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為替レートのボラティリティと情報変数

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為替レートのボラティリティと情報変数
資産価格の変動特性に情報が与える影響
:為替レートのボラティリティと情報変数
長崎大学経済学部 須斎正幸
長崎大学経済学部 森保 洋
<報告要旨>
1
はじめに
本稿の目的は、為替レートのボラティリティの特徴と市場にもたらされる情報流列の関
係を、市場の効率性を前提としたモデルで実証的に検証することである。Clark(1973)
の論文が発表されて以来、いわゆる資産市場における取引量と資産価格のボラティリティ
の関係が実証的に検証されてきている1。Lamoureux/Lastrapes(1990)はその成果をも
とに、分析対象の資産の収益率がホワイトノイズ過程で記述されるときには、その時系列
過程の特徴の一つとしてしばしば指摘される ARCH プロセスは、市場にもたらされる情報
流列が自己回帰過程に従うときにその影響を反映したものであると主張している2。この仮
説を検証するために、Clark(1973)は単調増加という特徴を持つ取引量を情報の代理変
数として採用し、分析を行っている。すなわち、効率的市場仮説を採用する場合、市場に
情報がもたらされると価格が市場に提示され(あるいは新たな取引がなされ)、その結果と
して一定期間における情報の流入回数が増加すれば取引量も増加するためである。
Lamoureux/Lastrapes(1990)は株式の収益率を用いて ARCH モデルを推計し、取引
量を条件付分散を記述する変数に加えることで ARCH 効果が消滅するかどうかをテスト
することで、上記の仮説を検証している。具体的には株式の収益率にホワイトノイズ過程
を当てはめ、GARCH(1,1)モデルを採用し、条件付分散の中に取引量を含めることで ARCH
項の有意性が低下ないしは棄却されるならば、取引量すなわち市場への情報の流入過程が
株式の収益率の ARCH 効果の源泉であると判断するという手順を踏んでいる。そこでは、
情報量の有意な影響が確認されている。その後の多くの研究では、Lamoureux/Lastrapes
(1990)ほど明確には取引量の影響は確認されていない。
本稿と上記の分析の相違は、対象とする資産が為替レートであるということ以外に、利
用しているデータの特性が異なる。すなわち、ここでの分析では tick by tick とよばれる
超高頻度観測データ(Ultra High Frequency data)を用いる。このデータセットにはク
1
Clark, P. K., “A Subordinated Stochastic Process Model with Finite Variance for
Speculative Process,” Econometrica, Vol.41, No.1, 1973, pp.135-155
2
Lamoureux, C. G., and W. D. Lastrapes, “Heteroskedasticity in Stock Return Data:
Volume versus GARCH Effects,” Journal of Finance, Vol.45, No.1, 1990, pp.221-229
1
オートされた ask と bid、それが入力された時間、市場、金融機関が含まれている。周知
のように、外国為替市場においては取引量のデータの利用可能性は限定されている3。上述
のようにこれまでの研究で採用されていた取引量はあくまで代理変数であり、情報の流入
流列の原データを用いることができれば Clark のモデルに即した推計が可能となる。超高
頻度観測データでは、任意の期間あたりの tick の回数を利用することができる。これは
Clark のモデルに整合的なデータである。さらに本分析では情報の流入のデータとしてい
わゆるヘッドラインニュースを用いる4。ここで用いるデータセットでは、ヘッドラインの
タイトル以外にそれが発信された時間がスタンプされているので、任意の期間あたりのヘ
ッドラインニュース数をその期間に市場に流入した情報として取り扱うことができる。
超高頻度データを用いる場合には、個別ディーラーの行動に注目した市場のミクロ構造
を考慮する必要がある。この場合、それぞれのクオートのタイミングや価格に影響を与え
る情報は、公的な情報と私的な情報に区別される。公的な情報としてヘッドラインニュー
スの期間あたりの数を用いる。それは、市場参加者すべてがこの情報を同時に閲覧できる
からであり、実際にディーラーはヘッドラインニュースのティッカーを自分のコンピュー
タの画面に表示させていたり、ディーリングルームにヘッドラインニュースを表示する電
光掲示板が掲示されていることが多い。私的情報のデータは一般に利用できない。外国為
替市場の私的情報としては顧客からの注文が一例として挙げられ、その価格プロセスに与
える影響が大きい可能性は Lyons(1996)において検証されている。市場が効率的である場
合、Clark が想定しているように情報が市場にもたらされたことに応じてクオートが入力
されると考えると、クオートのプロセス自体が情報の流入の代理変数となる可能性があろ
う。クオートのプロセスを情報の流入プロセスとして取り扱い、Easley/O’Hara(1997)は
株式市場を分析している5。本稿においても私的情報を含めた情報流入プロセスとして任意
の時間間隔における tick 数を用いることにし、一方公的な情報のデータとして任意の時間
間隔におけるヘッドライン数を用いることにする。
為替レートのボラティリティの分析において上記の手法を援用するためには、桑名・須
3
ダイレクトディーリングが認められていなかった時期の東京市場や R.Lyons の用いた特
殊なデータがある。
Lyons, R., “A Simultaneous Trade Model of the Foreign Exchange Hot Potato,” Journal
of International Economics, Vol.39, 1996, pp.275-298
4
ヘッドラインデータを市場への情報の流入として捕らえて、市場の反応を分析した論文
としてはつぎのものがある。
Mitchell, M. L. and J. H. Mulherin, “The Impact of Public Information on the Stock
Market,” Journal of Finance, Vol.49, 1994, pp.923-950
5
Easley, D., Kiefer, N., and M. O’Hara, “The Information Content of the Trading
Process,” Journal of Empirical Finance, Vol.4, 1997, pp.159-186
2
齊・川崎(2001)6で分析されているように為替レートがランダムな連続変数であるとの
仮定の基にモデルを構築する必要がある。本分析と同種のモデルとデータを用いたものと
しては須齊(1998)がある7。そこでは TelerateTM(ダウジョーンズ社)から提供された 1
ヶ月(1997 年 7 月)のデータを用いて、為替レートのボラティリティと情報の流入の関
係が分析され、データのインターバルによってはボラティリティの ARCH 効果は情報の市
場への流入によって一部は説明される可能性が報告されているが、Lamoureux/Lastrapes
(1990)に報告されているような明確な効果は確認されていない。
本稿では 1993 年 1 月 1 日から 9 月 30 日までの円ドルレート、同期間のヘッドラインニ
ュースを用いる。このデータセットは Olsen&Associates から提供を受けた HFD93 の一
部である。為替レートは ask と bid の単純平均を用いて、これをミッドレート(mid)と
よぶことにする。データの時間間隔は 2 時間、1 時間、30 分、15 分とする。イベントス
タディーの形式をとっている為替レートと経済指標の発表の関係を分析した成果からすれ
ば、その影響は短くて 5 分程度、長い場合は数時間後まで続くので、それらを考慮してこ
の時間間隔を選択する8。
2
モデル
為替レートが連続的な確率変数であると考えると、桑名・須斎・川崎(2000)で展開さ
れたモデルが適用でき、つぎのように記述することができる。
s t = µ t −1 + ε
t
(1)
ここでst は円ドルレートの対数差分、μt はst の過去の値が与えられたもとでの平均値、
εt は誤差項である。誤差項が GARCH(p,q)にしたがうとするならば、条件付分散はつぎ
のように表現できる。
6
桑名陽一 須齊正幸 川崎能典 「マクロ経済指標値の公表が外国為替市場に与える影
響」 『統計数理』 第 48 巻 第 1 号 2000 年 213-227 ページ
7
須齊正幸 『Ultra−High−Frequency データによるニュースと為替レートの関連に
Discussion Paper 長崎大学経済学部 No.9701 1998
ついて』
8
一連の Engle, Bollerslev, Goodhart の研究の他につぎのようなものがある。
Cai, J., Cheung, Yan-Leung, Lee, R. S. K., and M. Melvin, “”Once-in-a-Generation”
Yen Volatility in 1998: Fundamentals, Intervention, and Order Flow,” Working Paper,
Arizona State University, 1999
Ederlington, L. H., and Lee, J. H., “How Markets Process Information: News Release
and Volatility,” Journal of Finance, Vol.48, pp.1161-1191
Tanner, G., “A Note on Economic News and Intraday Exchange Rate,” Journal of Banking
and Finance, Vol.21, 1997, pp.573-585
3
ε
t
(ε
t −1
,ε
t−2
, K) ≈ N (0 , h t ) ,
p
ht =α 0 + ∑β iε
(2)
q
2
t −i
i =1
+ ∑γ
j =1
j
h
2
t− j
(3)
.
ここで、Clark(1973)、Lamoureux/Lastrapes(1990)にしたがうと、誤差項はつぎのよ
うに考えることができる。
nt
ε t = ∑δ
i =1
(4)
it
ここでδit はt期のsのジャンプの幅、nt はt期の情報の流入回数(すなわち情報の流
入量)である。効率的市場仮説のもとではこのδit は i.i.d.にしたがうものと扱うことがで
きる。δit が i.i.d.かつ平均が0、分散がσ2 であるときに、十分に大きなnt に対しては、
つぎのようにεt の条件付分布は表現できる。
ε t n t ≈ N (0 , σ 2 n t )
(5)
いまnt がつぎのような自己回帰過程にしたがうものと仮定する。
(6)
nt = k + b nt −1 + ut
ここでkは定数、ut はホワイトノイズである。つぎにΩt を以下のように定義する。
(
Ωt = E ε
2
t
nt
)
したがって、
Ωt = σ 2 n t .
このΩt の定義と(6)式を用いるとつぎの関係を得る。
∴ Ω t = σ 2 k + b Ω t −1 + σ 2 u t
(7 )
(3)式と比較すると明らかなように、情報の流入量nt が1階の自己回帰過程にしたがうと
きには、条件付分散は GARCH(1,1)過程にしたがうことになる。
これまでの展開から、情報の流入によってst のジャンプが発生すると考えられるならば、
st の GARCH 過程はnt の過程から生み出されることになる。すなわち、本稿で検討され
る仮説は、
「外国為替市場に流入する情報量が1階の自己回帰過程にしたがうときには、s
tの
GARCH 効果はこの情報量の特徴からもたらされる」ということになる。
この仮説を実証的にテストするために、条件付分散に情報量を表す変数を含めてモデルを
推計する。
もしも仮説が真であるならば、
情報の変数が有意に推計されると同時に GARCH
項は有意性が棄却されるであろう。すなわち条件付分散をつぎのように定義した
GARCH(1,1)モデルを推計して、パラメータの有意性によって仮説を検証する。
4
ε
t
(I
t
,ε
t −1
,ε
t −2
h t =α 0 + β1ε
t −1
,L) ≈ N (0 , h t )
(8)
(9)
+ γ 1 h t −1 + φ I t
ここで It が情報を表す変数である。仮説が採択されるためにはφが有意に推計されると
同時に、β1とγ1 の有意性が棄却されなければならない。
実証分析に用いるモデルは以下の三つである。
モデル1: s t = α
0
+ α 1 s t −1 + ε
s t = α 0 + α 1 s t −1 + ε
モデル2: where
モデル3: where
0
t
ε t ≈ N (0 , h t )
h t = β 0 + β 1ε
st =α
t
+α 1s
t −1
2
t −1
+γ h
t −1
+εt
ε t ≈ N (0 , h t )
ht = β 0 + β 1 ε
2
t −1
+γ h
t −1
+φ I
t
ここで It は情報の流入を表す変数である。モデル1はst が GARCH 過程にしたがわない
場合を表すモデルである。モデル 2 は情報変数を含まない GARCH(1,1)モデル、モデル 3
は情報変数を条件付分散の式の中に含むモデルである。
これら三つのモデルを用いて、実証分析はつぎのように進める。まずそれぞれのデータを
用いてモデル 1 を OLS により推計し、推計誤差に対して Engle により提案されている
ARCH テストを実行する。ARCH 効果を確認するために、モデル 2 によって ARCH モデ
ルを再推計する。本稿の仮説をテストするためにモデル 3 を推計し、モデル2の結果と比
較する。
5
3
推計および推計結果の考察
基礎統計量は 60 分間隔のデータのみの結果を確認する。それは、いずれのデータ間隔も
ほぼ同じ結果を示しているためである。
表−1 基礎統計量(60 分間隔データ)
RMID
NN
NQ
Mean
-0.000038
16.070
94.859
Median
0
13
86
Maximum
0.020
73
374
Minimum
-0.032
0
1
Std. Dev.
0.002
9.883
64.301
Skewness
-1.500
0.732
0.657
Kurtosis
44.064
3.006
2.982
Jarque-Bera
Probability
301971.8
0%
382.12
0%
307.51
0%
Observations
4275
4276
4276
RMID はミッドレートを用いた対数差分、NN はヘッドラインニュース数、NQ はクオー
ト数を示している。為替レートの対数差分の平均はゼロに近いという結果は、本稿のモデ
ル1を OLS 推計すると、α0 がゼロとなるというこれまでの多くの研究成果を示唆する事
実が示されている。いずれの変数も Jarque-Bera 統計量によれば正規分布にはしたがっ
ていない。他の時間期間のデータも、同様の結果となっている。
つぎに、本稿の仮説の前提である期間あたりのニュース数である情報変数の自己回帰
過程を確認する。ここでは NN と NQ に関して、1 階の自己回帰モデルを推計し、AR
項のパラメータの推計結果を掲載している9。
9
OLS 推計による推計誤差を用いて ARCH テストを実施し、ARCH 効果が検出されたために、
ARCH モデルによる再推計を行っている。
6
表−2 NN に関する 1 階の自己回帰モデルの推計結果
Data set Coefficient
Std. Error
z-Statistic
Prob.
120
0.906
0.0096
94.78
0%
60
0.702
0.01134
61.945
0%
30
0.703
0.007837
89.717
0%
15
0.566
0.006134
92.259
0%
表−3 NQ に関する 1 階の自己回帰モデルの推計結果
Data set Coefficient
Std. Error
z-Statistic
Prob.
120
0.869
0.0116
75.18
0%
60
0.652
0.0128
50.95
0%
30
0.759
0.0083
91.97
0%
15
0.793
0.0053
150.77
0%
表‐2、3 から明らかなように、NN、NQ ではいずれのデータセットにおいても、パラ
メータの値は異なるが、1 階の自己回帰過程が認められる結果となっている。(7)式で示さ
れたように、ニュース変数が 1 階の自己回帰過程にしたがうならば、本稿の仮説が成立す
る可能性がある。ヘッドラインニュースを確認すると、経済指標の発表の前後にはそれに
関するヘッドラインが掲載されたり、個別企業の決算情報がある程度重なるなどの特徴が
あることがこの自己回帰過程の源泉とも予想されよう。また、一日の中で季節性、すなわ
ち経済ニュースのリリースの時間にあるパターンが認められる可能性もこの原因の候補で
あろう10。
10
たとえばつぎの文献を参照。
Berry, T. D., and K. M. Howe, “Public Information Arrival,” Journal of
Finance, Vol.49, 1994, pp.1331-1346
7
表−4 実証分析結果のまとめの表
120
モデル
モデル3:AR(1)
β1
0.042*
γ
0.951*
β1+γ
0.993
φ
JB
3349.7
NN
0.268*
0.314*
0.582
4.4E-08*
2898.3
NQ
0.162*
0.548*
0.710
7.9E-09*
2258.8
*
0.952
*
0.993
*
モデル3:0RW
60
30
15
0.041
*
6671.0
0.587
4.4E-08
*
3030.9
7.9E-09*
2383.4
NN
0.268
0.319
NQ
0.164*
0.550*
0.714
*
*
0.985
0.755
-5.1E-08*
244566.1
*
232419.2
モデル3:AR(1)
0.056
0.928
NN
0.154*
0.600*
NQ
*
0.601
*
0.751
*
0.986
0.755
-5.1E-08*
245463.8
*
233372.2
0.151
*
モデル3:0RW
0.056
0.930
NN
0.154*
0.600*
NQ
*
0.601
*
0.751
*
0.953
0.878
0.151
*
モデル3:AR(1)
0.165
0.787
NN
0.250*
0.629*
NQ
*
0.601
*
0.752
*
0.886
0.875
0.151
*
モデル3:0RW
0.140
0.746
NN
0.252*
0.623*
NQ
*
0.601
*
0.752
*
0.951
0.151
*
646883.9
-6.6E-09
608930.1
-6.6E-09
31111.1
6.0E-10
-5.7E-09
30690.9
*
46117.4
26662.0
8.3E-11
-5.8E-09
29811.4
*
43624.8
モデル3:AR(1)
0.173
0.778
NN
0.150*
0.610*
0.760
-3.3E-08
106349.9
NQ
*
0.601
*
0.751
*
130585.7
*
0.951
0.760
-3.4E-08
104753.0
0.751
*
126059.0
0.150
*
モデル3:0RW
0.183
0.768
NN
0.150*
0.610*
NQ
*
*
0.150
0.601
139558.5
-6.1E-09
134514.1
-6.1E-09
*は 1%で有意であることを示している
表−4 は本稿の仮説検定の結果を示している。モデル 1 から 3 の推計結果は文章の最後に
掲載しており、その中から必要な情報をこの表にまとめてある。モデルの AR(1)はモデル
3 の推計結果であり、0RW は定数項を除いた式を推計した結果である。いずれのデータ
セットとも GARCH(1,1)モデルが AIC によるモデルセレクションの結果採用されている。
NN、NQ は条件付分散の中にそれぞれを含んだモデルの推計結果である。パラメータの記
号はそれぞれのモデルを参照されたい。
本稿の仮説からは、NN、NQ が条件分散の中に採用されるならば、それらのパラメータ
(ここではφ)が有意に推計されると同時に、GARCH 項(ここではβ1 とγ)は有意で
なくなることが予想される。Lamoureux/Lastrapes(1990)では GARCH 項は有意とな
8
らなくなっているが、その後の多くの研究では有意水準が低下したり、あるいはパラメー
タの値が低下する程度の効果しか検出されていない。表−4 ではこの効果はβ1+γの欄で
確認できる。モデルにおいて一番上の欄は情報変数を条件付分散に含めないモデルのβ1
+γの値が表示されており、その下にそれぞれの情報変数を条件付分散に含めたモデルの
パラメータの値が示されている。
実 証 分 析 の 結 果 、 す べ て の GARCH 項 は 有 意 に 推 計 さ れ て い る 。 し た が っ て 、
Lamoureux/Lastrapes(1990)のように、明瞭な形で情報変数が GARCH 効果を生み出
しているということは認められない。情報変数の有意水準を確認すると、30 分間隔、15
分間隔データでは NN は有意に推計されていない。NN は公的情報を代表するものと考え
ているため、公的情報のボラティリティへの影響は限定的である可能性が示唆されている。
一方指摘情報を含むより広い概念の情報変数である NQ はいずれのデータセットでも有意
に推計されており、この概念の情報はボラティリティへ安定的に影響を与えている結果と
なっている。
モデル 2 と 3 の GARCH 項のパラメータの値を比較すると、いずれのデータセットでも
情報変数を加えたモデル 3 の値のほうが小さい。これは、情報変数がボラティリティに影
響を与えている可能性を示唆する。Lamoureux/Lastrapes(1990)ほど明瞭に効果が現れ
ているわけではないが、その他の研究と同様に限定的な効果が検出されたといえよう。ま
た、情報を考慮したモデルを用いた場合でも、誤差項は正規分布にしたがわないことが
Jarque-Bera 統計量から明らかになっており、これも Lamoureux/Lastrapes(1990)
とは異なる結果である。
他の研究のファクトファインディングスに追加されるものとして、データ間隔の長さと情
報変数の効果の関係がある。中心極限定理にしたがってnt が十分大きいときに、(4)式か
ら(5)式の展開がなされる。本稿のデータセットの特徴は、同一の原データを時間間隔によ
って複数のセットが作られている。時間間隔が長くなるにつれてクオート数は単調に増加
する、すなわちnt が大きくなる。したがって、時間間隔が長いデータセットのほうが理論
的には本稿のモデルが当てはめられる可能性が高い。このことを前提として結果を確認す
ると、NN に関しては時間間隔が長くなればパラメータは有意に推計されるようになる。
NN、NQ ともにパラメータの大きさの観点からすると、時間間隔が長くなるにつれて
GARCH 項に与える影響は大きくなっている。この結果からすると、本稿のような分析を
行う場合には十分な取引が取引サイクルの中になされている必要があることが示唆されよ
う。
9
4
まとめ
本稿では、為替レートのボラティリティの特徴としてしばしば指摘される ARCH 効果が
市場への情報の流入によってもたらされるかどうかを、超高頻度観測データを用いて実証
的に検討した。本稿における情報変数は、任意の時間間隔あたりのヘッドラインニュース
数とクオート数が採用されている。前者は市場全体に同時に開示される情報であり公的情
報として理解される。効率的市場仮説を前提とするとすべてのクオートがインフォメーシ
ョンディーラーからのものであるため、あらゆるクオートがディーラー個人の私的情報を
含むすべての情報を反映するため、後者はより広い情報を含む変数と考えられる。
Clark(1973)やそれ以降の分析では任意の期間の取引量を情報の代理変数として用いてい
たため、価格と数量の内生性が問題となるために、近年の確率的ボラティリティの研究で
はこの問題を考慮したモデルの推計方法が導入されるようになってきているが、本稿の情
報変数はモデルに対して外生的に与えられているためこれらの問題は回避されている。
分析結果からはつぎのような考察が導かれている。まず、情報の市場への流入は資産価格
のボラティリティに影響を与える可能性が示唆される。しかし、そこでは安定的に効果を
与える情報の代理変数は任意の期間当たりのクオート数であり、公的情報の代理変数であ
るヘッドラインニュース数の効果は不確定である。さらに、中心極限定理との関係からは
データの時間間隔が長くなるにつれて情報変数の効果が大きくなる傾向がある。これらの
結果は、Lamoureux/Lastrapes(1990)ほど明瞭な結果ではないものの、Clark(1973)モ
デルが有意に推計されたことを意味する。
以上の帰結からすると、資産価格の変動特性を分析する際には情報の役割を勘案する必要
がある。資産やオプションの評価モデルにおいても、たとえば確率的ボラティリティモデ
ルなどのようなモデルにおいては、取引量以外の情報変数の利用可能性を考慮する必要が
あろう。また、市場参加者にとっても市場への情報量の変動が当該資産のボラティリティ
に影響を与えることが知られれば、それらを考慮していない価格評価モデルを採用してい
る場合には、情報量が急激に変化する場合にはモデルが過大評価や過小評価をしている可
能性を事前に予測することができる。また政策担当者が市場のボラティリティを監視して
いる場合には、情報量が急激に変化する際にはモデルが予想する以上の変化がボラティリ
ティに起こりうることを予想することができよう。
10
参考文献
1) 桑名陽一
須齊正幸
川崎能典
響」 『統計数理』 第 48 巻
「マクロ経済指標の公表が外国為替市場に与える影
第1号
2000
pp. 213-227
2) 須齊正幸 『Ultra−High−Frequency データによるニュースと為替レートの関連につ
いて』 Discussion Paper 長崎大学経済学部 No.9701 1998
3)須齊正幸
「資産価格の変動特性に情報が与える影響:為替レートのボラティリティ
と情報変数」 『クレジット研究』 No.25 2001 pp.53-76
4)須齊正幸 桑名陽一 「ニュースと外国為替市場」『九州経済学会年報』 1999 pp.30
−35
5)森保
洋
「日本株式市場におけるボラティリティと取引高の関係」
『東南アジア
研究年報』 長崎大学東南アジア研究会 2000 pp.81-100
4) Andersen, T.G., “ Return Volatility and Trading Volume: An Information Flow
Interpretation of Stochastic Volatility, “ Journal of Finance, Vol.51, 1996, pp.169-204
5) Berry, T. D., and K. M. Howe, “Public Information Arrival,” Journal of Finance,
Vol.49, 1994, pp.1331-1346
6) Clark, P. K., “A Subordinated Stochastic Process Model with Finite Variance for
Speculative Process,” Econometrica, Vol.41, No.1, 1973, pp.135-155
7) Easley, D., Kiefer, N., and M. O’Hara, “The Information Content of the Trading
Process,” Journal of Empirical Finance, Vol.4, 1997, pp.159-186
8) Ederlington, L. H., and Lee, J. H., “How Markets Process Information: News
Release and Volatility,” Journal of Finance, Vol.48, pp.1161-1191
9) Lamoureux, C. G., and W. D. Lastrapes, “Heteroskedasticity in Stock Return Data:
Volume versus GARCH Effects,” Journal of Finance, Vol.45, No.1, 1990, pp.221-229
10) Lyons, R., “A Simultaneous Trade Model of the Foreign Exchange Hot Potato,”
Journal of International Economics, Vol.39, 1996, pp.275-298
11) Mitchell, M. L. and J. H. Mulherin, “The Impact of Public Information on the
Stock Market,” Journal of Finance, Vol.49, 1994, pp.923-950
12) Omran, M. F., and E. McKenzie, “ Heteroscedasiticity in stock returns data
revisited: Volume versus GARCH effects,” Applied Financial Economics, Vol.10, 2000,
pp.553-560
11
個別データセットの推計結果
モデル
説明変数
rm id(− 1 ) 定 数 項
-0.0419
-0.000069
3.87%
13.53%
-0.0410
4.29%
-0.000067
15.13%
-0.0841
-0.000047
0.55%
29.95%
-0.0827
0.63%
-0.000040
38.48%
120分 間 隔 デ ー タ を 用 い た 推 計 結 果
AR C H 項
AR C H 項 G AR C H 項
NN
モデル1
O LS
モデル1
O LS
モデル1
O LS
モデル2
0.315
ARC H
0.02%
モデル2
0.315
ARC H
0.02%
モデル2
0.326
ARC H
0.02%
モデル2
0.326
ARC H
0.02%
モデル2
-0.0652
-0.000068
0.042
0.9502
ARC H
2.40%
7.88%
0.17%
0.00%
モデル2
-0.0640
0.042
0.9505
ARC H
2.67%
0.19%
0.00%
モデル2
-0.000063
0.042
0.9511
ARC H
9.99%
0.28%
0.00%
モデル3
0.041
0.9517
ARC H
0.25%
0.00%
モデル3
-0.0922
0.268
0.31417
4.42E-08
ARC H
0.08%
0.05%
0.06%
3.51%
モデル3
-0.1006
0.162
0.54808
ARC H
0.01%
0.09%
0.00%
モデル3
0.268
0.31921
4.36E-08
ARC H
0.08%
0.00%
3.52%
モデル3
0.164
0.55026
ARC H
0.15%
0.00%
1) rm idは ミ ッ ド レ ー ト の 対 数 差 分 で あ る
2) パ ラ メ ー タ の 値 の 下 の 数 値 は 帰 無 仮 説 の 棄 却 に 関 す る p-valueで あ る
モデル
説明変数
rmid(−1)
-0.0602
0.01%
-0.0597
0.01%
定数項
-0.000041
13.43%
60分間隔データを用いた推計結果
ARCH項
ARCH項 GARCH項
NN
モデル1
OLS
モデル1
OLS
モデル1
-0.000038
OLS
15.87%
モデル2
-0.1189
-0.000045
0.172
ARCH
0.02%
18.05%
0.03%
モデル2
-0.1186
0.171
ARCH
0.03%
0.05%
モデル2
-0.000045
0.144
ARCH
15.20%
0.29%
モデル2
0.143
ARCH
0.37%
モデル2
-0.0826
-0.000082
0.106
0.8269
ARCH
0.01%
0.87%
5.19%
0.00%
モデル2
-0.0904
0.056
0.9283
ARCH
0.21%
0.00%
0.00%
モデル2
-0.000023
0.057
0.9293
ARCH
30.53%
0.00%
0.00%
モデル3
0.056
0.9297
ARCH
0.00%
0.00%
モデル3
-0.0618
0.154
0.60040
-5.06E-08
ARCH
0.65%
0.51%
0.00%
0.65%
モデル3
-0.0603
0.151
0.60054
ARCH
1.25%
0.00%
0.00%
モデル3
0.154
0.60041
-5.08E-08
ARCH
0.48%
0.00%
0.98%
モデル3
0.151
0.60054
ARCH
0.00%
0.00%
1) rmidはミッドレートの対数差分である
2) パラメータの値の下の数値は帰無仮説の棄却に関するp-valueである
12
AIC
NQ
-9.3213
-9.3212
-9.3208
-9.4165
-9.4168
-9.4137
-9.4142
-9.4586
-9.4582
-9.45743
-9.45715
-9.4681
7.94E-09
0.00%
-9.5473
-9.4641
7.91E-09
0.03%
-9.5419
AIC
NQ
-9.8360
-9.8359
-9.8330
-9.8689
-9.8687
-9.8636
-9.8634
-9.9026
-9.9158
-9.91404
-9.91402
-9.8038
-6.55E-09
0.00%
-9.7791
-9.7999
-6.57E-09
0.00%
-9.7760
JB
統計量
18562.8
0.00%
18578.7
0.00%
19300.0
0.00%
3379.8
0.00%
3349.7
0.00%
3359.8
0.00%
3329.4
0.00%
6206.4
0.00%
6265.0
0.00%
6610.5
0.00%
6671.0
0.00%
2898.3
0.00%
2258.8
0.00%
3030.9
0.00%
2383.4
0.00%
JB
統計量
305167.7
0.00%
305171.9
0.00%
301971.8
0.00%
458509.3
0.00%
462482.2
0.00%
454250.2
0.00%
456334.3
0.00%
894396.4
0.00%
646883.9
0.00%
610690.3
0.00%
608930.1
0.00%
244566.1
0.00%
232419.2
0.00%
245463.8
0.00%
233372.2
0.00%
LM test
75.868
0.00%
75.587
0.00%
59.861
0.00%
0.384
53.55%
0.395
52.99%
0.570
45.02%
0.581
44.58%
5.911
1.51%
6.092
1.36%
4.819
2.82%
5.007
2.53%
0.207
64.94%
0.039
84.33%
0.233
62.96%
0.017
89.70%
LM test
5.060
2.45%
4.962
2.60%
4.110
4.27%
0.065
79.94%
0.064
80.03%
0.041
84.01%
0.040
84.24%
0.013
90.84%
0.007
93.49%
0.004
94.78%
0.004
94.84%
0.000
98.38%
0.000
99.07%
0.001
97.60%
0.000
98.28%
モデル
説明変数
rm id (− 1 )
-0 .0780
0 .00%
-0 .0778
0 .01%
30分 間 隔 デ ー タ を 用 い た 推 計 結 果
ARCH項
定数項
ARCH項
GAR CH項
-0.000019
1 3.29%
A IC
NN
モデル1
O LS
モデル1
O LS
モデル1
-0.000018
O LS
1 6.49%
モデル2
-0 .0780
-0.000019
0.1714 3
A R CH
0 .02%
1 1.19%
0.03%
モデル2
-0 .0778
0.1714 3
A R CH
0 .09%
0.05%
モデル2
-0.000011
0.3399 3
A R CH
3 9.07%
0.03%
モデル2
0.3406 4
A R CH
0.03%
モデル2
-0 .0837
-0.000029
0.1419 1
0.74388
A R CH
0 .01%
1 .88%
0.00%
0 .00%
モデル2
-0 .0847
0.1653 5
0.78719
A R CH
0 .01%
0.00%
0 .00%
モデル2
-0.000028
0.1410 4
0.74568
A R CH
2 .42%
0.00%
0 .00%
モデル3
0.1403 2
0.74574
A R CH
0.00%
0 .00%
モデル3
-0 .0909
0.2497 8
0.62853
5.98E-10
A R CH
0 .00%
0.00%
0 .00%
83.0 6%
モデル3
-0 .0780
0.1506 0
0.60101
A R CH
0 .00%
0.00%
0 .00%
モデル3
0.2520 0
0.62326
8.28E-11
A R CH
0.48%
0 .00%
97.6 3%
モデル3
0.1506 0
0.60098
A R CH
0.00%
0 .00%
1) rm idは ミッ ド レ ー ト の 対 数 差 分 で あ る
2) パ ラ メ ー タ の 値 の 下 の 数 値 は 帰 無 仮 説 の 棄 却 に 関 す る p-valu eで あ る
モデル
説明変数
rmid(−1)
-0.1516
0.00%
-0.1515
0.01%
15分間隔データを用いた推計結果
ARCH項
定数項
ARCH項 GARCH項
-0.000010
13.81%
-10.5 793
-10.5 792
-10.5 735
-10.6 796
-10.6 796
-10.6 937
-10.6 938
-10.7 803
-10.7 892
-10.7 754
-10.7 760
-10.7 816
-5 .73E-09
0.00%
-10.5 259
-10.7 765
-5 .75E-09
0.00%
-10.5 228
AIC
NN
モデル1
OLS
モデル1
OLS
モデル1
-0.000009
OLS
20.39%
モデル2
-0.1516
-0.000010
0.17143
ARCH
0.02%
11.37%
0.03%
モデル2
-0.1515
0.17143
ARCH
0.03%
0.05%
モデル2
-0.000009
0.17143
ARCH
17.95%
0.03%
モデル2
0.17143
ARCH
0.03%
モデル2
-0.1277
-0.0000044
0.17257
0.77968
ARCH
0.01%
49.32%
0.00%
0.00%
モデル2
-0.1273
0.17257
0.77820
ARCH
0.01%
0.00%
0.00%
モデル2
-0.00003
0.18258
0.76773
ARCH
73.52%
0.00%
0.00%
モデル3
0.18258
0.76795
ARCH
0.00%
0.00%
モデル3
-0.1533
0.14987
0.60983
-3.27E-08
ARCH
0.00%
0.00%
0.00%
30.82%
モデル3
-0.1519
0.15038
0.60109
ARCH
0.00%
0.00%
0.00%
モデル3
0.15043
0.60969
-3.41E-08
ARCH
0.48%
0.00%
39.62%
モデル3
0.15045
0.60103
ARCH
0.00%
0.00%
1) rmidはミッドレートの対数差分である
2) パラメータの値の下の数値は帰無仮説の棄却に関するp-valueである
13
NQ
NQ
-11.1132
-11.1132
-11.0902
-11.2248
-11.2249
-11.2206
-11.2207
-11.3492
-11.3494
-11.3370
-11.3371
-11.1098
-6.07E-09
0.00%
-11.0771
-11.0941
-6.11E-09
0.00%
-11.0635
JB
統計量
47690 .1
0.0 0%
47688 .8
0.0 0%
47114 .2
0.0 0%
37359 .1
0.0 0%
37360 .0
0.0 0%
43954 .9
0.0 0%
43934 .7
0.0 0%
26886 .7
0.0 0%
31111 .1
0.0 0%
26505 .6
0.0 0%
26662 .0
0.0 0%
30690 .9
0.0 0%
46117 .4
0.0 0%
29811 .4
0.0 0%
43624 .8
0.0 0%
LM te st
JB
統計量
156635.7
0.00%
156650.3
0.00%
178385.6
0.00%
170882.3
0.00%
170626.0
0.00%
163703.6
0.00%
163657.0
0.00%
140596.2
0.00%
139558.5
0.00%
134641.9
0.00%
134514.1
0.00%
106349.9
0.00%
130585.7
0.00%
104753.0
0.00%
126059.0
0.00%
LM test
561.8 25
0.00 %
559.7 40
0.00 %
628.4 76
4.27 %
3.63 5
5.66 %
3.66 4
5.56 %
0.11 7
73.1 9%
0.11 9
72.9 9%
7.60 6
0.58 %
5.50 8
1.89 %
9.13 8
0.25 %
9.58 4
0.20 %
0.24 2
62.3 1%
25.3 39
0.00 %
0.40 7
52.3 3%
27.3 83
0.00 %
1681.906
0.00%
1678.310
0.00%
2222.237
0.00%
4.052
4.41%
4.088
4.32%
9.953
0.16%
9.987
0.16%
5.293
2.14%
5.350
2.07%
8.855
0.29%
8.910
0.28%
62.485
0.00%
52.592
0.00%
95.493
0.00%
76.862
0.00%
<討論者からのコメント>
内閣府・経済社会総合研究所 堀 雅博氏
報告は、金融資産の収益率分布特性につき、分布混合仮説の観点に立ち、収益率の ARCH
プロセスが情報流入の自己回帰過程によりどこまで説明可能かについて、為替レートの超
高頻度データを用いて実証分析を行い、情報の市場流入パターンがボラティリティの特性
を部分的に説明できる可能性を示している。資産価格形成プロセスに係るマーケット・マ
イクロ・ストラクチャー・モデルに基づき、膨大なデータを分析した最先端の研究であり、
そこでのファクト・ファインディングには、今後の研究対象として、多くの可能性を含む
事実が明らかにされている。
資産価格形成に係る 90 年代以降の実証分析の状況を知る上で有益な報告であり、その
日本への応用、ファクト・ファインディングとして高く評価できるが、以下、3点につき、
更なる説明が望まれる。
1.検証対象となるモデルへの疑問
検証対象のモデルは、資産価格の ARCH プロセスが情報流入の自己回帰過程に起因する
というものであるが、①ここで言う「情報」が何を意味しているのか(
「価格変動を生じ
る原因≡情報」と定義するのであれば、分析がトートロジーにならないか)
、②なぜ情報
の流入が自己回帰過程に従うのか、等は先験的に明らかではない。
2.実証分析手法上の疑問
「情報」変数に何を用いるかが鍵になっており、先行研究の多くは取引量を、本報告で
は①単位時間当たりヘッドライン・ニュース数、②単位時間当たりクォート数を用いて
いるが、これらのうち②については、「情報→価格変動」という一方的因果を想定するこ
とは非現実的ではないか。例えば、取引に一定の固定費用がかかる場合、価格変動が大
きいことでそれがクリアされ、クォートが活発化すること(価格変動をニュースとして
クォート行動を採っている可能性)も十分考えられる。その場合、先行研究での取引量
の使用で指摘されている同時決定の問題がここでも同様に生じていることになる。
3.実用上の疑問
仮に、ARCH プロセスが情報の自己回帰プロセスから生じているとすれば、そのこと自
体は真理の解明として興味深いが、デリバティブのプライシング等、実用目的を考える
のであれば、ARCH なり GARCH とウィナー過程との区別がつけば十分であり、ARCH
の理由が情報流入のパターンに依存することがわかっても、これほどの超短期的関係で
は、応用の余地は余りないのではないか。
14
<討論者からのコメントに対する回答>
今回の報告論文を精読していただき、大変有益なコメントを頂き、感謝いたしておりま
す。以下、コメントに対するわれわれの見解を記します。また、これらの点は今回の原稿
に反映させて頂いております。
1に対する回答
① 効率的市場仮説を前提としているため、価格が市場に提示されるのは市場に情報がも
たらされることであり、価格自体はそれまでの情報をすべて含んでいるとも考えてい
る。また本稿では個別ディーラーの市場への価格入力行動を考えているため、すべて
のディーラーがインフォメーションディーラーであると想定し、個別ディーラーは合
理的期待のもとで行動していると考えている。
② 市場への情報の流入過程が自己回帰過程にしたがう理論的背景はない。ただし、これ
までの他の研究成果(Berry, T. D., and K. M. Howe, “Public Information Arrival,”
Journal of Finance, Vol.49, 1994, pp.1331-1346)や本稿の原データから、ニュースの
日次季節性や週次季節性が示唆されていること、大きなニュースのあとに関連するニ
ュースが続く可能性などがその原因とは考えられよう。
2に対する回答
価格がそれ以前のすべての情報を含んでいると考えているため、新たな情報が市場にも
たらされることで新たな取引ないし価格の入力がなされると想定している。何らかの固定
費を超過する価格変化があった場合でも、その価格に対応する情報が市場あるいはその価
格を入力するディーラーにもたらされたことが原因であり、その後に同様の変化幅の価格
の提示が連続的になされるかどうかは同様の価格変化をもたらすような情報が連続的に市
場にもたらされるかどうかに依存する。なぜなら価格はそれ以前の情報をすべて含んでい
るためである。不完全情報市場を前提とすれば大きな価格変化につづいてインフォメーシ
ョンディーラーやアンインフォームドディーラーが市場に大量に参入するというモデルは
すでに市場で認知されているが、本稿は効率的市場仮説を前提としているのでこのモデル
は本稿のそれとは整合的ではない。むしろ効率的市場仮説の成立自体をテストすることが
つぎのステップとして考えられ、そのための課題としてこのコメントに対して取り組みた
い。
また、為替取引の費用としては bid-ask スプレッドが考えられるが、本稿で用いたデー
タの原データでは、平均的なスプレッドである 10 銭を超える価格変化はほとんど起こっ
ていない。
15
3に対する回答
実務上の応用は当初から考えていなかったため、応用範囲についても今後の課題となる。
ただし、今回は 2 時間の間隔までのデータを扱ったが、確率的ボラティリティモデルの研
究では日次データにおいても同様の傾向が示されているため、今回の帰結が必ずしも超短
期の特徴であるかどうかは現時点では明らかではなく、これらの変数が価格評価モデルに
導入することができれば実務上の応用にもなろう。ただし、正確性を追求するあまり複雑
かつ不安定なモデルを推計するためのコストとそこから得られるベネフィットを考えると、
これらの成果がどこまで実務上ベネフィッタブルかどうかはわれわれには判然としてない。
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