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次亜塩素酸水による細菌類の不活化

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次亜塩素酸水による細菌類の不活化
関
研究論文
東
学
院
大
学
次亜塩素酸水による細菌類の不活化
Inactivation of Bacteria by the Hypochlorous Acid Water
野知 啓子*1
Keiko Nochi
大塚 雅之*2
Masayuki Otsuka
長野 勝*3
Masaru Nagano
村本 泰彦*3
Yasuhiko Muramoto
Synopsis
In this study, disinfection experiment by the hypochlorous acid water for bacteria was
carried out.The object bacteria was made to be general bacterium, coliform organisms,
heterotrophic bacterium and Legionella. The hypochlorous acid water added 2.2∼4.4mg/L
at the total chlorine concentration. As the result, coliform organisms and Legionella were
not detected. And, bacteria and heterotrophic bacterium were 99.99∼100% inactivation rate.
The number of bacteria which adhered to green vegetables was high, and the maximum
value of number of general bacterium became 105CFU/mL, and 104CFU/mL was detected
the coliform organisms. Disinfection experiment by the hypochlorous acid water was
carried out to the green vegetables in which bacteria adhered. As the result, bacteria and
coliform organisms were not detected from the green vegetables. However, it was confirmed
that bacteria did the survival in the position which was difficult to contact the hypochlorous
acid water. The disinfection experiment by the hypochlorous acid of bacteria which adhered
to hand, finger and keyboard of personal computer was carried out.As the result, the
disinfection effect was clear.
keywords;Hypochlorous Acid Water, Green Vegetables, Disinfection, General Bacterium,
Coliform Organisms, Heterotrophic Bacterium, Legionella
次亜塩素酸水,生野菜,消毒,一般細菌,大腸菌群,従属栄養細菌,レジオ
ネラ属菌
*1
*2
所員 社会環境システム学科
*3
㈱コガネイ 開発本部 要素研究部
Dept. of Civil and Environmental Engineering,
Research and Development Dept., Koganei
Kanto Gakuin Univ.
Corporation Ltd.
所員 建築学科
Dept. of Architecture, College of Engineering,
Kanto Gakuin Univ.
3
4
建築設備工学研究所報 No.34
2 0 1 1 . 3
1 .はじめに
源,電解槽,次亜塩素酸水貯留槽および制御装置から
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」で
構成される。本装置の原理は,2 つの電極に外部電源
は,どのような方法によって飲料水を供給する場合に
を接続し,電流を流すことにより,陽極(アノード)
も,水道法第 4 条の規定により定められた水質基準に
で酸化反応を陰極(カソード)で還元反応を行わせる。
適合しなければならないことになっている。また,大
本装置では,塩化ナトリウム溶液を電解質として用い
規模建築物[特定建築物:延べ面積:3000m2以上の興
ていることから,Na+,Cl−のほかに水が電離したH+
2
業場,百貨店,事務所等,学校の場合(8000m 以上)
]
とOH−が存在するため,以下のような反応が起こる 4 )。
に給水設備を設ける場合には,飲用目的だけではなく,
…………
(1)
これに類するものとして,炊事用,浴用(旅館業法の
………………(2)
許可を受けている浴用を除く)
,手洗い用,その他人の
生活用に水を供給する場合も,飲用水を供給する設備
Na と H を比較するとイオン化傾向が大きいのは Na
の範疇に含め,水道水の水質基準に適合する水を供給
であり,単体になりやすいのは H であるため,上式に
することとされている 1 )。
示すとおり,アノードから塩素ガス(Cl2)が,カソー
すなわち,清浄な水とは衛生的に安全な水を意味し,
外観がきれいというばかりではなく,病原菌や有毒有
ドから水素ガス(H2)が発生する。本装置の設定電流
値より生成される塩素濃度を表 1 に示す。
害な物質を含まないなど水道水の水質基準に適合する
ことのほか,塩素による消毒処理が施され,その効果
が持続残留していることが必須事項となっている 2 )。
一方で最近では,建築物内で処理した排水の再利用
水や雨水等が,便所の洗浄水,散水,修景用水等の多
様な用途に用いられるようになってきた。このため,
生活用の目的以外で水(いわゆる雑用水)を供給する
場合でも,人の健康に係る被害が生ずることを防止す
ることが必要であり,細菌に対するリスク管理が重要
となっている。
以上の背景から,本研究では,次亜塩素酸水による
装置全容
細菌類に対する不活化効果について検証した。まず電
写真 1
気分解により次亜塩素酸水を生成させ,その不活化効
電解槽
次亜塩素酸生成装置
果を検証するために,一般細菌,大腸菌群,従属栄養
細菌およびレジオネラ属菌を対象細菌として,これら
表1
設定電流値と塩化ナトリウム濃度の関係
細菌に対する不活化実験を行った。さらに,食の衛生
的安全性に寄与することを目的として,生野菜や手指
に付着している細菌に対する次亜塩素酸水の消毒効果
を確認した。
なお,次亜塩素酸水は食品衛生法において食品添加
物として,次亜塩素酸ナトリウムと同様に指定添加物
リスト 3 )に掲げられていることから,飲料水,生活用
水,食品等にも使用することが許可されており,人に
対する有害性は比較的低い消毒剤とされている。
2 .2
次亜塩素酸水による細菌類の不活化実験
本実験では,継代培養した①一般細菌,②大腸菌群,
③従属栄養細菌,④レジオネラ属菌を次亜塩素酸水に
2 .実験方法
添加し,次亜塩素酸水による不活化実験としてRun 1
2 .1
∼Run 9 の条件で行った(表 2 )。
次亜塩素酸生成装置
本実験で使用した次亜塩素酸生成装置を写真 1 に示
実験方法は,500mLの密栓びんに次亜塩素酸水を
す。本装置は,塩化ナトリウム貯留槽,電解用 D C 電
400mLとり,各細菌懸濁液を混合系および各細菌を個
関
東
学
院
大
5
学
別に添加し,それぞれを計画濃度になるように加え,
せた。5 分間静置後,上澄み液を試料水とし,同時に
マグネテックスターラで攪拌した。作用時間は30分と
残留塩素濃度の測定を行った。
し,試料の採取は,0,5,15,30分とした。
対照は0. 9%生理食塩水に細菌懸濁液を入れた試料と
した。なお,細菌数は各細菌試験方法 5 )に基づき計測
し,対照との対比において評価した。
次亜塩素酸水による各細菌に対する生残率[−]お
よび不活化率[%]は次式より求めた。
試料水中の細菌測定は,無菌的に試料水を培地上に
塗沫し,培養後各細菌数を計測した。
なお,対照は0. 9%生理食塩水に生野菜を加えたもの
とし,対照と次亜塩素酸水中から検出された細菌数を
対比し評価した。
表3
供試生野菜の形状および質量(包丁切り)
………………
(3)
………………
(4)
ここに,N:細菌類の生残率[−]
,Nr:細菌類の不活
化率[%],N0:対照(30分)の細菌数[CFU/mL],
Ne:次亜塩素酸水作用後の細菌数[CFU/mL]
表2
供試した次亜塩素酸水の塩素濃度
写真 2
2 .3 .2
供試生野菜の形状(包丁切り)
固形生野菜の不活化実験
2 . 3 . 1 の実験では,包丁切り生野菜を次亜塩素酸水
に作用させた。その結果,生野菜から溶出した有機物と
塩素が反応し,全塩素の消費がみられた。本実験では,
生野菜から溶出する有機物濃度を減少させるために,
生野菜を切らずに次亜塩素酸水と作用させる条件とし
2 .3
次亜塩素酸水による生野菜付着細菌の不活化実
験
た。
試料の調製は,生野菜の質量を測定し,次亜塩素酸
本実験では,生野菜に付着している細菌に対する次
水中(500mL,カイワレ大根は850mL)に生野菜を計
亜塩素酸水による消毒効果を検証した。なお,2. 2の実
画量加え,30分間静置する(生野菜はできるだけ切ら
験では継代培養した各細菌を添加し不活化実験を行っ
ないようにして,試料びんは広口びんを使用した)
。固
たが,本実験では,生野菜に付着している細菌を不活
形生野菜の質量および形状を表 4 ,写真 3 に示す。な
化対象とした。
お,試験方法は 2 . 3 . 1 と同様に行った。
2 .3 .1
包丁切り生野菜の不活化実験
生野菜を購入後,冷蔵庫で 1 週間前後冷蔵した生野
菜を表 3 および写真 2 に示すような包丁切りにする。
生野菜の質量を測定後,次亜塩素酸水中(400mL)に
計画量を加え,マグネテックスターラで10分間接触さ
表4
供試固形生野菜の質量
6
建築設備工学研究所報 No.34
2 0 1 1 . 3
写真 4
写真 3
供試固形生野菜の形状
3 .結果および考察
3 .1
2 .4
次亜塩素酸水の消毒用洗浄水としての評価
手指,手のひらのふき取り部分(綿棒)
対照水(0. 9%生理食塩水)中の細菌数
対照水中から検出された一般細菌および大腸菌群の
2 . 2 および 2 . 3 の実験では,細菌数を定量的に把握
経時変化の一例を図 2 に示す。同図に示すとおり,一
するために,生野菜および手指からの細菌を水中に溶
般細菌および大腸菌群の初期値は,それぞれ2. 1×
出させ,水試料中の細菌を培養計測した。
106CFU/mL,1. 7×106CFU/mL が検出された。30分経
本実験では,生野菜および手や指,パソコンのキー
過時点における生残数も106CFU/mL オーダで検出さ
ボード上に付着している細菌を対象とし,次亜塩素酸
れ,作用時間内における細菌の変動は小さいことがわ
水作用後に生野菜は直接平板培地上に置床し,手[指,
かる。この結果より,(3)および(4)式に示す生残
手のひら]
,キーボードは綿棒によりふき取り,綿棒を
率および不活化率の算出で用いたN0(対照の細菌数)
平板培地上に直接置床し,培養する方法で行った。実
は,30分値とした。
験の手順を図 1 に示し,綿棒でふき取った手のひら部
分を写真 4 に示す。
図2
3 .2
一般細菌および大腸菌群の経時変化(対照)
次亜塩素酸水による細菌類の不活化実験
3 .2 .1
一般細菌,大腸菌群,従属栄養細菌の混合系
における不活化[Run 9 ]
継代培養した一般細菌,大腸菌群および従属栄養細
菌を混合条件下で次亜塩素酸水に添加した。経過時間
に伴う各細菌の生残率と遊離残留塩素濃度を図 3 に示
図1
消毒用洗浄水実験の手順
す。初期時に添加した各細菌数は106CFU/mL オーダで
関
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学
7
一般細菌数 5 ×10 5 CFU/mL に遊離残留塩素濃度
2. 6mg/L 作用条件下においても100%の不活化率が得
られた。
従属栄養細菌数1. 4×104∼9. 1×106CFU/mL に対す
る不活化率は99. 993∼99. 9992%となり,高温条件下お
よび薬剤にも耐性があるとされる本菌は,わずかでは
あるが生残が認められた。本条件下における遊離残留
塩素濃度は3. 1∼4. 6mg/L の範囲にあった。
レジオネラ属菌は,2. 0×103CFU/100mL の添加条件
下で,遊離残留塩素濃度を4. 8mg/L で作用させた結果
100%が不活化された。
図3
各細菌の不活化率と遊離残留塩素濃度
表5
細菌個別添加における不活化率(30分値)
あり,作用時間内における全塩素濃度は3. 8∼4. 2mg/L
の範囲にあった。一般細菌の生残数は,次亜塩素酸水
作用 5 分値では690CFU/mLが検出された。生残率
[−]で示すと 2 ×10−4となり,不活化率[%]は99. 98
が得られた。
大腸菌群の初期値(次亜塩素酸水作用前)は1. 7×
6
10 CFU/mLであり,次亜塩素酸水作用 5 分値で大腸菌
群は検出されなかった。
従属栄養細菌の初期値は4. 0×10 6CFU/mL が検出
され,次亜塩素酸水作用30分値で従属栄養細菌数は
3CFU/mL が検出され,生残率[−]で示すと 8 ×10−7
が算出された。
以上の結果より,一般細菌数,大腸菌群数および従
3 .2 .3
各細菌の混合添加における不活化実験
各細菌の混合添加条件下(Run 1 ,4,9 )における
30分作用時間値を表 6 にまとめて示す。
遊離残留塩素濃度3. 9mg/L の作用条件下で,一般細
菌および大腸菌群を2. 5×106CFU/mL,3 ×106CFU/
属栄養細菌数を106CFU/mL オーダで混合し,次亜塩素
mL を混合添加した大腸菌群の不活化率は100%となり,
酸水を3. 8∼4. 2mg/L の範囲で作用させた結果,大腸
一般細菌は99. 99993%の不活化率が得られた(Run 1 )
。
菌群の不活化率は100%となり,一般細菌の不活化率
従属栄養細菌およびレジオネラ属菌を4. 5×104CFU/
は99. 99%であり,従属栄養細菌は99. 9999%が不活化
mL,>4. 0×104CFU/100mL の混合添加条件下では,両
された。
細菌とも100%の不活化率が得られた(Run 4 )。本条
3 .2 .2
各細菌の個別添加における不活化実験
Run 2 ,3,5,6,7,8 の実験では,次亜塩素酸水
に,①一般細菌,②大腸菌群,③従属栄養細菌,④レ
ジオネラ属菌を個別に添加し不活化実験を行った。30
分値を表 5 にまとめて示す。
同表に示すとおり,次亜塩素酸水に細菌数10 3 ∼
106CFU/mLのオーダで添加した結果,遊離塩素は2. 6
∼4. 8mg/L の範囲で残留する結果が得られた。
各細菌の個別添加における不活化傾向は,遊離残留
塩素濃度3. 1mg/L の条件下で,大腸菌群を2. 6×10 4
CFU/mL で添加した結果,不活化率は100%であった。
表6
細菌混合添加における不活化率(30分値)
8
建築設備工学研究所報 No.34
件下における遊離残留塩素濃度は1. 7mg/L であった。
6
一般細菌,大腸菌群および従属栄養細菌を10 CFU/
2 0 1 1 . 3
表 8 次亜塩素酸水による生野菜中細菌類の不活化
(包丁切り野菜)
mLオーダで混合させた大腸菌群の不活化率は100%で
あり,一般細菌は99. 99%,従属栄養細菌は99. 9999%
であった(Run 9 )
。本条件下における遊離残留塩素濃
度は3. 9mg/L であった。
以上の結果より,大腸菌群およびレジオネラ属菌に
ついては,細菌数106CFU/mL(レジオネラ属菌:103∼
104CFU/100mL)のオーダで遊離残留塩素濃度が1. 7∼
4. 8mg/L の範囲において,①個別添加,②混合添加条
件とも100%の不活化率が得られた。一方,一般細菌
および従属栄養細菌に対する不活化効果としては,①,
②ともわずかであるが細菌の生残が認められた。最も
不活化率の低い条件で99. 99%(30分値)が得られた。
3 .3 生野菜付着細菌に対する不活化効果(包丁切り
野菜)
生野菜に付着している細菌に対する次亜塩素酸水に
よる不活化実験を行った。対象細菌は一般細菌および
図4
大腸菌群とした。
次亜塩素酸水による野菜付着細菌の不活化率
(包丁切り野菜)
生野菜作用後(30分)における塩素濃度を表 7 に示
す。同表に示すとおり,作用全塩素濃度は5. 3mg/L で
次に大腸菌群についてみると,対照のカイワレ大根
あり,生野菜添加後(30分値)の全塩素濃度は1. 0mg/L
から5. 4×10 4 CFU/mL が検出され,きゅうりでは
(カイワレ大根)および1. 5mg/L(きゅうり)となり,
塩素濃度の減少はみられたが,遊離塩素の残留が確認
205CFU/mL の大腸菌群数が検出された。
本条件下に次亜塩素酸を作用させた結果,カイワレ
された。全塩素濃度消費率で示すと,きゅうりは72%,
大根は900CFU/mL となり,きゅうりは 1 CFU/mL ま
カイワレ大根で81%であった。
で減少した。不活化率を算出するとカイワレ大根では
次亜塩素酸水による不活化実験結果を表 8 に示す。
一般細菌が82. 5%となり,大腸菌群の不活化率は98. 3%
生野菜に付着している細菌数(対照)をみると,一般
が得られた。また,きゅうり付着細菌に対する不活化
細菌数はカイワレ大根が1. 2×105CFU/mL となり,き
率では,一般細菌が89. 3%であり,大腸菌群は99. 5%
ゅうりは1. 4×104CFU/mL が検出され,生野菜に付着
であった(図 4 )。
している生菌数の高いことがわかる。一方,次亜塩素
酸水を作用させると,カイワレ大根からは2. 1×
4
3
10 CFU/mL が検出され,きゅうりは1. 5×10 CFU/mL
の一般細菌が検出された。
3 .4
固形生野菜に対する不活化効果
本実験では,生野菜を切らずに次亜塩素酸水に浸漬
させ,生野菜付着細菌に対する不活化効果を検証した。
次亜塩素酸水の作用濃度は表 9 に示すとおり,作用
表7
供試生野菜作用後における塩素濃度(包丁切り野菜)
前の次亜塩素酸水の全塩素濃度は5. 4mg/L となり,遊
離残留塩素濃度で4. 7mg/L であった。生野菜試料中に
おける全塩素濃度は,カイワレ大根は1. 5mg/L,レタ
スは2. 3mg/L およびきゅうりは4. 0mg/L となり,全塩
素濃度消費率はそれぞれ72. 2%,57. 4%,26. 0%が得
られた。
本条件下における一般細菌および大腸菌群に対する
不活化効果を表10に示す。
関
表9
東
学
固形生野菜作用後における塩素濃度
院
大
9
学
した。漬け置き条件としては,①浸漬(洗浄)せず,
②次亜塩素酸水浸漬,③0. 9%生理食塩水浸漬,④水道
水(本学給水栓)浸漬の 4 条件で行った。
なお,次亜塩素酸水による不活化効果についての評
価は,生野菜を直接平板培地に置床し,培養した後に,
形成された細菌の集落状況を目視観察し,定性的に判
断した。トマトに付着している一般細菌を平板培地に
表10 次亜塩素酸水による生野菜中細菌類の不活化
(固形野菜)
培養した写真を一例として写真 5 に示す。
固形生野菜に付着している細菌数をみると,一般細
菌数はカイワレ大根[1. 4×105CFU/mL]>きゅうり
[ 1 ×104CFU/mL]>レタス[795CFU/mL]の順で検
出された。
一方,次亜塩素酸水を作用させた試料水では,カイ
ワレ大根,きゅうり,レタスから一般細菌は検出され
なかった。
次に生野菜から検出された大腸菌群についてみると,
カイワレ大根[4. 8×10 4 CFU/mL]>きゅうり[2. 7×
10 3 CFU/mL]>レタス[310CFU/mL]の順で検出さ
れた。
次亜塩素酸水を作用させた試料水中の大腸菌群数は,
カイワレ大根,きゅうりおよびレタスとも検出されな
った。
以上のとおり,生野菜に付着している細菌は比較的
高い値で検出された。理由として,野菜を収穫してか
ら,流通または冷蔵庫等で保管している間に細菌は増
殖すると考えられる。とくに夏場や食中毒発生率が高
い時期は,生野菜からの細菌汚染も視野に入れるべき
であり,水道水のみの洗浄ではなく,何らかの消毒方
法を施し,細菌類を不活化させる必要性が示唆されて
いる。
3 .5
消毒用洗浄水としての評価
3 .5 .1 次亜塩素酸水による生野菜の漬け置き洗浄実験
次亜塩素酸水を500mL とし,漬け置き時間は30分と
写真 5
野菜から検出された一般細菌
(漬け置き洗浄実験,トマトの例)
10
建築設備工学研究所報 No.34
2 0 1 1 . 3
(1)次亜塩素酸水に浸漬
次亜塩素酸水に浸漬しない生野菜との比較において
評価すると,カイワレ大根から検出された一般細菌コ
ロニーの形成状況は両者に相違はみられず,次亜塩素
酸水による顕著な効果は認められなかった。
一方,トマトでは次亜塩素酸水が作用しにくかった
ヘタの部分から一般細菌は検出されたものの,次亜塩
素酸水に浸漬させた方が細菌の検出状況は低い傾向に
あった(写真 5 ,②)
。また,大腸菌群に対する効果も
ほぼ同様な傾向にあった。
(2)0. 9%生理食塩水に浸漬
生理食塩水に浸漬した,生野菜から検出される一般
写真 6
細菌は,浸漬しない条件と比較すると,本条件および
手指,手のひらから検出された一般細菌
(綿棒によるふき取り試験)
浸漬しない条件とも,カイワレ大根およびトマトに付
着している一般細菌(写真 5 ,③)および大腸菌群の
生残が明瞭に示された。
3 .5 .3 次亜塩素酸水によるキーボードのふき取り試験
次亜塩素酸水によるキーボードに付着している一般
細菌および大腸菌群に対する消毒効果について検証し
(3)水道水に浸漬
水道水に浸漬しない条件と対比しながら評価すると,
た。得られた結果を写真 7 に示す。
写真 7 ,上段に示すとおり,キーボードを滅菌水含
両者から一般細菌および大腸菌群が生菌として検出さ
有綿棒でふき取った結果,一般細菌の付着が顕著にみ
れた。さらに,水分を含む試料(写真 5 ,③,④)の
られた。一方,次亜塩素酸水含有綿棒により,キーボ
方が,洗浄しないトマト試料(写真 5 ,①)よりも細
ードを拭きとった結果,一般細菌のコロニー数は減少
菌を増殖させる傾向にあった。
した(写真 7 ,下段)。
以上の結果より,生野菜に付着している一般細菌お
同様に大腸菌群について測定した結果,滅菌水含有
よび大腸菌群は,次亜塩素酸水が有効に作用した試料
綿棒(対照)からは大腸菌群のコロニーが検出された。
以外では,平板培地一面に細菌のコロニーが目視観察
一方,次亜塩素酸水含有綿棒の大腸菌群は減少する傾
された。
向にあり,消毒効果が確認された。
3 .5 .2
手指付着細菌の綿棒ふき取り実験
手や指等に付着している一般細菌に対する次亜塩素
酸水の消毒効果について,綿棒によるふき取り試験を
行い検証した。
写真 6 に示すとおり,洗浄していない手のひらおよ
び指からの一般細菌の検出は顕著であった。一方,次
亜塩素酸水で洗浄し,次亜塩素酸水を含ませた綿棒に
より,手のひらおよび手指を拭きとった結果,対照に
比し,一般細菌のコロニー数は極端に減少した。
同様に大腸菌群について測定した結果,洗浄してい
ない手のひら,指および次亜塩素酸水により洗浄した
試料とも大腸菌群のコロニーは検出されなかった。
写真 7
キーボードから検出された細菌
(綿棒によるキーボードのふき取り試験)
関
東
学
4 .まとめ
本実験では,細菌類に対する次亜塩素酸水による不
院
大
11
学
検出した細菌コロニーの形成状況を目視(写真)
で判断した。その結果,カイワレ大根のように生
活化効果について検証した。実験の経緯および得られ
野菜に付着している一般細菌数が高い場合には,
た知見をまとめると次のとおりである。
次亜塩素酸水で30分の漬け置き洗いをしても,カ
(1)次亜塩素酸生成装置により生成した,次亜塩素酸
イワレ大根から生菌として検出された。一方,細
水を用いて細菌類の不活化実験を行った。実験に
菌付着数の低いレタスでは,15分の漬け置き洗い
供試した全塩素濃度は2. 0∼5. 4mg/L の範囲にあ
で,一般細菌,大腸菌群に対する次亜塩素酸水の
った。なお,不活化効果は生理食塩水(0. 9%)中
効果が示された。
の細菌類(対照水)との対比において評価した。
(6)手全体を次亜塩素酸水で洗浄後に手のひら等(写
(2)まず,継代培養した一般細菌,大腸菌群,従属栄
真 4 )の次亜塩素酸水含有綿棒でふき取り試験を
養細菌およびレジオネラ属菌に対する次亜塩素酸
行った。その結果,対照との対比において次亜塩
水の不活化効果を検証した。実験条件は,①細菌
素酸水による消毒効果は顕著に示された。
類の混合添加,②細菌の個別添加とした(Run 1 ∼
(7)キーボードのふき取り試験を行った結果,キーボ
Run 9 )。
(3)(2)における不活化実験では,消化器系感染症の
ード上における一般細菌の生残数は高く,それに
対する次亜塩素酸水の消毒効果は顕著であった。
指標菌である大腸菌群に対する次亜塩素酸水によ
る不活化率は100%であった。また,第四類呼吸
謝辞
器感染症の原因菌であるレジオネラ属菌に対する
本研究を進めるにあたり,関東学院大学博士前期課
不活化率も100%が得られた。わずかではあるが,
程工学研究科建築学専攻,夏見 洋平君,同建築学科,
次亜塩素酸水試料から検出された細菌として,一
小宮 翔君および社会環境システム学科,大河原 優君,
般細菌および従属栄養細菌が挙げられる。一般細
山村 徹君にご協力を頂いた。ここに,感謝の意を表
菌の不活化率(30分値)は99. 99∼100%,従属栄
する。
養細菌は99. 993∼100%であった。
(4)生野菜に付着している一般細菌および大腸菌群を
次亜塩素酸水に遊離させ,水中の細菌数を測定し
た。生野菜の形状は,①包丁切り生野菜,②固形
生野菜とした。①の条件では,一般細菌の82. 5∼
89. 3%を不活化することができ,大腸菌群は,98. 3
∼99. 5%が不活化された。
参考文献
1 )厚生労働省:建築物における衛生環境の確保に関
する法律施行規則,厚生労働省令第 2 号
2)
(社)日本水道協会:新浄水装置の評価に関する調
査報告書(昭和61年 3 月)
3 )厚生労働省行政情報:食品添加物リスト(規則別
①の条件では,生野菜由来有機物による全塩素濃
表第 1 ,平成22年12月13日改正)(財)日本食品
度の消費が確認されたことから,②固形のままで
化学研究振興財団
次亜塩素酸水に作用させた結果,不活化率は一般
細菌および大腸菌群とも100%が得られた。対照
水から検出された細菌数は①,②の条件ともほぼ
同等であり,相違点は全塩素濃度の消費が②の方
4 )齋藤勝裕:やり直し高校化学,pp. 107∼108,㈱
ナツメ社(2006)
5)
(社)日本水道協会:上水試験方法,pp. 605∼657
(2001)
が少なかったことにあり,1. 5∼4. 0mg/L が残留
する結果になった。また,固形生野菜(対照)の
細菌数は野菜の種類によって異なり,カイワレ大
根の一般細菌数は105CFU/mL が検出され,大腸菌
群数は104CFU/mL が検出された。
(5)次亜塩素酸水の使用用途として,消毒用洗浄水と
しての効果を検証した。次亜塩素酸水による生野
菜の漬け置き洗い(15分,30分)による効果につ
いては,生野菜を平板培地に置床し平板培地上に
(2011年 1 月21日受理)
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