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第6回 TIJ セミナー 第1部 “Suica”が世界を変える!―JR 東日本の IT・Suica 事業戦略― 東日本旅客鉄道株式会社 IT・Suica 事業部副本部長 椎橋章夫氏 皆さんこんにちは。ただいまご紹介いただきました JR 東日本の椎橋と申します。よろ しくお願いします。まず、本日はこういった場を作っていただきまして大変ありがとうご ざ います 。約 1 時間です け れ ど も 、 本 日 は Suica の 話 を さ せ て い た だ き た い と 思 い ま す 。 先ほどの紹介にもありましたように、1 点目に Suica の導入の背景、これまでの経緯を お話したいと思います。2 点目として Suica の現状、特に PASMO との相互利用等を踏ま えてどうなっているかということをお話しいたします。なお、現在、Suica の発行枚数は 約 2600 万枚、PASMO も 1000 万人を超えていますので、首都圏で約 3600 万枚のカード が発行されています。最後に 3 点目として、Suica は今後どの様な方向へ向かっていくの か、その展開戦略を、本年 3 月 31 日に発表した「グループ経営ビジョン 2020-挑む-」 の内容を踏まえてお話したいと思います。 では、まず「IC 乗車券 Suica の利用の仕方」についてお話しいたします。既に、皆さま の多くがご利用いただいていると思います。自動改札機にブルーに光るリーダーライター が設置されています。このリーダーライターに軽く触れると、ピッという音がして通過出 来ます。処理時間は約 0.2 秒です。当社では、自動改札機を 1990 年に導入しましたが、 使用できるのは、約 10 年間であることは、導入時点で分かっていました。2001 年 11 月 にサービスを開始した Suica は、単なる自動改札機の老朽取替に合わせて、新たな IC カ ード出改札システムという仕組みを導入したという認識でした。しかし、そのことが後に とても大きな変化を生んだということを私自身も驚いております。 次に、私どもの会社の概要を簡単にご説明いたします。東京圏を含む本州の東半分、関 東、甲信越から東北までの広い地域が当社の営業エリアです。連結決算での営業収益が約 2 兆 7,000 億円です。従業員数は鉄道単体で約 5 万 2,600 人。事業分野は大きく鉄道事業 と生活サービス事業の二つです。鉄道事業においては、駅数が約 1,700 駅、営業キロが約 7,500 キロで日本の鉄道の営業路線の約3割が当社の路線です。1日にご利用になられる お客さまは 1,685 万人であり、これは世界最大の規模です。鉄道以外の事業分野も、会社 発足以降、積極的に取り組んでおり、ショッピングセンターなどの小売事業、飲食業、ホ テル事業など幅広く行っております。そして現在、Suica 事業を、鉄道事業、生活サービ ス事業に次ぐ第3の事業にしようと取り組んでおります。このことについては、のちほど 詳しくお話したいと思います。 続いて、Suica 導入の背景についてお話いたします。ここに示したのは、将来の人口推 2 計です。人口の減少はどの企業でも将来の課題と認識されていることだと思いますが、鉄 道事業においても同様です。総人口を見ると、2000 年を 100 とした場合、全国平均、名 古屋・大阪では、2020 年には 100 を大幅に下回ることが予測されています。さらに、15 歳~65 歳までの生産年齢人口では、日本国内の他のエリアよりも人口の減少率が低い東京 においても 2020 年には 90 になることが予測されています。東日本全域を営業エリアに持 つ当社で考えた場合は、はさらに減少割合が高くなります。人口が減少するということは 商機の減少につながることなので、鉄道事業にとっても非常に深刻な問題です。 次に、距離別の輸送シェアを示しています。自動車の割合が圧倒的に高く、100km まで は 74%、100km から 300km までが 76%です。この距離では、JR以外の鉄道会社に長 距離路線があまり無いので、JR の割合が増えてきます。300km 以上になると、JR以外 の鉄道会社は全く無くなり、自動車の割合も低下してきますが、それでも自動車は 58%を 占めています。500km~750km では、新幹線により鉄道がトップシェアとなりますが、更 に距離が長くなると、今度は飛行機がトップシェアとなります。従って、鉄道にとっては 約 300km までは自動車、750km 以上は飛行機がライバルとなります。現在、相互利用を 行っている PASMO グ ループとは、この約 300km までの距離において、シェアの高い自 動車から、少しでも鉄道に回帰させるために、鉄道事業者同士が手を組もうという議論を 真剣にしてきました。 次に Suica の開発と導入の経緯について少しお話したいと思います。まず、IC カード乗 車券 Suica は、Super Urban Intelligent CArd の略であり、「スイスイ行ける IC カード」 といった略にもなっています。私は、この名前の選定に関わったのですが、日本語で三文 字の意味があるような言葉はほとんど登録されてしまっていました。まだ登録されていな い 3 文字の中に「スイカ」があり、迷わずこれを選びました。 Suica に は ご 存 知 の よ う に 、 IC カ ー ド 乗 車 券 と し て 定 期 券 機 能 と 、 ス ト ア ー ド フ ェ ア (SF)としての機能があります。この他にも電子マネー機能、ID を用いた認証機能があ ります。 これは IC カード乗車券 Suica の中身です。なかなかスケルトンの状態を見ることはで きないと思いますが、1辺 4.4mm の正方形の IC チップが入っていて、アンテナがぐるぐ ると巻いています。ここに SONY と書かれていますが、SONY の FeliCa というカードを 使っています。 3 四角の IC チップが見えないで丸く見えるのは、薄いステンレスの丸い板を貼っている ためです。技術開発当初に香港に導入された際、カードを入れたお財布をお尻のポケット に入れて座った際の曲げの応力により、チップの素線が切れるという事象が発生しました。 この事象に対する対策として、ステンレスの薄い板を貼りました。カード製造時に冷えて 収縮するときの速度が違うことにより歪みが生じて、皆さまがご使用のカードも光にかざ すと、どこにチップがあるというのはお分かりになると思います。 ここで、磁気券(きっぷ)と IC カードの自動改札の処理を改めて比較したいと思いま す。きっぷを自動改札機に投入すると、約1m15cm 先にきっぷが出てきます。その間に、 データを読込み、判定し、データを書き込み、最後にチェックをするという4つの処理を 0.7 秒で行います。きっぷは秒速約 2mのスピードで改札機内を搬送されます。改札機の間 を人間が歩く速度というのは1秒間に約1mで、きっぷは 0.7 秒で自動改札機内を搬送さ れるので、きっぷが先に出て、人を待っている状況となります。 次に IC カードの場合です。実際には黄色い範囲は見えないのですが、図は電波が届い て処理できる範囲を示したものです。この黄色い範囲は半径 10cm、直径 20cm の半球状 に拡がっています。したがって、この 20cm を移動する間に処理をしなければなりません。 この 20cm を移動する間に、 「カードが来た」という「存在確認」、続いて PASMO や Suica 等、自動改札機が処理すべき IC カードかという「認証」を行い、あとは磁気式のきっぷ と同じことを行います。この 20cm を人間の歩く速度に換算すると約 0.2 秒になります。 処理時間を 0.2 秒で行うことが、自動改札機における最難関技術であり、長い期間、研究 開発を行ってまいりました。 この開発の経緯を少しお話ししますと、IC カードを鉄道事業に応用しようと考え始めた のは、国鉄が分割・民営化され、JR が発足した 1987 年からでした。その後、開発を進め、 途中で3回のフィールド試験を行い、1997 年度末にはほぼ実用化の目途が立ちました。そ の後も、本社内にプロジェクトチームを作り約4年の歳月をかけ、2001 年の 11 月によう やく実用化に漕ぎ着けました。開発開始から、実用化までには約 16 年の年月を要したわ けです。 ここで、Suica 導入の背景を簡単にまとめますと、大きく「経営革新」、「IT の技術の進 展」、「電子マネー市場」という3つの側面に分けることができます。特に社内の経営革新 という側面では、2000 年に老朽取替の時期を迎える自動改札器のメンテナンスコストの低 減や、鉄道の競争力向上、鉄道事業と生活サービス事業とのシナジー効果等、が挙げられ 4 ます。なお、「IT 技術の進展」では、FeliCa の開発が 1988 年頃にスタートしましたが、 急速に進展した電子機器のダウンサイジングと高速化により、1997 年に香港で FeliCa を 使った実用的な IC カードシステムがスタートしていました。 2001 年 11 月の Suica 導入は、鉄道事業の成長という側面を狙ったものです。その後、 2004 年の電子マネーサービスの開始により新たなビジネスモデルが現れ、Suica が当初の 姿から少し変化しました。その後は新たなサービスを開始する毎に変化が著しくなります が 、 こ れ に つ い て は 、 後 ほ ど お 話 し た い 思 い ま す 。 な お 、 電 子 マ ネ ー に 関 し て は 、 1990 年代に Mondex やビザキャッシュで試験が始まりましたが、それらは成功しないまま終了 していました。その後、2001 年 に Edy がサービスをスタートさせ、日本において電子マ ネーが認知され始めました。2004 年 3 月の Suica での電子マネーサービス開始は、そう した外部環境の変化も踏まえてのスタートでした。 ここからは、Suica のシステムについて少しお話いたします。Suica のシステム構成は、 大きくセンターサーバ、ネットワーク、端末、媒体という、4層に分けることができます。 センターサーバは Suica には三つありまして、その他のサーバともファイアーウォール 等を介して接続されています。大きなものだけでも約 20 のサーバと接続されています。 ネットワークは自社の設備などを含めて、あらゆるネットワークを使っています。端末 は約 14 万台、鉄道が5万台で物販系が約9万台です。それから媒体は先ほどお話しまし たように、PASMO も 入れますと 3600 万枚以上になります。 カードの裏面には、JE で始まるカード固有の ID 番号(Identification Number)が付 いています。いろいろな端末でカードを利用すると、その利用データの全てがセンターサ ーバに蓄えられる仕組みになっています。 その利用されたデータを、トランザクションデータと呼んでいまして、一回改札機にタ ッチするとワントランザクション、出場時にもう一回タッチするとワントランザクション となります。ですからワントリップでツートランザクションが発生することとなります。 最初に Suica を導入したときのセンターサーバは最大処理件数 800 万トランザクション で構築しましたが、PASMO との相互利用を控えた 2006 年1月に、ID 管理システムのサ ーバを増強しました。この時は、どのくらいの最大トランザクション数を想定してサーバ を構築するかずいぶん考えました。当時、800 万トランザクションに近づいていたため、 PASMO との相互利用を想定し、その倍の 1600 万に、電子マネーの拡大分として、400 万を足して 2000 万 でセンターシステムを構築することも考えたのですが、念のため最大 5 3000 万トランザクションとしました。実際、2007 年 3月の PASMO との相互利用開始後 すぐに約 1600 万トランザクションを超え、現在では 2000 万を超える日も珍しくなくなっ て来ています。なお、トランザクション数には、週の中でも山と谷があります。特に谷の 部分は、小さい谷は週末で、企業の休日はトランザクション数が減少します。それから年 末年始、お盆等が大きな谷となります。トランザクション数は、企業等の休日との関連性 が高くなっています。 次に、現在、Suica が使える駅は、首都圏では Suica と PASMO を合わせて 1782 駅あ ります。そのほかには仙台エリア、新潟のエリア、JR 西日本の岡山・広島を含む ICOCA エリア、それから本年 3 月からは JR 東海の TOICA と も相互利用を開始しています。合 計で約 2400 を超える駅で Suica が使えるようになっています。 これは、Suica と PASMO の相互利用可能な首都圏の鉄道路線図です。もう少し数字的 に見ますと、Suica の事業者は、当社の他、東京モノレール、りんかい線等です。一方、 PASMO の 事業者は、2007 年 3 月に相互利用を開始した時は鉄道で 23 社、最終的には 26 社となる予定です。バスは 31 社で始まり、最終的には 75 社、車両台数にして当初の 4500 台から最終的には1万 4000 台と約 3 倍になる予定です。 続いて、相互利用サービスの仕組みを説明いたします。PASMO においても、先ほどお 話しましたとおり、センターサーバがあってネットワークを介して端末、媒体があるとい う構成は Suica と同じです。技術的な情報は、私どもが「技術のオープン化戦略」として 開示しました。従って、PASMO とはシステム・機器の仕様を統一し、ソフトウエアの共 通化を図ることにより、安定性・信頼性の向上とコストダウンを併せて進めました。 PASMO との相互利用開始に際しては、駅務機器が正確に動作することを確認するため に、総当たり確認を様々な機器で行い、試験件数は、約 40 万件にもなりました。また、 運賃設定を誤ると、お客さまに大変なご迷惑をお掛けすることとなるため、運賃判定検証 は特に念入りに行いました。例えば、東京メトロ線のA駅から乗車して、乗換改札の無い B駅で乗換えて、最終的に JR 線のC駅で降りる場合など、あらゆる移動パターンを設定 して運賃の判定検証を繰り返し、約1年間をかけ、12 億 3000 万通りの運賃検証を行いま した。このような試験・検証の積み重ねを行い、万全を期して Suica と PASMO の相互利 用のスタートに踏み切ったわけです。 なお、Suica の発行枚数は、9 月末現在で 2615 万枚で、現在でも 1 日約1万枚のペース で増えています。一方、PASMO の発行枚数も 1000 万枚を超えました。発行枚数の面か 6 ら見ても首都圏での相互利用は、多くのお客さまにご好評をいただいているものと考えて います。 次に、電子マネーのご利用状況についてです。このグラフは、折れ線グラフが1日あた りの利用の件数を示しており、9 月末現在で1日あたり最高 134 万件のご利用がありまし た。また、棒グラフは Suica 電子マネーが利用できるお店の数を示しています。PASMO との相互利用を開始した昨年 3 月以降をご覧になっていただくと分かりますが、店舗数は ほとんど増加していないにも関わらず、利用件数が急に増加した時期がありました。これ も相互利用の影響で、IC カードの利用が活性化した例の 1 つです。 現在、PASMO も積極的に電子マネー加盟店の開拓に取り組んでおり、双方が力を合わ せて電子マネーの普及拡大に力を注いでいる状況です。 このように、首都圏相互利用サービスは、Suica、PASMO 双方に非常に大きなインパク ト が あ り ま し た 。 Suica の 導 入 の 時 に も 様 々 な イ ン パ ク ト が あ っ た と 感 じ ま し た が 、 PASMO と の相互利用がこれほど大きなインパクトになるとは予想していませんでした。 Suica の発行枚数だけでなく、モバイル Suica の会員数も相互利用を機に大幅に伸びてい ます。また、電子マネー利用件数も 40 万件前後だったものが、約 134 万件と 4 倍以上に 伸びました。チャージも、1 昨年度が年間約 3500 億円の実績だったのが、昨年度は1年 間で約 6400 億円と大幅に増加しました。1兆円チャージされ、1兆円が使われるように なるのも、近い将来のことではないかと考えます。その様になると、チャージの環境の整 備といった課題が出現します。この話題については後ほど改めてお話いたします。 このような Suica の成長からでしょうか、「Suica 成功の鍵は?」とよく尋ねられます。 私はこの問いに対して、 「努力」と「背景」の二つの相乗効果であると考えています。お客 さまの「きっぷを買うのが面倒だ」、「定期券を定期入れが出し入れするのが面倒だ」とっ たご意見を、様々な問題を一つ一つクリアする「努力」で、Suica 導入という形で愚直に 改善を実現したことが 1 つの要素であると考えます。PASMO との相互利用実現も、12 億 3000 万通りの運賃検証等という気の遠くなるような地道な「努力」の積み重ねの成果であ ると考えています。そういった「努力」に加え、もの作り国家「日本」の原点である技術 の蓄積、世の中の技術の進歩など、「努力」を後押しする「背景」がありました。 更には、経営陣の決断も大きな要素であったと思います。Suica 導入については、副社 長をトップとしたプロジェクト方式を採用し、社内を横断的に様々な意見をまとめました。 また、コスト・ベネフィットが釣り合うとありますが、当初は非常に過大な投資額になる 7 ことから、本当に効果があるのか等の議論がありましたが、現時点では、コストと見合っ た効果が現れていると考えております。それから、Suica がスムーズに導入できた要因と しては、既に 1990 年 から、磁気式の自動改札機を導入していたことが、お客さまにとっ て激変緩和となり良かったと感じています。 これから、Suica の展開戦略についてお話いたします。まず JR 東日本の事業ドメイン の変遷についてお話します。鉄道の歴史は、1872 年に新橋-横浜間で鉄道が引かれたこと によりスタートしました。それから 136 年が経過しましたが、当時は極めて稀な第三次産 業でした。鉄道事業は、136 年前から、ある地点からある地点までお客さまや荷物を運ん で対価を得るビジネスモデルです。その後、阪急グループの創始者である小林一三氏が、 駅ビル、ホテル、不動産、広告等、特に鉄道とのシナジーを強く意識した業態を組み合わ せた事業展開を行いました。残念ながら私どもは、国鉄時代には、法律の制約もあり、こ の 様 な事 業展 開 を行 うこ と がで きず 、 JR が 発 足 して 以降 、 本格 的に 生 活サ ービ ス 事業と して取り組んでいます。これが私どもにおける第2の柱です。更に、私どもの第3の柱と して確立を目指している Suica 事業は、鉄道というコアの事業の中の改札業務という一つ のプロセスを変えたことにより誕生しました。 先にもお話しました通り、鉄道事業はA地点からB地点までの旅客・貨物を運送するこ とによって対価を得る事業です。乗車券はその対価の証票にすぎません。この乗車券を IC 化したことにより、乗車券としての機能に追加された電子バリューを決済ビジネスに活用 し電子マネー事業の展開が可能となりました。更に、個人のいろいろな情報がセキュアに 蓄えられることが可能となったので、個別認証として利用できるようにもなり、認証ビジ ネスへの活用、つまり、入退館管理システムでのマンションキーとしての利用、ポイント 等のマーケティングデータへの活用が可能となりました。 また、媒体に記録できるデータ容量が大きいため、クレジットカードと一体化したカー ドなど、他の媒体と Suica を一体にすることができるようになりました。更に、媒体もカ ード形状だけに留まらず、携帯電話と一体化したモバイル Suica のサービスも開始しまし た。拡張領域を活かしたビジネス、既存サービスとの組み合わせによって、新たなビジネ スを考えられることが、乗車券の IC 化による効果であり、私どものビジネス全体に拡張 性をもたらしました。鉄道事業のたった 1 つのプロセスを革新したことが大きな革新につ ながったということができます。 8 当初は、IC 乗車券のインフラ整備を自社のコントロールの元で、コア事業である鉄道事 業の増収とかコストダウンの実現を目指していましたが、Suica がもたらしたビジネスの 拡張性を活かして、決済という分野では、電子マネー事業を展開し、乗車券機能では全国 の鉄道事業者と相互利用を行っています。更には、電子マネー事業でも相互利用を行い、 アクワイヤリングの事業者と加盟店拡大に取り組んでいます。更に、モバイル Suica では 携帯電話のネットワークを活用した決済代行事業を展開しています。 この他、入退館管理システム、SuiPo と呼んでいる Suica ポスター、認証ビジネスとい った分野において、グループ会社、その他の企業と提携を行い、アライアンスパートナー が拡がってきています。 私どもの鉄道事業は元来、B to C の関係で、お客さまのご利用の実態を把握しにくいと いう点で、uncertain-customer だったのではないかと思います。しかし Suica の個別認証 機能やビューカードによる会員組織化、具体的には、モバイル Suica、大人の休日倶楽部 により、確かな顧客 certain-customer へと変化させています。鉄道事業における B to B は、従来、資材購入のような関係であったことから、B to B は苦手な分野でした。しかし、 Suica がスタートしてから、アライアンスのパートナーが非常に重要になってきました。 本来 B to C の会社が B to B に代わるという契機をつくったのは、Suica 事業のひとつの 特徴であるといえます。 第3のコア事業「Suica 事業」の概念図を説明します。「グループ経営ビジョン 2020- 挑む-」については、後ほどまた詳しくお話いたします。ベースには、鉄道インフラがあ り、その上に鉄道事業と生活サービス事業という二つの事業が成り立っています。オレン ジ色の点線の Suica インフラはこの 2 つの事業と関わることから、上に乗せました。Suica 事業によるシナジー効果は 2 つであり、1 つ目は Suica が既存の鉄道事業と生活サービス 事業へツールを提供することによるもの、2 つ目は Suica 事業と既存事業との相乗効果に よるものです。また、Suica の事業自体でもダイレクトにお客さまにアプローチすること や、アライアンスのパートナーに対するソリューションやツールの提供等を通じてお客さ まにアプローチを行っていきます。 これは Suica インフラの構築にあたっての戦略を図で表したものです。媒体戦略、端末 戦略がありますが、媒体と端末は、より広く社会的に普及させていく必要があります。こ のことから、媒体は、カードに限らずモバイル媒体も採用しました。そして、端末もいろ いろな端末が想定されます。チャージ戦略は Suica をご利用いただくための環境整備が重 9 要です。また広く普及させるためには、私どもの力だけでは限りがあるため、提携戦略も 必要です。なお、その土台として、当然ながらセキュリティの確保や信頼性のあるネット ワーク構築があって、はじめてこの 4 つの戦略を回していくことができます。 4 つの戦略の中から具体的な事例を幾つかを紹介します。媒体戦略には、更に「マスと パーソナル」という二つの戦略があると思っております。マスというのは、とにかく多く の方に Suica のカードを使っていただき、例えば無記名の Suica カード等を通じてスケー ルメリットを出すことを目指します。この具体的な例として、改札機器のメンテナンスコ ストや乗車券原紙代の低減が挙げられます。これらは大きな効果が現れています。 パーソナル戦略は、個人情報が無いレイヤーから個人情報を取得して、更に会員制のレ イヤーへ引き上げていく戦略で、上位レイヤーへの誘導を図ることによって最終的に私ど ものロイヤルカスタマーにしていくものです。このパーソナル戦略に更に注力し、現在、 「ビュー・スイカ」カードや、モバイル Suica といった施策を展開しています。今後更に、 その上のレイヤーを作りたいと考えています。 「交通 IC 乗車券の広がり」とありますが、私どもの Suica を中心に、相互利用を行っ ている、または予定している鉄道事業者等の IC 乗車券を示しています。PASMO、JR 西 日本の ICOCA、JR 東海の TOICA とは、既に相互利用を開始しています。来年の3月に は、JR 北海道の Kitaca と相互利用を開始する予定です。さらに、1年後の3月には JR 九州の SUGOCA、西日本鉄道の nimoca、福岡市交通局の「はやかけん」などの福岡エリ ア3社との相互利用を開始する予定です。IC 乗車券だけではなく、電子マネーサービスで も相互利用をする予定です。 パーソナル戦略のモバイル Suica は、2006 年の1月にサービスをスタートしました。 当初は、ビューカードという私どものハウスカードのみを決済手段として、SF、定期券、 電子マネー、普通列車グリーン券といったサービスを、NTT ドコモと au の2社の端末で 展開しました。その年の 10 月には、日本国内で発行されているほぼ全てのブランドのク レジットカードが利用できるようになりました。また、銀行チャージ、クレジットカード の登録がなくても手軽に利用可能な EASY モバイル Suica もスタートさせました。その年 の 12 月には、ソフトバンクの端末でもモバイル Suica を使えるようにしました。更に、 本年の 3 月からは、モバイル Suica 特急券サービスを開始し、私どもの新幹線(東北・上 越・長野・山形・秋田)をチケットレスにし、更に JR 東海のエクスプレスサービスも利 用できるようになりました。 10 モバイル Suica をスタートして感じたのですが、私は、Suica により改札という業務を 革新したという認識でしたが、モバイル Suica では、出札(乗車券の購入)にも革新を起 こしていると思っています。携帯電話のネットワークを通じて、 「いつでも・どこでも」き っぷが買えるようになりました。 もう 1 つのパーソナル戦略として、 「ビュー・スイカ」カードという、Suica とハウスカ ードのビューカードを一体化したものでがあります。最近では、定期券機能も付いた「ビ ュー・スイカ定期券」も発行しています。一枚で両方の機能を使えることから、非常に便 利であると、お客さまに好評を頂いております。 さらに、Suica とビューカードの一体化にとどまらず、当社グループのルミネやアトレ、 鉄道事業ではセグメント化した会員組織である大人の休日倶楽部での利用、さらに、社外 では、JAL や ANA、ビックカメラといった様々な企業との提携カードも発行しています。 また、現在、ビジット・ジャパン・キャンペーンとして国を挙げて取組んでいるインバ ウンド施策に関して、Suica で少しでもお役に立てることがないかと考え、2007 年 3 月か ら、Suica&N'EX という商品を発売しています。これは、海外からのお客さまの「きっぷ の購入が困難、クレジットカードが使えない」というご意見を受けてのもので、浮世絵の デザインの Suica と、少しお得な成田エキスプレスのきっぷを組み合わせた商品です。今 は、PASMO との相互利用により、首都圏を自由に、手軽に電車で移動出来るようになっ たと好評を頂いています。 端末戦略においては、端末をとにかく多く設置することが必要です。現在、電子マネー については、Suica 以外にも NTT ドコモの iD、ビットワレットの Edy、JCB の QUICPay、 イオンの WAON などが登場し、多くのお客さまに利用されています。このような状況を 踏まえ、電子マネー全体の普及を促進することを目的として、端末に関する共通インフラ を整備するための共通インフラ運営有限責任事業組合、LLP という組合組織を作りました。 この LLP では、共用のリーダーライターを開発し、現在、五つのバリュー(Suica、QUICPay、 iD、Edy、 WAON)が使えるようになっています。 利用可能箇所の増加に伴って、チャージ戦略、即ちチャージ環境の整備は、非常に重要 となってきています。駅でチャージが出来るというのは当たり前ですが、電子マネーで利 用するお店でもチャージできる箇所が最近増えています。さらに、オートチャージという サービスも展開しており、 「ビュー・スイカ」カードをご利用のお客さまが、駅の改札口に 入る時に、カード内のチャージ残額が 1000 円を下回ったら、クレジット決済で自動的に 11 一定額(1000 円単位で設定可能)チャージできます。この、オートチャージを利用する会 員は約 86 万人で、早い時期に 100 万人にしたいと考えています。 チャージの便利さという点では、モバイル Suica というのは、家でもオフィスでもどこ でもチャージができるということで非常に便利です。現在は、約 125 万人の方にご利用い ただいています。 それから、ポイントもある意味チャージ戦略の1つです。昨年 6 月から開始した、Suica ポイントクラブでは、Suica ポイントの加盟店において電子マネーでお支払いをすると、 利用金額に応じてポイントがたまります。貯めた Suica ポイントは、Suica のチャージ残 額に加えることができ、電子マネーとしても、乗車券としても利用することが出来ます。 Suica を使ってポイントをためて、更に Suica を使うという好循環で、Suica をもっと使 っていただきたいと思います。 ポイントにおけるもう1つの側面として、ポイント交換があります。他社の提供してい るポイントと Suica ポイントを交換出来るようにしています。ポイント交換では、より魅 力のあるサービスにポイントが流れる傾向があります。Suica ポイントは、乗車券や電子 マネーとして利用出来るという大きな強みがありますので、他のポイントから Suica ポイ ントに交換するお客さまが多くなっています。 ここからは話題を変え、JR 東日本グループの「グループ経営ビジョン 2020-挑む-」 という、新しい中期経営構想を発表しましたので、この中における Suica の今後の取り組 みについて、お話したいと思います。 国鉄改革後、当社グループの経営状況はおおむね順調に推移してきたと考えています。 しかし、単なる現状維持の発想では、間違いなく衰退していくと考えています。次のステ ージにおいて更なる発展を遂げるためには、新たな発想とチャレンジで会社を変えていく ことが必要であり、会社発足後 21 年が経過した本年 3 月末、更なる発展を目指した中期 経営構想「グループ経営ビジョン 2020-挑む-」を策定、発表しました。経営環境が厳し さを増す中で現状に甘んじる組織は衰退に向かうという認識に立ち、経営が順調である今 のうちに、あるべき姿を目標として掲げて積極果敢にチャレンジをしていく必要があると 考えています。サブタイトルを「挑む」としているのは、そのような理由からです。2020 年までの、十数年先を見据えた経営構想であり、過去の延長線という発想から脱却し、も う一段高い目標を掲げて挑もうというものです。この中で、IT・Suica 事業において掲げ 12 た、高い目標についてお話したいと思います。このグループ経営ビジョンの中に「7つの ギアチェンジ」という項目があり、ここではあるべき姿を目指し、経営のギアチェンジを 行う項目を掲げています。その一つが、Suica 事業です。「Suica 事業を経営の第3の柱と して確立する」ことが、大きな目標です。具体的な目標として、 「交通系ネットワークの拡 大 」、「 電 子 マ ネ ー No.1 ブ ラ ン ド の 確 立 」、「 情 報 ビ ジ ネ ス へ の 挑 戦 」 の 三 つ を 掲 げ てい ま す。 交通系ネットワークの拡大では、日本における IC 乗車券のデファクト・スタンダード として、Suica の相互利用ネットワークを更に拡大すること、Suica を更に普及させ、首 都圏での IC 利用率を 90%にすること、更には IC100%化作戦と呼んでいますが、私ども のエリア内では、どこでも Suica が使えるようにすることを掲げています。その前段とし て、現在の Suica エリア内の Suica の利用率を現在の約 76%から、2010 年度に 90%とし たいと考えています。JR 東日本エリアにおいてどこでも Suica を使えるようにするため には、ローカル線や在来線の特急、東京、仙台、新潟などのエリア間を跨るご利用の場合 等の課題を挙げて、解決策を検討しています。なお、自動改札機における IC カードの利 用率の推移ですが、首都圏の IC カード相互利用が始まった当初から、50%を超えていた のですけれども、IC カード相互利用開始後上昇し、現在では全エリア平均で 76.4%、首 都圏では、77.5%となっています。これから利用率を 10%、15%上げていくのが非常に大 変です。 電子マネーは、Suica 以外にも様々な事業者がサービスを提供していますが、取扱件数 でナンバーワンになりました。今後は、件数だけではなく、サービスの質等においてもナ ンバーワンを目指して取り組んでいきます。そして、現在 1 日あたり 134 万件の決済件数 を、2010 年には1日 800 万件とすることを目標に利用可能箇所の拡大等のサービス向上 に取り組んでいます。 最後に、情報ビジネスへの挑戦は、1日あたり 2000 万トランザクションという、移動 や小額決済情報をデータベース化してビジネスに活用しようというものです。現在、今後 の具体的な展開について、検討を行っていますが、将来の事業のイメージでは、IC 乗車券、 電子マネーを通じて蓄積された鉄道やショッピングの小額決済情報、ビューカードを通じ て蓄積される鉄道、ショッピングの高額決済情報を情報通信サービスという、四本目の事 業を、最新のモバイル技術で横通しをすることによって「全生活情報ソリューション事業」 として展開していきたいと考えています。 13 この、「全生活情報ソリューション事業」とは、IT・Suica 事業本部を発足させた時に、 事業本部の事業ドメインとは何かという議論をして出した方向性です。当初は、IT・Suica 事業だから「IT」と「 Suica」が事業ドメインだとする意見もありましたが、もっと広く、 あるいは分かりやすくしようと知恵を出した結果、Suica やクレジットは、生活に密接し た情報であることから、 「生活情報ソリューション事業」としました。最後に「全」を付け たのは、時間、場所を超えて、いつでもどこでも全生活に関する情報ソリューションを提 供していくことを目指したことによるものです。 全生活情報ソリューション事業の市場規模については、次のように考えています。電子 マネー市場は、現在約 0.5 兆円ですが、電子マネーと親和性の高い決済金額が 3000 円以 下の少額決済市場は、約 60 兆円あるとされています。更に高額な金額をクレジットカー ドの決済市場とすると、現在の日本におけるクレジットショッピング取扱高というのは 32 兆円、決済比率で 11.2%です。日本の倍のアメリカ並みの 24%ぐらいまでこの比率が拡 大したとすると、クレジットカードの決済額は、72 兆円になりますので、先ほどの少額決 済と合わせ、約 130 兆円が対象の市場になると考えています。デビットカードが広く普及 していない状況から、日本においては、電子マネーとクレジットカードが現金に代わる決 済手段になると考えています。幸いなことに私どもにはこの 2 つの決済手段があり、これ を強みとして積極的に事業を展開していきたいと考えています。 なお、Suica を軸に蓄積される生活情報の特徴は、1日あたり 2000 万トランザクショ ンという強大な情報データベースです。そして、お客さまの生活行動情報が、カードの ID ナ ンバー別に すべて蓄積 されていま す。このよ うなデータ は、 CRM や マーケ ティン グ ・ ソリューションビジネスへの展開に有効だと考えています。蓄積されている情報は、移動、 電子マネー決済、クレジット決済、ポイント、クーポン、様々なパートナー企業の固有情 報であり、従来は、消費の点と点でしかなかった情報を、線でつなぐことができるように なります。 この全生活情報を蓄積したデータベースの完成後のアプローチとしては、以下の 3 通り を考えています。一つ目は、お客さまとの情報交換の中でお客さまの購買意欲を刺激する 情報提供の方法。二つ目は、グループ内・外の企業にこの情報を有償で提供することによ り新しい商品、サービスを開拓してお客さまの購買意欲を刺激する方法。三つ目は、提携 企業を通じて、情報をソリューション可能な状態としてグループ内・外の企業に提供して、 二つ目と同様、新しい商品やサービスを提供し、お客さまにアプローチする方法です。最 14 終的にはお客さまの購買行動に結び付けることが目的なのですが、その過程で情報を有償 で提供していくビジネスモデルを構築したいと考えています。 情報通信サービス事業の展開も、グループ経営ビジョンの中で謳っておりますが、商用 無線通信の自営インフラ的活用を目指したものです。商用無線をあたかも自分の会社のイ ンフラであるかの様に活用する構想です。WiMAX と呼ばれる次世代の高速無線データ通 信サービスを使用します。私どもは、WiMAX 事業者である、「UQ コミュニケーションズ ㈱」に出資をしています。この無線通信を輸送に関わる通信ではなくて情報系のサービス に使用しようと考えています。無線ですから非常に設備の設置が簡単であり、これから伸 びていく分野と考えています。 これは、WiMAX を使用したサービスのイメージです、駅社員の情報端末への情報伝送、 デジタル広告への情報の電送、電子マネー端末からのデータの吸い上げ、保守担当社員が 現地に持参する端末、定置をして監視に使うカメラ等、様々な用途に活用することを想定 しています。このインフラの活用範囲が拡大していくのに合せて、更に他社へ拡げていき たいと考えています。Suica と同じように、自社から外へ拡げるビジネスモデルをイメー ジしています。 次に Suica の信頼性とセキュリティについてお話したいと思います。Suica を紛失した 場合、窓口に申し出ると個人確認をし、紛失したカードの ID 番号を特定し、センターサ ーバに蓄えます。そのデータはすぐさま駅の機器に配信されます。そうするとカードを拾 って使おうとしてもチェックがかかり使えません。このチェックがかかるまでの時間につ いては、山手線で隣の駅行くまでの間になされることを目指しました。紛失したカードは、 完全に停止され、翌日以降、申し出を頂いた時点のチャージ残額を引き継いで、再発行を 行うことができます。セキュリティを担保しつつ、サービスの質も向上させています。 更に、ISO15408 に 基づくセキュリティ評価・認証というものを 2003 年の6月に取得 しました。セキュリティについては自社内での検証だけではなく、外部から客観的に評価 し て い た だ く こ と も 非 常 に 重 要 で す 。 結 果 、「 EAL4 」 と い う 認 証 を 受 け て い ま す 。 こ の 規格の最高レベルは7まであり、レベル5以上は軍事用に求められるレベルと言われてい ますので、レベル 4 は、民生レベルでは最高レベルとなります。 これまで述べてきたように、Suica は、オープンで大規模なインフラとなったことから、 社会インフラ化しました。このため、システムやネットワークに求められる信頼性、安定 性、セキュリティレベルは非常に高くなっています。そこで、私どもでは、以下の 4 つの 15 取り組みを行っております。 1つ目は、2005 年 7 月に、体制整備として、IT・Suica 事業本部内にセキュリティマネ ージャーを 3 名配置しました。 2 つ目として、PASMO との相互利用を機に、Suica システムの稼動状況を常時監視する Suica システム管制室を設置しました。これは 24 時間 Suica システムの稼動状況を調べて おり、もし何かあればすぐに関係者に連絡をする体制となっています。昨年の 10 月 12 日 に、首都圏の自動改札機がソフトのバグで利用できなくなり、大変ご迷惑をおかけしまし たが、その際も、管制室の存在が、かなり早い時点での事象把握を可能にしたため、設置 の効果があったと思っています。 3 つ目として、サイバネセキュリティ評価及び認証制度という技術管理の仕組みがあり ます。鉄道事業者で組織するサイバネティクス協議会において、セキュリティの評価やそ の評価に基づく端末認証等、自主的にセキュリティの評価・認証をするような制度を構築 し、昨年 6 月から運用しています。 4 つ目として、技術力の向上のために、定期的に Suica システム技術懇談会を開催して います。これは私どもの社長を含めた常務クラス以上の役員に、Suica に関わる最先端の システム、技術の動向とその内容について外部有識者を招いてお話をいただくものです。 この場を通じて、最先端技術の習得、セキュリティレベル向上等の勉強も行っています。 最後に、「Suica が世界を変える!」と題して、Suica がもたらす変革についてお話しま す。当初、Suica は、私どもの自社インフラでした。それがオープン化といった様々な施 策によって拡がり、今や、Suica は、社会インフラ化したと言っても過言ではないと思い ます。鉄道が、社会基盤としての第1次インフラとすれば、Suica は生活基盤としての第 2次インフラとして定義可能と考えます。1次、2次の両方のインフラの共生とシステム の安定稼動の確保が極めて重要であることは間違いなく、先ほども申した様に、様々な信 頼性・セキュリティ向上のための取り組みを行っています。 Suica には、交通インフラとしての機能、それから電子マネーとしての決済インフラと しての機能、それから通信インフラと融合した生活インフラとしての機能という 3 つの側 面があります。特に通信インフラと融合したモバイル Suica は、従来の Suica カードと比 べ、空間的・時間的制約から解放されます。駅の乗車券発売・改札業務双方でのシステム チェンジだけではなく、お客さまの生活スタイルそのものにも変化をもたらし、私どもの 16 事業構造革命、Suica をご利用いただくお客さまの生活革命につながっていくと考えてい ます。 Suica では、私どものコアである鉄道事業の改札という百年来のプロセスを改革したこ とにより、第 3 の事業を創出しました。また、モバイル Suica では、乗車券発売のプロセ ス に も 変 化 を も た ら し ま し た 。 非 常 に 難 し い こ と だ と は 思 い ま す が 、 IC チ ケ ッ ト 率 が 100%になると、例えば、券売機自体やその釣り銭準備金が不要になります。これにより、 新たな駅スペースが生まれます。空いたスペースを第 2 の事業である生活サービス事業で 活用したり、コスト構造そのものの変革につながるのではないかと考えています。 企業のコアになる業務の変革をするにはとても大きなエネルギーが必要となりますが、 変革をすることで、その影響はコア事業自体にとどまらず、より広範な変革となることを 実感したのが Suica でした。 最後に、Suica が生活に与える影響についてお話しします。首都圏 IC カード相互利用に より、交通のバリアフリー、生活のバリアフリーが実現されつつあり、お客さまの生活の スタイルが首都圏においては、変わってきていると感じています。今後、首都圏は世界に 誇る IC カード先進都市として変貌を遂げ、首都圏から日本へ、そして世界へとライフス タイルの革命が拡大していくと思います。 日本の鉄道はこれまでに世界を2度変えました。最初は、新幹線により鉄道の高速化の 先駆となり、世界中で高速鉄道の導入が進みました。次に、民営化により、日本の企業再 生モデルは、世界から、鉄道や交通事業の民営化の手本と見られています。これらは、い ずれもコア事業である鉄道事業を革新したという点で共通しています。そして、今度は第 三の事業である、Suica を通じて、世界を変えていきたいと思います。 以上でございます。ご清聴どうもありがとうございました。(拍手) 17