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疾患の理解と対応
平成27年度精神保健福祉基礎研修会【基礎知識編】 平成27年5月1日 三重県立こころの医療センター 森川将行 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 1 守破離とは 剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの ⇒精神保健福祉医療関係者にも通じる道です。 ・守(しゅ)―師の教えを守り、ひたすら基本を身につける段階。 ・破(は)―守の殻を破り、身につけた教えを基礎とし、自らの知 能や個性を発揮して次第に自分のスタイルを確立していく段階。 他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ心技 を発展させる段階。 ・離(り)―それらの段階を通過し、何事にもとらわれない段階。 一つの流派から離れ独自の新しいものを生み出し確立させる 段階。 ⇒我流に走る前に、今一度基本を振り返りましょう。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 2 傷病別の医療機関にかかっている患者数の年次推移 350 323 303 300 258 250 200 218 218 247 228 212 204 237 173 150 136 119 100 147 127 107 137 128 91 142 137 86 50 平成8年 平成11年 平成14年 平成17年 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 ※単位:万人※出典:患者調査を基に作成 152 134 精神疾患 悪性新生物 糖尿病 脳血管疾患 虚血性心疾患 「5疾病5事業」へ、 2013年度以降の 平成20年 医療計画に反映。 81 3 精神疾患に関する医療計画 目指すべき方向 【「医療計画について」(平成24年3月30日付け医政発第0330第28号) 抜粋】 2 医療連携体制について (2)医療計画に定める以下の目的を達成するために、医療機能に着目した診療 実施施設等の役割分担の明確化などを通じて、発症から診断、治療、地域生 活・社会復帰までの支援体制を明示すること。 ①住み慣れた身近な地域で基本的な医療支援を受けられる体制を構築するこ と。 ② 精神疾患の患者像に応じた医療機関の機能分担と連携により、適切に保 健・福祉・介護・生活支援・就労支援等のサービスと協働しつつ、総合的に必要 な医療を受けられる体制を構築すること。 ③ 症状が多彩にもかかわらず自覚しにくい、症状が変化しやすい等のため、医 療支援が届きにくいという特性を踏まえ、アクセスしやすく、必要な医療を受けら れる体制を構築すること。 ④ 手厚い人員体制や退院支援・地域連携の強化など、必要な時に入院し、で きる限り短期間で退院できる体制を構築すること。 ⑤ 医療機関等が提供できる医療支援の内容や実績等についての情報を積極 的に公開することで、患者が医療支援を受けやすい環境を構築すること。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 4 精神病床入院患者の疾病別内訳 (千人) 350 329.4 325.9 4.3 23.8 300 320.9 3.8 4.7 6.6 30.1 17.5 3.6 11.4 17.8 324.3 18.6 32.8 306.7 2.3 22.7 16.6 てんかん 293.4 2.4 33.5 16.8 250 3.0 27.5 28.8 13.0 アルツハイマー病 血管性及び詳細不明の認知症 25.9 12.3 精神作用物質使用による精神及び行 動の障害 統合失調症,統合失調症型障害及 び妄想性障害 気分[感情]障害(躁うつ病を含む) 200 214.9 211.5 150 201.2 196.5 185.3 171.7 神経症性障害,ストレス関連障害及 び身体表現性障害 知的障害<精神遅滞> 100 50 19.5 10.2 0 11.1 14.6 H8 5.3 21.3 8.1 5.0 11.5 13.7 H11 22.2 8.2 24.4 3.7 10.7 10.3 H14 7.2 11.3 9.6 H17 3.6 6.9 24.9 11.7 7.3 H20 3.7 25.5 5.3 12.1 6.6 H23 4.2 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 ※H23年の調査では宮城県の一部と福島県を除いている その他の精神及び行動の障害 その他 5 資料:患者調査 精神疾患外来患者の疾病別内訳 (千人) 3000 212 207 266 2500 147 91 309 1500 68 13 227 71 459 19 70 アルツハイマー病 162 584 その他の精神及び行動の障害 565 580 神経症性障害,ストレス関連障害 及び身体表現性障害 494 1012 417 気分[感情]障害(躁うつ病を含む) 929 896 1000 685 411 統合失調症,統合失調症型障害 及び妄想性障害 416 500 504 0 325 150 111 251 2000 てんかん 208.9 55 H8 453 43 75 H11 32 84 H14 608 558 531 39 52 43 精神作用物質使用による精神 及び行動の障害 539 65 91 99 107 H17 H20 H23 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 ※H23年の調査では宮城県の一部と福島県を除いている 血管性及び詳細不明の認知症 6 資料:患者調査 全国の精神保健福祉センターにおける相談疾患内訳 (平成26年度厚生労働科学研究費補助金研究調査) 30% 27.4% 17.9% 20% 15.1% 14.3% 10% 2.4% 4.4% 1.1% 0.2% 0.7% そ の他 てん か ん 注意欠如・ 多動性障害 発達障害 知的障害 性同一性障害 パ ー ソナ リ テ ィ 障害 1.4% 依存症 重 度 ス ト レス 反 応 ・適 応 障 害 強迫性障害 不安障害 1.6% 摂食障害 4.4% 物質乱用 2.6% う つ病 ・う つ状 態 高次脳機能障害 双極性障害 0.8% 3.1% 統合失調症等 1.7% 認知症 0% 7.2% 13.7% 全体 (N=3539) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 7 精神の正常と異常について ●どこからが“病気”で、どこまでが“個性やパーソナリティ”とみていいかむ ずかしい。 ●検査など客観的な数字で示せないため、病気の診断はあいまいにみえる 部分がある。 一般的基準 ①平均概念:平均から大きくずれている基準 ②価値概念:社会的価値判断からおかしいという基準 ③疾患概念:これを満たせば病気という基準 DSM や ICD どんな人が精神科に相談してくるのか? 本人が悩むか、周りの人たちが悩むか 本人に自覚がない場合は周りが困る 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 8 一般成員における知能指数の分布図 ∼ IQ 100を中心に正規分布を示す∼ 大熊輝雄著「現代臨床精神医学」(金原出版) 9 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 精神医学的診断のために必要な情報 既往歴、家族歴、生活史(生育歴、学歴、結婚歴、職歴)、家庭環境、職場 環境、生活および現病歴の聴取。 精神医学的面接所見、 神経学的検査、 各種の検査室特殊検査所見 心理テスト所見 ⇒総合的に診断を行う。 本人と家族との意見が食い違うときには、相違が生じた理由についての本 人の考え方を確認する。 現在症(精神的現在症+身体的現在症) 1.精神的現在症 1−1.患者の外貌・表出面の観察:服装、着衣、頭髪の手入れ、化粧が自 然か、手指の爪・皮膚の清潔、顔面・手首・のどなどの傷跡、注射痕の有無 など。表情・態度・動作・話し方。 1−2.患者の要素的精神機能、主観体験の言語による把握 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 10 精神症状の把握 ●意識障害 ●知能障害、記憶障害 ●錯覚、幻覚 ●思考障害 1.思路障害、2.妄想、3.強迫・恐怖 ●感情障害 ●自我障害 ●欲動障害 ●行動障害 ●病識の欠如 ●疎通性障害 ●失語、失行、失認、脳局所症状 ●睡眠障害、不眠 ●不定愁訴、身体化 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 11 精神医学的診断の問題点 身体疾患の分類・診断体系は病因論に基礎を置いており、客観的である。 精神障害では病因不明のものが多いので、病因論だけに基づく診断は困 難である。したがって、従来は症状、病因、環境因子、重症度、経過など多 くの因子の組み合わせによって作られた臨床類型による分類体系が用い られ、診断面では多元的診断が行われている。 一般に精神科領域での診断の不一致を起こす要因には、患者の状態のそ のものが診断の時期により異なることのほか、患者に対する面接の仕方や 家族からの情報の有無など情報量の差(情報変異)、同じ情報を提供され ても観察眼に差がある場合(観察変異)、診断基準の相違による変異など がある。 DSM:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders アメリカ精神医学会が作成した診断基準 DSM-III-R (1987年), DSM-IV(1994年), DSM-IV-TR (2000年), DSM-5 (2013年) ICD:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(1990年)死因や疾病の国際的な統計基準。世界保健機関 (WHO) 。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 12 幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される心の病 (DSM-IV-TR参考) ●精神遅滞(MR):軽度(50‐55∼70)、中等度(35‐40∼50‐55)、重度(20‐25∼35‐40)、最重 度(20‐25以下) ●学習障害(LD):読字障害、算数障害、書字表出障害 ●運動能力障害:発達性強調運動障害 ●コミュニケーション障害:表出性言語障害、受容-表出混合性言語障害、音韻障害、吃音症 ●広汎性発達障害(PDD):自閉性障害、レット障害、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害 ●注意欠如/多動性障害(AD/HD) ●行為障害、反抗挑戦性障害 ●異食、反芻性障害、哺育障害 ●チック障害:トウレット障害、慢性運動性または音声チック障害、一過性チック障害 ●遺糞症、遺尿症 ●分離不安障害、選択性緘黙、反応性愛着障害、常同運動障害 ●上記以外、適応障害、心身症、うつ病、統合失調症など ●診断名ではないが、不登校、ひきこもり 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 13 成人にみられる心の病 ●せん妄、認知症 ●身体疾患による精神疾患 ●物質関連障害:アルコール、アンフェタミン、カフェイン、大麻、コカイン、吸入剤、ニ コチン、アヘン、フェンシクリジン、鎮静剤、催眠剤、抗不安薬) ●統合失調症、統合失調症様障害、失調感情障害、妄想性障害、短期精神病性障 害 ●気分障害:大うつ病性障害、気分変調性障害、双極性障害、気分循環性障害、 ●不安障害:パニック障害、恐怖症、社会不安障害、強迫性障害、外傷後ストレス障 害、急性不安障害、全般性不安障害 ●身体表現性障害:身体化障害、転換性障害、疼痛性障害、心気症、身体醜形障害 ●虚偽性障害 ●解離性障害:解離性健忘、解離性とん走、解離性同一性障害、離人症性障害、 ●性障害および性同一性障害 ●摂食障害:神経性無食欲症、神経性大食症 ●睡眠障害:原発性不眠症、原発性過眠症、ナルコレプシー、概日リズム睡眠障害、 睡眠 時随伴症(悪夢、驚愕、遊行症) ●衝動制御障害:間欠性爆発性障害、窃盗癖、放火癖、病的賭博、抜毛癖 14 ●適応障害 ●パーソナリティ障害 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 2009年「国民衛生の動向」p414-416を改変 年齢階級 (歳) 10∼14 15∼19 20∼24 25∼29 30∼34 35∼39 40∼44 45∼49 50∼54 55∼59 60∼64 全体 3 2 1 1 1 1 2 2 3 4 4 死因順位 男性 3 2 1 1 1 1 1 2 3 3 4 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 女性 2 1 1 1 1 2 2 2 3 4 4 15 自殺と精神疾患 23% 2% 30% 13% 18% 14% 気分障害(うつ病を含む) 物質関連障害(アルコール依存症を含む) 統合失調症 パーソナリティ障害 その他の診断 診断なし Bertoloteら、 Crisis 2004 自殺(自死)は個人の自由な意思や選択の結果と思われる方も おられますが、実際には、様々な要因が複雑に関係して、心理 16 的に追い込まれた末の死と言えます。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 平成26年版自殺対策白書 概要 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 17 自身の自死念慮・企図経験 男子 30.0% 女子 28.3% 25.2% 25.0% 20.0% 15.0% 12.8% 8.8% 10.0% 5.0% 1.8% 1.8% 過 去 一 年 以 内 に自 死 し よ 大阪市 市政モニター報告書 「生活ストレスについて」 平成20年9月 大阪市健康福祉局こころの健康センター 男子281人、女子277人 う と し た こと が あ った 過 去 一 年 以 内 に死 にた い と 思 った こと が あ る 自 死 の経 験 が あ る 家 族 、友 人 ・知 人 な ど の 0.0% 18 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 自死の俗説 Yes No 自死を口にする人は自死をしない。 一度自死未遂をした人は、二度と自死を企てな い。 自死念慮を尋ねられると死にたくなる。 自死は予告なしに起こる。 未遂は女性に多い。 国際ビフレンダーズ・大阪自殺防止センター 横田氏より引用 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 19 「自死したい」と打ち明けられたら (高橋祥友、「自殺予防」より) 1)誰でもよいから打ち明けたのではない 2)生と死の間で激しく揺れ動いている 3)時間をかけて訴えを傾聴する 4)沈黙を共有してもよい 5)してはならないこと(後述) 6)悩みを理解しようとする態度を伝える 7)十分に話を聴いたうえで他の選択肢を示す 8)いつも「自死」の話題から打ち明けてくるわけではない Talkの原則: 誠実な態度で話しかける(Talk)、自死について、はっきりと尋 ねる(Ask)、相手の訴えに傾聴する(Listen)、安全を確保する(Keep safe) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 20 (NIOSH) 年齢、性別、性格傾 向、ストレス対処能力 など 個人要因 仕事の ストレッサー ストレス反応 疾病 うつ病 身体疾患 仕事外の 家庭や居住地 要因 域での出来事 緩衝要因 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 人間関係、支援 21 虚血性 心疾患 高ストレス群が2−3 倍高い 高血圧 高ストレス群が2−3 倍の高い 糖尿病 残業時間月50時間以 上で3−4倍 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 22 思い通りに行 かない 人 間 関 係 仕 事 結婚 出産 昇進 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 けがや病気 23 ストレス解消法があるか (SA) N=2,553 わから ない 14.3% ない 12.0% ある 73.7% 堺市勤労者アンケートから 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 24 ストレス解消法 0 20 40 人に話を聞いてもらう 29.0 39.5 のんびりする時間をとる 買い物をする 38.2 11.6 音楽・映画・ビデオなど 19.4 酒を飲む 36.8 喫煙をする 30.0 ギャンブル 15.0 旅行をする 15.5 その他 20歳未満 11.3 7.8 5.3% 20歳代 28.2% 30歳代 33.3% 40歳代 43.9% 50歳代 42.2% 60歳以上 39.8% 20.8 よく寝る (MA) N=1,873 アルコールでストレス発散 している人の年代別割合 26.6 よく食べる 読書をする % 22.9 運動やスポーツをする カラオケで歌う 60 40歳代以上で多くなっている 堺市勤労者アンケートから 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 25 “ 節度のある適度な飲酒” 一日純アルコールで約20g程度に抑える。 「健康日本21」 (注)主な酒類の換算の目安 お酒の種類 ビール (中瓶1本 500ml) 清酒 (1合 180ml) ウイスキー・ブラン デー (ダブル60ml) 焼酎(35 度) (1合 180ml) ワイン (1杯 120ml) アルコール度 数 5% 15% 43% 35% 12% 純アルコール 量 20g 22g 20g 50g 12g 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 26 レジリエンス(reslilience) ●困難な状況や心理的ストレスに適応して精神的安定を維持する力のことを いう。 ●精神医学領域では2000年に、Manjiが、気分障害の病態においてレジリエ ンスという概念を提唱した。Mol Psychiatry 5:578-593, 2000 ●健康な脳機能を維持して精神疾患に陥らないための生物学的な要因をレジ リエンスという。精神疾患に陥る脆弱性の対極にある概念である。 ●一方で、統合失調症への心理社会的側面からの介入法として,ストレングス モデルが知られている。 ⇒その人が、元来持っている「強さ・力」に着目して、それを引き出し活用してい くこと。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 27 精神的健康を維持するレジリエンスの概念図 外的(環境)要 因 内的(生物学 的)要因 健康 精 神 疾 患 ストレス 保護 因子 橋本亮太ら 臨床精神医学 41:127‐134、2012 レジリ エンス 脆弱性 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 28 うつ病について知っているか (SA) N=2,569 0% 20% どのような症状があるか どのような治療法があるか 接し方でしてはいけないこと 40% 60% 80% 70.9 29.1 35.3 64.7 33.6 66.4 知っている 100% 知らない 症状は知っていても治療法、接し方は分からない方が多い 堺市勤労者アンケートから 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 29 以下の症状が2週間以上ほとんど毎日続いたことがあるか 0% 寝つきにくい、途中で目が覚める 20% 40% 60% 20.4 なかなか決断ができない 生活に充実感がない これまで楽しんでやれたことが楽しめない 14.9 21.4 22.2 65.3 はい 堺市勤労者アンケートから 16.4 56.0 58.4 30.6 (SA) N=2,569 18.0 56.4 13.5 わけもなく疲れたような感じがする 12.9 67.0 24.8 自分が役に立つ人間だとは思えない 100% 66.8 18.3 以前は楽にできていたことが今はおっくう 80% 19.2 28.1 49.9 いいえ 19.5 どちらともい えない 2割前後の方がうつ病の症状を2週間以上呈していたことが ある 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 30 気分の落ち込みに加え、不眠、頭痛、胃痛などを伴ううつ 病の初期症状が2週間続いたら、病院を受診しますか 0 10 20 30 40 % (SA) N=2,530 受診しない 36.5 受診したくないが、心配なので保健センターなどの 公的機関に相談する 13.9 29.7 精神科以外の医療機関に受診する 18.3 精神科などの専門の医療機関に受診する その他 1.5 うつ病の初期症状が見られても病院を受診しない人が36% 堺市勤労者アンケートから 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 31 なぜ病院を受診しないのか 0 10 20 30 40 50 % (MA) N=891 18.4 治療にお金がかかる 精神科を受診することに抵抗がある 26.7 受診する時間がない 26.0 28.3 どこに受診したらよいかわからない 「うつ病」は特別な人がかかる病気なので、 自分には関係ない 10.2 治療しなくても、ほとんどは自然に治ると思う 40.2 その他 9.2 うつ病の症状が現れていてもほとんど自然に治ると思う方が4割 堺市勤労者アンケートから 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 32 うつ病の症状 必須の症状(1または2の症状が必須) 1.ゆううつ、悲しい、空しい 2.何をしても楽しくない、何に対しても興味がわかない その他の症状 3.食欲がない 5つ以上の症状が2週間以上 4.眠れない 5.イライラする 6.疲れやすい、何もする気がおこらない 7.「自分は役に立たないつまらない人間だ」 8.何も考えられない、決められない 9.死んでしまいたい 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 「DSM-Ⅳ-TR」 33 • 15人に1人は、生涯のうち1回はうつ病になる(15 ∼25%とも言われている) • 女性は男性の約2倍(しかし、自殺は男性のほうが 2倍多い) • どの年代にもおこるが、ピークは20代後半と初老 期 • 「産後うつ病」を経験した女性は20人に1人いると 言われています。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 34 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 35 ∼ うつ病自己チェック ∼ チェック項目 □ 1. 毎日の生活に充実感がない □ 2. これまで楽しんでやれていたことが、楽しめなくなった □ 3. 以前は楽にできていたことが、今ではおっくうに感じられる □ 4. 自分が役に立つ人間だと思えない □ 5. わけもなく疲れたような感じがする 判定方法 上に挙げた状態のうち2項目以上が2週間以上、ほとんど毎日続いていて、そのためにつらい気持に なったり毎日の生活に支障が出たりしている場合にはうつ病の可能性がありますので、医療機関、保健 所、精神保健福祉センターなどに相談してください。このほかに、眠れなくなったり食欲がなくなったりする こともよくあるので、そうした状態が続く場合にはうつ病の可能性も考えてみてください。 (平成11−12年度厚生科学研究費補助金障害保健福祉総合研究事業「うつ状態のスクリーニングとその転機としての自殺の予防シス 36 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 テム構築に関する研究」総合研究報告書」(主任研究者、大野裕)をもとに作成) 2質問法 以下の質問のうち,1つを満たす □ この1カ月間,気分が沈んだり,ゆううつな気持ちになったり することがよくありましたか □ この1カ月間,どうも物事に対して興味がわかない,あるい はこころから楽しめない感じがよくありましたか うつ病の割合が5%の集団における感度96%,特異度57%,PPV(陽性反応予測値)11% 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 37 適応障害とは? ●通常の生活で経験される葛藤的な出来事によって情緒面や行動面での 症状が生じる。社会的な機能を妨げるような重大な生活上の変化や、ストレ スの多い生活上の出来事の結果への、順応が生ずる時期に発生する。 ●個人差が大きいが、ストレス要因がなければこの状態は起こらない。 ●症状は多彩であるが、抑うつ気分と不安が中心であり、日常生活が障害 される。 ●診断には、発症前1か月以内の社会心理的ストレス要因の体験があるこ と、他の気分障害や神経症性障害の診断基準を満たさないことが必要。 ●通常は、治療により3か月以内に病前の機能水準にまで回復する。本症 は、定義上は原則として6か月を超えないから、持続する場合は診断を変更 する。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 38 Q どうしてうつ病になったのでしょうか? うつ病は心身ともに疲れきったために起こる病気です。 精神的、身体的にそれなりのストレス状況が続いたため、今のあなたは神経が疲れ きっています。そのため、こころや体の活動のもとになっている神経伝達物質の働き が悪くなってしまったためにうつ病が起こっています。 単なる気の持ちようでは治らない! 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 39 最近のうつ病仮説 ストレス負荷により脳由来栄養因子(BDNF: brain derived neurotrophic factor)が低下し、海馬、前頭前野などの萎縮が 起こり、脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの 様々な神経伝達物質が低下することが想定されている。 モノアミン仮説 抗うつ薬を投与すると、これらの神経伝達物質が増加し、神経 の再生が起こり、うつ病が回復することが報告されてきてい る。 中村純 「こころの科学」 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 40 モノアミンとうつ病の症状との関連 セロトニン ノルアドレナリン 緊張過敏 不安 無気力 いらいら 興味の喪失 認知低下 不機嫌 食欲や性欲 の喪失 活動性欠如 快楽喪失 ドーパミン 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 41 中村純「臨床精神薬理」5: 1616-1622, 2002一部改変 うつ病の治療 現在のうつ病治療は休養・環境調整と薬物療法、精神療法の3つが中心です。 休養、環境調整 薬物療法 SSRI/SNRI、三/四環系抗うつ薬 抗不安薬、睡眠薬 経頭蓋磁 気刺激 (TMS) 精神療法 認知療法 対人関係療法 支持的精神療法 電気けいれん療法(ECT) 脳深部 刺激 (DBS) 人薬 42 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 うつ病の症状が消失していく順序 おっくう感 ゆううつ感 不安・いらいら 笠原 嘉:精神神経学雑誌 100(12):1074,1998 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 43 ●うつ病における治療段階 うつ病性障害へ進行 寛解 再燃 反応 うつ病なし 完全回復 再発 症状 症候群 重症度 治療期 急性期 6∼12週 継続期 4∼9週 維持期 1年以上 時間経過 (Kupfer DJ : long-term treatment of depression. J Clin Psychiatry 52 (suppl) : 28-34, 1991より) 再燃:うつ病の一つの病相からの回復過程でぶり返した場合。 再発:病相から一度完全に回復してしばらくして新たな病相が始まった場合。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 Primary care note うつ病 日本医事新報社(監) 44 患者さんへの説明 十分な休養が必要です(外出を控える)。 病気であることを理解しましょう。 治る病気であり、社会復帰もできることを理解しましょう。 (症状は一直線に良くなるわけではない。三寒四温) 自殺など、自己破壊的な行為を行ってはいけません。 うつ病がよくなるまでは、大きな決断をすることは 避けましょう。 アルコールは控えましょう。 自分の判断で薬をやめないようにしましょう。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 45 家族の方への指導 うつの治療にはご家族の温かいバックアップが必要です。 家族が患者さんをバックアップするためのポイント 1. あまり態度を変えずに、今までどおり自然に接しましょう。 2. 安易な励ましは逆効果になるときもあります。 温かく見守りましょう。 3. 考えや決断を求めることはやめましょう。 4. 外出や運動を無理に勧めず、ゆっくり休ませてあげましょう。 5. 重要な決定は先のばしにさせましょう。 6. 家事などの日常生活上の負担を減らしてあげましょう。 7. 薬の飲み忘れがないかを、さりげなく確認しましょう。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 46 認知行動療法とは 抑うつや不安などの感情の病理を解決するために、認知のパターンを修正 することを通して、不快な感情の改善を図ることが認知療法の目標になりま す。 患者の否定的思考よりも適応的・現実的な視点が存在しうることを、患者が 自覚できるように援助します。そして、認知的技法と行動的技法という治療 技法を用いて、否定的思考に対する患者の確信度を減らします。 1980年代以降、認知療法の適応となる病態は拡大しており、うつ病はもち ろんのこと、神経症、とりわけパニック障害、さらにパーソナリティ障害、摂 食障害、薬物依存、そして夫婦間の心理的問題へと広がっています。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 47 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 48 自動思考をチェックする □根拠のない決めつけ:証拠が少ないままに、思いつきを信じ込む。 □白黒思考:灰色(あいまいな状態)が耐えられずに、物事を全て白か黒かと いう極端な考え方で割り切ろうとする。 □部分的焦点づけ:ある人に苦手意識を持っていると、出会ったときに挨拶を されなかったという事実に目が向いて、やはり嫌われていると考えてしまう。 □過大評価・過小評価:上手くいかなかったことばかりを考えたがとらわれる。 □べき思考、 □自己関連づけ □極端な一般化:少数の事実を取り上げ、全てのことが同様の結果になると結 論づけてしまう。 □情緒的な理由づけ:その時の自分の感情に基づいて、現実を判断してしま う。 □自分で実現してしまう予言:予想通りに失敗してしまう。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 49 「こころが晴れるノート」 大野裕 氏 より 7つのコラム 状 況 これまでなじみのない仕事をしていてわからないことが出てきた。まわりの人に聞こうと思 うが、皆な忙しそうにしているのでつい聞きそびれた。 気 分 1)無力感(80%)、2)みじめ(70%) 自 動 思 考 1)どうして積極的になれないのだろう。こんな消極的では、仕事が先に進んでいかない。 (根拠無、白黒、部分) 2)引っ込み思案な自分が情けない。仕事も人間関係もうまくできない自分は、社会人とし て失格だ。(部分、一般化) 根 拠 1)仕事の内容がよくわからない。実際に仕事が停滞している。 2)人に話しかけるときにいつも緊張する。言いたいことが言えないことがよくある。 反 証 1)慣れていない仕事にはだれでもとまどうが、少し慣れてきた部分もある。同僚も上司も、 時間があるときには教えてくれるす、少しずつは仕事も進んでいる。 2)自分は聞き上手だと言われることがある。ためらっていても本当は必要なことは最後に は言えている。 適 応 的 思 考 1)どんな仕事でもうまくいかないことはあるが、少しずつ仕事は進んでいるから、まずその 経過を見ることが大事だ。慣れてくればスムーズにいきそうだし、周りの人たちも協力的だ。 2)緊張するのは事実だが、言うべきことを言えばいい。むしろ、聞き上手のほうが人間関 係がうまくいく。 心 の 変 化 1)無力感(50%)、2)みじめ(30%) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 50 「こころが晴れるノート」 大野裕 氏 より うつ病のニュータイプ? 逃避型抑うつ(広瀬) Soft bipolarity (Akiskal) 気晴らしうつ病(DSM、貝谷) 現代型うつ病(松谷) 未熟型うつ病(阿部) 職場結合型うつ病(加藤) ディスチミア(気分変調症)親和型うつ病(樽味、神庭) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 51 現代型うつ病(松谷) 比較的若いサラリーマンなどに典型的に見られる軽症の内因 性うつ病の変異型で、抑うつ気分よりも制止症状が前景に立ち 恐怖症的心性に関係すると思われるいくつかの特徴を有する。 特徴 ①やや若い年齢層(30歳過ぎから) ②自分の言動や状態を異常だと感じている。 ③不全型:うつ病の症状が出そろっていない。 ④自責的でなく、むしろ当惑感を抱く。 ⑤職場への忠誠心や同僚への連帯感がなく、帰属意識が 希薄。 趣味的活動が逃避のために、使われていない。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 52 未熟型うつ病(阿部) 20歳過ぎまでは周囲から庇護されて葛藤もなく過ごしてきた20 代後半から40代の男女が、職業上ないし家庭生活上の挫折か らそれまでのライフスタイルを維持できなくなることを契機にうつ 病に陥り、その経過中に不安・焦燥優位で自責に乏しいうつ病 像を呈し、周囲に対して依存と攻撃性を露にする。一方で状況 からのストレスが棚上げされると軽躁状態になりやすい。 メランコリー親和型や執着性格に比較して、成人としては社会 的規範の取り入れが弱いという意味での「未熟」性と、うつ病像 自体が制止に固定せず、不安・焦燥優位で混合状態も呈しやす く典型的な躁やうつに分極しないという意味での「未熟」を兼ね ている。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 53 ディスチミア親和型うつ病への治療的対応 坂元 薫、精神科治療学 第25巻増刊号 2010年 社会的規範意識の希薄化、自責感の乏しさと他責傾向、抑制症状よりも回避症状が主体。 衝動的な自傷行為が見られることも稀ではない。はじめからうつ病の診断に協力的である(あ るいは自らうつ病と称して受診する)。薬物療法の効果はさほど見られず、慢性化しやすいが、 環境に恵まれると急速に改善することがあるといった特徴が指摘されている。 「服薬と休養で比較的短期間で治る」という保証を安易に与えることは決して得策ではない。 かえって長期転帰が不良となることもあろう。抑うつ薬の効果に過剰な期待感を抱かせることも 避けるべきである。休養を勧めることがいつもよいとは限らないし、病状によっては、多少つらく ても仕事や家事をしながら生活のリズムを整えることも大事であることを説明すべきである。 家族には、本人の病気を理解しつつも過保護にはしないように説明する。批判は禁物だが、 患者に合わせ過ぎず、最低限言うべきことは言うように勧める。 最も重要なことは、「本当のうつ病でもないくせに、うつ病、うつ病と騒ぎたて疾病利得を得よ うとしている」という冷たい目のみで彼らを見てしまわないこと。 彼らの自己愛を過剰に肥大させない範囲で、他者に適切に評価され、誉められた経験に乏し い彼らの屈折した自己愛が少しでも満たされるべく配慮すること、つまり適切に誉めることも重 要な方策である。 54 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 身体疾患患者のうつ病有病率 身体疾患 がん 慢性疲労症候群 慢性疼痛 冠動脈疾患 クッシング症候群 痴呆 糖尿病 てんかん 血液透析 HIV感染 ハンチントン舞踏病 甲状腺機能亢進症 多発性硬化症 パーキンソン病 脳卒中 有病率(%) 20∼38 17∼46 21∼32 16∼19 67 11∼40 24 55 6.5 30 41 31 6∼57 28∼51 27 Wise MG, et al.:American Psychiatric Prex, Washington, DC, 2002 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 55 身体疾患に及ぼすうつ病の影響 患者さんの基礎疾患に対する治療意欲を低下します。 基礎疾患の病態を悪化させます。 基礎疾患を遷延化させます。 基礎疾患の再発率が高くなります。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 56 うつ病の有無による心筋梗塞後の予後 うつ病を合併した心筋梗塞患者さんでは6ヵ月で5.7倍心臓死が多くみられます。 【心筋梗塞後の6ヵ月死亡率の比較】 20 死亡率 うつ病(+) (n=35) 15 10 (%) うつ病(−) (n=187) 5 0 1 2 3 4 5 6 【調査概要】 心筋梗塞後(月) 実施国:カナダ 対 象:1991∼1992年に心筋梗塞を発症した222例 方 法:発症後に5∼15日間にDSM-Ⅲ-Rにより大うつ病を診断し、その後6ヵ月まで生存をフォロー 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 Frasure-Smith N,et al.:JAMA 270:1819, 1993 57 薬剤による抑うつ ・レセルピンは歴史的に有名。モノアミンを枯渇させる作用がう つを引きおこすと考えられる。 ・他の降圧薬にもうつを引きおこすものが多い。 ・インターフェロンによるうつ状態は頻度が高い。 ・他にステロイド剤、抗癌剤、H2ブロッカーなどもうつを引きおこ すことが知られる。 ●抑うつをきたす薬剤 解熱・鎮痛薬 循環器作用薬 消化器作用薬 化学療法薬・抗生物質 ホルモン・生理活性物質 神経作用薬 アスピリン、インドメタシン、ペンタゾシン レセルピン、プロプラノロール、グアネチジン、フルナリジン シメチジン ビンクリスチン 副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、インターフェロン ハロペリドール (加賀谷有行, 山脇成人:薬物によるうつ病―特にインターフェロンについて. 広瀬徹也, 樋口 輝彦編, 臨床精神医学講座 4 気分障害, 中山書店, p.518, 1998より) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 58 Primary care note うつ病 日本医事新報社(監) 躁うつ病(双極性障害) ・躁病相とうつ病相を繰り返す ・躁状態の症状 多弁、怒りっぽい、上機嫌、浪費、眠らない、意欲亢 進、注意散漫 ・治療:炭酸リチウム、気分安定薬 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 59 ・双極性障害Ⅰ型 「大うつ病」+「躁病」 ・双極性障害Ⅱ型 「大うつ病」+「軽躁病」 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 60 うつ病ではなく、躁うつ病を疑うポイント ●第一度親族に精神病(統合失調症、躁うつ病、うつ病)の家族歴 ●3回を超える大うつ病エピソードの反復 ●遷延化するうつ病エピソード ●典型的ないわゆる内因性うつ病 ●精神病性大うつ病エピソード ●早期発症の大うつ病エピソード(25歳未満) ●パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorderを含む) ●抗うつ薬による躁転の既往(抗うつ薬による劇的な効果) ●抗うつ薬の「効果減弱」(急性期反応はあるが予防効果はない) ●3種類以上の抗うつ薬への無反応 ●産後うつ病 ●高学歴 菊山裕貴、みんなねっと2011年6月号 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 61 統合失調症 ●生涯有病率:0.7∼0.8%(120人に1人) ●20歳前後の15∼30歳に発症 ●発症のピークは20∼25歳 ●男女差はない ●社会適応が困難になる ●病識がもてない ●患者数約79万人(H20) (※統合失調症圏) ●精神科病院入院中の患者の約60% ●10年以上入院している患者の約80%が統合失調症 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 62 陽性症状と陰性症状(統合失調症) ●陽性症状 正常な機能が亢進するこ とによってあらわれる症 状 ●幻覚 ●妄想 ●思考障害 ●猜疑心 など ●陰性症状 正常な機能が減弱したり 失われることによってあ らわれる症状 ●感情鈍麻 ●引きこもり ●疎通性の障害 ●自発性の欠如 ●意欲の低下 など 認知機能障害 気分症状 63 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 統合失調症の発症メカニズム ●脆弱性ストレスモデル ・体の原因だけでなく、心因だけでもないその両方を折衷したモデル。 環境 生まれながらの素因 (ストレスに対するもろさ) ライフイベント (何か引き金となる出来事) 身体的条件 ストレス 性格 ●神経発達論的成因仮説 ・生育早期の軽微な脳損傷、過程モデル、遺伝的要因。 ●神経化学的なドパミン仮説 ・ドパミンD2受容体の関与、ドパミンの過活動。 ●精神生理学的な情報処理障害仮説 ・過剰な刺激に対する情報処理不足。 ●発症の引き金 ・性的ニュアンス:失恋・異性への興味 ・結婚 ・家庭からの独立、出立 ・親との心理的葛藤 ●初期症状 ・離人症、心気症、不安、不眠など 脳内の 神経伝達 物質の異常 統合失調症の発症・病態モデル (Two-hit仮説) 複数の発症脆弱遺伝子 First hit 周産期 神経発達障害の進行 発症脆弱性の形成 環境要因 思春期・青年期 発症 Second hit 再発による興奮毒性 神経変性 病勢の進行・難治化 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 65 統合失調症の経過 陽性 陰性 前駆期 急性期 消耗期 前駆期 ・睡眠障害 ・聴覚過敏 ・あせりの気持ち →過労、睡眠不足に注意 急性期 ・疑い深さ ・睡眠障害 ・幻聴 →睡眠、休息、安心感が大切 回復期 ・気分の変わりやすさ ・妄想 消耗期 ・過度の眠気 ・倦怠感 ・無気力感 →数ヵ月単位の休息 →就寝時間は規則正しく →焦らず、無理せず ・ひきこもり 回復期 ・ゆとり感の増大 ・周囲への関心の増加 →楽しみながらのリハビリテーション →体力づくりも大切 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 ・過度の甘え 66 (監修:すがのクリニック理事長 菅野 圭樹) 「幻聴」の内容 •陰で自分の悪口を言っている •皆が自分のうわさ話をしている •自分のことを噂して笑っている •知らない人がすれ違いざまにひとこと言う •「死ね」という声が聞こえる •「自殺しろ」という声が聞こえる •自分がしようとしていることを先取りして言われる •自分のプライバシーをみんなが話している •テレパシーで命令される •トイレや風呂に入っていると「XXしているな」、「XXをやめ ろ」とか言われる 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 67 妄想の分類 • • • • • • • • • • 被害妄想:自分が他人から危害を加えられるという内容 関係妄想:周囲の人の言動が自分に関係があると考える 注察妄想:他人に見られていると考える 追跡妄想:誰かに後をつけられると考える 嫉妬妄想:男女関係に関連したもの 微小妄想:自己を過小評価する 貧困妄想:財産を失うなどして貧乏になるのではないかと考える 罪業妄想:道徳に反し他人に迷惑をかける罪深い存在であると考える 虚無妄想:この世は生きるに値しないと考える 誇大妄想:自己を過大評価する 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 68 「被害妄想」として多いもの •皆が自分の陰口、うわさ話を言っている •家が監視されている、のぞかれている •盗聴器、監視カメラを仕掛けられている •後をつけられている •命を狙われている •みんながグルになって自分を陥れようとしている •留守中に家に侵入されている •どこに行っても、自分を見張る車が停まっている 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 69 統合失調症の治療戦略 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 野中猛先生講演資料より 70 統合失調症の治療方針 ●薬物療法を中心に、症状の回復や程度に応じて精神療法やリハ ビリテーションを実施。 精神療法 薬物療法 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 リハビリ テーション 71 感情表出(Expressed Emotion)と統合失調症の再発 1960年代以降にイギリスで調査研究された。高EEだと、統合失調症の再発率が 高くなった。Vaughnら(1976年)によって、退院後の再発率は低EE家族では1 3%であるのに対して、高EE家族では51%であった。 日本の調査でも同様の結果が得られている。 1.批判的コメント 本人に対して不満や文句をあらわすこと 2.敵意 本人を敵視するような感情をぶつけること 3.情緒的な巻き込まれすぎ 過保護・過干渉など しかし、研究結果を理解する時には、結果を必要以上に単純化しないこと。 再発の予防については重要な視点ではあるが、当初から高EEであっても発病し ない人もいる。様々な要因がからんで病気は起こることを認識しないと、本当は 悪くない人を悪者にしてしまいます。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 72 関わりの基本 人を信用しても大丈夫という安心感を与え続ける 馴れ合わない 丁寧な言葉を使う 礼儀正しくする 毅然とした態度 子ども扱いしない 健康、健全な部分を見る ユーモア心を忘れない 三重県立こころの医療センター 原田院長の資料に一部追加 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 73 統合失調症を悪化させる関わり方 1.高飛車に指示する、見下す 2.生な感情をぶつける 3.ネガティブな態度をむき出しにする 4.過剰に依存させる 5.曖昧な言い方をする 6.約束を破る 7.秘密・コンプレックスを揺さぶる 8.話させすぎる 9.ポイントに敏感である 三重県立こころの医療センター 原田院長の資料より 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 74 妄想性障害とは? ●妄想が顕著で唯一の臨床的特徴であり、持続的、時には生涯 にわたり発展する。 ●現実生活で起こる状況に関する奇異でない内容の妄想、追跡さ れている、毒を盛られる、病気をうつされる、遠く離れた人に愛さ れる、配偶者や恋人に裏切られる、病気にかかっているなどであ る。 ●中年期に生活環境と関連した妄想が出現し、最低3カ月間は持 続する。 ●妄想の内容は、多様であるが、迫害的、心気的、誇大的である ことが多く、訴訟や嫉妬に関連することもある。 ●色情型、誇大型、嫉妬型、被害型、身体型、混合型、特定不能 75 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 型。 幻覚・妄想への対応 • 幻覚・妄想を頭ごなしに否定しないように努める • 本人にしてみれば幻覚妄想が「真実」であるので、否 定されるとスタッフ・事例間の信頼関係を損ないかね ない • 幻覚妄想に伴う「不安感」「恐怖感」「イライラ感」「不 眠」を聞き出し、この感情を和らげるために薬物療法 をした方が良いと薬物治療に誘導する 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 76 具体的には? 次の対応は正解でしょうか? • つらさには十分に共感する • 幻覚妄想の内容について協議する • 服薬を促す • 日常生活の改善(早く寝る、食事する)を手伝う • 「病気だから」とはっきり言う 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 77 • つらさには十分に共感する ⇒○:自分が妄想対象の場合は対応困難であるが。 • 幻覚妄想の内容について協議する ⇒×:時に訂正が難しく、望ましくない • 服薬を促す ⇒○:「つらさをやわらげる」「気持ちにゆとりをもつことができる」 • 日常生活の改善を手伝う ⇒○:「元気な面を伸ばす」)によって徐々に得られる • 「病気だから」とはっきり言う ⇒△「病気扱いされた」と関係を壊すことがある ただし、素直に受け入れられれば有効ではある 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 78 うつ病と不安障害の併存 外傷後 ストレス障害 (PTSD) パニック障害 (PD) 強迫性障害 (OCD) うつ病 社会 不安障害 (SAD) 特定の 恐怖症 全般性 不安障害 (GAD) うつ病を有する患者さんのうち、58%が不安障害を合併 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 監修:昭和大学医学部精神医学教室教授 上島 国利 79 不安障害 パニック障害 ・突然“死ぬかと思うような”不安発作 強迫性障害 ・ある「考え」がどうしても勝手に浮かんでしまってつらい ・ある「行動」がどうしてもやめることが出来ずにつらい 社会恐怖(社交不安障害) ・対人恐怖/赤面恐怖/視線恐怖 PTSD(外傷後ストレス障害) ・大きなストレス体験後 → 1.再体験 全般性不安障害 ・「過剰な」心配が続く 2.回避行動 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 3.過覚醒 80 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 81 ある時間内に、強い恐怖感や不快感とともに以下のような症状が4つ以上、突然あら われて、10分以内にピークに達するような状態です。 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ 心臓がドキドキする 汗をかく 体や手足の震え 呼吸が早くなる、息苦しい 息がつまる 胸の痛みまたは不快感 吐き気、腹部のいやな感じ めまい、ふらつき、頭が軽くなる、気が遠くなる感じ 現実でない感じ、自分が自分でない感じ コントロールを失うことや、気が狂ってしまうのではないかという心配 死ぬのではないかと怖くなる しびれやうずき感 寒気またはほてり 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 82 NA(ノルアドレナリン)神経過敏の発作とセロトニンの脆弱性が基底にある 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 83 5∼10分 不 ∼90分 5∼15分 発作が 起りそうな 状況 安 自然に不安が消える 時 間 時間とともに不安はどのように変化するか(坂野 1999) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 84 ・ペットボトル(水・お茶)を持ち歩き、喉を潤す。 ・ガム ・スッとした飴 / タブレット ・携帯をいじる ・人と話をする 自分にあった対応法を見つけましょう!! ・歩く ・音楽を聴く ・電車では中吊りの広告を読む。 ・人間観察をする ・歌を歌う ・リラックスしているイメージを思い浮かべる など 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 85 社交不安障害とは? • 社会不安障害は、人から注目されるような場面(人前で話す、 電話で話す、会話を交わす)や、恥ずかしい思いをするかもし れないという状況に対して強い不安を感じる疾患です。 • このような強い不安から、人から注目されるような場面や状況 があまりにも苦痛で会社をやめようと悩んだり、人と接すること を怖れて家に閉じこもった生活を送るようになり、日常生活に 支障が出てくるようになります。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 86 社交不安障害のタイプ 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 87 性同一性障害 Gender identity disorder (DSM-IV)① A.反対の性に対する強く持続的な同一感(ほかの性であることによって得られると 思う文化的有利性に対する欲求だけではない)。 子どもの場合、その障害は以下の4つ(またはそれ以上)によって表れる (1)反対の性になりたいという欲求、または自分の性が反対であるという主張を繰り 返し述べる。 (2)男の子の場合、女の子の服を着るのを好む、または女装をまねることを好むこ と、女の子の場合、定型的な男性の服装のみを身につけたいと主張すること。 (3)ごっこあそびで、反対の性の役割をとりたいという気持ちが強く持続すること、ま たは反対の性であるという空想を続けること。 (4)反対の性の典型的なゲームや娯楽に加わりたいという強い欲求。 (5)反対の性の遊び友達になるのを強く好む。 青年及び成人の場合、次のような症状で表れる:反対の性になりたいという欲求を 口にする、何度も反対の性として通用する、反対の性として生きたい、または扱われ たいという欲求、または反対の性に典型的な気持ちや反応を自分が持っているとい う確信。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 88 性同一性障害 Gender identity disorder (DSM-IV)② B.自分の性に対する持続的な不快感、またはその性の役割についての不適切感。 子どもの場合、障害は以下のどれかの形で表れる:男の子の場合、自分の陰茎ま たは精巣は気持ち悪い、またはそれがなくなるだろうと主張する、または陰茎をもって いない方が良かったと主張する、または乱暴で荒々しい遊びを嫌悪し、男の子に典 型的な玩具、ゲーム、活動を拒否する;女の子の場合、座って排尿するのを拒絶し、 または乳房が膨らんだり、または月経が始まって欲しくないと主張する、または、普通 の女性の服装を強く嫌悪する。 青年及び成人の場合、障害は以下のような形で現れる。;それは、自分の第一次お よび第二次性徴から解放されたいという考えにとらわれる(例:反対の性らしくなるた めに、性的な特徴を身体的に変化させるホルモン、手術、または他の方法を要求す る)、または自分が誤った性に生まれたと信じる。 C.その障害は、身体的に半陰陽を伴ったものではない。 D.その障害は、臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的または他の重要な領 域における機能の障害を引き起こしている。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 89 摂食障害患者にみられる精神症状、行動異常および身体症状 切池信夫:標準精神医学、第3版、野村総一郎・樋口輝彦編、医学書院、2005 神経性食欲不振症 精神症状 やせ願望 必発(強い) 必発(必ずしも強くない) 肥満恐怖 必発 必発 身体像の障害 伴う 伴う 乏しい 病感を有する 抑うつ、不安、強迫症状、質感情 症など 抑うつ、不安、強迫症状、質感 情症など 摂食行動 拒食、不食、摂食障害 過食、だらだら食い、絶食 排出行動 隠れ食い、盗み食い、過食 摂食制限、隠れ食い、盗み食い 過活動 低下 問題行動 自傷行為、自殺企図、万引き、薬 物乱用など 自傷行為、自殺企図、万引き、 薬物乱用など 体重減少 低体重 標準体重∼肥満 月経異常 無月経 一部は無月経 病識 その他の精神症状 行動異常 活動性 身体症状 神経性大(過)食症 その他の身体症状 浮腫、過食後の微熱など 徐脈、低体温、低血圧、浮腫、産 毛の密生 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 90 アルコール依存症 1.行動面の変化:飲酒量の増加、社会的容認を超えたパターン、飲酒行動 の単一化、山型飲酒サイクル 2.精神面の変化:飲酒抑制の傷害、飲酒への衝動(craving)、飲酒中心の 思考 3.身体面での変化:離脱症状、離脱症状回避のための飲酒、耐性 スクリーニングテスト(CAGE):今までの生涯で 2 項目以上依存症者 1 )飲酒量を減らさなければいけないと感じたことがありますか 2 )他人があなたの飲酒を非難するので気にさわったことがありますか 3 )自分の飲酒について悪いとか申し訳ないと感じたことがありますか 4 )神経を落ち着かせたり,二日酔いを治すために, 「迎え酒」をしたことが ありますか(Cut down, Annoyed by criticism, Guilty feeling, Eye-opener) 91 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 薬物乱用:ルール違反(法律で薬物を使うことが禁止されている) 急性中毒:急に、大量に使うことで体に現れる症状 薬物依存:やめようと思ってもやめられない状態、ハマった状態 乱用のくり返し ドラッグが体から抜けてくる ドラッグが体から抜けてくる カラダの依存 ココロの依存 ドラッグがないと体がツライ ドラッグが欲しくてたまらない 薬物探索行動 (ドラッグを手に入れようと、探し回ること) 慢性中毒:幻視(見えないものが見える)・幻聴(聞こえないものが聞こえ る)・妄想(すれ違う人がみんな警察官だと思い込んでしまう) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 92 出典:和田清、依存性薬物と乱用・依存・中毒(星和書店) 薬物の依存性と主な作用の特徴 法律上分類 中枢作用 薬物のタイプ 精神依存 身体依存 乱用時の主な症状 麻薬 抑制 アヘン類(ヘロイン、 モルヒネ) +++ +++ 鎮痛、縮瞳、便秘、 呼吸抑制、血圧低下 興奮 コカイン、合成麻薬 (MDMA) +++ − 瞳孔散大、血圧上昇、 興奮、不眠、食欲↓ 覚せい剤 興奮 アンフェタミン類(メ タンフェタミン等) ++ − 瞳孔散大、血圧上昇、 興奮、不眠、食欲↓ 大麻 抑制 大麻(マリファナ、 ハシッシ等) + ± 眼球充血、感覚変容、 情動の変化 毒物劇物 抑制 有機溶剤(トルエン、 シンナー等) + ± 酩酊、運動失調 − 興奮 ニコチン(たばこ) ++ ± 発揚、食欲低下 − 抑制 アルコール(酒、 ビール等) ++ ++ 酩酊、運動失調 危険ドラッグ 抑制 麻薬や覚せい剤の 類縁化合物 + ± 幻覚、筋弛緩、運動 93 失調 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 依存は密かに進行する 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課 再乱用防止資料編集委員会作成パンフレットより 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 94 危険ドラッグとは ハーブやアロマオイル、バスソルトやビデオクリーナーなどと、一見すると人体 に無害な製品を装って、麻薬や覚醒剤以上に有害かもしれない薬物が、「合 法」や「脱法」といって売られています。それら危険ドラッグを、繁華街にある店 や自動販売機、インターネットなどで購入して、吸ったりのんだりしたことで、意 識障害、嘔吐(おうと)、けいれん、呼吸困難などを起こして、重体に陥る事件 や死亡する事件が起きています。 さらに、使った本人が苦しむだけでなく、幻覚や興奮のために他人に暴力をふ るったり、車を運転して暴走し、ひき逃げや死亡事故などの重大な犯罪を引き 起こしたりしたケースもあります。それら危険ドラッグの多くは、麻薬や覚醒剤 によく似た合成薬物を植物片に混ぜたり、水溶液で溶かして液体にしたり、粉 末にしたりしたものです。麻薬や覚醒剤の化学構造のほんの一部を変えること で、「麻薬や覚醒剤ではない」とされてきましたが、実は麻薬や覚醒剤と同様 の作用をもたらす、非常に危険な成分が含まれています。それどころか、化学 構造を変えたことで、麻薬や覚醒剤以上に危険になっていることもあるのです 平成26年7月22日から、呼称を「危険ドラッグ」に変更された。 政府広報オンラインから 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 95 危険ドラッグ:どこでどのように作っているか • アパートの一室で乾燥植物に外国から輸入した粉 状の薬物を液体に溶かしてて混ぜている。 • 薬物はインターネットで注文し外国から購入。 • その際、国が販売を禁止している薬物の一覧を欠 かさずチェックする。すでに規制された薬物を避け て購入している。 2012年6月25日 NHKクローズアップ現代より 平成26年7月22日から、呼称を「危険ドラッグ」に変更された。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 96 病的賭博の診断基準(DSM-IV) A. 以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される持続的で反復的な不適応的賭博行為。 (1) 賭博にとらわれている(例:過去の賭博を生き生きと再体験すること、ハンディをつけることまたは 次の賭の計画を立てること、または賭博をするための金銭を得る方法を考えることにとらわれている)。 (2) 興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をしたい欲求。 (3) 賭博をするのを抑える、減らす、やめるなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある。 (4) 賭博をするのを減らしたり、またはやめたりすると落ち着かなくなる、またはいらいらする。 (5) 問題から逃避する手段として、または不快な気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑鬱)を解消する手 段として賭博をする。 (6) 賭博で金をすった後別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を”深追いするこ と”)。 (7) 賭博へののめり込みを隠すために、家族、治療者、またはそれ以外の人に嘘をつく。 (8) 賭博の資金を得るために、偽造、詐欺、窃盗、横領などの非合法的行為に手を染めたことがある。 (9) 賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育または職業上の機会を危険にさらし、または失ったこ とがある。 (10) 賭博によって引き起こされた絶望的な経済状態を救うために、他人に金を出してくれるよう頼る。 B. その賭博行動は、躁病エピソードではうまく説明されない。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 97 身体表現性障害とは ①一般身体疾患を示唆する身体症状が存在する が、一般身体疾患、物質の直接的な作用、または 他の精神疾患によっては完全に説明されない。 ②その症状は臨床的に著しい苦痛、または社会的 職業的、または他の領域における機能の障害を引 き起こす。 ③身体症状は意図的でない。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 98 身体表現性障害のDSM-Ⅳによる分類 ①身体化障害 ②分類不能型身体表現性障害 ③転換性障害 ④疼痛性障害 ⑤心気症 ⑥身体醜形障害 ⑦特定不能の身体表現性障害 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 99 身体化障害 特徴:・反復的で多彩な身体愁訴がある。 ・30歳未満に始まる。 ・4つの疼痛症状、2つの胃腸症状、1つ の性的症状、1つの偽神経学的症状。 ・女性に多い。 ・不安障害やうつ病との合併が多い。 一般人口における生涯発生率 0.1あるいは0.2% ・50%が他の精神障害を合併している。 ・不安感や抑うつ感が強い場合は、抗不安薬や抗うつ薬を処方する ・一般身体疾患を必ず除外すること。多発性硬化症筋無力症、SLE、 AIDS、急性間欠性ポルフィリン症、副甲状腺機能亢進症、甲状腺機 能亢進症など 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 100 転換性障害 特徴: ・思春期、成人期早期に初発することが多い。 ・感覚系もしくは運動系の麻痺、けいれん、失声、視力障害、聴力障害。 自律神経系、内分泌系の障害を巻き込むこともある。 ・症状には二次性疾病利得が強い。 ・患者は症状に無関心だったり、容易に受容したりすることがある(満ち 足りた無関心)。 ・一般病院での精神科の助言を受けた患者のうちの5−15%と報告さ れており、転換性障害が最も一般的な身体表現性障害である。 ・症状 ①運動障害:四肢の麻痺(単麻痺、片麻痺、両側麻痺など様々)。失声 ②運動性またはけいれん発作:てんかん発作様のものもある。 ③知覚障害:皮膚の知覚障害、盲、幻視。 ④(疼痛障害) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 101 ⑤自律神経症状:めまい、腹痛、唾液過剰分泌など。 疼痛性障害 ・特徴:1つかそれ以上の身体部位に疼痛が存在するが、それ が身体の異常によって十分に説明できない。 ・軽度の腰痛の場合、アメリカでは1年間に医院を受診した人 は、800万人以上にものぼっている。純粋な身体的疼痛を、心 理的疼痛と区別することは困難である。そもそも、お互いに影 響するものである。 ・予後、治療:抗うつ薬は疼痛緩和にしばしば有効。 ・鎮痛薬による治療は、一般に、ほとんどの疼痛性障害患者に 有効ではない。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 102 心気症 ・自分は重病にかかっているという恐怖を持つが、それに見合う身体疾患が 見出されない。 ・心気症患者は、まだ発見されない重篤な病気にかかっていると信じており、 そうではないと思うことができない。その信念は妄想ほどには固着していな い。 ・DSM−Ⅳではうつ病の症状として現れた心気症状には心気症という診断は つけない。 ・ある研究では、6か月間の一般内科診療所の患者の4−6%。 身体醜形障害(醜形恐怖症) ・自分の想像上の身体的欠陥に強くこだわることあるいは、わずかな身体的 な異常があったとしても、そのこだわりようがあきらかに過剰である。 ・あまり研究されていない。患者は精神科医よりも、皮膚科医、内科医あるい は形成外科医のところに行くことが多いからである。 ・最もよくみられる関心は、顔の欠点、特に特別な部分(例えば鼻)に向けられ る。時にその関心は「きしむ」顎に対する過度の関心といったように、曖昧で、 103 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 理解困難なことがある。 解離性障害 解離とは 意識、記憶、同一性、または環境の知覚といった通常は統合されている機 能の破綻。 解離は適応機能も持つ。 ①ある種の行動の自動化 ②仕事の能率向上と経済化 ③和解できない葛藤の溶解 ④現実の拘束からの逃避 ⑤破局的体験の切り離し ⑥ある種の感情のカタルシス的排泄 ⑦群れ感覚の増強などがあげられる 病的な解離は心的外傷や解決困難な心理的葛藤にさらされた場合に、 それらにまつわる観念や情動、記憶を切り離すという無意識の防御機 序により生じる。 一般人口の約1−3%が解離性同一性障害(多重人格障害)という報告があ る。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 104 DSM−Ⅳによる解離性障害の分類 ①解離性健忘 ②解離性遁走 ③解離性同一性障害 ④離人症性障害 ⑤特定不能の解離性障害 解離性昏迷・解離性運動障害・解離性知覚麻痺・解 離性幻覚・解離性幻聴・解離性転換性障害や解離 性トランス障害、ガンザー症候群など 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 105 軽度発達障害におこる問題 • • • • • • • 学業不振 落ち着きがない 不注意 対人関係 言葉の問題 ⇒問題は何かを訴えている 乱暴、攻撃的 不安、パニック・・・ 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 106 軽度発達障害のわかりにくさ • 軽度であるために、誤解されやすい 身勝手、わがままなど • 概念の混乱、似たような言葉の混乱 • いろんな症状の合併 • 二次的な障害(不登校・うつなど)に目がいく 今まで誤解されてきたケースは多い 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 107 発達障害は相互に合併しうる ・知的発達に遅れがない ・聞く、話す、読む、書く、計 算する、推論する能力のいず れかに著しい困難を示す ・不注意 ・衝動性 ・多動性 LD AD/HD 知的障害 広汎性発達障害 ・コミュニケーションの障害 ・社会性の障害 ・こだわり、反復的・常同的行動 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 108 AD/HD(注意欠如多動性障害) • 以前は、(微細)脳損傷児、微細脳機能障害とも言われていた。 • 児童の3∼5% 男性に多い(約4∼5倍) • 原因ー脳の器質的な要因と考えられる。遺伝や胎児期の問題もある といわれている。しつけの問題ではない。 • 前頭葉の活性が低いという報告もある • 主症状として不注意、過活動、衝動性 • タイプ 不注意優性型、多動性・衝動性優位型、混合型 • 3歳ころから問題が出てくるが、小学校入学後より問題は顕著になる • 年齢が上がると過活動↓、衝動性や不注意は残る • 二次的な障害ー幼少期の学業不振や対人関係困難といった問題か ら、劣等感を持ちやすい平成27年度精神保健福祉基礎研修会 109 思春期・成人期の具体的な基本症状(AD/HD) ●多動 どこか落ち着かない、早口、多弁、貧乏ゆすり、デスクワークが苦手 ●衝動性 つい∼してしまう、ついしゃべってしまう、後先を考えずに行動 ●不注意 忘れ物(連絡ミス、うっかり)、先延ばし、気が散る、 何を優先させるかわからない。 治療 ●薬物療法 以前はメチルフェニデート(商品名リタリン)が良く使われた。作用時間は、4 時間くらい。リタリンは依存性の問題があったため、現在は、徐放性製剤(コ ンサータ)、ストラテラ(アトモキセチン)。「ごちゃごちゃした頭が整理された」 「眠くならなくなった」「落ち着いて集中できる」と効果を実感される。 ●SST(社会技能訓練) ●親訓練 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 110 広汎性発達障害 ●三つの領域(①社会性の問題②コミュニケーションの問題③想像力)に障 害がある発達障害 ●自閉症圏(スペクトラム)障害とも言われる ●中核は自閉性障害であり、その他にアスペルガー障害、レット障害、小児期 崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害がある ●親のしつけなどの問題ではない ●本人の特性にあった環境調整・療育が基本 社会性から見た3分類 ●孤立型 人からのかかわりを受けにくく、一人で過ごす ●受身型 自分から関係を持たないが、人の指示には応じる。優等生で援助を受けに くい。 ●積極・奇異型 他人と関わるが、相手に配慮できない 111 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 三つ組以外の特徴(知覚過敏) – 音への敏感さ(運動会のピストルでかんしゃく。騒音が苦手。 逆に特定の音を好む) – 視覚的敏感さ(特定のマークやロゴにこだわる。文字の意味 よりも形に気をとられる。複雑な漢字に興味) – 味覚の敏感さ(偏食、メーカーにこだわったりする) – 嗅覚の敏感さ(香水、整髪料、体臭に敏感) – 触覚的な障害(つるつるしたものやぬいぐるみの感触を好 む。触られたり抱かれたりするのをいやがる。) – 痛みに対する反応(注射を嫌がる。逆に無頓着なことも) 情報は視覚が一番入りやすい 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 112 フラッシュバック(タイムスリップ) • 昔のいやな思い出が、今起こっているように思い出 される(非常にいやな気持ちを伴う) • これが原因でパニックになることもある • 叱っても逆効果 • SSRIという抗うつ薬が有効な場合 • いい思い出が浮かぶようなアイテム 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 113 対応の仕方 (適切な行動を増やし、不適切な行動を減らす) – 環境に配慮(具体的に視覚で予告する、余分な刺激が少な い環境、大声でしかるのは逆効果。見通しをたてる) – いじめに対して(1人で立ち向かえない。相談しない) – ルールや指示を明確に(暗黙のルールは理解できない。しつ こく聞いてくるとき、「今この話はできない、5分で打ち切る」と 明確に伝え、代替案を提案する) – できるだけポジティブに接する(否定的な言葉に敏感。記憶 力もいいので後々までひびく。) – こだわり、関心事は矯正するより生かす方向で(自然と関心 が移ることは意外と多い。) – 休み時間、息抜きが苦手(逃げ場所) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 114 社会的ひきこもり ●様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含 む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的に6ヶ月以上に渡って概ね家庭 にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指 す現象概念である。不登校、ひきこもりの問題に悩んでいる人は推計で100万 人以上(最近のデータでは、広義に捉えて70万人とも) 0% 全体 (N=557) 電話 (N=205) 来所 (N=307) 20% 16.0% 10.2% 43.0% 32% 100% 6.5% 46.3% 40.4% 4.2% 62.2% 5.4% 0.0% 66.7% その他(手紙、FAX) (N=2)0.0% 0% ひきこもり相談における対応 内訳(精保福センター調査) 80% 42.2% 24.4% 12% 電子メール (N=6)0.0% 0% 60% 35.4% 19% 訪問 (N=37) 40% 33.3% 100.0% 医療的対応が必要と判断 経過観察 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 0.0% 家族支援 不明 115 パーソナリティ障害 ・ パーソナリティの偏りが大きく、職業など社会機能を阻害し ている ・ パーソナリティの偏りの方向の違いによって10通りの下位 分類 ・ 事例化しやすいのは境界性パーソナリティ障害 ・ 本人は苦しいし、周りも巻き込まれる 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 116 DSM-Ⅳ A群(奇妙、風変わり) ・妄想型パーソナリティ障害 “疑い深い、悪意” ・シゾイドパーソナリティ障害 “孤立、よそよそしい” ・失調型パーソナリティ障害 “奇妙、不自然” B群(情緒不安定、衝動) ・反社会性パーソナリティ障害 ・境界性パーソナリティ障害 ・演技性パーソナリティ障害 格) ・自己愛性パーソナリティ障害 C群(不安、恐怖) ・回避性パーソナリティ障害 ・依存性パーソナリティ障害 ・強迫性パーソナリティ障害 “暴力、犯罪” “感情不安定、衝動性” “関心、注目を得たい”(ヒステリー性 “自分は特別、傲慢共感性なし” “他人に敏感、批判が怖い” “自分では何も決断でない、他人任せ” “生真面目、柔軟性なし” 境界性パーソナリティ障害 対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人早期までに始 まり、種々の状況で明らかになる。 次の5つ以上の症状があれば、境界性パーソナリティ障害と診断される。 (1)現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力 (2)人に対して、時には、理想化、賞賛し、時には、こき下しする、という両極端を揺れ動く、不 安定で激しい対人関係様式。 (3)同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像または自己感 (4)自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの (例)浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食い (5)自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し (6)感情の不安定(強い不快気分、いらいら、不安):通常は2−3時間持続する。2−3日以上 持続することはまれ。 (7)慢性的な空虚感 、(8)不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難 (9)一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離性症状 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 118 境界性パーソナリティ障害の治療 (林直樹、精神科治療学 25巻増刊号、2010年10月) ●病因としては、生育期における不十分なケア、身体的虐待もしくは性的虐待といった生育 的要因や、セロトニン、ノルエピネフリン作動性神経系の影響に代表される生物学的要因が 想定されている。 ●合併精神障害の治療も重要な課題、うつ病、物質使用障害、不安障害、摂食障害といった 広い範囲の精神障害の合併がみられる。まだ十分に確立されていない。 ●弁証法的行動療法(dialectic behavior therapy; DBT) 週2回の教育的技能訓練と行動リハーサルの行われる集団技能訓練週1回の個人面接から 構成され、1年間以上続けられる。修得されるべき基本的技能は、①マインドフルネス(現実 的で冷静な自己観察、現実認識の技能)、②感情統御技能、③実際的な対人関係技能j 重度の自己破壊的傾向を示す患者や非内省的ですぐに行動に出る傾向のある患者に適し ている。 ●精神分析的デイケアおよびその発展型であるメンタライゼーション療法(MBT)、週2回計2 時間の集団療法と個人療法からなる治療。 ●薬物療法では、バルプロ酸、ラミクタール、テグレトール:BPD患者の攻撃性、怒りやすさ、 衝動性を減らすことが確認されている。気分調整薬であるリーマスも全般的な症状改善効果 が認められている。SSRIは患者の敵意を減弱させる、衝動的攻撃性や抑うつ症状を減らす 効果があるという報告がある。 ●非定形抗精神病薬が敵意、疑い深さ、妄想的観念、不安症状、抑うつ症状の軽減に有効 119 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 であることが報告されている。 パーソナリティ障害の方への支援上の注意点 当たり前のことを、当たり前のようには言い過ぎない。 何でもかんでも相手の言いなりにはならない。相手の言うことを真に受けすぎない。対応がぶれ ないことが重要、チームとしての統一した対応。しかし柔軟性も必要。時と場合により、我慢をし てもらう。限界の設定も重要。 相手に入れあげない。相手の対人操作に伴うスタッフ間の逆転移に注意。相手からの転移に対 する支援者の無意識な反応に注意。転移とは、相手がそれまでの生活史のうえで両親や権威 者に対して示してきた感情や態度を、支援者をそれらの人と置きかえて、支援者に対して、空 想、主観的認知、希望や願望を抱くこと。 大丈夫感覚を伝える。 たじろがないこと。相手の怒りに対しての忍耐も時に必要。 行動化は適切な解釈によって言語化していく。行動化とは、本能衝動が言語化の過程をとらず に行動されること。「身体で救助信号を出すよりも、助けてしんどいよの方が良いね」 切羽詰った訴えに対して、ユーモアで切り返す余裕。但し、ある程度の関係性ができてから。 急に治る疾患ではなく、人格的な成長を待つことが大事。近づきすぎず、離れすぎずの適切な 距離感を保つことが必要。良い自分も悪い自分も両方必要。健康な状態とは、良い自分と悪い 120 自分とが解け合っている状態。真っ白も真っ黒も本当ではなく、灰色でいい。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 認知症の診断( 記憶障害 ) ←これだけなら 軽度認知障害 こ の 中 の ど れ か 一 つ以 上 を 合 併 + 失語 話せない、言葉が理解できない。 失行 運動麻痺がないにもかかわらず、簡単な動作や 目的をもった行為ができなくなる。服もうまく着られない。 失認 対象を認知できない状態。 自分の夫と息子を間違えてしまう。他人と思う。 実行機能障害 お湯をわかしてお茶を入れる。切符を買って電車に乗る。料理。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 121 認知症の中核症状と周辺症状 こうした症状が引き金と なり高齢者虐待に至る ことがある。 生活機能の障害 中核症状 周辺症状 認知機能障害 思考・推理・判断・適応・問題解決 ほか 失 • 認 失 • 行 言 • 語 障 害 ︵失 語 ︶ 見 • 当識障害 判 • 断力低下 記 • 憶障害 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 • • • • • • せん妄 抑うつ 興奮 徘徊 睡眠障害 妄想 ほか 何らかの サインを出 している可 能性があ る。 122 認知症を引き起こす原因 全身性疾患と内服薬の影響を除外しつつ、 脳内の病因について検索を行なう。 ●内科的病因(中毒・代謝性認知症) 心不全、肝不全、尿毒症、貧血、葉酸欠乏、ビタミンB12欠乏、ニ コチン酸欠乏、高Ca血症、アルコール依存、甲状腺機能低下 症、全身衰弱、栄養障害など ●薬剤の副作用 向精神薬(抗うつ薬、抗精神病薬、睡眠導入薬)、抗ヒスタミン 薬、抗パーキンソン薬、抗てんかん薬、血圧降下薬、ホルモン薬 (ステロイド、甲状腺ホルモン)、インスリン、血糖降下薬、抗腫瘍 薬、抗生物質、H2受容体拮抗薬、など 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 123 4大 認知症とは アルツハイマー病(Alzheimer’s disease) 40∼60%(血管性病変を伴うものも含む) レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies) 10∼20数% 血管性認知症(Vascular dementia) 15∼20% 前頭側頭型認知症(Frontotemporal dementia) 5∼10% 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 124 アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症 アルツハイマー型認知症 JAAD 脳血管性認知症 海馬の変性 小梗塞の多発、白質の不全軟化 側頭頭頂葉の機能低下 (血流代謝の低下) 前頭葉の機能低下 (血流代謝の低下) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 125 もしかしてレビー小体型認知症? □ 物忘れがある □ 頭がはっきりしているときと、そうでないときの差が激しい □ 実際にはないものが見える □ 妄想がみられる □ うつ的である レビー小体とは? □ 動作が緩慢になった パーキンソン病の脳で初めて □ 筋肉がこわばる 見つけられた神経細胞内封入体。 □ 小股で歩く □ 睡眠時に異常な行動をとる □ 転倒や失神を繰り返す 小阪憲司 「知っていますか?レ ビー小体型認知症 よくわかる、病 気のこと&介護のこと」から メディ カ出版 *5個以上該当すればレビー小体型認知症の可能性あり 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 126 前頭側頭型認知症(特にピック病)チェックリスト □状況に合わない行動:場所や状況に不適切な悪ふざけや配慮を欠いた行動 □意欲減退:引きこもりや何もしない。原因は特になく、本人の葛藤もない □無関心:身だしなみに無関心になり不潔になる □逸脱行動:万引きなどをしても、反省したり説明したりできず繰り返す □時刻表的行動:やめさせたり、待たせたりすると怒る □食べ物へのこだわり:毎日同じもの(特に甘いもの)しか食べない。際限ない □言葉の繰り返し:同じ言葉を繰り返し、他人の言葉をオオム返ししたりする □好みの変化:食べ物の好みが大きく変わる □発語、意味の障害:無口、語彙(ごい)が少なくなり、物の意味が分からない □短期記憶の維持:短期記憶は保たれる。日時も間違えず、道に迷わない 127 127 *40歳以上で、3項目以上当てはまると、ピック病の疑いがある。宮永和夫作成 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 認知症の人とのコミュニケーションのコツ ・会話を急がない。やりとりしていて会話をせかすと、きまって逆効果になる。 ・会話に集中する。ストレスや怒り、あせりなどは脇に置いておかないと、認知 症の人はあなたの身ぶりからそのサインを読み取ってしまう。 ・相手があなたの存在を確かめる時間を与える。 ・沈黙することを許す。 ・自己紹介で、あなたの名前と、あなたとその人の関係について伝える。 ・認知症の人がどう感じているかを注意深く見る。拒否されても自分が拒否さ れたと受け取ったりせず、別の機会にまた会うようにする。 ・認知症の人と同じ目線で話し、上から見下ろさない。 ・アイコンタクトはしっかり行うが、凝視しない。 ・ゆっくりとわかりやすく話すが、見くだした言い方にならないようにする。 ・あなたが言ったことを理解してもらうための時間をとる。認知症の人の場合、 話を聞いてから自分の中で処理して理解するまでに5倍の時間がかかる。 ・複雑で長い文章は使わないようにする。ひとつの文章にひとつの考えだけを 言う。 ・「何がしたいですか?」という聞き方ではなく、選択肢を与える。 128 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 認知症のスピリチュアルケア こころのワークブック から改編 精神科治療法 1.薬物療法 A.抗精神病薬、B.抗うつ薬、C.抗不安薬、D.気分安定薬 2.その他の身体療法 A.電気けいれん療法、B.光療法、C.経頭蓋磁気刺激(TMS) D.脳深部刺激(DBS) 3.精神療法:他者のパーソナリティに触れることにより、心理的に支えられて 苦痛が和らぎ、教えられるところがあって行動パターンが変化し、悟るところが あって人生観が変わるという事実を前提に、一定の法則の基づいて、一定の 順序で、一定の方向に向かうように構造化されているもの。 A.支持的精神療法、B.力動的精神療法、C.森田療法、D.認知行動療法、 E.催眠療法、F.自立訓練法、G.カウンセリング、H.芸術療法、 I.集団精神療法、J.対人関係療法 etc 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 129 4.心理社会的治療法:患者の心理や環境に働きかけて病状の回復や社会 的機能の改善を目指す治療の総称である。 A.生活技能訓練(SST)、B.生活療法(作業療法、レクリエーション療法等) C.集団療法(ミーティング、自助グループ)、D.ケアマネジメント、 E.心理教育、F.心理社会的治療施設とプログラム(デイケア、ナイトケア、職 業訓練、生活支援) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 130 ① 抗精神病薬 ・ ドパミンの放出を抑える ・ 作用: 抗幻覚妄想作用、鎮静作用 ・ 副作用:口渇、呂律が回りにくい、便秘、ふらつき ・ 非定型抗精神病薬が主流 ② 抗うつ薬 ・ セロトニン・ノルアドレナリンの働きを高める ・ 適応: うつ病、パニック障害、強迫性障害 社会不安障害 ・ 副作用: 眠気、嘔気 ・ SSRI、SNRIが主流 ・ NaSSA(ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬) 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 131 ③ 抗不安薬 ・ GABA神経系の作用を高める ・ 作用: 不安を軽減 ・ 副作用: 眠気、ふらつき、健忘、もうろう ・ 睡眠薬は作用時間で大きく分類 (超短時間型、短時間型、中間型、長時間型) ④ 感情調節薬 ・ 炭酸リチウム、抗てんかん薬 ・ 適応: 気分障害(躁うつ病) ・ 作用: 気分の波を抑える ・ 副作用: リチウム中毒、発疹など 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 132 小精神療法(笠原嘉) 対象は、主として神経症、心身症、身体疾患をもつが同時に神経症傾向を有 する患者など。 1)患者が言語的にならびに非言語的に自己を表現できるように種々の配慮を する。 2)治療者は基本的には非指示的な態度をとり、患者に能動的・指示的に働き かけることをせず、患者の心境や苦悩を自由に話させて、それをそのまま受容 し了解することに努力する。 3)患者と協力して繰り返し問題点を整理し、その内的世界の再構成を助ける。 4)治療者の人生観や価値観を押しつけない範囲で、必要に応じて積極的に日 常生活上での指示、激励、医学的啓発などを行う。 5)治療者への患者の転移現象に留意し、その処理を誤らぬようにする。 6)患者の心理の深層への介入をできるだけ少なくする。 7)神経症症状がもつ心的疲労などの陰性の症状面に留意し、その面での悪 条件を少なくするために休息などの生活指導的指示を適宜行う。 8)必要な場合には躊躇せず薬物を使用する。 9)治療者はいたづらに心因の究明や短期の奏功を期待せず、患者の心理に 133 変化が起こってくるのに必要な時間を十分に与えるようにする。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 バーンアウトとは? • ヒューマンサービスが増えるとともに増加 • 人間相手の仕事に携わる人たちに生じる情緒の消耗と 批判的症状 ①情緒的消耗感 ②利用者に対する否定的・批判的な感情や態度 の増加 ③個人的達成感の後退 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 134 援助職がおかれている職場の環境 ストレスのかかる状況 • 対象者は余裕がない • 多忙(書類を含む) • 相談相手がいない • 重労働の割りに報われない • 常に責任感・使命感を求められる • 組織に縛られる又は現場への丸投げ →一方、やりがい(モチベーション)を感じやすい職場ではあ る 135 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 援助職の性格傾向 援助職を選ぶ理由とその傾向 • 他人の世話をしたい(小さい頃からお世話係) 自分自身の欲求を気にかけない 自分自身が世話をしてもらうのは苦手 • 必要とされたい 感謝されないと価値を感じない 援助者が相談者を必要としている • 他者に答えを与えたい 正しい答えを出せないと不適格と感じる 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 136 情緒的消耗感(MBI尺度より) • 自分の仕事で情緒的な消耗を感じる • 日々仕事を終えた後、疲れ果てたと感じる • 朝起きたときに疲労を感じ、その日の仕事を他の日 にまわさなければならない • 一日中人々と共に働くのが負担となる • 自分の仕事によって欲求不満を抱く • 職務に対し熱心に働きすぎていると感じる • 進退窮まる事態にいるように感じる・・・など 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 137 虐待に関する各法律の対象範囲 平成24年10月1日から障害者虐待防止法施行 障害者の年齢や発生場所によっては他の法律を適用する 年齢 18歳未満 所在地 福祉施設等 在宅 障害児 入所施設 障害福祉 サービス事業所 相談支援 事業所 児童 改正 虐待防止法 児童福祉法 18歳以上 障害者 65歳未満 虐待防止法 障害者 虐待防止法 65歳以上 高齢者 虐待防止法 障害児 入所施 設の場 合は20 歳まで 適応 障害者 障害者 虐待防止法 虐待防止法 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 高齢者施設 40歳以 上の2 号保険 者も含 む 企業 障害者 虐待防止法 高齢者 虐待防止法 138 相談機関職員が関わった者が自殺または未遂 をした時の心理状態 633人中、回答の得られた 631人から 1,255人中、仕事で関わった者が自殺又は自殺未遂をした、自殺念慮の訴えを 打ち明けあられた等の経験があると回答したのは633人(50.4%)。 内容は①自殺292件、②自殺未遂を繰り返した後自殺61件、③自殺未遂428 件及び④自殺念慮の訴え1,009件。 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 139 尼崎市の調査 自殺予防対策に関する行政評価・監視 結果報告書(総務省) よく眠る 食事を楽しむ 笑うこと 趣味を楽しむ 自分のリズムを大切に 困ったときに、身近な人に相談を 平成27年度精神保健福祉基礎研修会 140