 罪は 成立 する か
2点
甲に 詐欺 罪は 成立 する か
2点
乙に 犯罪 は成 立す るか
2点
① 売買 契約 →甲 乙の 間に 委託 信任 関係あ る
② 代金 を受 け取 った →土 地の 所有 権の移 転は 間違 いな くあ り
③ 登記 があ る→ 甲に は法 律上 の占 有あり
④ 乙に 売却 、登 記ま で得 させ てい る→間 違い なく 横領 行為 あり
⑤ 乙が 善意 の場 合→ 乙に 犯罪 が成 立しな いの は明 らか
逆に 甲は 乙に 対す る詐 欺罪 も犯 したこ とに なら ない か
⑥ ⑦悪 意・ 背信 的悪 意→ 乙は 甲の 犯罪に 加担 した 者と いう こと にな らな いか
さら に、 乙は 業務 者、 占有 者い ずれの 身分 もな い
【 論 点 】 共 犯 と 身 分 、【 論 点 】 業 務 上 横 領 と 共 犯
(2 点)
解 答例
一 、売 主甲 の責 任( 横領 罪に つい て)
1 、 甲 は 業務 上 A に 売却 し た は ずの 土 地 を さら に 乙
に 売 却 し て い る か ら 、 業 務 上 横 領 罪 ( 253 条 ) が 成
立 する 可能 性が ある 。
ま ず 、 甲は 土 地 を 「自 己 」 が 「占 有 」 し てい る と ● 「自 己の 占有 する 」
い える か。
横 領 罪 にお け る 占 有は 、 濫 用 のお そ れ の ある 支 配
力 で あ る 。し た が っ て、 事 実 上 の占 有 の み なら ず 法
律 上の 占有 も含 むと いう べき であ る。
本 問 で 、甲 の 下 に 登記 が あ れ ば、 法 律 上 の占 有 が
あ り 、「 占 有 」 が あ る こ と に な る 。
2 、次 に、 本問 不動 産は 「他 人の 物」 とい える か。
● 「他 人の 物」
思 う に 、民 法 上 は 契約 が あ れ ば所 有 権 が 移転 す る
と さ れ て いる 。 し か し、 契 約 が あれ ば 他 人 物性 を み
と める とす れば 、処 罰範 囲が 広が りす ぎる 。
し た が って 、 刑 法 によ る 要 保 護性 を 考 慮 し、 民 法
と は 別 個 に 他 人 物 性 を 考 え る べ き で あ る 。す な わ ち 、
買 主 が あ る程 度 の 支 配を 備 え て 初め て 、 目 的物 が 他
人 の物 にあ たる とす べき であ る。
本 問 の 場合 、 A は 代金 を 支 払 って い る か ら、 A は
目 的 物 へ の支 配 を 得 てい る と い える 。 し た がっ て 、
本 件不 動産 は「 他人 の」 物に あた る。
3 、 さ ら に、 売 主 は 売買 契 約 に よっ て 土 地 ・登 記 名 ● 横領 した とい える には
- 114 -
義 を 保 管 する 義 務 が ある 。 し た がっ て 、 委 託信 任 関
→委 託信 任関 係が 必要
係 も認 めら れる 。
ま た 、 不法 領 得 の 意思 に つ い ても 、 一 時 使用 の 目 ● 横領 した とい える には
的 と区 別す るた めに 必要 であ る。
→不 法領 得の 意思
こ こ に 不法 領 得 の 意思 の 内 容 は、 横 領 罪 が委 託 信
任 関 係 を 破っ て 行 わ れる 犯 罪 で ある こ と を 考慮 し て
決 す る べ きで あ る 。 具体 的 に は 、委 託 信 任 関係 に 背
い て 、 権 限な く 所 有 者で な け れ ばで き な い よう な 処
分 をす る意 思の こと をい う。
本 問 で いう と 、 登 記移 転 は 所 有者 で な け れば で き
な い。 した がっ て、 不法 領得 の意 思は 認め られ る。
最 後 に 、登 記 時 に 上の よ う な 意思 が 確 定 的に 発 現 ● 横 領 行 為 が 客 観 的 に 行 わ れ て い
し て い る から 、 こ の 時点 で 横 領 罪は 既 遂 に 達し て い る か
る とい うべ きで ある 。
4 、以 上か ら、 甲は 業務 上横 領罪 の罪 責を 負う 。
二 、売 主甲 の責 任( 詐欺 罪)
本 問 乙 が事 情 に 善 意の 場 合 、 他人 の 物 を 購入 さ せ
た 甲 に 詐 欺 罪( 246 条 1 項)が 成 立 す る 可 能 性 が あ る 。
た だ 、 新買 主 は 、 所有 権 を 取 得で き る か ら、 原 則 ● 原則 とし て詐 欺罪 は成 立しな い
と し て 損 害は な い 。 した が っ て 、詐 欺 罪 は 原則 と し
て 不成 立で ある 。
た だし 、 第 1 譲 受人 の 存在 を 知っ て いた ら 買わ な
か った だろ うと 考え られ る特 別の 事情 があ ると きは、
例 外 的 に 詐欺 罪 が 成 立す る 。 詐 欺罪 は 個 別 財産 に 対
す る罪 だか らで ある 。
三 、買 主乙 の責 任
1 、 (1)二 に 対 し て 、 乙 が 悪 意 、 さ ら に 背 信 的 悪 意 の ● 犯 罪 に 加 担 し た 者
場 合 、乙 は 業 務 上 横 領 罪 の 共 犯( 60 条 ・ 61 条 ・ 62 条 )
の 罪責 を負 わな いか 。
( 2)思 う に 、 刑 法 の 謙 抑 性 の 観 点 か ら 、 民 法 上 有 効 に ● 悪 意 で あ る だ け で は 共 犯 と し て
財 産 を 取 得 で き る 場 合 は 、買 主 を 処 罰 す べ き で な い 。 処 罰 さ れ な い こ と を 指 摘
し た が って 、 事 情 につ い て 買 主が 単 純 悪 意の 場 合
は 、 共 犯 に な ら な い 。 民 法 177 条 の 第 三 者 は 、 悪 意
の 権利 者も 含ま れる と解 され るか らで ある 。
一 方 、 買主 が 背 信 的悪 意 者 で ある 場 合 に は、 買 主
は 民 法 177 条 の 第 三 者 に あ た ら な い 。
し た が って 、 こ の 場合 の 買 主 には 犯 罪 成 立の 可 能
性 があ ると いう べき であ る。
( 3)よ っ て 、 乙 は 背 信 的 悪 意 者 の 場 合 に 、 共 犯 と し て
処 罰 さ れ る可 能 性 が ある 。 乙 が 犯罪 へ の 関 与形 態 に
- 115 -
よ り 、 共 同 正 犯 ( 60 条 ) に な る こ と が れ ば 、 教 唆 犯
( 61 条 )、 幇 助 犯 ( 62 条 ) に な る 可 能 性 も あ る 。
2 、 ( 1)た だ 乙 に は 、「 他 人 の 物 の 占 有 者 」 と い う 身
分 が な い 。 そ こ で 、 乙 は 身 分 が な い 者 と し て 、 65 条 ● 身 分 が な い 乙 が ど う 処 理 さ れ る
に より 処理 され る。
か を指 摘
思 う に 、 65 条 1 項 は 、「 身 分 に よ っ て 構 成 す べ
【 論点 】共 犯と 身分
き 」 と し て お り 、 65 条 2 項 は 「 身 分 に よ っ て 特 に
刑 の軽 重 が あ ると き 」 と して い る 。 この よ う な 文
言か ら、 同 条 1 項 は真 正 身分 犯、 同条 2 項 は不 真
正身 分犯 の規 定で ある と解 すべ きであ る。
そし て 、 通 常人 か ら す ると 、 業 務 上の 占 有 者 た
る身 分は 真正 身分 とい うこ とに なる。
し た が っ て 、 65 条 1 項 で 業 務 上 横 領 罪 ( 253 条 )
が 成立 する とい うべ きで ある 。
(2) し か し 、 単 な る 占 有 者 が 業 務 上 物 を 占 有 す る 者
【 論点 】業 務上 横領 と共 犯
と 共 犯 行 為 を 行 っ た 場 合 、 65 条 2 項 で 単 純 横 領 が
成立 する こと との 均衡 を欠 くお それが ある 。
そ こ で 、 処 断 刑 は 横 領 罪 ( 252 条 ) よ り は 重 く
でき ない と解 すべ きで ある 。
以 上 か ら 、 乙 に は 業 務 上 横 領 罪 ( 253 条 ) が 成 立
す る が 、 5 年 ( 252 条 参 照 ) よ り 刑 が 重 く な る こ と は
な い。
以
第 51 問
上
B
銀 行の ① 支店 長 甲は 、 ④友 人 の事 業 者乙 の 財産 状 況が 悪 いこ と を知 り つつ 、 ②乙 を助
け る ため 、ひ いて は乙 の才 能 なら ば、 まず この 苦境 を乗 り越 える から 、こ の場 で融 資を
行 っ た方 が、 甲銀 行の 重要 な 顧客 を確 保す るこ とに なる と考 え、 ③十 分な 担保 を取 らな
い ま ま、 自己 の判 断で 貸し 付 ける こと がで きる 最高 の額 の金 銭を 乙に 貸し 付け るこ とを
承 諾し た。
こ の 場 合 の 甲 の 罪 責 を 論 ぜ よ ( 特 別 法 は 考 慮 に 入 れ な く て よ い )。
基 礎 点 21 点
各論 点 1 点
① *業 務上 物を 占有 する 者、 かつ 事務処 理を 委託 され たも の
- 116 -
【 論点 】横 領と 背任 の区 別
④ 権限 内で でき るが 、会 社に 損害 が発生 する 可能 性が ある
【 論点 】背 任罪 の罪 質
② 第三 者の 利益 を 図る 意思 と会 社の 利益 を図 る意 思が 混在 → どっ ちが 主目 的か と言 えば ?
【 論点 】図 利・ 加害 目的 の意 義
【 論点 】財 産上 の損 害
解 答例
一 、 1 、 まず 、 乙 は 業務 上 の 財 産の 占 有 者 であ り 、
か つ事 務処 理を 委託 され たも のと もい えそ うで ある。
そ こ で 、横 領 罪 と 背 任 罪 と い ず れ が 成 立 す る か 、
【 論点 】横 領と 背任 の区 別
その 判断 基準 が問 題と なる 。
2 、思 う に 、 権限 内 で 行 動す る 場 合 は、 本 人 に 一
応 効果 が 及 ぶ のだ か ら 、 不法 領 得 の 意思 が 発 現 す
ると はい えな い。
した が っ て 、行 為 態 様 で決 定 す る のが 妥 当 で あ
る 。具 体 的 に は権 限 逸 脱 行為 が 横 領 行為 に あ た る
の に対 し 、 権 限濫 用 行 為 は背 任 行 為 にあ た る と い
うべ きで ある 。
た だ し 、こ の よ う な 違 い は 実 質 的 に 判 断 さ れ る 。
すな わ ち 、 外形 上 権 限 内に あ た る 行為 で あ っ て
も 、委 託 の 趣 旨か ら 絶 対 に許 さ れ な い行 為 は 、 ほ
しい まま の処 分と いわ ざる を得 ない。
し た が っ て 、 こ の よ う な 場 合 は 横 領 罪 ( 252 条 )
とな る。
3 、 本 問 甲は 銀 行 の 支店 長 で あ るか ら 、 他 人へ の 貸
付 の 承 諾 は、 特 段 の 事情 が な い 限り 甲 の 権 限内 の 行
為 であ ると 解さ れる 。
し た が って 、 本 問 は背 任 罪 の 問題 と し て 処理 す べ
き であ る。
二 、 1 、 そこ で 、 背 任罪 の 要 件 にあ た る 事 実の 有 無
を 検討 する 。
ま ず 、 247 条 に い う 事 務 と は 、 信 任 関 係 あ れ ば 、
事 実上 の 事 務 と法 律 上 の 事務 と を 問 わな い と い う
べき であ る。
ただ し 、 犯 罪の 成 立 範 囲を 明 確 に する 必 要 が あ
- 117 -
【 論点 】背 任罪 の罪 質
る。
そこ で 、 背 任行 為 の 範 囲を 財 産 上 の権 限 が 認 め
られ る場 合に 限定 すべ きで ある 。
そし て 、 そ のよ う な 事 務処 理 上 有 して い る 権 限
を 濫用 し て 行 われ る 背 信 行為 を 本 犯 罪の 対 象 と す
べき であ ると 考え る。
本問 甲に つい ては 、こ の要 件を 満た す。
2 、次 に 、 本 問甲 に は 本 人の 利 益 を 図る 目 的 と 、
【 論点 】図 利・ 加害 目的 の意義
自 己・ 第 三 者 の利 益 を 図 る目 的 が 混 在し て い る 。
この 場合 、甲 に図 利目 的は 認め られる か。
思う に 、 自 己又 は 第 三 者の 利 益 を 図る 目 的 あ れ
ば 、お よ そ す べて 処 罰 す ると い う の では 、 図 利 加
害 目的 を 要 件 とし て 犯 罪 の成 立 範 囲 を限 定 し た 意
味が なく なる 。
した が っ て 、こ の よ う な場 合 は 、 主た る 目 的 が
何 であ る か に よっ て 目 的 の有 無 を 判 断せ ざ る を 得
ない 。
本 問 の 場合 、 将 来 的に 甲 銀 行 の役 に 立 つ と考 え た
と し て も 、そ の よ う な個 人 的 判 断で 、 貸 付 をす る こ
と は 許 さ れな い は ず であ る 。 そ の意 味 で 、 甲の 苦 境
を 救う とい う目 的が 主で ある こと は否 めな い。
した がっ て、 甲に 図利 目的 は認 めら れる 。
3 、 最 後 に 、 背 任 罪 ( 247 条 ) の 成 立 に は 、 全 体
財 産に 損 害 を 発生 さ せ る こと を 要 し 、か つ そ れ で
たり る。
した が っ て 、損 害 が 発 生し た か に みえ て も 、 こ
れ に対 応 す る 反対 給 付 が あれ ば 、 損 害は な い と み
るこ とに なる 。
と する と、 本問 事 例で は金 銭の 支出 に対 し て、 債
権 を取 得 し て いる か ら 財 産上 の 損 害 はな い か に 見
える 。
し か し 、全 体 財 産 へ の 損 害 は 法 律 的 損 害 で は な く 、
経 済 的 損 害 に お い て 、実 質 的 に 判 断 す べ き で あ る 。
と な る と、 実 価 が 低い 債 権 を 取得 し た の みで は 、
十 分 な 反 対給 付 が あ った と は い えな い 。 経 済的 損 害
- 118 -
【 論点 】財 産上 の損 害
は 認め られ ると いう べき であ る。
す な わ ち、 無 担 保 で、 実 価 が 低い 債 権 を 取得 し た
の み で は 、経 済 的 損 害は 発 生 し てい る と い うべ き で
あ る。
本 問 は 、甲 は 甲 銀 行に 無 担 保 の債 権 を 得 させ て い
る に 過 ぎ ない 。 し た がっ て 、 甲 銀行 に 財 産 上の 損 害
は 発生 する 。
以 上 か ら 、 甲 は 背 任 罪 ( 247 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
以
第 52 問
上
A
① 甲 は、 Aの ため に自 己の 土 地に 一番 抵当 権を 設定 する 契約 をA と結 び、 ②債 務履 行の
た め 必要 な資 料を 交付 した 。 しか し、 ③甲 はA が登 記を 具備 しな いう ちに 、さ らに 、④
事 情 に悪 意の 乙の ため に抵 当 権を 設定 する 契約 を結 び、 登記 を具 備さ せて ⑤乙 に一 番抵
当 権を 得さ せた 。
この 場合 の甲 乙の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 22 点
問題 提起 ・あ ては め 1 点
論証 1 点
① 甲は 乙と 抵当 権設 定契 約を 結ん でいる →他 人の 事務 を処 理す る者 …… では ない のか
② 甲は 積極 的に なす べき 義務 は終 えてい る→ それ でも 他人 の事 務処 理者 か
③ 甲は 乙に 一番 抵当 権を 得さ せる →任務 に背 いた 行為 をし てい る
④ 乙は 悪意 →甲 の犯 罪に 加担 した といえ るの では ない か
ただ し、 乙に は他 人の 事務 処理 者とい う身 分が ない
【 論点 】共 犯と 身分
* 甲が 背任 罪に な るか の要 件事 実の 検討 以外 は、 二重 譲渡 と 横領 の問 題と 本問 はほ ぼ処 理
の 方法 が同 じに なる
⑤ 乙に 一番 抵当 権→ Aは 二番 以下 の抵当 権し か取 得で きな い、 財産 上の 損害 あり
【 論点 】二 重抵 当
解 答例
一 、甲 の罪 責に つい て
【 論点 】二 重抵 当
1 、 (1)甲 は 、 A に 一 番 抵 当 権 を 得 さ せ る 債 務 が あ る
の に 、 事 情を 知 る 乙 に対 し て 、 一番 抵 当 権 を得 さ せ
て いる 。
か か る 、 甲 に は 背 任 罪 ( 247 条 ) が 成 立 す る 可 能
性 があ るの で要 件の 有無 を検 討す る。
( 2)ま ず 、 抵 当 権 設 定 者 は 他 人 の 事 務 処 理 者 か 。
- 119 -
● 他人 の事 務を 処理 する 者
思 う に 、抵 当 権 設 定者 は 抵 当 権者 に 抵 当 権の 登 記
を 得さ せる とい う事 務を 処理 する 者で ある 。
こ こ に 、必 要 書 類 を全 て 手 渡 して い る 場 合も 事 務 * 事実 認定 の仕 方を 学ぶ
処 理 者 と いえ る か 問 題と な る 。 しか し 、 こ の者 も 抵
当 権 者 の 抵当 権 登 記 の取 得 を 妨 害し な い と いう 消 極
的 義務 を負 うと いう べき であ る。
し た が って 、 い ず れに せ よ 抵 当権 設 定 者 は「 他 人
の 事務 を処 理す る者 」に あた る。
2 、 さ ら に、 自 己 な り、 他 の 抵 当権 者 の 利 益を 図 る ● 図利 加害 目的
意 図あ る以 上、 図利 加害 目的 は認 めら れる 。
そ し て 、甲 は 抵 当 権登 記 を 得 させ る こ と を妨 害 し ● 任務 違背 行為 の有 無
な い義 務に 反す る行 為を なし てい る。
さ ら に 、一 番 抵 当 と 二 番 抵 当 で は 価 値 が 違 う か ら 、 ● 財 産 上 の 損 害
A に つ い て財 産 上 の 損害 も 認 め られ る と い うべ き で
あ る。
丁寧に各要件事実に当たる事実
が ある かを 認定
し た が っ て 、 甲 は 背 任 罪 ( 247 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
二 、乙 の罪 責に つい て
( 1)乙 が 悪 意 の 場 合 、 乙 は 甲 の 犯 罪 に 加 担 す る 者 と し
て 、 背 任 罪 の 共 犯 ( 60 条 ・ 61 条 ・ 62 条 ) の 罪 責 を 負
わ ない か。
( 2)思 う に 、 刑 法 の 謙 抑 性 の 観 点 か ら 、 民 法 上 有 効 に
権 利 を 取 得で き る 場 合は 、 そ の 者を 処 罰 す べき で な
い。
し た が って 、 事 情 につ い て 単 純悪 意 の 場 合、 抵 当
権 設 定 を 受 け た 者 は 共 犯 に な ら な い 。 民 法 177 条 の
第 三 者 は 、悪 意 の 権 利者 も 含 ま れる と 解 さ れる か ら
で ある 。
一 方 、 改め て 抵 当 権の 設 定 を 受け た 者 が 背信 的 悪
意 者 で あ る 場 合 に は 、 こ の 者 は 民 法 177 条 の 第 三 者
に あた らな い。
し た が って 、 こ の 場合 の 抵 当 権者 に は 、 犯罪 成 立
の 可能 性が ある こと にな る。
( 3)よ っ て 、 乙 は 背 信 的 悪 意 者 の 場 合 に 、 共 犯 と し て
処 罰 さ れ る可 能 性 が ある 。 乙 が 犯罪 に 関 与 した 度 合
い に よ り 、 共 同 正 犯 ( 60 条 ) に な る こ と が れ ば 、 教
唆 犯( 61 条 )、 幇 助 犯( 62 条 ) に な る 可 能 性 も あ る 。
2 、 ( 1)た だ 乙 に は 、「 他 人 の 物 の 占 有 者 」 と い う 身
分 が な い 。 そ こ で 、 乙 は 身 分 が な い 者 と し て 、 65 条 【 論 点 】 共 犯 と 身 分
に より 処理 され る。
思 う に 、 65 条 1 項 は 、「 身 分 に よ っ て 構 成 す べ き 」
- 120 -
と し て お り 、 65 条 2 項 は 「 身 分 に よ っ て 特 に 刑 の 軽
重 が あ る とき 」 と し てい る 。 こ のよ う な 文 言か ら 、
同 条 1 項は 真正 身 分犯 、同 条 2 項は 不真 正身 分犯 の
規 定で ある と解 すべ きで ある 。
そ し て 、通 常 人 か らす る と 、 業務 上 の 占 有者 た る
身 分は 真正 身分 とい うこ とに なる 。
し た が っ て 、 乙 は 65 条 1 項 か ら 、 背 任 罪 の 共 犯 の
罪 責を 負う 。
以
第 53 問
上
A
次の 各事 情の 下、 甲は いか なる 罪責 を負 うか 。
1 、 ①甲 は刑 事未 成年 であ る 乙に 対し て、 金目 の物 を盗 んで きた ら、 俺が 買っ てや るか
ら 盗ん でこ いと ②唆 し、 現実 に乙 が盗 んで きた 物を 買い 取っ た。
2 、 ③甲 は、 自分 の子 であ る 乙が 甲の 親A から 盗ん だ物 だと 考え て、 財物 を保 管し てい
た と こ ろ 、そ の 財 物 は 乙 の 友 人 丙 が 、A か ら 盗 ん だ 物 を 、警 察 な ど の 追 求 を 免 れ る た め 、
無 断で 甲家 に隠 した 物で あっ た。
基 礎 点 20 点
各論 点 1 点
① 本犯 者は 「犯 罪」 を犯 して いる 必要が ある か?
【 論点 】盗 品等 に関 する 罪の 本質
【 論点 】盗 品等 に関 する 罪の 客体
② 教唆 犯に よる 財物 の有 償譲 受け →不可 罰的 事後 行為 では ない か?
【 論点 】窃 盗教 唆犯 は盗 品等 に関 する罪 の主 体た りう るか
③ 親族 関係 につ いて の錯 誤が ある
【 論点 】親 族関 係は 犯人 と誰 との 間に必 要か
【 論点 】身 分関 係に つい ての 錯誤
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 (1)本 問 甲 は 盗 品 譲 受 け 等 の 罪 ( 256 条 2 項 ) の
罪 責を 負う 可能 性が ある 。
本罪 の 客 体 は財 産 に 対 する 罪 で 取 得さ れ た 物 で
あ る。 し か し 、本 問 盗 品 は、 刑 事 未 成年 者 乙 に よ
っ て取 得 さ れ たも の で あ る。 す な わ ち、 刑 法 上 処
- 121 -
【 論点 】盗 品等 に関 する 罪の客 体
罰 さ れ な い ( 41 条 ) 者 に よ っ て 取 得 さ れ て い る 財
物に つい ても 、本 罪の 客体 にな るのか 。
(2) 思 う に 、 本 罪 の 間 接 領 得 罪 と し て の 性 格 か ら す
【 論点 】盗 品等 に関 する 罪の本 質
る と、 本 罪 は 本権 者 の 追 求権 を 侵 害 する 罪 で あ る
とい うべ きで ある 。
とす れ ば 、 違法 な 行 為 によ っ て 取 得さ れ た 物 を
取得 すれ ば、 追求 権は 十分 侵害 できる 。
した が っ て 、構 成 要 件 に該 当 し 、 違法 な 行 為 に
よ って 取 得 さ れた 物 で あ るな ら ば 、 本罪 の 客 体 と
なる と解 する 。
( 3)乙 の 行 為 が 違 法 な 行 為 で あ る こ と は 間 違 い な い 。
し た が っ て 、乙 が 盗 ん で き た 物 も 本 罪 の 客 体 に な る 。
2 、し か し 、 本犯 者 は 本 罪の 主 体 と なら な い 。 そ
【論点】窃盗教唆犯は盗品等に関
こ で 、 甲 の よ う な 狭 義 の 共 犯 と な る 者 ( 61 条 、 62
す る罪 の主 体た りう るか
条) も本 罪の 客体 にな るの か。
思う に 、 本 犯者 の 盗 品 譲受 行 為 が 処罰 さ れ な い
の は、 本 犯 行 為の 評 価 の 中で 、 事 後 の追 求 権 の 侵
害ま で評 価さ れて いる から であ る。
しか し 、 共 犯は 、 直 接 占有 を 侵 害 する 者 で は な
く 、窃 盗 罪 と は罪 質 が か なり 違 う 。 すな わ ち 、 共
犯 行為 に よ っ て本 罪 の 違 法性 が 評 価 され て い る と
は考 えら れな い。
した が っ て 、共 犯 者 は 本罪 の 主 体 たり う る と 解
する 。
3 、以 上 か ら 、甲 の 盗 品 譲 受 行 為 は 可 罰 的 で あ る( 256
条 2 項 )。
二 、小 問2 につ いて
1 、 (1)本 問 甲 は 盗 品 等 保 管 罪 ( 256 条 2 項 ) で 処 罰
さ れる 可能 性が ある 。
しか し、甲が 保管 した 物は、甲の 親A の物 であ る。
そ こ で 、 甲 は 257 条 に よ っ て 刑 を 免 除 さ れ な い か 。
【論点】親族関係は犯人と誰との
257 条 に い う 親 族 関 係 は 、 被 害 者 、 本 犯 者 、 盗 品
間 に必 要か
罪の 犯人 のい ずれ に必 要か が問 題とな る。
(2) 257 条 に 該 当 す る 行 為 に は 犯 人 庇 護 罪 、 事 後 従
- 122 -
犯 的性 格 が 認 めら れ る 。 とす れ ば 、 この よ う な 行
為 をし な い こ とに つ い て 、親 族 に は 期待 可 能 性 が
ない 。
この 趣 旨 か ら、 親 族 等 の犯 罪 に 関 する 特 例 が 設
けら れた とい うこ とが でき る。
とす れ ば 、 親族 関 係 は 本犯 者 と 盗 品罪 の 犯 人 と
の間 にあ れば たり ると いう べき である 。
( 3)本 件 甲 と 本 犯 者 と の 間 に は 親 族 関 係 は な い か ら 、
甲 に は 257 条 は 適 用 さ れ な い こ と に な る 。
2 、 (1) し か し 、 甲 は 本 犯 者 が 自 己 の 子 供 で あ る と
【 論点 】身 分関 係に つい ての錯 誤
誤 信し て い る 。か か る 錯 誤が 甲 の 罪 責に い か な る
影響 を与 える のか 。
(2) 思 う に 、 257 条 の 法 的 性 質 は 、 一 身 的 処 罰 阻 却
事 由で あ る 。 すな わ ち 、 親族 関 係 の 不存 在 は 故 意
の内 容で はな い。
し たが って 、故 意を 阻却 しな い。
3 、 以 上 よ り 、 甲 は 盗 品 等 保 管 罪 の 罪 責 を 負 う ( 256
条 2 項)
以
上
* 盗品 等譲 受け 罪の 罪質 (長 文)
思 う に 、本 罪 の 複 雑 な 罪 質 か ら す れ ば 、本 犯 罪 の 本 質 を 一 面 的 に 捉 え る の は 妥 当 で な い 。
本罪 は 刑法 典 上財 産 罪の 一 種と さ れて い るこ と から 、 本犯 は財 産 罪に 限 定す る べき で あ
る 。た だし 、不 法 原因 給付 物や 禁制 品に 盗品 等の 性格 を認 め られ ない とい うの は不 都合 で
あ る。
した が って 、 本罪 は 財産 罪 によ っ て取 得 され た 財物 に 対す る違 法 状態 が 維持 さ れる こ と
か ら被 害者 を保 護 する ため に認 めら れる 独自 の追 求権 を侵 害 する 罪で ある と解 する 。あ わ
せ て、 盗品 等の 罪に は内 容的 に利 益関与 的・ 事後 共犯 的な 性質 も有 する とい える 。
第 3章
第 54 問
社 会的 法益 ・国 家的 法益 に対す る罪
A
① 甲 は乙 の住 んで いる 耐火 建 築マ ンシ ョン に放 火す るた めに 、② マン ショ ンと 一体 にな
っ た ゴミ 置き 場の 中に ガソ リ ンを 撒い た。 そこ で、 ③放 火を する 前に 一服 しよ うと 考え
煙 草 に火 をつ けた ら、 ガソ リ ンに 引火 し、 家に 燃え 移っ たが 、た また ま通 りか かっ た通
行 人が 瞬時 に消 し止 めた 。
甲の 罪責 を論 ぜよ 。
- 123 -
基 礎 点 19 点
各論 点 2 点
① ガソ リン を巻 いた →こ れで 実行 の着手 はあ るか が問 題
結果 が発 生し てい るか ら実 行の 着手は 関係 ない …… と思 って はい けな い
→ ここ で実 行の 着手 がな けれ ば、失 火罪 しか 甲に は成 立し ない こと にな る
【 論点 】実 行の 着手 時期
② 難燃 性マ ンシ ョン と一 体に なっ たゴミ 置き 場→ 現住 建造 物と いえ るか
【 論点 】現 住性 判断 の方 法
③ 結果 的に 甲が 放火 をし たこ とに なった が、 火を つけ るつ もり はま だな かっ た
→ 思 わ ぬ 経 緯 を 通 っ て 結 果 が 発 生、【 論 点 】 因 果 関 係 の 錯 誤
③ 瞬時 に消 し止 めら れて いる →既 遂に達 して いる か
【 論点 】放 火罪 の既 遂時 期
解 答例
一 、 1 、 (1) 本 問 甲 は ガ ソ リ ン を 撒 い て い る の は マ ン
シ ョ ン と 一体 と な っ てい る と は いえ 、 ゴ ミ 捨て 場 で
あ る。 放火 の客 体の 現住 性は 認め られ るか 。
(2) 思 う に 現 住 建 造 物 放 火 罪 が 重 い 法 定 刑 を 用 意 し
【 論点 】現 住性 判断 の方 法
て いる の は 、 人の 生 命 ・ 身体 に 危 険 が発 生 す る 可
能性 が高 い点 を考 慮し たも ので ある。
した が っ て 、そ の 現 住 性の 判 断 は 、放 火 に よ っ
て 延焼 し 、 人 の生 命 ・ 身 体に 危 険 が 発生 す る 可 能
性が ある かど うか を基 準に すべ きであ る。
(3) 以 上 を も っ て 本 件 を 検 討 す る に 、 耐 火 建 築 マ ン
シ ョン と は い え、 火 の 粉 があ が り 、 窓な ど か ら 住
居 の部 分 に 燃 え移 る こ と があ り え な いわ け で は な
い。
した が っ て 、そ の 本 件 ゴミ 捨 て 場 は、 そ の 現 住
性を 肯定 して よい 。
2 、 (1)次 に 、 甲 は ガ ソ リ ン を 捲 い て い る だ け で あ る
が 、 か か る 行 為 あ れ ば 、 現 住 建 造 物 放 火 罪 ( 108 条 )
の 実行 の着 手あ りと いえ るか 。
(2) 思 う に 、 放 火 罪 の 実 行 の 着 手 時 期 は 、 焼 損 の 結
果へ の現 実的 な危 険が 発生 する 時点で ある 。
この よ う な 危険 性 が 認 めら れ れ ば 、実 行 の 着 手
- 124 -
【 論点 】実 行の 着手 時期
が ある か ら 、 媒介 物 を 利 用す る 場 合 も含 ま れ る と
いう べき であ る。
( 3)本 問 の 場 合 を 検 討 す る に 、 ガ ソ リ ン は 引 火 し や す
い 。 そ の よう な 事 情 を考 え る と 、ガ ソ リ ン を撒 く だ
け で 、 焼 損の 結 果 へ の現 実 的 な 危険 は 発 生 する と い
う べき であ る。
し た が って 、 ガ ソ リン を 撒 く 行為 は 、 放 火罪 の 実
行 の着 手あ る場 合と いえ る。
3 、 そ の 上で 、 建 物 に火 が 燃 え 移っ て い る が、 そ の
火 は瞬 時に 消し 止め られ てい る。
放 火 罪 は 焼 損 時 に 既 遂 に 達 す る が 、「 焼 損 」 の
【 論点 】放 火罪 の既 遂時 期
具体 的内 容が 明ら かで なく 問題 となる 。
思 うに 、未 遂の な い失 火罪 では 、既 遂時 期 を早 い
時 期に 認 め る べき で あ る 。こ れ と 他 の放 火 罪 の 既
遂 時期 は 統 一 的に 把 握 す べき で あ る 。ま た 、 放 火
罪 は抽 象 的 危 険犯 で あ る 。か か る 抽 象的 な 公 共 の
危 険は 目 的 物 が独 立 し て 燃焼 を 開 始 した 時 点 で 発
生す る。
し た が っ て 、「 焼 損 」 と は 火 が 媒 介 物 を 離 れ 、 独
立 に燃 焼 を 継 続す る 状 態 に達 し た こ とを 指 す と 解
する 。
本 問 の 場合 、 目 的 物は 独 立 に 燃焼 を 始 め てい る か
ら 、放 火罪 は既 遂に なっ てい ると いえ る。
二 、 1 、 しか し 、 本 件既 遂 の 結 果は 、 甲 の 意図 し な
い 過 程 を 通じ て 発 生 して い る 。 そこ で 、 因 果関 係 の
錯 誤が 問題 とな る。
2 、 (1) 思 う に 、 構 成 要 件 に 該 当 す る 客 観 的 事 実 を
認 識し た 場 合 、規 範 の 問 題が 与 え ら れ、 違 法 性 の
意 識を 喚 起 す るこ と が 可 能と な る 。 にも か か わ ら
ず 、あ え て 犯 罪事 実 を 実 現す る 点 に 故意 犯 が 重 く
処罰 され る理 由が ある とい うべ きであ る。
とす れ ば 、 犯罪 事 実 は 構成 要 件 に よっ て 与 え ら
れ る以 上 、 構 成要 件 に 該 当す る 事 実 さえ 認 識 し て
いれ ば、 十分 故意 責任 を問 いう る。
した が っ て 、認 識 し た 内容 と 発 生 した 事 実 が お
よ そ構 成 要 件 の範 囲 内 で 符合 し て い れば 故 意 が あ
- 125 -
【 論点 】因 果関 係の 錯誤
ると いえ る。
(2) そ し て 、 因 果 関 係 は 客 観 的 構 成 要 件 に 該 当 す る
事 実で あ る か ら、 因 果 関 係の 錯 誤 も 事実 の 錯 誤 の
問題 とし て捉 える べき であ る。
この 場 合 、 事実 と 行 為 者の 認 識 し た事 実 が 構 成
要 件の 範 囲 内 で符 合 し て いれ ば 故 意 責任 を 問 い う
ると 解す る。
具体 的 に は 、事 前 に 予 見し た 内 容 と実 際 に 進 行
し た結 果 と の 不一 致 が い ずれ も 相 当 因果 関 係 の 範
囲 内に あ る 限 り、 故 意 を 阻却 し な い とい う べ き で
ある 。
3 、 本 問 を検 討 す る と、 ガ ソ リ ンの 撒 か れ た状 態 で
火 を つ け るこ と で 、 建物 が 焼 損 する 結 果 が 発生 す る
こ とは 相当 因果 関係 内の 事情 と言 って よい 。
ま た 、 具体 的 に 火 をつ け て 焼 損の 結 果 を 発生 さ せ
る こと もま た、 相当 因果 関係 の範 囲に ある 。
し た が って 、 事 実 と甲 の 内 心 は構 成 要 件 内で 符 合
す る 。 し たが っ て 、 甲の 故 意 は 阻却 さ れ ず 、甲 は 現
住 建 造 物 放 火 罪 ( 108 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
以
第 55 問
上
B
① 甲 は 自 己 の 所 有 す る 家 を 大 掃 除 し 、出 て き た ゴ ミ を 焼 却 す る た め に 、ゴ ミ を 積 み 上 げ 、
火 を つけ た。 ②甲 の家 の庭 は 狭く 、急 に風 が強 くな った 上に 、た き火 の炎 はい つの まに
か 2 ~3 メー ター にな り、 今 にも 隣家 に燃 え移 らん とす るば かり であ った 。し かし 、③
甲 は 火を つけ た直 後か ら何 の 危険 もな いで あろ うと 考え てい たの で、 外に 買い 物に 行っ
て いた 。
甲の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
① 自己 物に 火を つけ てい るの み→ 本来は 不可 罰
② 公共 の危 険が 発生 して いる →し かし③ 認識 がな い
【 論点 】公 共の 危険 の意 義
【 論点 】公 共の 危険 の認 識の 要否
解 答例
- 126 -
一 、 甲 は 自己 物 に 火 をつ け て い るか ら 、 甲 には 自 己
物 に 対 す る 建 造 物 等 以 外 放 火 罪 ( 110 条 2 項 ) が 成 立
す る可 能性 があ る。
本罪 の 成 立 には 、 公 共 の危 険 の 発 生が 要 件 と さ
【 論点 】公 共の 危険 の意 義
れる 。
公共 の 危 険 とは 、 一 般 の不 特 定 多 数人 が 、 延 焼
に よる 生 命 ・ 身体 ・ 財 産 への 危 害 の 発生 を 感 じ る
に相 当の 理由 があ る状 態を いう 。
した が っ て 、危 険 性 発 生の 判 断 に つい て は 、 当
該具 体的 状況 に置 ける 一般 人の 判断を 基準 とし て、
客観 的に 行わ なけ れば なら ない 。
本 問 で は、 風 が 強 く、 甲 の 家 の庭 は 狭 く 、火 は 今
に も隣 家に 燃え うつ らん とす るば かり であ った から、
公 共の 危険 は発 生し てい ると 言っ てよ い。
二 、1 、 し か し、 本 問 甲 は、 公 共 の 危険 の 発 生 を
認 識し て い な い。 本 罪 の 成立 の た め 、行 為 者 は 危
険を 認識 する 必要 があ るか 。
2 、こ の 点 、 判例 は 本 罪 を結 果 的 加 重犯 と 捉 え 、
重 い結 果 に つ いて の 認 識 を不 要 と す る。 し か し 、
基 本犯 た る 器 物損 壊 罪 と 放火 罪 と は 保護 法 益 が 大
き く異 な る か ら、 後 者 を 前者 の 加 重 形態 と す る の
は無 理が ある 。
思 うに 、公 共の 危 険は 構成 要件 に該 当す る 事実 と
いう べき であ る。
し たが って 、本 罪 の成 立に は、 公共 の危 険 の発 生
を行 為者 が認 識す る必 要が ある という べき であ る。
そし て、 公 共の 危険 の発 生の 認識 とは 、 公共 の
危 険の 発 生 の 予見 は あ る が、 延 焼 の 具体 的 認 識 を
欠 いて い る 心 理的 状 態 を さす 。 延 焼 罪の 故 意 と の
区別 のた めで ある 。
3、本問 甲は公 共の 危険 の発 生の 認識 を欠 いて いる。
し たが って 、不 可罰 であ る。
以
- 127 -
上
【 論点 】公 共の 危険 の認 識の要 否
第 56 問
A
甲 は① K私 大の 卒業 証書 を Aか ら借 り受 け、 ②A の名 前の 上に 自己 の名 を書 いた 紙を
挟 ん だ上 で、 ③当 該卒 業証 書 を写 真コ ピー 機で コピ ーし 、あ たか も甲 の卒 業を 証す る証
書 が存 在す るか のよ うな コピ ーを 一通 作成 した 。
甲の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 20 点
各論 点 1 点
① 私文 書、 事実 証明 に関 する 文書
② ③名 前を 書き 直せ ば変 造→ しか し、直 接卒 業証 書を 書き 直し てい るわ けで はな い。
コピ ーの 作成 は偽 造に も変 造に もなら ない のか ?
【 論点 】偽 造の 意義
【 論点 】作 成者 の意 義
【 論点 】名 義人 の判 断基 準
【 論点 】事 実証 明に 関す る文 書と は
【 論点 】写 真コ ピー と偽 造
解 答例
一、1、 まず、甲 は卒 業証書 をコ ピー して いる から、
私 文書 偽造 ・変 造に 関す る罪 を負 う可 能性 があ る。
私 文 書 偽 造 罪 ( 159 条 ) に お け る 「 事 実 証 明 に
関 する 文 書 」 とは 、 争 い ある も 、 実 生活 に 交 渉 を
【論点】事実証明に関する文書と
は
有す る事 実を 証明 する にた りる 文書を 指す 。
卒業 証書 がか かる 要件 を満 たす こと は問 題な い。
2 、し か し 、 写真 コ ピ ー の作 成 が 、 偽造 文 書 の 作
成 とい え る か 。文 書 偽 造 行為 は 原 本 の作 成 行 為 に
限ら れる か否 かが 問題 とな る。
本来 、 写 し は、 写 し の 作成 者 に よ る原 本 内 容 の
変更 を伴 う可 能性 があ るか ら、 原本た り得 ない 。
し かし 、そ の写 し に原 本と 同様 の社 会的 機 能と 信
用 性が あ る 場 合、 写 し も 本罪 の 客 体 とし う る と い
うべ きで ある 。
そし て、 写 しと して の写 真コ ピ ーは 、原 本と 寸分 違
わ な い 体 裁・ 内 容 を 備え る も の とし て 信 用 性が 高 め
ら れ、 各種 証明 など に利 用さ れて いる 。
- 128 -
【 論点 】写 真コ ピー と偽 造
した がっ て 、写 真コ ピー は文 書 偽造 罪の 文書 にあ た
る とい うべ きで ある 。
二 、 1 、 次に 写 真 コ ピー は 偽 造 とい え る か を判 断 す
る 必要 があ る。
ま ず 、「 偽 造 」( 154 条 以 下 ) の 意 義 が 明 ら か で
【 論点 】偽 造の 意義
なく 問題 とな る。
思う に 、 文 書偽 造 罪 の 保護 法 益 た る文 書 に 対 す
る 公共 の 信 用 は、 作 成 権 者に よ っ て 真実 そ の 文 書
が作 成さ れた かに 向け られ る。
すな わ ち 、 内容 的 に は 真実 で あ っ ても 、 作 成 者
の 意思 に 反 し て名 義 を 冒 用す る 行 為 は禁 止 す る 必
要性 があ る。
した が っ て 、偽 造 と は 名義 人 を 偽 るこ と 、 す な
わ ち有 形 偽 造 を指 す と い うべ き で あ る。 そ う す る
と 、名 義 人 と 文章 作 成 者 が不 一 致 を きた す 文 書 が
偽造 文書 とい うこ とに なる 。
2 、 (1)と す る と 、 偽 造 の 有 無 の 判 定 の た め 、 作 成 者
の 意義 、及 び名 義人 の意 義が 問題 とな る。
まず 、 文 書 を作 成 さ せ た意 思 の 主 体を 作 成 者 と
【 論点 】作 成者 の意 義
い うべ き で あ る。 な ぜ な ら、 現 実 に 文書 を 作 る 者
と 文書 の 名 義 人は 異 な る こと は い く らで も あ る か
らで ある 。
( 2)さ ら に 、 名 義 人 の 判 断 基 準 に つ い て 検 討 す る 。
思う に 、 文 書偽 造 罪 の 保護 法 益 は 文書 に 対 す る
一般 人の 信用 であ る。
とす れ ば 、 名義 人 が 誰 にあ た る か につ い て は 、
一 般人 が そ の 文書 を 見 て 誰が 名 義 人 と考 え る か に
よっ て判 断す るの が妥 当で ある 。
3 、以 上を もっ て、 本問 にあ ては める 。
ま ず 、 写真 コ ピ ー には 、 原 本 を見 た 場 合 と同 様 の
信 用 性 が ある か ら 、 一般 人 は 名 義人 を 原 本 の名 義 人
と 同様 に考 える であ ろう 。
し た が って 、 写 真 コピ ー の 名 義人 は 原 本 の名 義 人
と いう べき であ る。
- 129 -
【 論点 】名 義人 の判 断基 準
かか るコ ピー を作 出し たの は名 義人 では ない から、
名 義 人 と 作成 者 と の 不一 致 は 発 生し て い る 。も っ と
も 、 本 事 例で は 非 本 質的 部 分 に 改ざ ん が 加 えら れ た
に す ぎ な い。 し か し 、原 本 と 別 個の 文 章 を 作り 出 さ
れ てい るか ら、 やは り偽 造と いう べき であ る。
三 、 最 後 にコ ピ ー に 複写 さ れ た 印章 ・ 署 名 は、 原 本 ● 有印 文書 か否 か
作 成名 義人 の印 章と 見る べき であ る。
→法 定刑 も変 わる !
な ぜ な ら、 写 真 コ ピー が 原 本 と同 一 の 意 識内 容 を
保 有し てい るか らで ある 。
以 上 か ら 、甲 は 有 印 私 文 書 偽 造 罪 の 罪 責 を 負 う( 159
条 1 項 )。
以
上
* 参考
【 論点 】テ レホ ンカ ード の有 価証 券性
テレ ホン カー ドは 有価 証券 か。
有価 証券 は 従来 文書 の一 種と 解さ れる 。し かし テレ ホン カ ード は可 読性 のな い磁 気情 報
部 分に 本質 があ るか ら、 有価 証券 とはい えな いと もみ うる 。
し か し 、か よ う に 解 す る の は テ レ ホ ン カ ー ド の も つ 社 会 的 存 在 性 を 無 視 す る も の で あ り 、
妥 当で ない 。
思う に 、テ レ ホン カ ード の 券面 上 の記 載 と磁 気 情報 部 分を 一体 と して み れば 、 そこ に は
電 話の 役務 の提 供を 受け る財 産上 の権利 が証 券上 に表 示さ れて いる と認 めら れる 。
かつ 有 価証 券 とい う には 、 権利 の 行使 に その 占 有が 必 要で ある が 、テ レ ホン カ ード は こ
れ を電 話機 に挿 入す るこ とに よっ て使用 する もの であ る。
し たが って 、テ レホ ンカ ード は有 価証 券に あた ると する のが 相当 であ る。
第 57 問
A
次の 各問 いに おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、① 甲は 架空 人名 義の ②契 約書 を作 成し た。
2 、 ③ 甲 は A か ら 権 限 を 与 え ら れ て い な い に も 関 わ ら ず 、「 A 代 理 人 甲 」 の 名 義 で 、 契
約 書を 作成 した 。
3 、 甲は 、④ 同姓 同名 の弁 護 士が いる こと を利 用し て、 弁護 士甲 名義 の⑤ 報酬 請求 書を
一 通作 成し た。
基 礎 点 21 点
各論 点 1 点
① 架空 人名 義の 契約 書の 作成 →他 人の名 前を 勝手 に使 った …… とは ちょ っと 違う が?
【 論点 】名 義人 の意 義
【 論点 】架 空人 名義 と偽 造
② 契約 書→ 権利 ・義 務に 関す る文 書
- 130 -
③ 無権 限で 代理 人名 義の 文書 を作 成
【 論点 】代 理名 義の 冒用
④ 名前 は間 違え な く甲 →名 義を 冒用 して いる ので はな く、 肩 書に つい てう そを つい てい る
だ けで はな いか ?
【 論点 】資 格・ 肩書 の冒 用
⑤ 報酬 請求 書→ 権利 ・義 務に 関す る文書
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、本 問 契 約 書の よ う に 、名 義 人 の 存在 し な い 文
【 論点 】架 空人 名義 と偽 造
書 は 、 私 文 書 偽 造 罪 ( 159 条 ) に お け る 偽 造 文 書
とい える か。
2 、思 う に 、 名義 人 が 不 存在 で あ っ ても 、 文 書 に
対 する 公 共 の 信頼 が 害 さ れる こ と に は変 わ り が な
い。
した が っ て 、架 空 人 名 義の 文 書 作 成は 、 偽 造 に
あた ると 解す る。
3 、 以 上 から 、 甲 は 他の 要 件 を 満た せ ば 、 私文 書 偽
造 罪 ( 159 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
二 、小 問2 につ いて
1 、本 問 甲 の よう に 、 代 理権 限 が な いの に 代 理 人
【 論点 】代 理名 義の 冒用
と して 署 名 し た者 は 、 い かな る 罪 責 を負 う か 。 そ
【 論点 】名 義人 の意 義
の 判断 の た め 、名 義 人 の 判断 基 準 に つい て 検 討 す
る。
2 、思 う に 、 文書 偽 造 罪 の保 護 法 益 は文 書 に 対 す
る一 般人 の信 用で ある 。
とす れ ば 、 名義 人 が 誰 にあ た る か につ い て は 、
一 般人 が そ の 文書 を 見 て 誰が 名 義 人 と考 え る か に
よっ て判 断す るの が妥 当で ある 。
3 、 以 上 をも っ て 本 事例 に 当 て はめ る と 、 代理 の 効
果 は 甲 に 帰属 す る 。 とす れ ば 、 文書 を 見 た 者は 甲 を
名 義人 と考 える とい える 。
し た が って 、 本 文 書の 名 義 人 は甲 と い う べき で あ
る。
と す る と、 作 成 者 がA で あ る 以上 、 当 該 文書 に は
- 131 -
名 義人 と作 成者 の不 一致 が見 られ る。
し た が って 、 代 理 名義 の 冒 用 行為 は 文 書 偽造 行 為
に あた る。
三 、小 問3 につ いて
1 、 本 問 甲 に は 私 文 書 偽 造 罪 ( 159 条 ) が 成 立 す る
可 能 性 が ある 。 し か し、 こ の 場 合の 甲 は 名 義を 偽 っ
て いる とい える か。
2 、 前 小 問で 述 べ た とお り 、 名 義人 の 判 断 は、 一 般
人 を基 準と して 判断 すべ きで ある 。
その 上 で 、 肩書 の 冒 用 につ い て 検 討す る に 、 肩
【 論点 】資 格・ 肩書 の冒 用
書 きを 付 し た 文書 作 成 行 為が 当 然 に 偽造 行 為 と な
る わけ で は な い。 作 成 名 義人 と 作 成 者の 間 に 人 格
的同 一性 が認 めら れる こと が通 常だか らで ある 。
しか し 、 肩 書を 付 す と 別人 格 に な ると こ と が 明
ら かな 場 合 は 偽造 罪 と な る。 こ の 場 合、 文 書 に 対
する 一般 人の 信用 を害 する から である 。
上の よ う な 事情 が あ る か否 か は 、 肩書 の 内 容 、
文書 の性 質な どの 事情 から 総合 的に決 せら れる 。
3 、 以 上 をも っ て 本 問に あ て は める と 、 甲 は弁 護 士
と 名 乗 り 、か つ 弁 護 士し か 作 成 でき な い 文 書を 作 成
し てい る。
と す る と、 一 般 人 は、 そ の 文 書の 名 義 人 を弁 護 士
で あ る 甲 と考 え る と 思わ れ る 。 そし て 、 作 成者 は 弁
護 士 で な い甲 で あ る から 、 作 成 者と 名 義 人 の間 に 齟
齬 が生 じて いる 。
し た が っ て 、 甲 は 私 文 書 偽 造 罪 ( 159 条 ) の 罪 責
を 負う 。
以
第 58 問
上
B
次の 各場 合に おけ る甲 の罪 責を 論ぜ よ。
1 、 ①甲 は自 動車 のス ピー ド 違反 で捕 まっ た際 、交 通反 則切 符中 の供 述書 に、 ②事 前に
承 諾を 得て おい た友 人の 名を 書き 込ん だ。
2 、 ③甲 は乙 から 替え 玉入 試 の委 託を 受け て、 ④甲 大学 の試 験問 題に 対す る解 答を 乙名
義 で一 通作 成し た。
- 132 -
基 礎 点 19 点
各論 点 2 点
あて はめ 各小 問1 点ず つ
① 交通 反則 切符 の供 述書
→交 通違 反を した 人自 身の 供述 書=私 文書 、事 実証 明に 関す る文 書
② ただ し、 承諾 を得 て他 人の 名で 供述す るこ とが でき るわ けが ない
∵交 通違 反を した その 人の 供述 を求め るも のだ から
承諾 があ って も他 人の 名義 を使 用して はい けな い
③ 委託 を受 けて →名 義使 用の 承諾 も当然 含ま れて いる が… …
④ 試験 問題 に対 する 解答 →学 力と いう事 実証 明に かか る文 書
【 論点 】事 実証 明に 関す る文 書と は
【 論点 】名 義人 の承 諾あ る場 合
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 交通 反 則 切 符中 の 供 述 書に 、 友 人 の名 を 書
き 込ん でい る。
交 通 反 則切 符 は ス ピー ド 違 反 の事 実 を 証 明す る 、
事 実 証 明 にか か る 文 書で あ る 。 そこ で 、 甲 は私 文 書
偽 造 罪 ( 159 条 ) の 罪 責 を 負 う 可 能 性 が あ る 。
しか し 、 甲 は事 前 に 友 人に そ の 名 義使 用 の 承 諾
【 論点 】名 義人 の承 諾あ る場合
を 得て い る 。 かよ う に 名 義人 の 名 義 使用 の 承 諾 が
あ る 場 合 、 こ れ を「 偽 造 」 と い う こ と が で き る か 。
2 、こ の 点 、 名義 人 の 名 義使 用 の 承 諾が あ る 場 合
は 、名 義 の 冒 用と は い え ず、 真 正 文 書と な る の が
原則 であ る。
しか し 、 文 書の 性 質 上 、そ の 名 義 人自 身 に よ る
作 成だ け が 予 定さ れ て い る文 書 に つ いて は 、 別 に
考え る必 要が ある 。
この よ う な 文書 で は 、 名義 人 と 作 成者 が 同 一 で
な いと 、 名 義 人と 作 成 者 の齟 齬 が 発 生し 、 一 般 人
の 信用 を 害 す るこ と に な る。 作 成 者 と名 義 人 の 同
一性 が著 しく 要求 され る場 合だ からで ある 。
した が っ て 、こ の よ う な場 合 は 、 名義 使 用 の 承
諾 があ っ て も 、不 真 正 文 書と な る と いう べ き で あ
る。
3 、 以 上 をも っ て 本 問に あ て は める に 、 供 述書 は 公 ● あて はめ
の 手続 に用 いら れる とい う特 殊な 性格 を持 って いる。
し かも 反則 制度 では 簡易 迅速 な手 続が 要求 され る。
- 133 -
す な わ ち、 交 通 反 則切 符 中 の 供述 書 は 、 名義 人 自
身 に よ る 作成 だ け が 予定 さ れ て いる 文 書 に あた る と
い うべ きで ある 。
以 上 か ら 、 甲 は 私 文 書 偽 造 罪 ( 159 条 ) の 罪 責 を
負 う。
二 、小 問2 につ いて
1 、 本 問 甲の よ う な 替え 玉 受 験 行為 は 、 文 書偽 造 罪
に あ た る 可能 性 が あ る。 ま ず 、 解答 用 紙 が 「事 実 証
明 に 関 す る 文 書 」( 159 条 ) に あ た る か 。
2 、 (1) 思 う に 、 解 答 用 紙 は 採 点 さ れ る こ と で 志 願
【論点】試験の解答用紙は事実証
者の 学力 を示 す資 料と なる 。
明 に関 する 文書 とは
した が っ て 、志 願 者 の 学力 の 証 明 に関 す る 文 書
と して 、 解 答 用紙 は 「 事 実証 明 に 関 する 文 書 」 に
あた ると いう べき であ る。
( 2)さ ら に 、 承 諾 が あ る の に 偽 造 と い え る か 。
● あて はめ
思 う に 、答 案 は 志 願者 の 学 力 を図 る も の であ る か
ら 、 性 質 上名 義 人 自 身の み に よ る作 成 が 予 定さ れ て
い る文 書と いう べき であ る。
3 、 し た がっ て 、 名 義使 用 の 承 諾が あ っ て も、 替 え
玉 受 験 行 為 は 文 書 偽 造 罪 ( 159 条 ) を 構 成 す る と い
う べき であ る。
以
第 59 問
上
B
1 、 ①公 務員 の身 分を 有し な い甲 は、 日本 にお いて 兵役 に服 した こと がな いな どの ②虚
偽 の 事項 を記 載し た証 明願 い を村 役場 の係 員に 提出 し、 情を 知ら ない 係員 乙に 、③ 村長
名 義の 証明 書を 作成 させ た。 甲の 罪責 を論 ぜよ 。
2 、1 の事 例で 、甲 乙が 通謀 して 虚偽 の公 文書 を作 成し た場 合の 乙の 罪責 を論 ぜよ。
3 、 ④甲 は自 分の 名前 が書 か れた 偽造 の運 転免 許証 を⑤ 携帯 して 、車 を運 転し た。 当該
行 為は 偽造 公文 書の 行使 にあ たる か。
基 礎 点 21 点
各論 点 2 点
① 公務 員の 身分 なし →虚 偽公 文書 作成罪 を犯 すこ とは でき ない ので はな いか
② 虚偽 の事 項を …… 虚偽 公文 書を 公務員 に作 成さ せる ため の手 段
③ 村長 名義 の証 明書 →名 義の 冒用 はなく 、偽 造で はな い
- 134 -
【 論点 】虚 偽公 文書 作成 罪の 間接 正犯
④ 運転 免許 証→ 名義 人は 公安 委員 会
⑤ 免許 証を 携帯 し て車 を運 転→ 免許 証を 行使 とい える か? 一 般人 から すれ ばい って よい と
も 思え るが ?
【 論点 】偽 造の 運転 免許 証と 行使
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 本 問 甲は 役 場 の 係員 を 利 用 して 、 虚 偽 内容 の 公
文 書を 作成 させ てい る。
しか し 、 甲 は公 務 員 た る身 分 が な いか ら 、 そ れ
で も 、 甲 に 虚 偽 公 文 書 作 成 罪 ( 156 条 ) が 成 立 す
【論点】虚偽公文書作成罪の間接
正犯
るか 。
2 、ま ず 、 一 般的 に い う と、 非 身 分 者も 身 分 者 を
道具 とし て利 用す るこ とで 法益 を侵害 でき る。
した が っ て 、身 分 な く とも 、 身 分 犯を 犯 す こ と
はで きる 。
3 、し か し 、刑 法 は 公 正 証 書 原 本 等 不 実 記 載 罪( 157
条 )を 規 定 し 、限 定 さ れ た重 要 な 公 文書 に つ い て
の間 接正 犯的 態様 を特 に軽 く処 罰して いる 。
とす る と 、 法は 、 そ の 他の 間 接 正 犯的 形 態 を 処
罰し ない 趣旨 と考 える のが 自然 である 。
よ っ て 、 157 条 に あ た ら な い 虚 偽 公 文 書 作 成 の
間接 正犯 は不 可罰 と解 する べき である 。
3 、し たが って 、甲 は無 罪で ある 。
二 、小 問2 につ いて
本 件 乙 は公 務 員 た る身 分 は あ るが 、 証 明 書の 作 成 ● 補 助 公 務 員 が 虚 偽 公 文 書 を 作 成
名 義 人 で はな い 。 と すれ ば 、 乙 はや は り 前 段甲 と 同 さ せた 場合
様 、無 罪に なる かに みえ る。
し か し 、乙 は 日 常 業務 と し て 、本 件 証 明 書の 起 案
を 担 当 す る者 で あ る とい え よ う 。と す れ ば 、乙 は 本
件 証 明 書 を 作 成 す る 事 実 上 の 作 成 権 限 が 与 え ら れ た * こ の と き の 甲 は 、 65 条 1 項 に よ
者 とみ るべ きで ある 。
って、共犯としての罪責を負う。
し た が っ て 、乙 は 虚 偽 公 文 書 作 成 罪 の 罪 責 を 負 う 。 共 同 正 犯 に な る 可 能 性 が 高 い 。
三 、小 問3 につ いて
1 、 本 問 で は 、 偽 造 公 文 書 行 使 罪 ( 158 条 1 項 ) に
- 135 -
【 論点 】偽 造の 運転 免許 証と行 使
おけ る「 行使 」の 意義 が問 題と なる。
2 、思 う に 、 本罪 の 保 護 法益 は 文 書 に対 す る 公 衆
の 信 用 で あ る 。 し た が っ て 、「 行 使 」 と い え る た
め には 、 当 該 行為 に よ っ て公 衆 の 信 用が 害 さ れ る
危険 が発 生し なけ れば なら ない 。
そ こ で 、「 行 使 」 と は 、 文 書 を 他 人 が 認 識 し う
る状 態に おく こと を指 すと 解す べきで ある 。
3 、 こ こ に、 携 帯 し てい る だ け では 、 他 人 が当 該 文
書 を認 識し うる 状態 にあ ると はい えな い。
し た が っ て 、 文 書 の 携 帯 だ け で は 、「 行 使 」 に あ
た らな い。 本問 甲の 行為 は無 罪と いう こと にな る。
以
第 60 問
上
B
1 、 甲は 、① A公 立高 校卒 業 後、 ②高 校の 校門 付近 で発 煙筒 を焚 いた り、 動物 の死 体を
お いた りし て、 嫌が らせ を行 った 。甲 の罪 責を 論ぜ よ。
2 、 警察 と銀 行が 協力 した 防 犯訓 練の 際、 ③公 務員 甲は 強盗 役と なっ たの で、 それ らし
い 格 好を した 上で 、銀 行か ら 現金 で膨 らん だか に見 える 鞄を もっ て飛 び出 した 。そ れを
見 た Aは 甲が ④本 物の 強盗 犯 人だ と考 えた ので 、こ れは 大変 だと 思い 、A は甲 に飛 びか
か り、 甲を 羽交 い締 めに した 。A に公 務執 行妨 害罪 は成 立す るか 。
基 礎 点 21 点
各論 点 1 点
② 威力 を使 った 業務 妨害
→① ただ し、 妨害 され てい るの は公立 学校 、公 務が 妨害 され てい る
【 論 点 】「 公 務 」 は 「 業 務 」 に 含 ま れ る か
③ 適法 な職 務の 執行 →た だし 、一 般人か らし たら 、強 盗に 見え ても 仕方 がな い
【 論点 】職 務の 執行 の意 義
【 論点 】公 務の 適法 性
④ 実際 にA は甲 が本 物の 強盗 犯人 だと勘 違い する
【 論点 】規 範的 構成 要件 要素 の錯 誤
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 は 発 煙 筒 を 焚 く な ど 「 威 力 」( 234 条 ) を 用 い
て 、 A 公 立高 校 の 業 務を 妨 害 し てい る 。 そ こで 、 A
- 136 -
は 業務 妨害 罪で 処罰 され ない か。
「 業務 」に 公務 が含 まれ るか が問題 とな る。
2 、思 う に 、 権力 的 公 務 につ い て は 威力 は 実 力 で
【 論 点 】「 公 務 」 は 「 業 務 」 に 含
ま れる か
排 除で き る 。 しか し 、 非 権力 的 作 用 はそ の よ う な
実 力は な い 。 とす る と 、 暴行 に い た らな い 威 力 か
ら公 務を 保護 する 必要 があ る。
しか も 、 か かる 作 用 に つい て は 私 人が 通 常 行 っ
てい るも のと 区別 する 必要 がな い。
した が っ て 、非 権 力 的 公務 は 「 業 務」 に あ た る
と解 する のが 妥当 であ る。
3 、 以 上 をも っ て 本 問を 判 断 す ると 、 甲 公 立高 校 の
行 う業 務は 非権 力的 公務 にあ たる 。
し た が っ て 、 A に は 業 務 妨 害 罪 ( 234 条 ) が 成 立
す ると 解す る。
二 、小 問2 につ いて
1 、 甲 は 公務 員 で あ り、 防 犯 訓 練中 で あ っ たに も 関
わ らず、Aがか かる 甲の 職務 の遂 行を 妨害 して いる。
そ こ で 、 A に は 公 務 執 行 妨 害 罪 ( 95 条 1 項 ) が 成 立
す る可 能性 があ る。
ま ず 、 強盗 犯 人 役 とし て 逃 げ る甲 は 職 務 執行 中 の
公 務員 とい える か。
95 条 は 公 務 員 を 特 別 に 保 護 す る 規 定 で は な い 。
【 論点 】職 務の 執行 の意 義
公 務の 適 正 な 執行 を 保 護 する こ と を その 趣 旨 と す
*この点はもう少し短く論述して
る。
よい
とす れ ば 、 職務 執 行 に あた る 公 務 員と は 、 現 実
に 執行 中 の 者 に限 ら な い 。加 え て 、 職務 開 始 直 前
の 執務 を な す 者及 び 、 職 務と 密 接 な 関連 を 有 す る
待機 状態 にあ る者 も含 むと いう べきで ある 。
本 問 甲 は防 犯 訓 練 中で あ る か ら、 職 務 執 行中 の 公
務 員と いっ てよ い。
2 、 (1)し か し 、 A は 甲 の こ と を 強 盗 犯 人 だ と 考 え て
い る 。 か かる 錯 誤 の 犯罪 成 立 へ の影 響 を 判 断す る た
め 、 職 務 の適 法 性 は 犯罪 成 立 要 件と い え る かが 問 題
と なる 。
この 点 、 条 文で は 公 務 の適 法 性 は 要求 さ れ て い
- 137 -
【 論点 】公 務の 適法 性と 判断基 準
ない 。
しか し 、 前 述の 通 り 、 本条 の 趣 旨 は公 務 員 の 身
分 ・地 位 を 保 護す る こ と にあ る の で はな く 、 公 務
の適 正な 執行 を保 護す る点 にあ る。
そし て 、 違 法な 公 務 を 保護 し て も 公務 の 適 正 な
執 行を 保 護 す ると は い え ない 。 し た がっ て 、 職 務
は 適法 な も の でな け れ ば なら な い 。 職務 の 適 法 性
は記 述さ れざ る構 成要 件要 素と いうべ きで ある 。
ただ し 、 違 法な 公 務 と いえ ど も 、 軽微 な 違 法 性
を 有す る に 過 ぎな い 公 務 は、 保 護 さ れる べ き で あ
る 。職 務 の 円 滑な 執 行 と いう 利 益 を 確保 す る 必 要
があ るか らで ある 。
そこ で 、 保 護さ れ る 公 務か 否 か の 判断 基 準 が 必
● 判断 基準
要 であ る 。 具 体的 に は 、 ①一 般 的 ・ 抽象 的 職 務 権
限 に属 す る こ と② 具 体 的 職務 権 限 に 属す る こ と ③
法 律上 の 重 要 な条 件 ・ 方 式を 履 践 し てい る こ と が
要求 され ると いう べき であ る。
(2)問 題 は 、 か か る 適 法 性 の 判 断 方 法 で あ る 。
かか る 要 件 は規 範 的 構 成要 件 要 素 であ る か ら 、
その 判断 を一 般人 が正 確に なす ことは 困難 であ る。
ま た、 国 民 の 人権 保 障 の 観点 か ら 、 判断 を 恣 意 に
陥 らせ な い 必 要も あ る 。 した が っ て 、裁 判 所 が 法
令を 解釈 して 客観 的に 判断 すべ きであ る。
また 、 適 正 な手 続 を 踏 んで 、 行 為 時に 適 法 で あ
っ た行 為 は 、 公務 の 円 滑 な執 行 の 観 点か ら ひ と ま
ず 保護 す る 必 要性 が あ る 。し た が っ て、 適 法 性 は
行為 時の 状況 を基 礎に 判断 すべ きであ る。
( 3) 以 上 を も っ て 本 問 甲 の 行 為 の 適 法 性 を 判 断 す る
と 、 甲 は 防犯 訓 練 中 であ る か ら 、そ の 適 法 性に つ い
て 疑い の余 地は ない 。
3 、 (1)2 を 前 提 と す る と 、 本 問 A は 、 不 適 法 な 公 務
だ と 考 え て、 暴 行 を 行っ て 公 務 を妨 害 し て おり 、 構
成 要 件 要 素に つ い て の認 識 が 欠 缺し て い る 。と す れ
ば 、 A に つい て は 事 実の 錯 誤 と して 故 意 が 阻却 さ れ
る よう にみ える 。
し か し 、行 為 者 が 軽率 に も 公 務が 適 法 で ない と 思
い こ ん で 暴行 ・ 脅 迫 を加 え た 場 合ま で 公 務 が保 護 さ
れ ない とす るの は不 当で ある 。
- 138 -
● 適法 性の 判断 基準
公務 員? 一般 人? 裁判 所?
ここ に 、 職 務の 適 法 性 は、 規 範 的 構成 要 件 要 素
に あた る 。 規 範的 構 成 要 件要 素 と は 、そ の 存 否 に
【 論点 】規 範的 構成 要件 要素の 錯
誤
つ いて 裁 判 官 の規 範 的 ・ 評価 的 な 価 値判 断 を 有 す
る構 成要 件要 素を いう 。
その 有 無 が 裁判 所 に よ って 判 断 さ れる 規 範 的 構
成 要件 要 素 に つい て は 、 どの 程 度 の 認識 が あ れ ば
故意 があ ると いえ るか 。
(2) 思 う に 、 規 範 的 構 成 要 件 要 素 も 構 成 要 件 の 要 素
で ある 以 上 、 行為 者 に 故 意責 任 を 問 いう る に は そ
の 認識 が 必 要 であ る 。 し かし 、 そ の 内容 に つ い て
の正 確な 認識 を素 人に 求め るこ とは不 可能 であ る。
思う に 、 一 般人 と し て の社 会 常 識 に照 ら し て 通
常 知り う る 範 囲で そ の 法 的意 味 を 認 識し て い れ ば
違 法性 の 意 識 が喚 起 で き る。 し た が って 、 そ の 程
度 の認 識 が あ れば 、 故 意 責任 を 問 う こと が 可 能 で
ある とい うべ きで ある 。
( 3)以 上 を も っ て 本 問 に つ い て 検 討 す る と 、 甲 は 通 常 ● あ て は め
人 か ら 見 れば 強 盗 犯 人に し か 見 えな い 。 と する と 、
そ の よ う な甲 に 対 し て、 逮 捕 し よう と し て 羽交 い 締
め に す る こと に 違 法 性の 意 識 を 喚起 す る 可 能性 は な
い とい うべ きで ある 。
し た が って 、 A は 事実 の 錯 誤 とし て 、 故 意が 阻 却
さ れ る 。 した が っ て Aに 公 務 執 行妨 害 罪 は 成立 し な
い。
以
第 61 問
上
A
甲 は警 察に 追わ れて いる 乙 を匿 った 。次 の各 小問 に答 えよ 。各 小問 は独 立し た問 いで
あ る。
1 、① 乙が 真犯 人で ない 場合 、甲 の罪 責を 論ぜ よ。
2 、 ②甲 は乙 が侮 辱罪 を犯 し たに 過ぎ ない と考 えて いた が、 乙は 名誉 毀損 罪を 犯し てい
た 場 合、 甲の 罪責 を論 ぜよ 。 甲は 、③ 乙が 名誉 毀損 罪を 犯し たこ とは 知っ てい るが 、た
い した 罪で はな いと 思っ てい たと きは どう か。
3 、 ④乙 が甲 に自 分を 蔵匿 す るよ う、 強く 唆し 、結 果甲 が犯 人蔵 匿罪 を犯 した 場合 、乙
に 犯人 蔵匿 罪の 教唆 犯は 成立 する か。
- 139 -
基 礎 点 19 点
各論 点 2 点
① 犯人 蔵匿 罪の 客 体→ 真犯 人に 限る か。 真犯 人で なけ れば 、 刑事 司法 作用 を侵 害す る度 合
い は低 い
【 論点 】客 体は 真犯 人に 限る か
② 侮辱 罪→ 罰金 刑が ない =罰 金刑 以上の 罪に あた ると 思っ てい ない
③ 名誉 毀損 罪を 犯 した こと を知 って いる →罰 金刑 以上 の「 罪 」を 犯し たこ とだ け知 って い
る
【 論点 】犯 人蔵 匿罪 の故 意
④ 乙は 本犯 者→ 自分 で隠 れた 場合 犯罪で はな いが 、教 唆犯 とし て処 罰の 対象 にな るか
【 論点 】犯 罪者 が自 らの 蔵匿 を他 人を教 唆し たと き
解 答例
一 、小 問1 につ いて
1 、 甲 に 犯 人 蔵 匿 罪 ( 103 条 ) は 成 立 す る か 。 犯 人
蔵 匿罪 の犯 人と は真 犯人 に限 るか が問 題と なる 。
2 、 思 う に 、 条 文 が 犯 罪 を「 犯 し た 」 と し て い る 。
【 論点 】客 体は 真犯 人に 限るか
ま た、 無 実 で ある も の を 蔵匿 す る こ とは 違 法 性 が
低い 。
した が っ て 、本 罪 の 客 体は 真 犯 人 に限 る と い う
べき であ る。
3 、以 上か ら、 甲は 何の 罪責 も負 わな い。
二 、小 問2 につ いて
1 、甲 は 乙 が 犯し た 犯 罪 につ い て 、 錯誤 を き た し
て いる 。 そ こ で、 犯 人 蔵 匿罪 の 故 意 を問 う に は 、
蔵匿 行為 者に 、ど のよ うな 故意 を要求 すべ きか 。
2 、 思 う に 、「 罰 金 以 上 の 刑 に あ た る 罪 を 犯 し た
者 」( 103 条 ) で あ る こ と は 本 罪 の 構 成 要 件 要 素 で
あ る 。 し か し 、「 罰 金 以 上 」 の 罪 で あ る こ と の 認
識を 行為 者に 要求 する のは 素人 的判断 を越 える 。
そ こ で 、「 罰 金 以 上 の 刑 に あ た る 」 こ と の 認 識
は 犯罪 の 成 立 に必 要 な い 。し か し 、 罰金 以 上 に あ
た る「 罪 を 犯 した 者 」 で ある こ と へ の認 識 は 本 罪
の成 立に 必要 であ る。
3 、 以 上 をも っ て 本 問を 判 断 す ると 、 前 段 の甲 は 拘
留 ・ 科 料 の法 定 刑 が 定め ら れ て いる 侮 辱 罪 を乙 が 犯
- 140 -
【 論点 】犯 人蔵 匿罪 の故 意
し たと 考え てい る。
し た が って 、 罪 の 点に つ い て 錯誤 が あ る から 、 事
実 の 錯 誤 があ る 。 す なわ ち 、 甲 は何 の 罪 責 も負 わ な
い。
そ れ に 対し て 後 段 の甲 は 、 乙 が名 誉 毀 損 罪を 犯 し
た こ と は 知っ て い る 。そ の 後 の 評価 は 故 意 に影 響 し
な い。 した がっ て、 甲は 犯人 蔵匿 罪の 罪責 を負 う。
三 、小 問3 につ いて
1 、本 問 の よ うに 、 犯 罪 者が 自 ら の 蔵匿 を 他 人 を
【論点】犯罪者が自らの蔵匿を他
教 唆し た と き 、犯 罪 者 自 身は 犯 人 蔵 匿罪 の 教 唆 犯
人 を教 唆し たと き
と して 処 罰 さ れる か 。 本 罪の 主 体 に 犯罪 を 犯 し た
本人 は含 まれ ない から 問題 とな る。
2 、思 う に 、 本犯 者 が 犯 人蔵 匿 罪 の 主体 と な ら な
い のは 、 本 犯 者に は 適 法 行為 の 期 待 可能 性 が な い
か らに 過 ぎ な い。 こ こ に 、他 人 を 道 具に 使 用 し た
と して も 、 期 待可 能 性 が 乏し い の は 同様 と い う べ
きで ある 。
した が っ て 、本 犯 者 の 教唆 行 為 も また 処 罰 で き
* 判例 は可 罰説 に立 つ。
ない 。
3 、 以 上 から 、 乙 に 犯人 蔵 匿 罪 の教 唆 犯 は 成立 し な
い。
以
第 62 問
上
A
① 甲 は、 殺人 罪の 被疑 者と し て先 に警 察に 逮捕 され てい た共 犯者 Aか ら預 かっ てい た、
凶 器 や血 の付 いた 衣服 など 証 拠が 入っ た風 呂敷 包み を、 ②A の妻 乙か ら教 唆さ れ、 ③A
の 利 益 の た め に 隠 匿 し た 。さ ら に 、④ 乙 は 参 考 人 と し て 、警 察 に 取 り 調 べ を 受 け た 際 に 、
虚 偽の 陳述 をな した 。
さ らに 、丙 は甲 が被 疑者 と され た刑 事裁 判に おけ る証 人と して 、証 言を する こと にな
っ た 。⑤ 丙は 甲が 殺し たと 記 憶し てい たが 、⑥ 甲に もと もと 偽証 を教 唆さ れた ので 、⑤
丙 は 宣 誓 を し た 上 で 、「 確 か に A が 人 を 殺 す の を 見 ま し た 」 と 証 言 を し た 。 ⑤ 真 実 は A
が 人を 殺し てい たと して 、甲 乙の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 20 点
各論 点 1 点
① Aは 共犯 者→ 本件 証拠 は自 分の 刑事事 件に 関す るも ので ある し、 Aの もの とも いえ る
【 論点 】共 犯者 の刑 事被 告事 件
- 141 -
② 偽証 の教 唆→ 親族 自身 が証 拠隠 滅をし た場 合、 刑が 免除 され るが 。教 唆は ?
【 論点 】親 族が 他人 を教 唆し た場 合
③ Aの 利益 のた めに →甲 は証 拠隠 滅罪が 成立 して もい いの では ない か
④ 参考 人と して の虚 偽の 陳述 →証 拠偽造 罪に なら ない か?
【 論点 】捜 査段 階に おけ る虚 偽の 陳述
⑤ 丙は 記憶 に反 する が、 真実 に合 致する 証言 をし た→ 犯罪 は成 立す るか
【 論 点 】「 偽 証 」 の 意 義
⑦ 偽証 の教 唆→ 被告 人は 処罰 され るか?
【 論点 】被 告人 が証 人に 偽証 を教 唆した 場合
解 答例
一 、甲 の罪 責に つい て
1 、本 問 甲 A は共 犯 で あ るが 、 甲 は 当該 事 件 に お
【 論点 】共 犯者 の刑 事被 告事件
け る 証 拠 を 隠 匿 し て い る 。そ こ で 、 共 犯 事 件 で は 、
そ の 事 件 に 関 す る 証 拠 は 、「 他 人 の 」( 104 条 ) 刑
事事 件に 関す る証 拠に あた るか 否かが 問題 とな る。
思 う に 、 104 条 で 「 他 人 の 」 と さ れ て い る 理 由
は 被疑 者 、 被 告人 に は 証 拠を 隠 滅 し ない こ と に 期
待可 能性 がな いか らで ある 。
共 犯事 件に 関す る 証拠 には もっ ぱら 他人 の ため の
証 拠も 含 ま れ てお り 、 こ れの 隠 滅 に 期待 可 能 性 が
な いと は い え ない 。 と す ると 、 期 待 可能 性 あ る 場
合 も含 め 、 す べて 自 己 の 刑事 事 件 の 証拠 と す る の
は 本条 の 趣 旨 に反 す る 。 自己 の 被 告 事件 と 関 係 な
い 証拠 は 、 右 にい う 他 人 の刑 事 事 件 の証 拠 と す べ
きで ある 。
し たが って 、も っ ぱら 共犯 者の ため にす る 意思 で
隠 滅し た 証 拠 のみ 「 他 人 の刑 事 事 件 」に 関 す る 証
拠に あた ると すべ きで ある 。
以 上 を もっ て 本 問 を検 討 す る と、 甲 は も っぱ ら 乙
の た め に 証拠 を 隠 滅 して い る 。 した が っ て 、甲 は 証
拠 隠 滅 罪 ( 104 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
2 、さ ら に 、 本件 甲 は 丙 に偽 証 を す るよ う に 教 唆
【論点】被告人が証人に偽証を教
し てい る 。 か よう に 被 疑 者本 人 が 証 人に 偽 証 を 行
唆 した 場合
う よ う に 教 唆 し た 場 合 、 犯 人 は 教 唆 犯 ( 61 条 ) と
して 処罰 され るか 。
- 142 -
思 う に 、 本 人 が 169 条 の 主 体 に な ら な い の は 、
本 人は 証 人 適 格が な く 、 主体 に な れ ない か ら に す
ぎな い。
思う に 、 本 人よ り も 他 人の 証 言 の 方が 裁 判 所 に
と って 信 頼 度 が高 い 。 し たが っ て 、 他人 に 偽 証 さ
せ るほ う が 、 より 国 家 の 審判 作 用 を 害す る 可 能 性
が高 い。
した が っ て 、教 唆 犯 は 成立 す る と いう べ き で あ
る。
以 上 か ら、 丙 が 偽 証罪 に 問 わ れる 限 り で 、甲 は 偽
証 罪 ( 169 条 ) の 教 唆 犯 ( 61 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
二 、乙 の罪 責に つい て
1、乙 は夫 Aの ため、甲に 証拠 隠滅 を教 唆し てい る。
そ こ で 、 乙 に は 、 証 拠 隠 滅 罪 の 教 唆 犯 ( 61 条 ) が 成
立 す る が 、 科 刑 が 免 除 さ れ る 可 能 性 は な い か ( 105
条 )。
思う に 、 親 族が 刑 を 免 除さ れ る の は、 親 族 に は
適 法行 為 の 期 待可 能 性 が 乏し い か ら であ る 。 そ し
【論点】親族が他人を教唆した場
合
て 、他 人 を 道 具に 使 用 し たと し て も 、期 待 可 能 性
が乏 しい のは 同じ であ る。
した が っ て 、親 族 に よ る教 唆 行 為 もま た 免 除 の
可能 性が ある とい うべ きで ある 。
以 上 か ら、 乙 は 甲 への 教 唆 行 為に つ い て 、科 刑 が
免 除さ れる 可能 性が ある 。
2 、 ま た 、乙 は 捜 査 段階 で 、 虚 偽の 証 言 を なし て い
る 。 こ れ が甲 を 隠 避 させ る 目 的 でな さ れ た なら 、 乙
は 犯 人 隠 避 罪 ( 103 条 ) の 罪 責 を 負 う が 、 親 族 間 の
特 例に より 、刑 が免 除さ れる 可能 性が ある 。
さ ら に 、 こ れ は 証 拠 の 偽 造 ( 104 条 ) と し て 、
処罰 の対 象に なら ない か。
【論点】捜査段階における虚偽の
陳述
当 該行 為は 、形 式的 には 証拠 の偽造 にあ たる 。
し か し 、 偽 証 罪 ( 169 条 ) は 、 宣 誓 を し た 者 に
限 って 処 罰 す ると し て い る。 と す る と、 法 は 、 宣
誓 をし な い で 虚偽 の 証 言 をし た 者 は 処罰 し な い 趣
旨で ある とい うべ きで ある 。
した が っ て 、捜 査 段 階 で虚 偽 の 証 言を な し た に
- 143 -
過 ぎ な い 者 は 104 条 で は 処 罰 し な い と い う べ き で
ある 。
以 上 か ら 、 乙 は 証 拠 偽 造 罪 ( 104 条 ) の 罪 責 は 負
わ ない 。
三 、丙 の罪 責に つい て
1 、甲 は 宣 誓 をし た 上 で 、記 憶 に は 反す る が 、 真
【 論 点 】「 偽 証 」 の 意 義
実 には 合 致 す る証 言 を な して い る 。 この よ う な 甲
に 偽 証 罪 は 成 立 す る か 。「 虚 偽 の 陳 述 」( 169 条 )
の内 容が 問題 とな る。
2 、こ の 点 、 自ら が 真 実 でな い と 思 うこ と を 陳 述
する こと を指 すと する 説が ある 。
し か し 、何 が 真 実 か を 判 断 す る の は 裁 判 所 で あ り 、
証 人は 実 験 し た事 実 を 自 己の 記 憶 の まま に 述 べ な
け れば な ら な い。 に も か かわ ら ず 、 記憶 に 反 す る
こ とが 陳 述 さ れる と 、 そ れだ け で 審 判作 用 が 害 さ
れる 抽象 的危 険が 発生 する 。
し た が っ て 、「 虚 偽 の 陳 述 」 と は 、 記 憶 に 反 す る
陳述 をさ すと 解す る。
3 、 結 果 、 甲 は 偽 証 罪 ( 169 条 ) の 罪 責 を 負 う 。
以
第 63 問
上
B
① 財 務官 僚甲 は、 税務 署長 時 代、 ②乙 のた めに 不正 に便 宜を 図っ た見 返り とし て、 ③自
分 の 息子 Aを 乙の 経営 する 会 社の 取締 役と する こと を迫 り、 ④も しこ れが 聞き 入れ られ
な い なら 、そ の当 時見 逃し た 乙の 不正 行為 が摘 発さ れる よう に計 らう と告 げた 。仕 方が
な く、 乙は これ に応 じた 。甲 乙の 罪責 を論 ぜよ 。
基 礎 点 20 点
各論 点 1 点
① 甲は 現在 公務 員→ ただ し、 職務 行為と の対 価は 過去 のも ので あっ ても よい
【 論点 】抽 象的 職務 権限 を異 にし た場合
【 論点 】職 務行 為の 意義
② 不正 な職 務行 為の 対価 →賄 賂を 請求す れば 、加 重収 賄に なる 可能 性
③ Aを 取締 役に する とい うの は「 賄賂」 とい える のか ?
【 論点 】賄 賂の 意義
④ 脅迫 的言 辞を 伴う →恐 喝罪 が成 立する
- 144 -
同時 に贈 収賄 罪は 成立 する のか ?
【 論点 】収 賄と 恐喝
【 論点 】贈 賄と 恐喝
解 答例
一 、甲 の罪 責
1 、 ま ず 、不 正 行 為 の摘 発 を ほ のめ か す こ とも 、 人
を 畏 怖 さ せる に た る 言動 で あ る 。こ れ は 不 正行 為 の ● 恐喝 の内 容
摘 発 を 内 容 と し て い て も 、そ の 犯 罪 性 は 認 め ら れ る 。
警察 に告 訴す るぞ 、で もよい
し た が っ て 、 甲 に 恐 喝 罪 ( 249 条 ) が 成 立 す る 。
2 、 (1) か つ 、 甲 は 公 務 員 で あ り 、 か か る 職 務 に 関
【 論点 】収 賄と 恐喝
し て 利 益 を 取 得 し て い る の で 、 収 賄 罪 ( 197 条 )
が 成立 す る 可 能性 が あ る 。し か し 、 かよ う に 恐 喝
的言 辞を 伴う 場合 、別 に収 賄罪 が成立 する のか 。
思う に 、 収 賄罪 ・ 恐 喝 罪は 保 護 法 益を 異 に し て
お り、 財 産 犯 であ る 恐 喝 罪の 構 成 要 件で は 国 家 的
法益 の侵 害に つい て評 価で きな い。
し た が って 、 恐 喝 罪の 他 、 収 賄罪 が 成 立 しな い わ
け で は な い。 そ こ で 、甲 の 行 為 が収 賄 の 構 成要 件 に
該 当す ると 評価 でき るか 、検 討す る。
(2) 本 問 で は 、 甲 は 抽 象 的 な 職 務 権 限 を 異 に し て い
【論点】抽象的職務権限を異にし
る から 、 こ の よう な 場 合 、甲 の 行 為 はい か な る 構
た 場合
成要 件に 該当 する 可能 性が ある か。
この 点 、 現 在の 一 般 的 職務 権 限 を 異に す る の で
あ るか ら 、 賄 賂の 収 受 は 職務 に 関 し て行 わ れ た と
は 言え な い と もみ え る 。 それ で も 不 可罰 に す る こ
と はで き な い ので 、 事 後 収賄 罪 の 問 題に す べ き と
する 見解 があ る。
し か し 、 公 務 員 で「 あ っ た 」 も の と い う 文 言( 197
条の 3 第 3 項 )か らし て、 事後 収賄 罪の 成 否を 考
え るの は 無 理 があ る 。 収 受の 当 時 に は公 務 員 で あ
るか らで ある 。
思 うに 、公 務員 の 転職 は日 常茶 飯事 であ り 、特 に
当 該職 務 を 直 前ま で 行 っ てい た 場 合 は、 可 罰 性 は
高い 。
そ こ で 、「 職 務 に 関 」 し て と は 、 現 在 公 務 員 の 抽
- 145 -
象 的職 務 権 限 に関 す る 必 要は な く 、 過去 の 職 務 権
限内 の行 為に 関す るも ので あた ると解 する 。
2 、 そ の 上 で 、 本 問 甲 に つ い て は 加 重 収 賄 罪 ( 197
条 の 3 第 1 項 )の 成否 が問 題と なる 。
思 う に 、収 賄 罪 の 成立 に は 、 賄賂 の 収 受 その 他 の
行 為が 職務 に関 して なさ れね ばな らな い。
そこ で 、 こ こに い う 「 職務 」 の 意 義が ま ず 問 題
とな る。
【 論点 】職 務行 為の 意義
*本件では、この要件は当然にあ
本罪 の 趣 旨 は職 務 の 公 正と 社 会 一 般の 信 頼 を 保
護 する 点 に あ る。 と す れ ば、 当 該 公 務員 又 は 仲 裁
ると思われるので、論点の指摘を
省 略し ても よい 。
人 が法 律 上 有 する 権 限 で なく て も 、 本条 の 対 象 に
する 必要 があ る。
した が っ て 、こ こ に い う職 務 と は 、職 務 と し て
行 いう る 抽 象 的な 範 囲 に あれ ば よ く 、か つ 職 務 と
密接 に関 連す る行 為も 含む とい うべき であ る。
本 問 の 場合 、 甲 は 乙に 便 宜 を 図っ た と あ るか ら 、
本 要件 にあ たる 事実 はあ ると 解す べき であ る。
3 、最 後 に 、 甲の A を 会 社に 就 職 さ せろ と い う 要
【 論点 】賄 賂の 意義
求は 、収 賄罪 にお ける 「賄 賂」 にあた るか 。
思 うに、この 問題 は本 罪の 保護 法益、すな わち、
職 務の 公 正 ・ 社会 へ の 信 頼が 害 さ れ るか 否 か と の
観点 から 判断 する のが 妥当 であ る。
した が っ て 、何 ら か の 利益 で あ れ ば、 た り る と
いう べき であ る。
した がっ て、 本問 甲の 要求 も賄 賂に あた る。
以 上 か ら 、 甲 は 加 重 収 賄 罪 ( 197 条 の 3 第 1 項 ) の
罪 責を 負う 。
二 、乙 の罪 責
乙 は 恐 喝 の 被 害 者 で あ る が 、そ れ で も 贈 賄 罪( 198
条) は成 立す るか 。
【 論点 】贈 賄と 恐喝
*場合によっては乙の利益を図る
思う に 、 畏 怖し て い る とは い え 、 いま だ 財 物 交
付に つい て任 意性 が認 めら れる 。
ために、Aを入社させたことが背
任 罪に 当た る可 能性 もあ る。
した が っ て 、被 恐 喝 者 に贈 賄 罪 は 成立 す る と 解
する 。
- 146 -
可能 性は 非常 に低 いが ……。
乙は 贈賄 罪の 罪責 を負 う。
以
上
* 参考
なお 、公 務員 が 職務 行為 に仮 託し て、 自己 の職 務と 全く 関 係の ない 事項 につ いて 人を 恐
喝 し財 物を 交付 させ た場 合は 、単 なる恐 喝罪 しか 成立 しな い。
- 147 -
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