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1
No. 49, Supplement, pp. 1–7, 2006
oooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo
平成 17 年度 卒業論文・修士論文・博士論文 要約文
oooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo
卒業論文
今泉 美智子 静岡大学工学部システム工学科
捕食者と被食者の移動を考慮したロトカ・ボルテラモ
デルの解析
環境の非一様性が捕食者・被食系に与える影響を考察
する。2つの生息パッチを持つロトカ・ボルテラモデ
ルにおいて,捕食者のみ,被食者のみ,両者が移動す
るモデルを構築し,移動を入れたときの解の動きの変
化を見る。捕食者のみの移動は,初め平衡点の周りで
大きな振幅を持つ解は小さな振幅を持つ周期解に漸近
する。被食者の移動を入れるとパッチ間の個体数密度
の差がなくなる時間が早く,解は大きな振幅の周期解
に近づく。
澤木 博之 静岡大学工学部システム工学科
餌食依存の移動を考慮したロトカ・ボルテラモデル
自然界で観察される個体数変動は古典的なロトカ・ボ
ルテラモデルで見られる個体数変動ほど大きくない。
そのギャップを埋めることは数理生物学の分野で問題
の 1 つである。本研究においては,2 つの生息域にお
いて,捕食者のパッチ間移動率が餌食の個体数に依存
する場合について解析した。その結果,餌食依存の移
動率は,終局的な個体数変動を小さくすることが示唆
され,実験系と実際の自然界とのギャップを埋める要
因の 1 つではないかと考えられる。
白井 政和 静岡大学工学部システム工学科
移動の効果を入れた伝染病の広がり
伝染病モデルに人々が 2 つの都市を移動する途中に感
染する効果を入れた数理モデルの解析をした。都市間
†
これらの要約文は,JSMB Newsletter No.49 に掲載され
た特集記事を再掲したものです。p.8 以降により詳しい要
旨を,要約文掲載順に掲載してあります。(ただし,一部
の論文については要約文のみの掲載です)
の移動率を変化させた場合,感受性人口のみを移動さ
せた時には安定性変化は起こらない。感受性人口も感
染人口も移動できる状況では disease free の平衡点の存
在と安定条件は求められる。endemic の平衡点はシュ
ミュレーションしてみると平衡点は存在し安定である。
よってこのモデルは移動中の感染率が高くなると伝染
病は定着する。
多田 芳教 静岡大学工学部システム工学科
人口移動とパッチ環境を考慮した伝染病モデル
本論文では 2 つの都市間を人が移動することにより両
都市で伝染病が絶滅するか定着するのかを数理モデル
を構築することにより考察する。都市 1,2 共に伝染病
が定着しているときと絶滅しているとき,2 つの都市
間で人口移動が起きると,前者は移動によらず伝染病
は両都市で定着し後者では絶滅した。都市 1 では伝染
病が定着しており都市 2 では病気が絶滅しているとき
は感染者の移動がある閾値を越すとそれまで定着して
いた伝染病が絶滅するケースを発見した。
堤 大輔 静岡大学工学部システム工学科
ステージ構造をもつ被食者捕食者モデルにおける安定
性スイッチ
捕食者に大人と子供という2つの成長段階を設けた被
食者捕食者モデルを考えた。但し被食者を捕食するの
は大人の捕食者だけ,子供の捕食者は大人から栄養を
分け与えられ成長することにする。本研究では,子供
から大人への推移率がこの栄養に関するミカエリスメ
ンテン型であるとし,先行研究との比較を行った。結
果,先行研究と同状況での安定性スイッチの個数の変
化や先行研究と違った状況での安定性スイッチの発生
を確認した。
福嶋 洋紀 静岡大学工学部システム工学科
非線形利得関数を持つ公共財モデルの解析
近年,デュベリらが非線形利得関数を持つ公共財モデ
ルを用いて,進化の過程は 5 つに分類できると報告し
2
JSMB Newsletter No. 49, Supplement (2006)
た。本論文では,彼らの公共財モデルを詳細に検討し
強い初期依存を示すパラメータ領域が存在することを
示した。パラメータが同じでも初期値によって系の振
舞が変化する領域が存在したように,社会においても
環境が同じであっても歴史的経緯の違いにより,人の
協力行動がどのように生じるかは異なるのではないか
と考えられる。
山田 洋輔 静岡大学工学部システム工学科
死亡率の高い伝染病の侵入と伝播
生物の伝染病のうち,死亡率が非常に高い伝染病がど
のように侵入するか,どんな広がりをするかについて
考えた。まず,未感染個体と保菌個体と発病個体の 3
コンパートメントを持つ数理モデルを考え,未感染個
体が保菌個体に変化する際,感染率が感染者の全人口
に占める割合に比例すると仮定する。すると,正の平
衡点は存在するが不安定なので,初期値が正の平衡点
以外では,最終的に未感染個体のみになるか,すべて
の個体が絶滅するかという現実とは違う結果になった。
千田 沙也加 名古屋大学理学部生命理学科生体システム論講座
遺伝的荷重に対する有限集団サイズ効果 ―サイズ効
果が無視できる条件―
遺伝的荷重が過大になるか否かを検討することは,あ
る集団遺伝学的機構が現実的か否かの判定基準の一つ
である。しかし,遺伝的荷重を考える際,選択が加わ
るため数理的な解析は一般に困難になる。ただし,サ
イズ効果が無視できれば解析を容易に行うことが可能
になる。本研究では選択,突然変異,有限サイズを取
り入れた 2 アレルモデルを用いて,有限集団の定常荷
重と無限大集団の定常荷重の差を調べ,サイズ効果が
無視できる条件を調べた。その際,有限集団の定常荷
重の性質も調べた。
合原 一究 京都大学理学部物理学第一教室吉川研究室
ニホンアマガエル (Hyla-japonica) の発声行動にお
けるリズム生成と逆相同期に関する研究⁄
二ホンアマガエルの発声行動実験を行ない,1 匹単独
では周期的に鳴き,2匹では交互に鳴く現象を見出し
た。次に,このカエルの発声行動に関する数理モデル
解析を行ない,単独では周期的リズムを生成する位相
振動子が,2個の結合系では逆相で同期する現象とし
て実験結果を記述できることを示した。このような逆
相同期発声行動の機能的意義として,交互に鳴くこと
でメスに近接する他のオスと自己とを区別させ,繁殖
∗
要約文のみの掲載
を有利に進めようとしている可能性が考えられる。
高田 恵子 奈良女子大学理学部情報科学科
性反転遺伝子による階層的種分化のモデル
アフリカのヴィクトリア湖のシクリッドは 12400 年で
数種から 500 種にまで種分化した。本研究ではこの急
速な種分化を説明づけるモデルを考える。シクリッド
では性反転遺伝子による体色の変化がよく見られる。
Lande は性反転遺伝子によって一種から二種に種分化
するモデルを作った。Lande のモデルに,生態的形質
に依存する競争を導入したモデルによって,一種から
二種,二種から三種の種分化の繰り返しが可能になっ
た。この種分化の繰り返しによって,シクリッドの爆
発的種分化は説明が可能であると思われる。
胡子 和実 広島大学理学部数学科
シアノバクテリアにおけるタンパク質のリン酸化サイ
クルによる概日周期モデル
シアノバクテリアは概日周期の存在が知られている最
も原始的な生物である。2005 年,シアノバクテリアの
時計タンパク質のリン酸化・脱リン酸化サイクルが約
24 時間の周期を持つことが実験的に発見され,これが
概日周期のコアサイクルと考えられるようになった。
本論文ではシアノバクテリアの概日周期にとって重要
な 3 つの時計タンパク質のみからなるモデルを構成し,
概日周期にとって重要な性質が再現されることをみた。
木村 俊彦 広島大学理学部数学科
捕食者はどのくらい多くの餌種と共存するか?
:数理モ
デルによる理論的考察(How many preys could a
predator coexist with?: Theoretical consideration with a mathematical model)
Lotka-Volterra 型1捕食者−複数餌種モデルについて,
共存平衡点にある系からいずれかの餌種が削除された
場合,あるいは,新しい餌種が侵入する場合の系の状
態遷移について考察した。系の平衡点の大域・線形安
定性解析を用いて,餌種が削除された場合,系は,残
りの餌種と捕食者が共存するか,もしくは,捕食者が
絶滅するかの,いずれかの平衡状態にのみ遷移し得る
ことを示した。また,捕食されにくい新しい餌種が侵
入すると,見かけの競争により既存餌種の絶滅が起こ
りうることも示された。
久保田 聡 広島大学理学部数学科
競争系におけるキーストーン種の存在性に関する数理
モデルによる理論研究(Theoretical consideration
平成 17 年度 卒業論文・修士論文・博士論文 要約文
on the existence of keystone species in a competition system: Analysis of a mathematical
model)
安定共存平衡点にある Lotka-Volterra 型 N 種競争系か
ら 1 種を削除し, 残った N −1 種の競争系において派生
的な更なる種の絶滅が生起するか否かについて数学的
な解析を行った。その結果, 削除する種によらず派生
的な絶滅が起こらない条件を導いた。さらに, 派生的
な絶滅が起こる場合については, どの種が絶滅するの
かを決定した。また, 削除により派生的な絶滅をより
起こし易い種の特性についても解析的な結果を得た。
蔦村 昂 広島大学理学部数学科
スナガニ科チゴガニ Ilyoplax pusillus におけるウェー
ビングによる群波形成に関する数理モデル研究(A
mathematical model for a group wave emergence with waving behavior of Ocypodid Crab
Ilyoplax pusillus)
スナガニ科のチゴガニ Ilyoplax pusillus の waving に
は個体間で相互作用があり,空間の個体分布による
waving のうねりパターン(群波)が観察されるが,こ
のパターンが生じる原因,メカニズムについては何も
わかっていない。本研究による cellular automaton を
用いた数理モデルの解析の結果,うねりパターンの生
成には,砂食いによる waving 相互作用の欠損と個体
の「向き」の分布に偏りが必要なのではないかという
示唆を得た。
3
究では,人々の興味,関心も社会的背景によって変動
すると仮定した。経済的な農法(A)または環境的な
農法(B)からのリン流出による湖の汚染について検
討した。結果,水質改善される社会的背景とは,社会
的圧力が大きく,2つの農法の経済コスト差が小さく,
A のリン流出量が小さく,B のリン流出量が小さい場
合である。しかし,B のリン流出量が小さすぎる,ま
たは A のリン流出量が中程度だと逆に水質が悪化する
場合も現れる。
田中 大介 九州大学理学部生物学科
ツバキの果皮厚とゾウムシの口吻長の軍拡競走におい
てコストが及ぼす影響について
2 種間の軍拡競走の典型的な例にツバキとゾウムシの
関係がある。ゾウムシは口吻を通じてツバキの果実の
中に卵を産みつけるが,ゾウムシの口吻長がツバキの
果皮厚よりも大きければ,ゾウムシは産卵することが
できる。そこでツバキは産卵されないように果皮を厚
くし,ゾウムシは産卵できるように口吻を長くすると
いう軍拡競走が起こる。また,野外研究(東樹,曽田)
により,ツバキの果皮厚,ゾウムシの口吻長が,緯度
が高くなるにつれ小さくなる傾向が見られることが確
認されている。ここでは,軍拡にコストがかかるもの
と仮定して,そのコストが共進化に及ぼす影響を,シ
ミュレーションを通じて調べた。
原口 敦子 九州大学理学部生物学科数理生物学研究室
1細胞内の B 型肝炎ウイルスの増殖
岩下 和泉 九州大学理学部生物学科数理生物学研究室
小さいオスがモテる? コガネグモの一種 Argiope
keyserlingi のオスの体サイズに対するメスの sexual
selection
オスの体サイズが関わる性選択の場合,大きいオスの
方が有利であることが多い。しかしコガネグモの一種
Argiope keyserlingi では小さいオスがメスに好まれる。
一妻多夫性の Argiope keyserlingi のメスは交尾時間を
操り父性を調整するが,小さいオスとの交尾時間の方
が長い。そこでメスの好みとオスの体サイズについて
モデルを作り調べたところ,メスは小さいオスを好み,
オスは最適サイズより小さいところで安定となること
が確認できた。ただし最適サイズとは,自身が生き残
る上で最も有利な体サイズのことである。
内田 智恵 九州大学理学部生物学科
湖の富栄養化と住民の協力行動解析
湖の水質と地域住民の協力行動の解析を行った。本研
本研究は,B 型肝炎ウイルス (Hepatitis B Virus;HBV)
の‘ 1 細胞内 ’での増殖について述べている。HBV の
複製の過程で,様々な反応から生じる産生物の濃度の
時間変化を数理モデルにした。このモデルを使って,
時間におけるウイルス粒子の濃度の変化を調べ,結果,
プレゲノム RNA 産生レートと HBs 抗原産生レートの
大小関係によって,ウイルスの増殖に大きく違いが出
ることを発見した。
平島 剛志 九州大学理学部生物学科数理生物学研究室
脊椎動物の肢芽における AER―ZPA 間での相互作用
脊椎動物の肢芽の伸張過程において,AERs で発現す
る Fgf 遺伝子と,ZPA で発現している Shh 遺伝子は,
ポジティブフィードバックループにより発現を維持し
合っていることが知られている。しかし,AER-ZPA
の位置関係はポジティブフィードバックのみでは説明
できない。本研究では,間充織細胞内で働く FGF シ
グナルからの仮想の Repressor を導入することにより,
AER-ZPA の位置関係が説明できることを示す。また,
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JSMB Newsletter No. 49, Supplement (2006)
Fgf-Shh 間にポジティブフィードバックがあることに
より AER − ZPA 間距離のパラメータ変化に対するロ
バストネスが上昇することがわかった。
定常状態が安定かどうかを調べた。
後藤 正樹 東京大学大学院総合文化研究科池上研究室
生態系における多重ゲーム性と多様性の進化
修士論文
一ノ瀬 裕 電気通信大学大学院情報システム学研究科情報ネットワー
ク学専攻
視覚カテゴリータスクの神経メカニズムを解明する神
経ネットワークモデル
視覚認識における重要な問題として,視覚カテゴリー
化の問題がある。視覚カテゴリー化とは,視覚物体の
特徴に注目し,それらの間に共通性を見出し,その共
通性に基づいて視覚物体を分類することである。今ま
でに様々な研究がおこなわれてきたが,その神経メカ
ニズムは明らかになっていない。本研究で提案するモ
デルは,カテゴリータスクにおける PFC や IT に関す
る実験的知見に矛盾することのないものであり,視覚
カテゴリー化タスクを達成するための神経機構の1つ
として考えられるものである。
平山 大輔 電気通信大学情報システム学研究科情報ネットワーク学
専攻
面フクロウの音源定位における両耳時間差と音圧差情
報の乗算的統合の神経機構
音源定位とは聴覚のみを使って音源の位置を特定する
能力のことであり,面フクロウは高度な音源定位能力
をもつ動物として知られている。面フクロウが音源定
位に利用する情報は左右の内耳への音の到着時間差
(ITD) と左右の内耳での音圧差 (ILD) であり,ICc ls
において ITD 情報と ILD 情報は統合されることによ
り,音源の空間的方向を検出するニューラルマップが
形成される。本研究では,この ICc ls における ITD 情
報と ILD 情報の統合メカニズムを解明する。
河内 一樹 東京大学大学院数理科学研究科
Mathematical analysis of deterministic models
for rumor transmission
本論文では,流言の伝播に対する決定論的数理モデル
について考察した。前半では,年齢に無関係に流言が
伝播する場合を考え,人口の一定の流出入や,流言の
変容の有無を考慮して 4 通りのモデルを提示し,大域
的挙動を決定した。後半では,年齢構造を持つ人口の
中で,伝播係数が年齢に依存して伝播されるモデルを
提示した。解の存在・一意性を考察した後,流言が定
着した定常状態が存在するか,また流言が根付かない
Genotype-Phenotype Mapping を取り入れ拡張したレ
プリケータ方程式を用いて,仮想的な生態系を作っ
た。ここで Mapping の仕方は複数考えられるが,1
つの Genotype が 1 つの Phenotype の発現に関与す
る場合 (独立なリンク) と,1 つの Genotype が 2 つの
Phenotype の発現に関与する場合 (多重なリンク) の比
較を行った。その結果,多重なリンクの方が生態系の
振舞いに多様性が現れることが観察された。これは,
形質の発現が遺伝子によって制限されることで,多様
性が生まれることを示唆する結果である。
鈴木 健大 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム
科学系池上研究室
食物網をなす種のタイムスケールとシステム全体への
影響度の関係
いかなる種がいかなる場合にキーストン種となりえる
かを Lottka-Volterra 方程式を基本とした数理モデル
における種の除去実験により調べた。特に,相互作用
する種間での複製タイムスケールの違いに着目し,こ
れを導入したモデルと導入しないモデルとの比較を行
なった。結果としてキーストン的な種を生じさせてい
るのは食物網の構造ではなく,種の複製タイムスケー
ルの違いであることが分かった。
舩橋 真俊 東京大学大学院新領域創生科学研究科複雑理工学専攻
Modeling and analysis of birdsong learning (鳴
鳥類の音声発達に関するモデル化と解析)
近年,人間の言語のモデルとして,文法的構造を持つ
鳥の歌が注目されている。本研究では,ニューラルネッ
トを用いて鳥の歌の発達過程を数理モデル化した。ま
た,文法の自律的多様化の実現にカオス的ダイナミク
スが応用可能であることを示し,モデルの解析を行っ
た。
五十嵐 章裕 東京薬科大学生態学研究室
北海道マイマイガにおける遺伝子浸透のコンピュー
ター・シミュレーション
北海道マイマイガには形態的特徴は同じでありながら
北海道型と本州型の2つの異なるミトコンドリア DNA
ハプロタイプをもつものが存在する。さらにそれら2
つの個体群によって形成されるハイブリッドゾーンに
おいて male-killing が確認されている。本研究では2
つの個体群が出会ってからの遺伝子浸透について確率
平成 17 年度 卒業論文・修士論文・博士論文 要約文
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論的,決定論的シミュレーションにより解析を行った。
観察された。
吉野 好美 早稲田大学大学院理工学研究科物理学及応用物理学専攻
久保 和紀 名古屋大学大学院情報科学研究科
ニューロンの興奮性・抑制性バランスと Dale 則
ニッチ構築を介した個体間相互作用に関する進化シ
ミュレーション
脳は,ニューロンレベル,ネットワークレベルでの研
究が不可欠である。本研究ではネットワークとして重
要な結合部分が興奮抑制という 2 種類の機能をもつこ
とに着目し,その存在比率 (バランス) に対して数値実
験と数理的考察を行った。
今井 俊文 静岡大学大学院理工学研究科システム工学専攻
Mathematical analysis of predator-prey coevolution system
本論文では,捕食者-被食者系で,被食者の一部が捕食
者に対してアドバンテージ(例えば毒性)を持つ場合
と,捕食者も被食者のアドバンテージに対して対抗策
(例えば耐性)を持つ場合の微分方程式について,そ
れぞれ局所解析とシミュレーションを行った。結果と
して,被食者がアドバンテージを持つことで安定に存
在することができること,共進化した種は共存できな
いこと,耐性捕食者の導入はすべての種の共存を困難
にすることを得た。
生物の生態的活動による選択圧の改変であるニッチ構
築の進化の非自明なシナリオについて知見を得るため
2 つの個体ベースモデルを構築し解析した。それを行
う個体自身の適応度を上げる正のニッチ構築の影響が
他の個体にも等しく及ぶ状況を想定し実験した結果,
選択圧を受ける遺伝子との相関により一時的に正の
ニッチ構築遺伝子が支配的となった。負のニッチ構築
の典型例として多年生植物の自家中毒形質の進化実験
を行った結果,自家中毒による負のニッチ構築は個体
の分布や相対的な適応性を改変し,そのデメリットを
上回るメリットを得ることで進化可能であることが判
明した。
高野 雅典 名古屋大学大学院情報科学研究科
心の理論における再帰レベルの進化に関する構成論的
アプローチ
本研究では対象を陸上植物とし,多種共存のメカニズ
ムについて研究を行った。我々は植物の特徴として (i)
密度依存効果の影響,(ii) 植物の栄養利用戦略を考えた
モデルを提案し,安定性解析を行った。その結果,前
者を考慮した場合は多種が共存する可能性があること
を内部平衡点の安定性から示した。後者では。栄養利
用戦略の違いにより 2 つの資源に対して 2 種までしか
共存しない場合と 3 種が共存する場合を確認した。
心の理論とは他者の心を推測する心の機能のことであ
る。心の理論により他者が心の理論を持つと推測する
とき,他者も心の推測を行っていると推測できる。こ
のとき心の推測の入れ子構造ができる。この入れ子構
造はヒトの知性の進化において大きな影響を与えたと
考えられる。この再帰性に関して 2 つの計算論的モデ
ルを設計し,様々な個体間関係性における再帰のメカ
ニズムに関する進化シミュレーションを行った。結果,
適応度において再帰レベルの奇数・偶数に非連続的な
違い存在し,それは他者を予測する(レベル 1),しな
い(レベル 0)の差に起因すること,他者との関係性
がその再帰レベルの適応性の支配要因となる可能性な
どが示された。さらにそれらに基づく心の理論の再帰
レベルの進化に関して議論を行った。
小川 行政 名古屋大学大学院情報科学研究科複雑系科学専攻
広永 良 京都大学生態学研究センター
囚人のジレンマの戦略のにおける進化,学習,発生の
相互作用
被食者と捕食者の軍拡競走を促進する環境変化:理論的
アプローチ (Environmental changes which promote prey-predator arms race: A theoretical
approach)
岩田 繁英 静岡大学大学院理工学研究科システム工学専攻
Coexistence of multiple species on the limited
resource — analysis of modified lottery models
生物の代表的な適応機構である進化,学習,発生の相
互作用に関して知見を得るために,学習や発生の可能
性自体も遺伝的に決まる囚人のジレンマの戦略進化
モデルを構築した。その際,進化を遺伝的アルゴリズ
ム,学習をメタ・パブロフ,発生をタグシステムまた
はチューリングマシンで表現した。実験の結果,ほぼ
すべての試行で協調関係が築かれたが,同時に進化,
学習,発生の柔軟な役割分担を表す様々なシナリオが
生物史上少なくとも二度,被食者−捕食者間の軍拡競
走が革新的に発展したことが知られており,それらの
原因はしばしば環境の改善だとされてきた。そこで本
研究では数理モデルを用い,どのような環境が軍拡競
走をもたらすのかを求めた。その結果,持続的かつ安
定的な軍拡競走が起こるためには,環境の改善に加え,
6
JSMB Newsletter No. 49, Supplement (2006)
被食者と捕食者の増殖率にあまり差がないことが必要
であることが分かった。また,軍拡競走がさらに激化
する条件も求めた。
リー性,モジュールの階層性,そして disassortativity
に注目し,これらの性質を再現するネットワークモデ
ルを提案した。また,このモデルの統計的性質を詳細
に解析し,各統計的性質の発現する条件を見出した。
満江 綾子 奈良女子大学大学院人間文化研究科情報科学専攻
ホストーパラサイト系モデルの進化及び個体群動態
寄生系の古典的ダイナミクスとして知られる NicholsonBailey モデルを拡張し,複数パラサイトを含む個体群
動態モデルを始め,多型に於ける積分差分式を解析し
た上で,集団中に出現した突然変異集団の適応度に注
目し,adaptive dynamics の枠組みを用いてホスト–パ
ラサイト系に於ける進化の行方を数理的に解析するこ
とを試みる。
杉浦 正康 大阪大学大学院理学研究科物理学専攻
生体内のウイルス動態と免疫応答の数理モデルの研究
HIV 患者の一般的な臨床データでは,患者の体内で感
染初期にウイルス量が爆発的に増大した後しばらくの
間,ウイルス量が少ない数年から10数年の無症候期
間があり,その後急激にウイルス量が増大することが
見られる。なぜこのようなことが起こるかについて,
HIV が遺伝的多様性を持つことや,免疫細胞に感染し
て,感染した細胞を殺していく効果を考慮したモデル
を考え調べた。
宮路 智行 広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻
Mathematical analysis to an adaptive network
of the Plasmodium system
ある真性粘菌は異なる二点に食料を置かれるとその体
形を変え,仮足で二つの食料源を結ぶ。その性質を利
用して,迷路の最短経路解を見つける粘菌の実験が中
垣らによって紹介されている。このような,粘菌を構
成する管状ネットワークの適応過程を記述する数理モ
デル Plasmodium System が手老らによって提案され
た。本論文ではいくつかの基本的なネットワークにお
けるこの数理モデルに対する数学的に厳密な解析を
行い,それらにおいて特別な二点を結ぶ最短経路がユ
ニークに決定できる場合にはこのモデル方程式でそれ
を発見できることを証明した。
竹本 和広 九州工業大学大学院情報工学研究科情報科学専攻生命情報
工学分野
生命分子ネットワークの構造特性を示す数理モデルに
関する研究
代謝ネットワークや転写制御因子ネットワークなどの
生命分子ネットワークには生物種に依存しない統計的
性質がある。本研究では,その性質であるスケールフ
上原 隆司 九州大学大学院理学府生物科学専攻
不確実な情報の適応的利用として見る動物行動の進化
の理論的研究
動物の行動決定に用いられる環境や他個体から与えら
れる情報が不確実なものであるという視点から動物行
動の進化を考える。(1)グッピーの配偶者選択に見
られる真似行動を雌による雄の質の不正確な推定によ
るものとして,どのような条件で真似が有利になるの
かを調べる。(2)動物の闘争における誇示行動が互
いの闘争能力を推定する手段であるとして,誇示行動
の時間の長さの進化を考える。
博士論文
神岡 勝見 東京大学大学院数理科学研究科
Mathematical analysis of sessile metapopulation dynamics with space-limited recruitment
(個体補充に空間的制限を有する固着性メタ個体群動
態の数理解析)
固着性無脊椎動物のメタ個体群モデルの解析を行う。
Iwasa and Roughgarden によって提案された多種多生
息地メタ個体群モデルの共存定常解の存在,自明定常
解の大域安定性,パーシステンス,パーマネンス等を
考察する。更に,Roughgarden and Iwasa が提案した
一種一生息地の年齢構造入りメタ個体群モデルを密度
依存死亡率を加えて拡張し,定常解の存在と局所安定
性,及び大域安定性を調べる。
中道 義之 名古屋大学大学院人間情報学研究科
フェロモン・コミュニケーションによる相互作用に関
する構成的研究
蟻の群知能の創発現象において,中心的な役割を果
たしているのがフェロモン・コミュニケーションであ
る。この現象の理解と応用に関して知見を得ること
を目的として,構成的手法に基づいて,Ant Colony
Optimization とフェロモン・コミュニケーションの進
化モデルにおける相互作用について検討した。検討の
結果,フェロモン・コミュニケーションに内在する集
中化傾向を防ぐ 2 種類の多様化メカニズムに関する知
平成 17 年度 卒業論文・修士論文・博士論文 要約文
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見が得られた。
相互作用,に関する理論的研究を行った。
北畑 裕之 京都大学大学院理学研究科
大槻 久 九州大学大学院理学府生物科学専攻
Spatio-temporal pattern formation in reactiondiffusion systems coupled with convection
and geometrical effect
A theoretical study of the evolution of cooperation in social relationships (社会内における協
力の進化の理論的研究)
非平衡開放系における時空間パターン形成のモデルと
して広く用いられる反応拡散系において,これまでほ
とんど議論されてこなかったが現実の世界を考えると
きに考慮する反応場自体に流れがある,あるいは,時
空間パターンが反応場の境界の影響を受けるような現
象に関して,Belousov-Zhabotinsky 反応(BZ 反応)
などのモデル系を用いた実験,ならびに理論,数値計
算を組み合わせつつその特徴を議論する。
間接互恵性 (indirect reciprocity) の進化条件に関する
数理的研究を行った。間接互恵性とは評判等の社会情
報を介して互恵的な協力行動が達成される仕組みを指
す。本論文ではどのような評判情報の下で協力の安定
的な維持が可能かを調べた。その結果 leading eight と
呼ばれる社会規範を発見した。そして懲罰行動の社会
的正当化こそが間接互恵性による協力の進化に必要不
可欠な要素であることを示した。
三木 健 京都大学生態学研究センター
横溝 裕行 九州大学大学院理学府生物科学専攻数理生物学講座
細菌を介した物質循環過程に関する群集アプローチか
らの理論的研究
水界での物質循環過程において,有機物の分解や上位
食物連鎖への転換といった重要な機能を担っている従
属栄養細菌は,物質循環への影響力の異なる多様な細
菌グループから構成されている。本研究では,グルー
プ間の相互作用によってその組成が変化するという細
菌群集の可塑性に注目した「群集アプローチ」を提案
し,
(1)二種類の有機物利用を介した細菌間相互作用,
(2)有毒物質分解遺伝子の水平伝播を介した細菌間
相互作用,
(3)細菌・ウイルス・細菌捕食者間の間接
Optimal conservation strategy for an endangered population in fluctuating environments
(変動環境における最適保全戦略の数理的研究)
外来生物や生息地破壊などにより絶滅の危機に瀕して
いる個体群の保全を考える。本研究では,個体数に不
確実性があり,年によって生存率が変動する場合にお
いて,個体数の調査努力量と生存率を改善するための
保全努力量の最適値を求めた。さらに,外来種に存続
を脅かされている在来種の保全を考え,在来種の生息
地の改善努力量と,外来種の駆除努力量の最適値を解
析し,両方の努力量が正になる条件を導出した。
8
JSMB Newsletter
17
No. 49, Supplement, p. 8, 2006
捕食者と被食者の移動を考慮したロトカ・ボルテラモデルの解析
静岡大学工学部システム工学科 竹内研究室所属 今泉 美智子
1
背景
(III) 両者が移動する場合 (mN = mP = m)
(N1 , P1 , N2 , P2 )=(0, 0, 0, 0):不安定。
(N1 , P1 , N2 , P2 ) = (µ, r, µ, r):中立安定。
環境の非一様性が捕食者・被食系に与える影響を考察
する。簡単のため環境が 2 つのパッチに分かれていて、
生物がパッチ間を移動できるものとする。捕食者のみ、
被食者のみ、両者が移動する 3 通りを考え、それぞれの
場合で生物のパッチ内間移動が系のダイナミクスに与え
る影響を考察する。パッチ内のダイナミクスがロトカ・
ボルテラ系で与えられると仮定して、平衡点の安定性を
調べる。
2
2.1
3
数値シミュレーション
捕食者や被食者の移動を入れると、解が N1 = N2 , P1 =
P2 を満たす平面に近づき、その上で小さい振幅を持つ周
期解が得られる。
平面に近づくまでの時間を T , 周期解の振幅を L とする。
r = µ = 1 とし、
初期値 (N1 , P1 , N2 , P2 )=(10, 11, 10.2, 11.2) とする。
モデル
ロトカ・ボルテラモデル
dN
dt
dP
dt
=
rN − N P
=
N P − µP
(1)
各パラメータは次の意味を持つ。
N :被食者の個体数密度. P :捕食者の個体数密度.
µ:捕食者の死亡率. r:被食者のマルサス係数.
図 2: 移動率 m と周期解の最大振幅 L の長さの関係
<安定性の結果>
平衡点 (N, P ) = (0, 0) は常に不安定。
平衡点 (N, P ) = (µ, r) の安定性は固有値からは判別で
きない。
L について:図 2 より、捕食者のみの移動で周期解の
最大振幅 L の値は移動率 m が 0.01 から 0.02 までは大き
く減少するがそれ以上では変動があるものの、m を大き
くしていくと最大振幅 L の値も大きくなる。被食者のみ
の移動は移動率 m が 0.04 以下では最大振幅 L の値が小
リャプノフ関数
さいが、移動率 m が 0.05 以上では急に大きい値をとり、
V (t) = N − µ log N + P − r log P
を考えると、その解に沿っての時間微分は V (t) = 0
また m をどれだけ大きくしてもほとんど最大振幅 L の
値は変わらない。両者が移動する場合、移動率 m をどれ
となる。共存平衡点 (N, P ) = (µ, r) で V (N, P ) は最小
だけ大きくしてもほとんど最大振幅 L の値は変わらず、
値をとり、平衡点から解は遠くへ離れたり近づいたりし
ほぼ一定である。
T について:一方だけの移動は、移動率 m を大きくす
ないので共存平衡点は中立安定といえる。
2.2
2 パッチモデル
dNi
dt
dPi
dt
=
=
ると T が大きくなり、捕食者のみの移動の方が T が大き
rNi − Ni Pi + m2N (Nj − Ni )
Ni Pi − µPi + m2P (Pj − Pi )
い。捕食者と被食者を移動したときは、移動率 m を大き
(2)
各パラメータは(1)式と同じ。i, j = 1, 2:パッチナンバー
(i = j). mN (mP ):パッチ間の被食者(捕食者)の移
動率。
d {V1 (t) + V2 (t)}
(P1 − P2 )2
(N1 − N2 )2
−rmP
= −mN µ
dt
2N1 N2
2P1 P2
(I) 捕食者のみが移動する場合 (mN =0,mP =m)
mr
,(0, m+2µ
,
(N1 , P1, N2 , P2 )=(0, 0, 0, 0)
2µ(m+µ)
mr
,( m+2µ , r, 0, m+2µ ) :不安定。
(N1 , P1, N2 , P2 ) = (µ, r, µ, r):中立安定。
2µ(m+µ)
m+2µ , r)
くするに従って T が小さくなる。
4
考察
それぞれの移動で周期解の最大振幅 L は、移動率 m の
値を大きくするに従ってほぼ同じ値に収束する。
捕食者と被食者の移動を入れたときに最も速く N1 =
N2 , P1 = P2 平面に近づき、最も時間がかかるのは捕食
者のみの移動を考えたときである。
捕食者のみを移動したときは、初め大きく周っていた
解が小さな周期解となって N1 = N2 , P1 = P2 平面に近づ
く (Jansen の論文より)。被食者の移動を入れると、パッ
チ間の個体数密度の差がなくなる時間が早いため、解は
大きな周期解のまま N1 = N2 , P1 = P2 平面に近づく。
これより、被食者の移動を入れるとパッチ間の移動効果
率が減少すると考えられる。
5
図 1: 時間に対する平均的な被食者の密度変動 (m=3)
(II) 被食者のみが移動する場合 (mN =m,mP =0)
mµ
,(− 2r−m
, 0, µ, 2r(r−m)
2r−m )
(N1 , P1, N2 , P2 )=(0, 0, 0, 0)
mµ
,(µ, 2r(r−m)
2r−m , − 2r−m , 0) :不 安 定 。 (た だ し m > 2r )
(N1 , P1, N2 , P2 ) = (µ, r, µ, r):中立安定。
参考文献
Jansen,V.A.A.,de Roos,A.M,The Role of Space in Reducing Predator-Prey Cycles, in ”The Geometry of Ecological Interactions: Simplifying Spatial Complexity,”
pp. 183-201 (Cambridge University Press, Cambridge,
U.K. 2000)
餌食依存の移動を考慮したロトカ・ボルテラモデル
静岡大学工学部システム工学科 齋藤研究室所属 澤木 博之
1
3.2
序論
内部平衡点 (X1∗ , Y1∗ , X2∗ , Y2∗ ) = ( γyy ,
古典的なロトカ・ボルテラモデル (cf.[1]) は実験系にお
いて餌食・捕食者が呈する個体群動態を正しく説明する
が、実際の自然界における個体群動態に対してはそうでは
ない。実際、自然界で観察される個体数変動は古典的なロ
内部平衡点の安定性
ε
εx εy εx
γx , γy , γx )
におけ
る(1) のヤコビ行列の固有値を求めると、
√
±i εx εy
ε ε
−δ(X ∗ ) ± δ 2 (X ∗ ) − εx εy + 2 xγy y δ (X ∗ )
トカ・ボルテラモデルで見られる個体数変動ほど大きくな
となる。よって、固有値に純虚数が含まれたことから内
い。そのギャップを埋めることは数理生物学の分野で問題
部平衡点の安定性は固有値から判別することはできない。
の 1 つである。
この状況は基本モデルであるロトカ・ボルテラモデルとヤ
ヤンセンとルースはロトカ・ボルテラモデルを基本モデ
ンセン・ルースのモデルと同じになる (ロトカ・ボルテラ
ルとし、パッチ間移動 (移動率は定数) を考慮に入れるこ
モデルはリャプノフ関数を構成することによって大域的に
とで餌食・捕食者の個体数変動が小さくなることを報告し
中立安定であることが言えている)(cf.[1][2]) 。
ている (cf.[2])。本研究では、2 つの生息域において、捕食
4
者のパッチ間移動率が餌食の個体数に依存する場合につい
て解析した。
2
シミュレーション
内部平衡点の存在性、局所安定性からは先行研究との違
いは見られなかった。それでは、どのような違いがあるか
モデル
シミュレーションで調べた。単調減少関数 δ(Xi ) を以下の
一般に餌食より捕食者のほうが移動量は多い (例えば草
ようにした。
δ(Xi ) =
数 δ(Xi ) とした。この意味としては餌食が多くいればあま
β
(i = 1, 2)
(4)
αXi + 1
α,β ≥ 0 であり、α = 0 としたときはヤンセン・ルース
のモデルとなり、β = 0 のときは移動のない古典的なロト
り移動せず、餌食が少なければ餌を求めて移動するように
カ・ボルテラモデルとなる (cf[1][2]) 。
した方がより現実に近くなると考えたためである。モデル
εx ,εy ,γx ,γy を同じ値に固定し、α と β の効果を見た。さら
に、初期値をいろいろ変えてシミュレーションを行った。
α = 0 のとき (ヤンセン・ルースのモデルに相当)は非常に
食動物と植物)。簡単のため、捕食者のみ移動するものと
する。その際、移動率を餌食 Xi に関する正の単調減少関
は次のようになる。

dX1

= X1 (εx − γx Y1 )

dt


 dY1 = −Y (ε − γ X ) − δ(X )Y + δ(X )Y
1 y
y 1
1 1
2 2
dt
dX2

= X2 (εx − γx Y2 )

dt


 dY2 = −Y (ε − γ X ) − δ(X )Y + δ(X )Y
2
dt
y
y
2
2
2
1
(1)
1
ここで、εx ,εy ,γx ,γy > 0 である。X1 、X2 はそれぞれパッ
チ 1、パッチ 2 の餌食の個体数を表し、Y1 、Y2 はそれぞれの
パッチ 1、パッチ 2 の捕食者の個体数を表す。また、(1) の第
2 式、第 4 式中の −δ(Xi )Yi + δ(Xj )Yj
(i = 1, 2 i = j)
はパッチ間移動を表している。
3
解析
3.1
そのような小さな移動率でも、α を増やしていくことで解
の終局的な振幅が小さくなることを観察した。
5
考察
単調減少関数 δ(Xi ) を考慮に入れたモデルでも内部平衡
点はただ 1 つであり、内部平衡点の安定性は固有値からは
判別できなかった。餌食依存の移動率 δ(Xi ) は、個体数変
動を小さくすることが示唆され、実験系と実際の自然界と
のギャップを埋める要因の 1 つではないかと考えられる。
α = 0 のときに移動率が小さすぎて終局的な振幅が変わ
らなかったような場合においても α を増やしていくことに
内部平衡点の存在
(1) 式の第 1 式、第 3 式より Y1∗ = Y2∗ = γεxx はすぐに求
められる。それを(1) 式の第 2 式、第 4 式に代入し整理す
ると、以下の関係式が得られる。
2εy
X1∗ = X2∗ =
(2)
γy
2ε
(2) より 0 < X1∗ < γyy の範囲内でなければならない。(2)
式と Y1 と Y2 の平衡点を(1) の第 2 式に代入し、整理すると
2εy
(−εy + γy X1∗ ) + δ(
− X1∗ ) − δ(X1∗ ) = 0
(3)
γy
となり、δ(Xi ) が単調減少関数であることから、(3) を満
たす X1∗ は 1 つしかないことが言える。したがって、内部
平衡点
(X1∗ , Y1∗ , X2∗ , Y2∗ ) = (
小さな移動率では個体数変動に変化がなかった。しかし、
εy εx εy εx
, , , )
γy γx γy γx
がただ 1 つ存在することが証明できる。
よって (移動率は小さくなっていくにもかかわらず) 終局
的な振幅を小さくさせるなどのシミュレーション結果に対
する生物学的意味を今後考えていく。さらに、これらのシ
ミュレーション結果をふまえて、今後モデル(1) の δ(Xi )
の効果を数学的に明らかにしたい。
参考文献
[1] Vito Volterra:Lecon sur la theorie mathematique
de la litte pour la vie. Gauthier-Villars,Paris,1931
Jansen,V.A.A.,de Roos,A.M,
[2] VincentA.A.Jansen and Andre M. de Roos:The Role
of Space in Reducing Predator-Prey Cycles,in”The
Geometory of Ecological Interactions:
Simplifying
Spatial Complexity,”pp.183-201(Cambridge University
Press,Cambridge,U.K.2000)
移動の効果を入れた伝染病の広がり
静岡大学工学部システム工学科
1
竹内研究室所属 白井 政和
3
背景
先行研究では人の移動の効果(移動途中に感受性人口 S が感
3.1
モデル解析
平衡点の分類表 (2.1)
染人口 I と出会い、感染が広まってしまう)を取り入れた伝染病
平衡点
a(b+2α )
a(b+2α )
P1∗( b(b+α1 α22) , 0, b(b+α1α12 ) , 0)
P2∗ (S, I, S, I)
モデルを研究してきた。なぜこの効果が必要であるのかは、例え
ば発展途上国では人が都市間を移動する場合には混雑した列車や
飛行機を利用し、移動途中で感染が起きると、まだ感染が起きて
いない都市での伝染病の突発的な広がりやダイナミクスの変化が
起きる可能性があるからである。
H = 2c + 2d + α1 + α2 −
3.2
国で考えると先進国と発展途上国、また地域で考えると観光都市
と田舎のように移動率が異なるのがより現実に近いモデルと考え
られる。こうした状況で伝染病の広がりを解析していく。
3.3
Model
・子供の増加数 a は単位時間あたり一定で S に加える。
・I の回復率 d
3.4
βS I
(i = j i, j = 1, 2)
・都市 i から都市 j に確率 α で移動する。
・
γαSj Ij
Sj +Ij (j
= 1, 2) 移動中に S と I が出会い感染率 γα で
感染する。
R0 < 1
R0 > 1
R0 > 1
R0 > 1
不安定
R0 > 1
不安定
平衡点
存在条件
安定性
P1∗( ab , 0, ab , 0)
P2∗ (Sγ∗ , Iγ∗ , Sγ∗ , Iγ∗ )
always
R0γ < 1
R0γ > 1
R0γ > 1
解析
R0 =
β
, R0γ
c+d
=
β+γα
.
c+d
モデル (2.3) では、パラメータが R0 < 1 の条件であっても γ が
増加すると伝染病は両都市で定着し、さらに感染人口 I が増加
するにも関わらず、総人口は減少している。
定着して、β を抑えることが出来れば伝染病は絶滅する。
最後にモデル (2.1) は disease free の平衡点については、存在
条件と安定条件は求められたが、endemic の平衡点が求められ
ていない。しかしシュミュレーションでは、2β > H の条件でパ
ラメーターを決めてシュミュレーションすると、確かに endemic
な平衡点は存在し安定であった。
4
考察
モデル (2.2) 式の場合は、移動なしの SI モデルと安定性条件
は同じになる。これは1つの都市での SI モデルとみなせるので
移動率 α1, α2 モデル (S のみ移動)
予想通りの結果となった。モデル (2.1) 式の endemic の安定条
件は他のモデルと同様に disease free の安定条件の不等号を反対
にすることによって導けるとすれば、(2.3) は γ が大きくなれば
(2.2)
平衡点は endemic になる。こういった意味で意味でモデル (2.1)
は、モデル (2.3) と同じであり都市間の移動率を変えても結果は
移動中の感染が重要な要素であることが分かった。今後の課題は
endemic の平衡点の値、安定条件の決定でこのモデルは全て解
析できる。
移動率共通モデル (S, I 移動)
(2.1) でα1 = α2 = αとしたモデル
always
とは起こらない。よって都市内での感染率 β が高いと伝染病は
βS1 I1
γα2 S2 I2
− bS1 + dI1 − α1 S1 + α2 S2 −
S˙1 = a −
S1 + I1
S2 + I2
I
S
I
βS
γα
1
1
2
2
2
− (c + d + α1 )I1 + α2 I2 +
I˙1 =
S1 + I1
S2 + I2
βS2 I2
γα1 S1 I1
S˙2 = a −
− bS2 + dI2 − α2 S2 + α1 S1 −
S2 + I2
S1 + I1
I
S
I
βS
γα
2
2
1
1
1
I˙2 =
− (c + d + α2 )I2 + α1 I1 +
S2 + I2
S1 + I1
(2.1)
2.3
安定性
市間の移動率を変えたにもかかわらず、モデル (2.3) のようなこ
移動率 α1, α2 モデル (S, I 移動)
βS1 I1
S˙1 = a −
− bS1 + dI1 − α1 S1 + α2 S2
S1 + I1
βS1 I1
I˙1 =
− (c + d)I1
S1 + I1
βS2 I2
− bS2 + dI2 − α2 S2 + α1 S1
S˙2 = a −
S2 + I2
βS2 I2
− (c + d)I2
I˙2 =
S2 + I2
存在条件
基本再生産数 R0 で伝染病が定着するか、絶滅するか決まる。都
・移動中に I は回復しない。
2.2
不明
次にモデル (2.2) では感受性人口 S のみの移動するわけだが、
・S, I は移動中に出産、死亡はしない。
2.1
不明
基本再生産数は次のように定義する。
j j
・ Sj +I
(j = 1, 2) 都市 j の S と I が出会い感染率 β で感
j
染する。
2β < H
平衡点の分類表 (2.3)
仮定
・S の自然死亡率 b、I の死亡率 c(病死+自然死)。
always
平衡点の分類表 (2.2)
a(b+2α2)
a(b+2α1)
P1∗ ( b(b+α
, 0, b(b+α
, 0)
1 α2 )
1 α2 )
∗
P2 (S1 , I1 , S2 , I2 )
P3∗ (S¯1 , 0, S¯2 , I¯2 )
P4∗ (S¯1 , I¯1 , S¯2 , 0)
せて様々な状況を考える。このように考えた理由は、例えば国と
安定性
(α1 + α2 )2 + 4α1 α2 γ(2 + γ)
平衡点
本論文ではこのモデルに移動制限また都市間の移動率を変化さ
2
存在条件
参考文献
(2.3)
Spreading Disease with Transport-Ralated Infection,
JING’AN
CUI,
YASUHIRO
SAITO, J.Theor.Biol.(in press)
TAKEUCHI,
YASUHISA
人口移動とパッチ環境を考慮した伝染病モデル
静岡大学工学部システム工学科 竹内研究室所属 多田 芳教
1
序論
チ間で移動が無い場合のパッチ1,2 での基本再生産数を
伝染病モデルの分野での 1 つの重要なテーマは、病気の
定着と絶滅を決定付ける閾値を獲得することである。本研
究では、パッチ間での人の移動がある場合の伝染病モデル
を提案し閾値を決定する。
2
R01 、R02 とすると、それぞれは以下で表せる。
β1
β2
R01 =
,
R02 =
µ1 + γ1
µ2 + γ2
(2) と [2,Theorem2] を合わせると次の関係が示せる。
R0 > 1 ⇔ S(M1 ) > 0, R0 < 1 ⇔ S(M1 ) < 0
モデル
人の移動を考慮した伝染病のモデルは次のようになる。
n
Si Ii
Si = Bi (Ni )Ni − µi Si − βiN
+ γi Ii + j=1 aij Sj
i
n
Si Ii
Ii = βiN
− (µi + γi )Ii + j=1 bij Ij
1≤i≤n
i
Ni :パッチ i での人口 (Ni = Si + Ii )。Si :パッチ i での感受
性個体の数。Ii :パッチ i での感染個体の数。Bi (Ni ):パッ
チ i での人の出生率。µi :パッチ i での人の死亡率。γi :パッ
チ i での感染個体の回復率。βi :パッチ i での病気の伝染係
数。aii ,bii (1 ≤ i ≤ n):非正の定数。aij ,bij (i = j):非負の
定数。−aii ≥ 0 はパッチ i から移出する感受性個体の移
3
結果
・R > 1,R > 1
01
ⅰ
(
0
・R
R 01 + R 02 − 2
2
,
ⅲ
(
0
02
01
ⅲ
(
0
割合。aij (i = j) はパッチ j からパッチ i への感受性個体
0
個体の移動割合。簡単化のため、人口の移動過程における
2.1
02
ⅱ
01
ⅰ
(
)
)
01
ⅱ
)
02
>1
θ2
0
02
L>0
L<0
M >0
θ1
0
θ1
①
M <0
+ R02 − 2 > 0
(
R 01 + R 02 − 2
2
01
・R > 1,R < 1 02
(
)
(R 01 − 1)(R 02 − 1)
R 01 + R 02 − 2
01
・R > 1,R
<1
θ2
θ1
)
・R > 1,R < 1 and R + R − 2 < 0
01
02
< 1 R 02 < 1
動割合。−bii ≥ 0 はパッチ i から移出する感染個体の移動
死亡と出生を無視すると、次の式が得られる。
n
n
1 ≤∀ i ≤ n
j=1 aji = 0,
j=1 bji = 0
θ1
)
0
・R > 1,R < 1 and R
の移動割合。bij (i = j) はパッチ j からパッチ i への感染
01
ⅱ
(
01
・R < 1,R
02
)
0
①
L
①−1
M >0
θ2
1+α
L
①−2
0
②−1
M <0
θ2
0
②-2
N
M
θ2
②-2
図1
図2
図1は 2 つのパッチが同じ回復率、死亡率、移動率を持
1+α
つ場合の感染者の移動 θ1 による R0 の正負の変化の様子
(1)
2 パッチモデル
である。図2は 2 つのパッチで全てのパラメータが異なる
一般的な状況での感染者の移動 θ2 による R0 の正負の変
(1) を仮定すると、a12 = a22 、a21 = a11 、b12 = b22 、
b21 = b11 とできる。基本モデルにおいて n = 2 とすると、
化の様子である。図の斜線部では病気は定着し、空白部で
S1
S2
I1
I2
+ γ1 I1 + a22 S2
は人口移動によらず病気は定着し、1 より小さい時には病
= B2 (N2 )N2 − (µ2 + a22 )S2 −
+ γ2 I2 + a11 S1
S1 I1
= β1N
−
(µ
+
γ
+
b
)I
+
b
I
1
1
11 1
22 2
1
S2 I2
= β2N
−
(µ
+
γ
+
b
)I
+
b
2
2
22
2
11 I1
2
気は絶滅する。パッチ 1 の基本再生産数が 1 より大きく
は病気は絶滅していることを表す。図 1 の状況でも図 2 の
状況でもパッチ 1,2 の基本再生産数が 1 より大きい場合に
= B1 (N1 )N1 − (µ1 + a11 )S1 −
β1 S1 I1
N1
β2 S2 I2
N2
上式の病気なしの平衡点、つまり平衡点 (S1∗ , S2∗ , 0, 0) に
対するヤコビアンを計算すると、
A B
J=
0 M1
ある。
4
考察
本論文では、論文 [1] の2パッチモデルの感染の項 βi Si Ii
を人口 Ni で割ったことにより感染の度合いが総人口中の
感染者のしめる割合として表せるのでより現実的なものに
となる。A, B, 0, M1 はそれぞれ 2 × 2 行列である。S(M1 )
を M1 の固有値の最大の実部とする。
√
h + h21 −4h2
S(M1 ) = 1
2
なった事に加え、図 2 の場合のような全てのパラメータが
異なる一般的な状況下での R0 の閾値を求めることが出来
た。また、S(M1 ) は未感染者の移動によらず感染者の移
動のみで決まる。つまり R0 は未感染者の移動とは無関係
h1 = β1 + β2 − b11 − b22 − γ1 − γ2 − µ1 − µ2
h2 = β1 β2 − b11 b22 − β1 (µ2 + γ2 + b22 )
−β2 (µ1 + γ1 + b11 ) + (µ1 + γ1 + b11 )(µ2 + γ2 + b22 )
(2)
2.2
パッチ 2 では基本再生産数が 1 より小さい場合では、人口
移動がある閾値より大きくなれば病気が絶滅するケースも
基本再生産数との関係
論文 [2] を参考に 2 つのパッチ間で人の移動があるときの
基本再生産数 R0 を求めると [2,Theorem2] により、R0 < 1
のとき病気無しの平衡点は局所的漸近安定であり、R0 > 1
のときは不安定である事が示される。また、2つのパッ
であることも分かった。
参考文献
[1] Wendi Wang,Xiao-Qiang Zhao, An epidemic model
in a patchy environment,Math.Biosci. 190 (2004) 97112
[2] P. van den Driessche,James Watmough,Reproduction
numbers and sub-threshold endemic equilibria
for compartmental models of disease transmission,Math.Biosci. 180 (2002) 29-48
θ2
ステージ構造をもつ被食者捕食者モデルにおける安定性スイッチ
静岡大学工学部システム工学科 竹内研究室所属 堤 大輔
1
と、U ( kd22βr ) = −d2 k1 mr2 < 0 であるから U (y1 ) = 0 を
概要
古典的な生態系モデル (ロジスティックモデルやロトカ
満たす解 y1∗ は常に x∗ の存在条件を満たす、つまり内部
ボルテラモデル) は年齢や空間構造を無視している。し
平衡点は常に存在する。
かし、生態系において個体の生死に関わる率 (生存、成
2.3
長、及び再生産の率) は、年齢、サイズ、または成長段
内部平衡点 (x∗ , y1∗, y2∗) の安定性
(2) の内部平衡点におけるヤコビアンは以下。


0
0 −βx∗

 ∂y ∂y ∂y1
J =  ∂x1 ∂y11

∂y2
階に依存する。本研究では、成長段階に着目し、基本的
な被食者捕食者モデルにおいて、捕食者に大人と子供と
∂y2
∂x
2
いう2つの成長段階を設けて、その安定性スイッチを考
∂y2
∂y1
∂y2
∂y2
察していく。但し被食者を捕食するのは大人の捕食者だ
特性方程式 λ3 + a1 λ + a2 λ + a3 = 0 用いて、ラウス
け、子供の捕食者は大人の捕食者から栄養を分け与えら
フルビッツの安定性判別で安定性をみていく。a1 , a3 を
れ成長するという動物によく見られる構造を仮定する。
詳しく計算すると、a1 > 0、a3 > 0 になる。つまり、内
2
部平衡点の安定性は H := a1 a2 − a3 の符号による。しか
モデル
x は被食者の密度、y1 は子供の捕食者の密度、y2 は大
人の捕食者の密度とした。ここで総人口サイズ P として、
P (t) = wy1 (t) + y2 (t)
(w:大人の捕食者と子供の捕食者の相対消費比)
とする。大人の捕食者による被食者の減少を βxy2 とす
る。従って単位子供あたりの資源消費は SI = βxy2 w/P
となる。子供は SI を用いて子供段階から大人段階へ推
移する、その推移率を T (SI ) とする。また大人の捕食者
の消費する資源は SM = βxy2 y2 /P となり、SM は再生
産 B(SM ) に用いられる。B(SM ) = k1 SM とする。以上
から本研究で用いるモデルを以下のように示せる。


 x = xg(x) − βxy2 ,


y1
=
y2
=
k1 βxy2 wyy1 2+y2 − d1 y1 − T (SI )y1 ,
T (SI )y1 − d2 y2
T (SI ) がミカエリスメンテン型に沿うとき
I
T (SI ) = k2 SIS+m
として (k2 :比例定数)、(1) 式は以下
のようになる。

 x = rx − βxy2 ,

2.2
y1
y2
=
=
I
k1 SM − d1 y1 − k2 SIS+m
y1 ,
SI
k2 SI +m y1 − d2 y2
(2)
内部平衡点 (x∗, y1∗, y2∗) の存在条件
を得る。x∗ > 0 であるから、x∗ の存在条件として y1∗
d2 r
k2 β
せると以下の結果を得た。(β = 6, w = 0.5, k1 = 8, k2 =
1, d1 = 1, m = 1, r = 2)
d2 < 1.55 のとき漸近安定。
1.55 < d2 のとき不安定。
次に、k2 以外のパラメーターを固定して、k2 を変化さ
せると以下の結果を得た。(β = 6, w = 0.5, k1 = 1, d1 =
0.3, d2 = 1, m = 1, r = 2)
0
< k2 < 0.35 のとき周期解。
0.35 < k2 < 1.55 のとき漸近安定。
1.55 < k2 のとき周期解。
さらに、w 以外のパラメーターを固定して、w を変化さ
1, d2 = 10, m = 1, r = 2)
0
< w < 0.55 のとき漸近安定。
0.55 < w のとき周期解。
3
考察
推移率がミカエリスメンテン型で与えられる場合、解
が周期解や内部平衡点に漸近する場合を見ることができ
た。つまり、被食者と捕食者の共存は推移率がミカエリ
(2) の内部平衡点の存在条件を調べる。y2∗ は (2) の第
1 式より x∗ = 0 だから y2∗ = βr となる。(2) の第 3 式に
y2∗ = βr を代入し、x∗ について解くと、
d2 m(βwy1∗ + r)
x∗ =
βw(k2 βy1∗ − d2 r)
>
シミュレーション
まず、d2 以外のパラメーターを固定して、d2 を変化さ
せると以下の結果を得た。(β = 6, k1 = 2.5, k2 = 1, d1 =
g(x):単位被食者あたりの出生率。d1 :子供の単位捕食者
あたりの死亡率。d2 :大人の単位捕食者あたりの死亡率。


2.4
(1)
(但し、T (0) = 0 で T (SI ) は SI の増加関数とする。)
2.1
し、a1 a2 − a3 の正負を解析的に調べるのは困難である。
が求められる。さらに、求めた x∗ , y2∗ を (2) の第
2 式に代入して、y1∗ が満たすべき方程式として、
U (y1 ) = d1 k2 β 2 wy12 + d2 rβw(k2 − d1 )y1
−d2 r 2 (k1 m + d2 w) = 0
を得る。U (0) < 0 であるから U (y1 ) = 0 は正と負の解
を持つ。ここで x∗ の存在条件を U (y1 ) に適応してみる
スメンテン型であっても可能だと言える。論文 [1] の推移
率が指数増殖型に沿うときと比べ、推移率がミカエリス
メンテン型であるときとの相違点は、d2 以外を固定して
d2 を動かしたときの安定性スイッチの個数が 2 つから 1
つに、k2 以外を固定して k2 動かしたときとの安定性ス
イッチの個数が 3 つから 2 つになった点。さらに w を動
かして安定性スイッチが見られたのも特徴である。今後
の課題としてはこれらの現象をシミュレーションではな
く数学的に解析していき、パラメータ上の数値の範囲で
はなく一般的な安定性スイッチの起こりうる条件を確認
することである。
参考文献
[1] Wendi Wang and Yasuhiro Takeuchi and Yasuhisa Saito
and Shinji Nakaoka,Prey-predator System with Parental
Care for Predator J.Theoret.Biol.in press.
卒業論文:
非線形利得関数を持つ公共財モデルの解析
静岡大学工学部システム工学科
1.序論
ゲーム理論は 1944 年に数学者フォン・ノイマンと経済学
者モルゲンシュテルンによって提唱されて以来、長く研究さ
れてきた。利己的な行動が有利な状況において協力行動
がどのように生じるかということはゲーム理論における大き
なテーマである。2004 年に、デュベリらが戦略の個数が無
限にあり、非線形利得関数を持つ公共財モデルを用いて、
戦略としての協力行動が進化していく過程を報告した。し
かし、彼らは進化の過程を 5 つの系統に分類しているが、
その境界については正確な解析は行っていない。本論文
では、彼らの公共財モデルを詳細に検討し、強い初期依存
を示すパラメータ領域が存在することを示した。
2.モデル
各個人の戦略は 0 と上限 xmax = 1 の間の実数で表すこと
にする。これは公共財などに対して行う協力的な投資の量
を表している。突然変異戦略 y と対戦する戦略 x の利得は、
P ( x, y ) = B ( x + y ) − C ( x) と定義され、 B ( x + y ) とは戦
略 x が x, y の合計した投資量から還元される利益を表して
おり、 C ( x ) とは戦略 x をとることで生じるコストを表している。
ここでは、利益関数 B ( x ) とコスト関数 C ( x ) をそれぞれ、
B ( x ) = b1 x + b2 x 2 , C ( x) = c1 x + c2 x 2 とする。
戦略 x の進化を分析する。全ての個人が同じ戦略 x を
採 用 す る集団 の 中 での突 然 変異 戦略 y の成 長率は 、
fx ( y) = P( y, x) − P(x, x) = B(x + y) − C( y) −[B(2x) − C(x)] で
ある。単一集団の戦略 x がどのように進化するかは、淘汰
勾配 D ( x ) = ∂f x / ∂y y = x = B′(2 x ) − C ′( x ) により決定され、
単一型の集団が持続される場合、 x の時間変化は
x& = D ( x ) に従い、この方程式を適応 dynamics と呼ぶ。特
∗
∗
∗
∗
異点 x は D ( x ) = B′(2 x ) − C ′( x ) = 0 の解である。
3.シミュレーション結果
戦略 x の進化の過程は 5 つの系統に分類することができ
る。まずはそれぞれの分類について実際にシミュレーション
を行った。5 つの分類は次のようになる。
∗
(ⅰ) 特異点 x が存在せず、戦略 x が単調に減少する
∗
(ⅱ) 特異点 x が存在せず、戦略 x が単調に増加する
∗
(ⅲ) 特異点 x がアトラクターであり、進化的分岐となる
∗
(ⅳ) 特異点 x がアトラクターであり、ESS となる
∗
(ⅴ) 特異点 x がリペラーとなる
∗
特異点 x が存在しない(ⅰ)、(ⅱ)の分類では、戦略 x の
集団は淘汰勾配 D ( x ) に従って時間の経過とともに単調に
∗
変化する結果が得られた。特異点 x が存在する(ⅲ)、(ⅳ)、
∗
∗
(ⅴ)の分類では、 dD / dx x = x = 2 B′′(2 x ) − C ′′( x ) < 0 な
らばアトラクターとなり、不等式が逆ならばリペラーとなる。
∗
∗
特異点 x がアトラクターであるなら、集団は特異点 x に向
かって収束し、その後、2 通りの結果に分かれることになる。
∂ 2 f x / ∂y 2
= B′′(2 x∗ ) − C ′′( x∗ ) > 0 なら(ⅲ)の分類と
y= x ∗
なり、特異点 x は突然変異戦略に侵入され、集団は進化
的分岐を経験し、2 つの形質の異なる集団へと分離される
結果が得られた。不等式が逆ならば、(ⅳ)の分類となり、特
∗
異点 x は進化的に安定した戦略(ESS)となり、集団は突然
∗
変異戦略の侵入を許さず、特異点 x 上に収束し続ける結
∗
果が得られた。特異点 x がリペラーとなる(ⅴ)の分類では、
∗
集団は特異点 x から遠ざかっていき、この際、初期値によ
って 2 通りの結果が得られた。
∗
∗
∗
福嶋洋紀
ここで、リペラーとなる条件でシミュレーションを行う際に
∗
初期値を特異点 x に近づけると進化的分岐がおきるという
結果を得た。これより、デュベリらの論文では述べられてい
ない結果が他にもあるはずであると考え、解析を行った。
4.安定性解析
シミュレーション結果では十分な時間が経った後、進化
的に安定した戦略(ESS)の場合を除き、戦略 x の集団は、
x = 0 か x = 1 、または x = 0 と x = 1 の混合状態のいずれ
かに行き着いた。それぞれの状態で集団が安定であるかど
うか解析する。解析方法としては、集団の中に突然変異に
よって出現した新たな戦略の成長率を考える。新たな戦略
の成長率を戦略の変数で微分したものが、 x = 0 において
負ならば安定となり、 x = 1 においては正ならば安定となる。
x = 0 と x = 1 の混合状態においては、 x = 0 と x = 1 がど
れくらいの割合で存在しているかを考え、その後に x = 0 と
x = 1 の状態での安定性を考える。これより、それぞれの状
態で安定な条件を求めることができる。
5.解析結果
これまでに得た、戦略 x の進化の過程を 5 つの系統に分
類する条件、 x = 0 か x = 1 が安定性を持つ条件、または
x = 0 と x = 1 の混合状態で安定性を持つ条件から相図を
作成する。なお、デュベリらの論文では b2 < 0 となっていた
のだが b2 > 0 の場合も考え、相図は 2 通りを示す。この相
図によって系の振舞を予想することができる。
−2c2 + 4b2 b2 c1 − b1
−c2 + b2
c − b1
−2c2 + 4b2 1
b2
−c2 + 3b2
−c2 + 3b2
0 c2
−c2 + b2
0
図 1: b2 < 0 の場合
c2
図 2: b2 > 0 の場合
6.考察
b2 < 0 の場合には、特異点 x∗ に戦略 x の初期値を近
づけた状態でシミュレーションを行うと、デュベリらの論文で
はリペラーとなると述べられているパラメータで進化的分岐
が見られる場合があった。これはリペラーの条件と、 x = 0
が安定、 x = 1 が安定、 x = 0 と x = 1 が混合状態で安定と
いう条件が重なっている領域に対応する。この領域は他の
領域よりも初期値依存性が強いといえる。一方、 b2 > 0 の
∗
場合には、初期値をいくら特異点 x に近づけたところで、
どの領域でも進化的分岐はおきなかった。 b2 < 0 の場合
は利益関数が逓減していくので、集団は x = 0 と x = 1 が混
合状態で安定できるが、 b2 > 0 の場合には利益関数が逓
増するので、集団は混合状態で安定とならないのである。
パラメータが同じでも初期値によって系の振舞が変化す
る領域が存在したが、これは社会においても、環境が同じ
であっても歴史的経緯の違いにより、人の協力行動がどの
ように生じるかは異なるのではないかと考えられる。
参考文献
Michael Doebeli et al., “ The Evolutionary Origin of
Cooperators and Defectors” Science 306, 859(2004).
死亡率の高い伝染病の侵入と伝播
静岡大学工学部システム工学科
1
はじめに
人間の伝染病は人口密度や伝染病の種類によっても異
なってくる。もし、死亡率や感染率が高い病気が侵入で
きるのできる条件を考察する。
2
SHIモデル
2.1 SHIモデル
dS


のとき正の平衡点を持つ。
(4) の S ∗ ,H ∗,I ∗ において、ヤコビアン行列を求めて
3 次の固有方程式 λ3 + a1 λ2 + a2 λ + a3 = 0 とおくと、
安定条件は a1 > 0 かつ a3 > 0 かつ a1 · a2 − a3 > 0 を満
たさなければいけない。ここで、
a3
= aS −
− (b + µN )S
βSI
(1)
= N − σH − (b + µN )H


= σH − (b + bI + µN )I
各々のパラメータは次の通りである。S(t):未感染個
体,H(t):保菌個体,I(t):感染個体,a:出生率,β:感染率,σ:発
病率,b:自然死亡率,bI :発病による死亡率の増加分,µ:種内
dt
dH
dt
dI
dt
竹内研究室所属 山田 洋輔
βSI
N
競争係数,N = S + H + I とする。また、bI が非常に高い
ので回復個体については考えないものとし S,H,I の単位
は単位面積あたりの個体数で密度効果による死亡率 µN
が加わっている。そして、(1) において子供を産むのは
=
1
(a
a3 β
∗
− β + bI ) {σβ − (a + σ)bI )} · A · B
となり、I > 0 となる(5) の条件のもとでは
(a − β + bI )
{σβ − (a + σ)bI )}
A = a2 + aσ − σβ + (a + σ)bI
>
B = {σβ − a(b + σ) − (a + σ)bI } >
3
2.2
( a−b
,0,0)
µ
(5) をみたすようなパラメータにおいて解の漸近挙動
は以下のように分類することが出来る。
0
−(a − b) − β
−(a + σ)
σ
β
−(a + bI )


(3)
(2)
R>1
R<1
2.3
< 0
(3)
( a−b
µ ,0,0) は不安定
( a−b
,0,0)
µ
( a−b
,0,0) 以外の平衡点
µ
のようになる。
I
=
=
H∗
S∗
=
=
∗
=
N
となり、
(S , H ∗, I ∗ ) のまま
(S ∗ , H0 , I ∗ ) ※ (H0 < H ∗ )
(S ∗ , H ∗, I0 ) ※ (I0 < I ∗ )
(K, 0, 0) に収束
※ K = a−b
µ
(S0 , H ∗, I ∗ ) ※ (S0 < S ∗ )
(S ∗ , H0 , I ∗ ) ※ (H0 > H ∗ )
(0, 0, 0) に収束
(S ∗ , H ∗, I0 ) ※ (I0 > I ∗ )
以上の結果を (1) で病気の感染を
βSI
N
ではなく、βSI
と,以下のようになる。
モデル (1):
(
K, , が存在し、安定
0 0)
{(a+σ)(a+bI )−σβ}{σβ−(a+σ)(a+bI )+a(a−b)}
µa2 β
{(a+σ)(a+bI )}2
a(a−b)
]
(1
−
R)[R − 1 − (a+σ)(a+b
µa2 β
I)
β−a−bI ∗
I
a
(β−a−bI ){σβ−(a+σ)bI }{σβ−(a+σ)(a+bI )+a(a−b)}
µa3 β
σβ−(a+σ)(a+bI )+a(a−b)
µa
a(a−b)
(5)
1 − (a+σ)(a+bI ) < R < 1
(
K, , が存在するが不安定
0 0)
正の平衡点あるが不安定
0
A
R
1
※ A=1−
a(a−b)
(a+σ)(a+bI )
モデル (0):
は安定
正の平衡点 (S ∗ ,H ∗,I ∗ ) についても調べてみると以下
∗
∗
(S , H , I )
くとも1つ固有値の実数部が正の値をとればいいので
> 1
∗
と仮定したモデル (モデル (0) と呼ぶ) の結果と比較する
左下の成分が 0 なので、(2) の固有値は、−(a − b) と、
λ2 + (2a + σ + bI )λ + (a + σ)(a + bI ) − σβ = 0
を 満 た す
λ で 与 え ら れ る 。平 衡 点 a−b
∗
∗ ∗
(S , H , I )=( µ ,0,0) が 不 安 定 に な る に は 少 な
(a + σ)(a + bI ) − σβ
σβ
⇔R≡
(a + σ)(a + bI )
であれば良い。つまり、
∗
(S0 , H ∗, I ∗ ) ※ (S0 > S ∗ )
(2)

∗
(1)
ここで平衡点のひとつである、点 ( a−b
µ ,0,0) における
−(a − b)
行き先
(S0 , H0, I0 )
の安定条件
ヤコビアン行列は

−(a − b)

J=
0
0
0
結果と考察
る際全個体 N で割ることにより、感染率が感染者の全人
口に占める割合に比例していると仮定している。
0
0
となるので、不安定となる。
未感染個体だけと仮定する。また、その生まれた子供は
必ず最初は未感染個体とする。そして、S が H に変化す
<
>
(
K, , が存在し、安定
正の平衡点が存在し,安定
0 0)
0
1
K
R
この図から,モデル (0) では、( a−b
, 0, 0) が不安定とな
µ
る条件で正の平衡状態が存在し安定であるのに対し,モ
デル (1) では、( a−b
µ , 0, 0) が安定なときの一部分でしか
(4)正の平衡点が存在せず、しかもその平衡点は不安定であ
ることが分かった。
参考文献 侵入と伝播の数理生態学{重定 南奈子}第 9 章
卒業論文
遺伝的荷重に対する有限集団サイズ効果
サイズ効果が無視できる条件
名古屋大学理学部生命理学科 生体システム論講座
細胞・理論生物学 千田 沙也加
木村資生は分子進化の中立説 (1968) で、中立変異の有限サイズ効果による機会的浮動が分子
進化の核心だと論じ、その理論的根拠として、選択説を仮定すると遺伝的荷重が過大になるが、
中立説を仮定するとその困難は生じないことを挙げた。その際に行われた数理的解析にはいく
つか問題があり、その主張をそのまま認めることはできない。しかし遺伝的荷重が過大になる
か否かは、ある集団遺伝学的機構が現実的であるか否かを判定する際の重要な基準のひとつで
あることに間違いはない。
選択を仮定したモデルの数理的解析は、選択が加わることで非線形となり、一般に格段に難
しくなる。しかし、この場合でも、サイズ効果が無視できるときには、モデルの解析をかなり
一般的に行うことが可能になる場合がある。このような観点から、定常進化特性に対するサイ
ズ効果の大小に関する特徴を検討し、それが無視できるための一般的条件を明らかにすること
は重要である。本研究では、定常進化の特性量の一つである遺伝的荷重に対してサイズ効果が
無視できる条件について調べることを目的とした。
本研究を行うにあたり、一定選択環境を仮定した 2 アレルモデルを用いて調べた。この場合に
は、遺伝子頻度の定常分布が解析的に与えられるので、遺伝的荷重に対するサイズ効果の詳細
を比較的容易に調べることができる。着目アレルの他アレルに対する選択有利度を s(> 0)、ア
レル間の変異率を µ、集団サイズを N とすると、着目アレルの頻度 x の定常分布は、拡散過程
モデルによって解析的に求められ、分布密度 φ(x) は φ(x) ∝ (x(1 − x))2µ̂−1 e2ŝx (0 < x < 1) と
なる。ここで µ̂ = N µ, ŝ = N s は 1/N でスケールされた変異率と選択有利度である。遺伝的荷
重 L は L = s(1 − x) であるから、s でスケールされた遺伝的荷重 L? は L? = 1 − x となる。φ(x)
から平均頻度 hxi を計算すると、有限集団の s でスケールされた定常荷重 hLi? は hLi? = 1 − hxi
となり、無限大集団の s でスケールされた定常荷重 L?1 は平衡頻度 x1 を用いて L?1 = 1 − x1
となる。遺伝的荷重 L に対するサイズ効果は、サイズ効果指数 δ として、δ = hLi? /L?1 − 1 を
用いて定量的に検討した。
有限集団の s でスケールされた定常荷重 hLi? は、µ̂ と ŝ だけで値が決まり、無限大集団の s
でスケールされた定常荷重 L?1 は µ̂ と ŝ の比で値が決まる。したがって有限サイズ効果指数 δ
も µ̂ と ŝ だけで値が決まる。
本研究で得られた結果は、サイズ効果が無視できるパラメータ領域は、N s ¿ 1、あるいは
N µ ¿ 1 の領域であった。つまり、N s, N µ の両方が十分に大きい必要はないといえる。
hLi? の等高線図では、等高線の傾きが 45◦ の直線になる領域と、傾き 0◦ の直線になる領域に
大別された。N µ < N s の領域のうち、45◦ 領域では Haldane-Muller 則 hLi ≒ µ が成り立ち、サ
イズ効果が無視できる。0◦ 領域ではサイズ効果が重要になる。hLi? はサイズ N が小さくなる
につれて増え (サイズ荷重)、N s ø 1 で、hLi? ≒ 0.5 すなわち hLi ≒ 0.5s となる。この新結果
によると、中立変異のときにも荷重が座位あたり 0.5s だけあることになり、座位数が大きくな
ると無視できなくなる。
しかしながら本研究で得られたサイズ効果が無視できる条件の一般性には、より詳細な検討
が必要である。
さらに、定常進化の重要な特性量であるヘテロ接合度 H や進化速度 υ などに対するサイズ効
果も興味ある課題である。
卒業論文
性反転遺伝子による階層的種分化のモデル
奈良女子大学 理学部 情報科学科 高田恵子
ビクトリア湖に生息するシクリッドの進化の速さには目を見張るものがある。わずか一万二四百年で数百種にま
で及んだ爆発的な種分化には、性選択が主要な役割を果たしていると考えられている。
シクリッドの一種、Neochromis omnicaeruleus において、オスが XY 、メスが XX というオスへテロ型の性決
定はヒトと同じであるが、X 染色体上に性反転遺伝子 (W とする) をもつオスは、Y 染色体を持ちながらメスに転
じる。さらに、常染色体上にはこの性反転遺伝子を抑える抑制遺伝子 (M とする) が存在し、これをホモに持つオ
スはたとえ性反転遺伝子をもっていてもメスにはならない。また、性反転遺伝子の他の特徴として、体色との関わ
りが深いことが知られている。
Lande はこの現象に対し、以下のような同所的種分化のモデルを作った。はじめに、XX(XY ) が全体を占め、
W X(W Y )、W の働きを抑える抑制遺伝子 Mw が少割合存在するような個体群を考える。そこに新しい体色を発現
させる W の突然変異による遺伝子 W 0 を導入することを考える。好みは常染色体上の新しい色を好む遺伝子 C1 、
そうでない遺伝子 c1 によって決定する。、やがて XX(XY ) の割合は減少し、W W (W Y )、W 0 W 0 (W 0 Y ) の異な
る体色の好みを示す二つの個体群が分離し、種分化が生じる。
このような種分化が繰り返し生じ、種が増えていくことが可能か考える。
まず、Lande のモデルに生態的形質 x を導入する。形質の違いによって資源などを巡る競争が起こることを表現
するようにモデルを組み立てていく。形質が近いほど、激しい競争が起こると考える。
Lande のモデルにおいて、W W 、W 0 W 0 の共存が成った頃、この二つの個体群は形質においても分化が生じた。
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trait
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time
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time
2970.0
time
W 0W 0
WW
最初の種分化が落ち着いた頃、片側の個体群(ここでは W W )に少割合の新しい性反転遺伝子 (Z) をもつ W Z 、
それを抑える抑制遺伝子 Mz を導入し、同様に新しい体色を示す突然変異遺伝子 Z 0 が侵入することを考える。こ
の新しい体色に体する好みを決定する遺伝子 C2 を考える。
Z を導入しなかった W 0 W 0 側の形質の変化も進み、導入した W W 側は W W の割合は減少し、新たな遺伝子に
よる ZZ 、Z 0 Z 0 の二つの遺伝子型の間で形質が分化した。
trait
trait
trait
trait
10.0
10.0
10.0
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WW
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W 0W 0
0.0
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6990.0
time
ZZ
0.0
3000.0
6990.0
time
Z0 Z0
Lande の性反転遺伝子による同所的種分化のモデルに、生態的形質とその間の競争および二回目の性反転遺伝子
の導入によって、一種から三種までの種分化が達成された。このように性反転遺伝子による種分化が繰り返し生じ
ることで、数百種という種分化に至ることが可能であると思われる。
平成 17 年度卒業論文
シアノバクテリアにおけるタンパク質のリン酸化サイクルによる概日周期モデル
広島大学理学部数学科 胡子 和実
シアノバクテリアは、今日までに概日周期の存在が知られているもっとも原始的な生物である。シアノバ
クテリアに限らず概日周期を持つ生物においては、概日周期は時計遺伝子と時計タンパク質の転写・翻訳に
よるネガティブ・フィードバックループをコアなサイクルとして持つことによって起こっていると思われて
きた。しかしながら、最近、シアノバクテリアの時計タンパク質の一つである KaiC のリン酸化・脱リン酸
化サイクルが約 24 時間の周期を保ち、さらに概日周期の特徴も持つことが報告されたため、これがシアノバ
クテリアのコアサイクルになっているのではないかと考えられるようになってきた。本論文では、シアノバ
クテリアの3つの時計タンパク質 (KaiA, KaiB, KaiC) のみからなるモデルを構成し、概日周期にとって重
要な性質が再現されることをシミュレーションを行い、確かめた。
KaiC タンパク質が持つ 12 個のリン酸化サイト全てが使用されているかどうかについて、実験的に直接確
かめた報告がこれまでのところ、なされていないため、最大リン酸化サイト数を 2∼12 個まで適当に変化さ
せてシミュレーションを行った。また、我々は、KaiA によるリン酸化活性効果のみならず、KaiB のリン酸
化抑制効果も重要であると考え、これらをそれぞれ、ミハエリス・メンテン型、及び、ヒル型で考慮したモ
デルを作り、シミュレーション行った。
ある生物実験の論文によると、KaiC のリン酸化度の最大値は
KaiC 単独 < KaiA + KaiB + KaiC < KaiA + KaiC
の順になっていることが示されており、KaiA + KaiC のときに比べ、KaiA + KaiB + KaiC のリン酸化度の
最大値は約半分に抑えられている。我々のモデルでも、パラメータを変化させることで KaiC の最大リン酸
化度をコントロールでき、実際の生物実験の結果に近いシミュレーション結果が得られた。
図 1: 12 サイト
図 2: 6 サイト
また、我々のモデルにおいて、他のパラメータを固定して最大リン酸化サイト数を減少させていくと、振
動が起こらなくなった。(図 1、2 参照)このことから、KaiC が 6 量体を構成し、リン酸化サイトを 12 サイ
トと豊富に持つことが、リン酸化サイクルをある程度安定化させる作用があるのではないかと思われる。つ
まり、これらの要素がリン酸化・脱リン酸化サイクルにある程度の「溜め」を持たせることに寄与しており、
シアノバクテリアの概日周期を安定に起こさせしめてると考えられた。その結果、シアノバクテリアの概日
周期の温度補償性に貢献している可能性もあると考え、理論的な研究を継続中である。
本研究を遂行するにあたって、日頃御指導していただいた、指導教官である大西勇先生、また、有益な討
論やご助言をしていただいた、柴田達夫先生に深く感謝いたします。
卒業論文要旨
スナガニ科チゴガニ Ilyoplax pusillus におけるウェービングによる群波形成に関する
数理モデル研究
A Mathematical Model for a Group Wave Emergence with Waving Behavior of Ocypodid Crab Ilyoplax pusillus
蔦村 昂
広島大学理学部数学科
Koh TSUTAMURA
Department of Mathematics, Faculty of Science,
Hiroshima University, Kagamiyama 1-3-1, Higashi-hiroshima 739-8526 JAPAN
スナガニ科のチゴガニ Ilyoplax pusillus の雄は繁殖期になると waving を行う.その意味は他の雄に対す
る威嚇と雌に対する求愛と考えられている.waving には個体間で相互作用があり,空間の個体分布による
waving のうねりパターン(群波)が観察される.このうねりのパターンが生じる原因,メカニズムについ
ては何もわかっていない.本研究では cellular automaton を用いた数理モデルの解析により,そのメカニ
ズムに関する理論的な示唆を得ようとした.
個体を 2 次元正方格子空間の各格子点に均一に配置する.初期条件として,個体の「向き」,および,は
さみ脚の状態(上げているか下げているか)をランダムに与える.個体の移動はなく,格子空間の境界上に
個体はいないものとする.各個体の「向き」に依存して,Moore 型近傍に位置する近接個体から実効近隣
個体 1 個体を定める.従前の実験研究によって示された結果に従い,実効近隣個体が waving においてはさ
み脚を上げている状態ならば,同時的に自らのはさみ脚を上げようとする傾向,すなわち,waving が同調
する傾向があると仮定する.実効近隣個体がいない状態では,waving は規則正しい時間周期的な運動であ
る.さらに,各個体は頻繁に「砂食い」を行い,砂食い活動中は waving を行わないとする.
数理モデルの数値計算の結果,砂食いを全く行わない場合,または,砂食いを行うことがあっても「向
き」を各時間ステップにおいてランダムに変える場合にはうねりのパターンは生成されない.砂食いを行
い,かつ,個体の「向き」の分布にある程度の偏りがある場合に,waving によるうねりパターンが生成さ
れる.この結果から,うねりには砂食いによる waving 相互作用の欠損と個体「向き」の偏りが必要なので
はないかという示唆が得られた.
Ocypodid crab Ilyoplax pusillus inhabits intertidal sandy-mud flats along the coast. Their activity
is most observable from the end of May to the early period of July in the breeding season. Males
show their chelipeds’ “waving” behavior in the breeding season. Waving is regarded as an aggressive
display against other males and an attractive display against females. Ilyoplax pusillus has been
known from its globally quasi-synchronous waving pattern, that is, a spatial group wave emerged
by an interaction between wavings of different males in space. As for such a group wave of Ilyoplax
pusillus, no study has yet been conducted. In the present study, we try to get some theoretical
insights about the mechanism of group wave’s emergence, making use of a mathematical model with
cellular automaton.
In our model, each individual is located on the lattice point in the 2-dimensional square lattice
space. In the initial condition, we randomly give a “direction” and a state of waving to each individual: the chelipeds are raised or not. Each individual does not move. No individual exists at
the boundary of the lattice space. One effective neighbor individual is chosen from individuals in
the Moore type neighborhood, depending on the “direction” of each individual. When the effective
neighbor’s chelipeds are raised, the individual tends to synchronize its own waving, going to raise its
own chelipeds simultaneously. With no effective neighbor, the waving is a periodic oscillation. Each
individual has the “scooping” behavior frequently, too. It is assumed that the individual does not
perform the waving during scooping.
By the result of numerical calculations of our model, if any individual never performs the scooping
or if each individual can perform the scooping and change its “direction” at random at each time
step, the group wave does not emerge. Only when each individual can perform scooping with a biased
distribution of the “direction”, the group wave emerges. From our result, we give a conjecture that
some breaks of the interaction of waving due to scooping with a biased “direction” of individuals
would be necessary for the group wave emergence in case of Ilyoplax pusillus.
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卒業論文
脊椎動物の肢芽における AER−ZPA 間での相互作用
平島 剛志
e-mail: [email protected]
九州大学理学部生物学科数理生物学研究室
脊椎動物の肢芽の伸張過程において、外胚葉性頂堤(AER)で発現する Fgf 遺
伝子は、極性化活性域(ZPA)と呼ばれる肢芽後方域から分泌される拡散性の SHH
によってその発現が維持されること知られている。また逆に、ZPA における Shh
遺伝子発現の持続には、Fgf 遺伝子産物の拡散性物質である FGF が必要である。
つまり、Shh 遺伝子と Fgf 遺伝子は互いに発現を維持し合い、正のフィードバ
ックループを形成すると考えられている。しかし一方で、ZPA 活性は AER と
隣接せず、適度に離れた肢芽後方域に存在するが、この事実はポジティブフィ
ードバックのみでは説明できない。
本研究ではまず、間充織細胞内において、FGF シグナルによって活性化され
る Shh 発現抑制経路を付加することで、AER から適度に離れた距離に局所的な
Shh 遺伝子発現領域、すなわち ZPA が形成可能であることを示した。次に、AER
−ZPA 間距離や Fgf、Shh 遺伝子の発現量と各反応パラメータの間の依存関係
を詳細に解析した。その結果、局所的な ZPA 活性は AER からの一方向性の制
御によっても形成可能であるが、AER−ZPA 間のフィードバックがあることに
より、両者間の距離が各反応パラメータの変化に対してよりロバストになるこ
とを明らかにした。
AER と ZPA は四肢形成過程における重要なモルフォゲン源であり、両者の
位置関係を正確に保持することは、四肢を正常に形成する上で不可欠なプロセ
スであると考えられる。パラメータ変化に対してロバストであることは、変異
によって諸反応間のバランスが崩れたとしても両者の位置関係が正常に保たれ
るという、非常に重要な意味を持つと考えられる。
視覚カテゴリータスクの神経メカニズムを解明する
神経ネットワークモデル
一ノ瀬
電気通信大学大学院
裕
情報システム学研究科
情報ネットワーク学専攻
視覚による情景認識は、高等生物にとって外界を認識するために最も重要なものである。我々
は、日常、様々な視覚情景に接するが、いかに複雑な情景であっても、それらの大量の情報を、
正確に、またすばやく認識につなげることができる。このような視覚系のすぐれた認識能力の神
経機構を探るため、これまで、視覚系に対して、生理学的、解剖学的、心理学的、また、理論的
な研究が多くなされてきた。それによって、視覚情報処理に関わる脳の各部位の神経応答に対し
て様々な性質が明らかにされてきた。
このような視覚認識における重要な問題として、視覚カテゴリー化の問題がある。視覚カテゴ
リー化とは、視覚物体の特徴に注目し、それらの間に共通性を見出し、その共通性に基づいて視
覚物体を分類することである。このカテゴリー化によって、我々は外界を構造化されたカテゴリ
ーに分類することができ、この能力は、我々が複雑な視覚情景を効果的に認識する基本となって
いる。視覚系の脳部位の解剖学的、生理学的知見は、これまで多く得られてきたが、視覚認識に
とって重要なカテゴリー化の神経機構については、まだ、ほとんど明らかになっていない。
最近、いくつかの実験が、視覚カテゴリー化の神経機構を明らかにするために行われている。
Freedman らは、サルに対してコンピュータ上で作成した犬と猫を任意の割合で混合した図形を
見せ、それらが犬か猫かの判断を行わせるタスクを訓練した。彼らは、タスク遂行中のサルの前
頭前野(Prefrontal cortex; PFC)の活動を調べ、この部位のニューロンがカテゴリータスクに
大きく寄与していることを報告した。また、Sigala とLogothetisは、いくつかの特徴的なパラ
メータによってつくられる顔や魚の図形をサルに提示し、それらのパラメータの一部に強く依存
するようなタスクを訓練させた。彼らは、タスク遂行中のサルの下側頭葉(Inferior Temporal
Cortex; IT)のニューロンの応答を調べ、これらのニューロンが、タスク達成に必要な図形のパ
ラメータに対して選択的に応答することを報告した。これらの実験は、タスク依存性の視覚カテ
ゴリー化においては、PFCやITが大きく寄与していることを示しているが、PFCやITにおいてどの
ような情報が処理され、また、これらの相互作用がカテゴリー化にどのように寄与しているのか
については、まだ明らかにはなっていない。
本研究では、この問題を考えるため、視覚システムの機能的モデルを提案し、Sigala と
Logothetisが行った顔図形のカテゴリー化タスクに対して視覚系のニューラルネットワークモ
デルを作成しシミュレーションすることで、ITやPFCとそれらの相互作用の機能的役割を明確に
した。視覚図形は、視覚系の初期段階において、いくつかの異なる空間解像度マップによって処
理される。その中で、中程度の解像度マップがカテゴリー化タスクに必要な視覚図形のおおまか
な特徴を抽出する。ITでは、このような特徴に反応する細胞が形成され、それらの特徴に基づい
た類似性(Similarity) によって視覚図形を分類する。また、PFCでは、ITから視覚図形の部分的
な形と配置の情報を統合し、タスクに重要な情報のみが、過渡的に、Working memory として保
持される。PFCとITは相互に結合し、特に、PFCからITへのフィードバック信号によってタスクに
重要な特徴をコードしているITのニューロンはその応答選択性を高める。
本研究で提案するモデルは、カテゴリータスクにおけるPFCやITに関する実験的知見に矛盾す
ることのないものであり、視覚カテゴリー化タスクを達成するための神経機構の1つとして考え
られるものである。
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1
(Interaural Time Difference: ITD)
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ILD
[1]
1: ICc ls
ICc ls
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2: ICc ls
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(VLVp)
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2
1
core
ICc ls
ITD
ICc
VLVp
ILD
ILD
VLVp
ITD
ICc core
ICc ls
[1] Pena, J.L., and Konishi, M., (2001), Auditory
spatial receptive field created by multiplication, Science, 292, pp249-252.
ILD
VLVp
1
修士論文題目
Mathematical Analysis of Deterministic Models for
Rumor Transmission
(流言伝播の決定論モデルの数理解析)
氏名
河内
一樹
所属
東京大学大学院
数理科学研究科
論文の要旨
本論文では,流言の伝播に対する決定論的数理モデルについて考察する.
前半では,年齢に無関係に流言が伝播する場合を考え,人口の一定の流出入や,流言の変容の有
無を考慮して 4 通りのモデルを提示する.いずれのモデルにおいても,有限次元の常微分方程式系
として定式化し,解が平衡点に収束することを示す.この結果は,最終的には流言の広め役が完全
にいなくなるか,あるいは流言が人口に定着して突発的な流行が起きなくなる,いわば伝説化する
ことを意味する.
後半では,年齢構造を持つ人口の中で,伝播係数が年齢に依存して伝播される場合を考える.こ
の場合は無限次元 Banach 空間上の抽象的 Cauchy 問題として定式化し,mild solution が一意に存
在することを示す.そして,非自明定常解の存在,および自明定常解の安定性が,ある正値作用素
T̃ のスペクトル半径 r(T̃ ) が閾値となって,1 との大小関係により決定されることを示す.非自明
定常解は,流言が伝説化して人口に定着し,一定の割合の人が常に流言を伝えている状態に対応す
る.また自明定常解は,流言の広め役・火消し役が完全にいない状態に対応する.r(T̃ ) < 1 なら
ば,非自明定常解が存在せず,自明定常解が大域的に安定である,すなわちどのような状態で流言
が伝えられ始めても,それが伝説化することはなく,いつか完全に消え去ってしまうことが証明で
きた.一方 r(T̃ ) > 1 ならば,自明定常解が存在する,すなわち流言が人口に定着して伝説化した
状態が存在することが証明できた.
修士論文
生態系における多重ゲーム性と多様性の進化
後藤 正樹
東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻
[email protected]
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1
はじめに
が存在しているので、種数の少ない単純な生態系に比
べ安定して種が共存できていると考えていた。しかし、
1
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どうしてこんなに多くの生命が共存しているのだろう
かという疑問がある。1960 年代まで学者達は多くの種
1
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May らによって「複雑で安定な生態系は存在できない」
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1
という、ランダムな相互作用を仮定した理論研究が行わ
れた [1]。このことは、単に多くの種がいれば良いとい
うのではなく、ランダムではない種間の相互作用に何ら
かの構造が必要であるということを意味する。現在まで
生態系において包括的な理論・実証研究はなく、生態学
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における未解決問題とされている。
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Tokita らは、絶滅、侵入、突然変異を取り入れたモ
図 1 上:独立なリンクのモデル(1つの遺伝子
デルで複雑で安定なネットワーク構造をもつ生態系を作
が1つのゲームの戦略を決める)下:多重なリ
ることに成功した [2]。このことはある意味、上記の問
ンクのモデル(1つの遺伝子が2つのゲームの
題の解答であるように考えられるが、このモデルでの突
戦略を決める)
然変異のルールは、親から受け継いだ種間関係の任意の
1 つが変わるというものである。突然変異とは例えば、
キリンでは首が長くなることのように形質が変化するこ
とであり、種間関係が変わるものではないのでこのルー
ルは生物学的に不十分のようにも思える。よって、本研
究では遺伝子と生態系との関係を結ぶモデルの構築を考
える。
通常、生態系の数理モデルでは種を基本単位として考
えるが、本研究では形質を基本単位として捉える。種は
形質による生き残りゲームを行っているとみなし、レプ
リケータ方程式を用いてシミュレーションを行った。形
質は複数あるので、同時にゲームを行う必要があるの
で、同時に複数のゲームを行うマルチゲームという考え
方 [3] を用い、これを Genotype-Phenotype Mapping
によって生態系モデルに応用した。さらに本研究では、
1つの遺伝子が1つの形質に関与する場合(独立なリン
ク)と、1 つの遺伝子が2つの形質に関与する場合(多
重なリンク)とで、比較研究を行った。
することができる。
Genotype は 0,1 のビット列で表現する。この際、
Genotype の値が違うものは別な種であると考えること
にする。また、1つのビットを gene、その gene によっ
て構成される全体を Genotype と呼ぶことにする。
Phenotype は4つの相互作用行列からなる。この4
つの行列はそれぞれ別の生き残りゲームをしていること
に相当する。2 つの gene の組が 00 ならば戦略1をと
り、01 ならば戦略2をとるというようなルールで、2つ
の gene から1つの戦略が決定され、必ず4つのゲーム
すべてに参加するようにする。このモデルを独立なリン
クと呼ぶことにする(図 1 上)。
また、1 つの gene が2つのゲームの戦略に関与する
ようにしたものを多重なリンクと呼ぶことにする(図 1
下)。
以上のようなモデルを時間発展する際のモデル方程式
として、複数のゲームを同時に行うマルチゲームに拡張
モデル
モデルは遺伝子である Genotype によってコードされ
た戦略が実行されるような仕組みになっている。複数の
ゲームを同時に行うということを表すために、Genotype
と Phenotype の2つの階層を用意する。これにより遺
伝子が、どのゲームでどのような戦略をとるのかを決定
したレプリケータ方程式を用いた [3]。
ẋi = xi (fi − f¯)
(1)
ここで xi は i 番目の Genotype の頻度、fi は i 番目の
Genotype の適応度、f¯ は全体の適応度を表す。さらに、
xi の値が 10−9 以下の頻度になった Genotype は絶滅し
たとみなし、系から取り除くことにする。また、相互作
この中で、2 戦略共存が解になる game-4 について独
5000
立なリンクの場合と多重名リンクの場合の比較をする。
4500
図 2 の上段がその結果である。
4000
3500
独立なリンクでは、モーメントが 0.5 のみであった。
3000
これは2戦略共存解しかないことを意味する。一方、多
2500
重なリンクでは、モーメントは 0.5 以外にも 0.25 など
2000
1500
複数の値があった。これは 4 戦略共存解もあることを意
1000
味する。つまり、多重なリンクでは複数のアトラクター
500
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
をもち、さらにより多くの戦略が共存する傾向にあるこ
1
とがわかる。
100000
ここで、多重なリンクの方がアトラクターの数が多い
10000
理由を考える。独立なリンクでは、各ゲームにおいて 1
番強い戦略が存在し、すべてのゲームにおいてその戦略
1000
を同時にとる最強な種が存在するためその他の種は生
100
き残ることができず、アトラクターは少数しか取り得な
い。一方、多重なリンクでは、2 つの遺伝子が1つの形
10
質の決定に関与するためとり得る戦略の組み合わせが少
1
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
ない*1 、言い換えれば、形質の発現に制限がかかるため
図 2 それぞれ赤が独立なリンク、緑が多重
最強戦略が現れにくくなっており、複数の種が生き残る
なリンク。上:モーメントの頻度分布。x 軸は
ことができるのでアトラクターが多く存在すると考えら
game-4 でのモーメントの値、y 軸は頻度。下:
利得の頻度分布。x 軸は game-4 での各 Genotype の利得、y 軸は頻度。
れる。このことは図 2 の下段において多重なアトラク
ターが複数の利得を取っていることからわかる。
また、多重なリンクでは各 game で独立なリンクより
も高い利得をとる Genotype が存在するという特徴もみ
用行列は性質がすでに良く調べられている循環行列を用
いた。


0 0 a 1
1 0 0 a


G(a) = 
a 1 0 0
0 a 1 0
られた(図 2 下)
。
結論
(2)
Genotype-Phenotype Mapping を取り入れ拡張した
レプリケータ方程式を用いて、仮想的な生態系を作っ
ここで a の値が、a < −1 ではヘテロクリニックサイク
た。その結果、多重なリンクの方が、自由度が少ないに
ル、−1 ≤ a < 0 ではリミットサイクル、0 ≤ a < 1 で
も関わらずアトラクターの数が多いことがわかった。こ
は4戦略共存の固定点、1 ≤ a では 2 戦略共存の固定点
のことは遺伝子によって発現する形質が制限された方
になる。本研究ではこの4つのアトラクターをそれぞれ
4つの Phenotype の相互作用行列に対応させた(図 1
が、生態系の振る舞いの多様性が増すことを意味する。
さらに多重なリンクでは、共存する解が増えていた。こ
のことは戦略の多様性が増すことを意味する。また、独
の行列)。
立なリンクではとり得ない高い適応度をとる Genotype
結果
が存在することがわかった。
各ゲームでの戦略の振る舞いを観察するために、初期
状態をパラメータとしてアトラクターをみる。初期状態
として、取り得る全ての組の Genotype を用意した。つ
まり Genotype が 8 個のビット列からなる独立なリンク
の場合、28 の 256 種、4 個ならば、24 の 16 種初期状態
として存在することになる。これは多次元なので任意の
2 つの Genotype(x1 ,x2 )の初期状態をパラメータとし
次元を落とした。
x3 = x4 = · · · = xN =
1 − (x1 + x2 )
N −2
(3)
参考文献
[1] May,R.M.,”Will a large complex system be stable?”,Nature,238(1972)413-414.
[2] Tokita,K. and Yastuomi,A.,”Emeregence of a
complex and stable network in a model ecosystem
with extinction and mutation”,Theoretical Population Biology,63(2003)131-146
[3] 橋本 康,”マルチゲームダイナミクス”, 数理科学,
495(2004)75-83
また、アトラクターの指標として、各ゲームでの4つ
の戦略のモーメントを測定した。k 番目のゲームの戦略
gik についてのモーメント µk は以下のように表される。
1
T →∞ T
Z
µk = lim
0
T
4
X
i=1
(gik )2
(4)
*1
独立なリンクが 256 の組み合わせがあるのに対し、多重なリン
クは16と少ない
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Modeling and Analysis of Birdsong Learning
(鳴鳥類の音声発達に関するモデル化と解析)
東京大学大学院新領域創生科学研究科複雑理工学専攻
第 1章
序章
修士二年
46423
舩橋真俊
は、教師信号の文法を部分的に辿りながらも、ランダム
近年、人間の言語の文法進化の側面において、文法構
に逸脱し、再び教師信号の別の場所に帰ってくるダイナ
造を持つ鳴鳥類のオスの求愛歌が注目されている。鳴鳥
ミクスを有した。遍歴状態でのヘブ学習の結果、ネット
類の歌の学習過程と人間の音声言語の獲得過程には、系
ワークは教師信号の文法構造をもとにした新たな文法を
統発生が異なるにもかかわらず多くの共通点がある。そ
創発し、実際のジュウシマツの歌の発達過程で見られる
こで、言語の進化的な下部構造を広く動物間における音
チャンクの分節化や融合が観察された(図2)。
声コミュニケーションの中から探すことにより、相似器
官の収斂進化として、鳥の歌は人間の言語を理解するた
めの行動学的・神経科学的なモデルになることが期待さ
れている。また、数理モデルのダイナミクスをアナロジ
ーとすることで、鳴鳥類の音声発達をより包括的に捉え
ることが提案されている。
第2章
鳴鳥類の音声発達のカオスエルマンネットワー
クによるモデル化
本研究では、まずジュウシマツの音声発達の観点から、
エルマンネットワークを用いてバックプロパゲーション
↑図1:不応性を増大させた想起ダイナミクスにおける
各歌の局所リヤプノフ数。
学習により有限状態文法の教師つき学習モデルを構築し
た。次に、実際のジュウシマツの音声発達においては、
一旦結晶化した歌が再び複雑さを増し、個体特異的な文
法構造を生成することに注目した。この過程では、もは
や手本となる歌が存在していないため、ジュウシマツは
何らかの内在的なメカニズムによって、学習した歌をも
とに文法を自律的に多様化していると考えられる。この
ような学習が可能なメカニズムの一例として、臭球にお
ける学習の触媒としてのカオスが挙げられる。そこで、
次の段階として、エルマンネットワークの中間層にカオ
↑図2:教師信号と、遍歴中の学習後に創発した文法の
kr
一例。
を増大させネットワークをカオス的遍歴状態にし、新た
第3章
にヘブ則により(教師信号に依らない)内在的・自律的
解析
スニューロンを用い、学習後に不応性パラメータα,
カオスエルマンネットワークのダイナミクスの
な学習を行った。不応性パラメータの増大により、カオ
第2章で用いたモデルのダイナミクスをより詳細に特
スエルマンネットワークの想起ダイナミクスの軌道は局
徴付けるために、簡単なマルコフ情報源を文法としてヘ
所リヤプノフ数が部分的に正に転じ、一種のアトラクタ
ブ則により記憶させたカオスエルマンネットワークのダ
ー残骸間の遍歴状態と解釈できる(図1)。遍歴状態の文法
イナミクスの解析を行った。
まず、カオスニューラルネットワークに対する不変部
分空間の定義をカオスエルマンネットワークに拡張し、
クの不変部分空間近傍のダイナミクスについて定性的な
概念図を得た(図5)
。
その階層構造を調べた。
次に、不変部分空間上でのカオスニューラルネットワ
ークとカオスエルマンネットワークの文法からの逸脱率
を調べた(図3、図4)
。その結果、カオスエルマンネッ
トワークでは、Input 層からのフィードバックにより、
記憶させた文法へ回帰するダイナミクスの領域が広がる
ことが示された。これは、リミットサイクルを記憶させ
たカオスニューラルネットワークの遍歴状態に記憶パタ
ーンの断片を入力した時のダイナミクスの性質と一致す
る。
↑図3:カオスニューラルネットワークの文法からの逸
また、定常状態での不変部分空間上のダイナミクスの
脱率。
分岐と周期性、及び瞬間リヤプノフ数を解析し、ダイナ
ミクスが主にⅠ:記憶させた文法の再現、Ⅱ:記憶パタ
ーンを含む周期解及びカオス的遍歴状態、Ⅲ:記憶パタ
ーンを含まない周期解、に分類できることを示した。こ
のうち、カオスエルマンネットワークで文法の多様化に
寄与したのはⅡとⅢの不応性パラメータ領域であったが、
Ⅲの周期領域ではチャンクの保存性が低かった。カオス
エルマンネットワークではⅢの領域が減少し、Ⅱの領域
の軌道の不安定性領域が増大することが確認された。ま
た、バックプロパゲーションしたネットワークでは不変
↑図4:カオスエルマンネットワークの中間層の文法か
部分空間が近似的にしか成り立たず、定常状態以前のダ
らの逸脱率。
イナミクスを用いているため、軌道はより不安定化して
いると考えられる。
不変部分空間外から出発する軌道に関しては、定常状
態での不変部分空間上の瞬間横断リヤプノフ数、有効次
元のダイナミクス、及び平均有効次元を解析することに
より、不変部分空間の近傍に近づいたり遠ざかったりを
非周期的に繰り返す遍歴状態が存在することが示された。
第4章
結論
第 2 章では、学習の触媒としてのカオスを動的な連想
記憶に拡張し、鳴鳥類の音声発達の抽象的なモデルとし
てのカオスエルマンネットワークにおいて、内在的な文
法の多様化に応用可能であることを構成的に示した。
また、第3章の解析より、カオスエルマンネットワー
↑図5:カオスエルマンネットワークのダイナミクスの
概念図。
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Mathematical Analysis of Predator-prey Coevolution Systems
静岡大学大学院理工学研究科システム工学専攻 竹内研究室
今井 俊文(Toshifumi Imai)
概要
自然界には、毒性を持つ生き物がたくさん存在している。その用途はそれぞれの生き物によって様々であろう。
その一方で、その毒性に対抗していると考えられる生き物も存在している。[2] ではその例として、アメリカ西海
岸に生息しているサメハダイモリとガータースネークの関係が紹介されている。サメハダイモリの中には、皮膚
からテトロドトキシンを分泌するものがいる。テトロドトキシンは強い神経毒であり、唯一の捕食者であるガー
ターヘビは、捕食するとその毒によって数時間動けなくなってしまう。その状態では上位の捕食者に見つけられや
すくなってしまうおそれがあり、また、場所によってはうまく体温調節ができなくなって死んでしまうかもしれな
い。ガーターヘビには、テトロドトキシンに対する耐性を強く持つものとそうでないものが混在しており、それ
らの分布は地域によって大きく異なる。また、ガーターヘビにはスプリントスピードと耐性の強さにトレードオ
フの関係が実験で得られている。(すなわち、耐性の強いヘビほどスプリントスピードが劣る。)被食者が、毒の
ような捕食者にとって致死的なもの(以降、アドバンテージ)を獲得することで、系にどのような変化が生じる
のであろうか。また、アドバンテージを持つ被食者に対する対抗策(以降、耐性)を持つ捕食者が現れた時、系
のダイナミクスはどうなるだろうか。
本論文ではまず、捕食者に対して一部アドバンテージを持つ被食者 x(t) とその捕食者 y(t) の個体群動態につい
て考えた。アドバンテージを持つ被食者は、遺伝子によって決定されるとしたモデルが次の微分方程式である [1]。

α
x2 2 αx1 x mx1 y


x1 +
−
−
x1 =


x
2
K
a+x


αx x mx y

α
x
x

2
2
2
2

x3 +
−
−

 x2 = 2 x x1 + 2
2
K
a+x
α
x2 2 αx3 x mx3 y


x
x
=
+
−
−
3

3

x
2
K
a+x




m(x1 + x2 )
mx3 y


 y = y
−s ±
(S± )
a+x
a+x
x1 (t),x2 (t),x3 (t) は、それぞれ遺伝子型 AA,Aa,aa を持つ被食者の,y(t) は捕食者の,個体群密度をあらわ
す x(t) = x1 (t) + x2 (t) + x3 (t) 。パラメータ α,a,m,s,K はすべて非負の定数である。α は x(t) の内的自
然増加率,a は Holling II 型の定数,m は x(t) の捕獲率,s は y(t) の死亡率,K は x(t) の環境収容力,である。
遺伝子型を考慮したこのモデルは、被食者の間に Hardy-Weinberg の法則が成り立っている。モデルでは、遺伝
子型 aa がアドバンテージを持ちうる被食者であるとしている。我々はそれが系に与える影響を見るために、aa
がアドバンテージを持たない場合と、持つ場合の両方を解析した。持たない場合が (S+ ) でこれを model without
dangerous prey と名付け、持つ場合が (S− ) で model with dangerous prey と名付けた。(プラスとマイナスはそ
れぞれ、y(t) の方程式の最後の項の符号に対応する。)
結果として、(S+ ) の平衡点の安定性はパラメータによって決定されるが、(S− ) は平衡点の存在,安定性共に初
期値に依存することが分かった。つまり、後者はパラメータだけでは系の様子を決定することはできず、例えば、
(S+ ) で4種の周期解が現れるパラメータを (S− ) で用いると、初期値のとり方によっては4種の周期解のほかに、
4種の安定共存や捕食者が絶滅して被食者だけが安定共存する場合が確認できた。周期的に共存することは、わ
ずかな摂動で絶滅してしまうおそれがある。よって、被食者が捕食者に対してアドバンテージを持つことは、系
の安定化をもたらすことを示唆してはいないだろうか。
さて、上記のモデル (S− ) では、捕食者に対してアドバンテージを持つ被食者を捕食した捕食者はすべて死亡す
るという大きな仮定の下で議論してきた。次に、被食者のアドバンテージに対して耐性を持つ捕食者を考慮した
次のモデルを構築した。これにはさらに、進化(突然変異)によってかかるであろうと考えられるコストと、上
の例で挙げたトレードオフの関係を考慮した:

x mx1 y1
mx1 y2

−
1
−
=
α
x
−
x

1 1
1


K
a
+
x
a2 + x
1


mx y

x
mx
2
1
2 y2



 x 2 = α 2 x 2 1 − K − a1 + x − a2 + x
mx − µx 
1
2


y
=
y
−
s
1
1

 1
a1 + x



mx


 y2 = y2
− s2
a2 + x
α1 ≥ α2 , a1 ≤ a2 , s1 ≤ s2
捕食者に対してアドバンテージを持たない被食者 x1 (t),持つ被食者 x2 (t),耐性を持たない捕食者 y1 (t),持つ捕
食者 y2 (t) を考える x(t) = x1 (t) + x2 (t) 。パラメータ α, a, m, s, K の意味はモデル (S± ) と同じであるが、α,
a,s の添数は、その添数の個体群のもつパラメータである。また µ は、耐性を持たない捕食者がアドバンテージ
を持つ被食者を捕食した時の致死率をあらわす。α1 ≥ α2 ,a1 ≤ a2 ,s1 ≤ s2 はそれぞれ、アドバンテージを持つ
ことでかかるコスト,耐性を持たない捕食者と持つ捕食者のトレードオフ,耐性を持つことでかかるコスト,を仮
定している。(Holling Type II からくる正定数 a は、単位時間当たりの捕食頻度の逆数を反映したもの [4][5] であ
り、大きい方が捕食者にとっては不利となる。本論文では、スプリントスピードが狩りにおいて影響すると考え、
被食者が低密度の時に大きく影響すると仮定した。)一般的に、進化にはコストがかかると考えられる。このモデ
ルでは、進化によるコストの影響を見るために、まず Case 1として α1 = α2 ,s1 = s2 を考えた。すなわち被食
者のアドバンテージと捕食者の耐性にかかるコストは無視して、実験で得られた捕食者のトレードオフだけを考
慮した場合である。そして Case 2として、α1 > α2 ,s1 < s2 を考えた。
結果として、Case 1では4種が周期的に共存できることを確認した。一方 Case 2では、内部平衡点が存在せ
ず、周期的共存も確認することができなかった(Case 1は、特殊な場合ではあるが内部平衡点が存在する)。さら
に注目すべきは、Case 2では x2 (t) と y2 (t) のみが生き残る平衡点が存在するものの常に不安定になることであ
る。すなわちこのモデルでは、互いに進化した生物(アドバンテージを持つ被食者と耐性を持つ捕食者)を考え
たが、それらは同時に生き残ることができない。
(Case 1では x1 (t) と x2 (t) と y2 (t) が生き残る平衡点が存在し、
局所漸近安定となる条件も存在する。)私たちのモデルにおけるこれらの結果は、一般的に考えられる進化にかか
るコストが、本当に存在するのかという疑問を投げかける。私たちはモデルで、観察事実から得られた a1 ≤ a2 を
仮定したが、a1 < a2 そのものが進化した捕食者にかかるコストとも考えられる。この場合、モデルでは捕食者に
二重にコストを与えてしまっている(a1 < a2 ,s1 < s2 )ことになるが、Case 2において内部平衡点が存在しな
いことや x2 (t) と y2 (t) で構成される平衡点が常に不安定になることは、仮定 α1 > α2 からくるものなので、進化
におけるコストという概念に対する疑問に行きつく。
最後に、(S− ) と Case 1を比較することで、耐性を持つ捕食者が系に入る影響について考えてみる。(S− ) では
内部平衡点とその安定性がパラメータと初期値によって決定されるが、Case 1では内部平衡点は特殊な条件でな
いと存在できない。これは共進化により種の共存が一般に困難になることを示唆している。
参考文献
[1] Paul Waltman, James Braselton and Lorraine Braselton(2002). A mathematical model of a biological arms
race with a dangerous prey, J.theor.Biol. 218,55-70
[2] Brodie, E. D. III & Brodie, E. D. Jr.(1999). Predator prey arms race: asymmetrical selection on predators
and prey may be reduced when prey are dangerous. Bio Science. 49, 557-568
[3] Freedman, H. I., So, J. W. -H. & Waltman, P.(1987). Predator influence on the growth of a population
with three genotypes III. J.Math.Anal.Appl. 128,287-304
[4] 伊藤嘉昭 (1975). 動物生態学 (上巻) (下巻). 古今書院.
[5] ハル · スミス&ポール · ウォルトマン [著], 竹内康博 [監訳] (2004). 微生物の力学系−ケモスタット理論を通し
て−. 日本評論社.
Coexistence of multiple species on the limited resources
-analysis of modified lottery models静岡大学大学院理工学研究科システム工学専攻
竹内研究室 岩田 繁英
1
背景
地球上では多数の生物が存在し,様々な共存
機構のもと限られた資源を利用して多数の種が
共存している. 共存機構の解明は生態系の理解に
役立ち,また生態系の理解は生物種の保全活動
の円滑化につながると考えられる.多種共存機
構についてこれまで多くの研究がある (Pianka,
1978). 多くの研究者が多種の共存機構に注目し
ているが複雑さのため未解明な部分も多い. 本
論文では多種共存機構の解明を目的とし,特に
陸上植物種を対象と定める.陸上植物種,特に
種子植物では種子生産を行い,生産された種子
が定着することで個体群動態が決定される. 本
研究では未成熟個体 (種子,若木等) が生産され,
定着する間に起こりうる次の2つの効果に注目
する:(i) 種子発芽に対する密度依存の影響,(ii)
種子生産における栄養塩の影響.これらの影響
を考慮した数学モデルを構築し,それらが個体
群動態に与える影響を考察する.本研究ではこ
れらの要素が平均的に未成熟個体に作用してい
ると考えたモデルの解析を行う.
2
基本モデルとその結果
本発表は,多種共存機構の解明を目的として,
Chesson と Warner(1981) が提案した次のロッタ
リーモデルを基礎とする.
Pi = (1 − δi (t))Pi + S(P )Ri(P )
n
(1 − δj (t))Pj ,
S = 1−
率を示す (常に nj=1 Pj = 1 が成立している).
種 i の死亡率を δi ,繁殖率を βi とする.故に,
(1 − δi (t))Pi は単位時間の間に生き残った種 i の
割合を示し,S(P ) は次の時刻において未成熟個
体(種子や幼木)が侵入できる空き地の割合を示
している.新たに生成された空き地 S(P ) に対し
て種 i は Ri (P ) の割合で定着する.Ri (P ) は全
種の総未成熟個体数 nj=1 βj (t)Pj に対する種 i
の未成熟個体数の割合を示す.これがロッタリー
(くじ引き) と呼ばれる由縁であり,本モデルの
重要な特徴である.Chesson や Warner らのロッ
タリーモデルでは,死亡率 δi ,繁殖率 βi が時間
変動する場合には多種が共存し,死亡率,繁殖率
が時間変動しない場合(δi (t) ≡ δi ,βi (t) ≡ βi )
では次の特殊な条件下 δi /βi = δj /βj ,i = j ,i
,j = 1, 2,· · · ,n. のみ内部平衡点が存在し共
存する可能性があることを示した.
3
モデル
植物の密度依存効果を考慮したモデル
植物種による密度依存効果関数を Di(Pi ) とする
と次のモデルを得る.
Pi = (1 − δi )Pi + S(P )Ri(P )Di (Pi )
(1)
Ri (P ) = βi Pi /
n
βj Pj ,i = 1,· · · ,n.
j=1
j=1
Ri = βi (t)Pi /
n
βj (t)Pj ,i = 1,2,· · · ,n.
パラメータはオリジナルのロッタリーモデルと
同じである.
j=1
ここで,Pi は時刻 t における種 i による土地の占
栄養摂取を考慮したモデル
有率を示し,Pi は時刻 t + 1 における種 i の占有 繁殖係数 βi が栄養 x に依存すると仮定すると次
のモデルを得る.
Pi = (1 − δi )Pi + S(P )Ri(P ,x)
n
αj (x)Pj )q + s
(2)
x = (1 −
j=1
mi x
αi (x) =
,i = 1,· · · ,n
ai + x
n
βj (αj (x))Pj .
Ri(P ,x) = βi (αi(x))Pi /
j=1
ai > 0 は正の定数,mi /ai < 1, mi は単位個体
が単位栄養当り生産できる最大未成熟個体数.そ
れ以外のパラメータはオリジナルのロッタリー
モデルと同じである.特に,本研究では3つの
繁殖係数を用いた場合を考える.
• TYPE I
βi(αi (x)) = ci αi (x),
• TYPE II
系 (1) において密度依存係数は Di (Pi ),−1 <
dDi (Pi )/dPi < 0 を満たすと仮定する. このと
き,一般に n 種系で内部平衡点が存在すれば局
所安定であることを示した
系 (2) の結果
系 (2) では n = 2,β1 を TYPE I,β2 を TYPE
II (又は,III) として局所安定性解析を行った.
種 i のみが生き残る平衡点を Ei とする.このと
き,TYPE I, TYPE III では,すべての Ei が内
部方向 Pj , j = i に不安定化するときに共存平
衡点は安定となる.一方で,TYPE II では共存
平衡点の存在条件は導かれているものの Ei との
関係性は明確にわかっていない.しかし,数値
計算の結果から TYPE I,TYPE III と同様,Ei
が内部方向に不安定化するとき,共存平衡点は
安定となる.更に,共存平衡点の領域の範囲の
広さを考えたとき TYPE II の共存平衡点の存在
領域が一番広いことがわかっている.
5
結果
ci (αi (x) − li) (li ≤ αi (x))
βi(αi (x)) =
0
(0 < αi (x) < li), これらのモデルから系(1) では多種が共存す
る可能性がある事が安定性解析から導かれた.
• TYPE III
系(2) TYPE III でも数値実験からもこれらの影
響により3種が共存している事が確認され,多種
ciαi (x)
(li ≤ αi (x))
βi (αi (x)) =
が共存する可能性がある.系(1) では種が共存す
0
(0 < αi (x) < li ),
る領域は内部平衡点が存在する領域に一致する.
つまり,一般に内部平衡点が存在すれば, n 種で
系 (1) の基本的な性質
共存する可能性がある.系(2) において TYPE
系 (1) において Di ≡ 1 とするとオリジナルの
I, II, III により個体群動態への影響が大きく
ロッタリーモデルに帰着する.一方,Ω1 := {(P1 ,
異なっていた.まず,TYPE I, TYPE II では
· · · ,Pn ) ∈ Rn | P1 ≥ 0,, · · · ,Pn ≥ 0,
種は内部平衡点で共存する共存様式をとり,特
1 ≥ nj=1 Pj ≥ 0} を定義する.初期値を (P1 (0),
に TYPEII の方が共存する領域は広い.一方で,
· · · ,Pn (0)) ∈ Ω1 とすると系 (1) の任意の解は非
TYPE III では個体群動態の特徴として周期的
負で有界となる.
な変動が確認された.この結果は,繁殖係数を
系 (2) の基本的な性質
少し変えるだけで個体群動態に定性的な違いが
系 (2) において βi (x) ≡ βi とするとオリジナルの
生まれるという意味で面白い.故に数値計算よ
ロッタリーモデルに帰着する.一方,Ω2 := {(P1 ,
り系(2) の TYPE III の場合のみ多種 (n > 3) が
· · · ,Pn ,x) ∈ Rn+1 | P1 ≥ 0,,· · · ,Pn ≥ 0,
共存する可能性がある.
1 ≥ nj=1 Pj ≥ 0, x ≥ 0} を定義する.初期値
参考文献
を (P1 (0), · · · ,Pn (0),x(0)) ∈ Ω2 とすると系(2)
[1] Chesson, P. and Warner, R. R. (1981),Enの任意の解は非負で有界となる.
4
安定性解析
我々は,平衡点の安定性を解析することによ
り植物種が共存するか否かを解析する.
系 (1) の結果
viromental variability promotes coexistence
in lottery competitive system.Am. Nat. 117,
923-943
[2] Pianka, E. R., Evolutionary Ecology, (2 nd
ed.) Harper and Row, New York, (1978).
修士論文 囚人のジレンマの戦略における進化,学習,発生の相互作用
小川 行政
名古屋大学 大学院情報科学研究科 複雑系科学専攻
E-mail: [email protected]
生物の代表的な適応機構として進化,学習,発生が挙げられる.
生命システムは進化,学習,発生が相互に作用することで作り上げ
られてきた.生命システムの相互作用はとても複雑であり,生物学
や工学の分野おいてもはっきりとした理解が得られていない.近年,
進化,学習,発生の複雑な相互作用に対して計算論的なモデルに基
づく構成論的アプローチが盛んに行われている.また,“evo-devo”
と呼ばれる進化と発生の相互作用が生物学や人工生命の分野で多
くの研究が行われている.しかし進化,学習,発生を組み合わせた
モデルはほとんどない.進化,学習,発生を組み合わせた研究とし
ては,Downing の研究が挙げられる.Downing は Hinton らのモ
デルに発生過程を導入し,Baldwin 効果が生じる過程における,発
生過程の進化と問題空間の大きさや解の特徴について論じている.
本研究の目的は,最適解が固定していない動的な環境における
進化,学習,発生の相互作用に関して知見を得ることである.動的な環境は大きく 2 つに分類することができる.一つ
は,集団の環境自体が世代を通して変化し,集団中の個体の適応度に影響を与える場合である.もう一つは,動的な要
因を集団自体が内包しているような場合である.本研究では後者の典型的な例として,繰り返し囚人のジレンマゲーム
を採用し,進化,学習,発生の相互作用に関して検討する.上記の目的を実現するために,進化に遺伝的アルゴリズム,
学習にメタ・パブロフ学習と呼ばれる単純な改善アルゴリズムを採用する.また発生とは遺伝子型から表現型を写像す
る過程の一種であり,3 つのプロセスの中で最も理解されていない.そこで発生には計算万能性を有するタグシステム
とチューリングマシンを採用する.
本研究では進化,学習,発生が繰り返し囚人のジレンマゲームの戦略を生成する計算論的モデルを構築する.遺伝
子型にはタグシステムまたはチューリングマシンのどちらかの発生メカニズムとそれが走査する初期テープがコード化
される.最終的に発生過程によって生成された表現型を繰り返し囚人のジレンマゲームの戦略として定義する.それぞ
れの戦略は 0(裏切り),1(協調),2(可塑的な表現型)の列で表現される.対戦の間,可塑的な表現型はメタ・パブ
ロフ学習と呼ばれる単純なアルゴリズムによって変更される.以上のような個体同士でノイズありの繰り返し囚人のジ
レンマゲームを総当たりで行い,それぞれの個体の平均得点を適応度とみなして,新たな集団を遺伝的アルゴリズムに
よって生成する.モデルの要点は,発生過程は単に表現型を生成するだけでなく対戦の間に学習によって変更可能な可
塑的な表現型の量をも決定する.また同時に,進化がこの発生過程を決定することができるという点である.
実験の結果,ほとんどの試行において進化,学習,発生を通して,最終的に協調関係が築かれることを確認した.一
方で,協調関係が設立する際,3 つのプロセスの柔軟性に相当する様々なシナリオが観察された.タグシステムの場
合,それぞれの個体は学習と発生の両方に依存する傾向があり,学習と発生が滑らかな協調関係の設立を導いた.一方,
チューリングマシンの場合,学習と発生が排他的に働き,協調関係が築かれた.例えば,発生が排他的に働いた場合,
発生に依存した裏切り的な戦略が初期段階で集団を占め,協調の進化を遅らせる.しかしその後,可塑性を持たない協
調的な戦略が集団を支配し,最終的に協調関係が築かれた.タグシステムとチューリングマシンの結果の違いとしては,
タグシステムはチューリングマシンよりも,動的な環境において学習と発生の協調的な役割を探索する進化を助けるた
めに,より効果的な繰り返しパターンを生成することができたのではないかと考えられる.つまり生物の様々なレベル
で見られる繰り返し構造は,発生のメカニズムが動的な環境において効率的に働いた結果としての必然と言えるかもし
れない.
発表文献
• 小川行政,有田隆也: 囚人のジレンマの戦略における進化,学習,発生の相互作用,人工知能学会全国大会(第
19 回)論文集,2F2-02,2005.
• Ogawa, Y. and Arita, T.: Evolution, Development and Learning in the Prisoner’s Dilemma Game, Proceedings
of the 11th International Symposium on Artificial Life and Robotics, pp. 323–327, 2006.
修士論文
ニッチ構築を介した個体間相互作用に関する進化シミュレーション
名古屋大学 大学院情報科学研究科 久保和紀∗ 進化とニッチ構築
生物は,自然選択の力を受けて環境に適応する方向へ
進化するだけでなく,自身の生態的活動を通して環境条
件を改変することで,自身もしくは他個体に働く選択圧
を方向付けてきた.近年,この働きは “ニッチ構築(niche
construction)”(図 1)[Odling-Smee, F. J., 1988] と呼
ばれ,土壌の化学的環境の改変から,巣作り,大気の組成
の改変,また,人間の文化的活動まで,生物界における
様々なレベルで数多く存在し,生物進化の過程における
様々な時代,階層において重要な役割を果たしているこ
とが明らかになっている.一方,その進化ダイナミクスの
一般的な知見については議論が不十分であった.ニッチ
構築は,それを行う個体自体の適応度を増加させるか減
少させるかによって正と負に分類することが出来る.本
研究では,正および負のニッチ構築に関する形質の自明
でない進化のシナリオに関して次の二つのモデルを用い
て解析を行った.
ⅣႺ
⥄ὼㆬᛯ
Ot
Et
䊆䉾䉼᭴▽
⥄ὼㆬᛯ
Ot +1
↢‛䈱ㅴൻ
ⅣႺ䈱ᄌൻ
䋨↢ᘒ⊛⛮ᛚ䋩
ᤨ㑆ゲ
Et +1
↢‛㓸࿅
䊆䉾䉼᭴▽
図 1: ニッチ構築を導入した生物と環境との相互作用
ニッチ構築に直接選択圧が生じない抽象モデル
自家中毒による負のニッチ構築の進化モデル
一方,負のニッチ構築は,一見すると進化が難しいよ
うに思われるが,実世界には負のニッチ構築に相当する
活動を行う生物が存在する.その具体例として植物の自
家中毒に注目し,改変された選択圧の世代を超えた蓄積
である “生態的継承(ecological inheritance)”(図 1)を
伴う負のニッチ構築の典型例の一つと捉え,多年生植物
の生活史戦略と自家中毒形質の進化モデルを構築し,負
∗ [email protected]
(a)
⊒⧘ᛥ೙
(b)
⊒⧘
ᚑ㐳ᛥ೙
䊌䉾䉼ౝ┹ว
⥄Ꮖ㑆ᒁ䈐
一見して進化が容易であると思われる正のニッチ構築
を行う形質であっても,直接選択圧が生じない状況があ
りうる.その典型例として,すべての個体が共有する環
境の状態(例えば温度など)に影響を及ぼすニッチ構築
遺伝子とその環境の状態によって個体の適応度を決定す
る遺伝子の進化に関する抽象的な個体ベースモデルを構
築し,解析した [1].
その結果,個体数が比較的少なく,個体の持つ遺伝子
の相関が維持されやすい条件を仮定すると,選択圧が直
接働かないニッチ構築遺伝子に間接的に進化の方向性が
生じ,一時的に正のニッチ構築遺伝子が集団中に広まり
うることが判明した.その理由は,現在の環境において
適応的な遺伝子を持つ個体が集団中に広まる際に,その
個体が自身にとって正のニッチ構築遺伝子を持っている
場合には,自身の頻度の増加がさらに適応度の増加をも
たらすという正のフィードバックによって集団中を占め
ることができるためであった.一方,適応的な遺伝子を
持つ個体が負のニッチ構築遺伝子を持つ場合には,自身
の頻度の増加が適応度の減少をもたらすため,集団中に
広まることが抑制されることも判明した.
のニッチ構築が進化する条件について一般的な知見を得
ることを行った [2].具体的には,翌年の種子の発芽もし
くは苗の成長を自身(とその種子)を含めて抑制する自
家中毒を想定し,二次元パッチ平面において,生産部の
成長,貯蔵部への資源の貯蔵,種子および自家中毒物質
の拡散に対する資源分配戦略([Iwasa, Y. and Cohen, D.
1989] を参考)を遺伝子として持つ個体群が,発芽,パッ
チ内・間の資源競合,局所的な種子と自家中毒物質の拡
散,越冬を繰り返して進化する個体ベースモデル(図 2)
を構築し,解析した.
実験結果から,自家中毒による負のニッチ構築は個体
の分布や相対的な適応性を改変することでそのデメリッ
トを上回るメリットを得ることで進化可能であることが
判明した.自家中毒物質が翌年の種子の発芽を抑制する
効果がある場合,自家中毒物質を放出する形質は,次世
代の自身の子孫の生存率を下げる一方で,近傍の個体を
取り除くことによるパッチ内やパッチ間の競合の減少を
もたらし,資源獲得量を増加させ個体自身の安定した生
存を可能にするため,集団中に徐々に広がることが確認
された.自家中毒物質に初期段階における苗の成長を抑
制する効果があり,かつ,初期段階において大きく成長
するほど自家中毒物質を多く吸収しその影響が大きい状
況を想定した場合では,自家中毒物質の存在によって生
産部サイズの大小に関する形質の適応性が逆転すること
により,自家中毒物質を放出しつつ初期段階では小さく
成長する個体が相対的に適応的となり,集団中を占める
傾向があった.しかし,一端これらの個体が集団中を完
全に占めると,自家中毒物質の放出にかかるコストを他
の個体に任せてしまう N 人版囚人のジレンマにおけるフ
リーライダー的な個体が徐々に出現し,一時的に自家中
毒物質を放出せず大きく成長する個体の侵入を受けるこ
とが判明した.さらに,発芽抑制の進化と局所性の条件
の影響に関する解析から,空間的構造は,負のニッチ構
築の進化に対して大きな影響を及ぼすと同時に,条件に
応じた最適な負のニッチ構築の強度が存在することが示
された.
(c)
䊌䉾䉼㑆┹ว
⿧౻
(f)
శวᚑㇱಽ䈱ᨗᱫ
(e)
(d)
Ქṡ಴
⒳ሶಽᢔ
図 2: 自家中毒形質の進化モデル(灰:毒が多い土壌)
発表文献
[1] 久保和紀, 鈴木麗璽, 有田隆也: 進化とニッチ構築の
相互作用に関するシミュレーション解析, 2005 年度
人工知能学会全国大会(第 19 回)予稿集, 2F2-03:
1-4 (2005).
[2] 久保和紀,鈴木麗璽,有田隆也: 自家中毒による負
のニッチ構築の進化に関するシミュレーション解析,
第 33 回知能システムシンポジウム予稿集 (発表予
定).
修士論文
心の理論における再帰レベルの進化に関する構成論的アプローチ
名古屋大学大学院情報科学研究科 高野雅典
はじめに
シミュレーション実験
衝突回避行動モデルにおいて再帰レベルの奇数・偶数
心の理論とは他者の心の状態を推測する心の機能の
で非対称な性質が示された.レベル
は他者を考慮せず
ことである.心の理論により他者が心の理論を持つと推
直進する,レベル は他者をそのレベル と考え,大き
測する時,他者も他個体に対して,心の推測を行ってい
く避ける.前述の非対称性はこの,他者を考慮する(レ
ると推測できる.この時,心の推測の入れ子構造が発生
ベル ),しない(レベル )の差に起因すると考えられ
し,他者がどのような状態なのか,自分が他者にどのよ る.この非対称性により適応度地形に奇数・偶数の凹凸
うな影響を与えるのか,の推測が可能になる.ヒトは複 ができる.この凹凸は他者から受ける影響の度合いに影
雑な社会を形成する生物である.この複雑な社会での駆 響を受けた.その影響の度合いが特定の領域にある時,
け引きにおいて他者を操る,他者に操られないために 適応度地形はなだらかになり高いレベルへ進化した.
パーソナルスペースゲームモデルにおいても,レベル
は,
「相手の考える「自分」」,
「相手の考える自分の考え
と の差に起因し,行動と適応度に奇数・偶数の非対
る相手」」といった再帰的な推測が不可欠である.この
称性が示された.この非対称性により適応度地形に奇
再帰のレベルはヒトは他種と比べ際立って高い.このヒ 数・偶数の凹凸ができた.また,行動の非対称性は競合
トを特徴付ける再帰レベルの進化の要因は何か 構成論 度が微小な時,高いレベルほど弱まり,やや大きくなる
的モデルを作って理解することが本研究の目的である. と特定のレベルにおいて最小となった.そのため,この
凹凸は競合度に影響を受け,進化の方向が異なった.
両実験により示された適応度地形の凹凸により再帰
モデルの設計
レベルの連続的な進化は難しいと言える.その凹凸は個
本研究では衝突回避行動モデルとパーソナルスペー 体間の関係性により変化するため,特定の条件下におい
スゲームモデルを設計し,シミュレーション実験を行っ ては高いレベルへの進化圧が働きうると考えられる.
た.これらは各個体の適応度が他者の行動に依存するよ
まとめ
うな頻度依存の適応度を前提とし,その上で個体は再帰
的に他者の行動を推測し自分の行動を決定する.その
構成論的手法に基づき,心の進化における再帰の構
ため各個体は適応度を上げるために他者の行動を正確 造の進化に関する計算論的モデルを構築し,シミュレー
に読むことが重要になる.衝突回避行動モデルは競合 ション実験を行った.結果,再帰レベルの奇数と偶数に
型タスクとして群集の衝突回避を想定したものである. 非連続的な適応度差が存在し,それは他者の内部モデル
を持つ・持たないのギャップに起因すること,他者との
他者を避けなければ衝突,しかし避けすぎると遠回り.
関係性が再帰レベルの適応性の支配要因となっている可
つまり,各個体が他個体に配慮せず自分の欲求どおりに 能性があることなどが示した.ヒトの独自性を際立たせ
振る舞うと衝突するが,他個体の行動について配慮し ているものの一つである心の理論における再帰の深さ
すぎると,相手が欲求どおりに振る舞うことができ,自 の進化は,記憶や処理コストに関わる制約だけでなく,
分が不利になる.という社会的なジレンマを表す.パー 処理内容そのものに関わる制約を少なからず受けてい
ソナルスペースゲームモデルでは,各個体は個別に「他 ることが示唆される.
個体との望ましい距離」を持ち,その距離を保つことが
目的のタスクである.個別に持つ「他個体との望ましい 発表論文
距離」が個体間で同じならば,協調型のタスクとなり, 高野雅典 加藤正浩 有田隆也 心の理論における再
帰のレベルの進化に関する構成論的手法に基づく検
異なるほど競合度が高くなる.そのため,上述した競合
討 認知科学 的な状況だけでなく,競合的な状況から協調的な状況ま
で連続的に調節可能である.ただし,このモデルでは個 体は望ましい距離を満たすと考えた場所へ制約なしで
! "# $
! % 移動でき,衝突回避行動モデルのような一歩の距離や衝
突という物理的な制約は考慮しない.以上を用い再帰レ
ベルの進化シミュレーションを行った.
& ' (
修士論文(要旨)
題:被食者と捕食者の軍拡競争を促進する環境変化:理論的アプローチ
Title: Environmental changes which promote prey-predator arms race:
A theoretical approach
京都大学生態学研究センター
広永 良
研究背景
古生代以降少なくとも二回(カンブリア紀と中生代)、海生多細胞動物の体制が劇的に発展したといわれて
いる。これらの時期はまた、被食者と捕食者の間の軍拡競走が発生・激化した時でもある。カンブリア紀と中生
代にこのような出来事が起こった原因の説明には、環境条件が改善され(酸素濃度の上昇・栄養塩の増加・水
温の上昇等)、生理的な抑制が緩和されたためだ、というものが多い。しかし、生物には軍拡形質を発展させ
るという戦略の他にも増殖率を上げるという戦略がある。つまり、環境の改善が、軍拡形質の発展ではなく増殖
率の増加につながる可能性も考えられるのである。そこで本研究では、本当に環境の改善が軍拡競走につな
がるのか、また、軍拡競走を引き起こす環境変化とはどのようなものかを数理モデルを用いて調べた。
モデル
1被食者―1捕食者の系を考え、個体群動態は以下のLotka-Volterra方程式で与えられているとした。
被食者密度
捕食者密度
dx
xö
æ
= {r - C (v )}xç1 - ÷ - axyf (v, w),
dt
è Kø
dy
= a{e - D(w )}xyf (v, w ) - my ,
dt
r … 被食者の内的自然増加率
K … 被食者の環境収容力
e … 捕食者のエネルギー転換効率
a … 被食者と捕食者が遭遇する率
m … 捕食者の死亡率
v …被食者の防御形質の程度
w …捕食者の攻撃形質の程度
C (v ) =
c
a1
D (w) =
(v + 1)a1 …被食者のコスト
d
a2
f (v, w) =
( w + 1) a 2 …捕食者のコスト
1
1 + exp{b(v - w)}
…捕食者が被食者を捕食する率
被食者は捕食者に対する防御形質を進化させ、捕食者は被食者に対する攻撃能力を進化させると仮定し、
・被食者が防御能力を強化させた場合、捕食者に食べられにくくなる一方、
防御器官を持つことによるコストがかかる
・捕食者が攻撃能力を強化させた場合、被食者を食べやすくなる一方、
捕食器官を持つことによるコストがかかる
というトレードオフを組み込んだときの進化動態を量的遺伝モデルに基づいた偏微分方程式を用いて調べた。
進化速度が個体数増減の速度よりずっと遅いことに加え、負の密度効果を持ったLotka-Volterra方程式が大域
安定であることから、本研究では進化が起こるときは常に個体数が平衡点に達しているとして解析を行った。
本研究ではこのモデルを用い、様々な環境( r, K, e の値の組み合わせで表される)のとき、それぞれ軍拡競
走の行方がどのようになるかを調べた。このとき、被食者と捕食者の両方が軍拡形質を持ったときを「軍拡競走
が起こった状態」と定義した。
解析は数値計算と、ゼロ・アイソクライン解析によって行われた。数値解析では、環境が改善されたときに起こる
共進化の最終結果を調べた。ゼロ・アイソクライン解析では、被食者の防御形質と捕食者の攻撃形質に関する
ゼロ・アイソクラインより、数値計算の結果に見られる共進化の過程・メカニズムを調べた。
結果
・ r と e の値が十分大きければ何らかの形で軍拡競走が起こった。
・ 軍拡競走が起こるときでも、 r と e の値の差が大きい場合には、最終的に被食者が軍拡競走を放棄した
り捕食者が絶滅したりして軍拡競走が終わってしまった。つまり、持続的な軍拡競走が起こるためには被
食者と捕食者の増加率の差が小さいことが必要だということが分かった。
・ 被食者の環境収容力が大きくなると、持続的かつ安定的な軍拡競走が起こりやすくなった。
・ 持続的かつ安定的な軍拡競走が起こっているときはr の増加が被食者の防御の強化につながり、e の増
加が捕食者の攻撃能力の強化につながった。このとき、被食者の環境収容力の大きさは軍拡形質の強さ
には全く影響を与えなかった。
・ 軍拡形質のコストを表す関数(C, D)が軍拡形質の二次関数であらわされる場合( a1 = a 2 = 2.0 )は、二
乗根であらわされる場合(a1 = a 2 = 0.5 )と比べ、持続的かつ安定的な軍拡競走が起きやすくなった。
図:
a 1 = a 2 = 1.0 , K = 600
の場合の軍拡競走
4.0
被食者または捕食者の増殖率が常に
負になる領域
軍拡競走が起こらない領域
一時的な軍拡競走が起こるが、最終的に
被食者が軍拡競走を放棄する領域
e
一時的な軍拡競走が起こるが、最終的に
捕食者が絶滅する領域
持続的かつ周期的な軍拡競走が
起こる領域
持続的かつ安定的な軍拡競走が
起こる領域
0
r
4.0
考察
・ 十分に良い環境(r, e の値が大きい)であれば何らかの形で軍拡競走が起こるが、軍拡競走が持続するため
には被食者と捕食者の増殖率のバランスが必要ということが分かった。つまり、これまでの「カンブリア紀にお
ける軍拡競走の発生は環境の改善が原因だ」と主張する研究には、「被食者と捕食者の増殖率のバラン
ス」という視点が欠けていたことが示された。
・ 持続的かつ安定的な軍拡競走が既に起こっている時は、被食者の増殖率の改善が被食者の防御形質の強
化に、捕食者の増殖率の改善が捕食者の攻撃形質の強化につながることが分かり、「中生代における軍拡競
走の激化は環境の改善が原因だ」とする見方を裏付ける結果になった。
・ コストの関数が二次関数の場合、二乗根の場合よりも持続的な軍拡競走が起こりやすいことが分かった。これ
は、関数が二次関数の場合には強力な軍拡形質のコストがより大きくなるために、捕食者が強くなりすぎて被
食者が軍拡競走を放棄したり、被食者が強くなりすぎて捕食者が絶滅してしまったりしにくいためだと考えられる。
・ 本研究は、環境条件の変動、生息地間の移出入を考えなかったが、これらの要素も軍拡競走の行方に影響
を与えるかもしれない。また、本研究での「1被食者-1捕食者」という仮定をゆるめれば、環境条件が生物の
形質の多様性に与える影響も調べることも可能だと考えられる。
ホスト – パラサイト系モデルの進化及び個体群動態
Evolution and the stability of host-parasite population dynamics
満江 綾子(Ayako Mitsue), 高須 夫悟(Fugo Takasu)
奈良女子大学大学院人間文化研究科情報科学専攻(Nara Women’s University, Japan)
[email protected]
個体群生態学の研究において、ある種が他種の個体群増加率や適応度要素に影響を及ぼす作用を種間相互
作用といい、競争、捕食・寄生、共生関係がある。本研究は、その中の寄生関係に注目する。
従来の研究では、進化の時間スケールは個体群動態の時間スケールよりも大きいことを利用し、進化動態
と個体群動態を分離した議論がなされてきた。しかし、形質の進化というのは突然変異遺伝子による適応
度の個体間の違いから起こるものである。注目する形質の進化が個体の出生・死亡・増加などに関係する場
合、形質の進化が個体群動態に影響を与える可能性も考えられる。
寄生系の古典的ダイナミクスとして知られる Nicholson-Bailey モデルを拡張し、ホストとパラサイトが
それぞれ適応的形質 x,y を持つ状況を考える。先行研究として Doebeli(1997) は探索効率 a が x と y の絶対
値で決まる場合について機会論的なシミュレーションモデルを解析している。本研究では、探索効率 a が
両者の適応的形質の差に依存して決まる場合、即ち a(x, y) の関数を x と y の差の減少関数としてモデルを
構築する。また、進化を有限にするため、それぞれにコストをかける。コストは減少関数であるとする。以
上のことを考慮し、形質 x,y を持つホストとパラサイトの個体密度のダイナミクスは次のような積分差分式
で与えられる。
R
Z
Ht (x)dx
)] exp[− a(x − y)Pt (y)dy]Ht (x)
cH (x) exp[r(1 −
K
Z
cP (y) a(x − y)Ht (x)dx]Pt (y)
Ht+1 (x) =
Pt+1 (y) =
数値解析により、上モデルは進化的分岐を示し、連続的多型であったものが離散的多型に進化する場合が
あることが確認された。(図 1)
Ht(x)
8
Pt(y)
0.75
6
0.5
0.25
0
0
4
2
0
0
Time
2.5
2.5
x
Time
5
5
7.5
10
y
7.5
10
図 1: ホスト (左図) とパラサイト (右図) の密度分布の時間変化.
連続的多型から離散的多型への進化的分岐の過程をより詳しく調べるために、適応的形質の進化動態に
関する理論的枠組みの一つである adaptive dynamics を用いてホストとパラサイトの進化動態について解
析した。
Adaptive dynamics とは、進化的分岐といった多様な進化動態が可能であることを明らかにした従来の
進化的に安定な戦略(ESS)を包括する理論的枠組みとして大いに注目されている。ホストとパラサイト
の既存集団(resident)の適応的形質をそれぞれ rH ,rP とするとし、系が平衡状態に達しているとき、異
なる適応的形質を持つ単型突然変異集団(mutant)が系に侵入する状況を考える。突然変異の集団の適応
的形質をそれぞれ mH ,mP とする。既存集団中への突然変異集団の侵入可能性を視覚的に確認出来る PIP
(Pairwise Invasibility Plots)を描く。灰色の部分が突然変異集団が侵入可能である部分である。(図 2)
mH
mP
5
10
4
8
6
3
4
2
2
1
0
0
0
1
2
3
4
5
rH
0
2
4
6
8
10
rP
図 2: 相手側の形質の進化をある値に固定した場合のホスト (左図) とパラサイト (右図) の PIP.
次は、ホストとパラサイトの適応的形質の進化動態を連結した系の解析を行った。数値計算結果として以
下の図 3 が得られた。
rP
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0.2
0.4
0.6
0.8
1
rH
図 3: ホストとパラサイトの進化動態と解軌道.
これらの結果をもとに、複数パラサイトを含む個体群動態モデルを始め、集団中に出現した突然変異集団
の適応度に注目し、adaptive dynamics の枠組みを用いてホスト–パラサイト系に於ける進化の行方を数理
的に解析することを試みる。
参考文献
Michael Doebeli. (1997) Genetic Variation and the Persistence of Predator-prey Interactions in the
Nicholson-Bailey model. Journal of Theoretical Biology. 188, 109-120.
修士論文
生命分子ネットワークの構造特性を示す
数理モデルに関する研究
竹本 和広
九州工業大学大学院情報工学研究科情報科学専攻生命情報工学分野
【序】生命情報学の発展に伴い,代謝ネットワークや転写制御因子ネットワークに代表さ
れる生命分子ネットワークの構造が明らかにされつつある.近年,これらのネットワーク
の次数(エッジ数)を基準とした巨視的な(統計力学的)観測により,普遍性をもった,
すなわち生物種に依存しない構造特性が見出されている.特に有名な構造特性にがふた
つある.ひとつは次数分布のべき乗則,P (k) ∼ k −γ (2 < γ < 3),として特徴付けられ
るスケールフリー性であり,もうひとつはクラスタスペクトルのべき乗則,C(k) ∼ k −α
(α ≈ 1),として特徴付けられるモジュールの階層性である [1].これらの特性はネット
ワークにおける規則性と捉えることができ,この構造特性に対する発現機構はネットワー
クにの基本的な設計原理に対応すると考えられている [1].この発現機構については成長
するネットワークの数理モデルを通して考えることが有効である.論文 [2] では生命分子
ネットワークに観測される有名な構造特性であるスケールフリー性とモジュールの階層性
を再現するモデルが提案され,これらの構造特性に対する発現機構のひとつの可能性を示
している.さらにこの論文では先にあげた二つの構造特性のほかに,次数相関 k̄nn (k) に
も注目している.次数相関とは次数 k を持つノードに隣接するノードの平均次数である.
平均場近似を用いた解析からこの相関がほぼ無相関であることを導いている.しかしなが
らこの特性は,Newman の Assortative coefficient r を用いた結果から現実のネットワー
クが示す特性とは異なることが示唆される [3].これは次数相関の相関係数であり,モデ
ルが示す無相関の次数相関では r = 0 となる.一方,現実の生命分子ネットワークが示す
係数は負となり r < 0,モデルとは一致しないことが分かる.この結果はモデルに考慮さ
れていない機構の存在を意味する.本研究では数理モデルを通してこの機構を理解するこ
とが目的である.そのために次のことを考えた.以下に I,II と続く.
【I】この Newman による係数 r を用いた構造特性の議論はその傾向のみを提示するに留
まっており,具体的な関数形までは議論していない.生命分子ネットワークの構造特性を
より詳細に理解する上でも,数理モデルを考える上でも,この関数形を捉えることは重
要であり,そのためには実際に生命分子ネットワークの次数相関を観測する必要がある.
そのために各研究機関から学術研究に対して利用可能なネットワークをダウンロードし,
それらの次数相関を調査した.用いたデータセットは,43 生物種の代謝ネットワーク,大
腸菌と酵母の転写制御因子ネットワーク,そして 2 種類の酵母のタンパク質ネットワーク
である.その結果,ここで調査された全ての生命分子ネットワークの次数相関は次数の
大きいところでべき乗則に従うことが見出された;k̄nn (k) ∝ k −ν .またこの指数 ν はネッ
トワークによって異なり,およそ 0.5 < ν < 1 であることを見出した.また,代謝ネット
ワークにおいて,この指数 ν は生物種に依存しないことを見出した.
【II】次に,この次数相関のべき乗則の発現機構について成長ネットワークのモデル [2]
を基に考えた.このモデルにおいてネットワークの成長を支配する優先接続機構 Πi は次
P
数 ki のみで構成されている;Πi = ki / j kj .次数相関の均一性はこの機構によって生じ
るため,Πi を改良することを考えた.ここで,ネットワークに所属するノードはそれぞ
れ適応度 fi をもち,新しい相互作用(エッジ)を獲得するたびに,その適応度が変化す
ることを考えた.
最終的にノードの適応度 fi を考慮した優先
15
0
0
P
接続機構を Π∗i = (ki + fi )/ j (kj + fj ) と表
10
10
15
現した.ここで提案したモデル [4] のネット
5
5
5
0
0
ワークは次の手順を踏んで生成される.i) 0
ノード a 個で構成されるモジュール(完全
(A)
(B)
(C)
グラフ)を用意する.ii) 既存ノードから優
先接続 Π∗i を用いて,ノードを m 個選択す 図 1: モデルネットワークの形成機構 [4](a = 3, m = 1
る[図 1 (A) を参照].iii) 選択されたノー で ξ = 5 の場合).白いノードは既存ノード,黒いノー
∗
ドの適応度を fi ← fi + ξ に従って更新す ドは確率 Πi で選択されたノード,灰色のノードは新
規ノードを示す.ノードの傍にある数字はそのノード
る[図 1 (B) を参照].iv) 新規モジュール の特性 fi を意味する.
を追加し,選択されたノードと融合させる.
この新規ノードの適応度はゼロとする[図 1 (C) を参照].v) ii)–iv) を繰り返してネッ
トワークを成長させる.平均場近似を用いた数理解析と計算機シミュレーションの結果
から,このモデルの次数相関は β によって振る舞いが変化することを見出した.ここで
β = [m(a − 1 + ξ)]/[a(a − 1) + mξ] である.0 < β ≤ 0.5 において次数相関は無相関となり,
β > 0.5 でモジュールにおける融合ノード数の割合 ρ (= m/a) が大きいとき (ρ > 0.5),
つまり ρ と ξ が大きいときに次数相関がべき乗則に従うことを見出した;k̄nn (k) ∝ k −ν .
このとき,パラメータによって 0 < ν < 1 の範囲をとるが分かった.また,次数分布はべ
き乗則に従い P (k) ∝ k −γ ,その指数は γ = (β + 1)/β となった.クラスタスペクトルは
べき乗則に従い C(k) ∝ k −α ,その指数は α ≈ 1 と見出した.
【まとめ】本研究は次のことを行った.Newman の議論 [3] を推し進め,生命分子ネット
ワークに観測される構造特性として次数相関のべき乗を見出した.更に,この発現機構を
考えるため,適応度を考慮した優先接続機構 Π∗i を考慮したモデル [4] を提案した.この
モデルネットワークは数相関のべき乗則を再現した.従って,この構造特性の発現には次
のような機構が重要であると分かった.i) ネットワークに所属するノードは適応度を持
つ.ii) ノードが新しく相互作用(エッジ)を獲得する傾向(確率)は,そのノードがもつ
相互作用の数(次数)と適応度に比例する.iii) 新しい相互作用が形成される場合はノー
ドの適応度が変化する.加えてこの Π∗i の導入はよく知られた構造特性であるスケールフ
リー性とモジュールの階層性も再現することも確認した.また,次数相関のべき乗則が発
現する条件において次数分布とクラスタスペクトルはそれぞれ P (k) ∼ k −γ (2 < γ < 3)
で C(k) ∝ k −1 を満たす.これは現実の生命分子ネットワークで観測される構造特性と一
致する.ここで得られた結果は生命分子ネットワークの基本的な設計原理の理解に役立つ
と考えられる.
【参考】
[1] A.-L. Barabási and Z.N. Oltvai, Nat. Rev. Genet. 5, 101 (2004).
[2] K. Takemoto and C. Oosawa, Phys. Rev. E 72, 046116 (2005).
[3] M.E.J. Newman, Phys. Rev. Lett. 89, 208701 (2002).
[4] K. Takemoto and C. Oosawa, submitted.
【修士論文】
不確実な情報の適応的利用として見る動物行動の進化の理論的研究
九州大学大学院理学府生物科学専攻 上原隆司
[1] 配偶者選択に見られる真似の進化
グッピーのメスはオスの体色や模様に対して選好性を示すが、自分の好みに合わな
いオスを他のメスが選んだことを観察した時に、好みに反して他のメスの選んだオス
を真似して選ぶという行動が見られる。なぜ真似をするのかを考えるために次のよう
なモデルを立てた。
メスは2匹のオスの見かけから子の生存率などに影響するオスの質を推定する。し
かし推定には確率的な誤りが含まれる。一方、他のメスの選択を観察することによっ
て、そのメスにとってどちらのオスの質が高く見積もられたか、という情報を得る。
メスはこの情報を用いてオスの質の推定値を修正し、より質の期待値の高いオスを選
択する。
メスごとに推定能力に差があり、メス同士では互いの推定能力が分かるとすると、
次のような場合に真似をした方が有利になる(1)自分自身にオスを見る目がない(2)
観察したメスが充分に信頼できる(3)2匹の雄の推定値にあまり差を感じられない。
この結果は若いメスほど真似をしやすく、歳とったメスほど真似されやすく、またオ
ス同士をまったく似ていないものにした時には真似が観察されなかったという過去の
実験の結果によく合っている。さらに3匹以上のメスがいる場合にオスを選択する順
番が真似にどう影響するかを調べた。その場合には、より後に選択を行ったメスを真
似するべきだという Last Choice Precedence の原理が成り立つ。このような選択の順番
の真似への影響を調べた実験はまだされておらず、野外で実際にグッピーがそのよう
な行動をとっているかどうかは今後の報告を待ちたい。
Uehara, T., H. Yokomizo, and Y. Iwasa. 2005. Mate-Choice Copying as Bayesian Decision
Making. The American Naturalist 165: 403-410.
[2] 闘争におけるディスプレイ時間の進化
資源を争う動物の2個体が出会った時には、大抵の場合はすぐに相手に襲いかかる
のではなく、うなったり毛を逆立てたりといった誇示行動がまず行われる。このよう
な誇示行動は個体の闘争能力を相手に知らせる効果があると考えられている。だが誇
示行動にはエネルギーや時間のコスト、捕食のリスクがつきまとう。ここではコスト
が伴う誇示行動を続けることによって互いの相対的な強さを徐々に知る事ができると
考えた時に、どれだけの間、誇示行動を続けるべきかという問題を考える。
ディスプレイの長さを個体の戦略として、プレイヤーは戦略に従ってディスプレイ
を続けた後に攻撃するか退却するか選択するというゲームを考える。互いの優劣は決
まっており、ディスプレイを続けることで対戦者同士の相対的な優劣が次第にはっき
りしてくると仮定する。つまりディスプレイを長く続けるほど、強い方の個体が逃げ
てしまったり、弱い方の個体が攻撃したりということが起こりにくくなる。
このようなゲームを解析した結果、進化的に安定なディスプレイ時間の分布を求め
ることができ、さらにその進化的に安定な状態においてどのような時に全てのプレイ
ヤーが 0 ではないディスプレイ時間を取るのかという条件も導かれる。その結果から
は、争われる資源と負けた時に負う傷の重さの和、すなわち一回の対戦の重要さと、
闘争能力の推定手段としてのディスプレイのコストベネフィット(ディスプレイを通
して得られる情報の正確さに対するディスプレイのコスト)がディスプレイ時間の進
化に重要な意味を持つ事が示唆される。
図、 パラメータの値を変えた時の平均ディスプレ
イ時間の変化。 α が大きいほど、ディスプレイによ
って互いの優劣が早く分かる。赤い点は V=100, C=1,
青い点は V=30, C=30, 緑の点は V=1, C=100 としたと
きの平均ディスプレイ時間。V は争われる資源の価
値、C は負けた時に負うコストの大きさを表す。単
位時間あたりのディスプレイのコストは一定にして
いる。資源 V に対してコスト C が大きい時には、α
が中間の値を取る時にディスプレイ時間は長くなる。
博士論文
Mathematical Analysis of Sessile Metapopulation Dynamics with
Space-Limited Recruitment
(個体補充に空間的制限を有する固着性メタ個体群動態の数理解析)
東京大学大学院数理科学研究科
神岡 勝見
本論文は固着性無脊椎動物の個体群動態を表わした数理モデルの解析の報告で
ある。
考察の対象となるのは、海と陸の間の潮の干満がある場所(潮間帯)に生息し
ているフジツボのような固着性無脊椎動物である。これらの生物は、岩場などの
生息地に固着して生活する成体と海中(プール)を浮遊する幼生の二つの成長段
階をもつ。幼生は、成体が固着していない生息地に近づいたときに定着して成体
となる。生息地に多数固着している成体の集まりがひとつの個体群を形成してい
る。成熟した成体から放出された幼生が他の生息地へ漂っていって定着すること
で、潮間帯内の多数の生息地の個体群は結ばれている。潮間帯の全生息地の個体
群と幼生の個体群を合わせて、ひとつのメタ個体群が形成されている。
Roughgarden-Iwasa-Baxter は、ひとつの生息地の成体の個体群動態を表わした
数理モデルを提案している [1]。常に生息地の周りには一定の数の幼生が漂ってい
て、空き面積に比例して定着すると仮定した年齢構造入りのモデルである。その
後、Roughgarden-Iwasa は、環境の異なる複数の生息地から成る潮間帯で生活す
るメタ個体群の動態を表わすために、幼生の個体群動態を考慮した一種メタ個体
群モデルを提案し、定常解の存在とその局所安定性などを調べている [2]。更に、
Iwasa-Roughgarden は、メタ個体群の種間競争を調べるために一種メタ個体群モ
デルを多種メタ個体群モデルに拡張し、侵入可能条件や共存定常解が存在するた
めの必要条件などを考察している [3]。
ひとつの生息地の個体群モデルの数学的な研究は幾つか報告されているが、年
齢構造入り一種メタ個体群モデルの厳密な解析や多種メタ個体群モデルの共存定
常解が存在するための十分条件、定常解の大域安定性などは研究されていない。
本論文の第1章では生物的背景、モデル方程式とその解析の歴史的経緯をまと
め、第2章から第4章でこれらの未解決問題を考察する。研究の見通しをよくす
るために、各モデルに対して(基本)再生産数を定義する。少なくとも一種が存
在しない非自明定常状態の潮間帯に侵入した幼生が生涯に再生産する期待幼生数
が再生産数であり、完全に生物が居ない潮間帯で幼生が生涯に再生産する期待幼
生数が基本再生産数である。
第2章では、Iwasa-Roughgarden の多種メタ個体群モデルを用いて共存定常解
の存在について考察する。再生産数が1よりも大きいならば定常状態に侵入可能
で、1よりも小さいならば侵入不可能であり、基本再生産数が1よりも大きいな
らば自明定常状態に侵入可能で、1よりも小さいならば侵入不可能である。そし
て、基本再生産数とすべての再生産数が1よりも大きいならば、全種の共存定常
1
解が存在する。また、あらゆる生息地の組み合わせに対する基本再生産数がすべ
て1以下ならば、自明定常解だけが存在し、それは大域的に漸近安定である。
第3章では、第2章に引き続いて多種メタ個体群モデルを用いて、パーシステ
ンスとパーマネンスを考察する。パーシステンスは少なくとも一種が生存、パー
マネンスは全ての種が生存し続けるという現象に対応している。各種に対する基
本再生産数が全て1よりも大きいならば、多種メタ個体群モデルはパーシステン
トであり、一種メタ個体群モデルはパーマネントである。特に、一種一生息地メ
タ個体群モデルの自明定常解は、基本再生産数が1以下ならば大域的に漸近安定
であり、基本再生産数が1より大きいならば非自明定常解は大域的に漸近安定で
ある。どの生息地の成体も幼生を一個体以上放出するという仮定の下で、基本再
生産数が1よりも大きいならば一種メタ個体群モデルの非自明定常解は一意的に
存在する。特に、ある領域内のすべての解はその非自明定常解に漸近する。同様
の仮定の下、基本再生産数が1よりも大きいならば一種二生息地メタ個体群モデ
ルの非自明定常解は大域的に漸近安定であり、各種の基本再生産数とすべての再
生産数が1よりも大きいならば、二種二生息地メタ個体群モデルはパーマネント
である。
第4章では、Roughgarden-Iwasa が提案した年齢構造入り一種メタ個体群モデ
ルに占領面積(密度)に依存した成体死亡率を付加した拡張モデルを提案する。拡
張したモデル方程式は L1 の枠組みでコーシー問題として定式化され、非稠密領域
で定義された作用素の摂動理論から、初期値問題の時間発展解の一意存在が示さ
れる。自明定常解は、基本再生産数が1以下のならば大域的に漸近安定であり、基
本再生産数が1よりも大きいならば不安定である。基本再生産数が1より大きい
ならば非自明定常解は一意的に存在する。基本再生産数が1よりも少しだけ大き
いときに非自明定常解が局所漸近安定になることが証明される。
参考文献
[1] J. Roughgarden, Y. Iwasa, C. Baxter, Demographic theory for an open marine
population with space-limited recruitment, Ecology 66 (1985) 54-67.
[2] J. Roughgarden, Y. Iwasa, Dynamics of a metapopulation with space-limited
subpopulations, Theor. Popu. Bio. 29 (1986) 235-261.
[3] Y. Iwasa, J. Roughgarden, Interspecific competition among metapopulations
with space-limited subpopulations, Theor. Popu. Bio. 30 (1986) 194-214.
2
博士論文
Mathematical Analysis of Sessile Metapopulation Dynamics with
Space-Limited Recruitment
(個体補充に空間的制限を有する固着性メタ個体群動態の数理解析)
東京大学大学院数理科学研究科
神岡 勝見
本論文は固着性無脊椎動物の個体群動態を表わした数理モデルの解析の報告で
ある。
考察の対象となるのは、海と陸の間の潮の干満がある場所(潮間帯)に生息し
ているフジツボのような固着性無脊椎動物である。これらの生物は、岩場などの
生息地に固着して生活する成体と海中(プール)を浮遊する幼生の二つの成長段
階をもつ。幼生は、成体が固着していない生息地に近づいたときに定着して成体
となる。生息地に多数固着している成体の集まりがひとつの個体群を形成してい
る。成熟した成体から放出された幼生が他の生息地へ漂っていって定着すること
で、潮間帯内の多数の生息地の個体群は結ばれている。潮間帯の全生息地の個体
群と幼生の個体群を合わせて、ひとつのメタ個体群が形成されている。
Roughgarden-Iwasa-Baxter は、ひとつの生息地の成体の個体群動態を表わした
数理モデルを提案している [1]。常に生息地の周りには一定の数の幼生が漂ってい
て、空き面積に比例して定着すると仮定した年齢構造入りのモデルである。その
後、Roughgarden-Iwasa は、環境の異なる複数の生息地から成る潮間帯で生活す
るメタ個体群の動態を表わすために、幼生の個体群動態を考慮した一種メタ個体
群モデルを提案し、定常解の存在とその局所安定性などを調べている [2]。更に、
Iwasa-Roughgarden は、メタ個体群の種間競争を調べるために一種メタ個体群モ
デルを多種メタ個体群モデルに拡張し、侵入可能条件や共存定常解が存在するた
めの必要条件などを考察している [3]。
ひとつの生息地の個体群モデルの数学的な研究は幾つか報告されているが、年
齢構造入り一種メタ個体群モデルの厳密な解析や多種メタ個体群モデルの共存定
常解が存在するための十分条件、定常解の大域安定性などは研究されていない。
本論文の第1章では生物的背景、モデル方程式とその解析の歴史的経緯をまと
め、第2章から第4章でこれらの未解決問題を考察する。研究の見通しをよくす
るために、各モデルに対して(基本)再生産数を定義する。少なくとも一種が存
在しない非自明定常状態の潮間帯に侵入した幼生が生涯に再生産する期待幼生数
が再生産数であり、完全に生物が居ない潮間帯で幼生が生涯に再生産する期待幼
生数が基本再生産数である。
第2章では、Iwasa-Roughgarden の多種メタ個体群モデルを用いて共存定常解
の存在について考察する。再生産数が1よりも大きいならば定常状態に侵入可能
で、1よりも小さいならば侵入不可能であり、基本再生産数が1よりも大きいな
らば自明定常状態に侵入可能で、1よりも小さいならば侵入不可能である。そし
て、基本再生産数とすべての再生産数が1よりも大きいならば、全種の共存定常
1
解が存在する。また、あらゆる生息地の組み合わせに対する基本再生産数がすべ
て1以下ならば、自明定常解だけが存在し、それは大域的に漸近安定である。
第3章では、第2章に引き続いて多種メタ個体群モデルを用いて、パーシステ
ンスとパーマネンスを考察する。パーシステンスは少なくとも一種が生存、パー
マネンスは全ての種が生存し続けるという現象に対応している。各種に対する基
本再生産数が全て1よりも大きいならば、多種メタ個体群モデルはパーシステン
トであり、一種メタ個体群モデルはパーマネントである。特に、一種一生息地メ
タ個体群モデルの自明定常解は、基本再生産数が1以下ならば大域的に漸近安定
であり、基本再生産数が1より大きいならば非自明定常解は大域的に漸近安定で
ある。どの生息地の成体も幼生を一個体以上放出するという仮定の下で、基本再
生産数が1よりも大きいならば一種メタ個体群モデルの非自明定常解は一意的に
存在する。特に、ある領域内のすべての解はその非自明定常解に漸近する。同様
の仮定の下、基本再生産数が1よりも大きいならば一種二生息地メタ個体群モデ
ルの非自明定常解は大域的に漸近安定であり、各種の基本再生産数とすべての再
生産数が1よりも大きいならば、二種二生息地メタ個体群モデルはパーマネント
である。
第4章では、Roughgarden-Iwasa が提案した年齢構造入り一種メタ個体群モデ
ルに占領面積(密度)に依存した成体死亡率を付加した拡張モデルを提案する。拡
張したモデル方程式は L1 の枠組みでコーシー問題として定式化され、非稠密領域
で定義された作用素の摂動理論から、初期値問題の時間発展解の一意存在が示さ
れる。自明定常解は、基本再生産数が1以下のならば大域的に漸近安定であり、基
本再生産数が1よりも大きいならば不安定である。基本再生産数が1より大きい
ならば非自明定常解は一意的に存在する。基本再生産数が1よりも少しだけ大き
いときに非自明定常解が局所漸近安定になることが証明される。
参考文献
[1] J. Roughgarden, Y. Iwasa, C. Baxter, Demographic theory for an open marine
population with space-limited recruitment, Ecology 66 (1985) 54-67.
[2] J. Roughgarden, Y. Iwasa, Dynamics of a metapopulation with space-limited
subpopulations, Theor. Popu. Bio. 29 (1986) 235-261.
[3] Y. Iwasa, J. Roughgarden, Interspecific competition among metapopulations
with space-limited subpopulations, Theor. Popu. Bio. 30 (1986) 194-214.
2
フェロモン・コミュニケーションによる相互作用に関する構成的研究
中道 義之
名古屋大学大学院人間情報学研究科
[email protected]
1 序論
群知能とは単純な知能しかもたない個体(例えば昆虫や魚
など)が、集団となることで、創発してくる知能、及びそれ
を対象とする研究分野のことである。代表的な例としては、
蟻や蜂などの社会性昆虫をあげることができる。蟻や蜂は、
個々は単純な振舞しか見せないが、集団となることで高度な
ニケーションの進化モデルの構築・計算機実験から、コミュ
ニケーションの進化的獲得の可能性、フェロモン・コミュニ
ケーションの進化ダイナミクス、エージェント間の相互作用
について議論した [3]。
2 Ant Colony Optimization における多様性調節
の効果
問題を解いている。これは創発現象の典型的な例の 1 つと
Ant Colony Optimization(ACO)はフェロモン・コミュ
いうことができる。蟻においては、女王蟻や働き蟻がそれぞ
ニケーションの基本的な概念を応用した、メタヒューリス
れの役割を分担し、局所的・分散的な情報に基づいて相互作
ティック(組み合わせ最適化問題の解法)の一種であり、良
用し、自分のなすべきことを自律的に決定しているのにも関
い解と同様の構造を持つ解を集中的に探索するという「集中
わらず、群全体としてはあたかも最適な行動がわかっている
化」の考え方に基づいて設計されている。一方、「多様化」
かのように振る舞う。その行動調整のメカニズムは、コロ
による新しい解の探索も必要である。この集中化と多様化の
ニーを維持するためのさまざまな仕事に対する単純な労働
両者をどのようにバランスさせるかは探索の改善のために
力分担のみならず、外敵の侵入や巣の崩落といった突発的な
きわめて重要である。巡回セールスマン問題の解法として従
環境変化に対しても速やかに対処している。このメカニズム
来提案されてきた ACO の多くはフェロモンの多様性を調節
の解明・応用のために、様々な観点から研究がなされてきて
する手法であったのに対し、本研究ではランダム選択という
いる。蟻の群知能の創発現象において、中心的な役割を果た
巡回路の多様性を調節することができる手法を検討した。集
しているのがフェロモン・コミュニケーションである。蟻は
中化の強い ACO である ASrank にランダム選択を適用した
フェロモンと呼ばれる揮発性の化学物質を体内で生成し、採
結果、多様性を調節することによって、良い解を安定して生
餌行動の際に自分の通った道筋に分泌する。また他の蟻が分
成することが可能であることを示した。特にランダム選択率
泌したフェロモンがあればその道筋を辿る。つまり蟻は場を
がある一定範囲の場合、最適解からの誤差を導入前の 10∼
介した非同期型のコミュニケーションを実現している。これ
20% 程度にし、従来手法に比べて極め性能の良いアルゴリ
がフェロモン・コミュニケーションとよばれる現象である。
ズムであることを示した(図 1)。この性能向上は、巡回路
蟻はフェロモンを辿るだけだが、全体としては巣と餌の間に
の多様化によって調節された多様性が、巡回路長の評価に応
フェロモントレイル(フェロモンの道筋)を形成し、効率よ
じてフェロモンの多様性への影響が自動的に制限されるとい
く採餌活動を行う。さらに、複数の経路があるときに短い方
うフェロモン・コミュニケーションに特有の多様性調節メカ
の経路を選択することが知られている。
ニズムが適切に働いた結果であることを明らかにした。さら
本研究では、このような蟻のフェロモン・コミュニケー
に、ACO におけるヒューリスティック値に関して、最適解
ションを、重要な創発現象の 1 つであると考え、この現象の
が既知である問題の情報を用いた設定手法を提案し、有効性
理解と応用に関して知見を得ることを目的として、2 つの側
を評価した。
面から検討を行った。1) フェロモン・コミュニケーション
の工学的応用である Ant Colony Optimization において、2
つの手法(多様化を促進する手法であるランダム選択と最
3 フェロモン・コミュニケーションの起源に関
する進化シミ ュレーション
適解の統計的情報に基づいたヒューリスティック値の設定
フェロモン・コミュニケーションが、どのようにして生み
手法)を提案し、その効果を多様性調節の観点から議論し
出され進化してきたかという基本的な疑問は、生物学に留ま
た [1, 2]。2) 蟻の採餌行動を対象としたフェロモン・コミュ
らない学際的なテーマであり、複雑系科学に関わるものであ
445
ASrank + Random Selection
ASelite
ASrank
Optimal
food resource
Length
440
ant agent
435
430
425
nest
0
0.02
0.04
0.06
Random selection ratio
0.08
0.1
pheromone
図1
TSPLIB の 51 都市問題(eil51.tsp)に対し
て、最終的に得られた巡回路長(10 試行の平均)。
多様性が適切に調節された場合(ここでは、ランダ
ム選択率が 0.03∼0.05 の場合)では、最適解からの
図2
誤差が 1% 以内の巡回路を安定して生成している。
り、環境中には餌、アント(エージェント)、巣、
モデルの模式図。モデルはグリッド環境であ
フェロモンが存在する。アントの目的はより多くの
餌を巣に運ぶことである。アントはニューラルネッ
る。また工学的応用においても、マルチエージェントシステ
トワークで構成されており、その重みと閾値が遺伝
的アルゴリズムによって進化させられる。
ムや群ロボットシステムといった、あらかじめコミュニケー
ションを設計することが困難なシステムにおいても、より適
切なコミュニケーションを行わせる可能性が期待できる。本
に関する多様性と B) フェロモンの分泌に関する多様性の 2
研究では、フェロモン・コミュニケーションの創発・進化に
つの多様性が存在する。探索のような問題においてはエー
関する知見を得ることを目的として、蟻の採餌行動を模した
ジェントの分布に多様性が必要となる。ACO においては、
マルチエージェント環境(図 2)を構築し、フェロモン・コ
A) の多様性を増加させることは、フェロモンの多様性への
ミュニケーションの進化シミュレーションを実行するという
影響が自動的に制限されることによって適応的となりうる。
構成的なアプローチを試みた。計算機実験の結果、最も適応
フェロモン・コミュニケーションの進化モデルにおいては、
的となったアント(エージェント)は,巣と餌の配置と対応
A) と B) をそれぞれを多様化するというメカニズムに加え、
して分布する 1 種類のフェロモンを使うもので,人手によっ
フェロモンに複数の意味をもたせて冗長化することが適応的
て設計されたアントの 2 倍以上の餌を取得する可能性があ
となりうる。これらは、場に記録されることによる集中化へ
ることが示された。つまり、創発的なフェロモン・コミュニ
の偏りという、場を介した非同期型コミュニケーションに生
ケーションは適応的になりうるがフェロモンの種類を増加さ
じがちなデメリットを解消する巧妙なメカニズムであると考
せればさせるほどフェロモン・コミュニケーションは適応的
えられる。本研究の発展として、マルチエージェントシステ
になるとは限らない。また、創発したフェロモン・コミュニ
ムや群ロボットシステムへの適用といった工学的応用が考え
ケーションは人間が設計したものよりも優れたものになりう
られる。
るといえる。人手による設計があまりうまくいかないのは、
コミュニケーションというものを記号的に捉えがちになって
発表論文
しまうため、そのような定義に忠実な行動をさせると、フェ
[1] 中道義之, 有田隆也:ACO におけるランダム選択に基
ロモン分布の複雑な動的パターン対してロバストでない行
づく多様性調節の効果, 情報処理学会論文誌, Vol. 43,
動を生み出すからである。進化によって得られたアントは、
No. 9, pp. 2939–2946 (2002).
フェロモンの意味を冗長化することによって、フェロモンの
[2] Nakamichi, Y. and Arita, T.: Diversity Control in
分布の偏りやアントの集団行動の偏りが妨げられ効率良く採
Ant Colony Optimization, Artificial Life and Robotics,
餌行動を行うことが可能となったことを明らかにした。
Vol. 7, No. 4, pp. 198–204 (2004).
4 結論
フェロモンによるコミュニケーションを仮定したエージェ
ント集団においては、A) フェロモンの検知に基づいた行動
[3] 中道義之, 有田隆也:フェロモン・コミュニケーションの
起源に関する進化シミュレーション, 情報処理学会論文
誌:数理モデル化と応用(TOM14) (印刷中).
(博士論文)
Spatio-temporal pattern formation in reaction-diffusion systems
coupled with convection and geometrical effect
京都大学大学院理学研究科
北畑 裕之
生命現象を物理的に考えるとき、非平衡開放系であるとみなす必要がある。その中でも
特に反応拡散系は非平衡開放系における時空間パターンを自発的に生成するということで、
理論的、実験的に広く研究されてきた。反応拡散系の枠組みでは、系の局所平衡を仮定し
(つまり、ある位置における温度、濃度、圧力などの物理量が定義できると仮定する)、系
の時間発展を局所的な変化と隣接部との拡散的な相互作用の和であるとする。反応拡散系
において、進行波によるターゲットパターン、スパイラルパターン、あるいは、静止パタ
ーンである Turing パターンなどさまざまな時空間自己組織化が起こりうることが理論的に
議論され、また、Belousov-Zhabotinsky (BZ)反応などのモデル実験系を用いても再現されて
いる。実際、生物の世界においても熱帯魚の体表模様、貝殻の模様、植生の分布などさま
ざまなところに反応拡散系としての特徴が見られることが報告されている。
反応拡散系は、場自体は動かないということを仮定している。しかしながら実際の系に
おいては、場自体が動く場合が多い。たとえば、細胞内での反応は細胞質流動の影響を受
けているし、一般的な化学反応においても攪拌により溶液そのものに流れがある。そこで、
場自体の流れと反応拡散系における時空間パターンが結合するような系に関して実験モデ
ル系を構築し、その特徴を探ることを本博士論文の一つの柱とする。
また、一般的に反応拡散系の研究において境界の効果について十分考慮されているもの
は少ない。むしろ時空間パターン形成を議論する際には境界の影響をできるだけ減らそう
とする研究が主流であった。しかしながら、細胞などシステムのサイズがより小さくなる
と、境界の影響が重要となることが予想される。そこで、反応拡散系における境界の影響
について実験的、理論的に探ることを本論文のもう一つの柱とする。
このように本博士論文においては、反応拡散系と流体の効果ならびに境界条件の影響に
関して実験、理論の両面から迫ることを目標とする。
反応拡散系と流体の結合に関しては、反応拡散移流方程式を考える。この方程式のみで
は流れが時空間パターンにどのように影響を及ぼすかしか議論できない。そして、流れの
スケールが時空間パターンのスケールと大きく異なるとき、現れる現象はスケールを分離
して考えると静止した場で考えるのと同じになるはずである。そこで、時空間パターンが
表面張力を介して流れを生成し、その流れが時空間パターンに影響を与えるような系につ
いて考察する。具体的には、BZ 反応において化学進行波により励起されるバルク中での対
流現象[1,2]、BZ 反応の微小液滴がその内部に生じる対流の影響で自発的に運動する系[1,3]、
水-樟脳系において水面に展開した樟脳膜による界面張力勾配が誘起する対流現象[4]、なら
びにその対流が樟脳粒の水面上での自発的運動に与える影響[4,5]について実験ならびにそ
の理論的背景を議論する。これらの系においては、濃度勾配が自発的に発生し、そのため
に界面で界面張力勾配が誘起され Marangoni 効果によって対流が発生すると考えられる。ま
た、上に挙げた系以外に界面張力勾配により自発的運動が生成する系[6,7]として、水-アル
コール系[7]、界面活性剤水溶液環境下ガラス板上の油滴の自発的運動[9]、硫酸鉄水溶液界
面上でのフェナントロリン粒の自発的運動[10]などを取り上げる。
次に反応拡散系における境界の効果についていくつかの例をあげ、概説する。まず、内
径がだんだんと細くなっていくガラスキャピラリ中で BZ 反応の化学波がだんだんと伝播
速度が遅くなり、最終的には消滅する現象について実験結果の紹介ならびに、簡単な 1 次
元モデルによる解析結果を示す[11]。次に、光感受性 BZ 反応を用いて同様に反応場の幅が
徐々に狭くなっていく系を構築すると、化学波の消滅位置が 1 つおきに異なる現象につい
て紹介する。この現象に関しても光の影響を単純に考慮したモデルを用いた考察を行う。
最後に、同じく光感受性 BZ 反応を用いて、反応場の形状をリング状にし、そこに伝播する
化学波の相互作用について議論する。
このように、本博士論文では、非平衡開放系におけるパターン形成のモデルとして広く
用いられている反応拡散系における流れの影響、および境界条件の影響に関して議論を行
った。このような影響は実際の現象に広く現れるものであり、特に生物細胞などスケール
の小さなシステムの特性を議論する際に重要になってくると思われる。
References
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࡞ࡗ࡝࠿ࡾ࡛᭿ᙽ࡚ࡀࡾࠊ
◂✪㸦㸯Miki T. & Yamamura N. (2005) Theoretical model for interactions between particle-associated and free-living bacteria to predict
functional composition and succession in the bacterial communities. Aquatic Microbial Ecology 39: 35-46
◂✪㸧㸯Miki T., Ueki M., Kawabata Z., & Yamamura N. Horizontal transfer of introduced mobile genetic elements in a microbial
community: a mathematical model (ᢖ✇୯)
◂✪㸨㸯Miki T. & Yamamura N. (2005) Intraguild predation reduces bacterial richness and loosens the viral loop in aquatic systems: ‘kill
the killer of the winner’ hypothesis. Aquatic Microbial Ecology 40:1-12
博士論文
A theoretical study of the evolution of cooperation in
social relationships
(社会内における協力の進化の理論的研究)
大槻 久
[email protected]
九州大学大学院理学府生物科学専攻
1
はじめに
AllC
利他行動の進化的起源を巡っては様々な説が提唱さ
れてきた。本研究では非血縁個体からなる社会集団に
1
Z
おける協力行動に着目し、その進化的起源を数理モデ
ルを用いて明らかにする。社会内での協力を説明する
有力な説として間接互恵性 (indirect reciprocity) が
1
挙げられる。これは評判という社会情報を通して互
0
恵的な協力行動が達成されるというものである。具
AllD
体的に言うと、個体 A が個体 B に協力した際、提供
者 A が良い評判を得、その結果 A が第三者 C から
0
0
1
the edge of discriminators
協力の返礼を受けるという仕組みである。本研究で
は間接互恵性の進化条件、および評判形成のメカニ
図 1: 戦略空間で discriminator を表す辺からスター
ズムの解明を試みた。
トした場合、軌道は平衡点 Z に収束する。すなわち
discriminator 戦略は ESS でない。
2
discriminator 戦略は進化でき
ない
は進化し得ない戦略であることを示した [2](図1)。
この原因は discriminator 戦略が懲罰を理解できない
discriminator 戦略 [1] とは、「前回の対戦で他者
点にある。例えば個体 A が、bad な評判を持つ個体
に協力した者を good、非協力だった者を bad とみ
B に対し罰として非協力で応じたとしよう。これを
なし」、「good な個体には協力で、bad な個体には
観察していた dicsriminator C は個体 A に bad の評
非協力で応じる」戦略である。論文では適応力学系
判を与えてしまう。つまり懲罰者に更なる罰を与え
(adaptive dynamics) を用いて、discriminator 戦略
てしまうという致命的欠陥が存在するのである。
表 1: Leading eight (中二段)reputation dynamics。
good とみなされ、good な者への非協力は bad とみな
される点である。もう一つは規則 GBD → G、すな
*は G でも B でもよい。このワイルドカードが三ヶ所
にあるため 23 = 8 個の reputation dynamics、つまり わち good な者が bad な者に対して行った defection
leading eight が得られる。
(最下段)その reputation は good として正当化される点である。後者は懲罰行
dynamics の下での ESS
為の社会的正当化 (justified defection) を意味し、間
action \ self-opponent
GG
GB
BG
BB
C
G
*
G
*
D
B
G
B
*
ESS strategy
C
D
C
C/D
3
誰が good で誰が bad か?
discriminator 戦略の欠陥を教訓にすると、我々は
次の疑問に突き当たる。つまり誰のどの行為を社会
的に good とみなし、何を bad とみなせば協力は維
接互恵性による協力の維持にはこの性質が不可欠で
あることが示された。
4
Leading eight の普遍性
論文第三章では公理的方法を用いて、leading eight
のみが次の二性質 i) パラメータに対する最高の安定
性、ii)ESS における最高レベルの協力の実現、を持
つことを証明した [4]。
持されるのであろうか?本論文第二章ではこの疑問
に明解な解答を与えた。
誰を good、誰を bad とみなすかのルールを rep-
utation dynamics と呼ぶ。すなわち reputation dynamics は i) 行為者の評判 (Good or Bad)、ii) 行
為の受け手の評判 (Good or Bad)、iii) 行為の内容
(Cooperation or Defection) の三情報から、行為者
に新たな評判 (Good or Bad) を割り当てる写像であ
る。例えば GBD → G ならば「Good な人が Bad
な人に Defection するのは Good」という判断を表
す、という具合である。
可能な全 256 通りの reputation dynamics と評判
情報に基づく可能な全 16 通りの behavioral strategy
の組、全 4096 組の中から、協力の安定的な維持を可
能にする ESS を網羅的に探した。その結果、その中
の8組が最も高いレベルの協力を安定的に実現でき
ることが分かった [3]。これを leading eight と名付け
た(表1)。
Leading eight 内の reputation dynamics は大きく
分けて二つの共通点を持つ。一つは規則*GC → G
および*GD → B、すなわち good な者への協力は
参考文献
[1] Nowak, M. & Sigmund, K. (1998) The dynamics of indirect reciprocity. Journal of Theoretical
Biology, 194, 561-574.
[2] Ohtsuki, H. (2004) Reactive strategies in indirect reciprocity. Journal of Theoretical Biology,
227, 299-314.
[3] Ohtsuki H. & Iwasa Y. (2004) How should
we define goodness? - reputation dynamics in indirect reciprocity. Journal of Theoretical Biology,
231, 107-120.
[4] Ohtsuki H. & Iwasa Y. The leading eight: social norms that can maintain cooperation by indirect reciprocity. Journal of Theoretical Biology, in
press.
(博士論文)
Optimal conservation strategy for an endangered population in fluctuating environments
変動環境における最適保全戦略の数理的研究
横溝 裕行
九州大学大学院 理学府 生物科学専攻 数理生物学講座
[email protected]
はじめに
ていて、これが大きいと環境変動が
‫ؼ‬年、多くの種が外来生物や生息地
大きいことを意味する。本研究では
破壊などにより絶滅の危機に瀕して
最適努力量は以下の全コストを最小
いる。野外生物集団の保全において、
化するものと定義した。[全コスト]
環境変動や個体数などの不確実性に
=w
対処をすることは重要なӀ題である。
( w :個体群の価値)。
本論文では、変動環境下における最
†
適保全戦略についての基礎理論を展
†
開した。
本研究では、個体数に不確実性が
ノイズ(生存率が変動)
個
体
数
繁殖
成体
閾値
場合に、調査努力量と生存率を改善
めた。
幼体
情報
あり、年によって生存率が変動する
するための保全努力量の最適値を求
大
幼体
調査努力
[絶滅確率]+[努力のコスト]
小
絶滅
保全努力
[I] 初期個体数に不確実性がある場
合の最適保全努力量 [b], [c]
個体数に不確実性がある場合の最
絶滅の危機にある集団は、たまた
適保全努力量をӕ析した。べイズの
ま環境条件が悪くなった時に絶滅し
定理を用いて真の個体数を推定し、
てしまう。そして、保全政策は前も
最適保全努力量をӕ析的に求めた。
って環境変動や個体群サイズの不確
最適保全努力量は個体数に関する情
実性を考慮して決定しなくてはいけ
報の正確さに、どのように依存する
ない。
かをӕ析した。
†
個体の生存率を exp[ fet + x t ] とし、
個体数の不確実性が大きい場合に
保全努力量 et が大きいほど生存率が
は、実際の個体数がとても小さい可
大きくなると仮定した。 x t は平均が
†
-a 、分散が sx2 の正֩分布に従うと
†
した。 sx2 はノイズの変動幅を表し
†
能性が常にある。そのため、個体数
†
†
の不確実性が大きいほど保全努力量
を大きくすべきだと思うかもしれな
い。しかし、これは必ずしも正しく
査努力量が変わるのかを,確率的ダ
はなく環境変動が大きい場合には、
イナミックプログラミングを用いて
個体数の不確実性が大きいほど最適
ӕ析した。その結果、必ずしも保全
保全努力量が小さくなった。さらに、
期間がସ期間である場合に、保全努
最適保全努力量は,中程度の環境変
力量と調査努力量が大きくなるとは
動で最大となり、あまりに環境変動
限らないことがわかった。環境変動
が大きい時には逆に小さくなること
が大きい場合や、保全期間がସ過ぎ
がわかった。環境変動が大きい場合
る場合には逆に最適保全努力量と調
や、個体数の不確実性が大きい時は、
査努力量が小さくなる。
保全努力に投資しても絶滅確率を下
げる効果が小さいために最適保全努
[IV]在来種の生息地改善努力と外来
力量が小さくなる。
種の駆除努力 [d]
外来種に存続を脅かされている在
[II]最適保全努力と調査努力 [b], [c]
来種の最適保全戦略についてӕ析し
適切な保全努力量を投資するには、
た。чの供給等によって直接的に在
より正確な個体数を把握することが
来種の生存率を改善する生息地改善
重要である。そこで、調査努力に投
努力と、外来種の駆除によって在来
資する程、個体数に関してより正確
種の生存率を間接的に改善する駆除
な情報が得られると仮定し、最適調
努力の最適な値を調べた。最適な生
査努力量を求めた。最適調査努力量
息地改善努力量や駆除努力量がそれ
は、環境変動が小さい場合に最適調
ぞれ正になる必要条件を導き出した。
査努力量が大きくなった。環境変動
最適生息地改善努力量と駆除努力量
が大きい場合は、正確に個体数を把
の両方が正になる必要条件は、[1]
握しても生存率の不確実性が大きい
在来種の密度が低い、[2]外来種の
ために正確に個体数を知ることのメ
密度が‫ݗ‬い、[3] 生息地改善努力量
リットが小さくなるためである。
と駆除努力の一方の効率とコストの
比が他方と比べて大きすぎない、と
[III]最適保全努力と調査努力の保全
いうものである。
の時間スコープの依存性 [a], [c]
保全‫ڐ‬画の時間スコープのସさ
Yokomizo
(例えば10年か100年か)によ
220:215; [b] 2003b JTB 224:167; [c]
ってどのように最適保全努力量と調
2004 JTB 230:157; [d] (in review).
et
al. [a] 2003a JTB
JSMB Newsletter
19
No. 49, Supplement, p. 19, 2006
編集委員会より
この要約文・要旨集は,ニュースレター第 49 号に特
集として掲載された卒業論文・修士論文・博士論文の
要約文に加え,それらのより詳しい A4 サイズの要旨
を綴り,ニュースレター第 49 号 pdf 版別冊として作成
したものです。今後の研究交流に役立つことがあれば
幸いです。
なお,本別冊中の要約文・要旨の内容についての著
作権は,日本数理生物学会および当該著者に帰属する
ものであることを申し添えます。
¶
³
日本数理生物学会ニュースレター第 49 号 別冊
2006 年 4 月発行
編集委員会 委員長 瀬野裕美
[email protected]
広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻
〒 739-8526 東広島市鏡山1−3−1
発行者 日本数理生物学会
The Japanese Society for Mathematical Biology
http://www.jsmb.jp
µ
PDF 版
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