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肝予備能評価のための ICG 試験の R 値と K 値および GSA シンチとの
肝予備能評価のための ICG 試験の R 値と K 値および GSA シンチとの相関関 係から求めた予測式の再検討-組織所見と照らして 高知医療センター消化器外科 志摩泰生 e-mail:[email protected] 要旨 ICG 試験は種々の要因で実際の肝予備能と乖離する場合があり、そのような場合に GSA シンチより血 中停滞率(R 値)や血中消失率(K 値)を予測するのは、肝切除の適応や術式を決定する上で重要である。 以前報告したように、 われわれは主に統計学的手法により GSA シンチの各種パラメーター (LHL15 値、 HH15 値)から R 値、あるいは K 値への予測式を検討し、下記の予測式を得た。 R = 119. 119.604 - 117. 117.184× 184×LHL15 LHL15 K = -0.1431× 1431×log (0.92127 - 0.90263× 90263×LHL15 LHL15) 15) 今回、R 値の実測値と予測値の差が 5 以上の乖離例を組織所見と照らし合わせ、予測式の再検討を行 い、下記の予測式を得た。 R = 109.607 –106.857× 06.857×LHL15 LHL15 このとき、相関係数はr = -0.754と良好であった。さらにR値からK 値の予測式 K = -0.1431× 0.1431×logR + 0.3024 から GSA シンチによる K の予測式として K = -0.1431× 1431×log (0.8445684456- 0.82337× 82337×LHL15 LHL15) 15) が得られた。 Key words:ICG 負荷試験、99mTc-galactosyl human serum albumin 、GSA シンチ、 肝予備能、肝切除術 1 はじめに か、肝予備能が不良で肝切除を行うことができな インドシアニン・グリーン(ICG)試験は肝切 い症例なので除外した。逆に K 値の正常値は 除術を施行する際の肝予備能を知るための検査と 0.168-0.206 と報告されていることから 5)、ICG の して広く行われている色素負荷試験であり、臨床 極端に良好な症例、すなわち K > 0.25 のデータも 的には血中停滞率(R 値、%)や血中消失率(K 値) 除外した。原疾患は HCC261 例、胆道癌 112 例、 が用いられているが、たとえば門脈大循環シャン 肝転移 81 例、その他であった。 トがある場合には、実際の肝予備能よりも不良な R 値の実測値(RICG)と予測値(RGSA)の差 値が得られることが知られている。 99mTc-galactosyl が 5 以上の乖離例は 192 例、206 検体(38%)みら human serum albumin 肝シン れた。原疾患は HCC123 例、胆道癌 36 例、肝転 チグラフィ( GSA シンチ)は、肝細胞膜上に存在す 移 25 例などであった。これらのうち、肝切除を行 るアシアロ糖蛋白レセプターが肝細胞障害の程度 い、組織学的に正常肝(NL) 、慢性肝炎(CH) 、 に応じて減少することを利用した方法で、その指 肝硬変(LC)と診断できた症例は 172 例、184 検 標として主に LHL15 と HH15 が用いられている 体であった。これらを RICG、RGSA のどちらが 1)。以前報告したように、われわれは主に統計学的 より組織所見と近似しているか検討するため、ま 手法により R 値から K 値への予測式、 および GSA ず RICG と RGSA の差が 5 未満の HCC の検体か シンチの各種パラメーター(LHL15 値、HH15 値) ら肝障害度別の R 値を求めた(表 1)。RICG と から R 値、あるいは K 値への予測式を検討し、下 RGSA の差が 5 未満で組織学的に NL と診断され 記を得た 2)。 たのは 20 検体あり、RICG は 7.51±4.13 R = 119.604 - 117.184×LHL15 (4.1-12.2)、RGSA は 9.76±3.74 (6.1-13.9)であっ K = -0.1431×log (0.92127 - 0.90263×LHL15) た。組織学的に CH の検体は 67 検体あり、RICG 現在、当院ではこのGSAシンチで得られた は 14.47±7.53 (6.9-23.6)、RGSA は 14.25±6.04 LHL15の値からR値、あるいはK値への予測値を (8.6-23.7)であった。さらに組織学的に LC の検体 GSAシンチの報告書に記載している(図1) 。 は 53 検体あり、 RICG は 18.19±11.14 (8.0-33.0)、 当院での肝切除の適応は、比較的小さな肝細胞 RGSA は 18.65±10.44 (9.6-33.9)であった。以上 癌(HCC)では幕内基準3)に準じるが、系統切除の際 のデータを参考に、NL:R<14%、CH:7%<R は、GSAシンチによる機能的残肝率とK値を乗じ <24%、LC:R>10%と設定し、5 以上の乖離例 た残肝K値を求め、名大の基準4)にもあるように、 を RICG、RGSA のどちらがより組織所見と合致 その残肝K値が0.05以上を肝切除の適応としてい しているか検討し、次の 4 項目に分類した。 る。今回、R値の実測値と予測値の差が5 以上の ① 問題ない:差が 10 未満で、臨床的には問 乖離例を組織所見と照らし合わせ、乖離の原因と 題ない。たとえば、RICG、RGSA ともに NL なりうる因子について検討し、さらに予測式の再 ② ICG が近似 設定を行ったので報告する。 ③ GSA が近似 ④ 判定不能:差が 10 以上で、ICG 、GSA 対 象 と 方 法 当院開院の 2005 年 3 月から 2013 年 3 月までに のいずれが近似しているか判断できない また、乖離例の背景因子を検討するため、上記 肝切除の術前検査として、ICG、GSA シンチを同 ②③④のそれぞれについて、背景肝、アルコール 時期に施行し、K 値が 0.05 以上 0.25 未満の 486 常習(3 合/日、5 年間以上)の有無などについて 例、541 検体を対象にした。ICG の不良な例、す 検討した。 なわち、K < 0.05 のデータは ICG 排泄障害がある 2 a b c d e f Figure1 当院の GSA 報告書 bに予測式から得た K 値、R 値が記載されている。d、e、f は同時に撮影した CT との fusion image で、肝切離ライ ンを任意に引き、d 全肝、e 切除肝、f 残肝の画像が示されている。c にその容積率、機能率が記載されており、本例は 右葉切除で容積的残肝率は 48.5%、機能的残肝率は 51.3%であった。機能的残肝率に実測 K 値(KICG)、予測 K 値 3 (KGSA)を掛けると、それぞれ 0.057、0.060 となり、肝切除可能と判断された。 次に、前回の報告 2)では門脈腫瘍栓を有する のは 131 検体で、問題ないと判断されたのは 105 HCC では ICG が実際の肝機能よりも不良になる 検体(80%)であった。 可能性があると考え、Vp2 以上の HCC を除外し ICG が近似と判断した 4 例 5 検体では背景肝と て検討したが、今回、実際にどの程度の影響があ して C 型 3 例(CH2 例、LC1 例) 、アルコール性 るのか検討した。 肝硬変 1 例がみられ、 アルコール常習は 1 例(25%) さらに、大酒家では GSA の取り込みが低下する にみられた(表 2) 。 との報告 6)があり、アルコール常習者の GSA に及 GSA が近似と判断した 52 例 54 検体は NL2 例、 ぼす影響を検討した。 B 型 4 例(NL1 例、CH2 例、LC1 例) 、C 型 17 最後に、RICG と RGSA の乖離のない検体と差 例(CH9 例、LC8 例) 、アルコール性肝疾患 4 例 が 5 以上の乖離例のうち、問題がないと判定され (CH3 例、LC1 例) 、NASH11 例(CH10 例、LC1 た検体から、再度予測式を求めた。 例) 、化学療法後肝障害 6 例、胆汁うっ滞 6 例、 PBC1 例、PTPE 後 1 例がみられた。アルコール 結 果 1) 常習は 11 例(21%)にみられた(表 2) 。 乖離例の検討 判定不能と判断した 20 例、20 検体は B 型 2 例 RICG と RGSA の差が 5 以上の乖離例は 206 (CH1 例、LC1 例) 、C 型 9 例(CH3 例、LC6 検体みられ、そのうち組織所見との対比が 184 検 例) 、アルコール性肝硬変 3 例、NASH6 例(CH4 体に行えた。その結果、①問題ない:105 検体(57%)、 例、LC2 例)がみられた。アルコール常習は 6 例 ②ICG が近似:5 検体(3%)、③GSA が近似:54 (30%)にみられた(表 2) 。 検体(29%)、④判定不能:20 検体(11%)と分類され 2) 門脈腫瘍栓の影響 た。また、RICG と RGSA の差が 5 以上 10 未満 門脈腫瘍栓の ICG への影響を検討した。今回 は 139 検体あり、そのうち組織所見が検討できた Vp2 以上の HCC は 31 例(Vp2:14 例、Vp3:8 4 例、Vp4:9 例)あり、5 以上の乖離は 13 例み 肝予備能より不良になったと考えられたのはわず られたが、RICG が RGSA より不良な症例は 6 例 か 19%であった。 (19%)であった。内訳は Vp2 が 2 例、 Vp3 が 2 例、 Vp4 が 2 例で、門脈腫瘍栓によって ICG が実際の 5 3) 例中6例の19%と予想より少なかった。 アルコール常習の GSA に及ぼす影響 アルコール常習者 100 例 109 検体のうち、5 以 GSAシンチが実際の肝予備能からはずれる原因 上の乖離は 43 例 45 検体(41%)みられ、このうち については、いまだ明らかになっていないが、大 39 例 40 検体に組織所見との対比ができた。その 酒家ではGSAの取り込みが低下するとの報告6)が 結果、①問題ない:22 検体(55%)、②ICG が近似: あり、今回検討してみたが、アルコール常習者で 1 検体(3%)、③GSA が近似:11 検体(28%)、④判 GSA取り込みが低下し、ICGが近似している症例 定不能:6 検体(15%)と分類された。ICG が近似し はなかった。 R 値の実測値と予測値の差がいくらで乖離とみ ている 1 検体では、RGSA が RICG よりも低値、 すなわち RGSA が RICG よりも良好で、アルコー なすのかは、難しい問題である。稲葉ら 7)は 10 以 ル常習で GSA の取り込みが落ちた症例はみられ 上を乖離例としており、10 以上で乖離とすること なかった。 に異論はないが、たとえば RICG が 5%、RGSA 4) が 10%であれば、幕内基準では、許容肝切除量が 予測式の再設定 変わってくるので、まずは 5 以上を乖離例として RICG と RGSA の乖離のない 335 検体と差が 5 以上の乖離例のうち、問題がないと判定された 抽出してみると、 全 541 検体のうち 206 検体 (38%) 105 検体の計 440 検体で予測式を求めると みられた。RICG と RGSA の差が 5 以上 10 未満 で、組織所見を検討できた 131 検体中、問題ない R = 109.607 –106.857× 06.857×LHL15 LHL15 が得られた。このとき、相関係数はr = -0.754で以 と判断したのは 105 検体(80%)あったが、残りの 前の予測式の相関係数r = -0.7112)より良好となっ 26 検体が組織所見から乖離しており、RICG と た(図2) 。また、この予測式で得られた値は以前 RGSA の差が 10 未満の症例でも組織所見と乖離 の予測値より0-3.7(中央値0.7)低い値となった。 していた症例が認められた。 以前報告したように2)R値からK 値の予測式 組織所見と対比したR値の区分けは、RICGと K = -0.1431× 0.1431×logR + 0.3024 RGSAの差が5未満のHCCの検体から求めた表1 からGSAシンチによるK の予測式として を参考に、NL:R<14%、CH:7%<R<24%、 K = -0.1431× 1431×log (0.8445684456- 0.82337× 82337×LHL15 LHL15) 15) LC:R>10%とした。これはNLもしくはCHでは が得られた。この予測式で得られた値は以前の予 非乖離例のほぼ全てのデータが合致するように設 測値より 0-0.005(中央値 0.003) 高い値となった。 定した。LCでは、ICGの正常値は一般に10%未満 となっており、R>10%と設定した。既報ではR値 考 察 が15~20%前後ではCH、LCが考えられ、30%以 本研究では肝切除を前提としているので肝切除 上ではほぼLCであるとした報告8)やR値をNL: のできないICGの不良な例(K < 0.05)や逆にICG 6.63±3.30、CH:12.53±6.09、LC:20.16±10.95 の極端に良好な症例、すなわちK > 0.25の症例は とした報告9)がみられる。これらのデータと比較す 除外した。K値の正常値は0.168-0.206と報告され ると、本研究では肝切除例が対象となっているた ていること5)、また残肝Kが0.05以上を手術適応と め、LCのデータが若干良好だが、CHは比較的近 しているので、K > 0.25の症例では80%以上の肝 似していた。一方、本研究でNLのR値はやや不良 切除も可能となり、実臨床とそぐわないので除外 で、特にRGSAで不良であった。組織学的にNLで した。また前研究2)ではICGが実際の肝予備能より あっても、全例担癌患者であり、腫瘍によるICG、 不良に出る可能性のあるVp2以上のHCCを除外し GSAへの影響もあるかもしれないが、以前にも述 たが、実際に影響があったと考えられたのは、31 べたように2)、予測式によるK の予測値と実測値 6 との関係をLHL15 に対して示すと、LHL15 の測 K = -0.1431× 0.1431×logR + 0.3024 定値が1 に近づくにつれ分散が大きくなることと からGSAシンチによるK の予測式として 関係していることが考えられた。すなわち、 K = -0.1431× 1431×log (0.8445684456- 0.82337× 82337×LHL15 LHL15) 15) が得られた。 LHL15は肝機能が良好であるほど、プラトーに達 して、1を超えない、すなわち、ある一定以上の肝 機能が良好な場合には差が出にくいことも関係し 文 献 ていると考えられた。 1)Koizumi K, Uchiyama G, Arai T, et al: A new RICG と RGSA の差が 5 以上の乖離例で組織所 liver functional study using Tc-99m 見との対比が 184 検体に行えた結果、問題ない: DTPA-galactosyl human serum albumin: 105 検体(57%)、②ICG が近似:5 検体(3%)、③ Evaluation of the validity of several functional GSA が近似:54 検体(29%)、④判定不能:20 検 parameters. Ann Nucl Med 6: 83-87, 1992 体(11%)と分類された。また、組織所見が得られな 2)志摩泰生:肝 予 備 能 評 価 の た め の I C G かった 22 検体を除いた全検体 519 のうち、それ 試 験 の R値 と K値 お よ び GSAシ ン チ と の ぞれの頻度は①20%、②1%、③10%、④4%となっ 相 関 関 係 か ら 求 め た 予 測 式 の 検 討 .高 知 た。GSA が近似と判断されたのは、54 検体(乖離 医療センターホームページ 例中 29%、全検体の 10%)あり、肝予備能の判定 www2.khsc.or.jp/download/?t=LD&id=1114&fid に際し、GSA シンチは ICG より信頼できると考 =453 えられた。一方、ICG が近似、および判定不能の 3)幕内雅敏,高山忠利,山崎晋,他:肝硬変合併 25 検体(乖離例中 14%、全検体の 5%) が GSA を 肝癌治療のStrategy.外科診療29:1530-1536, 臨床応用する際、問題となる検体であり、GSA に 1987 おいても、この程度の測定誤差は起こり得ること 4)Yokoyama Y, Nishio H, Ebata T, et al: Value of を認識した上で、アルブミン、プロトロンビン時 indocyanine green clearance of the future liver 間、血小板などの他のデータと総合的に肝予備能 remnant in predicting outcome after resection を判定していかなければいけない。別の見方をす for biliary cancer. Br J Surg97: 1260-1268, 2010 れば、ICG が近似の検体は GSA の測定原理上、 5)佐藤豊二:ICG試験およびBSP試験.日本臨牀 肝予備能と合致しない検体、逆に GSA が近似の検 55(増刊:現代臨床機能検査,下巻):177-179, 体は ICG が合致しない検体と考えると、判定不能 1997 の検体も含めると、ICG は 10-14%程度、GSA は 6)板野哲,原田大,永松洋明,他:アルコール性 1-5%程度は肝予備能と合致しないのかもしれな 肝硬変症におけるTc-99m-GSA肝シンチグラフィ. い。 肝臓44:290-295,2003 7)稲葉基高,仁熊健文,三村哲重,他:99mTc-GSA 結語 シンチグラフィとindocyanine green負荷試験に 今回、R 値の実測値と予測値の差が 5 以上の乖 おける予測肝機能剥離症例の検討.肝胆膵62: 離例を組織所見と照らし合わせ、予測式の再検討 607-611,2011 を行い、下記の予測式を得た。 8)浪久利彦,南部勝司:ICG,BSP.日本臨牀38: R = 109.607 –106.857× 06.857×LHL15 LHL15 221-235,1980 このとき、相関係数はr = -0.754と良好であった。 9)三木健司,幕内雅敏:残肝機能から見た肝細胞 さらにR値からK 値の予測式 癌の手術適応.外科治療89:161-167,2003 7