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観光と生活の融合による居住地の持続可能性ー筑波山門前を対象としてー

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観光と生活の融合による居住地の持続可能性ー筑波山門前を対象としてー
観光と生活の融合による居住地の持続可能性
―筑波山門前を対象として―
都市計画主専攻
201111210 石村
指導教員:山本
第1部
卒業研究
1.研究の背景と目的
幸子
匠
助教
車の運転の有無と家族構成が地区内における居住継続意志
に影響を与えている可能性が考えられる.
市町村合併により自治体規模が広域になる中,人口増加を
続ける市町村の中にも,中心部から離れた小規模な集落で生
表 1 高齢者の生活実態に関するヒアリング結果
活機能の維持が困難な地域が存在する.つくば市においても
中心部の人口が増加する一方で,筑波山中腹の斜面地に位置
する筑波地区(図 1)も同様の課題を抱えている.筑波山神社
周辺の観光エリアは多くの観光客が訪れる一方で,門前町と
して栄えた参詣道沿いの居住エリアは人口減少・高齢化が進
買い物
外出頻度
通院
散歩
週1回
週4回
―
牛乳
―
週2・3回 月2回
○
―
○
―
○
魚・生協
○
月1回
―
―
○
性
年齢
居住継続
年数
家族構成
車の運転
住民A
女
80代
44年
独居(1)
―
住民B
女
80代
46年
独居(1)
○
住民C
男
70代
75年
夫婦(2)
○
週1回
住民D
男
80代
80年
夫婦+子供(4)
―
―
移動販売車 居住継続
の利用
意思
3.2 居住エリアの観光資源発掘
み,空き家・空き地が増加している.しかし,居住エリアにも
筑波山麓はみかんの北限地であり,古くから福来みかんが
多くの観光資源があると考えられる.それらを活用し,観光
有名である.2006 年には地区の住民によって筑波福来みかん
エリアに訪れる観光客を居住エリアに誘導することで,交流
保存会が結成され,苗木の植樹や福来みかんを使用した商品
人口の拡大や新たな居住希望者を増加させることが可能だ
開発に力を入れている.しかし,アンケートの結果「つくば道」
と考える.
と「福来みかん」は多くの観光客からの認知度が低く,地域資
筑波山麓の居住地に関しての研究には,筑波山門前の集落
源として活かされていないことが明らかとなった.また,地
と景観について(湯本ら,2002)と近世の筑波山門前におけ
区の調査から把握された伝統民家や活用可能なストックと
る参詣道沿いの町並の変遷について(湯本ら,2005)の町並に
しての空き家・空き地の分布は図 2 のようになっており,空
関する研究が存在する.しかし本研究は,既存の観光地と居
き家や空き地は石段の残るエリアに多い傾向が分かった.
住地が隣接する地区において,居住地の観光資源を発掘し,
観光と生活の融合による居住地の持続可能性を検討する点
で独自性がある.
以上より本研究では,観光エリアと生活エリアの格差を把
握するとともに,居住エリアの観光資源を発掘し,観光と生
△876
活の融合による居住地の持続可能性を検討することを目的
とする.
500
2.調査概要
調査①:つくば市観光物産課を対象とした筑波山観光に関す
るヒアリング,調査②:区長・民生委員を対象とした現在の地
区内の取り組みに関するヒアリング,調査③:高齢者の生活
400
筑波山神社
観光エリア
つくば道
居住エリア
実態に関するヒアリング,調査④:居住エリアの観光資源発
掘を目的とした現地調査を用い分析・考察を行った.
3.結果
3.1 観光エリアと居住エリアの比較
N
2km
凡例
つくば道
主要道路
川
図 1 筑波地区
図 2 空き家・空き地と駐車場
4.結論と考察
筑波地区は観光地として人気である一方,居住地は人口減
昭和中頃までの地区には 13 軒の生活利便施設が存在して
少・高齢化が進んでいる.筑波地区は急斜面地に立地するた
おり,生活に必要な施設が揃っていたが,現在も残る施設は
め,車の運転の有無が外出頻度や居住継続意思に大きく影響
郵便局のみである.一方,観光エリアにはホテルや土産物屋
すると考えられる.居住地を持続可能とするためには,高齢
が集中している.高齢者のヒアリング結果(表 1)によると,
者への新たな生活の支援や若者の新規居住者を増やすこと
車の運転ができない単身高齢者には居住継続意志が確認で
が重要である.調査から,居住エリアにも多くの自然資源や
きなかったが,車の運転ができる単身高齢者,夫婦世帯,子供
歴史的観光資源を確認することが出来た.伝統的建造物の中
との同居世帯には居住継続意志が確認できた.このことから,
には空き家も存在することから,これを活用した観光拠点や
新規居住者の受け入れが可能だと考える.
第2部
卒業設計
かんを育てる.みかん広場には拠点からカフェ,野菜直売の
1.目的・設計対象
機能が日替わりで出張し,高齢者が歩いて移動できる範囲に
研究で明らかとなった地区の課題に対して,観光と生活を
買い物の場を提供する.観光客が植樹した福来みかんの木が
融合させることで,筑波地区が居住地として持続可能となる
みかん広場を演出し,出張がない日でも地域住民が集う空間
提案を行う.
とする.また,道を通る登山客にとっては休憩の場,地域住民
つくば道地区の西山通り沿いに立地する,明治 2 年建築の
との交流の場となる.福来みかんを核とした拠点と体験プロ
伝統的民家を選定し,改修設計を行う.敷地内には母屋と書
グラムによって,地域住民には買い物の場や集いの場,観光
院,筑波福来みかん保存会の拠点として利用されている土蔵
客との交流の場を提供し,観光客には新たな筑波山観光を提
が建っており,90 歳の鈴木さんが奥さんと二人で暮らしてい
供する.観光客は筑波地区を知り・体験し・宿泊することで
る.大規模な屋敷であるため,現在は母屋の 2 階と書院は使用
徐々に地区の居住地としての魅力に気づいていく.観光を目
しておらず,掃除も負担となっている.
的に地区に足を運んでいた人が地域住民となり,持続可能な
居住地となっていく.
2.提案
2.1 拠点整備
地区の自然資源である「福来みかん」と伝統的建造物を活
用した,観光客と地域住民のための拠点を計画する.拠点に
は休憩・集い・体験・宿泊の機能を入れ込む.道から入りやす
い土蔵をカフェとし,観光客が気軽に立ち寄れる場とすると
共に,野菜直売スペースを設け,地域住民に買い物の場を提
観光客
福来みかん
を植える
福来守り
(苗木)
を購入
福来みかんの
木を育てる
広場・みかん 剪定体験
休憩
園に植樹
福来みかん
を収穫
休憩
収穫
福来みかん
を加工する
加工体験・宿泊
供する.母屋には,鈴木さん夫婦の生活の場を残しつつ,ギャ
ラリー・インフォメーションとしての機能と福来みかんの加
工体験の場を設ける.加工体験を地域住民にサポートしても
みかん広場
(空き地)
神社
らうことで,平日も地域住民が自然に集うようになる.書院
には宿泊の機能を入れ,地域の暮らしを知ってもらう場を提
福来カフェ
体験・宿泊施設
図 4 福来みかん体験プログラム
供する.宿泊は完全予約制とし,予約のない時には地域住民
拠点
◎体験・宿泊施設
を対象とした講座が行われる.
このような拠点を計画することで,観光客が知り・利用し・
体験し・宿泊し,徐々に地域に馴染んでいく観光拠点とする.
登山客・観光客
ギャラリー
インフォメーション
体験
宿泊
◎福来カフェ
知る
利用する
土蔵→福来カフェ
主な改修内容
1階:厨房設備,トイレ(増築)
階段,野菜直売棚設置
2階:床新設
体験する
母屋→体験施設/住居
1階:土間,デッキ新設,キッチン
トイレ,フロ,階段変更
寝室(増築)
2階:吹き抜け
宿泊する
カフェ
野菜直売
みかん園
書院→宿泊施設
デッキ新設
トイレ(和式→様式)
フロ拡大(増築)
みかん広場
カフェ
野菜直売
登山客・観光客
図 5 空き地を活用したみかん広場
参考文献
[1]湯本桂,後藤治(2002)「筑波山門前の集落と景観について」
日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸), pp. 431-432
[2]湯本桂,後藤治,安藤邦廣,藤川昌樹,堀江亨,黒坂貴裕,
西山通り
中野茂夫(2005)「近世の筑波山門前における参詣道沿いの町
図 3 改修計画の内容
並の変遷について-二階建て家屋を中心に-」日本建築学会計
2.2 体験プログラムとみかん広場
観光客に福来みかん,つくば道を知ってもらうことを目的
画系論文集,第 598 号,pp. 227-233
[3]統計局ホームページ
国勢調査
として福来みかん体験プログラムを提案する.筑波山神社で
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/
「福来守り」として福来みかんの苗木を販売し,地区内に設
(2014.11.10 最終閲覧)
定した 6 箇所のみかん広場(空き地)に植樹してもらう.そ
[4]「つくばの民家-つくば市古民家調査報告書‐」, 『つく
の後も定期的な農園体験に参加してもらい,植樹した福来み
ば市教育委員会』, 平成 14 年 3 月
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