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ゲノム編集ツール Edit-R CRISPR-Cas9

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ゲノム編集ツール Edit-R CRISPR-Cas9
imagination at work
ゲノム編集
RNAi、遺伝子発現、
ゲノム編集ツール
™
Edit-R CRISPR-Cas9
www.gelifesciences.co.jp
テクニカル・マニュアル
Dharmacon™ (ダーマコン)
目次
1 CRISPR-Cas9 システムによるゲノム編集の概要 ........................................................................ 3
細菌・古細菌の適応免疫防御機構、CRISPR-Cas...................................................................................... 3
CRISPR-Cas9 システムの改変、哺乳動物のゲノム編集への応用 ........................................................... 3
2 Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール ..................................................................................... 4
Edit-R SMARTCas9 Expression Plasmid(Cas9 ヌクレアーゼ発現用プラスミド)........................... 4
Edit-R trans-activating CRISPR RNA(tracrRNA)..................................................................................... 5
Edit-R CRISPR RNA(crRNA).............................................................................................................................. 5
crRNA の設計について ......................................................................................................................................... 6
設計ツール Dharmacon CRISPR RNA Configurator による crRNA の設計 ................................. 6
カスタム crRNA のご注文 ................................................................................................................................ 6
3 Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール各コンポーネントによるコトランスフェクション......... 7
必要な Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール関連材料 ........................................................................... 7
その他の必要な材料.............................................................................................................................................. 7
Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール各コンポーネントによるコトランスフェクションの
一般的な手順 ........................................................................................................................................................... 8
細胞の播種........................................................................................................................................................... 8
コトランスフェクション .................................................................................................................................... 8
ゲノム編集によって変異を導入した細胞の濃縮 ........................................................................................ 9
ゲノム編集結果の確認アッセイに関する推奨事項 .....................................................................................10
4 トランスフェクション条件の最適化 .......................................................................................... 10
5 Appendix ..................................................................................................................................12
ブラストサイジン耐性マーカー BlastR 搭載
Edit-R CRISPR-Cas9 Nuclease Expression Plasmid .............................................................................12
安定性と保存 ........................................................................................................................................................ 13
Dharmacon Edit-R SMARTCas9 Expression Plasmid .................................................................... 13
Dharmacon Edit-R tracrRNA、crRNA .................................................................................................. 13
Dharmacon DharmaFECT Duo Transfection Reagent................................................................. 13
FAQ(よくある質問).............................................................................................................................................14
文献 ...........................................................................................................................................................................18
6 Evrogen 社ライセンスについて ................................................................................................ 19
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
1 CRISPR-Cas9 システムによるゲノム編集の概要
細菌・古細菌の適応免疫防御機構、CRISPR-Cas
CRISPR(clustered regularly interspaced palindromic repeats)-Cas(CRISPR-associated proteins)システムは細菌や古細菌
が備える適応免疫性の防御機構であり、外来の核酸を認識しその機能を阻害する働きがあります。細菌や古細菌は、バクテリオ
ファージなど外来の DNA 因子に感染を受けて宿主となるとき、その外来 DNA 因子から(プロト)スペーサーと呼ばれる短い配列
を切り取り、自身がもつゲノムの特定領域(CRISPR 遺伝子座)にパリドローム(回文配列)様リピート配列とともに組み込みます。
さまざまなスペーサーとリピート配列からなる複数のユニットが CRISPR 遺伝子座に集まり、クラスター化することにより、CRISPR
配列と呼ばれる配列が形成されます。CRISPR 配列を含む遺伝子座全体が RNA ポリメラーゼにより転写されてプレ CRISPR RNA
(プ
レ crRNA)と呼ばれる一次転写産物を生じ、このプレ crRNA がさらに CRISPR RNA(crRNA)と呼ばれる短い成熟型の RNA に分
割されます。このとき得られる crRNA には、外来 DNA 因子に対して相補的な配列が含まれています。crRNA は多機能性のタンパ
ク質またはタンパク質複合体(CRISPR-associated[Cas]タンパク質)を呼び込み、外来 DNA 中の短鎖 protospacer-adjacent
motif(PAM)に隣接する相補的な標的配列を切断します。これにより、宿主菌は感染の進行から守られます(Bhaya, 2011)。
CRISPR-Cas9 システムの改変、哺乳動物のゲノム編集への応用
細菌や古細菌の CRISPR-Cas システムとしてはこれまでに多くの種類が同定されており、そのメカニズムや Cas タンパク質、サブ
ユニットが形成する複合体にも様々な種類があることが確認されています。特に Streptococcus pyogenes(S. Pyogenes )がも
つ CRISPR-Cas9 システムに関してはそのプロセスや主なコンポーネントの研究が進んでおり、このシステムを改変して哺乳動物細
胞のゲノム編集に応用する試みがなされています。S. pyogenes が DNA の PAM に隣接する特定配列を標的とし、これを切断する
プロセスは、わずか 3 つのコンポーネントにより行われます(Jinek, 2012)。
(1)Cas9 エンドヌクレアーゼ
(2)crRNA:CRISPR 遺伝子座(CRISPR 配列)の転写により生じる成熟型 RNA
(3)trans-activating CRISPR RNA:CRISPR 遺伝子座から生じるもうひとつの RNA であり、crRNA と部分的にハイブリッドを形成
する
。
図 1 に模式図を示しています(tracrRNA、Deltcheva, 2011)
哺乳動物の細胞は、部位特異的な二本鎖 DNA の切断を受けた場合にそれを修復する機能を備えています。修復は非相同末端結
合(NHEJ)か相同組み換え(HR)かのいずれかの過程により行われますが、NHEJ による修復は短鎖の挿入や欠失を伴う不完全
なものであることが多く、これらの挿入や欠失がナンセンス変異を生じてその遺伝子の破壊、ノックアウトに至る場合があります
(Mali, 2014; Sampson, 2014)。細胞自体が行うこの DNA 切断修復過程と、S. pyogenes の CRISPR-Cas9 システムという非常に
扱いやすい系とを組み合わせることで、シンプルなプラットフォームによる遺伝子機能の恒常的な破壊が可能になります。
PAM
ゲノムDNA
crRNA
3’
5’
5’
3’
tracrRNA
図 1 Cas9 ヌクレアーゼの模式図(水色)
。
tracrRNA(青)と crRNA(緑)との複合体を
形成し、crRNA のもつガイド配列と相補的な
の 5' 側で切断
ゲノム DNA の両鎖を PAM(赤)
します。
3
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
2 Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール
Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツールは哺乳動物細胞のゲノム編集に必要な 3 つのコンポーネントから構成されています。
(1)Cas9 ヌクレアーゼを発現する遺伝子配列を含むプラスミド(哺乳動物での発現用にコドン最適化済み)
(2)74 塩基長の tracrRNA
(3)ご希望の標的配列に合わせて設計した crRNA
いず れも天 然 の S.pyogenes が もつ CRISPR-Cas9 システムをベースとしたコンポーネントで、 トランスフェクション 試 薬
DharmaFECT ™ Duo Transfection Reagent を使ってこれら 3 つのコンポーネントすべてを同時に、目的の哺乳動物細胞に導入
することにより、遺伝子の破壊を行います。実験の全体的なワークフローは図 2 のとおりです。以下、個々のコンポーネントにつ
いて詳しく説明します。
ターゲットcrRNA
の設計
Webで注文
crRNAの配列を
1遺伝子あたり3~5種類、
1. カスタム設計したcrRNA
2. tracrRNA
3. Cas9ヌクレアーゼを発現
カスタム設計します
納品後
トランスフェクション
Cas9ヌクレアーゼ
tracrRNA:crRNA
発現用プラスミド
用プラスミド
4. DharmaFECT Duo
トランスフェクション試薬
培
2~ 養
日 3
図 2 Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツールを用いた
遺伝子ノックアウトのワークフロー
ご注文はこちら
dharmacon.gelifesciences.co.jp
> ゲノム編集
間
培養 4
3~ 間
日
ゲノムが編集された細胞を
FACS法で濃縮
ゲノムが編集された細胞を
抗生物質選択で濃縮
SMARTCas9
Expression Plasmid
(mKate2)使用時
SMARTCas9
Expression Plasmid
(Puro R)使用時
Edit-R SMARTCas9 Expression Plasmid(Cas9 ヌクレアーゼ発現用プラスミド)
(Csn1)遺伝子をヒトでの発現用に最適化した配列、蛍光レポーター
(mKate2、Evrogen 社、モスクワ)かピュー
S. pyogenes の Cas9
R
ロマイシン耐性マーカー(Puro )かのいずれか一方、そしてこれらの上流に位置する単一のプロモーターを含む、Cas9 ヌクレアー
ゼ発現用プラスミドです(図 3A)。Cas9 コード領域の 3' 末端ではなく 5' 末端に mKate2 または PuroR を配置することにより、C
末端に余分なアミノ酸が結合することによる Cas9 の活性低下を防いでいます。
プロモーターは複数のオプションのなかから、使用する細胞に合わせてもっとも活性が高いものをお選びいただくことが可能です
(図 3B)。SMARTCas9 Expression Plasmid は全製品とも、エンドトキシンを含まない乾燥状態のプラスミド DNA となっており、
そのままトランスフェクションにお使いいただけます。
4
mKate2 T2A
Cas9
pA
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
SMARTCas9 (mKate2) Expression Plasmid
テクニカル・マニュアル
hCMV
mCMV
hEF1α
mEF1α
PGK
CAG
mKate2 T2A
SMARTchoice
プロモーター
SMARTchoice
プロモーター
AmpR
Cas9
hCMV
mCMV
hEF1α
mEF1α
PGK
CAG
PuroR T2A
pA
Cas9
pA
SMARTCas9 (PuroR) Expression Plasmid
SMARTCas9 (mKate2) Expression Plasmid
AmpR
AmpR
ベクター
要素
働き
Cas9
ヒトでの発現用にコドンが最適化された S. pyogenes の Cas9
ヌクレアーゼ。 tracrRNA ・crRNA と複合体を形成し、標的配
列を切断する
mKate2
hCMV
働き
mCMV
ヒトでの発現用にコドンが最適化された S. pyogenes の Cas9
hEF1α
ヌクレアーゼ。 tracrRNA ・crRNA と複合体を形成し、標的配
mEF1α
列を切断する
PGK
赤色蛍光性単量体タンパク質。トランスフェクシ
ョンと細胞選別
CAG
を視覚的に追跡することを可能にする
(励起極大 588 nm、発光
PuroR
ピューロマイシン耐性マーカー。哺乳動物細胞に抗生物質耐性を
与え、トランスフェクションを受けた細胞の選別を可能にする
T2A
自己切断ペプチド。単一の転写物から
PuroR T2A
Cas9 mKate2
pA と Cas9 を同時
に発現させる
T2A
自己切断ペプチド。単一の転写物から PuroR と Cas9 とを同時
に発現させる
AmpR
アンピシリン耐性遺伝子。大腸菌 培養でのベクター増幅に用いる
SMARTchoice
プロモーター
ベクター
要素
Cas9
AmpR
pA
極大 653 nm)
アンピシリン耐性遺伝子。R大腸菌 培養でのベクター増幅に用いる
SMARTCas9 (Puro ) Expression Plasmid
ウシ成長ホルモン(BGH)のポリアデニル化シグナル
pA
ウシ成長ホルモン(BGH)のポリアデニル化シグナル
R
図 3A Edit-R SMARTCas9
Plasmid のベクター要素
AmpExpression
プロモーター
説明
hCMV
ヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター
mCMV
マウスサイトメガロウイルス前初期プロモーター
hEF1α
mEF1α
マウス伸長因子1αプロモーター
PGK
マウスホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター
CAG
トリβアクチンハイブリッドプロモーター
ヒト伸長因子1αプロモーター
図 3B Edit-R SMARTCas9 Expression Plasmid に
使用できるプロモーター一覧
このほか、プロモーター hCMV とブラストサイジン耐性マーカーを備えた Cas9 発現用プラスミドもご用意しています(ベクターマッ
プ、プラスミドの使用に際しての推奨事項に関しては 12 ページ「Appendix」をご覧ください)。
Edit-R trans-activating CRISPR RNA(tracrRNA)
公表されている S. pyogenes の tracrRNA 配列(Jinek, 2012)をベースに化学的に合成し、HPLC 法で精製した長鎖 RNA です。
複数の哺乳動物細胞で効率的なゲノム編集を行えることが試験で確認されています。
Edit-R CRISPR RNA(crRNA)
切断するゲノム DNA の標 的 配列(プロトスペーサー)と同じ配列の 20 塩 基、そして tracrRNA と相互作用をもつ特 定の S.
pyogenes 由来リピート配列からなる合成 RNA です。プロトスペーサーとするゲノム DNA 中の標的配列としては、そのゲノム DNA
がもつ PAM の上流側近傍の配列をお選びいただく必要があります。S. pyogenes の主要な PAM 塩基配列は NGG です(図 4)。
5
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
crRNA の設計について
crRNA は目的の標的配列に合わせて設計することが可能です。次の手順に従ってください。
• 切断したいゲノム DNA 配列のなかから、PAM(S. pyogenes の場合は NGG)の 5' 側(上流側)近傍に位置する塩基 20 個を
選択します。
• 先頭の塩基の種類は、切断したいゲノム DNA 配列に含まれているものであればどれでもかまいません。RNA の転写開始に U6
プロモーターを用いる系とは異なり、5' 末端の塩基が G である必要はありません。
• 標的配列は切断したいゲノム DNA 配列のどちらの鎖にも設定することが可能です(図 4)。
• 選択した標的配列と同一の配列や酷似する配列が PAM の 5' 側近傍、特に同じゲノム DNA 配列内の他のコード領域に存在する
ことがないよう、配列の照合を行います(Fu, 2013; Hsu, 2013; Wang, 2013)。
PAM から 3 塩基分上流側の位置で、DNA の両鎖が Cas9 ヌクレアーゼにより切断されます。
設計ツール Dharmacon CRISPR RNA Configurator による crRNA の設計
• crRNA を 設 計 するため のツールとして Dharmacon CRISPR RNA Configurator をご 利 用 いた だ けま す(dharmacon.
gelifesciences.com/gene-editing/edit-r/custom-crrna/ をクリックし、"I want to design a crRNA"[crRNA を設計する]
と書かれたタブを開いて遺伝子のデータを入力してください)。ツールが次の手順により遺伝子ノックアウト実験用の crRNA
を設計します。
• 目的の遺伝子のなかから、その遺伝子の機能を喪失させる可能性のある標的配列を特定します。標的配列の検索は遺伝情
報を含む転写物の全バリアントを対象に、その遺伝子を構成する最上流のエクソンから順次行われます。検索対象を特定の
バリアントのみに絞り込むことも可能です。
• 特異性向上のため、配列の照合を行います。選択した標的配列が PAM の 5' 側(上流側)近傍の配列と照合され、同一の配
列や酷似する配列があればそれが検出されます。同じ遺伝子内の他の領域と完全に一致している、あるいは一致率が非常に
高い crRNA 配列は排除されます。
カスタム crRNA のご注文
• 標 的 配 列 に設 定 する 20 塩 基をすで にお決 めに なっている場 合 は、 カスタム crRNA の 合成 をご 注 文いただ けます。
dharmacon.gelifesciences.com/gene-editing/edit-r/custom-crrna/ にアクセスし、"Use my own crRNA sequence"(自
分の crRNA 配列を使う)と書かれたタブを開いて配列を入力してください。
• 個々の標的配列について 20 塩基の情報を入力してください。Dharmacon CRISPR RNA Configurator によって所定の S.
pyogenes 由来リピート配列が 3' 末端に付加され、42 塩基のカスタム crRNA が完成します(図 4)。
図 4 ヒト遺伝子 PPIB(chr15:64448014 ∼ 64455354)のノックアウトを行
うための標的配列 20 塩基を選択する場合の例。PAM(下線、赤)の 5' 末端に
隣接する標的配列を選択して crRNA に組み込みます。選択した 20 塩基の配列
(下線、緑、太字)を Dharmacon CRISPR RNA Configurator に入力すると、
DNA 配列が自動的に RNA 配列へと変換されるとともに、22 塩基の長さをも
つ所定の S. pyogenes 由来リピート配列(緑)が 3' 末端に付加され、目的の
遺伝子に特異的な 42 塩基の crRNA が完成します。完成した crRNA をカート
に入れてご注文ください。弊社にて合成を行います。
6
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
3 Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール各コンポーネントによる
コトランスフェクション
Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツールを構成する 3 つのコンポーネント(Cas9 Expression Plasmid DNA、tracrRNA、crRNA)に
よるコトランスフェクション、そしてそれに続く遺伝子ノックアウトを成功させるためには、トランスフェクション試薬 DharmaFECT
Duo Transfection Reagent を使って入念な最適化を行い、処理する細胞の種類に合ったトランスフェクション条件を得ることが必
要となります。トランスフェクション条件の最適化に関する一般的な推奨事項については 10 ∼ 12 ページをご覧ください。以下の
手順は、これらの推奨事項に従って最適なトランスフェクション条件がすでに得られていることを前提としたものです。
必要な Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール関連材料
Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール関連材料は弊社 Web サイト dharmacon.gelifesciences.com にてお買い求めいただけます。
• Edit-R SMARTCas9 Expression Plasmid(プロモーターとレポーター、またはプロモーターとマーカー搭載の組合せから選択)
120 µg 乾燥品
• SMARTCas9 Expression Plasmid、蛍光レポーター mKate2 搭載
• Edit-R hCMV_mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-004100-120)
• Edit-R mCMV_mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-004200-120)
• Edit-R hEf1α_mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-004300-120)
• Edit-R mEf1α_mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-004400-120)
• Edit-R PGK_mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-004500-120)
• Edit-R CAG_mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-004600-120)
• SMARTCas9 Expression Plasmid、哺乳動物細胞の抗生物質選択用マーカー PuroR 搭載
• Edit-R hCMV_PuroR-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-005100-120)
• Edit-R mCMV_PuroR-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-005200-120)
• Edit-R hEf1α_PuroR-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-005300-120)
• Edit-R mEf1α_PuroR-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-005400-120)
• Edit-R PGK_PuroR-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-005500-120)
• Edit-R CAG_PuroR-Cas9 Expression Plasmid DNA (cat #U-005600-120)
• Edit-R CRISPR Cas9 Nuclease Expression Plasmid、哺乳動物細胞の抗生物質選択用マーカー BlastR 搭載、120 µg 乾
燥品(Dharmacon カタログ番号:U-001000-120) ベクターマップ、プラスミドの使用に際しての推奨事項に関しては
「Appendix」をご覧ください。
• ( オプ ション) トランスフェクション最 適 化 用プラスミド mKate2 Transfection Optimization Plasmid、120 g 乾 燥
品(Dharmacon カタログ番号:U-003000-120) ベクターマップ、プラスミドの使用に際しての推奨事項に関しては
「Appendix」をご覧ください。
• tracrRNA、5 nmol(120 µg)乾燥品(Dharmacon カタログ番号:U-002000-120)
• crRNA、20 nmol 乾燥品(Dharmacon カタログ番号:CTM-XXXXXX-XXX、dharmacon.gelifesciences.com/gene-editing/
edit-r/custom-crrna/ で目的の遺伝子に合わせて設計、ご注文いただいたもの)
• トランスフェクション 試 薬 DharmaFECT Duo Transfection Reagent(Dharmacon カタログ 番 号:T-2010-01[0.2 ml]、
T-2010-02[0.75 ml]、T-2010-03[1.5 ml]、T-2010-04[1.5 ml × 5 本])
その他の必要な材料
細胞培養で標準的に用いられる試薬および細胞の維持に適した装置が必要になります。以下の材料、
器具類を別途ご用意ください。
• 組織培養用マルチウェルプレートまたは組織培養用ディッシュ
7
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
• 抗生物質を含まない完全培地。処理する細胞の維持および継代培養に適した細胞培養培地(血清かサプリメント、または両方
を含む)で、抗生物質が添加されていないもの
• CellTiter-Blue Cell Viability Assay(Promega 社カタログ番号:G8081)など、細胞生存率を評価するためのアッセイ
• 細胞集団でゲノム編集イベントを検出するためのアッセイ(複数可)
• (オプション)抗生物質ピューロマイシン(Fisher Scientific 社カタログ番号:BP2956-100)
• (オプション)抗生物質ブラストサイジン S(Fisher Scientific 社カタログ番号:BP2647-25)
• 10 mM Tris ヌクレアーゼフリーバッファー(pH 7.4)
Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール各コンポーネントによるコトランスフェクションの一般的な手順
哺乳動物の培養細胞にトランスフェクション試薬 DharmaFECT Duo Transfection Reagent を使って Cas9 Expression Plasmid
DNA、tracrRNA および crRNA を導入する一般的な手順を以下に示します。処理する細胞の種類に合わせて条件の入念な最適化
を行い(10 ページ「トランスフェクション条件の最適化」を参照)、試薬の正確な量と添加条件を決めたうえで実験を開始してく
ださい。なお以下の手順は、24 ウェルプレートで HEK293T 細胞のトランスフェクションを行う場合の条件を、あくまで一例として
示したものです。
すべての工程は細胞培養用層流フード内にて無菌法で行ってください。
細胞の播種
播種に最適な細胞数は細胞の増殖特性によって異なります。したがって、実験を行って決める必要があります。
1. 細胞をトリプシン処理し、細胞数をカウントします。
2. 抗生物質を含まない完全培地を加え、適切な培養開始密度まで希釈します。例えば 24 ウェルプレートで 1 ウェルあたり
100,000 個の HEK293T 細胞を播種する場合、細胞 100,000 個に対して培地 0.5 ml の割合で希釈を行います。
3. 24 ウェルプレートの各ウェルに細胞懸濁液 0.5 ml を添加します。
4. 37℃、5% CO2 の条件で終夜インキュベートします。
コトランスフェクション
表 1 ゲノム編集を目的としたコトランスフェクション実験に用いるサンプルの例
サンプル名
目的
Cas9 Expression Plasmid DNA のみ
ネガティブコントロール:標的を決める RNA がない状態で Cas9 ヌクレアー
ゼ を発現させる
Cas9 Expression Plasmid DNA、tracrRNA、 目 的 の 遺 伝 子に特 異 的 な
crRNA
ゲノム編集サンプル:目的の遺伝子の二本鎖を意図した位置で切断するよ
う RNA によってプログラムされた Cas9 ヌクレアーゼ を発現させる
未処理
未処理コントロールサンプル:細胞生存率を確認する
注: 試薬を添加した後にはピペッティングを行い、チューブの内容物を穏やかに撹拌してください。
5. ゲノム編集実験用として 3 種類の異なるサンプルを使用します(表 1)。
6. pH 7.4 の 10 mM Tris バッファー(ヌクレアーゼフリー)1.2 ml を Cas9 Expression Plasmid DNA 120 µg に加え、100 ng/
µl の Cas9 プラスミド希釈溶液とします。波長 260 nm での紫外分光法により DNA 濃度を確認し、必要であれば量を調節
して濃度を 100 ng/µl としてください。
7. pH 7.4 の 10 mM Tris バッファー(ヌクレアーゼフリー)500 µl を tracrRNA 5 nmol に加え、10 µM の tracrRNA 希釈溶液
とします。波長 260 nm での紫外分光法により RNA 濃度を確認し、必要であれば量を調節して濃度を 10 µM としてください。
8
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
8. pH 7.4 の 10 mM Tris バッファー(ヌクレアーゼフリー)2 ml を crRNA 20 nmol に加え、10 µM の crRNA 希釈溶液とします。
波長 260 nm での紫外分光法により RNA 濃度を確認し、必要であれば量を調節して濃度を 10 µM としてください。
9. 1.7 ml 容のチューブを使い、表 2(2 ∼ 5 列目)に従ってトランスフェクション用サンプルを調製してください。tracrRNA・
crRNA 複合体の最終濃度は 50 nM、Cas9 Expression Plasmid DNA の濃度は 1 ウェルあたり 1 µg となります。
10. 1 mg/ml の DharmaFECT Duo Transfection Reagent 原液 120 µl を無血清培地 2 ml で希釈し、穏やかに混合すること
により 60 µg/ml の DharmaFECT Duo 希釈溶液とします。常温で、チューブを 5 分間放置してください。
表 2 24 ウェルプレートでのゲノム編集実験に用いるトランスフェクション用サンプルの調製
tracrRNA
crRNA
希釈溶液
希釈溶液
Cas9
プラスミド
希釈溶液
DharmaFECT
Duo
希釈溶液
(10 µM) (10 µM) (100 ng/µl) (60 µg/ml)
サンプル名
無血清培地
Cas9 Expression Plasmid DNAのみ
40
0
0
10
Cas9 Expression Plasmid DNA、tracrRNA、
目的の遺伝子に特異的なcrRNA
35
2.5
2.5
未処理
100
0
0
1ウェルあたり
成長培地
の総液量
50
400
500
10
50
400
500
0
0
400
500
24ウェルのHEK293T細胞各サンプルに用いる量(µl)。複数のウェルを1組として処理を行う場合はウェルの数に応じ、またピペッティングのミスも考慮して、
十分な量を調製してください。他の種類の細胞でトランスフェクションを行う場合は、条件の入念な最適化を行い(10ページ「トランスフェクションの最適化」
を参照)、試薬の正確な量を決めたうえで実験を開始してください。
11. 表 2(6 列目)に従って各サンプルのチューブに DharmaFECT Duo 希釈溶液 50 µl を加えます。これにより、DharmaFECT
Duo の最終濃度は 1 ウェルあたり 3 µg となります。トランスフェクションを行わないコントロール用サンプルは
DharmaFECT Duo 希釈溶液を加えず、無血清培地のみとしてください。各チューブとも、総液量は 100 µl となります。ピペッ
ティングにより穏やかに撹拌した後、常温で 20 分間放置してください。
(7、8 列目)。得られた液がトランスフェ
12. 抗生物質を含まない完全培地 400 µl を各サンプルに加えて総液量を 500 µl とします
クション用の培地となります。
13. 細胞が入った 24 ウェルプレートの各ウェルから培地を抜き、代わりに適切な種類のトランスフェクション用培地 500 µl を各
ウェルに加えます。
14. 37℃、5% CO2 の条件で細胞を 48 ∼ 72 時間にわたりインキュベートした後、ゲノム編集結果の確認に進みます。
注: ゲノム編集結果の確認には細胞の一部をお使いください
(次ページ
「ゲノム編集結果の確認アッセイに関する推奨事項」を参照)。
編集結果の確認後、クローン細胞の生成を行える十分な数の細胞が残っている必要があります。
注: ゲノムの編集が検出できない、アッセイで測定した編集頻度が低いといった場合は細胞集団の濃縮をご検討ください。濃縮の
手順は次の項に記載しています。
ゲノム編集によって変異を導入した細胞の濃縮
Cas9 によるゲノム編集の頻度が高い細胞集団を得るには 2 種類の方法があります。どちらの方法を用いるかは、SMARTCas9
Expression Plasmid のうちどちらの種類を実験に使ったかによって異なります。
a. mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA を用いた場合:FACS 法で濃縮
mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA のトランスフェクションから 48 ∼ 72 時間が経過した細胞を使用します。
一般的な FACS 法を行える十分な数の細胞を回収できるよう、トランスフェクションには組織培養用の大型ディッシュ
をお使いください。また、細胞は mKate2 の発現量が少ないもの、中程度のもの、そして多いものという 3 つの画
分に分けることをおすすめします。下流のアプリケーションや試験のため必要な画分の細胞の増殖を簡単に行えるよ
う、それぞれの画分には十分な数の細胞を割り当ててください。
9
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
mKate2 は励起極大 588 nm、発光極大 633 nm の遠赤外蛍光性単量体タンパク質です。推奨されるフィルターは
Omega Optical 社 QMAX-Red と XF102-2 のセット、またはその同等品ですが、Texas Red やそれに類するフィルター
セットでの検出も可能です。
b. PuroR-Cas9 Expression Plasmid DNA を用いた場合:ピューロマイシンで選択
ピューロマイシンでの選択による濃縮には PuroR-Cas9 Expression Plasmid DNA を導入した細胞を使用します。適す
るピューロマイシン濃度は細胞の種類によって異なりますので、選択を始める前に死滅曲線を使って実験的に決定する
必要があります。トランスフェクションから 48 ∼ 72 時間が経過した細胞を、選択の開始前に分割してお使いください。
選択培地中で細胞をさらに 2 ∼ 4 日間、インキュベートします。
抗生物質は、活発に分裂している細胞に対して最大の効果を発揮します。そのため、コンフルエンスが 25% を超えな
いよう細胞を分割することが望ましいといえます。
ゲノム編集結果の確認アッセイに関する推奨事項
細胞集団での挿入・欠失の検出方法としてもっともよく使われているのは、SURVEYOR® Mutation Detection Kit(Integrated
DNA Technologies 社)や T7 Endonuclease(Guschin, 2010; Reyon, 2012; Cong, 2013)といったミスマッチ検出アッセイです。
これらのアッセイはいずれも、精製ゲノム DNA と細胞溶解液の両方に対応しています。
ゲノムが編集された細胞の増殖によりクローン細胞集団を得る場合の編集結果の確認方法としてはサンガー法がもっともよく使わ
れています(Reyon, 2012)。
4 トランスフェクション条件の最適化
処理する細胞の種類に合わせてトランスフェクション条件を入念に最適化することで、Edit-R CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツール各
コンポーネントのトランスフェクション効率を最大限に高め、かつ細胞生存率への影響を最小限に抑えることが可能になります。
トランスフェクション条件の最適化では、処理する細胞に対してもっとも強い活性を示すプロモーターを Edit-R mKate2-Cas9
Expression Plasmid DNA に搭載したプラスミドを使って、蛍光強度(励起極大 588 nm、発光極大 633 nm)が最大となりかつ
細胞生存率が未処理細胞との比較で 70% を超える条件を特定します。96 ウェルプレートで簡単な方法により行えますので、少量
のプラスミドで複数のトランスフェクション条件を同時にご検討いただけます。特定した条件は表面積に基づいてスケールアップし、
より規模の大きい組織培養用ディッシュでのトランスフェクションに適用することが可能です。
注: トランスフェクション試薬 DharmaFECT Duo Transfection Reagent は RNA とプラスミドの両方を細胞に導入する用途に
最適化されています。他のトランスフェクション試薬をお使いになる場合は、その試薬で RNA 、プラスミドの両方を目的の
細胞に効率的に導入できるかどうかをあらかじめご確認ください。
最適化実験には少なくとも 2 種類の細胞密度(コンフルエンス 60 ∼ 80%)、そして互いに濃度の異なる複数の DharmaFECT
Duo Transfection Reagent が必要になります。推奨される各コンポーネントの濃度範囲は以下のとおりです。
• DharmaFECT Duo Transfection Reagent、20 ∼ 80 µg/ml(96 ウェルプレートの 1 ウェルあたり 0.2 ∼ 0.8 µl に相当)
• プラスミド、96 ウェルプレートの 1 ウェルあたり 100 ∼ 200 ng
以下、96 ウェルプレートで 3 ウェル 1 組の実験を行うことによりトランスフェクション条件を最適化する場合の手順を説明します
(表
3 に実験レイアウトの例)。
10
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
表 3 96 ウェルプレートでトランスフェクション条件の最適化を行う場合のレイアウト
トランスフェクション
試薬
(10 µg/well)
細胞密度1
1
2
3
細胞密度2
4
5
6
7
8
9
10
11
12
0.2
A
100 ng
200 ng
100 ng
200 ng
0.3
B
100 ng
200 ng
100 ng
200 ng
0.4
C
100 ng
200 ng
100 ng
200 ng
0.5
D
100 ng
200 ng
100 ng
200 ng
0.6
E
100 ng
200 ng
100 ng
200 ng
0.7
F
100 ng
200 ng
100 ng
200 ng
0.8
G
100 ng
200 ng
100 ng
200 ng
トランスフェクションなし
H
太字のアルファベットはプレートの各行に、太字の数字は各列にそれぞれ対応しています。段階希釈したDharmaFECT Duo Transfection Reagentの各濃度を
A∼Gの各行で検討し、2種類の細胞密度をプレートの左半分と右半分で検討します。プラスミドの濃度は1ウェルあたり100 ngおよび200 ngの2種類とし、100
ngを1∼3列と7∼9列、200 ngを4∼6列と10∼12列で検討します。H行の細胞はトランスフェクションを行いません。
1. トランスフェクションを行う日のコンフルエンスが 60 ∼ 80% となるよう、前日に組織培養用の 96 ウェルプレートに細胞を播
種します。少なくとも 2 種類の細胞密度を検討するようにしてください。
2. pH 7.4 の 10 mM Tris バッファー(ヌクレアーゼフリー)1.2 ml をプラスミド 120 µg に加え、100 ng/µl の Cas9 プラスミド希
釈溶液とします。波長 260 nm での紫外分光法により DNA 濃度を確認し、必要であれば量を調節して濃度を 100 ng/µl とし
てください。
3. 7 種類の DharmaFECT Duo 希釈溶液(20 ∼ 80 µg/ml)をそれぞれ異なるチューブに調製します。1 mg/ml の DharmaFECT
Duo Transfection Reagent 原液 10 µl、15 µl、20 µl、25µl、30 µl、35 µl および 40 µl を無血清培地 500 µl で希釈し、穏
やかに混合してください。DharmaFECT Duo の最終濃度は 96 ウェルプレートの 1 ウェルあたり 0.2 ∼ 0.8 µg となります。チュー
ブを常温で 5 分間放置してください。
4. 深型のプレートの各ウェルに無血清培地と Cas9 プラスミド希釈溶液を総液量が 10 µl となるように添加します(表 4)。次に
DharmaFECT Duo 希釈溶液 10 µl を加え、各ウェルに総液量 20 µl のトランスフェクション用混合培地を形成します。それぞ
れの DharmaFECT Duo 希釈溶液でこの操作を繰り返します。ピペッティングにより穏やかに撹拌した後、常温で 20 分間放
置してください。トランスフェクションを行わないコントロール用ウェルはプラスミドや DharmaFECT Duo 希釈溶液を加えず、
無血清培地のみとしてください。
表 4 96 ウェルプレートでのトランスフェクションの最適化に用いるサンプルの調製
Cas9プラスミド
DharmaFECT
Duo
サンプル名
無血清培地
(100 ng/lµl)
希釈溶液
(20∼80 µg/
ml)
Edit-R mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA 100 ng
9
1
10
80
100
Edit-R mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA 200 ng
8
2
10
80
100
未処理
20
0
0
80
100
希釈溶液
1ウェルあたりの
成長培地
総液量
96ウェルの各サンプルに用いる量(µl)。96ウェルプレートの1ウェルあたりの量を示しています。3ウェルを1組として実験を行う場合は3つのウェルに十分な量を
添加できるよう、またピペッティングのミスも考慮して、すべての分量を3.5倍してください。
5. 工程 4 で得られた各サンプルに抗生物質を含まない完全培地 80 µl を加えて総液量を 100 µl とします。得られた液がトランス
フェクション用の培地となります。
6. 細胞が入った 96 ウェルプレートの各ウェルから培地を抜き、代わりに適切な種類のトランスフェクション用培地(工程 5 で調
製したもの)100 µl を各ウェルに加えます。
11
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
7. トランスフェクション実施後、mKate2 発現量と細胞生存率を評価し、mKate2 の発現量が最大でかつ細胞毒性の低い条件を
特定します。
a. トランスフェクションから 24 ∼ 48 時間後、細胞を顕微鏡で観察し、蛍光強度が最大となる条件を特定します。
b. トランスフェクションから 48 ∼ 72 時間後、細胞生存率アッセイを実施し、細胞毒性が最小限(細胞生存率が 70% を超え
ることが好ましい)に抑えられる DharmaFECT Duo 濃度のうち最高の濃度を決定します。
注: 細胞生存率は 70% 以上であることが理想ですが、これよりも細胞生存率が低いトランスフェクション条件で良好な編集効率
が得られる場合もあります。
注: 最適化を行っても目的の細胞でのゲノム編集効率が低い場合は、 続くゲノム編集工程での濃縮をご検討ください。 濃縮の手順
は 9 ページ「ゲノム編集によって変異を導入した細胞の濃縮」に記載しています。
8. 特定した至適条件で SMARTCas9 Nuclease Expression Plasmid および tracrRNA・crRNA 複合体のコトランスフェクション
を行います。tracrRNA・crRNA 複合体の濃度は 25 ∼ 100 nM としてください(通常は 25 nM で編集効率が最大となります)。
最適化したトランスフェクション条件は組織培養の表面積に基づいてスケールアップすることが可能です。
注: mKate2 が発する蛍光は、Edit-R mKate2-Cas9 Expression Plasmid DNA と同時に導入する tracrRNA・crRNA 複合体の
濃度が高ければ高いほど弱くなります。
5 Appendix
ブラストサイジン耐性マーカー BlastR 搭載 Edit-R CRISPR-Cas9 Nuclease Expression Plasmid
ヒトでの発現用にコドンが最適化された S. pyogenes の Cas9(Csn1)遺伝子をヒトサイトメガロウイルス(hCMV)プロモーター
から発現し、サルウイルス 40(SV40)プロモーターの制御下でブラストサイジン耐性(BlastR)を発現する、ヌクレアーゼ Cas9
発現用プラスミドです(図 5)。エンドトキシンを含まないプラスミド DNA として、そのままトランスフェクションにお使いいただけ
る量をお届けします。
Vector elements of the Edit-R Cas9 Nuclease Expression plasmid
hCMV
Cas9
pHCSVBlast-Cas9
AmpR
hCMV
ベクター要素
hCMV
Cas9
SV40
BlastR
AmpR
BlastR
SV40
働き
mKate2
ヒトサイトメガロウイルスプロモーター。哺乳動物細胞でトランスジーンを恒常的に強発現させる
ヒトでの発現用にコドンが最適化されたS. pyogenesのCas9 ヌクレアーゼ。
pHCSVBlast-mKate
tracrRNA・crRNAハイブリッドによりプログラムされると標的配列を切断する
サルウイルス40プロモーター。
ブラストサイジン耐性(BlastR)遺伝子を恒常的に発現させる
ブラストサイジン耐性マーカー。
R 哺乳動物細胞に抗生物質耐性を与え、
トランスフェクションを受けた細胞の濃縮を可能にする
AmpR
Blast
SV40
アンピシリン耐性遺伝子。大腸菌培養でのベクター増幅に用いる
図 5 Edit-R BlastR-Cas9 Nuclease Expression Plasmid のベクター要素
12
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
Vector elements of the Edit-R Cas9 Nuclease Expression plasmid
hCMV
テクニカル・マニュアル
Cas9
ブラストサイジン耐性マーカーを搭載した Edit-R CRISPR-Cas9 Nuclease Expression Plasmid はブラストサイジン耐性を必要と
pHCSVBlast-Cas9
するゲノム編集実験にお使いいただけます。このほか互換性のあるプラスミドとして、ヌクレアーゼ Cas9 を蛍光マーカー mKate2
で置き換えたトランスフェクション最適化用プラスミド mKate2 Transfection Optimization Plasmid もご用意しています(図 6 の
Amp OptimizationBlast
∼ 12 ページ「トランスフェクション条件の最適化」
ベクターマップを参照)。mKate2 Transfection
Plasmid は 10SV40
R
R
と同様の手順でトランスフェクション条件の最適化にお使いいただけます。
hCMV
mKate2
pHCSVBlast-mKate
BlastR
AmpR
SV40
ベクター要素
働き
hCMV
ヒトサイトメガロウイルスプロモーター。哺乳動物細胞でトランスジーンを恒常的に強発現させる
赤色蛍光性単量体タンパク質。
トランスフェクションの視覚的な追跡を可能にする
mKate2
SV40
(励起極大588 nm、発光極大653 nm)
サルウイルス40プロモーター。
ブラストサイジン耐性(BlastR)遺伝子を恒常的に発現させる
BlastR
AmpR
ブラストサイジン耐性マーカー。哺乳動物細胞に抗生物質耐性を与え、
トランスフェクションを受けた細胞の濃縮を可能にする
アンピシリン耐性遺伝子。大腸菌培養でのベクター増幅に用いる
図 6 Edit-R mKate2 Transfection Optimization Plasmid のベクター要素
安定性と保存
Dharmacon Edit-R SMARTCas9 Expression Plasmid
乾燥ペレットとして常温でお送りします。常温での使用期限は 4 週間です。お受け取り後すぐに-20 ∼ -80℃で保管してください。
この保存条件で 1 年間は安定です。
保存の際には必ず、pH 7.4 の 10 mM Tris バッファー(ヌクレアーゼフリー)など、ヌクレアーゼを含まない溶液に溶解させた状
態としてください。
Dharmacon Edit-R tracrRNA 、crRNA
乾燥ペレットとして常温でお送りします。常温での使用期限は 4 週間です。
お受け取り後すぐに -20 ∼ -80℃で保管してください。この保存条件で 1 年間は安定です。
保存の際には必ず、pH 7.4 の 10 mM Tris バッファー(ヌクレアーゼフリー)など、ヌクレアーゼを含まない溶液に再懸濁させた
状態としてください。溶液を小分けにして-20℃で保存した場合 2 年間は安定です。
Dharmacon DharmaFECT Duo Transfection Reagent
保冷してお届けします。配送中に保冷剤が溶ける場合がございますが、製品への影響はございません。温暖な環境に長期間
置いても劣化しないことが安定性試験により確認されています(詳しくは弊社 Web サイト dharmacon.gelifesciences.com の
「Service & Support」→「 Documents & Downloads」→「 Technical Resources」→「 RNAi & カスタム RNA 合成」より
。
“Accell Stability Product Bulletin”をダウンロードしてご覧ください)
お受け取り後すぐに 4℃で保管してください。冷凍保存はできません。推奨される保管条件下では、製品に表示された製造年
月日から 24 ヵ月間は安定です。
13
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
FAQ(よくある質問)
合成された tracrRNA および crRNA の品質管理はどのような試験で確かめられていますか。
Edit-R tracrRNA は、高速液体クロマトグラフィーを使って精製された後、MALDI-TOF 質量分析と HPLC とを使って検証され、配
列長および純度が確認されています。また、crRNA も質量分析で検証されています。合成された RNA の定量は、分光光度計を
用いて波長 260 nm の吸光度を測定しています。
Dharmacon ™ 2’-ACE 法を用いて合成された crRNA は、ゲノム編集実験前に、高速液体クロマトグラフィーを使っ
て精製する必要がありますか。
Dharmacon ™ 2’-ACE 法は、カップリング反応が極めて早く、高収量かつ高純度の RNA オリゴが得られます。脱塩処理を施さ
ゲノム編集実験前に、新たに精製する必要はありません。弊社の検証試験では、
れ保護基が除去された crRNA をご提供しますので、
2 位にある水酸基の脱保護処理を施された crRNA を使って良好なゲノム編集ができました。
バッファーを使って crRNA を再懸濁したところ、やや黄色味を帯びてしまいましたが、大丈夫でしょうか。
問題ありません。RNA オリゴの作製では、塩基の脱保護剤にはジチオレート系錯体を用います。少量の脱保護剤がサンプル中に
残存する場合があり黄色味を帯びていますが、ゲノム編集や細胞生存率に有害な作用を及ぼすことはありません。
合成された tracrRNA および crRNA の安定性を教えてください。
乾燥したペレット状の RNA オリゴは、常温で、2 ∼ 4 週間は安定ですが、長期の保存は、-20℃∼ -80℃で冷凍します。この保存
条件では 1 年は安定です。無菌条件下で、リボヌクレアーゼやデオキシリボヌクレアーゼの無い環境で保存してください。
Edit-R Plasmid、tracrRNA および crRNA は凍結・解凍を何回繰り返して利用できますか。
4 ∼ 5 回までは、凍結と解凍を繰り返しても、品質は保たれます。
tracrRNA および crRNA は、どのように保存すれば良いでしょうか。
乾燥した RNA オリゴは、-20℃∼ -80℃に設定された冷凍庫で保存しますが、霜がつかないようにします。pH 7.4 のヌクレアーゼ
フリーのバッファーを使って再懸濁すれば、凍結させたり解凍させたりしても安定です。RNA オリゴは再懸濁後に、小分けにして
チューブに保存してください。4 ∼ 5 回以上の凍結と解凍は繰り返してはなりません。分解が気になる場合は、ポリアクリルアミド
ゲル電気泳動にて品質を確かめることができます。
製品の配達が遅れたため、Edit-R Cas9 Nuclease Expression Plasmid、mKate Transfection Optimization
Plasmid、tracrRNA や crRNA が、一週間の間、常温下にありました。使用しても大丈夫でしょうか。
乾燥ペレットとして出荷されますので、常温下では、2 ∼ 4 週間は安定です。RNA オリゴもプラスミド DNA も受け取ったら、直ち
に、-20℃∼ -80℃の冷凍庫で保管してください。
Edit-R Gene Engineering System の各コンポーネントは、どのようにして出荷されるのですか。
Edit-R Cas9 Expression plasmid DNA、mKate2 Transfection Optimization plasmid DNA、tracrRNA、crRNA は、すべてが
乾燥ペレットとして、常温下で出荷されます。
RNA は、分光光度計を使って定量しますが、その計算式を教えてください。
(260 nm)= ε×モル濃度×光路長
(cm)。ここでεは、モル吸光係数を表します
(crRNA
RNA の定量は、ベール法を用います:吸光度
のモル吸光係数は同梱された製品添付書に記載されております。また、tracrRNA のモル吸光係数は 757400 です)。計算式は、
モル濃度=(吸光度、照射度 260 nm)/ε・ 光路長(cm)です。標準型の 10 mm キュベットを使った場合、計算式において光
路長は 1 とします。それ以外のキュベットを使う場合、例えば 2 mm のマイクロキュベットを使った場合は、光路長は 0.2 とします。
14
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
Edit-R Cas9 Expression Plasmid の保存方法を教えてください。
乾燥プラスミド DNA とバッファーで再懸濁した DNA は、-20℃∼ -80℃の場所で凍結保存します。凍結・解凍は繰り返さずに、
核酸の分解を防ぐために、リボヌクレアーゼやデオキシリボヌクレアーゼの無い環境で保存してください。
注文した DharmaFECT Duo Transfection Reagent が配達されてきたのですが、常温で放置してしまいました。試薬
は使っても大丈夫でしょうか。
DharmaFECT 製品は、トランスフェクション試薬も含めて、多くの安定性試験および機能性試験を行った結果、たとえ保存条件
が悪くても、効率よくトランスフェクションができました。試験結果は、弊社 Web サイトに掲載されておりますので、ダウンロー
ドしてご利用ください(dharmacon.gelifesciences.com)。
トランスフェクション後、細胞死が目立ちました。どのように対処すれば良いのでしょうか。
その場合は、導入条件を最適化する必要があります。考慮すべき条件は、トランスフェクション試薬に関しては、試薬の分量・試
薬のロット/バッチ、導入期間、また細胞に関しては、細胞培養継代数、細胞密度といった点があります。トランスフェクション
試薬濃度の低減や導入期間の短縮は、細胞への毒性作用を減らします。トランスフェクション試薬の作用は、ロット毎に異なるの
で、そのために実験上のばらつきが起きることもあります。この問題が続く場合、トランスフェクション試薬を替えるか、テクニカ
ルサポートにお問合せください(本書裏表紙を参照)。
Edit-R Cas9 Gene Engineering システムは、どのような細胞に用いることができますか。
本製品は、哺乳動物の細胞であれば導入が可能で、Cas9 発現のためのプロモーターが作動するいかなる種類の細胞にもご利用
いただけます。
Edit-R Cas9 Expression Plasmid にはいろいろな種類がありますがどれを使えば良いのでしょうか。
次の点を考慮してください。
1) ブラストサイジンを使った Cas9 発現細胞の選択を希望し、使用する細胞内でヒト CMV プロモーターが作用する場合、哺
(コード番号:
乳動物細胞の抗生物質選択用マーカー BlastR 搭載の Cas9 ヌクレアーゼ発現プラスミドを使用できます。
)
U-0010000-120
2) FACS 装置を使って、蛍光マーカーを発現する細胞だけを選択する場合、SMARTCas9-mKate2 Expression Plasmid を使用
できます。このプラスミドは、6 種の異なるプロモーターを選択できるので、使用する細胞でプロモーターの活性が強いもの
を選ぶことができます。
3) FACS 装置を使わない場合、またはピューロマイシンを使う場合、SMARTCas9-PuroR Expression Plasmid を使用できます。
このプラスミドは 6 種の異なるプロモーターを選択できるので、使用する細胞内でプロモーターの活性が強いものを選ぶ
ことができます。
Cas9 発現プラスミドと組合せる適切なプロモーターをどのように選べば良いのでしょうか。
弊社が提供する Cas9 プラスミドは、複数のプロモーターから選択することができます。これにより、Cas9 ヌクレアーゼ遺伝子と
mKate2 レポーター遺伝子、あるいは、Cas9 ヌクレアーゼ遺伝子とピューロマイシン耐性遺伝子を、効率よく発現できます。重
要なのは、実験観察に基づいてあるいは論文を参照したうえで、使用する細胞内で作用するプロモーターを搭載した Edit-R Cas9
Expression Plasmid を使用することです。そのような情報が入手できない場合は、SMARTCas9-mKate2 Expression Plasmid を
いくつか選んで、それぞれの mKate2 の蛍光強度を見比べて、実験に使うプラスミドを選んでください。
15
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
Edit-R mKate2 Transfection Optimization Plasmid の用途は?
トランスフェクション条件の最適化に使用します。ブラストサイジン耐性マーカーを組込んだ Edit-R Cas9 Nuclease Expression
Plasmid と構造が似ていますが、Cas9 ヌクレアーゼ遺伝子が mKate2 蛍光遺伝子配列に置き換わっています。Edit-R mKate2
Trasfection Optimization Plasmid を使ったトランスフェクション条件の最適化は、本書の「トランスフェクション条件の最適化」
の項に記述した手順に従ってください。ただし、SMARTCas9 Expression Plasmid を使用する場合、トランスフェクション条件の
最適化は、処理する細胞に対して活性を示すプロモーターを搭載した SMARTCas9-mKate2 Expression Plasmid を使います。
Edit-R tracrRNA および crRNA は、他の Cas9 ヌクレアーゼ発現プラスミドと組合せて使用できますか。
tracrRNA および crRNA を使って検証した結果、哺乳動物細胞において Edit-R Cas9 Expression Plasmid を使ったゲノム編集
は効率よく行えました。しかし、その他の Cas9 ヌクレアーゼ発現ベクターを使って実験した場合、編集効率は予測することが
できませんし、また問題が生じたときの解決方法を見出すこともできません。ただし、crRNA に含まれる繰り返し配列および
tracrRNA の全配列は、化膿連鎖球菌 (Streptococcus pyogenes) の CRISPR-Cas9 システムに由来するものなので、おそらく、他
の Cas9 ヌクレアーゼ発現プラスミドにも適用できると思いますが、そのためには、Cas9 配列が正しく発現できるようコドンが
最適化されており、Cas9 配列の発現は、使用する細胞で作用するプロモーターが制御する必要があります。しかも、プラスミド
DNA は、tracrRNA と crRNA と共にコトランスフェクションを効率よく行う必要があります。
1 つのベクターから発現した単鎖ガイド RNA(sgRNA)よりも、2種類の合成された RNA(tracrRNA および crRNA)
を使う利点はどこにあるのでしょうか。
Edit-R システムはの利点は、複数の crRNA を容易に入手し、使用できることです。Edit-R システムでは単一遺伝子の複数の標的
配列または複数遺伝子を容易にノックアウトできます。他方、sgRNA を一つのベクターより発現させる場合は、各標的配列を発
現ベクターにクローニングしなければならず、配列を確認しながらクローンを増殖・選別して、トランスフェクション用に DNA を分
離・精製します。この工程は、単一遺伝子の複数の標的または複数の遺伝子をノックアウトする場合、とても面倒です。
DharmaFECT Duo とは異なるトランスフェクション試薬を使って、目的の細胞へ Edit-R のコンポーネントを導入して
もよいでしょうか。
DharmaFECT Duo は、プラスミド DNA および RNA オリゴ を同時にトランスフェクションするために最 適化されています。
DharmaFECT Duo を用いてゲノム編集実験を行ったところ、Edit-R コンポーネントの導入は効率良く行えることが分かりました。
その他のトランスフェクション試薬を使った場合のゲノム編集効率は予測することができませんし、また問題が生じたときの解決
方法を見出すこともできません。ただし、使用する細胞についてのコトランスフェクション条件が入念に最適化されている試薬で
あれば、利用しても構いません。
DNA ミスマッチ定量法では、ゲノム編集効率が低いのですが、なぜでしょうか。
Surveyor(IDT) や T7EI(NEB) など、ミスマッチを認識する DNA エンドヌクレアーゼを使った変異定量解析は、ゲノム DNA の対象と
する配列を PCR で増幅した後、通常、ゲル電気泳動法を使って変異を検出します。CRISPR-Cas9 を使って行ったゲノム編集にお
ける塩基の挿入・欠失を正確に検出する方法は、使用するエンドヌクレアーゼによってその感度が異なり、以下の理由から、編集
効率が下がるように見えてしまいます。
1. 標的配列は、Cas9 によって切断された後、非相同末端結合(NHEJ)によって DNA が修復された結果、さまざまなサイズの
欠失・挿入・変異が生じます。そのため、エンドヌクレアーゼによる切断後の電気泳動の結果では、ゲル泳動像が不鮮明でバ
ンドがなかなか確認できなかったり、定量できなかったりします。
2. ミスマッチを認識する DNA エンドヌクレアーゼは、とりわけ反応時間を長くした場合、非特異的に作用して PCR 産物を分解
することがあり、その場合、目的のバンドのシグナル強度が低下することがあります。
3. CRISPR-Cas9 ゲノム編集によって大きな挿入や欠失が生じた場合、プライマー結合部位も影響を受けてしまい、変異を検出で
きなくなることがあります。
16
Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
ピューロマイシン処理またはブラストサイジン処理を施すことで、ゲノム編集の効率は上がりますか。
ピューロマイシンやブラストサイジンは、編集された細胞だけを濃縮して、編集効率を上げますが、どのぐらい上がるかは導入条
件がどのぐらい最適化されているかによって異なります。Edit-R コンポーネントのトランスフェクション効率が高いと、選択剤は編
集効率を若干向上させます。逆にトランスフェクション効率が低いと、選択剤は編集効率を大幅に向上させます。
Edit-R システムは、哺乳動物以外の例えば細菌や線虫といった下等生物の細胞での遺伝子ノックアウトに使用できま
すか。
Edit-R Cas9 プラスミドは、哺乳動物の細胞で発現できるよう設計され、検証されています。哺乳動物以外の細胞を使った場合、
Edit-R RNA コンポーネントに関する編集効率は予測することができませんし、また問題が生じたときの解決方法を見出すことも
できません。ただし、crRNA に含まれる繰り返し配列および tracrRNA の全配列は、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)
の CRISPR-Cas9 システムに由来するものなので、おそらく、他の Cas9 ヌクレアーゼ発現プラスミドにも適用できると思いますが、
そのためには、Cas9 配列が正しく発現できるようコドンが最適化されており、Cas9 配列の発現は、使用する細胞で作用するプ
ロモーターが制御する必要があります。しかも、プラスミド DNA は、tracrRNA と crRNA と共にコトランスフェクションを効率よ
く行う必要があります。
Edit-R RNA コンポーネントは、自分の使っている Cas9 ヌクレアーゼ mRNA と組合せて使っても問題はありませんか。
また、変異 Cas9 ヌクレアーゼ発現プラスミドも使えますか。
tracrRNA および crRNA を使って検証実験を行った結果、哺乳動物細胞において Edit-R Cas9 Expression Plasmid を使ったゲ
ノム編集は効率よく行えましたが、変異 Cas9 ヌクレアーゼ発現ベクターや Cas9 ヌクレアーゼ mRNA を使って実験した場合、編
集効率は予測することができませんし、また問題が生じたときの解決方法を見出すこともできません。ただし、crRNA に含まれ
る繰り返し配列および tracrRNA の全配列は、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes )の CRISPR-Cas9 システムに由来する
ものなので、おそらく、他の Cas9 コンポーネントにも適用できると思いますが、そのためには、Cas9 配列が発現できるように
コドンが正しく最適化されており、しかも、酵素活性のある Cas9 タンパク質が強く発現する必要があります。そのうえ、Cas9
mRNA またはプラスミド DNA は、tracrRNA と crRNA と共にコトランスフェクションを効率よく行う必要があります。
使用する細胞の倍数性は、CRISPR-Cas9 によるゲノム編集結果に影響を与えますか。
CRISPR-Cas9 システムを遺伝子の機能破壊に使う場合、対象とする遺伝子および細胞について十分な知識を持っていなければな
りません。特に注意すべきことは、使用する細胞の倍数性、遺伝子のコピー数がいくつあるか、および一塩基変異多型(SNP)が
存在するかどうかです。野生型の二倍体細胞では、完全に遺伝子をノックアウトし表現型を観察するには対立遺伝子座の両方の
変異が必要です。がん細胞株と多くの不死化 B 細胞株は、染色体の異数性が見られるので、複数の遺伝子座が同時に変異する必
要があります。crRNA を設計する際に考慮すべきことは、SNP の有無とともに遺伝子座が複数あるかどうかということであり、そ
れによって完全なノックアウトが実現できるかどうかが決まります。単一細胞に由来するクローン細胞を増殖させ、全ての遺伝子座
で必要な変異が得られているかの配列確認をすることが、完全なノックアウトを得るための間違いのない確認方法となります。
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Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
文献
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Edit-R と SMARTCas9 を用いたゲノム編集
テクニカル・マニュアル
6 Evrogen 社ライセンスについて
Evrogen 社の蛍光タンパク
本製品に含まれる、特許で保護された核酸配列は、蛍光タンパクをコードするものであり、特許の対象は、この蛍光タンパクの派
生物または改変物を含みます。米国および海外で特許出願中のもの、また Evrogen JSC が有する特許も対象となります(これら
をまとめて、
「Evrogen 蛍光タンパク」と呼びます)。
本製品の購入により、買い手に譲渡不能ライセンスが移行し、① 1 買い手が学術団体または営利団体であるかに拘らず、非営利目
的での研究を行う場合(ここでいう研究とは、非商業的利用または活動を指し、その結果も含め、利益が生じないものとします。)、
および② 2 治療薬、診断用試薬、ワクチン、予防薬の開発に関わる検証を目的とした Evrogen 蛍光タンパクによる評価を行う場合
に(ただし、これらの製品の製造または開発に Evrogen 蛍光タンパクを使用しない場合に限ります。)、利用することができます。
いかなる目的であっても Evrogen 蛍光タンパクの再販、配布、移譲、または第三者への利用権の提供、もしくは研究以外の目的
でかかる製品を利用することは、固く禁じられています。
買い手は、第三者に対し、かかる製品を使って作製した物質を販売、移譲、または商業目的で利用することはできません。買い手は、
商業目的としてではなく研究目的である場合に限り、本製品の利用によって得た情報を譲渡することができます。ここでいう商業
目的とは、① 1 製造における本製品の使用、② 2 本製品の使用によるサービス・情報・データーの提供、③ 3 治療・診断・予防を目的
とした本製品の利用を含み、かつ対象となる団体のあらゆる活動を指します。
本製品の購入によって、Evrogen 社のいかなる権利も化学分子の検証や検出を目的として移譲されることはなく、前述の特許ま
たは特許出願におけるいかなる主張の下においてもライセンスが移譲されることはありません。
前述の特許、特許出願に関わる情報および上記で容認された以外の目的で本製品を利用するためにライセンスを購入する場合の
情報については、以下までお問合せください。
お問合せ先:Licensing Department, Evrogen JSC
(住所:Miklukho-Maklaya street 16/10, Moscow,117997, Russian Federation、E-mai:[email protected])
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