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保護法益を考える 刑法学の基礎その1

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保護法益を考える 刑法学の基礎その1
保護法益を考える
刑法学の基礎その1
刑事法入門第11回
Ⅰ.本日のメニュー
①立川テント村事件
②国家刑罰権濫用を抑制する理論装置
③法益の確定と、構成要件の厳格な解釈
Ⅰ.はじめに
①刑法や刑罰はなにのために存在しているのか?
→実は「犯罪は処罰されるべき」ということは当たり前のこ
とではない
②刑法の機能
秩序維持機能
法益保護機能=国民の権利や利益の保護
人権保障機能=処罰される側へのルールの明示
秩序維持機能の過度の強調は危険!!
→誰にとっての秩序維持か?
○法益保護機能→法により保護されるべき利益・権利の保護
○人権保障機能→処罰される可能性を持つ市民の権利保護
○これに加えて、重要なポイント
「犯罪」を防ぐための手段は「刑罰」だけではない!
「刑罰」は劇薬である=副作用も多い
刑法の謙抑性・補充性・断片性
→刑法を使うことは控えめで、
「最後の手段」でなければならず、
重大な違法行為に対する断片的なもの
でなければならない!
本日学ぶ大命題
処罰するかどうかの基準は、明確でなければならず、
また必要最小限度に抑えられなければならない!!
今回の講義で意識すること
-「要件」と「効果」
具体的な
条文
例:刑法130
条
条文解釈
根拠を示しながら、
「要件」を導き出す
刑法において意識する点 「○○という事実が存在すれば、
□□という効果が発生する」
①要件はできるだけ厳格に
(文理解釈より狭く)
②要件を導く根拠→なぜ処罰
するのか→他人の法益・公共
の法益を侵害しているから
→その法益とは?
③刑法における効果→処罰と
刑の内容
あてはめ
本件において存在する事実を
整理して、
「本件においては、○○という
事実が存在するから、 □□と
いう効果が発生する」
Ⅱ.立川テント村事件(検察官の主張)
(1)平成16年3月19日付け起訴に係るもの
被告人ら3名は,共謀の上,「自衛隊のイラク派兵反対!」などと記
載したビラを防衛庁立川宿舎各室玄関ドア新聞受けに投函する目的
で、管理者及び居住者の承諾を得ないで,平成16年1月17日午前11時
過ぎころから同日午後0時ころまでの問,陸上自衛隊東立川駐屯地業
務隊長らが管理し,同隊員らが居住する立川宿舎の敷地に立ち入っ
た上,同宿舎の3号棟東側階段,同棟中央階段,5号棟東側階投,6号
棟東側階段及び7号棟西側階段の各階段1階出入口から4階の各室玄
関前まで立ち入り,もって正当な理由なく人の住居に侵入した。
(2)平成16年3月31日付け追起訴に係るもの
被告人らは、共謀の上、「ブッシュも小泉も戦場には行かない」などと
記載したビラを立川宿舎各室玄関ドア新聞受けに投函する目的で、管
理者及び居住者の承諾を得ないで、平成16年2月22日午前11時30分
過ぎころから同日午後0時過ぎころまでの間、上記立川宿舎の敷地に
立ち入った上、同宿舎の3号棟西側階段、5号棟西側階段及び7号棟西
側階段の各階段1階出入口から4階の各室玄関前まで立ち入り、もって
正当な理由なく人の住居に侵入した。
Ⅲ.国家刑罰権の濫用を抑制する理論装置
1.本件の被告人をどのように救済するか?
→二つのアプローチ
処罰の要件の判断
処罰までのプロセス
(実体法)
(刑事手続)
手続違反による処罰の限定、断念
→本件の場合、検察官の権利濫用
による違法起訴
→公訴棄却(刑訴法338条4号)
そもそも刑法に違反しない
→本件の場合、住居侵入罪
(刑法130条)に該当しない
→無罪
今回は、実体法の観点から考える→「犯罪である」と判断するため
に必要なファクターにはどのようなものがあるか?
2.犯罪の機能定義
「犯罪とは」→「構成要件に該当する、違法かつ有責な行為
である」
→法律の要件に含まれる多様なファクターを整理し、判断を
明確化
本件の「行為」→「Aは、Bをナイフで腹部を殺意
をもって突き刺し、殺害した。」
①構成要件該当性→法律が予定する犯罪の外枠
を満たしているか(主体、客体、行為、結果、因果関係など)
②違法性→量的に可罰的違法性があるか、
違法性を否定する要素はあるか(法令行為、正当業務行為、
正当防衛、緊急避難)
③有責性→被告人を刑法上非難できるか(責任能力、
故意、過失、期待可能性)
本件の「行為」→「Aは、Bをナイフで腹部を殺意
をもって突き刺し、殺害した。」
①構成要件該当性
②違法性
③有責性
刑法199条が予定する犯罪の外枠
→「人を殺すこと」
構成要件に該当=原則違法
→違法性を減少・否定する要素は
あるか?
→「BがAをナイフで殺そうとしていた
のに対し、Aは上記の行為をした」
→「正当防衛に当たる」(刑法36条)
故意や過失の存在、善悪の判断の
可否、行動を制御の可否
「Aは実は、統合失調症に罹っており、
善悪の判断が全くできない状態で
あった。」
→「責任能力なし」(刑法39条)
3.本件において発動すべき具体的抑制装置
本件の「行為」→「反戦ビラを配るため、許可を得ることなく自衛隊
官舎に立ち入った」
①構成要件該当性
による処罰の限定
②違法性における
処罰の限定
③有責性における
処罰の限定
130条「侵入」=処罰に値する
「侵入」の確定・限定
「侵入」に当たるとしても・・・
・住居侵入罪が保護しようとする利
益よりも重大な利益(表現の自由
:憲法21条)
「侵入」に当たり、可罰的違法性があ
るとしても・・・
・住居に「侵入」という犯罪の認識は
なかったのでは?
Ⅳ.法益を確定し、構成要件を厳格に解釈
「最後の手段」
としての刑法
さっき勉強した、刑法・刑罰の機能を思い出してみよう!
○「条文に該当」=「処罰」とは考えない
→世の中は「刑罰」と「犯罪」であふれかえる
「刑罰」を科すためには、処罰に値するほど利益の侵害が必要
刑法の各犯罪は、どのような法益(権利や利益)を保護
しようとしているのか?→その法益を侵害するものだけが
「構成要件に該当」
単なる「侵入」
130条が保護する「法益」を
侵害する「侵入」
この範囲を確定する作業
=解釈
→それぞれの刑罰規定
が保護しようとするもの
「保護法益」の理解
3.住居侵入罪の保護法益
見解
保護法益
具体的帰結
留意点
①旧住居権
(戦前)
「家長」が有す
る住居権
家長以外の者
が住居への立
ち入りに同意し
ている場合→
処罰
「家制度」の保
護、「家長」優先
は日本国憲法
に合致するか?
②平穏説
住居の「平穏」
鍵を破壊しての
侵入、人を押し
のけての侵入
→事実上の「平
穏」の侵害
基準不明確
「平穏」に侵入し
た場合は?
誤信させての侵
入は?
③新住居権説
「住居権」
→もっとも住居
権とは、管理権
者の自由
平穏であったと 管理権者とは?
しても、管理権 個人の判断に
者の意思に反 左右される
するような侵入
4.「侵入」の解釈と本件へのあてはめ
※それぞれの見解における、構成要件該当性の基準
を確認し、考える
単なる侵入
平穏説=住居の事実上の 新住居権説=管理権者の意思
平穏を害するような立ち入り (推定的なものも含む)に反する
があったかどうか
ような侵入があったかどうか
本件では、平穏の害する侵入
はあったか?
メリット:客観的判断が可能、
処罰範囲の限定?
デメリット:個人的法益に適合
しない、判断は困難?
本件では、管理権者の意思に
反する「侵入」はあったか?
メリット:個人主義的構成
デメリット:保護法益は被害者
次第→判断の主観化
もう一度整理-実体刑法の答案の書き方
具体的条文の文言を確認→形式的な処罰
の「要件」を確認→すべて満たす必要
例:刑法130条→「住居」、「侵入」など
・人はなぜ処罰されるのか→他人や公共の法益を侵害
・問題となっている条文はどのような法益が侵害されたか
ら成立するのか(保護法益)
→例:家長が有する住居権、住居の平穏、個人の住居権
・「これらの保護法益を侵害したという事実があれば、3年
以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」という要件
本件の事実を整理し、上記のような事実があるかを提示
→ある=効果(定められている刑罰)が発生
→ない=効果発生せず
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