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② 3次方程式の解の公式に挑戦
② 3次方程式の解の公式に挑戦 <教材観> 「方程式の解法」だけでなく,「解法の歴史」に着目し,数学史を取り入れた授業実践を することにより,数学が「文化であること」を理解することができる。高次方程式の解法の 歴史的歩みを追体験することにより,現在学んでいる数学の位置付けを理解し,数学に対し て興味・関心を喚起することができる。 <指導観> 高次方程式の解法において,視覚的アプローチをしていた時代の数学に触れることによっ て,より身近な学問であることを知ることができるよう工夫する。「アルス・マグナ」(カ ルダノ)から3次方程式に対するカルダノの解法を提示し,生徒が実際に3次方程式をカル ダノの公式を使って解くことにより,「数学が身近なものであること」と「数学の創造性」 を体感させたい。また,数学史に触れることによって,公式が「暗記するもの」から,その 「成り立ちに注目するもの」に変わっていくよう工夫する。方程式の解法も含め,代数学の 基本定理などについても現在の形ができるまでに数多くのドラマがあったことに触れ,後に 学習する内容に興味・関心をもつようにする。 指導対象学年 2年 場 所 教室 科目名・単元名 高次方程式 使用教材 教科書 プリント 粘土 針金 高次方程式の解法の準備として,剰余の定理,因数定理を学び,因数定理 が3次以上の整式を因数分解するときに有用であり,解を1つ知れば,因数 単元の目標 定理によりn次方程式の解法が(n-1)次方程式の解法に帰着されること を理解させる。 簡単な因数分解によって2次方程式の解法に帰着できる3次,4次方程式 と,因数定理を用いた解法を学ぶ。 学習目標 カルダノの公式を使って,有理数の解をもたない3次方程式を解くことが できる。あわせて,3次方程式の解法をめぐる数学史を理解する。 ・意欲的に, ・意欲的に,カルダノの公式を用いて3次方程式を解こうとする カルダノの公式を用いて3次方程式を解こうとする。 こうとする。 (関心・意欲・態度) 関心・意欲・態度) ・カルダノの公式を用いて,一般の3次方程式を解くことができる。 評価規準 (表現・処理) ・数学を文化としてとらえ,日々人間の努力により発展しつつあるものであ るという視点をもつことができる。 (関心・意欲・態度) 本 時 の 展 開 過 学習項目 学 習 活 動 指導上の留意点・観点別評 程 (指導のねらい) (□:指示・説明,○:発問・活動) 価(⇒:評価方法) 導 因数分解や因数定 ○ 次の3次方程式を解いてみよう。 ・「本日のプリント」を配 理を用いても解くこ 付する。 ・4~5人のグループ学習 入 とができない3次方 <課題> 程式があることに気 の形式で行う。 ⌧ ⌧ 付き,その解法に興味 ⌧ ⌧ ・因数分解や,因数定理を をもつことができる。 使って,意欲的に3次方 程式を解こうとする。 □課題のように,有理数の解をもたな い3次方程式は,従来の方法では解 くことができないことを説明し,本 時の授業の目標が,「本日のプリン ト」の(2)のような3次方程式を 解くことであることを確認する。 展 (関心・意欲・態度) ⇒机間指導により確認 ・簡単そうにみえても,既 習の知識では解けない 3次方程式の解法に,多 くの生徒が挑戦してみ ようと思うように,グル ープ内での意見交流を うながす。 ・(2)の3次方程式は, どうすれば解けるのだろ うという疑問が十分育つ まで待つ。 ・3次方程式の解法にまつ わる数学史の資料(別紙 プリントⅠ)を配付し, 「数学試合」を中心に簡 潔に話して,興味・関心 を喚起する。 3次方程式のカル □カルダノの3次方程式の解法にま ダノの解法を,数学史 つわる数学史を紹介する。 の流れの中で理解す ・3次方程式の解法は,ルネッサ 開 る。 ンス最中のイタリアで発見さ れ,様々な経緯を経て,カルダ ノの著書「アルス・マグナ(大 技法)」(1545)で公表された。 ・彼の解法は,複素数が認知され るきっかけとなった。 3次方程式のカル ○カルダノの解法で3次方程式を解 ・カルダノが3次方程式を ダノの解法を追体験 いてみよう。(別紙プリントⅡを利 解いた方法を追体験す する。 るため,別紙プリントⅡ 用する。) を配付する。 数学化の場面 □3乗根の表記など,ポイントだけ説 ・粘土でつくった立方体 と,それを分解するため 明をする。 に細い針金を各グループ 分解した立方体の体積の関係から(1)の に用意しておく。 3次方程式が現れることを発見し,3次方 ・意見がまとまったグルー 程式を解くことが,立方体の一辺の長さを プに発表させる。 求める問題になることを理解する。 数学的考察・処理の場 面 カルダノの解法を 理解し,3次方程式を 解くことができる。 問題1では、u3=x3+3uvx+v3 変形して、x3+3uvx=u3-v3 を導く。 u3=X、v3=Y とおくと, X= 108 +10、Y= 108 -10 より u=3 108 +10 、v=3 108 -10 になり、x=u-v として求められる。 実は、 3 108 +10 -3 ・カルダノの解法を追体験 しながら,意欲的に3次 方程式を解くことができ る。(関心・意欲・態度) ⇒机間指導により確認 ・どのグループも解法が見 付からないようであれば ヒントを与える。 108 -10 は2に等しい。 □1つの解を求めることによって,他 ・1つの解が求まったら, の2つの解を求めることができる。 (解説を参照) ここでは他の2つの解の 求め方に深入りしない。 □プリントⅡの解法は「カルダノの解 法」であり,この方法を現代的な手 法を用いて一般化したものを<解 説>で示す。 □人間は,(2)のような方程式を解く ・数学を文化としてとら 戦いをしてきた。数学の歴史は「人 え,日々人間の努力によ 間の文化」の歴史であり,現代人が り発展しつつあるという 利用している定理や公式も,数学を 視点をもつことができ 築いてきた天才たちの遺産であり, る。(関心・意欲・態度) そこには人間と数学との格闘の歴 ⇒本日のプリントで把 史がある。 握する。 数学的知識の意味付 ○授業の最初に解こうとした3次方 ・本日のプリントの(1)の 程式(2)を,今度はカルダノの解法 3次方程式を解くことに け・活用の場面 で解いてみよう。 よって得た解法を活用し カルダノの解法で ⌧ て,(2)の3次方程式を解 ⌧ 学んだことを活用し くことができる。(表 て一般の3次方程式 x3+12x+12=0 を解く。 現・処理) を解くことができる。 ⇒各グループの様子を机 x=u-v とおくと 間指導により観察す x3+3uvx=u3-v3 となり る。 12=3uv,-12=u3-v3 を満たす,u,vを求めればよい。 u3=X,v3=Yとおくと XY=64,X-Y=-12 より,X=4,Y=16 (X=-16,Y=-4) ・生徒の様子を観察し,解 答が途中であっても,時 間を切り,まとめに入る。 ∴ u=3 4 ,v=3 16 x=u-v より,x=3 4 -3 ・各グループで研究し,学 習したカルダノの解法 で,今度は生徒一人一人 が3次方程式に挑戦し, 解けるという体験ができ るようにする。 16 ま 振り返りと活用の場 □3次方程式には,因数分解,因数定 ・カルダノの公式で3次方 面 理解の公式等による解法がある。 程式を解いた感想と, と 3次方程式の解法 □「本日のプリント」の(1),(2)の課 (1),(2)の3次方程式の に つ い て ま と め , 題を最後まで解いてくること。ま 解法が未完成であれば宿 め 「本日のプリント」の た,評価欄も記入して,次回に提出 題とする。 宿題内容を確認する。 すること。 ・数学の歴史を追体験した ことによって,数学が身 近なものとなり,学習内 容に興味・関心をもつこ とができる。(関心・意 欲・態度) ⇒「本日のプリント」の 評価欄により確認す る。 <解説> 3次方程式の解の公式をめぐって カルダノ(Cardano)の方法として知られている3次方程式の解法は,実はタルタリア (Tartaglia)が発見したものだと言われている。詳細は生徒に配付するプリントⅠに記述し た。ここではカルダノが行った,「立方体を用いた解法」を,整理してみることにする。 〔第1段階〕 (a≠0) は,未知数を変換することにより,2 一般の3次方程式 ax3+bx2+cx+d=0 次の項をなくすことができる。 b (3ac-b2) (2b3-9abc+27a2d) p= q z x = = + 具体的には, , とおくと一般の3 3a2 27a3 3a と変換し, 3 次方程式は z +pz+q=0 ・・・①となり,この方程式が解ければよいことになる。 この変換は, 3次関数 ている。 f(x)=ax3+bx2+cx+d の変曲点をy軸上に平行移動することに対応し 〔第2段階〕 1の虚数立方根の一つをy とすると次の因数分解ができる。 a3+b3+c3-3abc=(a+b+c)(a+y b+y 2c)(a+y 2b+y c) ・・・② 因数分解の公式 a3+b3+c3-3abc=(a+b+c)(a2+b2+c2-bc-ca-ab) において, a2+b2+c2-bc-ca-ab=a2-(b+c)a+b2-bc+c2=0を a について解くと a= b+c ± 3 i(b-c) となるので、 2 ( a2-(b+c)a+b2-bc+c2= a- ここで, y= -1+ 2 3i 1- 3i 2 とおくと, y = 2 b- 1+ 3i 2 )( c a- 1+ 2 3i b- 1- 3i 2 -1- 3 i 2 ) c なので,②の因数分解ができる。 形式的に,②の a, b, c を z, u, v に書き換えると, z3-3uv・z+(u3+v3)=(z+u+v)(z+y u+y 2v)(z+y 2u+y v) ・・・③となる。 ①の左辺と③の左辺を比較して,分かっている数 p, q に対して, p=-3uv, q=u3+v3 ・・・④を満たすが一組見付かれば,①の解が③=0の解として, z=-(u+v), -(y u+y 2v), -(y 2u+y v) と求められる。これらの解に, - b を加えた 3a ものが,求める一般の3次方程式の解となる。 〔第3段階〕 u3+v3=q,u3v3=- p3 27 u3,v3 は2次方程式 を満たす z2-qz- p3 27 =0 ・・・⑤ の解XとYと一致する p3 3 3 ④より,u3+v3=q,u3v3=- 27 が得られ,2次方程式の解と係数の関係から,u とv は⑤の 解となる。 つまりX=u3,Y=v3 となる。 p Xは通常複素数で,その立方根は3つあるが,その一つをu=3 X と表して,v=- 3u と定 めると,④の前半は明らかに満たす。 ⑤の解と係数の関係から,XY=- p3 27 で,この式にp=-3uv を代入すると v3=Yとな り,v= 3 Y となり,解と係数の関係から,u3+v3=X+Y=q が得られる。 以上から,①の解は z1=-(3 z3=-(y 2 <参考文献> X +3 Y ) ,z2=-(y 3 X +y 3 Y) 3 X +y 2 3 Y ), となる。 数学への誘い 対話による古典数学入門 培風館 羽鳥裕久著 〔本日のプリント〕 3次方程式に挑戦! (1) ( )年( )組 名前( ) 3次方程式 x3+6x-20=0 を解きなさい。 (2) 3次方程式 x3+12x+12=0 を解きなさい。 <今日の授業を振り返ってみましょう> ○カルダノの解法で3次方程式を解いた感想は? ・興味を持ったところ ・発見したこと ・わかりにくかったところ 今日のあなたの授業参加は 1 2 3 4 5 (5段階評価で○印を付ける) 〔プリントⅠ〕 方程式の数学史 □数学の試合 16 世紀の中頃,イタリアでは問題を出して,解いて,討論する数学の試合が流行しまし た。賞金が稼げて,名声が得られるのです。しかし,当時は数学者が問題の解法など,発 見したことを公表しないのが普通でした。そんな試合でよく出題されたのが,3次方程式 でした。この方程式の解法術を,ボローニャ大学の数学教授フェルロ(1465~1526)は知っ ていましたが,それを公表しないで弟子のフロリドに教えて亡くなってしまいました。 フロリドは3次方程式が解けることを吹聴していたので,彼にタルタリア(1499~1567) が挑戦しました。タルタリアは努力家で独学で数学を身につけた優秀な数学者でした。タ ルタリアはフロリドとの試合の前に,フロリドの秘蔵していた術を探し当て,さらに工夫 していたので,圧勝しました。 タルタリアは3次方程式の解法術を公表しませんでしたが,解法を教えてほしいという 人がたくさん彼の所に来ました。その中に,当時のイタリア代数学の中心的存在で,医師, 占星術師,賭博師で有名であったカルダノ(1501~1576)がいました。カルダノはうるさい ほどタルタリアにつきまとい,だましたり,脅かしたりしました。ついにカルダノはタル タリアに「絶対に他には公表しない。」と誓って,方法だけを教えてもらいました。しか し,カルダノは約束を破って,自分の本「アルス・マグナ (Ars Magna)(大いなる術)」 (1545)にこの術を掲載してしまいました。 タルタリアは怒って,カルダノが約束を破ったことを責め,試合をすることになったの ですが,カルダノは逃げ,弟子のフェラリ(1522~1565)を代役に立てました。しかし,タ ルタリアはこの代役に負けてしまいました。それもそのはず,フェラリは後に4次方程式 の術を考えつくほどの実力者だったのです。フェラリは,タルタリアやカルダノより優れ た数学者だったと言われています。 このようなわけで,3次方程式の公式は「カルダノの公式」と呼ばれています。4次方 程式については「フェラリの公式」となっています。 □複素数の芽生え 複素数は2次方程式から生まれたのではありません。2次方程式だけなら,実数の範囲 で「解なし」で済んでいたのですが,3次方程式の解法の途中の2次方程式に虚数解が現 れることがあります。 カルダノは次の言葉を残しています。「それによって受ける精神的苦痛は忘れ,ただこ れらの量(根号内が負の解)を導入せよ」 こうして,2乗して負になる新しい「数」が数学上の概念として導入されていきました。 □代数学の基本定理へ フェラリは後,ボローニャ大学の教授となりました。彼の発見した4次方程式の解法は, 4次方程式の解法を3次方程式の解法に還元し,平方根,立方根によって解くものでした。 では,5次以上の方程式についてはどうなのか。アーベル(1802~1829)は 1824 年に「代数 方程式に関する論文」で5次以上の代数方程式は一般に代数的に解けない,すなわち,加 減乗除と累乗根に開くという代数的操作だけで解く一般的な解法は存在しないことを証明 しました。年代は前後しますが,5次以上の方程式の解の存在については,ガウス(1777 ~1855)が 1799 年に「係数が複素数のn次の代数方程式には複素数の範囲に重複度も含め てn個の解が存在する。」ということを証明しています。これを代数学の基本定理と呼ん でいます。 参考文献 数学を築いた天才たち(上,下) 講談社 BLUE BACKS スチュアート・ホリングデール著 〔プリントⅡ〕 カルダノの解法を体験しよう カルダノは図形の変形を利用して x3+6x=20を解きました。カルダノが解いた方法を体験 してみましよう。 一辺の長さがuの立方体を,下の図のように3つの形をした立体に分割します。 ただし,u,v は、u3-v3=20,uv=2 を満たすとして,xの値を求めます。 ⌧ ⌧ ⌧ × 3 実際に粘土の立方体を針金で分割して体積の関係を求めてみましょう。 (問題1)体積の関係から, u,v,x の関係式を求めましょう。 次に,この関係式に, u, v の条件を代入してみてください。 (問題2)uv=2、u3-v3=20 を満たす u,v を求めましょう。 (問題3) x を求めましょう。