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東北工業大学紀要(I:理工学編 第35号)
ISSN 0285 3817
-
Ser. I : Science and Engineering
No. 35
March 2015
CONTENTS
東 北 工 業 大 学 紀 要 ︵ 理 工 学 編︶
第三十五号 二 〇 一 五 年 三 月
MEMOIRS
OF THE
TOHOKU INSTITUTE OF TECHNOLOGY
I
Spatial Analysis of Ground Level Ozone and Nitrogen Dioxide Concentration in Small Area, Yagiyama Sendai, Miyagi‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥Y. Yamada Maruo and D. Kawaguchi 1
Analysis of Bremsstrahlung from RO Concentrated Water Storage Tank in Fukushima Daiichi
Nuclear Power Station ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ K. Umeda and T. Kobayasi 11
Geological History of Matsushima ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥T. Moriai and T. Yamada 21
The Impact Analysis of a Road Safety Campaign on the Daily Driving Behavior of Elderly Drivers
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥S. Nakai and A. Kikuchi 27
The Waterworks Situation in the World and Positioning of Japan
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥S. Mizuno, K. Saito, M. Nakayama and H. Konno 39
Construction of a Pedometer Measurement System on Mobile Ad hoc Network
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥H. Nakayama 43
-
Bandwidth of the WAN Connection Network in the Campus Network ‥‥‥‥‥‥‥M. Matsuda 51
東北工業大学 紀要
I 理 工 学 編
第 35 号
2015 年 3 月
目 次
仙台八木山局所域における地表レベルオゾンと二酸化窒素濃度の空間分析
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 丸尾容子・川口大樹 1
福島第一原子力発電所 RO 濃縮水貯留タンクからの制動放射について
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 梅田健太郎・小林悌二 11
松島の生いたち ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 盛合禧夫・山田孝雄 21
交通安全キャンペーンが高齢者の日常運転に及ぼす影響分析 ‥‥‥‥‥ 中井周作・菊池 輝 27
世界の水道状況と日本の位置付け ‥‥‥‥‥‥‥ 水野 俊・斎藤孝市・中山正与・今野 弘 39
アドホックネットワークによる歩数計測システムの構築 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 中山英久 43
キャンパスネットワークにおける WAN 接続回線の広帯域化 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 松田勝敬 51
TOHOKU INSTITUTE OF TECHNOLOGY
東 北 工 業 大 学
Sendai, Japan
仙 台
仙台八木山局所域における地表レベルオゾンと二酸化窒素濃度の空間分析(丸尾・川口)
1
仙台八木山局所域における地表レベルオゾンと
二酸化窒素濃度の空間分析
丸 尾 容 子*・川 口 大 樹**
Spatial Analysis of Ground Level Ozone and Nitrogen Dioxide
Concentration in Small Area, Yagiyama Sendai, Miyagi
Yasuko Yamada Maruo and Daiki Kawaguchi
Abstract
This work describes the spatial analysis of NO2 and ground level O3 levels in Yagiyama, Sendai, Miyagi
from August to September 2014. NO2 was determined using the developed passive sensor, and O3 was determined using the combination of the developed passive detection paper and RGB image analysis method. Ten
samples were collected at daytime, placed at different monitoring site locations. The monitoring sites were
divided into two groups. One was along the road and another was away from the road. The average NO2 and
O3 concentration was found to be 13.6 ppb and 29.2 ppb, respectively. We investigated the relationship between O3 and NO2 as a function of monitoring location. We obtained the positive correlation between NO2 and
O3 levels at locations away from the roadside, and obtained the negative correlation between NO2 and O3 levels
at locations along the road. We also estimated the background level of NO2 at locations far from the road, and
it was found that the level of fine day and cloudy day was 4.5 ppb and 14ppb, respectively.
1. は じ め に
公害の時代であった 20 世紀を過ぎ,21 世紀に入っ
ても大気汚染物質による環境汚染はいまだに大きな問
題である。特に環境基準が設定されている物質のうち
で光化学オキシダントは環境基準の達成率がほぼ 0%
であり,21 世紀の環境汚染物質としてその低減が課
題となっている1,2)。光化学オキシダントは,1 次汚染
O3 や NO2 の濃度測定については,複数の報告があ
る。しかし,そこで用いられている方法と結果は大型
の測定器を用いた数キログリッドの濃度分布であった
り6 13),パッシブサンプラーを用いた長時間での平均
-
の濃度分布であったりして14 16),短時間での局所濃度
-
分布の報告ではない。我々は大気汚染物質の短時間で
の測定が可能なパッシブサンプラーを研究開発してお
り17 18),それらを用いて大学の立地する仙台市太白区
-
物質と呼ばれる窒素酸化物や揮発性有機物質が太陽か
らの紫外線を受けて大気中で光化学反応が起こり生成
する 2 次汚染物質であり,その生成機構は複雑である。
また原因物質の窒素酸化物は濃度分布が局所的である
ことが報告されており3 5),光化学オキシダントの主
八木山地区での測定を行ったのでその結果について報
告する。
成分であるオゾン(O3)と二酸化窒素(NO2)の局所
分布は光化学オキシダントの生成機構の研究に基礎的
な情報を与えると考えられる。
2.1 測定場所
測定場所には大学の立地する仙台市太白区八木山香
澄町を選定した。太白区八木山は仙台市の南西に位置
する山の斜面に広がる古くからの住宅街である。2015
年には地下鉄が開通することとなっているが現在はそ
の主要な交通手段はバスか自家用車である。東北工大
-
2014 年 10 月 21 日受理
*
環境エネルギー学科 教授
**
学科 学生
2. 実 験
2
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
図 1 NO2 及び O3 濃度の測定場所
八木山キャンパス周辺には多くの住民が居住し、1 時
間でのバスは日中平均して片車線で約 6 本である。山
の斜面であるため,車道はほぼ 1 車線である。仙台市
の地図と東北工業大学での測定地点の地図を図 1 に示
す。測定点は丸で示す 10 点とした。東北工業大学八
木山キャンパスバス停の面する道路 1 が主要な道路で
あり,この道路沿いに 4 点の測定点を設定し,そのラ
インに垂直な 2 線で各 3 点を設定した。各測定点の写
真を図 2 に示す。また測定点の特徴を表 1 に示す。
2.2 測定日および気象データ
測定日は 2014 年 8 月 22 日から 9 月 30 日の間から
雨天以外の 7 日間を選んで行った。測定時間は光化学
反応が活発に起こると考えられる 12 時から 15 時とし
た。各測定日の気象条件(降水量,気温,湿度,風速,
風向,天気,雲量,UV インデックス)を UV インデッ
クス以外の気象条件は仙台市気象台のデータより取得
し19),UV インデックスは気象庁の紫外線情報より取
得した20)。
2.3 交通量
道路 1 の交通量は目視により,15 分間カウントした。
2.4 二酸化窒素の測定
我々の研究グループではすでに多孔質ガラスとザル
ツマン試薬の組み合わせによる高感度・高選択性を持
つパッシブセンサを開発している21)。そこでこのセン
サ素子を用いて測定を行った。センサ素子は図 3 に示
すように前面が外気に接したプラスチックケースに入
れ,片面の端をクリップで留めて,中を黒く塗った紙
コップの中にクリップを糸でつるし,光を遮蔽し,コッ
プの開口部より空気の対流が起こるようにして,実験
場所の高さ約 1.5 m のところに設置した。センサ素子
は 525 nm の吸光度の暴露前と暴露後の差が,暴露の
積算 NO2 濃度と比例することが判っている。そこで
暴露前後の吸光度を測定し,NO2 濃度に変換した。吸
光度の測定は U-4100(日立製)で行った。センサ素
子は蓄積型であり,暴露終了後の吸光度変化はないこ
とから,525 nm の吸光度が 3 付近までは繰り返し使
用可能である。そのため,1 日の暴露終了後のセンサ
素子をアルミコートプラスチックバックに保管して,
次の測定日にはそれを取り出し,初期吸光度を測定し
再び使用した。初期吸光度は原理的には前回の暴露終
了後の吸光度と同じはずであるが,センサ保管時にプ
ラスチックバック中に二酸化窒素が入り込む可能性が
あると考え,暴露初期に再び測定することとした。
仙台八木山局所域における地表レベルオゾンと二酸化窒素濃度の空間分析(丸尾・川口)
図 2 測定点の写真
表 1 測定点の特徴
測定点
特徴
進路 1 からの距離(m)
1
道路沿い
−
2
バス停付近,道路沿い
−
3
バイク駐輪場入口付近(バイク多め),道路沿い
−
4
道路沿い,駐輪場境界
−
5
大学正門入口付近
32
6
来客者駐車場と芝生の境界
64
7
中庭芝生上
79
8
体育館建物より 5 m 離れた地点
53
9
駐車場付近
149
大学と住宅街の境界,坂道横
127
10
3
4
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
図 3 二酸化窒素センサ素子
図 4 オゾン検知紙
2.5 オゾンの測定
我々の研究グループはすでにろ紙とインジゴカルミ
ンの組み合わせによる高感度なパッシブ検知紙を開発
している18)。そこでこの検知紙を用いて測定を行った。
検知紙は図 4 に示すように 1 cm×5 cm のサイズであ
り,片面の端をクリップで留めて,NO2 測定時と同様
に中を黒く塗った紙コップの中にクリップを糸でつる
し,光を遮蔽し、コップの開口部より空気の対流が起
こるようにして,実験場所の高さ約 1.5 m のところに
設置した。センサ素子の評価は次に示すように画像を
用いて行った。
あらかじめ標準状態で暴露して,O3 積算暴露量と
対応した,図 5 に示すような 4 段階の色見本を作製し
た。色見本と未暴露のオゾン検知紙,暴露後のオゾン
検知紙を同じ照明の下で同一の画像としてデジタルカ
メラで撮影した。その後,色見本の各段階の色,未暴
露のオゾン検知紙の色,暴露後のオゾン検知紙の色の
RGB 値の取得を行った。RGB 値は GETRGB(Vector)
を用いて,各色に対し任意の 10 点の測定を行い,そ
の値を平均して RGB 値とした。測定場所は 10 箇所
あるので,画像は各々の測定日に対し 10 枚あり,各々
に RGB 解析を行った。
色見本の RGB 値と O3 積算暴露量の相関を解析し
た結果,
R/B 値(R と B の比)と R-B 値(R と B の差)
が O3 積算暴露量との相関が良かった。そこで各測定
日の各測定点の画像(7 日 ×10 枚)において,各積
算量の画像について 10 点ずつ RGB 値を取得し,積
算濃度との関係を求めた。結果を図 6-1,6-2 に示す。
図 6-1 が R/B の 結 果, 図 6-2 が R-B の 結 果 で あ る。
図 5 色見本
いずれにおいても両者には線形の関係が成り立ち,決
定係数は各々 0.99,0.97 であった。また各々の濃度で
の R/B 値と R-B 値の平均値,標準偏差,変動係数を
表 2 に示す。R-B 値より R/B 値の方が線形性および
変動係数の両方が優れているので、本研究では R/B
値を O3 濃度算出に用いることとした。また,オゾン
検知紙は湿度条件により色の深度が変ってくるため
に,暴露サンプルの撮影時には未暴露で暴露の温度湿
度条件で平衡になったオゾン検知紙を用意して,同時
に 測 定 し た。 そ の 後 未 暴 露 の オ ゾ ン 検 知 紙 の 値 を
0 ppb×hour となるように色見本の 0 ppb×hour との差
を測定値に加えて O3 濃度を算出した。その後 25°C,
40% を標準条件として感度補正を行った。感度の補
正値は既に報告してある値を用いた18)。また検知紙は
仙台八木山局所域における地表レベルオゾンと二酸化窒素濃度の空間分析(丸尾・川口)
5
図 6-2 オゾン濃度と R-B 値の関係
図 6-1 オゾン濃度と R/B 値の関係
表 2 オゾン積算濃度と R/B 値,R-B 値の関係
オゾン
積算濃度
(ppb×hour)
平均
標準偏差
変動係数
平均
標準偏差
変動係数
0
0.477
0.0228
0.0478
−71.9
4.97
−0.0692
240
0.655
0.0159
0.0242
−48.9
3.38
−0.0691
480
0.870
0.0192
0.0221
−16.3
7.89
−0.483
640
1.03
0.0154
0.0149
2.21
0.469
R-B
R/B
両面暴露であり、両面暴露は片面暴露の 1.54 倍の感
度があることが実験により確かめられたので、その補
正も行った。
3. 測定結果及び考察
3.1 気象条件
表 3 に気象条件の結果を示す。温度と湿度の平均値
を算出し,その値を用いてオゾン検知紙の感度の補正
を行った。
気温は 8 月 22 日のみが 29°C 付近で,他は 23-25°C
であった。湿度においては 8 月 22 日と 9 月 8 日のみ
が 75-78% R.H. で高湿度であり,他は 35-45% R.H. の
比較的低湿度であった。
4.71
3.2 交通量
表 4 に道路 1 の交通量計測の結果を示す。いずれの
日においても 1 分で約 10 台前後の交通量があり,交
通量はかなり多かった。
3.3 二酸化窒素およびオゾン濃度の測定
二酸化窒素濃度の平均値は 13.6 ppb,オゾン濃度の
平均値は 29.2 ppb であった。二酸化窒素濃度の環境基
準値は 8 時間平均で 40-60 ppb 以下であるので,二酸
化窒素濃度は十分に低いことが判った。測定点 2 はバ
ス停の横であり,多くのバスが停車する場所であるが
40 ppb を超えることはなかった。これは主要幹線に比
較すると道路 1 の交通量が少ないためと考えられる。
O3 濃度は,光化学オキシダント(光化学オキシダン
トの 90% 以上が O3)として環境基準が設定されてお
り,その値は 1 時間値で 60 ppb である。測定結果は
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
6
表 3 測定時の気象データ
測定日
2014.8.22
2014.9.8
2014.9.12
2014.9.18
2014.9.19
2014.9.22
2014.9.30
時刻
降水量
(mm)
気温
(°C)
湿度
(%)
風速
(m/s)
風向
(m/s)
天気
雲量
UV イン
デックス
12 : 00
−
28.9
78
2.9
南東
晴れ
2
7
13 : 00
−
28.9
76
4.4
南東
6
14 : 00
−
28.6
77
4.0
南東
5
15 : 00
−
28.4
78
3.9
南東
晴れ
2
3
12 : 00
−
24.3
75
1.8
南東
曇り
10−
3
13 : 00
−
23.6
74
2.4
東南東
3
14 : 00
−
23.7
75
4.4
南南東
3
15 : 00
−
23.9
69
3.9
南南東
晴れ
2
2
12 : 00
−
24.9
42
4.0
西北西
晴れ
7
3
13 : 00
−
25.1
44
1.7
北
5
14 : 00
−
25.7
38
4.9
西北西
3
15 : 00
−
24.6
39
5.4
西北西
晴れ
7
2
12 : 00
−
21.7
46
6.3
西北西
晴れ
6
5
13 : 00
−
22.2
34
8.8
西北西
5
14 : 00
−
23.0
29
5.5
北西
3
15 : 00
−
22.6
31
6.6
西北西
晴れ
3
12 : 00
−
23.9
40
5.1
北西
晴れ
3
13 : 00
−
24.8
36
4.3
西北西
14 : 00
−
24.8
34
4.8
西
15 : 00
−
24.7
34
5.2
西北西
晴れ
4
12 : 00
−
22.7
41
2.6
北
晴れ
7
13 : 00
−
23.4
42
4.8
北
4
14 : 00
−
23.5
39
5.0
北北西
3
15 : 00
−
24.4
29
6.8
北北東
晴れ
2
2
12 : 00
−
24.6
39
5.3
西北西
晴れ
8
5
13 : 00
−
24.0
46
4.5
北北西
4
14 : 00
−
23.7
45
5.4
北西
3
15 : 00
−
23.0
48
3.0
北北西
曇り
9
2
5
1
仙台八木山局所域における地表レベルオゾンと二酸化窒素濃度の空間分析(丸尾・川口)
7
表 4 交通量データ
測定日
15 分台数(台)
平均台数(台 / 分)
2014.8.22
138
9.2
2014.9.8
137
9.1
2014.9.12
140
9.3
2014.9.18
135
9
2014.9.19
142
9.5
2014.9.22
134
8.9
2014.9.30
172
11.5
29.2 ppb と環境基準値以下であるが,77 個の測定結果
のうち 60 ppb を超えた個数が 5 個で,100 ppb を超え
た時もあった。測定日が,比較的 O3 が高濃度になり
図 7-1 NO2 濃度と O3 濃度の相関
道路沿い,曇り
やすい夏の日中に限定されていたこともあるが,O3
濃度について比較的高濃度の地域であることが判っ
た。
次に,O3 濃度と NO2 濃度の相関の考察を行った。
NO2 濃度及び O3 濃度の相関を考察するにあたり,
場合分けを行った。はじめに,道路近傍の測定点(No. 1
∼No. 4)と道路近傍ではない測定点(No. 5∼No. 10)
に分類した。その後気象条件により各々のデータを下
記の 2 つに分類した。
① 曇り : 9 月 8 日,9 月 12 日
② 晴 れ : 8 月 22 日,9 月 18 日,9 月 19 日,9 月
22 日,9 月 30 日
各条件での道路近傍と道路近傍ではない測定点の
NO2 濃度と O3 濃度の相関を求めた。 ① 条件の結果
を,図 7-1 及び 7-2 に示す。道路近傍では NO2 濃度
と O3 濃度は負の相関を示し,近似直線の傾きは−
0.68,相関係数は−0.91 であった。道路近傍ではない
ところでは正の相関を示し,近似直線の傾きは 4.63,
NO2 濃度の切片は 14 ppb,相関係数は 0.78 であった。
② 条件の結果を,図 8-1 及び 8-2 に示す。道路近傍
では NO2 濃度と O3 濃度はほとんど相関がなかった。
道路近傍ではないところでは正の相関を示し,近似直
線の傾きは 5.89,NO2 濃度の切片は 4.5 ppb,相関係
数は 0.86 であった。
これらの結果より,道路から離れた地点においては
天候の晴れ,曇りのいずれの場合でも NO2 濃度と O3
濃度は正の相関があり NO2 濃度の約 5 倍量の O3 が存
在すること,また NO2 のバックグランド濃度は,曇
図 7-2 NO2 濃度と O3 濃度の相関
道路より離れた地点,曇り
りの場合は晴れに比較して約 10 ppb 高いことが明ら
かになった。
NO2 濃度と O3 濃度の相関について研究された報告
で は, 道 路 近 傍 で の 負 の 相 関 が 報 告 さ れ て い
る7,12,13,15)。これは図 7-1 に示した結果と一致する。こ
れは自動車から発生される NO が O3 と反応して NO2
を生成する反応が主として起こっており,発生源での
傾向と考えられる。
道路近傍でないところでの NO2 濃度と O3 濃度につ
いての報告はほとんどなく,O3 濃度が高くなること
のみが報告されている10,15)。本測定の結果も道路近傍
ではないところの O3 濃度が道路近傍よりも高い値を
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
8
ンプラーを用いて,仙台市八木山東北工業大学キャン
パス周辺での濃度測定を行った。その結果,道路近傍
では O3 濃度と NO2 濃度の負の相関が測定された。ま
た,道路近傍ではない測定点においては O3 濃度と
NO2 濃度が正の相関をもち,NO2 の 5 倍量の O3 が存
在することが明らかになった。また,道路近傍ではな
い地点の NO2 のバックグランド濃度は晴れと曇りの
気象条件に依存しており,曇りの条件の方が約 10 ppb
高いことが判った。この時に道路近傍では O3 濃度が
晴れの時より低下しており,道路近傍での O3 と NO
の反応の結果がより反映されたためと考えられる。
図 8-1 NO2 濃度と O3 濃度の相関
道路沿い,晴れ
参考文献
図 8-2 NO2 濃度と O3 濃度の相関
道路より離れた地点,晴れ
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誌,Vol. 44,No. 6(2009)
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Japan, using a new method with high spatial and high
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(2003), p. 1065-1074.
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downwind of two different line sources in suburban
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NO, NO 2 and O 3 concentrations in North Phine Westphalia, Germany, Atmos. Environ. Vol. 60
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wind directions on air pollution concentrations in
Seoul, Korea, Atmos. Environ. Vol. 45, No. 16
(2011), p. 2803-2810.
[10] A. Lozano, et al. : Air quality monitoring network
design to control nitrogen dioxide and ozone, applied
示しており,これら報告に一致する。また本測定では
さらに,図 7-2,8-2 に示したような正の相関が測定
された。これは道路近傍でないところは光化学反応が
両者の濃度を決定するのに支配的になっているためと
考えられる。また曇りの場合に NO2 濃度のバックグ
ランド濃度が高い原因としては,曇りの場合,道路近
傍での O3 濃度の減少が顕著であり,O3 と NO の反応
により生成された NO2 濃度が高いためと考えられる。
4. ま と め
研究室で開発した高感度な NO2 と O3 のパッシブサ
仙台八木山局所域における地表レベルオゾンと二酸化窒素濃度の空間分析(丸尾・川口)
in Granada, Spain, Ozone Sci. Eng. Vol. 33 No. 1
(2011)80-89.
[11] H. Minoura, et al. : Observation of the primary NO2
and NO oxidation near the trunk road in Tokyo,
Atmos. Environ. Vol. 44 No. 1(2010), p. 23-29.
[12] S. Reich, et al. : An analysis of secondary pollutants
in Buenos Aires city, Environ. Monit. Assess., Vol.
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[13] A.C. Vandaele, et al. : UV Fourier transform measurements of tropospheric O3, NO2, SO2, benzene
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[14] S. Vardoulakis, et al. : Intra-urban and street scale
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UK : Implications for exposure assessment, Atmos. Environ. Vol. 45, No. 29(2011), p. 5069-5078.
[15] P. Martin, et al. : Ozone and nitrogen dioxide levels
monitored in an urban area(ciudad real)in centralsouthern Spain, Water Air Soil Pollut. Vol. 208 No.
1-4(2010)p. 305-316.
9
[16] B. Beckerman, et al. : Correlation of nitrogen dioxide with other traffic pollutants near major expressway, Atmos. Environ. Vol. 42, No. 2(2008), p. 275290.
[17] T. Tanaka, et al. : A ppb-level NO2 gas sensor usig
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B, Vol. 56(1999)p. 247-253.
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ozone detection paper, Sens. Actua. B, Vol. 135
(2009)p. 575-580.
[19] 気象庁|紫外線情報分布
http://www.jma.go.jp/jp/uv/
[20] 気象庁|過去の気象データ検索
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.
php?prec_no=34&block_no=47590&year=&month=
&day=&view=
[21] Y.Y. Maruo, et al. : Development of highly sensitive
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B, Vol. 173(2012)p. 191-196.
福島第一原子力発電所 RO 濃縮水貯留タンクからの制動放射について(梅田・小林)
11
福島第一原子力発電所 RO 濃縮水貯留タンクからの
制動放射について
梅 田 健太郎*・小 林 悌 二**
Analysis of Bremsstrahlung from RO Concentrated Water Storage
Tank in Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
Kentaro Umeda and Teiji Kobayasi
Abstract
In the accident in Fukushima Daiichi nuclear power station of Tokyo Electric Power Co. (TEPCO)in
2011, the reactor cores were melted and dropped down to primary containment vessels(PCVs)and/or to reactor pressure vessels(RPVs). To cool the damaged cores, about 400m3/day of water is even now injected to
PCVs and RPVs. Additionally, about the same amount of ground water inflow to the basement of reactor building and turbine building. The water is recirculated to remove radioactivity by Cs removal devices and salt by
Reverse Osmosis(RO)desalinization equipment. Approximately 400m3 of contaminated surplus water is
generated every day and has to be stored in storage tanks. The water is contaminated by many kinds of radionuclides. Especially, the level of radioactivity due to 90Sr amounts to 40,000∼500,000 Bq/cc. Possibilities of
radiation exposure and accidental leakage of radioactivity to the environment are increasing.
TEPCO reported that, due to the Bremsstrahlung of origin of 90Sr beta decay in the RO concentrated water storage tanks, the radiation dose at the site boundary on the plant area should be approximately 8mSv/
year. The amount is beyond 1mSv/year of the public dose limit.
In this paper we analyze flux strength and energy spectra of electrons and of photons leaked from the RO
storage tanks by using Monte Carlo simulation of Boltzmann transport equation for the electron energy loss
process in the tank, and estimate and discuss the Bremsstrahlung radiation dose around the tank and at the site
boundary. Discussion will be also given on physical situation of radiation leaked from the tank and its dose
from some radionuclides other than 90Sr.
1. は じ め に
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災で,東京
電力福島第一原子力発電所 1, 2, 3 号機の炉心は熔融
し,炉心が原子炉圧力容器の底部に流下した[1]。事
故後も発生する崩壊熱を除去するため,現在も 1 日当
たり約 400 m3 の冷却水が原子炉建屋とタービン建屋
クの数も増え続けている[2]。
RO(Reverse Osmosis)濃縮水は,タービン建屋滞
留水からセシウム吸着装置によりセシウムを除去し,
淡水化装置(RO 装置)で濃縮した後(RO 装置出口側)
の放射能汚染水である。RO 濃縮水には核分裂生成物
で あ る 134Cs,137Cs,125Sb,106Ru,90Sr, そ し て, 放
射化生成物である 60Co,54Mn の放射性核種が含まれ
に注入されている。また,1 日当たり約 400 m3 の地
て い る。 特 に 90Sr の 放 射 能 濃 度 は 134Cs,137Cs や
下水がこれらの箇所に流れ込み,1 日当たり約 400 m
Co,54Mn に比べて数万倍から数十万倍高い[3]。
平成 25 年 5 月,東京電力は RO 濃縮水貯留タンク
に含まれる放射性核種の濃度から,制動放射を考慮し
た ORIGEN2 ライブラリ[4]を用いてガンマ線強度
を求め,その線源強度から RO 濃縮水貯留タンクから
3
の放射能汚染水が増加し続け,汚染水を貯蔵するタン
2014 年 10 月 21 日受理
*
共通教育センター 教授
**
(元)新潟大学医学部 教授
60
12
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
の直接線およびスカイシャイン線による敷地境界線量
を評価した。その結果,年間最大 1 mSv(公衆に対す
る放射線線量限度)近くになり,タンク増設を考慮す
ると増設エリアに近接する敷地境界では年間最大
7.8 mSv になると公表した[5]。
平成 26 年,今後予想される RO 濃縮水の保管計画
に基づく敷地境界の年間線量の再評価の詳細が公表さ
れ, 年 間 最 大 約 8.04 mSv に な る こ と が 予 想 さ れ た
[6,7]。放射能汚染水が増加し続けているため,汚染
水貯留タンクの増設が続き,放射性物質が環境に漏洩
する潜在的な危険性,また,タンク周辺および貯留タ
ンクエリアに近接する敷地境界の空間線量は増大する
傾向にある。
Sr は半減期 28.79 年でベータマイナス壊変して
90
Y に変化し,娘核種 90Y は半減期 64.10 時間でベー
タマイナス壊変し安定核種 90Zr になる。90Sr のベータ
90
壊変では,最大エネルギーが 0.546 MeV である連続
エネルギースペクトルをもつ電子(平均エネルギー
0.196 MeV)が放出される。娘核種 90Y のベータ壊変
では,最大エネルギーが 2.280 MeV である連続エネ
ル ギ ー ス ペ ク ト ル を も つ 電 子( 平 均 エ ネ ル ギ ー
0.933MeV)が放出される[8,9]。このため,これら
高エネルギー電子が RO 濃縮水内で起こす制動放射線
による空間線量への影響は,電子の平均エネルギーが
高い 90Y の方が親核種 90Sr より大きいと予想される。
Sr と 90Y の壊変過程でガンマ線はほとんど放出され
ず,電子の水中飛程は短く(エネルギー 1 MeV の電
子の飛程は 0.44 g/cm2),ベータ壊変で発生した電子
90
の大部分はタンク内で吸収されると考えられ,一方,
光子の飛程は同じエネルギーの電子の飛程に比べては
るかに長い(エネルギー 1 MeV の光子の水中の質量
減衰係数は 0.071 cm2/g)。このため,RO 濃縮水貯留
タンクから漏出する放射線の敷地境界での空間線量に
対する影響は,電子の制動放射で生成される光子によ
ると予想される。
RO 濃縮水貯留タンクにおける制動放射により敷地
境界の年間空間線量が 1 mSv を超えることを公表し
た東京電力の資料 5,6,7 には計算手法の流れと最終結
果は示されているが,どのような物理的な状況で公衆
の線量限度を超過する結果に至っているかを理解する
ために必要なデータは含まれていない。RO 濃縮水貯
留タンクに含まれる放射性核種の大部分はベータ壊変
核種であり,放出される電子はタンク内でほとんど吸
収されると考えられる。このため,タンク内のベータ
壊変で放出される電子を線源として,タンクから離れ
た敷地境界における空間線量に及ぼす影響・危険性を
理解・検討するには,タンク内での電子の挙動を現実
的な物理モデルで解析し,タンク内および敷地境界に
達する放射線に関する物理的な情報を得ることが必要
である。東京電力は,タンク内の電子の減速過程の解
析を行わず,その過程で生じる制動放射の効果を考慮
した光子ライブラリを使用して求めた光子を線源とし
て,光子の輸送計算を実施することにより評価を行っ
ている。このため,タンク内の電子の具体的な物理的
挙動に結びつかない。また,ORIGEN2 において制動
放射を考慮した光子ライブラリは二酸化ウラン(UO2)
と水に関する 2 種類だけであり,ベータ壊変で放出さ
れる電子の物質内の挙動を現実の体系で直接シミュ
レーションすることにより制動放射の影響を評価する
手法の検討は重要と考える。
本稿では,RO 濃縮水貯留タンクに含まれるベータ
壊変核種から放出される電子を線源とし,電子がタン
ク内を通過する過程で電子・光子を生成する現象を直
接シミュレーションすることにし,解析はモンテカル
ロ法コードである MCNP コード[10]を使用して行う。
この計算手法により,増え続ける RO 濃縮水貯留タン
クから周辺に及ぼされる空間線量の検討に必要な基本
情報であるタンク内,タンク壁,およびタンク周辺に
おける電子・光子のフラックスとエネルギースペクト
ルを解析し,放射性核種の実測放射能濃度を参考とし
た標準放射能濃度に対するタンク周辺およびタンクエ
リアに近接する敷地境界での空間線量の定量評価を行
う。併せて,タンク内に含まれ 90Sr,90Y 以外の放射
性核種についても,タンク周辺の空間線量に及ぼす影
響を評価する。
2. 計 算 方 法
2.1 電磁カスケードモンテカルロ法
電荷をもった電子は,光子や中性子と異なり,物質
を通過する過程で物質を構成する原子の原子核や軌道
電子とクーロン散乱による弾性散乱を繰り返して進行
方向が曲げられるとともに,軌道電子との非弾性散乱
により原子を電離・励起して電子や光子を生成する。
また,原子核との非弾性散乱で電子軌道が大きく変化
することにより制動放射[11]が起こり,光子が放出
される。生成された光子は物質を通過する過程で光電
効果,コンプトン散乱,電子対生成により電子・光子
現実の体系で直接シミュレーションす
進行をシミュレーションするには,電磁カ
とにより制動放射の影響を評価する手
スケード[12]と呼ばれるこのような物理過
ションす
ーションす
進行をシミュレーションするには,電磁カ
ュレーションす
進行をシミュレーションするには,電磁カ
進行をシミュレーションするには,電磁カ
進行をシミュレーションするには,電磁カ
検討は重要と考える。
価する手
評価する手
程をコンピュータ内で模擬する必要がある。
響を評価する手
スケード[12]と呼ばれるこのような物理過
スケード[12]と呼ばれるこのような物理過
スケード[12]と呼ばれるこのような物理過
スケード[12]と呼ばれるこのような物理過
稿では,RO
濃縮水貯留タンクに含ま
13
福島第一原子力発電所
RO 濃縮水貯留タンクからの制動放射について(梅田・小林)
本稿では,電磁カスケードをモンテカルロ
程をコンピュータ内で模擬する必要がある。
程をコンピュータ内で模擬する必要がある。
程をコンピュータ内で模擬する必要がある。
ベータ壊変核種から放出される電子を
程をコンピュータ内で模擬する必要がある。
クに含ま
ンクに含ま
留タンクに含ま
シミュレーションするには,電磁カ
法で模擬する MCNP コード[10,13,14]を使
進行をシミュレーションするには,電磁カ
本稿では,電磁カスケードをモンテカルロ
本稿では,電磁カスケードをモンテカルロ
本稿では,電磁カスケードをモンテカルロ
とし,電子がタンク内を通過する過程
を生成する。電子の物質中の進行をシミュレーション
2.2 放射能濃度と線源スペクトル
本稿では,電磁カスケードをモンテカルロ
る電子を
れる電子を
ュレーションす
進行をシミュレーションするには,電磁カ
出される電子を
ド[12]と呼ばれるこのような物理過
用し電子・光子の輸送過程をシミュレーシ
スケード[12]と呼ばれるこのような物理過
子・光子を生成する現象を直接シミュ
法で模擬する
MCNP
コード[10,13,14]を使
法で模擬する
MCNP
コード[10,13,14]を使
法で模擬する
MCNP
コード[10,13,14]を使
するには,電磁カスケード[12]と呼ばれるこのよう
RO 濃縮水貯留タンクから漏出する放射線による空
する過程
法で模擬する
MCNP
コード[10,13,14]を使
過する過程
響を評価する手
を通過する過程
スケード[12]と呼ばれるこのような物理過
ンピュータ内で模擬する必要がある。
ョンする。MCNP コードでは(1)式に示す
ションすることにし,解析はモンテカ
程をコンピュータ内で模擬する必要がある。
用し電子・光子の輸送過程をシミュレーシ
用し電子・光子の輸送過程をシミュレーシ
用し電子・光子の輸送過程をシミュレーシ
接シミュ
な物理過程をコンピュータ内で模擬する必要がある。
間線量を評価するにあたり,各放射性核種の放射能濃
直接シミュ
用し電子・光子の輸送過程をシミュレーシ
象を直接シミュ
程をコンピュータ内で模擬する必要がある。
法コードである
MCNP
コード[10]を
は,電磁カスケードをモンテカルロ
ボルツマン輸送方程式を解いて電子・光子
本稿では,電磁カスケードをモンテカルロ
ョンする。MCNP
コードでは(1)式に示す
モンテカ
ョンする。MCNP
コードでは(1)式に示す
ョンする。MCNP
コードでは(1)式に示す
はモンテカ
留タンクに含ま
本稿では,電磁カスケードをモンテカルロ法で模擬す
度は東京電力の資料 3,5,6 を参考に表 1 のように仮定
ョンする。MCNP
コードでは(1)式に示す
解析はモンテカ
して行う。この計算手法により,増え
本稿では,電磁カスケードをモンテカルロ
擬する
MCNP
コード[10,13,14]を使
のフラックスを追う。変数およびシミュレ
法で模擬する
MCNP
コード[10,13,14]を使
ド[10]を
ード[10]を
出される電子を
ボルツマン輸送方程式を解いて電子・光子
るボルツマン輸送方程式を解いて電子・光子
MCNP
コード[10, 13, 14]を使用し電子・光子の
した。ボルツマン輸送方程式は線源強度に対して線形
ボルツマン輸送方程式を解いて電子・光子
P コード[10]を
ボルツマン輸送方程式を解いて電子・光子
る RO 濃縮水貯留タンクから周辺に及
法で模擬する MCNP コード[10,13,14]を使
り,増え
子・光子の輸送過程をシミュレーシ
ー シ ョ ン 方 法 のコードで
詳細について
は文献
より,増え
を通過する過程
用し電子・光子の輸送過程をシミュレーシ
輸送過程をシミュレーションする。MCNP
であり,エネルギースペクトルが同じ場合には空間線
のフラックスを追う。変数およびシミュレ
のフラックスを追う。変数およびシミュレ
のフラックスを追う。変数およびシミュレ
法により,増え
のフラックスを追う。変数およびシミュレ
れる空間線量の検討に必要な基本情報
用し電子・光子の輸送過程をシミュレーシ
周辺に及
ら周辺に及
象を直接シミュ
る。MCNP
に譲り,以下に,本稿で行ったエ
ョンする。MCNP
コードでは(1)式に示す
は(1)式に示すボルツマン輸送方程式を解いて電子
・
量は線源強度に比例する。表 1 に示す放射能濃度と異
クから周辺に及
ーー
シシ
ョョ
ン詳
方細
法に
のつ
詳い
細て
には
つ10,13,14
い献
て はは文
献
ー シ ョコードでは(1)式に示す
ン
方
法
の
文
るタンク内,タンク壁,およびタンク
ーン
シ方
ョ法
ンの
方詳
法細
のに
詳つ
細い
にて
つ い文
て献
は文献
基本情報
な基本情報
ョンする。MCNP
コードでは(1)式に示す
解析はモンテカ
マン輸送方程式を解いて電子・光子
ネルギースペクトル,空間線量評価の流れ
ボルツマン輸送方程式を解いて電子・光子
光子のフラックスを追う。変数およびシミュレーショ
なる場合でも,本稿の計算結果から比例計算で空間線
必要な基本情報
10,13,14 10,13,14
に譲り,以下に,本稿で行ったエ
10,13,14に譲り,以下に,本稿で行ったエ
に譲り,以下に,本稿で行ったエ
における電子・光子のフラックスとエ
10,13,14 に譲り,以下に,本稿で行ったエ
びタンク
よびタンク
P
コード[10]を
ボルツマン輸送方程式を解いて電子・光子
,およびタンク
ックスを追う。変数およびシミュレ
ン方法の詳細については文献
10,13,14
に譲り,
以下に,
量を見積もることができる。
を簡単に述べる。
のフラックスを追う。変数およびシミュレ
ギースペクトルを解析し,放射性核種
ネルギースペクトル,空間線量評価の流れ
ネルギースペクトル,空間線量評価の流れ
ネルギースペクトル,空間線量評価の流れ
クスとエ
ネルギースペクトル,空間線量評価の流れ
ックスとエ
法により,増え
のフラックスを追う。変数およびシミュレ
フラックスとエ
本稿で行ったエネルギースペクトル,空間線量評価の
各放射性核種から放出されるベータ壊変電子のエネ
ンー方シ
法ョのン詳方
細を簡単に述べる。
法にのつ詳い細てにはつ文い献て は 文 献
測放射能濃度を参考とした標準放射能
を簡単に述べる。
を簡単に述べる。
射性核種
放射性核種
クから周辺に及
を簡単に述べる。
し,放射性核種
 いて は 文 献
ー
ション方法の詳細につ
流れを簡単に述べる。
ルギースペクトルあるいはガンマ線のエネルギー強度
に対するタンク周辺およびタンクエリ
4準放射能
に譲り,以下に,本稿で行ったエ
10,13,14
に譲り,以下に,本稿で行ったエ
∂
φ
Ω
,
,
,
r
E
t



1


標準放射能
必要な基本情報
+ Ω ⋅ ∇φ r , E , Ω, t + S tは文献
φ r , E , Ω9, t のデータベースから編集した。
した標準放射能
に譲り,以下に,本稿で行ったエ
近接する敷地境界での空間線量の定量

 10,13,14
ースペクトル,空間線量評価の流れ

 
ネルギースペクトル,空間線量評価の流れ
∂t
v
ンクエリ
タンクエリ
,およびタンク

∂
φ
Ω
,
,
,
r
E
t
φ r , E, Ω
, Ω,t   90    



1 ,タンク内に含まれ
   
1 ∂併せて,
1t ∂φ r , E∂φ
よびタンクエリ

,,⋅ttφ∇+φrSr,
を行う。
ネルギースペクトル,空間線量評価の流れ
⋅∇
φ φ′rd,Ω
,EΩr, ,Ω
+Ω
Ω
S,rEφ,=
,tE,t,+ΩS
EΩ
1⋅ ∇φ rr,+, E
+,,Ω
+, tdE
S
rE,′,S
EΩ, ,Ωtr,,tE ′ → E , Ω′ → Ω φ r , E ′, Ω′, t
に述べる。
量の定量
を簡単に述べる。
線量の定量
フラックスとエ
ョンす
+ Ωt ⋅ ∇φ r , ∫∫
E ,tΩt, t + Σstφ r , E , Ω, t
∂t∂t
∂t v v
v
進行をシミュレーションするには,電磁カ
空間線量の定量
以外の放射性核種についても,タンク
v  ∂t           

2.3 計算体系
 ′を簡単に述べる。
まれ
, 9090
含まれ
Sr,
し,放射性核種
,′E

′SE′sS, sΩ
′, →
′, tΩ
する手
=
dE
r ,′rE→
Eφ,EΩr, Ω
′d90
′S∫∫
′,φt φ+r ,SrE,′rE, Ω
′→
′Ω→
ΩSr,
ΩΩ
,Ω
dE
r ,dE
Ed′Ω
E′ ′→
=
, ′E→
,Ω
dΩ
′, t, t (1) (1)
s ∫∫
∫∫Sr,
内に含まれ
スケード[12]と呼ばれるこのような物理過
′
′
′
′
′
′
の空間線量に及ぼす影響を評価する。
=
Ω
Σ
→
Ω
→
Ω
Ω
φ
,
,
,
,
,
dE
d
r
E
E
r
E
t

s
東京電力の資料 2, 16 よると RO 濃縮水貯留タンク
,タンク
  
  ∫∫ 
も,タンク
,Ω
Eした標準放射能

Ω, ,Et ,Ω+, t+
r ,SE , r程をコンピュータ内で模擬する必要がある。
S (1) t ,t (1) 
いても,タンク
Sr ,rE,,E
 (1) 1 ,∂t φ +
Ω, ,Ω



+ Ω ⋅ ∇φ r ,+EΩ
, Ω⋅ ∇
, t φ ++rS,StEφ,rΩ
,+Ω,St, t φ r, ,EtE, Ω
にはいくつかの種類があるが,本解析では,RO 濃縮
r , E , Ω, t 
価する。
評価する。
よびタンクエリ
に含ま




1 ∂φ r , E , Ω, t t 


∂t 本稿では,電磁カスケードをモンテカルロ
v
響を評価する。
+ Ω⋅∇
S,tφt は時刻
r , E , Ω, tt ,位置 r における,エ






 φ r , Eφ, Ωr, ,t E+, Ω

水貯留タンクの典型的な形状で設置数も多い,通称

空間線量の定量
電子を
∂′t, Ω′,φt r , E ′, Ω′, t

Ω′Ss∫∫ rdE
→′SEs ,Ω
ΩvEφ, Ωr ,′ E
, E′d′ Ω
→
r ,′ E→′→
ネルギー
2.計算方法


 コード[10,13,14]を使



Ω の方向
E
 をもち,単位ベクトル
MCNP
t
φ は時刻
tdE
r
,位置
における,エ

内に含まれ
Sr,
1,000
t フランジタンク(タンク重量 77.3 t,タンク断
 φ  r , 法で模擬する
E
E90, Ω
, t=
r
における,エ
t
φr ,rE,,EΩ, ,Ω
,,位置
tは時刻
r
は時刻
,位置
における,エ
は時刻
t,位置
における,エネルギー
る過程

′
′
′
′
′
′
d Ω Ss r , E → E , Ω → Ω φ r , E , Ω , t
∫∫
φ r , E , Ω, t は時刻
E , Ω+, t S (1)  r における,エ
r , E , Ω, t (1)  t ,位置
に放出される電子や光子の角度フラックス

用し電子・光子の輸送過程をシミュレーシ
いても,タンク

面積 113 m3,容量 1,200 t)と呼ばれる鋼製の円筒タ
シミュ
ΩΩ
ネルギー
をもち,単位ベクトル
の方向
EE

をもち,単位ベクトル
の方向に放出される電子や
Ω
ネルギー
をもち,単位ベクトル
の方向
E
ネルギー
をもち,単位ベクトル
の方向
+ S r , E ,EΩをもち,単位ベクトル
, t (1) 法

1 電磁カスケードモンテカルロ法

Ω の方向
ネルギー
響を評価する。
t ,位置
である。線源強度 S r , E , Ω, t は時刻
ョンする。MCNP
コードでは(1)式に示す
ンテカ
ンクを想定した。1,000
t フランジタンクは直径が約
光子の角度フラックスである。線源強度
に放出される電子や光子の角度フラックス
に放出される電子や光子の角度フラックス
に放出される電子や光子の角度フラックス


荷をもった電子は,光子や中性子と異

に放出される電子や光子の角度フラックス


 

ルロ法
カルロ法



[10]を
t
, Ω,t φである。線源強度
r
は時刻
,位置
における,エ
における,エネルギー
をもち,単位ベ
r
E
E
ボルツマン輸送方程式を解いて電子・光子
t S,位置
r , E, Ω
, t は時刻
は時刻
t,位置
12 m,高さが約 11 m である。この円筒タンクを直径
における,エネルギー
S Sr ,rE,,EΩ, ,Ωt ,,位置
である。線源強度
 t ,位置
r, E , Ωr, tにおける,エ
t ,位置 をもち,単
tは時刻
である。線源強度
は時刻
ンテカルロ法
 , Ω, t は時刻

 S t r,位置
,物質を通過する過程で物質を構成す
t ,位置
, E , Ω, t r は時刻
である。線源強度
φ r ,Ω
E
は時刻
における,エ
,増え
性子と異

中性子と異

ー
の方向
E をもち,単位ベクトル
12
m,高さ
位ベクトル
の方向に放出される放射線の線源項で
Ω
の
方
向
に
放
出
さ
れ
る
放
射線
の 線 11 m の円筒でモデル化し,タンク壁は鉄
ク
ト
ル
のフラックスを追う。変数およびシミュレ
Ω
ネルギー
をもち,単位ベクトル
の方向
E
における,エネルギー
をもち,単位ベ
r
E
r における,エネルギー
E をもち,単位ベ
r における,エネルギー
E をもち,単位ベ

子や中性子と異

法
子の原子核や軌道電子とクーロン散乱
辺に及
3
r における,エネルギー
E をもち,単位ベ
 ある。電子の輸送計算では,RO
 法 のE
Ω の方向
ネルギー
をもち,単位ベクトル
を構成す
質を構成す
製(密度
濃縮水貯留タンク内
される電子や光子の角度フラックス
源項である。電子の輸送計算では,RO
濃 7.9 g/cm )として,厚さはタンク重量から
ー
シ
ョ
ン
方
詳
細
に
つ
い
て
は
文
献
に放出される電子や光子の角度フラックス
方
向
に
放
出
さ
れ
る
放
射射
線線
のの
線線
ト
ル
の
方
向
にΩの
放の
出方
さ
れに
る放
放出
射さ
線れ
のる
線放
ク ト ル Ωク
ク
ト
ルΩ
向
で物質を構成す
 に放出される電子や光子の角度フラックス
本情報

る弾性散乱を繰り返して進行方向が曲

ト ル Ω の 方 向 に 放 出 さ れ る 放 射 線 の 線
ク
ロン散乱
ーロン散乱
見積もり一様に 1.5 cm とした。モデル化されたタン
S10,13,14
rにおいてベータ壊変で放出される電子のエネルギース
, E源項である。電子の輸送計算では,RO
, Ω, t Sに譲り,以下に,本稿で行ったエ
。線源強度
は時刻
縮水貯留タンク内においてベータ壊変で放
r , E , Ω,tt ,位置
である。線源強度
は時刻 t ,位置
源項である。電子の輸送計算では,RO
濃濃
源項である。電子の輸送計算では,RO
濃
ンテカルロ法
とクーロン散乱

タンク
3 3
れるとともに,軌道電子との非弾性散

源項である。電子の輸送計算では,RO
濃
t
S
r
,
E
,
Ω
,
t
である。線源強度
は時刻
,位置
方向が曲
ク容量は
ペクトルを線源データ
として与えた。本稿
行方向が曲
ける,エネルギー
E をもち,単位ベ
出される電子のエネルギースペクトルを線 1.244×10 m となる。解析は計算効率を考
ネルギースペクトル,空間線量評価の流れ
r における,エネルギー
E をもち,単位ベ
縮水貯留タンク内においてベータ壊変で放
縮水貯留タンク内においてベータ壊変で放
縮水貯留タンク内においてベータ壊変で放
スとエ
て進行方向が曲
子や中性子と異




より原子を電離・励起して電子や光子

縮水貯留タンク内においてベータ壊変で放
えて体系がより単純な球状モデルでも行った。球状モ
における,エネルギー
E をもち,単位ベ
非弾性散
の非弾性散
Ω
のト
方
向Ω
にを簡単に述べる。
放ではタンク内に含まれるガンマ線放出核種からのタン
出出される電子のエネルギースペクトルを線
さに
れr放
る
放さ
射れ
線の線
源データ
S r , E , Ω, t として与えた。本稿で
の
方
向
出
ク
ル
出される電子のエネルギースペクトルを線
性核種
出される電子のエネルギースペクトルを線
 る放射線の線
子との非弾性散
で物質を構成す
成する。また,原子核との非弾性散乱
ク周辺における空間線量の寄与も評価したが,この場


出される電子のエネルギースペクトルを線
Ω
の
方
向
に
放
出
さ
れ
る
放
射
線
の
線
ク
ト
ル

子や光子

電子や光子


ある。電子の輸送計算では,RO
はタンク内に含まれるガンマ線放出核種か
源項である。電子の輸送計算では,RO
濃
放射能
源データ 源データ
S源データ
r , E , Ω, tS として与えた。本稿で
Sr ,rE,,EΩ, ,Ωt ,濃
tとして与えた。本稿で
として与えた。本稿で

とクーロン散乱
して電子や光子
子軌道が大きく変化することにより制
合は線源強度データとして放出ガンマ線のエネルギー

濃
源データ
S r , E , Ω, t として与えた
。本稿で
 源項である。電子の輸送計算では,RO
弾性散乱
非弾性散乱
クエリ
留タンク内においてベータ壊変で放
らのタンク周辺における空間線量の寄与も
縮水貯留タンク内においてベータ壊変で放
φ はタンク内に含まれるガンマ線放出核種か
r , E , Ω, t



はタンク内に含まれるガンマ線放出核種か
1 ∂はタンク内に含まれるガンマ線放出核種か


て進行方向が曲
との非弾性散乱
表 1 RO 濃縮水中の放射能濃度
スペクトルを与えた。線源強度はタンク内で一様と仮
射[11]が起こり,光子が放出される。
+
Ω
⋅
∇
φ
Ω
+
S
φ
Ω
,
,
,
,
,
,
r
E
t
r
E
t
縮水貯留タンク内においてベータ壊変で放
t
により制
の定量
とにより制
る電子のエネルギースペクトルを線
評価したが,この場合は線源強度データと
出される電子のエネルギースペクトルを線
∂t はタンク内に含まれるガンマ線放出核種か
v らのタンク周辺における空間線量の寄与も
らのタンク周辺における空間線量の寄与も
らのタンク周辺における空間線量の寄与も
子との非弾性散
ることにより制





定し,時間的に一定,空間的に等方と考え,空間線量



核種
半減期
濃度[Bq/cc]
90
された光子は物質を通過する過程で光
 =  dE ′d Ω出される電子のエネルギースペクトルを線
れ
される。
出される。
′
′
Sとして与えた。本稿で
r , E ′, Ω′, t
タ
S Sr,
r評価したが,この場合は線源強度データと
, E , Ω, t S として与えた。本稿で
源データ
r評価したが,この場合は線源強度データと
, 評価したが,この場合は線源強度データと
E , Ω, t ′らのタンク周辺における空間線量の寄与も
s r , E → E , Ω → Ω φ して放出ガンマ線のエネルギースペクトル
∫∫の評価は定常固定線源問題として扱った。

して電子や光子

が放出される。

134
タンク
果,コンプトン散乱,電子対生成によ
 評価したが,この場合は線源強度データと
S r , E , Ω, t として与えた。本稿で
2.065 y
1.0×101
過程で光
る過程で光
ク内に含まれるガンマ線放出核種か
を与えた。線源強度はタンク内で一様と仮 Cs
+して放出ガンマ線のエネルギースペクトル
, Ω, t (1) Sして放出ガンマ線のエネルギースペクトル
r , E源データ
はタンク内に含まれるガンマ線放出核種か
して放出ガンマ線のエネルギースペクトル
との非弾性散乱
タンク内部およびタンクから漏出した放射線輸送を
過する過程で光
する。
子・光子を生成する。電子の物質中の
はタンク内に含まれるガンマ線放出核種か
137
生成によ
して放出ガンマ線のエネルギースペクトル
対生成によ
ンク周辺における空間線量の寄与も
定し,時間的に一定,空間的に等方と考え,
Cs
30.17 y
1.0×101
らのタンク周辺における空間線量の寄与も
を与えた。線源強度はタンク内で一様と仮
を与えた。線源強度はタンク内で一様と仮
を与えた。線源強度はタンク内で一様と仮
シミ
ュレー ショ ンし, 注 目 す る 線 量 評 価 地 点 で の
ることにより制
電子対生成によ
らのタンク周辺における空間線量の寄与も
物質中の
を与えた。線源強度はタンク内で一様と仮

の物質中の


たが,この場合は線源強度データと
評価したが,この場合は線源強度データと
空間的に等方と考え,
(137mBa)
2.552 m
1.0×101
定し,時間的に一定,
空間的に等方と考え,
定し,
空間的に等方と考え,
t ,位置
φ定し,
r , E ,時間的に一定,
Ω時間的に一定,
, t は時刻
r における,エ
を求めることにより電子・光子のフラック
が放出される。
電子の物質中の
評価したが,この場合は線源強度データと

定し,時間的に一定,空間的に等方と考え,
出ガンマ線のエネルギースペクトル
して放出ガンマ線のエネルギースペクトル
60
ス,エネルギースペクトルが求まる。求まった光子の
ネルギー
E をもち,単位ベクトル Ω の方向
過する過程で光
Co
5.271 y
1.0×100
して放出ガンマ線のエネルギースペクトル
た。線源強度はタンク内で一様と仮
を与えた。線源強度はタンク内で一様と仮
フラックスに線量率変換係数
[15]を乗じて評価地点
に放出される電子や光子の角度フラックス
電子対生成によ
54
Mn
312.1 d
1.0×100
を与えた。線源強度はタンク内で一様と仮

ロ法

間的に一定,
空間的に等方と考え,
定し,時間的に一定,
空間的に等方と考え,
での空間線量率(実効線量率)
t ,位置
S r , E , Ω, t は時刻[μSv/h]を求める。本
である。線源強度
電子の物質中の
125
定し,時間的に一定,空間的に等方と考え,
Sb
2.759 y
1.0×101
子と異
 稿では,フラックスを評価するための粒子検出手法で
r における,エネルギー
E をもち,単位ベ
106

構成す
Ru
373.6 d
1.0×102
あるディテクタータリー(detector
tally)として,リ
クト
ル Ω の方向に放出される放射線の線
(
)
(
)( ) )
( ( ( () ) ) ( () ( () )
)
( ( () (
) ))( ( ( ) ( ) ) ) )
(
) ( ( ) )( (
(
) ( ( ()( ) ) ) )) (
)
( ( ) )(
)
(
) (
(
) )(
)
((
)) (
(
)
) (
)
(
)
)(
)
(
)
(
)(
)
)
(
)( (
( ) )
(
)
(
)(
)
(
)( (
)
(
(
ン散乱
向が曲
弾性散
や光子
性散乱
より制
れる。
程で光
成によ
質中の
)(
(
) (
(
))
(
(
)
) (
) (
)
(
)
)
)
)
)
(
(
) (
) (
)( (
(
)
)
)
)
(
)
ングディテクター(ring detector)
,ポイントディテク
タ ー(point detector), サ ー フ ェ ス タ リ ー(surface
縮水貯留タンク内においてベータ壊変で放
tally)
,セルタリー(cell tally)を使用した[10]
。
源項である。電子の輸送計算では,RO 濃
出される電子のエネルギースペクトルを線


源データ S r , E , Ω, t として与えた。本稿で
(
)
はタンク内に含まれるガンマ線放出核種か
らのタンク周辺における空間線量の寄与も
評価したが,この場合は線源強度データと
して放出ガンマ線のエネルギースペクトル
を与えた。線源強度はタンク内で一様と仮
定し,時間的に一定,空間的に等方と考え,
(106Rh)
90
Sr
(90Y)
29.80 s
1.0×102
28.79 y
1.0×105
64.10 h
1.0×105
( )は娘核種を示す
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
14
デルの場合は,円筒モデルのタンク容量を保存する半
径 6.672 m の球とし,
タンク壁の厚さは 1.5 cm とした。
3. 計算結果と考察
3.1 90Y の制動放射
表 1 に示すように,90Y は RO 濃縮水貯留タンクの
放射濃度のほとんどを占め,また,ベータ壊変で放出
される電子の平均エネルギーは約 1 MeV と高エネル
ギーであることから,90Y のベータ壊変による制動放
射がタンク周辺の空間線量に最も寄与すると考えられ
る。
図 1 お よ び 図 2 は そ れ ぞ れ, タ ン ク 1 基 全 体 に
1 Bq の 90Y がタンク内に一様に存在するとして,円筒
モデルで求めたタンク内,タンク壁,タンク外部周辺
(タンク中央を中心とするタンク全体を囲む半径 9 m
の球を定義し,
球内からタンク部分を除いた大気領域)
の各領域で平均した電子および光子の平均フラックス
のエネルギースペクトルである。
図 1 において,黒線はベータ壊変で放出される電子
の線源強度(右側目盛),赤線および青線はそれぞれ,
図 1 タンク 1 基内に 1 Bq の 90Y があるとして求めた
タンク内の電子の線源強度,およびタンク内,
タンク壁,タンク周辺の電子のエネルギースペ
クトル(本文参照)
放出された電子がタンク内を通過する過程で生じた電
子を含むタンク内およびタンク壁での電子のエネル
ギースペクトルである(左側目盛)。タンク内および
タンク壁の電子のエネルギースペクトルはベータ壊変
の線源強度のスペクトルに似た分布を示しているが,
線源強度分布に比べ次第に低エネルギー側に強度が移
行している。タンク壁に到達した電子のフラックス強
度はタンク内に比べ約 2 桁減少している。解析では,
発生電子のほとんどがタンク内で吸収され,タンク壁
からは漏出しない結果が得られた。図 1 に緑色で示す
図 2 タンク 1 基内に 1 Bq の 90Y があるとして求めた
タンク内,タンク壁,タンク周辺の光子のエネ
タンク周辺領域の電子のフラックス(左側目盛)はタ
ルギースペクトル
ンクから漏出した光子と空気分子との反応で生じた電
子のフラックスと考えられる。
図 2 において赤線および青線は,電子がタンク内を
電子の運動エネルギーを E とすると,電子が物質
通過する過程で生じた光子のタンク内およびタンク壁
中を通過する過程で制動放射によりエネルギー ε∼
gに( E , ε ) d放出され
ε ε に
る確率
gは,
εに
Eる確率
,確
ε ) は,一般に
d ε般
( E , ε )一
におけるエネルギースペクトルである。グラフは両対
ε+dε の 光 子 を
放 出 φす
率 φrad ( E , ε ) は,一般に
rad (る
空間線量
放出される放射線によるタンク周辺部での
比例する。ここで,
は
E
および
εに
g
E
,
ε
る確率 φrad ( E , ε ) は,一般に g ( E , ε ) d ε ε に比例する。ここで,
に 比例する。ここで, g ( E , ε ) は
( )ε に
数グラフであるが,タンク内においてはベータ壊変の
ε
はEEおよび
および
度に基づ
空間線量の影響を,表
1
に与えた放射能濃
ゆる
る関
く数
依で
存あ
する
る。
関こ
数の
でこ
あと
るは
。,
このことは,
比例する。ここで, g ( E , ε ) は
E および ε に ゆ る く 依 存 す
にゆるく依存する関数である。このことは,電子の運
最大エネルギー 2.280 MeV 点から低エネルギー側約
系で評価
度に基づき,タンクを球でモデル化した体
電子の運動エネルギー
E に対し,エネルギ
ゆるく依存する関数である。
こ の こ と は ,電子の運動エネルギー
E に対し,エネルギ
ε の低い光子が
動エネルギー
E に対し,エネルギー
0.04 MeV 付近までは単調に増加し,そこを境に単調
系で評価した。表 2 はサーフェスタリーを 用 い て 得
ー ε の低い光子が多数発生することを示し
電子の運動エネルギー
ー ε の低い光子が多数発生することを示し
多数発生することを示している。したがって,エネル
に減少している。タンク壁においては約
0.1 MeV 付E に対し,エネルギ
用 い て 得 ら れ た タ ン ク 壁 表 面 , 表 面 か ら 1m に お
ている。したがって,エネルギースペクト
ー
の低い光子が多数発生することを示し
ε
ている。したがって,エネルギースペクト
ギースペクトルの強度は低いエネルギーの光子ほど強
近まで単調に増加し,それを境に単調に減少している
1m に お け る 空 間 線 量 率 で あ る 。 FSD (Fract
ルい
のエ
強ネ
度ル
はギ
低ー
いの
エ光
ネ子
ルほ
ギど
ー強
の光子ほど強
ル。一方,光子の質量減衰係数は光子の
の強度は低
くなる[11, 12]
が,0.007 MeV 付近に鉄の特性 Xている。したがって,エネルギースペクト
線に対応するピーク
(Fractional Standard Deviation,相対誤 差)の大
くなる[11,12]。一方,光子の質量減衰係数
ル の 強 度 は 低 い エ ネ ル ギ ーエネルギーが低いほど大きい[12]
の 光 子 ほ ど 強 くなる[11,12]。一方,光子の質量減衰係数
。このため図 2 に
が存在している。
差)の大部分は 0.002 から 0.01 前後である が,ベー
は光子のエネルギーが低いほど大きい[12]
くなる[11,12]。一方,光子の質量減衰係数 は光子のエネルギーが低いほど大きい[12]。
が,ベータ壊変で放出される電子の平均エ ネルギー
このため図
2 に示す分布になると考えられ
は光子のエネルギーが低いほど大きい[12]。
このため図
2
に示す分布になると考えられ
ネルギーが
0.196MeV
の 90 Sr については 0.1 であ
る。また,鉄の質量減衰係数は
このため図 2 に示す分布になると考えられ る。また,鉄の質量減衰係数は
0.1MeV 付 0.1MeV 付
0.1 である。
近から水に比べて急激に増大する。このた
る。また,鉄の質量減衰係数は 0.1MeV 付 近から水に比べて急激に増大する。このた
表2
近から水に比べて急激に増大する。このた め,タンク壁でのスペクトルのピーク位置
表 2 め,タンク壁でのスペクトルのピーク位置
タンク壁表面付近の空間線量率
核種
は比
タべ
ンて
ク高
内エ
にネ
比ル
べギ
てー
高側
エに
ネルギー側に位
め,タンク壁でのスペクトルのピーク位置 は タ ン ク 内 に
134 C
線源
1m位
表面
核種
福島第一原子力発電所 RO 濃縮水貯留タンクからの制動放射について(梅田・小林)
示す分布になると考えられる。また,鉄の質量減衰係
15
相対誤差)の大部分は 0.002 から 0.01 前後であるが,
数は 0.1 MeV 付近から水に比べて急激に増大する。こ
ベータ壊変で放出される電子の平均エネルギーが
のため,タンク壁でのスペクトルのピーク位置はタン
ク内に比べて高エネルギー側に位置すると考えられ
る。図 2 における緑線はタンク壁から漏出した光子の
エネルギースペクトルである。漏出した光子のエネル
ギーはおよそ 0.1 MeV∼1 MeV の範囲にあり,電子の
減速過程で原子が電離・励起して生じる光子のエネル
ギーより一桁以上高く,制動放射で生じる光子の高エ
ネルギー側に対応する。この漏出した光子がタンク周
辺,敷地境界の空間線量に影響を及ぼすことになる。
タンク 1 基内に 1 Bq の 90Y があるとき 1 壊変で放
0.196 MeV の 90Sr については 0.1 である。
タンク壁表面周辺における空間線量は 90Y からの寄
出される電子の平均エネルギーは 0.933 MeV である
が,解析では,タンク内でそのうちのほぼ 100% が吸
収 さ れ, タ ン ク 壁 で 吸 収 さ れ る エ ネ ル ギ ー が
0.00036 MeV(約 0.04%)
,タンクから漏出するエネル
ギーはほとんどが光子によるものであり,タンク上面
および側面からの漏出量の合計は 0.000018 MeV,ベー
タ壊変で放出されるエネルギーの約 0.002%,5 万分
の 1 程度と見積もられた。
3.2 タンク表面付近での空間線量率
RO 濃縮水に含まれる各放射性核種から放出される
放射線によるタンク周辺部での空間線量の影響を,表 1
に与えた放射能濃度に基づき,タンクを球でモデル化
した体系で評価した。表 2 はサーフェスタリーを用い
て得られたタンク壁表面,表面から 1 m における空
間線量率である。FSD(Fractional Standard Deviation,
表 2 タンク壁表面付近の空間線量率
核種
線源
表面
1m
γ
1.0×10+0
6.3×10 1
137m
γ
3.5×10 1
2.2×10 1
60
Co
γ
2.1×10 1
1.3×10 1
54
Mn
γ
5.9×10 2
3.7×10 2
γ
2.2×10 1
1.4×10 1
γ
1.1×10+0
7.1×10 1
β
3.5×10 2
2.2×10 2
β
6.2×10 2
4.1×10 2
β
1.1×10+1
7.2×10+0
134
Cs
Ba
125
Sb
106
Rh
90
Sr
90
Y
単位[μSv/h]
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
与が大部分を占めるが,核分裂生成物 134Cs と 106Rh
に仮定した濃度によるタンク壁表面の線量率は 90Y の
約 10% であった。これらの濃度が 10 倍程度増えると
Y と 同 程 度 の 寄 与 に な る。 ま た, 核 分 裂 生 成 物
Cs,125Sb,放射化生成物 60Co,54Mn のガンマ線に
よる寄与はタンク内に含まれる放射濃度が仮定した濃
度より 100 倍になると 90Y からの寄与と同程度になる。
90
137
したがって,RO 濃縮水に含まれる放射性核種の濃度
を常に警戒する必要がある。
Ru の娘核種である 106Rh のベータ壊変ではガン
マ線も放出されるが,放出される電子の平均エネル
ギーは 1.411 MeV と高く,その制動放射による空間
線量への影響に注意する必要がある。134Cs,137Cs,
106
Co,125Sb,106Ru 核種もベータ壊変で電子を放出す
るが,いずれの核種も電子の平均エネルギーは 0.1
MeV 程度,あるいはそれ未満であり,放射能濃度も
小 さ い。 平 均 エ ネ ル ギ ー 0.196 MeV, 放 射 能 濃 度
60
1.0×105 Bq/cc の 90Sr の結果を考慮すると,これらの
核種のベータ壊変による制動放射の影響は小さいと考
106
えられる。なお,
Rh の親核種 106Ru については,ベー
タ壊変で放出される電子の平均エネルギーが
0.01 MeV と低く,光子も放出されない。このため,
空間線量への寄与は無視できると考えられ,表 2 に含
めていない。
各放射性核種からの空間線量への寄与は,計算効率
が良い球体系で評価したが,90Y について,RO 濃縮
水貯留タンクを実形状に近い円筒形状で評価すると,
円筒中央位置の円筒表面付近における空間線量率は
9.5∼11 μSv/h となり,結果は球体系とほぼ同じ値で
ある。タンク内に含まれる放射性核種による空間線量
への影響の比較は球体系モデルで可能であるといえ
る。
東京電力の資料 17,18 によるとタンクエリアの雰囲
気線量率(原子力発電所敷地内に存在する RO 濃縮水
貯留タン ク以外の線源からの空間線量率)は 20∼
40 μSv/h であり,90Y の放射能濃度が 1.0×105 Bq/cc の
場合のタンク表面の線量率の実測値は約 50 μSv/h 前
後,雰囲気線量率を考慮した解析評価値は約 40 μSv/h
と報告されている。本シミュレーションで得られたタ
ンク表面線量率約 10 μSv/h に雰囲気線量率を加えた
16
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
値は,文献 18 に示されている制動放射を含む光子の
の空間線量を評価した。敷地境界の空間線量率の解析
線源強度のもとで行われた光子の輸送計算の解析評価
は計算を 2 段階に分けて行なう。先ず,円筒状にモデ
値にほぼ一致している。
ル化した体系でタンク表面周辺まで電子・光子を結合
した輸送計算を行い,タンク表面から漏出する光子の
面線源を求め(Surface Source Write 機能を使用[10]),
続いて,その面線源を線源(Surface Source Read 機能
を使用[10])としてタンクから離れた敷地境界まで
の光子の輸送計算を行った。スカイシャイン線の評価
は,コンクリート面上タンク底面の中央を中心とする,
半径 1 km の半球の大気領域を設定して行った。ただ
し,現地に見られる評価地点とタンク設置エリア(以
下,タンクエリア)との高低差は考慮していない。
解析対象は,東京電力の資料 6, 7 に報告されている
境界地と線源エリアとの距離が近い G3 タンクエリア
とした。文献 6, 7 の図面から判断すると,図 3 に示す
ように,G3 タンクエリアのタンク配置は 6×7 の格子
状の配置になっており 40 基のタンクが設置されてい
る。近接する敷地境界は G3 西と称されている面から
約 70∼80 m の位置にあり,5∼6 基のタンクに直接面
している。G3 タンクエリアおよびタンク 1 基を線源
とするこの距離までの空間線量を評価した。そして,
中心のタンク 1 基と周辺タンク群からの寄与の関係を
検討した。
文献 7 によると,G3 タンクエリア 40 基のタンクに
貯蔵されている RO 濃縮水の量は 4.9×1010 cm3 であ
3.3 コンクリート敷地面に格子状に配置された周
辺タンクからの影響
コンクリート敷地面に RO 濃縮水貯留タンクが 1 基
建ち,その中に 90Y が単位体積当たり 1.0×105 Bq/cc
の濃度で含まれている場合を考えて,コンクリート面
から高さ 1 m,タンク表面から距離 0.5 m,1 m の位
置における空間線量率をリングディテクターで評価す
ると,FSD が 0.05 未満の精度でそれぞれ 8.6,7.2 μSv/
h と見積もられた。
次に,このような貯留タンクが多数配置されている
場合を考える。東京電力の資料 16, 17 によると RO 濃
縮水貯留タンクは図 3 のように,タンク中心間の距離
が 14 m 間隔の正方格子状に配置されている。タンク
1 基が周りのタンクに囲まれている配置において周辺
タンクから受ける光子の反射の影響を,正方格子状タ
ンク配置のもとで解析した。タンクが単独で 1 基ある
場合に比べて,前述の位置における空間線量率は約
5% の増加をみる。周辺タンクからの反射の影響は小
さいが,周辺タンクから漏出する放射線が直接加算さ
れる位置においては,当然であるがタンクに囲まれた
位置における空間線量率は高くなる。例えば,4 基の
タンクに囲まれた場合,タンク表面から約 1 m 離れ
た高さ 1 m の位置における空間線量率は約 30 μSv/h
になると概算される。前述のタンクエリアの雰囲気線
量率 20∼40 μSv/h を考慮するとさらにこの倍近くに
なる可能性がある。
3.4 近接する敷地境界での空間線量
東京電力の資料 6, 7 によると,増え続ける汚染水貯
留タンクのため,RO 貯留タンクから漏出する光子の
直接線,あるいは,スカイシャイン線によりタンクエ
リアに近接する敷地境界での年間の空間線量率が 8
mSv を超すことが報告されている。この結果は,制
動放射を考慮した ORIGEN2 の光子ライブラリから求
めたガンマ線強度を線源データとし,MCNP コード
を用いたガンマ線の輸送計算で求められた。
本計算ではベータ壊変で放出される電子を線源に指
定し,
タンク内での電子・光子の輸送過程を直接シミュ
レーションすることにより,タンクから漏出した光子
の直接線,およびスカイシャイン線による敷地境界で
る。解析は,90Y の放射能濃度を 1.0×105 Bq/cc とし,
G3 タンク群全体を 1 つの円筒でモデル化した体系で
行った。図 4 にタンクからの距離とその距離における
高さ 1 m における空間線量率の計算結果を示す。
G3 西に面する距離 70,80 m の敷地境界における
高 さ 1 m に お け る 空 間 線 量 率 は そ れ ぞ れ 0.14,
0.10 μSv/h と見積もられた。1 年間(8,760 時間)の空
間線量に単純換算すると 1.2 mSv,0.91 mSv となり,
図 3 G3 タンクエリアのタンク配置と近接する敷地
境界の模式図
福島第一原子力発電所 RO 濃縮水貯留タンクからの制動放射について(梅田・小林)
17
に貯め込まれている。このため,発電所敷地内には汚
染水を貯蔵するタンクが増え続けている。
損傷した原子炉建屋内には膨大な放射性物質が存在
している[19]。例えば 137Cs は,炉心損傷時に大気
中に放出された放射能量は炉心に存在した量の約
1.4% で,現在約 61.6% が損傷した炉内に,約 35.4%
が汚染水処理装置に吸着されて存在していると報告さ
れている[20]。循環冷却水には多種の放射性核種が
含まれるが,セシウムはセシウム吸着装置により除去
され,続いて,RO 装置で濃縮後 RO 濃縮水貯留タン
ク に 貯 留 さ れ て い る。RO 濃 縮 水 に は 40,000∼
500,000 Bq/cc の 90Sr が含まれている。
Sr はベータ壊変して 90Y に変り,90Y もベータ壊
変し安定核種 90Zr になる。この壊変過程では電子が
90
図 4 G3 タンクエリアおよびタンク 1 基からの空間
線量率距離依存
Y の放射能濃度が 1.0×105 Bq/cc の場合には,年間線
量が 1 mSv を超える可能性があると評価された。
東京電力の資料 6,7 には,G3 タンクエリアの 90Y
90
の放射能濃度あるいは年間線量への換算法は明示され
ていないが,90Y の放射能濃度として,敷地境界線量
評価資料 5 に記載されている代表的な 3.0×105 Bq/cc
を想定すると,G3 西に近接する敷地境界の年間空間
線量の報告値 2.3 mSv に近い値となる。
図 4 に示す G3 タンクエリアとタンク 1 基からの空
間線量の距離依存の傾向を見ると,タンク面に近い
10 m 程度の距離では線量評価点に近接するタンクか
らの寄与が大きく,距離が離れるに従い線量評価点に
直接面する複数のタンクからの寄与が増大してくる傾
向が現れている。タンクからの距離が 50∼100 m の
範囲ではタンク 1 基の空間線量率に線量評価点が直接
望むタンクの数を乗じた値に近い。近接する敷地境界
における空間線量はタンクからの直接線の寄与が大き
いことを示している
4. ま と め
福島第一原子力発電所では,熔融し原子炉圧力容器
下 に 落下 し た燃 料 デ ブ リ を 冷 却 す る た め, 毎 日 約
400 m3 の冷却水が原子炉建屋に注水され循環してい
る。しかし,
ほぼ同量の地下水が原子炉建屋に流入し,
放射能に汚染した冷却水が毎日約 400 m3 貯留タンク
放出され,ガンマ線はほとんど放出されない。電子の
飛程は短く,タンク内でほとんど吸収されるため,タ
ンクから漏出する放射線は,同じエネルギーでは電子
に比べて飛程が長い光子であると考えられる。
東京電力は RO 濃縮水に含まれる放射性核種の放射
能濃度から制動放射を考慮した ORIGEN2 ライブラリ
を用いてガンマ線強度を評価し,光子の輸送計算を行
いタンク周辺に近接する空間線量を評価した。今後増
加する RO 濃縮水の貯蔵量を見積もり,空間線量を評
価した結果,年間線量が一般公衆の線量限度である
1 mSv を超え 8 mSv に達することが予想された。
RO 濃縮水に含まれる放射能の大部分はベータ壊変
核種である 90Sr およびその娘核種 90Y である。ベータ
壊変で放出される電子はタンク内でほとんど吸収され
ると考えられ,タンクから遠く離れた敷地境界の空間
線量までにも影響を及ぼす過程は,タンク内での電子
の挙動を解析し,タンク内および敷地境界に達する放
射線情報を明らかにすることにより理解できる。タン
ク内で生じる制動放射の効果を考慮した光子ライブラ
リから光子を線源とする光子の輸送計算の解析の場合
は,肝心の光子源となる電子がタンク内で具体的にど
のように挙動した結果であるかということと結びつけ
ることができない。RO 濃縮水貯留タンクの増加とと
もに,多量の放射能の漏洩またタンク周辺の被ばく線
量の増加という危険性が増し,その危険性を検討する
ためには RO 濃縮水貯留タンクを線源領域とする電子
および光子の振る舞いに関する基礎的な物理データが
必要となる。また,現在利用できる制動放射を考慮し
た ORIGEN2 光子ライブラリは二酸化ウランと水の 2
つの物質に限られる。このため,物質内の電子の通過
18
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
を直接シミュレーションし制動放射を評価する解析手
法を検討しておくことが望まれる。
本稿では,RO 濃縮水貯留タンク内においてベータ
壊変により発生する電子,およびその電子が RO 濃縮
水を通過する過程で発生する電子および光子の輸送過
程を,モンテカルロ法コードである MCNP を使用し
てシミュレーションし,タンク内,タンク壁,および,
タンクから漏出する電子・光子のフラックス,エネル
ギースペクトル,および,エネルギー吸収・漏出割合
を評価した。
RO 濃縮水に含まれる放射性核種の中でタンク周辺
の空間線量に大きく寄与する核種は,放射能濃度が圧
倒的に大きい 90Sr 核種のベータ壊変で生成される娘
核種 90Y であった。1 Bq の 90Y のベータ壊変で平均エ
ネルギー 0.933 MeV の電子が放出されるが,発生エ
ネ ル ギ ー の ほ ぼ 100% が タ ン ク 内 で, 約 0.04%
(0.00036 MeV)がタンク壁で吸収され,タンク壁か
ら漏出するエネルギーは光子によるものであり,発生
量の 5 万分の 1 程度(0.000018 MeV)であった。漏
出する光子のエネルギー範囲は 0.1 MeV∼1 MeV で
あった。
タンクから漏出するエネルギーの割合は非常に小さ
いが,含まれる放射能濃度が非常に高いため,タンク
周辺の空間線量への影響を評価しなければならない結
果となっていることに注意する必要がある。
本稿では,報告されている放射能濃度の測定結果に
基づき標準的な放射能濃度を仮定し,各放射性核種の
タンク周辺空間線量に及ぼされる影響を評価した。
Y の放射能濃度を 1.0×105 Bq/cc として解析したタン
ク表面の空間線量率は約 10 μSv/h であった。この値は,
制動放射の寄与を線源強度に含めた光子の輸送計算の
評価結果である東京電力の報告値に近い。また,タン
ク表面から 1 m 離れた高さ 1 m における空間線量率
は約 7 μSv/h と評価された。タンクエリア内の四方が
タンクに囲まれた位置では約 30 μSv/h に達する高い
90
線量となると予想された。
本解析には,タンクエリアの領域においてベータ壊
変で発生した電子を線源とする電子・光子電磁カス
ケード現象をシミュレーションする手法を用い,タン
クから漏出する面線源を求め,続いて,面線源を線源
とする光子の輸送計算を行うことにより敷地境界の空
間線量を評価した。その結果,90Y の放射能濃度を
1.0×105 Bq/cc としたタンクエリア G3 西に面する距離
70,80 m の 敷 地 境 界 で の 年 間 空 間 線 量 は 1.2 mSv,
0.91 mSv と見積もられた。この値は東京電力の報告
値の約半分であるが,タンク内の 90Y の放射能濃度を
実測されている値 3.0×105 Bq/cc で評価すると東京電
力の報告値と同程度になる。本計算手法でも RO 濃縮
水貯留タンクに近接する敷地境界では年間線量が公衆
の線量限度である 1 mSv を超える勢いであることが
確認された。今後ますますタンクの増設が続くと敷地
境界での年間線量は増加し続けることになる。
さらに,RO 濃縮水貯留タンクに含まれる 90Y 以外
の核種 134Cs と 106Rh については,本稿で仮定した放
射能濃度での空間線量への影響は 90Y の約 10% と見
積もられたが,タンク内の濃度が仮定値の 10 倍にな
ると 90Y と同程度の影響を与えることになる。このた
め,タンク内のこれらの核種の濃度を常に監視する必
要がある。
解析結果と,これまで報告されている測定値,報告
値との比較から示されるように,本解析手法により得
られた結果は重要な基礎データとなることが期待でき
る。
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に関する研究の現状と課題」,日本原子力学会誌,
Vol. 56, No. 8(2014)
松島の生いたち(盛合・山田)
21
松島の生いたち
盛 合 禧 夫*・山 田 孝 雄**
Geological History of Matsushima
Tomio Moriai and Takao Yamada
Abstract
Geological History of Matsushima
Matsushima is well known as one of the three most celebrated scenic sights in Japan since 1643.
Matsushima Bay is studded with more than 260 islands covered in pines.
This gulf extends about 12 km from north to south and also 14 km from east to west.
The coastline extends to 30 km.
The geological features are based on Rifu formation of Triassic and granodiorite of Cretaceous in Mesozoic
era, in its upper region there are formations of Pliocene and Miocene in the Neogene.
Furthermore the formation of Quaternary covers them.
In conclusion, we would like to stress that following geological structures are related to the origin of Matsushima.
(1) Nagamachi - Rifu fault
(2) Toritame fault
(3) An abnormal upheaval of the Japanese central mountain range.
(4) The fluctuation of the surface of the sea in glacial age.
1. は じ め に
松島は従来まで,松島丘陵が沈水して出来た沈降地
形と云われてきた。すなわち,溺れ谷に海水が入りこ
み山頂が島として残った状態である。しかし,福島県
の東会津における女川層での Block Glide の現象を解
析してみて,
松島の形成は地盤変動によるものとして,
再考する必要があると考えられた。総合的に見て松島
は,地殻変動に伴って形成されたものと思われる(図
1,表 1)。
2.秋田 - 仙台 - 松島の地質
東北地方には,太平洋側に中・古生層の北上帯,阿
武隈帯があり,これらを分断するように鳥田目断層が
2014 年 10 月 16 日受理
*
東北工業大学名誉教授
**
奥山ボーリング(株)
図 1 東北地方の地質構造((北村,1985)に加筆)
22
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
表 1 東北地方の地質層序
図 2 仙台−松島−石巻 模式断面図
ある。その末端部に松島がある。また,これに交差す
るように長町-利府断層が存在する(図 1,図 2,図 3)。
2.1 概要
地域全体がグリーンタフ地帯で,下部から第三系の
門前層(2)
,台島層(3),女川層(4),船川層(5),
花山層(6)
,天徳寺層(7)が発達する(図 2)。凝灰
岩が主で,泥岩・砂岩等で構成されている。この中に
は時代を決める植物化石,貝化石が認められる。地層
は脊梁山脈を境として,東方と西方に傾斜している。
西方の秋田県側では過褶曲,断裂,陥没が見られるが,
東側の宮城県側ではそれほどではない。また,中新世
後期-鮮新世にかけての大量の石英安山岩流が認めら
れる。新規の火山岩(9)は主として脊梁付近に発達
する。長町-利府断層線上の松島付近には中生界の利
府層が発達する。松島湾は大半が台島層であり,ごく
松島の生いたち(盛合・山田)
23
図 3 松島付近の地質図(地すべり学会東北支部発行,東北地方土木地質図に加筆)
一部に張り付き状に女川層が僅か見られる程度で,そ
の上の地層は全く存在しない。これは上部の地層が総
て浸食しつくされてしまったからである。
2.2 深成岩(花崗閃緑岩)
浜田西方の春日付近に一部露出が認められる。産状
からして 110-120 Ma の北上山地のものと同様なもの
で,前期白亜紀末期のバレーム期-アプト期の貫入と
同じであろうと考えられる。
2.3 利府層(中生代三畳紀)
利府駅より北西 800m 付近に分布している。アル
コース砂岩,粘板岩などからなり,岩脈(玢岩)も見
られる。化石として,Daonella の二枚貝や Monophyllites,Honllanclites,Ptychites などのアンモナイトの
化石を産している。この層は隆起状を呈し走向 N50°E
傾斜 20°∼30°NW で小規模な背斜構造を示している。
2.4 松島付近
地域全体(湾内の島々,周辺の丘陵地)は主として,
中新世の浅海成と陸成の堆積物が発達する。基盤は前
述の三畳紀の利府層であって,この上位に第三系,第
四系が被覆する。第三系は下部から門前層(火砕岩,
砂岩,珪化木)
,台島層(砂岩,シルト岩,凝灰岩,
薄層亜炭),
女川層(下部は角レキ凝灰岩,砂質凝灰岩,
上部は凝灰質砂岩,シルト岩の互層),船川層(砂岩
シルト岩,レキ岩の互層で凝灰岩を挟む),脇本層・
天徳寺層(凝灰岩,シルト岩,砂岩,レキ岩),花山
層(砂岩・凝灰岩)の地層が発達している。一般に,
第三系の走向は N50°E 傾斜 10°E で流れ盤を示すこと
が多い。さらに,この上位に第四系の粘土,砂,砂レ
キが発達している。
3. 鳥田目断層
秋田県由利本庄市の東方約 10 km の出羽丘陵内に
存在し変位量は 800∼1,000 km に達する逆断層で,確
実度 II∼III の活断層と推定される。北東方向から南
西方向へ押し上げたような褶曲した形を呈しており,
このことは,先第三系の構造に規制されているもので
24
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
ある。秋田県側では,この断層沿いに地すべりが多発
しており,阿部他(2004)が指摘している。特に,こ
約 1,500 m-2,000 m の高所を造っている。しかし,最
上部の第三系,第四系が欠如していることが多い。す
の断層に関連した火山岩,地下水が地すべりに係わっ
ている。
断層南東の末端部は松島湾まで延びているが,
地形的には,鳴瀬川,江合川の NW 方向と一致して
おり,また,新規火山のデイサイト質火砕流堆積物が
同方向に大量に発達しているのが認められ,この断層
の影響と考えられる。
層が失われている。この隆起によって脊梁をはさんで,
東西方向への流動,浸食現象が生じた。また,ウルム
末期の氷河,海面変化の作用もあったと考えられる。
4. 長町 - 利府断層
6. 松島湾付近の地塊の流動
宮 城 県 村 田 市 か ら 仙 台 を 経 て, 利 府 ま で 約 20∼
40 km の長さを持ち,北東-南西の方向を示している。
盛合(1973)は福島県の譲峠層(女川階)の泥岩の
最上部約 3 m の部分が,Block Glide している事を述
べた。この地域の Block の残骸の形態の実測値と実験
計算によって得られた大きさが一致した。
この松島地区では図 3 の南東部の七ケ浜,松ケ浜地
西側が東側に対して隆起している逆断層である。中新
世に正断層として活動したものが第四紀に再活動した
もので,確実度 I,活動度 B とされている。今泉・佐
藤(2005)は最近の活動時期を 16,000 年前としている。
松島湾の北方の浜田では,この断層沿いに三畳系の地
層が地下深部から押し上げられて隆起帯を形成してい
る。
5. 脊梁山脈付近の隆起と削剥
北村(1985)によれば,東北地方の中央部に南北状
に発達している脊梁山脈は第四系の火山で構成され,
なわち,南部では約 4,300 m-1,500 m,その北方の鶴
岡から松島では約 3,200 m-1,100 m,さらに,その北
の由利本庄市から和賀仙人では約 2,100 m-650 m の地
区には台島層の上位に女川層,船川層が図 4 のような
形で被覆しているのが認められる。
また、湾内の海上にも上記と同様なものや、時には
女川層、船川層だけが、海上に取り残されていて、下
位の台島層は、海中に没して見えないことがある。
今回,松島地区で計算による算出は行えなかったが
模式的に図に示してみた(図 4)。断面 1 は台島層の
浸食面上に上位の女川層,船川層が Block Glide した
もの,断面 2 は台島層の表層部が Slump Slide して,
図 4 松島湾の地塊流動概要図
松島の生いたち(盛合・山田)
25
表 2 第四紀 略 年表
放 射
年 代
(103 年前 )
時代
区分
完 新 世
1.0
2.0
6.0
16
仙台中町段丘面形成
(山田上ノ台・北前遺跡)
松島の海面 100 m 以上低下
地盤の傾動,崩壊,流動・流出
仙台上町段丘面形成
台の原段丘面形成
青葉山段丘面形成
(青葉山・住吉遺跡)
↑
丘陵頂面(浸食平原)
形成
↓
時 代
1500
↓ (富沢遺跡)
ウルム氷期
(最終氷期)
河
前期
500
陸松島の形成
長町・利府断層の活動
地盤の隆起・沈降,崩壊,
流動,流出
中期
第三紀
鮮新世
150
海成沖積層の堆積
松島湾(リアス海岸)の形成
後 氷 期
氷
70
古墳遺跡
(中期∼後期)
弥生遺跡
(中期∼後期)
↑
貝塚遺跡
(縄文早期∼晩期)
↑平野高位面形成
↓
仙台下町段丘面形成
海面の上昇,地盤の浸食,
崩壊・流出,沈降地形,縄文海進
30
平野低位面形成
※
更 新 世
後 期
20
ヨーロッパ
アルプス氷期編年
10
仙台,松島での主な出来事
最終間氷期
リス氷期
パール氷期
ミンデル氷期
キュンツ氷期
ドナウ氷期
ビーバー氷期
大年寺層堆積
(せんだいハイキング,修正,加筆)
その上位層が Block Glide したものである。しかし,
両者の複合したものもあったはずである。また,計算
値で,安全率が 1 より大でも,亀裂や水の作用(浸透)
によっても崩壊するし,断層の影響も避けられない。
7. 総 括
松島は長町-利府断層,鳥田目断層による変動,脊
梁山脈の隆起と削剥による地盤の崩壊と流出,さらに
ウルム最終氷期の海面 100 m 以上の低下や後氷期の
縄文海進によって,地層は海中へ崩壊してしまったも
のと推定される。(海面の上昇は現在の海面と比して
みて,約 20 m 以上はあったものと思われる。)すな
わち,これらによって,松島の骨格がつくられた。(表
2)その他,第三紀,先第三紀の構造運動も素因となっ
ている。
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
26
しかし,これらのことを考えると,地域一帯は今後
の災害予知としても警戒の必要があると考えなければ
ならない。
参考文献
[ 1 ] 盛合禧夫(1973): 福島県東会津,村杉地区の地
すべりについて,Block glide の発生機構,応用地
質,Vol. 14, No. 3, pp. 113-120.
[ 2 ] 盛合禧夫,山田孝雄(2013): 島田目断層,長町
利府断層と松島,第 52 回地すべり学会研究発表
会講演集,pp. 90-91.
[ 3 ] 阿部真郎・小松順一・森屋洋(2004): 秋田県・
島田目断層と地すべり,地すべり学会誌,Vol. 41,
No. 4, pp. 77-84.
[ 4 ] 森屋 洋・荻田 茂・山田孝雄・阿部真郎(2007):
東北地方における断層周辺の第三紀層地すべり,
日本地すべり学会誌,Vol. 44, No. 4, pp. 44-49.
[ 5 ] 盛合禧夫・上野春雄(2004): 仙台市内における
先デボン紀と温泉の新発見および地すべりとの関
連 に つ い て, 地 す べ り 学 会 誌,Vol. 34, No. 3,
pp. 9-16.
[ 6 ] 北村 信(1985): 東北地方の基盤地質,地すべ
り学会東北支部.
[ 7 ] 宮城県高等学校理科研究会地学部会(1975): 宮
城県の地質案内,宝文社.
[ 8 ] 東北建設協会(2006): 建設技術者のための東北
地方の地質,東北建設協会.
[ 9 ] 松本秀明(2002): 宮城県松島湾の地形形成過程
と過去 2 万年間の海面変化,奥松島縄文村歴史資
料館 10 周年「縄文フェスタ in 奥松島」シンポジ
ウム,pp. 11-13.
[10] 宇多高明・小俣 篤・峯松麻成(1990): 沿岸利
用から見た仙台湾沿岸の特性,海洋開発論文集,
Vol. 6, pp. 1-6.
交通安全キャンペーンが高齢者の日常運転に及ぼす影響分析(中井・菊池)
27
交通安全キャンペーンが高齢者の日常運転に及ぼす影響分析
中 井 周 作*・菊 池 輝**
The Impact Analysis of a Road Safety Campaign on the Daily
Driving Behavior of Elderly Drivers
Shusaku Nakai and Akira Kikuchi
Abstract
In recent years, traffic accident participation rate of elderly drivers is increasing, so traffic accident of the
elderly has become a social problem. In order to decrease the traffic accident of the elderly, enlightenment activities, represented by campaigns aimed at traffic safety of the elderly, attract a great deal of attention. However, on the many of conventional campaigns, the target persons receive general information one-sidedly. Then, the target persons cannot perceive the information as a problem of their own proactively. From
that background, this research develops the communication tool that can solve the above problems with the
theory of behavior change in social psychology. By using developed tool, we campaign to elderlies and analyze
the effect of developed tool. In order to analyze the daily driving behavior, we use drive recorders.
1. 研究の背景と目的
現在のわが国において,自動車は便利な移動手段で
あるだけでなく,生活の質を向上させる手段として欠
かせないものになっている。近年,高齢者ドライバー
数は急激に増加しており,平成 14 年には 65 歳以上の
高齢者の自動車運転免許保有者数が 25 歳以下の保有
者数を上回るまでになり,平成 22 年末には 1270 万人
を超えている1)。それに伴い,高齢者ドライバーの交
通事故関与率が増加してきており2),高齢者の交通事
故は社会問題となっている。そのため,高齢者の交通
安全を目指した,キャンペーンをはじめとする啓発活
動に期待が寄せられている。
しかし,これまでの交通安全キャンペーンの課題と
して,伝達する交通事故情報は一般的な情報であるこ
とが多い。その結果,キャンペーンで提示した交通安
全に関する情報を「客観的な交通安全知識」として捉
えてしまい,自分自身に関係する情報として主体的に
認知しない可能性が高いと言える。つまり,提示する
2014 年 10 月 21 日受理
*
都市マネジメント学科 客員研究員
**
都市マネジメント学科 准教授
側と受け手に乖離が生じてしまう可能性を孕んでいる
と言えよう。
そこで,社会心理学分野の知見を援用し,上記の課
題に対応する,高齢者向けの交通安全キャンペーンコ
ミュニケーション・ツールを開発し,それをパッケー
ジ化したキャンペーン施策を提案する。それに加え,
提案するキャンペーン施策の効果把握を行う。効果把
握はドライビングレコーダーを用いることで,キャン
ペーン実施前後での運転行動の変化を観測することで
行う。
2. 本研究の位置づけ
2.1 交通安全に関する研究
ここではまず交通安全教育に関する研究をまとめ
る。ヨーロッパ諸国では,運転行動の階層的構造を考
え自己評価能力の訓練の重要性が認識されており,こ
の自己評価能力を認知心理学ではメタ認知と呼んでい
る。メタ認知とは,自分の行動や意識態度を客観的に
評価する心理機能であり,セルフモニタリング能力と
も言える。安全行動の学習にとって重要なキーポイン
トと考えられる。
28
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
そのような考えを使った安全教育の手法として,ミ
ラーリング手法がある。ミラーリングは自分の姿を鏡
に映すことであり,その考え方は自分の行動する姿を
フィードバックする点にある。実車実験に関しては,
太田ら3)が交通安全教育の分野で行っており,自身の
運転挙動を自身で確認することで,自分自身の理解を
深める「ミラーリング手法」を実践しており,自動車
学校の教習コースにて教員が助手席に座り走行を行っ
ている。また小川ら4)によって,同様に自動車学校の
教習コースでの走行より,運転に自己評価を行う実験
がなされている。
本研究では,これらの安全教育の分野での「ふりか
えり」に着目する。つまり客観的な情報を主体的に,
自分自身に関することとして認識することを可能にす
る手法を用いる。
2.2 交通安全キャンペーン
交通安全キャンペーンについて,Patricia Delhomme
et al.5)はキャンペーンの種類や実施方法についてまと
めている。
教育プログラムと併用するキャンペーンと,
多数の対象者に対して様々なマスメディアを用いて一
方向的に情報を伝える広範への啓発活動であるキャン
ペーンとを区別している。両者はその実施方法や対象
数,規模などから別の種類のキャンペーンとして定義
している。
高齢者を対象としている交通安全キャンペーンは多
数を対象とし,
マスメディアを用いたキャンペーンと,
交通安全教育を行うキャンペーンに大きく分類するこ
とができる。前者は提供する情報が一方向的で主体的
に自身の問題として対象者が捉えることが難しいとい
う問題点が挙げられる。また,そのキャンペーンの効
果把握までは行われていない。一方で,後者は交通安
全教育の特性より,対象者 1 人に対する時間や経済的
コストが高くなり,多数を対象とすることが難しいと
いう問題点が挙げられる。
2.3 ドライバーの運転特性に関する研究
本研究で対象とする高齢者ドライバーについて,松
浦ら6)により,2003 年に全国 10 ヶ所の自動車教習所
で約 300 人の高齢者ドライバーを対象に行われた , 高
齢者の運転に関わる生活実態等に関するアンケート調
査によれば,9 割以上の高齢者が車は生活にとって必
要と回答し,さらに半数以上が運転はこれからも続け
る,もしやめるとすれば年齢によるものではなく健康
が優れなくなった時だと回答している . さらに 2 割の
高齢者が今まで家族などの同乗者に運転をやめた方が
いいと言われたことがあると回答している。
この結果からも高齢者にとっては,車は生活に重要
な役割を果たしていることが分かる。また一方で,家
族などの同乗者から意見からは,高齢者の運転操作に
関して何らかの問題が存在している可能性があること
が分かる。松浦らは,高齢者ドライバーそれぞれに関
する自己理解とそれぞれに対する適切な教育が必要で
あるとまとめている。
2.4 研究の位置づけ
以上を踏まえると,従来の高齢者対象のキャンペー
ンは一方向の一般的な情報であることから,その情報
を対象者は主体的に各自の問題として捉える程度は弱
い可能性が考えられる。また,交通事故情報を主体的
に受け止めることが困難であると考えられる。つまり,
従来のキャンペーンの枠組みではなく,高齢者の客観
的知識と主観的知識の乖離を埋める双方向のコミュニ
ケーションを行うことが必要と考えられる。そこで,
社会心理学における行動変容に関する理論を援用し,
上記の課題に対するコミュニケーション・ツールを作
成し,その効果を把握することを本研究の目的とする。
効果の把握にはドライビングレコーダーを用いるこ
ととする。既存研究のレビューより,高齢者ドライバー
の運転特性に関する研究がなされてきている。しかし,
ドライビングシミュレーターを用いたものが提案され
ているが,サンプルが少数に限定されてしまうという
問題に加え,仮想現実体験と習慣化された現実の行動
が一致する保証はない。さらには,実験参加者となる
高齢者にも負担となる方法である。また,実車走行に
て行われている実験に関しては,教習所のコース内と
いう限定された状況のもとでの運転挙動の把握にとど
まっていることが分かる。そこで,本研究では実験に
はドライビングレコーダーを使用することした。その
理由は,実道でのデータが撮れること,高齢者への身
体的負担が少ないこと,長期間に渡りデータ収集が可
能な事,実験参加者本人の自家用車を使用することで,
普段の走行データの取得が可能であることが挙げられ
る。
交通安全キャンペーンが高齢者の日常運転に及ぼす影響分析(中井・菊池)
3. コミュニケーション・ツールの作成
3.1 コミュニケーション・ツールの目的
作成するコミュニケーション・ツールは高齢者を対
象とし,高齢者事故の主な事故原因である,「見落と
し」
,
「左右の不確認」の減少を目指す。また「見落と
し」
,「左右の不確認」が原因として事故が発生する,
信号のない交差点を対象とし,交差点付近での減速を
促し,ひいては十分な安全確認を行うための余裕を確
保させることを目的とする。広範への啓発活動である
キャンペーンに用いることを前提とすることから,提
示した交通安全に関する情報を「客観的な交通安全知
識」として捉えるのではなく,自分自身に関係する情
報として主体的に認知してもらうことに加えて,高齢
者特有の身体的認知能力の低下を主体的に認識し,そ
のことが自身の不注意運転に繋がることを理解しても
らうことを目指す。
以降では,作成したコミュニケーション・ツールの
詳細を説明する。図 1 にツールの表紙を示す。ツー
29
抗感を感じるであろう。その抵抗感を低減させること
も必要であると考えた。つまり,「高齢者ドライバー」
ではなく「ベテランドライバー」と標記することで,
ツールへの関与に対する心理的リアクタンスを低減す
ることを目指す。
3.2 交通事故情報の提供
ツールの見開き 1 ページ目には交通事故の現状とし
て,宮城県の年別事故件数が減少していること,高齢
者の事故関与率が増加していることの 2 点を提示して
いる。図 2 に 1 ページ,2 ページ目を示す。冒頭に「交
通安全へのご協力ありがとうございます。」と記載し,
宮城県の年別事故件数が減少していることを「みなさ
んが安全運転を心掛けているおかげで」という表現を
加えることで,高齢者(ベテランドライバー)の事故
関与率が増加している現状を二面提示で伝えた。つま
り,導入部で二面提示を行うことで,ここでもツール
への関与に対する心理的リアクタンスを低減すること
を目的としている。
1 ページ目の後半には,事故リスクの情報を示す。
事故リスクのデータを記載することで,自分が注意を
払っていても事故に巻き込まれてしまう可能性がある
ことを示唆した。
続く 2 ページ目に自己評価について,
「ヒヤリ・びっ
くりした経験」を 6 項目のチェックリストを使って回
答を求めている。ここでは手を動かし自分の経験を振
ル内では「高齢者ドライバー」ではなく「ベテランド
ライバー」と記載することで,対象者を高齢者として
扱う印象を避けた。おそらく多くの高齢者ドライバー
にとって,
「高齢者ドライバー向け」の教本等は目に
した機会があり,それらと同等のツールであると思わ
れることで,読む前から内容に関心を抱かなくなる可
能性があるため,確実に内容を理解してもらうために
は,その可能性を小さくしなければならない。あるい
は,「自分はまだ,よく言われる高齢者ドライバーで
はない」と,自己の運転に過剰に自信を抱いているド
ライバーにとっては,
「高齢者」とよばれることに抵
り返ってもらい,自己評価を行うことで主体的な立場
になるよう促す。2 ページ目の最後には交通事故の原
因となる可能性がある自己の「ヒヤリ・びっくりした
経験」の回避を行うために必要となる「発見」という
図 1 コミュニケーション・ツールの表紙,背表紙
図 2 交通事故の問題意識(p. 1∼p. 2)
30
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
キーワードを示し,交通事故危険源の発見に必要な能
り,容易に行える具体的な対策法を伝えることで,安
力に関する情報に誘導している。つまり,単なる「読
全確認の容易さを認識してもらい,知覚行動制御を抑
み物」ではなく,日常運転で遭遇する「ヒヤリ・びっ
くりした経験」を自ら確認することで,以降のページ
に対する主体的関与・関心を駆動させている。
制し,加えて実行意図の形成にも繋げることを目的と
している。まとめると,各自の危険源発見能力を認識
させるために,容易に,かつ,一人で行える簡単な身
体検査を導入し,実行コスト(実行をする際の心理的
負担)が小さい具体的な対策法を示している。
3.3 身体的能力の低下の確認
高齢者特有の身体的認知能力の低下を主体的に認識
してもらうため,自身の身体的低下を計る身体的検査
を行ってもらう。高齢者は「まだ,自分の能力は衰え
ていない」
と認知している傾向があることから,
「老化」
や「身体的認知能力の低下」といったネガティブな表
現は用いらずに,「交通事故危険源の発見に必要な能
力」という表現を用いている。ここでは心理的リアク
タンスを低減させるため,「高齢者」を想起させる表
現は回避している。
図 3 に示す 3 ページ目には「発見のスピード」に
関 す る 検 査 と し て, ト レ イ ル メ イ キ ン グ テ ス ト
(TMT : Trail Making Test)を記載した。TMT 検査を
用いて発見のスピードを計測する。計測方法を記述し
ており,3 ページ目の下部には自身の要した時間を書
き込む欄があり,所要時間より危険源の発見に関する
診断を一目で確認できるよう基準を記載している。
また 4 ページ目には「視野範囲」に関する検査を記
載している。視野角の計測方法を記載しており,高齢
者の平均的な「視野角」を「発見が遅れてしまう可能
性」のある閾値として記載している。 4 ページ目の最
後には狭くなってしまっている視野角を補う方法とし
て「ほんの少し首を動かすこと」を提示している。こ
こでは社会心理学分野の行動変容の知見を用いてお
図 3 身体検査(p. 3∼p. 4)
3.4 事故リスクの提示とその対策方法
5 ページ目(図 4)には,自身で検査をした視野角
が影響する事故リスクについての情報を記載する。こ
こでは,自動車の運転中を想定しており,走行速度の
上昇に伴い,視野角が狭くなることを記載している。
つまり前節の視野角の検査結果で視野角が広かった場
合でも事故のリスクが存在している事実を提示してい
る。
続く 6 ページ目には「事故をおこしにくい」運転を
紹介している。スピードを控えて左右の安全確認をす
ることで視野角が広がり,事故のリスクを回避するこ
とが可能となることを記載している。速度を遅くする
ことで,視野角が広がりバイクや自動車の「発見」が
容易となり,標識や歩行者の「見落とし」を減らすこ
とができることを,イラストを用いて示している。6
ページ目の下部にはコミュニケーション・ツールのこ
れまでの内容をまとめ,「減速」と「左右の確認」で
リスクを回避することができるという対策を示してい
る。視野範囲が狭くなる場合は十分に減速し,その上
で左右の安全をしっかりと首を振って確認を取るとい
う具体的な対策を記載した。ここでも実行コストが小
図 4 身体的低下と運転時の危険事象の関係(p. 5∼
p. 6)
交通安全キャンペーンが高齢者の日常運転に及ぼす影響分析(中井・菊池)
31
さい具体的な対策法を示している。
3.5 安全運転に向けての対策
図 5 にコミュニケーション・ツールの裏表紙を示す。
本研究では 2 種類のコミュニケーション・ツールを作
成した。スピードを控えるために具体的に行える自身
の目標を書きこめる欄があり,具体的な目標を書き込
むことは,社会心理学における実行意図の形成に繋が
る。これは行動プラン法を基にした手法である。
3.6 実行意図の形成を目的としたツール
実行意図の形成を目的としたツールとして,図 6 に
示すお守りを作成した。常に持ち運びができ,常々交
通安全に関して意識してもらうことを目的としてい
る。
最後に,今まで取り上げた内容をまとめたステッ
カーを作成した(図 7)。その内容は,しっかりと減
速を行い,事故リスクを回避するというものである。
ステッカーは基本的に車内に貼ることを目的としてお
り,このステッカーは運転中でも目のつきやすいよう
にするために,見やすい色使いで作成した。また,
「運
図 7 ステッカー
転の妨げとなるため,車のフロントガラスおよび前席
の窓へステッカーを貼ることは法律で禁じられていま
図 5 表紙・裏表紙 2
図 8 従来型キャンペーンチラシ
す。」と注意書きを記載している。
図 6 お守り
3.7 従来型のキャンペーンチラシ
従来型のキャンペーンチラシを図 8 に示す。チラ
シの内容はコミュニケーション・ツールと同様にして
おり,交通事故情報,身体的能力の低下に関する情報,
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
32
具体的な対策法を記載している。デザインは実際に交
通安全キャンペーンで配布されているチラシを参考と
した。
4.3 ドライビングレコーダーの取り付けと日誌の
配布
実験にはドライビングレコーダー(CJ-DR450 株式
4. 実験の実施
4.1 実験概要
コミュニケーション・ツールの効果把握を行うため,
コミュニケーション・ツールへの接触による実際の運
転挙動の変化を観測する。具体的にはドライビングレ
コーダーを用いることで,対象者が普段使っている自
動車の走行データ(速度,加速度,位置データ)を取
得し分析を行う。
次の 4 実験群に分けて実験を行い,群間比較により
効果を把握する。
(I) 統制群
普段の走行データ 2 週間分を取得後,キャンペーン
を行わずに後半の 2 週間分の走行データを取得する。
(II) 従来キャンペーン群
普段の走行データ 2 週間分を取得後,従来型キャン
ペーンチラシを配布し,後半の 2 週間分の走行データ
を取得する。
(III)
自己能力認識群
普段の走行データ 2 週間分を取得後,チラシの代わ
りにコミュニケーション・ツール,ステッカーを配布
し,後半の 2 週間分の走行データを取得する。
(IV)
実行意図形成群
普段の走行データ 2 週間分を取得後,コミュニケー
ション・ツール,ステッカーに加えてお守りを配布し,
後半の 2 週間分の走行データを取得する。ここでお守
りを配布するのは,お守りに自身の目標を自身で書き
込むことで安全運転の実行意図を形成することを目的
としている。
4.2 実験参加者
実験参加者は,60 歳以上を対象とし,「普段」の走
行データを収集することを目的としていることから,
自分で利用できる車を所持していることを条件とし
た。仙台市在住の男性 40 人 女性 2 人の計 42 人を対
象とした。平均年齢は 72 歳であり,最高齢は 81 歳,
最年少は 62 歳であった。
実験参加者収集の際には,R45・日の出自動車学校
に依頼し,宮城野区を中心に安全協会から支部単位で
募集を行い,要件を満たす実験参加者を収集した。
会社キャストレード製)を使用した。ドライビングレ
コーダーの取り付けは R・45 日の出自動車学校内の
駐車場で行った。実験参加者の予定に合わせ,平成
25 年 11 月 13 日∼ 11 月 28 日に随時取り付けを行った。
また,ドライビングレコーダーを設置した車を対象者
以外の人が使う可能性があることから,対象者が車を
利用した際に,その利用日時を記入してもらうよう,
日誌を渡した .
日誌の項目は,運転をし始めた日時,運転をし終え
た日時,利用目的(買い物,仕事,娯楽,通院,旅行,
その他)の 3 項目である。また,ドライビングレコー
ダーの故障やデータの欠損を避けるため,1 週間に一
度,R・45 日の出自動車学校内の駐車場に来てもらい,
メモリカード内のデータを回収した。ただし,自宅が
自動車学校から遠方である実験参加者に対しては自宅
まで伺い,SD カードの交換を行った。
また,ドライビングレコーダーから取得できるデー
タは,自動車前方の動画映像,GPRMC フォーマット
に従う,1 秒毎の日時,緯度,経度,速度,方位角の
GPS データに加えて,加速度データとして,3 軸方向
の 1/30 秒毎の重力加速度である。
4.4 キャンペーンの実施
ドライビングレコーダーの設置の 2 週間後にキャン
ペーンを行った。キャンペーン内容は実験群で異なり,
内容を以下にまとめる。また,群毎に内容が異なるた
め,他のキャンペーン内容が伝わることを避けるため,
住所や自治体を元に群を分けた。
(I) 統制群
キャンペーンは実施しない。
(II) 従来キャンペーン群
従来型キャンペーンチラシを配布する。
(III) 自己能力認識群
コミュニケーション・ツールを配布し,内容を一緒
に確認する(ただし,図 1 の背表紙のツールを配布
する)。確認後,ステッカーを車内に貼ってもらった。
(IV) 実行意図形成群
コミュニケーション・ツールを配布し,内容を一緒
に確認する(ただし,図 5 の背表紙のツールを配布
する)。自身の目標を記載したお守りをラミネート加
交通安全キャンペーンが高齢者の日常運転に及ぼす影響分析(中井・菊池)
33
工し手渡した。その後,ステッカーを車内に貼っても
らった。
図 9 負の加速度の観測回数の相対割合(ID 10)
5. 基礎集計・分析結果
5.1 期間全体の運転特性の傾向
5.1.1 急減速指標による評価
ここではまず,
「総走行時間中での負の加速度が計
測された回数に対する,−0.2 g 未満の加速度が計測
された回数の割合」を急減速の指標とする。
実験群毎にコミュニケーション以前(前半)と以降
(後半)に分けて集計を行った結果を表 1 に示す。 変
化量が前後で負となったものは赤字で示しており,
キャンペーンによって安全な運転となったことを意味
する。キャンペーン前後において「実行意図形成群」
で急減速指標が減少したことが確認できる。ただし,
キャンペーン前後での急減速指標の個々の変化量を比
較すると,減少していない実験参加者もおり,普遍的
な傾向とは言い切れないことが分かる。
図 10 負の加速度の観測回数の相対割合(ID 20)
図 11 負の加速度の観測回数の相対割合(ID 35)
図 12 負の加速度の観測回数の相対割合(ID 40)
半 2 週間のドライビングレコーダー動画から,一時停
止交差点をすべて抽出し,GPS データ内で,同じ座標・
同じ方位角を持つ日時を,期間全体の中からすべて抽
出した。次に加速度情報が異常なもの,同一交差点に
ついて,前半後半のどちらかにしか走行実績がないも
の,停止していないものを分析対象から削除した。
運転特性を表す指標として次の 5 つの指標を用い
る。
i)
一時停止線直近で停止した時間の 3 秒前の速
度
ii)
一時停止線直近で停止した時間の 5 秒前の速
度
iii)
一時停止線直近で観測された加速度の最小値
(最大減速度)
iv)
一時停止線直近で観測された最大減速度の発
5.1.2 負の加速度の観測回数の相対割合
従来キャンペーン群の ID10 の相対割合を図 9 に,
自己能力認識群の ID20 の相対割合を図 10 に,実行
意図形成群の ID35,ID40 の相対割合をそれぞれ図
11,図 12 に示す。この 4 名の実験参加者に関しては,
−0.2 g 未 満 の 相 対 割 合 が 減 少 し て お り, な お か つ
−0.3 g 未満の強い加速度の割合も減少しており,期
間全体を通して安全な運転になっていることが分か
る。ただし,ここでも個々の変化量を比較すると,減
少していない実験参加者もおり,普遍的な傾向とは言
い切れないことが分かる。
5.2 一時停止線での運転特性
ここではキャンペーンで対象としている,一時停止
線のある交差点付近での運転特性に着目する。まず前
表1
I
D
1
2
3
7
11
12
19
37
41
表2
実験群毎のキャンペーン前後での急減速指標の変化量(%)
表 1 実験群毎のキャンペーン前後での急減速指標の変化量(%)
統制群
前半
後半
2.06
5.03
4.34
4.69
4.31
4.18
4.52
4.01
3.06
2.41
4.14
3.85
6.61
8.66
0.57
0.99
2.34
1.98
変化量の平均
変化量
-0.03
0.35
-0.13
-0.51
-0.65
-0.29
2.05
0.42
-0.36
0.09
I
D
8
10
14
23
24
27
従来キャンペーン群
前半
後半
1.89
1.84
4.61
3.34
2.53
3.54
2.28
2.92
2.15
1.95
3.01
3.32
変化量
-0.05
-1.27
1.01
0.64
-0.20
0.31
I
D
15
16
17
20
21
22
31
自己能力認識群
前半
後半
2.53
3.58
3.70
3.24
1.32
1.12
4.62
3.89
4.22
3.72
2.28
2.84
7.02
6.75
0.07
変化量
1.05
-0.47
-0.20
-0.73
-0.50
0.56
-0.27
I
D
30
33
35
36
38
39
40
43
45
実行意図形成群
前半
後半
3.28
3.29
2.96
3.23
3.05
1.75
2.48
2.75
2.58
2.40
1.25
1.23
3.02
1.71
1.00
0.86
1.67
1.88
-0.08
変化量
0.01
0.26
-1.30
0.27
-0.18
-0.02
-1.31
-0.14
0.20
-0.25
交差点での非停止回数
id
前半通過回数 非停止回数
後半通過回数 非停止回数
前半非停止割合 後半非停止割合 変化量
1
25
8
24
15
0.32
0.63
0.305
2
52
23
35
20
0.44
0.57
0.129
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
34
生時間
なっている。しかし個々の変化量を見ると,正の値と
v)
一時停止線直近で観測された減速が開始された
なっている実験参加者もいることから,ここでも普遍
表1時間実験群毎のキャンペーン前後での急減速指標の変化量(%)
的な傾向とは言い切れない結果となった。
統制群
従来キャンペーン群
自己能力認識群
I
D
前半
後半
変化量
I
D
前半
後半
変化量
5.2.1 速度
1
2.06
5.03
-0.03
8
1.89
1.84
-0.05
2
4.
34
4.
69
0.
35
10
4.
61
3.
34
-1.27
一時停止線直近で停止した時間の 3 秒前の速度の平
3
4.31
4.18
-0.13
14
2.53
3.54
1.01
7
4.52
4.01
-0.51
23
2.28
2.92
0.64
均値の変化量,5
秒前の速度の平均値の変化量に関し
11
3.06
2.41
-0.65
24
2.15
1.95
-0.20
12
4.14
3.85
-0.29
27
3.01
3.32
0.31
て群毎の平均値で見ると,キャンペーン前後の変化量
19
6.61
8.66
2.05
37
0.57
0.99
0.42
は従来キャンペーン群,統制群,実行意図形成群では
41
2.34
1.98
-0.36
負の値となっており安全運転の傾向が強くなっている
変化量の平均
0.09
0.07
ことが分かるが,自己能力認識群においては正の値と
表2
表 2 交差点での非停止回数
交差点での非停止回数
id
統制群
従来キャン
ペーン群
実行意図形成群
前半
後半
変化量
I
D
前半
後半
変化量
5.2.2 加速度
15
2.53
3.58
1.05
30
3.28
3.29
0.01
16
3.
70
3.
24
-0.
47
33
2.
96
3.
23
0.26
一時停止線直近で観測された最大減速度の平均値,
17
1.32
1.12
-0.20
35
3.05
1.75
-1.30
20
4.62
3.89
-0.73
36
2.48
2.75
0.27
一時停止線直近で観測された最大減速度の発生時間の
21
4.22
3.72
-0.50
38
2.58
2.40
-0.18
22
2.一時停止線直近で観測された減速が開始され
28
2.84
0.56
39
1.25
1.23
-0.02
平均値,
31
7.02
6.75
-0.27
40
3.02
1.71
-1.31
43
1.00
0.86
-0.14
た時間に関して群毎の平均値を見ると,最大減速度群
45
1.67
1.88
0.20
間で大きな差は見られず,最大減速度の発生時間に関
-0.08
-0.25
しては実行意図形成群の効果が大きい結果となったも
I
D
前半通過回数 非停止回数
後半通過回数 非停止回数
前半非停止割合 後半非停止割合 変化量
1
25
8
24
15
0.32
0.63
0.305
2
52
23
35
20
0.44
0.57
0.129
3
5
109
8
56
2
52
5
32
2
0.51
0.25
0.62
0.40
0.102
0.150
7
51
38
35
27
0.75
0.77
0.026
11
50
22
55
25
0.44
0.45
0.015
12
84
47
82
44
0.56
0.54 -0.023
19
37
16
39
5
27
10
95
1
60
0.31
0.69
0.10 -0.213
0.63 -0.061
41
32
16
22
8
0.50
0.36 -0.136
8
55
27
14
9
0.49
0.64
0.152
10
14
49
39
29
18
30
25
21
12
0.59
0.46
0.70
0.48
0.108
0.018
23
22
13
29
18
0.59
0.62
0.030
24
15
3
6
2
0.20
0.33
0.133
27
15
11
20
11
0.73
0.55 -0.183
15
45
17
40
16
0.38
0.40
16
14
4
19
3
0.29
0.16 -0.128
17
自己能力認識
20
群
21
24
3
15
3
0.13
0.20
7
27
1
17
9
21
0
16
0.14
0.63
0.00 -0.143
0.76 0.132
0.022
0.075
22
16
8
9
7
0.50
0.78
0.278
31
19
6
14
7
0.32
0.50
0.184
30
5
5
4
3
1.00
0.75 -0.250
33
63
33
50
26
0.52
0.52 -0.004
35
102
45
58
33
0.44
0.57
36
実行意図形成
38
群
39
40
63
21
15
9
9
5
111
11
17
42
18
120
26
0.24
0.43
0.15
0.21 -0.024
0.28 -0.151
0.22 0.064
4
17
5
0.36
0.29 -0.070
43
53
17
57
26
0.32
0.46
45
24
16
43
21
0.67
0.49 -0.178
0.128
0.135
交通安全キャンペーンが高齢者の日常運転に及ぼす影響分析(中井・菊池)
35
のの大きな差は見られない結果となった。しかし,速
度に関する指標と同様に個々の変化量を比較すると,
群内でその変化の分散が高く,普遍的な傾向とは言い
切れない結果となっている。
5.2.3 非停止回数
次に交差点で停止しなかった回数(非停止回数)に
ついての集計をおこなった(表 2)。交差点の通過回
数は個人で大きく分散があり,厳密に比較はできない
ものの,実行意図形成群でその割合の変化が負となり,
つまり非停止割合がキャンペーン後に小さくなった実
験参加者が多くみられた。また,日常的に高齢者ドラ
イバーは交差点で停止をしないことが少なくはないこ
とが分かった。
図 14 キャンペーン前後での減速開始からの速度変
化過程(従来キャンペーン群)
5.2.4 減速開始から停止までの減速過程(1)
ここでは,減速開始から停止までの減速過程を定性
的に考察する。キャンペーン前後での減速変化過程に
ついて統制群を図 13,従来キャンペーン群を図 14,
自己能力認識群を図 15,実行意図形成群を図 16 にそ
れぞれ示す。また,
グラフ内で実線がキャンペーン前,
点線がキャンペーン後のデータとなっている。キャン
ペーン前後で統制群,従来キャンペーン群,自己能力
認識群では,個人で速度の変化にばらつきがあること
が分かる。実行意図形成群ではキャンペーン後に速度
が全体的に低くなっていることが分かる。
図 15 キャンペーン前後での減速開始からの速度変
化過程(自己能力認識群)
5.2.5 減速開始から停止までの減速過程(2)
ここでは,減速開始からの経過時間と,その際の速
度の分布から,減速過程を定量的に分析する。キャン
図 16 キャンペーン前後での減速開始からの速度変
化過程(実行意図形成群)
図 13 キャンペーン前後での減速開始からの速度変
化過程(統制群)
36
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
ペーン前後での減速開始からの速度分布について,統
制群を図 17,従来キャンペーン群を図 18,自己能力
認識群を図 19,実行意図形成群を図 20 にそれぞれ示
す。ここで,
赤色がキャンペーン前,青色がキャンペー
ン後のデータとなっている。
キャンペーン前後で統制群,従来キャンペーン群,
自己能力認識群では回帰直線の傾きの変化は見られ
ず,実行意図形成群ではキャンペーン後で傾きが緩や
かになっており,2 直線の平行性の検定をおこなった
ところ,帰無仮説「2 直線が平行である」が実行意図
図 19 キャンペーン前後での減速開始からの速度分
布(自己能力認識群)
図 17 キャンペーン前後での減速開始からの速度分
布(統制群)
図 20 キャンペーン前後での減速開始からの速度分
布(実行意図形成群)
形成群でのみ棄却される結果となった(P 値 =0.057
<0.10)
。つまり,実行意図形成群ではキャンペーン
後に緩やかな減速となる傾向が示された。
図 18 キャンペーン前後での減速開始からの速度分
布(従来キャンペーン群)
5.3 見通しの悪い交差点での減速開始から停止ま
での減速過程
キャンペーンで対象としている,一時停止線のある
交差点の中でも見通しの悪い交差点のみを取り出し,
前節(5.2)において実験群の効果が現れた減速過程
を見る。統制群を図 21,従来キャンペーン群を図
交通安全キャンペーンが高齢者の日常運転に及ぼす影響分析(中井・菊池)
37
22,自己能力認識群を図 23,実行意図形成群を図 24
にそれぞれ示す。ここでも,赤色がキャンペーン前,
青色がキャンペーン後のデータとなっている。
見通しの悪い交差点においても,キャンペーン前後
で統制群,従来キャンペーン群,自己能力認識群では
回帰直線の傾きの変化は見られず,実行意図形成群で
はキャンペーン後で傾きが緩やかになっており,2 直
線の平行性の検定をおこなったところ,帰無仮説「2
直線が平行である」が実行意図形成群でのみ棄却され
る結果となった(P 値 =0.0016<0.05)
。つまり,実行
意図形成群ではキャンペーン後に緩やかな減速となっ
図 23 キャンペーン前後での減速開始からの速度分
布(自己能力認識群)
図 21 キャンペーン前後での減速開始からの速度分
布(統制群)
図 24 キャンペーン前後での減速開始からの速度分
布(実行意図形成群)
たことが分かった。
6. まとめと今後の課題
本研究ではコミュニケーション・ツールを作成し,
高齢者向けの交通安全キャンペーンを実施し,その効
図 22 キャンペーン前後での減速開始からの速度分
布(従来キャンペーン群)
果を把握した。期間全体の運転特性に関しては,キャ
ンペーン実施前後で,実行意図形成群においては期間
全体での急ブレーキの相対的な回数は減少したもの
の,個々の変化量を比較すると,普遍的な傾向とは言
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
38
い切れない結果となった。また,一時停止線での運転
ル「安全運転を心がけてきたあなたのために ベテラ
特性に関して,交差点での非停止割合は,実行意図形
ンドライバーの未来に必要な運転」の制作にあたり,
成群でキャンペーン後に小さくなる実験参加者が多
く,日常的に高齢者ドライバーは交差点で停止をしな
いことが少なくはないことが確認された。減速開始か
ら停止までの減速過程を考察すると,定性的には実行
意図形成群ではキャンペーンの効果として,交差点に
緩やかな速度で進入していることが分かった。定量的
にも実行意図形成群ではキャンペーン後に緩やかな減
速となっていることが分かった。最後に見通しの悪い
交差点での運転特性に関しては,実行意図形成群では
キャンペーン後に緩やかな減速となっていることが分
かった。
最後に今後の展望としては,今回の実験で行った
キャンペーンの長期的な効果を把握するための追加調
査があげられる。これに関しては同一実験参加者に意
思確認はすでに行っている。また,実行意図形成ツー
ル(お守り)は再考の余地があると考えられる。
株式会社ユーメディアにはご協力を頂きました。深く
感謝致します。
謝 辞
本研究で実施した調査ならびにコミュニケーショ
ン・ツールの作成にあたり,日本自動車工業会をはじ
め全面的な協力を頂戴した R45・日の出自動車学校に
感謝の意を表します。また,コミュニケーション・ツー
参考文献
1) 交通安全白書─内閣府,HP, http://www8.cao.go.jp/
koutu/taisaku/h23kou_haku/zenbun/
2) 高齢者の交通事故関与率,HP, http://www.keishicho.
metro.tokyo.jp/kotu/kourei/koureijiko.htm
3) 太田博雄 : 高齢者ドライバーのミラーリング方に
よるメタ認知教育プログラムの開発,平成 32 年度
(本報告)タカタ財団助成研究論文,ISSN21858950, 2011.
4) 小川和久・太田博雄・向井希宏・鈴木隆司 : ドラ
イバーの感情特性と運転行動への影響感情コント
ロールのための教育プログラム開発を目指して,
財団法人国際交通学会,報告書,2010.
5) Manual for Designing, Implementing, and Evaluating
Road Safety Communication Campaigns, Patricia Delhomme, Werner De Dobbeleer, Sonja Forward, and
Anabela Simoes, Project co - financed by European
Commission Directorate-General Energy and Transport, 2009.
6) 松浦常夫 : 運転技能の自己評価に見られる過大評
価傾向,心理学評論 No. 42(4)419-437, 1999
世界の水道状況と日本の位置付け(水野・斎藤・中山・今野)
39
世界の水道状況と日本の位置付け
水 野 俊*・斎 藤 孝 市**・中 山 正 与***
今 野 弘***
The Waterworks Situation in the World and Positioning of Japan
Shun Mizuno, Kouichi Saito, Masatomo Nakayama, and Hiroshi Konno
Abstract
The waterworks situation in the world studied the water resources, the national gross income(GNI), the
rate of access to improved water sources, the rate of non-revenue water of all the countries of the world, and to
position Japan.
As a result, the following was found.
1) About “access to improved water sources”, the world was to achieved the Millennium Development
Goals, but rate of access to water sources is insufficient for less than 50% still in Asia, Africa
2) In comparison with other countries, the rates of access to water sources, the rate of non-revenue water, of Japan is top-level, and make effective use of water resources, there is a technique for supplying.
3) Rate of access to water sources tend to suffer the impact of the economic of the country, economic,
technical assistance is need for poor countries.
4) Japan must help for poor countries, including the economic and technical assistance.
1. は じ め に
地球に存在する水のうち,人間が利用可能な水資源
はごく限られている。淡水で比較的容易に利用できる
河川水や湖沼水などとして存在する量は約 0.001 億
km3,地球上の水のわずか 0.01% である。この貴重な
水資源に関し,世界では急激な人口増加と経済発展な
どにより,水不足,水質汚染や水災害等,水資源の問
題がますます深刻化かつ多様化している。
現在,世界人口の 3 分の 1 にあたる人々が水不足に
直面しており,10 億人以上が安全な飲料水を利用で
きない状態である。このような状況を憂慮して開かれ
た 2000 年 9 月の国連総会では,
「ミレニアム開発目標」
が採択され,水問題に関しては「2015 年までに改善さ
れた水源にアクセスできない人口の割合を半減する」
という目標が掲げられた。目標は 2010 年に達成され
2014 年 10 月 21 日受理
*
大学院工学研究科土木工学専攻博士前期課程
**
都市マネジメント学科 助手
***
都市マネジメント学科 教授
ているが,依然として世界全体で約 7.8 億人の人々が
安全な飲料水を継続的に利用できない状況にある1)。
そこで本研究では,世界各国の水道設備状況を明ら
かにし,それを日本と比較することで,世界における
日本の水道の位置付けを行うことを目的とする。また,
水道設備は,その国の経済に影響を受けると考えられ
るので,世界各国の水道設備と経済との関係を明確に
して,今後の課題を提起する。
2. 調査項目および調査方法
本調査では,世界各国の水資源,水道設備の状況を
まとめた。また,水道設備とその国の経済の関係をみ
るために経済指標である国民総所得(GNI)について
まとめた。
世界各国の水資源の状況は,降水量および一人当た
りの水資源賦存量で明らかにする。これらは国際連合
食糧農業機関の「AQUA STAT」のデータ2) を用いて
まとめた。
水道設備の状況は,改善された水源へのアクセス率
40
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
および無収水率として考え,これらを明らかにする。
水源へのアクセス率は「WHO と UNICEF の共同モニ
タリングプログラム」のデータ3)をまとめた。データ
は,
2001 年から 2010 年までの 10 年間について調査し,
経済,地域別で水源へのアクセス率の推移から改善傾
向をみる。
ここで「改善された水源」の定義4)は,設計・建築
において外部汚染から防御されている可能性が高いも
のをいう(保護された井戸や泉などの他,水道施設と
しての給水管を含む)
。
また,
「アクセス率」の定義4) は水 20ℓを 1 km ま
たは往復 30 分で確保できる人口の全人口に対する割
合である。つまり,この定義で水道設備が増加すると
アクセス率が高くなることから,水道普及率に類似し
ている指標と考える。
そして,水資源,水源へのアクセス率を地域ごとに
比較するため,アジア(日本を含む),アフリカ,欧州,
大洋州,中東,中南米,北米から,地域ごとに算出す
る。
無収水率は,
「IBNET(The International Benchmarking Network for Water and Sanitation Utilities)
」のデー
タ5)をまとめた。無収水率は生産水量から販売水量を
3. 結果および考察
3.1 各地域と日本の水資源
図 1 に各地域の降水量および一人当たりの水資源賦
存量をまとめた。全体的にみると,各地域で大きく異
なっているが,水資源賦存量は大洋州,中南米,北米
が多く,また降水量が多いと一人当たりの水資源賦存
量が豊かに見えるが,日本のような例もある。つまり,
日本の水資源賦存量は降水量が 1,688(mm/ 年)と多
いにもかかわらず,一人当たりの水資源賦存量は 3,401
(m3/ 人 ・ 年)と少なく,世界平均の半分にも満たない。
これは人口密度による影響であるが,わが国では限ら
れた水資源を有効に活用するために,ダムや堰等の水
資源開発施設を建設し水運用を図ってきた。
3.2 アクセス率と国民総所得(GNI)との関係
図 2 に 2011 年における世界(161 カ国)の水源へ
のアクセス率と一人当たりの GNI の関係をまとめた。
全体的にみると GNI が高くなるにつれて水源へのア
クセス率も上がっているようにみえるが,GNI が高い
にもかかわらずアクセス率が低い国も存在するようで
引いた量の生産水量に対する割合であり,漏水がある
と高くなる。漏水は水道水の汚染に繋がる恐れがある
ので,水道水の安全性の指標として考える。
国民総所得(GNI)は「世界銀行」のデータ6)をま
とめた。また,世界各国の経済状況ごとに比較するた
めに,先進国,新興国,発展途上国に分類し,その水
道整備状況をみようと試みたが,その定義が曖昧で難
しいと判断した。そこで採用したのが世界銀行による
経済分類である。世界銀行の経済分類 7)は低所得経済,
低位中所得経済,上位中所得経済,高所得経済を一人
当たりの GNI(米ドル)により次の 4 つに分類してい
る。一人当たりの GNI ≦ 875 を低所得経済,876 ≦
図 1 地域別の水資源(2008-2012 年)
GNI ≦ 3,465 を 低 位 中 所 得 経 済,3,466 ≦ GNI ≦
10,725 を高位中所得経済,10,726 ≦ GNI を高所得経
済としている。
これらから作成した各図を使って,改善されたアク
セス率の推移や水道設備と経済との関係などを考察す
る。また,世界各国の水道設備のレベルから世界にお
ける日本の位置付けなどを評価する。
図 2 世界の GNI とアクセス率の関係図(2011 年)
世界の水道状況と日本の位置付け(水野・斎藤・中山・今野)
41
ある。次に所得ごとにみると,高所得経済は,アクセ
ス率が約 70% 以上の国が多く分布している。その中
でも欧州諸国が多く,アクセス率が約 80% 以上の高
い国が多い。高位中所得経済および低位中所得経済で
は分布している国のアクセス率が 5% 未満からほぼ
100% まで幅広く存在し,地域では欧州やアフリカが
多く存在している。アクセス率 50% を境にみると,
高位中所得経済に属する国は 44 カ国であり,この中
でアクセス率が 50% 以上の国は 86% を占めており,
50% 以上のアクセス率の国が多いことが分かる。一方,
位中所得経済に属する国は 39 カ国であり,この中で
アクセス率 50% 以下の国は 64% であり,50% 以下の
アクセス率の国が多いことが分かる。そして,低所得
経済の 30% 以下はアフリカが多いことがわかる。こ
のようにその国の経済状況が水道へのアクセス率,ひ
いては水道設備に大きく関与しているといえる。日本
は高所得経済に位置し,アクセス率 98.4% と高く,
世界のトップクラスといえる。
図 3 にアジア諸国(20 カ国)の GNI とアクセス率
の関係をまとめた。全体的にみると,図 2 に示した欧
州と比較してもアジア諸国はアクセス率が低い傾向に
あり,50% 以下の国は 13 カ国と多い。アクセス率が
90% 以上の国は日本を含む 5 カ国しかなく,アジア
地域内でも水源へアクセスができない人々がまだ多く
存在することが分かる。日本は,もちろんアフリカ諸
国への援助もあるが,アジアの一国としてアジア近隣
国への援助の必要性が認識できる。
図 4 に世界の無収水率と一人当たりの GNI の関係
をまとめた。全体的にみると,無収水率は GNI が高
図 4 世界の GNI と無収水率の関係(2004-2012 年)
い国ほど低い傾向になると予想していたが,その関係
性はないようにみえる。日本は無収水率が 9.84% と
低く,世界ではトップクラスである。無収水率は漏水
や盗水などがあると高くなる。漏水は水道水の汚染に
繋がる恐れがあるので,日本は水道水の安全性を損な
わないために,漏水の早期の発見,修復をすることで
水道水の直接飲用を可能としている。また日本のよう
に水道水を直接飲用できる国は,日本を含む 13 カ国8)
しかないと言われており,その他の国では煮沸や浄水
器を使用しなければ水道水を飲用することはできな
い。
3.3 水源へのアクセス率の推移
図 5 に地域ごとに算出した改善された水源へのアク
セス率の経年的な推移をまとめた。全体的にみると欧
州が高い推移を示しており,欧州および大洋州はこの
10 年間で約 1∼2%,中南米,中東,アジア,アフリ
カは約 4∼6% と欧州等の 2 倍近い伸び率を示す。また,
100
◇: 欧 州
水
源
へ
の
ア
ク
セ
ス
率
▽: 中 南米
△: 中 東
□: 大 洋州
○: ア ジア
50
☆: ア フリ カ
(%)
0
200 0
図 3 アジア諸国の GNI とアクセス率の関係図(2011
年)
200 5
201 0
年
図 5 地域ごとの水源へのアクセス率の推移
図5 地 域ごとの水 源へ のアクセス率 の推 移
(%)
0
200 0
200 5
201 0
年
図5 地 域ごとの水 源へ のアクセス率 の推 移
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
42
へのアクセス率は向上している。しかし,アジア,ア
100
フリカの地域では未だに水源へのアクセス率 50% 以
高所 得 国
水
源
へ
の
ア
ク
セ
ス
率
上位 中 所得 国
低位 中 所得 国
50
低所 得 国
(%)
0
200 0
200 5
201 0
年
図6 所 得ごとの水 源へ のアクセス率 の推 移
図 6 所得ごとの水源へのアクセス率の推移
アクセス率が 50% 以下の地域はアジア,アフリカで
あり,未だに日本近隣国でも安全な飲料水を手に入れ
られない国が多くある。ミレニアム開発目標「安全な
水源にアクセスできない人口の割合を半減する」は達
成されてはいる。しかし,地域別にみるとアクセス率
が 50% 以上に達しておらず,「水源にアクセスできな
い人口の割合を半減する」という目標が達成されてい
ない地域も存在する。この結果を踏まえて,世界人口
の割合の半減ではなく,それぞれの国における人口の
割合の半減でみる必要があり,今後の課題として考え
るべきである。
図 6 に所得ごとに算出した水源へのアクセス率の経
年的な推移をまとめた。全体的には,どの所得でもこ
の 10 年間で約 3∼5% のアクセス率の向上がみられる。
所得別にみると,高所得国,高位中位所得国は 50%
以上に推移しており,低位中位所得国はアクセス率
50% に 近 づ い て い る。 し か し, 低 所 得 国 は 未 だ に
30% 以下に推移しており,経済的支援が必要である。
4. お わ り に
今回,世界各国の水資源,国民総所得(GNI)
,改
善された水源へのアクセス率,また 2001 年から 2010
年の 10 年間について調査をした。
その結果,以下の点が分かった。
① 「改善された水源へのアクセス」について,世
界はミレニアム開発目標を達成しており,年々,水源
下と不十分であること。
② 日本の水源へのアクセス率,無収水率を他国と
比較すると,日本の水道設備はトップレベルであり,
水資源を有効に活用し運用していること。
③ 水源へのアクセス率は,その国の経済の影響を
受ける傾向があり,貧しい国には経済的,技術的支援
が必要であること。
④ 日本は,アジア近隣国をはじめとする貧しい国
に対して,経済的,技術的支援をする必要性があるこ
と。
参考文献
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http://jica-ri.jica.go.jp/IFIC_and_JBICI-Studies/jicari/publication/archives/jica/field/pdf/200408_01_01.
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(閲覧日 2013 年 11 月 1 日)
8) 国土交通省 ; 平成 16 年版 日本の水資源
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/
hakusyo/h16/1.pdf
(閲覧日 2013 年月 29 日)
アドホックネットワークによる歩数計測システムの構築(中山)
43
アドホックネットワークによる歩数計測システムの構築
中 山 英 久
Construction of a Pedometer Measurement System on
Mobile Ad-hoc Network
Hidehisa Nakayama
Abstract
We can see a small devices on which complicated algorithm was implemented. The health care applications become increasingly sophisticated. In the case of nursing care or medical examination, when gathering
health care information efficiently, such application is very useful if we can use a mobile network. Therefore,
by this article, I propose and construct a pedometer measurement system on mobile ad-hoc network. The
aim of this project is an easy health care by using acceleration sensors as an example of the health care application. The system which we constructed can measure much health care information of many people simultaneously in realtime, because the Sun SPOT enables multi-hop communication. Some experimental results show
almost all the same performance of a traditional pedometer.
1. ま え が き
近年,老若男女を問わず,健康に対する意識が年々
高まっている。日常的に健康管理を行うためには,体
重計,体組成計,歩数計,活動量計などといった健康
管理機器が必要となる。小型組込デバイスに高度なア
ルゴリズムが実装された機器が身近になり,健康管理
機器についても高機能化が進んでいる。通信機能や記
録機能を持つ機器を用いれば,個人でも行動や運動の
記録を蓄積することが可能となっている[1, 2]
。
また,21 世紀に入って本格的な高齢化社会を迎え,
要援助者・要介護者は増加する一方であるにもかかわ
らず,それを支える人員が大幅に不足している[3]。
そのため,人手をかけずに行動管理や運動記録を行い
たいというニーズは非常に多く,高機能な健康管理機
器からの情報を容易に収集する仕組みにより,多人数
の健康情報の利活用が期待されている。
例えば,goo の「からだログ」[4]や,タニタの「か
らだカルテ」
[5]では,インターネット上で健康管理
2014 年 10 月 22 日受理
*
知能エレクトロニクス学科 准教授
機器からの情報を集約し,健康管理サービスを受ける
ことができる。機器からは常に新しい情報が得られる
ため,単なるデータの蓄積・管理に留まらず,健康情
報が有効に利活用されている。しかしながら,健康情
報は,身体的特徴を含む高度な個人情報であるため,
情報セキュリティの観点から,インターネットでの
データ取扱いに抵抗のある人は多い[6]。
ネットワークとして,局所限定的なアドホックネッ
トワーク[7]を用いれば,インターネットへの健康
情報の送信を限定的にすることが出来る。さらに,多
数の端末を用いた通信により多人数の同時管理機能が
可能となる[8, 9]。そこで本稿では,健康管理機器の
代表例として,Sun SPOT の加速度センサを利用した
ネットワーク対応歩数計を試作し,アドホックネット
ワークを用いてリアルタイムに歩数計測できるシステ
ムを構築する。このシステムは,ネットワークを利用
して手軽に健康管理を行うことを目的としている。特
に本稿では,アドホックネットワークのリアルタイム
性により,加速度センサ波形の観察が容易となったた
め,歩行検出アルゴリズムを検討することで,簡単な
フィルタを用いた場合でも,市販の歩数計と同程度に
精度を高めることが出来たという結果を示す。
44
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
2. システム概要
図 1 にシステム概要を示す。計測者(User)が身
に着けた端末上の加速度センサの情報を取得し,アド
ホックネットワーク(Ad-hoc Network)上のマルチホッ
プ通信により,ゲートウェイ(Gateway)へデータが
送られる。本稿でのアドホックネットワークの構成に
は,物理デバイスとして Sun SPOT,ネットワーク経
路制御アルゴリズムに AODV または LQRP を用いる。
2.1 アドホックネットワーク
アドホックネットワークは,端末同士が直接あるい
は他の端末を中継したマルチホップ通信を行う。よっ
て,基地局等の通信インフラに依存せず,無線端末同
士で自律的にネットワークを形成する。そのため,固
定的なインフラの敷設を要さないという柔軟性があ
り,災害時の仮設ネットワークやイベント会場での一
時的な利用などの用途が考えられている[12]。さら
に,アドホックネットワークでの端末同士の通信に限
らず,ゲートウェイを介してプロトコル変換すること
により,
インターネットや携帯電話網など,外部のネッ
トワークへの接続も可能である[13, 14]
。
ところで,センサネットワークは,数多くのセンサ
が無線を介してネットワークに接続され,センサから
の情報に基づき,様々なサービスやアプリケーション
を提供するネットワークと定義されている[15]。本
稿で用いるアドホックネットワークは,センサ計測情
報に適した通信を行い,センサネットワークを形成し
図 1 システム概要
ていると位置づけることも出来る。
2.2 Sun SPOT
Sun SPOT(Sun Small Programmable Object Technology)は,2003 年に Sun Labs(現 Oracle Labs)で
開発された,Java 技術ベースのバッテリー駆動の実験
用無線センサーネットワークデバイスである[16]。
Sun SPOT のハードウェアは,柔軟に拡張・カスタ
マイズできるように設計されており,図 2 のような構
造 を し て い る。 一 番 下 は「 バ ッ テ リ ー」 で,Sun
SPOT に電源を供給する 3.7 V 720 mAh リチウムイオ
ン電池が取付けられている。その上は「プロセッサボー
ド 」 で,180 MHz の 32 bit ARM CPU お よ び 512 KB
の RAM と 4 MB フラッシュメモリ,近距離無線規格
IEEE 802.15.4 準拠の 2.4 GHz 無線チップや,PC 接続
用 の mini USB ポ ー ト, 処 理 ス テ ー タ ス 表 示 用 の
LED,電源・リブートボタンが搭載されている。そし
て,その上の「センサボード」上には,2 G/6G 加速
度(重力)
,温度,照度などのセンサ類と外付け用 I/
O コネクタ,8 つの RGB 3 色 LED,
2 つの汎用プッシュ
ボタンスイッチが配備されており,「サンルーフ」に
よりボードが保護されている。
Sun SPOT のソフトウェアとしては OS を持たず,
小 型 デ バ イ ス 向 け JAVA 仮 想 マ シ ン(VM : Virtual
Ma-chine)である Squawk VM
(Java ME CLDC 1.1 準拠)
が ARM CPU 上で直接動作している。Squawk VM は
割込みハンドラやデバイスドライバを含むコードの大
部分が Java 言語により記述されていることが特徴で
図 2 Sun SPOT の構造[16]
アドホックネットワークによる歩数計測システムの構築(中山)
45
ある。Sun SPOT World[16]からは,センサや入出
を選択する。
力インタフェースにアクセスできる抽象レベルの高い
ここで,図 3 の最下部 C-D 間のように,リンク切
断を検出したノード C は,RERR パケットをブロー
ドキャストで送信する。RERR を受信したノードは,
自身の経路表の中に含まれる終点ノード D への経路
エ ン ト リ が あ り, そ の 経 路 エ ン ト リ の 次 ホッ プ が
Java ライブラリ群が提供されている。そのため開発で
は,
組込システム専用の特別なスキルは必要なく,ソー
スコードの大部分を Java 言語で記述可能であり,プ
ロジェクトの工数を大幅削減できる。
2.3 AODV と LQRP
AODV(Ad-hoc On-demand Distance Vector)
[17]は,
通信開始時に経路探索を行うリアクティブ型の経路制
御プロトコルである。Route Request(RREQ),Route
Reply(RREP),
Route Error(RERR)の 3 種類のパケッ
ト,及び動的に更新する経路表を用いて経路制御を行
う。また各ノードは,通信毎にシーケンス番号を増加
させ,シーケンス番号から経路情報が新しいかどうか
を判断する。
例えば,図 3 のように始点ノード A が終点ノード
D へ経路探索を行うとき,隣接するすべてのノードに
対して RREQ_ID を付けた RREQ パケットをブロード
キャストで送信する。RREQ を受信したノード B は,
始点ノード A への経路を生成・更新する。
ノードが終点ノード D あるいは終点ノードへの有
効な経路を持つ C の場合は,始点ノード A に向けて
RREP パケットをユニキャストで送信する。最終的に
始点ノード A が RREP を受信すると,終点ノード D
への経路が確立される。
RREP を受信する際,複数受信した場合は,終点シー
ケンスナンバー(DST_seq)の一番大きなものを選択
し,DST_seq が同じ場合は,ホップ数の少ないもの
RERR を送信してきた隣接ノード C になっている場
合には,その経路を無効化する。そして,RERR を始
点ノード A へ向けて転送するということを繰り返す。
RERR を受信した始点ノード A は,終点ノード D ま
での経路が壊れたと判断し,再び,終点ノード D へ
の経路探索を開始する。
また,LQRP(Link Quality Routing Protocol)は AODV
の改良版であり,ノードの生存時間およびノード間リ
ンク品質を考慮した経路構築を行う。そのため,ノー
ドが複数存在するマルチホップ通信の場合には,中継
ノード数が多いほど,AODV よりもリンク品質を考慮
した LQRP のほうが到着するパケットが多くなると
考えられる。しかしながら,本稿で考慮している規模
のノード数では,通信プロトコル方式の差により測定
結果に影響するほどの差は見られないと考えられる。
3. 歩行検出アルゴリズム
特殊な歩き方をしない限り,人は若干の上下動を
伴って歩行する。この上下動を検出すれば,歩数をカ
ウントできる。昔の歩数計では,おもり(金属製ボー
ル)が前後にスライドして振り子が動くことにより,
メカニカル・スイッチが入ることで歩行動作を検出し
ていた。しかし,今の歩数計では,加速度センサの値
と閾値との比較により,歩行状態を検出し,歩数をカ
ウントしている[18, 19, 20]。本稿でも,後者のアプ
ローチをとる。
まず,3 軸加速度センサベクトルを R x, y, z W とする。
このとき,合成加速度 a は
a = x 2 +y 2 +z 2
図 3 AODV プロトコル
となる。歩行の際の 3 軸加速度合成値の変化例は,図
4 の “Accel” である。これが人間の上下動に当たるの
で,加速度の値によって上部と下部を区別する閾値を
決める必要がある。理論的には,静止状態は重力加速
度のみの値となるはずなので,1.0 に設定されるはず
だが,実際には加速度センサの経年変化によるバイア
スがかかるため,1.0 よりも若干大きい。本稿では,
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
46
図 4 3 軸加速度合成値の変化例
具体的な数値として 1.2 とした。これは,図 4 の “G”
の部分である。つぎに,取得した加速度値にはノイズ
を含むため,フィルタにより除去する必要がある。本
稿では,現在の加速度値 anow と,直前に取得した加
速度値 aold を用いて,下記の式のように,加重平均フィ
ルタをかけて加速度値 a を求める。
a=anow×0.9+aold×0.1
これは,図 4 の “Filter” の部分であり,ローパスフィ
ルタに等しい。さらに,各軸加速度に加重平均フィル
タをかけることが出来るが,その場合は,
x=xnow×0.9+xold×0.1
y=ynow×0.9+yold×0.1
z=znow×0.9+zold×0.1
より,合成加速度を求める。
■歩行検出アルゴリズム
以上で求めた加速度を用いて,歩行検出を行う。加
速度値を a,直前の加速度値を apre とすると,1.∼4. の
手続きとなる。
1. a<G を検出
(具体的には a ≤ G−0.1)
2. a>G かつ a>apre を検出
(具体的には a ≥ G+0.1 かつ a−apre>0.2)
3. 前回の検出から一定時間後 (300 msec 以上経過
後)
に 2. が成立する場合,歩行検出とする。1. へ
戻る。
4. 1. から一定時間内 (1 sec) に 2. が成立しない場
合,1. へ戻る。
図 5 パケット到着時間の例
文献[21]によると,歩行時の歩調は約 100∼140
歩 /min であり,1 歩には約 400∼600 msec 程度かかる.
走 行 時, 歩 行 の 半 分 の 時 間 を 想 定 す る と 約 200∼
300 msec である.よって,走行時と区別するための
閾値を 300 msec とする.さらに,静止状態と区別す
るための一定時間は,平均的な歩行の倍の時間という
ことで,閾値を 1 sec とする。
また,図 5 の予備実験のように,パケット送信にか
かる時間は,平均的に 40∼80 msec 程度,場合によっ
て 120 msec 以上の時間がかかることもある。よって,
100 msec 程度のネットワーク遅延が見込まれるため,
同じオーダである歩行検出の閾値への影響が考えられ
る。すなわち,パケット送信にかかる時間を考慮する
と,加速度データを送信し,受信側で処理する方法で
は,歩行検出アルゴリズムが有効に機能しないことが
考えられる。そこで本稿では,歩行検出および歩数の
カウントをセンサ端末で行った後に,パケット送信を
行う方法をとる。
4. 計 測 実 験
4.1 実験環境
実験は,本学 8 号館組込システム開発研修センター
で行った.計測時の Sun SPOT の通信には AODV プ
ロトコルを用いた。RSSI(受信信号強度)の予備計
測からデータパケットが確実に届く範囲を考慮し,今
回は,部屋の約半分ほどの広さを使って実験を行った。
図 6 の星印で示したところに受信側端末を置き,送信
側端末を装着した被験者は,点線に示す 1 周およそ
20 m の コ ー ス を,5 周 歩 行 す る と い う 1 セ ッ ト 約
100 m 歩行を 110 セット行った。
アドホックネットワークによる歩数計測システムの構築(中山)
47
表 1 : フィルタなしの実験結果
(単位 : 歩)
平均
標準偏差
計数器
163.46
2.87
市販品
163.78
3.05
Sun SPOT
162.50
3.04
表 2 : 合成加速度にフィルタの実験結果
(単位 : 歩)
平均
標準偏差
計数器
160.93
3.48
市販品
161.33
4.10
Sun SPOT
159.72
3.25
図 6 組込システム開発研修センター
表 3 : 各軸加速度にフィルタの後で合成の実験結果
(単位 : 歩)
平均
標準偏差
計数器
161.31
3.00
市販品
161.46
3.09
Sun SPOT
160.85
3.07
図 7 実験に用いた機器
実験では,計数器による歩数カウントを基準データ
として,市販の歩数計(シチズン TR10),そして本
稿で提案する Sun SPOT 歩数計を同時に装着し,歩数
計測の正確性を検討した。使用した機器を図 7 に示す。
4.2 実験結果
実験は,Sun SPOT に搭載する歩数検出アルゴリズ
ム(a)
,(b)
,(c)の 3 パターンを行った。
(a)フィルタなし
(b)合成加速度にフィルタをかけたもの
(c)各軸加速度にフィルタの後で合成したもの
実験結果の統計値を表 1, 2, 3 に示す。期待値(平均)
については,市販品が若干大きく,Sun SPOT は若干
小さい。また,ばらつき(標準偏差)については,市
販品が若干大きく,Sun SPOT は若干小さい。さらに,
図 8 の度数分布について比較するため,各々の平均に
表 4 : 3 パターンの検定結果
市販品
Sun SPOT
(a)
accept
T=2.77
reject
T=5.14
(b)
accept
T=2.34
reject
T=8.61
(c)
accept
T=2.08
accept
T=3.27
差がないという仮説,および差があるという対立仮説
を立て,有意水準 α を 0.1% とした両側検定を実施し
た。自由度 109 の t 分布は ; t109R0.001 W ;であり,検定
統計量の絶対値が下回れば,仮説は棄却されない。表
4 に検定結果と検定統計量の絶対値 T を示す。表 4 よ
り,市販品については,(a)∼
(c)のすべてで差があ
るとはいえない。また,Sun SPOT については,(a)
と(b)が差があるが,(c)は差があるとはいえない。
すなわち,(c)各軸加速度にフィルタの後で合成した
歩行検出のアルゴリズムを搭載することで,歩数計と
48
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
しての精度を確保することが出来たといえる。
今回,3 軸をまとめてから加重平均フィルタをかけ
(a)フィルタなし
るよりも,各軸に加重平均フィルタをかけてから合成
すると良いという結果が得られた。そもそもフィルタ
では,時間的にランダムなノイズ値を排除して,歩行
(加速度)の周期的変化を明確化するために平滑化を
行う。よって,周期的変化が現れるかどうかは平滑化
の程度に依存する。3 軸を合成すること自体が各軸の
ランダムな影響を低減する効果があるため,合成値に
フィルタをかけると平滑化の効果が過剰に出てしま
う。そのため,フィルタなし,3 軸の合成値にフィルタ,
そして各軸にフィルタの後で合成という順で,歩行(加
速度)の周期的変化が明確化されたということが考え
られる。
5. ま と め
本稿では,Sun SPOT を用いたアドホックネット
ワークによる歩数計測システムを構築した。また,歩
行検出の実験では,3 軸合成加速度にフィルタをかけ
るよりも,各軸にフィルタをかけてから 3 軸合成を行
(b)合成加速度にフィルタ
(c)各軸加速度にフィルタの後で合成
図 8 : 歩数の度数分布
う方法について,歩行アルゴリズムの精度を検証した。
アドホックネットワークは,通常の無線 LAN よりも
占有帯域幅が狭いため,輻輳が起こりにくく,多人数
同時計測に向いている。そこで,この計測システムは,
個人で健康管理に役立てるばかりでなく,検診などの
際にも役立てることが出来ると考えられる。
なお,手軽に接続できるというアドホックネット
ワークの特性上,途中経路上においては悪意ある端末
の 参 加 に よ り デ ー タ 改 ざ ん・ 盗 聴 の 可 能 性 が あ る
[22]。そこで,実際に運用するシステムでは,計測さ
れたデータへ自由にアクセスできないように,適切な
暗号化によりデータ保護を行う必要がある。本システ
ムは,予め個人情報に基づいた算出を行っていないた
め,他のアプリケーションに比べ,保護するデータ量
が少なくて済む。具体的な方策に関して今後の検討の
余地がある。アドホックネットワークを活用すること
で,市販の歩数計とほぼ同じ精度を達成しつつ,真に
リアルタイムな歩数計測が可能となった。今後の課題
は,計測のセット数を増やして信頼度を一層上げるこ
とである。そのためには,動的閾値の導入や,アナロ
グフィルタではメディアンフィルタ,ディジタルフィ
ルタでは FIR,IIR を検討することが必要となるであろ
う。
アドホックネットワークによる歩数計測システムの構築(中山)
謝 辞
最後に,実験データの計測を手伝ってくれた,知能
エレクトロニクス学科中山研究室の研修生の現役・
OB 諸君に感謝したい。
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キャンパスネットワークにおける WAN 接続回線の広帯域化(松田)
51
キャンパスネットワークにおける WAN 接続回線の広帯域化
松 田 勝 敬*
Bandwidth of the WAN Connection Network in the Campus Network
Masahiro Matsuda
Abstract
Recently, the campus network became a high-performance and high-speed. Many computers connected
to the campus network and increased the amount of communication in the network. The campus network of
Tohoku Institute of Technology is speeding up to 1,000 Mbps, and bandwidth efficiency of the network configuration has been improved. For consideration of the improvement of the WAN connection network, we measured network traffic between the WAN connection and the Campus Network. As a result, traffic had become
the limit of the band momentarily. Now is still not affect the service, however, would be any high traffic will
affect the service. Future, using the cloud network server, it is a high performance network is necessary.
1. 背 景
インターネットを中心としたコンピュータネット
ワーク,および情報システムの急速な発達と普及によ
り,大学における学内ネットワークに対する要求も
年々高まっている。学内のすべての建物内で学内ネッ
トワーク接続ができるだけでなく,より高速なネット
ワーク接続帯域が求められるようになっている。また,
学内ネットワークに接続するコンピュータ数も増加
し,それらの通信量も増大している。
東北工業大学(以下本学)の学内ネットワークシス
テムである「基盤ネットワークシステム」は,平成
25 年 に 更 改 さ れ た1)。 そ の 結 果, そ れ ま で 主 に
100 Mbps であった学内ネットワークのエッジの通信
速度が,1,000 Mbps に高速化された。さらに,キャ
ンパス内の一部の場所ではあるが,無線 LAN の整備
も実施された。2 つのキャンパス間は,自営の光ファ
イバーで接続され,ネットワーク的にはひとつのネッ
トワークとなった。また,旧システムでは各建物毎に
L3 スイッチを配置するネットワーク構成であったが,
基幹 L3 スイッチを設置して機能を集約した。
このように,学内のネットワーク構成の効率化や帯
2014 年 10 月 22 日受理
*
情報通信工学科 准教授
域の向上が図られたが,学内ネットワークの WAN 接
続に関しては,100 Mbps の帯域のままであり帯域の
増強などは行われていなかった。本学の WAN 接続ネッ
トワーク機器などを含む「基盤サーバシステム」は,
「基
盤ネットワークシステム」と更新時期がずれているた
め,平成 27 年度稼働を目指し更新作業を進めている。
今回の更新では WAN 接続の通信速度の向上を図るこ
とになり,WAN 接続の接続先の変更と上位ネットワー
クへの接続回線の高速化を検討している。
そこで,今後の WAN 接続環境の向上を検討するた
めに,現在の学内ネットワークと WAN 接続の間のネッ
トワークトラフィックについて詳細な調査を行い,広
帯域化について検討を行った。
2. 東北工業大学のネットワークの現状
2.1 東北工業大学の概要
東北工業大学は,工学部とライフデザイン学部の 2
学部 8 学科,2 研究科 7 専攻で構成され,学生数は約
2,700 人,教職員数は約 200 名の大学である。「八木山
キャンパス」と,長町キャンパス」の 2 キャンパスか
ら構成され,キャンパス間は直線で,2 km 程離れて
いる。両キャンパスの主な建物は合わせて 14 棟あり,
仙台市街のサテライトキャンパスなどその他附属施設
52
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
などからなる。
は,学内ネットワークへの接続は,Web 認証により
本学の関係者しか接続できないようになっている。し
2.2 学内ネットワーク
本学の学内ネットワークである「基盤ネットワーク
システム」は,大学全体の基幹 L3 スイッチ,主な建
物に設置されている建物基幹 L2 スイッチ,エッジに
配置されたフロア L2 スイッチの 3 階層の構成である。
(図 1)
。フロアスイッチから各部屋へは,1 Gbps の帯
域で接続できる。
八木山キャンパスと長町キャンパスの 2 キャンパス
は,自営のシングルモード光ファイバーで接続されて
いる。キャンパス間の通信帯域は 10 Gbps である。
学内ネットワークでは,サーバやルータ,プリンタ
などは,固定 IP アドレスが付与されている。一般的
なパソコンなどの端末は,DHCP によって IP アドレ
スが付与される。また,今のところ学内ネットワーク
と WAN の接続は,一部のサーバなどでは,WAN か
らの接続も許可しているが,原則として WWW 接続
のみとなっており,PROXY を経由しての接続である。
食堂やロビーなどの共用スペースおよび教室では,
学内ネットワークへの接続は MAC アドレス認証によ
り,接続端末の制限をしている。各研究室や事務室で
かし,研究室などで,ルータなどを設置している場合
は,接続制限や認証の影響を受けずに端末などの接続
が可能である。
無線 LAN のサービスは,学内の一部の場所でサー
ビスを提供しており,全キャンパスでの接続サービス
は行っていない。そのため,学生,教職員ともに学内
ネットワークにおける無線 LAN の接続は,食堂やロ
ビーなどでしか利用することができない。各研究室な
どで,自前の無線 LAN-AP の運用は許可しており,
多くの無線 LAN-AP が稼働していると思われる。
2.3 WAN 接続
本 学 の WAN 接 続 回 線 は, 本 学 学 内 LAN か ら
TOPIC2),SINET3)を経由してインターネットに接続
されている(図 2)。現在 TOPIC とは商用の Ethernet
専用線サービスを利用して,仙台 NOC と八木山キャ
ンパス間を接続している。
平成 27 年度からは,TOPIC を経由しての接続から,
直接 SINET のデータセンターへの接続に変更する予
定である。
図 1 基板ネットワークシステムの構成
キャンパスネットワークにおける WAN 接続回線の広帯域化(松田)
53
図 2 学内ネットワークと WAN 接続の概要
現在は,TOPIC の NOC と本学の間は,上り下りと
も 100 Mbps の帯域で接続されている。SINET のデー
タセンターに接続する際は,当初は 1 Gbps での接続
を予定しているが,将来的には 10 Gbps への接続変更
も視野にいれて計画を立てる必要がある。
2.4 サーバ環境
現在本学の基幹サーバ群は,学内の DMZ にオンプ
レミスで設置されている。一部の学科の WWW サー
バが学外のホスティングサービスを利用しているが,
ほとんどのサービスは,学内 LAN に接続されている
サーバから提供されている。
パブリッククラウドや,SINET 直結のデータセン
ターなどの利用は現在のところほとんど無いため,
WAN と学内ネットワーク間の回線帯域はそれほど広
帯域でなくても十分であると考えられる。
3. WAN 接続のトラフィック測定
3.1 トラフィックの測定
本学の現在の WAN 接続について,トラフィックア
ナライザおよびキャリアによる専用線サービスの管理
サービスを用いて,トラフィックを測定した。
トラフィックアナライザ4) では,1 sec 毎の bit/sec
を 測 定 し た。 ト ラ フ ィ ッ ク ア ナ ラ イ ザ は, 本 学 の
WAN 側ルータの下流側と IPS の間に設置された L2
スイッチに設定した,ミラーポートと接続した(図 3)。
学内ネットワークと WAN とのトラフィックについて,
WAN から学内ネットワークへのトラフィックと学内
ネットワークから WAN へのトラフィックの双方向の
測定をおこなった。
専用線サービスの管理サービスでは,5 分および 30
分毎の bit/sec の平均値を得ることができた。グラフ
表示による結果(図 4)の他に,CSV ファイルで値を
取得することもできる。
3.2 曜日によるトラフィックの比較
本学は土曜日と日曜日が休業日となっており,特別
な行事がない場合は授業などは行われていない。そこ
で,平日と休日のトラフィックを比較するために,一
週間のトラフィックを測定し,曜日毎に比較,検討し
た。
54
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
は時刻である。9 月 4 日(木)から 9 月 10 日(水)
までの一週間の測定結果である。学内ネットワークと
図 3 基盤ネットワークシステムの概要
図 4 専用線管理サービスのグラフ表示
トラフィックアナライザによる測定結果を,図 5, 6
に示す。図 5 は,WAN から学内ネットワークへのト
ラフィックの測定結果を示す。図 6 は学内ネットワー
クから WAN へのトラフィックの測定結果を示す。そ
れぞれ,縦軸はトラフィック量を Mbps で示し,横軸
TOPIC との専用線は,100 Mbps の帯域である。よって,
測定結果は,100 Mbps を超えることはない。
また,より詳細なトラフィックの時間変化がわかる
ように,平日のデータとして 9 月 4 日
(木),休日のデー
タとして 9 月 6 日(土)の一日毎のグラフを図 7~10
に示す。それぞれの日毎に,トラフィックアナライザ
での測定値である。縦軸はトライフック量を Mbps で
示し,横軸は時刻である。図 7 と図 9 は,WAN から
学内ネットワークへのトラフィックを示し,図 8 と図
10 は学内ネットワークから WAN へのトラフィックを
示す。
図 5, 6 において,トラフィックを測定できていない
時間帯があった。特に 9 月 8 日(月)と 9 月 9 日(火)
の日中帯に顕著に現れている。原因については不明で
あるが,当日インターネット接続サービスに障害は発
生しておらず,トラフィックアナライザまたはミラー
ポートに関係していると考えられる。
最大値は規格では 100 Mbps となっているが,実際
は 98 Mbps の値となっている。特に WAN から学内ネッ
トワークへのトラフィックでは,ほぼ最大値の値が測
定されているが,長くても 1, 2 分の継続であった。
WAN から学内ネットワークへのトラフィックおよ
び学内ネットワークから WAN へのトラフィックのど
ち ら も, 曜 日 に よ ら ず 一 日 の 中 で は 日 中 帯 の ト ラ
フィックが多く,夜間のトラフィックが少なくなって
いることが分かる。これは,本学は業務日,休業日の
どちらも日中帯は教職員および学生が出勤,通学して
学内に利用者が増えること示しており,夜間は利用者
が減ることを示している。日本のプロバイダのトラ
フィック量は夜間に増加する傾向がある5)ことに比べ
Month/Day
図 5 9/4(木)から 9/11(水)までの WAN →学内ネットワークのトラフィック
キャンパスネットワークにおける WAN 接続回線の広帯域化(松田)
55
図 6 9/4(木)から 9/11(水)までの学内ネットワーク→ WAN のトラフィック
図 7 9 月 4 日(木)のトラフィック(WAN から学内
ネットワーク)
図 8 9 月 4 日(木)のトラフィック(学内ネットワー
クから WAN)
ると,休日も含めて夜間に学内にネットワークの利用
者が減少することが本学ネットワークの特徴といえ
る。
曜日での比較では,本学が休業日となる土日のトラ
フィックが減少していることが分かる。特に日中帯の
トラフィックの減少が,休業日で大きい。また,平日
では 6 時ごろからトラフィックが増加しはじめ 17 時
ごろから減少する傾向にある。本学の授業は,1 講時
目が 8 時 50 分から開始され,4 講時目が 16 時 10 分
図 9 9 月 6 日(土)のトラフィック(WAN から学内
ネットワーク)
図 10 9 月 6 日(土)のトラフィック(学内ネットワー
クから WAN)
に終了する。また,勤務時間は 8 時 30 分から 17 時
15 分までとなっている。平日の日中帯のトラフィッ
クの変化は授業や業務時間と関係が大きいと考えられ
る。また,土曜日も全体のトラフィック量は少ないが
同じような傾向が見られることから,土曜日にもある
程度の利用者が学内にいることがわかる。
3.3 授業の有無による変化
図 5, 6 で示した 9 月 4 日(木)から 9 月 10 日(水)
56
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
図 11 9 月 6 日(土)のトラフィック(学内ネットワークから WAN)
までの一週間は,本学では後期の授業開始前の時期で
ある。そのため,授業は行われておらず学内での学生
数も比較的少ない時期である。そこで授業が行われて
いる,10 月 5 日(日)から 11 日(土)までの一週間
について,同じくトラフィックアナライザで 1sec 毎
の bit/sec を測定した。曜日による違いがより顕著に
現 れ て い る WAN か ら 学 内 ネ ッ ト ワ ー ク へ の ト ラ
フィックについて,比較を行った。測定結果を図 11
に示す。縦軸はトライフック量を Mbps で示し,横軸
は時刻である。横軸の日については,図 5 と曜日の並
びを同じくするため,10 月 9 日 , 10 日 , 11 日の次に
10 月 5 日 , 6 日 , 7 日 , 8 日と並び替えている。曜日の
並びは図 5 と同じ木,金,土,日,月,火,水とした。
図 5 と図 11 を比較すると,特に大きな傾向の違い
は見受けられない。
3.4 測定方法による測定値の比較
3.2 では,トラフィックアナライザによる 1sec 毎の
bit/sec の測定値を示した。WAN 接続のキャリアによ
る専用線サービスの管理サービスでは,30 min 毎の
bit/sec の平均値を得ることができる。これらの測定値
から 1 sec 毎の値と 30 min 毎の値の比較をおこなった。
図 12 に 9 月 4 日(木)の WAN から学内ネットワー
クへのトラフィックの測定値を示す。薄いグラフがト
ラフィックアナライザによる 1 sec 毎の測定値を示し,
濃い折線が専用線サービスの管理サービスからの
30 sec 毎の平均の値である。
1 sec 毎の測定値では,30 min 毎の測定値では現れ
ないトラフィックの変化も測定できることがわかる。
30 min 毎の測定値では最大でも 60 Mbps 程度の値で
あるが,数秒から数分程度のバースティなトラフィッ
図 12 1 sec 毎と 30 min 毎の測定値の比較
クが常に発生しており,実際は最大値に達している時
間が存在している。
3.5 イベント発生時のトラフィック
平成 26 年 10 月 14 日(火)に,台風 19 号の影響に
より,本学の講義がすべて休講となった。この時は,
前日から台風の接近にともない,14 日朝 6 時に本学
の Web サイトやポータルサイトにてお知らせをする
ことを Web サイトで周知していた。この日のトラ
フィックについて,専用線サービスの管理サービスか
ら 5 分毎の平均トラフィックを図 13, 14 に示す。それ
ぞれ比較対象として,特にイベントなどがなかった一
週間前の同じ曜日(10 月 7 日)のトラフィックも示
した。図 13 は学内ネットワークから WAN へのトラ
フィックを示し,主に学内の大学 Web サーバやポー
タルサイトのサーバから学外の端末などへのトラ
フィックと考えられる。図 14 は WAN から学内ネッ
トワークへのトラフィックを示し,学外の Web サー
バなどへの学内の端末からのトラフィックと考えられ
る。
図 13 を見ると,休講の掲示を Web サイトおよびポー
キャンパスネットワークにおける WAN 接続回線の広帯域化(松田)
57
実際に,WAN 接続が遅くなったり帯域不足による
障害が発生したという報告などはこれまでのところな
図 13 台風による休講日のトラフィック比較(学内
ネットワークから WAN)
図 14 台風による休講日のトラフィック比較(WAN
から学内ネットワーク)
タルサイトに掲載した 6 時にトラフィックが増えてお
り,その時刻の前後のトラフィックも特にイベントが
なかった日と比べて増加している。6 時前後を除くと
台風の日は特に日中帯のトラフィックが少ないことが
わかる。これは,学内にいる学生や教職員が少ないた
めと考えられる。図 14 でも同様に,日中帯のトラ
フィックは少なくなっている。
い。本学では業務サーバなどの学外クラウドなどへの
設置は実施していないため,WAN 接続のトラフィッ
クは多くが WWW であると考えられる。このため帯
域不足の場合でも,数秒程度の一時的な通信障害や,
TCP による再送により学内ユーザは業務に支障がで
るようなことになっていないからだと思われる。
しかし瞬間的にでも,98 Mbps 以上のトラフィック
が発生しているということは,通信能力の限界まで達
していることである。そこで各曜日毎の一日のトラ
フィックの最大値を表 1 に示す。それぞれ WAN から
学内 LAN への通信に関する値である。9 月の値は図 5
とおなじ 9 月 4 日から 10 日までであり,10 月の値は
図 11 に対応した 10 月 5 日から 11 日の期間である。
授業の無かった 9 月の期間では土日は限界に達してい
ないが,授業がある 10 月の期間では,土日も限界に
達していたことがわかる。また,表 1 と同じ期間につ
いて,曜日毎に 98 Mbps 以上の値の測定値の数を調
べた(図 15)。その結果,9 月に比べ 10 月の方がすべ
ての曜日で,限界に達していた値の数が多いことがわ
かった。これらから,学内のネットワーク利用者数が
増えると,WAN 接続回線の限界に達している時間が
増えることがわかる。特に平日ではその時間が多くな
る。また,一定時間の平均値によるトラフィック計測
などでは,これらのバースティなトラフィックは測定
することができないことがわかった。
表 1 一日毎のトラフィックの最大値
[Mbps]
木
金
土
日
月
火
水
9月
98.7
98.6
75.1
92.3
98.6
98.6
98.7
10 月
98.7
98.6
98.7
98.7
98.7
98.6
98.7
4. 広帯域化に関する考察
現在の本学の WAN 接続について,広帯域化の必要
性について考察を行う。
現在の本学の WAN 接続は 100 Mbps の規格であり,
実際に測定されるトラフィックの最大値は約 98 Mbps
であった。よって,98 Mbps のトラフィックの場合は
通信能力の限界に達しているとみなすことができる。
3 章の結果より,1 sec 毎の詳細なトラフィック測定
値では限界に達している時刻もあるが,数分間の平均
値では 70 Mbps 程度の値が最大値となる。98 Mbps 以
上という限界値の値も数分続くことはなく,バースト
的なトラフィックが多く発生していることがわかっ
た。
図 15 一日毎の 98 Mbps 以上のトラフィックの回数
東北工業大学 I 理工学編 第 35 号 (2015)
58
台風による休講の Web 掲載という,学内サーバへ
よる連絡時など,学内サーバへのアクセスの集中によ
のアクセスが急増するイベントが発生した時でも,学
る帯域不足も発生していない。
内 ネ ッ ト ワ ー ク か ら WAN 接 続 の ト ラ フ ィ ッ ク は
10 Mbps 程度であり,通信帯域を圧迫することはない
ことがわかった。休講のお知らせは Web サイトへの
掲示のため,コンテンツとしての容量は通常時の本学
の Web サイトやポータルサイトの閲覧と同じである。
そのため,動画を学内サーバで公開したり,教務シス
テムによる授業登録などの場合は,もっと多くのトラ
フィックが発生することが予想される。ネットワーク
上のコンテンツの容量は増加する傾向にあるため,今
後他のトラフィックの増大が予測されるイベントにお
いて,トラフィック計測を続けることが必要である。
以上より,現在の本学の WAN 接続のトラフィック
は,瞬間的に 98 Mbps というほぼ最大値に達してい
ることがわかった。また 1,2 分この状態が継続するこ
ともあることがあり,短時間ではあるが WAN 接続の
しかし,今後は学内 LAN に接続される端末の増加
やコンテンツの大容量化が見込まれるため,さらに
WAN 接続の需要の増加が見込まれており,トラフィッ
クが最大値に達する時間が長くなることが見込まれ
る。さらにクラウドメールの導入や,ストレージの学
外からの利用サービスなど,WAN と学内ネットワー
クのトラフィックを増加させるサービスの提供が予定
されているため,現実的にはそれらのサービス提供開
始に合わせて,WAN 接続の広帯域化が必要であると
思われる。
ネットワークシステムの管理運営および本論文の作
成に協力していただいた,東北工業大学情報センター
の黒澤佳利氏,早川修司氏,佐々木宏幸氏に感謝いた
します。
帯域が不足しているといえる。WAN 接続の需要は今
後も増え続けると見込まれることから,より長時間ト
ラフィックが最大値に達するようになることが予測で
き る。 ま だ 影 響 は 明 確 に 現 れ て い な い が, 現 在 の
WAN 接続帯域では,今後帯域不足による障害が発生
することが考えられる。
2.
5. ま と め
3.
本学の WAN 接続のトラフィックについて,詳細な
測定を行い,その結果から本学の WAN 接続の広帯域
化について検討をおこなった。その結果,瞬間的では
あるがトラフィックがほぼ最大値に達していることが
あることがわかった。
現在のように学内ネットワークにサーバを設置し,
学 外 と の サ ー バ の 通 信 が 発 生 し な い 環 境 で は,
100 Mbps 程度の帯域でも大きな問題は発生していな
いことがわかった。また,台風による休講の Web に
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総務省 : 平成 26 年度版情報通信白書,
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/
ja/h26/index.html.
書誌的変遷註記 東北工業大学紀要は,昭和 40(1965)年に創刊されたが,これまでに 2 回,出版形態の変更があった。
その書誌的変遷の経過は次のとおりである。
第 I 期〔昭和 40 年 3 月―昭和 43 年 7 月〕は,合集形態により,年 1 冊,全 4 冊発行した。
第 II 期〔昭和 43 年 12 月―昭和 55 年 3 月〕は,A ~ F の主題別 6 部門に分離し,1 冊 1 論文のモノグラフ・
シリーズ形態によりそれぞれ逐次番号を付して不定期発行した。全 76 冊。部門により創刊時期・冊数
が異なる。
第 III 期〔昭和 56 年 3 月―〕からは,再度,合集形態となり,I : 理工学編,II : 人文社会科学編の 2 分
冊に再編され,年 1 回定期発行している。
巻次は継承せず,各期とも独自のナンバーをもつ。
Bibliographical Notes
on
Memoirs of the Tohoku Institute of Technology
The format of this journal has been substantially revised two times since its initial publication in 1965 :
I.
March 1965―July 1968 : A total of 4 annual issues were published under the title of Bulletin of
the Tohoku Institute of Technology.
II.
December 1968―March 1980 : A total of 76 monographs were published unperiodically. These
were classified under six fields of research lettered A through F. The starting date and the
number of the monographs differ for each field.
III.
March 1981 to date : The present series is published annually under the title of Memoirs of the
Tohoku Institute of Technology, and consists of two separate volumes : Ser. I, Science and
Engineering, and Ser. II, Humanities and Social Sciences.
Publications are numbered consecutively within each of the above formats.
編集委員長 (Editor in Chief)
野 本 俊 裕 (Toshihiro Nomoto)
編 集 委 員 (Editors)
佐 藤 夏 子 (Natsuko Sato)
柴 田 憲 治 (Kenji Shibata)
三 浦 直 樹 (Naoki Miura)
小 関 公 明 (Kimiaki Koseki)
山 田 真 幸 (Masaki Yamada)
加 藤 善 大 (Zenta Kato)
2015(平成 27)年 3 月 31 日 発行 〒 982-8577 仙台市太白区八木山香澄町 35 番 1 号
編集委員代表
野 本 俊 裕
寄 贈 交 換
事 務 担 当
東北工業大学附属図書館
☎(022)305-3177
印
笹氣出版印刷株式会社
〒 984-0011 仙台市若林区六丁の目西町 8 番 45 号
発
福 留 邦 洋 (Kunihiro Fukutome)
多 田 美 香 (Mika Tada)
行
刷
者
所
北
工
業
大
: 理工学編 第 35 号 学
堀 江 政 広 (Masahiro Horie)
東
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Fly UP