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2 試験研究成果の概要 [PDFファイル/632KB]

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2 試験研究成果の概要 [PDFファイル/632KB]
Ⅱ
1
試験研究成果の概要
食材王国みやぎを支える農畜産物の創出
1)みやぎオリジナル品種の育成と農畜産物の創出
①
水稲奨励品種決定調査(昭和28年~,県単)
<目的>
主要農作物種子法に基づき,本県に普及奨励できる優良な品種の選定が義務づけられており,同法
の「主要農作物種子法の運用について」に基づき奨励品種決定調査を実施している。
国,県及び民間等の育成地から多数の“新系統”の配布を受け,本県に適した優れた品種を選定す
るものである。また,奨励品種決定調査で有望と認められた系統及び品種の栽培方法を早期に確立し,
迅速な普及を図る。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)基本調査(昭和28年~)
名
水田利用部
分担協力者
担当者
北川
誉紘
各農業改良
(1)本調査:奨励品種候補選定
佐藤
泰久
普及センタ
(2)予備調査:有望系統選定
菅野
博英
ー
2)現地調査(昭和28年~)
3)水稲新品種栽培法の早期確立
<成績の概要>
1)本調査では,「東北194号」,「東北糯199号」が奨励品種候補として採用された。
「東北206号」,「東北207号」,
「山形118号」,「東北204号」,「東北糯208号」を継続検討とした。予備調査では,「岩手 107 号」,「山形 123 号」,
「奥羽 416 号」,「福島 36 号」,「東北 209 号」,「山形 124 号」,「奥羽 417 号」,「東北 210 号」を継続調査とした。
2)現地調査では,「東北206号」,「東北207号」,「山形118号」,「東北204号」,「東北糯208号」を継続検討とした。
3)「つや姫」:特別栽培米基準内での高品質高収量を得るには,有機 1 発肥料の 5 ~ 7kg,有機 100 %肥料
の 5-2,7-0 が良好であると思われた。苗箱まかせによる高品質生産は期待されるが,生育初期の茎数確保
が課題であると思われた。
2
「東北 194 号」:高品質安定生産のための栽培法として,栽植密度 18.5 ~ 20.8 株/m (60 ~ 70 株/坪),
減数分裂期に追肥 N2kg/10a が有望である。今年度,収量,品質ともに良好であった幼穂形成期追肥区や 15.9
株/m 2 区は
昨年の結果と傾向が一致せず,次年度の成績も含めた検討が必要である。
<今後の課題>
・東北糯 199 号及び東北 194 号の栽培法検討
②
麦類・大豆の加工適性を重視した品種選定と栽培法の確立(平成19~,県単)
<目的>
麦類・大豆は栽培特性に加えて加工適性が極めて重要であり,実需者は成分データ以上に作業性
- 12 -
(製粉機の篩抜けの良さ,生地の扱い易さ,容器への盛り込みのし易さ,色・香りの程度等)を含め
た加工適性を重視している。また,製品のバラツキを少なくするためには,これらの特性が安定して
いることも強く望んでおり,特定の栽培条件で極めて高い加工適性を示す品種より,栽培条件が異な
っても加工適性の変動が少ない品種を好んでいる。
これらのことから,実需者との連携協力のもとで,一律な栽培条件以外に播種期や施肥量等様々な
栽培条件での加工適性検定を行い,麦類・大豆の品種選定と栽培法を策定する。
<細目課題>
細目課題名
部
1)麦類・大豆奨励品種決定調査(平19~)
名
研究担当
担当者
水田利用部
分担協力者
三上
綾子
各農業改良
(1)大豆奨励品種決定調査
安藤
慎一朗
普及センタ
(2)麦類奨励品種決定調査
石橋
まゆ
ー
内海
翔太
2)大豆系統適応性調査
3)麦類・大豆の有望系統の栽培法確立(平19~)
4)麦類・大豆の各種栽培技術の確立
<成績の概要>
1)大豆では「東北164号」が奨励品種候補として採用された。小麦では東北229号及び東山46号を有望系統
と評価した。
2)大豆においては,供試した 20 系統のうち 6 系統が再検討と評価し,麦類では供試した小麦 5 系統
をすべて再検討と評価した。
3)麦類・大豆有望系統(新品種)の栽培法確立
大豆新品種「東北 164 号」は播種期が早いほど茎長は長くなり,倒伏程度は高まった。子実重は播
種期が早いほど高い傾向であった。百粒重は 7 月 5 日播種で低くなった。品質は播種時期が遅くなる
ほど良い傾向であった。
小麦新品種「あおばの恋」の施肥試験では,窒素成分で 10a 当たり 7.5kg または 10kg の LPS40 を
基肥と同時施肥した場合,または同量の窒素成分で LP30,石灰窒素を幼穂形成期に施肥(追肥)した
場合,成熟期の稈長,穂長は慣行の追肥体系と有意差がなかった。収量は慣行を下回ったが,有意差
はなかった。石灰窒素 10kg 区では,子実タンパク質含有率が高くなり,外観品質が劣る傾向が見ら
れた。また,倒伏程度も高くなる傾向が見られた。踏圧試験では 10 月 20 日及び 11 月 10 日播種にお
いて,播種直後に踏圧を行っても出芽への悪影響は認められなかった。また,1 ~ 2 葉期に踏圧を行
っても茎数の減少は見られず,収量の悪影響もなかった。
小麦「ゆきちから」の追肥試験では,減数分裂期に窒素量で 7.5 ~ 10kg の追肥を行い,穂揃期の
追肥を省略した場合,収量や千粒重,容積重,子実タンパク質含有率,外観品質等は慣行の追肥体系
と同等であり,穂揃期追肥を省略できる可能性が示唆された。
4)大豆品種「ミヤギシロメ」および「タンレイ」では,5月 25 日~7月5日の播種期間で栽
植密
度を一定(条間 75cm ×株間 20cm)にした場合,播種期が早いほど生育量,収量が多くなった。倒
伏程度および外観品質は播種期が遅いほど優れる傾向であった。
ベンタゾン液剤の防除効果が高い草種では,1回目の中耕培土前処理で最も残草量が少なく,散布
時期が遅くなるほど防除効果は低かった。雑草発生量の多い圃場では,ベンタゾン散布時期によって,
- 13 -
全重,子実重,百粒重に違いが見られ1回目の中耕培土前で最も多くなった。本試験では,ベンタゾ
ン散布時期は1回目の中耕培土前が適し,時期が遅くなるほど防除効果は低くなることが認められた。
<今後の課題>
・小麦での有望系統の選定
・各種栽培法の早期確立
③
小麦・大麦有望系統の東北南部地域での栽培特性解明と普及促進
(平成23~25,受託・小麦・大麦品種開発コンソーシアム)
<目的>
食料・農業・農村基本計画(H22.3)では,平成32年度小麦の生産目標180万t(平成20年産88万t)
,大
麦・裸麦35万t(平成20年産22万t)とし,その目標達成には,需要に対し供給量と品種数の足りないパ
ン・中華めん用小麦品種の開発と普及,併せて麦類の収量性の増加,病害・障害抵抗性の向上,水田裏
作での栽培面積の拡大を図るものとしている。これらの実現のため,国内主産道県における麦類品種開
発研究機関が連携して優良な品種の選定と普及促進を図る。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)小麦・大麦新品種候補・有望系統の評価
名
水田利用部
分担協力者
担当者
安藤
慎一朗
内海
翔太
<成績の概要>
場内試験では,小麦「東山 46 号」及び「東山 48 号」
,大麦「東山皮糯 109 号」及び「東山裸 112 号」を供試し
た。小麦「東山 46 号」は,対照の「シラネコムギ」に比べて収量が高く,外観品質も良かったことから有望と判断
し,平成 25 年産の県奨励品種決定調査の供試品種候補とした。小麦「東山 48 号」
,大麦「東山皮糯 109 号」及び
「東山裸 112 号」は複数年次のデータによる比較を行うため,継続検討とした。
現地試験では,小麦 59 品種・系統,大麦 42 品種・系統を供試し,コムギ縞萎縮病等の土壌伝染性ウイルス病
害への抵抗性を評価した。小麦では、
「東山 46 号」と「東山 48 号」はほとんど病徴が確認されず,抵抗性は強いと
判断された。また,大麦では,供試したいずれの品種・系統でも発病が認められなかった。
<今後の課題>
・年次変動の確認と実需者,育成地分析の評価
2)消費者ニーズを取り入れた農畜産物生産技術の確立
①-1新資材,生育調整剤及び雑草防除に関する試験
(平成24,受託・(社)県植物防疫協会)
<目的>
新たに開発された資材,生育調節剤及び除草剤等の効果や副次的影響等を検討し,その実用性を
判定する。
- 14 -
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)雑草防除に関する試験
名
水田利用部
分担協力者
担当者
大川
茂範
東北農研セ
a 水田雑草管理技術
北川
誉紘
ンター,
b 畑雑草管理技術
菅野
博英
(財)日本植
c 津波被災農地の雑草管理技術
佐藤
泰久
物調節剤研
三上
綾子
究協会,
石橋
まゆ
(株)小泉商
2)鉄コーティング゙湛水直播における直播専用肥料の
実証
事
<成績の概要>
1)雑草防除に関する試験
a 除草剤 29 剤 71 処理の適用性を試験し 26 剤 70 処理について実用性あり・有望と判定した。
サーファクタント 30(ポリオキシエチレンドデシルエーテル:30%)をシハロホップブチル乳剤(商品名:「クリン
チャー EW」)に展着剤として加用することにより,5 葉期を超えたノビエに対する抑草効果を向上・
安定化させる効果が認められた。なお,イネに対する本剤の影響は認められなかった。
グリホサートカリウム塩(44.7%)液剤(商品名:
「タッチダウン iQ」
)は 5 月末までに散布することに
より,被災休耕田に繁茂したコウキヤガラの地上部を強く抑制する。また,
「東日本大震災により津波被
害を受けた農地専用タッチダウン iQ」の無人ヘリによる散布は,散布飛行幅を 5m 程度まで狭めることで
除草効果が安定し,圃場周辺部も含めた被災休耕他の除草管理に有効である。
b 大豆適用試験では,HCW-201 フロアブルは除草効果高いが,高濃度では薬害程度が強く,減収
した。NK-1101 水和剤では,薬害程度は低いが,除草効果が低く雑草害により減収した。
麦適用試験では,SYJ-100乳剤は,対象のガレース乳剤と比較し同等以上の除草効果が得られた。
薬 害 は 確 認 さ れ ず , 小 麦 収 量 へ の 影 響 も み ら れ な い 。 播 種 後 出 芽 前 及 び 1 ~ 2 葉 期 , 400 ~
500ml/100l/10a で1年生雑草に対して実用化可能と判断した。ヤエムグラにも高い効果が確認された。
c グリホサートカリウム塩(44.7%)液剤(商品名:「タッチダウン iQ」)は 5 月末までに散布するこ
とにより,被災休耕田に繁茂したコウキヤガラの地上部を強く抑制する。また,「東日本大震災によ
り津波被害を受けた農地専用タッチダウン iQ」の無人ヘリによる散布は,散布飛行幅を 5m 程度ま
で狭めることで除草効果が安定し,圃場周辺部も含めた被災休耕地の除草管理に有効である。
2)鉄コーティング湛水直播における直播専用肥料の実証
苗立本数が 80 本/㎡に近い鉄区では倒伏程度が高く,苗立本数が 60 本程度のカルパー区は倒伏程
度は低かった。直播専用肥料においても苗立数が多いと,倒伏が多くなる傾向が見られた。
<今後の課題>
・現地で問題となっている雑草種,植生管理の課題に即した新資材の選定と実用性の評価が必要。
①-2新資材・肥料の特性と肥効に関する試験
(平成 24, 受託・(社)県植物防疫協会)
- 15 -
<目的>
新資材・肥料の特性を把握し,水稲栽培への効果的な利用法について検討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)新資材・肥料の特性把握
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
本田
修三
a牛ふんたい肥併用 PK セーブ肥料試験
阿部
倫則
b基肥一発型 PK セーブ肥料試験
鈴木
剛
c「軽量楽だね- 15」の水稲への肥効確認試験
<成績の概要>
4 種類の低 PK 肥料の試験を行った結果,生育期間中の稲体中のリン酸及びカリ欠乏症状は見られ
なかった。
a ひとめぼれ専用の低リン酸,低カリ肥料2種(LP コート入り,セラコート入り)について,牛ふ
んたい肥を 350kg/10a
併用して栽培したところ,生育期間中の稲体のリン酸・カリ濃度は対照区(ひ
とめぼれ専用2号- NK 化成追肥)と差がなく,リン酸・カリの欠乏はみられなかった。生育及び収
量については,LP 入り肥料は対照区と同等,セラコート入り肥料は対照区より劣る傾向にあった。
b PK セーブ1ショットを全層および側条に施肥し,リン酸カリを減肥しても対照区(ひとめぼれ専
用2号- NK 化成追肥)以上の生育を確保しており,リン酸カリの欠乏症状はみられず,収量にも差
は見られなかった。また、PK セーブ1ショットの側条施用はリン酸施用量が少ないので栽培期間中
のブレイⅡリン酸は少ないが,経時的な減少は認められなかった。施肥法に関わらず,PK セーブ1
ショットを施用した栽培跡地土壌のトルオーグリン酸および交換性カリは,対照区と明確な差は見ら
れなかった。
c 「軽量楽だね- 15」の肥料試験では,初期生育は対照区と同等であるが,穂肥の省略により収量
や品質がやや低下する傾向がみられ,穂揃期以降の窒素の肥効に問題が残った。また,稲体や土壌の
値から,リン酸カリの施用量は,対照区(ひとめぼれ専用2号- NK 化成追肥)の半量以下であるが,
施肥と土壌からの供給で補えたものと考えられた。
<今後の課題>
・ a 及び b は年次変動について明らかにする必要がある。
①-3
新農薬による病害虫防除に関する試験
(平成24,受託・(社)県植物防疫協会)
<目的>
農業生産の安定的向上と省力化および環境保全を考慮した病害虫の効率的防除体系の確立が望ま
れている。そのため,実用化されている防除薬剤より優れた効果を有する新農薬かどうか,残効期
間,使用法,薬害等について検討し,効果が認められた薬剤を県の病害虫防除指針に採用する必要
がある。
- 16 -
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)殺菌剤・殺虫剤の効果・残効性
名
作物保護部
分担協力者
担当者
大槻
恵太
2)育苗箱施用によるフタオビコヤガの薬剤防除効果
加進
丈二
3)茎葉散布剤によるフタスジヒメハムシの薬剤防除
相花
絵里
効果
宮野
法近
鈴木
智貴
佐藤
直紀
<成績の概要>
1)現在実用化されている防除薬剤より,効果や安全性が優れた新農薬を探索するため,イネではい
もち病,ばか苗病,イネツトムシ,フタオビコヤガ,ムギでは赤かび病,黒変病,ダイズでは紫斑
病,茎疫病,マメシンクイガ,フタスジヒメハムシ,オオタバコガ,綿花ではフタスジヒメハムシ,
オオタバコガを対象に試験を実施した。殺菌剤については水稲 4 剤 4 件,麦類 2 剤 2 件,大豆 2 剤 4
件について実用性高い~実用性有と認められた。殺虫剤については水稲 3 剤 5 件、大豆 6 剤 6 件、
綿花 3 剤 4 件について実用性高い~実用性有と認められた。
2)イネの食葉性害虫であるフタオビコヤガ(イネアオムシ)に対し,育苗箱施用による殺虫剤「Drオリ
ゼフェルテラ粒剤」と「ルーチンアドスピノ箱粒剤」の防除効果を検討した。2 薬剤とも移植直後
からイネ出穂後までフタオビコヤガの発生及び食害を抑えられると考えられ,ファーストオリゼフ
ェルテラ粒剤は特にその効果が高いと思われた。
3)ダイズ子実の品質低下をもたらすフタスジヒメハムシに対し,茎葉処理殺虫剤「プレバソンフロア
ブル 5」の防除効果を検討した。結果,プレバソンフロアブル 5 はフタスジヒメハムシによる被害
粒の発生を抑えられるが,その効果はスタークル液剤と比較して低いことが示唆された.
②
ALCに代わる新たな石灰資材の開発と効果確認試験
(平成17~,受託・三菱マテリアル(株))
<目的>
新たな石灰質資材,および石灰質資材の施用方法によるカドミウム吸収抑制効果をほ場試験により
確認する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)ALCに代わる新たな石灰資材の開発と効果確認
試験
<成績の概要>
- 17 -
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
島
秀之
三菱マテリ
鷲尾
英樹
アル(株)
金澤
由紀恵
水稲の生育期間中,散布したアルカリ資材(炭カル)が土壌中で徐々に溶けることで,土壌 pH
が上昇していった。玄米中濃度については,炭カル区はもちろん,対照区の玄米中カドミウム濃度が
食品衛生法の基準(0.4ppm)を大きく下回っており,処理の有無の差はほとんどみられなかった。
茎葉部中の濃度でみると,炭カル区では対照区を下回った。
炭カルの多量施用による初期生育に対するアルカリ障害を防ぐため秋施用したが,分けつ抑制等の
障害はみられなかった。また,収量・食味への影響もみられなかった。
アルカリの多量施用による土壌の塩基バランスは,石灰飽和度は高くなるが,苦土や加里飽和度は
あまり変化しなかった。作物体中の塩基バランスも茎葉部ではカルシウムがやや増えて,カリウムが
やや減少したが,玄米中ではほとんど変わらなかった。
<今後の課題>
・炭カル利用と施用法の検討を土壌タイプの異なるほ場で継続実施
③
特殊鉄粉を用いた水稲のカドミウム吸収抑制技術の開発
(平成24~25,事業研究・農産園芸環境課)
<目的>
食品衛生法の国内基準値の改正に伴い,平成 23 年 2 月28日からコメのカドミウム(以下「Cd」)
含有量の基準値が「1ppm 未満」から「0.4ppm 以下」に引き下げられた。基準値を超えるコメの産
出量を減少させるため,現地では湛水管理に取り組んでいるが,湛水管理は土壌中 Cd 量を減少させ
る恒久対策ではない。恒久対策としての客土は費用の面,客土材の確保等の問題からも大規模な実施
は困難である。そこで,より低コストで施工の容易な,特殊鉄粉処理による水稲の Cd 吸収抑制技術
について,現地実証することを目的とする。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)特殊鉄粉を用いた水稲のカドミウム吸収抑制技術
名
土壌肥料部
の開発
分担協力者
担当者
鷲尾
英樹
東部地方振
島
秀之
興事務所登
由紀恵
米地域事務
金澤
所
<成績の概要>
現地の試験ほ場では,同一ほ場内に処理区と対照区を設けた。処理区には,Cd を吸着する特殊鉄
粉と土壌中の Cd を溶出させるための資材(溶出剤)を散布した。そして,耕起,代かきを実施し,Cd
の鉄粉吸着を促進するため 1 週間程度湛水管理を行った。
収穫期に,処理区および対照区から採取した稲体の Cd 濃度は,玄米,茎葉部とも処理間の差はみ
られなかった。効果が確認できなかった理由としては,処理作業が用水のない時期で,河川から直接
ポンプで水をくみ上げた際,用水管理がうまくいかず畦畔からあふれ出てしまったことや漏水しやす
いほ場であったことで,溶出剤の効果が十分発揮できなかったためと考えられる。
<今後の課題>
- 18 -
・処理作業環境を考慮し,ほ場を再選定して試験する。
④
畑作物におけるカドミウム低減技術の実証
(平成22~25,事業研究・農産園芸環境課)
<目的>
食品衛生法の国内基準値の改正に伴い,カドミウム(以下「Cd」)含量の基準値が「1ppm 未満」
から「0.4ppm 以下」に引き下げられた。今回畑作物については基準設定が見送られたが,すでに国
際基準値が設定されているものもあり,国内での各種調査を継続し3~5年後には再度基準値設定に
向けた審議が行われる見通しである。畑作物は酸化的な土壌条件で栽培するため,作物によっては汚
染地とされていない場所で栽培しても基準を超過する恐れがあるため,吸収低減対策を講ずる必要が
ある。そのため,アルカリ資材(苦土石灰)による土壌 pH 調整と地下潅漑を想定した下層水管理に
よって作物の Cd 吸収を低減させる技術について実証する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1) 畑作物におけるカドミウム吸収低減技術の実証
名
土壌肥料部
a ダイズにおける吸収低減技術
b ニンジンにおける吸収低減技術
分担協力者
担当者
鷲尾
英樹
農園研・園
島
秀之
芸環境部
金澤
由紀恵
c ブロッコリーにおける吸収低減技術
<成績の概要>
現地汚染土壌(土壌 Cd2.5ppm)では土壌 pH を 7.8 に調整しても,ダイズ(タンレイ)子実 Cd
を基準想定値(0.5ppm)以下にはできなかった。ニンジン,ブロッコリーについても,土壌pHをそれ
ぞれ 7.0,6.5 に上げても,可食部 Cd は国際基準値(根菜 0.1ppm,その他野菜 0.05ppm)を下回ら
なかった。
ダイズのポット試験では,土壌 pH 調整と作土の湿潤を保つ下層水管理を組み合わせた場合,土壌
pH が 7.5 程度であれば土壌 Cd3.0ppm でも,ダイズ子実 Cd を基準想定値(0.5ppm)以下に抑える
ことができた。なお,ポット試験でアズキ子実も見たところ,Cd1.7ppm 土壌を pH7.0 程度に調整
することで,国際基準値(0.1ppm)を下回ることが示唆された。
<今後の課題>
・他作物での検証
2
環境に配慮した農業技術の確立
1)温室効果ガスの排出を抑制する資源循環型農業技術の開発
①
水田単作におけるP,K減肥基準の策定
(平成21~25,受託・全農宮城県本部)
<目的>
- 19 -
最近の肥料原料の世界的高騰を受け,宮城県内においてもリン酸およびカリ等の肥料価格高騰によ
り農家経営が圧迫されており,減肥について関心が高まっている。
本研究では,可給態リン酸および交換性カリの土壌肥沃度が異なるほ場において,リン酸およびカ
リの施肥基準を変えて複数年水稲を栽培し,生育調査することにより,適切な減肥基準を検討・策定
する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)水稲単作におけるP,K減肥基準の策定
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
阿部
倫則
鈴木
剛
<成績の概要>
黒ボク土(試験前トルオーグリン酸 4mg/100g 乾土)以外の4土壌(試験前トルオーグリン酸
10mg/100g 乾土以上,黒泥土,灰色低地土,灰色低地土,褐色低地土)は処理区間(8,4,0kgP2O5/10a
施用)で茎数,穂数および精玄米重等に差は見られたものの,最高分げつ期のリン酸濃度が 1.0%前
後である事から,リン酸欠乏はないと推察した。黒ボク土では,最高分げつ期頃の稲体リン酸濃度が
低く茎数も少なかった。さらに葉色も濃いためリン酸欠乏が起きていると推察した。収量も No.5 で
はリン酸を減肥することにより,穂数が少なくなり減少する傾向が見られた。
幼穂形成期稲体カリ濃度は全ほ場で 28.4 ~ 33.3mgK/g の範囲であり,カリ欠乏の水準(20mgK/g)
よりも高かった。また,カリ減肥による一穂籾数の減少,品質および収量の低下は見られなかった。
PK セーブ施用による生育抑制,減収および品質低下の傾向は見られなかった。
<今後の課題>
・低リン酸肥沃度土壌において,中長期間のリン酸減肥が土壌リン酸肥沃度や水稲の収量・品質に
及ぼす影響の明確化
・用水等,肥料以外のカリ供給源についての評価
・低リン酸カリ成分肥料を複数年継続施用した場合の収量・品質への影響の明確化
②
土壌由来温室効果ガス計測・抑制技術実証普及事業
(平成20~24,受託・(財)日本土壌協会)
<目的>
本県農地の土壌炭素量を経時的に調査し,温室効果ガス削減への寄与程度を把握するとともに,有
機質資材の連年施用に伴う土壌炭素量・窒素量の変動を把握する。
定点調査では,県内一円60地点の農地土壌の土壌タイプ,仮比重,全炭素,全窒素量,および耕種
概要等を調査し,土壌炭素量・窒素量変動解析のための基礎データを得る。
また,基準点調査では,灰色低地土の水田および露地畑において,原料の異なる家畜ふん堆肥の連用試
験を行い,堆肥の種類と土壌炭素量・窒素量変動との関係を解析する。
- 20 -
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)農地土壌炭素等調査事業
名
土壌肥料部
a 農地土壌炭素定点調査
b 農地土壌炭素基準点調査
分担協力者
担当者
金澤
由紀恵
農園研・園
鷲尾
英樹
芸環境部
島
秀之
<成績の概要>
a
調査地点数の最も多い水田を土壌群別に比較すると,土壌炭素量及び土壌窒素量の両方で,黒泥
土と黒ボク土が高く,褐色低地土が最も低かった。また,作土層と次層を比較すると次層の方が高か
った。
地目別では樹園地の土壌炭素量が最も高く,普通畑が最も低かった。作土層と次層を比較すると,
普通畑では作土層と次層で大きな差はないが,樹園地は作土層の方が次層よりも高く,水田と草地で
は次層の方が作土層よりも高い値であった。
また,土壌窒素量は黒泥土,黒ボク土で高く, 土壌炭素量と似た傾向を示した。地目別では樹園地
が最も高い値を示し,水田,普通畑,草地ではあまり差は見られなかった。また樹園地では作土層の
方が次層よりも土壌窒素量が高く,草地は次層の方が作土層よりも高く,水田と露地畑では同程度だ
った。
アンケートの結果から,水田では,水稲を作付けした調査地点の 80%が中干しを行っていた。茎
葉の処理はすき込みと持ち出しがそれぞれ約 40%であった。また,堆肥を施用していた調査地点は
約 50%を占めていた。地目別で堆肥の施用量が最も多いのは露地畑で,平均で約 4,000 kg/10a,水田
が最も少なく,平均で約 1,000 kg/10a であった。
b 水田は連用開始から 10 年以上が経過しており,今年度の各試験区の堆肥等施用量は,わら 0.5
t/10a,牛ふん堆肥 1 t/10a,豚ぷん堆肥と鶏ふん堆肥は各 0.3 t/10a であった。収穫後の土壌炭素量
について化学肥料単用区と比較すると,各堆肥施用区は同程度,もしくはやや高い値となり,そのう
ち牛ふん堆肥区が最も高かった。また,土壌窒素量も同様の結果であった。仮比重については次層の
方が高いが,試験区間であまり差は見られなかった。
露地畑も連用開始から 10 年以上経過しており,今年度の各試験区の堆肥施用量は,わら堆肥と牛
ふん堆肥は各 2 t/10a,豚ぷん堆肥と鶏ふん堆肥が各 1 t/10a であった。収穫後の土壌炭素量は,化
学肥料単用区より各堆肥施用区で高く,そのうちわら堆肥区が最も高かった。また,土壌窒素量も同
様の結果であった。
<今後の課題>
・有機物施用と土壌炭素量の変化等の把握
③
肥料低減技術開発普及事業
(平成21~22,平成24,県単)
<目的>
世界的に肥料原料が高騰し,農家経営を圧迫している。肥料費の低減対策としては,地域の未利用有機
質資材の活用が有効である。しかし,有機質資材の無計画な施用は,一部養分の蓄積原因にもなり,作物の
生育を阻害する場合もある。高騰している化学肥料に代えて,未利用有機質資材を最大限に活用し,持続的
- 21 -
に利用するために,土壌診断に基づく総合的な施肥管理を確立する。また,土壌診断を簡素化し,県特有の
作物,土壌,気象に最適な診断を,多数こなせるような現場型の簡易診断技術を開発する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)簡易土壌診断技術の開発
名
分担協力者
担当者
土壌肥料部
2)簡易施用量決定支援システムの開発
佐藤
一良
農園研・園
本田
修三
芸環境部
<成績の概要>
1)アンモニア態窒素の定量は,簡易インドフェノールにより簡易に行うことができた。簡易法(3gL-1
硫酸ナトリウム含有希硫酸)で抽出しRQフレックスプラスで測定したリン酸とカリは,従来法と相
関があり,土壌の可給態リン酸と可給態カリを簡易測定により概ね測定できた。
2)食品たい肥から供給される全リン酸,全カリ,ク溶性リン酸,ク溶性カリの測定したところ,食品
堆肥の全リン酸に占めるク溶性リン酸,全カリに占めるク溶性カリの割合は,家畜ふんたい肥と大差
なかった。よって,土壌診断システムに,家畜ふんたい肥と同様の肥効率を使用することとした。
たい肥利用による施肥計算支援シートについて作成し,農園研で作成したみやぎの土壌診断システ
ム(そいるくん)に組み込んだ。
<今後の課題>
・土壌中の可給態リン酸,可給態カリを簡易に測定できる方法の精度向上
2)
①
環境負荷を軽減する病害虫・雑草管理技術の開発
大規模水田輪作(普通作物)における環境負荷低減のための主要病害虫制御技
術の開発(平成21~25,県単)
<目的>
環境保全型稲作栽培の作付が拡大している中で,防除圧の低下により多発傾向にある病害や,
斑点米カメムシ類などの対策強化が必要な病害虫も顕在化している。また,大規模水田輪作では
従来の畑作とは異なる病害虫の発生も見られるなど,栽培法や品種等の変遷に伴う病害虫の発生
様相の変化に応じた対策が必要となっている。同時に,化学合成農薬への依存を避け,環境保全
に対する配慮も強く求められており,これらに対応するための新たな病害虫制御技術の開発が急
務となっている。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)高品質米生産のための水稲病害防除技術の開発
2)環境保全型栽培に適応した水稲害虫管理技術の開
発
3)環境保全型栽培に適応したダイズ害虫管理技術の
- 22 -
名
作物保護部
分担協力者
担当者
加進
丈二
中央農研セ
宮野
法近
ンター,信
大槻
恵太
越
鈴木
智貴
(株),亘理
化
学
開発
佐藤
直紀
農業改良普
相花
絵里
及センター
<成績の概要>
1)イネ紋枯病を対象とした薬剤防除は,当年だけでなく翌年の発病に対しても抑制する効果が認めら
れ,その結果,当年および翌年の収量が高く維持されることを確認した。ばか苗菌汚染籾から健
全籾への伝染は,温湯浸漬後の浸漬,催芽及び出芽のいずれの工程でも起こる可能性があること
を確認した。
2)県内数地点から採集したアカスジカスミカメの個体群のうち,1 個体群について MEP およびジノ
テフランに対する薬剤感受性検定を行った。斑点米カメムシ類を対象とした殺虫剤の散布が土着
天敵のクモ類の密度に及ぼす影響は薬剤の種類によって異なることを明らかにした。フェロモン
トラップを用いてアカスジカスミカメの越冬世代成虫の発生を把握することによって,次世代の
発生時期を予測できる可能性が示された。イネツトムシの成虫のモニタリング法に用いるトラッ
プの資材費低減を目的に青色 IT シートの利用を試みたが,従来トラップに比べて捕獲精度に問題
があり,モニタリングへの利用は困難と評価した。
3)マメシンクイガに対する薬剤防除適期は,フェロモントラップの 50 %誘殺日から約 10 日後までで
あり,その時期は品種間差が小さいと考えられた。ウコンノメイガの幼虫が形成する葉巻の数か
ら減収率を推定できる可能性が示された。ムギ類をバンカープラントとして用いることでアブラ
ムシ類の土着天敵であるヒラタアブ類,テントウムシ類の密度が増強され,アブラムシ類の密度
を抑制できる可能性が示された。
<今後の課題>
・イネ紋枯病の効率的防除対策として隔年防除の有効性の継続検討
・イネばか苗病の伝染経路の解明
・アカスジカスミカメの県内個体群の薬剤感受性の解明
・アカスジカスミカメのフェロモントラップを用い発生予察手法の開発
・マメシンクイガの防除適期は把握するためのフェロモントラップの利用技術の確立
・ウコンノメイガの要防除水準の検討
②
田畑輪換による稲こうじ病の発生抑制効果の現地実証
(平成23~24,受託・中央農業総合研究センター)
<目的>
田畑輪換により畑化した後の水田ほ場では,稲こうじ病の発生が抑制される傾向があることが報告
されている。その理由として,伝染源となる厚壁胞子が圃場に残存しているが,水田の畑化により厚
膜胞子が減少すると考えられる。本研究では田畑輪換による稲こうじ病の発生抑制効果について,土
壌中に残存する菌密度と本田における発生の関係を解析すること,また薬剤防除を実施した水田と比
較することで,田畑輪換による発生抑制効果を数値として評価する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
- 23 -
分担協力者
部
1)稲こうじ病の土壌中菌密度と本田の稲こうじ病発
名
担当者
作物保護部
生との関係
2)田畑輪換年数の異なるほ場における伝染源低減効
佐藤
直紀
中央農研セ
鈴木
智貴
ンター
宮野
法近
果及び発生抑制効果の評価
<成績の概要>
イネの成熟期である 9 月に稲こうじ病の発生状況を調査した結果,復元田は連作田と比較して発生
が少なかった。土壌中の菌密度との関係については,発生が認められたほ場で菌密度が多い傾向が認
められた。しかし,田畑輪換と土壌中菌密度の関係については,復元田と連作田の土壌中菌密度に明
確な差は認められず,両者の関連性については判然としなかった。復元田での本病発生抑制効果は薬
剤による防除を実施した水田の 5 割程度と考えられた。
<今後の課題>
・田畑輪換による発生抑制メカニズムの解明
③
寒冷地における小麦の開花期予測と追加防除要否判定技術の開発
(平成20~24,受託・九州沖縄農業研究センター)
<目的>
より効率的な赤かび病防除体系を構築するため,穂の濡れや開花期の葯における赤かび病菌の
感染程度等が赤かび病発病やかび毒の蓄積に及ぼす影響を調査し,品種特性を考慮したうえで追
加防除の要否を判定する技術を開発する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)開花期予測モデルの開発と検証
名
作物保護部
2)寒冷地におけるコムギ赤かび病の追加防除要否判
定技術の開発
水田利用部
分担協力者
担当者
大場
淳司
九州沖縄農
辻
英明
研センター
神崎
正明
安藤
慎一朗
<成績の概要>
開花期予測モデルの開発と検証では,「幼穂長からの出穂期予測式」と「出穂期からの開花期予測
式」の二つの予測式を組み合わせた「幼穂長からの開花期予測式」を構築し実データでの精度の検証
を行った結果,二つの予測式を組み合わせた「幼穂長からの開花期予測式」の精度は高いことが確認
された。幼穂長調査日から開花期までの有効積算温度の RMSE はシラネコムギで 17.3 ℃、ゆきちか
らで 14.5 ℃,ナンブコムギで 28.1 ℃であり,日数の RMSE はシラネコムギで 1.4 日,ゆきちからで 1.3
日,ナンブコムギで 2.4 日であった。これらの結果から,幼穂長からの開花期予測が可能であると考
えられた。
コムギ赤かび病の追加防除要否判定技術の開発では,開花始期(1回目防除時期)後10日間のアメ
ダスデータ(降雨日数,日照時間)は2回防除の要否判断等に利用できる可能性があると考えられた。
- 24 -
一方,本年は全体的にコムギ穀粒中のDON濃度が低く,葯感染率及び防除回数とDON濃度との関係は判
然としなかった。
<今後の課題>
・幼穂形成期から開花期を予測する手法および予測式の確立(対象は寒冷地で栽培される主要コム
ギ品種)
・開花始期の気象条件(アメダスデータ)及び葯における赤かび病菌の感染程度と,赤かび病追加
防除要否判定技術の確立
④
大規模水田農業地帯における総合的雑草管理システムの構築
(平成24~26,県単)
<目的>
本県では,除草体系や作付体系の変化に応じて,問題化する雑草種が変遷し,なおかつ多様化して
きている。特に水田輪作地帯では,水稲・大豆両作の雑草管理が相互に重大な影響を及ぼしている。
一方,帰化雑草であるアレチウリやアサガオ類などに対する圃場内侵入後の有効な防除法は無く,蔓
延により複数地域の圃場で壊滅的被害が生じている。転作大豆においては,圃場の排水不良や機械装
備不足等から適切な管理作業が行われずに,一般雑草が繁茂している状況が依然多数あり,大豆収量
・品質の低下,ひいては復元水稲作の雑草問題を引き起こしている。本研究では,大規模水田農業地
帯における「難防除雑草の拡大・蔓延の阻止」と「水田輪作雑草管理法の革新」を目的とし,大規模
水田農業地帯における総合的雑草管理の実現を可能とする広域的営農システムの構築を目指す。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)特定難防除雑草のモニタリングと分布拡大リスク
名
担当者
大川
茂範
東北農研セ
評価手法の確立
三上
綾子
ンター,
2)緊急対策を要する特定難防除雑草種に対する有効
安藤
慎一朗
(財)日本植
な防除技術の開発
北川
誉紘
物調節剤研
3)管理作業診断手法の確立
石橋
まゆ
究協会,小
4)新たな管理要素技術の当県栽培環境に適した改良
内海
翔太
泉 商 事
星
信幸
(株),各農
評価と導入に向けた支援
水田利用部
分担協力者
業改良普及
センタ-,
病害虫防除
所
<成績の概要>
1)各農業改良普及センターや病害虫防除所の協力の下,水稲連作・麦作・圃場周辺も含めた水田地帯
の現地巡回調査を実施,新規 ALS 阻害剤交差抵抗性イヌホタルイの潜在的発生頻度やアレチウリの
県内分布の特徴を明らかにした。
2)水稲作のクサネムには深水管理,ピラクロニルと白化剤との混合剤・体系処理の効果が高いことを
- 25 -
明らかにした。大豆作のアレチウリには非選択性除草剤の畦間処理,土壌処理剤ではフルミオWDGの効
果が高かいこと,帰化アサガオ類には,土壌処理剤フルミオキサジンの効果が高く,生育期ではグルホ
シネート P ナトリウム塩液剤 ,DCMU水和剤の効果が高いことを明らかにした。
3)「営農要素」及び「雑草制御要素」で大別し,農家の主体性と雑草制御意識した営農要素の項目分
けを行い,大豆作雑草総合管理のためのチェックリスト項目の整理票を作成した。
4)大豆播種前の湛水処理は,タネツケバナ,コハコベ,アメリカセンダングサ,スズメノテッポウの出芽数を
増加させること,ディスク式中耕培土機はロータリ式よりも作業時間が短かく,株元まで土を寄せるこ
とで中耕培土後の残草量が少ないこと,塗布処理は雑草発生程度が 0.01 ~ 0.1 本/㎡程度であれば,
一般的な広葉雑草やアレチウリに高い効果が得られ,労働負荷は軽いが,作業後疲労は腰や右肩に見
られること等を明らかにした。
<今後の課題>
・継続的モニタリングと経時的分布変化や栽培管理履歴を基にしたリスク評価法確立および注意情報
の発信。
・ブロモブチドに偏在した抵抗性ホタルイ対策の是正と有効なクサネム・アメリカセンダングサ・ク
ログワイ対策の組み立て実証。アレチウリ防除の年次変動の確認。帰化アサガオ類は,中耕,ベンタ
ゾン液剤体系処理での防除効果検討。
・事例調査の実施。
・大豆播種前湛水処理効果の年次変動確認。ディスク式中耕は湿潤土壌での効果確認。塗布処理は事
例の蓄積。
⑤
水田内雑草の繁茂量の簡易把握による被害発生予測,除草剤散布時期の
判断基準の策定
(平成22~26,受託・中央農業総合研究センター)
<目的>
水田内におけるイヌホタルイの発生は,アカスジカスミカメによる斑点米被害を助長する。このよ
うな水田では,通常より早い出穂始から穂揃期の薬剤防除が有効とされるが,その判断基準は構築さ
れていない。また,斑点米被害の回避を目的にイヌホタルイの除草を行う場合,残草程度に応じた判
断基準は示されていない。そこで,これらの判断基準を策定するため,イヌホタルイの発生程度が異
なる県内各地の水田を調査し,イヌホタルイ発生量とアカスジカスミカメによる斑点米リスクの関係
について検討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)イヌホタルイの発生密度と斑点米被害リスクの
関係
2)イヌホタルイの除草要否判断のための斑点米被害
リスクの推定
3)斑点米被害低減のためのイヌホタルイ除草時期の
- 26 -
名
作物保護部
分担協力者
担当者
加進
丈二
中央農研セ
大槻
恵太
ンター
相花
絵里
検討
<成績の概要>
水田内におけるイヌホタルイ穂数が増加するにしたがって斑点米被害により落等する確率が高
まることを明らかにした。イヌホタルイ穂数は,水田内の特に繁茂している場所を選定して部分
的に計測することで斑点米被害リスクを評価することが可能であった。6 月下旬のイヌホタルイ発
生頻度や発生密度からイヌホタルイの穂数を推定することが可能であった。これらの 2 つの推定
モデルを組み合わせることで,除草剤による追加防除の可否を判断する手法を構築した。水田内
におけるアカスジカスミカメの増殖抑制を目的としたベンタゾン液剤処理の晩限は第 1 世代成虫
が発生する前の 7 月上旬と考えられた。
<今後の課題>
・アカスジカスミカメの寄主となる他の草種への適用の確認
3
環境変動に対応する技術の確立
1)気象変動に対応する農業技術の開発
①
水稲品種の育成(平成23~,県単)
<目的>
農業従事者の高齢化,耕作放棄地の拡大,米価の下落,米消費量の減退,産地間競争の激化など稲作を
巡る情勢は厳しさを増している。宮城県における稲作経営の安定と更なる発展を図る上で,本県での栽培に
適した生産・販売上有利な特長を有する水稲品種を開発することは重要な課題である。本課題では,耐冷
性,いもち病抵抗性に優れ,良質で極良食味な粳や糯品種,さらには,低コスト生産が可能な直播適性品
種,多収品種,加工用,多用途向きの水稲品種を育成する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)品種に関する試験
名
作物育種部
分担協力者
担当者
千葉
芳則
農研機構,
(1)品種特性調査
遠藤
貴司
各道県水稲
(2)品種系統保存
佐伯
研一
育種試験地,
(3)寒冷地育成地間相互交換系適
佐藤
浩子
系適・特検
酒井
球絵
・世代促進
2)新品種育成
(1)交配
試験地
(2)雑種集団の育成と選抜
(3)系統養成と選抜
(4)特性検定
(5)現地選抜試験
(6)生産力検定
- 27 -
<成績の概要>
「東北糯199号」(いもち病抵抗性極強,耐冷性極強,良食味系統)が,宮城県の奨励品種として
採用された。新配付系統として「東北212号」(中生早,いもち病抵抗性極強,耐冷性極強,極良食
味系統)を育成した。
<今後の課題>
・高温耐性に優れる中生・晩生品種の育成
②
気象変動を克服する高度耐冷・高温耐性・良質安定多収品種の開発
(平成21~25,県単)
<目的>
食糧の安定供給のためには,環境変化への耐性やいもち病抵抗性に優れた水稲多収品種の開発が
急務であり,平成5年,15年の冷害や平成11年,12年の高温障害の発生等気象変動が大きい中,これ
らを克服し高品質極良食味米を安定生産できる品種を早急に開発する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)高度耐冷性系統の育成
(平21~25年)
名
作物育種部
2)高温耐性・良質安定多収系統の育成 (平21~25年)
分担協力者
担当者
佐伯
研一
遠藤
貴司
佐藤
浩子
<成績の概要>
耐冷性: 高度耐冷性系統と実用品種・系統の交配後代から耐冷性極強(10)~(11)※を有し,玄米
品質がひとめぼれに優り(主に光沢および背白),ひとめぼれ並の極良食味の系統「東 1467」を選抜
した。収量性がやや劣る(ひとめぼれ対比 90%)ことから,収量および各種特性の調査を継続すると
ともに,交配母本として活用することとした。単独系統からは 16 組合せ 64 系統,雑種集団からは 5
組合せ 111 個体の有望な系統・個体を選抜した。超耐冷性系統の交配後代である東北 189 号*
2/09CV19 の B1F2 について,本田:207 個体から,稈長,草姿,収量性に注目し 34 個体を,耐冷性検
定圃場 18.0 ℃区:400 個体から,稈長 90cm 以下かつ不稔歩合 30%以下の 13 個体をそれぞれ選抜した。
また,高度耐冷性系統の特性調査から,東北 207 号,古川耐冷中母 106 および 107 は,耐冷極強(11)
を有し,稈長がひとめぼれ並に短く,穂発芽発生もひとめぼれ並に少なく,玄米品質がひとめぼれに
優るため,高度耐冷実用系統育成の母本として,他の中間母本系統より有望であると考えられた。
※H21年度東北地域研究成果情報「東北地域における水稲耐冷性“極強”以上の新基準品種の選定」による。
高温耐性:全供試系統の出穂後 20 日間の処理温度の平均値は,平均気温 30.0 ℃,最高気温 34.7 ℃,
最低気温 27.1 ℃となった。登熟期間を通じて高温であり,特に 8 月下旬は最高気温が 37 ℃を超える
日が続き,一部不稔が発生した系統があった。全般に白未熟粒の発生が多く,特に背白粒の発生程度
については供試系統間に明瞭な差が認められた。機器測定結果および達観調査結果を総合的に判断し,
「東北 192 号」及び「東北 206 号」は「強」と判定された。育成系統の中で「中」と判定された「東 1446 」(東
北 192 号/東北 195 号) は生産力検定及び特性検定結果もふまえ有望と判断し,「東北 212 号」の系統
番号を付けた。また「強」と判定された「東 1463 」(東 1159/東 1178)及び「やや強」と判定された「東
- 28 -
1450 」(東北 194 号/東北 195 号)は来年度も収量調査および各種特性調査を継続することとした。
いもち病抵抗性:いもち病高度ほ場抵抗性遺伝子 pi21 を有する「東北 209 号」を有望系統として
奨励品種決定調査に配付したところ,宮城,岩手,福島で有望と判断され継続検討となった。また,
長野,石川,山梨で新規に供試することとなった。
<今後の課題>
・高度耐冷性実用系統の耐病性,栽培特性等の改良
・耐冷性極強(11)以上を有する耐冷性中間母本系統の効率的活用
・高温耐性系統を早期に選抜する方法の検討
・葉いもち・穂いもち検定法の改善
・東北地域太平洋側の気象条件(日照不足)に適応した多収性実用系統の選抜
③
「ひとめぼれ」を遺伝背景とした耐冷性準同質遺伝子系統の育成と圃場評価
(平成20~22,受託・新農業展開ゲノムプロ
作物研究所)
(平成23~24,受託・気候変動プロ
作物研究所)
<目的>
耐冷性関連QTLであるqCT-4や新規耐冷性関連QTLを導入した「ひとめぼれ」準同質遺伝子系統及
びそれらを相互交配した耐冷性集積系統の耐冷性を評価する。また,耐冷性以外の農業実用形質の
圃場評価を行い,品種としての実用性を評価する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)準同質遺伝子系統の耐冷性及び実用性評価
名
作物育種部
2)qCT-4の遺伝子座の同定
分担協力者
担当者
遠藤
貴司
農業生物資
佐伯
研一
源研究所
3)集積系統の耐冷性評価
<成績の概要>
1)qCT-4候補領域を含む系統から,「ひとめぼれ」よりも耐冷性が向上し,実用形質がほぼ同等な
東1489を育成できたが,耐冷性の効果が明確でない年次があり再評価が必要であった。
2)qCT-4を第4染色体長腕のDNAマーカー#4~#13間の約2Mbpに絞り込むことができた。
3)「ひとめぼれ」遺伝背景で耐冷性の向上効果が確認されたqCT-4とqLTB3との間に有意な集積効果は
認められなかった。
<今後の課題>
・東1489の耐冷性向上効果が,安定的に認められるか再評価が必要である。
・耐冷性を飛躍的に向上させるには,複数のQTLを集積する必要がある。そのために,
「ひとめぼれ」
遺伝背景で効果のあるQTLをさらに見出す必要がある。
- 29 -
④
耐冷性といもち病抵抗性を兼ね備えた極良食味及び業務用品種の開発と
その普及
(平成23~25,受託・プロ
北海道総研他)
<目的>
北海道,東北地域が米の主産地として安定生産を継続していくためには,気象変動によるリスクや
病害を低減できる良質で極良食味の品種,または加工適性に優れた業務用米品種の開発が求められて
いる。本課題は,耐冷性やいもち病抵抗性,食味等が改良された有望系統について,栽培特性,地域
適応性,加工適性を重点的に評価し,その早期実用化と効率的な普及を目指す。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)中生極良食味「ひとめぼれ」に替わる中晩生高品
名
作物育種部
質うるち米品種の開発
2)中生加工用「こがねもち」に替わる中晩生高品質
もち米品種の開発
分担協力者
担当者
遠藤
貴司
北海道総研,
佐伯
研一
東北各県水
佐藤
浩子
稲育種試験
酒井
球絵
地他
3)生産現場における実証試験
<成績の概要>
1)「東北206,207,209,210号」を「ひとめぼれ」と比較した結果,「東北206号」は,玄米品質や高
温登熟耐性が優り,「東北207号」は,耐冷性や収量が優り,「東北209号」はいもち病抵抗性が強く,
食味が良く,「東北210号」は,玄米品質が良好で,食味が優った。
2)「東北糯199号」は,「こがねもち」と比較して,いもち病が強く,餅の硬化性が低いことが明らか
になった。奨励品種決定調査では,収量,品質に加え,実需者の加工適性や穂発芽性について,評価
を行い,既存品種の「もちむすめ」より諸特性が優れることから,奨励品種として採用された。
3)「東北194号」の栽培方法は,栽植密度は,18~21株/㎡程度,施肥量は,基肥をN成分5(kg/10a),
追肥はN成分2(kg/10a)(減数分裂期)が収量,品質の点で優れることが明らかになった。
<今後の課題>
・粳の有望系統は,耐冷性やいもち病抵抗性とともに,玄米品質や高温登熟耐性の強化が必要であ
る。「東北糯199号」は収量,品質を安定させる,「東北194号」は食味を安定させる栽培法の検討を要
する。
⑤
稲民間育成品種評価試験(平成24,受託
STAFF)
<目的>
県内の民間育成品種について,品種特性や適応性を評価する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1) 生産力検定
名
作物育種部
- 30 -
分担協力者
担当者
千葉
芳則
2) 耐冷性検定
佐伯
研一
3) いもち病検定
酒井
球絵
<成績の概要>
1系統の試験を受託し,生産力検定試験・特性検定試験を行い,試験結果を委託者に報告した。
2)
①
気象温暖化に対応する農業技術の開発
温暖化環境におけるイネ主要病害の発生動態と防除技術
(平成22~26,受託・東北農業研究センター)
<目的>
寒冷地における温暖化に対応したイネ紋枯病防除対策技術を開発するため,品質・収量を考慮した
イネ紋枯病の要防除水準の作成を行う。また,耕種方法と紋枯病発生の関係,特に,隔年防除を想定し,
転作年数と紋枯病発生との関係について検討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1) 品質・収量を考慮したイネ紋枯病の要防除水準の
作成
2) 紋枯病の省力防除技術の検討
名
作物保護部
分担協力者
担当者
大場
淳司
中央農研セ
辻
英明
ンター
鈴木
智貴
<成績の概要>
イネ紋枯病の被害度と玄米品質の関係について解析した結果,供試した品種「ササニシキ」,「コシ
ヒカリ」では,本病の被害度が高くなるなるにつれて整粒粒数割合および白未熟粒粒数割合が増加し
たもののその割合は小さく,「ひとめぼれ」については本病の玄米品質に対する影響は認められなか
った。省力的防除技術の検討では,前年収穫期の発病株率の多少によって本年の被害度に影響を及ぼ
し,箱施用剤による予防防除によってその影響は軽減できることが明らかとなった。すなわち,前年
の発病株率から次年の箱施用剤による予防防除の必要性を判断できる可能性が示唆された。
ほ場の栽培履歴と紋枯病発生の解析結果から,復元田において紋枯病の発病が軽減できる可能性が
示唆された。
<今後の課題>
・紋枯病と白未熟粒発生の相互関係を解析するとともに,寒冷地における減収・品質低下を考慮し
た紋枯病の要防除水準作成のための基礎データの蓄積
・前年収穫期の発病株率から本年育苗時の予防防除の必要性を判断するための基礎データの蓄積
4
効率的な農地利用のための技術の確立
1)効率的なほ場基盤の確立
①
みやぎ型ほ場整備計画・整備手法の確立に向けた作業効率の検討
(平成22~24,事業研究・農村整備課)
- 31 -
<目的>
現在全ての公共工事において経済効果算定が事業の実施指標になっているが,農業農村整備事業の
経済効果算定は機械作業効率などの計画指標が古いデータに基づいているため,実態と乖離している。
本課題では,ほ場整備事業の費用対効果評価の基礎資料として利用できる最新農業機械の利用実績を
もとにした独自の機械作業効率指標を作成する。3年間で作物,作業種別,所有農業機械により区分
する経営規模ごとの作業効率の測定を行う。本年度は,これまでに未取得の項目と主要作業で複数回
調査が必要な項目について調査を行う。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)作業効率調査メニューの選定・計測
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
鈴木
和裕
鈴木
辰也
平
直人
星
信幸
<成績の概要>
本年度はこれまでの未取得の項目,及び主要作業につき複数回の調査が必要な 14 項目について調
査した。今回の調査により未取得の項目はあるものの,営農モデルの作成に必要なデータを蓄積した。
②
ため池湛水試験観測手法の確立
(平成22~24,事業研究・農村整備課)
<目的>
新規造成ため池及び老朽ため池改修においては,工事完了後に安全確実に貯水可能かどうか判断
するための試験湛水を実施し,安全確認後に管理者へ引き継ぐ必要がある。しかし,ため池の試験湛
水観測手法については,全国統一の基準が制定されていない。そこで,県内で統一された試験体制の
構築が求められている本課題において,観測手法の確立及び観測マニュアルの整備を行う。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
ため池湛水試験観測手法の確立
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
鈴木
辰也
王城寺原補
償工事事務
所
<成績の概要>
平成 24 年 11 月~ 12 月,観測体制マニュアル(案)を基に最低水位→常時満水位→最低水位の範
囲で湛水試験を実施した結果,貯水位・地下水位,漏水量,鉛直・水平変位の時系列図等に特異挙動
が見られないことから,ため池が安全側であることが確認できた。他のため池の試験湛水時にも,こ
れら項目を観測し時系列図等を作成して評価することにより,ため池の安全性を判断できると考える。
- 32 -
③
暗渠の地下灌漑機能を利用した生産環境の制御
(平成23~27,県単)
<目的>
地下灌漑が暗渠もみ殻疎水材の劣化抑制や干ばつ年・湿潤年に対する転換畑大豆の安定的生産が可
能となることが確認されている。今後,乾田直播の水深や有機質土壌の基盤管理,塩害対策など水田
の生産環境を維持改善するための多目的活用技術の確立を図るものである。
本年度では,東日本大震災による津波被害を受けた未整備ほ場において,除塩後の土壌 EC 等の変化
を分析し,縦浸透法の除塩効果について調査する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)暗渠排水を利用した除塩手法の確立
名
分担協力者
担当者
土壌肥料部
平
直人
東部地方振
a 縦浸透法による除塩効果の検証
鈴木
辰也
興事務所農
b 転作大豆ほ場における塩害抑制技術の検証
鈴木
和裕
業農村整備
部
<成績の概要>
a
層位別土壌 EC の変化を考察すると,下層土まで含めた縦浸透法による除塩の効果は明確ではな
かった。湛水や降雨による除塩を行っても,排水性によりほ場内で土壌 EC の動態にばらつきが見ら
れた。
b
簡易な地下灌漑により,作土の塩分上昇を抑制することができ,下層土の塩分は除去された。対
照区で畝間灌漑が行われたため,塩害抑制の効果は見ることはできなかった。
<今後の課題>
・整備済みほ場での本暗渠を利用した縦浸透法除塩の下層土までの効果についてモニタリングが必
要であり,次年度は残存塩分の高い整備済みほ場にて検証を行う。
・通水溝は土砂堆積,雑草繁茂により通水阻害をおこすため,維持管理が必要である。今後は,有
機質土壌水田における地盤沈下の抑制効果について実証する。
④
汎用化水田をより効果的に活用するための営農排水技術の開発
(平成23~26,事業研究・農村整備課)
<目的>
宮城県では汎用化水田において広く大豆生産が行われているが,その単収は全国・東北平均と比べ
低い状況にある。本課題では競争力のある収益性の高い農業を実現するため,汎用化水田の機能を発
揮させ,作物の生育に適した基盤条件を整えるため,効果的な排水手法の確立を目指す。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
- 33 -
名
担当者
分担協力者
1)既存の営農排水技術の効果検証と効果的な施
土壌肥料部
工法の確立
2)汎用化水田の高度利用に向けた新たな排水性
向上技術の開発
水田利用部
鈴木
和裕
鈴木
辰也
平
直人
星
信幸
<成績の概要>
1)接続区では非接続区に比べ,降雨後の地下水位の低下が促進され,夏期の乾燥の上限が 10 ~ 30%
程度上昇した。また,大豆作付け後では両区ともほ場浸透能は増加したが,特に接続区では非接続区
に比べ 1.6 倍程度の増加がみられた。明渠と弾丸暗渠を接続することによりほ場の乾燥が促進された
ことから排水不良畑の排水性向上技術として活用できる可能性が示唆された。
2)空気孔を開閉させることによる排水強度への影響は,ほ場の区画や暗渠の密度により異なると考え
られる。大区画ほ場においては空気孔を開放することによって排水強度は降雨量 30mm 未満の降雨,
集中豪雨時に大きくなる一方で,台風など総降雨量と降雨強度がともに大きい降雨では低下すると推
定された。
<今後の課題>
・年次反復,排水不良な条件での検証,適応条件の整理
・大区画ほ場での検証,要因の解析等
⑤
農業農村整備事業における環境配慮施設の効果検証及び管理手法の確立
(平成24~27,事業研究・農村整備課)
<目的>
土地改良法の改正により農業農村整備事業実施にあたっては,環境との調和に配慮することが義務
づけられ,これまで数多くの生き物調査が行われ,環境配慮施設が設置されてきている。しかし,工
事実施後の事後調査はほとんど行われず,事業による生態系への影響や環境配慮施設の効果が十分に
検証されていない。事後調査を実施することにより,今後の事業計画へ反映できる環境配慮手法の確
立を目指す。
本年度は,ほ場整備事業等で設置された既存環境配慮施設のデータベース化と生き物調査を実施し,
効果検証を行う。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
農業農村整備事業における環境配慮施設の効果検証
及び管理手法の確立
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
平
直人
鈴木
辰也
鈴木
和裕
<成績の概要>
環境配慮施設において,総個体数と指標魚種には相関が見られた。また,魚道,ビオトープ,ワン
ドの施工により,総個体数,指標魚種とも多く確認され,環境配慮施設設置の効果が大きかった。
- 34 -
<今後の課題>
・環境配慮施設が与える面的な環境復元状況の検証と適切な管理手法の確立に向けて,次年度以
降も継続調査する。
⑥
既設農業用水利施設のコンクリート供用年数の推定手法の確立
(平成24~26,事業研究・農村整備課)
<目的>
農業農村整備事業により造成された農業用水利施設は,近年,老朽化施設が増大し,計画的な施設
の更新・維持補修の対応方法が大きな課題となっている。なかでも,農業用鉄筋コンクリート水路(二
次製品)については,老朽化の程度を判断する指標がなく,供用年数を把握する手法が求められてい
る。
本年度では,設置年数の異なるコンクリート二次製品の圧縮強度,超音波伝播速度についてサンプ
リングを行い,関連性を調査するものである。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
既設農業用水利施設のコンクリート供用年数の推定
手法の確立
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
平
直人
鈴木
辰也
鈴木
和裕
<成績の概要>
排水フリューム頂上部の圧縮強度と超音波伝播速度の測定により,劣化度を判定し,供用年数推定
式を算出した。推定式により,頂上部圧縮強度の測定することで,残供用年数を推定することができ
る。
<今後の課題>
・排水フリューム以外の基幹的施設についても調査し,施設毎の供用年数推定式の算出が必要で
ある。また,底版部は使用状況により劣化度合いが異なるため,次年度以降もデータを蓄積する。
2)水田の高度利用技術の確立
①
地下灌漑制御システムを活用した寒冷地水田生産性向上技術の開発
(平成22~26,受託・中央農業総合研究センター)
<目的>
寒冷地の転換畑では,水稲収穫後の天候や切替作業がスムーズに行えないため麦の作付は少なく,
麦を作付けした場合でも,大豆との作期が重なることから麦単作となる。また,作付が拡大している
大豆は,梅雨期に当たるため中耕培土などの管理作業が困難なため、湿害や雑草のシードバンクが顕
在化し低収要因となっている。さらに,水田輪作では,大豆後水稲栽培の倒伏や食味低下,田畑輪換
に伴う地力低下などのリスクを抱え,転作地の安易な固定化や荒廃化への懸念もあり,これらの課題
- 35 -
が寒冷地水田農業の高度化・低コスト化を阻む潜在的要因となっている。
地下灌漑制御システムは,土壌水分調整機能を有した水田の汎用化手法であると同時に作物の潜在
的生産能力を調整しうる手段として期待されている。そこで,これまで取り組んできた逆転ロータリ
+汎用播種機を使った水稲+麦+大豆の低コスト・省力的な2年3作体系を基軸として,地下灌漑制
御システムによる,より生産力の高い水田輪作体系を実現するため現地実証により効果検証する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)作物潜在能力拡大技術の開発
名
水田利用部
分担協力者
担当者
星
信幸
中央農研セ
a麦・大豆
三上
綾子
ンター
b水稲
安藤
慎一朗
a)
乾田直播栽培
内海
将太
b)
移植栽培
大川
茂範
2)高生産水田輪作体系(3年4作体系)の実証・検証
a現地実証調査
農園研
情報経営部
b FOEAS 導入による施工経費抑制効果の検証
農園研
伊藤
和子
石川
志保
3)経営評価
<成績の概要>
1)地下灌漑による生育制御について,水稲乾直では苗立ちの良さが未だ収量・品質の向上に結びつい
ていない状況にある。麦では追肥時期の灌漑による品質向上が見られた。また,大豆では生育中期(播
種後30日~開花期)の連続灌漑,及び開花後の土壌pF2.7時期の一時灌漑など生育制御のための灌漑
時期・方法を明確にすることができた。
2)現地実証を通じてFOEASシステムによる灌漑方法について,農家の理解に時間がかかりマニュアル
の必要性を感じた。輪作実証では3年目で安定した栽培が可能になってきたが,水田圃場の維持(漏
水・均平など)のためには,定期的に慣行の代掻き移植栽培を組み入れるのが望ましいと考えられた。
現地実証で地下灌漑による大豆の生育制御を試みたが,揚水期間や間断運転などにより実際に水位を
保つことが困難な現地が多く,必要な時期に一時灌漑を可能にするような対応が必要とされた。現地
組織では大豆だけの転作組織であったが,FOEASシステムの導入と本実証により小麦・乾直水稲とも
生産意欲が増し,実証圃場(各1ha)以外にも作付面積を3~4ha増やし定着してきている。
3)M組織のFOEAS施工圃場における野菜類および大豆の利益を試算し、FOEAS導入の効果を示すととも
に、排水路管理作業の負担軽減効果を評価した。アンケート調査の結果、FOEASについての全体的な
評価は高かったが、「水稲乾田直播の導入のしやすさ」について改善度が高かった。また事例調査に
よってFOEASが導入された水田が有効活用されるための条件は①地下灌漑機能の十分な理解、②能動
的な取り組み姿勢と目的の明確化③収益と労働力の確保、④関係機関等による支援体制⑤まとまった
規模での導入、⑥通水期間の拡大、といった項目が考えられた。
<今後の課題>
・作物潜在能力拡大技術の開発
・高生産水田輪作体系への利用
- 36 -
②
寒冷地水田における飼料用稲-麦二毛作体系の開発と実証
(平成22~26,受託・畜産草地研究所)
<目的>
水田における自給飼料の一つとして稲発酵粗飼料は,国の政策とこれまでの総合的な研究開発に
よって約 800ha にまで作付面積が拡大した。これまで飼料用稲と飼料用麦類について単作での研究を
行ってきたが,より粗飼料自給率の向上や水田の高度利用を図るためには,稲-麦二毛作体系への検
討が必要である。また,飼料用稲拡大のため,課題とされている漏生イネなどによる食用米への混入
リスクを軽減する技術の検討も必要とされている。
そのため,寒冷地水田における麦類(大麦、ライ麦、ライ小麦等)の収穫ステージと収穫方法によ
る収量性と発酵粗飼料の品質への影響を解明する。さらに,飼料用稲栽培と飼料用麦類の収穫作業の
分散、平準化を図るため,稲-麦二毛作体系における水稲と麦類の品種や収穫方法の組み合せを検討
し,この最適品種の組み合せについて,コントラクターを活用した稲-麦二毛作体系を飼料用稲栽培
が定着している現地転作団地で実証する。また,良質米生産地域における飼料用稲の漏生による食用
米への混入リスクを軽減・回避する技術として,茎葉蓄積型専用品種を用いた省力的移植栽培や乾直
栽培技術を検討し,水田輪作団地への飼料用稲の導入方策を検討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)水田転作団地での稲・麦二毛作体系の開発(平22
~26年)
名
水田利用部
分担協力者
担当者
星
大川
信幸
茂範
畜産草地研
究所
a 麦類の収穫時期・方法による収量品質への影響
安藤
慎一朗
畜産試験場
b 省力的二毛作栽培の組合せの検証と実証
内海
将太
2)水田輪作団地への稲 WCS 導入技術の開発(平22
~26年)
a 輪作リスク軽減技術体系の開発
b 茎葉蓄積型専用品種の省力栽培技術の検討と実証
<成績の概要>
1)-a
飼料用麦類の品種比較で 2 条大麦及びライ麦 1 品種で雪腐れが発生し収量性が低下した(図表
略)。保管期間による品質への影響については、水分が約 80%の高水分サイレージであったが、夏季
の高温による変敗は見られず、おおむね良好であった。しかし保管期間が長くなるとラップフィルム
の破損による不良発酵が一部で見られた
1)-b
大麦 WCS は、「堆肥+尿素+追肥 1 回」を標準施肥として乾物収量 0.7t/10a が確保できた。現
地実証の稲麦二毛作では水稲乾直及び乳苗移植でも目標収量 1.6t/10a 確保が可能となった。
2)移植栽培におけるリーフスターは、穂数を多くするより茎の充実度を高める方が乾物収量が高まる
ことが確認され、栽植様式は、植付株数 50 ~ 60 株/坪、植付本数3~5本/株(6 月上旬移植では
5本)とし、生育後期に肥効が高まる堆肥を中心とした肥培管理が適応すると考えられる。
リーフスターの出穂後の稲体水分は、出穂後 10 日で 71.8 %、降雨の影響がなければ、稲体水分は
出穂後 14 ~ 20 日頃までに 70 %を下回ることが考えられた。登熟経過は、穂重割合が増加したもの
の,地上部乾物重には差が認められなかった
- 37 -
前年作 WCS 収穫時の落下籾を仮定して春季にリーフスターの種子 500 粒/㎡で散布した場合、発生
本数は通常除草剤区で 10 株/㎡程度であった。籾はしいなが多くを占め,玄米が食用品種に混入した
場合の割合は 1 %以下であった。
<今後の課題>
・水田転作団地における自給率向上に向けた水田の高度利用による稲・麦 WCS 二毛作
・水田輪作団地への茎葉蓄積型飼料用稲専用品種による稲 WCS 導入拡大
3)水稲の多目的生産技術の確立
①
「げんきまる」における低コスト省力栽培方法の確立(平成24~26,県単)
<目的>
県内の復元田における水稲栽培は「まなむすめ」「ひとめぼれ」等を中心に移植栽培や直播栽培
にて行われている。しかし,倒伏による品質低下等において問題が生じているため,より耐倒伏性
の高い「げんきまる」における低コスト省力栽培について検討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)栽培特性の把握
名
水田利用部
追肥時期の違いによる収量性と登熟歩合の検討
分担協力者
担当者
菅野
博英
佐藤
泰久
大槻
恵太
鈴木
智貴
2)低コスト省力栽培の検討
直播栽培における栽培特性の把握
3)病害虫発生状況の把握と防除対策の検討
作物保護部
<成績の概要>
1)早期移植の方が収量性高く,追肥の効果による精玄米重や登熟歩合の向上は,復元田の場合効果
が低いと思われた。倒伏を考慮すると成熟期の稲体窒素吸収量が 15 ~ 16gN/㎡が目安と考えられる。
2)「げんきまる」は「ひとめぼれ」と比較し,収量,品質及び倒伏性において直播栽培に適してい
ると考えられたが,登熟期が遅いことから気象状況によっては登熟不良になる可能性が示唆された。
栽培方法別では,点播が有望と思われた。
3)病害虫発生状況の把握と防除対策の検討
イネツトムシの防除薬剤としてスピネトラム水和剤,テブフェノジド水和剤,カルタップ水和剤の 3
剤が有望であると思われた。
<今後の課題>
・耕種的管理による登熟歩合の検討
- 38 -
5
省力・低コスト軽労化技術の確立
1)省力・低コスト化技術の開発
①
低コスト化を目指した新たな水稲栽培技術体系の確立(平成22~24,県単)
<目的>
担い手農家の減少による労働力の低下や農地集積による大規模化,農作業の集中化などが進んで
きている。また,法人や生産組織等においては,耕作面積が拡大しており育苗にかかる労力やハウス
等施設が受託面積の拡大を妨げる大きな要因となっている。さらに,下がり続ける米価やリン,加里
など肥料費の高騰等により,10a 当たり農業所得は減少の一途をたどっている。
昨年,
「普及に移す技術(参考資料)」となった「常時被覆による簡易な無加温出芽乳苗育苗」は,10
日程度で田植えができ,育苗ハウスの効率的利用により固定費等の削減が期待される。そこで,常時
被覆簡易乳苗と育苗箱全量施肥などを組み合わせた,新たな水稲栽培技術を確立し,育苗ハウスの2
回転利用や必要箱数及び肥料施用量の削減などにより低コスト化を図る。
加えて,疎植栽培は育苗箱(苗)数の大幅減少が可能であり,育苗管理や移植時の大幅な労力軽減
に繋がるとともに,既存育苗施設(ハウス)の削減や効率的な活用も可能となる。このため,乳苗及
び稚苗を用いた疎植栽培技術の確立を目指す。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)常時被覆簡易育苗及び育苗箱全量施肥による水稲
名
水田利用部
分担協力者
担当者
佐藤
泰久
栽培技術
2)水稲疎植栽培の基本技術
<成績の概要>
1)ハウスの2回転利用を想定した,基肥全量施肥による乳苗の精玄米重は,5月下旬移植では,5月
上旬移植に比べやや低下するが,慣行となる5月上旬の基肥全層の稚苗に比べやや多いか同等であり,
ハウスの2回転利用は十分可能である。
乳苗の苗箱全量施肥による疎植栽培(11.1 株/㎡)は,基肥窒素量 5kg/10a 区では整粒歩合がやや低
くなるものの,5月上旬移植では多収となり,実用可能と考えられた。しかし同 3.5kg/10a 区の場合
は,精玄米重が低下し,基肥窒素量は 3.5kg/10a では不足である。
育苗試験では,苗箱当たりの現物施肥量が多くなると床土量が減ることから,マット強度が弱くな
る傾向がみられた。
2)5月上旬疎植栽培(11.1 株/㎡)における精玄米重は,中苗及び稚苗で慣行稚苗(18 株/㎡)と差は
あまり見られず,乳苗でやや低くなる年次があった。5月下旬移植の精玄米重は,5月上旬移植より
も低くなる傾向があるが,年次によっては多収となるなど年次変動が見られる。低収となる要因は,
登熟歩合が低くなったことによった。
環境保全米栽培で用いられ省力化につながる有機質一発肥料を乳苗疎植栽培に用いたところ,精玄
米重は慣行肥料区と同等~増加となり,疎植栽培への利用は可能である。
<今後の課題>
- 39 -
・移植時期の違いによる生育量の推移,収量等の年次変動の検討
・肥料の種類及び量と生育量,品質等の年次変動の検討
・ 全栽培技術を組み合わせた最適な体系の確立とコストの検討
②
水稲栽培における追肥の省力化・軽労化技術の確立
(平成22~24,県単)
<目的>
水稲の追肥作業は,生育中・後期の葉色を維持し,籾数及び収量の確保と玄米品質の維持に重要な
技術である。しかし,農業者の高齢化や水田の大区画化に伴い,追肥作業自体が困難になりつつある。
そこで,ほ場条件に対応できる新たな追肥の技術メニューを確立することにより,登熟期の窒素栄養
状態を改善し,高品質みやぎ米の安定生産に資する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)散布ムラの少ない流入施肥技術の確立
名
土壌肥料部
2)高比重粒状肥料の利用による散布距離拡大に関
する検討
3)発泡性肥料を利用した追肥軽労化技術
分担協力者
担当者
佐藤
一良
鈴木
剛
阿部
倫則
本田
修三
4)肥効調節型肥料を用いた追肥省略技術の開発
<成績の概要>
1)尿素及び簡易施肥器(給水タンク利用)を用いた水口流入施肥技術を確立した。この方法は 50 a
規模の大区画ほ場にも対応でき,水稲の収量,品質は慣行追肥と同程度で,追肥作業の省略化が可能
となり,追肥労力の軽労化も図られた。
2)東日本大震災による肥料会社の被災により高比重の肥料の生産ができなくなり,散布試験は行え
ず。試験を中止した。
3)発泡性肥料散布後 24 時間経過時の発泡性肥料窒素成分の面的な分布は,散布方法に関わらず,
動噴による NK 化成散布よりもばらつきがあり,葉色にも反映された。一方,収量品質は同等
で,ばらつきも同等であった。作業時間は発泡性肥料の複数粒の散布により,動力散布機によ
る NK 化成散布よりも短時間での作業が可能となった。また,発泡性肥料散布時の背負い重量
は動力散布機による NK 化成の 28%程度であり,発泡性肥料の複数粒散布により軽労化は可能
である。
4)牛ふんたい肥を施用した場合の有機入り一発型肥料の施肥窒素量は 5kg/10a が適当であると推察し
た。また,たい肥の可給態窒素と肥効調節型肥料の窒素を合わせた総窒素量を 6kg/10a として,たい
肥原料と全窒素含量に基づく窒素有効化率と化学肥料代替率を基準に,家畜ふんたい肥と肥効調節型
肥料を併用した場合,慣行並みの収量が確保できた。
<今後の課題>
・有機物を併用した基肥一発型肥料の利用は,年次により水稲の収量性が不安定であった。また,
有機物の施用時期に合わせた施用量についての検討が必要。
- 40 -
・環境保全米に対応できる追肥方法についてメニューが不足している。
6
先端技術を活用した農業技術の確立
1)遺伝子情報等の利用技術の開発
①
水稲葯培養による画期的新品種の開発(平成10~,県単)
<目的>
葯培養の手法により育種年限を短縮し,耐冷・耐病性の強い良質・良食味品種や多用途品種の早
期育成を図る。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)葯培養利用育種
名
作物育種部
分担協力者
担当者
酒井
球絵
<成績の概要>
培養は 2 期に分けて行い,1 期は 5 月から 5 組合せの F1 を供試し,2 期は 8 月から 7 組合せの F1
を供試した。カルス形成培養と再分化培養は N6 培地と B 培地注)を組み合わせた 4 通りの培地組成
で行った。2 期合せて計 42,768 葯を置床し,11,618 個のカルスを再分化培地に移植した。4 種類の
培地組合せの培養から計 2055 個体の再分化個体が得られ,うち 401 個体を倍加個体として,種子を
収穫した。交配組合せごとに緑体再分化に最も適している培地組合せは異なるものの,11 交配組合
せの平均ではカルス形成培地に B,再分化培地に B(以下 B/B のように表記)を用いたものが,33.6 %
と最も緑体再分化率が高かった。一方,従来の N6/N6 は 11 組合せの平均緑体再分化率は,19.8 %
と最も低かった。この結果を受け,次年度から B/B を培養に用いることとした。
前年までの葯培養作出系統のうち,124 系統が圃場選抜及び特性検定の結果選抜された。また,奨
励品種決定調査に配布中の「東北 205 号」は千葉県で継続検討となった。「東北 206 号」は宮城県を
含め9県で継続検討される。また,作出系統から, 生産力検定試験,特性検定試験の結果,早生の
良質良食味で,耐冷性,いもち病抵抗性に優れる「東北 212 号」を新配付系統とした。
注)小川ら(1999).中国農業試験場研究報告第 20 号
〔 農業の早期復興のための試験研究課題 〕
7
農業生産力の早期復旧
1)海水流入農地の実態把握と早期改善
①
津波被災農地における地力回復と高品質米の安定生育のための地力増進作物導
入技術の確立 (平成23~27,県単)
<目的>
東日本大震災による津波により浸水被害をうけた農地の復旧が進められるが,除塩後のほ場におい
- 41 -
ては工事や除塩により地力の低下が懸念される。津波被災地は厩肥等資材の賦存量が少ないことから,
地力回復のためには緑肥等地力増進作物の導入が有効と考えられる。
しかし,緑肥作物の導入については,県としての明確な技術的な指針がなく,特に水稲での導入におい
ては,栽培上の問題や品質低下のリスクが大きく,安定的な良質米生産が難しい。
そこで,被災農地の実態把握を行い,被災農地の地力増進を目的とした緑肥-水稲体系による肥培管理
技術の本県指針を明らかにする。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)津波被災農地の地力の実態調査
名
土壌肥料部
2)緑肥導入による地力増進と水稲栽培への影響調査
分担協力者
担当者
鈴木
剛
本田
修三
佐藤
一良
阿部
倫則
<成績の概要>
1)除塩工事完了予定ほ場も含めた被災農地の窒素無機化量の把握を行ったところ,未風乾土 30 ℃8
週間培養でも土壌窒素の発現量がほとんど無いほ場があり,そのようなほ場は作土がほとんど砂層で
あったり,有効土層が浅く下層は礫が出現するといったほ場等であった。
2)水稲栽培において,ほ場外で養成した緑肥すき込み試験では,イネ科緑肥区は,初期の草丈が短く,
茎数も少ない傾向であったが,無効茎数が少なく穂数は確保された。イネ科及びマメ科緑肥区の葉色
は,牛ふんたい肥区と比較し,移植2か月後までは濃い傾向が見られたが,移植3か月後には同等と
なった。イネ科およびマメ科緑肥区は穂数及び一穂籾数が多くなり,イネ科緑肥区では倒伏により登
熟歩合が低下し,精玄米重が低くなった。
<今後の課題>
・海岸に近い砂質タイプのほ場,有効土層が浅いほ場等を中心に土壌可給態窒素の把握。
・無機化量が低いほ場で栽培される水稲の生育・収量等の把握。
・同一ほ場で,緑肥から水稲の一貫した栽培試験を行う必要がある。
2)津波被災水田の実態調査と除塩法・栽培管理技術の確立
①
各種緊急調査を基にしたほ場条件による効率的な除塩方法
(平成23~25,交付金事業)
<目的>
平成 23 年 3 月 11 発生した東日本大震災により,本県の太平洋沿岸地帯の農業は津波によって甚大
な被害を受け,早急な農業復興対策の提示・実施が必要となっている。灌漑用水を利用した除塩に必
要な用水量・灌漑回数等の実測データがほとんど無く,有る場合でも高潮等に起因したもので,津波
に関連する知見が少ない。よって、今後の除塩作業に向け、適切な手法と効果検証が求められている。
本年度は,平成 23・24 年度の農地復旧・除塩事業(H23:4,100ha,H24:4,100ha)は弾丸暗渠を併用し
- 42 -
て塩分を下方へ排出する縦浸透法で除塩が行われており,この事業で調査した各種データを基にして,
縦浸透法除塩の効果を検討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)各種緊急調査を基にした圃場条件による効率的な
名
分担協力者
担当者
土壌肥料部
鈴木
辰也
除塩方法
東部地方振興事務所農業
農村整備部,気仙沼地方
振興事務所南三陸支所
<成績の概要>
除塩時の土壌 EC の推移は,上層 0-15cm において除塩前 EC が高い場合でも除塩回数 1 回で除塩
基準値まで低下した。一方,下層 15-30cm では上層に比べて高い値で推移した。下層を低下させる
には,本暗渠落水除塩時に排水路水位を本暗渠水閘よりも低くすることが必要と考えられる。
除塩後の土壌塩素濃度と EC の関係は,除塩前と比べると除塩により塩素濃度が下がっても EC 値
は低下し難い傾向が見られた。
<今後の課題>
・今後除塩される沿岸部の地盤沈下した水田では,地下水位高による排水不良,地下水等の塩水化
などの問題があり,これらが土壌塩分濃度へ与える影響は明確でない。
②
土壌塩分濃度が作物生育に及ぼす影響評価 (平成23~25,交付金事業)
<目的>
土壌塩分濃度の違いが水稲および大豆の生育に及ぼす影響を明らかにする。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)土壌塩分濃度が作物生育に及ぼす影響評価
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
阿部
倫則
石巻農業改
佐藤
一良
良普及セン
ター,農園
研
<成績の概要>
水稲ポット試験(ポットはほ場にうめ込み)において Cl-濃度が 1,011mgCl-/Kg 乾土(EC 811 μ S/cm)
の土壌塩分濃度で栽培した稲は,生育初期に葉身の枯れ等の症状は見られるが,その後の草丈,茎数,
葉色の推移は海水無添加と同等であった。また,塩分が収量に及ぼす影響も見られなかった。
大豆「タンレイ」の発芽率、生育量および収量は播種前土壌の塩化物イオン濃度 0.021%、交換性
ナトリウム含量 312 mgNa2O/kg 乾土程度以下であれば、海水無添加と比較して有意に減少しない。
<今後の課題>
・年次変動の検証
- 43 -
③
津波堆積物窒素の評価と水稲施肥管理技術の確立(平成23~25,交付金事業)
<目的>
津波堆積物の無機化窒素量を評価し,堆積物がすき込まれた水田における水稲の施肥法について討
する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)津波堆積物窒素の評価と水稲施肥管理技術の確立
名
分担協力者
担当者
土壌肥料部
鈴木
剛
亘理・石巻
本田
修三
農業改良普
及センタ
ー,農園研
<成績の概要>
土壌可給態窒素の窒素無機化量は,地域によって差がみられ 30 ℃4週間培養で3 mg/100g 乾土を
超える地点が多かった。
除塩後の水稲栽培では基肥を無窒素としたほ場が殆どであったが,幼穂形成期頃における稲体窒素
吸収量の目安 5.0 ~ 5.5g/㎡(ひとめぼれ)を超えるほ場が多かった。成熟期では窒素吸収量限界値 12g/
㎡を超えるほ場は少なくなった。
<今後の課題>
・新規除塩事業実施地区の土壌可給態窒素の把握と土壌可給態窒素の経年変化
・津波被災ほ場での稲体窒素吸収量の把握
④
水稲除塩作業時における石灰質資材施用の評価(平成23~25,交付金事業)
<目的>
除塩作業時における石灰質資材の施用による塩分排出の効果について検討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)水稲除塩作業時における石灰質資材施用の評価
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
本田
修三
鈴木
剛
<成績の概要>
ポットに充填した海水処理土壌のかん水による除塩において,粘土質土壌では,石こう 300kg/10a,
炭カル 300kg/10a,てんろ石灰 1,000kg/10a の施用で Na 飽和度が低下する傾向がみられる。また,海
水浸漬および除塩を経ることで Ca 飽和度が低下するが,石灰質資材の施用で改善される。
<今後の課題>
・石灰質資材の施用および土壌中の Na が植物生育に与える影響の検討
- 44 -
⑤
除塩ほ場における土壌塩分濃度と作物生育への影響(平成23~25,交付金事業)
<目的>
津波被災により塩害を受けた地区において,農地の実態調査を行うとともに,除塩及び栽培管理等
の様々な問題について把握し,それに対応した対策を確立し,次年度以降本格化する塩害ほ場への作
付指針とする。
水稲では,塩害を受けたほ場において,除塩対策後の土壌塩分濃度,生育,収量の調査を行うとと
もに,中干し管理が水稲生育に与える影響等を調査する。また,震災により排水機場等が破損し,水
稲種子の浸種は開始しているものの播種時期の予定が立たず,浸種を一時中断し,乾燥させた場合の
発芽率について検討する。
塩害に弱いとされる大豆では,除塩後の塩分動態や生育状況から除塩方法及び作付の可否条件など
について検討する。
鹿島台淵花地区塩害田調査結果報告書(1988 年宮城県農業センター土壌肥料部)によれば,地下の
蓄積塩分の毛管上昇による水稲被害が報告されている。今年は,除塩対策ほ場での塩害発生地区の特
徴を把握し,土性層序から塩害発生の難易を検討する。
<細目課題>
細目課題名
部
名
研究担当
担当者
分担協力者
1)被害水田の実態調査と作付対策
a 水稲ほ場の塩分動態と生育状況
水田利用部
佐藤
泰久
菅野
博英
a)中干し管理が除塩ほ場の水稲生育等に及ぼ
す影響
b被災水田における水稲の生育状況
<成績の概要>
a 被災後1年が経過し除塩事業を実施したほ場で中干しの影響を調査したが,中干しによるECの上昇
は0.15mS/cm程度であり,生育や収量・品質の影響はなかった。
育苗の灌水に塩分を含んだ地下水を用いる場合は濃度0.1%までであれば,生育への影響は小さい。
また,プール育苗でも0.1%濃度の塩水を用いる場合,影響は小さい。
b 除塩ほ場6筆(除塩1年目4筆,2年目2筆)で調査を行った。土壌pHと土壌ECはほ場により差が
大きく,生育にもバラツキが認められたが,収量及び品質は一般ほと比較しほぼ同程度であった。
<今後の課題>
・事例調査地点の蓄積と検証
⑥
被災水田における病害虫・雑草の発生状況調査(平成23~25,交付金事業)
<目的>
被災水田における病害虫の発生状況調査では,津波により海水が流入した農地において,病害虫の
発生実態調査を行い,栽培管理上の問題点を抽出するとともに,今後の農地復旧に向けて必要な対策
を講じるための基礎とする。
雑草対策では,農地復旧において,問題化する可能性のある雑草種を特定し,適切な農地管理や防
- 45 -
除法提案のための基礎的知見を得る。本年度は被災農地の実態解明として,除塩対策ほ場(水稲・大
豆転作)における残草状況や泥土堆積ほ場における雑草植生について調査する。また,各雑草種の耐
塩性の比較や塩分存在下での除草剤効果・薬害変動の有無について塩害モデル試験により検討する。
東日本大震災において津波被害を受けた農地では,復旧までの休耕期間における雑草管理が問題と
なっている。しかし瓦礫の散乱等により,ほ場内に立ち入っての散布が困難な地域もあるため,無人
ヘリコプターによる非選択性除草剤の航空散布について,十分な除草効果が得られるかを検討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
名
分担協力者
担当者
1)被災水田における病害虫・雑草の発生状況調査
C 雑草対策
病害虫防除
水田利用部
大川
茂範
所,仙台・
亘理・石巻
農業改良普
及センター
<成績の概要>
被災農地の雑草繁茂は水田の復旧と休耕地の管理の徹底により解消されつつあるが,作付け水田を
含めコウキヤガラは増加している。塩分が高い土壌でもコウキヤガラに有効な水稲除草剤の効果は高
いが体系処理が望ましい。復旧現場では無人ヘリによる除草剤防除や土中瓦礫除去機によるコウキヤ
ガラの防除が試行されており一定の効果が認められる。
<今後の課題>
・被災水田,特にコウキヤガラ発生リスクの高い地域の継続的実態調査
・自走式スクリーンによるコウキヤガラ塊茎除去効果の確認
⑦
製鋼スラグによる東日本大震災で被災した沿岸田園地域の再生
(平成24~26,受託・(一社)日本鉄鋼協会)
<目的>
津波により浸水被害をうけたほ場においては海水由来のナトリウムの残留等に伴う土壌物理化学性
の悪化が懸念されており,その改善には石灰質資材の導入が有効と考えられる。ここでは,石灰質資
材である製鋼スラグ(てんろ石灰)の施用による土壌物理化学性への影響を検討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)除塩後水田のモデル転換畑(低Ca)における大豆
生育に対する製鋼スラグの効果検討
- 46 -
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
本田
修三
(一社)日
佐藤
一良
本鉄鋼協会
鈴木
剛
阿部
倫則
<成績の概要>
石灰質資材無処理区の土壌 pH は 5.5 前後で推移した。石灰質資材施用区の pH は無処理区より高
い値で推移し,てんろ石灰 1,000kg/10a,てんろ石灰 300kg/10a,苦土石灰 100kg/10a,てんろ石灰
100kg/10a の順で pH が高かった。てんろ石灰 1,000kg/10a は,作付後にも pH が上昇した。
大豆の生育は,てんろ石灰 1,000kg/10a がやや主茎長が長い傾向が見られたが,各区に大きな差は
見られなかった。
各試験区の成熟期の大豆生育および収量に大きな差は見られなかった。
石灰質資材の施用により,播種時の Ca 飽和度が上昇した。一方で,作付後の Ca 飽和度はてんろ
石灰 100kg/10a および苦土石灰 100kg/10a では低下したが,てんろ石灰 300kg/10a およびてんろ石灰
1,000kg/10a では高く維持された。
<今後の課題>
・製鋼スラグの施用効果の年次変化の確認
3)耐塩性作物による早期経営改善対策
①
県水稲奨励品種の耐塩性評価と耐塩性水稲品種の開発
(平成23~25,交付金事業
理化学研究所,東北大学,農研機構・作物研)
<目的>
東日本大震災の津波により海水が浸水した被災水田において,県水稲奨励品種及び既存の耐塩性変
異系統を作付けし,その耐塩性を評価する。また,既存の耐塩性変異系統を育種母本として利用,あ
るいは,イオンビーム育種法を用いて宮城県オリジナルの耐塩性水稲品種を開発する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1) 耐塩性評価
名
作物育種部
2) 耐塩性品種の開発
分担協力者
担当者
遠藤
貴司
理化学研究
佐伯
研一
所,東北大学,
佐藤
浩子
農研機構・
酒井
球絵
作物研究所
<成績の概要>
1)全ての供試品種で,塩水処理により稈長,穂長が減少し,千粒重,精玄米重が低下した。奨励品種
の「ひとめぼれ」,「まなむすめ」,「ササニシキ」,「げんきまる」を比較すると,低濃度区では差が
なかったが,高濃度区では,「ひとめぼれ」が低収であった。また,参考品種として供試した「ハバ
タキ」が,稈長,穂長,精玄米重に対する影響が最も顕著で塩害耐性が劣ると評価された。
2)耐塩性変異系統と有望系統とのF2,イオンビーム照射した2品種(ひとめぼれ,まなむすめ)のM2
から,塩害水田で枯れ上がりの少ない個体や系統を選抜した。
<今後の課題>
・塩害耐性のばらつきを評価するため、反復や複数年次による評価が必要である。
- 47 -
②
耐塩性転作作物の検証
(平成23~25,交付金事業)
<目的>
津波被災水田に塩分濃度の回復までの期間に転作作物として利用できる耐塩性作物を選定し,営農
回復の促進を図る。ここでは,塩害に強いといわれる棉花の生育特性把握,収量性及び機械化栽培に
ついて検証する。
<細目課題>
細目課題名
部
1) 棉花の栽培法
名
研究担当
担当者
水田利用部
星
信幸
三上
綾子
分担協力者
<成績の概要>
直播栽培では“アップランド-アカラ種”が比較的良い成績であったが,開ジョ率が低く経済的な
栽培は困難と評価された。機械播種については,発芽率が低い要因も含め再考が必要と思われた。
<今後の課題>
・開ジョ率向上のための栽培法
8
新たな技術開発による産地復興
2)先端技術等の活用による新たな産地復興対策
①
食料生産地域再生のための土地利用型営農技術の実証
(平成24~29,受託・東北農業研究センター)
<目的>
東日本大震災から復興し,水田を中心とした食料生産地域を早期に再生するために,地域の担い手
に農地を集積するとともに,圃場区画や経営規模の拡大により,コスト競争力のある水田農業の実現
が期待されている。そこで,本プロジェクトでは,宮城県南部沿岸の被災地域を対象として,先端技
術を導入し,高能率・安定多収を実現する低コスト大規模水田農業の実証研究を展開する。また,被
災前の営農体系での生産コストと比較して 50 %削減を目的とする。
本県では,被災地の土地利用型農業の復興のための低コスト化戦略として,現行区画にも対応可能
な技術として,逆転ロータリ利用の広畝成形播種方式,効率的な作物切り替え技術,乳苗・疎植によ
る水稲移植を組み合わせた,低コスト3年4作水田輪作体系を提案実証する。また,大区画圃場に対
応した鉄コーティング湛水直播の耐倒伏性向上技術や効率的灌排水技術,気象情報に基づく生育診断
管理技術などの支援技術を確立し,被災地の低コスト輪作実証体系に導入しその効果を実証する。
<細目課題>
細目課題名
部
1)大区画圃場におけるプラウ耕乾田直播を核とした
名
研究担当
担当者
星
信幸
東北農研セ
低コスト2年3作水田輪作体系の実証
佐藤
泰久
ンター,中
a高能率な鉄コーティング水稲湛水直播栽培にお
菅野
博英
央農研セン
- 48 -
水田利用部
分担協力者
ける耐倒伏性向上技術の開発・実証
大川
茂範
ター,クボ
北川
誉紘
タ(株),井
三上
綾子
関
2) 津波被災農地の圃場環境に対応した中型機械の汎
安藤
慎一朗
(株),農園
用利用による低コスト 3 年 4 作水田輪作体系の実証
石橋
まゆ
研,登米農
(1)津波被災水田の早期機能再生技術の実証
内海
翔太
業改良普及
a被災水田の土壌理化学性及び雑草,病害虫発生
日塔
明広
センター
佐藤
一良
ほか
a)土壌理化学性の実態
鈴木
剛
b)雑草発生の実態解明
阿部
倫則
c)病害虫の発生実態調査
本田
修三
平
直人
鈴木
辰也
鈴木
和裕
相花
絵里
実証
鈴木
智貴
a)広畝成形播種方式による 2 年 3 作体系の開発
大槻
恵太
加進
丈二
佐藤
直紀
宮野
法近
b大区画水田に対応した効率的灌漑・排水管理技
術の開発・実証
の実態と早期再生技術の開発・実証
土壌肥料部
b下層塩分上昇リスク軽減技術の開発・実証
(2)中型機械の汎用利用による低コスト 3 年 4 作水
田輪作体系の実証
a広畝成形播種方式による 2 年 3 作体系の開発・
・実証
b)麦後大豆晩播狭畦栽培技術の安定化
b疎植及び乳苗移植による省力低コスト水稲栽培
作物保護部
農
機
の開発・実証
c省力低コスト水稲栽培における病害虫の発生リ
スク評価と環境保全型農業技術の開発・実証
a)水稲疎埴栽培におけるイネいもち病の発生リ
スク評価
b)水稲疎埴栽培におけるイネ害虫の発生リスク
評価
3)低コスト安定生産のための栽培管理支援技術の実
証
(1)気象情報にもとづく発育予測・栽培管理支援技
術の開発・実証
<成績の概要>
1)-a:「げんきまる」は「ひとめぼれ」と比較し収量性,品質,倒伏症状から直播栽培に適している
と思われた。収量性や品質等から点播栽培が良好で,播種量は「げんきまる」4.0kg,
「ひとめぼれ」3.0kg
が適していると思われた。
1)-b:通水溝(両側)と弾丸暗渠を利用した灌漑により,ほ場の地下水位を作土層付近まで上昇させ
ることで,一定期間土壌の過乾燥を回避できた。一方,明渠の表面排水効果は排水性がより低いほ場
の方が得られやすい傾向が見られ,その影響範囲は概ね 5 ~ 8m までと大区画水田では限定的と考え
られた。
- 49 -
2)-(1)-a-a):平成 24 年 4 月現在,作土の土壌 EC は,雨水,除塩工事により 0.41mS/cm 以下に低下
していた。水稲の生育は無肥料栽培したこともあり,倒伏もなく塩分による生育阻害も少なかった。
大豆では播種後,一部発芽障害が見られたが,土壌理化学性との関係は明らかでなかった。水稲跡地
の窒素無機化量は堆積泥を鋤きこんだほ場では作付け前の窒素無機化量とほぼ同じで,古試連作ほ場
より多い傾向であった。
2)-(1)-a-b):除塩後初年目の復旧水田における水稲作での拡散性一発処理除草剤,大豆作でのイネ科
対象土壌処理剤の効果は高い。また,復旧前休耕田では 5 月末までに非選択性除草剤を散布すること
により,コウキヤガラの地上部及び地下部の塊茎生産を抑制することができる。
2)-(1)-a-c):被災水田では全般にいもち病の潜在的発生リスクは高く,斑点米カメムシ類やイネツト
ムシの発生は地域内で偏りが認められた。
2)-(1)-b:通水溝・弾丸暗渠の早期施工は,降雨による除塩が促進され効果は大きかった。簡易的な
地下灌漑により下層塩分は排除されるが,下層塩分の作土への上昇を回避させる効果は明確ではなか
った。ほ場間の排水性に差があったため,土壌塩分移動特性に差が見られた。
2)-(2)-a-a):実証地区の水田作付地優先順位は,①小麦・大麦-大豆団地、②大豆後水稲「まなむすめ」
,
③もち米「みやこがねもち」
,④うるち米「ひとめぼれ」で,面積の多い「ひとめぼれ」が一番分散する
土地利用形態となっている。初年目の輪作実証では,現地オペレータの作業により作業評価いただき,広畝成
形播種による水稲乾直播は平均販売数量 480kg/10a 全て1等米で高評価であった。切替作業及び麦播種も現
地での評価が高く,小麦全面積6haこの方式で播種された。
2)-(2)-a-b):ミヤギシロメは収量は慣行同等に得られたものの,倒伏程度が高まり,粒大は小さくな
った。東北 164 号は倒伏程度がタンレイより小さく,狭畦栽培でも収量,百粒重がタンレイ同等に得
られ,狭畦栽培に適応する品種である。
2)-(2)-b:疎植栽培とすることで稚苗の使用箱数は慣行の約半分に削減された。収量については 5 月
上旬移植の乳苗疎植がやや劣ったが 5 月下旬以降の移植については,稚苗疎植と同等以上で有望と考
えられた。品質は地力の高い圃場の乳苗及び疎植区では,白未熟粒の発生が少なかった。
2)-(2)-c-a):疎埴栽培において箱施用剤の処理により,慣行栽培と同様に発生盛期まで防除効果が認
められた。一方で,疎埴栽培のいもち病伝染勾配は慣行栽培よりも広範囲に及ぶ可能性が示唆された。
2)-(2)-c-B):疎埴栽培により単位面積当たりの育苗箱施用剤の投入量が削減された場合でも,イネ
ドロオイムシ、イネミズゾウムシ,フタオビコヤガに対して慣行栽培と同等の防除効果が得られた。
3)-(1):小麦「あおばの恋」における幼穂長と気温データを用いた出穂期及び開花期予測技術は,現
地ほ場においても実用可能である。また,1km メッシュの予測気温を用いることにより,発育予測
精度の向上が可能であることが示唆された。
<今後の課題>
・年次変動等の確認ほか。
9
安全安心な農畜産物の生産
1)農業生産環境における放射性物質の動態把握
①
農産物放射能対策事業【農地土壌の放射性物質要因調査】
(平成24~,事業研究・農産園芸環境課)
- 50 -
<目的>
県内で作付けされる農作物の放射性物質吸収抑制の技術対策を講じるため,平成24年度放射性物質
濃度検査により農作物に放射性物質を検出したほ場の土壌分析を行い,放射性物質吸収移行の要因を
調査するもの。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1) 農地土壌の放射性物質要因調査
名
分担協力者
担当者
土壌肥料部
鷲尾
英樹
各農業改良
島
秀之
普及センタ
金澤由紀恵
ー,農園研
<成績の概要>
平成24年度の玄米の放射性物質検査において,10Bq/kg 以上の放射性物質濃度が検出されたほ場お
よび10Bq/kg 未満の放射性物質が検出されたほ場に分けて,農業改良普及センターが土壌を採取し,
その試料を古川農業試験場で分析した。また,大豆においては,50Bq/kg 以上の放射性物質濃度が検
出されたほ場および50Bq/kg 未満10Bq/kg 以上の放射性物質が検出されたほ場に分け,そばの調査に
おいては,50Bq/kg 以上の放射性物質濃度が検出されたほ場および50Bq/kg 未満20Bq/kg 以上の放射
性物質が検出されたほ場に分けて調査を行った。
玄米のほ場については,県北の40地点の試料(玄米検出値N.D.の対照ほ場含む)を分析したが,放
射性セシウム濃度は111~945Bq/kg乾土,交換性カリ含量は6.2mg/100g乾土であった。
大豆およびそばのほ場については,栗原を除く県北の23点および 9点の試料(検出値N.D.の対照ほ
場含む)を分析した。放射性セシウム濃度は,大豆のほ場で82~469Bq/kg乾土,そばのほ場で145~5,
549Bq/kg乾土,交換性カリ含量は,大豆のほ場で14.6~88mg/100g乾土,そばのほ場で10.2~61.8mg/
100g乾土であった。
<今後の課題>
・今後の調査データと併せ,農作物の放射性物質吸収抑制の技術対策のため,引き続き分析を行う。
②
放射性核種の農畜産物の吸収移行及び農林生産環境における動態に係る調査研究
(平成24,交付金・農業環境技術研究所)
<目的>
137
90
農産物の放射性核種( Cs, Sr)のバックグラウンドレベルの監視のため,全国各地の農産物及
び農地土壌の放射能水準を調べ,食と農業の安全性を監視する。そのため,耕種履歴が 20 年以上に
わたって明らかな試料(水稲,大麦,小麦)を農業試験場内から採取し,農業環境技術研究所で放射
性・非放射性核種濃度の測定を行うための前処理を行う。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
- 51 -
名
担当者
分担協力者
1) 放射性核種の農畜産物の吸収移行及び農林生産環
境における動態に係る調査研究
土壌肥料部
佐藤
一良
農業環境技
水田利用部
星
信幸
術研究所
<成績の概要>
平成 24 年度のサンプルについては,現在測定中である。
独立行政法人農業環境技術研究所による環境放射能の長期モニタリング調査により,事故前の国内
のバックグラウンド値が示されている(木方ら)。
秋田県大仙市での深度別土壌の放射性核種については,混和している層位までほぼ均一に分布して
いるが,それ以下の層では検知されなかった(木方ら)。
平成 23 年度における土壌,麦稈,麦穂の放射性セシウム(以下:Cs)の移行率は,土壌から麦稈へ
は降下した Cs の影響が大きく算出できないが,麦稈から麦穂への移行率は 3 から 14 %の範囲であ
った(木方ら)。
<今後の課題>
・土壌から子実等への放射性核種の移行挙動が不明である。
2)放射性物質の農畜産物への吸収移行抑制技術の確立
①
県内農耕地における放射性物質の動態把握と農産物への吸収抑制対策の確立
(平成24~25,交付金事業)
<目的>
東京電力福島第一原発の事故により,消費者等からは県内産農産物に対する不安の声が上がってい
る。そのため,基準値以下であっても放射性物質が検出された農産物や地域においては,風評被害等,
消費者への影響が懸念されるところであり,可能な限り放射性セシウム(以下:Cs)の吸収を抑制す
る技術の確立が求められている。
本試験では,カリ肥料や堆肥,各種資材の施用による放射性 Cs の吸収抑制効果について確認,検
討する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1) 水稲の放射性物質の吸収抑制技術の検討
名
土壌肥料部
分担協力者
担当者
鷲尾
英樹
大河原・大
a 施肥法による放射性セシウムの吸収抑制技術
佐藤
一良
崎農業改良
の検討
鈴木
剛
普及センタ
b 有機物・各種資材の施用による吸収抑制効果
2) 畑作物の放射性物質の吸収抑制技術の検討
ー
三上
綾子
a 麦類
安藤
慎一朗
b 大豆
石橋
まゆ
内海
将太
- 52 -
水田利用部
<成績の概要>
○水稲
場内ほ場(放射性 Cs 濃度 130 ~ 140Bq/kg乾土,交換性カリ含量 50mg/100g 乾土程度)における玄
米中の放射性 Cs 濃度は,放射性 Cs 134 および 137 の各核種で1Bq/kg未満であった。
非放射性 Cs(塩化セシウム)を添加した場内での枠試験において,土壌中の交換性カリ含量が高
いほど,稲体の Cs 濃度は低下する傾向にあった。
非放射性 Cs を添加した場内での枠試験およびポット試験において,牛ふん堆肥あるいはゼオライ
トの施用により,玄米中の Cs 濃度は低下する傾向にあった。
○麦類
大麦(シュンライ)では,放射性 Cs 濃度 800 ~ 1,000Bq/kg程度の砂壌土では,土壌中のカリ濃度
が十分である場合,幼形期~減分期における加里施用の有無に関わらず,大麦原麦への放射性 Cs の
移行は少ないと考えられる。また,幼形期~減分期に加里を施用した場合の収量及び品質への影響は
ないと考えられる。
○大豆
作付け前の作土中交換性加里濃度が 30mg/100g 乾土以下であった地区で,基肥時にカリ成分量で
24kg/10a 施肥したところ,無処区に比べ大豆子実中の放射性 Cs 濃度が半減した。土壌中交換性カリ
濃度が低いと,子実中の放射性 Cs 濃度が高い傾向が見られた。追肥でカリを施用した効果は判然と
しなかった。
<今後の課題>
・土壌中の放射性 Cs 濃度及び交換性カリ含量のレベルの違いによる,水稲の放射性 Cs の吸収抑
制程度の解明。
・交換性カリ含量が低い土壌での,水稲における牛ふん堆肥およびゼオライトの吸収抑制効果の確
認。
・大豆におけるカリ増肥による吸収抑制効果について,複数の現地ほ場での効果確認。
②
土地利用型作物における放射性セシウムの移行係数の解析と吸収抑制技術の開
発:大豆
(平成24~26,受託・中央農業総合研究センター)
<目的>
作物への放射性 Cs の移行係数の解析と吸収抑制技術の開発で明らかになったカリ増施などの吸収
抑制技術の最適化を図ると同時に,放射性 Cs 吸収に関与するそれ以外の要因を調べ,それに基づく
移行低減技術を確立するとともに,移行係数の年次変動を解明する。
<細目課題>
細目課題名
部
土地利用型作物における放射性セシウムの移行係
数の解析と吸収抑制技術の開発:大豆
- 53 -
名
研究担当
担当者
分担協力者
水田利用部
星
信幸
中央農研セ
土壌肥料部
鷲尾
英樹
ンターほか
<成績の概要>
大豆子実中の放射性 Cs 濃度(Cs-134 及び Cs-137)は 2.86 ~ 6.28Bq/kg,土壌からの移行係数は 0.0207
~ 0.0554 であった。大豆子実放射性 Cs 濃度及び移行係数とも追肥区を除いた場合,作土中の交換性
カリ濃度との相関が確認され,カリ肥料増施による効果は可溶性の硫酸カリによる基肥施用の効果が
認められた。なお,中耕培土の放射性 Cs 吸収への影響は認められなかった。
平成 24 年・大豆におけるカリ施用による放射性セシウム吸収抑制(第 88 号)参考資料
<今後の課題>
・基準値超の現地ほ場での対策
・吸収抑制技術の開発
③
宮城県における麦類への移行抑制技術の選定:麦
(平成23~24,受託・中央農業総合研究センター)
<目的>
植物による放射性 Cs の経根的吸収は,作物種,土壌特性などによって大きく異なることが知られ
ており,また耕種的な対策技術の効果も作物種や土壌養分条件などで異なると予想される。そこで,
放射能汚染の影響が懸念される地域において,麦類の放射性 Cs の移行係数と吸収抑制技術の効果を
明らかにする。ここでは水田転換畑(細粒灰色低地土,埴壌土)における移行係数を解明しつつ,バ
ーミキュライト施用,加里増施による放射性 Cs の吸収抑制効果を明らかにする。
<細目課題>
細目課題名
部
1) 宮城県における麦類への移行制御技術の選定
名
研究担当
担当者
分担協力者
水田利用部
星
信幸
東北農研セ
土壌肥料部
鷲尾
英樹
ンター
<成績の概要>
収穫後の子実中の放射性 Cs 濃度(Cs134 及びCs137)は、全ての区で1.0Bq/kg-DW未満とかなり低く,
吸収抑制技術による差は明確ではなかったが,土壌からの移行係数は0.004~0.006で,作土中カリ濃度との
相関が大麦では確認された。子実中の Cs 濃度は,フォールアウトの2011年産麦に比べ1/100以下となった。
〔 調 査 事 業 〕
①
農作物有害動植物発生予察事業(昭和26~,事業研究・農産園芸環境課)
<目的>
場内に定点調査ほ場を設置し,病害虫の定期的な調査を実施し,農産物の安定生産を阻害する病
虫害を未然に防ぐための国による予測と対策に情報を提供する。また,県で発表する発生予察情報
作成のための基礎資料とする。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
- 54 -
名
分担協力者
担当者
1)普通作物,果樹および野菜等の病害虫発生予察調
作物保護部
佐藤
直紀
病害虫防除
相花
絵里
所
a 普通作物の定点調査
大槻
恵太
農園研
b 稲こうじ病の発生要因の解析
加進
丈二
c つや姫栽培ほ場から分離したいもち病菌の集団
宮野
法近
鈴木
智貴
査
解析
<成績の概要>
a イネの主要病害虫(いもち病,紋枯病,イネミズゾウムシ,イネドロオイムシ,斑点米カメムシ
類等)とムギ(赤かび病)及びダイズの主要病害虫(紫斑病,マメシンクイガ,アブラムシ類等)
について,4~11月に10~30回のほ場調査を行い,病害虫の発生予察情報(10回の発生予報)の基
礎資料とした。
b 稲こうじ病の発生要因の解析を行うため,アメダスデータを利用して気象条件と発生量の関係を
解析した結果,本年度については降雨日数と発生量との間液に明確な関係は認められなかったが,
出穂前 10 日間の平均気温が低く,降水量が多かった晩生品種で発生が多い傾向が認められた。
c 「つや姫」に発生した穂いもちは,周辺の「ひとめぼれ」に発生した穂いもちよりも被害度が小
さく,主に枝梗いもちであった。「つや姫」から分離したいもち病菌は本品種が保有する抵抗性遺伝
子 Pik を侵害でき,SSR マーカーによる遺伝子解析や MBI-D に対する感受性の遺伝子診断から,周
辺の「ひとめぼれ」から分離したいもち病菌とは異なる集団で構成されていた。
<今後の課題>
・予察手法が不十分な病害虫についての検討が必要
・稲こうじ病の発生要因(特に気象,品種間差)の解析
・新品種導入後のいもち病菌の伝染経路の解明
②
発生予察技術支援対策事業
(昭和54~,事業研究・農産園芸環境課)
<目的>
MBI - D 剤耐性イネいもち病菌が確認されたことから,いもち病の防除効果が高く,紋枯病の
同時防除が可能であるオリサストロビン剤が広域的に導入されており,耐性菌の出現が懸念されて
いる。そこで,耐性菌による被害を未然に防ぐために感受性の低下を把握し,代替薬剤の選択など
の対策を講ずるための基礎資料とする。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)病害虫検定診断対策事業
名
作物保護部
aオリサストロビン剤耐性イネいもち病検定
bチオファネートメチル剤耐性ダイズ紫斑病菌検
定
- 55 -
分担協力者
担当者
鈴木
智貴
病害虫防除
辻
英明
所,BASF ジ
ャパン(株)
<成績の概要>
6 月中旬から 9 月上旬にかけて,病害虫防除所の巡回調査およびその他のほ場 4 地点から採集した
いもち病菌計 14 菌株について,オリサストロビン剤に対する感受性検定を実施した結果,オリサストロ
ビン剤耐性菌は検出されなかった。
ダイズ紫斑病菌のチオファネートメチルに対する耐性菌は 2009 年~ 2011 年に採集した菌株計 111
菌株の約 3 割で確認され,県北部から県中部を中心に分布していた。
<今後の課題>
・各種病原菌の薬剤耐性検定を継続し,薬剤耐性菌の発生や県内の分布状況を定期的にモニタリン
グを行い,薬剤選択時の迅速な対応を可能とする体制が必要
③
稲作地帯別好適生育型策定と安定多収の機作解明の技術確立
(昭和63~,事業研究・農産園芸環境課)
<目的>
稲作地帯・地域ごとに設置したほ場の生育,窒素養分吸収データの分析結果から,稲体の栄養状態
を解析し,対応技術を策定するとともに,「宮城県稲作情報」等で直ちに普及現場に伝達して適正な
栽培管理の基礎資料として活用する。また,経年の蓄積デ-タから稲作地帯別の生育・養分吸収の特
徴を解析し,好適生育型の策定や簡易にできる生育・栄養診断技術の確立を目指す。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)稲体窒素栄養面からの作柄解析
名
土壌肥料部
a 土壌・施肥からの窒素供給
分担協力者
担当者
鈴木
剛
水田利用
佐藤
一良
部,各農業
b 稲体乾物重・窒素吸収量の推移
改良普及セ
ンター
<成績の概要>
a 平成 24 年は3月,4月の降水量が平年並であったため,乾土効果による土壌窒素発現量は平年並
で,籾数への影響は小さかった。また,稲作期間全般にわたり土壌窒素発現量は平年より少なかった。
基肥窒素の消失は,移植の早い 5 月 1 日移植では消失開始が平年並で過去4年間と比べ早く消失し,
5 月 10 日移植では消失開始はやや早かったものの消失時期は平年並となった。
b 水稲の窒素吸収量は,6 月 20 日ではほぼ平年並であったが,6 月中下旬の低温による土壌窒素の発
現停滞により,7月の窒素吸収量は平年より少なかった。
葉色値については,7月上旬までは,ほぼ期待葉色値で推移していたが,幼穂形成期以降,乾物重
の増加及び土壌窒素の発現停滞により葉色値の低下が進み,減数分裂期頃の葉色値は期待値を 2 ポイ
ント程度下回った。8月以降も高温で経過し,穂揃期の葉色値は期待値を 2 ポイント程度下回った。
出穂後 25 日の乾物増加量は,全重,穂重とも平年より大きく,稲わらから穂への見かけの同化物
(デンプン)転流量は平年比 132 %と多かった。
登熟期間が高温,多照で経過し,玄米品質は例年より高かったが,心白・腹白粒の発生が見られ落
- 56 -
等の要因になった。玄米白未熟粒比と水稲葉色値を検討したところ,出穂 25 日後の葉色値が高いと
玄米白未熟粒比が低くなる傾向がみられた。
<今後の課題>
・年次毎の作柄要因の解析
④
生育調査ほ
(昭和40~,事業研究・農産園芸環境課)
<目的>
水稲・大豆・麦について県内各地に調査圃を設置し,定期的に調査を行い,その結果を前・平年と
比較することにより,作物の生育状況を把握し技術対策策定の基礎資料とする。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1)水稲生育調査(現地調査圃数 33ヶ所)
名
水田利用部
対象品種 ひとめぼれ,ササニシキ,まなむすめ他
2)大豆生育調査(現地調査圃数 10ヶ所)
対象品種
分担協力者
担当者
菅野
博英
各農業改良
安藤
慎一朗
普及センタ
千田
洋
ー
タンレイ,ミヤギシロメ
3)麦類生育調査(現地調査圃数 10ヶ所)
対象品種
シュンライ,ミノリムギ,シラネコムギ
<成績の概要>
1)県平均における播種盛期は4月13日(平年より2日遅い),田植盛期は5月12日(平年より3日遅い),
出穂期は8月6日(平年より1日早い),刈取盛期は9月30日(平年より1日早い)であった。県内生育調
査ほにおける主要品種「ひとめぼれ」の収量は58.9kg/a(平年比104%)で平年よりやや多く,県全
体の一等米比率は84.6%,「2等米以下に格付けした主な理由」は「心白・腹白粒」が最も多かった。
2)全体の傾向として,播種期は遅れたものの,出芽は良好であった。7 月~ 9 月は概ね高温・多照で
推移した。仙台以南ではやや蔓化・倒伏したが,県北地域では蔓化・倒伏程度は平年よりも低くなっ
た。開花期は 7 月下旬の一時的な低温・寡照の影響で,遅くなる傾向が見られた。また,仙台以南で
は主茎長は長いが,分枝数が少ないため,減収する傾向があった。県北地域では,反対に主茎長は短
いが,分枝数が多く,多収傾向となった。莢当粒数は全体的に多くなったが,百粒重は平年並~やや
小さくなった。外観品質は全体的には低い傾向が見られ,特に「タンレイ」では子実表面に傷がつき
茶褐色に変色する“莢ずれ症状”によって外観品質が低下した。
3)12 月中・下旬~ 4 月にかけての長期の低温により,生育が停滞し,穂数が不足するほ場も見られた
が,栽培管理の違いによりほ場間差が見られた。概ね適期に播種し,年内生育を十分に確保したほ場
では最終的な穂数も多く,収量も平年並み~多収傾向となったが,播種時期が遅れたほ場では低収傾
向となった。品質では,特に適期に播種されたほ場で平年より良い傾向が見られた。
<今後の課題>
・年次毎の気象及び作柄を把握するためにも継続調査が必要
⑤
主要農作物高位安定生産要因解析(作況試験)
(昭和63~,事業研究・農産園芸環境課)
- 57 -
<目的>
水稲・大豆・麦の主要品種について,定期的に生育調査や栄養診断を行うことにより,作物の生育
状況を把握し栽培管理指針のための基礎資料とする。
<細目課題>
細目課題名
研 究 担 当
部
1)水稲作況試験
対象品種
名
水田利用部
分担協力者
担当者
菅野
博英
ひとめぼれ,ササニシキ,まなむすめ
安藤
慎一朗
コシヒカリ
千田
洋
2)大豆作況試験
対象品種
タンレイ,あやこがね,ミヤギシロメ
3)麦類作況試験
対象品種
シュンライ,ミノリムギ,あおばの恋,
シラネコムギ
<成績の概要>
1)移植栽培では,5/10移植「ひとめぼれ」の出穂期は8月7日(平年差1日早い),成熟期は9月18日(平
年並)。収量は,65.5kg/a(平年比112%)であった。
湛水直播栽培では,生育状況や生育ステージ,収量構成要素等ほぼ同様の傾向であったが,鉄コー
ティングの方が稈長・穂長が短い事から倒伏程度は低くなった。乾田直播栽培では,生育全般に緩慢
であり,有効茎歩合が高く,葉色を生育後半に維持できる事から収量性が高くなった。
落水時期の調査では,整粒歩合を高くし白未熟粒の発生を抑制するには,落水時期を出穂 30 日前
後が適期と考えられた。
2)百粒重はやや小さいが,莢数が多くなり収量は高くなった。全般に品質が悪く,標播「タンレイ」
では莢ずれによって外観品質が大きく低下した。
3)適期播種では,年内生育は良好であったが,12 月中旬~ 4 月中旬の長期の低温の影響により最終
的な有効穂数は少なくなり,低収となった。外観品質は大麦,小麦ともに㎡当たり粒数が少なかった
こと,登熟期間が十分に確保されたことから,粒張りが良く,平年より良い傾向となった。
<今後の課題>
・気象及び作柄の年次変動を解析するためにも継続調査が必要
⑥
重金属汚染土壌における汚染防止対策技術の確立
(平成7~,事業研究・農産園芸環境課)
<目的>
昭和45~48年に二迫川流域(旧鶯沢町,旧栗駒町,旧築館町),新堀・出来川流域(旧古川市,旧小
牛田町),小原・赤井畑地区(白石市)でカドミウム汚染米が確認され,汚染米の市場流通防止のた
め,出荷前の分析チェックを行う産米分離調整地区が設定されていた。旧分離調整地区では平成7年
よりALC資材等土壌改良によるカドミウム吸収抑制の大規模現地実証に取り組んできたが,現在,
湛水管理による吸収抑制技術を併用している。そこで,これらカドミウム吸収抑制対策の効果(玄米
のカドミウム含有量基準値「0.4ppm 以下」)を確認するため,収穫前のほ場より抜き穂し,調査す
- 58 -
る。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1) 農作物生産計画実施地域立毛調査(農用地土壌汚
名
分担協力者
担当者
土壌肥料部
染防止対策推進事業)
島
秀之
北部地方振
鷲尾
英樹
興事務所栗
金澤
由紀恵
原地域事務
所
<成績の概要>
2012 年は,全サンプル124点中 0.4ppm 以下のものが 94%を占め,一方 0.4ppm を超えるものは 6%
であったが,うち 1.0ppm 以上のものは 1 点であった。年次推移をみると,0.4ppm 以下の比率は湛
水管理の推進を始めた 2004 年以降の 9 カ年で最高となった。
出穂前後の降雨と玄米カドミウム濃度の関係をみると,本年は,2004 年以降で 5mm 以上の降雨
日数は2番目に少ないが,湛水管理が生産者に浸透したことから 2004 年よりも 0.4ppm 以下のもの
が多くなったと考えられる。
<今後の課題>
・ 調 査 継 続 に よ る カドミウム吸収抑制対策の効果確認
⑦
肥・飼料検査業務
(事業研究・肥料:平成11~農産園芸環境課,飼料:昭和57~畜産課)
<目的>
肥料取締法,飼料の安全性確保及び品質の改善に関する法律に基づき,農作物の生産を損なうおそ
れのある肥料・飼料の生産並びに流通を未然に防止するため,肥料・飼料の製造業者,販売業者等へ
の立ち入り検査の際に収去された試料について,製品の品質(表示成分量・有害物質の含有等)に
ついて分析する。
<細目課題>
細目課題名
研究担当
部
1) 肥・飼料検査業務
土壌肥料部
<成績の概要>
検査実績(分析点数)
名
:
肥料
29点
飼料
37点
<今後の課題>
・検査体制の充実による継続的な検査の実行
- 59 -
分担協力者
担当者
島
秀之
各地方振興
金澤
由紀恵
事務所,畜
鷲尾
英樹
産課
- 60 -
Fly UP