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二面市場における プラットフォームの価格競争の分析
加え、売り手と買い手が逐次的に行動を決定するモデルについても 分析する。この 2 つのモデルの均衡において企業と買い手、売り手 二面市場における プラットフォームの価格競争の分析 Two-Sided Markets and Price Competition between Platforms 制度設計理論(経済学)プログラム 09_01654 石黒 僚太郎 Ryotaro Ishiguro 指導教員 武藤 滋夫 Adviser Shigeo Muto がとる行動と企業利潤を求めることが本研究の目的である。 売り手・買い手同時決定モデル 2 2.1 モデル プレイヤーの集合を N = {1, 2, S , B} とする。1, 2 はそれぞれプ ラットフォーム 1, 2 を表し、S , B はそれぞれ売り手グループと買 い手グループを表す。ゲームの流れは、第一段階でプレイヤー 1, 2 が 2 つの消費者グループそれぞれに提示する価格を同時決定し、 第二段階で、提示された価格をもとにプレイヤー S , B がプラット フォームの利用についての行動を同時決定する。プラットフォーム 1 はじめに 1.1 二面市場とは i (i = 1, 2) がグループ k (k = S , B) に課す価格を pik とすると、プレ イヤー i の行動の全体は Pi = {pi = (piS , piB ) | piS ≥ 0, piB ≥ 0} 二面市場とは 2 つの消費者グループがプラットフォームと呼ばれ る仲介機能のあるサービスや機関を通じて経済的な交流をし、一方 となる。グループ B の消費者 (利用客) が第二段階において取るこ の消費者グループの行動が他方のグループの便益に外生的に影響を とができる行動の全体は AB = {e1,2 , e1 , e2 , en } として、左から順に 与える状況を言う。ショッピングモールを例にとると、一般客は出 プラットフォームを両方利用、プラットフォーム 1 を利用、プラッ 店店舗数が少ないショッピングモールには魅力を感じず、店舗側も トフォーム 2 を利用、両方利用しないを表す。以下、AB の要素を 訪れる客が少ないショッピングモールには出店しようと思わない。 aB で表す。 このように 2 つのグループがプラットフォームの利用により、他方 のグループに影響を与える状況を二面市場と言う。 1.2 研究の背景 グループ S の消費者 (店舗) が第二段階において取ることができ る行動の全体は AS = {e1 , e2 , en } と表し、2 つのプラットフォームを 同時に利用できないと仮定する。グループ S の消費者は [0, 1] 区間 2013 年現在、E コマース業界において国内シェアでトップを誇 に一様に分布しており、その値を θ とすることで店舗そのものが利 る楽天はインターネットモールと呼ばれる楽天市場を中核のビジネ 用客にとってどれだけ魅力的であるかを表す。プレイヤー S が取 スとしてその流通総額を伸ばしてきた。インターネットモールとは ることができる行動を [0,1] から AS への写像 sS としてその全体を インターネット上のショッピングモールのことで、ウェブページを 商品棚として小売店に提供し、初期登録料、月額料などを徴収する S S = {sS | sS : [0, 1] → AS } ことで利益を上げる。楽天は店舗に対して商品棚を提供するだけ と表す。これにより、プレイヤー S は全ての店舗, θ ∈ [0, 1], につい ではなく、E コマースに特化した経営コンサルタントを配置するな て、プラットフォームの利用に関する行動を割り当てる。 ど、出店者の円滑な店舗運営を促す体制を整えてきたことで業績を ゲームの終点の集合を W としてプレイヤー 1, 2 が価格 p1 , p2 伸ばしてきた。しかし、2013 年 10 月、楽天と同じくインターネッ を提示し、プレイヤ―S , B がそれぞれ行動 sS ∈ S S , aB ∈ AB を トモールを手掛けるヤフーは楽天に対抗して、出店店舗に対する初 とって、終点 w ∈ W に辿り着きゲームを終えた時のプレイヤー 期登録料、月額料を原則無料とし、出店依頼者を増やしている。本 i (i = 1, 2), B の利得 hi (w), hB (w) はそれぞれ 研究ではこのようなインターネットモールを運営する企業による価 hi (w) = (piS − fS )niS + piB niB , −pi + bniS (aB = ei , i = 1, 2) ∑ ∑B B i i h (w) = − i=1,2 pB + b i=1,2 nS (aB = e1,2 ) 0 (aB = en ) 格競争をゲーム理論における均衡概念の 1 つである部分ゲーム完全 均衡を用いて分析していく。 1.3 先行研究と研究目的 先行研究として Armstrong and Wright (2007) がある。ここでは、 2 つの通常のショッピングモールを想定し、それを運営する企業の とする。店舗 θ がプラットフォーム i (i = 1, 2) を利用した時の効 価格競争を分析している。買い手と売り手が存在し、買い手にとっ 用を てはショッピングモールまでの距離に応じて、移動コストがかか viS (θ) = v0S − piS + αi θniB る。2 つの企業から価格が提示された後に買い手と売り手が同時に として、プレイヤー S の利得 hS (w) は全ての店舗の効用を足し合わ モールの利用について行動を決定する。結果として、買い手は近く せたものとする。記号は以下のように定義される。 に位置するモールのみを利用し売り手は両方のモールに出店すると いう実際によく見られる状況が均衡として導き出されている。 本研究ではインターネットモールを想定することから、プラット フォームの利用には移動コストがかからない。しかし、楽天とヤ フーの例のように一方のプラットフォームが他方よりも消費者グ ループに対してより優れたサービスを提供しているという意味で差 別化されているとする。また、現実には、利用客は店舗側のモール の利用状況に応じて、行動を決めることができるから、Armstrong and Wright (2007) のような売り手と買い手の同時決定のモデルに • fS : プラットフォームが売り手グループにサービスを提供する 時の限界費用 • v0S : 店舗がプラットフォームの利用により受ける潜在的便益 • αi : 店舗がプラットフォーム i の利用で得られる客数当たりの 便益 (α1 > α2 とする) • b: 買い手がプラットフォームの利用で得られる店舗数当たり の便益 • nik : グループ k のうちプラットフォーム i を利用する消費者の 割合 2.2 となる。θ ∈ [0, 13 ) を満たす店舗はプラットフォーム 2 を利用し、 分析 図 1 はプレイヤー 2 の価格の組 p2 = (p2S , p2B ) が与えられた時に プレイヤー B の 4 つの行動それぞれについて第二段階の部分ゲー ムでナッシュ均衡として選択され得る範囲を表したプレイヤー 1 の 価格の組 p1 = (p1S , p1B ) のグラフである。 θ ∈ [ 13 , 1] を満たす店舗はプラットフォーム 1 を利用する。買い手 はプラットフォームを両方利用する。 命題 2. fS ≥ b の時、1’s dominant firm equilibrium は存在しない。 売り手・買い手逐次決定モデル 3 モデル 3.1 プレイヤーの集合、行動、利得は前回と同様である。第一段階で プレイヤー 1, 2 が価格の組 p1 , p2 を同時決定し、第二段階でプレ イヤー 1, 2 が提示した価格をもとにプレイヤー S が行動 sS ∈ S S を決定し、第三段階でプレイヤー B がそれらを観察した後に行動 aB ∈ AB を決定する。 結果 3.2 命題 3. competitive bottleneck equilibrium は存在しない。 命題 4. fS ≥ b ≥ 23 (α1 − α2 ) を仮定する。1’s dominant firm equilib- rium が存在し、プラットフォーム 1, 2 の価格の組 p1∗ , p2∗ は p2 = (p2S , p2B ) が与えられた時のプレイヤー 1 の価格の組 図1 (p1S , 1 1 2∗ 2 p1∗ S = pS + (α − α ), 2 1 1 2 fS − b ≥ p2∗ S ≥ max{ fS − b − (α − α ), 0}, 2 p1B ) のグラフ 2∗ p1∗ B = b, p B = c (c は任意の正の実数) 第二段階の部分ゲームにおいてプレイヤー 1, 2 が提示する全ての 価格の組に対して、必ずナッシュ均衡が存在し、ある価格の組に対 しては複数のナッシュ均衡が存在する。したがって、均衡を選択す るため Armstrong and Wright (2007) にならい以下の仮定を置く。 • 「慣性条件」:ある価格の組が与えられて、プレイヤー S , B に より、部分ゲームでナッシュ均衡となる行動の組がプレイされ ている時に、プレイヤー 1, 2 が価格を変更したとしても、プレ イヤー B が同じ行動をプレイするようなナッシュ均衡が存在 するならばプレイヤー B は行動を変更しない。 • 「単調性条件」:プレイヤー i (i = 1, 2) が価格 pi = (piS , piB ) を 両方同時に弱い意味で下げたならば、2 つのグループ S , B から の需要が弱い意味で上昇する。 を満たす。プラットフォーム 1 が得る最大となる利潤は π1∗ = 1 1 2 (α 4 − α2 ), プラットフォーム 2 の利潤は π2∗ = 0 となる。 結論 売り手と買い手が同時に行動を決定するモデルでは、2 つのプ ラットフォーム企業が提供するサービスの質の差 (α1 − α2 ) が小さ く、売り手へのサービスの提供にかかる費用が買い手の便益より大 きい場合、企業が市場を分け合い正の利潤を得る均衡が存在する。 一方で優れている企業が市場を独占する均衡は存在しない。 一方、売り手と買い手が逐次的に行動を決定するモデルでは企業 が市場を分け合う均衡は存在せず、より優れている企業が市場を独 占する均衡のみが存在する。 以上の 2 つの条件が適用されないようなプレイヤー i (i = 1, 2) の i′ ′ この 2 つのモデルにおける均衡でより優れている企業が提示する 逸脱については第二段階でプレイヤー B が行動 e (i , i) をとるよ 価格を比べると市場を独占する均衡での価格の方が、市場を分け合 うな均衡が存在する場合にはその均衡が選択されるとする。 う均衡での価格よりも低くなる。それに伴い、売り手側の余剰は企 プレイヤー B がプラットフォーム 1, 2 の両方を利用する均衡 を Armstrong and Wright (2007) にならい competitive bottleneck 業が市場を独占する均衡の方が市場を分け合う均衡よりも大きくな るという特徴的な結果が得られた。 equilibrium, プレイヤー B がプラットフォーム i (i = 1, 2) のみを利 現実では、インターネットモールを運営する企業は一般利用者を 用する均衡を i’s dominant firm equilibrium と呼び、これらの仮定の 集めることにより、モール事業だけでなく広告や動画配信サービス 下、部分ゲーム完全均衡を求める。 といった、より多角的なビジネスを行っている。よって、企業がど 2.3 の市場グループに対してビジネスを行うのかを戦略として取り入れ 結果 − α ), α ≥ が成り立つとする。competitive bottleneck equilibrium が存在して、プラットフォーム 1, 2 が提 命題 1. fS ≥ b ≥ 2 1 3 (α 2 2 2 1 5α 示する価格の組 p1∗ , p2∗ は 2 1 2 1∗ 2 p1∗ = (p1∗ b), S , p B ) = ( fS − b + (α − α ), 3 3 1 1 1 2∗ 2 p2∗ = (p2∗ b) S , p B ) = ( fS − b + (α − α ), 3 3 となる。この時プラットフォーム 1, 2 の利潤 π1∗ , π2∗ は π1∗ = 1 4 1 (α − α2 ), π2∗ = (α1 − α2 ) 9 9 ることが今後の課題の一つとして挙げられる。 主要参考文献 [1] Armstrong, M. and Wright, J. (2007). Two-Sided Markets, Competitive Bottlenecks and Exclusive Contracts. Economic Theory, Vol.32(2), 353-380. [2] Caillaud, B. and Jullien, B. (2003). Chicken and Egg: Competition among Intermediation Service Providers. Journal of Economics, Vol.34, 309-328.