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③講演「景観を市民のモノにする」 窪田亜矢(工学院大学助教授)

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③講演「景観を市民のモノにする」 窪田亜矢(工学院大学助教授)
第 13 回街づくりフォーラムやまと実績報告書
③講演「景観を市民のモノにする」 窪田亜矢(工学院大学助教授)
今日のテーマは「景観を市民のモノにする」です。なぜこのテーマかといいますと、私達の身の回
りにある景観というものを一回振り返ってもらいたいということです。
早速ですが、東京都品川駅前の事例です。緑もなく、働く人達の個性、魅
力もまったく感じられない景観があちこちかと思います。次に、千葉県野田
市です。車のための大きな看板、目立てばいいというような色彩の店、手前
の道路もがたがたで車椅子も歩きにくく、お馴染みのフェンスが広がってい
ます。おそらく大和市にもあるだろうと思われる景観だと思います。次は長
浜市です。街づくりで非常に有名になったところで、中心市街地としてうま
く活性化した成功事例です。しかし、少し歩くとシャッター街が広がってお
り、景観として決して良くはありません。活気も感じられないだろうし、道
路沿いにもいろんなものが出てしまうなど、私達の身の回りによくある景観
だと思います。次に大阪市生野区です。日本で最大のコリアンタウンです。
川を境に左側がコリアンタウン、右側が日本人の住むところとなっており、強制労働など複雑な歴史
があります。この川の整備はコンクリートの三面張りで、何の歴史も感じられない景観が普通に広が
っています。
こうした実態をもう一回振り返ろうという危惧が非常に高まっています。用意した4点のお話です
が、1点目は国立マンション紛争、最高裁までいったこの紛争をまず紹介します。2点目として、景
観法というものを私たちは持っていますが、持っているだけで使わないと損するので、これの使い方
について紹介します。3点目として、景観を素晴らしいものにしようとする動きがありますが、方向
性が間違って進んでしまう場合もあります。ここでは、どういったところを押えておけばよいかポイ
ントをお伝えします。4点目として、私達がなぜ景観への努力をするのか、努力するとどういった展
望が開けるのか、それを行うための目標を伝え、「景観を市民のモノにする」とはどんなことか、私
なりの考えを紹介したいと思います。
まず1番目、「国立マンション紛争がもたらしたもの」です。国立駅
前からの大学通りにみごとな銀杏並木などがあります。昔を振り返ると
分かるのですが、非常に整った計画をもってつくられた文教都市です。
イチョウや桜なども大正から昭和にかけて住民自身の手によって作られ
ました。いくつかこれまで紛争があったのですが、決定的なのが近年の
事例です。こういったものは良くないと考えた住民は、高さをうまく抑
えたいと考え、近くの並木に高さを書きました。並木は高くても大体2
0m、建物が調和するのにはこの高さを越えないのではと、地区計画を
共通のルールとして定めました。しかし、地区計画が遅すぎたため、マ
ンションが立ってしまいました。ここで驚きなのが、この件での訴訟で、
最高裁が「高さ20mを越える部分は撤去せよ」という判決が下ったこ
とです。まさか撤去の判決まで出るとは私自身はとても驚きでした。こ
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第 13 回街づくりフォーラムやまと実績報告書
の中で重要だったのは、「景観利益」という言葉が判決文の中で使われたことです(判決文「長らく
住民が自己規制のもとで得た付加価値として、国立大学通りの景観には相互に求める利益がある」)。
結局、第二審では逆転敗訴し、最高裁でも「景観利益」は認めたが、「撤去という行為自身によって
償われるものではない」と述べられました。「景観利益の保護とこれに伴う財産権者等の規制は、第
一次的には民主的手続きにより定められた行政法規や当該地域の条例等によってなされる」というこ
とが最高裁で述べられました。つまり、「みんなで共有したいものがあるのなら、それを何らかの行
政的な計画の中で明示しておきなさい。明示しておかないと、景観利益がきちんとした形で保護でき
なくなる。」ということです。このことは景観計画で規定しておけば、絶対勝てないと言われたマン
ション紛争にも勝てる可能性もでてきたということです。ただし、景観法が出来たからといって、な
んとなくツールが増えて喜んでいるばかりでなく、それをうまく使わないと逆に「使っていないんだ
から」ということになりかねないです。なかなか大変な状況にあるのかと考えています。
次に2番目の「景観法と景観計画」です。やはり、自治体と市民
がパートナーシップを取っていくものです。景観法あるいはそれを
を進めていく景観行政の大きな特徴を掴めばよいかと思います。景
観計画でできることを右図に並べましたが、法律が根拠となる法定
景観計画だけでなく、法律の中に組み込めないが重要な部分など、
合わせて広く考えていくことが重要だと考えます。
景観計画の特徴としていくつか性格がありますが、6個に絞りま
す。まず1点目として、ビジョンとツールはバラバラなものである
ということです。
「こういう街・市街地像にしましょう」というイメ
ージを描くことがビジョンです。ビジョンに近づけるためのやり方
などがツールです。景観計画にはこの両方の性格が入っています。
たまにツール・ビジョンどちらの話をしているのか、分からなくな
ることがあります。2点目として、景観というものが今までの都市
計画と違う点として、行政だけではできないというところです。日々の草木の手入れといった重要な
ところがあり、そこに住民たちが入らざるを得ないという性質をもっています。3点目は、ビジョン
は一人で思ってもどうしようもできず、ある単位で共有化することが重要であることです。4点目は、
ビジョンを共有化していく上で、最適なツールを選ぶプロセスも必要になっていくことです。5点目
はビジョンやツールを共有化していく単位です。町内会単位がいいのか隣近所程度がいいのか、必ず
しも解ききれていない問題です。6点目として、他分野の連携をどう実現できるかです。緑やゴミ・
放置自転車など、いろんな問題が出てきます。しかし、行政的に考えると景観法でできるのは建築物
が中心となってきます。しかし、市民にとってはもっと違う広がりがあります。これをどうやって連
携させるか、非常に大きな問題です。
都市計画と景観について補足します。グラフを見てください。縦
軸は事前に物事が確定している事柄です。上の方が確定していて、
下の方は事前にはなかなか分からず、話し合ってみないと分からな
い未定の問題です。横軸は市民が中心なのが左側、自治体中心が右
側です。今まで都市計画が得意としてきたのは、自治体が中心とな
って最初から分かっているようなことをやることでした。「最初か
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ら分かっている」というのは、数値とか量的な基準で行うわけです。これでは議論の必要がなく、答
えが最初から分かっており、事前確定的ということです。ただ、先ほどから言っている景観だとか街
づくりというのは、従来のグレーの枠を越えて、左あるいは下へ広がっています。グレーのままでは
市民の生活は上がっていかないと不満があったからだと思います。最初から答えが分かるだけじゃな
いといった考えがでて、まずは「協働」つまり一緒に力を合わせていく仕組みが必要だとか、
「協議」
つまり協議して始めて結論がでるとか、景観の場合にはたくさんあります。そういった分野に手を伸
ばそうとしているのが街づくり条例や景観条例などです。それに景観法というのが根拠を与えてくれ
ます。つまり、景観の維持とか向上とか創造というのは広い分野に跨ってしまっているということで
す。
ここで、3点だけ景観法の中に出てくる
言葉を紹介したいと思います。まずは「景
観計画」です。広く景観についてのビジョ
ンとツールを定めるものです。
「景観地区」
とは、あるエリアに合意が強まって自分達
でより厳しいルールを定めたい場合に出
来ていくものです。
「景観形成基準」とは、
これさえ守っておけばあまりひどくはな
らないといったものです。いわば、この基
準を設けてそれより悪くなるものはやめ
ていくという、法律の得意なネガティブチ
ェックを中心にしたのが景観法です。しか
し、これだけではよくならなくて、創造的協議が必要です。景観法はこれとは逆の方向へシフトして
います。創造的協議ですが、景観は総合的でもあるし、数値だけではどうしようもないです。これら
を入れ込んでいくことが必要だと考えます。ネガティブチェックは景観法により担保できますが、創
造的協議は各自治体で工夫し、これからもやっていかねばなりません。そこで少し話が変わりますが、
「景観地区」の考え方が重要です。これは確認申請以外の道を切り開いたからです。元々は家を建て
る場合に、特定行政庁または民間確認検査機関に確認申請し、法律にさえ適合していれば交付すると
いうルートしかありませんでした。建築確認さえすれば、工事に着手可能となっておりました。そこ
で、新たな流れをつくりました。景観地区に指定されると、その中で新しく行為が起こったときに、
果たして景観としてふさわしいのかどうかを認定するという仕組みです。「うちの地域では建築確認
だけでは駄目ですよ。景観というファクターを入れてもらって、それに適合していないと駄目です
よ。」と言えるようになりました。この二つが揃って初めて工事に着手ができる、今まで一本しかな
かった流れに、景観という考え方を加えた流れをつくりました。認定という仕組みがこれからうまく
いくのか、まだ始まったばかりで手放しに誉めるわけにはいかないのですが、考え方としては今まで
の構造上安全であればいいといった最低限の基準さえ守ればいいという考えだけでなく、自分達の地
区の特色を生み出せて初めて着手ができる流れをつくったことが、非常に重要だったと思います。
次に3番目の「景観の想像・維持・向上のために」です。多くのツールが揃うと、具体的にどのよ
うに景観街づくりを進めるかになります。7点の捉え方で、実例を交えながら話します。
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第 13 回街づくりフォーラムやまと実績報告書
まず一つ目、「分かりやすさ」ということで
す。キーワードとしては都市構造とか眺望とい
ったことです。分かりやすさとは、道路がきっ
ちり並んでいるということではなく、私達が大
和市ということを考えたとき、「あそこら辺に
街の中心部があって、ここら辺に美しい住宅街
があって・・・」というようなことが、お互いに
何となく共有できることが重要ではないかと
いう考え方です。学者であるケビンリンチ(1
960年代、アメリカ)が、住民の方々にボス
トン市をどうやって理解しているのかをたく
さんアンケートしたのですが、この結果で「ボストンはこうですよ」というのが分かってきました。
「パス」というのが通り道、
「エッジ」というのが何らかの端っこと認識されているもの、
「ノード」
がいろんな人達の交流点、「ディストリクト」というのがある種の界隈、一つの地域として認識され
ているもの、
「ランドマーク」は大きな樹木など何らかの目印です(左上図参照)
。こうした要素で考
えていくと、それぞれの地域の問題点や方向性が共有できるのではないかという考え方が出てきまし
た。日本でももちろん、古くから都市構造の分かりやすさが求められてくることがありました。最近
話題となった日本橋では江戸城の天守閣が見える設計にするなど、あちこちに眺望が開けている、特
に江戸の城下町の頃から、都市の眺望を大事にしてきました。それはおそらく、江戸だと大きすぎま
すが、もう少し小さい所ですと山に囲まれて生きている、山にいかされているようなとか、この場合
ですと自分達の威厳といったところを示しているかもしれませんが、多くの意図が眺望の中に含まれ
ています。つまり、江戸時代の城下町は城主が一番偉く、それに対する眺望を大切にするということ
でしたが、今、私達の時代はどんな眺望を大切にすればいいのかということも考え方として出てくる
のかなと思います。都市をマクロ的に見ていくと、都市の分かりやすさや眺望といったことが大切だ
ろうということが言えるかと思います。
だけれども、私たちの生活は鳥の目で見ているわけではなく、歩いていっているわけです。2つ目
として「シークエンス(連続的に変わっていく絵)
」
、この言葉を景観的によく使うのですが、これは
研究者であるゴードンカレン(1970年代、イギリス)が打ち出したものです。ゴードンカレンは
都市を見るときに「人は歩いているじゃないか?」と、つまり、「歩くという行為の中で様々な景観
が生み出されている」「この中での多様性やリズム、私達はこういったものが重要ではないか」とい
うことを展開します。
3つ目として、「ヒューマンスケール(人間が快適だと考えるスケール間)」というのも大切です。
アレグザンダー(アメリカ)が、「人間には必ず心地よさを感じる空間がある」と言いました。例え
ば奥まったところにベンチがあり視界が開けているとか、小さな自分だけのスペースから皆の共同体
的スペースをつくりあげてきました。こういった心地よいと思われる景観、こちらから考えていけば
よいのです。都市計画は大きな分野から考えがちですが、もっと身近に気持ちよい空間を積極的に生
み出していくことが最終的に素晴らしい都市につながるのではないかと思います。もう少し言います
と、例えば団地の中の街路ですが、殺風景な所にひなたぼっこができるベンチを作ったりするなど、
通りとの関係性をもたらすことが都市型住宅としてふさわしいのではないかと言われています。これ
まで、歴史的市街地は通りと関係性をもたらすことを言ってきました。これが現代になり、それをも
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第 13 回街づくりフォーラムやまと実績報告書
たらせていないことに問題があろうかと思います。街という
のはどんどん変わっていくものです。あるときは商店として
使っていたものを住まいとして使ったり、そしていつかまた
商店として使うなど、わりと自由な使い方を許容するフロア
プランが重要です。次ですが、これは歴史的な街並みの屋根
であり、70m程度のT字路型になっています(右図参照)。
元々は城下町でお城へ一気に攻め込まれないためというのが
理由です。ただ、この囲まれた通りが街の人達の交流すると
ころとしても機能され、実は非常にヒューマンスケール型だったのではないかと言えます。よく「西
洋は広場の文化で、広場が日本にはない」という言い方をしますが、こういった細長い通りの広場と
いったものが日本にはあったのだろうと言えるかと思います。
4点目として重要なのが「素材」です。近江八幡市の事例など
時を経て美しくなってくる素材、その風土に溶け込むような素材
が美しさの条件だと思います。例えば松を家の人だけでなく通り
の人にも楽しめるような位置におくなど、街にはいろんな要素が
秘められているかと思います。
5点目として「調和」です。形態や高さなどいろんな調和の仕
方がありますが、今日は色彩についてお話しします。後ほど景観
調査隊より詳しく説明があるかと思いますが、色は多くの色の種類、つまり「色相」からできていま
す。これが一つ目の要素です。二つ目の要素は「明度」、明るさです。明るければ真っ白、暗ければ
黒系となります。三つ目の要素は「彩度」、鮮やかさといったものがあります。赤の場合、鮮やかな
赤と鮮やかでない地味な赤、そういう風に表現できます。街づくり賞にもありましたが、彩度を抑え
ると調和がはかりやすいと言われています。レッドとかイエローレッドといったような彩度が非常に
高いものがある場合、一般的に彩度6以下であれば、それほど目立ちすぎるものにならないでしょう。
イエローについては4以下、ブルーやグリーン系だと2以下ならネガティブチェックにはなります。
ただし、決して数値だけ守ればよいというわけではありません。国分寺のとある散歩道で非常に美し
いところなんですけれども、とある鮮やかなアパートが立っています。実際に行くとぎょっとするほ
どすごいもので、もう少し彩度を抑えていただければ違った景観が生み出されてくるだろうと思いま
す。ただ言いたいのは彩度を数値で守ろうということでは
なくて、この景観で何を重視したいのかということだと思
います。ここら辺の数値は要するに、新緑時の鮮やかな緑
よりも抑えていこうということです。この地域の中で重要
なのは、人の塗ったペンキの色ではなく、もともとある風
土の中の緑なんだと、そうしたものに主役を譲りましょう、
だから人間の作るものは彩度を抑えていきましょうとい
う考え方なのです。最終的には数値になるかもしれません
が、そこにいたる考え方が重要なのです。
6番目はリテラシーです。これは数年前に話題となっていましたが、対象となっているものを批判
的に読み解いていくものというのがこの能力の一種です。景観のリテラシーといったものが重要では
ないかと考えています。私達は常に景観に取り込まれているわけですが、目の前にある景観が私達に
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第 13 回街づくりフォーラムやまと実績報告書
何を話しかけているかを読取る能力が重要だと思います。次に
飯田橋駅前の事例を紹介します。駅から少しだけ外堀が見えま
す。外堀はこれだけでなく昔は周辺全てが外堀だったのですが、
中央線建設の際、作りやすさから外堀を埋めていきました。当
時はいろんなことを考えずに作ったのですが、東京オリンピッ
クの際も同様に行われ、そしてご存知のように日本橋の上に首
都高が立ってしまうという結果に至っています。この頃は鉄道、
昭和の中ごろには首都高と、私達は昔の人が残してくれた緑豊
かな空間を平気でくい潰してきたのだなあというのが認識とし
て分かります。では、次にどうすればよいかというのが、今の
理解から始まります。さらに面白いのが、線路を挟んで左側が
皇居側、右側が新宿区側なのですが、お城である皇居側が高く
なっており、外堀の外側(新宿区側)が低くなっているのが分
かります。次によくある屋敷林ですが、こちらは日差しも遮り
ます。冬になると葉が枯れた分、日照は確保するなど、昔なが
らの優れた環境装置であり、景観的にも優れたものだと思いま
す。景観的に優れたものは多くの意味があるはずではと思うわ
けです。けやき並木の下では夏場もとても涼しく、だけれども
そういうものがないととても暑くなってしまいます(右の温度
グラフ参照)
。その裏にある効用を感じるからこそ、景観として
も美しいと感じる能力が備わっているのではと思います。景観
リテラシーといったものをこれからも高めていくことが重要で
あると考えます。
汐留のビル群が建設された際に海風が来なくなり、ヒートアイランドが高まったという考えの記事
がありました。学術的には、このビル群とヒートアイランドの関係が明らかにされていません。なの
で絶対とは言えないのですが、汐留の立てこもった状況をみて、よくないなあと感じるのはそうした
背景もあるのかもしれません。今、東京都では風の道、川からの涼やかな空
気を市街地に取り入れていこうという試みも検討としてはあるようです(実
際にはなっていませんが…)。川が見えるとか環境的にいいとか、もしかし
たらこれらを一体的に考えることができるのかもしれません。
7点目としてユニバーサルデザイン、これは単なるバリアフリーというこ
とではないと申し上げます。例えば右図の都庁脇にある車椅子用通路です
が、これが果たして景観として美しいかどうかです。私は必ずしも美しい
とはいえないと思います。一方で、都庁の下図ですがこちらは私が美しい
と感じるユニバーサルデザインの道路です。まずタイルが華美なものでは
なく自然素材で少し柄がついており、何よりも車椅子の方と健常者が一緒
に歩くことができます。また、この通路から見える歴史的建造物や眺望な
ど美しい風景を楽しむことができます。通路そのもののもつ魅力も合わせてユニバーサルデザインな
事例だと思います。やはり、こういった景観を拡げて作っていかなければいけないと思います。
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第 13 回街づくりフォーラムやまと実績報告書
最後に4番目として「景観を市民のモノにする」とはどうい
ったことなのか、事例を交えながら紹介したいと思います。一
つはロンドンのハイドパークです。ここにはスピーカーズコー
ナーというものがあって、日曜日になると、あちこちで台の上
に立って自分を主張する方が出てくるわけです。そして、それ
を聞きたい方が自発的にその周りで円をつくり、意見交換をし
ていくのです。もしかしたら、こういうものが都市空間を市民
のモノにしているかなあと思います。次にフランスのパリを紹
介します。結局はイギリスとなりましたが、オリンピックをし
たいと考え、デモンストレーションをした時の写真です。これ
を見ると誰もがパリだと分かるかと思います。私達はパリに住
んでいて、ぜひオリンピックを招致したいということを非常に
うまい形で示していると思います。次の写真も同じで、市民の
合意を取れた場合の都市空間を非常にうまく使った一つの事例
です。日本でも都市空間をうまく使っていて、お花見のような
ものもいい事例かと言えます。次に千葉県の香取市です。普段
は車が通っておりとても市民のモノとは言えないのですが、祭
りの時には一変します。車がいなくなり、街路空間が完全に市
民のモノになってくれるのです。駐車場も広場として再生して
いるなど、実はこういう使い方のほうがずっといいのではない
かと、祭りの時に垣間見せてくれます。次はオープンカフェ、
横浜市関内の日本大通りについて紹介します。国土交通省など
は以前、道路は車が交通するためのものという考え方だったが、道路をうまく利用できないかという
方向の中で補助金もずいぶん出してきています。警察庁も道路許可は厳しく制限されてきたが、これ
も非常に緩和傾向にあります。国の方向としても道路を豊かに使おうという考えが出てきています。
この日本大通りというのはもともと外国人街と日本人街の間である「日よけ地」としてできた高幅員
道路でした。ですので、幅員の広さの割には交通の機能がそれほどありません。余裕のある空間が横
浜市にはある、そして歴史的にも非常に意味がある。そこで何をすべきかというと、市民生活のクオ
リティを上げるようなオープンカフェをやったところがとてもうまいかと思います。
これまで集団的な話をしてきました。市民というのは一つの共同体
として意思を示すのも重要ですが、一番重要なのは共同体を構成して
いる個人のレベルでの市民生活だと思います。それを豊かにするのが、
景観を市民のモノにするということで、これを表すのが井戸端会議の
ようなものかなと思います。ただ、これをいかに一人一人が共有でき
る部分がなくては、ビジョンをつくることができません。いろんな議
論の必要性があります。それの難しさを最後の事例として紹介します。
左図はニューヨーク市の街並み、パブリックアートです。こういう風景があってもいいのではと思う
かもしれません。ただ、よく見てみると男・女同士など同性愛者の彫像となっています。このグリネ
ージヴィレッジという街では、同性愛者達が多く住んでおり、ゲイ・レズビアン運動をアメリカ中に
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第 13 回街づくりフォーラムやまと実績報告書
進めた中心的拠点となっていました。そうした歴史を誇らしく大切に思っているからこそ、こういっ
たパブリックアートが出てきたわけです。もし日本の中でこういったものを飾ろうといった時、今の
時点ではなかなかまとまらないかと思いますが、こうしたいろんな問題が景観に含まれています。よ
く言われるのが樹木の問題です。周囲の住民にとってはありがたく保存を願っているが、持ち主にと
っては管理等の問題も抱えたりしています。景観の中には、背景にある管理の手間等、景観が生み出
している状況といったものを理解しながら、どんな風に美しくしていくかということが重要だと思い
ます。大和市は市民自治が非常に盛んといった声が聞かれますが、日曜等でも活動するなど大変だと
思います。ですが、景観は景観だとあまり切り離さず、
「これは景観法でできることなのでは?」
「こ
れは景観法ではできないけれども重要な景観なのでは?それでは緑で一緒にがんばろう。」といった
形で景観も総合的に街づくりの中で広く考えてもらいたいと思います。
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