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市場化テストが官製市場を 改革して生じるメリットは?

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市場化テストが官製市場を 改革して生じるメリットは?
特集
市場化テストが官製市場を
改革して生じるメリットは?
∼公共サービスの効率化と質的向上、
プラス民間のビジネスチャンスが拡大∼
八代尚宏 氏
河 幹夫 氏
福嶋浩彦 氏
石川義夫 氏
日本の財政、
もはや破綻寸前?
坂田道夫 氏
鎌形太郎 氏
渡辺 徹 氏
大塚 淳 氏
PPP(KEYWORDS参照)の考え方に基づく公共サービスの民間開放、
すなわち「官製市場」
(KEYWORDS参照)の改革である。
膨れ上がった日本の借金、
現在その額、
約813兆円。地方自治体の借
わが国では、
既にさまざまな手法による公共サービスの民間開放が進
金を含めると、
その額は総額で1,000兆円を超えるとする説もある。
もは
められている。その 主たるものには PFIや 指定管理者制度( KEY
や、国に財政的余裕はない。加えて、地方自治体も厳しい財政に直面し
WORDS参照)、構造改革特区などが挙げられるが、
そこには課題もあ
ている所が多い。国の財政に深くかかわるわが国の経済は回復基調に
る。例えば、PFIは比較的大規模でいわゆる「箱もの」案件が多く、
サー
あるが、
いわゆる「右肩上がり」の成長時代は終わりを告げた。
ビス分野は少ない。指定管理者制度は、
事業者選定基準の透明化が担
その一方で、
少子・高齢化社会の到来に伴い、
社会福祉の分野を中心
保されていないのに加え、国等の施設は対象外である。構造改革特区
に、公共サービスの果たす役割やニーズは拡大・多様化している。何ら
は、
民間事業者が認定申請を行うことはできない。これらは、
いわば制度
かの策を打ち出さなければ、
国の財政状況はさらに悪化し、
財政再建団
上の限界とも言えるものである
(右頁・資料3参照)。
体に転落する自治体も続出しかねない深刻な事態となっている。それを
くい止めるべく、
行政には今、
公共サービスの質の向上と、
効率の良い行
政運営の両立が求められている。
民間の雇用確保
わが国の雇用情勢は、
依然として厳しい状況が続いている。今後、国
市場化テストで一挙解決を
そこで、既成の枠組みや制約にとらわれずに対象業務の範囲を拡大
する手法として注目されているのが「市場化テスト」
(右頁・資料1、2参
照)である。市場化テスト
(Market Testing)
とは、
公平な競争条件の下、
官と民とで競争入札を実施し、
価格と質の面でより優れた方が落札する
際競争の激化や経済のグローバル化がより一層進めば、国内企業の海
官民競争入札制度であり、
アメリカ、
イギリス、
オーストラリアといった国々
外進出をさらに促し、
国内産業が空洞化する恐れがある。それに伴って
で既に実施されている。わが国では、
平成17年度からモデル事業が試行
国内における雇用の場が減少すれば、
失業者数が急増する可能性も否
され、今後は新法(通称:市場化テスト法/KEYWORDS参照)制定を
定し得ない。このような社会状況に対処すべく、
国内の民間部門におけ
経て、
平成18年度からの全面的導入を目指し、
準備が進められている。
る新たな雇用の確保を促す対策が必要不可欠である。
さまざまな手法とその限界
公共サービスの質の向上、行政運営の効率化、
および民間の雇用確
保という3つの課題を同時に解決するものとして注目されているのが、
「サービスが利益優先になるのでは」
との批判や、
情報開示・官民対等
の競争条件確保・公務員の処遇などの諸課題を克服し、
わが国に市場
化テストを導入するためにはどうすればよいのか。
また、
モデル事業で顕
在化したいわゆる「1円入札」などの課題に対し、
どのように対処すべき
なのか。各分野の第一線でご活躍のエキスパートにうかがった。
KEYWORDS
官製市場
PPP[Public Private Partnership]
官公庁およびそれに準ずる関係団体が、
ほぼ独占的にサービス等の提供を行っ
公共サービスにつき、公共と民間の協力関係をさらに進めようとする考え方。具
ている、
公的関与の強い市場。総合規制改革会議の第3次答申(2003年12月22
体的には、官民パートナーシップ
(協働)
に基づく
「公共サービスの民間開放」の
日)では、
官製市場を「事務・事業を政府が自ら行うか、
または公的な関与が強く
ことで、市場化テストやPFI・指定管理者制度などのさまざまな手法を包括する
株式会社等の参入が原則禁止されている医療、福祉、教育、農業などの分野」
概念。
と位置付けている。
市場化テスト法
指定管理者制度
正式名称「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案」。平成18年
民間事業者を含む団体で地方公共団体が指定する「指定管理者」に、公の施
2月10日閣議決定。公共サービスの質の維持向上および経費の削減を図る改革
設の管理を代行させる制度。地方自治法の一部を改正する法律(平成15年6月
を実施すべく、国の行政機関等または地方公共団体が自ら実施する公共サー
13日公布、
同年9月2日施行)
により、
従来の「管理委託制度」が変更されて実現
ビスを官民競争入札(または民間競争入札)
に付すのに必要な手続等を規定し
した。
ている。
06
法律文化 2006.5 Vol.263
資料1
市場化テストの実施プロセス
資料2
公共サービス改革法案:対象事業(第1弾)
《モデル事業として実施中のもの、
及び今後実施予定のもの》
【各省】
公共サービスに関する情報の公表
を踏まえ、官民競争入札の対象とす
る業務等につき要望
▼
【民間事業者・地方公共団体】
「公共サービス改革基本方針」の閣
議決定
(廃止の対象とする業務の選定)
・官民競争入札・民間競争入札の
対象業務の選定
・関連する規制改革等の決定
※「官民競争入札等監理委員会」
によるチェック
※基本方針を毎年度見直し、対象
業務を追加
「実施要綱」を作成し、官民競争入
札・民間競争入札を実施
※「官民競争入札等監理委員会」
によるチェック
▼
【内閣】
▼
質・価格で最も優れた者を公共サー
ビスの担い手として選定
※「官民競争入札等監理委員会」
によるチェック
①社会保険庁関連業務
・国民年金保険料収納事業
・厚生年金保険等の未適用事業所に対する適用促進事業
・年金電話相談センター事業
②ハローワーク関連事業
・人材銀行事業(管理職や専門・技術職の職業紹介サービス)
・キャリア交流プラザ事業(管理職経験者や技術者に対する就職支援業務)
・若年者版キャリア交流プラザ事業
・求人開拓事業
③統計調査関連業務
・
「科学技術研究調査」及び「個人企業経済調査」等の指定統計調査
・独立行政法人統計センターの業務
④行刑施設関連業務
⑤地方公共団体が実施する業務
▼
▼
《民が落札した場合》
民間事業者が、創意と工夫を発揮しつつ、公共サービスを実施
〈法令の特例〉
・法令の特例を落札した民間事業者に対し適用
〈適正な公共サービス実施を確保するための措置〉
・秘密保持義務・みなし公務員規定
・適正な監督(報告徴収、立入等)
《官が落札した場合》
官が、効率化努力の上で、引き続き
公共サービスを実施
・窓口業務
ア 戸籍謄本等の交付の請求の受付及びその引渡し
イ 外国人登録原票の写し等の交付の請求の受付及びその引渡し
ウ 納税証明書の交付の請求の受付及び引渡し
エ 住民票の写し当の交付の請求の受付及び引渡し
オ 戸籍の附票の写しの交付の請求の受付及び引渡し
カ 印鑑登録証明書の交付の請求の受付及びその引渡し
⑥独立行政法人関連業務
・雇用能力開発機構(アビリティガーデン、私のしごと館)
・中小企業基盤整備機構 等
出所:内閣府市場化テスト推進室資料
資料3
出所:内閣府市場化テスト推進室資料
公共サービスの民間開放手法の比較
制度の概要
市場化テスト
PFI(Private
Finance
Initiative)
根拠法
透明・中立・公正な競争条件の下、公共 競争の導入による公
サービスの提供について官民競争入札 共サービスの改革に
を実施し、価格と質の両面で、
より優れた 関する法律案
主体が落札し、当該サービスを提供して
いく制度。
対称となる業務
実施形態
国・地方公共団体など
の公共サービス
競争入札(官と
民、民と民)
制度開始
実施事業数
2005(平成17)
年 8事業※1
=モデル事業開始
国・地方公共団体など 公募など
の公共施設の建設、維
持管理、運営
1999(平成11)年
230事業※2
・対象業務は比較的大規模で、
長期の契約が多い。
・運営面(サービス)
を主とするものは少ない。
・性能発注が原則だが、詳細な仕様が予め指定
され、
民間の創意工夫が活かされないケースも。
地方公共団体の有する公の施設の管理・ 地方自治法
運営を、民間事業者一般に容認した制度。
地方公共団体におけ
る公の施設の管理
2003(平成15)年
1,550事業※3
・官との関係は契約ではなく「指定」という行政
処分。
・学校、道路、河川など個別の法によるものは対
象外。
・対象とされた事業の大半で、
それまで担当して
きた公益法人が指定された。
各地域の特性に応じた規制の特例措置
を講じ、構造改革の推進や地域の活性
化を図る制度。
地方公共団体の特定 地方公共団体に 2002(平成14)年
事業(教育、物流、研究 よる認定申請
開発、農業、社会福祉
など)
民間の資金やノウハウ等を活用して、
公共施設等の建設、維持管理及び運営
(これらに関する企画を含む)を行う
社会資本整備の手法。
民間資金等の活用
による公共施設等の
整備等の促進に関す
る法律(PFI法)
公募など
指定管理者
構造改革特区
ポイント
・初めて官の世界に競争原理を導入。
・
「官・民競争入札」とともに「民・民競争入札」
も認めている。
・カギを握る「官民競争入札等監理委員会」
。
構造改革特別区域法
548事業※1
・民間事業者が直接申請をすることはできない。
・特例措置が適用される地域は、当初限定される
(⇒一定期間経過後、全国展開)
。
※1 平成17年8月現在。規制改革・民間開放推進会議「
『小さくて効率的な政府』の実現に向けて−公共サービス効率化法(市場化テスト法)案の骨子等−(平成17年9月27日)
」による。
※2 平成18年3月10日現在。基本方針策定以降に実施方針が策定・公表された事業数。内閣府PFIホームページによる。
※3 平成16年6月1日現在。総務省「公の施設の指定管理者制度の導入状況に関する調査結果(平成16年12月)
」による。
参考:規制改革・民間開放推進会議「
『小さくて効率的な政府』の実現に向けて−公共サービス効率化法(市場化テスト法)案の骨子等−(平成17年9月27日)
」
[ウェブサイト]
・規制改革・民間開放推進会議ホームページ「市場化テスト
(官民競争入札)
」
http://www.kisei-kaikaku.go.jp/market/
・市場化テスト推進協議会ホームページ http://www.market-testing.org/
・パブリックビジネス研究会ホームページ http://p-business-net.com/
・PPP推進会議ホームページ http://www.pppweb.jp/
[公表資料]
・内閣府ホームページ「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案」
http://www.cao.go.jp/houan/164/
・大阪府ホームページ「大阪府市場化テストガイドライン」
http://www.pref.osaka.jp/osaka-pref/kikaku/sijohka/
・社会保険庁ホームページ「社会保険業務の市場化テストについて」
http://www.sia.go.jp/top/kaikaku/shijoka/
・法務省ホームページ「宮城刑務所及び福島刑務所市場化テストモデル事業に係る実施
方針・入札公告等の公表について」 http://www.moj.go.jp/KYOUSEI/TESTMODEL/
・厚生労働省ホームページ「市場化テスト
(モデル事業)の実施に関する方針について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/03/h0314-1.html
・規制改革・民間開放推進会議ホームページ「市場化テスト 海外調査報告書」
http://www.kisei-kaikaku.go.jp/minutes/meeting/2005/08/item05_08_03.pdf
・大阪商工会議所「大阪府の公共サービス効率化に関する提言
∼情報開示に基づく実効性の高い制度とするために∼」
http://www.osaka.cci.or.jp/Chousa_Kenkyuu_Iken/Sonota/180206.pdf
[書籍、論文、講演等]
・榊原秀訓、尾林芳匡、家田愛子(著)
『イギリスの市場化テストと日本の行政』
(自治体研究社・2006)
・八代尚宏
(編)
『
「官製市場」改革』
(日本経済新聞社・2005)
・本間正明
(監修・著)
、
市場化テスト研究会
(著)
『概説 市場化テスト−官民競争時代の到来』
(NTT出版・2005)
・桜井通晴(監修)
、南学、小島卓弥(編著)
『地方自治体の2007年問題−大量退職時代のアウトソーシング・市場化テスト』
(官公庁通信社・2005)
・井熊均『図解 よくわかる公共(パブリック)
マーケット・ビジネス−再び注目を集める20兆円
市場』
(日刊工業新聞社・2005)
・「公共サービス改革!−市場化テストを中心に−」
(内閣府『ESP(ECONOMY SOCIETY
POLICY)
』2005年12月号 № 404)
・「特集『市場化』のインパクト」
(
『月刊ガバナンス』2005年12月号 № 56)
・日経グローカルシンポジウム「官業の民間開放が地域を変える!
(2005年9月7日)
」
http://www.nikkei.co.jp/rim/glweb/no36-1.htm
・
「特集 官業開放!! 40兆円のビジネスチャンス」
(
『週間東洋経済』2005年8月20日号)
・
「論説 市場化テストとは何か(第1回∼第4回)
」
(PHP総合研究所『PHP政策研究レポート』2005/7[Vol.8 No.94]、2005/9[Vol.8
No.96]
、2005/12[Vol.8 No.98]、2006/1[Vol.9 No.99]
http://research.php.co.jp/seisaku/report/)
・第3回日本版PPPセミナー「地域再生∼PPPを活用した新しい動きとその可能性」
http://www.pppweb.jp/event/seminor/06.html
・杉田定大「日本とアジアに官民パートナーシップの時代が到来」
(講演/独立行政法人経済産業研究所ホームページ「BBLセミナー(2005/05/30)」
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/05053001.html)
・政府広報オンライン「市場化テスト」
(内閣府大臣官房政府広報室『オンライン広報通信』2005年3月号
http://www.gov-online.go.jp/publicity/tsushin/tsushin200503.html)
・「特集 構造改革・官製市場改革の切り札、市場化テストが動き出す!∼公共サービスの民
間開放、新たなステージへ∼」
(
『法律文化』2005年2月号)
・ 齋 藤 純「 市 場 化テストとは」
( 大 和 総 研 ホーム ペ ージ http://www.dir.co.jp/
research/report/law-research/financial/05082301financial.pdf)
・村田丈二「市場化テストの効力と今後の課題」
(日本総研ホームページ http://www.jri.
co.jp/consul/column/data/279-murata.html)
2006.5 Vol.263 法律文化 07
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