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期末日前の実証手続の実施に関す る実務指針
「期末日前の実証手続の実施に関す る実務指針」の公表について 監査委員会から答申のありました「監査委員 針として取りまとめたものであります。 会報告第72号「期末日前の実証手続の実施に関 また、本報告は、我が国企業の財務情報の信 する実務指針」」が、去る平成14年3月26日の 頼性回復のための対応策プロジェクトチーム 理事会において承認されましたのでお知らせい (いわゆるGプロ)からの報告書「我が国の監 たします。本報告は、平成12年10月12日付け 査の信頼性を回復するための提言」(平成12年 の会長からの諮問「リスク・アプローチのもと 3月22日)に応えるものであります。 で、残高確認等の監査手続を貸借対照表日前(期 なお、本報告は、改訂監査基準の実施時期に 中)とする際に考慮すべき事項及びその論理性 合わせて平成15年3月1日以後終了する事業年 を明示した実務指針について検討されたい。」 度に係る監査から適用することといたしました に対する答申であります。 が、期末日前の実証手続については既に監査実 本報告は、リスク・アプローチに基づく監査 務において実施されていることを考慮し、同日 の実施において、監査人が期末日前に実証手続 前に終了する事業年度に係る監査についても本 を実施する場合における基本的な考え方を整理 報告を適用することができることといたしまし するとともに、監査上留意すべき事項を実務指 た。 (常務理事 小宮山 賢) 監査委員会報告第 72 号 期末日前の実証手続の実施に関する実務指針 平成 14 年3月 26 日 日本公認会計士協会 1.本報告の目的 本報告は、リスク・アプローチに基づく監査の実施において、監査人が期末日前 に実証手続を実施する場合における基本的な考え方を整理するとともに、監査上留 意すべき事項を実務指針として取りまとめたものである。 -1- 2.期末日前に実施する実証手続の意義 監査基準はリスク・アプローチの考え方を採用しており、監査人は、監査リスク を合理的に低い水準に抑えるために、固有リスクと統制リスクを暫定的に評価して 発見リスクの水準を決定するとともに、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定 し、実施すべき監査手続、その実施の時期及び範囲を決定する必要がある。そして、 この監査計画の前提として把握した事象や状況が変化した場合には、監査人は適宜 監査計画を修正することが必要であり、また、統制評価手続を実施した結果、統制 リスクの程度が暫定的評価よりも高いと判断した場合には、監査人は発見リスクを 低くするために、監査計画において策定した実証手続を修正する必要がある。この ように、リスク・アプローチに基づく監査の実施においては、監査人は、実証手続 の実施時期及び範囲を、統制評価手続の結果を受けて決定することになる。 なお、実証手続は、分析的手続とそれ以外の監査手続(実査、立会、確認、証憑 突合、計算突合等の詳細な実証手続)からなる。本報告の対象となる実証手続は分 析的手続を含んでいるが、本報告は、主として詳細な実証手続に焦点を当てて記述 している。 実証手続を期末日前に実施する場合の手順は、通常、次のとおりである。 (1) 許容される発見リスクの水準と監査上の重要性に基づき、実証手続の実施時期 を期末日前と決定する。 (2) 実証手続を期末日前に実施する。 (3) ロール・フォワード手続を実施する。 (4) 期末日前における実証手続及びロール・フォワード手続の実施に基づき、期末 日を基準とした実証手続を実施する。 ここでロール・フォワード手続とは、期末日前における実証手続の結果を期末日 まで更新し利用するために、その後の期間について実施する手続をいう。 本報告の適用例としては、期末日前の一定の日を基準日とする残高の確認手続や、 実地たな卸の立会手続が挙げられる。また、債権や在庫の評価について、詳細な実 証手続を期末日前に実施することも有用と考えられる。このほかに、一定の基準日 の勘定残高又は財務諸表に対して詳細な実証手続を実施し、その後の期間は、主と して分析的手続のみを実施する監査手続を選択することなども考えられる。 なお、次のような実証手続は期末日前に行うことが可能であり、かつ期末日の実 証手続の一部として利用することができる。 ・有形・無形固定資産、投資、借入金及び資本金などの勘定の増減内容についての 詳細な実証手続 ・収益・費用勘定に適用される分析的手続、及び取引内容についての詳細な実証手 続 -2- 3.期末日前に実証手続を実施する効果とリスク 監査人は、期末日前に実証手続を実施することにより、次の効果が得られる。 (1) 期末日の財務諸表に影響を与える重要事項を早期に発見し、それを適時に検討 することが可能となる。 例えば、経営環境の変化、新しい会計基準の採用、修正を必要とする可能性の ある勘定及び関連当事者との取引状況等について、監査人は期末日前に情報を入 手することが可能となるとともに、会社に対して監査人としての指導性を発揮す ることができる。 (2) 期末日以降の監査において実証手続が集中することを防ぐことができる。 監査人は、限られた資源を効果的かつ効率的に利用して監査を実施する必要が ある。通常、監査手続実施時期を平準化することにより、監査の効率化を図るこ とが可能となる。 (3) 会社決算の早期化への対応を図ることが可能となる。 例えば、決算の早期化のために、会社が実地たな卸を期末日前に実施する場合、 監査人は、会社決算手続の状況に合わせて監査手続を実施することにより、会社 決算の早期化に対応する必要がある。 (4) 法定期限内に監査意見を表明する責任への対応が可能となる。 会社の決算体制や会計システムの整備状況等を勘案すると、監査人が期末日を 基準日としてすべての実証手続を実施するとした場合、商法等で定める監査報告 書の提出期限までに監査手続を完了することができないことが想定される場合に は、期末日前に一部の実証手続を実施することにより、法定期限内に監査意見を 表明することが可能となることがある。 一方、監査人は、期末日前に実証手続を実施することによるリスクについても十 分考慮する必要がある。すなわち、監査人が期末日前に資産及び負債項目の内容に 対して実証手続を実施する場合には、期末日に存在する誤謬を監査人が発見できな いリスクを増大させる可能性がある。一般的に、このリスクは、期末日前における 実証手続の実施時点から期末日までの期間が長くなればなるほど増大する。したが って、監査人は、期末日前に得られた監査上の結論を期末日に適用するための合理 的基礎を得るために、期末日までの期間を対象とする実証手続を計画する必要があ る。この実証手続を実施することにより、期末日において増大する可能性のある発 見リスクの水準をコントロールすることができる。 4.期末日前に実施する実証手続と発見リスクとの関係 監査人は、期末日前のどの時期に、どのような範囲で、かつ、どのような実証手 続を実施するかを、発見リスクの水準及び期末日までに実施する実証手続の内容等 -3- を勘案して決定する必要がある。 発見リスクの水準と実証手続によって得られる証明力、実施時期及び範囲を関連 付けて整理すると、例えば、次のとおりとなる。 実証手続の内容 許容可能な発見 実証手続によって得 リスクの水準 実証手続の実施時期 られる証明力 範 囲 期末日から離れた基 高くしてもよ い。 より弱い証明力でよ 準日でもよい。 より狭い範囲でよ い。 い。 (例えば、3か月前 又はそれ以前) 中 位 中程度の証明力 期末日に近い基準日 中程度の範囲 低く抑えること が必要である。 高い証明力 期末日 広い範囲 上記の表に示した「実証手続によって得られる証明力」、「実証手続の実施時期」 及び「範囲」の組合せはあくまでも例示であり、固定的なものではないことに留意 する必要がある。 すなわち、許容可能な発見リスクの水準を高くしてもよい場合でも、実際には、 「より弱い証明力」、「期末日から離れた基準日」及び「より狭い範囲」の組合せ では、監査人が要求する発見リスクの水準を満足することができない場合もある。 その場合、監査人は発見リスクを満足する水準にまで下げるために、例えば、より 強い証明力の監査手続を、期末日から離れた基準日に、中程度の範囲で実施するこ とも考えられる。なお、監査人は、各勘定の監査要点(実在性、網羅性、権利と義 務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性及び表示の妥当性等)ごとに発見リス クの水準を設定して、実証手続の実施時期を決定する必要がある。 また、監査要点ごとに実施する実証手続は一つとは限らない。さらに、監査人が 実証手続として分析的手続を実施する場合には、発見リスクの水準と監査実施の効 果と効率とを勘案して、分析的手続のみを実施するか、又は分析的手続とそれ以外 の監査手続との組合せによって実施するかを選択することになる。例えば、残高確 認等の詳細な実証手続を期末日前に実施し、分析的手続をその後の期間に実施する ことにより、監査人が必要とする発見リスクを満たすことができる。 -4- 5.期末日前に実証手続を実施するに当たって事前に考慮すべき事項 (1) 全体的監査日程と監査の効率性 監査人は、発見リスクの水準のほかに、全体的監査日程と監査の効率性を勘案 して実証手続の実施時期を決定する必要がある。例えば、内部統制の有効性の評 価が高ければ、ロール・フォワード手続を限られた範囲内で実施してもよいと考 えられるが、この場合監査人は、内部統制の有効性の評価のための統制評価手続 を十分に実施する必要がある。これに対して、内部統制の有効性の評価が低けれ ば、監査人はロール・フォワード手続を広い範囲で実施する必要があるため、期 末日前に実証手続を行うことによって、総合的な監査の効率性が低下することが 考えられる。 なお、場合によっては、監査人は、内部統制の有効性についての統制評価手続 を実施せずに、発見リスクの水準を低く抑えるよう設定した実証手続を中心とし た監査手続を、期末日を基準日として実施することの方が対象勘定の監査要点に 照らして効率的と判断することもある。 (2) 監査リスクのコントロール 期末日以降に実証手続を実施する場合には、監査人による経営環境・固有リス クの把握及び統制リスクの評価は完了している。これに対して、期末日前に実証 手続を実施する場合には、監査人は監査リスクの増大をコントロールすることの 困難性を十分に認識し、それを評価しておく必要がある。監査人はこの評価に際 して、通常、次の事項について検討する必要があり、その結果によっては、期末 日を基準日として再度実証手続を実施する必要がある。 ① 内部統制とロール・フォワード手続との関係 ロール・フォワード手続を実施するに当たって、その期間における統制リス クの程度が低いものでなければならないということは必ずしも要求されない。 しかし、監査人は、ロール・フォワード手続の期間に実施する実証手続の有効 性が損なわれていないかどうかについて、会社の統制リスクの程度を十分に検 討する必要がある。例えば、たな卸資産の受払いと保管に対して内部統制が有 効に機能していない場合には、監査人が実地たな卸立会を期末日前に実施した としても、たな卸資産がロール・フォワード手続の期間において十分に保全さ れていたという監査証拠を入手することが困難であるため、通常、監査人は、 期末日現在における棚卸資産の実在性を確かめることができない。 ② 期末日までの期間における経営環境の変化への対応 監査人は、期末日前に実証手続を実施した後、期末日までの間に経営環境が 急激に変化したことにより、経営者が財務諸表に虚偽の表示を行う可能性が高 まることもあり得ることに留意する必要がある。例えば、期初に公表した予想 利益水準の達成が困難になった場合には、利益水準の確保のために、経営者が -5- 虚偽の表示を行う可能性が高まることがある。このような変化がある場合には、 監査人はロール・フォワード手続が、監査リスクの増大に比べて有効であるか どうかを検討する必要がある ③ 期末残高との関連性 監査人は、期末日前に監査手続を実施する勘定について、その期末残高、相 対的重要性及び内容に関して合理的な予測が可能かどうかを検討する必要があ る。また、当該勘定が実証手続の基準日において適切に計上される会計制度を 会社が有しているかどうかについて検討する必要がある。さらに、監査人は、 期末日現在の残高及び期末日までの期間に発生した取引に関して、次の事項に ついて十分な調査を実施するために必要な情報を会社の会計システムが提供で きるかどうかを検討する必要がある。 ・重要な例外的な取引及び仕訳(期末日前後を含む) ・重要な変動の原因又は予測した変動が起こらなかった理由 ・勘定残高の内訳の変動 6.期末日前の実証手続により得られた監査上の結論を期末日まで延長して適 用するための手続 (1) ロール・フォワード手続 期末日前に実証手続を実施した場合には、監査人は、期末日前に検証した残高 と期末日の残高とを関連付けるためにロール・フォワード手続を実施する。すな わち、監査人は、ロール・フォワード手続自体によって得られる証明力、期末日 前に実施した実証手続によって得られる証明力、及び統制リスクの程度の相互関 係を勘案することにより、期末日において十分な監査証拠を入手できるようロー ル・フォワード手続を決定する必要がある。 ロール・フォワード手続は、期末日前において確かめた監査要点についての監 査上の結論を、期末日まで更新して適用するための合理的基礎を提供する手続で あり、通常、次の手続が含まれる。 ① 通常でないと認められる金額を判別するために、期末日現在の残高に関する 情報と、それに類似する期末日前の情報を比較すること、及びそれらの通常で ない取引を調査すること ② その他の分析的手続又は詳細な実証手続、あるいはその両方の手続を実施す ること 分析的手続と詳細な実証手続をどの程度の割合で実施するかを決定する場合に は、監査人は、通常、次の事項を検討する必要がある。 ・ロール・フォワード手続を実施する勘定の性質と監査要点との関係 ・分析的手続を実施する場合に利用する過年度の情報又は他の基準となるデータ -6- の有用性 ・詳細な実証手続を効率的に実施する上で必要な会計記録の利用可能性 ・会計記録に対して実施される詳細な実証手続の性質 ロール・フォワード手続としては、例えば、次のような手続が挙げられる。 ・期末日に特別な事項が存在又は発生しているかどうかの調査 ・勘定残高の異常な変動及び異常な取引に関する調査 ・勘定残高が予測された変動範囲内にあるかどうかの調査 ・評価勘定(例えば、貸倒引当金)の再評価 ・「サンプリングによる試査」による期末日前の実証手続の実施日から期末日ま での取引の継続記録の検証 ・その他期末日前の実証手続において発見された事項が、その後に適切に解決さ れたかどうかの調査 監査人は、これらの手続を趨勢分析などの分析的手続によって実施するか、も しくは質問、関連書類の閲覧、証憑突合等の詳細な実証手続によって実施する。 さらに、監査要点との関連としては、例えば、従来監査人が、売掛金の残高確 認を期末日を基準として実施することにより、売上高の期間帰属の検証のための 実証手続としていた場合に、新たに残高確認を期末日前に実施したとすれば、監 査人は、期間帰属の検証のために追加的な実証手続を期末日の前後に実施するこ とを検討する必要がある。 (2) 期末日前の勘定残高に誤謬が発見された場合の対応 期末日前の勘定残高に誤謬が発見された場合、監査人は、期末日現在の勘定残 高に同様な誤謬が含まれているかどうかについての予測を行う必要がある。 このため監査人は、その勘定について適用する予定のロール・フォワード手続 の内容、実施時期、範囲を変更するか、あるいは期末日現在において実証手続を 再実施するかどうかを検討することになる。 期末日現在の誤謬の可能性の予測に際しては、監査人は、通常、次の事項を検 討する必要がある。 ・期末日前で発見された誤謬の性質と原因が、期末日の勘定残高まで影響してい るかどうか。 ・その誤謬が監査の他の局面と何らかの関係を持っているかどうか。 ・その誤謬に対して、会社が後にどのような訂正を行ったか。 ・ロール・フォワード手続の実施結果(誤謬の可能性を特定することができる場 合には、それに対処するために実施された監査手続の結果も含む。)は妥当で あったか。 以上の検討の結果、期末日前の勘定残高に発見された誤謬(あるいは誤謬割合) が、期末日においても同様な状況にあると判断されるのであれば、監査人は、こ -7- れを期末日の勘定残高に含まれる誤謬金額の基礎とすることができる。 7.関連する監査手続実施時期の調整 監査手続の実施時期について、監査人は、関連する監査手続を同時に実施するか どうかを検討する必要がある。監査人は、統制リスクの程度、期末日までの期間及 び期末日に実施する具体的な監査手続等を勘案して、相互に関連した監査手続の実 施時期の調整を実施する必要がある。 監査手続の実施時期を調整すべき事項としては、例えば、次の事項が考えられる。 ・換金性の高い複数の資産勘定に対する監査手続 ・たな卸資産と買掛金のように関連する勘定と期間帰属の検証 8.中間監査時の留意点 監査人は、中間監査においても、監査リスクを一定の水準以下に抑えるように発 見リスクの水準を決定し、必要十分な監査手続の選択適用を計画・実施する必要が ある。この場合、中間監査における保証の程度は年度監査ほど高くないため、監査 人は、発見リスクの水準を年度監査に比し高めに設定することができる。したがっ て、中間監査に際しては、年度監査よりもロール・フォワード手続の保証水準を引 き下げることなどが可能となると考えられる。 なお、固定資産及び固定負債の増減項目、損益項目等については、中間監査の結 果を年度監査の一環として利用することが可能となるように、監査人は中間監査の 計画・実施において配慮する必要がある。 9.適用 本報告は、平成 15 年3月1日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。な お、同日前に終了する事業年度に係る監査についても本報告を適用することができ る。 以 上 -8-