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組織活性化の条件 - J
Keynote Lecture 基調講演 Japanese Journal of Administrative Science Volume 23, No.1, 2010, 67-78 経営行動科学第 23 巻第 1 号,2010,67-78 組織活性化の条件 ―人と組織のエンパワーメント― * 講演 東京工業大学 今 田 高 俊 司会 神戸大学 金 井 壽 宏 金井 それでは,これから基調講演「組織活性化の条 織化で,トップダウン型のそれではありません。サイバ 件―人と組織のエンパワーメント―」を開始致します。 ネティックな自己組織化は制御をコアにしており,それ 私は,本日の司会を担当致します,神戸大学の金井です。 ゆえトップダウン型になります。これに対し,シナジェ どうぞよろしくお願い致します。 ティックな自己組織化は要素間の協調作用を前提にして まず最初に,講師の今田高俊先生をご紹介させて頂 いるのでボトムアップ型になります。この後者の自己組 きます。先生は,神戸市のお生まれで,1975 年に東京 織化は,組織が変動の主語になるのではなくて,個々の 大学大学院社会学研究科博士課程中退,博士(学術) , 人間が主語であって,組織や社会はあくまで目的語にす 東京大学文学部社会学科助手,東京工業大学工学部助 ぎないという発想の自己組織化であります。もちろん最 教授を経て,現在,東京工業大学大学院社会理工学研 終的にはサイバネティックな自己組織化とシナジェティ 究科教授でいらっしゃいます。公職として,東京工業大 ックな自己組織化の両者がうまく統合されて語られるの 学大学院社会理工学研究科長,日本学術会議会員も務 が望ましいのですけれども。 まず,人間優先へのシステム転換を考えてみたいと思 めていらっしゃいます。 主要なご著書は, 『自己組織性―社会理論の復活』 (創 います。特に経営組織の問題との関連でこれが重要で 文社,1986) , 『モダンの脱構築―産業社会のゆくえ』 (中 はないかと思っています。フレデリック・テーラーが科 公新書,1987) , 『混沌の力』 (講談社,1994) , 『意味の 学的管理法を 20 世紀初頭に考案し,同名の本を書いて 文明学序説―その先の近代』 (東京大学出版会,2001) , いますが,その序に次のような文章があります。 「これま Self-Organization and Society , Springer, 2008. などで, 紫綬褒章を 2008 年,組織学会賞を 1987 年,そしてサ ントリー学芸賞を 1986 年に受賞されております。 本日は,研究科長としてお忙しい中,基調講演をお引 き受けいただきありがとうございました。それでは,今 田先生,どうぞよろしくお願い致します。 では人間が優先されてきたが,これからはシステムが優 先されねばならない」という一文です。当時の主流であ った,経験や勘に頼る仕事ぶりや「どんぶり勘定」のず さんな収支報告では生産性が上がらない,とテーラーは 考えた。そこで,きちんと科学的に動作研究を行い,も っとも効率のよいシステムをつくり,人間がこれに従っ て仕事をするシステムを考案した。これは当時としては 画期的なもので,後にテーラーシステムとして一世を風 1.人間優先へのシステム転換 靡することになったわけです。テーラーシステムはベル 活性化企業のポイントとしてよく言われていることの トコンベア方式として現実化され,大衆車である T 型 ひとつにエンパワーメント(ことがらを成す力をつける フォードの大量生産システムにまで発展しました。この こと)があります。今日はちょっと工夫をして,私が長 システムは,高度経済成長期にはとても威力を発揮しま 年来取り組んできた自己組織化と関連づけながら,人と したが,成熟社会が訪れて,人々の価値観が多様化し, 組織のエンパワーメントを考えてみたいと思います。私 生活様式の個性化が叫ばれるようになって以降,大量 は「自己組織化能」という概念を用いていますが,この 生産のためのテーラーシステムは,その有効性を低下さ 能力はエンパワーメントを通じて現れると考えています。 せる変化に見舞われたと言ってよいでしょう。 以上のことを考慮に入れて,私の自己組織性論の観 もちろん自己組織化といってもいろいろあるのですが, 私が主に関心を抱いているのはボトムアップ型の自己組 点から結論を言うと,次のようになります。すなわち, 「こ れまではシステムが優先されてきたが,これからは人間 * 本稿は経営行動科学学会第 12 回年次大会基調講演 (2009 年 11 月 7 日)の記録を一部修正したものである。 が優先されねばならない」と。これはテーラーの言葉を パロディー風に言い換えたものですが,そうしないこと −67− 基調講演 経営行動科学第 23 巻第 1 号 には今の新しい経済活動,産業活動を読み解けないと ですが,内破というのはインプロージョンで,内発的な 思うのです。その理由についてこれから話をさせていた エネルギーによる生成変化のことであり,自己組織化を だくことにします。 たとえるにふさわしい表現です。≪ becoming ≫のよう 2.エンパワーメントから自己組織化能へ な感じの変化イメージです。外から計画的に変えるので はなくて,おのずから変わる。become というのは他動 私の議論は,エンパワーメントのそれにとどまるので 詞ではなくて自動詞ですから, 「∼になる」 「∼になりか はなく,最初に申しましたように,自己組織化能へと向 わる」 「∼に変化する」というイメージであり,こういう かうことになるのですが,そのために 3 つの論点を考え エネルギーと力が蓄えられて組織変革が成されることが ています。 大事であると考えます。ちなみに,この「自己組織化能 第 1 は, 「人間が優先,システムは最後」ということ への意志」というのは,ニーチェの「力への意志」をも です。人間が優先されるべきであり,システムや組織は じったものであります。私は自己組織化を考えるにあた 最後でよいことです。まず個々の人間がエンパワーされ ってニーチェとベルグソンに随分影響を受けていますの ることが重要であり,それを前提にして組織づくりをす で,後でもまた登場します。 さて,エンパワーメントの話に簡単に触れましたが, るという発想です。最初に組織の役割構造や働きとし ての機能を定めておいて,この役割構造の中に人間をは 1996 年に出版されたソーシャルワークの本の中でロバー め込んで,特定の役割行動をするように命じても,現在 ト・アダムスがエンパワーメントを次のように定義して 求められている高付加価値で知識集約的な産業活動に います。社会学的な一般性を考えると,この定義がいい は適切ではなくまた生産性も上がらない。そうではなく, のではないかと私は思っています。つまり,エンパワー 先に個々人の能力アップ,すなわちエンパワーメントを メントとは, 「個人,集団及び/あるいはコミュニティー 図り,こうした人材を前提にして彼らをうまく組み合わ が,その環境を制御できるようになること,みずから設 せて組織をつくるのです。言い換えれば,個々人の能力 定した目標を達成できるようになること,およびこれら が最大限発揮できるようにメンバーを編集して組織にす によって自分自身および他者が生活の質を最大限に向上 ればいい。あらかじめ決められた役割を遂行せよと頭ご させることができるようになること」 (Social Work and なしに言われると,人には得手不得手があるため,うま Empowerment , 1996 : 5)という定義です。この定義は 組織を越えて一般に,個人,集団,コミュニティー,そ して社会をも含めて成り立つ定義です。ポイントはエン パワーメントによって,生活の質を最大限に向上できる ようになることにあります。 エンパワーメントには 2 タイプが考えられていま す。ジェイ・コンガーとラビンドラ・カヌンゴが経営 組 織 論との関連で吟 味して挙げたものです( “The Empowerment Process: Integrating Theory and Practice,”1998 , Academy of Management Review , 13 : 471-482.) 。ひとつ目の社会学的な関係概念としての エンパワーメントは,下位への権限委譲や権限付与をあ らわすものです。なぜこれがエンパワーメントなのかよ くわからないのですが,要するに権限の委譲に関係して 使っていることです。経営組織論ではたしか最初はこう いう文脈で使われたと思います。それから,心理学的な モチベーションの概念としてのエンパワーメントがあり ます。これは人間の内発的なパワー欲求の増強を表しま す。社会心理学的な観点からすれば,この 2 つを組み 合わせればよいことになるので,エンパワーメントとは 下位への権限付与により成員の内発的なパワー欲求が 増強することであると定義できるでしょう。このようにエ ンパワーメントは,組織構造の中の人間関係の問題とし く能力を発揮できないかもしれない。従来,人事部が適 材適所の原則で人員の配置と再配置を考えてきたわけ ですが,そのようなやり方では人材が活用しきれないと いうのが現状です。 第 2 は, 「成員のエンパワーメント」です。上で, 「人 間が優先,システムは最後」と述べましたが,成員に対 して何もしないで放置していては,成果が上がりません。 成員のエンパワーメントを図らねばなりません。エンパ ワーメントは,本来 1980 年代中ごろにソーシャルワーク の分野で出てきた概念ですが,そこから組織やコミュニ ティーなどさまざまな方面に広がっていきました。ソー シャルワークの分野で登場した際のこの言葉に込められ た意図は,生きる力やことがらを成す力を剥奪されてし まった人が本来の力を最大限に発揮できるように支援す ることにありました。管理することではなく支援すること がエンパワーメントという言葉が考案された由来です。 第 3 は, 「自己組織化能への意志」が重要なことです。 組織を自己組織化して変えていくという意志を持つこと が大事だということです。新しい方向性や形態を模索し 価値創造をするための隠された原理が自己組織化能へ の意志であり,内破の力で絶えず生成変化を遂げること が必要です。英語でイクスプロージョンは外からの爆破 −68− 組織活性化の条件 て考えるか,それとも心理学的な個人のモチベーション 既存の価値規範に適応するのではなくそれらを転換させ の概念として考えるかで 2 通りあると言われています。 ることを意味します。また,日本は外圧による変化を好 エンパワーメントについては,多数の人々がさまざま むとよく言われ,外からの圧力で自分を変えるケースが な角度から言及していることはすでに御存じと思います 多いのですが,そうではなくて,内側からの内破による が,クリスト・ノーデン−パワーズが『エンパワーメント 変革ができるかどうかが問題です。変革の原因が組織 1 の鍵』という本を書いております 。この人は学者では の中にあり,中から湧き上がってくる「マグマ」による なくて経営コンサルタントです。この本の中で彼は,エ 変化こそが第一級の能動性であるといえます。自己組織 ンパワーメントのために必要な作業として,企業やリー 性というのはこういう発想で捉えるべきだと思っていま ダーや個人が何をなすべきか,どうなればいいのかにつ す。 いて,3 つの側面から 50 の命題にまとめています。そ 後でまた出てくるのでここで言う必要はないのです れはそれとして参考になりますが,彼のエンパワーメン が,時間が足りなくなってはしょるかもしれませんので トに関する考え方は,人々の潜在能力を引き出して自由 述べておくと,ベルグソンも『創造的進化』の中で「生 に解き放ち,各自が崇高な目的や自己実現が達成できる の躍動(エラン・ヴィタール) 」という概念を出していま ような環境をつくり出すことです。組織が優先されるの す。そこで彼が言っているのは,持続とは,自己に対し ではなく,各自が自己実現できるような環境づくりをす て差異を生じること,自分自身に対して違いを生じるこ ることがエンパワーメントの鍵なのだと言っております。 と,つまり変化することであるということです。持続と 能力を与え,精神を解放するパワーは,管理したり制限 は変化なりという命題です。これも自己組織化にとって したりするパワーより常に偉大であります。要するに, 重要な命題です。無機物であれば別ですが,有機物の 管理的発想のパワーよりも,能力を与えて精神を解放す 場合は変化しないと持続できないというニュアンスが込 るパワーの方が偉大であることです。学術的に参考にな められています。 るのかどうかはわかりませんが,結構いろいろなことが 3.1 ゆらぎと自己言及 書いてあっておもしろい本でした。 第 2 は自己組織性のリアリティーについてです。自己 3.組織エンパワーメント 組織化とは環境変化があろうとなかろうと自力で自己変 さて次に,組織エンパワーメントの話に移りたいと思 革ができることを特徴とします。つまり,環境変化がま います。人のエンパワーメントもさることながら,組織 ったくなく,外からのインプットがない状況下で自己変 もエンパワーメントしなければならないわけです。組織 革できるか否かが自己組織化のための条件です。従来 がエンパワーされることは自己組織化と関係してきます。 のシステム論や組織論が扱ってきた組織変革論は,シ そこで,自己組織化に関連する特徴について述べておき ステム−環境図式に基づいているものがほとんどで,環 境変化に適応してシステムは変わるという発想が多い。 ましょう。 自己組織化の第 1 の特徴は,組織が環境に適応して それは間違いではないのですが,では,環境が変わら 成長・発展するのではなくて,自己に適応して(自己適 なければ組織は変化しないのかということになってしま 応)自身を変えることにあります。環境適応は第 2 級の うわけです。環境変化がなくても変わることができるの 能動性である。これは私の言葉ではなくニーチェの言葉 が自己組織化なので,自己の中に変化の兆しを読み取っ ですが,ニーチェは『道徳の系譜』の中で,社会学者 て,それをベースに新しい秩序形成をすることができな であるハーバート・スペンサーの社会進化論を厳しく批 ければなりません。 判しています。スペンサーは,有機的組織では環境への 自己組織化を読み解くために必要なリアリティーとし 適応能力が高いそれが生き残るという社会進化を説い て,私は 2 つのことを考えています。ゆらぎと自己言及 たわけですが,ニーチェは環境適応は第 2 級の能動性 です。社会学や社会システム論では,ヴァレラとマトゥ にすぎず,第 1 級の能動性とは不確実性に耐える中で ラナのオートポイエシス(自己創出論)がもてはやされ, 苦悩して新しい価値創造をすることであると言っており その議論のポイントである自己言及ばかりが重視されて ます。 います。ニクラス・ルーマンが特にそうですが,自己言 『力への意志』 ( 『権力への意志』という訳は書物の 及だけ取り上げていては自己組織化の問題は扱えませ 趣旨から言って明らかに誤訳でしょう)という本の中で ん。要は,変化の「種」がないとだめなのです。それを ニーチェが書こうとしたことはまさにそのことです。こ ゆらぎに求めるのが私の立場です。ルーマンはシステム の本の副題は「全ての価値の価値転換の試み」であり, −環境図式に対して,自己言及図式を強調しています。 −69− 基調講演 経営行動科学第 23 巻第 1 号 そうすることによって結局,彼は社会システムの自己組 変則行動との間で同盟関係ができ,これが起爆剤になっ 織化を理論の考察対象から締め出してしまっているので てシステムが変わったりするわけです。 それから,バイオホロニクスでは,ゆらぎは生きてい す。システム−環境図式にとって代わるのは,ゆらぎ− 自己言及図式であり,これによって初めて自己組織化が ることの証であると言われています。生きているという われわれの射程に入ってくるのです。 ことはゆらいでいることである。これを説明しだすと時 考えてみれば,ゆらぎはこれまで余計なもの,望まし 間がないので割愛させてもらいますが,生命の持続可能 くないものと位置づけられてきました。もちろん現在で 性を担保するために,ゆらぎがさまざまなかたちで貢献 もそういう側面があり,物理学でいうホワイトノイズ(す していることです。 べての周波数を均等に含む雑音のことであり,ランダム もうひとつ,快適さの中にはすべて 1/f ゆらぎが含ま に振動する周波のこと)などがこれにあたり,これらは れていることです。浜辺に吹くそよ風とビルの谷間の風 制御して除去する対象とされます。しかし,ゆらぎも一 とでは快適さの度合いがまったく違うのは,その風を周 様ではなく,ホワイトノイズ以外にいくつかの種類があ 波解析するとわかるのですが,パワースペクトルが周波 ります。ランダムではないゆらぎがあるということです。 数 f に反比例します。要は,不規則でランダムではなく, このゆらぎが重要で,そこには特有のバイアス(偏りや バイアスがかかっていることです。人が快適と感じるも 歪み)が存在するわけです。こうしたゆらぎはしばしば のには必ずこの 1/f ゆらぎが含まれているとされます。 快適さの原因でもあり,生きていることの証でもある 組織活性化の微粒子となることが知られています。 物理学では,ゆらぎは平均値からの揺れとして定義さ ゆらぎがあることで,そこから新しい秩序が育っていく れます。また,システムの平衡状態からのずれとも言わ 可能性を秘めているわけで,それを育て上げるのが自己 れます。いわゆる典型的なサイバネティクスでは,こう 言及図式,一種の触媒作用です。自己言及は,組織論 したゆらぎを制御して,正常な均衡状態に戻すことで, で言えば,組織活性化のシナジー現象に相当します。い システムの安定を確保することが重要になります。とこ まだエスタブリッシュされておらず,組織全体で見ると ろが,社会科学的に考えた場合,ゆらぎは既存の枠組 取るに足らない些細な動きなのだけれども,そのちょっ みや発想におさまりきらない現象であると捉えることが とした動きが不規則に相互作用し,協同現象によって増 可能で,しばしばはみ出し現象や逸脱行動と位置づけら 幅していき,新たな秩序を形成する。そういうことを基 れます。これらは一般的に変則行動とみなすことが可能 礎づけるのが自己言及性であって,一般的には,組織の ですが,こうした行動を排除するのではなく,社会シス 中で何か作為を起こすと,それがめぐりめぐって自分の テムに包摂することで,危機に対処するための多様度と ところに返ってくるブーメラン効果であったり,自己言 してプールしておくことも必要です。進化論でいういわ 及は閉じた輪をなすシステムを形成しているから内的な ゆる突然変異を,その場限りの変異として取捨選択して 視点,すなわちシステムに当事者的視点をもたらすと言 しまうのではなく,これらを将来の適応のために抱え込 われます。会社の業績が悪くなると, 「経営者が悪いか んでおくことです。言い換えれば,既存の発想では手に らだ」 「管理者が悪いからだ」と傍観者を決め込んでい 負えなくなった状況を克服するための代替案を考える素 る社員がよくいますが, 「その会社であなたが働いてい 材とすることです。現状において変則行動とみなされる るんでしょう。だったらあなたのせいでもある」という ゆらぎも,状況が変われば結構役に立つときがある。例 ことなのです。社長が悪いにしろ,管理者が悪いにしろ, えば,奇人,変人,道化師,魔術師など変則行動をする 悪態を突いている当の本人がもたらした結果でもあるわ 人物が地域共同体の周辺にやってきて,何か変わったこ けです。これが当事者的視点であり,外部的な観察者 とを叫んだりわめいたりするケースを考えてみる。地域 的視点を許さない考え方でもあります。 自己言及は組織を活性化する微粒子としてのゆらぎ 共同体が大きな問題を抱えることもなく安定していると きは,変なやつが来たということで彼らを追っ払います。 が自己強化されて秩序形成されるときの触媒作用として しかし,彼らは懲りずにやってきて,また追い払われる。 重要になります。ゆらぎは内破の力であり,これを増幅 このようなことを何度も何度も繰り返していると,地域 させるのが自己言及メカニズムです。 共同体がおかしくなってどうすればよいかわからなくな ったとき,藁にもすがる思いで彼らを地域の中に招き入 3.2 さなぎのメタモルフォーゼ れて,話を聞いてみることが起きたりする。詳しく聞い 自己組織化をわかりやすく表現するために使っている てみると,彼らの言い分は,現状突破するために良いア アナロジーが「さなぎの変態」です。私は自己組織化は, イデアだったりするのですね。それで既存のシステムと 哺乳類的発想の成長・発展ではなく昆虫類的発想のメ −70− 組織活性化の条件 タモルフォーゼとして捉えるとわかりやすいと考えてい グローバル社会で生き残っていくために,高付加価値を ます。つまり,昆虫類の多くは自力で自分自身をスクラ 生み出すことが不可欠です。このためにはお決まりの枠 ップ・アンド・ビルドできる生命体,有機体であるとい に縛られない,自由発想によるアイデア探求型の活動が うことです。卵からかえって青虫でいる間は,環境に適 必要になります。だからこそ,創造的な「個」の営みを 応しつつ葉っぱをむさぼり食って成長していきます。こ 優先することが重要なのです。 第 2 は,ゆらぎを秩序の源泉とみなすことです。ただ, れは,近代社会というか,環境に適応して効率よく成 長・発展するという機能主義の発想とパラレルです。と ゆらぎが 50%も 60%もある状態では組織を運営しがた ころが,この青虫は,あるところまで成長するとさなぎ くなります。私の印象では,5%から 10%程度でよいと になって,外界との相互作用を遮断します。生き物なの 考えます。経験的に言うと,最適な割合は 5%程度でし で酸素の出入りはしようがないのですが,閉じて環境と ょう。組織の既定の方針と違う試みをする人物が 5%程 の相互作用を最小限にします。そして,中で何をやって 度いることは,将来,組織変革を起こさねばならない状 いるかというと,自身の体細胞をスクラップ・アンド・ビ 況に陥った際の変化のパラメーターになる可能性がある ルドしています。 のでむやみに排除しないことです。先ほど述べた変則行 私は幼いころから生物が好きで分子生物学者になり 動の話ではありませんが,異質なアイデアや活動パター たかったので,昆虫のメタモルフォーゼの過程を 24 倍 ンは,将来の組織変革のために内部に抱え込んでおくこ 速の高速ビデオで見たことがあるのですが,さなぎの中 とが大事です。ゆらぎはシステムを別様の構造へと駆り の青虫は自力で自身の体細胞を溶かしていきます。溶か 立てる要因であります。 しきったら,変態する先が蝶だとすると,今度は蝶の形 興味深い進化論の話があります。世界的に著名な業 態(構造)を形成するための新しい体細胞が現れ出て 績である,木村資生先生の「分子進化中立説」です。 きます。そして,古い体細胞を養分にして新しい体細胞 生物にとってゆらぎである突然変異について,有機体は がどんどん育ち,うまくメタモルフォーゼができれば成 機能的に有用か否かを判定して突然変異を取捨選択す 虫である蝶になります。蝶と青虫の間の構造や機能の落 るというのがダーウィン流の進化論ですが,木村教授は 差はすごく大きいので,その間,さなぎの中はカオス状 この淘汰説に異論を唱えたのです。一般的に生物有機 態になります。1 回スクラップしてしまいますから,どろ 体は,変異が発生したからといって,直ちに要・不要の どろになってコールタールのような状況です。そういう 判定を下して有用でない変異を淘汰していないというの 生みの苦しみを経て新たに生まれ変わるわけです。 です。突然変異で生み出されたさまざまな変異には,機 さなぎの中で自力でスクラップ・アンド・ビルドする 能的観点からして毒にも薬にもならない中立なもの,当 のですから,内破(インプロージョン)の力が働いて, の有機体にとってプラスでもなければマイナスでもない それが増幅して別様のものに変態する,つまり生成変化 変異の場合には,それを内部に抱え込んでいるというの するということであります。 です。そして,有機体が何か大変な問題に突き当たった ときに,プールしておいた変異を取り出してきてその対 4.自己組織化の 4 条件 応能力を試してみる。その中で,変化した環境に適応力 次に,内破による生成変化としての自己組織化の条件 について考えてみたいと思います。私はその条件として のある変異が見つかればそれを採用する。進化はこのよ うにして進むのだという説です。 ゆらぎを秩序の源泉とみなすというのは,この分子進 4 つを指摘することにしています。 第 1 は,創造的な「個」の営みを優先することです。 化中立説と同じ考えに立っています。組織も 5%程度は, 要は,先ほども簡単に述べましたが,既存の地位,役割 直接的に役に立たず,毒にも薬にもならないものを抱え にとらわれない営みを尊重すること,意外なことだから 込むぐらいの度量がなければ進化しないのではないか。 といって排除しないことです。そして,アンチ犠牲的精 以上との関連で第 3 に,不均衡ないし混沌を排除し 神が求められること,つまり,組織のため,国のためで ないことが自己組織化の条件であります。組織がカオ はなく,自身の自己実現のために仕事をできるようにす ス(混沌)の状態になったとしても,それが組織にとっ ることです。従来の組織論では,あらかじめ役割と地位 て無前提に悪いことだとしてすぐさま排除するのではな が決まっていて,それらに人材が配分され,役割と地位 く,その状態がどういうことなのかを見きわめる必要が にふさわしいパフォーマンス(成果)を上げることが期 あるということです。混沌と秩序の境目である「カオス 待されてきたわけですが,こうしたお決まりの枠にとら の縁」の存在が確認されており,そこではひっきりなし われない試みも大事なのです。特に,先進産業社会では, に変異が発生しています。 「カオスの縁」では,システ −71− 基調講演 経営行動科学第 23 巻第 1 号 ムはとてもハイな状態,励起状態になっており,安定し 改革)とリエンジニアリング(機能強化)だけではだめ た状態にはありません。そこでは頻繁に突然変異が起こ だと思っているのです。リストラというのは業態構造を り,組織でいうと新しいアイデアや情報の創発が起きて 変えることです。今はそれが高じて,不採算部門をカッ います。要するに,みながハイな状態になって,何でも トすること,すなわちそこに配属されている人材を解雇 ありという感じでアイデアや新情報をどんどん出してお するという単なる首切りのことになっておりますが,当 り,だめでもともとだという状況になっていることです。 面の手当としてリストラクチュアリングをするのはやむ そういう「カオスの縁」を持つことが組織にとっては大 をえない。また,リエンジニアリングというのは機能主 義の発想で,作業工程の効率化を徹底して無駄を省く 事である。 自己組織化の条件の第 4 は,コントロール・センター ことであり,これも必要ならばやればいい。問題はその を認めないことです。中央司令室のような権威当局があ 先にある。不採算部門の切り捨てという意味でのリスト って,そこから指令を出して管理するようでは自己組織 ラクチュアリングを行い,さらに徹底した効率化でリエ 化能が発揮されません。例えば,組織メンバーが与え ンジニアリングを図った後,何をどうつくるのかというビ られた役割行動をきちんと遂行しているかどうかをチェ ジョンの問題が残る。組織の新しいリミーニング,つま ックして,忠告したり制裁を加えたりするようなセンター り意味づけ,方向づけがなされないと,企業はその先成 に多大な権限を与えないことです。つまり,個々のメン り立ちいかないのではないか。性能と品質の良いものを バーが計画的にではなく遂行的に行う行為によって自発 効率よく生産し,消費者が欲していない,ないし価格で 的な秩序形成がなされる力を大切にすることです。トッ 他国と勝負できない商品生産を廃止しさえすれば,企業 プダウンで決めて計画し管理するやり方に対して,各メ 組織が生き残れるほど現実は甘くありません。 リミーニングは意味の問題ですから,文化の問題で ンバーのボトムアップな遂行的行為のシナジーにより― 「こんなことをやってしまったのだけれども,おもしろい す。リエンジニアリングは効率の問題だから機能合理化 んじゃない?」 「そうだ,そうだ」といって多くの成員が の問題です。リストラクチュアリングは無駄なところを 同調することにより―自発的に秩序が形成されることも 切り捨てるのだから構造的合理化です。構造と機能の 結構ある。言語はその一例です。ほとんどの国の言語は 合理化をだけ行っても文化(意味充実)が貧弱ではそ 計画してつくられたものではない。各国民が遂行的に言 の先の方向性が見えないという感じになります。 語を使う過程で文法もできている。みなが使っているう 第 3 は,これからの産業のあり方にもかかわるのです ちにおのずから語彙ができて,文法もでき,時間ととも が,付加価値創造を促進する支援戦略が求められるこ に言葉遣いが変わったり文法が変わったりしてゆく。こ とです。付加価値創造はコントロールに不向きである。 ういうものがコントロール・センターを認めない変化の というのも,何が付加価値であるかは事前にわかってい 仕方であり,自己組織化にはこの営みが大事だというこ ないからです。付加価値のあるアイデアが事前にわかっ とです。 ていれば,目標を立ててそれを達成するために効率よく 管理すればいいのだけれども,それが何であるかわから 5.脱管理型のリーダーシップ ない状況下で,ああでもないこうでもないと考え,だめ 以上の条件を参考にして,脱管理型のリーダーシップ でもともとという覚悟で付加価値を探究していくのであ るから,その行為を支援するしかないわけです。その支 について考えてみたいと思います。 第 1 は秩序パラメーターの提示です。これは,ありて 援術がどれだけ組織の中に蓄えられているかが問題で いに言えば,組織ビジョンの作成に相当するものです。 す。管理学はごまんとありますが,支援学はまだ研究の 自己組織化を促すリーダーは秩序パラメーターを提示す 緒についたばかりです。管理はメンバーが組織目標を達 ることができなければなりません。つまり,組織の中に 成できるように舵取り(管理)すればいいのですが,支 起きているゆらぎを見きわめて,それらがシナジーして 援はとても難しいのです。支援は,被支援者の行為の 新しい秩序形成をするような触媒作用の能力を持たなけ 質を維持・改善するためにあるわけだから,自分中心に 考えるわけにはいかない。相手を支援するには,相手が ればいけないことです。 第 2 は,組織のリミーニング(再意味付け)です。先 ほど,メタモルフォーゼの話をした際,意味充実という どういう状況にあるかをモニターしてこちらの動きを変 えなければならないから,高度なノウハウを必要とする。 概念を取り上げましたが,組織文化の刷新とリニューア 管理学ではなくて支援学をどのように体系化していくか ルがどうしても必要です。私は,本当の意味で組織改革 が大きな課題になるでしょう 。 が達成されるためには,リストラクチュアリング(構造 −72− 2 第 4 は,異質な成員能力の社会的編集です。これか 組織活性化の条件 ら求められるのは管理以上に支援だと言いましたが,こ こうした力を発揮することによって企業が活性化するよ のことは組織の統合問題にかかわります。組織統合など うな組織へ転換するには,管理を越えたエンパワーメン と言うと,今どきの若者は「ええっ? 統合ですか。 」と トの仕組みを導入するほかありません。エンパワーメン いう感じになると思います。昨今は,合意形成を通じた トの仕組みが最優先課題ですが,それに加えてエディ 社会統合とか組織統合という状況にはありません。合意 ターシップも重要です。これらの導入を図ることができ 形成は大事なのですが,統合を前提とした合意形成は たら,おそらく管理型ではなくて支援型の組織になるは 時代遅れになっているのではないか。つまり,統合のた ずです。 めの合意というのは個性を削ることになります。みなが ポスト構造主義者のジル・ドゥルーズがベルグソンを 自分の思っていることをやりたいと言ったらまとまらない 解説した本の中で, 『創造的進化』の内容を次のように から,最大公約数を見つけるとか,我慢して自分の言い 解釈しています。持続とは差異を生ずるものであり,差 分を削って同意するということになるのだけれども,こ 異を生ずるものは,もはや他の要因との間に差異を生ず れからの経済活動で高付加価値商品を生み出すために るのではなく,みずからとの間に差異を生ずることであ はこうした営みは障害になる。各自別々で違っていてい ると。要するに,自分自身との間に差異を生ずるのが持 い。異質な状態であっていい。それぞれの持つ個性的 続なのだということです。ポストモダン論ではやった差 な能力を所与の前提として,それを押さえつけて同一化 異化という概念がありますが,自分自身の中で常に差異 するのではなく,組織をつくればいい。先ほどから何度 化を図っていくことが持続することであると考えられま も言っていますが,異質な能力,異質な個性を生かせ す。つまり,持続とは自己に対して差異を生ずることで るように,それらをうまく組み合わせて編集すればいい あり,それは自己変化であり自己組織化でもあることで のです。だから,リーダーシップにも編集能力が問われ す。 るのではないか。ソーシャル・エディターシップ(社会 ニーチェもベルグソンもどちらも生の哲学を探究した 編集の精神)とでも呼ぶべきものが新しいタイプのリー 人物ですが,私は彼らが述べていることを参考にし,そ ダーシップになると考えています。 れらを自己組織化の理論に取り入れてきました。 編集などというと,現状では,本をつくる編集者がす る仕事のようなイメージが抱かれがちですが,ここで私 おわりに が言いたいことは人間関係の編集ということです。人は 27 名で成り立っているオルフェウス楽団という有名な 個々ばらばらだと力が発揮できないのだけれども,上手 楽団があります。N 響とかベルリンフィルのような楽団 に編集すると,高い能力が備わったグループができ上が と違って,この楽団には指揮者がいません。ある楽曲を ると考えられます。書籍の編集者もそのようにして人を 演奏することが決まったら,その演奏の組み立てにもっ 集めて編集すべきでしょう。特にこれからは高付加価値 とも能力を発揮できるメンバーが指揮者になります。そ 商品をつくり出すためにそういう能力が問われます。そ してその人物が何人かの仲間を集めてグループをつく れはオーケストラのコンダクターに近い営みとも言えま り,練習をはじめとしてすべての段取りを整えます。そ す。例えば,ベルリンフィルは高い能力を持った楽器の して,また別の楽曲を演奏することになったら別の人が 演奏者からなりますが,彼らの奏でる音をどう編集する グループの長になり,うまくアレンジする。指揮者が持 かで,例えばカラヤンの音になる。まとめ方,編集の仕 ち回り制である。これで 20 数年,一流の楽団として世 方で同じ管弦楽団の奏でる音が違ってくるのです。現代 界で活躍してきました。要は,役割分業が最初から型に では,指揮者は作曲者よりも名声を博すようになってい はまっていないことです。指揮者と楽団員という役割分 ますよね。これは変だと思われる方もいるかもしれませ 業がなく,ローテーション制を採用しており,もっとも能 んが,そのくらい編集が大事になっているということで 力が発揮できる人を中心に仲間を集めて 5 ∼ 6 人で演 す。組織も,個性のあるさまざまな人材をうまく生かす 奏にかんする作業をすべてこなす。これを 1 クールとし ように編集する能力が問われると思います。 て,いろいろなかたちで繰り返す。組織が固定化して沈 最後に,ニーチェとベルグソンについてもう一度,発 言させていただきます。 殿現象が起きてしまわないようにするためです。持続し ているとはいつも変化していることですから,それに従 人間が本来持っている無限の可能性を引き出し,環 って組織の活性化が図られる。 境変化に右往左往することなく,内から爆発する内破 また,メンバーは自己の能力を高めるためにエンパ の力で絶えず生成変化を遂げること,これがニーチェの ワーメントを図ると同時に,組織の中で能力が発揮でき 『力への意志』の主張であると私は信じています。人が るように配置されないと組織はうまくいかない。組織が −73− 基調講演 経営行動科学第 23 巻第 1 号 先かメンバーが先かという議論がよくありますが,いう になったと危惧され,説明のためにミシンのたとえを使 までもなく双方が大事です。そういう意味で人と組織の われました。 もともと「ソーイングマシーン」がなまって「ミシン」 エンパワーメントが今後大事になるのではないかと思っ になったことからもわかるように「ミシン」は機械です。 ています。清聴ありがとうございました。 ミシンを使って着るものを,つくったりするのが好きな 注 1 人は,機械(ミシン)が相手でも,布を縫うとかいう目 Norden-Powers, Christo 1994 Empowerment: How to succeed with vision, leadership and change , Australia: The Business Library.(吉田新一郎・永堀宏美訳 エンパ ワーメントの鍵―「組織活力」の秘密に迫る 24 時間ストー リー 実務教育出版 2000) 2 支援の定義や考え方については,小橋康章・飯島淳一 1997 支援の定義と支援論の必要性 組織科学,30(3), 16-23;今 田高俊 1997 管理から支援へ―社会システムの構造転換を めざして 組織科学,30(3), 4-15;支援基礎論研究会編 2000 支援学―管理社会をこえて 東方出版,を参照。 的だけに使ってばかりいるだけではなくて,長くミシン を使おうと思って油を差したり,メンテナンスをします よね。三隅先生の PM(パフォーマンスとメンテナンス) 理論を思い出される人がいるかもしれませんが,平木先 生はタスクとメンテナンスを並べられたのです。大きい 組織がシステムを持ってタスクを達成しようとするとき, 人々と一緒にやるので,人々に対するケアとかメンテナ ンスも要るはずです。たとえ,相手がマシンでもメンテ をするのに,まして相手が人間ならば,それをメンテナ ンスしなかったらどうなるのでしょうかという話をされま した。ほとんどの方が,産業革命以降,人々が大事だと 金井 ありがとうございます。 思っていても,大量生産,大量消費のための仕組みをつ 今日のお話で一番印象に残った言葉は, 「生きている くり,システムをつくってきて,タスク中心にやることが システム」ということです。人工物だとか生きていない 行き過ぎたという発言をされます。ですから,その会社 システムと,人間が複数協働するときの生きているシス の部長さんタイプの人たちに,システム中心で能率ばか テムにはかなり大きな違いがあります。予期せずニーチ りやっていたらいかれない方がおかしいのであって,そ ェの「力への意志」とかベルグソンの「エラン・ヴィター ういう時代が来ているのだという話をされたのです。 後で皆さんにも自分の身の周りを考えてみてもらった ル」の話が出てきたのも非常にうれしかった。 経営学の中では,フレデリック・テイラーが 1911 年に らいいと思いますが,産業社会や経営のことを考える 『科学的管理法の原理』において,人がサボるのも人間 と,すぐに経営者が社員に対して,管理職が部下に対し の問題というよりもシステムの問題だという際立った考 てという関係を見てしまいます。親が子供に対して,先 え方をし,システム中心の思考をしました。タスク・マ 生が生徒に対しても,あらゆる場面でタスクが中心にな ネジメントがピープル・マネジメントに優先する,とい っています。子供が家に帰ってくるなりお母さんが「宿 う考えと実践です。今日の先生の主張は,それを逆方向 題しろ!」と言ったら,これはタスク中心ですよね。子 から見て,何もかも世の中全体がタスク志向でシステム 供が帰ってきたら, 「お帰り。今日はどんなことがあった 中心になってしまったので,もう一遍人間を先に置いた の?」 「遊びに行きたいの? それはいいね」とか言った 後で, 「でも,先に宿題をやっていった方がいいよ」だ 方がいいということでした。 今田先生がこのように強調され,私自身もまた,エド ったら,配慮(メンテナンス)とタスクの両方になります。 ガー・シャイン先生にならって,経営学 100 年の歴史を しかし,子供の顔を見るなり, 「今日はどうだった?」と 見ると,システムに寄ったり人に寄ったりというのが振 か言わずに「宿題しろ!」と言う。一事が万事タスク中 り子の要領で行ったり来たりしてしまっている状態だと 心になってしまっているので,この基調講演に今田先生 思っています。これとの関連で,私が真っ先に思い出し をお招きして私たちが学ぶべき点があるとすれば,普段 たのは,セルフアサーティブネスに詳しい平木典子先生 よりももうちょっと視点を高くし,視野を広くして社会全 という臨床心理学の先生が,会社の部長さん相手にスト 体を見たときにどんなことが起きているのかを,より長 レスマネジメントの話をされたときに,次のような話をさ い時間幅で考えたらどうか。しかも,哲学まで踏まえな れたことです。産業革命以降のより長い期間,1760 年 がら。 2000 年 5 月 24 日,慶應の三田のキャンパスに経営行 代から 250 年のスパンで見たらどうか。平木先生は,カ ウンセリング心理学者の立場から,産業革命以後,ビジ 動科学学会のお招きで私の恩師であるエドガー・シャイ ネス世界では,世の中全体が能率とか効率とかシステム ン先生がいらっしゃったときに 4 つのことを主張されま とかタスク中心にばかり行き過ぎたという認識をお持ち したが,そのうちのひとつが,先ほど私が申し上げかけ −74− 組織活性化の条件 た,産業組織心理学者として経営学の中の組織論の発 ますし,先生御自身もこの言葉を何度か今日触れられま 展の歴史を見ていると,システムの話と人間の話の両方 したので,そのように使われていました。ところが,本 が大事なのに,振り子が揺れるように行ったり来たりし 当にそれが持っている深みを考えたら,今は,エンパ ているということでした。皆さん御承知のように,テイ ワーメントというせっかくの考え方が,ものすごく軽い ラーが科学的管理法のもとをつくった後,MIT の人たち 意味で,言葉が一人歩きして,使われてしまっています がエルトン・メイヨーとかが来る前にホーソン工場に行 よね。例えば,皆さんが本屋さんに寄って,タイトルに ったときには照明実験をやっていたわけですから,基本 「エンパワーメント」という言葉が入っている本にどうい が人の話ではありませんよね。途中から,エルトン・メ うテーマがあるかをごらんになると,女性のエンパワー イヨーとかロイド・ワーナーとかフリッツ・レスリスバー メントとか高齢者のエンパワーメントと書かれているも ガーが来たおかげで,初めて人間が大事だと言ったわけ のがあるでしょう。少しダイバーシティーともかかわる です。ただ,レスリスバーガーの本を読んでいても,従 のですけれども,高齢者のエンパワーメントの場合は, 業員や作業者の人たちは職場に気持ちを持ち込むので まだまだ非常に力があり,65 歳で定年というのは変だか 感情の論理が大事で,それに対する配慮が要るけれど ら,もっと可能性もあるしいろいろな活躍の仕方がある も,管理職や経営者はコストの論理で動くと言っている というように,もう一度いい形で活躍してもらいたいと わけですね。ですから,初めて人間関係みたいなことを いうニュアンスで使われています。 発見した人でも,頭の中では結構タスクのことを思って 現場のエンパワーメントということが経営学関係で言 いるのです。また,偉大なハーバート・サイモンの人間 われるときは,決まったように,リッツカールトンだとか, に対する大きな理論がありましたけれども,その応用先 日本の会社だったらヤマト運輸ですね。現場の人に「任 のひとつとしてトム・マローンという人が意思決定支援 せた! 頑張れ!」と言うだけではなくて,情報とか支援 システムをコンピューターベースでやるときにサイモン とか応援の裏づけがあった上で「任せた!」と言う。そ の理論をどう使えるかというふうにやったので,またシ れだったら大分頑張りようが変わってきますし,今日の ステムの方に行ってしまいました。 自己組織化ではありませんけれども,1 人 1 人が工夫す ある意味では,1970 年代に経営戦略までプロダクト・ るようになります。ヤマト運輸のセールスドライバーは ポートフォリオ・マネジメントというかたちで分析的に 自分で予算を持っていますから, 「スキー宅急便が届い システマティックにできるというふうに行き過ぎて,例え ていません」と言われたら,その場でレンタルできるわ ば,本当は事業を起こしたいと思う人がいても,本社が けですね。ただ「任せた!」と言うだけではなくて,資 「それはやめておけ」というふうにスクリーニングする仕 源や情報の裏づけがあって真に元気づけるという意味 組みができてしまったのです。組織文化をもっと大事に 合いで「エンパワーメント」という言葉を使うことがあ した方がいいということのきっかけはエクセレントカン ります。 また,私は,自分が中年になるころに,中年に元気が パニーだったりシャイン先生の研究だったりしますが, その後,日本に負けかけたときに,日本が得意になって ないのはよくないと思って,ミドルのエンパワーメントに やっていたことをもっと並外れてうまくやろうと思って, 興味を持っておりました。今も継続して,社長ばかりで それを体系化することによって生まれたのがビジネス・ はなくてミドル・マネジャーの話もたくさん聞いている プロセス・リエンジニアリング(BPR)です。私は BPR のですけれども,一番私がこのままだと傷つくなと思っ がはやったときに,本屋に行って「ビジネス・プロセス・ たのは,ミドル・マネジャーでイノベーションを起こそう リエンジニアリング」という言葉がタイトルについた本 と思って頑張っている人です。決められたことを決めら を数えたら 28 冊ありました。そして,その本を手にして れた範囲でやっていれば疲れることはないのですけれど いる人の顔がみんな暗いのです。 「BPR というのがはや も,頑張る人ほど疲れるのですね。自分で少し大きな絵 っているらしいから検討してくれ。お客さんの審査に 2 を描いて,抵抗する人や反対する人がいる中で上司を カ月かかっていたのが 5 日でできるようになった会社が 説得してやっている人が疲れてしまっている。これはぐ あるらしいぞ」と言われたのでしょう。これは完全にシ あい悪いなと思っていたちょうどそのころ,ミシガン大 ステム,タスク,能率,効率の論理です。 で Ph.D. を取り,南カリフォルニア大に就職して 2 ∼ 3 それで人々が大きくやられてしまったので,次に経営 学の流れの中で出てきたキーワードが,今田先生が今日 年たったグレッチェン・スプライツァーが神戸で行った 会合で発表されたのがミドルのエンパワーメントでした。 フィーチャーされた「エンパワーメント」です。私は「エ 彼女は経営学分野の中でエンパワーメントを初期に言い ンパワーメント」を非常に志の高い,いい言葉だと思い 出した人の1人です。彼女の研究はものすごく素朴です。 −75− 基調講演 経営行動科学第 23 巻第 1 号 ミドル・マネジャーがお疲れだろうと思った彼女は,ミ このようなエンパワーメント中心の躍動的な神戸製鋼 ドル・マネジャーの人にどんなときにエンパワーメントさ のラグビーチームのようなものは私も大好きなのですけ れていると感じたかというストーリーを素直に聞く研究 れども,一度こういうチームが出てきましても,やがて をされました。1 人 1 人にとって,エンパワーされてい そうでないチームに敗れることがあります。例えば,か つては監督制がなかった同志社大学のラグビー部も,そ ると感じたことはかけがえのない経験なのですね。 全部 1 個 1 個ばらばらでいろいろなストーリーが出 の後,強烈な監督といいますかリーダーがいるような てくるのですけれども,キーワードが 4 通りありました。 チームに敗れてしまったということがあったと思うので 有能感,意味,自己決定,インパクトの 4 つです。まず, すね。早稲田大学に清宮監督という方がいましたが,そ ひとつめは,こんなことできるわけがないだろうと思って ういった監督が出てきたチームに敗れていくのを目の当 いたことがきちんとできるようになったというある種の有 たりにいたしまして,どうしてそのようになっていくのだ 能感です。すぐれているという嫌な意味ではなくて,本 ろうかと思ったのです。とても魅力を感じるのになぜ敗 気で頑張ったらできるのだという自信に近い意味での有 れるのかというあたりの御意見をぜひお聞かせいただき 能感です。次に,今やっていることに意味が感じられる たいと思います。 ということ。自分が会社の中でやっていることが何か社 今田 今のお話は,早稲田がどういうチームづくりをし 会の役に立っているのか,意味があるのかと思ったけれ ているのかよく知らないので,きちんとお答えできるか ども,そのプロジェクトをやっていたときには朝会社に 心もとないのですが,監督主導型のチームになっている 飛んでいきたいと思うぐらい意味を感じたというタイプ のですか。 のことです。3 番目は,しょせん宮仕えだからとミドル・ フロア 1 ええ,非常に。 マネジャーとして会社の中でいつも言われたことばかり 今田 神戸製鋼は今あまりよくないですよね。 やっていた人が, 「言い出しっぺのおまえがやれ」とい フロア 1 はい。 うかたちでとうとう自分で言い出したことをやるようにな 今田 監督をなくせばいいとか各人の能力をうまく編集 って,やっている中身を自分が決定しているのだと感じ すればいいと言っても,全部成功するとは限らないので 始めたというニュアンスのストーリー。4 番目はインパク すね。たまたまそれがうまくいったのが神戸製鋼の 8 連 トです。大学などでもそうだと思うのですけれども,中 覇だったのですが,その後,平尾誠二がジェネラル・マ 堅になったから何か意味のあることを一生懸命やりたい ネージャーになったころからちょっとおかしくなった。ジ と思うのに,できたと思っても線香花火のようなものに ェネラル・マネージャーというのは監督の上ですから, なってしまって波及効果がない。そういうようなことが そういうことになってちょっと活力が低下したということ あると,大規模組織は課長程度の力では変わらないの かと思います。 かななどと思ってしまいますが,そうではなくて,自分 早稲田の場合はどうなのか,調べてみないとわからな が始めたことにほかの部門が反応して,気がつくと全社 いのですが,管理型といっても,従来の管理型でないの に大きなインパクトを与えたというようなときに,のれん ではありませんか。昔の新日鉄釜石の例や,プロ野球で に腕押しではないという実感が持てたといった話です。 すと読売ジャイアンツの川上監督の管理野球は,もはや 私も自分が 40 歳ぐらいのころにグレッチェン・スプラ はやらないでしょう。管理されて自己実現もできないよ イツァー先生のその報告を聞いたので,有能感,意味, うなスポーツならやりたくないという感じになってしまう 自己決定,そしてインパクトという言葉を聞きながら, 可能性が強い。ですから,管理型でも,ある程度うまく 中年になったころに本当にいい仕事を続けられるような プレーヤーの自己実現やエンパワーメントができるよう に工夫したのではないですかね。多分それしかないと思 キーワードがまじっているなと思いました。 ここで残りの時間をもう一度皆さんにオープンにして, できたら短めに何回か御質問をいただき,先生にマイク うのですが。 金井 ありがとうございます。では,次の御質問をお願 をお渡ししたいと思います。御質問いかがでしょうか。 いします。 よかったら名前と御所属をおっしゃってお話しください。 フロア 2 非常におもしろいお話をありがとうございま フロア 1 とても興味深いお話をありがとうございまし した。山口大学の内田と申します。 人と組織のエンパワーメントということですけれども, た。所属はいろいろあるのですが,今日は日本産業カウ ンセラー協会所属とさせていただきます。橋本と申しま どうしてもわれわれは,特に経営学とかですと,もしか す。大学で哲学を専攻いたしましたので,ベルグソンの して私だけなのかもしれませんが,人と組織を完全に分 時間論をとてもなつかしく思いました。 離してそれぞれ独立の実態として捉えていくようなとこ −76− 組織活性化の条件 ろがあります。私は人事管理を研究しているのですけれ 流に成果主義で効率化の圧力をかけてやるというのも, ども,今日のお話を伺ってこのようなことを思いました。 この十数年うつ病や自殺が急増している状況を見ると, 例えば,会社が従業員の意思なく一方的に異動させ まずいと言わなければなりません。日本はもうひとつの たとしても,そこで能力開発がなされたり自分の新たな 「第三の道」を見つけなければいけない。欧米やアメリ 能力とか才能を見出したりして人が成長していくことが カとも違い,今までの日本的雇用慣行とも違う別の雇用 あります。つまり,人的資源は未開の潜在能力を持って システムです。それが自己組織化になると思うのです。 いる。その潜在能力を開花させるときに,個人だけが責 そういう状況だと思います。 任を持ってやるのではなくて,組織のシステムの力で開 金井 ありがとうございます。では,引き続きお願いし 花し,それがまた組織に影響を与えていくというような ます。 ことがあると思うのです。そうすると,どうしても今の フロア 3 日立造船の石井と申します。貴重なお話をど 経営学の主流では個人を中心に考えていくのですけれど うもありがとうございました。 今の先生のお話を聞いておりまして,マニュファクチ も,人と組織にはもっとダイナミックな関係があるので はないか。私の理解不足なのかもしれませんけれども, ュアリングを行う組織と高付加価値を生み出す組織とで 先生は人と組織の関係をどのようにイメージされている は異なるというふうに理解したのですけれども,現実の のか,もう一度簡潔にお話をいただけるとありがたいと 企業はその 2 つの機能を抱え持っていると思うのです。 思います。 そうすると,その 2 つの機能を持った単一組織が果たし 金井 よろしくお願いします。 て可能なのか,組織を分離して運営すべきなのか,ちょ 今田 なかなか難しい問題です。日本の会社の従来の っとそのあたりのお考えをお聞かせください。 人材育成というかエンパワーメントの仕方は,ジョブ 今田 とてもいい御質問です。日立や東芝や三菱など, ローテーションでいろいろな部署を担当させて能力を身 ビッグカンパニーであって従来はマニュファクチュアリ につけさせる,ないし企業内教育を実施するなど,企業 ング中心だったけれども,そのままだと立ち行かなくな に抱え込む方式でしたよね。私はそれではだめだという るということで随分事業再編がなされております。私の ことを暗に言っているのです。マニュファクチュアリン ところの社会人博士も,そういうことに関してどうすれ グ(製造工程作業)ならそれでいいのです。しかし,高 ばいいのかというテーマで学位を取って出ていきました 付加価値創造をねらいとする知識産業とか情報産業に が,現在は事業ポートフォリオと金融ポートフォリオの なったら,そのようなことで教えているよりも,教える側 理論が別々になっています。この両者を統合するポート が早くやってしまった方がいいわけです。要するに,大 フォリオ理論を彼は定式化したのです。ご質問の主旨は, きな機械をつくるときは,みんなが協力していろいろス マニュファクチュアリングを行う組織部門と高付加価値 キルアップしてやっていかなければいけないが,企業活 を生み出す組織部門を分離すべきか,単一組織で大丈 動の位相が変わっていて,特に日本の場合,マニュファ 夫なのかということですが,どの部門をどの程度の比重 クチュアリング分野で他国と勝負できる状況ではなくな にすればいいのかということでは処理できないほど,質 ってきていますよね。自動車でもすでに危なくて,人件 的に異なった部門間の問題ですのでとても難しいと思い 費面などから判断すれば他国の方が強くなっているので ます。 はないかという状況です。したがって,自動車にさらな このときに参考になるのは事業部制です。各会社が る高付加価値が必要になる。そうなると,企業内教育と かなり事業部制を採用するようになっており,大会社は かジョブローテーションでスキルアップさせるという悠 ほとんどが事業部制を採用しています。各会社には事 業本部長が必ずいて,事業ごとにひとつの組織体でや 長な方法では間に合わないのではないか。 企業内教育の場合,終身雇用と年功序列という日本 っています。300 人から 500 人ぐらいのサイズの事業部 的雇用慣行が安定していればいいのですが,今みたい ですと,その組織固有の方針でやっていくことができる に成果主義が強調されるようになると,OJT といっても のではないかと思います。そうではなくて,日立全体を 先輩が後輩に知識を伝授することはなくなるでしょう。 あるひとつの統一的な管理システムで運営するというの 下手をすると自分がほうり出されるかもしれなくなると は無理でしょう。それぞれの事業に個性がありますから, いうことで,スキルを下に伝達しないのです。日本的雇 それらを全体でどうまとめるかという知恵を出すのが執 用慣行にまた戻ればいいではないかという案もあります 行部の役割ではないでしょうか。各事業部の本部長は, が,そのためには,マニュファクチュアリングでないと 担当している事業のテーマについてどのように組織を編 だめではないかと思います。だからといって,アメリカ 集するかを考えるわけです。 −77− 基調講演 経営行動科学第 23 巻第 1 号 200 人程度の製造業中堅企業で,部長以上の役職を のスライドは見ないで」というのを入れたら,それは自 すべて廃止し,何かあれば常に会議をして決めるという 己言及ですね。 「このスライドを見ないで」というのを システムに変えて良好な営業成績を続けているところも 見た途端にアウトです。皆さんが高速道路を走っていて あります。一律に管理するシステムをすべての社員に適 「この標識は無視しろ」という標識があったら,読んで 用するというのは,ちょっともう無理だろうと思っていま いること自体が矛盾になります。このように,自分が所 す。 属する組織について言及したり構想したりするのは難し 金井 ありがとうございます。 いのです。 今日,せっかく先生がいらっしゃっている中で,レジ 私たちは,自分たちがつくり出したシステムだとか,1 ュメにはありませんでしたが,中心的なトピックの自己 個 1 個の社会システム,会社の制度の住人なので,そ 組織化に関しては先生御自身の御本がありますし,今田 れをどうつくるかというと難しい面があります。人間を 先生の理解に近い方向にいってはいない例だと思うので 先に持ってきたら,システムをつくる側の主体は人間な すけれども,経営学分野での応用ということを考えると, ので,人間がシステムをつくっているとなるわけですけ いっとき野中先生がゆらぎとか自己組織化ということを れども,いったんシステムをつくったら,人間はそのシ ステムの制約を受けます。ですから,その中での発想と 一生懸命なさっておられました。 その中の自己言及について申しますと,例えば日立 なるときには,自己言及ではなくて,いい意味でのスト グループに属している人が「日立の人たちはこういう行 レンジャーを招き入れるような試みをする。ちょっと変 動をするものだ」という議論をするのも大事ですけれど なやつが「この組織はおかしい」と言って入ってきたら も,自分が所属する組織の特徴をみずから言及してうま 大きく変えることができるというわけです。 今日のお話をお聞きになって先生の今後にも継続して く言い当てるのは非常に難しいのですね。物の本にはエ ピメニデスのパラドクスというのが必ず紹介されていま 興味を持たれた方は,少し頭が破裂するかもしれません すが, 「クレタ人の呪術師がクレタ人はうそつきだと言っ が,書名はここでは申し上げませんが,amazon を訪ね た」という,これを考えるとノイローゼになるわけです。 てもらって,今田先生のお名前で検索して,タイトルか クレタ人の呪術師が「クレタ人はうそつきだ」と言って らわかりますが,先生の本の中から自己組織性を扱って いるから,この人はうそつきだということになる。 「クレ いる書籍を読んでいただければと思います。 タ人はうそつきだ」というのがうそだとしたら,クレタ人 今日は,研究科長で大変忙しい中,この会合のために は本当のことを言っていることになる。本当のことを言 すばらしい話をしていただいてありがとうございました。 うのなら,この呪術師が「クレタ人はうそつきだ」と言 もう一度ゲストの先生に感謝をあらわしたいと思います。 っているのも本当になる。このようにぐるぐる回りますよ ありがとうございました。 ね。また,もしも今田先生が冗談でスライドの中に「こ −78−