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アオハダトンボ ニシカワトンボ

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アオハダトンボ ニシカワトンボ
96 昆虫類
アオハダトンボ トンボ目カワトンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Calopteryx japonica Selys, 1869
環境省:−
アオハダトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
●●
○
●●
○
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◎
○
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● ○
◎
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島根県飯石郡三刀屋町殿河内 1996.5.26 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:緩やかな流れの河川中流域に生息するが,分
布は局所的。環境変化に敏感で,河川の改修などで生息が
容易に危機的状況に陥る。
■形態と生態:体長55mm程度。雄は金属光沢のある緑色
で翅は青藍色。ハグロトンボC. atrataに似るが,腹部の先
端の裏側が白くなることで区別できる。雌は翅が褐色で,
前翅に乳白色の偽縁紋がある。成虫は5月中頃から7月下旬
にかけて見られ,羽化水域周辺で成熟する。県内では個体
数はやや減少傾向にある。
■分布(県内):西部・中部の緩やかな流れの河川中流域。東
部では千代川中流域とその支流のみ。
■分布(県外):本州と九州;朝鮮半島,中国東北部,シベ
リア。
■生息環境:成虫は主に平地や丘陵地の挺水植物が繁茂す
る水質の良好な緩やかな流れの河川中流域に生息し,幼虫
は川岸の挺水植物の水中根や流れにゆらぐ沈水植物につか
まって生活する。
■保護上の留意点:水質や周囲の環境変化に敏感なため,
河川の改修工事ではとくに水質,河川周囲の植生の維持に
十分な配慮が必要。
■文献:
英 裕人・英 浩之 (1998) 鳥取県東部のトンボの記録(2). Futao,
30: 5-13.
日暮卓志・祖田 周 (1998) 鳥取県のトンボ相[II]. すかしば, 46:
57-63.
國本洸紀 (1994) 鳥取県中部地区のトンボ目録 II. ゆらぎあ, 12:
1-5.
執筆者:英 裕人
ニシカワトンボ トンボ目カワトンボ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Mnais pruinosa Selys, 1853
環境省:−
ニシカワトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
●
●◎◎
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●● ◎
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“ヒウラカワトンボ”の雄 鹿野町鬼入道 2001.6.8
■選定理由:千代川と天神川との間で2つの地理型の分布が
移行帯を介して交替。
■形態と生態:体長50mm前後。成虫は5-6月に渓流で見ら
れる。カワトンボ類の分類には異論が多いが,ここでは暫
定的に「ヒウラカワトンボ(未記載)
」はニシカワトンボ
の地理型として扱う。県内にはニシカワトンボの南海群
(橙色翅型雄+透明翅型雄+透明翅型雌),とヒウラカワト
ンボ(透明翅型雄+透明翅型雌,まれに橙色翅型雄が出現)
の2型がみられ,県東部で分布域を交替させている。両者
の移行帯では,渓流別あるいは上下流のすみわけや中間的
な個体が観察され,カワトンボ属の種分化と分布形成過程
を解明するうえできわめて重要な地域である。
■分布(県内):県内全域。天神川以西には「南海群」
,千代
川以東には「ヒウラ」が生息。中間の河内川,勝部川,日
置川や佐治川(千代川水系)
,小鹿川(天神川水系)では
両型が側所的に生息。
■分布(県外):日本固有種。
「南海群」は紀伊半島南部,中
国地方
(東部および隠岐を除く)
,四国,九州
(北東部)
。「ヒ
ウラ」は中部地方,近畿(紀伊半島南部を除く)
,中国地
方東部。
レッドデータブックとっとり (動物) 97
■生息環境:水がきれいな山間の渓流。
■保護上の留意点:移行帯として保護上最も重要なのは,
鹿野町,三朝町,佐治村付近の集団(分布図の斜線部)
。
■文献:
門脇久志(1993)ニシカワトンボ・ヒウラカワトンボ. pp. 100-
101. In: 鳥取県のすぐれた自然(動物).
鈴木邦雄(1998)日本産カワトンボ属(均翅亜目,カワトンボ
科)の分類,地理的分布および地理的変異(概説). ホシザキ
グリーン財団研究報告, 2: 289-314.
執筆者:門脇久志
オオカワトンボ トンボ目カワトンボ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Mnais nawai Yamamoto, 1956
環境省:−
オオカワトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
●
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橙色翅雄と透明翅雌の交尾 鹿野町鬼入道 1995.5.20
/ 撮影:祖田 周
■選定理由: 2つの地理型の移行が観察できる場所として
県東部の集団は学術的に貴重。
■形態と生態:体長55-60mm。成虫は5-6月に中流域に見
られ,上流部のニシカワトンボの「南海群」または「ヒウ
ラカワトンボ」とすみわける。県内には本種の中国群(橙
色翅型雄+淡橙色翅型雄+透明翅型雄+淡橙色翅型雌+透明
翅型雌)と中部群(橙色翅型雄+淡橙色翅型雌+透明翅型雌)
の2型がみられる。両群の移行帯である鹿野町付近では西
から東へ透明翅型雄が減り淡橙色型雌が増えるが,その変
化は緩やかである。また,中国群にはニシカワトンボ南海
群,中部群にはヒウラカワトンボが対応しており,カワト
ンボ属の種分化過程や生態学的な問題を解明するうえでき
わめて重要な地域である。
■分布(県内):県内全域。
「中国群」は天神川以西,
「中部
群」は千代川以東の中流域に分布し,中間の日置川,勝部
川,河内川付近が両群の移行帯。
■分布(県外):日本固有種。
「中国群」は,中国地方(東部
および隠岐を除く)
,九州(北東部)
。
「中部群」は,中部
地方(北陸,東海西部)
,近畿(紀伊半島南部を除く)
。
■生息環境:ヨシ等が生育する水がきれいな河川の中流域。
■保護上の留意点:移行帯にかかわる青谷町,鹿野町付近
の集団が保護上の重要度が最も高い(分布図の斜線部)
。
■文献:
門脇久志(1993)オオカワトンボ「中部群」
・
「中国群」
,pp. 102103. In: 鳥取県のすぐれた自然(動物).
鈴木邦雄(1998)日本産カワトンボ属(均翅亜目,カワトンボ
科)の分類,地理的分布および地理的変異(概説)
. ホシザキ
グリーン財団研究報告, 2: 289-314.
執筆者:門脇久志
98 昆虫類
コバネアオイトトンボ トンボ目 アオイトトンボ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Lestes japonicus (Selys, 1883)
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
コバネアオイトトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
過剰連結(雄/雄/雌)
島根県松江市大垣町 1991.10.26
/ 撮影:大浜祥治
■選定理由:全国的に丘陵地の沼やため池などの止水域に
生息するが,局地的な分布を示し,鳥取県では近年記録が
ほとんどない。
■形態と生態:背面は金属光沢を持った暗緑色,腹面は黄
色をしたイトトンボ。成虫は7月頃羽化し周囲の林地内に
移動するが,成熟すると水域に戻ってくる。挺水植物の柔
らかい組織に産卵するため植物の多い池等にすむ。鳥取県
では1991年の倉吉市勝負谷のため池からの報告以後,記録
が途絶えている。
■分布(県内):倉吉市勝負谷のため池。
■分布(県外):本州,四国,九州; 朝鮮半島,中国の一部。
■生息環境:アシなどの挺水植物のある池沼や湿地。
■保護上の留意点:県内の生息地はため池であり,不安定
な環境下にある。旱魃で水が枯れると絶滅のおそれが高
い。生息地が希薄なため,一度,絶滅すると,近くの生息
地からの飛来も望めないのでため池の管理に配慮が必要で
ある。
■文献:
衣笠弘直(1973)鳥取県東部のトンボ,智頭地域を中心に. 著者
自刊.
國本洸紀(1992)鳥取県中部のトンボ. ゆらぎあ, 10:1-9.
執筆者:國本洸紀
アオモンイトトンボ トンボ目イトトンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Ischnura senegalensis (Rambur, 1842)
環境省:−
アオモンイトトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎
◎◎
●●
◎
●
◎● ●
●● ◎
●
島根県隠岐郡五箇村重栖 1998.8.22 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:県内での生息地が限定され,県内主要河川の
河口域のみに生息が確認されている。境港市周辺では比較
的個体数が多いようだが,県中部および東部では,河川改
修により生息が危機的状況にある。
■形態と生態:腹長24 mm内外のイトトンボで,雄は淡青
色の地色で黒色斑を持ち,雌は緑色をした個体と雄と同色
の個体が見られる。鳥取県では成虫は6-10月にかけて観
察され,産卵は水辺の植物組織内に行われる。
■分布(県内):県内主要河川の河口域。近年の記録として
は,鳥取市浜坂,羽合町(橋津,長瀬)
,米子市(日野橋
下,湊山公園,彦名),境港市(麦垣町,米子空港)など。
■分布(県外):日本全域;東アジア,東南アジア,東南ア
ジアを経てアフリカまで。
■生息環境:鳥取県では成虫および幼虫は河川河口域のヨ
シなどの挺水植物が繁茂した場所。汽水域を好むようであ
る。
■保護上の留意点:産卵対象および生息に十分な汽水域の
挺水植物の確保と生息地周辺を含めた自然環境の維持が重
要である。
■文献:
英 裕人・英 浩之(1996)鳥取県東部のトンボ記録. Futao, 22:
1-12.
日暮卓志・祖田 周(1995)鳥取県のトンボ相 [I]. すかしば,
41/42: 39-52. 國本洸紀・徳井昌康(1992)鳥取県中部のトンボ. ゆらぎあ, 10:
1-9. 執筆者:日暮卓志
レッドデータブックとっとり (動物) 99
ムスジイトトンボ トンボ目 イトトンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Cercion sexlineatum (Selys, 1883)
環境省:−
ムスジイトトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
●●
■選定理由:太平洋側には広く生息するが,日本海側の産
地はきわめて局地的。米子市粟島神社周辺が,県内唯一の
生息地。島根県隠岐の産地は埋め立てで絶滅したという。
■形態と生態:体長30-37mm,濃い青色の中型のイトトン
ボで,同属のセスジイトトンボC. hieroglyphicumやクロイ
トトンボC. calamorumなどに酷似する。同属の他種に比
し,やや温暖な環境を好む。海岸近い汽水域の湿地や,緩
やかな流れの溝川,水田などに生息している。米子市では
5月から10月まで断続的に発生し,最も多い時は100匹以上
も群れている。止まり方は水平,または斜め懸垂型。交尾
は静止型。湿地に生える草の茎に産卵し,幼虫はその根元
に潜む。
■分布(県内):米子市彦名町粟島神社社叢北西側一帯が現
在判明している県内唯一の産地。
■分布(県外):宮城県以南の本州,四国,九州,南西諸島;
台湾,中国,ベトナム。
■生息環境:浅い湿地や緩やかな水路。環境に敏感で,選
り好みが激しいため,日本海側では希。やや塩分のある場
所を好むようである。
■保護上の留意点:生息地では現状の環境の維持。
■文献:
三島 寿雄(1998)ムスジイトトンボ米子市に産す.すかしば, 46:
18-19.
山陰むしの会(編)(1993)山陰のトンボ. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
鳥取県:その他の重要種(OT)
ムカシトンボ トンボ目ムカシトンボ科
Epiophlebia superstes (Selys, 1889)
環境省:−
ムカシトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●●
●●
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◎
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島根県隠岐郡西郷町近石 2000.5.20 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:森林に囲まれた自然度の高い渓流の指標種と
して選定した。森林開発が進行すると減少が予想される。
■形態と生態:体長50mm内外。黒地に黄色紋がありサナ
エトンボ類に似た体形だが,アオイトトンボに似た形の翅
をもつ。成虫は4月下旬から6月上旬にかけて見られ,森林
に囲まれた渓流付近を敏捷に飛翔する。幼虫は急流の早瀬
の石の下に生息し,7-8年を経て成虫となる。
■分布(県内):標高ほぼ300m以上の県内全域の渓流。一部
地域では標高100m前後でも幼虫が確認されている。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州,隠岐島(日本
固有種)。
■生息環境:成虫は主に山地の森林に囲まれた渓流付近。
■保護上の留意点:県内では個体数は比較的多く,現状で
は生息にとくに心配はない。しかし,森林開発,林道工事
などで渓流環境が改変されると生息が容易に危機的状況に
陥るため,慎重な対応が必要である。
■特記事項:江府町の天然記念物(俣野町,俣野川流域,
1977年指定)
■文献:
英 裕人・英 浩之 (1996) 鳥取県東部のトンボの記録. Futao,
22: 1-12.
日暮卓志・祖田 周 (1998) 鳥取県のトンボ相 [II]. すかしば, 46:
57-63.
三島寿雄 (1993) ムカシトンボ. pp. 106-107. In: 鳥取県のすぐれ
た自然(動物).
執筆者:英 裕人
100 昆虫類
ムカシヤンマ トンボ目ムカシヤンマ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Tanypteryx pryeri (Selys, 1889)
環境省:−
ムカシヤンマ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
○
● ●
● ◎◎
◎
●
●
○
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● ●
●
●●
○○
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○
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●
◎●
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◎ ◎
◎
○ ●
◎
雌の羽化
島根県安来市折坂町 1989.5.21
/ 撮影:祖田 周
■選定理由:県西部や中部では生息地が限定され,その保
全にはとくに配慮が必要。ただし,東部では比較的普通の
ため「その他」で選定した。
■形態と生態:腹長50 mm内外。頭部が比較的小さく,黒
地に黄色い斑紋があるサナエトンボに似たトンボ。幼虫は
水がしたたり落ちるような斜面の湿った土やコケのあいだ
に生息する。成虫は鳥取県では5-7月にかけて出現し,幼
虫の生息地周辺の立木の樹幹や地面に止まっていることが
多い。動作は緩慢である。
■分布(県内):県内全域。鳥取県東部では湖山池周辺の低
つくよね
地から若桜町米のような高標高地までみられるが,県中
部・西部では産地が限定される。
■分布(県外):本州および九州(日本固有種)
。
■生息環境:丘陵地,低山地および山地の湧水が浸みだし
ている崖や斜面。
■保護上の留意点:湿った崖や斜面をコンクリートで固め
ることや,むやみに斜面を崩すことなどは避けるべきであ
る。成虫の餌場として周囲の田圃や林の保全も重要。
■文献: 英 裕人・英 浩之(1996)鳥取県東部のトンボ記録. Futao, 22:
1-12.
日暮卓志・祖田 周(1995)鳥取県のトンボ相 [I]. すかしば,
41/42: 39-52.
國本洸紀・徳井昌康(1992)鳥取県中部のトンボ. ゆらぎあ, 10:
1-9.
執筆者:日暮卓志
アオヤンマ トンボ目ヤンマ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883
環境省:−
アオヤンマ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
● ●
●
◎
島根県隠岐郡都万村由井ノ池 1998.6.6 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:県内での生息地が限定され,個体数が少ない。
ヨシ原のよく発達した河川,水路,池沼に生息し,河川改
修,耕地整理,護岸工事などで生息地が減少している。
■形態と生態:腹長約50 mm。全身青緑色のヤンマで,翅
胸上部から腹部上面にいたる太い黒条をもつ。幼虫・成虫
ともに低地のヨシやガマがよく繁茂した池や水路に生息す
る。成虫はヨシやガマの間を縫うように飛翔し,ヨシ原内
で交尾・産卵する。成虫は鳥取県では6-7月に見られる。
■分布(県内):鳥取県東部の平野部。比較的近年の記録は
気高町のみ。
■分布(県外):本州を中心とした日本各地;朝鮮半島およ
び中国。
■生息環境:ヨシ原がよく発達した河川,水路,池沼。
■保護上の留意点:幼虫も成虫もヨシやガマが繁茂した池
や水路を生息場所としているので,そのような水辺環境を
保全することが重要。
■文献:
日暮卓志(1993)因幡のトンボ. すかしば, 39/40: 9-17. 日暮卓志・祖田 周(1995)鳥取県のトンボ相 [I]. すかしば,
41/42: 39-52.
三島寿雄(1980)鳥取県のトンボ. すかしば, 16: 5-9. 執筆者:日暮卓志
レッドデータブックとっとり (動物) 101
ネアカヨシヤンマ トンボ目ヤンマ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Aeschnophlebia anisoptera Selys, 1883
環境省:−
ネアカヨシヤンマ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
島根県平田市美野町
1991.6.25 / 撮影:祖田 周
■選定理由:生息地が丘陵地のヨシやガマなどのよく茂っ
た湿地や休耕田に限定される。県内では1981年を最後に採
集記録がない。
■形態と生態:体長80mm,後翅長50mm程度。腹部第3節は
くびれず,ずんどう。幼虫は第8,9に背棘があるのは本種
だけである。成虫は6月上旬頃から羽化しはじめ9月いっぱ
いまで見られる。成熟すると黄昏飛翔が見られる。雌は単
独で水田や湿地の土や朽木に潜って産卵する。
■分布(県内):過去の確実な記録は鳥取市(北村,1959)
と米子市河崎(松原・三島,1982)の2例のみ。
■分布(県外):新潟県以南の本州,四国,九州;中国の南
京付近。
■生息環境:平地や丘陵地のヨシなどの挺水植物の茂った
湿地。近くに樹林があるところに多い。
■保護上の留意点:生息地が見つかった場合には,湿地お
よび周辺の樹林の一体的保全が重要。
■文献:
北村彰造(1959)鳥取市付近のトンボ. ヒサマツ(鳥取昆虫同好
会)未完原稿
松 原 至・三 島 寿 雄(1982)7月 を 中 心 と し た ト ン ボ の 記 録
(1981). すかしば, 16: 5-9.
執筆者:祖田 周
ルリボシヤンマ トンボ目ヤンマ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Aeshna juncea (Linnnaeus, 1758)
環境省:−
ルリボシヤンマ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●
◎
●
●
◎
●
●
◎
日南町阿毘縁
■選定理由:寒冷地の湿地や挺水植物のよく茂った池沼に
生息するが,個体数は少ない。
■形態と生態:成虫は体長85mm,後翅長55mm程度。胸部
の前方の黄緑条の上端は後方に流れるように張り出す。雌
はすべて黄緑色であるが青みの強い個体もある。幼虫はオ
オルリボシヤンマに似るが下唇は短く中肢基部の中央まで
しか届かず,下唇中片の先端部がへこまない。羽化は7月
上旬頃から始まる。成虫は10月中旬まで見られる。9月頃
に入ると雄はオオルリボシヤンマより低く飛び植物の間を
縫うように水面から1m前後で縄張り飛翔をするようにな
る。雌は単独で植物の茎や湿った土などに産卵する。中国
山地沿いの標高が200m以上の場所で採集されている。
■分布(県内):東部と西部の山間地。1990年以降の記録は
国府町菅野,鳥取市安蔵,大山町香取,大野池,日南町数
カ所など。東伯郡や倉吉周辺での記録はない。
■分布(県外):北海道,本州,四国
(徳島県)
;北半球冷温
帯に広く分布。
■生息環境:寒冷地の湿地や池沼。
■保護上の留意点:山間部の池沼や湿地の保全が重要。
■文献:
衣笠弘直(1973)鳥取県東部のトンボ. 智頭地域を中心に. 32
pp. 著者謄写刷自刊.
松原 至・三島寿雄(1982)7月を中心としたトンボの記録.す
かしば, 16: 5-9.
祖田 周(1993)鳥取県西部のトンボ.すかしば, 39/40: 37-44.
執筆者:祖田 周
102 昆虫類
オオルリボシヤンマ トンボ目ヤンマ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Aeshna nigroflava Martin, 1908
環境省:−
オオルリボシヤンマ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●●
●
●
●
●
●●●
●
●
◎
雌 島根県仁多郡仁郡町 / 撮影:祖田 周
■選定理由:平地から山間部の池に生息するが,平地の池
は改修・埋め立てなどの開発の影響を受けやすいため,生
息環境が悪化傾向にある。
■形態と生態:体長85mm程度。黒地にルリ色の斑紋が鮮
やかな大型のヤンマ。雌は腹部の斑紋によって青色型と緑
色型の2型が区別される。成虫は7月頃羽化し,一時期水域
から離れるため盛夏には見られないが,9-10月に池周辺に
現れ,水面上の一定範囲を占有飛翔する雄が見られる。
■分布(県内):県内全域の比較的標高の高い山間部の池に
局所的に分布するが,岩美郡福部村,気高郡気高町などで
は平地の池にも生息する。
■分布(県外):北海道,本州,九州,利尻島,佐渡島(日
本固有種)
。
■生息環境:成熟成虫はルリボシヤンマに比べやや低標高
まで分布しているが,どちらかというと山間部の幾分深め
の大きい池で,挺水植物,沈水植物,浮草などが繁茂する
環境に多い。
■保護上の留意点:本種の生息に適する池は,平野部では
きわめて少ない。山間部には局所的ではあるが,生息に適
する池が比較的残されており,周辺の森林とともに池の保
全をはかることが必要である。
■文献:
英 裕人・英 浩之 (1996) 鳥取県東部のトンボの記録. Futao,
22: 1-12.
日 暮 卓 志・祖 田 周 (1995) 鳥 取 県 の ト ン ボ 相[]. す か し ば,
41/42: 39-52.
祖田 周(1993)鳥取県西部のトンボ. すかしば, 39/40: 37-44.
執筆者:英 裕人
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
マルタンヤンマ トンボ目ヤンマ科
Anaciaeschna martini (Selys, 1897)
環境省:−
マルタンヤンマ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
●
●
●
● ●
雄羽化 島根県隠岐郡五箇村重栖 1999.6.11 / 大浜祥治
■選定理由:平地から低山地の池に生息するが,平地の池
は改修・埋め立てなどの開発の影響を受けやすいため,生
息環境が悪化傾向にある。
■形態と生態:体長約80mm。赤褐色地に黄色の斑紋があ
る中型のヤンマ。成熟すると雄は黄色の斑紋と複眼が鮮や
かな青色に変色する。雌は黄色の斑紋が緑色を帯びてく
る。雌雄とも未熟個体の翅は透明だが,成熟個体では褐色
を帯びる。とくに雌では濃くけぶった翅色となり,黄昏飛
翔時容易に本種雌と確認できる。成虫は6月下旬頃から羽
化し,9月まで見られる。しかし成熟雄が観察されること
は少ない。
■分布(県内):これまでの記録は鳥取市,岩美郡,八頭郡
などの東部地域に限られる。中部・西部では調査不十分と
思われる。
■分布(県外):本州,四国,九州,佐渡島,隠岐島,対馬,
屋久島など;インド,台湾。
■生息環境:平地∼低山地の挺水植物や浮草などが繁茂す
る池。
■保護上の留意点:最近になって,幼虫の調査などで県内
でも本種が比較的生息していることが分かってきた。しか
レッドデータブックとっとり (動物) 103
し平地から低山地の池は埋め立て・開発などの影響を受け
やすいため,池および周辺の雑木林などの保全をはかるこ
とが必要である。
■文献:
英 裕人・英 浩之 (1998) 鳥取県東部のトンボの記録(2). Futao,
30:5-13.
日 暮 卓 志・祖 田 周 (1995) 鳥 取 県 の ト ン ボ 相 []. す か し ば,
41/42: 39-52.
山陰むしの会(編)(1993)山陰のトンボ. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:英 裕人
ホンサナエ トンボ目サナエトンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Gomphus postocularis (Selys, 1869)
環境省:−
ホンサナエ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●●
●
●
●
●
●
●
●
福部村多鯰ヶ池 2001.5.17
■選定理由:西部・中部では緩やかな流れの河川中・下流
域。東部では多鯰ヶ池にのみに生息地が限定される。
■形態と生態:体長48-50mm。ずんぐりした体型だが,成
熟個体はかなり敏捷。成虫は4月下旬から6月下旬にかけて
見られ,未熟期はいったん羽化水域を離れ,雑木林などで
過ごし,成熟すると水域に戻ってくる。雄は水ぎわ付近の
地面に静止し,時々水面を飛んで占有行動をとる。
■分布(県内):西部・中部の緩やかな流れの河川中・下流
域。東部では多鯰ヶ池のみ。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州,佐渡島(日本
固有種)。
■生息環境:成熟成虫は緩やかな流れの河川中・下流域の
川岸付近に生息する。多鯰ヶ池ではややひらけた岸辺に静
止しているのが観察される。未熟期の成虫は羽化水域から
離れて雑木林に生息する。
■保護上の留意点:県内では個体数はやや少ない。河川改
修などで生息が容易に危機的状況に陥ることから,改修工
事に際しては,本来の自然環境の保全に十分に配慮するこ
とが重要である。多鯰ヶ池ではブラックバスなどの移入に
よる生態系の破壊が本種にも影響しているとみられ,今後
何らかの対策が必要。
■文献:
日暮卓志・祖田 周 (1998) 鳥取県のトンボ相 [II]. すかしば, 46:
57-63.
國本洸紀 (1994) 鳥取県中部地区のトンボ目録 II. ゆらぎあ, 12:
1-5.
祖田 周 (1993) 鳥取県西部のトンボ.すかしば,39/40: 37-44.
執筆者:英 裕人
104 昆虫類
キイロサナエ トンボ目サナエトンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Asiagomphus pryeri (Selys, 1883)
環境省:−
キイロサナエ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
●
●
●
●
○
○
◎
■選定理由:ゆったり流れる河川の中流部やその支流の河
川の水質のよい場所に生息するが,河川環境の変化等によ
り,一部地域では近年確認記録がない。
■形態と生態:体長65mm,後翅長40mm程度。ヤマサナエ
A. melaenopsによく似ている。胸の横にある黒条がはっき
りつながっていない個体が多い。幼虫は細長くやはりヤマ
サナエに似るが第9節の幅がせまく,通常第7-9節にしか側
棘がない。幼虫は中流域の川床が砂地や泥質のところに生
息する。羽化は5月中旬頃から一斉に始まり下旬頃までに
は終わる。成虫はいったん水域から離れ成熟すると再び羽
化水域に戻る。成虫は8月上旬まで見られる。記録の多い
天神川水系の中流域では,ホンサナエGomphus postocuaris
よりも上流域で見られることが多い。
■分布(県内):天神川水系の中流域と大山周辺。千代川水
系では近年記録がない。日野川水系も未記録。
■分布(県外):新潟県以南の本州,四国,九州,種子島
(日本固有種)
。
■生息環境: 天神川水系では中流域の川に堰があり砂や泥
がたまったようなところに幼虫が生息。
■保護上の留意点:中流域の川の堰にできた砂地の環境の
維持が重要。千代川および日野川水系では分布調査が必
要。
■文献:
國本洸紀・徳井昌康(1992)鳥取県中部のトンボ. ゆらぎあ, 10:
1-9.
三島寿雄(1980)鳥取県のトンボ. すかしば, 14: 21-33
祖田 周(1993)鳥取県西部のトンボ.すかしば, 39/40: 37-44.
執筆者:祖田 周
タベサナエ トンボ目サナエトンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Trigomphus citimus tabei Asahina, 1949
環境省:−
タベサナエ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
●
◎
島根県松江市東生馬町 1995.4.24 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:県内では生息地が限られ,個体数も少なく,
近年記録がほとんどない。
■形態と生態:前胸正面に太いL字状の黄色い模様が目立
つやや小型のサナエトンボである。低地の緩やかな流れや
ため池にすみ,成虫は4月下旬までには羽化を終え,5月中
旬頃から産卵する。
■分布(県内):国府町,倉吉市,溝口町のため池。
■分布(県外):静岡,福井県より西の本州,四国,九州
(日本固有亜種);朝鮮半島と中国東北部に別亜種タイリク
タベサナエT. c. citimus (Needham, 1931)が生息。
■生息環境:水草の多いため池や緩やかな浅い流れ。
■保護上の留意点:生息するため池では,水抜きをしない,
植物性沈殿物を除かないなど,管理に一定の配慮が必要。
■文献:
秋山美文(1980)鳥取県産トンボについて. 昆虫と自然, 15(3):
12
國本洸紀(1992)鳥取県中部のトンボ. ゆらぎあ, 10:1-9.
松原 至・三島寿雄(1982)7月を中心としたトンボの記録(1981).
すかしば, 16:5-9.
執筆者:國本洸紀
レッドデータブックとっとり (動物) 105
コサナエ トンボ目サナエトンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Trigomphus melampus (Selys, 1869)
環境省:−
コサナエ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
◎● ●
○
●
●
○
●●●
○
●
●
●
●
島根県出雲市稗原町 1995.5.6 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:西部では比較的標高の高い山間部の池にのみ
生息地が限定され,個体数も少ない。東部では平地から山
間部にかけての池に見られ,個体数もやや多い。しかし平
地の池は改修・埋め立てなどの開発の影響を受けやすく,
個体数はやや減少傾向にある。
■形態と生態:体長40mm内外。側胸の第1側縫腺の黒条
は上部が消失して第2側縫腺の黒条のみが上に達するヒト
スジ型である。日本産同属の中で最も小さい。成虫は4月
下旬から7月にかけて見られる。
■分布(県内):西部では西伯郡西伯町・会見町・岸本町,
日野郡日南町。東部では鳥取市,岩美郡,八頭郡に広く分
布するが,生息地は小さな池に限られる。
■分布(県外):北海道,本州,佐渡島,隠岐島(日本固有
種)。
■生息環境:平地から山間部にかけての挺水植物などが繁
茂する池。西部では比較的標高の高い山間に限定される。
■保護上の留意点:比較的小さな池に生息していることが
多く,池および周辺の雑木林などの埋め立て・開発などの
工事が減少化の大きな要因である。とくに平地から低山地
の池は埋め立て・開発などの影響を受けやすいため,池お
よび周辺の雑木林などの一体的な保全が必要である。
■文献:
英 裕人・英 浩之 (1998) 鳥取県東部のトンボの記録(2). Futao,
30: 5-13.
日暮卓志・祖田 周 (1995) 鳥取県のトンボ相 [ I ]. すかしば,
41/42: 39-52.
祖田 周 (1993) 鳥取県西部のトンボ. すかしば, 39/40: 37-44.
執筆者:英 裕人
アオサナエ トンボ目サナエトンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Nihonogomphus viridis Oguma, 1926
環境省:−
アオサナエ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●
●○
◎
● ●
●
●●
●
● ●◎
●
雌 島根県能義郡広瀬町下田原 1990.7.22 / 大浜祥治
■選定理由:県内での生息地が限定され,個体数が少ない。
水質変化などに伴い,個体数が激減する可能性がある。
■形態と生態:腹長40 mm前後で,成熟した雄は鮮やかな
緑色の体。幼虫は丘陵地や低山地の砂礫底の川に生息す
る。成熟した雄は川岸の石などに止まり,なわばりを張
る。成虫は鳥取県では6-7月にかけて見られる。
■分布(県内):県内全域(主に河川中流域)
。
■分布(県外):秋田,岩手両県以南の本州,四国および九
州(日本固有種)。
■生息環境:川底が砂礫底である丘陵地や低山地の水のき
れいな河川に生息する。
■保護上の留意点:水質や河川そのものの環境,成虫の餌
場としての河川周辺の自然環境を良好に保つことが重要。
■文献: 英 裕人・英 浩之(1996)鳥取県東部のトンボ記録. Futao, 22:
1-12.
日暮卓志・祖田 周(1995)鳥取県のトンボ相 [ I ]. すかしば,
41/42: 39-52. 祖田 周(1993)鳥取県西部のトンボ. すかしば, 39/40: 37-44.
執筆者:日暮卓志
106 昆虫類
キイロヤマトンボ トンボ目エゾトンボ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類 類(VU)
Macromia daimoji Okumura, 1949
環境省:絶滅危惧 I I 類 類(VU)
キイロヤマトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
◎
2001.6.2
■選定理由:生息地がきわめて限定され,河川改修等によ
る環境の改変により絶滅する可能性がある。
■形態と生態:体長75mm,後翅長45mm内外。第2腹節およ
び第3節の黄斑は側面で上下に切れ,第7節背面の黄斑は大
きくやじり状。幼虫はクモのような形。成虫は5月下旬頃
から羽化し始め8月上旬まで見られる。羽化後の未熟な個
体は河川の近くにある林縁部で採食飛翔する。成熟した雄
は再び川に戻り水面近くをすばやく飛翔する。雌は単独で
河川の中央部で間歇打水産卵することが多い。全国的に分
布が局所的で河川中流域の川床が砂地のところを好むが,
県内でそのような環境がみられるのは法勝寺川のみである
ように思われる。河川改修により川床の砂地がなくなると
すめなくなるおそれがある。
■分布(県内):法勝寺川水系の中流域から下流域。
■分布(県外):福島県以南の本州,九州;朝鮮半島南部。
■生息環境:中流域の川床が砂地のところ。
■保護上の留意点:幼虫は川床が砂地の河川を好むが,少
しでも砂地があると生息できるので,そのようなところを
残すことが重要。
■文献:
日暮卓志・祖田 周(1995)鳥取県のトンボ相. すかしば, 41/42:
39-52.
松原 至・三島寿雄(1982)7月を中心としたトンボの記録. す
かしば, 16: 5-9.
祖田 周(1993)鳥取県西部のトンボ. すかしば, 39/40: 37-44.
執筆者:祖田 周
エゾトンボ トンボ目エゾトンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Somatochlora viridiaenea (Uhler, 1858)
環境省:−
エゾトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
●
●
●
●
○
雌羽化 島根県隠岐郡西郷町池田 1999.6 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:県内での生息地がきわめて少ない。近年,湿
地化した休耕田などで生息地が一時的に増加しているもの
の,今後,そのような生息地では植生遷移により生息でき
なくなる可能性が高い。
■形態と生態:腹長50mm程度。成虫は頭部および翅胸に
緑色の金属光沢をもつ。幼虫・成虫ともに湿地に生息する。
成虫は鳥取県では7-9月に見られ,湿地の上や湿地内の水
が溜まった所で縄張りを張る。
■分布(県内):県東部から西部まで見られるが,国府町菅
野湿原などの湿地と一部の湿地化した休耕田に限られる。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;サハリン。
■生息環境:幼虫・成虫ともに湿地。
■保護上の留意点:湿地は遷移により乾燥地化しやすいの
で,人為的に手を加えて湿地環境を積極的に維持する必要
がある。また,鳥取県は湿地環境が少ないため,生息地が
局限され個体群が孤立する傾向にあるので,生息地周辺の
湿地や湿地化した休耕田を積極的に確保し,湿地として維
持することが有効である。
■文献:
日暮卓志(1993)因幡のトンボ. すかしば, 39/40: 9-17. 國本洸紀(1994)鳥取県中部トンボ目録 II. ゆらぎあ, 12: 1-5.
三島寿雄(1980)鳥取県のトンボ. すかしば, 16: 5-9. 執筆者:日暮卓志
レッドデータブックとっとり (動物) 107
ハネビロエゾトンボ トンボ目 エゾトンボ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Somatochlora clavata Oguma, 1913
環境省:−
ハネビロエゾトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
●
●
■選定理由:県内の生息地が局限され,個体数も非常に少
ない。
■形態と生態:体長は55mmほどで,同属のエゾトンボに酷
似する。概して低山地の湿地やほとんど停滞している溝川
のような細い流れの,少し開けた場所を好む。成虫の発生
は大山山麓では6月末で,9月初旬まで見られる。活動条件
としては,溝など水が流れていなくても,わずかな湿りが
あればよく,水分がなくなると他の場所に移動する。雄は
1,2mの高さの空間を,5mほどの距離,往復してなわばり
をもつ。止まり方は羽を開いた斜め懸垂型。交尾は静止型
で,交尾後雌は尾端を水面や底の泥に打ちつけるように産
卵する。
○
■分布(県内):成虫は,米子市岡成,泉,新良路,西伯郡
淀江町西原を含む地域。岸本町清原,溝口町末鎌,福永な
ど,大山西側,北側の山麓部。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州(東北地方以北
や山陰,九州では局地的)
。日本固有種。
■生息環境 :成虫は林に緩やかな流れのある空き地。
■保護上の留意点:近年,大山山麓部の開発が進んでいる
が,上記のような地域の湿地環境の維持に注意が必要。
■文献:
山陰むしの会(編)(1993)山陰のトンボ. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
ハッチョウトンボ トンボ目トンボ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Nannophya pygmaea (Rambur, 1942)
環境省:−
ハッチョウトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
●
○
●
◎
○
◎
◎
◎
○
◎
◎
雌 岩美町唐川湿原 1993.6.16 / 撮影:鶴崎展巨
■選定理由:県内には本種の生息に適する湿地が少なく,
産地はきわめて局地的。これらの環境は草原化しやすく,
絶滅した産地もある。どの産地でも生息個体数は少ない。
■形態と生態:体長約18mm。日本産不均翅亜目の中で最
小のトンボ。体は成熟雄では複眼から腹部まで赤化する。
雌は黄色,褐色,黒色のまだら模様。成虫は5月中頃から9
月にかけて見られる。
■分布(県内):岩美郡,東伯郡三朝町,西伯郡西伯町,日
野郡などで記録されているが,確実な生息地としては現
在,岩美町唐川湿原が残るのみ。
■分布(県外):本州,四国,九州;朝鮮半島,中国からイ
ンドシナ半島∼ネパール,台湾,フィリピン,スンダ列島,
ニューギニア,オーストラリア。
■生息環境:モウセンゴケなど背丈の低い湿性植物が生育
する日当りのよい湿地。湿地的環境となった休耕田,廃田
などにも一時的に生息することがある。
■保護上の留意点:本種の生息に適する日当りのよいモウ
センゴケなど背丈の低い湿性植物が生育する湿地は,県内
ではきわめて局地的である。これらの環境は草原化しやす
いため,人為的に湿地の保全をはかる必要がある。
■文献:
英 裕人・英 浩之 (1998) 鳥取県東部のトンボの記録(2). Futao,
30: 5-13.
三島寿雄 (1993) ハッチョウトンボ. pp. 118-119. In: 鳥取県のす
ぐれた自然 (動物).
祖田 周 (1993) 鳥取県西部のトンボ. すかしば, 39/40: 37-44.
執筆者:英 裕人
108 昆虫類
マイコアカネ トンボ目トンボ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類 (CR+EN)
Sympetrum kunckeri (Selys, 1884)
環境省:−
マイコアカネ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
○
○
雄 島根県松江市大垣町円木地 1997.10.13 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:県内では1968年の記録以降,どこからも採集
されていない。現況は不明だが県西部におけるここ数年の
調査では,全く見ることができなかった。
■形態と生態:体長34mm内外,平地の池や沼に産し,汽
水域を好むようである。成虫は同属のヒメアカネやマユタ
テアカネに酷似するが,両種に比し分布ははるかに局地
的。7月に羽化し,11月まで活動する。止まり方は水平,ま
たは斜め懸垂型。体色は橙色だが,秋には雄は腹部が赤く
なり,顔面が乳白色に変る。そのため,マイコ(舞子)の和
名がついた。雌の腹部の色はあまり変化しない。交尾形式
は静止型。産卵は打泥または打水式。
■分布(県内):岩美町鳥越,青谷町露谷。米子市(岡成,
和田町,彦名町)で採集記録がある。大山町大山寺の記録
もあるが同定にやや疑問が残る。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;朝鮮半島,中
国東北部。
■生息環境:平地や丘陵地の挺水植物が生い茂る池や沼。
■保護上の留意点:生息地の再発見が先決である。
■文献:
山陰むしの会(編)(1993)山陰のトンボ. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
米子市史編纂協議会(編)新修米子市史. Vol. 6.自然編
執筆者:三島寿雄
ヒメアカネ トンボ目トンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Sympetrum parvulum (Bartenef, 1912)
環境省:−
ヒメアカネ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎
●
◎
●
●
◎
●
◎
◎
◎
◎
雌 岩美町唐川湿原 2001.8.15
■選定理由:本種の生息に適する湿地が県内には少なく,
生息地は局地的。また,いずれの産地も個体数が少ない。
■形態と生態:体長33mm内外。日本産アカネ属の中で最
小。雄は成熟すると顔面が白くなり,体が赤化する。雌は
橙褐色。成虫は7月から11月にかけて出現するが,羽化場
所からあまり遠く離れず,湿地や湿地周辺の雑木林の下草
などで見られる。
■分布(県内):鳥取市,岩美郡,八頭郡,気高郡青谷町,
東伯郡三朝町,米子市,西伯郡西伯町など。産地はきわめ
て局地的。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州,淡路島,隠岐
島,対馬,天草諸島;朝鮮半島,中国東北部からロシアの
ウスリー地方。
■生息環境:ハッチョウトンボが好むようなモウセンゴケ
など背丈の低い湿性植物が生育する湿地。湿地的環境と
なった休耕田,廃田などにも一時的に生息することがあ
る。
■保護上の留意点:本種の生息に適する背丈の低い湿性植
物が生育する日当りのよい湿地は,県内ではきわめて局地
的である。これらの環境は草原化しやすいため,人為的に
それを防止し,湿地の保全をはかることが重要。
■文献:
英 裕人・英 浩之 (1996) 鳥取県東部のトンボの記録. Futao,
22: 1-12.
國本洸紀 (1994) 鳥取県中部地区のトンボ目録II. ゆらぎあ, 12:
1-5.
執筆者:英 裕人
レッドデータブックとっとり (動物) 109
コノシメトンボ トンボ目トンボ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Sympetrum baccha matutinum Ris, 1911
環境省:−
コノシメトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎
●
●
●
● ●
◎
◎
◎
○
雄 島根県益田市遠田町 2000.9.27 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:県内での生息地が限定される。生息地の池や
水田が護岸工事,耕地整理などで環境が悪化している。
■形態と生態:腹長25-30mm。翅端に黒褐色斑があり,翅
胸に後方に流れる黒条があるアカトンボ。成熟雄は体色が
鮮やかな赤色を呈す。幼虫は低山地の池や水田に生息し,
成虫はそれらの周囲で観察される。
■分布(県内):全域の低山地。比較的近年の記録は鹿野町
と三朝町のみ。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;朝鮮半島,中
国東北部。
■生息環境:低山地の池や水田。
■保護上の留意点:低山地の池や水田および周辺の広範囲
な地域の環境を保全管理していくことが必要。
■文献:
日暮卓志(1993)因幡のトンボ. すかしば, 39/40: 9-17. 衣笠弘直(1973)鳥取県東部のトンボ. 謄写自刊. 三島寿雄(1980)鳥取県のトンボ. すかしば, 16: 5-9. 執筆者:日暮卓志
ナニワトンボ トンボ目トンボ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Sympetrum gracile Oguma, 1915
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
ナニワトンボ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
雄 / 撮影:祖田 周
■選定理由:現在のところ,山陰地方では鳥取市内1カ所に
生息地が知られるのみ。ここ数年,当該生息地で生息数が
激減しており,現在,鳥取県で最も保護が望まれるトンボ。
■形態と生態:腹長23 mm前後で,アカトンボの一種。ア
カトンボとしては小柄で,成熟しても赤くならないのが特
徴。成熟雄は全身に青白い粉を帯びる。幼虫・成虫ともに
丘陵地の挺水植物の繁茂する池に生息する。雄雌連結した
状態で,水際の湿った土に産卵する。成熟した成虫は鳥取
県では9-10月にかけて観察される。
■分布(県内):鳥取市。
■分布(県外):本州および四国(日本固有種)
。
■生息環境:周囲を松林などで囲まれた丘陵地の挺水植物
の繁茂する池。
■保護上の留意点:原因は定かではないが,全国的に個体
数が減少傾向にあり,全国的規模で絶滅が危惧され,鳥取
県においても個体数が激減している。生息している池はも
とより成虫の餌場となる周囲の松林などを含めた広範囲な
自然環境を良好に維持することが重要であろう。
■文献:
英 裕人・英 浩之(1996)鳥取県東部のトンボ記録. Futao, 22:
1-12.
日暮卓志(1993)因幡のトンボ. すかしば, 39/40: 9-17. 日暮卓志・祖田 周(1995)鳥取県のトンボ相 [ I ]. すかしば,
41/42: 39-52. 執筆者:日暮卓志
110 昆虫類
ミヤマノギカワゲラ カワゲラ目ヒロムネカワゲラ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Yoraperla uenoi (Kohno, 1946)
環境省:−
ミヤマノギカワゲラ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
■選定理由:県東部の限られた山地渓流または小河川に生
息地が限定され,個体数も少ない。砂防工事等により,生
息地の自然状態が改変されれば,壊滅的な影響を受けう
る。鳥取県が日本における分布西限地。
■形態と生態:幼虫の体長8mm前後,黒褐色で斑紋もなく
ゴキブリ様。好冷水性の種であるため,国内での分布の中
心は東日本である。現在のところ本県が分布の西限と考え
られる。
■分布(県内):県東部,沖ノ山を中心とした標高800m以上
の山地渓流数地点。
■分布(県外):近畿以北の各県(日本固有種)
。
■生息環境:標高800m以上の山地渓流。
■保護上の留意点:分布地の微生息環境は花崗岩質の落ち
込み型細流であり,砂防工事には十分な配慮を要する。分
布地の綿密な調査が必要。
■文献:
Kawai T. (1967) Plecoptera (Insecta). Fauna Japonica. Biogeogr. Soc.
Japan,Tokyo.
Uchida, S. & Isobe, Y. (1988) Cryptoperla and Yoraperla from Japan
and Taiwan (Plecoptera: Peltoperlidae). Aquatic Insect, 10: 17-31.
執筆者:稲田和久
ハマスズ バッタ目(直翅目)コオロギ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Pteronemobius csikii (Bolivar, 1901)
環境省:−
ハマスズ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●● ●
●●
●
●
●● ● ●●
●
鳥取市鳥取砂丘 1990.9.23 / 撮影:鶴崎展巨
■選定理由:生息適地の海浜が減少しつつある。
■形態と生態:体長8mm前後。全身灰白色の地に褐色班が
点在し,砂地の色彩に酷似する。いわゆる隠蔽色の例とし
て著名である。海浜植物の根際の落葉中にひそみ,主に夜
間に活動するが,昼間にもよく見られる。地表のみで活動
し,広く植物質の餌をとる。2化性とされるが,県内の詳し
い発生期は未調査。9-10月に個体数が多い。海岸の開発
や環境変化のため全国的に分布域は減少している。日本海
側の産地は局地的ともいわれるが,実態は不明。県内の海
岸には広く分布し,どの生息地でも個体数は少なくない。
中山町・名和町などの分布空白は,この地域の海岸が大山
火山の堆積物流出による礫浜や段丘地形で占められている
からである。河川の河原での生息状況は不祥。
■分布(県内):岩美町から米子市までの海浜。
■分布(県外):北海道南部,本州,四国,九州,奄美(海
岸)
;東アジア内陸,インドなど。
■生息環境:コウボウムギやハマゴウなど海浜植物群落を
ともなう海岸の砂地。
■保護上の留意点:海浜植物の生育する砂浜海岸の保全が
必要。防波施設や砂防造林は植生の変化(砂地の消失)を
進めるので最小限にとどめてほしい。
■ 文献:
小林一彦(1983)ハマスズの小観察,教材生物ニュース, 93: 7789.
小林一彦(1993)ハマズス.pp. 122-123. In: 鳥取県のすぐれ
た自然 (動物).
執筆者:小林一彦
レッドデータブックとっとり (動物) 111
ダイセンササキリモドキ バッタ目(直翅目)キリギリス科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Tettigoniopsis daisenensis Yamasaki, 1985
環境省:−
ダイセンササキリモドキ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●●●
雄 大山一ノ沢 2001.8.16
■選定理由:生息地が大山の狭い地域に限定される(桝水
原が模式産地)。
■形態と生態:別名フタコブササキリモドキ。体長11.5cmの短翅のササキリモドキ。雄の肛上板が大きく,先
端が2葉に分かれるのが特徴。年1化で,成体は7月下旬∼
8月下旬によく見られる。
■分布(県内):大山(桝水原・鏡ヶ成・横手道・三の沢・
大山寺)(大山固有種)。
■分布(県外):なし。
■生息環境:ブナ帯の林床の灌木やササ。
■保護上の留意点:大山の森林,おもにブナ帯域の森林の
保全が重要である。
■文献:
加納康嗣・冨永 修・田畑郁夫・別府隆守・石川 均・村井貴
史・三時輝久・河北 均・豊嶋 弘・高橋耕司(1999)日本
の短翅ササキリモドキ類(直翅目,キリギリス科,ヒメツユ
ムシ亜科).Tettigonia, 1(2): 1-81. Yamasaki, T. (1985) The Meoconematinae (Orthoptera, Tettigoniidae) of the San-in District of western Honshu, Japan, with
descriptions of two new species. Mem. Natn. Sci. Mus., Tokyo, 18:
145-152.
執筆者:川上 靖
ショウリョウバッタモドキ バッタ目(直翅目)バッタ科
鳥取県:情報不足(DD)
Gonista bicolor (de Haan, 1842)
環境省:−
ショウリョウバッタモドキ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
○
●
●
撮影:村井貴史
■選定理由:生息地であるイネ科草原が減少傾向にあり,
県内で現在知られる本種の生息地は少ない。
■形態と生態:体長3-6cmのショウリョウバッタによく似
た細長い体型のバッタ。次のような形態の特徴からショウ
リョウバッタと区別できる:1)背面が直線状;2)後脚が
短い;3)前脚のつけ根の間に前胸腹突起がある。年1化で,
成体は8-11月に見られる。イネ科草原に多くみられるが,
近年このような生息環境が少なくなってきており,全国的
に生息への圧迫が強まっている。また,道路の法面にも生
息しているという報告があるが,安定した生息環境とはい
えない。県内における過去の採集データは,ショウリョウ
バッタAcrida cinereaを同定間違いしているものが多く,過
去の生息状況がつかめないが,現在,県内で本種はわずか
しか見られない。
■分布(県内):既知産地は鳥取市奥細見,岩美町鳥越,大
栄町由良宿。
■分布(県外):関東以西の本州・四国・九州・南西諸島;
中国,東南アジア。
■生息環境:おもにイネ科草原。
■保護上の留意点:県内の詳細な生息実態調査が急がれる。
イネ科草原の保全が必要。
■ 文献:
直翅類研究グループ,日浦 勇ら(1983)日本の直翅類,大阪
市立自然史博物館収蔵資料目録第15集. 大阪市立自然史博物
館(大阪).101pp.
執筆者:川上 靖
112 昆虫類
カワラバッタ バッタ目(直翅目)バッタ科
鳥取県:絶滅(EX)
Eusphingonotus japonicus (Saussure, 1888)
環境省:−
カワラバッタ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
雄 / 撮影:村井貴史
る。1948年7月15日,日野郡溝口町大山山麓の1雄(大阪市
自然史博物館収蔵)以後,確実な標本がない。その後の小
林一彦氏や川上による各地の河川河原の探索でも全く見つ
からないので,県内では絶滅したものと考えられる。な
お,従来の多くの文献で鳥取砂丘などの海岸の砂地などに
すむ「カワラバッタ」として記述されているものは,すべ
てヤマトマダラバッタ Aiolopus japonicus の間違いである。
■分布(県内):かつて千代川,日野川などの河川の大きな
河原にいたとみられるが現在は絶滅。
■分布(県外):北海道・本州・四国・九州(日本固有種)
。
■生息環境:河川のこぶし大の石ころが目立つ大きな河原。
雌 / 撮影:村井貴史
■選定理由:県内では50年以上採集記録がなく,絶滅とみ
られる。
■形態と生態:体長2.5-4cm程度の灰色のバッタ。河原の
石ころと紛らわしい。後翅の内側は鮮やかな青色。よく飛
び,必ず石ころの上に着地する。年1化で,成体は8-9月に
見られる。河川の石ころの目立つ河原に生息地が限られ
■文献:
宮武頼夫(1994)カワラバッタの分布.Nature Study, 40(8): 79.
宮武頼夫(1996)青木浩昆虫コレクション目録,大阪市立自然
史博物館収蔵資料目録第28集. 大阪市立自然史博物館(大
阪)
.132 pp.
執筆者:川上 靖
レッドデータブックとっとり (動物) 113
ヤマトマダラバッタ バッタ目(直翅目)バッタ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Aiolopus japonicus (Shiraki, 1910)
環境省:−
ヤマトマダラバッタ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●
●●
●● ●●● ●●●
●●
●●●
気高町浜村 1996.9
■選定理由:生息適地(海岸の砂地)が減少傾向。
■形態と生態:体長30-35mm。雌は雄より一見して区別で
きるほど大型。灰白色の地色に点在する暗褐色斑が複雑な
模様をつくり,砂地の色彩に似ている。砂地で混棲するこ
ともあるマダラバッタA. tamulusよりも太くずんぐりして
いる。前胸背が緑化した個体が県内でもときおり見られる
が,その出現は局地的。翅は長く後翅の基部は青色をおび
る。海浜に生息し,短いイネ科草本を食べる。地表で生活
し,植物体上に上がることはまれ。日中活発に活動し,
もっぱら飛翔で移動する。交尾も日中。県内全域の海浜に
分布する。開放的な環境で活発に飛翔するため確認しやす
い。大山火山の流出物による礫原など非砂地性海岸となっ
ている中山町・名和町付近にはみられない。
■分布(県内):岩美町から米子市までの海浜。
■分布(県外):本州,四国,九州の海岸(日本固有種)
。分
布域は次第に減少している。
■生息環境:コウボウムギ,オニシバ,メヒシバ,ケカモ
ノハシなど単子葉の海浜植物群落が散在する海岸の砂地
(ハマゴウ群落などにはあまり見られない)
。
■保護上の留意点:海浜植物が生育する自然度の高い砂地
海岸の保存が重要。砂地海岸は分断されることなく,少な
くとも数100m以上連続していることが望ましい。現在の
ところ県内では比較的良好な状態が保たれているが,防風
林や防潮波柵の設置は最小限にとどめるべきである。
執筆者:小林一彦
セグロイナゴ バッタ目(直翅目)バッタ科
鳥取県:情報不足(DD)
Euprepocnemis shirakii Bolivar, 1914
環境省:−
セグロイナゴ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
● ●
鳥取市中ノ茶屋 1997.9.4 小林一彦採集標本 / 撮影:鶴崎展巨
■選定理由:全国的に分布が局地的で減少傾向にある。
■形態と生態:体長30-50mm程度,雌は雄に較べ10mm程度
大きい。全身褐色で前翅に不明瞭な小黒斑がある。前胸背
の形と色彩に特徴があり,前胸背上面は平らで,黒く,そ
の両側は黄白色の細い線で縁取られる。この特徴は少しは
なれたところからもよくとらえられ,和名の由来となって
いる。チガヤ,ススキなどイネ科植物の上に生活し,これ
らの植物の葉を食する。動作は比較的緩慢で,跳躍によっ
て移動し,飛ぶことはまれである。成虫は8月頃より現れ
て晩秋にいたる。国内ではいずれの地域でも分布は局地的
であるとされる。低湿地に多いといわれるが,県内では現
在のところ鳥取市の沿海部平野部の乾性地に若干の記録が
あるのみで,生息環境の知見は乏しい。かつての採草地な
ど山地に広く発達していたススキ草原には今のところ見い
だされていない。調査は不十分である。
■分布(県内):鳥取市の沿海平野部。
■分布(県外):本州,四国,九州,南西諸島;アジア大陸
東北部,カシミールなど。
■生息環境:チガヤ,ススキなどイネ科草本を主体とした
深い草原。
■保護上の留意点:県内での分布や生息地の環境が十分に
は把握されていないので,その調査にまず努めるべきであ
る。一般的には生息適地となる草原は河川堤防など人為を
受けやすい場所にあるので,生息が確認された草原では刈
り払い等の施業は部分的に行うなどの配慮が望ましい。県
内の気候条件下では,草原の維持には適当な人為的管理が
必要である。
執筆者:小林一彦
114 昆虫類
セトウチフキバッタ バッタ目(直翅目)イナゴ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Parapodisma setouchiensis Inoue, 1979
環境省:−
セトウチフキバッタ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●
●
●
●
●
●● ●
●
◎
●
◎
●
●
●
●
●
●
●
雌 気高郡鹿野町 1994.7.15
■選定理由:県内に本種の地理的品種である基本型と氷ノ
山型の移行帯が存在する。この移行帯の幅は狭く,大規模
な開発があると失われるおそれがある。
■形態と生態:体長2.5-3.5cmのきれいな黄緑色をした中型
のバッタ。翅が退化しており(腹部第2-3節に達する程
度),飛翔できないのが特徴。外部形態の地理的変異が著
しく,4つの地理的品種(基本型,大和型,丹波型,氷ノ山
型)に分けられている。このうち,鳥取県には中・西部に
基本型,東部に氷ノ山型の2つの型が生息するが,両型は幅
約5-10kmの範囲で中間型を介して漸次的に移り変わり,
みごとな移行帯(交雑帯)を形成している。種分化研究の
好フィールドとして学術的に貴重である。年1化卵越冬で,
成体は7-9月に見られる。
■分布(県内):県内全域。
■ 分 布(県 外):本 州 全 域,四 国,九 州,屋 久 島;済 州 島
(韓国)
。
■生息環境:おもに低山地∼山地帯の林縁の灌木や下草。
■保護上の留意点:現状では生息にとくに心配はない。し
かし,移行帯のみられる鹿野町の鷲峰山付近や三朝町人形
峠付近(分布図の斜線部)では,大規模の森林伐採をとも
なうような開発は控えていただきたい。
■文献:
川上 靖(1997)鷲峰山(鳥取県鹿野町)付近で変異する動物
たち,およびそれらの保全のための提言.鳥取生物, 30: 1-8.
Kawakami, Y. (1999) Geographic variation of the brachypterous
grasshopper Parapodisma setouchiensis group in western Honshu,
with its taxonomic revision. Species Diversity, 4: 43-61.
執筆者:川上 靖
トゲヒシバッタ バッタ目(直翅目)ヒシバッタ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Criotettix japonicus (de Haan, 1842)
環境省:−
トゲヒジバッタ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
撮影:村井貴史
■選定理由:湿地に限って生息する種で,湿地等の減少に
伴い個体数が全国的に減少傾向。県内でも湿地の減少や河
川改修等により生息への圧迫が強まっている。
■形態と生態:体長1.5-2cmのヒシバッタ。前胸背側片の
刺状突起(側刺)が発達しているのが特徴。湿地に生息し,
よく泳ぐ。県内の湿地等に局所的に分布していると思われ
るが生息実態調査は不十分であり,県内での生態は不明。
近畿地方では年1化,成虫越冬。
■分布(県内):既知産地は千代川の川岸,法勝寺川の川岸
(西伯郡西伯町)。
■分布(県外):北海道・本州・四国・九州・対馬・南西諸
島(日本固有種)
■生息環境:湿地や湿った休耕田。
■保護上の留意点:まずは県内における生息実態調査およ
び生態調査が急がれる。湿地の保全が必要。
■文献: 建設省(1998)河川水辺の国勢調査,日野川水系(日野川・法
勝寺川)陸上昆虫類等調査業務報告書.
建設省(1999)河川水辺の国勢調査,千代川陸上昆虫類等調査
業務報告書.
執筆者:川上 靖
レッドデータブックとっとり (動物) 115
アカスジオオカスミカメ 半翅目(カメムシ目)カスミカメムシ科
鳥取県:情報不足(DD)
Gigantomiris jupiter Miyamoto & Yasunaga, 1988
環境省:−
アカスジオオカスミカメ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
雌 島根県三瓶山産
■選定理由:県内の生息地が限定されるが調査不十分。
■形態と生態:体長13-15mmで,この科のカメムシの中で
は世界最大種。体色は黒褐色から黄色縞,赤色縞まで変異
に富む。寄主植物はオニグルミ,ヤナギ類,ミズメ,ミズ
ナラ,スイカズラなど。本種は中国山地の稜線沿いに広く
生息すると考えられるが,県内では今のところ大山と扇ノ
山で確認されているのみ。成虫は6-7月に出現。
■分布(県内):大山と扇ノ山。
■分布(県外):本州,四国,九州;朝鮮半島,ロシア沿海
州。長野以西の本州では中国山地が主要生息地で,県外で
は島根県三瓶山,広島県芸北町掛頭山,岡山県新庄村から
記録がある。
■生息環境:山地の落葉広葉樹林の林縁部。登山道添いな
どの比較的日当たりのよい場所を好む。
■保護上の留意点:ブナ帯下部の落葉広葉樹林の多様性の
維持が重要。林縁部の明るい環境を保つには適度の人為的
管理が必要であるが,周辺の土地の改変は好ましくない。
■文献:
近藤光宏(1997)アカスジオオメクラガメの記録. すずむし, 132:
33.
Miyamoto, S. & Yasunaga, T. (1988) A new genus and species of the
Miridae from Japan (Hemiptera, Heteroptera). Esakia, 26: 133138.
尾原和夫 (1997) pp. 260-261.In:「しまねレッドデータブック」
(動
物編), 島根県. 417 pp.
執筆者:尾原和夫
116 昆虫類
コオイムシ 半翅目(カメムシ目)コオイムシ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Appasus japonicus (Vuillefroy, 1864)
環境省:準絶滅危惧(NT)
コオイムシ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
雌(左)雄(右) 2001.7.27
■選定理由:県内では青谷町での1952年を最後に生息情報
が途絶えていた。最近再確認されたが生息地は少なく,要
注意である。
■形態と生態:成虫の体長は17-20mm,中型の水生カメム
シ。やや富栄養化傾向の止水域に生息する。この仲間には
雄が卵塊を保護する習性が発達しており,本属では雄が卵
塊を背負うのでこの名がある。産卵期は4-8月。ふ化した
幼虫はモノアラガイなどの淡水巻貝類や小型の水生動物を
捕食する。成虫のメニューも同様である。成虫の越冬場所
は水辺の枯れ草の下や根際。戦後の土地利用の改変や農薬
の大量使用で全国的に減少している。
■分布(県内):米子市米子水鳥公園。調査が進めば平野部
を中心に生息地が発見されると考えられる。
■分布(県外):本州・四国・九州;朝鮮,中国。隣の島根
県でも近年の記録は少ない。
■生息環境:平地の日当たりのよい浅いため池,休耕田や
その周辺。水底が泥で三面コンクリートでない,各種排水
が流入しない,中・大型の魚類が生息しない水域。
■保護上の留意点:県内での分布状況の把握が不十分で,
緊急に調査を要する。生息地は干拓地や休耕田など不安定
な水域が含まれ,場合によっては人為的な環境管理も必要
となる。
■特記事項:よく似たオオコオイムシA. majorは体長2225mmと一回り大きく,体は濃褐色。しかし,幼虫では区
別が難しく注意を要する。オオコオイムシも同様の生活様
式であるが,本種と共存することはまれで,おもに丘陵地
の浅い水域で生息する。
■文献:
星川和夫(2001)米子市彦名処理地における水生節足動物およ
び陸上昆虫類調査報告書.
尾原和夫(1997)島根県の両生・水生カメムシ類. すかしば, 45:
13-16.
執筆者:尾原和夫
タガメ 半翅目(カメムシ目)コオイムシ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Lethocerus deyrolli (Vuillefroy, 1864)
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
タガメ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●
◎
◎
●
●
○
●
●
●
○● ● ●
●● ●
●
●◎
●● ●
●●
●
●
●
●●
●
● ●
●
●
雄(上)雌(下) 1997.5.18
■選定理由:やや富栄養化傾向の止水域に生息するが,戦
後の土地利用の改変と農薬の大量使用で個体数が激減。
■形態と生態:体長50-65mm程度で,カメムシ類中最大。
幼虫,成虫ともに,ため池や,水田とその周りの水路など
の広くて深い水域にすむ。6月頃から産卵し,水上の杭な
どに産まれた卵塊を雄が保護する。ふ化した幼虫は水中で
生活し,新成虫は8-9月に羽化。幼虫や成虫は各種の水生
昆虫,メダカなどの小型の淡水魚,カエルやその幼生など
を捕え体液を吸う。成虫は夜間に移動・分散するとみられ,
灯火にもよく飛来する。主に水辺の枯れ草や土中で成虫で
越冬する。
■分布(県内):各地の平野部や山間部。西伯郡,東伯郡,
日野郡,気高郡などに記録が多い。
■分布(県外):北海道・本州・四国・九州・琉球;極東ロ
レッドデータブックとっとり (動物) 117
シア,朝鮮,中国,台湾,インド。
■生息環境:平地や山間部の水田・池沼・用水路などの,
水底が泥で,各種排水が流入せず,小魚やカエルはすむが
大型魚類(コイ,ブラックバスなど)はいない水域。
■保護上の留意点:本県は,全国的にも生息密度が高い地
域であると考えられる。しかし,生息地のため池や休耕田
などは,「経済的価値のない場所」として消失傾向にあり,
保全を要する。生息水域へ農薬や重金属などの汚染物質が
流入しないようにすること。水銀灯などの灯火は成虫を誘
引するので,注意が必要。
■文献:
衣笠弘直(1996)鳥取県国府町でタガメを採集. すかしば, 43/44:
72.
三島寿雄・野村幸弘(1993)タガメ. pp. 132-133. In: 鳥取県のす
ぐれた自然 (動物).
永幡嘉之(1993)鳥取市郊外におけるタガメの採集記録につい
て. 因幡のむし, 28: 8-9.
執筆者:尾原和夫
鳥取県:情報不足(DD)
ヒメミズカマキリ 半翅目(カメムシ目)タイコウチ科
Ranatra unicolor Scott, 1874
環境省:−
ヒメミズカマキリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●
◎
●
◎
雄
■選定理由:全国的に平野部のため池などの汚染・破壊に
よって,生息地が失われつつある。本県でも,いまのとこ
ろ県東部の数カ所で生息が確認されているのみで注意が必
要。
■形態と生態:体長は24-32mm程度。やや富栄養化傾向の
止水域に生息する細長い水生カメムシであり,体長の2/3
程度の呼吸管を持つ。産卵期は6月下旬から7月にわたる。
卵はヒシやジュンサイなどの浮葉植物の組織内に産みつけ
られる。幼虫は小型水生動物を捕食する。8月ころに成虫
が現れ,メダカなどの小型の淡水魚,カエルやその幼生
(オ
タマジャクシ)などを捕えてその体液を吸収する。水中で
は水草上で静止していることが多い。同属のミズカマキリ
R. chinensis は一回り大きく体長40-50mmであり,体長と同
じ長さの呼吸管を持つ。生息範囲は本種よりも広い。
■分布(県内):東部の平野部。現時点で次の記録がある:
鳥取市(湖山池)
,岩美町(恩志,河崎,牧谷)
,河原町
(三谷)
。
■分布(県外):北海道,本州・四国・九州,沖縄,国外で
は朝鮮,中国北部,東シベリア。
■生息環境:ヒシやジュンサイなどの浮葉植物が繁茂する
日当たりのよい浅いため池。各種排水が流入しないこと,
小魚やカエルは生息するが大型魚類が生息しないこと。
■保護上の留意点:県内の分布情報は乏しく,緊急に調査
を実施する必要がある。島根県東部では1990年代に10カ所
で生息が確認されている。本県西部でも平野部や山間部の
ため池で新たな生息地が見つかる可能性は十分にある。
■文献:
星川和夫・小倉久和(1998)松江市近郊の植生の異なるため池
における水生昆虫群集. ホシザキグリーン財団研究報告, 2:
235-253.
尾原和夫(1997)島根県の両生・水生カメムシ類. すかしば, 45:
13-16.
執筆者:尾原和夫
118 昆虫類
エゾゼミ 半翅目(カメムシ目)セミ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Tibicen japonicus (Kato, 1925)
環境省:−
エゾゼミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●●
●
◎
●
●
●
●
◎
大山大山寺 1987.8.4 / 撮影:足立義弘
■選定理由:県内の生息地が少なく,個体数も減少してい
る。
■形態と生態:翅端まで約60mmの大型で美しいセミ。黒
い体に赤褐色や黄褐色の斑紋があり,透明な翅も翅脈が黄
褐色や緑褐色にふちどられる。斑紋や色彩には個体変異が
大きい。成虫出現は7月下旬∼9月上旬。ギィーという連続
音で長く鳴くが,コエゾゼミに較べて強く,ギリリリィー
という具合にも聞こえるのが特徴。アカエゾゼミの鳴き声
(終奏に断続音のギリッギリッ ...が入らないのが特徴とさ
れる)とは酷似し,区別は難しい。晴天の日中によく鳴き,
他のセミ類と異なり,下向きにとまることが多い。県内で
は局地的にみられるのみで,生息地での個体数も減少傾
向。垂直分布は標高400m-800mで高地のコエゾゼミ(ブナ
帯自然林に生息し,県内では脊梁山地全域に広く分布)と
は生息高度が異なる。
■分布(県内):国府町(稲葉山高原,河合谷高原)
,岩美町
唐川,智頭町芦津渓谷,三朝町人形峠,大山の山麓一帯,
日南町花見山・道後山周辺など。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;朝鮮半島。
■生息環境:常緑広葉樹林帯の上限近くとブナ帯の下部の
間の落葉広葉樹林や針葉樹林。一般にはアカマツ林,コナ
ラ林などの二次的な林のうち大径木の多いよく成長した
林,ところによってはスギ,カラマツの造林地にも見られ
る。生息適地はどのような植生であるのかよくわからない
点が多い。
■保護上の留意点:アカエゾゼミ,コエゾゼミの記録と混
同されやすく,県内での生息地の調査が必要。生息地の保
護は二次的植生であるために難しく,各々の生息地につい
ての状況に応じた対策を考えなくてはならない。
■文献:
小林一彦(1993)コエゾゼミ・エゾゼミ. pp. 126-127. In:鳥取県
のすぐれた自然(動物).
執筆者:小林一彦
アカエゾゼミ 半翅目(カメムシ目)セミ科
鳥取県:情報不足(DD)
Tibicen flammatus (Distant, 1892)
環境省:−
アカエゾゼミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎
●
●
◎
●
山形県小国町温身平 1992.8.21 / 撮影:足立義弘
■選定理由:県内の生息地が少ない地域に限定され,個体
数も少ない。
■形態と生態:翅端まで60mm前後の大型の美しいセミで,
エゾゼミに酷似する,エゾゼミとは赤みの強いこと,前胸
背上の斑紋のわずかな違い,雌の腰弁の長さなどで区別さ
れ る が,同 定 に は 十 分 な 注 意 が 必 要 で あ る。鳴 き 声 は
「ギィー」という強い連続音で,エゾゼミのそれとの区別は
難しい。7月下旬より成虫が現れ,9月初めにおよぶ。県内
では1950年代に智頭町沖ノ山で記録(西村公夫)されて以
来正確な報告がなかったが,1993年以降,大山や三朝町(中
津,人形峠)から記録が相次ぎ,小林も船通山中腹にて複
数個体を採集確認している。資料は十分ではないが,近隣
県の状況ともあわせてみるとその垂直分布は800m前後の
狭い地域に限られ,エゾゼミのように400m程度の高さに
レッドデータブックとっとり (動物) 119
は下らないようである。また,エゾゼミはアカマツ,モミ
などの針葉樹,時にはスギ造林の一部にも見られるが,本
種にはその傾向は少ないように思われる。エゾゼミとの区
別には採集による同定を必要とするので,今後の正確な調
査が望まれる。
■分布(県内):智頭町沖ノ山(現況不明)
,三朝町(中津,
人形峠)大山(寂静山,ニノ沢)
,船通山。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;朝鮮半島,中
国。
■生息地:標高800m前後の落葉広葉樹林の周辺部。必ずし
もブナ原生林に限らない。小・中径木にも見られる。
■保護上の留意点:分布や生息状況の情報が乏しく,詳し
い生息調査が必要。大山地域は全体が保護されているが,
他地域については生息する林分の保全が第一である。
■文献:
田村昭夫(1993)アカエゾゼミを採集. ゆらぎあ, 11: 23.
山脇清高(1995)アカエゾゼミの採集記録. ゆらぎあ,13: 15.
執筆者:小林一彦
ハルゼミ 半翅目(カメムシ目)セミ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Terpnosia vacua (Olivier, 1790)
環境省:−
ハルゼミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○ ○
◎
○
●
●
◎
◎ ○
◎
●
●
◎
◎
◎◎
○ ○
● ●
●
●●●
●
● ●
● ●
●
●
◎
●
●
◎
●
◎
◎
◎
◎
○
●
○
●
●
雄 島根県出雲市浜山公園 / 撮影:尾原和夫
■選定理由:生息適地や生息個体数が急速に減少している。
■形態と生態:雌雄とも翅端までの長さ30-35程度だが,
体部分だけだと,昆虫の多くとは逆に雄の方が大きい。雌
は産卵管部分が細く突出する。全体に黒っぽく,つやがあ
る。名のごとく4月下旬には鳴き始め,5月から6月におよ
ぶ。「ジースジース」と聞こえるフレーズでくり返し鳴き,
遠くからもその存在を知りやすい。1匹が鳴き始めると
次々と他の個体が加わっていく合唱性が強く,止むときも
同様で,これを繰り返す。晴天日の日中に活動する。近年
まで県内のすべての市町村に普遍的に生息する種であっ
た。現在も基本的な水平分布の状況は変わっていないが,
マツ林の急速な減少により,分布は局地的・点状となり,
生息地での個体数も著しく減少している。新緑の村々には
どこでも聞かれた季節感豊かな声も珍しくなっている。垂
直的には海岸より標高800mくらいにおよんでいる。
■分布(県内):県内全域の低地∼丘陵地。
■分布(県外):本州,四国,九州;中国。
■生息環境:アカマツ,クロマツの林に生息し,植生との
結びつきが顕著である。このため県内でも“松虫”
,
“松蝉”
の方言がある。マツ林があれば山地のかなり深い場所にも
生息するが,中心となるのは里山とよばれる丘陵・低山地
域である。
■保護上の留意点:近年県内ではマツ枯れが急速に進行し,
マツ林が失われつつあるため,本種の分布域と個体数も著
しく減少しており,その状況は年々進行している。マツ林
が保全されることが必要であるが,植生の変化によるもの
であるから,従来どおりの広範囲での保護は困難である。
公園・社寺林等の公益的機能を有する地のマツ林を重点的
に保全することも考えられる。ヒメハルゼミと同様に,本
種も,その生息には必ずしも広面積のマツ林を必要としな
いからである。
■文献:
小林一彦(1993)ハルゼミ.pp. 130-131. In: 鳥取県のすぐれ
た自然 (動物).
執筆者:小林一彦
120 昆虫類
エゾハルゼミ 半翅目(カメムシ目)セミ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Terpnosia nigricosta (Motschulsky, 1866)
環境省:−
エゾハルゼミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
◎●●
◎
● ●
●
●
●
●
●
●●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
● ●
●
●
長野県栄村雑魚川 / 撮影:永幡嘉之
■選定理由:山地性の種で生息地は減少傾向にある。自然
植生の指標種としても価値がある。
■形態と生態:雌雄とも翅端までの長さは40-45mm。体部
だけだと雄の方が大きく,雌は腹部が短くて産卵管部は細
く突出する。雄の腹部は赤褐色でヒグラシによく似てい
る。5月下旬には成虫が出現し,6月中旬から7月中旬が最
盛 期 で7月 下 旬 ま で 見 ら れ る。鳴 き 声 は ギ ョ ー キ ィ,
ギョーキィと数回繰り返した後,ギョーケケケ...と続ける。
特異な鳴き声で類似の発音をする昆虫や鳥もなく,遠くま
でよく響くので,生息確認は容易である。ブナなどの樹幹
に生活し,枝先の方にはあまりみられない。県内では東の
兵庫県境より島根県境にいたるまで中国山地沿いに連続的
に分布するが,ブナ林の残存しない地域は空白となる。生
息地となる森林があれば標高700mくらいより見られ800∼
1000mに多い。大山山系には多く,来山者に親しまれてい
る。コエゾゼミとは同地域に生息するが,林内の生息部位
には両種の間に若干の違いが見られる。生息環境の関係か
ら垂直分布の上限はコエゾゼミのほうが高い。
■分布(県内):県内全域の山地(標高700m以上)。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;千島,サハリ
ン,中国。
■生息環境:ブナを主とする落葉広葉樹の自然林。大径木
の多い極相的性格の強いブナ林に多い。特徴的な鳴き声は
よく届くので,自然度の高い林の存在を知るための指標種
として有効である。
■保護上の留意点:本種の生息地には大山山系,氷ノ山,
扇ノ山など国立公園,国定公園の指定域として保護されて
いる場所がかなりあるので,それらの地の森林が保全され
ることが第一である。さらに,それ以外の地域において
も,残存するブナ林は県内でも希少な存在となっているの
で,可能な限り伐採をさけて保存することが望まれる。な
お,大山,氷ノ山などの森林は20-30年来格別の変化はな
いにもかかわらず,本種の生息個体数は減少傾向にある。
その原因は不明である。
執筆者:小林一彦
ヒメハルゼミ 半翅目(カメムシ目)セミ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Euterpnosia chibensis Matsumura, 1917
環境省:−
ヒメハルゼミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
● ●
●
●
●
●
●
●
●
● ●●
●
●
雌 島根県簸川郡大社町鷺浦 18-VII-1997 / 撮影:大浜祥治
■選定理由:きわめて局地的に分布し,各個体群は孤立的
であり,絶滅が危ぶまれる。
■形態と生態:雌雄とも翅端まで35mm前後。小型で細長
いセミ。声は7月中旬∼8月上旬に聞ける。自然度の高い社
寺林に生息するが,雌雄ともシイ,カシ類の大木上の高い
梢や枝先に生活し,採集が困難。しかし,羽化後の抜け殻
は低所に付着し,スギ,ヒノキ等の針葉樹,石垣,社殿等
の建造物でもよく見つかる。ヒグラシの抜け殻に較べ小型
で一見して区別できる。合唱性は本種の著しい特徴で
ウィーン,ウィーンまたはジィーン,ジィーンとうなるよ
うな声で1匹が鳴き出すと,一斉に森全体に合唱が起こり,
壮観である。県内の生息地点はいずれもやや内陸に入った
レッドデータブックとっとり (動物) 121
ところにある。垂直分布の上限は常緑広葉樹林帯の上限と
も一致する約450m(三徳山)
。
■分布(県内):県内各地(生息地点は分布図のプロットが
ほとんどすべて)。
■分布(県外):本州,四国,九州,南西諸島。
■生息環境:スダジイ,シラカシ,ウラジロガシを優占種
とする常緑広葉樹の極相林的な森林。県内の生息地は三徳
山以外すべて社寺の境内林,いわゆる社叢。面積はいずれ
も1-2haときわめて狭いが,生息林内の個体数は多い。成
虫は周囲の植生から孤立した社叢の外へはほとんど出てい
かない。ただ,倉吉市広瀬と鳥取市高路では社叢に近い二
次林(落葉広葉樹)に分散生息している例がある。生息地
として適当な社叢は,県内ではスダジイの優占する沿岸・
低地性のものと,シラカシ,ウラジロガシを各優占種とす
る内陸性,山地性の3タイプがあるが,いずれにも生息す
る。これらの常緑広葉樹林は,社叢以外の渓谷部などにも
存在するが,三徳山以外には生息が確認されていない。
■保護上の留意点:生息地の大部分は社寺の境内林である
ので,伐採等で現状を変えることのないように配慮が望ま
れる。各個体群はいずれも孤立しているため一度減少に
向かえばその地での絶滅はまぬがれない。
■文献:
小林一彦(1993)ヒメハルゼミ.pp. 128-129. In: 鳥取県のす
ぐれた自然 (動物).
小林一彦(1993)鳥取県およびその周辺のヒメハルゼミ生息地
について,鳥取生物, 27: 11-21.
執筆者:小林一彦
ハマベウスバカゲロウ 脈翅目(アミメカゲロウ目)ウスバカゲロウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Grocus solers (Walker, 1853)
環境省:−
ハマベウスバカゲロウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●●
●
福部村鳥取砂丘 1991.10
■選定理由:生息地がきわめて限定され,かつやや不安定。
観光客からの踏みつけによる脅威も考えられる。
■形態と生態:海浜性で,幼虫は巣穴形成型のアリジゴク。
巣穴直径は最大5cm程度。やはり鳥取砂丘に生息するクロ
コウスバカゲロウMyrmeleon boreとは,やや明るい黄土色
の体色と頭部の斑紋で区別できる。年1化幼虫越冬で,成
虫は8月頃出現。
■分布(県内):鳥取砂丘のみ。砂丘内でも海に面する段丘
上とその付近に限定される。西は鳥取市十六本松付近から
東は福部村岩戸海岸まで確認されるが,他の海浜からは見
つからない。
■分布(県外):新潟県と福岡県の海岸砂丘;中国南部。
■生息環境:巣穴は海浜植物の生える海に面した段丘上付
近に多い。営巣は開けた砂地に限定され,クロコウスバカ
ゲロウが営巣するクロマツ,ニセアカシアの林内には生息
しない。
■保護上の留意点:本種の生息する海よりの海浜植物群落
付近へ過剰に人が立ち入らないよう配慮が必要。鳥取砂丘
から岩戸海岸にかけての砂浜では浸食にともない本種の生
息適地も狭まっている。今後の推移には注意を要する。
■文献:
Kuwayama, S.(1959) On the genera Myrmeleon and Grocus in
Japan and adjacent territories. Konty, 27: 66-69.
松良俊明(1989)砂丘のアリジゴク. 思索社(東京),215 pp.
松良俊明(2000)砂の魔術師アリジゴク ― 進化する捕食行動. 中
公新書 (東京), 229 pp.
執筆者:鶴崎展巨
122 昆虫類
ホソハンミョウ 鞘翅目(コウチュウ目)ハンミョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Cicindela gracilis Pallas, 1777
環境省:−
ホソハンミョウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
岡山県上斎原村産 1986.8.9 / 撮影:山地 治
■選定理由:火山性草原地に限って生息するが,生息環境
の減少が進んでおり要注意。
■形態と生態:体長11mm内外。細身で小型のハンミョウ
で,飛翔力をもたない。背面は黒色で,上翅の縁に白斑を
装う。成虫は7-8月に出現。おもに火山灰の露出した裸地
に生息する。中国地方では,山地の火山性草原を中心に孤
立分布しており,いずれの場所でも個体数は少ない。県内
では現在のところ江府町鏡ヶ成から記録されるのみ。草原
の周辺の林内や平地の河川敷,耕作地周辺で採集されるこ
ともあるが,生息環境はいずれも攪乱を受けやすい遷移の
初期相であることで共通している。
■分布(県内):現在のところ江府町鏡ヶ成から記録される
のみ。調査が進めば生息地はさらに見つかる可能性がある
が,類似の環境は県内には少ない。
■分布(県外):本州,四国,九州;大陸極東部。
■生息環境:山地の火山性草原。
■保護上の留意点:火山性草原は,観光開発の対象となり
やすい。登山道や遊歩道整備の際に,裸地に木片や砂利を
敷く工法が近年増加してきているが,本種のように崩壊地
や裸地を渡り歩いて生活している種には影響が大きいの
で,好ましくない。遊歩道は,例えば材木を階段状に,最
小限に使用するのみにとどめるなど,本来の多様な自然環
境をそのまま活用する方法がとられるべきである。
執筆者:永幡嘉之
ハラビロハンミョウ 鞘翅目(コウチュウ目)ハンミョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Cicindela sumatrensis niponensis Bates, 1883
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
ハラビロハンミョウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
●
●
●●
鳥取市小沢見 1995.8.28
■選定理由:河川の流入する砂浜に生息環境が限定され,
残された生息地はきわめて少ない。他の生息地からも完全
に孤立しており絶滅のおそれが高い。
■形態と生態:体長13mm内外。灰褐色の地に白い斑紋を
もつ中型のハンミョウで,上翅がやや幅広い。成虫越冬
で,春季5-6月にみられる成虫は越冬後の個体。新成虫は
7-10月に出現する。河川の河口に接する砂浜に生息し,か
つては鳥取市十六本松の千代川河口付近に多産したという
が,護岸によりほぼ絶滅した。1990年代に大山町から岩美
こ ぞ
町までの海岸を踏査したが,鳥取砂丘周辺と,鳥取市小沢
み
見の2地点で生息を確認したのみ。砂浜に淡水が流入する
ことが生息条件とみられる。成虫は,夏季には水で暗色に
湿った砂地上で活動するが,秋季には乾いた砂浜に分散す
る。鳥取砂丘周辺では,通称オアシスおよび,多鯰ヶ池,
千代川河口にできた砂州で確認されているが,いずれも個
体数は少ない。鳥取市小沢見では,1994年当時,数百頭が
見られ非常に良好な生息地だったが,その後絶滅状態であ
る。現在では,砂丘の個体群が県内唯一で,完全に孤立し
ており,きわめて危険な状況にある。
■分布(県内)
:鳥取砂丘,鳥取市小沢見(現在は絶滅状態)。
岩美町陸上,鳥取市白兎,気高町浜村,八束水等には生息
に適した砂浜があるが,本種は発見されていない。
■分布(県外):本州(新潟県以西)
,九州,種子島;東南ア
ジア全域。国内各地で減少が顕著。
レッドデータブックとっとり (動物) 123
■生息環境:淡水が流れ込む砂浜。
■保護上の留意点:砂丘のオアシスは,除草を継続し現在
の環境を保つこと,千代川河口部の砂州はすべてを取り除
かないことが重要。千代川河口や多鯰ヶ池も含め,砂地の
中の水辺環境を孤立させずに連続的に残す必要がある。
■文献:
山中捷二(1955)鳥取付近のハンミョウ類,ヒサマツ, 5:3-7.
執筆者:永幡嘉之
カワラハンミョウ 鞘翅目(コウチュウ目)ハンミョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Cicindela laetescripa Motschulsky, 1860
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
カワラハンミョウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
○
●
鳥取市浜坂 2001.8.31
■選定理由:規模の大きい海岸砂浜に生息地が限定され,
生息地の孤立化が進行している。
■形態と生態:体長15mm内外。白い地色に黒の模様をも
つハンミョウで,成虫は7-9月に出現。砂州の発達する河
川敷や砂浜海岸に生息。県内分布は大きく千代川河口と天
神川河口の2群に分かれる。千代川河口では,右岸の鳥取
砂丘全域および多鯰ヶ池,千代川の砂州で成虫が見られる
が,左岸の賀露では確認されない。天神川河口では,右岸
の砂州から,左岸の大栄町にかけて生息する。ただ,成虫
発生初期(7月)と,最盛期∼終期(8-9月)では分布が若
干異なり,千代川河口部では,7月には鳥取砂丘の水たまり
周辺(通称オアシス)でしかみられないが,8月以降は広範
囲に分散するようである。天神川でも,大栄町での記録は
単発的で,北条町からの分散の可能性が高い。鳥取市西部
から気高郡にかけても規模の大きな砂浜が広がるが,ここ
では見つからない。米子市の弓ヶ浜は調査不十分。なお,
広島県などでは河川に沿って内陸部まで生息地が入りこん
でいるが,本県の河川は砂州の発達が悪く,鳥取市や河原
町での数回の調査では未発見。
■分布(県内):千代川河口右岸の砂浜海岸と天神川河口(羽
合町∼大栄町)
。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;大陸極東部。
全国的に激減している。
■生息環境:広い砂丘地に生息するが,県内でみる限りで
は,砂丘や河川河口部の,淡水と砂地の交わる環境におい
てのみ生息が確認されている。
■保護上の留意点:鳥取砂丘については,今後も除草を継
続し,淡水と砂地との交わる環境を保つこと,天神川につ
いては,河口部の砂州を取り除かないこと,また,北条砂
丘と連続性のある形で砂浜環境を残すことが必要である。
また,自動車の砂浜への侵入は,活動が鈍い時間帯の成虫
が轍のくぼみに集中し,多数のハンミョウ類の轢死を招く
ことが他県で観察されており,自然度の高い海岸への自動
車の侵入は防ぐ必要がある。
■文献:
山中捷二(1955)鳥取付近のハンミョウ類,ヒサマツ, 5:3-7.
執筆者:永幡嘉之
124 昆虫類
オオヒョウタンゴミムシ 鞘翅目(コウチュウ目)オサムシ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Scarutes sulcatus Olivier, 1795
環境省:準絶滅危惧(NT)
オオヒョウタンゴミムシ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●
◎●
米子市河崎 2001.6 / 撮影:穐山尊礼
■選定理由:海浜砂丘地を中心に生息するが,自然海岸の
減少により生息地と個体数の減少が著しい。
■形態と生態:体長30-35mm内外,大顎を含めると40mmを
超える。黒色で大型。中胸の前端が柄状にのびてそこに小
楯板が存在,大顎の著しい発達,前脛節が掌状に広がる,
などの特徴がある。細砂の海浜砂丘地のクロマツ林内など
の握ると崩れない程度に湿った砂地に長い坑道を掘って生
息。居住する巣穴は地表より深さ30cmほど,坑道は体幅の
3倍程に拡げてつくり,採餌もそこで行う。夜行性で,生息
地では5-8月頃,夜間にピットフォールトラップをかける
と採集できる。
■分布(県内):県東部と西部の砂浜海岸。近年の採集記録
は鳥取市(賀露,溝川,中野茶屋:1996-1999年,藤井佑
氏採集)
;米子市
(彦名1983;河崎2001年, 穐山尊礼氏)など。
■分布(県外):本州,四国,九州;朝鮮半島,中国,台湾,
東南アジア,インド。
■生息環境:海浜砂丘地。
■保護上の留意点:自然の海浜砂丘の保全。
■文献:
細木正男(1993)オオヒョウタンゴミムシ. pp. 140-141. In: 鳥取
県のすぐれた自然(動物).
執筆者:細木正男
ダイセンツヤゴモクムシ 鞘翅目(コウチュウ目)オサムシ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Trichotichnus daisenus Habu, 1973
環境省:−
ダイセンツヤゴモクムシ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
■選定理由:大山とその周辺地域が本種の模式産地で,現
在のところ分布はこの地域に限定される。
■形態と生態:体長12mm前後,前胸背板が心臓形で上翅は
卵形。本種を含むleptopus種群は地域的に分化して日本で7
種が知られている。落葉広葉樹林に生息しとくにブナ林の
林床に多い。スキー場,牧場,キャンプ場等開発にあった
所では棲息は見られない。
■分布(県内):鳥取県大山周辺(模式産地)
■分布(県外):岡山県真庭郡川上村。日本固有種。
■生息環境:落葉広葉樹林に生息しとくにブナ林の林床。
■保護状の留意点:大山周辺は国立公園で保護されており,
当面心配はない。それ以外の分布域でのブナ林の保護が重
要。
■文献:
Habu, A. (1973) Fauna Japonica. Carabiidae: Harpaline. pp. 296-298.
細木正男(1993)ダイセンツヤゴミムシ. pp. 142-143. In: 鳥取県
のすぐれた自然(動物).
山地 治(1996)岡山県から採集した甲虫類の記録・訂正. す
ずむし, 129: 23-25.
執筆者:細木正男
レッドデータブックとっとり (動物) 125
マルガタゲンゴロウ 鞘翅目(コウチュウ目)ゲンゴロウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Graphoderus adamsii (Clark, 1864)
環境省:−
マルガタゲンゴロウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
○
●
撮影:足立義弘
■選定理由:止水域に生息するゲンゴロウ類のなかで,本
県ではゲンゴロウやコガタノゲンゴロウに次いで生息地が
減少しており,今後さらに減少が進行することが予想され
る。
■形態と生態:体長13-14mmのやや小型のゲンゴロウ。背
面は灰色で,前胸には黒と黄色の横帯を装う。水草の豊富
な止水域に生息し,灯火に飛来することがある。幼虫は夏
季に生育し,水中で成虫越冬するものと考えられる。1950
年代頃までは,鳥取市や青谷町で記録があり,県内全域に
普通に生息していたものと考えられる。しかし,1990年代
の調査では岩美町と大山町で各1カ所の生息地が確認され
たのみ。おそらく,これら以外にも各地にまだ生息地が
残っていると思われるが,同時期に並行して実施した兵庫
県北部での調査ではほぼ全域で確認され,個体数も比較的
多かったことに照らし合わせると,本県ではすでに減少が
進行しており,分布動向には注意すべき状況になっている
と考えられる。
■分布(県内): 1990年代以降の生息確認地は岩美町と大山
町の各1カ所のみ。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;アジア東部。
■保護上の留意点:ゲンゴロウに同じ。
■特記事項:本種の他にも,クロゲンゴロウ,シマゲンゴ
ロウなどの大型∼中型のゲンゴロウ類各種はすべて今後の
動向に注目する必要があるが,他県での状況から判断する
限り,本種とクロゲンゴロウが,ゲンゴロウの次に危急性
が高く,シマゲンゴロウがそれに次ぐようである。クロゲ
ンゴロウは,本県ではすでに鳥取平野では生息が確認でき
ず,生息地の孤立化が進行している。
執筆者:永幡嘉之
コガタノゲンゴロウ 鞘翅目(コウチュウ目)ゲンゴロウ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Cybister tripunctatus (Olivier, 1795)
環境省:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
コガタノゲンゴロウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●
●
●●
●
●
●
●
鳥取県中部 2001.11.24 / 撮影:遠藤正浩
■選定理由:県内の生息地の分断と孤立が進行し,絶滅に
瀕している。全国的にも著しく減少しており,本州では過
去5年間に確実な採集記録がある地域はすでに5カ所以下。
■形態と生態:25mm前後の中型のゲンゴロウで,ゲンゴロ
ウよりもずっと小さく,腹面が黒色であることから区別は
容易。生態はゲンゴロウとほぼ同じ。1990年代前半には県
中部にかなり良好に生息しており,とくに倉吉市西部から
東伯町にかけての丘陵部では個体数も多かった。しかし,
2000年には,最も良好であった生息地で確認されなかった
ほか,同じ地域を高い精度で調査した市川憲平氏の私信で
もここ数年鳥取県内で本種が全く確認できないとのこと
で,すでに地域的に絶滅に近い可能性もある。県東部で
は,1990年代前半の2個体の記録を最後に確認例はない。
県西部にも生息地が存在したが,ここ数年で姿を消したと
いう。平地の止水域に生息するため,ゲンゴロウよりもさ
らに人為作用による影響を受けやすかったものと考えられ
126 昆虫類
る。
■分布(県内):現在,生息が確認できるのは県中部の2カ所
のみ。
■分布(県外):本州(秋田県以南)
,四国,九州,琉球;ア
ジア,アフリカ,オセアニア。
■生息環境:平地の止水域で,ヒルムシロやミクリ類など
の水草の豊富な池。アシ原を伴っている場合もある。
■保護上の留意点:ゲンゴロウの項を参照。現在の生息地
のすべてが農業用ため池であり,水抜き等の影響を受けや
すい。また,外来魚の放流を防止するための細心の注意が
必要である。
■文献
野村幸弘・安藤重敏(1993)ゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウ.
pp. 144-145. In: 鳥取県のすぐれた自然 (動物).
執筆者:永幡嘉之
ゲンゴロウ 鞘翅目(コウチュウ目)ゲンゴロウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Cybister japonicus Sharp, 1838
環境省:準絶滅危惧(NT)
ゲンゴロウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
●
●●
●
●
●
京都府京北町 1993.8.6 / 撮影:足立義弘
■選定理由:生息地の分断と孤立化が進行しており危険な
状態にある。
■形態と生態:38mm前後の大型のゲンゴロウで,背面は黄
色に縁取られる。腹面は黄褐色の地に黒斑をもつ。止水域
に生息し,水草に産卵,幼虫は夏季に出現し,小動物を捕
食する。水中で成虫越冬。県東部では,1990年代前半には
岩美郡各地に良好な生息地がかなり存在したが,最近は個
体数が減少している。鳥取平野および気高郡各地では,
1990年代前半の時点ですでに全く発見できなかった。県中
部では1994年の時点では倉吉市西部で1個体を確認したの
みで,現在では危機的な状況と考えられる。県西部では,
西伯町や日南町で確認されており,現在でも広く生息して
いると思われるが,調査不足。成虫は夜間活発に飛翔しか
なり分散する。
■分布(県内):現在,岩美郡,倉吉市,西伯郡,日野郡の
数カ所で確認されるのみ。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;台湾,アジア
東部。日本全国で減少しており,絶滅した地域も多い。本
州西部では山陰地方以外にまとまった生息地はない。
■生息環境:ため池などの止水域。
■保護上の留意点:生息地のほぼすべてが農業用のため池
であり,年によっては水が完全になくなるため,好適な環
境を渡り歩きながら生活していると考えられることから,
生息環境を孤立させず,水草の豊かな水域を複数保全し,
連続性を持たせることが必要である。産卵対象として水草
が,また蛹化場所として土の岸辺が必要であり,ため池の
改修の際には注意が必要である。さらに,ブラックバスや
ブルーギルが生息している池では成虫がほとんど確認でき
なくなることから,子どもや釣り人による放流を防止する
啓蒙活動が必要である。
■ 文献:
野村幸弘・安藤重敏(1993)ゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウ.
pp. 144-145. In: 鳥取県のすぐれた自然 (動物).
執筆者:永幡嘉之
レッドデータブックとっとり (動物) 127
オオクワガタ 鞘翅目(コウチュウ目)クワガタムシ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Dorcus curvidens binodulosus (Waterhouse, 1874)
環境省:準絶滅危惧(NT)
オオクワガタ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎
●
2000.3.13 / 撮影:鈴木知之
■選定理由:生息環境の面積的な減少が著しい。
■形態と生態:体長は雄30-70mm,雌25-40mm内外。成虫
および幼虫で越冬し,成虫は6-9月に出現,夜間に樹液に
集まる。鳥取県を含む中国山地ではブナ帯からの採集例は
全くなく,分布の主体は平野部∼低山にある。幼虫の食樹
としては,近県ではクヌギ,エノキ,ハンノキなどの白腐
れの材が確認されているが,本県では未確認。主として灯
火に飛来したものが採集されているが,西伯町での記録は
樹種不明の枯れ枝から脱出したものである。
■分布(県内):県内全域の平野部から低山地。報告された
採集記録は,鳥取市,三朝町,西伯町。また,未発表記録
であるが,鳥取市久松山周辺で採集された標本を実検して
いる。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;朝鮮半島(種
としては台湾や東南アジア,インドまで)
。
■生息環境:中国地方では平野部のクヌギやコナラを主体
とした大径木のよく保存された自然度の高い二次林。
■保護上の留意点:平地の二次林が主な生息地であるため,
開発にあたっては,クヌギやコナラを主体とした林を極力
残すこと,また可能な限り,林を孤立させずに周囲の樹林
との連続性をもたせることなどの配慮が必要。近年はペッ
トショップで販売されることが多くなったが,これらはほ
とんどが産地の不明な飼育品であり,遺伝子汚染や天然分
布の攪乱を防ぐためにも,とくに子どもを対象にして,本
種や外国産のクワガタムシをむやみに野外に放さないとい
う教育活動も必要である。
執筆者:永幡嘉之
ダイコクコガネ 鞘翅目(コウチュウ目)コガネムシ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Copris ochus Motschulsky, 1860
環境省:準絶滅危惧(NT)
ダイコクコガネ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎
岡山県川上村熊谷産 1988.10.2 / 撮影:山地 治
■選定理由:放牧地の牛糞に依存している種であり,生息
環境が孤立し,かつ強く人為作用を受けるうえに,県内で
は現在すでに確実な生息地が知られていない。
■形態と生態:大型で黒色の食糞性コガネムシで,体長は
20-25mmほど。雄の大型個体は長い角をもつ。放牧地の
ウシの糞に集まり,草丈の低い明るい草原を好む。灯火に
も飛来する。新成虫は9月頃に出現し,成虫で越冬すると
考えられる。県内での過去の記録は大山山系に限られる
が,佐治村辰巳峠でも採集されている(那須敏氏私信)
。労
働力として牛馬がどの農家でも飼育されていた時代には,
県内全域に分布していたと考えられるが,1950年代から農
業形態の変化に伴い,分布が放牧地に限られるようになっ
た。また,国内では牛糞に依存しており,自然環境下で野
生動物の糞に依存している個体群は知られない。よって,
放牧の数年の休止が絶滅に直結する状況となっている。継
続的に放牧をしていても絶滅した産地が多いが,原因は不
明。県内では1990年代にほぼ全域の放牧場を調査したが,
発見されない。中国地方でも,現在知られる生息地は岡山
128 昆虫類
県北部,広島県備北地方,島根県三瓶山の3地点のみであ
る。三瓶山では近年の過放牧のため草丈が著しく低くなっ
てから,個体数が増加傾向という。
■分布(県内):現在は確認できる産地がない。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;アジア北東部。
日本では全国的に激減している。
■生息環境:近県で現在でも生息している放牧地は,いず
れも天然のススキ草原。
■保護上の留意点:放牧地で今後生息が確認された場合に
は,ススキ草原を保ち,人工の牧草地にしないこと,草丈
を低く保つことなどが挙げられるが,ウシの生産性と結び
つけることが難しく,実行には困難を伴うことが予想され
る。
執筆者:永幡嘉之
ミヤマダイコクコガネ 鞘翅目(コウチュウ目)コガネムシ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Copris pecuarius Lewis, 1884
環境省:−
ミヤマダイコクコガネ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
奈良県上北山村和佐又山 1998.8.28 / 撮影:足立義弘
■選定理由:かつては県西部の放牧場に分布していたが,
牧場の閉鎖に伴って生息環境が消失した。
■形態と生態:20mm前後の大型の食糞性コガネムシで,ダ
イコクコガネよりもやや小さく,黒色で若干の光沢があ
る。日陰を好み,広葉樹の林内や,牧場の林縁部でウシ,
ホンシュウジカなどの糞に集まる。新成虫は9月頃に出現
し,成虫越冬するものと考えられる。県内では日南町多里
で過去に記録されており,大山山系でもデータを伴わない
記録がある。いずれも放牧地の牛糞から採集されていた。
県外では,牧場の牛糞も利用するものの,基本的には自然
林の中でホンシュウジカやカモシカの糞に依存して生活し
ているため,分布はこれらの動物の天然分布とよく一致し
ている。しかし,本県では過去の生息地にこれらの動物が
少なく,牧場閉鎖後の本種の追跡調査でも採集されていな
いため(水田国康氏私信)
,過去に放牧地が豊富に存在した
時代に,中国山地西部から分布拡大したか,何らかの形で
移入された可能性がある。現在,中国地方で生息が確認さ
れているのは広島県備北地方のみである。
■分布(県内):現在確認できる生息地はない。
■分布(県外):本州,四国;シベリア。国内では山地に局
地的に生息し,ホンシュウジカあるいはカモシカの天然分
布と重なることが多い。
■生息環境:山地の落葉樹林(およびシカの天然分布地の
周辺の放牧場)。日陰の糞に集まることが多く,自然条件
下では林内に生息していると考えられる。
■保護上の留意点:かつて生息地だった日南町周辺で,生
息調査を継続する必要がある。もし発見されることがあれ
ば,生息地の天然林を広く保全する必要がある。
■文献:
細木正男(1993)ミヤマダイコクコガネ. pp. 146-147. In: 鳥取県
のすぐれた自然(動物).
執筆者:永幡嘉之
レッドデータブックとっとり (動物) 129
オオチャイロハナムグリ 鞘翅目(コウチュウ目)コガネムシ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Osmoderma opicum Lewis, 1887
環境省:準絶滅危惧(NT)
オオチャイロハナムグリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎●
○
●
◎
江府町烏ケ山 1997.8
■選定理由:県内の生息域が限られる。発生数は減少傾向
が著しい。
■形態と生態:体長20-30mm前後。黒褐色で青銅ないし紫
銅色の光沢をおびることがある。成虫は梅雨明け前後から
8月中旬まで見られる。山地のスギ,ミズナラ,シデ類,ブ
ナなどの生木および立ち枯れ木の樹洞などにすみ,幼虫は
樹洞内の木材腐朽部分中で,そこにたまった腐植土などを
食す。独特の強い芳香をもつ。成虫は時々樹洞から出て外
側を徘徊,あるいは昼間に飛翔する。県内では主にブナ帯
以上の山地で記録されている。
■分布(県内):大山山系,佐治村辰巳峠,扇ノ山・氷ノ山
山系。
■分布(県外):本州,四国,九州,屋久島。日本固有種。
■生息環境:山地の落葉広葉樹林の樹洞など。原生林的環
境を好む。
■保護上の留意点:特別保護地区に指定されたブナ林内で
も,登山道脇の古木や立ち枯れ木が安全上の理由からか,
伐採,除去されることがあるが,これはできるだけ避ける
べきである。他の地域でも,二次林を含めて原生林的環境
を保つことが重要。
■文献:
細木正男(1993)オオチャイロハナムグリ. pp. 148-149. In: 鳥取
県のすぐれた自然(動物).
執筆者:穐山尊礼
ヨコミゾドロムシ 鞘翅目(コウチュウ目)ヒメドロムシ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Leptelmis gracilis Sharp, 1888
環境省:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
ヨコミゾドロムシ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
岡山市産標本 1992.8.16
■選定理由:県内での生息確認地は1カ所のみ。河川改修に
より絶滅する可能性がある。
■形態と生態:体長2.6-2.8mm,鳥取県では2000年8月18日
に初めて,国土交通省(当時建設省)の河川水辺の国勢調
おかます
査の一環としておこなわれた底生動物調査で,国府町岡益
みおすじ
の袋川の旧澪筋(ワンド:水流で溝状にえぐれることで生
成し本流から取り残された止水域)の草が繁茂した場所で
1個体が採集された(採集者:阪田睦子)。ヒメドロムシ科
甲虫は幼虫の記載された種はなく,生態も不明であるが,
水中に沈んだ落ち葉や朽木を食していると思われる。
■分布(県内):袋川(国府町岡益)
。
■分布(県外):関東地方以西の本州,四国,九州(日本固
有種)
。
■生息環境:湧水のある池など。岡益での採集地点は河川
の河原にできた本流とは離れた止水域。増水時には本流の
一部になると思われる。
■保護上の留意点:生息地の現状を維持するとともに,各
河川で生息実態調査が必要。
■特記事項:2001年3月,生息地では県による橋梁のつけか
え工事があったが,本種の生息に考慮して代替の放水路が
設置され,生息地自体の消失をまぬがれた。
■文献:
吉富博之・白金晶子・疋田直之(1999) 矢作川水系のヒメドロム
シ. 矢作川研究, 33: 95-116.
執筆者:山地 治
130 昆虫類
トオヤマシラホシナガタマムシ 鞘翅目(コウチュウ目)タマムシ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Agrilus venticosus Fairmaire, 1888
環境省:−
トオヤマシラホシナガタマムシ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
佐治村高鉢山 1975.8.10
■選定理由:全国的に産地の限定される種で,県内でも1カ
所で確認されているのみ。鳥取県が国内の南限分布地。
■形態と生態:体長12mm内外,日本産ナガタマムシの中で
は最美麗種で,大型で特徴ある色彩をしている。国内では
群馬県と鳥取県からしか記録されていない。県内では佐治
村高鉢山南斜面標高900mのエゾエノキ衰弱木から複数の
個体が確認されている。幼虫はエゾエノキの枯死部を食べ
るものと思われる。
■分布(県内):佐治村高鉢山。
■分布(県外):群馬県;中国。
■生息環境:原生的な落葉広葉樹林。
■保護上の留意点:本種が依存しているエゾエノキを含む
天然林を保護する必要がある。
■文献:
秋山黄洋・大桃定洋 (1997) 日本産タマムシ科チェックリスト(月
刊むしSuppliment 1), 68 pp. 有限会社むし社.
Kurosawa, Y. (1985) Notes on the Oriental species of the
coleopterous family Buprestidae (IV). Bull. Natn. Sci. Mus.,
Tokyo, A, 11: 141-170.
執筆者:山地 治
ジュウクホシテントウ 鞘翅目(コウチュウ目)テントウムシ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Anisosticta kobensis Lewis, 1896
環境省:−
ジュウクホシテントウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
摂食中の成虫(米子市産;飼育)
■選定理由:全国の汽水に隣接するヨシ草原に広く分布す
るが,どこでもきわめて局地的にしか発生を見ない。生息
地が人間活動域と重複するため,保全に留意すべき種であ
る。
■形態と生態:成虫の体長約4mm程度の中型テントウム
シ。体は扁平で長く,一見ハムシのような体型をしてい
る。年数回羽化し成長は速い。他のテントウムシと比べ,
成虫はよく飛ぶ。幼虫はヒメカメノコテントウなどと同じ
体型だが,粘性のある尾脚を用いて後退する行動がよく見
られる。県内では現在のところ米子市彦名から知られるの
みだが,日本海側に点在する汽水湖周辺のヨシ原から発見
される可能性は高い。
■分布(県内):米子市彦名。
■分布(県外):北海道,本州,九州;中国。
■生息環境:汽水に隣接するヨシ草原。
■保護上の留意点:生息環境自体が激減しているので,ヨ
シ草原の保全が基本となる。
■文献:
国井秀伸・星川和夫・高畠育雄(2001)中海米子湾の彦名処理
地における水生動植物相のモニタリング及び保全に関する調
査研究結果報告書.国土交通省中国地方建設局出雲工事事務
所・島根大学汽水域研究センター .
瀬戸貴代美・星川和夫(2002)ジュウクホシテントウの生態に
関する若干の知見.中国昆虫,15:53-56.
執筆者:星川和夫
レッドデータブックとっとり (動物) 131
シラユキヒメハナカミキリ 鞘翅目(コウチュウ目)カミキリムシ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Pidonia dealbata Kuboki, 1981
環境省:−
シラユキヒメハナカミキリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎
◎
雄 佐治村高鉢山産 1976.6.6
■選定理由:近畿北部から中国山地にかけて分布するが,
産地は限られている。佐治村高鉢山が模式産地。
■形態と生態:体長7-8mm。中部地方に分布するムネアカ
ヨコモンヒメハナカミキリP. masakiiの置換種と考えられ
ていて斑紋の退行が見られる。梅雨期に出現し日陰の花に
集まる。
■分布(県内):大山町大山・佐治村高鉢山(模式産地)
・智
や こうだに
頭町八河谷。
■分布(県外):兵庫県北部・岡山県北部・京都府北部(日
本固有種)。
■生息環境:自然度の高いブナ帯。
■保護上の留意点:原生的な森林でなければ生息できない
種であるので伐採をさける,高鉢山では伐採終了後,確認
個体数が激減した。
■文献:
細木正男(1993)シラユキヒメハナカミキリ. pp. 150-151. In: 鳥
取県のすぐれた自然(動物).
Kuboki, M. (1981) Study on the Lepturine genus Pidonia Mulsant
(Coleoptera, Cerambycidae), I. Konty, Tokyo, 49: 525-541.
那須 敏・山地 治(1976) 高鉢山(鳥取県)のカミキリムシ.
すずむし, 113: 18-30.
執筆者:山地 治
クロサワヘリグロハナカミキリ 鞘翅目(コウチュウ目)カミキリムシ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Eustrangalia anticereductus Hayashi, 1958
環境省:−
クロサワヘリグロハナカミキリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
佐治村高鉢山産 1979.6.2
■選定理由:北海道から九州まで分布するがいずれの生息
地も範囲が狭い,高鉢山は北海道を除けば日本海側の唯一
の産地である。
■形態と生態:体長15mm,高鉢山では成虫は6月に現れ林
内のハクウンボクの花に訪花する。飛び方は他のハナカミ
キリに比べかなり速い。
■分布(県内):佐治村高鉢山南斜面。
■分布(県外):北海道・本州・九州(日本固有種)
。
■生息環境:落葉広葉樹の原生的森林。
■保護上の留意点:生息地域の原生的森林の保護。
■文献:
那須 敏・山地 治(1976)高鉢山(鳥取県)のカミキリムシ.
すずむし, 113: 18-30.
執筆者:山地 治
132 昆虫類
アカネキスジトラカミキリ 鞘翅目(コウチュウ目)カミキリムシ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Cyrtoclytus monticallisus Komiya, 1980
環境省:情報不足(DD)
アカネキスジトラカミキリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
兵庫県美方郡温泉町肥前畑 1993.5.10 / 撮影:永幡嘉之
■選定理由:日本では近畿北部∼中国地方に生息するが,
産地は局地的で個体数も少ない。鳥取県高鉢山が模式産
地。
■形態と生態:体長13mm。キスジトラカミキリC. caproides
とアカネトラカミキリBrachclytus singularisの中間的な形
態をもっている。幼虫はエゾエノキ枯れ枝に侵入し,成虫
は5-6月に出現する。
■分布(県内):佐治村高鉢山南斜面。
■分布(県外):広島県・岡山県・兵庫県・京都府;中国。
■生息環境:エゾエノキの大木の生えている自然度の高い
落葉広葉樹林。
■保護上の留意点:食樹であるエゾエノキを含む天然林を
保護する必要がある。
■文献:
Komiya, J. (1980) Description of a new species of Clytini from
Tottori Prefecture (Cerambycidae), Elytra,7: 33-34.
黒田祐一 (1980) アカネキスジトラカミキリ Ciltoclytus monticallisus Komiya の生態について.すずむし, 117: 1-3.
那須 敏・山地 治 (1979) 高鉢山(鳥取県)のカミキリムシ追加
報告. III. すずむし, 116: 43-45.
執筆者:山地 治
フサヒゲルリカミキリ 鞘翅目(コウチュウ目)カミキリムシ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Agapanthia japonica Kano, 1933
環境省:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
フサヒゲルリカミキリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
岡山県川上村産(飼育)2001.6.9 / 撮影:鈴木知之
■選定理由:生息地が局限され,さらに食草が特殊で,環
境改変の影響をきわめて受けやすく,絶滅に瀕している。
■形態と生態:16mm程度の,暗い藍色のカミキリムシで,
触角には黒いふさ状の毛束がある。成虫の出現期は6-8
月。成虫・幼虫ともに草原のユウスゲを食草としており,
成虫はユウスゲの主に葉を食べる。幼虫は花茎から根へと
食い進む。県内で記録があるのは大山山系の溝口町の草原
2カ所である。桝水原は以前は良好な生息地だったようだ
が,開発でユウスゲの株数が少なくなったために1970年代
にはすでに見られなくなっていたようである。1990年代前
半に,別の草原でも発見されたが,当初より個体数が少な
く,現状は不明である。ユウスゲの自生地は,規模の大き
な群落としては,他に青谷町から岩美町にかけての海岸
部,岩美町唐川湿原などにみられ,小規模な群落は各地の
山間部に点在するが,調査されているにもかかわらず本種
は発見されていない。
■分布(県内):西伯郡溝口町の山地草原。
■分布(県外):北海道(西南部)と本州(日本固有種)。し
かし現在は鳥取県から岡山県の大山∼蒜山山系と長野県の
数カ所で生息地が知られるのみで,いずれの場所において
も生息環境はきわめて悪化している。
■生息環境:ユウスゲをともなう,山地の乾性草原。
■保護上の留意点:草原の遷移が進むとユウスゲが減少す
るので,草原を火入れや刈り取りにより維持し,これ以上
の面積の縮小を防ぐこと。同好者の間で人気が高く,採集
圧がかかりやすいので,詳細な産地の公表を避けることも
課題である。また,日本固有種で絶滅の危険が高いので,
人工繁殖による種の保存をも視野に入れる必要がある。
執筆者:永幡嘉之
レッドデータブックとっとり (動物) 133
ヒメビロウドカミキリ 鞘翅目(コウチュウ目)カミキリムシ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Acalolepta degener (Bates, 1873)
環境省:情報不足(DD)
ヒメビロウドカミキリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
●
兵庫県関宮町小代越 2000.7.16
■選定理由:山地の乾性草原に飛び石状に分布しており,
生息環境が悪化している。
■形態と生態:体長10mm程度の小型のカミキリムシで,褐
色の地色に不規則なビロウド状の模様がある。夏季に出現
し,オトコヨモギの生きた茎や葉脈を食べる。幼虫も,オ
トコヨモギの茎を食べる。生息地では,成虫がときにヨモ
ギを食べていることがある。中部地方以西では山地の乾性
草原に飛び石的に分布し,県内では江府町鏡ヶ成で採集記
録,若桜町氷ノ山山麓での食痕の確認例がある。鳥取県に
隣接する兵庫県北部や岡山県北部には,個体数の多い生息
地が点在しており,県内でも若桜町,佐治村,三朝町,大
山山麓などの草原には,点々と分布していることが予想さ
れる。早期の調査が必要である。
■分布(県内):若桜町氷ノ山。
■分布(県外):本州,九州,対馬;アジア北東部。
■生息環境:北日本では海岸の露岩地のオトコヨモギ。中
部地方以西では山地の乾性草原に飛び石的に分布する。オ
トコヨモギは草原のなかでも草丈の低い部分や登山道脇な
ど攪乱を受けやすい環境に多く見られ,本種の分布もその
ような場所に偏よる傾向がある。
■保護上の留意点:県内の分布の詳細な調査と生息が確認
されたところでは草原の適度な人為的管理が必要。
執筆者:永幡嘉之
アサカミキリ 鞘翅目(コウチュウ目)カミキリムシ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Thyestilla gebleri (Faldermann, 1835)
環境省:準絶滅危惧(NT)
アサカミキリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
○
神奈川県山北町大野山 / 撮影:鈴木知之
■選定理由:栽培植物のアサに依存していたが,食草の栽
培中止とともに,生息環境が消失したため。
■形態と生態:13mm程度の小型のカミキリムシ。黒色も
しくは灰色で,白いふちどりがある。成虫はアサやアザミ
類の生の茎や葉脈を食べ,幼虫もそれらの茎に食い入る。
県内では植物繊維採取のため,各地の山間部で大麻の栽培
が行われていた時代に,若桜町の山間部で採集されてい
る。過去の記録は氷ノ山山系に集中し,比較的調査のゆき
とどいていた大山山系ではみられないことから,分布が当
時から局地的であった可能性がある。その後,アサの栽培
中止に伴って耕作地に見られた個体群はすべて姿を消し,
現在県内に確実な生息地はない。ただ,国内各地でヨモギ
やノゲシに食性を転換した個体群が生息していることが相
次いで確認されており,兵庫県でも中南部で数カ所の生息
地が知られる。ロシア極東部などではキク科草本に発生す
る最優占種であることから,本県においても,植生転換に
成功した個体群がどこかに生存していれば,今後再び分布
を拡大する可能性もある。
■分布(県内):若桜町氷ノ山山系(現在はみられない)。
■分布(県外):本州・四国・九州;朝鮮半島・サハリン・
ロシア極東部。国内では栃木,神奈川,兵庫,大分などの
各県で,近年も生息確認されている。
■生息環境:過去には集落周辺の耕作地。他県で現在も生
息している場所は,高原や放牧地など,比較的大規模な乾
性草原が多いが,兵庫県では林道沿いの小規模な草地。
■保護上の留意点:今後県内で生息地が発見されることが
あれば,全国的に少なくなった種であるため,生息地を保
全することが望まれる。
執筆者:永幡嘉之・山地 治
134 昆虫類
スゲハムシ 鞘翅目(コウチュウ目)ハムシ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Plateumaris sericea (Linnaeus, 1768)
環境省:−
スゲハムシ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
◎
岡山県加茂町細地湿原産(1991.6.8 渡辺昭彦採集)
/ 撮影:山地 治
■選定理由:県内では生息地が孤立した湿原に限定され,
今後植生の遷移が進み乾燥すれば,絶滅する危険性が高
い。
■形態と生態:体長8mm程度の小型のハムシで,金属光沢
のある地色に点刻をちりばめる。色彩は,中国地方では藍
色,銅色,赤色(他の2色よりも少ない)の3型が基本で,
ときに中間型がみられる。成虫は晩春に湿原のスゲ類に集
まり,花粉や葉を食べる。幼虫は,水中で根に寄生し,根
から酸素および栄養分を吸収して生育する。
すが の
からかわ
■分布(県内):国府町菅野(菅野湿原)
,岩美町唐川(唐川
湿原)
。他にも,大山山系や蒜山山系の湿原を調査すれば,
さらに数カ所の生息地が発見される可能性が高い。
■分布(県外):北海道,本州;ヨーロッパからシベリア。中
部地方以北では広く分布するが,西日本では湿原に遺存し
た,飛び石的な分布となる。
■生息環境:中部地方以西では,開水面を伴った湿原に限
定される。鳥取県では,湿原の中でも特定のスゲに依存し
ていると予想されるものの,幼虫の食性については未調
査。湿原のなかでも,特定の株に多数の個体が集中して見
られることがある。
■保護上の留意点:すべての生息地が孤立しており,交流
がないと考えられるため,湿原の乾燥化や遷移が進めば,
絶滅の可能性がある。湿原の周囲の森林の保全や,開水面
が保たれるように,遷移の進んだ湿原ではヨシやツルヨシ
の抜き取りを行うことなどが必要。
執筆者:永幡嘉之
キオビホオナガスズメバチ本州亜種 膜翅目(ハチ目)スズメバチ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Dolichovespula media sugare Ishikawa, 1969
環境省:−
キオビホオナガスズメバチ本州亜種
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
林端部の樹木の小枝に営巣 / 撮影:松浦 誠
■選定理由:本州中部以北では普通種だが,中国地方では
山地の森林帯だけに生息する稀種。また,中国地方は本州
での分布南限にあたる。
■形態と生態:体長はクイーン19-22mm,ワーカー 1316mm,オス19mm前後。真社会性種で,越冬クイーンによ
る単独営巣は5月中旬に始まり,誕生した娘バチがワー
カーとしてコロニーの増大に参画する。成熟巣でも,育房
数は250-1,700個に過ぎない。生殖虫(新クイーンとオス)
は8-9月に出現し,交尾する。受精した新クイーンは朽木
内に穴を掘って越冬する。別亜種のD. m. media (Retzius)
は,北海道と旧北区の北部に分布する。なお,本種のク
イーンは,キイロスズメバチ Vespa simillima xanthoptera を
モデルとするミュラー型擬態で,その体色と模様はワー
カーのそれと著しく異なる。腹部斑紋は多様で,ある地方
では五目蜂と呼ばれる。
■分布(県内):大山,沖ノ山。
■分布(県外):本州。
■生息環境:中国山地(内陸の標高500m以上)の森林帯。
巣は,林縁部に生育する枝葉に囲まれた樹木の枝に釣り下
げられるが本県では未発見。
レッドデータブックとっとり (動物) 135
■保護上の留意点:山地の森林の保全が必要。
■文献:
前田泰生・手塚俊行(1995)キオビホオナガスズメバチの新分
布地. 中国昆虫, 9: 31.
前田泰生・郷原匡史・郷右近勝夫(2002)中国地方における有
剣類4種の分布新記録. 中国昆虫, 15: 39-43.
松浦 誠(1995)社会性カリバチの生態と進化.北大図書出版
会(札幌),353 pp.
執筆者:前田泰生
フクイアナバチ 膜翅目(ハチ目)アナバチ科
鳥取県:情報不足(DD)
Sphex inusitatus fukuiensis Tsuneki, 1957
環境省:情報不足(DD)
フクイアナバチ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
● ●
●
●
● ●
●
鳥取市安蔵 2001.8.15 / 撮影:小林一彦
■選定理由:全国的にも県内でも記録が少ない。
■形態と生態:雌の体長30-35mmの大型のハチ。黒色で,
平地に普通に見られるクロアナバチS. argentatusに似るが,
それが頭部や前伸腹部に銀毛を密生しているのに対し,本
種は無毛で全身が漆黒色。本県では1999年以降,郡家町落
岩,若桜町若桜,智頭町大呂,佐治村加茂,尾際,鳥取市
安蔵,三朝町木地山,三朝町穴鴨,江府町武庫でコロニー
を確認した。営巣地は山地の踏み固められた地面といわれ
るが,本県では,山間の墓地,社寺の境内,公園等である。
成虫は8月に発生,地中に長さ10数cmの巣坑を掘り,先端
に2-3個の独房をつくる。県内では比較的稀種のコロギス
科のハネナシコロギス(Nippancistroger testaceus)1種のみ
を狩る。巣坑は規模が小さく閉鎖されない。生息地では
3-10単位の小コロニーを形成。飛翔,歩行等はクロアナバ
チより活発,敏捷。
■分布(県内):県内各地の山間部(山地性だが,高標高地
には未確認)
。
■分布(県外):福井,京都,兵庫,岡山,広島の各府県。
九州と中国には別亜種が分布。
■生息環境:標高150-450m程度の山間の墓地,社寺境内,
公園等。近くに樹林のある半日陰地。
■保護場の留意点:コロニーの所在地はいずれも人間生活
に関する場所で,定期的に整備されている。草木が生育し
て地表を覆えば生息地となりえないので,除草の継続が必
要。
■文献:
Tsuneki, K. (1963) Comparative studies on the nesting biology of the
genus Sphex in East Asia. Mem. Fac. Lib. Arts Fukui Univ. 13(2):
13-78.
執筆者:小林一彦
136 昆虫類
ニッポンハナダカバチ 膜翅目(ハチ目)アナバチ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Bembix nipponica F. Smith, 1873
環境省:情報不足(DD)
ニッポンハナダカバチ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●●
獲物を巣口へ運び込むニッポンハナダカバチ / 撮影:郷右近勝夫
■選定理由:海浜とその周辺の開発,車両の乗り入れ,漂
流物の堆積などによる海浜生態系の破壊が営巣地の喪失と
獲物昆虫の減少をもたらし,本種の生息を危うくしてい
る。
■形態と生態:別名ハナダカバチ。雌雄間で体長差はなく,
18mm前後の大型のカリバチ。海浜の砂丘地に好んで集団
営巣する。育房は,緩やかに傾斜した穿坑された主坑(深
さ約15-20cm)から分岐した側坑で水平方向に連結される。
幼虫餌としてハナアブ科をはじめとする種々の分類群のハ
エ類を狩る。年1化性で,活動期は6月末から8月中旬まで
の約1.5カ月間。
■分布(県内):鳥取市(湖山町,白兎白兎神社)
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州,屋久島。日本
固有種。八重山諸島と台湾には類似の生活形をもつ近縁種
のタイワンハナダカバチB. formosana Bishoffが生息する。
■生息環境:海浜に多く生息する。防風林内の松がまばら
に生育し,日あたりのよい砂地で営巣。内陸でも,類似の
環境であれば営巣がみられる(京都銀閣寺の境内がその
例)
。
■保護上の注意:海浜とその周辺の自然生態系の保全。
■文献:
常木勝次(1948)はなだか蜂研究記.札幌講談社,303 pp.
Tsuneki, K. (1956, 1957, 1958) Ethological studies on Bembix
niponica Smith, with emphasis on the psychobiological analysis of
behavior inside the nest (Hymenoptera, Sphecidae). Parts I, II, III.
Mem. Fac. Lib. Arts, Fukui Univ., Ser. II, Nat. Sci., 6: 77-172, 4
pls.; 7: 1-115; 8: 1-78, 4 pls.
執筆者:前田泰生
コウベキヌゲハキリバチ 膜翅目(ハチ目)ハキリバチ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Megachile (Eutricharaea) kobensis Cockerell, 1918
環境省:−
コウベキヌゲハキリバチ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
●
ハマゴウで採餌するキヌゲハキリバチ / 撮影:皆木宏明
■選定理由:海浜とその周辺の開発,護岸工事,車両の乗
り入れ,漂流物の堆積などによる海浜生態系の破壊が営巣
地の喪失と花資源植物の減少をもたらし,本種の生息を危
うくしている。
■ 形 態 と 生 態:別 名 キ ヌ ゲ ハ キ リ バ チ。体 長 は 雌 が911mm,雄が8-10mmの小型のハキリバチ。典型的な広食性
であるが,営巣地である海浜砂丘とその近辺に生育するハ
マゴウ,コマツナギ,ハギ類などを花資源として利用する。
ハマゴウの主要な送粉者である。類似の砂地があれば,内
陸の河川敷でも営巣する。部分的2化性で,活動期は6月中
旬から9月中旬までの約3カ月間。砂地に分岐のない緩やか
に傾斜した単坑を掘り(深さ約2-6cm)
,その先端に1-3個
の育房を配置する。育房は,葉片で作製される。
■分布(県内):境港市弓ヶ浜,東伯郡北条砂丘,鳥取砂丘。
■分布(県外):本州,四国,九州。日本固有種。
■生息環境:営巣場所は,海潮線から離れた堆砂垣や防風
林に近い場所に生育する海浜植物の群落内の日当たりのよ
い場所で,採餌場所もその近辺に限られる。
レッドデータブックとっとり (動物) 137
■保護上の注意:海浜とその周辺の自然生態系の保全。
■文献: 郷原匡史(1993)キヌゲハキリバチに関する若干生態的知見.中
国昆虫,7: 29-34.
前田泰生・皆木宏明(1999)キヌゲハキリバチの巣の構造.ホ
シザキグリーン財団研報,3: 165-172.
皆木宏明・前田泰生・北村憲二(2000)海浜における送粉生態
系の保全に関する研究 1.大社砂丘における訪花昆虫の種類
とそれらの季節消長.ホシザキグリーン財団研報,4: 139160.
執筆者:前田泰生
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
ニホンアミカモドキ 双翅目(ハエ目)アミカモドキ科
Deuterophlebia nipponica Kitakami, 1938
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
ニホンアミカモドキ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
■選定理由:生息地は水のきれいな急流中の礫に限られて
おり,水質汚濁に弱い。
■形態と生態:幼虫の体長は最大で4mm,蛹は体長2mm程
度と非常に小さい。幼虫は独特な形で,各腹節は側方に伸
びている。蛹は扁平な楕円形で,呼吸角は縮れている。急
流の岩に付着して生活している。県内では1995年に千代川
の佐貫(河原町)で確認された。微少な種であるため確認
が困難だが,山間渓流で綿密な調査が進めば新たな生息地
が確認される可能性もある。
■分布(県内):河原町佐貫(千代川)
。
■分布(県外):本州,九州。日本固有種。
■生息環境:水のきれいな急流の早瀬の礫。
■保護上の留意点:河川工事等による長期間の濁水は影響
を及ぼすと思われる。また有機汚濁等にも留意することが
望まれる。
■文献:
リバーフロント整備センター編(1997)平成7年度河川水辺の国
勢調査年鑑魚介類,底生動物調査編
執筆者:阪田睦子
138 昆虫類
キバネセセリ 鱗翅目(チョウ目)セセリチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Bibasis aquilina chrysaeglia (Butler, 1882)
環境省:−
ギバネセセリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
○
○
○
○
北海道オロピリカ 1990.7.15 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:生息地が局地的で近年の記録もほとんどない。
■形態と生態:前翅長25mm近くに達する大型のセセリ
チョウ,黄褐色の翅と大きさで似た種はなく識別は容易。
幼虫の食樹はハリギリ(ウコギ科)。6月下旬より発生する
が,山地では7月中旬∼8月上旬。敏捷に飛び,訪花せず山
道で吸水,または獣糞に集まることが多い。従来から採集
例が少なく県内での生態は詳しくは不明。1952年に大山中
腹(横手道)で採集したのが中国地方での最初の記録であ
る。その後,大山山系で少しずつ採集された他,智頭町沖
ノ山や,氷ノ山(永幡嘉之)でも採集例があったが,どこ
でも偶然的に採集されるだけであった。大山一帯では近年
の採集例はなく絶滅が案じられている。しかし兵庫県浜坂
町などの但馬海岸での採集例が近年もあり,小林は1994年
く がみ
6月26日に岩美町陸上で1雄を採集している。同地では海岸
近い路上でも目撃されており,生息が期待される。
■分布(県内):県東部の県境沿い山地∼海岸。
■ 分 布(県 外):北 海 道,本 州,四 国,九 州(日 本 固 有 亜
種)
;ロシア沿海州,朝鮮半島,中国に別亜種。
■生息環境:山地の落葉広葉樹林の林縁。食樹のハリギリ
は二次林的な環境に生育する。岩美町陸上より浜坂町へか
けては海にせまった山地の落葉・常緑の混じった広葉二次
林にハリギリの高木がかなりの頻度で散生している。
■保護上の留意点:県内の生息実態が明らかでないので,
採集・調査を継続的に重ねることが望まれる。
執筆者:小林一彦
ギンイチモンジセセリ 鱗翅目(チョウ目)セセリチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Leptalina unicolor (Bremer & Grey, 1852)
環境省:準絶滅危惧(NT)
ギンイチモンジセセリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○ ●
●
●● ● ○
● ● ○
● ◎○
◎
◎
●
◎
●
○
●
◎
○
○
◎
交尾 大山金屋谷 1995.5.18 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:生息地が限定され個体数も少ない。主要な生
息場所の山地や河川の堤防または河川敷のススキ原は開発
や河川改修等で撹乱されやすく注意を要する。
■形態と生態:前翅長15-18mm。翅の表面は黒く,後翅裏
面に銀色の帯がある。他のセセリチョウに比べると腹部が
長い。年2回5月と7-8月に発生。明るいススキの原を弱々
しく飛ぶ。幼虫の食草はススキ,エノコログサなど。鳥取
県では西部の平地や低山地での記録が多い。産地は局所
的。県東部の山地草原には1950-1960年代には生息してい
たが,現在は絶滅とみられる。
■分布(県内):倉吉市と西部各地。東部での近年の記録は
ない。
■分布(県外): 北海道,本州,四国,九州;中国大陸,朝
鮮半島,シベリア。
■生息環境:山地や河川敷の乾燥草原(ススキ原)
■保護上の留意点:局所的な生息地が河川の改修工事や除
草により減少する恐れがある。生息実態調査が必要。
■文献:
兵庫県(1997)ひょうごの野生生物,184-185.
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:松田裕一
レッドデータブックとっとり (動物) 139
ホシチャバネセセリ 鱗翅目(チョウ目)セセリチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Aeromachus inachus (Mé
enéetrièes, 1858)
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
ホシシャバネセセリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎
◎
◎
●
◎
○
岡山県新庄村野土路 1994.8.1 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:生息地の山地草原の減少にともない1980年代
以降きわめて稀になった。
■形態と生態:翅長10mmでセセリチョウの中では最小。
食草はオオアブラススキ(イネ科)など。成虫はススキの
ある草原に年1回,7-8月(7月の中∼下旬にもっとも多い)
に発生し,オミナエシなどの花に集まるが,飛び方は敏捷
である。幼虫で越冬。岡山県境に近い中国山地沿いに分布
する。日野郡日野町の小原と別所は1970年代までは良好な
生息地だったが,地域内で新道路建設工事が始まって以来
減少した。近年きわめてだが,別所では2000年7月17日に
も1雄を確認できた。
分布(県内):岡山との県境沿いの山地。過去に若桜町,智
頭町,江府町,日野町から記録があるが1990年代以降では
日野町別所でしか見つかっていない。
■分布(県外):本州,対馬;ロシア極東地域,中国,朝鮮
半島。
■生息環境:標高500m前後の山地の,近くに林のあるスス
キ草原。
■保護上の留意点:山地のススキ草原の維持が重要。
■文献:
小林一彦(1968)鳥取県産蝶類目録. pp. 42-58. In: 昆虫類目録.
鳥取県立博物館.
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
スジグロチャバネセセリ 鱗翅目(チョウ目)セセリチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Thymelicus leoninus leoninus (Butler, 1878)
環境省:準絶滅危惧(NT)
スジグロチャバネセセリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●
○
◎
◎
◎
●
◎
雄 島根県仁多郡仁多町呑谷 1996.7.22 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:県内の生息地は局所的で,個体数も少ない。
■形態と生態:前翅長13mm内外。翅表は赤褐色でその名
のとおり支脈上に黒い線がある。年1回,7-8月に発生。食
草はカモジグサなどのイネ科植物。樹林をまじえる草原に
生息し,アザミやオカトラノオを訪花する。県内では関金
いぬばさり
町犬挟峠以西でしか記録がない。最近10年ほど採集報告が
途絶えていたが,2000年の夏には三島寿雄氏により次のと
おり西部の数カ所で生息していることが確かめられた:溝
口町横手道(1♂,2000.7.27)
,会見町上野(1♀,2000.7.14),
日野町小原と別所(各1♀と2♂,2000.7.17)
。
■分布(県内):県中部および西部の山地。関金町,会見町,
溝口町,江府町,日野町での採集記録があるが,年代の古
いものが多い。現在確実な生息地は上述のとおり。
■分布(県外):北海道南部,本州,九州;中国大陸,アムー
ル,朝鮮。国外は別亜種。
■生息環境:標高300m以上の樹林をともなう湿地や小河川
の流域また二次林の周辺部の草地。
■保護上の留意点:生息状況についてさらに実態調査が必
要である。
■文献:
兵庫県自然保護協会編集(1997)ひょうごの野生動物,229 pp.
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:松田裕一
140 昆虫類
コキマダラセセリ 鱗翅目(チョウ目)セセリチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Ochlodes venatus venatus (Bremer & Grey, 1853)
環境省:−
コキマダラセセリ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
●
○
○
◎◎
◎◎
◎○
●
○
●
○
◎ ○○
○
○
○
○
佐治村 1993.7.19 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:生息適地の急激な減少。県内では絶滅のおそ
れがある。
■形態と生態:前翅長15-20mm。国内産の黄色系のセセリ
チョウの中では大型。雄は裏面もふくめ全身鮮やかな橙赤
色,雌は暗褐色の地色に黄色斑がある。中国地方には近似
種はなく,野外でも地色と大きさで識別は容易。年1化で
成虫は7月∼8月上旬に出現。幼虫の食草はススキなどイネ
科の各種でヒカゲスゲなどカヤツリグサ科の一部も食べ
る。成虫は活発に飛翔し,アザミ類やオカトラノオの花に
よく集まる。県内では1970年代までは岩美町より日南町ま
で,中国山地沿いにほぼ連続的に分布していた。かつては
採草地としてのススキ草原が県下のすべての山村に造成さ
れており,本種はそのススキ草原を主な生息地としていた
からである。しかし1960年代半ばからの農業生産様式の変
化によって採草地は不要となり,造林や植生変化により,
それらの草原の大部分は失われた。群落相観が草原でも,
ススキに代わってササ群落化している所が多い。それにと
いぬばさり
もない本種の採集の知見は激減し,1994年関金町犬挟峠で
の記録で報告は途絶えている(未発表では滝河哲郎氏によ
る江府町鏡ヶ成からの1996年の記録がある)。県境沿いの
山地での記録は,おそらく山陽側の斜面に属するものであ
る。ただし,本種は同じ草原性の種であるウスイロヒョウ
モンモドキ,ゴマシジミ,ヒメヒカゲなどに較べると,小
型で移動力もあり,食草を含め環境適応性があると考えら
れるので,調査すれば,県内になお若干の生息地は確認で
きると思われる。
■分布(県内):1970年代以降では国府町∼日野町まで。大
山周辺が中心。
■分布(県外):北海道,本州(近畿地方は空白)
;ヨーロッ
パ大陸北部∼東アジア北部。
■生息環境:山地の陽当たりのよいススキ草原とその周辺
の林道沿い,落葉広葉二次林の林縁。
■保護上の留意点:これらの草原種の保護には,特定の草
原地域を人為的に維持管理する以外に方策がないと思われ
る。
執筆者:小林一彦
ギフチョウ 鱗翅目(チョウ目)アゲハチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Luehdorfia japonica Leech, 1889
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
ギフチョウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●●
○
●
◎
◎
●
◎
◎●
◎
●
○
●
○
◎
◎ ●
●
◎
◎
●● ●
◎
●
● ● ●
◎●◎
○
◎
◎
◎
○
◎
◎ ◎◎
◎ ● ◎◎
○
○
●
◎
●
○
◎
●
●
○ ●
●
●
● ●
●
●
●
●
◎
●
○
●
鹿野町鷲峰山 1993.5.4 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:良好な里山環境の指標であり,食草利用や斑
紋にも地域的分化がみられるが,開発や雑木林の衰退で生
息地は減少傾向にある。
■形態と生態:前翅長30mm内外。翅は黒色の地色に黄色
の縦線を複数伴う。年1化で成虫は3月下旬に出現しはじ
め,高地では5月上旬頃まで見られる。成虫は,早朝から日
中にかけて樹影のある山頂部や尾根筋,伐採斜面などに集
まる。卵は食草のカンアオイ類の新芽裏面に10個前後が塊
りで産みつけられる。蛹越冬。産地により食草とするカン
アオイ類の種が異なり,また斑紋にも変異がみられる。局
所的ではあるが県内には広く分布し現在までに約80カ所の
記録がある。ミヤコアオイを食草とする中・西部と,サン
レッドデータブックとっとり (動物) 141
インカンアオイを食草とする東部の2群に大別できる。日
野郡日南町には,ヒメカンアオイを食草としミトコンドリ
アND5遺伝子にも固有の特徴をもつ集団がある。
■分布(県内):県内各地。
■分布(県外):本州(日本海側は秋田県以南,太平洋側は
東京都以西)。日本固有種。
■生息環境:雑木林と藪や小川が混交する起伏に富み適度
に開けた地形をともなう里山から山地。食草のカンアオイ
類があれば樹種はあまり問わない。春は明るく,夏は薄暗
くなるような季節的推移のはっきりした林床に多い。
■保護上の留意点:二次林の伐採後に植林したスギ・ヒノ
キ類が生長し,林床に日があたらなくなったため,カンア
オイ類が消失し,本種が生存できなくなった地域がある。
また,扇ノ山のように採集圧で個体数が減少していると思
われる地域もある。
■文献:
広渡一成・渡辺一雄(2000)西日本産ギフチョウのミトコンド
リア ND5遺伝子に認められたスニップス(一塩基多型:SNPs)
とその意味.ホシザキグリーン財団研究報告, 4: 215-224.
渡辺一雄・淀江賢一郎・難波通孝・山中捷二・後藤和夫(2000)
中国地方におけるギフチョウ- 分布図および分布論.ホシザ
キグリーン財団研究報告, 4: 225-237.
執筆者:淀江賢一郎
ツマグロキチョウ 鱗翅目(チョウ目)シロチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Eurema laeta betheseba (Janson, 1878)
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
ツマグロチョウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎
○
●
●
○
○○
●●
● ◎
○
●●
○
◎
○
◎
○
●
◎
◎◎
◎ ○○
○
○
●
○
◎
◎
○
◎
◎
◎
○
◎
○
大山丸山 1995.10.8 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:砂丘,河川敷,墓地,堤防などのような不安
定な場所に生息し,生息環境の改変の影響を受けやすい。
1980年代後半より個体数が減少傾向。
■形態と生態:翅長20mm内外。普通種のキチョウE. hecabe
よりも小型で前翅先端が尖る(とくに秋型で顕著)。河川
敷,海岸砂丘などの荒れ地に生息し,幼虫はカワラケツメ
イ(マメ科)のみ食べる。成虫で越冬し,年2化。成虫はマ
メ科,キク科,スミレ科などを訪花する。近年都市部を中
心に本種の急速な減少が問題となっているが,県内でも減
少傾向で,とくに東部では近年の報告がない。
■分布(県内):県内全域(近年の記録は中部と西部のみ)
。
■分布(県外):本州(東北地方南部以南)
,四国,九州;イ
ンド,インドシナ,中国,台湾,朝鮮半島。
■生息環境:河川敷,砂丘,放牧地など明るい荒れ地。
■保護上の留意点:減少の原因はよくわからないが,食草
カワラケツメイが生育地の荒廃や外来植物の侵入などで減
少している可能性ある。食草の生育状況とあわせた生息実
態調査が必要。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市),207 pp.
矢田 脩・上田恭一郎(1993)やどりが 特別号. 日本産蝶類の
衰亡と保護, 第2集.日本鱗翅学会(大阪), 205 pp.
執筆者:田村昭夫
142 昆虫類
スジボソヤマキチョウ 鱗翅目(チョウ目)シロチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Gonepteryx aspasia niphonica Bollow, 1930
環境省:−
スジボソヤマキチョウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎ ◎
●◎
●
○ ◎◎
○ ◎
◎
● ●
◎
◎
○
◎
◎
○
●◎
○
●
○
○
◎
◎
●
●
◎
◎
◎
◎
○
◎
◎
◎
島根県仁多町呑谷 1998.9.20 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:かつては山地に広く分布していたが,近年激
減し,大山などでは絶滅状態である。
■形態と生態:翅長30-35mmで,シロチョウ科の中では大
型。年1化で,県内では6月中旬に羽化しオカトラノオ,ヒ
メジョオン等を訪花,あるいは牧場などの湿地で吸水す
る。梅雨明けとともに夏眠し,9月以後再び現れ,好天時に
はオトコエシ,ヒヨドリバナ等初秋の各種の花に集まる。
成虫で冬眠し,3月下旬以降の温暖な日に現れるが,この頃
にはさらに分布を広げ,低地でも見かけることがある。そ
の後交尾,産卵して死亡。食草はコバノクロウメモドキな
ど。県内にはもともと個体数は少ないながら中国山地稜線
沿いを中心に山地に広く分布し,日野町黒坂地区などには
比較的多産した。近年はまれになり,この数年で本種の生
息を確認しえたのは,県西部では日野町鵜ノ池のみ。
■分布(県内):全域の山地。1990年以降の確認地点は,福
部村清内谷,国府町宝殿,郡家町姫路,鹿野町河内,鷲峰
山,三朝町三徳,江府町栗尾,日野町黒坂,鵜の池。
■分布(県外):本州,四国(九州では絶滅)
;ロシア極東,
朝鮮半島,中国。
■生息環境:低山地から山地の疎林,草原。幼虫の食草は
コバノクロウメモドキ。
■保護上の留意点:食草の保護が前提として必要。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
アカシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Japonica lutea lutea (Hewitson, 1865)
環境省:−
アカシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
○
○ ○●
○ ◎○
○
◎
◎
◎
○
●
●
◎
◎
○
○
◎●
◎●
◎ ○◎
○
●
●
●
○
●
◎
◎
○○
○
○
島根県安来市 2001.5.26 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由: 1980年代前半より減少傾向にある.
■形態と生態:翅長20mm内外。卵越冬,年1化で,成虫は
5月下旬∼6月下旬に見られる。主に平地のクヌギ,コナ
ラ,ミズナラなどの雑木林に生息し昼間はクリの花などで
吸蜜する.コナラ,ミズナラなどが高木になると,周囲の
低木に生息場所を移動させる。近年はエネルギー革命によ
り,ナラ類の薪炭林としての価値がなくなり,手入れがさ
れないことで雑木林が過度に暗くなったり遷移で樹種が交
替し,生息地が狭まりつつある。また低山の生息地は宅地
造成でも消滅することがある。
■分布(県内):県内全域の低山。産地は局地的。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;ロシア極東地
域,中国東北・西部∼チベット,朝鮮半島,台湾。
■生息環境:平地∼山地のコナラ,カシワ,ミズナラ,ク
ヌギ等の落葉ナラ類の林。
■保護上の留意点:生息地では適度な管理で,コナラ,ク
ヌギなどの雑木林などが更新・維持されることが望まれる。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
矢田 脩・上田恭一郎(1993)やどりが 特別号 日本産蝶類
の衰亡と保護 第2集.日本鱗翅学会, pp. 205,大阪.
執筆者:田村昭夫
レッドデータブックとっとり (動物) 143
ウラナミアカシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Japonica saepestriata (Hewitson, 1865)
環境省:−
ウラナミアカシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎
○
○
◎
◎
○◎○
○
◎
◎
○
◎
●
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
江府町三平山 1994.6.26 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:食樹のコナラやクヌギの若木の減少のせいか,
近年,個体数が激減している。
■形態と生態:年1化,卵越冬。成虫は6月上旬から7月下旬
にかけてみられる。アカシジミより10日程度発生が遅い。
平地のクヌギやコナラの雑木林に生息し,昼間はクリの花
などで吸蜜。食樹はクヌギなどの若木。産地は限られる
が,県内には広く分布していた。しかし,雑木林が更新さ
れず,食葉を提供する若い木が全域で減少しているせい
か,個体数の減少が著しく,1985年以降では2000年の1例記
録(河原町稲常,滝河哲郎氏)があるのみである。
■分布(県内):県内全域であるが,生息地は限られる。
■分布(県外):北海道南部,本州,四国北部に分布し,ロ
シア沿海州,中国東北部,朝鮮半島に分布する.
■生息環境:平地や丘陵地の,落葉ナラ類の林。
■保護上の留意点:生息地では食樹が更新するよう雑木林
の適度な手入れが必要。また,生息実態調査も必要。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち.山陰中央新報社
(松江市),207 pp.
矢田 脩・上田恭一郎(1993)やどりが 特別号 日本産蝶類
の衰亡と保護 第2集.日本鱗翅学会,205pp.,大阪.
執筆者:田村昭夫
オナガシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:その他の重要種(OT)
Araragi enthea enthea (Janson, 1877)
環境省:−
オナガシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
◎
◎
●
◎◎
◎
●
◎
●●
● ●●●
● ●
●
◎
●
●
●
●
◎
◎
●
●
◎
◎
○
○
●
◎
◎
○
◎◎
日南町 1993.8.1 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:千代川上流付近で翅の紋様パターンが移行す
る。近年,渓谷部の道路建設等により減少傾向も著しい。
■形態と生態:前翅長約18mm。年1回7月中旬ごろから発
生し,ミドリシジミ族としては遅いほうである。成虫は,
夕方に食樹のオニグルミの梢を飛び交う。食樹に対する執
着はきわめて強い。卵は大木わきにある小木やひこばえの
休眠芽付近に1∼数個ずつ産みつけられる。県内には山地
渓谷のオニグルミ林に生息するが,鳥取市内を流れる千代
川を境に,その東側の個体群は翅の色調が黒っぽく,西側
の個体群では白っぽいことが知られている。
■分布(県内):標高300-500m前後の渓谷。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;中国東北部,
朝鮮半島,台湾,ロシア沿海州。
■生息環境:オニグルミの自生する渓谷および山腹斜面。
■保護上の留意点:オニグルミは渓谷沿いに生えているこ
とが多く,道路建設等の開発行為による被害を受けやす
い。オニグルミを含む自然林の保全が重要。翅の紋様の移
行域はとくに重要(分布図の斜線部)
。
■特記事項:千代川ラインで分かれる2型のより詳細な分布
域,変異幅についての調査が望まれる。
■文献:
浅野 隆・小椋英勇(2000)中国山地のオナガシジミの変異.
蝶研フィールド, 7(15): 15-19.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:淀江賢一郎
144 昆虫類
ミドリシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Neozephyrus japonicus (Murray, 1875)
環境省:−
ミドリシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎
○
●●
◎
○◎○
◎
◎
◎◎
◎
○
●
○
◎●
○
○
○
◎◎
○
◎●
◎
岡山県蒜山 1993.8.16 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:湿地のハンノキ林などに生息するが,湿地の
埋め立てなどにより生息地が減少傾向。
■形態と生態:翅長は18-20mm,成虫は年1回,6月中旬に
発生する。大山では7月。食草のハンノキやヤマハンノキ
の生育する湿地,山地。雄の翅表は濃金緑色で,定まった
葉上に羽を広げてとまり,占有性をもつ。雄は夕刻活発に
飛び回る。雌は不活発。成虫の寿命は長いもので約1カ月。
卵で越冬する。県内では国府町から日南町まで分布は広い
が生息地はもともと限定されていた。大山町種原,日南町
花口など,既知産地のいくつかの場所はすでに埋め立てら
れ,絶滅した場所も多い。旧称県民の森周辺は比較的良好
な状態である。
■分布(県内):国府町から日南町までの低山∼山地。産地
は西部に多い。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;ロシア極東部,
中国北東部,朝鮮半島。
■生息環境 :食草のハンノキの生育する湿原の周辺。
■保護上の留意点:湿地の保護が第一である。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
ヒサマツミドリシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Chrysozephyrus hisamatsusanus hisamatsusanus (Nagami & Ishiga, 1935)
環境省:−
ヒサマツミドリシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎◎
○
◎
◎
兵庫県三川山 1984.8.24 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:生息地が非常に限定され,かつ個体数も減少
傾向。
■形態と生態:前翅長は18mm前後。雄の翅表は前後翅と
も黒縁にふちどられて緑色に輝き,雌は茶褐色の地色で前
翅中室に赤斑と青斑をもつ。卵越冬年1化で,成虫はふつ
う6月中旬∼7月上旬に発生するが,8月には夏眠に入り発
見できなくなる。9月から再び現れて,9月下旬から11月上
旬に植樹であるウラジロガシなどの花芽に好んで産卵す
る。卵は食樹ウラジロガシの休眠芽の基部に1個ずつ産み
つけられ,翌年新芽の芽立ちとともに孵化する。幼虫は花
きゅう
芽や若い葉を集めて作った巣の中にかくれる。鳥取市 久
しょうざん
松山が模式産地で,和名「ヒサマツ」ミドリシジミは,久
松山を意図的に読み替えたものである。
■分布(県内):久松山(鳥取市)
,佐治谷(佐治村)
,三徳
山(三朝町)
,大山(溝口町)など。久松山では絶滅した
と思われていたが,きわめて少数が残存しているようであ
る。
■分布(県外):本州,四国,九州(産地はどこでも局地的)
(日本固有種;台湾に近似種イチモンジミドリシジミが生
息)
。
■生息環境:霧が立ちこめるような照葉樹林の谷筋。卵は
ウラジロガシの原生林よりも,やや標高の高いミズナラ林
に混じるウラジロガシに多く見られる。
■保護上の留意点:本種は自然度の高い照葉樹林帯に局地
レッドデータブックとっとり (動物) 145
的に生息し,本種の保護を考えるならば,自然度の高い照
葉樹林帯やウラジロガシの混じる落葉広葉樹林帯をこれ以
上伐採しないことが必要である。
■文献:
竹内 亮(1993)ヒサマツミドリシジミ. pp. 156-157. In: 鳥取県
のすぐれた自然 (動物).
竹内 亮(1994)久松山とヒサマツミドリシジミ. pp. 170-171.
In:山陰のチョウたち. 山陰中央新報社 (松江市).
執筆者:淀江賢一郎 キリシマミドリシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Chrysozephyrus ataxus kirishimaensis (Okajima, 1922)
環境省:−
キリシマミドリシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
○
◎
◎
◎
◎
◎◎
◎
○ ◎
●
◎
◎
◎
◎
島根県隠岐大久 2000.8.11 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:県内の生息地が限定され,かつ生息地・個体
数ともに減少しつつある。
■形態と生態:前翅長は20mm前後。雄の翅表は金緑色で
外縁は細い黒線で縁どられ,裏面は銀白色で弱い褐色斑が
ある。雌の翅表は暗褐色で前翅基半部に青藍斑があり,裏
面は褐色で太い白線が走る。雌雄とも裏面後翅端に橙色斑
がある。年1化で,成虫は7-8月に出現し,雄は日中に渓谷
の斜面を敏速に飛翔するが,雌は樹間に潜む。主要な食樹
はアカガシで,休眠芽の基部に産卵し,卵で越冬する。翌
春の芽立ちとともに孵化し,幼葉を綴って巣をつくる。
■分布(県内):用瀬町から大山にかけての山腹。
■分布(県外):本州(神奈川県丹沢以西,三重県,和歌山
県,島根県等),四国,九州,対馬,隠岐(島後)
;ヒマラ
ヤ,ビルマ北部,中国大陸西部,台湾(国外は原名亜種)
。
■生息環境:アカガシの古木や幼木が混在する一定規模以
上の常緑広葉樹林。
■保護上の留意点:常緑広葉樹林は,造林による樹種転換
で減少している。とくに本種が生息するアカガシが混生す
る常緑広葉樹林は限られており,全面的な保護を要する。
■文献:
河本哲至(1978)河来見産キリシマミドリシジミ私考. すかし
ば, 9: 7-8.
竹内 亮(1993)キリシマミドリシジミ. pp. 158-159. In: 鳥取県
のすぐれた自然 (動物).
淀江賢一郎(1997)キリシマミドリシジミ. pp. 208-209. In: しま
ねレッドデータブック (動物編).
執筆者:門脇久志
146 昆虫類
オオミドリシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Favonius orientalis (Murray, 1875)
環境省:−
オオミドリシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎
○
◎
○
◎
◎
◎
◎
●
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎◎
○
○
◎
◎ ◎
○
○
○
◎
●
○
◎◎
○
◎
●
◎
◎
◎
岡山県恩原高原 1993.7.29 / 撮影:鳥越康教
■選定理由: 生息地,個体数ともに1980年代後半より減少
傾向。
■形態と生態:翅長20mm内外。年1化で成虫は6月上旬か
ら7月上旬にかけてみられる。昼間にクリの花などで吸蜜
する。平地のコナラ,ナラガシワ林に生息し,県内全域に
生息するが,生息地は限られている。
■分布(県内):ほぼ全域。ただし生息地は限られる。
■分布(県内):北海道,本州,四国,九州;サハリン,ロ
シア極東地域,中国東北部,朝鮮半島。
■生息環境:低山地のコナラ,カシワ,ミズナラ,ナラガ
シワ,クヌギ等の落葉ナラ類の林に見られる。
■保護上の留意点:コナラなどの雑木林の管理による適度
な更新がのぞまれる。また低標高の山地にある本種の生息
地はしばしばアカマツ林などと隣接するため松くい虫防除
のための農薬の空中散布による影響も懸念される。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
矢田 脩・上田恭一郎(1993)やどりが 特別号 日本産蝶類
の衰亡と保護 第2集.日本鱗翅学会, pp. 205,大阪.
執筆者:田村昭夫
ヒロオビミドリシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Favonius cognatus latifasciatus Shirô
ozu & Hayashi, 1959
環境省:−
ヒロオビミドリシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎●
●
○◎
○
●
●
◎
◎
◎
○
○
○
●
◎
●
○
◎
●
○
○
○
◎
◎
日野町鵜の池 1998.6.8
■選定理由:県内の生息地が限定され,かつ減少傾向。
■形態と生態:前翅長約21mm。本州西部地域のみに分布
し,食樹であるナラガシワのある低山地の二次林のみが生
息地となる。古木がある程度存在する林に多い。年1化で
成虫は6月中旬頃が最盛期となり,雄は午前と午後2時間程
度活発に飛翔するが,雌は不活発で樹葉上にいることが多
い。卵で越冬。
■分布(県内):福部村,国府町,河原町,三朝町,会見町,
日野町など。
■分布(県外):本州西部(大阪府西部∼山口県)
(日本固有
亜種);朝鮮半島,ロシア沿海州(国外は基亜種)
。
■生息環境:低山地のナラガシワが存在する林で,よく日
の当たる明るい場所。
■保護上の留意点:ナラガシワは低山地域に二次林として
存在するが,川や池など近くに水があるところに多く,オ
リエンテ−リング場や公園などとして整備開発されたり,
椎茸栽培などで伐採されたりで,消滅する傾向にある。そ
れとともに本種の産地や個体数も激減している。残ったナ
ラガシワの林を保全していくことが最重要である。
■文献:
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
竹内 亮(1993)ヒロオビミドリシジミ. pp. 160-161. In: 鳥取県
のすぐれた自然 (動物).
執筆者:坂田国嗣
レッドデータブックとっとり (動物) 147
ウラジロミドリシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Favonius saphirinus (Staudinger, 1887)
環境省:−
ウラジロミドリシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
○
◎
●
●
○◎
◎
◎
○
◎
◎◎ ●
◎ ●●
◎
○
●
●
●●
◎
◎
○
◎
◎◎
○
●
○
○
日野町鵜の池 1998.6.12 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:身近な普通種であったが,人為的影響を受け
やすい低山地にあるナラガシワ林に生息するため,林地の
利用や荒廃で近年急速に生息地が減少した。
■形態と生態:翅長18mm内外。ゼフィルスと呼ばれる一
群で,雄の翅表は青緑色の金属光沢を呈し,飛翔時にキラ
キラ光る。雌の翅表は黒褐色で前翅の中ほどに橙色が入る
ものもある。翅の裏面の白地にうすい斑紋が入ることが種
名の由来。卵越冬,年1化で,食樹のナラガシワの枝に産み
つけられた卵は新芽の開葉とともに孵化。成虫は6月中旬
に出現する。
■分布(県内):県内全域の平地や丘陵地。
■分布(県外):北海道,本州,九州;ロシア極東地域,中
国東北部,朝鮮半島。
■生息環境:低山地や丘陵地のナラガシワ林
■保護上の留意点:ナラガシワ林は放置すれば他の樹種に
変わる。薪炭林としての必要がなくなったいま,ほだ木等
に利用して更新することと伐採時の避難場所としてナラガ
シワ林がパッチ状に散在することが必要である。また,ナ
ラガシワはアカマツ林などの林縁に生育するため,果樹園
や松くい虫防除の薬剤散布で幼虫や成虫に影響を与えない
配慮が必要である。
■文献:
國本洸紀(1995)低山地帯蝶類の絶滅. pp. 220-223. In: 新編倉吉
市史 第4巻 (自然・文化編).
執筆者:國本洸紀
ミヤマカラスシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Strymonidia mera (Janson, 1877)
環境省:−
ミヤマカラスシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
◎○
○
◎
撮影:坂田国嗣
■選定理由:1980年代以降,個体数が急激に減少。
■形態と生態:翅長は17mm内外。年1回,7月に羽化し,
最盛期は7月20日前後。樹林周辺の樹木の葉上に静止して
いることが多い。8月にはほとんど見ない。卵で越冬する。
スジボソヤマキチョウと同じくコバノクロウメモドキ(ク
ロウメモドキ科)が食草であるが,同種よりさらに局地的
で活動範囲が狭い。大山では桝水原のキャンプ場周辺にの
み産し,県内では1970年代まで最も良好な生息地であった
が,現在は絶滅状態。
■分布(県内):過去に鳥取市,三朝町,溝口町,日野町か
ら記録されている。1990年代以降の生息記録は,三朝町三
徳が唯一。
■分布(県外)
:北海道,本州,四国,九州(日本固有種)。
■生息環境 :食草コバノクロウメモドキの生育する山地の
落葉広葉樹林。
■保護上の留意点:食草の生育する落葉広葉樹林の保護。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
148 昆虫類
キマダラルリツバメ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Spindasis takanonis (Matsumura, 1906)
環境省:準絶滅危惧(NT)
キマダラルリツバメ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○ ○
◎
○
◎
○
◎
○
○○
●
●
●
○
○ ○
●
◎
●●
◎
○
◎
◎
○○
◎
◎
●
◎ ●
◎
○
●
鳥取市鳥取砂丘 2000.6.25 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:生息地がきわめて局地的で,減少傾向。
■形態と生態:裏面に黄色の地色に銀白色条を伴う複数の
黒線が縦に走り,後翅には長短2本の尾状突起を有する。
前翅長は12-18mm。年1回の発生で平地では6月中旬∼7月
上旬,山地では7月上∼中旬ごろ見られる。成虫は,午後3
時頃から日の当たる梢や,開放された空間で強いなわばり
をつくる。ハシブトシリアゲアリと共生し,産卵はアリの
通路やその付近で行われる。孵化した幼虫はアリの巣に入
り,全期間をアリと共生し,アリから餌をもらって成長し,
4令で越冬する。越冬後2回脱皮し,6令が終令幼虫となる。
蛹化はアリの巣の中の開口部付近で行われる。
■分布(県内):鳥取市から溝口町まで。県内では今のとこ
ろ,46カ所の生息地が発見されているが,すでに絶滅した
産地もある。
■分布(県外):本州(岩手県から広島県まで;どこでも局
地的)
;中国,朝鮮半島。
■生息環境:公園・学校・墓地・堤防などのサクラ類・マ
ツ類を主体とした場所。砂丘のクロマツ・ニセアカシアを
主体とした砂防林,山地のカシワ林などでも見られる。
■保護上の留意点:宅地・工場造成,道路の改修工事等で
生息地が消滅したところがある。また,松くい虫防除の農
薬空中散布の影響も大きい。
■特記事項:鳥取市(東町,栗谷町,上町)の「キマダラ
ルリツバメチョウ生息地」は国の天然記念物(地域指定:
1934年制定)
。
■文献:
鳥越康教(1994)天然記念物キマダラルリツバメの一生. pp. 162165. In: 山陰のチョウたち, 山陰中央新報社(松江市)
山崎哲郎(1997)西日本のキマダラルリツバメ(5).蝶研フィー
ルド, 12(1): 4-11.
執筆者:淀江賢一郎
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
クロシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
Niphanda fusca (Bremer & Grey, 1852)
環境省:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
クロシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎
◎
○
○
○
○ ○
○
◎
◎
●
○
○
◎
○
○
島根県隠岐知夫里島 1994.7.11 / 撮影:鳥越康教
■ 選定理由:全国的に激減しており,絶滅が心配されてい
る。本県もその例外ではない。
■ 形態と生態:翅長は21mm内外。成虫はカシワなどの疎
林などに,6月下旬より現れる。成虫は樹の葉上に静止す
るほか,ヒメジョオンなど,各種草花に飛来する。約1カ月
生存し,キジラミ,アブラムシなどの寄生する樹木,草本
に産卵する。幼虫は1,2齢の間はアブラムシなどの分泌液
を食するが,以後はクロオオアリの巣の中に入って,アリ
と共棲する。幼虫越冬。
■分布(県内):国府町から日野町まで。ただし,大半の産
地ではすでに絶滅とみられる。1985年以降では,1995年の
国府町河合谷高原での記録(1♀, 31-VII,滝河哲郎氏)が
唯一。
■分布(県外):本州,四国,九州,隠岐,対馬; 中国大陸,
朝鮮半島。
■生息環境:伐採後2,3年の変遷途中の明るい荒れ地や疎
林。アブラムシやキジラミが寄生する草本があり,その周
辺にクロオオアリ,クロヤマアリの巣がある場所。
レッドデータブックとっとり (動物) 149
■保護上の留意点:草刈りや放牧にともなって生じた明る
い疎林が,維持管理作業が行われなくなったため遷移が進
み消失していることが減少の大きな要因と考えられる。生
息地が確認された場合は,生息に適した環境を人為的に創
出することを考える必要がある。
蛭川憲男 (1985) 日本の昆虫クロシジミ. 文一総合出版 (東京).
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
■文献:
シルビアシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Zizina otis emelina (de l'Orza, 1869)
環境省:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
シルビアシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
● ○○ ●
○
○
●
●
●
◎
◎
◎○
◎
○○
◎
◎
○
◎
◎●
米子市福市日野川 2001.5.6 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:河川堤防等の整備に伴う河原や土手の自然草
地等の減少によって,生息地の消失が著しい。
■形態と生態:翅長は約11mmで最も小型のシジミチョウ。
普通種のヤマトシジミに酷似する。年に2,3回発生し,成
虫の第1化は4月中旬,第2化は6月中旬で,10月まで見られ
る。生息環境は食草のミヤコグサの生育する河原や土手な
どの草地が主体で,海辺の岩場にも生息地がある。カラス
ノエンドウ等の花に集まる。寿命は3週間あまりで,越冬
態は幼虫。県内でもとから大きな河川の河川敷を中心に局
地的にみられるのみであったが,堤防の整備や宅地造成で
生息地は減少している。鳥取市では1979年の袋川(江津)
での記録以降,報告がない。日野川河川敷の生息地は改良
工事のためほとんど絶滅したが,食草のミヤコグサが米子
道の土手(岸本町の料金所近く)に局地的に繁茂したため,
生息地を移動した。
■分布(県内):県中部,西部(東部では1980年以降の記録
がない)
。
■分布(県外):本州,四国,九州,南西諸島;インド,オー
ストラリア区,アフリカ(南西諸島や国外産は別亜種)
。
■生息環境 :食草ミヤコグサの生育する河原,河川敷,土
手。
■保護上の留意点:河原や土手などの自然草地の維持が重
要。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
米子市史編さん協議会(編)
(1997)新修 米子市史, Vol. 6. 自
然編. 米子市, 435 pp.
執筆者:三島寿雄
150 昆虫類
ゴマシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Maculinea teleius (Bergsträ
asser, 1779)
環境省:絶滅危惧 I I 類(VU)
ゴマシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎
●
◎
○
●
◎○
●◎
●
◎
◎
◎
●
●
◎●
◎ ◎
◎◎
◎●
大山豪円山 1993.8.6 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:県内の生息地が著しく減少しており,最も良
好な生息地であった大山(桝水原,豪円山)でも個体数が
激減している。
■形態と生態:翅長は18-24mm。年1化,幼虫越冬で,成
虫は早い年には7月下旬から現れる。一般には8月初めから
約1カ月。緩やかに飛び,食草のワレモコウやハギの花を
訪れる。雌を9月上旬に見ることもある。ワレモコウ(バラ
科)に産卵し,1,2齢幼虫はワレモコウを食し,以後はク
シケアリの巣の中に入り,同種アリの幼虫を捕食する一
方,自分のからだから出る分泌液をアリに与える,という
共生生活を送る。地域変異が多く,本県など中国地方に産
する集団の翅には青色部が発達している。
■分布(県内):倉吉市西部および三朝町西部∼溝口町,江
府町までの山地草原。1990年以降の記録は,大山町(豪円
山,中の原)
,溝口町(桝水原,金屋谷,福永原,富江)
,
江府町(宮市原,吉原,三平山)に限られていたがほとん
どの地区で絶滅。
■分布(県外):北海道,本州,九州;ユーラシア大陸北部。
■生息環境:幼虫の食草ワレモコウの生育する高標高のス
スキ草原。
■保護上の留意点:現在,生息地となっている草原の維持
が重要。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
鳥取県:準絶滅危惧 (NT)
スギタニルリシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
Celastrina sugitanii (Matsumura, 1919)
環境省:−
スギタニルリシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎
○
◎
●
○
●
●
●
◎●
●
◎ ●●
◎
○
●
●
●◎ ○
●
●●
○○
○
●
●○ ●
●
智頭町芦津 1985.4.28 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:生息適地が減少している。
■形態と生態:前翅長11-16mmの小型のシジミチョウ。雄
の翅表は暗紫色,雌はやや明るいが翅縁が太く黒色に縁取
られる。裏面は雌雄ともルリシジミC. argiolusより暗色で,
飛翔中もルリシジミより黒っぽく見える。年1回4月中旬か
ら5月上旬に発生。晴天時に活動し,渓畔の花で吸蜜する
ほか,よく地上で吸水する。幼虫はトチノキの花や蕾,実
などを食べる。県内には東部の山地に生息地が多い。日野
郡奥地や島根県東部に広い分布の空白があるのは,この地
域では近世以降のタタラ製鉄でトチノキの高木が失われて
いるからであろう。垂直分布はトチノキの生育するほぼ
450m以上で,600-800mに多い。
■分布(県内)三朝町東部以東の山地と江府町周辺。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;中国,台湾,
朝鮮半島。
■生息環境:トチノキの生育する渓谷。幼虫は花や蕾を食
べるが,トチノキは低木∼亜高木では開花しないので,大
きく成長した高木の存在が必要。渓畔部の極相としてトチ
ノキ群落をともなうブナ原生林域が最適だが,本種は陽地
での活動を好むため,典型的な極相林よりは,林道や伐採
レッドデータブックとっとり (動物) 151
地との境,崩壊地など,林の周辺部に個体数が多い。
■保護上の留意点:トチノキの高木が生育する林分が保存
されること。幸い,現存するトチノキ林の多くは,トチの
実採取の対象として保護されている場所が多い。また,一
般にこの木の生育場所は渓畔の岩礫堆積地で,造林にも適
していない所が多い。
■文献:
竹内 亮(1993)スギタニルリシジミ. pp. 168-169. In: 鳥取県
のすぐれた自然 (動物).
執筆者:小林一彦
ヒメシジミ 鱗翅目(チョウ目)シジミチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Plebejus argus micrargus (Butler, 1878)
環境省:準絶滅危惧(NT)
ヒメシジミ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
●
○
●
◎
○●
○
○
◎
◎
○●
○
●
○
○
◎
●
○
○
●
●
◎
●
◎
●
●●
●
●
○
雄 佐治村 2001.6.23
■選定理由:特殊な生息環境であり,生息適地が減少しつ
つある。
■形態と生態:前翅長11-17mmの小型のシジミチョウ。雄
の翅表は美しい青藍色,雌は褐色。雌雄とも裏面の外縁に
そって橙黄色斑が並ぶ。雄の翅表の色彩には地域変異があ
り本県を含む中国地方のものは,外縁が幅広い黒帯で縁取
られる。年1化で成虫は6月中旬∼8月上旬に出現。飛翔は
ゆるやか。オカトラノオなどで吸蜜。幼虫の食草は中国地
方の湿原ではキク科のマアザミ,乾性地ではヨモギ,ノア
ザミが中心だが,マメ科,タデ科なども食べる。
■分布(県内):佐治村栃原∼日南町までの県境沿い山地。
2001年現在佐治村栃原が県内での東限(中国地方での東限
分布地は岡山県側の黒岩高原)。黒岩高原とともに中国地
方東限であった佐治村津野の北方稜線の湿原には,現在見
ることができない。佐治村以西では大山周辺と日南町一帯
に 生 息 地 が 多 い。垂 直 分 布 は500m以 上 で700-800mに 多
い。
■分布(県外):北海道,本州,九州(九重高原のみ)
;ヨー
ロッパ∼東アジア北部。本州中部以北では分布は連続的だ
が,近畿地方には生息せず,中国山地で再び出現し中国5県
にはすべて記録がある。
■生息環境:本州中部地方以北では高原の乾性草原に広く
見られるが,中国地方では山地の湿原が主な生息地とな
る。これらの湿原は中国山地の各所にみられる隆起準平原
や源流の緩傾斜地に形成されたもので,ミズゴケ類をベー
スにし,マアザミ,ヒメシダ,コバノギボウシ,チダケサ
シなど多くの湿地性植物が生育する。一方,本県において
も乾性的な草原や草地にも生息地があり,大山の中腹一帯
はその代表的なものである。その他,三朝町中津,鹿野町
河内,佐治村栃原等にも林道沿いの草地に(ヨモギが多い)
生息地がある。しかしこれら乾性的な生息地の多くは,大
山以外では小規模で個体数も少なく,比較的近距離にある
湿原から二次的に派生したもののように思われる。また他
の草原性チョウ類と異なり,かつて採草地として発達した
ススキ草原に生息することは少ない。
■保護上の留意点:生息地である湿原の保護が最重要であ
る。県内の湿原は保護指定を受けているものも含め,道路
の建設,治水事業などで水系が変化し乾性化が進行しつつ
あるものが多い。オタカラコウのような大型草木やイヌツ
ゲなどの低木,あるいはササ類が周囲から侵入して植生が
変化しつつある。
■文献:
小林一彦(1968)鳥取県産蝶類目録. pp. 42-58. In: 昆虫類目録.
鳥取県立博物館.
竹内亮(1993)ヒメシジミ. pp. 170-171. In: 鳥取県のすぐれた自
然 (動物).
執筆者:小林一彦
152 昆虫類
ウスイロヒョウモンモドキ 鱗翅目(チョウ目)タテハチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Melitaea protomedia protomedia (Mé
enéeterièes, 1857)
環境省:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
ウスイロヒョウモンモドキ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○○
◎
○ ◎
○
◎
○ ◎
◎
○
○
◎
●
○
○
○
○
○
◎
○
○
○●
●
●
○
◎
○
○
○
岡山県恩原高原 1993.7.13 / 撮影:鳥越康教
心。現在,本種の生息地は激減したが,その原因の大部分
■選定理由:生息地,個体数ともに激減,絶滅のおそれが
は農業生産様式の変化により,採草地確保を目的とした
高い。
“山焼き”などの人為が加えられなくなり,植生の変化(遷
■形態と生態:前翅長20-26mm。一見ヒョウモンチョウ類
移)が急速に進行し,ササ原や低木林に変化したためであ
に似るが,小型で飛び方も異なる。成虫は6月下旬より7月
る。
にかけて発生し,草原上や草間を低くゆるやかに飛び,オ
■保護上の留意点:わずかに現存する生息地では現在も遷
カトラノオなどの花で吸蜜する。幼虫の食草はオミナエシ
移は進行中で,放置すれば遠からず生息不適地となること
とカノコソウで,その根元近くの葉裏に卵塊として産卵さ
が予想される。また,飛翔がゆるやかで採集がたやすいこ
れる。夏,秋は幼虫は群行動し,枯葉等を利用した巣をつ
と,生息範囲が狭いことにより,採集圧もかかりやすい。
くって越冬。越冬後,食草の芽生えに伴って活動を開始す
そのため県内の1,2の生息地について,早急に定期的な草
る。1960年代までは岩美町から日南町まで県境脊梁山地沿
刈りの実施と採集禁止処置をとることが望ましい。これら
いに連続的に分布していたが,その後しだいに生息地が減
の実施については生息地の草原が比較的まとまった環境で
少し,1980年代後半から急減して,大山周辺などの著名な
あること,草原のため,監視等が行いやすい等の好条件が
生息地のほとんどが失われてしまった。
ある。
■分布(県内):生息地は佐治村,三朝町,江府町に各1個
■文献:
所。いずれも規模は小さく,減少傾向。
竹内 亮(1993)ウスイロヒョウモンモドキ. pp. 176-177. In:
■分布(県外):兵庫県生野町以西,島根県三瓶山までの中
鳥取県のすぐれた自然(動物).
国山地(岡山,広島県東部を含む)
;アジア大陸北部∼朝
淀江賢一郎(編)(2000) 検討会討議資料集 ウスイロヒョウモン
鮮半島。しかし,すでに広島県では絶滅し,国内全体で確
モドキの衰亡と保護 ―激減する草原性チョウ類の保護をめ
実な生息地は10カ所にみたない。
ざして―.
(財)ホシザキグリーン財団, 94 pp.
■生息環境:食草の生育地でもあるススキの優占する草原。
執筆者:小林一彦
県内での垂直分布は標高400-1000mであり,600-800mが中
ヒョウモンモドキ 鱗翅目(チョウ目)タテハチョウ科
鳥取県:絶滅(EX)
Melitaea scotosia (Butler, 1878)
環境省:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
ヒョウモンモドキ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○○
○ ◎
◎
鳥取県立博物館所蔵標本
三朝町福本 1976.7.10 中村義和採集 / 撮影:川上 靖
レッドデータブックとっとり (動物) 153
広島県世羅町 1983.6.9 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:県内では1976年の三朝町福本での記録を最後
にどこからも発見されない。絶滅と判断される。
■形態と生態:翅長は28mm内外で,本州中部地方産のもの
に比べ,やや大型。成虫は年1回,ミズゴケなどの生える
湿地や浅い湿原で6月中旬に羽化する。7月中旬には姿を消
す。食草はタムラソウ,キセルアザミで,各種の花に集ま
る。湿地で吸水している事もある。越冬態は幼虫。かつて
ヒョウモン類の多産した大山桝水原では,原を埋め尽くす
ほどのおびただしいヒョウモン類に混じって,本種は水源
地の周辺だけで採集された。その数は本種に比しやや広い
範囲に生息するウスイロヒョウモンモドキの10分の1以下
であった。
■分布(県内):県内すべての産地で絶滅。かつての生息地
は,若桜町広留野,三朝町福本,関金町犬挟峠,溝口町大
山桝水原など。桝水原では1960年以前にはやや多く見られ
たが大規模に施設整備された1963年直後に絶滅した。
■分布(県外):本州(中部山岳地帯と,中国山地周辺の2地
域)
;ロシア極東地方,中国東北部,朝鮮半島。
■生息環境 :キセルアザミやタムラソウなどの生育する湿
原,湿地。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
ウラギンスジヒョウモン 鱗翅目(チョウ目)タテハチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Argyronome laodice japonica (Mé
enéeterièes, 1857)
環境省:−
ウラギンスジヒョウモン
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
◎◎
◎ ◎
○
◎
●○
○
◎
●●
○
◎
○
○
●
○
●
◎
◎
◎
○
●
○
◎
雌 大山富江 1995.7.23 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:以前は里山では普通の蝶であった。ここ15年
ほどの間に里山周辺を中心に個体数が激減している。
■形態と生態:翅長は18-24mmで,成虫は年1回6月中旬に
発生する。里山から800mくらいの高標高地までの山地の
明るい林や草原に生息。食草はスミレ類で,成虫はオカト
ラノオ等,林縁や草原の花を訪れる。盛夏の頃は林内で仮
眠し,9月に再び現れる。一般に幼虫で越冬する。大山で
も絶滅状態。
■分布(県内):全域の丘陵地∼山地。1990年以降に記録が
あるのは鳥取市八坂,鹿野町鷲峰山河内,溝口町(大山横
手道,福永原,富江)
,日野町鵜の池のみ。大山山麓では
2001年にもかろうじて少数が確認された。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;ユーラシア大
陸中部から北部(国外は別亜種)
。
■生息環境:疎林や林縁の草原。
■保護上の留意点:個体数減少の要因ははっきりしないが,
スギ・ヒノキ植林地の増大や過疎などによる里山の荒廃
(遷
移の進行)で暗い林地が増えていることが一因としてあげ
られる。生息地では食草のスミレが育ちやすい環境を確保
するなどの方策がとられることが望ましい。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
米子市史編さん協議会(編)
(1997)新修 米子市史, Vol. 6. 自
然編. 米子市, 435 pp.
執筆者:三島寿雄
154 昆虫類
メスグロヒョウモン 鱗翅目(チョウ目)タテハチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
Damora sagana liane (Fruhstorfer, 1907)
環境省:−
メスグロヒョウモン
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
◎
○
○ ○○◎
◎○ ◎ ◎○○
○○
●
◎
◎
◎
○○
○
●
◎
◎
○
○
●
○
米子市猪小路
■選定理由:1950年代までは里山の林縁に普通の蝶だった
が徐々に個体数が減少し,現在はきわめてまれになった。
■形態と生態:翅長35-40mm。雄は他のヒョウモン類に酷
似するが,雌は別種と思われるほど色彩,斑紋が異なり,
イチモンジチョウを少し大型にしたような感じである。成
虫は年1回,主に,平地や低山地で6月に発生する。クリや
ノアザミなど各種の花を訪れ,吸蜜する。他のヒョウモン
類同様盛夏には夏眠し,秋季に再び現れ,交尾,産卵する。
越冬態は幼虫。幼虫の食草はスミレ類。1950年代までは鳥
取市や米子市近郊の山裾の林縁には最も多いヒョウモン
チョウだったが,ツマグロヒョウモンArgyreus hyperbiusの
分布・個体数の拡大に反比例するように減少し,20年ほど
前からは,ほとんど見られなくなった。
■分布(県内):全域の低山地(過去)
。1980年代以降に生息
が確認されているのは国府町河合谷高原,溝口町福永原,
日野町鵜ノ池の3カ所のみ。1995年以降は生息確認例がな
い。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;ロシア極東,
中国東北部,朝鮮半島(国外は別亜種)
。
■生息環境 :里山の林縁。県内では本種が最も多かった
1940年代でも,大山の桝水原など標高700m以上の高地で
はめったに見られなかった。
■保護上の留意点:生息地の発見が急務である。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
米子市史編さん協議会(編)
(1997)新修 米子市史, Vol. 6. 自
然編. 米子市, 435 pp.
執筆者:三島寿雄
クモガタヒョウモン 鱗翅目(チョウ目)タテハチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Nephargynnis anadyomene ella (Bremer, 1854)
環境省:−
クモガタヒョウモン
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
◎
○
○
●
○
○○
◎
◎
○○
●
◎○
●●
○ ◎
●
○
◎
○
◎
◎
佐治村 1993.7.18 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:かつては少ないながら県内全域に生息してい
たが,近年激減した。
■形態と生態:翅長は40mm内外。成虫は5月下旬,ヒョウ
モン類中最も早く発生する。低山地の林縁などでノアザ
ミ,オカトラノオなど各種の花を訪れ,夏眠の後,9月に再
び現れ,交尾,産卵する。越冬態は幼虫。幼虫の食草はス
ミレ類。
■分布(県内):1990年代以降に記録があるのは,鳥取市久
松山山系(小西谷,本陣山),国府町宝殿,郡家町奥,大
山町香取のみ。
■分布(県外):北海道,本州,四国,九州;ロシア極東,
中国東北部,朝鮮半島。
■生息環境:低山∼山地の林縁の草原。
■保護上の留意点:生息する林縁草原の保全が重要。分布
と生息状況の早急な調査も望まれる。
■文献:
レッドデータブックとっとり (動物) 155
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
米子市史編さん協議会(編)
(1997)新修 米子市史, Vol.
6. 自然編. 米子市, 435 pp.
執筆者:三島寿雄 オオウラギンヒョウモン 鱗翅目(チョウ目)タテハチョウ科
鳥取県:絶滅(EX)
Fabriciana nerippe (C. & R. Felder, 1862)
環境省:絶滅危惧 I 類(CR+EN)
オオウラギンヒョウモン
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
○○
○
○
鳥取県立博物館所蔵標本
八頭郡智頭町 1937.6.25 香河三郎採集 / 撮影:川上 靖
山口県秋吉台 1996.7.7 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:1960年代までは大山などで良好に生息してい
たが,その後急激に減少し,1967年以降の記録がない。絶
滅と考えられる。
■形態と生態:前翅長は35-40mm前後。雌はとくに大き
い。ウラギンヒョウモンF. adippeに似るが,後翅裏面外縁
部のM字形の斑紋などで区別できる。6月上旬∼7月下旬に
かけて年1回の発生。食草はスミレ,ツボスミレ。雄はウ
ラギンスジヒョウモンなどとともに,雌を探して草原上を
低く飛び回る。雌は不活発でススキ,ノイバラなどの薮に
潜んでいることが多い。鳥取県では智頭町牛臥山や大山周
辺などの湿性草原に生息していたが,前者では1950年代,
○
後者も1960年代を最後に消滅したとみられる。衰亡の原因
は,戦後の営農形態の変化によるシバ- ススキ草原の変貌
や農薬の過使用と推定されている。中国山地で広く行われ
ていた放牧による大規模な草原は,現在ではほとんどが失
われており,本種の復活は期待できない。
■分布(県内):絶滅。過去記録されている産地として,牛
臥山(智頭町)
,船上山(赤碕町)
,江尾(江府町)
,大山
中の原(大山町)
,大山桝水原(溝口町)などがある。
■分布(県外):国内で残された生息地は,山口県秋吉台,
佐賀∼長崎県境大野原,大分県日出生台,鹿児島∼宮崎県
境えびの高原など数カ所しかない。中国山地では岡山県蒜
山高原や兵庫県葛原高原が多産地として有名だったが,
1980年代に絶滅したと思われる。国外では,朝鮮半島,中
国,ロシア沿海州などに分布。
■生息環境:食草のスミレ,ツボスミレが大量に生育する
草原。このような環境は,放牧場,自衛隊演習地,石灰岩
台地,火山性草原,河川敷などに見られる。一般に本種の
発生する草原は他のチョウが多くないように感じられる。
また,本種には,同様に絶滅が危惧されるクロシジミと共
通する生息地が多いのも興味深い。
■文献:
福田晴夫(1997)南九州沢原高原におけるオオウラギンヒョウ
モンの生態と保護(1)(2). Butterflies, 16: 4-17/ 17: 22-32.
淀江賢一郎(1997)オオウラギンヒョウモン. pp. 172-173. In:し
まねレッドデータブック(動物編), 島根県景観自然課.
執筆者:淀江賢一郎
156 昆虫類
ミスジチョウ 鱗翅目(チョウ目)タテハチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Neptis philyra excellens Butler, 1878
環境省:−
ミスジチョウ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
○
○
●
○
◎
◎
●
◎
●
●
○◎
◎
◎◎
●
●
●
吸水中の1♂,三朝町小鹿渓 1998.6.1
■選定理由:生息地が限られ,個体数も少ない。
■形態と生態:前翅開長約6cm。前翅中室内を基部より翅
端にむかってはしる白色の線状紋が特徴。年1化,幼虫越
冬で,成虫は年5-7月に出現。幼虫の食樹はイロハカエデ,
オオカエデ,チドリノキなどのカエデ類など。山地性の傾
向があり,高木の樹上を飛翔するので人目につきにくい。
鳥取市近郊では低地の社寺や住宅地のカエデ類でも卵およ
び越冬幼虫が観察されることがある。
■分布(県内):鳥取市街周辺の低山帯,佐治村∼三朝町に
かけての山地(とくに渓谷部)
,大山桝水原,日野町鵜の
池など。倉吉市の低山でも目撃確認がある。
■分布(県外):北海道,本州,九州,対馬;ロシア極東域,
中国東北部,朝鮮半島,台湾。
■生息環境:標高300m以上の落葉広葉樹林帯(とくに渓谷
部に多い)
。鳥取市周辺では市街地の社寺林など。
■保護上の留意点:カエデの豊富な渓谷沿いの落葉樹林が
十分な面積と連続性を保って維持されることが重要。鳥取
市久松山系などの低標高の生息地については今後動向に気
をつける必要がある。
■文献:
長谷川寿一(1998)小鹿渓でミスジチョウを採集 (第2記録). ゆ
らぎあ,16: 20.
小椋 隆(1997)鳥取市周辺の蝶類目録. ゆらぎあ, 15: 1-18.
竹内 亮(1993)ミスジチョウ. pp. 178-179. In: 鳥取県のすぐれ
た自然 (動物).
執筆者:長谷川寿一
シータテハ 鱗翅目(チョウ目)タテハチョウ科
鳥取県:絶滅(EX)
Polygonia c-album hamigera (Butler, 1877)
環境省:−
シータテハ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
○
◎
雌 1998.7 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:大山周辺では1960年代に絶滅,県全体では
1985年の八頭郡智頭町沖ノ山からの記録を最後に生息確認
情報が途絶えた。絶滅したとみられる。
■形態と生態:翅長は25mm内外。比較的普通種であるキ
タテハP. c-aureumに酷似する。県内での発生は年2回ない
し3回であった。飛びかたはキタテハより遥かに敏速。樹
幹に静止して樹液を吸うほか,樹木の花からも吸蜜する。
また舗装されていない道路の路面,削り取られた山の斜面
などに静止していることも多い。越冬態は成虫。食草はハ
ルニレなどニレ科やクワ科。
■分布(県内):絶滅。過去の記録地としては,智頭町沖ノ
山,大山周辺(豪円山,横手道,三ノ沢)日野郡江府町御
机など。
■ 分 布(県 外):北 海 道,本 州,四 国,九 州;旧 北 区 全 域
(国外は別亜種)
■生息環境:山地の渓流沿いや林縁。
■文献:
小林一彦(1968)鳥取県産蝶類目録. pp. 42-58. In: 昆虫類目録.
鳥取県立博物館.
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
レッドデータブックとっとり (動物) 157
オオムラサキ 鱗翅目(チョウ目)タテハチョウ科
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
Sasakia charonda charonda (Hewitson, 1863)
環境省:準絶滅危惧(NT)
オオムラサキ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
○
●
○
○
◎
◎
○
◎
●
◎
◎
●
◎
○
◎
●
○○
○
◎
◎
○
鳥取市久松山 1993.8.24 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:県内に広く分布するが,どの生息域において
も個体数は少なく減少傾向にある。
■形態と生態:前翅長50mmを超える国内最大のタテハ
チョウ。雄は翅表中央部が紫色に輝く。幼虫は,エノキ,
エゾエノキを食樹とし,成虫はクヌギなどの樹液を好む。
4齢幼虫で越冬し,年1回6月下旬∼7月に発生。日本の国蝶
として有名で,全国的に保護活動が盛ん。
■分布(県内):ほぼ全域だが,生息地は限られる。1990年
以降記録されている場所は:鳥取市(久松山,雁金山),
佐治村飯盛山,倉吉市米田,岸本町。
■分布(県外):北海道南部,本州,四国,九州(宮崎県以
北)
;台湾,中国大陸,朝鮮半島。
■生息環境:おもにエノキの混生する人里近くの雑木林。
■保護上の留意点:食樹であるエノキが伐採等により減少
傾向にあり,その保護・保全が重要。また,成虫の餌とな
る樹液の出るクヌギ林などの維持も必要。
■特記事項:日本の国蝶(1957年指定)
。
■文献:
竹内 亮(1993)オオムラサキ. pp. 180-181. In: 鳥取県のすぐれ
た自然 (動物).
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
淀江賢一郎・佐々木保(1997)オオムラサキ. pp. 218-219. しま
ねレッドデータブック(動物編).
執筆者:松田裕一
ウラナミジャノメ 鱗翅目(チョウ目)ジャノメチョウ科
鳥取県:絶滅(EX)
Ypthima motschulskyi (Bremer & Grey, 1852)
環境省:絶滅危惧 II 類(VU)
ウラナミジャノメ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
○
○
鳥取県立博物館所蔵標本
鳥取市太閤平 1954.5.13 藤本公彦採集 / 撮影:川上 靖
山口県秋吉台 1988.7.8 / 撮影:坂田国嗣
■選定理由:もともと局地的な分布を示す種で,県内では
鳥 取 市 久 松 山 周 辺 に 生 息 地 が 知 ら れ る の み だ っ た が,
1950年代の記録を最後に消滅した。
■形態と生態:前翅長は25mm前後。翅表は暗褐色で,前翅
端付近と後翅後角付近に1個の眼状紋がある。幼虫越冬,
年2化で成虫は6月と8-9月に出現する。草上を緩やかに飛
び,腐果などを吸汁する。幼虫はイネ科やカヤツリグサ科
の植物を食べる。近縁のヒメウラナミジャノメY. argusと
は出現期がやや異なるが,2化目の発生時には混生してい
ることが多い。ヒメウラナミジャノメが,田畑のわき,河
原,林縁など多様な草地環境に生息するのに対し,なぜか
本種はどこでもきわめて局地的にしか産しない。県内では
158 昆虫類
1950年代の記録以後どこからも見つからない。
■分布(県内):絶滅。過去記録されている産地は,鳥取市内
(久松山山麓)のみ。
■分布(県外):神奈川県以西の本州,四国,九州,対馬,
壱岐,屋久島など;中国大陸,朝鮮半島,ロシア沿海州。
■生息環境:平地∼低山地の草原,湿原,河川敷,林縁の
草地。一般に本種の生息地は,他のチョウ類の生息地にも
適した(チョウの種類数,個体数が豊富な)自然度の高い
環境であるように思われる。
■保護上の留意点:鳥取県境に比較的近い兵庫県浜坂町城
山の海岸崖の草地にも発生地が知られる。県東端の岩美
町などの海岸草地などに生息の望みがないわけでないの
でさらに調査を続ける必要がある。
■文献:
小林一彦(1968)鳥取県産蝶類目録. pp. 42-58. In: 昆虫類目録.
鳥取県立博物館.
永幡嘉之(1994)浜坂町城山・初秋の蝶.Iratsume, 18: 44-48.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:淀江賢一郎
ヒメヒカゲ 鱗翅目(チョウ目)ジャノメチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Coenonympha oedippus arothius Okada & Torii, 1945
環境省:絶滅危惧 II 類(VU)
ヒメヒカゲ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
○
○◎
●
○
◎
○
○
◎
◎
◎ ◎
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○
◎
◎
○
■選定理由:全国的に絶滅の恐れがある種類である。大山
周辺では絶滅状態。
■形態と生態:翅長20-24mm。日当たりがよく,湿地が近
くにある場所を好む草原性のヒカゲチョウ。幼虫越冬で,
成虫は年1回6月末に発生し,オカトラノオやハギなどの花
を訪れる。成虫は3週間余り見られる。幼虫の食草はヤチ
カワズスゲやショウジョウスゲなどのスゲ類(カヤツリグ
サ科)
。
■分布(県内):中国山地稜線沿いの山地。1990年代以降の
生息確認地は溝口町福永原および三朝町の大谷峠と若杉山
の3カ所のみ。過去には次のような場所に生息していた:智
頭町(篭山,牛臥山),三朝町(三朝,中津,福本)
。関金
町犬挟峠,大山町槙原,溝口町(大山桝水原)
,江府町(小
江尾,城山,大河原)
,日野町(別所,鵜の池)など。
■分布(県外):本州(中部,近畿,中国地方)
;ユーラシア
大陸(本州中部地方と国外は別亜種)
。
■生息環境 :近くに湧水や湿地を伴う日当たりのよい山地
草原。江府町小江尾では水田の間の小さなササ薮に生息し
ていた。
■保護上の留意点:生息地である湿性草原は仮に保護区域
としても放置すると遷移で失われるため,人為的に手を加
えることも考慮する必要がある。
■文献:
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
竹内 亮(1993)ヒメヒカゲ. pp. 182-183. In: 鳥取県のすぐれた
自然 (動物).
山本直樹 (1995) 中国地方のヒメヒカゲ(上). 蝶研フィールド,
10(7): 15-20 / 10(10): 4-12.
執筆者:三島寿雄
レッドデータブックとっとり (動物) 159
キマダラモドキ 鱗翅目(チョウ目)ジャノメチョウ科
鳥取県:絶滅危惧 I I 類(VU)
Kirinia fentoni (Butler, 1877)
環境省:準絶滅危惧(NT)
キマダラモドキ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
◎
◎
◎
三朝町福本 1993.8.5 / 撮影:鳥越康教
■選定理由:減少が著しく,現在残る生息地は1カ所のみ。
■形態と生態:翅長30mm内外。年1化で成虫出現は7月中
旬から約1カ月。雑木林やその周辺の林縁で見られる。日
中は不活発で,林内の薄暗いところに静止し樹液に集まる
ほか,獣糞にもくる。夕刻には活動が活発になる。食草は
イネ科,カヤツリグサ科など,幅広い。越冬態は幼虫。
■分布(県内)
:県中部以西の県境沿い山地。佐治村辰巳峠,
三朝町福本,大山町大山博労座,江府町三平山,日野町小
原,奥渡で記録があるが,1980年代以降では江府町三平山
のみ。
■分布(県外):北海道,本州。四国,九州;ロシア極東域,
中国東北部,朝鮮半島。
■生息環境:中国山地沿いのカシワなどの生育する疎林。
■保護上の留意点:おそらく江府町三平山が県内に残る唯
一の生息地だが,早急に現況の調査が必要。
■文献:
小林一彦(1968)鳥取県産蝶類目録. pp. 42-58. In: 昆虫類目録.
鳥取県立博物館.
三島寿雄・松岡嘉之(1979)大山の蝶. 今井書店 (米子市), 206 pp.
山陰むしの会(編)
(1994)山陰のチョウたち. 山陰中央新報社(松
江市)207 pp.
執筆者:三島寿雄
鳥取県:準絶滅危惧(NT)
オオヒカゲ 鱗翅目(チョウ目)ジャノメチョウ科
Ninguta schrenckii Mé
enéetrièes, 1858)
環境省:−
オオヒカゲ
● 1990年以後
◎ 1970-1989年
○ 1969年まで
●
●●
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◎
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◎
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会見町越敷野 1994.9.12
■選定理由:湿地性スゲ類の生育地に生息が限定される。
■形態と生態:翅長約40mm。ヒカゲチョウでは最大。6月
中旬頃羽化した成虫は,強い日差しを嫌い,日中は下草や
地表近くの日陰で休むことが多い。夕方や曇天日などに林
縁から出てくるが,人の気配を感じるとすぐに林内に逃げ
込む。飛翔はゆったりしている。雌は9月頃まで生き残り,
食草の葉裏に10個前後並べて産卵する。約2週間で孵化,
2-3令でそのまま越冬し,翌年5月下旬頃蛹になる。
■分布(県内):県中西部(三朝町,米子市,西伯町,会見
町,日南町,日野町,江府町)
。
■分布(県外):北海道,本州(東北∼山口県まで産地が点
在)
;中国大陸西部,朝鮮半島,チベット,ウスリ−,ア
ム−ル。
■生息環境:山地∼低山地のカサスゲ,シロスゲなどスゲ
類のある湿地周辺。谷筋奥の休耕田も生息適地。
■保護上の留意点:鳥取県西部では,人里近くの低地でか
なり生息地が発見されている。しかし,湿地や休耕田は長
期間安定して継続する環境ではないので,生息地の今後の
動向には注意を要する。
■文献:
三島寿雄(1997)米子市と周辺のオオヒカゲ.すかしば, 45: 1720.
安田達史(1996)1995年オオヒカゲの新産地. すかしば, 42/43: 62.
執筆者:坂田国嗣
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