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The IPSN Quarterly
東京都千代田区丸の内1-7-12サピアタワー10階
Tel:03-5288-5401
知的財産戦略ネットワーク株式会社 ニュースレター
2013年秋(第15号)
Intellectual Property Strategy Network, Inc. (IPSN)
第8回IPSN講演会開催
ファンドを活用した研究成果の実用化
~ライフサイエンス分野を中心として
2013年10月11日(金)、Bio Japan 2013会場にて、第8回IPSN講演会を開催しました。
近年、ファンドを活用した新たな事業創出を目指した取り組みが注目されています。政府は、国立大学の出
資規制を緩和してベンチャーファンドの設置を認め、大学発のベンチャーに投資できる仕組みを導入するため
の検討に入りました。また、ライフサイエンス分野では、2010年に官民出資の知財ファンド(LSIP)が設立され、
大学等の研究成果を知財面から実用化に向けた支援活動を積極的に展開しています。
ファンドには公的ファンドと私的ファンドがありますが、それぞれのファンドの目的とそれらを活用してアカデミ
アの研究に資金を投じ新産業の創出を活発化させるためには、どのような課題があり、また、その対策をどのよ
うに講じるべきでしょうか。
本講演会では、それぞれのお立場から我が国の将来を考えたソリューションについてお話しいただきました。
会場には80名を超える大学・研究機関、企業の方々が来場し、皆さん熱心に耳を傾けておられました。
講演者(敬称略)
【優れた基礎研究の成果を実用化するための政策】
(内閣官房 健康・医療戦略室次長)
菱山 豊
【ライフサイエンス分野におけるINCJの取り組み」】
㈱産業革新機構 専務執行役員
小宮 義則
【大阪大学におけるギャップへの取り組み】
大阪大学理事補佐 産学連携本部 総合企画推進部長 兼 知的財産部長・教授
正城 敏博
【モデレータ】
知的財産戦略ネットワーク㈱ 代表取締役社長
秋元 浩
■CONTENTS■■■
◆ファンドを活用した研究成果の実用化 第8回IPSN講演会報告
1
◆寄稿
米国における医薬品の承認、独占権、ライフサイクル、ジェネリック医薬品の競争戦略に関する手引き(Part 1)
ホーガン・ロヴェルズ法律事務所 東京オフィス フィリッペ リーゼン氏
8
◆Bio Japan 2013出展報告
15
◆INFORMATION
15
1
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
第8回IPSN講演会 ファンドを活用した研究成果の実用化
◆講演1
優れた基礎研究の成果を実用化するための政策
菱山 豊(ひしやま
ゆたか)
内閣官房 健康・医療戦略室 次長
■現状と課題
本日は、医療に関する研究開発をめぐる政策につ
いて説明しながら、問題点や今後の方向について話
をしたい。
日本の創薬の現状、とりわけ、がん領域の分子標
的薬の状況は、日本ではポテリジオなど、アカデミア
の研究も活用されてバイオ医薬品が出てきた。薬剤
の世界売上上位100品目では日本は第3位であり、
世界大手製薬企業の売上高を見ても武田薬品、ア
ステラス、第一三共、エーザイなど名を連ねているが
これら4社の研究開発費を合計しても米国の最大手
企業と比べると規模が小さい。研究開発費は他の産
業に比べて高額であり、知識が集約された産業であ
り、国の科学技術力を反映する産業であると考える。
実用化をめぐる論点としては、以下のことが考えら
れ、なかなか成果に結びついていないことがあり、課
題は多い。
日本のライフサイエンスの基礎研究のレベルは比
較的高いと言われているが、大学等の基礎研究の
成果が医療や産業に結びついていない。
日本は有力なベンチャー企業が少ない。
創薬の研究開発費は膨大であり、社内だけの研究
開発は困難であり、今後はオープンイノベーション
が必要ではないか。
医療費を含めた社会保障費の抑制とライフイノ
ベーションの推進をどう両立させていくか。
基礎生命科学の分野でも日本の国際的競争力は
低下している。日本の基礎生命科学分野の論文数
は減少しており、10年くらいの間に順位を落として
いる。
基礎研究から実用化までの道筋は長く、最初の論
文から上市まで10年から25年の長期間を要する。
■医療分野の研究開発に関する政策の最近の
動向
平成25年6月14日に閣議決定された「日本再興
戦略」は特に科学技術・医療について強化しようとい
うものであり、政府の強力なリーダーシップにより、①
医療分野の研究開発に関する総合戦略を策定し、
2
重点化すべき研究分野とその目標を決定するととも
に、②同戦略の実施のために必要な各省に計上さ
れている医療分野の研究開発関連予算を一元化
(調整費など)することにより、司令塔機能の発揮に
必要な予算を確保し、戦略的・重点的な予算配分を
行う。また、一元的な研究管理の実務を担う独立行
政法人を創設するなど、日本再生戦略の中で医療を
めぐる研究開発について私が所属する内閣官房・健
康医療戦略室でこの課題を検討しているところであ
る。
同日に纏められた「健康・医療戦略」には、研究開
発の推進だけでなく新たなサービスの創出、新技術
サービスの基盤整備などかなり広範に亘る。ITC(情
報通信技術)技術による効率的・効果的な医療サー
ビスの整備なども検討し、医療技術・サービスの国際
展開も充実させる。
■健康・医療戦略推進本部の設置について
本年8月、内閣に健康・医療戦略推進本部が設置
された。内閣総理大臣が本部長となり、健康・医療分
野の成長戦略の推進、医療分野の研究開発の司令
塔機能の役割を果たす。健康・医療戦略参与は、産
業界・医療関係機関等の有識者で構成されており、
本部に対して政策的助言を行う。医療分野の研究開
発に関する専門委員会は、医療分野の研究開発に
関する専門家で構成されており、本部に対して専門
的・技術的助言を行う。
推進本部では医療分野の研究開発の総合戦略策
定、研究開発の司令塔として一元的な予算調整を行
う。また、一元的な研究管理を行う独立行政法人を
作り、各省からのお金を集めて研究者・研究機関に
配分される研究費及び当該研究に係るファンディン
グ機能を独法に集約し、基盤整備を行う。基礎研究
から応用段階にスムーズに持っていけるように今独
法の制度設計をしているところである。
今後のスケジュールは1月に医療分野の研究開発
に関する総合戦略を策定し、関連法案の成立を目
指す。
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
■医療分野の研究開発関連予算の要求の基本
方針(概要)
推進本部で各省束ねた一元的な予算調整を実施
する。各省連携プロジェクトとして、がん、精神・神経
疾患及び感染症などの疾病領域ごとに取組む。再
生医療・ゲノム医療などの最先端医療の実現に向け
た取組みも行う。PDCA(Plan Do Check Action)を徹
底し、各省は施策の効果・効率性を検証し、その結
【ご略歴】
1985年(昭和60年)
2001年(平成13年)
2007年(平成19年)
2013年(平成25年)
3月
1月
1月
4月
果を推進本部に報告する。推進本部はその報告内
容を検証して、確実に翌年度の一元的な予算要求
配分に反映させる。
検討を始めたばかりであるが、日本版NIHなど急速
に実施に移せるように進めている。今後も課題を克
服しながら、進めていきたい。(了)
東京大学医学部保健学科卒業、4月 科学技術庁入庁
文部科学省研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室長、
文部科学省研究振興局ライフサイエンス課長等を経て、
文部科学省大臣官房審議官(研究振興局)、内閣官房健康・医療戦略室次長
iPS細胞などの幹細胞研究や再生医学研究をはじめ、ゲノム、タンパク質、脳科学等の研究の振興、バイオリソースや
ライフサイエンスデータベースなどの基盤整備などライフサイエンス分野の研究の振興政策に力を注いだ。政策の立案
や実行の過程では、国会、関係府省、学界、産業界などの様々な関係者(ステークホルダー)等との調整を行った。ま
た、その顛末や理論的な見通しをまとめた「ライフサイエンス政策の現在」(平成22年勁草書房)を著した。
◆講演2
ライフサイエンス分野におけるINCJの取り組み
小宮
義則(こみや
株式会社産業革新機構
㈱産業革新機構(INCJ)は、ライフサイエンス分野
について色々と新しい取り組みを行っているので、今
日この場をお借りしていくつかの取組みをご紹介した
いと思う。
■ INCJの概要
INCJは政府出資・政府保証枠・民間出資を合わせ
て投資能力としては2兆円あり、ベンチャーキャピタ
ルとプライベートエクィティ(PE)ファンドを合体した世
界でも稀有のファンドであるので、小さい投資から大
きいものまでいろいろ行っている。
通常のファンドと異なり産業革新がミッションであり、
5~7年という長期に投資を行い、IRR(内部収益率)
よりは企業価値を高めるというところを重視している。
基本理念は、オープンイノベーションを通じて次世代
の国富を担う産業を創出することであり、ここでいう
オープンイノベーションの定義は広くとらえ、特許だ
けでなく人材、アイデア、販売ネットワークにも及ぶ。
したがって、日本企業や大学が自前主義にこだわる
ことなく皆がさまざまなリソースを出し合ってそれを組
み替えることによりイノベーションの実現をしていこう
というのが当社の定義しているオープンイノベーショ
ンである。
よしのり)
専務執行役員
投資基準は3つある。1つ目は健康・長寿社会の実
現等の「社会的ニーズ」への対応であり、ライフサイ
エンスがターゲットの1つとなってくる。2つ目の成長
性は、①新たな付加価値の創出等が見込まれること
(INCJは再生案件はやらないということ)②民間事業
者等からの資金供給が見込まれること(INCJは他の
事業会社、ベンチャーキャピタル(VC)、PEと共同
投資をする。国の資金を丸抱えで投資をすることは
ない)③取得する株式等の処分の蓋然性が高いこと
(最大7年先には当該プロジェクトのキャッシュフロー
が完全に見えていること)である。色々な案件が持ち
込まれるが、①~③のいずれかに引っ掛かり投資を
出来ないことが多い。
3つ目の革新性は、①先端基礎技術の結集及び活
用。大学発の技術をいかに事業展開していくかという
ことである。大学のアーリーな技術でもINCJが当初
からハンズオンで入ったほうが上手くいくこともあるか
ら、最近はアーリーステージの案件にも積極的に投
資している。②ベンチャー企業等の経営資源の結集
及び活用。今①、②については、政府からも投資の
ペースを上げて欲しいとの要請もあり、これら案件は
ペースアップを図っている。
3
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
第8回IPSN講演会 ファンドを活用した研究成果の実用化
③事業再編。Japan Displayやルネサスなど大型案
件がこれにあたる。④海外展開。海外企業のリソース
を押さえにいくこともオープンイノベーションに含めて
考えている。
投資対象となるセグメントは、あらゆる分野に投資
が可能であり、格安航空のpeachにも投資している。
投資案件に対する評価軸は①収益性、②実現可
能性、これは民間のファンドと同一だが、第3の軸、こ
れはINCJ独自のもので先ほどの革新性にも通じると
ころであるが、③投資インパクトである。投資インパク
トがあるかどうかが官民ファンドの一つのポイントであ
り、産業の革新という命題に対して具体的なものが出
せるかということで①~③のバランスで投資案件を決
めている。
INCJ設立から丸4年経つが、2013年9月末の公
表ベースの投資実績は、48件(6,594億円)にのぼる
類型別のベンチャー企業投資実績は、①大学研究
機関発ベンチャーで13件、②地域資源等を活用し
た創業・第二創業で12件、③大企業からのスピンア
ウト・カーブアウトで3件、④新事業展開のプラット
フォーム構築で8件となっている。
民間ファンドとの違いは、民間ファンドだけでは3年
でEXITしなければならないのが相場であるため、ど
うしても無理をする場合がある。ライフサイエンスの分
野でも上場を急がせた結果、上場した後が大変苦労
されていることが結構ある。INCJは5年~7年に投資
期間を延ばす代わりにじっくり育ててメガベンチャー
を作っていくのが狙いである。
■ライフサイエンス分野における取組み
ライフサイエンス分野では資金だけでなくノウハウ・
ネットワークを提供してライフサイエンスベンチャーの
成功事例を生み出していく。これによって起業家、投
資家・支援人材を増やして業界全体に好循環を作り
出すというのが我々のやろうとしていること。
ライフサイエンスの投資対象分野は、広くに亘る。
大きく分けて①革新的創薬、②組織・細胞を使った
治療法、③医療機器、④ヘルスケアサービスの4つ
の領域がある。ライフサイエンス領域のベンチャーの
産業上の役割は製薬企業等への「橋渡し」という基
本的考えから、技術または事業が製薬企業等へExit
可能かがポイントとなる。ライフサイエンス系に限らず
ベンチャーについて申し上げると「ビジネスモデルの
4
確立度またはその可能性」、「経営体制の充実度ま
たはその見込み」この2つの部分が欠けている事例
が極めて多い。つまり、技術は非常に素晴らしいがど
うやってお金儲けに結び付けるかというところがない
まま、持ち込まれてる。上手くいかずに投資に至らな
かった例が多い。
■最近のライフサイエンス分野の投資案件
1.Orphan Disease Treatment Institute
第一三共が筋ジストロフィーの薬を作りたいがリスク
が大きいため、疑似ベンチャーを作って同社は人を
出向、技術は大学から、お金は産業革新機構と三菱
UFJキャピタルからと、皆がそれぞれのリソースを持ち
寄って筋ジスの薬を作るというプロジェクトである。
米国であれば本来であればベンチャー企業がやる
べきところであるが、日本では製薬企業がベン
チャー企業のM&Aをすることが少ないため、疑似ベ
ンチャーを作るというやり方を考えた。
2.アクアセラピューティクス
BONAC CORPORATIONという化学系のメーカー
がボナック核酸の技術を持っていたが、これをライフ
サイエンスに応用して核酸医薬、具体的には糖尿病
網膜症やアトピー性皮膚炎に有効な薬を作っていこ
うということで、九大・東京医科歯科大・佐賀大の共
同研究開発・技術移転を受けながらINCJ以外にも
地域ベンチャーや三菱UFJキャピタルなどの出資も
受けて開発を進めていくものである。
3. PRISM Pharma
たんぱく質相互作用を制御する化合物を用いた治
療薬の開発。がん領域については既にエーザイにラ
イセンスアウトをしているが、更に非がん領域(肝硬
変など)に有効な薬を開発していこうというものである。
4.メガカリオン
iPS細胞を用いた血小板製剤の開発。iPS細胞はが
ん化のリスクがあるが、これは血小板なので核がなく
がん化のリスクがない。京大iPS細胞研究所、東大医
科学研究所が共同開発した技術をベースにしたメガ
カリオンというiPSベンチャー企業があり、これにINCJ
が出資した案件である。
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
■LSIPについて
IPSNが運営しているLSIP(ライフサイエンス知財
ファンド)にINCJが出資している。大学・研究機関か
ら知財を集めて仕立て直しライセンスアウトするという
のがビジネスモデルになっている。2013年9月末現
在で特許が71ファミリー集まり、当初の目標を超えた
ところまで来ている。案件事例では、大腸がん検出で
3件、創薬(エイズワクチン)で3件などがある。活動開
始から3年経ったところであるが残りの4年間は数多く
のライセンスアウトを期待している。
これまでの活動からの教訓として、TLO等の技術移
転機関に配慮しなければならなかったり、不実施機
関であることへの警戒感があったりして知財を提供し
ていただけない場合があった。また、提供してくれる
場合にもサブライセンス付通常実施権を希望される
ところが多かった。LSIP営業者であるIPSNには、目
利き力、製薬企業とのネットワークを活用した運用を
行っており、今後のIPSNの活躍に期待している。
(了)
【ご略歴】
1984年(昭和59年) 3月 東京大学経済学部卒業
1984年(昭和59年) 4月 通商産業省(現経済産業省)入省
経済産業大臣秘書官(事務取扱)、経済産業政策局産業資金課長、内閣官房内閣参事官(副長官補付)、資源エネ
ルギー庁総合政策課長、大臣官房審議官(経済社会政策担当)等を経て、
2012年(平成24年) 7月 ㈱産業革新機構専務執行役員に就任。
◆講演3
大阪大学におけるギャップへの取り組み
正城 敏博(まさき
としひろ)
大阪大学 理事補佐
産学連携本部 総合企画推進部長
兼 知的財産部長・教授(博士(工学))
■ GAPとは
大阪大学が新たに設立したギャップファンドついて
いわゆる出資(投資)だけではなく、研究成果の技術
成熟度と企業ニーズを両軸にとって、実用化への
ギャップを埋めるという活動を紹介させて頂く。全分
野に亘る話であるが可能な限りライフサイエンスにつ
いてもフォローしながら進めていきたい。
大学は基礎研究を中心に行っているが、その研究
成果を実用化していこうという動きが法人化を契機に
深まってきた。大企業の研究所と大学の共同研究と
いう形式は従来から行われているが、それ以外にも、
まだ企業と一緒に進めるには早いステージのもの或
いは、その段階では事業として成立が見込めておら
ず、先ずベンチャーで実用化までのプロセスを踏ま
えて既存企業に繋げていくという場合などがあり、
アーリーなステージ・新しい分野になればなるほど企
業に繋げて行くにはギャップが広がって行く。
では、ギャップとは何かであるが、大学の技術を産
業化する、あるいは事業化するパートナーへ繋ぐま
でがキャップと考えている。大学の技術を企業に繋
いだけれど、何らかの課題があってなかなか産業化
できないということをよく経験しているが、このギャップ
を大学側の技術移転部門でも可能な限り埋めて行
かなければならないと考えている。
■大阪大学の取組み
大阪大学の企業とのギャップを埋める取組みとして
特徴的なところをお話ししたい。
本学では、大学全体の方針である「未来戦略」の一
環として「Industry on Campus」を掲げ、委託研究(共
同研究)、組織連携、共同研究講座、さらに2011年
からは共同研究講座の発展系として協働研究所シス
テムを構築しつつある。
共同研究講座は、産業化を見据えた研究内容・期
間、研究スタッフの配置、知的財産等について、大
学と企業が協議して講座を運営している。協働研究
所とは、企業の研究組織を大学内に誘致し、多面的
な産学協働活動を展開して行く拠点であり、企業と
大学が共通の場であらゆる面で相互に協働して、研
究成果の産業化を指向するとともに併せて人材の育
成も目指していくシステムである。2011年7月から2
012年10月までに5拠点が設置されており、最低3
年間は継続される。
5
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
第8回IPSN講演会 ファンドを活用した研究成果の実用化
大学の技術移転におけるギャップとしては、ター
ゲ ッ ト に す る ス テ ー ジ に つ い て は Translational
Research(TR)、概念検証(Proof-of Concept(POC))
Business Formation(BF)またはBusiness Growth(B
G)の課題が、また出口については既存企業への技
術移転あるいはベンチャーの起業の課題がある。
ギャップファンドの資金源としては、公的資金(政府
~地方自治体)、私的資金(企業~VC)あるいは大
学独自の資金があり、ファンドサイズやリターンにつ
いてはそれぞれの特性に基づき、また、ファンドの運
営体制および評価体制についはそれぞれの基準に
従って実施されている。
概念検証の本学の例としてiPoC(Industrial Proofof Concept)プログラムについて説明する。プログラム
エントリー37件に関して外部アドバイザーがプレ審
査を行い本申請11件、次いで本審査11件のうち実
施 計 画 段 階 で 8 件 に 絞 り 込 み 、 阪 大 U I C ( Gap
Fund)から計1,500万円が提供されハンズオン支援と
なる。この過程でJST、STARTあるいは他の公的資
金を申請することもある。本プログラムは、外部アドバ
イザーによるコメントや、産学連携本部から企業・投
資家にニーズの有無等をヒアリングした結果を実施
計画に反映させることにポイントを置き進めている。
■ギャップファンドの成功事例
阪大UIC(Gap Fund)の具体的な成功事例を紹介
する。
・バイタル情報センシングシステムの試作開発
本件は、当初、救急分野だけでなく、血糖値測定
の機能も付加することを計画したが、外部アドバイ
ザーからの「救急医学での認知向上、あるいは企業
の血糖値測定にはフィットしない可能性あり」とアドバ
イスを受けて、企業ヒアリングを行い計画内容を軌道
修正した結果、試作機提供先が増えるとともに平成2
4年度の文部科学省サイバーフィジカル事業に採択
された。
この他にもライフサイエンス関係で、製薬企業との
共同研究・ライセンスに結び付いた案件もあり、有識
者で構成される外部アドバイザーによる客観的な意
見が計画を遂行するうえで大きな役割を果たしてい
る。
■新産業創出共同ユニット
次いで、本学が進めている “新産業創出共同ユ
ニット”について説明する。
本ユニットの目指すところは、①革新的技術シーズ
6
によりグローバル市場を目指す、②既存企業ではリ
スクを負えないポテンシャルの高い技術シーズの事
業化に挑戦する、③シード・アーリー段階にも民間資
金を呼び込むことにより、基礎研究と事業化の間に
存在する研究開発の死の谷を克服する、④参加各
社が一定のコストを負担しつつコストに見合うメリット
を得ることで持続的なシステムを構築することである。
ユニット体制としては、産学連携本部総合企画推進
部が中心となり、外部機関として、文部科学省(JST)
START事業に採用されている事業プロモータをは
じめとした複数のVC・銀行・監査法人が参画してユ
ニット組織を構成し、本学のシードの初期段階にお
いて、事業化に向けた第一歩として進むべき方向を
議論・支援している。
■官民イノベーションプログラム
最後に、今後の動きとして、官民イノベーションプロ
グラムについて紹介する。
平成25年1月11日に「日本経済再生に向けた緊急
経済対策」が閣議決定され、実用化に向けた官民共
同の研究開発を推進するために、総額1,000億円出
資が決まり、本学には166億円が配分された。
これは、国立大学自らが、世界最高水準の独創的
に研究開発に挑戦し、その成果を新産業の創出にま
でつなげていくことにより、我が国社会の発展に寄与
する機能を抜本的に強化することが必要であるという
ことである。現在、文部科学省が中心となり、プログラ
ムの進捗管理やフォローアップを実施するため、国
立大学法人評価委員会に官民イノベーションプログ
ラム部会を設置して検討している段階である。
各大学と競争・共創しながら文科省とも協力してこ
の制度が上手くいくように持っていければと考えてい
る。(了)
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
【ご略歴】
1993年(平成 5年)
1995年(平成 7年)
1997年(平成 9年)
1997年(平成 9年)
2000年(平成12年)
2002年(平成14年)
2004年(平成16年)
2004年(平成16年)
2008年(平成20年)
2011年(平成23年)
大阪大学 工学部 情報システム工学科 大学 卒業
大阪大学 工学研究科 情報システム工学専攻 修士 修了
大阪大学 工学研究科 情報システム工学専攻 博士 終了
大阪大学大学院工学研究科 助手
大阪大学大学院工学研究科 講師
大阪大学先端科学技術共同研究センター 助教授
大阪大学先端科学イノベーションセンター 助教授
大阪大学知的財産本部(兼任)
大阪大学先端科学イノベーションセンター 教授
現職(理事補佐は2012年より)
講演終了後の質疑応答では、アカデミア発ベンチャーの仕組みづくりや公的・準公的ファンドの投資インパ
クトについて、研究シーズの育て方などの質問が出され、活発な議論が交わされました。
◆モデレータ おわりに
秋元 浩(あきもと ひろし)
知的財産戦略ネットワーク㈱ 代表取締役社長
LSIPファンド運営合同会社 職務執行者
本日のそれぞれのご講演から、「ファンド」のいろいろな形、パターンや理念を見ることができた。これは、研
究成果の実現に向けた選択肢が増えてきたことを意味し、大学にとっても今までの科研費、補助金等だけで
なく、大学発のベンチャー、あるいは事業というものができる環境になってきたように思う。
皆さんも色々な選択肢があるということで計画性・収益性を含め資金を獲得してチャレンジしてほしい。ご存
知の通り、ライフサイエンスは成功確率が非常に低く、むしろ失敗することが多い。失敗を恐れずチャレンジし
て、日本発の事業あるいは優れたベンチャーを作って頂きたいと思う。
ご来場いただきました皆様に心より御礼申し上げます。
❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀ ❀❀
■第8回IPSN講演会を聴講された方の所属機関内訳
4%
6%
4% 2% 3%
大学・公的機関
ライフサイエンス企業
個人
50%
9%
22%
その他企業
マスコミ
その他
官公庁
法律・特許事務所
7
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
【寄稿】
米国における医薬品の承認、独占権、ライフサイクル、ジェネリック医薬品の
競争戦略に関する手引き
A PRIMER ON DRUG APPROVALS, EXCLUSIVITIES, DRUG LIFECYCLE AND
GENERIC COMPETITION STRATEGIES IN THE UNITED STATES
ホーガン・ロヴェルズ法律事務所東京オフィス フィリッペ リーゼン
フィリッペ リーゼン氏は、ホーガン・ロヴェルズ法律事務所東京オフィスのパートナーで、
米国知的財産チームのリーダーとして、特に医薬分野での案件に取り組んでいます。
2回シリーズでお届けします。(英語版もご用意しておりますので、ご希望の方は IPSN までご
連絡下さい。)
本稿では、米国のFDC法(食品·医薬品·化粧品法)に基づく医薬品承認手続き、中でも
データ保護や承認新薬のライフサイクルに影響する様々な条項について概説すると
共に、ANDA訴訟やHatch-Waxman(ハッチワックスマン)法に起因するジェネリック
医薬品の競争戦略に係る諸問題について取り上げる 1。
I.
新薬承認申請(「NDA」)
ジェネリック医薬品ではない革新的な医薬品もしくは「先発」医薬品について
承認を得るには、まず FDC 法第 505 条(b)に基づいて新薬承認申請(「NDA」)を行わね
ばならない。申請書には、様々な情報の記載に加え、当該医薬品が各記載用途にお
いて安全かつ効果的であることを示す「詳細な調査報告書」の添付が必要となる。通
常、そのような調査とは、当該医薬品の各用途を示す「実質的な証拠(substantial
evidence)」と共に FDA(米食品医薬品局)に提供するための 2 度の「適切な十分に管理
された臨床試験(adequate and well-controlled studies)」からなる。
また、新薬承認申請(「NDA」)に際しては、当該医薬品のあらゆる構成要素の
一覧表、成分の説明、製造、加工、包装に用いられた方法や設備の説明、当該医薬
品および使用予定のラベルの見本も提供しなければならない。
さらに、新薬承認申請(「NDA」)に際しては、特許情報の提供も必要であり、
当該申請の対象となっている医薬品をクレームした特許権、または当該医薬品に関
する承認済みの使用方法をクレームに含む特許権、および当該医薬品に関して特許
権侵害を合理的に主張できるあらゆる特許権に関する情報も提供しなければならな
1
8
後発生物製剤については、別の法律で規定されているため、本稿では言及しない。また、筆者は、規制に関わる情報
源について、ホーガン・ロヴェルズの David Fox 氏によるものであることを了承していただきたい。
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
い 2。申請者は、申請書の提出後または承認後に特許が発行された場合、特許発行日
から 30 日以内にそのような特許権情報を提供しなければならない。
FDA はあらゆる特許情報を公開することが求められ、それによって、ジェネ
リック医薬品メーカーは、他社に対して対抗できうる特許権の存在を知ることにな
る。 特許情報は、「Approved Drug Products with Therapeautic Equivalence
Evaluations」と称される発刊物(通称「オレンジブック」)において公開される。また、
重要な点として、FDA はそのポリシー上、特許権の範囲に関する独立的な判断は下
さない。あくまでも申請者からの宣誓書のみに基づいてそのような情報を掲載する
ので、特許の有効性や権利範囲については特許商標庁や裁判所にその決定を委ねる。
特許権の掲載は ANDA 訴訟の根幹をなすため、この点は後述の特許権の掲載に関す
る諸問題に発展しうる。
ハイブリッド NDA
NDA には 2 種類あり、1 つは「505(b)(1)申請」 (通称「Full NDA」)、もう 1 つは
「505(b)(2)申請」である。 これらの主な違いは、申請内容をサポートするための臨床
試験を誰が行ったかという点である。505(b)(1)申請の場合は、申請者が臨床データ
を所有しているので、臨床試験は「申請者によって又は申請者のために」行われたと
いうことになる。一方、505(b)(2)申請の場合は、申請者以外の者が当該データ又は
その引用権を有しているので、少なくとも 1 つの臨床試験は、「申請者によって又は
申請者のために行われたものではなく、申請者は実際に試験を行った者からそのデ
ータの引用権や使用権を取得していない」ことになる。
505(b)(2)申請は、さらに「Literature-based(文献ベースの)」申請と「Hybrid(ハイ
ブリッド)」申請の 2 つに分類することができる。 文献ベースの 505(b)(2)申請は、当
該薬の安全性や効果をサポートするうえで、公開文献で報告されている臨床試験の
結果が用いられている場合に行われる。申請者が公開臨床データの引用権を有して
いない場合は、 505(b)(2)申請を行うことになり 3、引用権を有している場合は
505(b)(1)申請を行う。
2
3
FDA は 2003 年、提出が必要とされる特許と提出不要の特許について明確にした。原薬(原料)および医薬品(製剤およ
び成分)に関する特許権の情報は提出しなければならない。包装、中間体、代謝物、製法に関する特許権の情報は提
出してなくてもよい。当該医薬品の多様な形態に係る特許権の情報は提出してもよいが、それは、そのような多様な
形態であっても、申請医薬品と同様の効力を有すると申請者が証明できる場合に限られる。また、使用方法に関する
特許権については、申請者が承認を求めている適応症または使用条件がクレームに含まれるものに限られる。(参照
21 CFR314.53 and Forms FDA3542 and 3542a)
これは、公開文献のどのような引用(例、病因学、臨床試験でのエンドポイントの擁護など)でも 505(b)(2)申請とされる
という意味ではない。むしろ、引用されるのは申請の承認に必要な具体的な情報(例、臨床試験、動物実験)でなけれ
ばならない。また、承認のために必要な情報を公開文献から入手した場合、もしくは、申請者が臨床試験を実施して
9
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
一方、ハイブリッドの 505(b)(2)申請は、当該医薬品の安全性や効果を擁護
するうえで、FDA が以前に行った承認医薬品の調査結果が用いられている場合に行
われる。このような申請方法は、通常、申請者が承認医薬品を変更したい場合であ
って、その変更において完成品が安全かつ効果的であることを示す臨床試験が必要
となる場合に用いられる。例えば、申請者が、既承認医薬品について新たな製造方
法を開発する場合である。FDA は、その医薬品の基本的な安全性や効果はすでに確
立されているので、再度証明する必要はないというスタンスであり、提出が必要と
なるのは、その変更をサポートするために必要な更なるデータだけである。必要と
されるデータの正確な量や質は FDA との交渉により決定される。
II.
独占権 (Exclusivities)
販売独占権やデータ保護は、一定期間、特定の申請の承認を遅らせたり、申
請の受理を阻止したりする FDC 法上の仕組みである。販売独占権には 3 つのカテゴ
リーがある。それらは、a) FDC 法第 505 条(c)および第 505 条(j)に基づく「HatchWaxman Exclusivity」、b) FDC 法第 527 条に基づく「Orphan Drug Exclusivity」、
c) FDC 法第 505 条 A に基づく「Pediatric Exclusivity」である。また、特許法に基づ
く特許権存続期間の延長も可能である。
A.
Hatch-Waxman Exclusivity
Hatch-Waxman Exclusivityは、ジェネリック医薬品の承認に係るFDAの権限
の大幅な拡大措置の一環として施行された。新薬については、法律上、「New
Chemical Entity (「NCE)」を開発した申請者には 5 年間の独占権が、既承認医薬品の
用途を拡大する新たな臨床試験結果を提出した申請者には 3 年間の独占権が与えら
れる 4。
1.
5 年間の独占権
Full NDAまたは 505(b)(2)申請がNCEに係る場合、5 年間の独占権が与えられ
る。NCEとは、承認された申請の対象物となっていない活性部分を指す 5。新たに開
発されたNCEを含む申請がなされた場合、FDAはその申請が承認された日から 5 年
いても、そのような必要情報を自らが引用権を有していない出典から入手した場合、NDA は 505(b)(2)申請とみなされ
る。
4
ジェネリック医薬品に関して言うと、パラグラフ IV 証明書が付された ANDA を最初に申請した者に 180 日の独占
期間が与えられる。この独占権の趣旨は、ジェネリック医薬品メーカーによる特許異議申立てや侵害訴訟のリスクに対して報
奨を提供することであり、後述のようなジェネリック医薬品の競争戦略について更なる問題を生じさせるものである。
5
活性部分に関する FDA の定義は、「医薬品を分子のエステル、塩分、非共有結合誘導体分子にせしめる付加部分を除
く分子またはイオンで、原薬の生理学上または薬学上の反応の原因となるもの」とされている
10
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
間、それと同一の活性部分を含む製品の簡略新薬承認申請(「ANDA」、後述を参照)ま
たは 505(b)(2)申請を受理することはできない。但し、ANDAや 505(b)(2)申請にパラ
グラフIV証明(後述を参照)が付されている場合は、NCEの承認日から 4 年後に申請を
受理することができる。
このような独占期間中、FDA は他の申請を受理することができないので、実
際の独占期間は 4 年/5 年よりも長くなる。つまり、独占期間には、4 年/5 年の独占
期間に加えて、FDA の審査や承認に費やされる期間も追加される。また、このよう
な独占権によりその NCE は使用条件に関わらず保護されることになるため、同一の
NCE を含む製品であれば、たとえ剤形、含量、用途の異なる製品であっても、それ
に係る ANDA や 505(b)(2)申請は同様に阻止されることになる。
しかしながら、Full NDA である 505(b)(1)申請の場合は、たとえ同一の NCE
が含まれていても、それを阻止することはできない。なぜなら、どの形態の HatchWaxman Exclusivities であっても、申請者が当該申請をサポートするための作業を
すべて独自で行っている場合は、その申請の提出や承認について何らの制限も課さ
れないからである。この点は、あらゆる申請を阻止できる後述の Orphan Drug
Exclusivity とは異なる。
2.
3 年間の独占権
既存医薬品の使用条件に関する変更について新たな臨床結果を提出する申請
者には、その臨床結果が承認を与えるうえで不可欠なものであると FDA が判断した
場合、3 年間の独占権が与えられる。申請の形態は、Full NDA、505(b)(2)申請、ま
たは既承認 NDA の補足のいずれでもよい。独占権は次の条件が充足された場合に認
められる:
•
その試験は臨床的なものである (動物実験ではなく人体に対するもの);
•
その試験は新規である (つまり、当該医薬品の別の側面に関する承認のため
に以前に使用されたことがない);
•
その試験は承認を与える上で必要不可欠である(つまり、FDA はその結 果
なくして承認することはない);
•
その試験は申請者によって又は申請者のために行われた; そして、
•
その試験は単なる生物学的利用性の試験ではない
通常、この種の独占権は、新たな臨床試験が必要とされる場合で、申請者が
新たな剤形、新たな適応症、新たな用量設定、新たな非有効成分をサポートするた
めの臨床結果を提出した場合に認められる。3 年間の独占期間中、FDA は特定の
11
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
ANDA または 505(b)(2)申請を承認できない(但し、受理はできる)。つまり、前述の
5 年間の独占権とは異なり、FDA は独占期間中も ANDA や 505(b) (2)申請を受理す
ることができ、更には審査を行うこともできる。しかし、5 年間の独占権と同様に、
Full NDA である 505(b) (1)申請については承認を阻止できない(但し、Orphan Drug
Exclusivity の場合はこの限りではない)。
3 年間の独占権によって保護されるのは、独占対象となる特定の変更につい
てのみである。例えば、申請者が既存医薬品について新たな剤形をサポートするた
めの臨床試験を行った場合、阻止の対象となるのは、それと同一の既存医薬品の同
一の剤形の利用に関する ANDA または 505(b)(2)申請のみである。同様に、既承認医
薬品の含量に関する独占によって阻止できるのは、それと同一の医薬品の含量に関
する ANDA または 505(b)(2)申請のみである。
この点について、独占の範囲を正確に定義するのは困難な場合もあると言え
る。例えば、申請者が既存医薬品の剤形と投与方法の両方を変えたい場合、何が独
占の対象となるのか。異なる投与方法または異なる適応症について同じ剤形を使用
したい後続の申請者は、承認を受けることができるのか。この種の独占権の範囲は、
投与方法が厳密な場合や狭い範囲に設定されている適応症の場合は、その定義や予
測が困難となりうる。
一般的に、FDAは、臨床試験が必要とされる変更の内容に基づいて独占権を
認めると考えるのが妥当である。例えば、新たな剤形の性質によっては、その医薬
品の含量または投与方法までも変わってしまうことが多々あるが、実際に臨床試験
が必要なのは剤形に関してのみである。したがって、そのような場合、独占権が認
められるのは、投与方法に関わらず、あくまでも剤形に関してのみとされるべきで
ある。いずれにせよ、FDAは承認を下すまで独占については決定しない 6。
また、例として、ある既存医薬品が 3 つの適応症について承認されており、
その後 4 つめの適応症について独占権が認められた場合、FDA は、その独占期間中
であっても、最初の 3 つの適応症のみをラベルに記載している医薬品の ANDA また
は 505(b) (2)申請を承認することができる。同様に、3 年間の独占権の対象となるの
が製品のラベルに含まれる特定の情報(例えば、子供の安全や効果に関するデータな
ど)の場合、FDA はそのような情報を含んでいない ANDA や 505(b) (2)申請を承認す
6
505(b)(2)申請に関するもう 1 つの問題は、他社がたとえ当該医薬品の変更をサポートするデータを独自に収集して類
似医薬品を開発していても、FDA はその申請を阻止しようとする可能性があるという点である
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The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
ることもできる。一方、前述の 5 年間の独占では、活性部分が用途や方法を問わず
保護されるため、この点は対照的である。
B.
Orphan Drug Exclusivity (7 年間の独占)
この 7 年間の独占は、希少疾病治療薬の開発を促進するために導入されたも
のであり、申請者は、FDA に対して「Orphan Drug(オーファンドラッグ) 指定」を請
求しなければならない。当該医薬品の治療対象となる疾病の罹患者数が 20 万人以下
であると FDA が判断した場合、もしくは当該医薬品の開発費用は回収できないと合
理的に予測されることを申請者が証明できた場合、Orphan Drug 指定を受けること
ができる。
Orphan Drug指定は、当該医薬品の承認前に与えられるので、同一の医薬品
について複数の申請者がOrphan Drug指定を受けるということにもなりうる。しかし、
いったん当該医薬品が承認されれば、FDAは同一の適応症に関する同一の医薬品の
申請(Full NDA および 505(b)(2)申請も含め)については、一部の例外を除いて(後続
申請された医薬品がそれとは異なっている場合など)、7 年間承認しない 7。
C.
Pediatric Exclusivity (6 ヶ月間の独占)
適切な小児臨床試験を実施した申請者には 6 ヶ月間の独占が与えられる。こ
の 6 ヶ月の期間は、他の Hatch-Waxman Exclusivity、Orphan Drug Exclusivity また
は申請者に付与されている特許保護の期間に上乗せされる形で与えられる。申請者
は、FDA からの小児への当該薬投与に関する「Written Request(要求書)」に対する回
答として関連データを提供することによってその追加的な 6 ヶ月の独占が与えられ
る。FDA によるデータの審査や承認などはなく、申請者は単に要求されている臨床
試験を実施し、そのデータを FDA へ提出するだけでよい。この 6 ヶ月の延長は、臨
床試験の対象となった活性部分を含む商品群全体に適用される。
Pediatric Exclusivity は、既存の独占期間を延長する形で与えられるので、追
加的な 6 ヶ月は基礎となる独占期間の「一部分」となる(つまり、5 年間の独占期間が
5 年半になり、3 年間の独占期間が 3 年半になる)。(後述の「特許権存続期間延長」措
置とは異なり)Pediatric Exclusivity によって、特許権の存続期間を延長することはで
7
3 年間の独占と同じ適用方法を用いて、FDA は、申請者が製品のラベルから保護対象となる適応症を省くことを認
める。したがって、1 つのオーファンドラッグであっても、保護されている適応症と保護されていない適応症が並存すること
になり、ジェネリック医薬品は、独占期間中であっても保護されていない適応症のみについて承認を受けることが可能となる。
FDA は、そのジェネリック医薬品をオーファンドラッグと治療学的同等物として承認することになり、処方箋がオーファンド
ラッグとなっていても代替薬として認める。
13
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
きないが、FDA は、「期間延長を受けた」特許権の満了日から 6 ヶ月間は保護対象と
なる情報を含む ANDA または 505(b) (2)申請を承認することはできない。
D.
特許権存続期間の延長措置
ハッチワックスマン法の下では、新薬の申請者は、当該医薬品の開発や規制
当局による審査の間に失われた特許権存続期間を回復することができる。一定条件
を満たしており、かつ当該医薬品の活性成分がこれまで FDA によって承認されてい
ないことを条件に、最長 5 年までの延長が認められる。(35 U.S.C. 156 et seq)
規制当局による審査の期間は 2 段階、すなわち「試験」段階と「承認」段階に分
けられる。試験段階は、FDA からの試験実施許可が有効となった時点から承認段階
が始まるまでの期間である。承認段階は、当該医薬品の販売許可の申請をした時点
から FDA が当該医薬品を承認するまでの期間である。わずかではあるが、このよう
な段階における一部の期間が実際の特許権存続期間の延長にカウントされる(例、試
験段階の半分は差し引かれ、特許権の延長期間は最大で 14 年を超えない)。
FDAにより管理されるハッチワックスマン法上の販売独占権とは異なり、こ
の特許権存続期間延長措置は、特許商標庁により管理されている。審査にかかった
期間を計算するのはFDAであるが、実際の延長期間を計算し決定するのは特許商標
庁である。また、延長できるのは 1 つの医薬品につき 1 つの特許権のみであり、延
長申請はFDAの承認から 60 日以内に行われなければならない 8。
(次号に続く)
8
14
特許商標庁による遅延について特許権者に補償するための特許期間調整に関する法律も存在する 35 U.S.C. § 154.
The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
に出展しました。
バイオビジネスにおけるアジア最大のパートナリングイベントの1つである「バイオジャパン2013」(2013年10
月9日(水)~11日(金) 於パシフィコ横浜)に出展しました。
IPSNブース内では、IPSNの知財コンサルティング・マッチング支援、LSIP(ライフサイエンス知財ファンド)
などの活動について紹介させて頂きました。
また、マッチングシステムを活用した面談では、20機関以上の方々と効果的かつ有益な情報交換を行うこと
ができました。
ご来場くださいました皆様に心より御礼申し上げます。
◆展示パネル・IPSN
◆展示パネル・LSIP
INFORMATION
■主な活動報告(2013年9月~2013年11月)
9月26日
第15回優先会員向けゼロ次情報提供
9月27日
第14回賛助会員企業向けノンコン情報提供
10月 9日~
11日
バイオジャパン2013ブース出展
10月11日
第8回IPSN講演会
■主な活動予定(2013年12月~2014年2月)
12月下旬
第16回優先会員向けゼロ次情報提供
12月下旬
第15回賛助会員向けノンコン情報提供
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The IPSN Quarterly 2013, Autumn, No.15
■主なIPSN関連掲載記事・論文等
「産業再興 目覚めよ知財力② ファンドで結束 戦いへ」(日経産業新聞(2013年9月24日))
「東京新特区 官民が提案(戦略特区)」(日本経済新聞(2013年10月4日))
「ライフサイエンス知財ファンドLSIP~大学等の優れた研究成果を産業化するために~」
(秋元浩, 「産学官連携ジャーナル」 Vol.9 No.11 2013, 科学技術振興機構, 2013年11月)
「今,我々ができること,そして,今後期待されること アカデミア創薬の課題と解決策」
(秋元浩, 「日本薬理学雑誌」 第142巻第6号, 297-, 日本薬理学会, 2013年12月)
■寄稿のお願い
IPSNでは、皆様から産官学連携推進、先端技術分野の知財を巡る問題や課題について幅広いご意見、
論文をお寄せ頂き、かかる問題を考える場として本ニュースの紙面を活用しています。
ご意見、論文がございましたら弊社までお寄せください。
編集後記
バイオジャパン2013、第8回IPSN講演会も無事に終了し、今年も残すところ約1ヶ月となりました。皆様にとってはどの
ような1年でしたでしょうか。IPSNは設立5年目を迎え、知財コンサルティングや知財価値評価、マッチング支援等の受注
件数も順調に増加し、また、LSIPによる大学等への支援も予想を上回るペースで進みました。来年以降は、「発展期」とし
て、更にレベルアップした活動が繰り広げられればと思っております。来年も引き続きご指導をお願い致します。
少し早いですが、皆様が素晴らしい年をお迎えになりますよう、心よりお祈り申し上げます。(金野陽子)
本書の内容を無断で複写・転載することを禁じます。
2013年11月発行 The IPSN Quarterly (第15号・秋)
〒100-0005 千代田区丸の内1-7-12サピアタワー10階
電話:03-5288-5401 ファクシミリ:03-3215-1103
URL: http://www.ipsn.co.jp/
Email: [email protected]
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