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企業のソーシャル化とは ―「自律・分散・協調」型組織への変革―

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企業のソーシャル化とは ―「自律・分散・協調」型組織への変革―
2012 年度(平成 24 年度)卒業論文 FW
企業のソーシャル化とは
―「自律・分散・協調」型組織への変革―
2013 年 3 月
公立大学法人宮城大学
事業構想学部 事業計画学科
20921051 佐々木真由子
論文の構成
序論
はじめに
研究の背景、目的、独自性を示す。
第1章
先行研究に基づくマーケティングの進化
先行研究を通してマーケティングの変遷を整理し、マーケティング 3.0 登場の背景を
明らかにする。また、マーケティング 3.0 の概念についてまとめる。
第2章
ソーシャルメディアとは―ソーシャルメディアの背景―
Web2.0 の潮流の中で浸透してきたソーシャルメディアについてまとめる。ソーシャル
メディア登場の背景について整理したうえで、政治や企業活動へのソーシャルメディア
の影響力を明らかにする。
第3章
企業のソーシャルメディア・マーケティング
企業がソーシャルメディアを企業活動に如何に取り込んでいるのか、成功事例、かつ
失敗事例を取り上げる。また事例を受け、ソーシャルメディアが誘起する企業のパラダ
イムシフトを乗り越えるためには、
“企業のソーシャル化”が必要であることを述べる。
第 4 章 企業のソーシャル化の必要性
“企業のソーシャル化”について定義する。その上で“企業のソーシャル化”の必要
性を示し、実現するための組織の在り方を“HERO”を中心に考察する。
第5章
新しい時代に必要とされる組織の在り方
今後企業が目指すべき組織の在り方を示す。まず、従来型組織や近年多くの企業で見ら
れる組織形態の限界を明らかにする。また、新しい組織の在り方として先進企業を参考に
「自律・分散・協調」型組織について言及する。
第6章
本研究の特徴
本研究を総括し、その上で本研究の限界に言及する。また、限界を踏まえ、新しい組織
の在り方への期待を述べる。
1
2
内容
序章
はじめに ...................................................................................................................... 5
0.1
本研究の背景と意義 .................................................................................................. 5
0.2
本研究の目的と独自性............................................................................................... 6
0.3
論文の構成 ................................................................................................................. 7
第 1 章 先行研究に基づくマーケティングの進化 ............................................................... 9
1.1
マーケティングの変遷............................................................................................... 9
1.2
マーケティング 3.0 とは ......................................................................................... 10
1.3
ソーシャルメディアとマーケティング ....................................................................11
1.4
第 1 章のまとめ........................................................................................................ 14
第 2 章 ソーシャルメディアとは ....................................................................................... 15
2.1
情報量の増加 ........................................................................................................... 15
2.3
ソーシャルメディアの影響力.................................................................................. 16
2.4
企業によるソーシャルメディア活用....................................................................... 17
2.5
ソーシャルメディアの定義と種類-参考文献から見るソーシャルメディア- ..... 18
2.6
ソーシャルメディアの種類と概要 .......................................................................... 19
2.7
第 2 章のまとめ........................................................................................................ 20
第 3 章 企業のソーシャルメディア・マーケティング ...................................................... 21
3.1
企業のバリューチェーン強化.................................................................................. 21
3.1.1
事例 1 良品計画:くらしの良品研究所(自社コミュニティ+Facebook) .. 21
3.1.2
事例 2 ユニクロ:UNIQLO
3.1.3
事例 4:ソフトバンクモバイル(Twitter) ................................................... 23
3.2
LUCKY
LINE(Twitter) ................................... 22
不成功事例から学ぶ企業のソーシャルメディア活用 ........................................... 24
3.2.1
トラブルを引き起こす 3 つのパターンとトラブルを引き起こす内容 .......... 24
3.3
トラブル予防における 3 つのポイント ................................................................... 25
3.4
トラブルの対処について ......................................................................................... 26
3.5
第 3 章のまとめ........................................................................................................ 27
第 4 章.企業のソーシャル化の必要性 ................................................................................ 29
4.1
ソーシャルメディアを最大活用する組織とは ........................................................ 29
4.1.1
東日本大震災における NHK の対応について .................................................. 30
4.1.2
米先進企業、ザッポス―徹底した企業文化から生まれる HERO たち― ........ 30
4.1.3
助け合いジャパン―企業を越えてつながりはじめた HERO― ........................ 32
4.2
組織の変革へ向けて-求められる新しいリーダーシップ・スタイル- ................ 33
4.3
正しいことができる組織へ ..................................................................................... 34
4.4
第 4 章のまとめ........................................................................................................ 35
3
第 5 章.新しい時代に必要とされる組織の在り方 ............................................................. 37
5.1
意思決定権限の集権化と分権化 .............................................................................. 38
5.2
ピラミッド組織とフラット組織 .............................................................................. 38
5.3
新たな組織の在り方―「自律・分散・協調」型組織― ......................................... 40
5.4
第 5 章のまとめ........................................................................................................ 42
終章
本研究のまとめ ......................................................................................................... 43
-謝辞- ............................................................................................................................... 45
【参考文献】 ........................................................................................................................ 47
【参考 URL】 ......................................................................................................................... 48
4
序章
0.1
はじめに
本研究の背景と意義
ソーシャルメディアが登場して以降、企業と消費者のコミュニケーションが大きく変化
している。
“B to C”から“B with C”へという表現が聞かれるように、企業から顧客へと
いう一方通行の関係ではなく「顧客と共に」という姿勢が強く企業のマーケティングに表
れている事例が多々見受けられる。
マーケティングとは、製品中心のマス・マーケティング 1.0 から、顧客中心のマーケテ
ィング 2.0 へと発展してきた。現在ではマーケティング 3.0 と呼ばれ、その最大の特徴は
顧客がものを言う能動的な存在になったことだと考えられる。顧客はこれまでのような受
け身の存在ではなく、商品の企画、製造、販売、アフターサービスなどの、あらゆる側面
でモノを言うことができる存在となったのである。ソーシャルメディアの普及によって、
企業の活動は消費者から容易に見透かされるようになったとともに、顧客の声に背を向け
る企業は、顧客から厳しい批判を受け企業価値の後退を余儀なくされている。企業は今後、
ソーシャルメディアを軸に、自社の商売は何のためにあるのか、何をすべきかを改めて見
つめ直すタイミングにあると思われる。
顧客との協働を実現している企業として(1)無印良品(2)ユニクロ(3)ソフトバンク
の事例が挙げられる。上述した 3 社はソーシャル活用売上ランキング上位企業であり、そ
の戦略はソーシャルメディア活用が売上貢献に確かに結びつくことを明示している。同時
に、
“とりあえずソーシャルメディア活用”という取り組みの時代が終わりを告げているこ
とを事例から見ることができる。
まず、無印良品は「くらし良品計画所」という WEB サイトを軸にファンと共に商品開発
を進めている。Facebook ページと連動することでコメント共有できることや今まではオウ
ンドメディア1で閉じていた活動が連携することで、よりファンの方々との交流を深めるこ
とに成功している。
次に、ユニクロは感謝祭への集客を目的として、Twitter と連動した自社サイト「UNIQLO
LUCKY LINE」を開設した。バーチャル行列に参加すると、オンラインクーポンや景品が当
たるなど、並ぶ楽しさと実店舗へ行く動機付けに成功したといえる。
そして、ソフトバンクは Twitter を通じてカスタマーサポートを行うアクティブサポー
ト・アカウントを本格的にスタートしている。トラブルに陥っている顧客を探し出すため
にリアルタイムにツイートを模索している。顧客対応が急速になったことから、サービス
の向上に成功していると考えられる。
1
オウンドメディアとは、顧客との一方向または双方向による継続的な情報の交換を通じて
企業の売り上げに寄与する自社所有のメディアのこと。
5
上述した 3 社に共通するのは、顧客が自発的に商品開発や販売に参加していることであ
り、これは単なるマーケティング上の変化ではないと考えられる。なぜなら、顧客は企業
からコントロールされるのではなく、意思を持った生活者として存在しており、消費者同
士が互いにつながり「力を持った共同体」が生まれつつあるからだ。
誰もがつながるソーシャルメディアに自社の体質を適合させた企業は、これからの時代
にさらに強くなると思われる。顧客とつながり、顧客と交流しながら、商品やサービスを
開発する。このように企業を取り巻く環境の変化に対応していくことが企業のソーシャル
化の一要素であると考える。
0.2
本研究の目的と独自性
本研究の目的は、以下のとおりである。
まず、企業におけるソーシャル化の必要性を明らかにすることである。企業のソーシャ
ル化とは、一言で表現すると「社員が自律的に行動できる環境を創造すること」であると
考えられる。しかしながら企業のソーシャル化という概念はいまだに確立されておらず、
一般的に定義されているものではない。本研究では、社会的・経済的変化の中で、「企業の
ソーシャル化」の定義や概念を整理する。
次に、企業のソーシャル化にとって最適な組織の在り方について提案することである。
企業のソーシャル化を象徴する一つとして、企業がマーケティングにソーシャルメディ
アを活用していることが挙げられる。しかしながらソーシャルメディアを活用することは
メリットだけでなくデメリットも生じている。主にそれは、公式ページの炎上に繋がり企
業そのものに大きな影響を与える場合がある。企業にソーシャルメディアが活用されたと
いうのは周知の事実であるが、それがどのような背景において活用され、どのような役割
を果たしたか、成功要因はどこにあったかというのは、不明瞭な点が多い。本研究では、
この点を明らかにし、企業のソーシャル化において必要な組織の在り方について言及する。
本研究の独自性はソーシャルメディアを活用するための先進的な組織の在り方にまで踏
み込んで言及する点にある。
まず、ソーシャルメディアに関する研究は比較的歴史が浅く、企業のソーシャル化に言
及した研究、特に企業のソーシャル化において最適な組織の在り方について言及した研究
は例が少ない。本研究では、企業によるソーシャルメディア・マーケティングの分析だけ
でなく、企業のソーシャル化とは何かを明確にし、企業のソーシャル化において組織の在
り方まで踏み込むことによって研究の新規性や独自性を高めていく。
6
0.3
論文の構成
本論文の構成は、以下のとおりである。
第 1 章では、先行研究を通じて歴史的なマーケティングの発展を捉え、マーケティング
3.0 の登場によって、企業がどのようにソーシャル化に近づいているのかを明確に示す。第
2 章では、ソーシャルメディア全体について概観し、それを取り巻く環境や背景、定義につ
いてまとめる。第 3 章では、企業のソーシャルメディア活用事例をまとめる。ソーシャル
メディア売上ランキングが上位であり、かつ企業のバリューチェーンに顧客を上手く取り
込むことに成功している企業を取り上げることで、企業がソーシャルメディアをどのよう
にとらえビジネスに活用しているか明らかにする。また、ソーシャルメディアを活用する
ことによって発生するトラブルを如何に対処することが重要であるのかを明らかにする。
第 4 章では、企業のソーシャル化の必要性とソーシャルメディアを最大活用する組織のあ
り方について言及する。企業のソーシャル化に向けた組織づくりを行う上での課題点を明
らかにするとともに、すでに新しい組織の在り方を確立し、成果をあげている企業を事例
とし、その特徴やもたらされる期待効果などに注目し「企業のソーシャル化」を実現する
ために必要な組織の在り方を考察していく。最終章として第 5 章では、従来型組織と比較
した新しい組織の在り方について「自律・分散・協調」型組織として示す。
7
8
第1章
先行研究に基づくマーケティングの進化
パソコンや携帯電話が普及し、それらがインターネットで相互につながることによって、
世の中が Information Technology(情報技術、以下 IT と略す)により急速に変化した。ソ
ーシャルメディア・マーケティングは、企業が自ら Twitter や Facebook での公式アカウン
トを持ち、顧客との直接対話を試みることで顧客との信頼関係を構築し、ビジネスを生み
出している。今までの企業経営では考えられなかった顧客と対等の立場でのマーケティン
グである。
企業は、ソーシャルメディア・マーケティングを客観的に分析し、迅速に取り入れる対
応が迫られていると考えられる。そこで、まずマーケティングの歴史を概観し、さらに、
マーケティングとソーシャルメディアの関係について論じる。
1.1
マーケティングの変遷
1960 年代、当時のマーケティングは「製品が中心」であった。いいものを作れば売れる
時代、マーケティングは取引志向で、どのように製品を販売するかに力点が置かれていた。
特に重要視されたのは 1961 年にジェローム・マッカッシーが提唱した 4P、適切な製品
(product)に、適切な価格(price)をつけ、適切な場所(place)で売り、適切な販促
(promotion)を行うという考え方である。この考えに基づいた製品管理がマーケティング
活動の中心となり、市場において統合的に展開されることとなる。この時代、製品はかな
り基本的で、マス市場のために設計されていた。規格化と規模の拡大によって生産コスト
をできる限り低くし、価格を下げてより多くの購買者に買ってもらおうとしたのである。
ヘンリー・フォードの T 型車がこの戦略の典型とされる。こうした製品中心の段階が、マ
ーケティング 1.0 である。
やがて 1970 年代に入ると、石油ショックなどで米国経済が打撃を受け、経済成長はアジ
ア途上国に移りはじめる。世の中にはモノがあふれはじめ、競争も激しくなったことから、
良いモノを作っても売れない不確実性の時代が到来した。加えて設備には膨大な資金を投
入しており、それを早く回収する必要も生じた。多くの製品が作れるようになったことは、
それに見合うだけの顧客を獲得しなければ、企業の存続を危うくするというジレンマも抱
えるようになったのである。そんな時代背景が、マーケティングを「製品が中心」から「消
費者が中心」にしていく。マス市場を細分化(segmentation)し、その中からフォーカス
すべき分野を選択(targeting)し、顧客に対して独自のベネフィットを提供(positioning)
する STP アプローチが主流になり、製品も顧客ニーズに合わせて多様化していった。
さらにマーケターは、新規顧客を開拓するよりも、繰り返し購入してもらうほうがロー
コストなことに気がつき、CRM(Customer Relationship Management)に取り組むようにな
る。2既存顧客との関係性を重要視し、顧客に継続的に消費してもらうことに主眼が置かれ
CRM とは、
情報システムを応用して企業が顧客と長期的な関係を築く手法のことである。
IT 用語辞典 e-Words 参考
2
9
るようになったのだ。そして「誰が」
「いつ」「どこで」
「何を」「いくら」で買ったかを把
握するためのデータベースが構築され、消費者は多角的に分析されるようになる。そのた
め、消費者は幅広い機能特性や選択肢の中から製品を選ぶことができることから、ニーズ
や欲求は十分に対応され、暮らしは豊かになっていった。こうした消費者志向の段階が、
マーケティング 2.0 である。
現在、マーケティングは「人間が中心」である。消費者は機能的な満足だけでは満たさ
れず、心の満足を求めはじめた。生産活動がボーダレスとなり、製品はコモディティ化が
すすみ、ネットを見ればいつでも価格を比較できる時代になった。企業は製品や価格での
差別化が困難となり、特別なサービス、心のこもったおもてなしがテーマとなってきた。
さらに、ソーシャルメディアの登場によって消費者は対話交流の場を得て、能動的な存
在となった。購買の意向、商品の使用感、電話窓口での顧客対応、店頭での顧客サービス、
購入後のトラブルサポートに至るまで、ありとあらゆる顧客体験が日常的にシェアされる。
そして、企業の不誠実な言動や企業活動は告発される透明性の時代が訪れ、今や消費者
は分析のターゲットではなく、企業と共に歩んでいく大切なパートナーとなったと考えら
れる。こうした単に人々を消費者とみなすのではなく、マインドとハートと精神を持つ全
人的存在と捉え働きかける段階が、マーケティング 3.0 である。
1.2
マーケティング 3.0 とは
現在、私たちはマーケティング 3.0、すなわち価値主導の段階にいる。マーケティング
3.0 はフィリップ・コトラーが提唱したマーケティングの新たな段階であり、マーケティン
グ 3.0 について以下のように語っている。
マーケティング 3.0 では、マーケターは人々を単に消費者を見なすのではなく、マイン
ドとハートと精神を持つ全人的存在と捉えて彼らに働きかけ、消費者はグローバル化し
た世界をよりよい場所にしたいという思いから、自分たちの不安に対する解決策を求め
るようになっている。自分たちの一番深いところにある欲求、社会的・経済的公正さに
対する欲求に、ミッションやビジョンや価値で対応しようとしている企業を探し、選択
する製品やサービスに、機能的・感情的充足だけでなく精神の充足をも求めている。
(フ
ィリップ・コトラー,2010)
消費者志向のマーケティング 2.0 と同じく、マーケティング 3.0 も消費者を満足させる
ことを目指すわけだが、マーケティング 3.0 を深く理解している企業は、より大きなミッ
ションやビジョンや価値を持ち、社会の問題に対するソリューションを提供しようとして
いると考えられる。マーケティング 3.0 は、コンセプトを人間の志や価値や精神の領域に
押し上げ、消費者を全人的存在ととらえ、消費者としての一面以外のニーズや願望もおろ
そかにされてはならないとしている。それゆえマーケティング 3.0 では、感情に訴えるマ
10
ーケティングを、精神に訴えるマーケティングで補うのである。
フィリップ・コトラーが述べる
フィリップ・コトラーが述べるマーケティング
3.0 は「協働マーケティング」
「
「文化マー
ケティング」「スピリチュアル・マーケティング」で構成されている。
「スピリチュアル・マーケティング」で構成されている
情報テクノロジーの進化によるソーシャルメディアの台頭により、消費者参加の時代に
テクノロジーの進化によるソーシャルメディアの台頭により、消費者参加の時代に
なり、
「協働マーケティング」が一つのキーであるとしている。また、グローバル化が進化
「協働マーケティング」が一つのキーであるとしている。また、グローバル化が進化
することにより、様々な課題が
することにより、様々な課題が起こっている。例えばモノやサービスやヒトが自由に移動
モノやサービスやヒトが自由に移動
できるようになったが、一方で自国をグローバル化の影響から守ろうとするナショナリズ
できるようになったが、一方で自国をグローバル化の影響から守ろうとするナショナリズ
ムが強くなるといったものである。それへの対応として「文化マーケティング」がキーで
あるとしている。最後に挙げているキーが「スピリチュアル・マーケティング」というも
ので、直感的に理解が難しい概念であるが、消費者の価値観がより「人間らしい生き方」
「創
造的な生活」に向かっていることへの対応としているようである。
図 1.1 マーケティング 3.0 を構成する 3 つのマーケティング(資料を基に筆者作成)
つのマーケティング(資料を基に筆者
1.3
ソーシャルメディアとマーケティング
フィリップ.コトラーは、マーケティングにおけるソーシャルメディアの重要性を指摘
フィリップ.コトラーは、マーケティングにおけるソーシャルメディアの重要性を指摘
している。上述したマーケティング
マーケティング 3.0 について理解を深めるためにも、
を深めるためにも、ここではコトラ
ーの指摘も交えながら、ソーシャルメディアとマーケティングの関係
がら、ソーシャルメディアとマーケティングの関係について記述する。
について記述する。
ソーシャルメディアは、いまやマーケティングになくてはならない存在である。特に SNS
の Facebook、あるいはミニブログといわれる
、あるいはミニブログといわれる Twitter などは、登場以来着実にユーザー数
を伸ばして世間に大きな影響を与える存在となっている。
11
そもそも、ソーシャルメディアは、
そもそも、ソーシャルメディアは、WEB2.0
という考え方は提唱されるようになったころ
から発展してきた。WEB2.0 とは、2004
とは、
年に米国のオライリーメディア社の
の CEO ティム・オ
ライリー氏が“What
What is Web2.0?”という論文を通じて提唱した、従来の
Web2.0?”という論文を通じて提唱した、従来の Web サービスや
ユーザー体験を超えた新しい Web の在り方や方向性を示す言葉である。それ以前の
それ以前の Web を
Web1.0 と定義すれば、Web2.0
Web2.0 はいわばパラダイムの転換ともいうべきものである。ここで
いう、パラダイムとは、基本的なものの見方や考え方、または「思考の枠組み」を指して
いう、パラダイムとは、基本的なものの見方や考え方、または「思考の枠組み」を指して
いる。Web1.0 から Web2.0 へのパラダイムシフトについて、ティム・オライリー氏はその
、ティム・オライリー氏はその
変化を 4 点述べている。
第 1 に、機械論的パラダイムから生命論的パラダイムへの転換を挙げてい
に、機械論的パラダイムから生命論的パラダイムへの転換を挙げている。Web1.0 の
時代には、インターネットの特徴とされるインタラクティブ(双方向)性は、極めて限定
的で、企業の発信した情報に消費者が反応するといった程度のものでしかなかった。圧倒
的な情報がほとんど企業側から提供され、ホームページやメールで発信される情報は、電
子公告あるいは電子チラシの域を出るものではなかったのである。
しかし、Web2.0 の時代に入ると、それは一変する。ユーザー側のウェブサイトの使い勝
手が格段に良くなり、提供される情報量もユーザー側の方が企業側の情報量を大きく上回
るようになったのである。またそれだけではなく、ユーザー側がキャッチした情報、ある
いは生み出した情報は、ブログ、
いは生み出した情報は、ブログ、Twitter、Facebook、あるいは
YouTube 等のソーシャルメ
ディアを通じて、瞬く間に広まっていったのである。
図 1.2 Web1.0 と Web2.0(資料を基に筆者
(資料を基に筆者作成)
第 2 に、Web1.0 から Web2.0
2.0 への移行は、クローズド志向からオープン志向へのシフトを
オープン志向へのシフトを
もたらしたとされる。例えば、以前は製品開発でも
。例えば、以前は製品開発でも一企業内ですべて完結してしまう「ク
一企業内ですべて完結してしまう「ク
12
ローズド・イノベーション」の立場をとる企業がほとんどであった。しかし、Web2.0 時代
には、
「オープン・イノベーション」が急激に台頭するようになる。アパッチやリナックス
に評されるオープンソースもその一つである。3さらに、グーグルの例にみられるように、
自社の開発した API を積極的に無償公開し、ユーザーがそれを用いて様々な「マッシュア
ップ」を行えるようになったのも、
「オープン志向」の現れといえる。
第 3 に、Web1.0 から Web2.0 への移行は、卓越性の支配から無名性の蜂起へのシフトをも
たらしたとされる。
「卓越性の支配」や「無名性の蜂起」をそれぞれ定義するならば、卓越
性の支配とは、少数の卓越した、すなわちほかに抜きんでて優れているとされる「モノ、
ヒト、コト」が全体を支配する状況のことである。一方、無名性の蜂起とは、あらゆるこ
とに多数存在する無名な「モノ、ヒト、コト」が、自己主張をし始め、大きなうねりを産
みだすことである。Web1.0 的な「卓越性の支配」の例を挙げるとするならば、専門家の知
識や意見といった「専門知」が世の中の「知の世界」を支配し、リードしていたこともそ
の一つである。また、少数の高級官僚が一億の民をコントロールするといったことも、こ
れまでの日本の姿も、「卓越性の支配」だと思われる。
しかし、Web2.0 の時代には「ウィキペディア」のような無名の大衆の知、すなわち「集
合知」によって知の体系が形成されていく。これはまさに「無名性の蜂起」というべき事
態である。OKwave や Yahoo 知恵袋などのような一般ユーザーが知恵を出し合い、集合知に
よって問題解決を行う現象も、
「無名性の蜂起」と捉えることができると思われる。
また、
「一部のものが全体の大部分を支配する」というパレートの法則も、卓越性の支配
の一つと考えられる。売上上位 20%の商品が全売り上げの 80%を占めるといった「80 対
20 の法則」も、ある種の「パレートの法則」である。そして、これまでこの法則によって、
コンビニエンスストアを始め、多くの店舗がマーチャンダイジングを行って成功してきた
という事実は否定できない。
しかし Web2.0 の時代には、こういった現象に対して、オンライン書店の Amazon にみら
れるように、
「死に筋」といわれる無名の商品群でも、その膨大な数の売上を寄せ集めると、
上位品目の売上総計をも凌駕する大きな売上高になるという現象、すなわちロングテール
の法則が台頭するようになった。棚のスペースやコミュニケーション・コストの制約を受
けずに、
「なか見検索」やレビュー、星印による評価、あるいはレコメンデーションやラン
キング等の工夫により、消費者を巻き込んだ無名の商品の紹介が縦横無尽に展開できるよ
うになったことも、ロングテールの法則を現実のものにした要因と考えられる。これも多
くの無名のものの自己主張すなわち、「無名性の蜂起」現象と捉えることができる。
第 4 に Web1.0 から Web2.0 への移行は、サプライサイド中心の価値創造からディマンド
サイド参加型の価値創造へのシフトをもたらしたとされる。サプライサイドとは製品やコ
ンテンツを「供給」する立場、ディマンドサイドとは製品やコンテンツを「需要」する立
3
オープン・イノベーションとは、自社技術だけでなく他社が持つ技術やアイデアを組み合
わせて、革新的な商品やビジネスモデルを生み出すこと。
13
場を指す。
最近流行のブログ、Facebook や mixi などの SNS(ソーシャルネット・ワーキング・サー
ビス)
、マッシュアップ(ラーメンマップのような複数のソフトの融合)
、CQA(コミュニテ
ィ・クエスチョン&アンサー)といった CGM(Consumer Generated Media:消費者が生み出
すメディア)などは、まさに「ディマンドサイド参加型の価値創造」の典型とされる。
企業は、アンケート調査のような Web1.0 的な企業主導型のリサーチだけでなく、ネット
上の情報のウィルス感染的伝番を利用するバイラル・マーケティングやネット上のバズを
反映させたプロモーション活動や製品開発を意味するバスマーケティングを展開せざるを
得なくなり、その結果、価値創造に消費者の声が深く関与するようになっている。
かつてバーチャル・コーポレーション4、つまり「仮想事業体」という言葉がはやったこ
ともあったが、これは企業間の垣根を越えたバーチャルな 1 つの目的を持った事業体がで
きるという意味で使われていた。しかし Web2.0 の時代においては、バーチャル・コーポレ
ーションを越えて、企業と消費者の垣根をも超越した事業体が形成されることが考えられ
た。分かりやすく言えば、企業と一般大衆とが協力して、真に必要とされる製品やサービ
スを創造するシステムがうまれるのではないかということである。これらのことを考え合
わせると、Web2.0 の台頭により、
「企業のみによる価値創造」の時代からユーザー、消費者
を巻き込んだ価値創造の時代へのシフトが生じていることが分かる。そして、これからの
マーケティング戦略も、まさに今述べた、「生命論的パラダイム」
、
「オープン志向」
、
「無名
性の蜂起」、
「ディマンドサイドの参加」
、そして「価値創造の民主化」といった Web2.0 の
コアイメージをいっそう推し進めたところに見出すべき時代になっていると述べられてい
る。
フィリップ・コトラーによれば、米国のブログ読者のうち約 3 割がインフルエンサー5と
して機能しているという。ソーシャルメディアの活用は政治や企業の間でもすでに当然の
ものとなっている。いずれにしても、このように影響力を強めているソーシャルメディア
が今後ますますマーケティングの重要なツールとなっていくことは明らかである。
1.4
第 1 章のまとめ
本章では、先行研究に基づくマーケティングの進化について示した。まず、マーケティ
ングの変遷をまとめた。その上でフィリップ・コトラーが提唱したマーケティングの新た
な段階であるマーケティング 3.0 について示した。そして最後に、Web2.0 の潮流の中で登
場したソーシャルメディアとマーケティングについて整理した。
4
バーチャル・コーポレーションとは、ネットワークを活用して、必要な技術やノウハウな
どを外部から調達し組織化することで、ビジネスを遂行する企業経営のこと。
5 インフルエンサーとは、消費者の消費行動に対して影響力が強い人。なかでも影響力が強
いブロガー(ブログを運営している人)は、アルファブロガーなどと呼ばれる。
14
第2章
2.1
ソーシャルメディアとは
情報量の増加
近年、様々なメディアの出現や多様化により、社会に流通する情報量の増加が際立って
いる。総務省が情報流通量指標としている「情報流通インデックス」の最新調査結果によ
ると、
“近年、特に流通情報量の伸びが大きく”
、平成 13 年度か平成 18 年度までの 6 年間
で、合計 DVD 約 4400 万枚分の増加であったのに対し、平成 19 年度から平成 21 年度の 3 年
間だけで、その 2 倍以上の約 1 億枚相当も増加しているというデータが明らかになってい
る。さらに、その流通情報量の約 98.5%は、依然放送メディアが占めているものの、
“メデ
ィアグループ別の推移を比較すると、流通情報量ではインターネットの伸びが突出して大
きい”という結果が出ている。6
2.2
ソーシャルメディア利用者数の増加
インターネットを通じた情報量の増加が謳われる中、2010 年は「ソーシャルメディア元
年」と言われるほど、とりわけソーシャルメディアの利用者とその影響力の増加が著しい
とされている。例えば、わずか 2 年足らずで数千万人のユーザー数を擁するようになった
動画共有サイトの「YouTube」や、スタート 1 年で 300 万人のサイトに成長したモバイル SNS
の「モバゲータウン」など、中でも国内初のソーシャルネット・ワーキング・サービスで
ある「mixi」は、サービス開始から 3 年足らずでユーザー数 800 万人を突破し、1 人あたり
の滞在時間で Yahoo を越えた実績もさることながら、現在では登録者 2000 万人以上を誇っ
ている。また、日本におけるソーシャルメディアの興隆を語るに欠かせないのは、海外サ
ービスの日本公開である。全世界で 2 億人以上のユーザーを抱え、日本を含む 27 以上の国
と地域、15 以上の言語サービスを展開している音楽系・エンタメ系ソーシャルメディアの
「マイスペース」や、アバターと呼ばれる自分の分身を作成して 3D 仮想空間に入り込み、
他ユーザーとコミュニケーションを図る「セカンドライフ」の日本公開等、様々あるが、
とりわけここ最近日本での利用者増加が著しいソーシャルメディアを挙げるとすれば、
「Twitter」と「Facebook」の他にはないと思われる。Twitter は 2006 年 7 月にアメリカで
サービスを開始して以降、現在では日本を含め世界で 1 億 4500 万人以上のユーザーが利用
するようになっている。国別投稿件数では、米国が 25%を占め、次いで日本が 18%と、世
界第 2 位を誇っており、このデータからも日本での利用率の高さを窺い知ることができる。
Facebook においては、2011 年 9 月 22 日にサンフランシスコで開催された開発者向けカン
ファレンス「f8」の中で、
“ユーザー数が 8 億人を超え、1 日当たりの利用者数が 5 億人に
6総務省情報通信政策研究調査研究部.情報流通インデックス調査.2011
http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/survey/telecom/2010/2010-I-0
3.pdf
15
達した。欧州全体の人口より多くなっている。
”7と発表しており、その勢いは比類なきもの
であり、もちろん日本においてもそのユーザー数の増加は著しい。
2.3
ソーシャルメディアの影響力
2011 年 2 月 12 日にエジプトで独裁政治を行っていたムバラク政権が崩壊したことは記憶
に新しい。この民主化運動の原動力となったのは、紛れもなく Twitter や Facebook 等のソ
ーシャルメディアの存在である。30 年間にわたり続いてきた政権がわずか 18 日間で倒れた
という事実によって、世界中がソーシャルメディアの影響力とスピード感を実感させられ
たと考えられる。また、このエジプト革命を主導した市民組織を支援する、労働者の賃上
げ要求のストライキ「4 月 6 日運動」においても、ソーシャルメディアが運動の拡大に用い
られている。8更に、ソーシャルメディアを原動力とするこの民主化運動は、エジプト国内
に留まることなく、チュニジアや周辺のアルジェリア、バーレーン、イエメン、リビアに
も拡大して大規模な反政府デモ隊と軍や治安部隊との衝突が続いており、その影響力と伝
播力の大きさが証明されている。
また、2008 年の米大統領総選挙でバラク・オバマ氏を勝利に導いたのも、やはり YouTube
や Facebook、ブログ、携帯アプリなどのソーシャルメディアであると言われており、
“アメ
リカで無名の上院議員が、知名度選抜の対立候補を次々と倒してアフリカ系アメリカ人と
して初めて大統領の座に就くことを可能にした”と有名なエピソードで語られている。
Facebook の関係者がオバマ陣営の参謀を務め、インターネットに熟知した若者「デジタル
ネイティブ」の結集を呼びかけたのである。この一連の事実は、ソーシャルメディアが、
それまでのマスメディアとは異なり、一般市民と意見を交換したり、複雑なことを解説し
たり、仲間に引き込んだりする有効な手段になることを明らかにしたと考えられる。日本
においても、鳩山由紀夫元首相が歴代首相として初めて Twitter に参加し、60 万人ものフ
ォロワーを獲得した。また、総選挙に負けた自民党が、2009 年 7 月から「自民党広報部」
として Twitter を始めたり、麻生太郎元首相が動画共有サイトの「ニコニコ動画」でイン
タビューに答える等、政治家や著名人の中で、ツイッターを軸としてソーシャルメディア
の利用は徐々に浸透しつつあるようである。
これらのエジプトや中東での民主化運動の広がりや、政治的活用からわかるように、ソ
ーシャルメディアは、個人だけでなく、国家をも変えていく力があるのである。
ユーザー数が 8 億人を突破したと発表”
.IT media ニュース
2011-9-26 http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1109/26/news030.html
8 JIJO JACOB.” What is Egypt’s April 6 movement?
International Business Times
2011-2-1 http://www.ibtimes.com/what-egypt%E2%80%99s-april-6-movement-261839
7佐藤由紀子.
“Facebook
16
2.4
企業によるソーシャルメディア活用
また、近年注目されているのは、企業によるソーシャルメディア活用である。
“グローバ
ルで開放的、透明性と即時性という特徴を持つソーシャルメディアには、各企業が注目し、
総合的な戦略を立てている。”と述べるのは、Soumitra.Dutta 氏(2011)である。実際に、
米国大手広報代理店のバーソン・マーステラ社が発表した「大手グローバル企業 100 社の
ソーシャルメディア利用調査」
(調査期間 2010 年 11 月~2011 年 1 月、調査対象としたソー
シャルメディアは、Facebook、Twitter、YouTube、企業ブログ、および各地域のローカル
SNS)によると、
「フォーチュン・グローバル 500 社」のトップ 100 社(米国系企業が 32 社、
欧州系企業が 47 社、アジア系企業が 18 社、南米系企業が 3 社)のうち、1つ以上のソー
シャルメディア・アカウントを持つ企業は全体の 8%で、前年度と比較して 5%アップして
いる。媒体としては Twitter が 77%と群を抜いている他、61%の企業が Facebook に公式フ
ァンページを保有しており、グローバル企業におけるソーシャルメディア活用が積極的に
行われていることが分かる。また、ソーシャルメディア活用のコンサルティングを行う株
式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役の齋藤徹氏(2011)は、この調査結果
を受けて、
“アジア系企業のソーシャルメディア活用が大幅に増加した。特に、国内外のス
テークホルダー向けに Twitter を利用するケースが増えている。
”との見方を示している。
更に注目すべきは、企業にとってのソーシャルメディアが、単なる「販促」のためだけで
なく、
“顧客理解のツール”としても用いられていることだ。アメリカに本社を置く世界最
大の家電量販店、ベスト・バイの CEO、Brian J.Dunn 氏(2011)も、ソーシャルメディア
を“トレンドを知り、社員や顧客とのコミュニケーションを図るための強力なツールとし
て位置付けている”ようである。
日本においても、日産自動車やサントリー等の大手企業の広報・宣伝活動に導入され、
その効果が広告換算で数億円を試算されるのも、ソーシャルメディアを活用した“長期的
なエンゲージ面と(顧客との関係性の強化)
”の構築を重要視する傾向が背景にあると考え
られる。
17
2.5
ソーシャルメディアの定義と種類-参考文献から見るソーシャルメディア-
これほどまでの影響力と昨今の注目度の高さを誇るソーシャルメディアとは何なのか、
参考文献からその特徴についてまとめる。
ソーシャルメディアは、それまでのマスメディアや個人のメディアを比較される“第 3
のメディア”とされている。新聞、ラジオ、雑誌、テレビ等のマスメディアは少数の情報
発信者が大多数の受信者に向けて情報を送り続ける仕組みであるのに対して、個人メディ
アは、個人が独自に情報を発信できるメディアである。その代表はブログであり、その誕
生はごく少数の発信者しかいなかったマスメディアに対して、無数の情報発信者を生み出
すことに成功し、個人のジャーナリズムを促進させた起爆剤としてとらえることができる
と思われる。そしてその後、2000 年代後半から、第 3 のメディアと呼ばれるソーシャルメ
ディアへのシフトが起き始めた。
ソーシャルメディアは、
“人のつながり(ソーシャルグラフ)が記録されているサービス”
で、その上で個人メディアのように“つながりあっている人ひとり一人が情報発信を行う
ことができる仕組み”である。これらをまとめて、齋藤氏(2010)は“ユーザー同士が情
報を発信しながらコミュニケーションが取れるウェブ上のサービスの総称”と定義してい
る。ソーシャルメディアではユーザー一人一人のつながりをベースに情報受発信やコミュ
ニケーションが行われるため、基本的に「誰とつながっている」かによって流れてくる情
報や知ることができる情報が異なるが、それと同時に、クローズドな空間で発信された情
報やコミュニケーションが、そのつながりをベースにしながら拡散していく、という特徴
も持っている。このような、閉鎖性と拡散性を併せ持った、セミクローズド・セミオープ
ンな性格はソーシャルメディアの大きな特徴と言える。
また、ソーシャルメディアについて語るに欠かせないのは、
「情報のリアルタイム化」で
ある。もともとパソコンから利用するウェブサービスとしてスタートしたソーシャルメデ
ィアは、モバイルデバイス、とりわけスマートフォンの登場により、今日に至る爆発的普
及と影響力の増大を見ることとなった。スマートフォンには、ソーシャルメディアをより
使いやすくするアプリケーションが多数用意されており、自分の近況や、得た情報を、時
間や場所を問わず瞬時に自分とつながりあっている人々にそれを発信したり共有したりで
きる環境を提供している。更に、スマートフォンの登場は、この情報の「リアルタイム性」
に留まらず、搭載された GPS により、メディア上に投稿された情報が「どこから投稿され
たのか」
、「そのユーザーがどこにいるのか」という「場所性」も付与することとなった。
これらのことから、ソーシャルメディアとは、個々のメディアによりその程度の大小は
あるにせよ、「拡散性」
(オープン性)、
「閉鎖性」
(クローズド性)
、
「リアルタイム性」
、
「場
所性」を併せ持ち、
「人のつながり」をベースにユーザー同士がインターネット上で情報の
受発信やコミュニケーションを行うプラットフォーム、ということができると考えられる。
18
2.6
ソーシャルメディアの種類と概要
このような背景をもとに、日本だけでも実に多種多様なソーシャルメディアが存在して
おり、使用されているが、ソーシャルメディアの全体像をつかむために、主なソーシャル
メディアの種類と概要を提示する。表 2.1 は、総務省が 2010 年に行ったソーシャルメディ
アの利用実態調査の調査対象として挙げられた 9 種類(ブログ、SNS、動画共有サイト、情
報共有サイト、マイクロブログ、掲示板、ソーシャルゲーム、拡張ゲーム)
についてである。
表 2.1 ソーシャルメディアの種類と概要
種類
概要
ブログ
時系列に並べられた日記風の記事とコメントが定期的に更新され
るウェブさいとのこと。例)Ameba ブログ、Yahoo ブログ等
SNS
ネットワーク上で参加者同士が文字による会話を同時に行えるよ
うにしたサービス。複数の参加者同時に会話することが可能であ
り、ヒトの発言(メッセージ)は全員が見ることができる。
例)mixi、Facebook 等
動画共有サイト
インターネット上で動画等(音楽を含む)を共有するサービス、
ビデオカメラで撮影した動画などを、インターネット上で複数の
人に公開することができる。例)YouTube、ニコニコ動画等
情報共有サイト
インターネット上で情報を共有するサービス。インターネットと
で複数の人に公開できる。例)Wikipedia、COOKPAD 等
マイクブログ
短いテキストを不特定多数又は特定のグループのみに展開するブ
ログ形式のサービス。例)Twitter 等
掲示板
電子的な掲示板サービス。あるユーザーが掲示板にメッセージを
書き込むとグループ全員に見えるようになる。また、そのメッセ
ージに対する返答を書き込んだりすることができる。
例)Yahoo 知恵袋、2 ちゃんねる等
ソーシャルゲーム
ユーザー同士で競い合ったり、交流することのできるオンライン
ゲーム、SNS がサービスのひとつとして提供しているものもある。
例)GREE、モバゲー等
拡張現実
現実の環境に情報を付加し、電子情報(アノテーション)として
表示するこのできるサービス。例)セカイカメラ等
出典:総務省 情報通信国際戦略局 情報通信系材質
ソーシャルメディアの利用実態に関する調査研究の請負報告書
2010-3-24
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h22_05_houkoku.pdf#search='
19
2.7
第 2 章のまとめ
本章では、ソーシャルメディアの背景について示した。まず、導入として、近年の情報
量の増加について「情報流通インデックス」の最新調査結果をもとに、流通情報量におけ
るインターネットの伸びが突出して大きいことを示した。その上で、ソーシャルメディア
利用者数とその影響力が著しいことを明らかにした。また、ソーシャルメディアを原動力
とする大規模な反政府デモや民主化運動の広がりなど政治的活用からわかるように、ソー
シャルメディアは、個人だけでなく、国家をも変えていく影響力と伝番力の大きさを示し
た。そして、第 3 のメディアとして呼ばれるソーシャルメディアについて、参考文献から
その定義と種類をまとめ、ソーシャルメディアについて明らかにした。
20
第3章
企業のソーシャルメディア・マーケティング
ソーシャルメディアをプラットフォームとする新しいマーケティングでは、
“企業のバリ
ューチェーンに生活者が積極的に関与するようになってきた。”と述べるのは、ソーシャル
シフトの著者、斉藤徹氏(2011)である。生活者が商品開発のためのアイデアを提供する。
生活者が良い商品と友人に推薦してくれる。商品に習熟した生活者が使い方の分からない
初心者を支援する。このように企業姿勢やブランドに共感した生活者が出てくると、バリ
ューチェーンの各プロセスにおいて、彼らの生の声を傾聴し、対話交流を通じて、彼らの
支援を最大限に生かす仕組みを構築することができる。しかし、ここでの生活者の参加は
あくまで自由意志、無償報酬であり、ブランドを愛するがゆえに自らの意志で協力してい
るため、生活者の協力を得られない企業は競争から取り残される可能性が高いと考えられ
る。
3.1
企業のバリューチェーン強化
このような新しい時代における企業の生産活動において、生活者とのコラボレーション
によって新しい商品開発や既存商品の改善に成功している企業をいくつか挙げる。
生活者とともに企業のバリューチェーン強化に成功している企業事例から、企業が持続
的発展を続けるために必要な要素を探っていきたい。
3.1.1 事例 1 良品計画:くらしの良品研究所(自社コミュニティ+Facebook)
モノをつくる-生活者とのコラボレーション
良品計画(無印良品)は、2001 年から生活者視点の商品開発を進めるために「モノづく
りコミュニティ」を開設した。ロングセラー商品「体にフィットするソファ」「壁棚」「持
ち運びできるあかり」など、顧客とのコラボレーションにより数多くのヒット商品を生み
出している。このサイトは日本における生活者参加型商品開発のお手本とも言うべき事例
だと思われる。
無印良品がネットコミュニティを利用しはじめたのは 2001 年であり、Facebook 誕生の 3
年前から独自コミュニティを構築して生活者と交流し続けている、国内でも最先端のソー
シャルメディア利用企業である。原点となったのは、生活者視点の商品開発を進めるため
に「モノづくりコミュニティ」
(現在のくらしの良品研究所)を開設したことである。ちょ
うど「無印良品」が経営危機に陥って不採算店舗の閉鎖など経営改革が断行されていた最
中、商品開発にも改革が求められていた際、基本に立ち返り、生活者視点の開発を推進し
ようとしてヒントになったのが、多くの顧客から寄せられていた声であった。「無印良品」
の顧客には熱心な顧客が多く、当時 9 万件に上る意見が、はがき、電話、メールや店員を
通じてなど、さまざまな形で寄せられていた。しかしそのほとんどが手つかずのまま蓄積
されているだけであった。
そこで、貴重な資源である顧客の声を商品開発に直接活用できないかと創設されたのが
21
「モノづくりコミュニティ」である。まずサイトに寄せられた生活者の意見の中から、商
品開発のテーマが抽出される。例えば「すわる生活」といったテーマが絞られると、プロ
ジェクトが設けられ、テーマに沿ったアイデアが募られる。寄せられたアイデアの中から、
いくつかの商品コンセプト、「体をあずける大型クッション」
、
「背もたれのしっかりしたフ
ロアソファ」などが候補として、サイトにアップされる。さらに、投票によって一番人気
を選び、そのデザインスケッチを数点起こし、再度投票を行う。こうした数度にわたるキ
ャッチボールを経て、仕様や詳細が決まり、試作品がつくられる。さらに、購入予約が募
られ、生産ロットが決められる。実際に、この方法で生まれた「体にフィットするソファ」
は、爆発的な売り上げを記録した。それ以来、顧客とのコラボレーションにより上述した
ロングセラー商品を数多く生み出している。
対話の中で生まれた「からだにフィットするソファ」や「持ち運びできるあかり」など、
消費者起点で生み出されたヒット商品は、結果だけ見れば当たり前のようだが、顧客の声
に着目し、「他社よりも速く形にして、これまで気付かなかった新しい価値に気づかせる」
ことによって、大ヒット商品は生まれたのだと思われる。
3.1.2 事例 2 ユニクロ:UNIQLO
LUCKY
LINE(Twitter)
モノを売る-商品販売、プロモーション
ユニクロは、2010 年 5 月に、ユニクロ誕生 26 年を記念し「ユニクロ誕生感謝祭」を開催
した。5 月 28 日朝 6 時に全国 351 店舗をオープンし、先着 100 名様に朝食を配るほか、夏
の代表作や自信作を特別価格で販売するキャンペーンである。
その感謝祭への集客を目的として、Twitter と連動した自社サイト「UNIQLO LUCKY LINE」
をプレローチンした。このサイトは Twitter と連動しており、Twitter アカウントでログイ
ンすると、自分が選んだアバターがユーザーの代理としてバーチャル行列に参加する仕組
みである。26 名中 1 名の確率でオンラインクーポン 1000 円分が当たるほか、抽選で 260 名
のユーザーにはオリジナル「行列 T シャツ」が当たることもあり、Twitter 上で大規模な話
題を呼んだ。
先着景品などでの行列演出はユニクロでよくみられる光景であるが、それをネット上で
行い、リアル店舗の集客に結びつけた手法は大きな成功となった。結果としてネット上で
は 4 日間で 13.7 万人が並び、成功プロモーションとして広く知られることになったのであ
る。
行列に並ぶ入口のひとつは、ユニクロのウェブサイトであり、並ぶと特典がもらえ、
Twitter や Facebook にコメントを入れるだけでその行列に並べることが一目でわかるよう
になっている。もう一つは Twitter や Facebook から入る方法で、
「今、行列に並んでいま
す」という友達の書き込みに興味を持った人がリンク先のユニクロサイトに行きつく道筋
になっている。UNIQLO LUCKY LINE の最大の成功要因は、並ぶ楽しさと実店舗へ行く動機付
けに成功した点であると思われる。
22
3.1.3
事例 4:ソフトバンクモバイル(
:ソフトバンクモバイル(Twitter)
売った後に支援する-カスタマーサポート
ソフトバンクモバイル社の
ソフトバンクモバイル社の@SBCare
は、日本最大規模の Twitter アクティブサポート・
アカウントである。2010 年 4 月、7 名の有志が実験的に開始し、同年 7 月に公式サービス
として本格的にスタートした。
として本格的にスタートした。Twitter
専任サポート部隊は常時 10 名体制、毎日 500 件の
ツイートに対応しているが、そのうち 300 件はアクティブサポートである。トラブルに陥
件はアクティブサポートである。
っている顧客を探し出すために 280 件以上のキーワードでリアルタイムにツイートを探索
している。
さらに注目すべき点は、@
@SBCare で収集する顧客の声を 1 日 2 回、関連各部門に報告し
ている点である。トラブル情報だけでなく、お客様にお褒め
情報だけでなく、お客様にお褒めいただいたポジティブなもの
いただいたポジティブなもの
も含まれている。コールセンターにかかってくるクレームは、
コールセンターにかかってくるクレームは、1 人では対応できない深刻な
ものが多く、特殊な状況にある顧客の声のみに限定されていた。それに対して
ものが多く、特殊な状況にある顧客の声のみに限定されていた。それに対して、Twitter
で
収集した声は、企業の存在を意識しない生活者の生の声、サイレント・マジョリティの貴
重な意見であり、それが可視化できる義務、またリアルタイムに関係部門に配布される意
義は大きいと思われる。
Twitter のような 1 対多のオープンな場は、個別の顧客対応に閲覧者が多数おり、情報の
伝番力が強い。そのため、これまでのような社長から役員、
のため、これまでのような社長から役員、そして部長、課長というルー
そして部長、課長というルー
トが、ショートカットされ顧客対応が迅速
トが、ショートカットされ顧客対応が迅速なったと思われる。また、クレーム電話の連続
クレーム電話の連続
で殺伐となりがちなカスタマーサポート業務において、顧客の生の声に社員が触れること
で殺伐となりがちなカスタマーサポート業務において、顧客の生の声に社員が触
で、社員の顧客志向が目覚め、サービスの向上につながっていると考えられる。
で、社員の顧客志向が目覚め、サービスの向上につながっていると考えられる。
図 3.1 ソーシャルメディア時代の企業生産活動(資料を基に筆者作成)
ソーシャルメディア時代の企業生産活動(資料を基に筆者
23
3.2
不成功事例から学ぶ企業のソーシャルメディア活用
消費者のメディア接触状況の変化を受け、企業は今、ソーシャルメディアを自社のマー
ケティングに活用していくことを急速に進めている。今後もこうした流れは止まることは
ないと考えられるが、その上でソーシャルメディア活用が自社に及ぼすリスクの側面につ
いて考えなければならない。
ソーシャルメディアが浸透して以来、さまざまな種類の“事件”が企業を悩ませ、これ
までソーシャルメディア上での炎上に見舞われた企業も数多く存在する。成功事例は非常
に貴重ではあるが、失敗事例からリスク管理のあり方について「予防」と「対処」という
側面から考えてみたい。
3.2.1
トラブルを引き起こす 3 つのパターンとトラブルを引き起こす内容
トラブルを引き起こすパターンは大きく分けて 3 つあると考えられる。第 1 は、
「企業活
動そのもの」を発端に炎上が起こるパターンである。これは企業スタンスや姿勢を問うモ
ノであり、企業ブランドにとって最も大きなダメージを引き起こす可能性がある。
例えば、学費支援プラットフォーム「Study gift」の炎上だ。Study gift とは「学費が
払えず学業を諦めてしまう学生向けクラウドファンディング」である。運営者はロリポッ
プで有名な株式会社 paperboy&co 創業者の家入氏率いる liverty というチームだ。コンセ
プトだけ見ると誰もが認める素晴らしい仕組みに見えるのだが、立ち上がったばかりのサ
イトが大炎上し、サービスを一旦停止、全額返金に追い込まれることになった。停止・返
金に至った直接の原因は、支援者から詐欺を問う声が上がっても致し方ない運営側の説明
不足などである。大学を中退になりそうな状態として支援を募りながら、実際には既に退
学扱いになっていたほか、再入学できるかどうかは大学の協議次第であり、入学を認めら
れていない可能性があることを認識していながら募集を継続していたのだ。
Study gift のサービスに対して“公共性・公正性(より勤勉に勉学を頑張っている人が
支援を受けるべきという奨学金的な選別基準)”を期待していた人たちが、企業活動そのも
のに落胆し反発を強めていったということが考えられる。
第 2 は、
「アカウント運営者」である。そもそも数多くあるソーシャルメディア上の企業
アカウントの中から、自社に注目を集めるのは非常に難しい。その中でアカウント運営の
担当者がユーザーの興味を引くために過剰な刺激を与える、いたずらな投稿を行ってしま
うなど、それが結果として炎上につながってしまうようなケースも少なくない。
例えば、北海道丁万部町のゆるキャラ「まんべくん」のツイッター炎上は記憶に新しい。
毒舌キャラを「売り」としていたまんべくんが、戦争問題に対して配慮を欠く発言をした
ことで、ユーザーから批判の声が集まった。
第 3 は、
「社員」である。社員個人のプライベートな情報発信からトラブルに至るケース
が増えている。今年に入ってからだけでも、スポーツメーカーの社員が契約選手を中傷す
るようなコメントをツイッターに投稿し炎上を招くケースなど、社員の無自覚の情報発信
24
が招いた事件が後を絶たない。
例えば、牛丼チェーン「すき家」の学生アルバイト店員が牛鍋を不衛生に扱った旨のツ
イートをして、これが投稿 1 週間後に Web ニュースで取り上げられ騒動に発展した。同店
を展開するゼンショーが、
「異物混入などの事実はない」と否定したうえで公式にお詫びを
同社の Web サイト上に公開するに至ったケースが挙げられる。
また、
「トラブルを引き起こす内容」という側面からの分類でみると、主に 4 つのタイプ
が存在すると考えられる。それは、(1)商品やサービス、バリューチェーンそのもの(環
境など社会問題に反したものの提供)
(2)やらせ(企業の消費者へのなりすまし、口コミ
を金銭で買う行為など)、
(3)情報の改ざん、削除(自社にネガティブな情報のコントロー
ル)
、(4)不適切発言(モラルに反した発言、情報漏えいなど)である。9
商品やサービス自体の問題については、ソーシャルメディア運営というよりは事業その
もののリスク管理が必要となるが、そのほかの「やらせ」や「情報の改ざん」
「不適切発言」
についてはソーシャルメディアにおけるコミュニケーションの在り方という観点からリス
ク管理が必要になると思われる。
3.3
トラブル予防における 3 つのポイント
トラブルの予防について(1)運用ガイドラインの策定(2)定常的な教育機会の創出(3)
ソーシャルメディアの本質理解、の 3 つがポイントであると考えられる。
第 1 のガイドライン策定については比較的よく聞かれる予防法である。策定にあたって
の留意点は、前述の 3 つの主体、4 つのトラブル内容のように、リスクの対象を明確にした
ガイドラインを策定することである。
例えば「やらせ」というリスクを想定してみると、この問題に関して口コミマーケティ
ングに関する業界団体「WOM マーケティング協議会」のガイドラインが参考になる。
同団体の基本理念には、
「口コミは自発的なものである。金銭で生み出されない。誰から
も強要されず、発信者の自由意思が尊重される」とされており、同団体が策定したガイド
ラインでは、「WOM マーケティング事業者は、どのような関係性において、WOM マーケティ
ングが成立しているかについて、消費者が理解できるようにしなければならない。関係性
とは、原則として金銭、物品、サービスの提供とする」と明確に定められている。
つまり、金銭や物品、サービスの提供によって消費者のソーシャルメディア上で情報発
信を促す場合は、その旨を明記する必要があるということである。ガイドラインが理念中
心、抽象的なものになりすぎて実効性に欠ける“お飾り”になってしまうことは避けなけ
ればならないと考えられる。
第 2 は、教育機会の創出である。前述のようにガイドラインを策定して、それで終わり、
ということは当然あってはならない。ガイドラインの内容を理解・定着させるために継続
9
日経ビジネス“見逃してはならないソーシャルメディア活用のリスク―適切な「予防」と
「対処」でピンチをチャンスに―”2011-12-7.P2.
25
的な教育の場を設けることが必要であると考えられる。
その際に、前述の 3 つの主体に即して、
(1)企業活動そのもの=経営者・事業責任者クラ
ス、(2)アカウント責任者、(3)マーケティング担当、
(4)一般サイン、従業員などとい
うように、対象を分けて網羅的に実施していくことで効果的な予防策をとることができる
と思われる。
第 3 は、ソーシャルメディアの特性理解である。オペレーションやルールなど、社員の
行動を制限するリスク管理だけでなく、より深い理解を促すリスク管理も必要であると考
える。参考文献から考えられる、リスク管理という側面から理解すべきソーシャルメディ
アの特性というものは以下の 4 点だと思われる。
(1)メディアの中で個人が自由に発言で
きる(2)情報の拡散性(人間関係ベースに情報流通が活発でありスピードも速い)
(3)情
報の蓄積性(発言や画像等の情報がネット上でいつまでも蓄積される)(4)そもそもソー
シャルメディアは企業のマーケティングツールではない、という以上 4 点があげられる。
4 つの特性のうち、もっとも重要だと考えられるのが「そもそもソーシャルメディアは企
業のマーケティングツールではない」という点である。
ソーシャルメディアとは、生活者同士のつながりや情報流通が中心的な価値となって成
り立っているメディアである。その中で企業の自社に好都合な情報をコントロールしよう
という意図が表出しすぎると、それはソーシャルメディア上では異質なものと映り、トラ
ブルの火種となってしまうのである。このようにソーシャルメディアの特性理解を促した
うえで、ガイドラインなどオペレーション管理を実行すれば、その効果はより向上すると
思われる。
3.4
トラブルの対処について
次に重要となるのは「対処」の考え方である。たとえどんな予防策を講じたとしてもリ
スクがゼロになることはなく、どんな企業にも予期せぬトラブルが起こる可能性はあるた
め、トラブル時の「対処」の考え方は重要になってくる。
まず「対処」で求められるのは、スピードと真摯さである。トラブルが起こってしまっ
た場合には、まず何よりもスピードを重視する。前述したように、ソーシャルメディアに
は情報の拡散性という特性があるため、企業が対応策を議論しているうちにもトラブルは
急速に拡大していく。そのことを考えると、企業としてはソーシャルメディアの担当者に
「対処」についてある程度の権限移譲を行う必要があると考えられる。そうする事でトラ
ブルへの「即時対応」が可能になるためだ。成功事例として取り上げたソフトバンクモバ
イル社の Twitter アクティブサポート・アカウントにおいても、Twitter のような 1 対多の
オープンな場では、個別の顧客対応に閲覧者が多数おり情報の伝番力が強いため、これま
でのような社長から役員、そして部長、課長というルートがショートカットされ顧客対応
を急速に行うことで、サービスの向上を可能にしている。
もう 1 つ対処にあたって必要なのは「真摯さ」であると考える。情報の隠蔽、一貫しな
26
い情報管理などは、さらなる炎上を招く種にほかならないのである。
例えば、2010 年に起きた食品メーカー「ネスレ」の Facebook ページ炎上問題である。こ
れは、このメーカーが商品に使用している原材料の採取が環境問題を引き起こしていると
して、国際 NGO(非営利政府組織)が、このメーカーを批判する動画をユーチューブ上にア
ップしたことで、瞬く間に Facebook 炎上に至ったというものである。
この事件が各メディアで報じられ、世界的なニュースになった後、Facebook 上では、こ
のメーカーを批判するアイコンを用いたユーザーが多く表れた、これに対しネスレ側は
「Profile 欄にロゴを変えたアイコンを使用した投稿は削除する」と発表したことで、さら
に火に油を注ぐ形となり、かえって炎上を長引かせることとなってしまったのだ。
このような事例から学べることは、炎上を終息させることに終始するのではなく、問題
の本質と向き合い消費者とともに解決策を導いていく姿勢が重要であるということだと考
えられる。これはあくまで結果論ではあるが、トラブルそのものから対処の在り方へとソ
ーシャルメディア上での論点が変わり、最終的に良いレピュテーションを獲得するという
ことも考えられる。このようにリスクに対して適切な「予防と対処」を行うことで、ソー
シャルメディアに存在するチャンスを十分に生かしていくことが可能になると考える。
上述してきたように、企業がソーシャルメディアを活用するしないに関わらず、生活者
の企業評価が絶え間なく行われるようになった。生活者の共感を得れば、その情報が友人
を通じて波紋のように世界中に広がっていく一方で、生活者を強く失望させてしまうと、
その口コミは信じられないスピードと規模で広がり、ブランドにとって大きな痛手になっ
てしまう。そのため、共通の価値観を共有し、新しいビジネスモデルを構築し、オープン
な情報共有で社員の自律的行動を促し、顧客の期待を超越した価値を創造するという企業
姿勢こそが、持続的な事業成果を生み出すうえで重要になってくると考えられる。こうし
たソーシャルメディアが誘起する企業のパラダイムシフトは“ソーシャルシフト”と呼ば
れる。そして新しい時代における企業のあるべき姿として“企業のソーシャル化”が必要
であると考える。
3.5
第 3 章のまとめ
本章では、企業によるソーシャルメディア活用について考察した。まず、企業が自社の
バリューチェーンに顧客を取り込むうえでソーシャルメディアを活用していることを明ら
かにした。その上で、生活者の企業評価が絶え間なく行われるようになったことを示し、
共通の価値観を共有することとオープンな情報共有で社員の自律的行動を促し、顧客の期
待を超越した価値を創造するという企業姿勢こそが、持続的な事業成果を生み出すうえで
重要になっていくと言及した。ソーシャルメディアが誘起する企業のパラダイムシフトを
受け入れ乗り越えるためには、
“企業のソーシャル化”をあるべき姿として目指していくこ
とが重要であると考えられる。
27
28
第 4 章.企業のソーシャル化の必要性
企業のソーシャル化とは、
「社員が自律的に行動できる環境を創造すること」であると考
える。ソーシャルメディアを先進的に活用している企業には共通の特徴があるが、それは
ただ単に、ビジネスにソーシャルメディアを組み込むことや社員にソーシャルメディアを
活用させることではないと思われる。その一つに、本質的な顧客志向を持ち挑戦を重んじ
る社風が根付いている点が挙げられる。一般的な企業は「顧客より社内規律」を重んじ、
「チ
ャレンジよりリスク回避」を重んじる傾向が強い。そのために両刃の剣となるソーシャル
メディア活用を躊躇している企業が多いように思われる。
しかしながら、生活者に共感される企業、愛されるブランドになるといった、顧客ロイ
ヤリティを経営の最重要課題とすべき時代が到来した。ブランドを広く告げる役割は、メ
ディアから生活者に徐々に移りつつある。また、ソーシャルメディア上でポジティブな口
コミを発生させる原動力は、ソーシャルメディアを巧みに活用する技術ではなく、ブラン
ドが顧客に提供する体験そのものである。そして、生活者に競合他社よりも素晴らしいブ
ランド体験、おもてなしを提供できるかといったことが企業の持続的成長を遂げるための
勝負の分かれ目になると考える。今後、企業のソーシャル化に取り組む重要性が増してい
ることが分かる。
以下、企業のソーシャル化を実現するうえで企業組織をどのように変革していく必要が
あるのか探る。
4.1
ソーシャルメディアを最大活用する組織とは
これまで Twitter や Facebook などのソーシャルメディア上で、いかに顧客とのつながり
を築くことが重要であるか述べたが、企業が続々とソーシャルメディアを活用していく今、
力を持った顧客とのつながりを築くだけでなく、ソーシャルメディアを最大活用するため
の先進的な組織体制が企業に求められている。
先進的な組織体制の一つの象徴として挙げられるのが、“力を持った顧客に対して、従業
員にも力を与えて問題を解決させる”ことである。その中でも、大きな力を与えられ、臨
機応変に行動できる従業員を“HERO”と名付け、ソーシャルメディアの最大活用を実現し
ている企業が存在する。
“HERO”とは Highly Empowered and Resourceful Operatives「大
きな力を与えられ、臨機応変に行動できる社員」のことである。ここでわかりやすく HERO
を説明するために、以下 HERO を中心にソーシャルメディアを最大活用している企業事例を
取り上げる。
29
4.1.1
東日本大震災における NHK の対応について
NHK のツイッターアカウント@NHK_PR の震災当時の活動を紹介する。
大震災の際、NHK の Twitter アカウント担当者が、放送内容の Ustream 中継を自ら許可し
たことが話題となり、ソーシャルメディア上で勇気ある行動に称賛が集まった。中学生に
よるスマートフォンの Ustream への「無断配信」があった際に Twitter でどうするか問わ
れた@NHK_PR は以下のように対応した。
停電のため、テレビがご覧になれない地域があります。人命にかかわることですから、
少しでも情報が届く手段があるのでしたら、活用していただきたく存じます。
(ただ、こ
れは私の独断ですので、あとで責任は取るつもりです。
(齋藤徹,2011)
とツイートし、大きな支持を得て、まさに HERO になったのである。担当者はインタビュー
で「Ustream へのアップを知った後、2~3 分ほど躊躇いました。これを流したら問題にな
ると思ったからです。保身を考えました。しかし、公共放送の使命は必要な時に必要な人
に情報を届けることだと思ったからです。」と答えている。同時に NHK では別ルートで
Ustream やニコニコ動画から放送利用の要請が行われており、結果的に公式に OK になった
のだが、場合によっては大きな問題になっていたと考えられる。
ソーシャルメディアで大切なことの一つに「傾聴」がある。ソーシャル化した人が生活
者の会話の中に身を置けば、@NHK_PR のように人々の声が集まることになる。それはかな
らずしも望むものではない可能性もある。
生活者が会社に期待する声と会社が考えることにギャップがある場合、
「こんなことをや
ってほしい」という声に対して、部門の壁やマネジメントの問題、つまり内側の論理が実
現できない場合、HERO は苦しい立場に追い込まれるかもしれない。
“HERO”は生活者との接
点であるが、会社にとっては「境界」でもあり、都合が悪い存在になり得ると考えられる。
しかし、企業はイノベーションを優先させるために、HERO を探し役割を任せていくこと
が、今後求められていると考えられる。
4.1.2
米先進企業、ザッポス―徹底した企業文化から生まれる HERO たち―
ソーシャルメディア・マーケティングの最も目覚ましい成功事例の一つといわれている
のが、米ラスベガスに本社を置くネット通販会社であるザッポスである。1999 年、ネット・
バブルの全盛期に設立され、10 年足らずで年商 10 億ドルを突破した。米国の靴ネット通販
市場において、約 3 分の 1 といわれる圧倒的な市場シェアを握っている。1920 年代の世界
恐慌以来、最大の不況の只中にあるアメリカで今なお年率 25%の成長率を誇る、まさに驚
異的な企業である。
売上成長の目覚ましさもさることながら、2011 年にはフォーチューン誌の「もっとも働
きたい会社第 6 位」
、全米小売業協会の「顧客が選ぶベスト・カスタマー・サービス第 1 位」
、
30
2010 年には同じく全米小売業協会の「もっとも革新的なリテーラー」など、他分野からの
称賛を受け、あらゆる記録を塗り替えている。
記録を塗り替えている。2009 年にネットの巨獣 Amazon に 12 億ドル
で買収され、日本でもようやく注目されるようになったが、アメリカビジネス界では、「次
世代経営の最先端を行く」として最も尊敬される企業のひとつである。
最も有名な話は、母親を突然亡くしたため、プレゼント用に購入したシューズの返品を
申し出た女性の話である。電話を受けたコールセンター社員は、悲しみに暮れる彼女の下
に宅配業者を手配するとともに、翌日には手書きのメッセージカードに添えた色鮮やかな
るとともに、翌日には手書きのメッセージカードに添えた色鮮やかな
お悔やみの花束を届けたのだ。感激のあまり号泣した彼女は、その感動をブログにつづり、
それがネットを駆け巡ることになったのである。
こうしたサービスは一回限りのことではなく、ザッポスの従業員は日常的にこうしたサ
ービスを顧客に提供している。それができるのは、ザッポスの理念、社員一人ひとりの行
ービスを顧客に提供している。それができるのは、ザッポスの理念、社員一人ひとりの行
動や考え方、顧客との応対、社員間の交流、トップの立ち振る舞いなど、企業活動すべて
において裏表なく一貫したポリシーが貫かれているからだと考えられる。
において裏表なく一貫したポリシーが貫かれているからだと考えられる。顧客一人ひとり、
社員一人ひとり、そして状況によって、サービス体験はそれぞれ異なり、百人の顧客、百
社員一人ひとり、そして状況によって、サービス体験はそれぞれ異なり、
人の社員、百件の対話があれば、百万通りのサービス体験が生まれるはずである。それを
人の社員、百件の対話があれば、百万通りのサービス体験が生まれるはずである。
実現するためには、価値観を社員全員が共有し、その価値観に沿った考え方、言動を徹底
実現するためには、価値観を社員全員が共有し、その価値観に沿った考え方、言動を徹底
することが求められるからである
することが求められるからである。
ザッポスの企業理念を見てみると、
「サービス」が第 1 の理念に挙げられている。
そして第 3 の「楽しいことは少し変わったことを生み出す
楽しいことは少し変わったことを生み出す」と第 4 の「冒険を恐れず、独
の「冒険を恐れず、
創性を発揮し、柔軟に考える
創性を発揮し、柔軟に考える」などがある。コンタクトセンターにマニュ
マニュアルやスクリプ
トがないのも、あえて就業時間中も Twitter で社内外と交流することを推奨し、社員によ
る「ピープル・ブランディング」を行えるもの、コア・バリューが社員の行動規範として
徹底されているからだと考えられる。だからこそ、ザッポスは社員一人ひとりによるブラ
徹底されているからだと考えられる。だからこそ、ザッポスは社員一人ひとりによるブラ
ンド化されたサービス体験の創造を可能にしていると思われる
ンド化されたサービス体験の創造を可能にしていると思われる。
図 4.1 ザッポスの基本理念(参考資料を基に筆者が作成)
ザッポスの基本理念
31
4.1.3
助け合いジャパン―企業を越えてつながりはじめた HERO―
東日本大震災において、さまざまな企業や団体が被災地支援のために立ち上がったが、
その中で「民と官が連携」するという特殊性を持って立ち上がったのが、ボランティア・
プロジェクト「助けあいジャパン」である。プロジェクトのミッションのひとつは「必要
な情報を、必要な人に届けること」であり、震災直後、時間もリソースも限られている中
でミッションを達成するため、プロジェクトではソーシャルメディアも積極的に起用され
た。
「助けあいジャパン」が迅速にソーシャルメディア展開を進め、臆することなく生活者
とのコミュニケーションを開始することができた背景には、日ごろからソーシャルテクノ
ロジーを活用して顧客コミュニケーションを行っている 4 人のプロフェッショナルの存在
があったためである。国内において、企業内でソーシャルメディアの運用担当者は決して
多くはないとされるのだが、想いを同じくする人を互いに結びつけるソーシャルの力が、
組織という枠を超えて希少な人材を巡り合うこととなった。
普段は全く異なる組織に所属し、経歴も、背景も異なるメンバーが一つのプロジェクト
の公式アカウントを共同運営することは、これまでなかった取り組みだと思われる。組織
の壁を超え、個人同士でつながっていくスタイルはまさに新しい組織の在り方である。結
果として、そのコミュニティに属する企業への信頼感も醸成されることになったと考えら
れる。
“異なる組織文化を越えて協働を実現する組織”
を推進することで、
新たな HERO が生まれ、
HERO が所属する企業にもたらす影響も大きくなると考える。
上述した 3 つの事例より、
“HERO”とは、自らソーシャルテクノロジーを駆使して顧客の
問題を解決するような人たちであることが分かる。力を持った生活者に対抗できるのは管
理職や経営者ではなく、同じく力を持ち、顧客と対等の立場で対話ができる社員である。
また、優れた社員を惹きつける重要な組織要因としては、(1)共有される価値観(2)コ
ラボレーションを推進する職場環境(3)組織のミッション、が必要だと考えられる。コラ
ボレーションを推進するうえでの組織のオープン化は、社員のモラル向上につながり、創
造性やイノベーション、顧客満足の向上をもたらす可能性が高い。一方で、目的意識と価
値観の共有が必要となるため、全社員が共感できる価値観を掲げ、それに基づき社員が自
律的に行動できる組織への変革が求められると考えられる。
組織において“HERO”の活躍を後押しする要因をいくつか見ることができたわけだが、
HERO のみならず社員一人一人が HERO 同様の資質を持ち合わせていくために、組織をどのよ
うに変革していくことが必要なのか、組織の在り方により踏み込んで、企業のソーシャル
化について記述する。
32
4.2
組織の変革へ向けて-求められる新しいリーダーシップ・スタイル-
社員が自律的に行動できる組織の実現には、新しいリーダーシップ・スタイルが必要で
あると考えられる。
従来型マネジメントは、権限管理と情報統制によって社員の生産行動をコントロールし、
経営層からトップダウンで部下に指示をだすなど、統制志向のマネジメントスタイルであ
る。しかし、これは顧客や社員が力を持たないことを前提とした時代のマネジメントスタ
イルであり、現場で起こる問題を先送りする融通の利かない集団でしかなく、もはや通用
しなくなりつつある。
ソーシャルメディアの登場によって透明性の時代が訪れた今、新しいリーダーシップ・
スタイルとして「オープン・リーダーシップ」が提言されている。
(シャーリーン・リー,2011)
オープン・リーダーシップとは、謙虚に、かつ自信を持ってコントロールを手放すと同時
に、相手から献身と責任感を引き出す能力を持つリーダーの在り方である。これは、トッ
プダウンによって顧客や社員をコントロールしようとする従来型マネジメントと一線を画
すものであると思われる。
典型的なオープンリーダーとして挙げられるのは、上述したザッポスの CEO、トニー・シ
ェイ氏であると考える。共通の価値観を社員教育から人事評価にまで組み込み、社内に深
く浸透させたと同時に、コンタクトセンターにおける顧客対応の原則は「友人にするよう
に応対すること」と「感情的なつながりを築くこと」として電話対応する社員の裁量は限
りなく大きい。
商売という側面を見ると、商品のコモディティ化がすすみ、モノではなくサービスの付
加価値が重要になってきた。商品を個別にカスタマイズすることは困難だが、サービスで
あればお客様ごとに最適なカスタマイズが可能である。ただしそれには、お客様1人ひと
りの事情を踏まえたヒューマンな応対が重要である。そのため、おのずと顧客接点である
現場社員の重要性が増してきたのである。ザッポスが現場主義を取り、コンタクトセンタ
ーや店舗の社員に大きな権限移譲を行っているのは、そのような外部環境の変化を先取り
しているからだと思われる。自律的なオープン・リーダーシップにシフトしていくのは必
然の流れである。
前章でも取り上げたが、ソーシャルメディア時代において HERO(High Empowered and
Resourceful Operative~大きな力を与えられ、臨機応変に行動できる社員~)の重要性が
叫ばれている。これからの時代、主役は現場の HERO、それをバックアップするのは HERO と
信頼で結ばれたオープンリーダーであり、こうした連携こそ、これからの企業が見習うべ
き一つのお手本であると考えられる。
33
従来のリーダーシップ
オープン・リーダーシップ
自分らしさや情報の可視化について考える時
新しい関係づくりのために、自分らしさのマネ
間は少ない
ジメントや情報の可視化を重視する
戦略を決定し階層組織を通じて指揮統制を行
戦略を決定し、ビジョンの共有を通じて献身と
う
協働を促す
リーダーシップは得難い貴重な資質だと考え
リーダーシップはどんな人にも潜在的に備わ
ている
っていると考えている
情報漏えいを恐れ厳格にコントロールする
信頼関係の下で情報共有を促す文化を育てる
服従と連帯のためルールを作る
リスクテークのためのルールを作る
主に経営幹部とエンゲージメントを維持する
組織内外のあらゆる階層とのエンゲージメン
とに積極的である
自身のコミュニケーション能力でビジョンや
ネットワークを使ってビジョンや戦略を浸透
戦略を発信する
させる
表 4.2 従来型と比較したオープン・リーダーシップの特徴(資料を基に筆者が作成)
4.3
正しいことができる組織へ
今まで企業は、顧客の公平性という大義名分のもと画一的な商品サービスを提供し、全
体のサービスレベルをいかに向上させるかに集中していた。そのレベルは十分に高まって
いたが、現在、生活者はそれだけでは満足しなくなっている。これからはさらに一歩すす
めて、顧客ごとの事情、感情に心を配り、最適にカスタマイズされたサービスを提供する
ことが重要な差別化要素になると思われる。それが実現できればブランド価値を高めるが、
一社員の心ない行動によってブランドが毀損することもありうる。確かなことは、いずれ
もセンターコントロールの効かない、その場、その時の出来事であるということだ。
現場の社員一人ひとりが、その場でいかに判断し、行動するか。その積み重ねがブラン
ド価値を醸成していく時代になったのである。人間として、そして企業人として正しい行
いがされるかどうかといったことは、ソーシャルメディア上の話だけではなく、すべての
顧客接点において一人ひとりの社員がお客様といかに接するか、お客様の事前期待を上回
るサービスを提供できるかといったことが、企業が挑戦すべき新しく困難なハードルであ
る。ここで述べる“正しいことができる組織”とは、企業として、そして人間としてまっ
とうなことができるということを意味している。企業ごとに企業やブランドとしてあるべ
き姿が違うことから“正しいこと”はそれぞれ異なるが、大震災の際、NHK の Twitter 担当
者の行動に称賛が集まったことからも分かるように、規律優先の考え方ではなく、まさに
今正しいことは何かを自律的に判断して行動することだ。企業のソーシャルシフトにおい
て、実際にどのようにすれば“正しいこと”を顧客接点で実行できるか、強力なトップダ
ウンがなくとも、ボトムアップで大企業を変革するにはどうすればいいのか、これらに対
する明確なビジョンを持って組織の変革を進めることが肝心であると考えられる。
34
4.4
第 4 章のまとめ
本章では、
“企業のソーシャル化”を実現するうえで必要な組織のあり方を示した。まず、
先進的な組織の一つの象徴として挙げられる“HERO”について、
“HERO”が活躍する企業事
例を取り上げ示した。また、企業のソーシャル化において“HERO”のように優れた社員を
惹きつける重要な組織要因として 3 つの要素を事例から考察し、その特徴やもたらされる
期待効果などを示した。そして“HERO”のみならず一人一人の社員が HERO 同様の資質を持
ち合わせるためには、全社員が共感できる価値観を掲げ、組織の目的意識と価値観の共有
が重要であることを示し、それに基づき社員が自律的に行動できる組織への変革が求めら
れていることを示した。
35
36
第 5 章.新しい時代に必要とされる組織の在り方
第4章で述べたように、
“HERO”を惹きつける組織の要因や組織の変革に向けて重要な考
え方をすべて考慮すると、
「自律・分散・協調」型のモデルが、今後企業の目指すべき組織
の在り方であると考える。
「自律・分散・協調」というのは、もともと生体に使われていた
概念であるが、最近ではシステムや WEB の世界全体の理想像として語られる。
情報化社会とは、「コンピュータやインターネットを使わなければならない社会だ」と多
くの人が信じている。さらに経営者は、そうした道具を使って、管理をより強め、強力に
感謝をコントロールしたいと考えているが、それは間違った考え方である。
1990 年代半ば、世界の企業の中で最も象徴的な衰退を演じたのは IBM であった。IBM は、
同社の誇るべき製品であった大型コンピュータのシステムのように、「集中管理」「中央統
制」の会社で、社員の階層は 13 階層あり、超官僚主義企業であった。この考え方をそっく
り裏返したのが、サンマイクロシステムズである。1982 年に当時 26 歳の若者 4 人が創立し
たこの会社は、IBM の秘密主義に対抗して、
「オープン」をポリシーとし、
「自立・分散・協
調」のコンピュータ・システムを売り出した。
まさにインターネット文化はサンマイクロシステムズの標榜した「自律・分散・協調」
で成り立っている。
「自立・分散・協調」とは、一人一人の社員が自分の責任として物事を
考えて処理し、しかも協調によってチームとしての力を発揮するような組織形態である。
つまり企業経営の在り方は中央統制から「自律・分散・協調」に向かっていることを、コ
ンピュータ・システムが先取りした恰好である。
「自律・分散・協調」型の特徴としては、(1)全体を統制、統治する機能は存在しない、
(2)各サブシステムは、自律、分散した構成要素からなる、
(3)全体のシステムの機能は、
サブシステム間の協調作業によって遂行される、といったものである。例えば人の場合、
心臓や肝臓といった臓器は体内に分散してそれぞれ自律的に動いているが、それらが総体
としては協調的に機能しているということである。
会社組織に置き換えて考えた場合、この組織の在り方は理想像に近く、現実に機能させ
るのは困難に思われる。自律し分散して機能しながら、全体として協調する要素として、
能力的にも人間的にも優秀な人材が必要であるからだ。しかし現在、組織の中では“HERO”
という存在が誕生し、組織の変革を推し進める推進力になりはじめている。今後、多くの
企業が新しい組織の在り方を目指し、企業のソーシャル化を実現することができれば、今
まさに起こりつつあるビジネスのパラダイムシフトに対応することができると考えられる。
以下、組織構造を決定づける上で重要になってくる意思決定権限の側面から、従来組織
の典型とされるピラミッド組織とフラット組織についてまとめる。次にピラミッド組織と
フラット組織の特徴や有効性、その限界を述べる。そして、新しい時代に最適な組織の在
り方と考える「自律・分散・協調」型組織を再定義する。
37
5.1
意思決定権限の集権化と分権化
会社組織の中では実に様々な意思決定が行われ、その意思決定すべてを1人の人間、つ
まり社長が行うことは、経営者の仕事量が大きくなりすぎてしまって非効率である。非常
に重要度の高い戦略的な意思決定はトップクラスの経営者が行う必要があるが、それ以外
の意思決定については、その重要度に応じて、組織のより下位に委譲したほうが望ましい
と考えられる。この場合、何が重要であるかという判断は組織によってさまざまで、その
認識いかんに応じて、意思決定権限をできるだけ組織階層の上位に集中しておくか、ある
いはできる限り多くの意思決定権限をより下位に委譲しようとするかが決まってくること
になる。前者のように、できるかぎり多くの意思決定権限を上位に集中することを集権化
と呼び、後者のように、なるべくそれらを現実に委譲しようとすることを、権限が分割さ
れているという意味で分権化と呼ぶ。
一般的に、集権的な組織は、分業の調整という観点からは、組織階層のより上位に位置
する比較的少数の人間によって意思決定がなされ、組織全体の調整を行いやすいというメ
リットがある。しかし、このような集権的組織では、多くの意思決定事項を組織が抱えて
いるような場合には意思決定に時間がかかりすぎかえって非効率となる。また、実際に意
思決定を下すトップの人間は、現場の情報を十分に入手できないために意思決定の質が低
下したり、あるいは意思決定に参画できない現場の従業員にはモチベーションが低下した
りといった問題が発生することになりかねない。
逆に、分権的な組織においては、意思決定のスピードが速く、現場作業員の参画意識を
高めることができるというメリットを持っているものの、組織全体の調整はやりにくくな
るという欠点を有している。したがって、組織を設計する際には、どの程度、意思決定権
限を組織の下位に委譲するかという決定が極めて重要になってくると考えられる。
5.2
ピラミッド組織とフラット組織
意思決定権限を上位集中するか下位委譲するかの程度を決める際に重要な点は、1人の
マネジャーが管理できる部下の数には限界があるという事実であると考える。マネジャー
も人間で、人間の認識や情報処理能力には限界があるため、マネジャーがきっちりと分業
間の調整を行おうとすれば、その人数を際限なく大きくすることは非効率である。このよ
うに、1人のマネジャーが管理することのできる部下の人数は管理の幅と呼ばれる。一般
に、適正な管理の幅として何人程度がよいかには様々な説があり、仕事の種類やマネジャ
ーの個人的管理にもよるので一概にはいえないが、企業組織では概ね 10 人前後が妥当な人
数であると考えられている。
管理の幅が広いと、マネジャーの数を少なくすることができるというメリットがあるが、
他方で個々の部下の行動を十分に把握できなくなり、調整が困難になるという欠点が出て
くる。逆に、管理の幅を狭く設定すれば、部下の監督は十分に行うことはできるが、その
分多くのマネジャーが必要となり、調整コストが増大するという欠点が出てくる。また、
38
組織全体の管理の幅を狭くすると、相対的に縦長のピラミッド組織(階層組織)ができあ
がるし、逆に管理の幅を広くとると、相対的に背の低く横広のフラット組織が形成される
ことになる。
ピラミッド組織には、階層の末端に至るまで綿密な管理をすることができるというメリ
ットがあるが、マネジャーの数が多く意思決定に時間がかかるというデメリットがある。
逆にフラット組織はマネジャーの数が少なく、現場からトップまでの距離が短いため意思
決定速度が速いというメリットがあるが、トップの統制が末端の従業員まで行き届きにく
いというデメリットもある。
また、一般的に、ピラミッド組織の末端で働く作業員は、分業の程度がごく限られた範
囲内での仕事にしか就いていないため、モチベーションが下がりやすいとされる。情報の
流れも、上から来た情報をそのまま下に伝達するだけのため、上司からいわれるとおりに
仕事をこなすしかないのである。
これに対し、フラット組織では、分業の程度はそれほど高くなく、末端の作業員でもモ
チベーションが湧きやすいとされる。また、フラット組織の作業現場においては、分業の
程度が低いチーム型の作業組織が採られることが多い。仕事を個々人ごとに細かく分担す
るのではなく、チーム全体として目標を達成すればよく、個々人がどのような仕事を分担
するかはチーム・リーダーを中心にその都度柔軟に決めればよい。最近では、情報技術革
新やグローバル化の進展に伴って経営環境の変化がますます激しくなり、その変化のスピ
ードも飛躍的に速くなりつつあるため、意思決定に時間がかかるピラミッド組織の階層を
減らし、フラット組織に変更しようとする企業が増えつつあるのである。
しかし、変化のスピードが速く不確実性の極めて高い今日の環境下では、ピラミッド組
織、フラット組織は共に非効率となり、環境に瞬時に対応ができずに機会を逃したり、情
報が全組織に流れずに個別最適に陥る状況が起こってしまう。このような組織の在り方で
は、今日の情報スピードに対応することは困難であると考えられる。つまり今後より一層
「自律・分散・協調」型組織の必要性が高まると考えられる。
39
5.3
新たな組織の在り方―「自律・分散・協調」型組織―
―「自律・分散・協調」型組織―
「自律・分散・協調」型組織とは、一人一人の社員が自律性を基礎にして
「自律・分散・協調」型組織とは、一人一人の社員が自律性を基礎にして、自分の責任と
して物事を考えて処理し、協調によってチームとしての力を発揮するような組織形態と再
して物事を考えて処理し、協調によってチームとしての力を発揮するような組織形態と再
定義することができると考える。
考える。また、上述したネットワーク型組織、フラット型組織を
上述したネットワーク型組織、フラット型組織を
踏まえたうえで「自律・分散・協調」型組織
「自律・分散・協調」型組織とは、具体的に下記のような組織で
下記のような組織であると考
えられる。
・経営内外の環境変化に即応できる柔軟で機動性に富んだ組織
・構成員の独創性を活用したユニークな製品やサービスを創出できる組織
・経営組織のフラット化による迅速な意思決定が実現できる組織
・大幅な権限委譲のもとでの自律的な
・大幅な権限委譲のもとでの自律的な行動ができる組織
図 5.1 「自律・分散・協調」型組織の概念図(筆者が作成)
「自律・分散・協調」型組織の
40
また、組織の「自律・分散・協調」型組織をめざし、事業戦略に上述したような考えを
盛り込んでいると考えられるのが、ソフトバンクグループである。
「情報革命で人々を幸せ
に」という経営理念の下、2010 年に発表した「新 30 年ビジョン」の中で同社が掲げたのは、
なくてはならない存在になるために、その時々で最も優れた技術やビジネスモデルを持つ
会社とパートナーシップを結ぶ「戦略的シナジーグループ」というものである。同社は、
この戦略について以下のように明記している。
この戦略的シナジーグループは、各社が双方向的につながり柔軟に意思決定を行えるウ
ェブ型、つまり「自律・分散・協調」型組織である。意思決定が遅くなりがちな従来の
ピラミッド型(中央集権型)とは違い、これまで以上に次々と革新的な新サービスを提
供することを可能です。30 年、300 年といった長期間において成長し続ける企業グルー
プとして、
「情報革命で人々を幸せに」という経営理念を必ず成し遂げていきます。10
ソフトバンクグループはインターネットを事業基盤に成長し続けてきた。中でもソフト
バンクモバイル、ソフトバンク BB、ソフトバンクテレコムの通信 3 社は、移動体通信事業、
ブロードバンド・インフラ事業、固定通信事業というインフラサービスを担う、グループ
の基盤を支える重要なポジションである。さらにソフトバンクグループは、インタネット・
カルチャー事業やその他に区分される事業など、インフラだけでもない、コンテンツだけ
でもない、あらゆるレイヤーの事業を展開している。「いつでも、どこでも、誰とでも」簡
単に利用できるインターネット環境を、どこよりも先駆けて提供してきた。ソフトバンク
グループの特長は、グループ各社がそれぞれの境界を打ち破り、自由な発想で事業の融合
を図ることである。
「自律・分散・協調」型を目指すことにより、グループ間のシナジーが
一層確立され、斬新なサービスを次々と送り出すことが可能になっていると思われる。
上述したように、
「自律・分散・協調」型組織の確立は、企業の変革を推し進めるうえで
非常に有効な手段であると思われる。では、なぜこれまで「自律・分散・協調」型組織の
導入は進まなかったのか。実際は、これまでも成功しているエクセレントカンパニーでは
「自律・分散・協調」型組織のマネジメント手法が一部取り入れられていたと考えられる。
例えば、SONY の創業期は「人にあわせて仕事を創る」という、自律分散協調型の顕著な特
徴が表れていた。しかし、多くの企業ではそうではなく、命令とやらされ感によるマネジ
メント手法によって組織を運営してきたのである。その理由は、それでも利益が出ていた、
ゆえに、それでも社員のやる気を高め続けられたからということ、もう一つは変化のスピ
ードが遅く、トップマネジメントが考え、社員が行動するという役割分担でも、業績を高
めることができていたためである。しかしこれは、社員の能力をフル活用しないでも業績
を高められていたから続いていただけであり、社員の能力をフル活用すればより大きな成
果を生み出せていたはずなのである。
10
ソフトバンクグループ http://recruit.softbank.jp/graduate/business/softbank_group/
41
5.4
第 5 章のまとめ
第 5 章では、今後企業が目指すべき組織の在り方として「自律・分散・協調」型組織を
示した。まず、「自律・分散・協調」型組織の特徴などを踏まえ考え方をまとめた。次に、
従来組織の典型とされるピラミッド型組織に関して、組織の特徴や有効性、その限界を述
べ、近年注目を集めているネットワーク型組織、フラット型組織について同様の検討を加
えた。そして新しい時代に最適な組織の在り方と考える「自律・分散・協調」型組織を再
定義し、組織の変革の必要性を示した。
先進的な企業として取り上げたソフトバンクグループのように、
「自律・分散・協調」型
組織への変革を明言している企業は少なく、多くの企業はいまだ従来型の組織を引きずっ
ていると思われる。今こそ、既存の常識にとらわれることなく、新しい時代にあわせて、
企業そのものを大胆に変革すべき時であると考える。
42
終章
本研究のまとめ
本研究は、時代と共に変化する企業のマーケティング動向を整理し、ソーシャルメディ
アの登場を背景に誘起されたビジネスのパラダイムシフトを乗り越えるために、
“企業のソ
ーシャル化”が必要であることを明らかにすることで、新しい時代における組織のあるべ
き姿を明らかにすることができるという推論を背景に研究を開始した。
第 1 章では、マーケティングとソーシャルメディアの融合について示した。まず、先行
研究を通じて歴史的なマーケティングの発展を整理した。その上で、マーケティング 3.0
の登場と共に変化する社会的・経済的側面を明らかにした。そして、マーケティングとソ
ーシャルメディアの関係性を示した。
第 2 章では、Web2.0 の潮流の中で浸透してきたソーシャルメディアについて整理した。
その上で、ソーシャルメディアが政治や企業に及ぼす影響について事例を踏まえまとめ、
そして、参考文献からソーシャルメディアの定義と種類を示した。
第 3 章では、企業のソーシャルメディア活用事例をまとめた。ソーシャルメディア売上
ランキングが上位であり、かつ企業のバリューチェーンに顧客を上手く取り込むことに成
功している企業を取り上げることで、企業がソーシャルメディアをどのようにとらえビジ
ネスに活用しているか明らかにした。また、ソーシャルメディアを活用することによって
発生するトラブルを如何に対処することが重要であるかをまとめた。ソーシャルメディア
が誘起する企業のパラダイムシフトは“ソーシャルシフト”と呼ばれ、新しい時代におけ
る企業のあるべき姿として“企業のソーシャル化”が必要であることを示した。
第 4 章では、“企業のソーシャル化”を実現するうえで必要な組織のあり方を示した。ま
ず、先進的な組織の在り方の一つの象徴として挙げられる“HERO”について、社員が自律
的に行動することで成果をあげている企業を事例とし、その特徴やもたらされる期待効果
などを考察することで“企業のソーシャル化”を実現するために必要な組織の在り方を示
した。
そして HERO のみならず社員一人一人が HERO 同様の資質を持ち合わせていくために、
組織をどのように変革していくことが必要なのか、組織の在り方により踏み込んで企業組
織をどのように変革していく必要があるのか明らかにした。
第 5 章では、今後企業が目指すべき組織の在り方として「自律・分散・協調」型組織を
示した。まず、「自律・分散・協調」型組織の特徴などを踏まえ考え方をまとめた。次に、
従来組織の典型とされるピラミッド型組織に関して、組織の特徴や有効性、その限界を述
べ、近年注目を集めているネットワーク型組織、フラット型組織について同様の検討を加
えた。そして新しい時代に最適な組織の在り方と考える「自律・分散・協調」型組織を再
定義し、組織の変革の必要性を示した。
以上のように、本研究では、マーケティング、ソーシャルメディア、組織という 3 つの
主題をもとに、ここまで考察してきた。
43
“企業のソーシャル化”を目指すことは、今後企業が持続的な事業成果を生み出すもの
として、非常に意義のあるものであると考える。しかし、実際に“企業のソーシャル化”
を推進していくことは、そう容易ではない。
企業において「社員が自律的に行動できる環境を創造すること」は、個人の資質による
部分が大きく、多くのリスクが伴う。第 4 章で述べたとおり、価値観と目的意識の共有が
必要であり、全社員が共感できる価値観を掲げることが求められ、社員一人一人に対する
大幅な権限移譲が必要である。その結果として社員個人の誤った判断により重大な事態を
招くことで企業の活動そのものを困難にしてパフォーマンスをかえって低下させる可能性
がある。すなわち、集団としての統一性を欠く可能性がある。ここに、本研究の限界が見
られる。
しかし、
「自律・分散・協調」型組織の考え方が、個人の責任を最大限引き出すことで、
社員一人一人の自律性を発揮し、協調によってチームとしての力を発揮することになり得
ると推測できる。組織中に知識と権限を分散させることで、迅速な意思決定と柔軟な協働
を可能にする。企業のソーシャル化のためには、まずは、組織において明確なビジョンを
持って組織の変革を進めることが肝心であると考えられる。それにより、企業のソーシャ
ル化において、社員が自律的な行動ができる環境が確立され、今後企業があるべき理想の
組織像を実現できると期待できる。
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-謝辞-
本研究を進めるにあたり、終始熱心にご指導いただきました、指導教員の宮城大学事業
構想学部事業計画学科
藤原正樹先生に深謝いたします。また、日常の議論を通じて多く
の知識や示唆を頂きました、藤原ゼミナール同期ならびに後輩の皆様に感謝いたします。
皆様のご指導、ご協力により本研究を遂行し、有意義な研究成果を残すことができました。
ここに敬意を表し、本論文の謝辞とさせていただきます。
45
46
【参考文献】
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ティム・オライリー「What Is Web 2.0-Design Patterns and Business Models for the Next
Generation of Software-」2012 年 11 月 20 日
http://japan.cnet.com/sp/column_web20/20090039/
48
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