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同性パートナーシップ制度化の倫理的検討 どの順番で
性・ジェンダー(1) 同性パートナーシップ制度化の倫理的検討 ──どの順番で、どこから変えるのが望ましいのか?── 東京大学 森山至貴 1 問題設定 渋谷区に端を発し、世田谷区、横浜市などにも「同性パートナーシップ条例」制定へ向けての動き が広まっている。異性婚カップルに比べて同居のハードルが高く、パートナーが医療サービスを受け る際面会や治療方針への関与ができない、といった同性カップルの抱える具体的な問題に対する行政 のサポートが実現すれば、極めて大きな変化となる。同性婚制度化への第一歩との評価も存在する。 ただし、この動きは「異性婚は可能で同性婚は不可能な社会(制度)の差別性が是正される」こと に還元されない。私たちの社会が特定の形の親密な関係性に制度の「お墨付き」を与えることと、性 に関する平等で差別のない社会を構想することとの関連を、より繊細に考える必要がある。 そこで本報告では、性に関する差別に反対してきた人々が同性パートナーシップをめぐって蓄積し てきた議論を検討し、特定の形の親密な関係性の制度化を倫理的に検討していく。 2 同性婚・同性パートナーシップへの懐疑的立場 同性愛者や同性カップルの苦境を改善すべきだと強く考える人が、同性婚・同性パートナーシップ の制度化への賛同を留保することは珍しくない。そこには「異性愛規範に基づく近代家族制度のなか で、疎外されるだけではなく、家族形成の機会を奪われてきたレズビアン/ゲイは、家族制度の解体 を主張するベクトルと家族形成の権利を要求するベクトルの間を揺れ動く」(風間 2003: 35)という事情 がある。非規範的な性愛関係のひとつの形に過ぎない同性パートナーシップだけが異性婚カップルと 並んで制度的に「お墨付き」を受ける「抜け駆け」は許容されない、という明確な反対論も存在する。 現に、同性愛者のコミュニティの中に存在するモノガミー主義・カップル主義については、多様なジ ェンダー・セクシュアリティを受容する方向性とは相容れないとして批判の対象になっている(志田 2009)。これらのことをすべて捨象して異性愛主義者が受容しやすい同性カップルだけに制度的な「お 墨付き」を与えるとすれば、これは事実上の「同化主義」にほかならない。 3 望ましい段階的改善の形は存在するのか 同性婚・同性パートナーシップをめぐる議論においては、多様なジェンダー・セクシュアリティの うち、「同化」になじみそうであり、異性愛主義体制の強化に役立ちそうな関係=同性カップルのみ が制度の「お墨付き」を受ければよいのか、が問題となる。他方、すべての形の親密な関係性を一度 かつ一律に保護するという「一発完全解答」は、明らかに実現が困難である。 そこで当日の報告においては、ある種の段階的改善の(不)可能性、すなわちある特定の「性のあ り方」(だけ)が制度による「お墨付き」を受けることで、他の「性のあり方」もより平等に遇され るようになる、そのような「お墨付き」のあり方の(不)可能性(清水 2008)を視野に入れ、詳細に 検討していく。特に、社会的承認と制度による保護が分かちがたく絡まり合う同性パートナーシップ の問題の固有性に照準を合わせる形で、考察をおこなう。 文献 風間孝, 2003, 「同性婚のポリティクス」『家族社会学研究』14(2): 32-42. 志田哲之, 2009, 「同性婚批判」関修・志田哲之編『挑発するセクシュアリティ̶̶法・社会・思想へのアプローチ』新泉社, 133-67. 清水雄大, 2008, 「同性婚反対論への反駁の試み̶̶『戦略的同性婚要求』の立場から」 Gender and sexuality : Journal of Center for Gender Studies, ICU, 3: 95-120. 107