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これからの都市交通のあり方と オンデマンド交通への
これからの都市交通のあり方と オンデマンド交通への期待 横浜国立大学大学院 工学研究院教授 中村文彦 宣伝 中村文彦「バスでまちづくり」 学芸出版社 2200円 ISBN:4-7615-2393-X <第一刷完売御礼> バスによる幹線輸送 BRT バスを活かした福祉政策 DRT 情報技術を活かしたバスシステム ITS 環境政策の中のバス TDM 都市開発戦略とバスの連携 TOD ブログではわからな い中村の専門性? 交流拠点としてのバス停施設 バスを活かしたまちづくりの課題 学歴・職歴 1962 1970 1985 1989 1992 1995 2004 新潟市生まれ(両親は関西人) 神奈川県民(綾瀬市→横浜市) 東京大学工学部都市工学科卒業 東京大学工学部都市工学科助手 アジア工科大学院助教授(在タイ2年間) 横浜国立大学助教授 横浜国立大学教授 0.準備体操 例題1:X市のコミュニティバス 行政主導で、在来民営バス路線と重ならない ようにコミュニティバス路線を導入、運行開始 予想を上回る利用者数を獲得 当初想定していた運行費補助金を減額 公共交通利用促進の観点で、成功したプロ ジェクトとして評価された。 ○か×か 解答1 コミュニティバス利用者の多くは、別のバス路 線からの転換だった。 行動の変更パターンの予測と評価が必要 民営バス事業者は、近傍路線を減便した。 在来バス路線をどうするか(どうできるか)、確実 な取り決めが前提 例題2 Q市の軌道系導入効果 バス主体の公共交通網の中で都市軌道導入 軌道の利用者数は予測値を上回る伸び 郊外駅にパーク&ライド用駐車場を用意した らすぐに満車になった。 軌道系導入によりマルチモーダルな交通体 系が確立したと高く評価される。 ○か×か 解答2 パーク&ライド利用者はどこからきたか バスで都心に向かっていた利用者からの転換 自動車台キロは、彼らの端末利用分だけ増加 バス路線をどのように再編できたか、とセットで交 通体系を評価する必要がある。 例題3 V市のディマンドバスシステム 中心市街地内バス路線廃止に伴い、ディマン ドバスシステムを導入。 従前の7倍以上の利用者数を獲得し、その大 半が高齢者で、きわめて好評。 地域の福祉にも貢献した成功事例として高く 評価 ○か×か 解答3 バス導入によりタクシー利用者が激減。 タクシー事業の問題を評価フレームにどう組み込 むかは、判断の分かれるところ。 ディマンドバスシステムの費用をかけたから こその効果かどうか もっと単純なシステムでも同等の効果が得られた のではないかという懸念。 誰も予約端末やインターネットで予約していない 高齢者は全員、電話で予約していた。 1.枠組みについて 準備:フレームワーク 地域計画、都市計画、まちづくり 都市交通計画 都市計画・まちづくりの目標を支える計画 公共交通はその中の一手段 ある種の都市の目標を支えるのには、自動車よりも公 共交通が適している。 都市の目標 都市交通そのものは派生需要→都市をみる 都市での人々の暮らしに力点 都市の目標:生活の質、活力、環境 等 目標:サステナブルな都市を支える都市交通 環境負荷が少ない 財源面で無理なく持続できる 社会的な公平性を確保できる 人の移動について(物流はここでは扱わない) 自家用車への依存を下げる必要がある 代替交通手段を取り込んだ都市計画と交通計画 徒歩、自転車、公共交通など 交通計画の目標は円滑と安全? →モビリティとアクセシビリティの向上 交通管理の目標は円滑と安全 交通計画の最終目標は、あくまで、都市計画 の目標の実現 その実現のためにすべきこと モビリティ向上 アクセシビリティの向上 用語1:モビリティ 人々の移動しやすさ 外出できる移動環境 道路がある。 徒歩圏に駅がある。 最寄り駅までのバス便がある(一定頻度以上) 例 バス路線の廃止によりあの地区の高齢者のモビリティが低下した。 都市内レンタサイクルの導入で市民のモビリティが向上した。 用語2:アクセシビリティ (施設等への)アクセスのしやすさ 例 あの大学はアクセシビリティが悪かったが、貨物 線旅客化でアクセシビリティが向上する。 バイパス沿いの郊外大型店舗は自動車でのアク セシビリティが高い。 モビリティ&アクセシビリティ 向上のための交通計画 土地利用計画、施設計画を前提とする。 交通負荷の高い開発計画は差し戻しをする。 「そんな開発計画を担う交通計画はできません」 交通手段ごとに診断、対策、計画へ マルチモーダルの思想 インターモーダルの配慮 用語3:マルチモーダル(人流) 多種多様なモード(=交通手段)があること 交通手段が選択できる環境にあること 自家用車を使わなくても移動できる環境があ ること(=徒歩、自転車、公共交通での移動 ができること) 用語4:インターモーダル(人流) モードとモードの際への配慮 交通手段間を乗り継いで移動できる環境があること 乗り継ぎのスムーズさ を分解すると 物理的な連続性 時間的な連続性 運賃面の連続性(割高感、乗り継ぐたびに購入する手間) 心理的な安心感(特にビジター、ストレンジャー) 例題 バス事業の活性化? 交通政策でみるのはバス事業かバス輸送か バス事業が活性化することは必要条件か十 分条件か 事業者をみるか、市民をみるか 例題:計画の目標とは何か 渋滞の緩和・解消 交通計画の目標になっている 都市の目標→結果としての活動機会へのアクセス向上 バス利用者数の増加 交通計画の目標でさえない 利用者:手段選択に値する質のバスが「ある」こと 行政:バス利用者が増加することで得られることを言う 交通、都市の目標につなげる。 財政的持続性まで含める。 など 2.都市交通全体の考え方 都市交通政策の方向性 持続可能な発展の3E Environment 環境 Equity (socially sustainable) 公平・社会 Efficiency (economically or financially sustainable) 効率・経済 マルチモーダル(交通手段の選択性) 自家用車、自転車、新しいシステム(シェアリン グ) 関連主体の考慮 市民、企業、行政、事業者、他 関連するキーワード 環境 自家用車からの転換→モビリティマネジメント、プ ライシング戦略(ロードプライシング+パーキング プライシング+マルチモーダルプライシングへ) 公平性 社会的持続可能性 バスの多様性→混乗バス、パラトランジット、 DRT(オンディマンドバス)、STS(福祉輸送) 効率性 経済的持続可能性 バスやトラムの走行環境改善→優先信号制御、 取締り(バスカメラ)、総合的な改革支援(ソウル のバスリフォーム) 基本的な方向性 システム(供給)側 個別交通手段あるいはその体系に対して 安全性を高める、効率性を高める、魅力を高める、環境性能 を高める。 魅力→具体的にブレイクダウンする必要がある、魅力とは 便利、利便性→これも曖昧で危険な言葉。具体化が必要 需要側 移動する個人に対して、選択の前提となる情報を必要十分 な量と質、タイミングで提供する。 便利な道具の提供、使いやすい情報提供という発想をはる かに超える必要がある(便利だけでは問題は解決しない) 公共交通での移動が選択肢足りえるかどうか 公共交通そのものが「使える」ものであること(システム側) そのことが「使ってほしい人」に「伝わる」こと(需要側)。 3.都市交通戦略 持続可能という言葉を踏まえて 都市交通の考え方について 目標達成型の発想の必要性 都市の目標 持続可能性(環境、経済、社会) 具体的には 自家用車への過度な依存から脱却 公共交通が担うべき役割の再確認 誰(市民、行政、事業者)が何をすべきか 戦略的なアプローチへ 細かい点 事業者の中の「事業」と「公共性」 行政の中 国と地方、道路系と運輸系 等など 市民への教育、啓発 誰がする 自動車の全否定→上手な組み合わせ 自転車、カーシェア、P&Rなどとバスのバッティング 都市交通戦略の中身への期待 モビリティを高め =高齢者の移動支援等 アクセシビリティを高め=開発計画と連動 マルチモーダル指向で=自家用車依存不要 マルチモーダル:交通手段の選択の余地があること インターモーダル対応=乗り継ぎスムーズ インターモーダル:交通手段同士が連携していること 公共交通さえよければよい、道路渋滞が解消され ればよい、ではない。 徒歩による移動(バス停アクセスを含む)、自転車で の移動まで考えて。 都市交通戦略は、ここが勘所! 都市づくりの目標達成に明確につながっていること。 関連主体と実現プロセスが明示されていること。 ロードマップがあること。 何をどの順序でどうしていくのかがわかる。 つくりっぱなしではないこと。 サステナブルな都市(環境、経済、社会)の実現 施設整備が目的化しない。 各交通手段、各交通施設の現状診断に基づいての対応を考 えていること。 徒歩、自転車、バイク、バス、軌道系 駅前広場、バスターミナル、駐車場 不確実性への対応の仕組みが用意されていること。 3種類の不確実性 : 周辺環境、関連他主体意思決定、価値観 特に 目的と手段の混乱 バスを入れることが(最終)目的ではないはず 「バスでまちづくり」 バスは手段、道具なはず 目的の中身 施設整備で終わるのでいいのか 多くのLRT構想がそうみえます。 少しずつよくなっていく、よい状態が続く、そういう 仕組みの整備(永遠に監視が必要になるが) 参考:都市交通戦略の枠組み例 参考:持続可能の3側面の関係例 (クリチバ市のマスタープランより) 地域のバスについて言うなら 目標達成へのつながり なんのためのバスか 便利だから、は理由にならない 代替案の事前比較評価 他のシステムと比較して優位かどうか 試行実施による検証 人々のどういう行動変化を期待するか 期待している行動変化が実現するか、持続するか オンデマンド交通への期待 ディマンド運行への過剰な期待 ディマンド運行の方式は多様である。 ITということでディマンドバスが流行している →どこでも成立するというものではない。 導入に際しては冷静な評価が必要 停留所も路線もダイヤも決まっている例(タクシーバス) ダイヤと候補停留所は決まっているが路線はない(フレックスルート) 通常の運行とディマンド運行を客観的に比較 利用者サイド、運営サイド、地域全体サイドで評価 通常運行よりコストが下がる場合は限定的 通常運行より利用者が増える場合も限定的 流行に踊らされていることへの懸念 スウェーデンの例は参考になるが タクシー券補助との比較の上での導入 市民IDなど背景事情の差異) 参考:DRTの分類 № 運行形態 1 ダイヤまで確定 関連事例 ケベック 論点 補助制度 2 3 4 5 6 7 途上国 途上国 東急 スウェーデン アメリカ 運行判断 運行判断 意義 役割と効果 同上 対タクシー ダイヤをもたない 停留所をもたない 迂回路線を持つ 路線網を持つ 路線を持たない 乗合or相乗タクシー 参考:タクシーバス(カナダ・ケベック州) 低密度利用路線でのタクシー車両活用 路線、停留所、ダイヤはすべて固定 利用者は希望時にセンターへ電話 センターはタクシー会社へ配車を要求 タクシーは実車でバスダイヤに沿って運行 利用者はバス運賃を支払う。 メータと運賃収入の差額を後日、市が補填(補 助) 要求ない便は欠航→Demand Responsive 参考例:フレックスルート(イエテボリ) 大学病院と郊外SC(ともにバス路線とトラム路線の ターミナル)間を結ぶディマンドバス(DRT)。 途中の経由地(ミーティングポイント)は起点発車15 分前までの予約により決定(単純技術)。 完全な乗合ではない(移動制約者のみ利用可能)。 自宅での予約は電話。帰宅時の予約は各自のID カードで簡単にできる。 在来路線バスによるモビリティ確保よりコストを下げ、 かつ利用者を呼び込んだ(福祉政策の効率化)。 論点 オンデマンド交通は本当に必要なのか? →× 効果はある、でも費用も余計にかかる →△ あれば便利、でもなくても間に合う 導入により、誰のどういう行動をどう変えるの か、それが地域にどうプラスなのか →× 利用者は便利という →× これは当り前 在来バス利用者からの転換だけ 条件設定 ケース1 新規導入 すでにバスもなにもないところに入れる新規サー ビスの候補としてのオンデマンド交通 ケース2 置換導入 既存バス路線の廃止代替のサービスとしてのオ ンデマンド交通 視点1 費用効率性での優位性 費用の優位性 オンデマンドでないバスと比べて、同じサービス 水準の達成にかかる費用が安価かどうか 参考→イエテボリのフレックスルート 新規導入→他の選択肢との費用比較 ミニバス路線、タクシー券配布より安価 置換導入→事前のシステムとの費用比較 従前の路線バスより安価になっているか 視点2 効果、目標達成 便利になった →それは当然。(不便では困る。) 地域の目標、交通戦略の目標の達成への貢 献、で評価 何人乗ればいい、ではなく、 乗ってほしい人に乗ってもらったかどうか、 期待していた行動の変化が実現されたかどう か 視点3 多様性 様々なサービスバリエーションの可能性 地域のニーズや条件(地形なども)にあわせ たシステム設計へ。 ここでも代替案比較、費用評価、効果評価が重 要になる。 追記 利便性の向上 きわめて危険な表現 情報通信技術の活用 何のためか不明 利用者の満足 非利用者の評価が必要 採算性確保 社会的便益こそ評価が必要 オンデマンド交通が、今困っている人を救う 最善策として理解されることを期待