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中国における IT マネジメントと貧困削減
中国における IT マネジメントと貧困削減 ファン・ガン 国立経済研究所(中国) ファン・ガン(中国改革財団中国国立経済研究所部長) 目 次 目次 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 219 表リスト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 220 図リスト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 220 略語表 ······································································ 221 要約 ········································································ 222 第1章 有償資金協力(借款)プログラムの概論:目的と効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 223 1.1 優先すべき課題:貧困削減かその他の問題か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 223 1.2 資金をより有効利用する方法:需要を満たす供給 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 224 第2章 知識の貧困 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 225 2.1 知識の貧困原因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 226 2.2 国家間のデジタル・ディバイド ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 226 2.3 中国におけるデジタル・ディバイド ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 228 2.3.1 インターネット利用者とドメイン名の地域別分布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 228 2.3.2 ディバイド(格差)の原因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 230 2.4 デジタル・ディバイドのもたらす結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 237 第3章 有償資金協力(借款)プログラムが知識の貧困削減に対し支援可能な分野・・・ 238 3.1 理論的原則 ·························································· 238 3.2 有効手段:中国の場合 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 239 3.2.1 地域別援助 ···················································· 239 3.2.2 問題の根源を解決するための目標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 239 3.3 アフォーダビリティ(購入可能性)再考-開発途上国による情報技術 の利用コスト削減 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 240 第4章 新技術の利用を助成する:アフォーダビリティ(購入可能性) を改善するためのアイデア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 242 4.1 「情報利益」の一部を「情報貧者」に提供する:開発途上国における 知的所有権の保護と新技術の利用の助成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 243 4.2 財政援助の提供先 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 243 4.3 具体的計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 245 4.4 今後の研究課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 246 第5章 結論 ································································ 246 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 249 219 表リスト 表 2.1 TMT 製品/サービスの国別普及レベル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 227 表 2.2 電話の地域別普及率(2000 年) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 232 表 2.3 デジタル・ディバイドに関係する都市部世帯の消費支出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 233 表 2.4 一人当たり GDP に対するコンピュータの価格およびネットワーク利用料の比率 ・・ 233 表 2.5 月間ネットワーク利用料(セント/時間) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 237 表 3.1 技術関連の貿易赤字(1950-1998 年) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 240 補表 1 15 歳以上合計人口に対する地域別非識字人口および半識字人口の比率(1999 年) ・・ 247 補表 2 年間所得水準の比較(2000 年) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 248 図リスト 図 2.1 インターネット利用者の地域別分布(2000 年) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 229 図 2.2 ドメイン名の地域別分布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 230 図 2.3 インターネット利用者と教育水準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 231 図 2.4 コンピュータおよび携帯電話の 100 世帯あたりの保有台数(1999 年) ・・・・・・ 231 図 2.5 インターネット利用者と電話の普及 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 232 図 2.6 インターネット利用者と PC 価格 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 234 図 2.7 インターネット利用者とネットワーク利用料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 234 図 2.8 1990 年から 1998 年の 3 分間の域内通話料金(US ドル) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 235 図 2.9 1990 年から 1998 年の 3 分間の国際通話料金(US ドル) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 236 図 2.10 インターネット利用者と海外直接投資の地域別分布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 238 図 3.1 中国における IT 関連の特許申請(1998-2000 年) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 241 220 略語表 CDMA Code Division Multiple Access 符号分割多重接続 IT Information Technology 情報技術 ITU International Trade Union 国際電気通信連合 TMT Technology, Media, and Telecommunications 技術、メディア、通信 221 中国における IT マネジメントと貧困削減 要約 主要テーマおよび政策提言:貧困層の知識・技術へのアクセスコストの削減 ! 有償資金協力(借款)プログラムでは、貧困削減を最優先事項としてとらえなけれ ばならない。貧困削減以外の問題はすべて経済格差に関係するものである。 ! 知識が経済を創造する(ナレッジ・エコノミー)時代において経済的貧困をもたら す重要な原因の一つは「知識の貧困」である。その一例として「デジタル・ディバイ ド(情報格差)」を挙げることができる。 ! 知識の貧困、あるいはデジタル・ディバイド(情報格差)の原因として下記が考え られる。 # 低い教育水準 # 技術利用のためのインフラの欠如 # 新技術の利用と開発に対する不十分な制度・政策環境 # (技術を利用する開発途上国や中小企業にとって)比較的に高いコスト ! 開発途上地域において技術開発のためのインフラを構築し、技術の利用度を高める ことは、有償資金協力(借款)プログラムがもっとも効果を発揮できる分野である。 ! 貧困層が技術を利用するコストを低価することは有償資金協力(借款)プログラム がもっとも焦点を当てるべき分野である。なぜなら、知識の貧困を削減し、知識格 差を縮小するためには、有償資金協力(借款)プログラムがもっとも有用であり、 その効果を発揮できると思われるからである。 ! 技術利用料金の一部を、有償資金協力(借款)プログラムで助成金で提供すること もできるであろう。有償資金協力(借款)プログラムは、ハードウェア、ソフトウ ェア、特許、ロイヤルティー、ライセンス料から装置あるいは技術移転まであらゆ る費用の支払いに利用できることが望ましい。 ! 助成金は可能な限り直接受益者(人々および企業)に提供すべきである。なぜなら、 こうした受益者は、自らの事業に何が必要であるかを明確に理解しており、その目 的のために技術を利用する方法に関して基本的な知識を有しているからである。 ! 中国の場合には、このようなプログラムは主に内陸地域で実行する必要がある。 222 中国における IT マネジメントと貧困削減 「エイズ治療薬」のケースは世界的な注目を集めた。しかし、このケースは氷山の一角に 過ぎない。つまり、このケースは先進国/多国籍企業と開発途上国との間に存在する、よ り幅広くかつ一般的な問題である「知識格差(ナレッジ・ディバイド)」の一部であり、ま た、知的所有権と低所得層が新技術を利用する際に支払う相対的に高いユーザー・コスト (利用者費用)の間に存在する矛盾のごく一部にすぎない。 本論文は、政府間あるいは「地球公共的」移転のメカニズムを介して、グローバリゼーシ ョンのプロセスにおける緊急課題であるグローバル格差にいかに対処するかに関して、ア イデアで提供することを目的としている。本論文では具体的で実行可能な実施計画を提言 することを目的としているが、理論的あるいは概念的な提言と位置づけられるであろう。 本論文により、知識格差に対するより幅広い議論が展開され、補完性のある実行可能な議 論につながることを望む。 第1章 1.1 有償資金協力(借款)プログラムの概要:目的と効果 優先すべき課題:貧困削減かその他の問題か 有償資金協力(借款)プログラムが成功するか否かは、対象とすべき重要な課題が見極 められているか、また、優先順位がどのように設定されているかに大きくかかっている。 世界には多くの重大な課題があり、国際的な財政援助プログラムの実施に当たっては考 慮すべき多くの事項が存在する。これらの事項は、「優先的課題」として、ほとんどの公式 文書にリストアップされている。たとえば、「環境保護」、「教育」、「貧困削減」、「平和維持」、 「経済発展」、「人口統計学」などがその一部である。これらは、すべて重要な課題であり、 そのほとんどが「グローバルな課題」として認識されている。 しかし、「優先的課題の中でも特に優先すべき項目」が存在する。そして、何よりも重要 なことは、人によって視点が異なれば優先的課題も異なる場合があるということである。 開発途上国は、どの課題がより緊急を要するか、あるいはより根本的に重大であるか、先 進国とは異なる意見をもっているかもしれない。たとえば、数カ国の開発途上国の有償資 金協力(借款)プログラムの担当者から、「これ以上の援助を受けたくありません。なぜな ら、最近の援助のほとんどは環境保護を目的としており、ドナー国製の環境保護機材に対 して支払われるからです。」と言われた経験がある。問題は、このようなプログラムが借款 の返済を行なえるだけの所得を生み出してくれるのかどうか、人々が確信をもてないこと である。そして、被援助国は、同時期に、多額の資金を環境保護プログラムに投入できる 223 ほど財政的な余裕がない可能性もある。 環境保護は間違いなく「グローバルな問題」であり、特に先進国が懸念している問題であ る。将来の環境問題の「解決」に必要な高いコストを回避するために、開発の初期段階で問 題に対処するための支援をドナー国が提供することは正しい。しかし、他方、環境保護等 のドナー側から見た優先課題と、開発途上国側から見た優先課題のバランスをいかにとる かということが問題である。 南北間の所得格差を考えると、低所得国にとって優先順位の最も高い課題は貧困削減と 経済発展であり、こうした課題は、下記の理由からも「優先的課題の中でも特に優先すべき 事項」としてとらえる必要がある。 -所得水準とその他の課題とは正の相関関係がある。たとえば、所得の増大は、需要を 生み出すだけでなく、生存が第一義的課題の貧しい地元住民にとって、自らが認識する限 り「無関係な課題」と思われる環境保護に対する政治的圧力をも生み出す。また、中国人の 親は、生活に必要な最低レベル所得を獲得できた時点で、子供の教育に対する投資を問題 としない傾向がみられる。 -貧困削減は、「グローバルな問題」でもある。-経済的繁栄の共有と平等は「地球公共財」 として認識されるべきであり、同時にグローバルな問題のうちの優先順位の最も高い事項 でなければならない。貧困にあえぐ国々の人々が、グローバリゼーションの中で貧困をさ らに増大させ、「社会的に疎外」されることは、世界にとって深刻な問題である。技術とグ ローバリゼーションが急速に進む中で、「貧困」は絶対的言葉でのみ判断すべきではない。 もっとも、絶対的貧困こそが対処すべき最悪の問題であるが、「貧困」は相対的な言葉でも 判断すべきである。不平等の拡大は、現在および将来においても、世界の経済繁栄に対す る深刻な脅威である。このことは、シアトル、ワシントン、プラハでのでき事や、つい最 近では昨年の 9 月 11 日に発生した悲劇により示されている。この格差の課題に今取り組 まなければ、技術およびグローバリゼーションが進むごとに、事態は悪化するであろう。 だからと言って、資金を環境、教育、人口統計学、その他に配分すべきではないと言っ ているのではない。経済発展の資源が次第にプログラムの比較的重要ではない部分に向け られるようになると、援助プログラムは対象とすべき目標を見失う可能性があるというこ とを言っているだけである。 1.2 資金をより有効利用する方法:需要を満たす供給 対象とすべき優先課題を決定する一方、有償資金協力(借款)プログラムを成功させる ためのもう一つのカギは、その有効性である。つまり、限られた資源で目標の改善が実現 しているか、ということである。 224 貧困削減を目指す有効な有償資金協力(借款)プログラムの理想的な結果は、受益者が 借款によって自らの生産能力と競争力を高め、自ら収益を生み出すことができ、持続的に 貧困とは無縁になることである。これは、有償資金協力(借款)プログラムの性質とも関 係している。つまり、有償資金協力(借款)プログラムは柔軟性のあるシステムではある が、あくまでも借款であり、返済が不要な資金援助ではない。つまり、提供者と受益者は ともに収益を生み出すことを考慮する必要がある。 他方、援助資源には制約があり、すべての援助要求国に対して同時に援助することはで きない。有効な方法は、明確に目標の定まった限定的なグループに対して、一つずつ取り 組みを集中させることであり、決してすべて同様に支援しようとしてはならない。 つまり、ここで重要な問題は、望ましい結果を生み出す対象グループを定義し選択する 方法である。 緊急援助として政府から要請される災害援助および難民保護は別として、貧困削減のた めの有償資金協力(借款)プログラムは、最貧層の生存確保を目的とすべきではない-こ れは各国政府および特定国際援助機関の責務である。 同時に、開発援助プログラムは、受益者がすぐに経済的利益を得ることができ、また利 益を受益者が理解しなければ、適切に機能しないということを過去の経験が示している。 有償資金協力(借款)プログラムを効果的に実行するためには、すでに生活することが でき何らかの事業計画をもっているが(「受益者としての準備ができたグループ」)、事業を 軌道に乗せるための基本的なインフラや金銭的手段がない人々を対象としなければならな い。このグループの事業が軌道に乗れば、比較的貧しいグループに対しても経済的な影響 をおよぼし、 (より多くの雇用機会を提供することにより)、彼らを「受益者としての準備が できたグループ」へと押し上げることにつながるかもしれない。その時点で、この新たに押 し上げられたグループを有償資金協力(借款)プログラムの対象とすべきである。 この点に関しては、本論文の後半部分で詳細に議論する。 第2章 知識の貧困 今日の知識が経済を創造するナレッジ・エコノミーの世界では、貧困原因の一つは知識 の貧困である。新しい技術を利用する能力がない場合、それを入手するための金銭的余裕 がない場合、それにアクセスするための物理的な条件が整っていない場合、知識の貧困が 発生する。知識の貧困により、物質的に生活貧困から脱け出すための機会が奪われている。 225 知識の貧困は、新たな情報技術の発展により国家間、地域間、そして人々の間に新たな 格差が生み出される原因の一つとなっている。開発途上国の人々が追いつくことはさらに 困難となり、その結果、より多くの人々が豊かになるどころか一層貧しくなる可能性があ る。いわゆる「デジタル・ディバイド(情報格差)」には具体的な経済的重要性があり、い まやデジタル・ディバイドは国内において、また国家間において格差を拡大させる新たな 原因となっている。 2.1 知識の貧困原因 下記に示した要因は、知識の貧困の主要な原因と考えられる。格差に関して詳細に検討 するに際し、これらの要因を分析する必要がある。 (1) 新たな技術を利用する基本的知識とスキルの欠如。低い教育水準がその背後 にある要因の一つである。 (2) 物理的インフラの欠如。たとえば、インターネットにアクセスするための電 話回線の欠如などが挙げられる。 (3) 所得水準に比較して高額な、新技術の利用にかかる費用。たとえば、コンピ ュータは人によってはあまりにも高額であり、利用できない可能性がある。 一般に、「ハイテク製品」に伴う高いロイヤルティー、特許料、そしてそれに 含まれる利益が原因で、新たな技術の多くが高額となり、貧困者はそれを利 用することができない。そして、開発途上国が新しい技術を利用すればする ほど、多国籍企業は利益を蓄積し、結果的に格差はますます広がることにな る。 (4) 新たな技術の利用と競争を促す制度上の環境および政策の不在。例として、 IT(情報技術)業界に残る国営企業による独占、および電子商取引における プライバシー保護の欠如を挙げることができる。 こうした知識の貧困の原因は、すべて何らかの形で過去の物質的な貧困と相関関係があ る。しかし同時に、知識の貧困は、将来の物質的貧困を生じる原因となって、悪循環が生 じている。政策論争のカギはいかにこの循環を断ち切るかである。 現在の知識の貧困がもっとも重要な形で表れているのが「デジタル・ディバイド(情報格 差)」である。デジタル・ディバイドとは、新たな IT(情報技術)製品を十分に利用でき ない国々や人々が存在する一方で、世界のその他の国の人々は偉大な技術革新の恩恵を享 受している状態を指している。本論文では、知識の貧困の問題を議論するにあたって、「情 報技術が生み出す貧困(デジタル・ポバティー)」を主な例として議論したい。 2.2 国家間のデジタル・ディバイド 知識の貧困およびデジタル・ディバイドが、何よりも国家間で、とりわけ先進国と開発 226 途上国の間で生じるということは、もっとも深刻な問題である。たとえば、Asian Weekly (2001 年 6 月 29 日号)によれば、インターネットを利用しているのは世界人口のわずか 6%に過ぎず、開発途上国の人口の半分は電話を利用したことすらないという。2004 年に は韓国におけるインターネット利用者の数はその人口に半分に達するものの、インドネシ アにおけるインターット利用者は同時点でも同国の人口の 1%にも満たないであろうと予 想されている。デジタル・ディバイドに関する最近の多くの研究では、現在の状況がいか に深刻であるか、また、世界のバランスをさらに改善するために先進世界がこの課題に注 意を払い援助を提供しなければならない理由が示されている。 国ごとの技術、メディア、そして通信(Technology, Media and Telecommunications : TMT)の普及レベルは、国家間にデジタル・ディバイドが存在することを明確に示してい る。表 2.1 から、中国が、TMT 産業に関して国際的な観点から立ち遅れていること分かる。 中国における電話、携帯電話、そしてケーブルテレビの普及率は、その他の国々に比較し て極めて低いというわけではないが、中国におけるインターネット利用者、パソコン、そ してクレジット・カードの普及レベルは極端に低い。 表 2.1 電話 TMT 製品/サービスの国別普及レベル 携帯電話 パーソナル コンピュータ 46 32 26 21 30 24 17 15 3 1 <1 ケーブル テレビ 69 68 13 7 53 29 1 10 7 23 回答なし インターネット (%) クレジッ ト・カード 267 223 138 58 106 441 48 140 50 6 回答なし 米国 66 25 33 カナダ 63 18 32 英国 56 25 31 フランス 57 19 18 ドイツ 57 17 23 日本 50 37 23 イタリア 45 36 11 韓国 43 50 30 ブラジル 12 5 3 中国 11 8 2 パキスタン 2 <1 <1 注: 1. 普及率は TMT 製品/サービス数を人口で除して算出した。ただし、ケーブルテレビの普及率はケーブ ルテレビ加入者数を、テレビを保有する世帯数で除して算出した。 2. 電話、携帯電話、およびインターネット利用者の中国における普及率は当研究所の計算による。 出所:Morgan Stanley Dean Witter Internet Research, World Bank, IDC, Jupiter Communications, Kagan Associates 中国は、開発途上国として、国際的なデジタル・ディバイドと同様、国内における深刻 なデジタル・ディバイドにも苦しんでいる。主に沿岸地域と一部の開発の進んだ地域など においては、ニュー・エコノミーが急速な進展をみせている反面、内陸部およびその他の 貧しい地域ではデジタル・ポバティーが続いている。上海や広東など中国の一部に対して の、これ以上の国際的な援助は必要ないが、物質的にも情報に関しても貧困に苦しむ広大 な貧困地域に対しては、まだ支援が必要であると主張する人々もあるだろう。 次項では、中国の「国内格差」を例として取り上げ、この問題の原因と結果に関して議論 227 する。その後、国際的な援助プログラムに関する議論を進めるために、国際レベルの問題 に戻ることにする。 2.3 中国におけるデジタル・ディバイド 2.3.1 インターネット利用者とドメイン名の地域別分布 デジタル・ディバイドの主な指標としてここではインターネットの利用を採用すること にする。 図 2.1 と図 2.2 はインターネット利用者とドメイン名の地域別の分布をそれぞれ示した ものである。いずれの図も、地域によってインターネット利用者とドメイン名の普及に大 きな差があることを明確に示している。 インターネット利用者の場合、インターネット利用者の比率が 2%に満たない下位の 11 省全部を合わせても、国内利用者全体のわずか 10%にしかならない。他方、北京、広東、 および上海だけでインターネット利用者全体の 3 分の 1 を占めている。地域別でのドメイ ン名の分布もまた同様の傾向を示しているが、その差はインターネット利用者の場合より も大きい。上位 3 地域(北京、上海、および広省)が全体の 60.17%を占める一方で、下 位 15 省の合計はわずか 8.43%である。 228 図 2.1 インターネット利用者の地域別分布(2000 年) (%) 北京 12.39 9.69 上海 8.97 6.62 江蘇 5.43 5.33 5.03 4.66 3.97 3.59 3.52 四川 湖南 湖北 2.53 2.47 2.46 2.43 2.41 2.33 2.07 2.03 2.02 1.51 1.47 1.46 1.34 1.21 1.13 0.8 0.48 0.31 0.31 0.03 河北 安徽 河南 重慶 新疆 雲南 内モンゴル 貴州 青海 チベット 0 2 4 6 出所: CINNIC.(2001) 229 8 10 12 14 図 2.2 ドメイン名の地域別分布 (%) 北京 36.87 14.09 上海 9.21 4.52 4.02 3.92 3.07 2.47 1.79 1.73 1.73 1.66 1.59 1.4 1.29 1.05 0.96 0.94 0.94 0.87 0.86 0.69 0.63 0.63 0.46 0.37 0.33 0.31 0.25 0.12 0.07 浙江 遼寧 四川 河北 河南 陜西 黒竜江 重慶 新疆 山西 内モンゴル 甘粛 寧夏 青海 0 5 10 15 20 25 30 35 40 出所: CINNIC(2001) 2.3.2 ディバイド(格差)の原因 (1)教育の格差 ニュー・エコノミーが知識ベース経済と称されるように、教育水準の格差はデジタル・ ディバイドと大きな関係がある。 全体的な教育水準の指標として非識字人口および半識字人口の比率を用いると、東部と 西部の格差はかなり大きい。補表 1 が示すように、東部における 15 歳以上の非識字人口 および半識字人口の比率は西部の同様な人口比率よりもかなり低い。 図 2.3 は、中国の地域間の教育水準の格差が、デジタル・ディバイドと正の相関関係に あることを示している。 230 図 2.3 インターネット利用者と教育水準 14 北京 12 10 広東 インターネット利用者(%) 上海 8 浙江 江蘇 6 遼寧 4 四川 湖南 福建 湖北 吉林 2 安徽 重慶 新疆 陜西 0 10 雲南 寧夏 海南 0 20 チベット 青海 30 40 50 60 70 -2 -4 15際以上合計人口に対する地域別 非識字人口および半識字人口の比率(%) (2)情報インフラの格差 西部と東部の情報インフラはデジタル・ディバイドの直接的な指標として使用すること ができる。図 2.4 は、西部と東部において、コンピュータと携帯電話の 100 世帯あたりの 保有台数には大きな差があることを示している。西部の世帯が保有するコンピュータおよ び携帯電話の数は、東部の世帯のわずか 3 分の 1 に過ぎない。さらに表 2.2 は、中国西部 における電話の普及率が国全体の平均のわずか半分に過ぎないことを示している。また、 甘粛やチベットのような西部の省における普及率は、西部地域全体の平均よりもさらに低 い。 図 2.4 コンピュータおよび携帯電話の 100 世帯あたりの保有台数(1999 年) 11.43 12 9.94 10 8 (%) 7.14 5.91 4.53 6 3.67 4 2 0 全国平均 中国東部 中国西部 出所:West China Development(2001, No.4) 231 コンピュータ 携帯電話 表 2.2 電話の地域別普及率(2000 年) 地域 全国平均 電話の普及率(%) 16 中国西部平均 8 甘粛 8.2 四川 7.18 寧夏 11 雲南 12 チベット 4.7 出所:当研究所の算定による。データは http://www.Chinawest.gov.cn のウェブサイトより。 下記の図 2.5 は、インフラ上の格差とデジタル・ディバイドの関係を示している。 図 2.5 インターネット利用者と電話の普及 14 北京 インターネット利用者(%) 12 10 広東 8 6 江蘇 四川 4 山東 福建 河南 2 0 0 雲南 甘粛 青海 寧夏 チベット 10 20 30 40 50 60 電話の普及率(%) (3)所得格差と高いコスト 中国におけるデジタル・ディバイドは、まず何よりも所得水準の大きな格差に表れてい る。所得水準の差は、IT(情報技術)および IT 関連の製品やサービスの購入を制限して いる。 補表 2 は、中国には 2 種類の格差が存在することを示している。つまり、東西の格差、 そして地方と都市部の格差である1。東西の格差に関して考えれば、都市地域、つまり東部 のほとんどの省(11 省のうち 8 省)の一人当たりの年間可処分所得は全国平均よりも高い 1 地方と都市部の所得格差とは、都市部の人口一人当たりの所得と地方の人口一人当たりの所得の差を示 す。中国では現在でも「住民登録制度(戸籍制度)」が存在。各個人は「都市部居住者」あるいは「地方居 住者」として政府に登録する。これにより、都市部、あるいは地方の異なる地域の一人当たりの所得を 算出するための基本的なデータが得られる。近年では、地方地域から都市部に労働者が移動している結 果、「都市に長期間(6 ヶ月以上)滞在する地方地域からの移民」が人口統計学的には都市部人口として 数えられるため、状況はより複雑になってきている。つまり、現在では都市部と地方の所得格差には、 住民登録だけではなく、都市に暮らす人々と地方地域に暮らす人々の間の格差が含まれていることに注 意しなければならない。 232 が、他方、西部では、12 省のうちわずか 2 省しか全国平均を上回る所得ではない。また、 地方と都市部の格差は、全国平均では都市部の世帯の年間可処分所得は地方の世帯の年間 純所得の 3 倍であることがわかる。 所得格差の結果の一つは、IT 製品の利用に関係する各世帯の支出構造の差として表れて いる。表 2.3 では、デジタル・ディバイドに関係する消費、すなわち、教育、コミュニケ ーション、および文化・余暇サービスに対する支出を表しており、都市部の東部と西部で は 1.4 対 1 であるが、合計消費額に占める比率は東部が(12.9%)西部(12.7%)でほと んど同じであることを示している。 表 2.3 デジタル・ディバイドに関係する都市部世帯の消費支出 (1999) 消費合計 教育 元/人 コミュニケーション 教育+文化・余暇サ 文化・余暇 ービス+コミュニケ サービス ーション 中国東部 5847.38 383.06(6.55%) 144.49(2.47%) 228.06(3.9%) 755.61(12.9%) 中国西部 4288.74 285.22(6.65%) 101.74(2.37%) 158.17(3.69) 545.13(12.7%) 出所:West China Development(2001, No.4) 注:%は消費合計額に対する比率を示している。 表 2.4 一人当たり GDP に対するコンピュータの価格および ネットワーク利用料の比率 一人当たり GDP1 一人当たり GDP に占めるコンピ ュータ価格の比率 2 一人当たり GDP に占めるネット ワーク利用料の比率 3 中国東部 9522 73% 中国西部 4031 174% 8.2% 19.4% 注: 1. データは 1998 年のものである。 2. コンピュータの平均価格を 7,000 中国元と想定している。 3. 平均的なインターネット利用者が週に 5 時間利用し、時間当たりの利用料を 3.00 中国元と想 定している。すると、ネットワーク利用料は年間でおよそ 780 中国元となる。 コンピュータ価格とネットワーク利用料を見ると、西部ではコンピュータとインターネ ットを利用する際に、東部と比較して一人当たり GDP に対して相対的に高い比率で金額 を支払わなければならない。表 2.4 では、東部のみが 7,000 中国元という価格のコンピュ ータの価格をカバーできることが示されている。また、一人当たり GDP に対するネット ワーク利用料の比率も東部では 8.2%であるのに対して、西部では 19.4%であるように地 域格差があることを示している。 図 2.6 と図 2.7 は、技術設備の相対的なコストが、デジタル・ディバイドの背景にある 主要な要因であることを示している。 233 図 2.6 インターネット利用者と PC 価格 14 北京 12 10 広東 上海 インターネット利用者(%) 8 浙江 6 江蘇 山東 四川 遼寧 湖南 福建 湖北 安徽 河北 天津 河南 江西 広西 黒竜江 吉林 重慶 新疆 陜西 内モンゴル 山西 寧夏 海南 青海 チベット 4 2 0 0 50 100 150 甘粛 200 貴州 250 300 -2 -4 一人当たりGDPに対するPC 価格 (%) 図 2.7 インターネット利用者とネットワーク利用料 14 北京 12 インターネット利用者(%) 10 広東 上海 8 浙江 6 山東 四川 遼寧 湖北 湖南 福建 河北 安徽 天津 吉林 河南 広西 黒竜江 CQ 新疆 雲南 甘粛 内モンゴル 山西 寧夏 海南 青海 チベット 5 10 15 20 江蘇 4 2 0 0 -2 -4 一人当たりGDPに対するネットワーク利用料 234 貴州 25 30 (4)制度上および政策上の環境 制度上および政策上の要因は国家の問題である。こうした要因は一般的に、国内のデジ タル・ディバイドではなく国際的なデジタル・ディバイドに影響を与える。本項では、デ ジタル・ディバイドの原因追求をさらに進めるために、政策的要因がどのような形で問題 を起こしているか分析を行なった。事例として、中国における「電気通信事業の独占」を採 り上げた。 独占がもたらす主な結果の一つは、高価格と低効率性である。調査によると、現在、顧 客からの苦情は、家電製品自体ではなく電気通信費とサービスに関するものが上位を占め ているという。では、中国の電気通信費は他国に比較してどの程度高額なのであろうか。 図 2.8 と図 2.9 は、中国における 3 分間の域内通話料金は東アジアおよび太平洋州諸国 あるいはその他の主要国の中でももっとも低いにもかかわらず、3 分間の米国への通話は 東アジアおよび太平洋州諸国の中で、もっとも高いことを示している。この相対的な価格 構造における大きなゆがみは、競争を導入することによって料金のバランスをとり直すこ とが必要であることを示している。さもなければ、競争力のある事業者が価格の高い区分 に参入するだけで大きな利益を上げることができ、長期的には内部相互補助の継続が不可 能となるであろう。 図 2.8 1990 年から 1998 年の 3 分間の域内通話料金(US ドル) 3 分間の域内通話の料金(US ドル)予想される 3 分間の域内通話の料金(US ドル) 実質一人当たり GDP 注: *** は中国、 phi はフィリピン、ind はインド、 idn はインドネシア、mys はマレーシア、kor は韓国、hkg は香港、jpn は日本、sgp はシンガポール、 および twn は中国の台湾を示す。 出所:Christine Zhen-Wei Qiang and Lixin Colin Xu (2000) 235 図 2.9 1990 年から 1998 年の 3 分間の国際通話料金(US ドル) 3 分間の米国への国際電話の料金(US ドル)予想される 3 分間の米国への国際電話の料金(US ドル) 実質一人当たり GDP 注: *** は中国、 phi はフィリピン、ind はインド、 idn はインドネシア、mys はマレーシア、kor は韓国、hkg は香港、jpn は日本、sgp はシンガポール、 および twn は中国の台湾を示す。 出所:Christine Zhen-Wei Qiang and Lixin Colin Xu (2000) 過去に料金を数回調整し、域内通話料金の引き上げと国際通話料金の引き下げによって 料金構造が改善されてきた。しかし、基本的には、全体としての料金に対する支払い金額 が減ったわけではなかった。低中所得層にいたっては、利用するのがほとんど域内通話で あるため、料金に対する支出が増加したと感じている。 この状況は、2001 年 7 月 1 日以降、固定電話の設置料金と携帯電話のネットワーク接 続料金が政府により撤廃されたことによって大きく変わった。過去 20 年間、設置料金は 1,000 中国元から 5,000 中国元という高い料金であり、消費者にとっては大きな負担とな っていた。現在、設置基本料金は 200 中国元(北京では 235 中国元)を支払うだけである。 これによって、中国の消費者支出におよそ 200 億中国元の負担が軽減されたものと推定さ れる。 一方で、ネットワーク利用料もまた大幅に値下げされている。1999 年の時点で、電話回 線を用いたインターネットに接続の月間ネットワーク利用料(基本料金)は下記に示した とおりである。 1 時間から 60 時間まで:1 時間あたり 4.00 中国元 60 時間以上:1 時間あたり 8.00 中国元 現在、月単位でのネットワーク利用料は、1 時間あたり 3.00 中国元であるが、その内訳 は、インターネット接続料が 1 時間あたり 1.80 中国元、そして電話回線料が 1 時間あた 236 り 1.20 中国元である。しかし、その他の国々と比較して、この料金は、いまだに非常に高 いのが現状である(表 2.5 を参照)。 表 2.5 ネットワーク利用料 月間ネットワーク利用料(セント/時間) 中国* 香港 シンガポール オーストラリア 日本 36 18 26 32 71 出所: * は当研究所の算出による。その他は Wang Baolai (2001)。 国際電気通信連合(International Telecommunication Union: ITU)の統計によれば、 1999 年には、人口 4 万人以上の 206 の国民経済のうち、中国の一人当たり GDP は 135 位であり、月当たりの 1 世帯利用料は 164 位、月当たりの 1 法人利用料は 160 位であり、 またその他の電気通信に関する指標に関しても中国は他国に遅れている。また、ITU によ れば、1998 年の世界の電気通信消費の平均は 125.9 ドルであるが、中国の消費は 16.4 ド ルであり、世界の平均レベルのわずか 13%に過ぎない。こうしたすべてのことから、中国 における電気通信関連の消費平均は高くないということが言えるだろう。しかし、これは 電気通信料金が低いということを意味しているわけではなく、中国にはいまだに電気通信 サービスを利用できない人々が数多く存在することを示しているに過ぎない。 高い電気通信料金と未発達なサービスに対する不満は、電気通信業界においてさらなる 競争が必要であることを強力に示唆している。その 1 例として、固定電話市場におけるレ ールコム社参入の際、チャイナ・テレコムは即座に対応し、電話機器設置料金を廃止した という事実を挙げることができる。こうした競争がなければ、高い設置料金はいまだに中 国に存在していたであろう。 2.4 デジタル・ディバイドがもたらす結果 デジタル・ディバイドは、今後の発展において格差をもたらす。その重要な指標の一つ は、海外直接投資の牽引力の差である。海外直接投資の格差は、インフラおよび制度上の 環境や政策環境など、多くの要因がもたらす結果であるが、投資家がみずからの将来的な 技術開発を考慮しなければならない現在では、IT 産業とそのため設備の開発が、投資牽引 における重要な条件となっている。 図 2.10 は、IT の普及が中国に対する海外直接投資との地域別関連性を示している。 237 図 2.10 インターネット利用者と海外直接投資の地域別分布 200 海外直接投資額(USドル/一人当たり) 上海 150 広東 北京 100 福建 江蘇 青海 50 浙江 吉林 河北 安徽 天津 広西 寧夏 0 Tibet 0 2 湖北 湖南 山東 四川 遼寧 4 6 8 10 12 14 -50 インターネット利用者(%) 第3章 3.1 有償資金協力(借款)プログラムが知識の貧困削減に対し支援可能な 分野 理論的原則 一般的に、有償資金協力(借款)プログラムは、格差の原因を取り除くことによってデ ジタル・ディバイドを狭めることができる。ドナーは、開発途上国のとりわけもっとも後 れた地域において、教育システムを改善し、インフラを構築し、衛星受信機やコンピュー タなどを用いて貧困者のインターネットアクセスを可能にし、制度上の政策と開発政策を 再構築する技術援助を提供することで、開発途上国を支援することができる。 しかし、リリース不足を考えると、有償資金協力(借款)プログラムを有効なものとす るためには、下記の課題を考慮しなければならない。 ■ まず、被支援国の政府が、限られたリソースで政府が基本的に有効であり、責任を持た なければならない分野を明確にする必要がある。また、追加援助が期待できる分野、ある いはその専門性が有効活用できる分野を明確にしなければならない。 ■ 次に、重要分野において目標が達成できるように、有償資金協力(借款)プログラムを もっとも有効的に企画・立案しなければならない。そのためには、下記の 2 点を明確に定 238 義する必要がある。 A. もっとも有効に成果を生み出せる援助方法 B. 成果を生み出す可能性が最も高い、対象受益者グループ 上記の課題に関しては、次項で詳細に検討を加えることにする。 3.2 有効手段:中国の場合 中国を例にとり、貧困削減を目標として、情報技術に対する有効な有償資金協力(借款) プログラムとは、どうあるべきか分析を行なう。 3.2.1 地域別援助 今後の中国向けの有償資金協力(借款)プログラムは、内陸部、たとえば中部西部地域 など、国内格差から見ても明らかに情報技術による貧困地域に焦点を当てるべきであろう。 長期的には、沿岸地域の経済成長が揚子江沿いの「中部地域」にまで広がることで、有償資 金協力(借款)プログラムは、陝西、四川、貴州、甘粛、寧夏、雲南、新疆、および内モ ンゴルなどの省、自治区などの西部地域で一層必要となるであろう。 さらに、成都(四川省)、陝西省の西安、および重慶(特別市)などの大規模都市よりも 小規模な都市に一層注意を払う必要がある。 3.2.2 問題の根源を解決するための目標 情報技術による貧困の解決に挑むことは、問題の根源を解決することに他ならない。す なわち、教育、インフラ、政策環境を改善するために援助を行ない、さらに、人々が新し い技術を利用できるように、所得格差を是正するための直接援助を何らかの形で提供する ことである。 一般的に、上記 4 分野に対する援助は、情報技術が生み出す貧困の削減に有効である。 しかし、中国の場合には、下記の事項に関しても考慮する必要がある。 ■ 教育、特に、初等教育と中等教育は、一般に政府の教育政策が責任を持つべきである。 ドナー国は資金的援助はできるかもしれないが、目に見える影響をもたらすことは難しい。 一方、中国政府は内陸地域における基礎教育を含めた教育発展を最優先事項の 1 つとして いる。 ■ 遠隔地である内陸地域では光ファイバー回線やその他のニュー・エコノミーによる物理 的インフラこそが、海外援助の対象となるであろう。しかし、最近では、電気通信設備は 公共財としてよりも、ビジネス・モデルを持つ民間企業により提供されるべきだと考えら 239 れているようである。多くの多国籍企業がすでに中国での事業を開始しているが、外国政 府の資金的援助よりも、より多くの海外直接投資を呼び込む方が賢明であろう。 ■ 政策環境はドナー国および国際機関による多様な技術援助によって改善することがで きる。しかし、何よりも、政策環境改革は財政的資源を必要としない。また、独占の排除 は、そもそも国内の政治的課題である。中国において IT 産業とニュー・エコノミーが発 展するにつれて、一層の競争を促す方向に政策変更を求める国内勢力が増してきている。 このような勢力が地域的に中国のどこに存在するにせよ、変革は国家レベルの問題であり、 中国全土に影響をもたらし、内陸地域勢力の弱いグループも、政策的改革によって利益享 受の可能性もある。 したがって、デジタル・ディバイドは複数の原因によって引き起こされているにもかか わらず、上記 3 分野に対しての有償資金協力(借款)プログラムは、さほど有効ではない 可能性がある。残された唯一の分野は、新情報技術のアクセスに伴う高いコストに関する 分野だけである。技術コスト削減の全般に関して言えるように、この分野に関しては、よ り詳細な分析、および新たな解決策を模索が必要であろう。 3.3 アフォーダビリティ(購入可能性)再考-開発途上国による情報技術の利用コスト 削減 開発途上国と途上国の国々の中小企業が新技術を利用する際に、もっとも深刻な障害の 一つとなっているのは高いコストである。「知識経済」の現代、IT 利用コストのほとんどは、 「知識に対する報酬」で構成されている。知識に対する報酬として、先進国の IT 関連企業 の特許料、ライセンス料、および利益が挙げられる。新しい特許の大半を生み出している のは先進国の IT 関連企業であり、これこそが格差の根源である。 中国の企業は、海外から技術の購入がいかに高価であるかを理解している。国の補助金 あるいは国営銀行の融資を利用して海外の技術の買い付けが可能なのは、ほとんどの場合 国営企業であり、収益を考慮することはほとんどない。表 3.1 の技術関連貿易赤字による と、1950 年から 1998 年にかけての中国の技術関連輸入契約が 1,000 億 US ドルであり、 技術関連貿易の赤字が 900 億 US ドルであった。技術関連貿易には、特許、コンサルティ ング、サービス、共同生産、および機器が含まれる。このことは、中国が機械や設備だけ ではなく、特許に対しても多額のを支払いを行ったことを示唆している。 表 3.1 技術関連貿易赤字(1950-1998 年) 10 億 US ドル 技術契約 合計金額 輸入 116.94 輸出 28.22 赤字 88.72 出所:Ministry of Science and Technology 240 また、特許申請のデータを見ると、先進経済国がハイテクあるいは IT 分野を支配して いる。最近 3 年間(1998 年から 2000 年)、中国における IT 関連の特許申請のほとんどは 外国企業からのものである。図 3.1 が示すように、サムソン、ナショナル、NEC などの外 国企業は、約 4,500 件の IT 関連の特許申請を行なっているが、中国企業の場合は合計で わずか 300 件に過ぎない。さらに、IT 関連の特許申請の実に 80%以上が、日本、米国、 韓国、ドイツの企業によって行なわれており、中国企業による申請は全体のわずか 10%で ある。 図 3.1 中国における IT 関連の特許申請(1998-2000 年) Legend 12 Tsinghua Tongfang 16 Shanghai Bell 19 Changhong 29 Haier 34 特許数 75 ZTE 120 Huawei 545 Philip 631 Siemens 941 Sony 1434 NEC National 1547 Sumsang 1558 0 500 1000 1500 2000 出所:State Intellectual Property Office of P.R.C. IT 関連の特許のほとんどを外国企業が保有していることは、開発途上国が IT 特許の利 用に高い特許料を支払わなければならないことを意味する。全体の状況を示す統計データ はないが、下記の事例が証拠となるであろう。 例 1:中国のパソコン市場に関する最近のデータによると、中国最大のパソコン・メー カーである Legend は、コンピュータ一台につき 200 中国元の特許料を支払っており、他 の小規模なパソコン・メーカーは規模の経済の欠如から一層高い特許料を支払っている。 つまり、ソフトウェアの特許料は、価格が 7,000 中国元のコンピュータ一台につき、その 3%あるいはそれ以上を占めることになる。 241 例 2:符号分割多重接続(Code Division Multiple Access: CDMA)は携帯電話に利用さ れる新技術である。CDMA を採用している携帯電話メーカーは、CDMA に関するほとん どのライセンスを保有している Qualcomm に対して、高いライセンス料を支払わなければ ならない。たとえば、中国最大の通信機器メーカーである ZTE は、中国で初めて商業目的 の CDMA ライセンス協定を Qualcomm と締結した。ZTE は、このライセンス契約により、 Qualcomm の技術と集積回路を利用して、中国および世界中で CDMAOne と CDMA2000 の機器を製造・販売することができる。同時に、ZTE は国内で販売される CDMA 携帯電 話一台につき 2.65%のライセンス料、および今後発生する多額の「価格変更料金」(およそ 数百 US ドル)を支払わなければならない。他の CDMA 電話機のメーカーも、この方法 に倣い Qualcomm から CDMA のライセンスを獲得するであろう。 例 3:中国の携帯電話利用者は、さらに一通話あたりの料金の 20%以上を占めている高 いライセンス料を GSM システムに対して支払わなければならない。実際、この料金は(し かし、この点に関してはより詳細な情報が入手できていない。この情報は、企業機密とし て扱われている!)。 例 4:中国の Technology Trade Company(CTTC)が輸入した肥料機器のシステムの 価格は 1 億 US ドル以上であり、その 10%が特許料、3%が技術サービスと講習費用であ る。CTTC によると、通常、特許料は輸入する機器の合計価格の 10%から 15%を占めて いる。 多国籍企業の IT の特許を利用することは、開発途上国がその発明のプロセスを繰り返 すよりは安くすむ(例:いわゆる「後進国のメリット」)が、途上国の低い所得を考慮する とそれでもやはりコストが高すぎる。「知識経済(ナレッジ・エコノミー)」が賞賛される 現代と、知識に対するアフォーダビリティ(購入可能性)の差から格差が生じる。また、 ある人のデジタル・プロフィットは、他の誰かのデジタル・ポバティーを意味することに 過ぎない。 第4章 新技術の利用を助成する:アフォーダビリティ(購入可能性)を改善 するためのアイデア IT に限らず一般的に高額な新技術に対する開発途上国、貧困地域、および中小企業のア フォーダビリティ(購入可能性)は比較的低い。この問題をいかに解決するかという課題 は、デジタル・ディバイドに関する議論の中でも適切に検討されておらず、この課題をよ り深く掘り下げて考える必要がある。 242 4.1 「情報利益」の一部を「情報貧者」に提供する:開発途上国における知的所有権の保護 と新技術の利用の助成 知的所有権は保護されるべきであり、特許料は支払われるべきであることは大前提のこ とである。貧困国の一部の人々が主張するような、特許制度の廃止は人類の進歩が低速す るのを防ぐためにも行なうべきではない。しかし、アフォーダビリティ(購入可能性)の 低い人々に対しては、特許の利用に伴う費用を削減するために、何らかの対応を行なう必 要がある。 他方、「デジタル・ディバイド」には、貧困国や中小企業がハイテク技術を利用できない 中で、先進国や多国籍企業は知的所有権により利益をあげているという両面があることを 認識しなければならない。たとえば、2000 年の米国の知的所有権による貿易黒字は 240 億ドルであった。 こうした事実を考慮すると、発展途上国の中小企業がハイテクを利用する際の補助金と して、情報利益「デジタル・プロフィット」の一部を使用するという可能性が考えられる。 これは、貧困層に対する一種の国家間の財政移転であり、補助金は政府が国内のグループ に対して与える他の資金移転と同様、国際公共財として提供される。 たとえば、中国の貧困地域にある中小企業が、標準的な生産性と競争力を獲得するため の技術を利用したくとも、その技術の価格が現状のままであれば、相対的に高額な新技術 を採用することは不可能である。しかし、先進国あるいは多国籍企業からの国際的資金あ るいはソフト・ローンを、この企業が支払うべき特許料、ライセンス料、あるいはロイヤ ルティーとして使用することができれば、この企業が技術を利用することが可能である。 このような補助金は、コンピュータ、ソフトウェア、特許、ロイヤルティー、ライセンス 料から、機械装置あるいは技術移転に至るまで、あらゆるものを対象にすることができる。 資金的援助は、利用者が利益を上げることができる程度に、十分に技術コストをカバーす るものでなければならない。 このようにすると企業は知的所有権の侵害も防ぐことができ、開発途上国において知的 所有権が一層有効に施行されることにつながる可能性がある。 このような補助金プログラムは、国際機関の仕組み、および先進国や多国籍企業の資金 的援助による「情報利益(デジタル・プロフィット)」から「デジタル・ポバティー」への移 転のようなものである。 4.2 財政援助の提供先 これは、技術利用費用の削減をねらいとした国際的なプログラムの対象を誰にするかと いう一般的な問いかけである。 243 下記の事項について考慮する。 ■ 緊急災害援助や難民救助プログラム等の特別な援助プログラムは別として、貧困削減は、 基本的に政府の責任である。開発のための国際的援助プログラムは、さしあたって「日々の 生存が目的である」最貧困グループを対象にすべきではない。有償資金協力(借款)プログ ラムは、十分な生計能力や基本的な教育といった他の条件はそろっていながらも、経済活 動の立ち上げに必要な資金調達の手段を持たないグループ、あるいは市場で競争するため に必要な技術をもたないグループを対象にすべきである。 貧困削減という同じ目標の下では、生存の問題と開発の問題は別途に扱うことが重要で ある。国際的なプログラムは生存の問題よりも開発の問題に焦点を当てるべきである(政 府はその両方に焦点を当てる必要がある)。そして、開発とは、少なくとも援助があれば、 人々が貧困から脱し、競争市場において成長する力を身につけることができることを意味 する。 こうしたグループの事業が軌道に乗り始めると、多くの雇用が創出され、さらに貧しい グループにも経済的繁栄が広がり、より多くの人々に恩恵をもたらす。そして、かつて貧 困層の一部が、開発のための援助の対象となるグループに押し上げられる。その時点で、 この新たに押し上げられた人々を対象に、有償資金協力(借款)プログラムを継続するこ とが可能となる。 ■ もっとも有効な有償資金協力(借款)プログラムとは、下記に該当する人々あるいは中 小企業を対象としたものである。 ■ 生存するための基本的な手段をもっている。 ■ 経済活動、およびコンピュータや機械などの新技術の利用に関して、基本的な知識を有 している。 ■ 市場における競争に参加し、自らの繁栄を追及したいという意欲を持っている。 ■ しかし同時に、知識経済(ナレッジ・エコノミー)の世界において競争力を得るために 不可欠な設備や技術を手に入れるだけの十分な資金的手段に欠けている。 ■ 補助金は、可能な限り受益者による直接の要請よって提供されるべきであり、援助機関 が強制的に与えてはならない。なぜなら、自分たちにとって何が必要で、何が有用である かを理解しているのは、受益者本人だからである。援助にあたる人々は、この要請により、 申請者が当該技術を利用するために必要な基本的知識をもっているかどうかを把握するこ とができる。こうした要請により、供給は需要を一層有効に満たすことができるのである。 技術や機器が「求められる」のではなく「与えられる」場合、その技術や機器は無駄になる 傾向があり、開発も広がらない可能性がある。たとえば、国際的な援助機関が、ある貧し い村に何台かのコンピュータを送り、村の人々に対してインターネットの利用方法を教え た。当然のことながら、人々はこの新たな技術に驚き、新たな知識をどのように利用する 244 かを学んだ。しかし、ほとんどの場合、援助にあたる人々が村を去ると、地元の人々の生 活はコンピュータやインターネットというものとは関係がなかったためコンピュータの電 源は切られ、どこかに置き去られてしまったのである。この事実は、援助が実際にそれを 必要としている人々に対して提供されなかった可能性があることを示している。 ■ 一方で、提供される補助金は、要請されている技術のコストの一部だけをカバーするも のでなければならない。残りの部分は受益者自身が自ら支払うべきである。言い換えれば、 たとえポケットの中がどんなに深いとしても自らのポケットの中から本当に必要なものが 何かをわからせる必要がある。 ■ インフラや公共施設など、技術の利用に関係する他の条件に関しても、確認する必要が ある。 4.3 具体的計画 これまでの議論のまとめとして、「新技術の利用に対する補助金」の具体的案として下記 の計画が考えられる。 有償資金協力(借款)プログラム内に「補助金プログラム」を設け、公表する。 対象とした地域(たとえば、中国の西部など相対的に貧しい開発途上地域)において応 募を呼びかける。 補助金を受ける資格として、下記の条件が含まれる。 ■ 当該技術/設備の利用に関して明確な目的がある。 ■ 企業の規模。売上高が 100 万 US ドル以下の企業を対象とすることを推奨する。 ■ 企業あるいは個人の経歴。設立 3 年以内の新しい企業に対しては、十分検討すること が必要である。 ■ 応募者が所有している資金的手段。「補助金」は技術特許料/ライセンス料のみをカバー すべきであり、応募者はその他のコストを賄うための資金的手段を有していることを示す 必要がある。 ■ 当該技術の利用により期待される結果。これは、応募者が、なぜ技術を利用する必要が あるかを示す理由となる。 ■ 明確な事業計画-当該技術を適切に利用できる理由等。 応募内容を審査するために、独立した「専門審査」委員会を設立する必要がある。 応募内容は、当該技術と当該業界に関する知識を有する審査員によって検討されなけれ ばならない。審査員のコメントは受益者選抜における基準となる。 補助金受益者の財務上の選択は、有償資金協力(借款)プログラムの機関が行う。 245 4.4 今後の研究課題 冒頭で説明したように、本論文の中で議論した内容はあくまでも概念的な枠組みに過ぎ ない。具体的で実行可能な計画は、学者だけでなく現場にいる政策策定者、および現場の 専門家がさらなる研究を行なった上で策定すべきものである。さらなる研究が必要な問題 として下記の事項が挙げられる。 ■ 有償資金協力(借款)プログラムは、知識の貧困と知識格差に関して何か手を打つべき であるか? ■ 新技術に対する相対的に高い利用コストは、貧困削減と開発プログラムにとっての課題 であるか? ■ 開発途上国および後進地域の中小企業および個人に対する「補助金プログラム」は、実行 可能な方法であるか? ■ 対象グループは誰か?支援の条件は何か? ■ 「補助金プログラム」にはどのような困難が伴うか?管理上の障壁は何か? ■ 国際的な有償資金協力(借款)プログラムと国家政府/地方政府の間にはどのような協 力体制が必要か? ■ このようなプログラムを実行するには、どのような枠組みが必要か?等。 以上の点に関しては、今後さらに詳細な論議が必要である。 第5章 結論 本論文では、デジタル・ディバイドの原因および有償資金協力(借款)プログラムの役 割を分析し明確にした。貧困地域および中小企業による技術利用コストの削減は、貧困と 格差を削減する上で、有償資金協力(借款)プログラムがもっとも有用かつ有効に利用さ れうる分野である。高価な新技術(機器や特許など)を利用する上で明確かつ具体的な要 請がある人々や企業に対して、資金的支援あるいは補助金を提供することにより、市場競 争できる能力を身につけさせ、知識経済(ナレッジ・エコノミー)に追いつけるように支 援することができる。 本論文における政策議論は、多少抽象的であり、こうしたアイデアの実行に際しては、 一層の議論と実験を要する。しかし、開発途上国の貧困者や中小企業が技術を利用する上 で支払うべき高いコストに関しては、真剣に取り組み、研究を進める必要がある。デジタ ル・ディバイドに関する空虚な議論をやめ、それに取り組むための具体的な政策措置を模 索しなければならない。「ハイテク技術利用に対する補助金」はこうした具体的な措置に関 するアイデア、あるいは概念的事例に過ぎない。他にも探索すべき措置が多く存在であろ う。世界が急速な技術の進歩に直面し、知識格差が急速に拡大しているだけに、これはか 246 つてないほど緊急の課題であると言える。 補表 1 15 歳以上合計人口に対する地域別非識字人口および半識字人口の比率 (1999 年) 地域 国合計 15 歳以上の合計人口に対する比率(%) 15.14 中国東部 北京 天津 河北 遼寧 上海 江蘇 浙江 福建 山東 広東 海南 6.45 8.03 11.42 7.18 8.68 16.79 15.70 18.46 20.15 9.23 14.58 中国中央部 山西 吉林 黒竜江 安徽 江西 江南 湖北 湖南 9.17 6.81 9.77 20.28 13.15 16.31 14.98 11.13 中国西部 重慶 四川 貴州 雲南 チベット 陜西 甘粛 青海 寧夏 新疆 内モンゴル 広西 14.75 16.77 24.46 24.34 66.18 18.29 25.64 30.52 23.32 9.77 16.44 12.35 出所:China Statistical Yearbook 2000 247 補表 2 年間所得水準の比較(2000 年) 都市部世帯の一人当たり年間 地方世帯の一人当たり年間 可処分所得(元) 純所得(元) 全国平均 6279.98 2254.30 中国東部 北京 天津 河北 遼寧 上海 江蘇 浙江 福建 山東 広東 海南 10349.69 8140.50 5661.16 5357.79 11718.01 6800.23 9279.16 7432.26 6489.97 9761.57 5358.32 4604.60 3622.40 2478.90 2355.60 5590.40 3595.10 4253.70 3230.50 2654.40 3654.50 2182.30 中国中央部 山西 吉林 黒竜江 安徽 江西 江南 湖北 湖南 4724.11 4810.00 4912.88 5293.55 5103.58 4766.26 5524.54 6218.73 1905.60 2022.50 2148.20 1934.60 2135.30 1985.80 2268.50 2197.20 中国西部 重慶 四川 貴州 雲南 チベット 陜西 甘粛 青海 寧夏 新疆 内モンゴル 広西 6275.98 5894.27 5122.21 6324.64 7426.32 5124.24 4916.25 5169.96 4912.40 5644.86 5129.05 5834.43 1892.40 1903.60 1374.20 1478.60 1330.80 1442.30 1428.70 1490.50 1724.30 1618.10 2038.20 1864.50 出所:West China Development No.5, 2001 248 参考文献 Baker and Mckinsey. 2000. 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